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  • 特開-水処理方法及び装置 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024036939
(43)【公開日】2024-03-18
(54)【発明の名称】水処理方法及び装置
(51)【国際特許分類】
   C02F 1/44 20230101AFI20240311BHJP
   B01D 65/02 20060101ALI20240311BHJP
   B01D 65/06 20060101ALI20240311BHJP
   B01D 61/14 20060101ALI20240311BHJP
   B01D 61/16 20060101ALI20240311BHJP
   B01D 61/22 20060101ALI20240311BHJP
【FI】
C02F1/44 F
B01D65/02
B01D65/02 520
B01D65/02 530
B01D65/06
B01D61/14 500
B01D61/16
B01D61/22
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022141513
(22)【出願日】2022-09-06
(71)【出願人】
【識別番号】000000033
【氏名又は名称】旭化成株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【弁理士】
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100108903
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 和広
(74)【代理人】
【識別番号】100142387
【弁理士】
【氏名又は名称】齋藤 都子
(74)【代理人】
【識別番号】100135895
【弁理士】
【氏名又は名称】三間 俊介
(72)【発明者】
【氏名】岡村 大祐
(72)【発明者】
【氏名】木村 克輝
【テーマコード(参考)】
4D006
【Fターム(参考)】
4D006GA06
4D006GA07
4D006HA01
4D006KA01
4D006KA03
4D006KB13
4D006KB30
4D006KC02
4D006KC03
4D006KC12
4D006KC13
4D006KC14
4D006KC16
4D006KD01
4D006KD08
4D006KD21
4D006KD24
4D006KE01Q
4D006KE11Q
4D006KE28Q
4D006KE30R
4D006MA01
4D006MC29
4D006PA01
4D006PB04
4D006PB05
4D006PB70
(57)【要約】      (修正有)
【課題】高分子量バイオポリマーを含む被処理水を、ろ過膜の目詰まりを生じることなく、安定して膜ろ過することができる水処理方法及び装置を提供する。
【解決手段】被処理水を水処理装置により清澄化する水処理方法において、分離膜設備を具備した前記水処理装置で、以下の(1)~(4)工程:
(1)多孔質分離膜モジュールに被処理水を通過させてろ過する、ろ過工程;
(2)前記多孔質分離膜モジュールを洗浄する、洗浄工程;
(3)薬品で前記多孔質分離膜モジュールを洗浄する、薬品洗浄工程;
(4)前記多孔質分離膜モジュールの外側表面及び内部に残存する洗浄液を排出する、排出工程;
を実施する方法であって、前記被処理水に含まれる、分子量1,000,000以上にピークをもつ高分子量バイオポリマーの濃度に応じて、前記水処理装置の運転条件を決定する水処理方法である。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
被処理水を水処理装置により、清澄化する水処理方法であって、
前記方法は、分離膜設備を具備した前記水処理装置で、以下の(1)~(4)工程:
(1)多孔質分離膜モジュールに被処理水を通過させてろ過する、ろ過工程;
(2)前記多孔質分離膜モジュールを洗浄する、洗浄工程;
(3)薬品で前記多孔質分離膜モジュールを洗浄する、薬品洗浄工程;
(4)前記多孔質分離膜モジュールの外側表面及び内部に残存する洗浄液を排出する、排出工程;
を実施する方法であって、
前記被処理水に含まれる、分子量1,000,000以上にピークをもつ高分子量バイオポリマーの濃度に応じて、前記水処理装置の運転条件を決定する水処理方法。
【請求項2】
前記洗浄工程が以下の処理からなる群から選ばれる一つ以上の処理を含む、請求項1に記載の水処理方法。
前記多孔質分離膜モジュールに、ろ液を前記分離膜モジュールの内側表面から外側に通過させる、逆洗処理;
圧縮空気を排出して、分離膜の外側を通過する空気によって分離膜を揺らすことにより、前記多孔質分離膜モジュールの外側表面を洗浄する、エアスクラビング処理;
被ろ過液を、前記多孔質分離膜モジュールの外側に通過させることにより、分離膜の外側表面を洗浄する、フラッシング処理;
【請求項3】
前記水処理装置の運転条件として、ろ過時間、ろ過流束、逆洗エア洗浄時間、逆洗流束、エア流量、フラッシング時間、フラッシング流量、薬品の濃度及び薬品洗浄インターバルからなる群から選ばれる少なくとも1つを変化させる、請求項2に記載の水処理方法。
【請求項4】
前記水処理方法は、前記ろ過工程の前に、凝集沈殿処理設備、加圧浮上処理設備、凝集剤添加処理設備及び酸化剤添加処理設備からなる群から選ばれる、少なくとも一つの前処理設備が設置される、請求項2に記載の水処理方法。
【請求項5】
前記前処理設備の設定条件として、投入される薬剤の種類、前記薬剤と被処理水との滞留時間及び前記薬剤の添加量からなる群から選ばれる少なくとも1つを変化させる、請求項4に記載の水処理方法。
【請求項6】
前記水処理装置は、前記前処理設備と前記分離膜設備とを含み、前記被処理水に含まれる、前記高分子量バイオポリマーの濃度に応じて、前記前処理設備の設定条件又は、前記ろ過工程、前記洗浄工程、前記薬品洗浄工程及び前記排出工程の一つ以上の運転条件を決定する、請求項3又は5に記載の水処理方法。
【請求項7】
前記被処理水は、自然水である、請求項1又は2に記載の水処理方法。
【請求項8】
前記自然水を含む被処理水の処理を行う水処理装置であって、
前記水処理装置は、前記被処理水中の前記高分子量バイオポリマー濃度を測定する、高分子量バイオポリマー測定装置と、
前記被処理水に対し、膜ろ過の前段に設けられる前記前処理設備と、
前記前処理設備で処理した前記被処理水を分離膜モジュールでろ過する、ろ過工程を実施する、分離膜設備と備えている、水処理装置。
【請求項9】
前記高分子量バイオポリマー測定装置は、LC-OCD(Liquid Chromatography-Organic Carbon Detection)である、請求項8に記載の水処理装置。
【請求項10】
前記高分子量バイオポリマー濃度の測定が、低分子量物質を除去した後、分子ふるいにより前記高分子量バイオポリマーを分離して、その濃度を測定することで実施される、請求項8又は9に記載の水処理装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高分子量バイオポリマーが含まれる被処理水を清澄化する水処理方法及び装置に関する。
【背景技術】
【0002】
種々の原水のろ過に用いられる、ろ過膜は、ろ過精度に優れること、設置スペースが少なくて済むこと、運転管理が容易であることなどの理由から、各種の分離膜装置に用いられている。
【0003】
しかし、このようなろ過膜を用いた分離膜装置にあっては、ろ過の継続に伴い原水中の除去対象物質が膜表面に付着して孔を閉塞するため、徐々にろ過性能が低下し、ついにはろ過できなくなってしまうという問題がある。
【0004】
そこで、ろ過性能を維持するために、空気等の気体をろ過膜の原水側に気泡として導入する気体洗浄やろ過方向とは逆方向にろ液側からろ過水あるいは清澄水等の逆洗媒体を噴出させて膜のろ過面の付着物を除去する逆圧水洗浄(以後、逆洗と呼ぶ)が一般的に行われている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平6-182355号公報
【特許文献2】国際公開第2009/020157号
【特許文献3】国際公開第2018/105569号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
膜表面の付着物を除去し、高い膜ろ過流束を維持するためには、気体洗浄時の流量を多くして、気体洗浄時間を長くすることが有効である。しかし、これらは気体洗浄時における、ろ過膜の振動を増加させることになり、ろ過膜に負荷を掛けるため、ろ過膜の寿命が短くなるという問題がある。また、次亜塩素酸ソーダやオゾン水などの酸化剤を用いた逆洗方法、空気やオゾン化空気をろ過膜の原水側に気泡として導入する方法等は洗浄効果を高める上で有効であるが、原水の濁質等の条件によっては必ずしも十分安定なろ過流束が得られない場合がある。また、分離膜装置の洗浄のために膜浸漬槽へ薬液を満たすといった方法も考えられるが、この方法には多くの薬液量が必要で操作も煩雑であるといった問題があった。
【0007】
さらに、河川水及び海水などの自然水をろ過する場合のファウリングは、従来、フミン酸、フルボ酸を中心とするフミン質が主要な原因と言われてきた。
【0008】
被処理水中のフミン質を除去してから膜ろ過処理に供する方法は、特許文献1及び特許文献2に開示されているが、フミン質はそもそも膜ろ過の障害にはなりにくいため、効力は限定的であった。さらにバイオポリマー濃度を測定し、フミン質を除去してから凝集剤を添加して膜ろ過処理する方法は、特許文献3に開示されている。
しかしながら、フミン質を除去してから凝集剤を添加する方法についても、フミン質除去に手間がかかり現実的な方法ではなかった。
【0009】
本発明者らの検討によって、ろ過膜の目詰まりを誘発するファウリング物質が微生物由来の多糖類やタンパク質から構成されるバイオポリマーであることが明らかになった。特に海水では、河川水に比べ、バイオポリマーの濃度が高く、ろ過が難しい。
【0010】
本発明は、このような問題を解決するためになされたものである。本発明者らは、一般的にバイオポリマーと呼称する物質についても、その分子量によって大きく膜のファウリング特性に差があり、膜のファウリング特性と特に相関する、分子量1,000,000以上にピークを持つ高分子量バイオポリマーを含む被処理水を、あらかじめ検知し、ろ過膜の目詰まりを生じさせる前に、目詰まりに対する対策を事前に講じることによって、安定して膜ろ過することができる水処理方法及び装置を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の水処理方法は、以下の通りのものである。
<態様1>
被処理水を水処理装置により、清澄化する水処理方法であって、
前記方法は、分離膜設備を具備した前記水処理装置で、以下の(1)~(4)工程:
(1)多孔質分離膜モジュールに被処理水を通過させてろ過する、ろ過工程;
(2)前記多孔質分離膜モジュールを洗浄する、洗浄工程;
(3)薬品で前記多孔質分離膜モジュールを洗浄する、薬品洗浄工程;
(4)前記多孔質分離膜モジュールの外側表面及び内部に残存する洗浄液を排出する、排出工程;
を実施する方法であって、
前記被処理水に含まれる、分子量1,000,000以上にピークをもつ高分子量バイオポリマーの濃度に応じて、前記水処理装置の運転条件を決定する水処理方法。
<態様2>
前記洗浄工程が以下の処理からなる群から選ばれる一つ以上の処理を含む、態様1に記載の水処理方法。
前記多孔質分離膜モジュールに、ろ液を前記分離膜モジュールの内側表面から外側に通過させる、逆洗処理;
圧縮空気を排出して、分離膜の外側を通過する空気によって分離膜を揺らすことにより、前記多孔質分離膜モジュールの外側表面を洗浄する、エアスクラビング処理;
被ろ過液を、前記多孔質分離膜モジュールの外側に通過させることにより、分離膜の外側表面を洗浄する、フラッシング処理;
<態様3>
前記水処理装置の運転条件として、ろ過時間、ろ過流束、逆洗エア洗浄時間、逆洗流束、エア流量、フラッシング時間、フラッシング流量、薬品の濃度及び薬品洗浄インターバルからなる群から選ばれる少なくとも1つを変化させる、態様1又は2に記載の水処理方法。
<態様4>
前記水処理方法は、前記ろ過工程の前に、凝集沈殿処理設備、加圧浮上処理設備、凝集剤添加処理設備及び酸化剤添加処理設備からなる群から選ばれる、少なくとも一つの前処理設備が設置される、態様1~3の何れか1項に記載の水処理方法。
<態様5>
前記前処理設備の設定条件として、投入される薬剤の種類、前記薬剤と被処理水との滞留時間及び前記薬剤の添加量からなる群から選ばれる少なくとも1つを変化させる、態様4に記載の水処理方法。
<態様6>
前記水処理装置は、前記前処理設備と前記分離膜設備とを含み、前記被処理水に含まれる、前記高分子量バイオポリマーの濃度に応じて、前記前処理設備の設定条件又は、前記ろ過工程、前記洗浄工程、前記薬品洗浄工程及び前記排出工程の一つ以上の運転条件を決定する、態様3~5の何れか1項に記載の水処理方法。
<態様7>
前記被処理水は、自然水である、態様1~6の何れか1項に記載の水処理方法。
<態様8>
前記自然水を含む被処理水の処理を行う水処理装置であって、
前記水処理装置は、前記被処理水中の前記高分子量バイオポリマー濃度を測定する、高分子量バイオポリマー測定装置と、
前記被処理水に対し、膜ろ過の前段に設けられる前記前処理設備と、
前記前処理設備で処理した前記被処理水を分離膜モジュールでろ過する、ろ過工程を実施する、分離膜設備と備えている、水処理装置。
<態様9>
前記高分子量バイオポリマー測定装置は、LC-OCD(Liquid Chromatography-Organic Carbon Detection)である、態様8に記載の水処理装置。
<態様10>
前記高分子量バイオポリマー濃度の測定が、低分子量物質を除去した後、分子ふるいにより前記高分子量バイオポリマーを分離して、その濃度を測定することで実施される、態様8又は9に記載の水処理装置。
【発明の効果】
【0012】
本発明の水処理方法及び装置によれば、被処理水中に含まれる分子量1,000,000以上のろ過膜の目詰まりに極めて高い相関を有する高分子量バイオポリマーを予め検知できるため、ろ過膜の目詰まりが発生する前に、ろ過工程や洗浄工程等の運転条件や前処理設備の設定条件を制御して、安定して膜ろ過を行うことができる。あるいは目詰まりしないと予見できる場合には、ろ過流束を上げて運転することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】本発明の水処理装置の一実施形態の概略構成を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下に、本発明に係る水処理装置の好適な実施形態について、図面を参照して説明する。
【0015】
図1は、本発明の実施形態に係る水処理装置の一例を示すブロック図である。
【0016】
本実施形態の水処理装置1は、ろ過工程の前に、前処理を行う凝集沈殿処理設備もしくは加圧浮上処理設備である前処理設備2、又は凝集剤添加処理設備もしくは酸化剤添加処理設備である前処理設備3からなる群から選ばれる、少なくとも一つの前処理設備が設置され、及び分離膜設備4、さらに高分子量バイオポリマー測定装置9を備えている。
本実施形態の水処理装置1においては、まず、高分子量バイオポリマーを含む被処理水(自然水)が、高分子量バイオポリマー測定装置9内に連続的に又は断続的に導入され、被処理水中の高分子量バイオポリマーの濃度を測定後、それぞれ、被処理水に対し、膜ろ過の前段に設けられる前処理設備2及び/又は前処理設備3によって凝集剤又は酸化剤が連続的又は断続的に添加されるなどを行い、分離膜設備4に送られる。前処理設備2及び/又は前処理設備3で処理した被処理水を分離膜モジュールが組み込まれた分離膜設備4によりろ過する、ろ過工程が行われ、分離膜設備4から、ろ過水が得られるように構成されている。
【0017】
ここで、被処理水となる自然水中には、微生物による植物などの分解物であるフミン質、及び微生物の代謝物であるバイオポリマー等が含まれ、上述したようにフミン質のみを除去してもバイオポリマーがろ過膜の目詰まりの原因となり、後段の分離膜設備4が安定に稼働しない。
また、バイオポリマーは比較的高い分子量の物質であるが、バイオポリマーの中でもろ過膜の目詰まりの原因となる画分は、分子量1,000,000以上にピークをもつ画分(高分子量バイオポリマー)であることが分かった。
【0018】
そこで、本発明者らは、まず、被処理水中の分子量:1,000,000以上の画分(高分子量バイオポリマー)の濃度を測定し、ファウリングのしやすさを見積もることで、分離膜設備4を安定稼働するための措置を講じることとした。
本実施形態は、被処理水を水処理装置1により、清澄化する水処理方法であって、
被処理水に含まれる、分子量1,000,000以上にピークをもつ高分子量バイオポリマーの濃度に応じて、水処理装置1の運転条件を決定する水処理方法である。
本実施形態の水処理方法は、分離膜設備4を具備した水処理装置1で、以下の工程(1)~(4)工程:
(1)多孔質分離膜モジュールに被処理水を通過させてろ過する、ろ過工程;
(2)多孔質分離膜モジュールを洗浄する、洗浄工程;
(3)薬品で多孔質分離膜モジュールを洗浄する、薬品洗浄工程;
(4)多孔質分離膜モジュールの外側表面及び内部に残存する洗浄液を排出する、排出工程;
を実施する方法である。
【0019】
被処理水中の高分子量バイオポリマーの濃度は、バイオポリマー測定装置であるLC-OCD(Liquid Chromatography-Organic Carbon Detection)を用いるか、膜濃縮法により測定することができる。
LC-OCDにより測定した被処理水中の高分子量バイオポリマーの濃度は、一態様において、10~100μg/L、又は10~40μg/L、又は20~40μg/Lであってよい。
また、膜濃縮法により測定した被処理水中の高分子量バイオポリマーの濃度は、一態様において、10~100μg/L、又は12~50μg/L、又は25~50μg/Lであってよい。
【0020】
本実施形態の前処理設備の設定条件として、投入される薬剤(酸化剤又は凝集剤等)の種類、バッファータンク7内での薬剤と被処理水との滞留時間及び薬剤の添加量からなる群から選ばれる少なくとも1つを変化させることにより、安定した運転を実行することができる。
【0021】
高分子量バイオポリマー濃度が高い時には、前処理設備2又は3の条件を強めに設定するか、前処理設備における凝集剤又は酸化剤等の薬剤の添加量を増やすことで、後段の分離膜設備4が安定に稼働できることを明らかにした。例えば、前処理設備2又は3で実施する凝集沈殿処理もしくは加圧浮上処理又は凝集剤添加処理もしくは酸化剤添加処理の設定条件として、それぞれの処理で投入される薬剤の濃度を10~100mg/Lとするのが好ましく、20~50mg/Lとするのがより好ましく、40~50mg/Lとするのが特に好ましい。
一方、高分子量バイオポリマーの濃度が低い場合には、前処理設備の設定条件を緩く、又は凝集剤等の薬剤の添加量を少なくすることで、低コストで安定した運転を実行することができる。
高分子量バイオポリマー濃度が「高い」か「低い」かの判別は、所望に応じて任意に設定した閾値濃度に従って行ってよく、例えば閾値濃度以上を「高い」濃度、閾値濃度未満を「低い」濃度と規定してよい。閾値濃度は、限定されるものではないが、LC-OCDの場合、例えば、25μg/L、又は30μg/L、又は35μg/Lに設定してよく、膜濃縮法の場合、例えば、30μg/L、又は35μg/L、又は40μg/L、又は45μg/Lに設定してよい。
【0022】
本実施形態の水処理装置1は、より具体的には、上述した前処理設備2、前処理設備3及び分離膜設備4の他に、原水供給ポンプ6、バッファータンク7及びろ過ポンプ8を備えている。
水処理装置1は、前処理設備2及び/又は前処理設備3と、分離膜設備4とを含み、被処理水に含まれる、分子量1,000,000以上にピークをもつ高分子量バイオポリマーの濃度に応じて、前処理設備2もしくは前処理設備3の設定条件又は、後述のろ過工程、洗浄工程、薬品洗浄工程及び排出工程の一つ以上の運転条件を決定することで、安定した運転を実行することができる。
【0023】
まず、オンライン又は、インラインで被処理水をサンプルした後、被処理水が高分子量バイオポリマー測定装置9に供給される。高分子量バイオポリマー測定装置9では、フミン質が除去された後、分画装置によって、高分子量帯のバイオポリマーが分離され、その濃度が定量される。また、原水供給ポンプ6によって被処理水が前処理設備2及び/又は3によって、連続的又は断続的に処理され、前処理設備2においては、被処理水からバイオポリマーが除去され、バイオポリマー低減水が生成される。前処理設備3においては、高分子量バイオポリマーが膜に目詰まりしにくい形態に変換される。
また、前処理設備2は、前処理設備3とは、併設されてもよいし、独立して設置されていてもよい。
【0024】
次に、前処理設備2によりバイオポリマーが除去された被処理水がバッファータンク7に貯留される。又は、前処理設備3が設置してある場合には凝集剤又は酸化剤が添加された被処理水がバッファータンク7に一時的に貯留されるが、この際にも、被処理水に対して、前処理設備3によって凝集剤又は酸化剤が連続的又は断続的に添加される。
【0025】
そして、バッファータンク7内において、被処理水中の高分子物質(バイオポリマー)が凝集又は分解され、凝集体含有水又は低分子化水が生成される。
【0026】
次いで、バッファータンク7において生成された凝集体含有水又は低分子化水が、ろ過ポンプ8によって分離膜設備4に供給され、前処理設備で処理した被処理水(凝集体含有水又は低分子化水)を分離膜モジュールでろ過する、ろ過工程が行われ、清澄なろ過水が得られる。
【0027】
ここで、前処理設備2では、凝集沈殿処理又は加圧浮上処理が行われるが、添加(投入)される凝集剤は、無機系凝集剤、ポリマー系凝集剤などがある。無機系凝集剤の場合には、塩化第二鉄や、ポリ硫酸第二鉄、ポリ塩化アルミニウム(PAC)、硫酸バンド(硫酸アルミニウム)などが使用されるが、ポリ塩化アルミニウムが導入量に対して効果が高いので好ましい。ポリマー系凝集剤の場合には、ポリアクリルアミドなどが好適に用いられるが、無機系凝集剤の方がより好ましい。
前処理設備3が凝集剤添加処理設備の場合には、凝集剤を添加することにより、バイオポリマーが凝集し、ろ過膜に目詰まりしにくい形態となる。酸化剤添加処理設備の場合には、酸化剤を添加することにより、高分子量バイオポリマーを低分子化し、こちらもろ過膜に目詰まりしにくい形態となる。これらは、バイオポリマーの総量は変わらないが、ろ過膜の細孔よりも十分大きな形状、あるいは、ろ過膜の細孔をそのままスルーできるほど十分小さな形状になっている。
前処理設備3においては、凝集剤添加処理設備の場合には、無機系凝集剤が好ましい。無機系凝集剤としては上述のように塩化第二鉄や、ポリ硫酸第二鉄、ポリ塩化アルミニウム、硫酸バンドなどが使用されるが、ポリ塩化アルミニウムが導入量に対して効果が高いので好ましい。酸化剤添加処理設備の場合には、塩素系酸化剤である次亜塩素酸ソーダ(NaClO)、二酸化塩素や、過酸化物である過酸化水素、過硫酸ナトリウム、オゾンなどが用いられ、次亜塩素酸ソーダ(NaClO)が好ましい。
バッファータンク7における凝集剤又は酸化剤等の薬剤と被処理水との滞留(接触)時間は1~5分程度であることが好ましく、本実施形態のバッファータンク7のように、短絡流が生じない設備を用いることが好ましい。
また、被処理水中の薬剤(凝集剤又は酸化剤等の濃度)の添加量としては、10~100mg/Lが好ましく、20~50mg/Lがより好ましく、40~50mg/Lが特に好ましい。
【0028】
前処理設備3の添加方式は、特に制限されるものではないが、定量制御注入できる方法が好ましく、例えば、自然流下方式、インジェクション方式、及びポンプ圧送式等を用いることが好ましい。また、必要に応じて、酸及びアルカリ等のph調整剤も使用することが好ましい。
【0029】
(中空糸膜モジュールの運転方法)
本実施形態の分離膜設備4は、多孔質分離膜モジュールである中空糸膜モジュール4-1を含んでなり、適当なろ過システムに組み込んで、本実施形態のろ過工程に適用することができる。
図1に、本実施形態の中空糸膜モジュールを用いて、ろ過工程、及び洗浄工程、並びに薬品洗浄工程及び排出工程を行うための、ろ過システムの一例のブロック図を示した。
【0030】
図1の分離膜設備4は、本実施形態の中空糸膜モジュール4-1、ろ水タンク5、及びコンプレッサ4-2が、バルブが適宜に配置された配管によって接続された構成を有する。図1では、送液のためのポンプ、各タンクに通常設置されるドレイン配管、薬液洗浄用の薬液タンク及びこれに伴う配管、運転状況チェックのためのセンサ等は省略されている。
本実施形態の水処理方法は、(1)~(4)工程を含む水処理装置1の運転条件として、ろ過時間、ろ過流束、逆洗エア洗浄時間、逆洗流束、エア流量、フラッシング時間、フラッシング流量、薬品の濃度及び薬品洗浄インターバルからなる群から選ばれる少なくとも1つを変化させることにより、水処理装置1の安定した運転を実行することができる。
ろ過時間は、20~38.5分が好ましく、20~28.5分がより好ましい。
ろ過流束は、50~100LМHが好ましく、80~100LМHがより好ましい。
逆洗エア洗浄時間は、0.1~2分が好ましく、0.5~1分がより好ましい。
逆洗流束は、30~240LМHが好ましく、50~100LМHがより好ましく、80~100LМHが特に好ましい。
エア流量は、3~10Nm/hが好ましく、5~8Nm/hがより好ましい。
フラッシング時間は、0.3~1分が好ましく、0.5~1分がより好ましい。
フラッシング流量は、1~5m/hが好ましく、3~5m/hがより好ましい。
薬品の濃度は、100~5,000mg/Lが好ましく、500~1,000mg/Lがより好ましい。
薬品洗浄インターバルは、0.5~7日が好ましく、1~2日がより好ましい。
なお、薬品洗浄インターバルとは、薬品で中空糸膜モジュールの洗浄を行ったタイミングと、再度、薬品で中空糸膜モジュールの洗浄を行うタイミングとの間の時間を指す。
【0031】
図1に記載の分離膜設備4を用いて、所定のろ過工程、洗浄工程、薬品洗浄工程及び排出工程:(1)~(4)工程を含む、本実施形態の工程は、例えば、以下のように行うことができる。
【0032】
《ろ過工程(1)》
ろ過工程では、多孔質分離膜モジュールである中空糸膜モジュール4-1中の中空糸膜に、被処理水を通過させてろ過して、ろ液を得る。ろ過の方式は、外圧ろ過又は内圧ろ過により実施することができるが、単位膜面積あたりの負荷を軽減し、エアスクラビング等の物理洗浄により、大量の水の除濁に適しているため、外圧ろ過により実施することが好ましい。 図1の水処理装置1では、バッファータンク7中の被処理水は、被ろ過液送液バルブ(V1)を介して、導入口(4-1-2)から中空糸膜モジュール4-1に導入され、中空糸膜の外側から中空糸膜の肉厚部分を通過してろ過され、中空糸膜の内側空間に、ろ液として浸み出す。中空糸膜の内側空間に浸み出したろ液は、ろ液口4-1-1及びろ液送液バルブ(V2)を介して、ろ水タンク5に貯蔵される。
【0033】
《洗浄工程(2)》
洗浄工程は、多孔質分離膜モジュールを洗浄する。また、洗浄工程は、逆洗(BW)処理、フラッシング(FL)処理、及びエアスクラビング(AS)処理からなる群から選ばれる一つ以上の処理を含むことが好ましい。さらに、逆洗(BW)処理又はフラッシング(FL)処理と、エアスクラビング(AS)処理とを組み合わせて行なってもよく、ASとBW又はFLを同時に行う、ASBW又はASFLを行ってもよい。
ASBW又はASFLに先立って、BW又はFLを行ってもよく、ASBW又はASFLの後にFLを行ってもよい。
また、洗浄工程の前に、ろ過工程を実施してもよい。
図1の分離膜設備4を用いた場合、BW、FL、及びAS、並びにASBW及びASFL、薬品洗浄工程及び排出工程は、それぞれ、以下のように行うことができる。
【0034】
〈逆洗(BW)処理〉
BWでは、中空糸膜モジュール4-1中の中空糸膜の内側表面から外側に、ろ液を通過させる。
この場合、ろ水タンク5内のろ液が、逆洗用バルブ(V3)を介して、ろ液口4-1-1から中空糸膜モジュール4-1に導入され、中空糸膜の内側から中空糸膜の肉厚部分を通過して、中空糸膜の外側表面に浸み出す。この過程で、中空糸膜の肉厚部の細孔内に堆積した懸濁物質は、中空糸膜の外側に押し出されることにより、中空糸膜の洗浄が行われる。
中空糸膜の外側表面に浸み出したろ液は、導入口4-1-2及び洗浄排液ドレインバルブ(V4)を介して、系外に排出される。
BWは、後述の薬品洗浄工程の後に実施してもよい。
【0035】
〈フラッシング(FL)〉
FLでは、中空糸膜モジュール4-1の外側に被ろ過液を通過させて、中空糸膜モジュール4-1の外側表面に付着している懸濁物質を中空糸膜の外側に押し流して洗浄する。
FLでは、被ろ過液タンク(バッファータンク)7内の被ろ過液は、被ろ過液送液バルブ(V1)を介して導入口4-1-2から中空糸膜モジュール4-1に導入された後、中空糸膜の外側空間を通過して、洗浄用排出口4-1-3及び洗浄排液排出バルブ(V5)を介して、系外に排出される。
FLは、後述の排出工程又は薬品洗浄工程の後に実施してもよい。
【0036】
〈エアスクラビング(AS)〉
ASでは、圧縮空気を導入口4-1-2から導入し洗浄用排出口4-1-3から排出して、中空糸膜(分離膜)モジュール4-1の外側を通過する空気(気泡)によって中空糸膜を揺らすことにより、中空糸膜モジュール4-1の外側表面を洗浄する。
ASでは、コンプレッサ4-2によって圧縮された空気が、AS用バルブ(V6)を介して導入口4-1-2から中空糸膜モジュール4-1に導入され、中空糸膜の外側空間を通過して、洗浄用排出口4-1-3及び洗浄排液排出バルブ(V5)を介して、系外に排出される。
【0037】
〈逆洗-エアスクラビング同時洗浄(ASBW)〉
ASBWでは、上述のBWとASとを同時に行う。すなわち、ろ水タンク5内のろ液が、逆洗用バルブ(V3)を介してろ液口4-1-1から中空糸膜モジュール4-1に導入され、導入口4-1-2及び洗浄排液ドレインバルブ(V4)を介して、系外に排出されるとともに、コンプレッサ4-2による圧縮空気が、AS用バルブ(V6)を介して導入口4-1-2から中空糸膜モジュール4-1に導入され、洗浄用排出口4-1-3及び洗浄排液排出バルブ(V5)を介して、系外に排出される。
【0038】
〈フラッシング-エアスクラビング同時洗浄(ASFL)〉
ASFLでは、上述のFLとASとを同時に行う。すなわち、被ろ過液タンク(バッファータンク)7内の被ろ過液が、被ろ過液送液バルブ(V1)を介して導入口4-1-2から中空糸膜モジュール4-1に導入された後、洗浄用排出口4-1-3及び洗浄排液排出バルブ(V5)を介して、系外に排出されるとともに、コンプレッサ4-2による圧縮空気が、AS用バルブ(V6)を介して導入口4-1-2から中空糸膜モジュール4-1に導入され、洗浄用排出口4-1-3及び洗浄排液排出バルブ(V5)を介して、系外に排出される。
【0039】
《薬品洗浄工程(3)》
薬品洗浄工程は、薬品で多孔質分離膜モジュールを洗浄する。薬品洗浄工程では、薬品注入ユニット4-3と逆洗ポンプ10(図示せず)とが同時に稼働し、中空糸膜モジュール4-1へ薬品を注入する。中空糸膜モジュール内を薬品で満たした後、数分~数時間放置することにより、薬品が膜汚染物質を分解又は溶解する。薬品洗浄終了後には、洗浄排液ドレインバルブ(V4)を介して、洗浄液を系外に排出する。さらにフラッシング処理、又は逆洗処理を行うことにより、中空糸膜モジュール内部を中性にしてもよい。薬品として、膜汚染物質が有機物の場合には、アルカリや、酸化剤が好適に使用される。膜汚染物質が無機物の場合には、酸が好適に使用される。
例えば、薬品としては、酸化剤である次亜塩素酸ソーダ(NaClO)、二酸化塩素や、過酸化物である過酸化水素、過硫酸ナトリウム、オゾンなどが用いられ、次亜塩素酸ソーダ(NaClO)が好ましい。
【0040】
《排出工程(4)》
排出工程では、中空糸膜モジュール4-1の外側表面及び内部に残存する洗浄液を排出する。
排出工程は、洗浄工程又は薬品洗浄工程の後に実施してもよい。
この排出工程は、排出工程用圧縮空気バルブ(V7)を介して、中空糸膜モジュール4-1の洗浄用排出口4-1-3から導入した圧縮空気を、中空糸膜モジュールの外側表面及び内部に残存する洗浄液とともに、導入口4-1-2及び洗浄排液ドレインバルブ(V4)を介して、系外に排出することにより、行うことができる。
【0041】
〈LC-OCD(Liquid Chromatography-Organic Carbon Detection)によるバイオポリマーの濃度の測定〉
バイオポリマー濃度は、前処理も膜ろ過も実施していない被処理水を対象とし、高分子量バイオポリマー測定装置9によって測定される。高分子量バイオポリマー測定装置9としては、LC-OCD(Liquid Chromatography-Organic Carbon Detection)を用いることが好ましい。
自然水(被処理水)に含まれる高分子量バイオポリマーは、通常、分子量が1,000,000を超えるので、通常のカラム構成では、測定することができない。カラムとしては、東ソー製サイズ排除クロマトグラフィー用カラムToyopearl HW-65sを1本とToyopearl HW-50sを2本とを、この順に直列に接続して、分子量を分画することで、保持時間40分未満のピークがあれば、分子量1,000,000以上にピークをもつ高分子量バイオポリマーとして測定できる。
【0042】
〈膜濃縮法によるバイオポリマーの濃度の測定〉
また、高分子量バイオポリマー測定装置9に関しては、LC-OCDの代わりに以下の膜濃縮法を実施してもよい。すなわち、まず被処理水中の低分子量物質を除去後、除去後の水を平均孔径0.1μmのろ過膜で濃縮することで、高分子量物質のみを濃縮したサンプルの溶解性全有機炭素濃度(Total organic carbon)を測定することによって、バイオポリマーの濃度を測定することができる。この場合、低分子量物質の除去は、例えば、分画分子量13,000程度の限外ろ過膜などの分子ふるいによって、加水しながら循環ろ過することにより、分子量13,000以下の物質がろ過されて系外に排出され、13,000以上の分子量を持つバイオポリマーが分離される。限外ろ過膜の材質は親水性のポリアクリロニトリルなどであると、膜へのバイオポリマーの非特異的吸着が抑制できるため、好ましい。長時間、循環ろ過を実施すると、分画分子量よりも大きな分子量のバイオポリマーでも分子形状によってはろ過膜をすり抜けて排出されてしまう可能性もあるため、使用する限外ろ過膜の分画分子量は、5,000~100,000程度が好ましく、10,000~50,000がさらに好ましい。また、加水する際に、イオン強度に変化がないように調整すると、高分子量バイオポリマーがろ過されて排出されにくくなるため、好ましい。十分に低分子量物質が除去出来たら、その液を平均孔径0.1μmのろ過膜で循環ろ過して濃縮することにより、高分子量バイオポリマーが得られる。こうして得られた残留分の分子量を上記LC-OCDで測定すると、その分子量は1,000,000以上であった。
【0043】
分離膜設備4は、特に制限されるものではないが、精密ろ過膜、限外ろ過膜、ナノろ過膜、及び逆浸透膜等を用いることができる。このうち、特に精密ろ過膜及び限外ろ過膜を用いることが好ましく、膜ろ過処理を安定して行うことができる。また、ろ過膜としては、平均孔径が、0.2μm以下のろ過膜を用いることが好ましい。さらに好ましくは、50nm以下である。なお、平均孔径は、以下のようにして計測される。
【0044】
まず、ろ過膜を長さ方向に垂直な断面で切断する。走査型電子顕微鏡を用いて上記断面を極力多数の細孔の形状が明確に確認できる程度の倍率で撮影する。次に、電子顕微鏡画像のコピーの上に透明シートを重ね、黒いペン等を用いて細孔部分を黒く塗り潰し、透明シートを白紙にコピーすることにより、細孔部分は黒、非細孔部分は白と明確に区別する。その後、市販の画像解析ソフトを利用して任意に選んだ細孔100個の孔径を求め、その相加平均値を出すことで平均孔径を算出する。画像解析ソフトは例えば三谷商事株式会社から販売されているソフトウェア“WinRoof”を用いることができる。なお、孔径とは、細孔の円周上における任意の点から、該任意の点に対向する位置にある細孔の円周上の点とを結んだ距離を指す。
【実施例0045】
以下、本実施の形態を実施例及び比較例によってさらに具体的に説明するが、本実施の形態は、これらの実施例に限定されるものではない。
【0046】
[LC-OCDによる高分子量バイオポリマーの測定]
被処理水中の有機物の分子量分布測定及びバイオポリマー濃度測定は、LC-OCD(Model8、Doclabor)を用い、“Characterisation of aquatic humic and non-humic matter with size-exclusion chromatography -organic carbon detection - organic nitrogen detection(LC-OCD-OND)” Huberら著、Water Research, 45, 879-885(2011)の方法に従い測定した。
ここで使用したカラムは、東ソー製のToyopearl HW-50s ⇒ HW-50s ⇒ HW-65sの順に流した。測定サンプルは、前処理として、被処理水を孔径0.45μmのフィルターでろ過をする処理を実施した。この測定により、各分子量画分はDOC(Dissolved Organic Carbon)として検出される。
プルランを標準試料として校正曲線を作成し、ろ過処理後の被処理水が分子量1,000,000以上のピークを有する、高分子量バイオポリマーを含むことについて確認を行った。ろ過処理後の被処理水は、LC-OCDの保持時間40分未満にピークを持つため、分子量1,000,000以上のピークを有する、高分子量バイオポリマーを含んでいた。バイオポリマー濃度とは、バイオポリマーのカーボン成分濃度を意味する。
以下、表1にLC-OCDにより測定した高分子量バイオポリマーの濃度を示す。
【0047】
[膜濃縮法による高分子量バイオポリマーの測定]
被処理水100mLを限外ろ過膜ACP-0013(旭化成製、材質:ポリアクリロニトリル、分画分子量:13,000)により、循環ろ過を実施し、90mLをろ過して排水した。それと同量のイオン調整水を加えた。イオン調整水とは、純水に被処理水と同じイオン強度になるようにCaCl2で調整した水である。こうして低分子量物質除去水が得られ、この水を孔径:0.1μm(Millipore製、材質:ニトロセルロース)の膜でろ過して、分子量1,000,000以上のピークを有する、高分子量バイオポリマー濃縮水を得た。この水のTOC(Total organic carbon)を燃焼触媒酸化方式全有機体炭素計(TOC-L、島津製作所製)で測定することにより、高分子量バイオポリマーの濃度を定量した。
以下、表1に膜濃縮法により測定した高分子量バイオポリマーの濃度を示す。
【0048】
(参考例及び実施例)
図1に示す水処理装置1を使って河川表流水より上水を得る目的で運転を実施した。高分子量バイオポリマー測定装置9は、LC-OCD法及び、膜濃縮法の2通りの手段で測定した。前処理設備2には、凝集沈殿処理又は加圧浮上処理、前処理設備3には、凝集剤添加処理又は酸化剤添加処理のいずれかを用いた。
凝集沈殿処理はエレポン化工機社製PD-2600を用い、滞留時間は2時間に設定した。加圧浮上処理は、エレポン化工機社製PAL-053を用い、滞留時間は45分に設定した。
凝集沈殿処理及び加圧浮上処理は、どちらも凝集剤として、ポリ塩化アルミニウム(PAC)を用いた。
凝集剤添加処理又は酸化剤添加処理を実施する前処理設備3には、それぞれポリ塩化アルミニウム添加装置又は、次亜塩素酸ソーダ(NaClO)添加装置を設けた。さらにその後段に体積10m3のバッファータンク7を設けた。分離膜設備4の中空糸膜モジュール4-1には、ポリフッ化ビニリデン製中空糸MF膜(旭化成製)、平均孔径0.1μm、有効膜面積50m2のものを備えており、中空糸膜モジュールの外形寸法は、直径180mm、膜有効長さ2000mm(円筒形)である。分離膜設備4は逆洗手段とエアスクラビング用エア供給手段、フラッシング手段を設けてある。被処理水中のバイオポリマー濃度は10~50μg/Lであった。
【0049】
運転膜ろ過流束は80~100LMH、ろ過時間は20~38.5分に設定し、この時のろ過1サイクルの膜ろ過量は1,2~2.375m3である。バッファータンク7のレベルに合わせて、原水供給ポンプ6により前処理設備2によって処理を行い、又は、前処理設備3(凝集剤添加処理設備又は酸化剤添加処理設備)からPAC又はNaClOをろ過膜前に添加して被処理水と混合し、バッファータンク7が空にならないように制御した。いずれの場合も被処理水との滞留時間は20分に設定し、凝集剤又は酸化剤の添加量は被処理水中のポリ塩化アルミニウム又は次亜塩素酸ソーダの濃度が20~40mg/Lになるように調整して添加し、バッファータンク7における滞留時間は2分以上とした。このとき、表1にまとめたように、Run1~14で各7日間ずつろ過テストを行い、それぞれのろ過運転条件、前処理条件を設定し、7日間での膜間差圧(TMP)の平均上昇速度を評価した。
【0050】
(比較例)
表1に記載の通り、ろ過運転条件及び前処理条件を設定し、Run15で7日間ろ過テストを行い、7日間での膜間差圧(TMP)の平均上昇速度を評価した。
【0051】
実施例(Run5~12)は、高分子量バイオポリマー濃度が高い時、その濃度に応じて、それぞれ、ろ過運転条件及び、前処理条件の設定条件等を適切に設定することにより、表1に示すようにTMP上昇速度が1kPa/Dayと、低圧で安定的に運転することができた。
実施例(Run13~14)は、高分子量バイオポリマー濃度が低い時、その濃度に応じて、それぞれ、ろ過運転条件及び、前処理条件の設定条件等を高分子量バイオポリマーの濃度が高い時の条件と比較して緩く設定することができたので、低コストで運転することができた。また、表1に示すようにTMP上昇速度は、1kPa/Dayであったため、低圧で安定的に運転することができた。さらに、ろ過膜の目詰まりが生じないことを予見できたため、ろ過流束を上げて運転することができた。
参考例(Run1~4)は、高分子量バイオポリマー濃度が低い時には、その濃度に応じて、それぞれ、ろ過運転条件及び、前処理条件の設定条件等を適切に設定することにより、表1に示すようにTMP上昇速度が1kPa/Dayと、低圧で安定的に運転することができた。
一方、比較例(Run15)は、実施例(Run5~12)と異なり、高分子量バイオポリマー濃度の濃度が高い時、その濃度に応じて、それぞれ、ろ過運転条件及び前処理条件の設定条件等を適切に設定しなかったため、表1に示すようにTMP上昇速度が5kPa/Dayと高圧になり、安定的に運転することができなかった。
【0052】
【表1】
【符号の説明】
【0053】
1 水処理装置
2 前処理設備(凝集沈殿処理設備又は加圧浮上処理設備)
3 前処理設備(凝集剤添加処理設備又は酸化剤添加処理設備)
4 分離膜設備
4-1 中空糸膜モジュール(多孔質分離膜モジュール)
4-1-1 ろ液口
4-1-2 導入口
4-1-3 洗浄用排出口
4-2 エア供給ユニット(コンプレッサ)
4-3 薬品注入ユニット
5 ろ水タンク
6 原水供給ポンプ
7 バッファータンク(被ろ過液タンク)
8 ろ過ポンプ
9 高分子量バイオポリマー測定装置
10 逆洗ポンプ
V1 被ろ過液送液バルブ
V2 ろ液送液バルブ
V3 逆洗用バルブ
V4 洗浄排液ドレインバルブ
V5 洗浄排液排出バルブ
V6 AS用バルブ
V7 排出工程用圧縮空気バルブ
図1