(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024036920
(43)【公開日】2024-03-18
(54)【発明の名称】循環部材及びボールねじ
(51)【国際特許分類】
F16H 25/22 20060101AFI20240311BHJP
【FI】
F16H25/22 C
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022141476
(22)【出願日】2022-09-06
(71)【出願人】
【識別番号】000102692
【氏名又は名称】NTN株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107423
【弁理士】
【氏名又は名称】城村 邦彦
(74)【代理人】
【識別番号】100120949
【弁理士】
【氏名又は名称】熊野 剛
(74)【代理人】
【識別番号】100182453
【弁理士】
【氏名又は名称】野村 英明
(72)【発明者】
【氏名】池田 良則
【テーマコード(参考)】
3J062
【Fターム(参考)】
3J062AA02
3J062AA21
3J062AB22
3J062AC07
3J062BA01
3J062CD04
3J062CD43
(57)【要約】
【課題】製造方法の選択の幅が広がる循環部材を提供する。
【解決手段】ボールねじのナットに取り付けられ、ナットのねじ溝に沿って転動するボールを循環させるボールねじ用の循環部材5であって、ナットに取り付けられた状態において、ナットのねじ溝の隣り合う部分同士を連結する連結溝5aを有する本体部10と、本体部10からナットの外径方向へ突出するように設けられナットに対して加締められて係合する複数の加締め部12を備え、本体部10は、複数の加締め部12の先端同士を繋ぐ平面Mよりもナットの内径方向へ凹むように形成される。
【選択図】
図7
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ボールねじのナットに取り付けられ、前記ナットのねじ溝に沿って転動するボールを循環させるボールねじ用の循環部材であって、
前記ナットに取り付けられた状態において、前記ナットのねじ溝の隣り合う部分同士を連結する連結溝を有する本体部と、前記本体部から前記ナットの外径方向へ突出するように設けられ前記ナットに対して加締められて係合する複数の加締め部を備え、
前記本体部は、前記複数の加締め部の先端同士を繋ぐ平面よりも前記ナットの内径方向へ凹むように形成されることを特徴とする循環部材。
【請求項2】
前記複数の加締め部は、前記本体部上の所定の一点を中心とする円弧状に形成され、
前記所定の一点から前記加締め部の周方向の両端を通るように伸ばした二直線間の角度は、60°以上90°以下である請求項1に記載の循環部材。
【請求項3】
前記ナットに取り付けられた状態において、前記ナットのねじ溝に係合する位置決め用のアーム部を備える請求項1又は2に記載の循環部材。
【請求項4】
前記循環部材は、鍛造体、又は焼結体、あるいは3Dプリンタを用いて一体成形される金属体である請求項1又は2に記載の循環部材。
【請求項5】
内周面に螺旋状のねじ溝を有するナットと、前記ナットの内側に挿入され外周面に螺旋状のねじ溝を有するねじ軸と、前記ナットと前記ねじ軸のそれぞれの前記ねじ溝の間で転動する複数のボールと、前記複数のボールを循環させる循環部材を備えるボールねじであって、
前記循環部材として、請求項1又は2に記載の循環部材を備えることを特徴とするボールねじ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ボールねじ内において複数のボールを循環させる循環部材、及びその循環部材を備えるボールねじに関する。
【背景技術】
【0002】
一般産業用工作機械、あるいは、自動車用アクチュエータなどに用いられるボールねじとして、ボールねじ内でボールを循環させる循環部材を備えるものが知られている。
【0003】
循環部材は、ボールねじのナットに対して加締めなどにより固定されるが、万が一、循環部材がナットから脱落すると、ボールねじの機能上、重大な欠陥となる。そのため、十分な対策が求められる。
【0004】
例えば、特許文献1(特開2006-189124号公報)においては、ナットに対する循環部材の脱落を防止するために、
図15に示されるような一対のアーム部101を備える循環部材100が提案されている。この場合、
図16に示されるように、一対のアーム部101がナット200のねじ溝201に係合することにより、ナット200に対する循環部材100の脱落(ナット外径方向への脱落)が防止される。さらに、この状態において、循環部材100に設けられる凸状の加締め部102(
図15参照)を外側へ倒すようにして加締め、加締め部102を循環部材5が挿入されるナット200の嵌合孔202の縁に係合させることにより、循環部材100がナット200に対して固定される。
【0005】
また、特許文献1においては、上記のような複雑形状の循環部材を安価に製造する方法として、金属微粉末とバインダーの混練材を造粒し、その造粒体材を射出成形して焼結する金属粉末射出成形法(Metal injection Molding:以下、MIMという。)が挙げられている。
【0006】
MIMによれば、複雑形状の循環部材であっても安価に製造でき、さらに生産性にも優れる。しかしながら一方で、循環部材が焼き固められるまで、その形状が安定しない問題がある。そのため、特許文献1に示されるような形状の循環部材をMIMによって製造する場合は、焼結前の循環部材を載置面に載置しておく間、循環部材の中央部分が自重により変形しないように、
図17に示されるように、加締め部102のほか、循環部材100の中央部分103の下面を載置面Mに接触させ、循環部材100を支えておく必要がある。このため、循環部材100の中央部分103の下面と加締め部102の先端のそれぞれの位置は、同一平面上となるように、中央部分103と加締め部102を同程度突出させておく必要があった(L3=L4)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ところで、近年、製造方法の選択の幅を広げるため、MIMに代わる製造方法が求められている。例えば、循環部材を安価に製造する方法として、鍛造がある。しかしながら、上記特許文献1に示されるような形状の循環部材を鍛造により製造しようとすると、製造時に作用する荷重により製造用金型が早期破損に至る懸念がある。
【0009】
図18に示されるように、循環部材を鍛造により製造するための金型には、ワーク(循環部材)Wを上方から押圧する上型(上パンチ)300と、ワークWを下方から押圧する下型(下パンチ)400とがある。特に下型400においては、循環部材100の加締め部102とこれと同程度突出する中央部分103を形成するため、金型中央部分を凹ませ、その周囲に凸部401を形成する必要がある。しかしながら、このような凸部401を有する下型400においては、ワークWが押圧された際に、凸部401がワークWから外側へ開くような荷重(
図18中の矢印方向の反力)を受けるため、この荷重によって下型400に亀裂が入るなどの破損が生じる虞がある。従って、特許文献1に示されるような循環部材の形状では、鍛造などの他の製造方法には適用し難く、改良が求められる。
【0010】
そこで、本発明は、MIM以外の方法も適用でき、製造方法の選択の幅を広げることができる循環部材を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決するため、本発明は、ボールねじのナットに取り付けられ、ナットのねじ溝に沿って転動するボールを循環させるボールねじ用の循環部材であって、ナットに取り付けられた状態において、ナットのねじ溝の隣り合う部分同士を連結する連結溝を有する本体部と、本体部からナットの外径方向へ突出するように設けられナットに対して加締められて係合する複数の加締め部を備え、本体部は、複数の加締め部の先端同士を繋ぐ平面よりもナットの内径方向へ凹むように形成されることを特徴とする。
【0012】
このように、本発明に係る循環部材においては、本体部が、複数の加締め部の先端同士を繋ぐ平面よりもナットの内径方向へ凹むように形成されることにより、製造方法として鍛造などのMIM以外の方法を採用できるようになる。すなわち、本発明に係る循環部材は、上記特許文献1の循環部材とは異なり、循環部材の中央部分を加締め部と同程度突出させる構成ではないので、その中央部分を突出させるための金型の凸部を無くす、あるいは、凸部の高さを小さくできる。これにより、製造時の凸部へ作用する荷重を低減でき、その荷重による金型の破損を回避できるので、鍛造による製造方法を採用でき、製造方法の選択の幅が広がる。なお、本発明に係る循環部材の製造方法としては、鍛造に限らず、他の製造方法も適用可能である。
【0013】
複数の加締め部は、循環部材の本体部上の所定の一点を中心とする円弧状に形成されてもよい。その場合、本体部上の所定の一点から加締め部の周方向の両端を通るように伸ばした二直線間の角度を、60°以上90°以下とすることにより、加締め部を下方に向けて循環部材が載置された場合に、循環部材を安定して自立させることができる。
【0014】
本発明に係る循環部材は、ナットに取り付けられた状態において、ナットのねじ溝に係合する位置決め用のアーム部を備えていてもよい。循環部材がこのようなアーム部を備えていることにより、ナットに対する循環部材の脱落をより確実に防止できるようになる。また、このようなアーム部を備える複雑な形状の循環部材であっても、本発明の構成を適用することにより、鍛造などのMIM以外の製造方法を用いて安価に製造できるようになる。
【0015】
また、本発明に係る循環部材は、鍛造体であってもよいし、焼結体であってもよい。さらに、本発明に係る循環部材は、3Dプリンタを用いて一体成形される金属体であってもよい。
【0016】
また、本発明に係る循環部材をボールねじに適用することにより、製造方法としてMIM以外の方法も選択可能なボールねじを提供できるようになる。ボールねじとしては、内周面に螺旋状のねじ溝を有するナットと、ナットの内側に挿入され外周面に螺旋状のねじ溝を有するねじ軸と、ナットとねじ軸のそれぞれのねじ溝の間で転動する複数のボールと、複数のボールを循環させる循環部材を備えるものが用いられる。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、循環部材を製造する製造方法の選択の幅を広げることができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】本発明の一実施形態に係るボールねじの平面図である。
【
図2】本実施形態に係るボールねじの縦断面図である。
【
図3】本実施形態に係るナットの断面斜視図である。
【
図5】本実施形態に係る循環部材をナット内径側から見た斜視図である。
【
図6】本実施形態に係る循環部材をナット外径側から見た斜視図である。
【
図8】本実施形態に係る循環部材をナット外径側から見た背面図である。
【
図9】本実施形態に係る循環部材の製造装置及び製造方法を示す図である。
【
図10】本実施形態に係る循環部材の製造装置及び製造方法を示す図である。
【
図11】本実施形態に係る循環部材の製造装置及び製造方法を示す図である。
【
図12】本実施形態に係る循環部材の製造装置及び製造方法を示す図である。
【
図13】循環部材を製造する下パンチの構成を示す図である。
【
図15】従来の循環部材のナット内径側から見た斜視図である。
【
図16】従来の循環部材がナットに取り付けられた状態を示す図である。
【
図17】従来の循環部材を載置面に載置した状態を示す図である。
【
図18】従来の循環部材を鍛造により製造する場合の製造装置及び製造方法を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、添付の図面に基づいて、本発明の実施形態について説明する。なお、本発明を説明するための各図面において、同一の機能もしくは形状を有する部材又は構成部品などの構成要素については、判別が可能な限り同一符号を付す。このため、一度説明した構成要素については、その説明を省略する。
【0020】
図1~
図4に基づき、本発明の実施の一形態に係るボールねじの全体構成について説明する。
図1は、本実施形態に係るボールねじの平面図、
図2は、同ボールねじの縦断面図である。また、
図3は、同ボールねじが備えるナットの断面斜視図、
図4は、同ナットの横断面図である。
【0021】
図1及び
図2に示されるように、本実施形態に係るボールねじ1は、ねじ軸2と、ナット3と、複数のボール4と、循環部材5を備えている。
【0022】
ねじ軸2は、その外周面に螺旋状のねじ溝2aを有し、円筒状のナット3に挿入されている。一方、ナット3は、ねじ軸2のねじ溝2aと対向する螺旋状のねじ溝3aを内周面に有している。これらのねじ溝2a,3aの間には、複数のボール4が転動可能に収容されている。
【0023】
各ねじ溝2a,3aの断面形状は、サーキュラアーク形状であってもよいし、ゴシックアーク形状であってもよい。本実施形態においては、各ねじ溝2a,3aが、ボール4に対する接触角が大きくとれ、アキシャル隙間が小さく設定できるゴシックアーク形状に形成されている。このため、各ねじ溝2a,3aの軸方向荷重に対する剛性が高くなり、かつ、振動の発生を抑制できる。
【0024】
また、ナット3には、その内周面から外周面へ貫通し、ねじ溝3aの一部を切り欠く断面略円形の嵌合孔6が設けられている。そして、この嵌合孔6に対して断面略円形の循環部材5が挿入されて嵌合している。
【0025】
循環部材5が嵌合孔6に嵌合する状態において、循環部材5のナット内径側の面には、ナット3のねじ溝3aの隣り合う1周分同士を連結する連結溝5aが形成されている。連結溝5aとねじ溝3aの略1周の部分とによって、ボール4の転動路が形成されている。複数のボール4は、ねじ軸2とナット3の各ねじ溝2a,3aに沿って転動し、循環部材5の連結溝5aによって案内され、ねじ軸2のねじ山を乗り越えて隣接するねじ溝3aに戻る。そして、複数のボール4は、再びねじ溝2a,3aに沿って転動することにより、循環する。
【0026】
図3に示されるように、循環部材5の連結溝5aは、ナット3の隣接するねじ溝3a同士を滑らかに連結するようにS字状に湾曲して形成されている。また、連結溝5aの深さは、ボール4が連結溝5a内においてねじ軸2のねじ山を超えることができる深さに設定されている。
【0027】
図3に示されるように、循環部材5には、一対のアーム部9が互いに反対方向へ伸びるように突出している。循環部材5がナット3の内径側から上記嵌合孔6内に挿入されて嵌合されると、循環部材5の各アーム部9がナット3のねじ溝3aに嵌合することにより、循環部材5がナット3に対して軸方向に位置決めされると共に、ナット3に対する循環部材5のナット外径方向への脱落が防止される。なお、各アーム部9は、ボール4が転動しないねじ溝3aに係合する。
【0028】
図4に示されるように、循環部材5のナット外径側には、ナット外径側へ突出する一対の加締め部12が設けられている。循環部材5がナット3の嵌合孔6に嵌合された状態において、治具により各加締め部12を外側へ倒すように変形させて加締めることにより、各加締め部12が嵌合孔6の縁に係合し、循環部材5がナット3に固定される。
【0029】
ボール4の組み込みは、ナット3の嵌合孔6に循環部材5を挿入して固定した後、ねじ軸2をナット3に挿入し、ねじ軸2のねじ溝2aとナットのねじ溝3aが互いに向かい合う位置であって、かつ循環部材5の連結溝5aがねじ軸2のねじ溝2aと合致する高さでねじ軸2を固定する。その後、ボール4を順次溝に挿入しながらナット3を回転させ、ナット3をねじ軸2に沿って移動させることにより行う。なお、この方法以外にも、ナット3の嵌合孔6に循環部材5を固定した後、仮軸を用いてボール4を同様に挿入する方法を採用してもよい。
【0030】
図5は、本実施形態に係る循環部材をナット内径側から見た斜視図、
図6は、同循環部材をナット外径側から見た斜視図、
図7は、同循環部材の側面図、
図8は、同循環部材をナット外径側から見た背面図である。
【0031】
図5~
図8に示されるように、循環部材5は、連結溝5aが形成される本体部10と、本体部10から互いに反対方向へ突出する一対のアーム部9と、本体部10からナット外径方向へ突出する一対の加締め部12を有している。各アーム部9は、本体部10のナット内径側(
図7における上側)に設けられ、これに対して、各加締め部12は、本体部10のナット外径側(
図7における下側)に設けられている。
【0032】
図8に示されるように、本実施形態においては、循環部材5をナット外径側又はナット内径側から見て、本体部10が略円柱状に形成されている。この略円柱状の本体部10の外郭を形成する円形側面部を通る仮想円A(
図8参照)の中心を、本体部10の中心Cとすると、本体部10のナット外径側の面における中心C及びその周辺部は、ナット外径方向に突出する凸部10aとなっている。このように、ナット外径側の面における中心C及びその周面部を凸部10aとすることにより、本体部10の肉厚を確保できる。詳しくは、本体部10の中央Cにおいては、連結溝5aの深さが深くなる分、本体部10の肉厚が薄くなる傾向にあるが、中央C及びその周辺部におけるナット外径側の面を凸部10aとすることにより、本体部10の中央Cにおける肉厚を確保し、循環部材5の強度を向上させている。
【0033】
また、
図8に示されるように、一対の加締め部12は、本体部10の中央Cをする円弧状で、かつ、本体部10の中心Cを基準に点対称に配置されている。また、
図7に示されるように、本体部10からの各加締め部12の突出量(突出方向の長さ)L1は、同じ突出量に設定されている。
【0034】
ここで、
図7に示されるように、本実施形態に係る循環部材5を、各加締め部12が下方を向くように平面状の載置面Mに載置すると、循環部材5は、各加締め部12によって支持される。すなわち、本実施形態においては、各加締め部12を下方に向けて循環部材5が載置面M上に載置されると、各加締め部12の先端(下端)が載置面Mに接触し、本体部10及び各アーム部9が載置面Mから離れた状態(非接触状態)で保持される。
【0035】
一方、上記特許文献1の循環部材100においては、
図17に示されるように、各加締め部102を下方へ向けて循環部材100が載置されると、各加締め部102のほか循環部材100の中央部分103が載置面Mに接触する。すなわち、特許文献1の循環部材100においては、中央部分103が載置面Mに接触するように、中央部分103を加締め部102と同じだけ(L3=L4)突出させている。これに対し、本発明の実施形態においては、
図7に示されるように、本体部10の凸部10aの突出量L2を各加締め部12の突出量L1よりも小さくし(L2<L1)、凸部10aを含む本体部10の全体が、各加締め部12の先端同士を繋ぐ平面(載置面Mに相当する面)よりもナット内径方向(
図7における上方)へ凹むように構成している。
【0036】
このように、本実施形態においては、凸部10aを含む本体部10の全体が、各加締め部12の先端同士を繋ぐ平面よりもナット内径方向へ凹むように構成されているため、循環部材の製造方法として、鍛造による方法を採用できるようになる。以下、この理由について説明する。
【0037】
図9~
図12は、本発明の実施形態に係る循環部材を鍛造(冷間鍛造)により製造する場合の製造装置及び製造方法を示す図である。
【0038】
図9に示されるように、製造装置20は、上パンチ(上型)21と、下パンチ(下型)22と、ダイス23を備える。まず、
図9に示されるように、ダイス23内に挿入された下パンチ22の上にワークWを配置する。次いで、
図10に示されるように、上パンチ21を降下させてワークWを押圧する。このとき、ワークWの上面が上パンチ21によって押しつぶされると共に、ワークWの下面が下パンチ22に押し付けられ、一対の加締め部12と中央の凸部10aが形成される。
【0039】
続いて、
図11に示されるように、上記上パンチ21を別の形状の上パンチ(上型)24と交換し、その上パンチ24をワークWの上方に配置する。そして、
図12に示されるように、上パンチ24を降下させてワークWを押圧する。これにより、ワークWの上面が上パンチ24の形状に倣って変形し、連結溝5a及び一対のアーム部9(図示省略)が形成される。以上のようにして、連結溝5a及び一対のアーム部9のほか、一対の加締め部12及び凸部10aを一体に有する循環部材5が製造される。
【0040】
上記製造方法においては、ワークWが下パンチ22に押し付けられた際、下パンチ22に荷重が作用する。このとき、特に、ワークWの下面に加締め部12と中央の凸部10aを形成するための下パンチ22に設けられた凸部22a(
図10、
図12参照)には、外側へ開くような荷重が作用する。しかしながら、
図13に示されるように、本発明の実施形態においては、本体部10の凸部10aの突出量L2が従来よりも小さいため、これに倣って、凸部10aを形成するための下パンチ22の凸部22aも小さくできる。すなわち、本発明の実施形態においては、下パンチ22の凸部22aの突出量D1(
図13参照)を、特許文献1に記載の循環部材を製造するための下パンチ400の凸部401の突出量D2(
図18参照)よりも小さくできるので、下パンチ22の強度が向上し、製造時の荷重による下パンチ22の破損が生じにくくなる。これにより、本発明の実施形態においては、鍛造による製造方法を採用できるようになる。
【0041】
上記実施形態においては、循環部材5の中央Cの肉厚を確保するために、本体部10のナット外径側の面に凸部10aを設けているが、その他の部分の設計変更などにより強度を確保できれば、凸部10aが無くしてもよい。循環部材5の凸部10aを無くすことにより、これを製造するための下パンチ22の凸部22aも無くすことができるので、下パンチ22の強度がさらに向上し、下パンチ22がより一層破損しにくくなる。
【0042】
以上のように、本発明によれば、循環部材の本体部を、加締め部の先端同士を繋ぐ平面よりもナットの内径方向へ凹むようにすることにより、鍛造による製造方法を採用できるようになる。従って、本発明によれば、MIM以外の方法でも複雑な形状の循環部材を安価に生産性良く製造できるようになり、製造方法の選択の幅が広がる。
【0043】
また、本発明に係る循環部材は、鍛造による製造方法のほか、3Dプリンタを用いて敷き詰められた金属粉末にレーザー光を照射し、粉末層を局所的に溶融及び凝固させる積層造形法により製造することも可能である。また、本発明に係る循環部材の製造方法として、MIMも採用できる。
【0044】
特に、3Dプリンタを用いた積層造形法、又は、MIMなどにより循環部材を製造する場合は、循環部材が載置面上で安定して自立可能であることが好ましい。具体的には、
図8に示される本体部10の中央Cから、その中央Cを中心として円弧状に形成される加締め部12の周方向の両端12a,12bを通るように伸ばした二直線間の角度θが、60°以上90°以下の範囲であることが好ましい。
【0045】
上記加締め部12の角度θが60°未満である場合は、加締め部12が載置面に接触する範囲が小さくなり、循環部材5を安定して自立させにくくなるので、角度θは60°以上であることが好ましい。また、加締め部12の角度θが90°を超える場合は、加締め部12を外側に倒して加締める際に、加締め部12の両端12a,12b側における変形量が大きくなるため、加締め部12が破損する虞がある。このため、加締め部12の角度θを60°以上90°以下とすることにより、加締め部12の破損を防止し、循環部材5を安定して自立させることができるようになる。なお、
図8においては、角度θが60°である場合を示している。また、参考までに、角度θが90°である場合の例を
図14に示す。
【0046】
なお、加締め部12の形状は、円弧状である場合に限らず、直線状などの他の形状であってもよい。また、加締め部12が直線状などの円弧状以外の形状である場合は、互いに離れて配置される各加締め部12から等距離にある点を中心とし、その中心から各加締め部12の両端12a,12bを通るように伸びる二直線間の角度θを、60°以上90°以下とすることが好ましい。また、加締め部12は、2つである場合に限らず、3つ以上であってもよい。
【0047】
また、上記実施形態においては、循環部材5が一対のアーム部9を備える場合を例に挙げて説明したが、本発明は、アーム部9を有しない循環部材にも適用可能である。アーム部9を備えていない循環部材であっても本発明を適用することにより、MIM以外の方法によって複雑な形状の循環部材を安価に生産性良く製造できるようになり、製造方法の選択の幅を広げることができる。
【符号の説明】
【0048】
1 ボールねじ
2 ねじ軸
2a ねじ溝
3 ナット
3a ねじ溝
4 ボール
5 循環部材
5a 連結溝
6 嵌合孔
9 アーム部(位置決め用のアーム部)
10 本体部
10a 凸部
12 加締め部
C 本体部の中央
M 載置面