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特開2024-36925焼結体および全固体ナトリウムイオン二次電池
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024036925
(43)【公開日】2024-03-18
(54)【発明の名称】焼結体および全固体ナトリウムイオン二次電池
(51)【国際特許分類】
   H01M 10/054 20100101AFI20240311BHJP
   H01M 10/0562 20100101ALI20240311BHJP
   H01M 4/62 20060101ALI20240311BHJP
   H01M 4/13 20100101ALI20240311BHJP
   H01M 4/139 20100101ALI20240311BHJP
   C04B 35/01 20060101ALI20240311BHJP
   H01M 10/0585 20100101ALI20240311BHJP
【FI】
H01M10/054
H01M10/0562
H01M4/62 Z
H01M4/13
H01M4/139
C04B35/01
H01M10/0585
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022141484
(22)【出願日】2022-09-06
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)2021年度、国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構「NEDO先導研究プログラム/エネルギー・環境新技術先導研究プログラム/電力貯蔵用高安全・低コスト二次電池の研究開発」委託研究、 産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(71)【出願人】
【識別番号】593163449
【氏名又は名称】株式会社豊島製作所
(74)【代理人】
【識別番号】100123984
【弁理士】
【氏名又は名称】須藤 晃伸
(74)【代理人】
【識別番号】100102314
【弁理士】
【氏名又は名称】須藤 阿佐子
(74)【代理人】
【識別番号】100159178
【弁理士】
【氏名又は名称】榛葉 貴宏
(72)【発明者】
【氏名】岡部 祐海
(72)【発明者】
【氏名】坂井 穣
(72)【発明者】
【氏名】依田 孝次
【テーマコード(参考)】
5H029
5H050
【Fターム(参考)】
5H029AJ11
5H029AK01
5H029AL01
5H029AM12
5H029DJ08
5H029DJ09
5H029EJ03
5H029HJ02
5H029HJ14
5H050AA14
5H050BA15
5H050CA01
5H050CB01
5H050DA09
5H050DA12
5H050EA11
5H050GA02
5H050GA10
5H050GA27
5H050HA02
5H050HA14
(57)【要約】
【課題】機械的強度がより高く、かつ、エネルギー効率がより高い全固体ナトリウムイオン二次電池用焼結体または全固体ナトリウムイオン二次電池を提供する。
【解決手段】二ホウ酸ナトリウム、メタホウ酸ナトリウム、五ホウ酸ナトリウム、六ホウ酸ナトリウムおよび八ホウ酸ナトリウムからなる群より選ばれる1種以上のホウ酸ナトリウムを含有することを特徴とする、全固体ナトリウムイオン二次電池用焼結体。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
二ホウ酸ナトリウム、メタホウ酸ナトリウム、五ホウ酸ナトリウム、六ホウ酸ナトリウムおよび八ホウ酸ナトリウムからなる群より選ばれる1種以上のホウ酸ナトリウムを含有することを特徴とする、全固体ナトリウムイオン二次電池用の焼結体。
【請求項2】
二ホウ酸ナトリウムを含有することを特徴とする、請求項1に記載の焼結体。
【請求項3】
少なくとも二ホウ酸ナトリウム水和物および固体電解質を混合した混合物を焼結して得られる、請求項2に記載の焼結体。
【請求項4】
正極層、負極層および電解質層を有し、
前記正極層は、正極活物質と、固体電解質と、導電助剤とを少なくとも含み、
前記電解質層は、固体電解質を少なくとも含み、
前記負極層は、負極活物質と、固体電解質と、導電助剤とを少なくとも含み、
前記正極層、前記負極層および前記電解質層の少なくとも1層は、二ホウ酸ナトリウムをさらに含む、請求項2に記載の焼結体。
【請求項5】
前記正極層、前記負極層および前記電解質層の全ての層に二ホウ酸ナトリウムを含み、
前記電解質層における前記二ホウ酸ナトリウムの含有率が、前記正極層および前記負極層における前記二ホウ酸ナトリウムの含有率以上である、請求項4に記載の焼結体。
【請求項6】
請求項1ないし5のいずれかに記載の焼結体を有する、全固体ナトリウムイオン二次電池。
【請求項7】
正極活物質と、固体電解質と、導電助剤とを少なくとも含む正極層材料と、
固体電解質を少なくとも含む電解質層材料と、
負極活物質と、固体電解質と、導電助剤とを少なくとも負極層材料とを、型に入れ押し固め、
前記型に入れたまま700℃以下の温度で一体に焼成する、全固体ナトリウムイオン二次電池用焼結体の製造方法であって、
前記正極層材料、前記負極層材料および前記電解質層材料の少なくとも1つに、二ホウ酸ナトリウム、メタホウ酸ナトリウム、五ホウ酸ナトリウム、六ホウ酸ナトリウム、八ホウ酸ナトリウム、または、それらいずれかの水和物が混合される、製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、全固体ナトリウムイオン二次電池に用いるための焼結体またはそれを用いた全固体ナトリウムイオン二次電池に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、リチウムを用いたリチウムイオン二次電池が普及している。しかしながら、リチウムイオン二次電池は、レアアースであるリチウムを使用するために高価となってしまうとともに、Liイオンの輸送を行う物質として液体(電解液)を使用することから液漏れの懸念や内部短絡による発火のリスクを抱えるなど、安全性において、問題があった。
このような観点から、次世代のアルカリイオン二次電池として、全固体ナトリウムイオン二次電池の開発が進められている。ナトリウムは、海水中に塩化ナトリウムとして存在するほか、岩塩や岩石層などにも存在するなど、地球上で6番目に多い元素として知られる。このことより資源枯渇のリスクにさらされにくいこと、安価であることが特長として挙げられる。さらに、電解質物質としてナトリウムイオン導電性のある固体を用いることで、液漏れのリスクが本質的になくなり、硬い固体を用いることで内部短絡を防ぐことができる。加えて、このような安全面でのリスクが本質的に低いことから安全設計も少なくなりコストメリットも享受できる。
このような全固体ナトリウム電池においては、電極物質と電解質物質との界面で発生する空孔を減少させ、接触面積を増やし、緻密性を高めることで、イオンの伝導性を高め、ひいては電池としての性能を高めることが望まれる。一般的には、そのような緻密性の高い焼結体を得るためには、800℃以上の高温で電極層及び電解質層を焼成し、密度を高める手法がとられる。しかしながら、800℃以上の高温で焼成を行う場合、電極材料であるNa(POと、電解質材料であるNaZr(SiO(PO)との混合電極において意図しない化学変化が生じ電極の劣化に繋がることがわかっている。そのため、非特許文献1では、四ホウ酸ナトリウムを電解質層に添加することで、600℃という低温でも、電極層と電解質とが緻密に結合した焼結体を得られる技術を開示しており、全固体ナトリウムイオン電池として稼働することが確認されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【非特許文献1】Dai Kutsuzawa et.al,“Flux-Assisted Low-Temperature Fabrication of Highly Durable All-Oxide Solid-State Sodium-Ion Batteries”,ACS Applied Energy Materials 2022 5(4), 4025-4028p
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
近年、電池の低コスト化および電力の大容量化のニーズから、全固体ナトリウムイオン二次電池の実用化に当たり、直径50mm以上の大型の全固体ナトリウムイオン二次電池が希求されている。しかしながら、全固体ナトリウムイオン二次電池を大型化する場合、電池作製時のハンドリングにおいて耐え得る機械的強度が必要とされるが、非特許文献1に示すように、電解質層に四ホウ酸ナトリウムを添加して製造した焼結体では、このようなハンドリングに耐え得る十分な機械的強度が得られないという問題があった。また、非特許文献1の全固体ナトリウムイオン二次電池では、イオン伝導度が高くなく、電極活物質の量に対して十分なエネルギーが得られないという問題もあった。
【0005】
本発明は、機械的強度がより高く、かつ、電極活物質のエネルギー効率がより高い全固体ナトリウムイオン二次電池用焼結体または全固体ナトリウムイオン二次電池を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に係る全固体ナトリウムイオン二次電池用の焼結体は、二ホウ酸ナトリウム、メタホウ酸ナトリウム、五ホウ酸ナトリウム、六ホウ酸ナトリウムおよび八ホウ酸ナトリウムからなる群より選ばれる1種以上のホウ酸ナトリウムを含有することを特徴とする。
上記焼結体において、二ホウ酸ナトリウムを含有することを特徴とする構成とすることができる。
上記焼結体において、少なくとも二ホウ酸ナトリウム水和物および固体電解質を混合した混合物を焼結して得られる構成とすることができる。
上記焼結体において、正極層、負極層および電解質層を有し、前記正極層は、正極活物質と、固体電解質と、導電助剤とを少なくとも含み、前記電解質層は、固体電解質を少なくとも含み、前記負極層は、負極活物質と、固体電解質と、導電助剤とを少なくとも含み、前記正極層、前記負極層および前記電解質層の少なくとも1層は、二ホウ酸ナトリウムをさらに含む構成とすることができる。
上記焼結体において、前記正極層、前記負極層および前記電解質層の全ての層に、二ホウ酸ナトリウムを含み、前記電解質層における前記二ホウ酸ナトリウムの含有率は前記正極層および前記負極層における前記二ホウ酸ナトリウムの含有率以上である構成とすることができる。
本発明に係る全固体ナトリウムイオン二次電池は、上記焼結体を有する。
本発明に係る全固体ナトリウムイオン二次電池用の焼結体の製造方法は、正極活物質と、固体電解質と、導電助剤とを少なくとも含む正極層用材料と、固体電解質を少なくとも含む電解質層用材料と、負極活物質と、固体電解質と、導電助剤とを少なくとも負極層用材料とを、型に入れ押し固め、前記型に入れたまま三層一体で焼成する、固体ナトリウム電池用焼結体の製造方法であって、前記正極層材料、前記負極層材料および前記電解質層材料の少なくとも1つに、二ホウ酸ナトリウム、メタホウ酸ナトリウム、五ホウ酸ナトリウム、六ホウ酸ナトリウム、八ホウ酸ナトリウム、または、それらいずれかの水和物が混合される。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、機械的強度がより高く、かつ、エネルギー効率の高い焼結体または全固体ナトリウム電池を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】本実施形態に係る焼結体の構成図である。
図2】本実施形態に係る焼結体を示す図である。
図3】実施例に係る焼結体の各層の組成を示す表である。
図4】実施例に係る焼結体を示す図である。
図5】実施例に係る電解質層におけるホウ酸ナトリウムの添加量とイオン伝導度との関係を示すグラフである。
図6】実施例に係る電解質層におけるホウ酸ナトリウムの添加量と密度との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明に係る焼結体および全固体ナトリウムイオン二次電池の実施形態を図に基づいて説明する。図1は、本実施形態に係る焼結体1を示す構成図である。図1に示すように、本実施形態に係る焼結体1は、正極層10と、負極層20と、電解質層30と、が積層されて構成されている。なお、本実施形態では、正極層10と、負極層20と、電解質層30との3層からなる焼結体1を例示して説明するが、本発明に係る焼結体は、少なくとも正極層10と、負極層20と、電解質層30の3層を有していればよく、上記3層を繰り返し積層する構成としてもよいし、たとえば、正極層10、電解質層30、負極層20、電解質層30、正極層10、電解質層30のように、電解質層30が複数の正極層10および負極層20の間に介在する構成とすることもできる。
【0010】
正極層10および負極層20は、電解質層30を構成する材料に、正極活物質または負極活物質と、導電助剤とを加えて構成される。そこで、まず、電解質層30について説明する。
【0011】
本発明に係る電解質層30は、固体電解質および二ホウ酸ナトリウムを含有する。固体電解質は、NASICON構造を有するナトリウムイオン伝導性の酸化物固体電解質を用いることができ、たとえば、NaZrSiPO12、Na3.2Zr1.3Si2.20.810.5、NaZr1.6Ti0.4SiPO12、NaHfSiPO12、Na3.4Zr0.9Hf1.4Al0.6Si1.21.812、NaZr1.7Nb0.24SiPO12、Na3.6Ti0.20.8Si2.8、NaZr1.880.12SiPO12、Na3.12Zr1.880.12SiPO12、Na3.6Zr0.13Yb1.67Si0.112.912、NaYSi12などが挙げられる。本実施形態では、NaZrSiPO12(以下、NZSPという)を用いるものとする。なお、固体電解質は、粒径が5μm以下であることが好ましい。なお、正極層10および負極層20も、電解質層30と同様の固体電解質を有する。
【0012】
また、本実施形態に係る電解質層30は、焼結助剤として、ホウ酸ナトリウムを含有する。特に、イオン伝導度および機械的強度の観点から、ホウ酸ナトリウムのうち、二ホウ酸ナトリウム(Na)を含有することが好ましいが、メタホウ酸ナトリウム(NaBO)、五ホウ酸ナトリウム(Na1016)、六ホウ酸ナトリウム(Na10)、八ホウ酸ナトリウム(NaB13)を含有する構成とすることもできる。本実施形態では、固体電解質(NZSP)と上記ホウ酸ナトリウムまたはその水和物とを混合し、これを加熱してホウ酸ナトリウムを溶解させることで、NZSPの粒子間の隙間にホウ酸ナトリウムが入り込み、電解質層30のイオン伝導度および機械的強度を向上させることができる。なお、本実施形態では、ホウ酸ナトリウムとして二ホウ酸ナトリウムを含有する構成を例示して説明する。
【0013】
さらに、本実施形態において、電解質層30は、二ホウ酸ナトリウムに加えて、焼結助剤として、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリフッ化ビニリデン(PVdF)、フッ素系ゴムなどを含有する構成とすることもできる。
【0014】
正極層10は、正極活物質と、固体電解質と、導電助剤とを少なくとも含む。正極活物質は、全固体ナトリウムイオン二次電池で使用される正極活物質であれば特に限定されないが、たとえば、Na(PO、NaFePOF、Na(PO、NaNi(PO)、NaMn(PO)などのナトリウム含有リン酸ポリアニオン系材料を用いることができ、本実施形態では、NaNi(POを用いるものとする。なお、NaNi(POは、オリビン型結晶構造を有し、粒径100μm以下であることが好ましい。導電助剤としては、球状黒鉛、アセチレンブラック、炭素繊維、VGCFなどが挙げられる。
【0015】
さらに、本実施形態において、正極層10は、焼結助剤として、二ホウ酸ナトリウムを含有する構成とすることができる。また、二ホウ酸ナトリウムに加えて、焼結助剤として、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリフッ化ビニリデン(PVdF)、フッ素系ゴムなどを含有する構成とすることもできる。
【0016】
負極層20は、負極活物質と、固体電解質と、導電助剤とを少なくとも含む。負極活物質は、全固体ナトリウムイオン二次電池で使用される負極活物質であれば特に限定されないが、たとえば、NaTi(PO、Na1.3Al0.3Ti1.7(PO、Na1.5Al0.5Ti1.5(PO、Na1.3Al0.3TiZr0.7(POなどのナトリウムリン酸塩化合物を用いることができ、本実施形態では、NaTi(POを用いるものとする。なお、NaTi(POは、NASICON型結晶構造を有し、粒径100μm以下が好ましい。
【0017】
また、負極層20は、正極層10と同様の固体電解質、導電助剤、および、焼結助剤である二ホウ酸ナトリウムを含有する。
【0018】
このように、本実施形態に係る焼結体1は、正極層10、負極層20および電解質層30に、固定電解質と、当該固体電解質を結着させるための焼結助剤である二ホウ酸ナトリウムを含有する。また、各層における二ホウ酸ナトリウムの含有率は、特に限定されないが、電解質層30における二ホウ酸ナトリウムの含有率が、正極層10および負極層20における二ホウ酸ナトリウムの含有率以上であることが好ましい。また、電解質層30における二ホウ酸ナトリウムの含有率は1wt%以上であることが好ましく、正極層10および負極層20における二ホウ酸ナトリウムの含有率は20wt%以下であることが好ましい。
【0019】
(製造方法)
本実施形態に係る焼結体1は、以下のように製造することができる。
正極活物質と、固体電解質と、導電助剤と、二ホウ酸ナトリウム水和物とを混合し、正極層材料として調製する。同様に、負極活物質と、固体電解質と、導電助剤と、二ホウ酸ナトリウムとを混合し、負極層材料として調製する。さらに、固体電解質と二ホウ酸ナトリウムとを混合し電解質層材料として調製する。なお、正極層材料、負極層材料、電解質層材料の調製方法は、上記方法に限定されず、例えば、正極活物質や負極活物質に、ホウ酸ナトリウムの水溶液をスプレーコートする方法や、固体電解質にホウ酸ナトリウムをスパッタリングする方法なども挙げられる。
【0020】
そして、調製した各層用の材料を、カーボン型に層ごとに入れて押し固め、各層を積層させる。そして、カーボン型ごと三層一体で、700℃以下、または600℃以下の熱で加圧しながら焼成する。なお、焼成方法は特に限定されず、ホットプレス法、SPS(放電プラズマ焼結)法、大気焼成法などで焼成を行うことができる。なお、電極層における導電助剤として、カーボンを使用する場合は、大気中の酸素とカーボンの反応の問題から、雰囲気制御された環境であることが望ましい。
このように、本実施形態に係る焼結体1は、三層一体で焼結することができるため、各層ずつ焼成し各層を結合する製法と比べて、製造工程を短縮することができる。また、通常、三層一体で焼成する場合、使用する材料によっては望ましくない反応が起こるため700℃程度の低温で焼成する必要があるが、この場合、各層の界面における結合がもろくなりやすくなるという問題がある。これに対して、本実施形態では、各層において二ホウ酸ナトリウムを含有することで、各層間の結合も強化することができる。
【0021】
(焼結体1の性質)
本実施形態に係る焼結体1は、二ホウ酸ナトリウムを焼結助剤として添加したことで相対密度が70~90%に向上し、その結果、機械的強度を高めることができる。具体的には、焼結体1は、三点曲げ試験で30MPa以上の硬度を有する構成とすることができる。また、本実施形態に係る焼結体1では、機械的強度を高めることができるため、正極層10、負極層20および電解質層30の三層での焼結体1の厚みを3mm以下としながらも、従来以上に直径の大きい焼結体1を形成することができる。たとえば、焼結体1の厚みを3mm以下としながらも、焼結体1を、直径50mm以上とすることができ、直径100mm以上とすることもできる。図2では、左側に、直径100mmとした焼結体1を示しており、右側に、直径50mmとした焼結体1を示している。なお、図2においては、大きさの比較として、百円硬貨を合わせて表示している。
【0022】
さらに、本実施形態に係る焼結体1は、焼結助剤として、イオン伝導度が高い二ホウ酸ナトリウムを含有することで、固体電解質のイオン伝導度を10-4S/cm以上とすることができ、全固体ナトリウムイオン二次電池のエネルギー効率を高めることができる。
【0023】
また、上述した本実施形態に係る焼結体1を、外装材で包装することで、全固体ナトリウムイオン二次電池を製造することができる。
【実施例0024】
(焼結体1の製作)
本実施例では、以下のように焼結体1を作製した。
(1)層ごとに各材料を秤量し混合
図3は、本実施例で作製した焼結体の材料の組成を示す表である。図3に示すように、本実施例では、正極層10の材料として、正極活物質(NaNi(PO)を21.18wt%、固体電解質(NaZrSiPO12)を50.82wt%、導電助剤(カーボン)を18.00wt%および焼結助剤(Na・HO)を10.00wt%となるように秤量し混合した。また、負極層20の材料として、負極活物質(NaTi(PO)を21.18wt%、固体電解質(NaZrSiPO12)を50.82wt%、導電助剤(カーボン)を18.00wt%および焼結助剤(Na・HO)を10.00wt%となるように秤量し混合した。さらに、電解質層30として、固体電解質(NaZrSiPO12)を90.00wt%および焼結助剤(Na・HO)を10.00wt%となるように秤量し混合した。そして、各層の材料を、乳鉢やボールミルを用いて均一に混合する。混合方法は特に限定されず、遊星ボールミルやメカニカルミリングなどで混合しても良い。なお、本実施例では、メノウ乳鉢を用いて15分間混合を行った。
【0025】
なお、本実施例では、正極活物質は粒径90μm以下のものを使用し、負極活物質は粒径20μm以下のものを使用し、固体電解質は粒径0.1~5μm程度のものを使用し、導電助剤は約10μm程度のものを使用した。また、図3に示す各層の材料の組成は一例であり、各材料の比率を変更することができる。たとえば、図3に示す例では、正極層10、負極層20、電解質層30において、焼結助剤である二ホウ酸ナトリウム水和物をそれぞれ10wt%添加する構成を例示したが、この構成に限定されず、たとえば、電解質層30における二ホウ酸ナトリウムの含有量を、正極層10および負極層20における二ホウ酸ナトリウムの含有量よりも高くする構成とすることができる。
【0026】
(2)焼結用の型に充填
次いで、混合した各層の混合粉末を、焼結用の型に充填する。本実施例では、まず、カーボン型(直径50mm)に負極層20を構成する混合粉末を入れ、混合粉末が均等になるように押し固めた。その後、電解質層30を構成する混合粉末をカーボン型に入れ、混合粉末が均等になるように押し固めた。最後に、正極層10を構成する混合粉末をカーボン型に入れ、混合粉末が均等になるように押し固めた。なお、カーボン型は、作製する電池の大きさに応じて適宜変更することができ、たとえば直径15mmや直径106mmなどのカーボン型を用いることができる。なお、焼結用の型の材料はカーボンに限定されず、SUSやタングステンカーバイドなどの1000℃以上の融点をもつ材料を型として用いても良い。
【0027】
(3)焼結
次に、カーボン型に入れたまま積層した各層を、焼結装置に入れ、600~700℃の温度まで20分かけて昇温させ、600~700℃の温度のまま、50MPaで加圧しながら30分間焼成した。なお、本実施例では、ホットプレス法により焼結を行った。
【0028】
(4)研磨
焼成した焼結体1を、カーボン型から取り出し、研磨を行った。研磨は、焼結体1に付着した余分なカーボンを除去するため、また、焼結体1の平面を平滑にするために行われる。ここで、図4は、研磨後の焼結体1を示す図である。また、(A)は焼結体1の表面を示す図であり、(B)は焼結体1の裏面を示す図であり、(C)は焼結体1の側面を示す図である。なお、本実施例では、直径50mmの焼結体1を製作した。
【0029】
(5)測定・評価
研磨した焼結体1について、イオン伝導度および密度の測定を行った。ここで、図5は、本実施例で作製した焼結体1の電解質層30のイオン伝導度と、ホウ酸ナトリウムの添加量との関係を示すグラフである。なお、イオン伝導度の測定は、以下の方法で行った。すなわち、固体電解質(NZSP)に二ホウ酸ナトリウム水和物を5wt%および10wt%添加した2サンプルの電解質層30を作製した。作用極および対極として、Auスパッタを電解質層の両面に行い、Au電極を形成させた。そして、作製したセルについてインピーダンスアナライザ(VSP-300、Bio-logic製)を用いた交流インピーダンス法によるインピーダンス測定を行い、cole-coleプロットのRs値より得られた抵抗値を用いて、当該セルに含まれる固体電解質層の25℃におけるナトリウムイオン伝導度を算出した。なお、イオン伝導度の測定は、FFTアナライザを用いる方法や、単一正弦波を測定するFRA法などで行うことができ、本実施例では、交流インピーダンス法で行った。
【0030】
また、図5に示す例では、固体電解質(NZSP)にホウ砂(四ホウ酸ナトリウム十水和物)を5wt%、10wtおよび15%添加して作製した電解質層(比較例1)のイオン伝導度、ホウ酸ナトリウムを添加していない固体電解質(NZSP)のみの電解質層のイオン伝導度(比較例2,3)も測定し、グラフに重畳した。なお、比較例1では、ホウ砂を含む電解質層を700℃の温度まで約10分かけて昇温させ、700℃の温度のまま50MPaで加圧しながら10分間焼成することで電解質層を構成した。また、比較例2では、NZSPのみ(ホウ酸ナトリウムを添加していない)を700℃の温度まで約10分かけて昇温させ、700℃の温度のまま50MPaで10分間焼結することで電解質層を構成した。さらに、比較例3では、NZSPのみ(ホウ酸ナトリウムを添加していない)を1150℃の温度まで12分かけて昇温させ、1150℃の温度のまま50MPaで10分間焼結することで電解質層を構成した。
【0031】
図5に示す例において、比較例2,3に示すように、ホウ酸ナトリウムを添加せず電解質材料NZSPのみを含有する電解質層では、1150℃の高温で焼成した場合(比較例3)には、イオン伝導度が3.82×10-4S/cmと高くなったが、700℃の低温で焼成した場合(比較例2)には、イオン伝導度は6.17×10-7S/cmと低くなった。このように、ホウ酸ナトリウムを添加せず電解質材料NZSPのみを含有する電解質層では、低温で焼成した場合に、実用に十分なイオン伝導度が得られないことがわかった。
【0032】
また、比較例1に示すように、NZSPにホウ砂(四ホウ酸ナトリウム十水和物(Na・10HO))を添加して構成した電解質層では、ホウ砂を5wt%添加した場合はイオン伝導度が2.70×10-5S/cmとなり、ホウ砂を10wt%添加した場合はイオン伝導度が1.88×10-4S/cmとなり、ホウ砂を15wt%添加した場合はイオン伝導度が1.89×10-4S/cmとなった。このことから、NZSPにホウ砂を添加することで、700℃の低温で電解質層を焼結させた場合においても、10-5~10-4/cm程度の高いイオン伝導度が得られることがわかった。
【0033】
さらに、本実施例では、NZSPに二ホウ酸ナトリウム水和物(Na・HO)を添加して電解質層30を構成した。本実施例に係る電解質層30では、二ホウ酸ナトリウム水和物を5wt%添加した場合はイオン伝導度が2.44×10-4S/cmとなり、二ホウ酸ナトリウム水和物を10wt%添加した場合はイオン伝導度が4.04×10-4S/cmとなった。このことから、NZSPに二ホウ酸ナトリウム水和物を添加することで、700℃の低温で電解質層を焼結させた場合において、四ホウ酸ナトリウムを含有した場合(比較例1)よりも高いイオン伝導度が得られることがわかった。すなわち、四ホウ酸ナトリウムよりもイオン伝導度が高い二ホウ酸ナトリウムを含有する焼結体1を構成することで、従来よりもイオン伝導度が高く、エネルギー効率の高い焼結体1を作製することができることがわかった。
【0034】
また、図6は、本実施例で作製した焼結体1の電解質層30の密度と、二ホウ酸ナトリウムの添加量との関係を示すグラフである。なお、電解質層30の密度の測定は、電解質層30の寸法および重量の実測値から、密度を算出することで求めた。また、図6に示す例でも、図5に示す例と同様に、NZSPにホウ砂を5wt%、10wtおよび15%添加して作製した電解質層(比較例1)の密度と、固体電解質(NZSP)のみを700℃の低温で焼成して構成した電解質層(比較例2)の密度と、固体電解質(NZSP)のみを1150℃の高温で焼成して構成した電解質層(比較例3)の密度も測定し、グラフに重畳した。
【0035】
図6に示す例において、比較例2,3に示すように、ホウ酸ナトリウムを添加せず電解質材料NZSPのみを含有する電解質層では、1150℃の高温で焼成した場合(比較例3)に、密度は2.77g/cmと高くなるが、700℃の低温で焼成した場合(比較例2)には、密度は1.80g/cmと低くなった。このように、ホウ酸ナトリウムを添加せず電解質材料NZSPのみを含有する電解質層では、低温で焼成した場合に、実用に耐え得る十分な機械的強度が得られないことがわかった。
【0036】
また、比較例1に示すように、NZSPにホウ砂(四ホウ酸ナトリウム水和物(Na・10HO))を添加して構成した電解質層では、ホウ砂を5wt%添加した場合は密度が2.14g/cmとなり、ホウ砂を10wt%添加した場合はイオン伝導度が2.59g/cmとなり、ホウ砂を15wt%添加した場合はイオン伝導度が3.12g/cmとなった。このことから、NZSPにホウ砂を添加することで、700℃の低温で電解質層を焼結させた場合においても、密度を高めることができ、高い機械的強度が得られることがわかった。
【0037】
これらに対して、本実施例では、NZSPに二ホウ酸ナトリウム水和物を5wt%添加した場合は密度が2.30g/cmとなり、二ホウ酸ナトリウム水和物を10wt%添加した場合は密度が2.91g/cmとなり、二ホウ酸ナトリウム水和物を15wt%添加した場合は密度が3.10g/cmとなった。このことから、NZSPに二ホウ酸ナトリウム水和物を添加することで、700℃の低温で電解質層を焼結させた場合において、四ホウ酸ナトリウムを含有した場合(比較例1)と比べて同程度または高い密度が得られることがわかった。すなわち、四ホウ酸ナトリウムよりも融点が低い二ホウ酸ナトリウムを含有する焼結体1を構成することで、従来よりも密度が高く、機械的強度の高い焼結体1を作製することができることがわかった。
【0038】
このように、二ホウ酸ナトリウム水和物を5~15wt%添加することで、より好ましくは10~15wt%添加することで、図5および図6に示すように、四ホウ酸ナトリウム十水和物を同量添加する場合と比べて、イオン伝導度は高くなり、密度も同程度または高くなることがわかった。
【0039】
以上のように、本実施形態に係る焼結体1は、二ホウ酸ナトリウムを焼結助剤として含有することを特徴とする。二ホウ酸ナトリウムは、焼結時において溶融し、固体電解質間の隙間に入り込み、その後冷却により再固化することで、焼結体1の密度を高め、機械的強度を高めることができる。特に、二ホウ酸ナトリウムは、一般的に使用されるホウ酸ナトリウムである四ホウ酸ナトリウムと比べて、融点が低いため、溶解しやすく、焼結体1の密度をより高めることができ、機械的強度をより向上させることができる。その結果、焼結体1を、直径50mmや直径100mmとし、3mm以下の薄型にしても、製造工程で十分な機械的強度を得ることができる。
【0040】
また、本実施形態に係る焼結体1では、二ホウ酸ナトリウムを含有することによって、様々な粒子の密着性が向上し、3層構造を持つ焼結体1を実現することができる。また、3層構造を持つ焼結体1の提供によって、その後の電池作製プロセスの工程数の削減やコスト低減を図ることができる。
【0041】
なお、ホウ酸ナトリウムは、二ホウ酸ナトリウムに限定されず、四ホウ酸ナトリウムよりも低い融点またはイオン導電性を有するホウ酸ナトリウムを用いる構成とすることができる。
【0042】
以上、本発明の好ましい実施形態例について説明したが、本発明の技術的範囲は上記実施形態の記載に限定されるものではない。上記実施形態例には様々な変更・改良を加えることが可能であり、そのような変更または改良を加えた形態のものも本発明の技術的範囲に含まれる。
【0043】
たとえば、上述した実施形態では、正極層10、負極層20、電解質層30の全ての層において二ホウ酸ナトリウムを含有する構成を例示したが、この構成に限定されず、正極層10、負極層20、電解質層30のいずれか1層または2層において二ホウ酸ナトリウムを含有する構成とすることができる。
【0044】
また、上述した実施形態では、正極層10、負極層20、電解質層30の全ての層において二ホウ酸ナトリウムを同じ含有率で含有する構成を例示したが、この構成に限定されず、正極層10、負極層20、電解質層30ごとに、二ホウ酸ナトリウムの含有率を変える構成とすることもできる。たとえば、電解質層30における二ホウ酸ナトリウムの含有率を、正極層10および負極層20における二ホウ酸ナトリウムの含有率以上とすることができる。これにより、電解質層30におけるイオン伝導度を上昇させるとともに、正極層10および負極層20において二ホウ酸ナトリウムが活物質と反応してしまうことを抑制することができる。
【0045】
さらに、上述した実施形態では、二ホウ酸ナトリウムを含有する構成を例示して説明したが、この構成に限定されず、二ホウ酸ナトリウムに代えて、または、二ホウ酸ナトリウムに加えて、メタホウ酸ナトリウム、五ホウ酸ナトリウム、六ホウ酸ナトリウム、および/または、八ホウ酸ナトリウムを含有する構成とすることもできる。なお、これら焼結助剤は、低温での焼結性の観点から、結晶状態で添加する場合は四ホウ酸ナトリウムの融点よりも低い融点を持つ二ホウ酸ナトリウムが望ましい。一方で、融点が四ホウ酸ナトリウムの融点より高い融点を持つメタホウ酸ナトリウム、五ホウ酸ナトリウム、六ホウ酸ナトリウム、および、八ホウ酸ナトリウムについては、添加前にアモルファス化することも可能であり、アモルファス化したメタホウ酸ナトリウム、五ホウ酸ナトリウム、六ホウ酸ナトリウム、および、八ホウ酸ナトリウムを用いることで本来の融点よりも低い温度で溶融することも可能であるため、用いることができる。そのため、これらのホウ酸ナトリウムも、二ホウ酸ナトリウムと同様に、電解質の低温焼結の焼結助剤として有効であり、加熱して溶解させることで、NZSPの粒子間の隙間に溶解したホウ酸ナトリウムが入り込み易く、正極層10、負極層20、電解質層30のイオン伝導度および機械的強度を向上させることができる。
【符号の説明】
【0046】
1…焼結体
10…正極層
20…負極層
30…電解質層
図1
図2
図3
図4
図5
図6