(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024036921
(43)【公開日】2024-03-18
(54)【発明の名称】電動ポンプ及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
F04C 2/10 20060101AFI20240311BHJP
F04C 15/00 20060101ALI20240311BHJP
【FI】
F04C2/10 341F
F04C15/00 K
F04C15/00 L
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022141477
(22)【出願日】2022-09-06
(71)【出願人】
【識別番号】000102692
【氏名又は名称】NTN株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107423
【弁理士】
【氏名又は名称】城村 邦彦
(74)【代理人】
【識別番号】100120949
【弁理士】
【氏名又は名称】熊野 剛
(74)【代理人】
【識別番号】100155457
【弁理士】
【氏名又は名称】野口 祐輔
(72)【発明者】
【氏名】石川 慎太朗
(72)【発明者】
【氏名】北山 直嗣
(72)【発明者】
【氏名】吉野 博紀
(72)【発明者】
【氏名】水尻 健児
【テーマコード(参考)】
3H041
3H044
【Fターム(参考)】
3H041AA02
3H041BB04
3H041CC15
3H041CC20
3H041DD04
3H041DD09
3H041DD31
3H044AA02
3H044BB03
3H044CC19
3H044DD08
3H044DD18
3H044DD21
(57)【要約】
【課題】ポンプロータを一体回転可能に保持したモータ出力軸の回転精度を高める。
【解決手段】ポンプロータとしてのインナロータ21を一体回転可能に保持する電動モータ10の出力軸17が、モータロータ13の軸方向両側にそれぞれ配設された第1転がり軸受18及び第2転がり軸受19によりケーシング5に対して回転自在に支持される電動ポンプ1において、第1転がり軸受18の外輪18a及び内輪18bを、それぞれ、ケーシング5の内周面及び回転軸17の外周面に対して圧入する。また、モータロータ13に、その軸方向一方側及び他方側の端面がそれぞれ臨む空間同士を連通させる軸方向の連通孔16を設け、この連通孔16の軸方向一方側の開口部16aを外輪18aの他端面18a1の少なくとも一部と対向配置する。
【選択図】
図5
【特許請求の範囲】
【請求項1】
電動モータと、該電動モータの出力軸の軸方向一方側の端部に前記出力軸と一体回転可能に設けられたポンプロータと、前記電動モータを収容したモータ室と前記ポンプロータを収容したポンプ室とを軸方向に隔絶する環状の隔壁を有するケーシングと、を備え、
前記出力軸が、前記モータ室内でモータロータの軸方向一方側及び他方側にそれぞれ配設された第1及び第2転がり軸受により前記ケーシングに対して回転自在に支持される電動ポンプにおいて、
前記第1転がり軸受の外輪及び内輪が、それぞれ、前記ケーシングの内周面及び前記回転軸の外周面に対して圧入され、
前記モータロータに、その軸方向一方側及び他方側の端面がそれぞれ臨む空間同士を連通させる軸方向の連通孔が設けられ、この連通孔の軸方向一方側の開口部が、前記第1転がり軸受の外輪の軸方向他方側の端面の少なくとも一部と対向配置されていることを特徴とする電動ポンプ。
【請求項2】
前記連通孔が、周方向の複数箇所に設けられている請求項1に記載の電動ポンプ。
【請求項3】
前記第2転がり軸受を、前記第1転がり軸受とは異なる軸受とした請求項1又は2に記載の電動ポンプ。
【請求項4】
前記第2転がり軸受は、その外輪の外周面が、前記連通孔の径方向外側の端部よりも径方向内側に位置したものである請求項1~3の何れか一項に記載の電動ポンプ。
【請求項5】
電動モータと、該電動モータの出力軸の軸方向一方側の端部に前記回転軸と一体回転可能に設けられたポンプロータと、前記電動モータを収容したモータ室と前記ポンプロータを収容したポンプ室とを軸方向に隔絶する環状の隔壁を有するケーシングとを備え、
前記出力軸が、前記モータ室内でモータロータの軸方向一方側及び他方側にそれぞれ配設された第1及び第2転がり軸受により前記ケーシングに対して回転自在に支持される電動ポンプを製造するための方法であって、
前記出力軸の外周面に前記モータロータとともに位置決め固定された前記第1転がり軸受の外輪を前記ケーシングの内周面に圧入するに際し、
前記モータロータに、その軸方向一方側及び他方側の端面がそれぞれ臨む空間同士を連通させる軸方向の連通孔を設け、この連通孔に挿通した治具で前記第1転がり軸受の外輪を軸方向一方側に押圧することを特徴とする電動ポンプの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電動ポンプ及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、自動車をはじめとする車両においては、電動ポンプを用いて必要箇所にオイルを供給する場合があり、例えば下記の特許文献1には、この種の用途で使用される電動ポンプが記載されている。この電動ポンプにおいて、モータロータが一体回転可能に結合された電動モータの出力軸は、その軸方向一方側の端部にポンプロータを一体回転可能に保持しており、モータロータの軸方向一方側及び他方側にそれぞれ配置された第1及び第2転がり軸受によってケーシングに対して回転自在に支持されている。
【0003】
また、電動モータが収容されるモータ室の軸方向一方側の端部には、出力軸の外周面と摺接するシールリップを有するシール部材が配設される。これにより、ポンプロータが収容されるポンプ室に介在する流体(オイル)が、モータ室に浸入するのを阻止することができる。さらに、ケーシングは、モータ室とポンプ室とを軸方向に隔絶する環状(筒状)の隔壁を一体に有し、モータ室とポンプ室は、隔壁の内周面と出力軸の外周面との間に形成される微小な径方向すきまを介して連通する。係る構成により、出力軸の円滑な回転が阻害されることなく、シール部材によるシール機能が担保される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記の構成を有する電動ポンプにおいて、ポンプロータを一体回転可能に保持した電動モータの出力軸の回転精度はポンプ能力に大きく影響を与えることから、電動モータの駆動時(出力軸の回転時)には、出力軸のガタを極力抑える必要がある。そのため、出力軸を支持する第1及び第2転がり軸受のうち、特に出力軸の回転時の荷重作用点となるポンプロータに接近した側(ポンプ室側)に配置される第1転がり軸受の外輪及び内輪は、それぞれ、ケーシングの内周面及び出力軸の外周面に対して圧入するのが好ましいと言える。なお、「圧入する」とは、締め代をもって嵌合する、しまりばめする、などと言い換えることができる。本明細書で言う「しまりばめ」、「すきまばめ」の定義は、JIS B 0401-1に記載された「しまりばめ」、「すきまばめ」の定義に準ずる。
【0006】
ここで、転がり軸受は、外輪、内輪、転動体及び保持器等が組み付けられた完成品の状態で組み付け対象に組み付けるのが一般的であるが、転がり軸受の外輪及び内輪の双方を組み付け対象に圧入する場合には、外輪と内輪の軸方向相対位置を厳密に管理する必要がある。外輪が内輪に対して軸方向に位置ズレすると、外輪の内周面(外側軌道面)及び/又は内輪の外周面(内側軌道面)に対して両者間に介在する転動体が強く押し付けられることにより、軸受性能の低下要因となる圧痕やキズ等の欠陥が上記軌道面に形成される可能性があるからである。
【0007】
また、出力軸と一体回転可能する部材は、出力軸に対する組み付け精度(出力軸の回転精度)を保証する観点から、できるだけ出力軸をケーシングに組み込む前に組み付けておくのが好ましい。但し、上記の電動ポンプの構造上、第1転がり軸受及びモータロータの双方を出力軸に予め組み付けた場合、モータロータの存在が邪魔になり、前述した欠陥が形成されるのを回避しつつ第1転がり軸受の外輪をケーシングに対して圧入することが難しくなる。
【0008】
上記の実情に鑑み、本発明は、ポンプロータが一体回転可能に設けられる電動モータの出力軸の回転精度を高めることを可能とし、これにより、所望のポンプ能力を安定的に発揮することができる高品質の電動ポンプを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の目的を達成するために創案された本発明は、電動モータと、電動モータの出力軸の軸方向一方側の端部に上記出力軸と一体回転可能に設けられたポンプロータと、電動モータを収容したモータ室とポンプロータを収容したポンプ室とを軸方向に隔絶する環状の隔壁を有するケーシングと、を備え、上記出力軸が、モータ室内でモータロータの軸方向一方側及び他方側にそれぞれ配設された第1及び第2転がり軸受によりケーシングに対して回転自在に支持される電動ポンプにおいて、第1転がり軸受の外輪及び内輪が、それぞれ、ケーシングの内周面及び上記出力軸の外周面に圧入され、モータロータに、その軸方向一方側及び他方側の端面がそれぞれ臨む空間同士を連通させる軸方向の連通孔が設けられ、この連通孔の軸方向一方側の開口部が、第1転がり軸受の外輪の軸方向他方側の端面の少なくとも一部と対向配置されていることを特徴とする。
【0010】
このように、電動モータの出力軸をモータロータの軸方向一方側及び他方側でそれぞれ支持する第1及び第2転がり軸受のうち、第1転がり軸受の外輪及び内輪がケーシングの内周面及び出力軸の外周面に対してそれぞれ圧入(締め代をもって嵌合)されていれば、前述したとおり、電動モータの駆動時に出力軸がガタつくのを効果的に抑制することができる。
【0011】
また、モータロータに、その両端面が臨む空間同士を連通させる軸方向の連通孔が設けられ、この連通孔の軸方向一方側(ポンプ室側)の開口部が、第1転がり軸受の外輪の軸方向他方側の端面の少なくとも一部と軸方向で対向配置される。この場合、出力軸の外周面に内輪が圧入固定された第1転がり軸受をケーシングに対して組み込む際に、出力軸の所定位置(第1転がり軸受の軸方向他方側)にモータロータが固定されていても、上記連通孔に挿通させた治具により第1転がり軸受の外輪を軸方向一方側に直接押圧することができる。これにより、上記外輪をケーシングの内周面に圧入するのに伴って上記外輪が内輪に対して軸方向に位置ズレするのを防止することができるので、外輪の内周面及び/又は内輪の内周面に上記位置ズレに起因して圧痕等の欠陥が形成されるのを阻止しつつ、第1転がり軸受の外輪をケーシングの内周面に精度良く圧入することができる。
【0012】
上記の作用効果が相俟って、本発明によれば、電動モータの出力軸の回転精度を高めることができるので、所望のポンプ能力を安定的に発揮することができる高品質の電動ポンプを提供することが可能となる。
【0013】
第1転がり軸受の外輪をケーシングに対して精度良く圧入可能とするため、連通路は、周方向の複数箇所に設けるのが好ましく、周方向に等間隔で複数設けるのが特に好ましい。
【0014】
第2転がり軸受は、第1転がり軸受とは異なる軸受(転がり軸受)とするのが好ましい。第2転がり軸受に、第1転がり軸受と同一の転がり軸受を使用すると、固有振動が同じであることに由来して共振現象が発生するからである。なお、ここでいう「異なる軸受」とは、負荷容量、軸受サイズなどが互いに異なる軸受を意味する。
【0015】
第2転がり軸受としては、その外輪の外周面が、連通孔の径方向外側の端部(最外径部)よりも径方向内側に位置するものを使用することができる。このような第2転がり軸受を使用する場合には、出力軸に組み付けた第1転がり軸受の外輪をケーシングに組み込む(圧入する)際に第2転がり軸受を出力軸に組み付けておいても、第1転がり軸受の外輪を上記態様でケーシングの内周面に対して圧入することが可能となる。
【0016】
また、上記の目的を達成するため、本発明では、電動モータと、電動モータの出力軸の軸方向一方側の端部に上記回転軸と一体回転可能に設けられたポンプロータと、電動モータを収容したモータ室とポンプロータを収容したポンプ室とを軸方向に隔絶する環状の隔壁を有するケーシングとを備え、上記出力軸が、モータ室内でモータロータの軸方向一方側及び他方側にそれぞれ配設された第1及び第2転がり軸受によりケーシングに対して回転自在に支持される電動ポンプを製造するための方法であって、上記出力軸の外周面にモータロータとともに位置決め固定された第1転がり軸受の外輪をケーシングの内周面に圧入するに際し、モータロータに、その軸方向一方側及び他方側の端面がそれぞれ臨む空間同士を連通させる軸方向の連通孔を設け、この連通孔に挿通した治具で第1転がり軸受の外輪を軸方向一方側に押圧することを特徴とする電動ポンプの製造方法、を提供する。
【0017】
このような製造方法によれば、前述した本発明に係る電動ポンプと同様の作用効果を享受することができる。
【発明の効果】
【0018】
以上のことから、本発明によれば、ポンプロータが一体回転可能に設けられる電動モータの出力軸の回転精度を高めることができる。これにより、所望のポンプ能力を安定的に発揮することができる高品質の電動ポンプを提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】本発明の一実施形態に係る電動ポンプの縦断面図である。
【
図4】電動モータの出力軸の外周面に第1転がり軸受及びモータロータを固定したアセンブリの概略斜視図である。
【
図5】
図1に示す電動ポンプの組立工程を概念的に示す縦断面図であって、ケーシングに対して
図4に示すアセンブリを組み込んだ状態を示す図である。
【
図6】変形例に係る電動ポンプの組立工程の開始段階を概念的に示す概略斜視図である。
【
図7】変形例に係る電動ポンプの組立工程の途中段階を概念的に示す概略斜視図である。
【
図8】変形例に係る電動ポンプの組立工程において、ケース本体への出力軸の組み込みが完了した段階での縦断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。なお、以下説明する本実施形態の電動ポンプは、例えば車両のトランスミッションケースに取り付けられ、エンジンの停止中にトランスミッションにオイルを圧送することにより、トランスミッション内部で必要とされる油圧を確保するために使用される。
【0021】
図1~
図3に示すように、本実施形態の電動ポンプ1は、オイルを吸引及び吐出(圧送)するポンプ部2と、ポンプ部2を駆動するモータ部3と、基板4と、ポンプ部2、モータ部3及び基板4を収容したケーシング5とを備える。なお、方向性を示すために以下の説明で使用する「軸方向」、「径方向」及び「周方向」とは、それぞれ、モータ部3の軸心Oと平行な方向、軸心Oを中心とする円の径方向、及び軸心Oを中心とする円の周方向である。また、「軸方向一方側」及び「軸方向他方側」とは、それぞれ、
図1の紙面右側(ポンプ部2側)及び紙面左側(モータ部3側)である。
【0022】
図1及び
図2に示すように、本実施形態のポンプ部2は、ポンプロータとしてのインナロータ21と、インナロータ21に対して偏心配置されたアウタロータ22とを有するトロコイドポンプで構成される。すなわち、インナロータ21には複数の外歯が形成され、その一部がアウタロータ22に形成された複数の内歯の一部と噛み合っている。インナロータ21は、モータ部3(電動モータ10)の出力軸17の軸方向一方側の端部に出力軸17と一体回転可能に結合されている。ポンプ部2と電動モータ10の間に減速機は配置されておらず、インナロータ21は電動モータ10の出力軸17に直結されている。アウタロータ22は、ケーシング5(に形成されたポンプ室5A)の内壁面に対して回転可能な状態でポンプ室5Aに嵌合されている。これにより、インナロータ21が回転するのに伴ってアウタロータ22が従動回転する。なお、外歯の歯数をn(nは2以上の正の整数)とすると、内歯の歯数は(n+1)である。
【0023】
モータ部3はポンプ部2と軸方向に並べて配置されている。
図1及び
図3に示すように、モータ部3は、ケーシング5(に形成されたモータ室5B)の内周面に固定されたモータステータ11と、径方向のすきまを介してモータステータ11の径方向内側に対向配置されたモータロータ13とを有するラジアルギャップ型の電動モータ10を備える。この電動モータ10には、例えば三相ブラシレスモータが使用される。そのため、モータステータ11は、U相、V相、W相に対応した複数のコイル12を有する。
【0024】
モータロータ13は、電動モータ10の出力軸17と一体回転可能に設けられたロータコア15と、ロータコア15の外周に取り付けられたマグネット14とを有する。出力軸17は、ロータコア15(モータロータ13)よりも軸方向寸法が長く、モータロータ13の軸方向両側に突出している。出力軸17は、モータロータ13の軸方向一方側に隣接して設けられた第1転がり軸受18と、モータロータ13の軸方向他方側に隣接して設けられた第2転がり軸受19とによりケーシング5に対して回転自在に支持されている。
【0025】
第1転がり軸受18には、複数のボール18cを介して相対回転する外輪18a及び内輪18b(
図5参照)を備えた玉軸受(深溝玉軸受)が使用され、第2転がり軸受19には、複数のボール19cを介して相対回転する外輪19a及び内輪19b(
図8参照)を備えた深溝玉軸受が使用される。但し、第2転がり軸受19には、第1転がり軸受18とは異なる深溝玉軸受が使用される。ここでは、第2転がり軸受19として、ボール19cの直径や外輪19aの外径寸法が第1転がり軸受18のそれらよりも小さく、荷重負荷容量が第1転がり軸受18のそれよりも小さい深溝玉軸受が使用される。逆に言えば、第1転がり軸受19には、第2転がり軸受18よりも荷重負荷容量が大きい深溝玉軸受が使用される。
【0026】
第1転がり軸受18とインナロータ21との間には、出力軸17の外周面に摺接するシールリップを有するシール部材31が配置されている。ケーシング5のモータ室5Bには、モータステータ11(を構成するステータコア)の外周面が嵌合される円筒状のステータ嵌合面、第1転がり軸受18の外輪18aの外周面が嵌合される円筒状の軸受嵌合面、及びシール部材31の外周面が嵌合される円筒状のシール嵌合面が軸方向他方側から軸方向一方側に向けて順に設けられており、シール部材31は、その外周面をシール嵌合面に締め代をもって嵌合(圧入)した状態で第1転がり軸受18の軸方向一方側に隣接して配置されている。つまり、シール部材31はモータ室5Bの軸方向一方側の端部に配置されている。係る構成により、ポンプ室5Aに介在するオイルがモータ室5Bに流入するのを効果的に阻止することができる。
【0027】
モータ部3は、出力軸17の回転角を検出する検出部33を有する。本実施形態の検出部33は、
図1に示すように、ブラケット36を介して出力軸17の軸方向他方側の端部に取り付けられたセンサマグネット35と、ケーシング5に設けられた回転センサ34とで構成される。回転センサ34は、出力軸17の軸方向他方側の端部と対向して配置され、かつ出力軸17と直交する方向に配置されたセンサ基板37に取り付けられる。また、回転センサ34は、基板4に形成される制御回路と電気的に接続され、回転センサ34による検出値は制御回路に入力される。これにより、回転センサ34による検出値が電動モータ10の作動制御に活用される。
【0028】
図1~
図3に示すように、平面視で略矩形状をなす基板4は、電気的に接続されることで制御回路を形成する複数の電子部品41(例えば、コンデンサ、インダクタ、半導体素子、集積回路、抵抗器など)を実装した実装面40を、モータ部3の軸心O及びこの軸心Oを中心とする円の接線方向に沿って配置すると共に、ケーシング5(ケース本体50)に設けられた基板収容部53の内底面53aに対向させた状態で基板収容室5Cに収容されている。係る態様で基板4が配置されていることにより、同種の基板が軸心Oと直交する方向に配置されている従来品(例えば特許文献1に記載されたもの)に比べ、電動ポンプ1を径方法にコンパクト化することができる。
【0029】
基板4に形成された制御回路には、図示しない外部電源からコネクタ45を介して電力が供給され、基板4の制御回路で制御された電流は、基板4と電気的に接続されたバスバー43を介して電動モータ10のコイル12に供給される。基板4のうち、実装面40と反対側の面42には、放熱部材としての放熱シート44が取り付けられている。放熱シート44は、複数の電子部品41のうち発熱量が大きい部品や銅箔と接触するように配置される。
【0030】
図1~
図3に示すように、ケーシング5は、インナロータ21やアウタロータ22等を収容するポンプ室5Aが形成されたポンプ収容部51、電動モータ10、転がり軸受18,19及びシール部材31等を収容するモータ室5Bが形成されたモータ収容部52、及び基板4を収容する基板収容室5Cが形成された基板収容部53を有するケース本体50と、ポンプ室5Aの開口部を封口する第1蓋部55と、モータ室5Bの開口部を封口する第2蓋部56と、基板収容室5Cの開口部を封口する第3蓋部57とを備える。
【0031】
ケース本体50は、導電性を有すると共に熱伝導性が良好な金属材料(例えばアルミニウム合金)で形成され、ポンプ収容部51、モータ収容部52及び基板収容部53を一部品の形で一体に有する。また、ケース本体50は、ポンプ室5Aとモータ室5Bとを軸方向に隔絶する環状(筒状)の隔壁54を一体に有し、
図1に示す完成品状態の電動ポンプ1においては、隔壁54の内周面と出力軸17の外周面との間に形成される微小な径方向すきまを介してポンプ室5Aとモータ室5Bが連通する。これにより、出力軸17の円滑な回転が阻害されることなく、シール部材31のシール機能が担保される。
【0032】
第1蓋部55及び第3蓋部57は、ケース本体50と同種の金属材料で形成され、ボルト等の締結部材を用いてケース本体50に対して固定される。図示は省略しているが、第1蓋部55とケース本体50との間、及び第3蓋部57とケース本体50との間には、シール性(気密性及び水密性)を高めるために、Oリング等の環状のシール部材、あるいは液体ガスケット等のシール材を介在させている。ケース本体50に固定された第3蓋部57は、一方の面が基板4に接触した放熱シート44の他方の面に接触している。これにより、電動ポンプ1の運転時に電子部品41から発される熱を、放熱シート44を介して第3蓋部57やケース本体50に効率良く逃がすことができる。
【0033】
第2蓋部56は、内周に第2転がり軸受19が装着される筒状のモータカバー56aと、モータカバー56aの開口部を封口する平板状のセンサカバー56bとを備え、モータカバー56aの径方向内側(センサカバー56bの軸方向一方側)にセンサ基板37が配置されている。モータカバー56aと第2転がり軸受19との間には、第2転がり軸受19及び第1転がり軸受18に軸方向の予圧を付与するため、軸方向に圧縮された弾性部材32が配置されている。
【0034】
モータカバー56aは、ケース本体50と同種の金属材料で形成され、締結部材(例えばボルト)を用いてケース本体50に対して固定される。また、センサカバー56bは、ポリフェニレンサルファイド(PPS)やポリブチレンテレフタレート(PBT)等のスーパーエンプラを主成分とする樹脂材料で形成され、締結部材(例えばタッピングねじ)を用いてモータカバー56aに対して固定される。図示は省略しているが、モータカバー56aとケース本体50の間、及びモータカバー56aとセンサカバー56bの間には、それぞれ、シール性を高めるためのシール部材等が介在する。
【0035】
図1に示すように、ケース本体50には、電動ポンプ1を取り付け対象(ここではトランスミッションケース)に取り付けるための取り付けフランジ58,59が一体的に設けられている。軸方向一方側に設けられた取り付けフランジ58には、ボルト等の締結部材が挿通される挿通孔58aが2つ形成され、軸方向他方側に設けられた取り付けフランジ59にも、締結部材の挿通孔59aが2つ形成されている。そして、これらの挿通孔58a,59aに挿通した締結部材を取り付け対象に締結することにより、電動ポンプ1が取り付け対象に取り付けられる。
【0036】
図1及び
図2に示すように、ケース本体50には、互いに分離して設けられた吸入側流路60と吐出側流路61とからなるオイル流路6が設けられる。吸入側流路60は、インナロータ21とアウタロータ22の噛み合い部(ポンプ室5A)に開口した吸入側空間60aと、ケース本体50の外表面に開口した吸入孔60bと、吸入側空間60aとケース本体50の外部空間を連通させる吸入側連通路60cとを有する。また、吐出側流路61は、インナロータ21とアウタロータ22の噛み合い部(ポンプ室5A)に開口した吐出側空間61aと、ケース本体50の外表面に開口した吐出孔61bと、吐出側空間61aと外部空間を連通させる吐出側連通路61cとを有する。吸入側空間60a及び吐出側空間60aは、何れも、電動モータ10の出力軸17の周方向に延びる円弧状をなし、周方向で180°対向する位置に設けられる。
【0037】
以上のように、吸入側流路60及び吐出側流路61の双方をケース本体50に設けておけば、ケース本体50がアルミニウム合金等の熱伝導性が良好な金属材料で形成されていることと相俟って、両流路60,61を流れるオイルでケース本体50を効率良く冷却することができる。この冷却効果により、発熱源となる電動モータ10及び基板4の冷却を促進することができるので、電動ポンプ1の信頼性を高めることができる。
【0038】
以上の構成を有する電動ポンプ1において、電動モータ10に電力が供給されるのに伴ってその出力軸17が回転すると、その軸方向一方側の端部に設けられたインナロータ21が出力軸17と一体回転する。インナロータ21が回転すると、これに噛み合ったアウタロータ22が従動回転し、両ロータ21,22の歯部の間に形成される空間の容積が両ロータ21,22の回転に伴って拡大及び縮小する。これに伴い、トランスミッションケースの内部に貯留されたオイルが吸入側流路60を介してポンプ室5Aに吸入されると共に、吸入されたオイルが吐出側流路61を介してトランスミッション内部に圧送される。
【0039】
上記の構成を有する電動ポンプ1において、ポンプロータとしてのインナロータ21を一体回転可能に保持した電動モータ10の出力軸17の回転精度は、ポンプ能力に大きく影響を与えることから、出力軸17の回転時には、出力軸17のガタを極力抑える必要がある。そこで、本実施形態の電動ポンプ1においては、出力軸17を回転自在に支持する2つの転がり軸受18,19のうち、出力軸17の回転時の荷重作用点となるインナロータ21に接近した側に配設される第1転がり軸受18の外輪18a及び内輪18bを、それぞれ、ケーシング5(ケース本体50)に設けた軸受嵌合面及び出力軸17の外周面に対して圧入している。
【0040】
また、本実施形態では、前述したとおり、第1転がり軸受18に第2転がり軸受19よりも荷重負荷容量が大きい深溝玉軸受を使用しているので、この点からも出力軸17のガタを抑える上で有利となる。
【0041】
ところで、電動モータ10の出力軸17と一体回転可能に設けられる部材は、出力軸17に対する組み付け精度(出力軸17の回転精度)を保証する観点から、出力軸17をケース本体50に組み込む前に出力軸17に組み付けておくのが好ましい。そこで、本実施形態の電動アクチュエータ1の製造(組立)工程において、出力軸17をケース本体50に組み込む際には、これに先立って、
図4に示すように、出力軸17の外周面に第1転がり軸受18及びモータロータ13を位置決め固定する。なお、第1転がり軸受18は、内輪18bを出力軸17の外周面に圧入することで出力軸17に対して軸方向に位置決め固定される。また、出力軸17をケース本体50に組み込むのに先立って、モータ室5Bに設けられたシール嵌合面にシール部材31を嵌合しておく(
図5参照)。
図5では、ケース本体50やシール部材31を簡略化したかたちで示している。
【0042】
上記の組立工程では、モータ室5Bの開口部を介して出力軸17(外周面に第1転がり軸受18及びモータロータ13が位置決め固定された出力軸17。以下、これを「アセンブリ」という。)をモータ室5Bに挿入し、出力軸17の軸方向一方側の端部をポンプ室5Aに配置する。モータ室5Bに上記アセンブリを挿入するのに伴って、第1転がり軸受18の外輪18aをモータ室5Bに形成された軸受嵌合面に圧入する。外輪18aを軸受嵌合面に圧入する際には、外輪18aと内輪18bの軸方向相対位置を管理(外輪18aが内輪18bに対して軸方向に位置ズレするのを防止)する必要があるが、第1転がり軸受18の軸方向他方側にはモータロータ13が配置されているため、上記の位置管理を精度良く行うことができない。
【0043】
そこで、
図1、
図3及び
図5に示すように、モータロータ13を構成するロータコア15に、その軸方向一方側及び他方側の端面がそれぞれ臨む空間同士を連通させる軸方向の連通孔16を周方向に間隔を空けて複数(ここでは周方向等間隔で8個。
図3参照。)設け、各連通孔16の軸方向一方側の開口部16aを外輪18aの軸方向他方側の端面18a1の少なくとも一部と対向配置している。本実施形態では、径方向外側の端部(最外径部)が外輪18aの外周面よりも径方向内側に位置すると共に外輪18aの内周面よりも径方向外側に位置するような連通孔16を設けることにより、上記構成を実現している。つまり、各連通孔16の最外径部を通る円軌道(連通孔16の外接円)の直径寸法をφDとし、外輪18aの外径寸法をφd1とし、外輪18aの内径寸法をφd2とすると、φd2<φD<φd1の関係式が成立する。
【0044】
そして、第1転がり軸受18の外輪18aをケース本体50に組み込む(軸受嵌合面に圧入する)際には、
図5に示すような筒状の圧入治具7を用いる。図示例の圧入治具7は、軸方向寸法が連通孔16(ロータコア15)の軸方向寸法よりも長く、連通孔16に挿通された状態で自由端が外輪18aの他端面18a1に当接する押圧部7aが周方向に間隔を空けて複数(ここでは、連通孔16の配置態様に倣って8本)設けられ、かつ、押圧部7aが設けられた部分の外径寸法を、連通孔16の外接円の直径寸法φDと同じくした筒状の治具である。
【0045】
この場合、出力軸17の外周面に内輪18bが圧入固定された第1転がり軸受18をケーシング5のケース本体50に対して組み込む際に、出力軸17の所定位置(第1転がり軸受18の軸方向他方側)にモータロータ13が固定されていても、上記圧入治具7に設けた複数の押圧部7aを対応するロータコア15の連通孔16に挿通させることにより、第1転がり軸受18の外輪18aを軸方向一方側に直接押圧することができる。これにより、外輪18aを軸受嵌合面に圧入するのに伴って外輪18aが内輪18bに対して軸方向に位置ズレするのを防止することができるので、外輪18aの内周面及び/又は内輪18bの外周面に圧痕等の欠陥を形成することなく、外輪18aをケース本体50の軸受嵌合面に精度良く圧入することができる。
【0046】
以上で述べたような作用効果が相俟って、本発明によれば、電動モータ10の出力軸17の回転精度を高めることができる。これにより、所望のポンプ能力を安定的に発揮することができる高品質の電動ポンプ1を提供することができる。
【0047】
本実施形態では、前述したとおり、外輪19aの外径寸法が第1転がり軸受18の外輪18aの外径寸法よりも小さい第2転がり軸受19を用いているが、外輪19aの外周面が、モータロータ13(ロータコア15)に設けた連通孔16の最外径部よりも径方向内側に位置する第2転がり軸受19を用いる場合、換言すると、
図8に示すように、外輪19aの外径寸法φd3が連通孔16の外接円の直径寸法φDよりも小さい第2転がり軸受19を用いる場合には、第2転がり軸受19を第1転がり軸受18及びモータロータ13と共に予め出力軸17に組み付けておいても良い(
図6及び
図7を併せて参照)。この場合には、上記の圧入治具7を用いて第1転がり軸受18の外輪18aをケース本体50の軸受嵌合面に圧入することができる。
【0048】
なお、この場合には、転がり軸受18,19及びモータロータ13が組み付けられた出力軸17をケース本体50に組み込むのに伴って、出力軸17に組み付けた第2転がり軸受19が出力軸17から脱落するのを防止するため、第2転がり軸受19の内輪19bは出力軸17の外周面に対して圧入(しまりばめ)しておくのが好ましい。第2転がり軸受19の内輪19bを出力軸17の外周面に対して圧入する場合、第2転がり軸受19の外輪19aは、モータカバー56a(
図1参照)に対してすきまばめする。また、ケース本体50に組み込み前の出力軸17に第2転がり軸受19を組み付ける場合には、
図6及び
図8に示すように、出力軸17の他端にブラケット36を組み付けても良い。
【0049】
以上、本発明の一実施形態に係る電動ポンプ1及びその製造方法(組立方法)について説明を行ったが、電動ポンプ1には本発明の要旨を逸脱しない範囲で適宜の変更を施すことができる。
【0050】
例えば、以上で説明した実施形態でモータロータ13(ロータコア15)に設けた連通孔16は、最外径部が第1転がり軸受18の外輪18aの外周面よりも径方向内側に位置するものであるが、連通孔16は、最外径部が外輪18aの外周面よりも径方向外側に位置するように設けても良い。また、以上で説明した実施形態で示した連通孔16は、その径方向内側の端部(最内径部)が第1転がり軸受18の外輪18aの内周面よりも径方向内側に位置するものであるが、連通孔16は、最内径部が外輪18aの内周面よりも径方向外側に位置するように設けても良い。要は、モータロータ13に設けた連通孔16に圧入治具7の押圧部7aを挿通したとき、押圧部7aの自由端で外輪18aを軸方向に押圧することができ、かつロータコア15に必要とされる機械的強度等を確保することができれば、連通孔16の大きさや断面形状は自由に選択できる。
【0051】
また、以上では、ポンプ部2を、内接式ギアポンプの一種であるトロコイドポンプで構成したが、本発明は、電動モータ10の出力軸17と一体回転することによりオイルを吸入及び吐出(圧送)するポンプロータを有するその他のポンプ、例えばベーンポンプがポンプ部2に使用される電動ポンプ1にも好ましく適用することができる。
【0052】
本発明は以上で説明した実施形態に何ら限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において、さらに種々なる形態で実施し得ることは言うまでもない。本発明の範囲は、特許請求の範囲によって示され、さらに特許請求の範囲に記載の均等の意味、および範囲内のすべての変更を含む。
【符号の説明】
【0053】
1 電動ポンプ
2 ポンプ部
3 モータ部
5 ケーシング
5A ポンプ室
5B モータ室
7 圧入治具
10 電動モータ
13 モータロータ
15 ロータコア
16 連通孔
16a 端部
17 出力軸
18 第1転がり軸受
18a 外輪
18a1 端面
18b 内輪
19 第2転がり軸受
19a 外輪
31 シール部材
50 ケース本体
54 隔壁