(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024036982
(43)【公開日】2024-03-18
(54)【発明の名称】電子装置および信号処理方法
(51)【国際特許分類】
H04B 1/04 20060101AFI20240311BHJP
H04L 27/00 20060101ALI20240311BHJP
H03F 1/32 20060101ALI20240311BHJP
【FI】
H04B1/04 R
H04L27/00 C
H03F1/32
【審査請求】未請求
【請求項の数】21
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022141574
(22)【出願日】2022-09-06
(71)【出願人】
【識別番号】000003078
【氏名又は名称】株式会社東芝
(71)【出願人】
【識別番号】598076591
【氏名又は名称】東芝インフラシステムズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100120031
【弁理士】
【氏名又は名称】宮嶋 学
(74)【代理人】
【識別番号】100107582
【弁理士】
【氏名又は名称】関根 毅
(74)【代理人】
【識別番号】100118843
【弁理士】
【氏名又は名称】赤岡 明
(74)【代理人】
【識別番号】100118876
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 順生
(72)【発明者】
【氏名】木本 圭優
(72)【発明者】
【氏名】江頭 慶真
(72)【発明者】
【氏名】山口 恵一
(72)【発明者】
【氏名】加藤 貴之
【テーマコード(参考)】
5J500
5K060
【Fターム(参考)】
5J500AA01
5J500AA41
5J500AC21
5J500AF07
5J500AF08
5J500AF17
5J500AF18
5J500AH24
5J500AK34
5J500AK42
5J500AK44
5J500AK46
5J500AK53
5J500AK55
5J500AM13
5J500AS14
5J500AT01
5J500AT07
5J500NG03
5J500NH15
5J500NH17
5J500NH18
5K060BB07
5K060CC04
5K060HH36
5K060KK06
5K060LL24
(57)【要約】
【課題】送信系およびループバック系の少なくとも一方の歪み特性を推定する。
【解決手段】本実施形態に係る電子装置は、第1の信号と第2の信号を生成する信号生成部と、前記第1の信号に第1歪み特性を与えて第1歪み信号を取得し、前記第2の信号に前記第1歪み特性を与えて第2歪み信号を取得する第1特性部と、前記第1歪み信号に、時間に応じて変化する歪み特性である第1時間特性を与えて第3歪み信号を取得し、前記第2歪み信号に、時間に応じて変化する歪み特性である第2時間特性を与えて第4歪み信号を取得する時間特性部と、前記第3歪み信号に第2歪み特性を与えて第5歪み信号を取得し、前記第4歪み信号に前記第2歪み特性を与えて第6歪み信号を取得する第2特性部と、前記第1の信号と前記第2の信号と前記第5歪み信号と前記第6歪み信号とに基づいて、前記第1歪み特性および前記第2歪み特性のうち少なくとも一方を推定する歪推定部と、を備える。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1の信号を生成し、第2の信号を生成する信号生成部と、
前記第1の信号に第1歪み特性を与えて第1歪み信号を取得し、前記第2の信号に前記第1歪み特性を与えて第2歪み信号を取得する第1特性部と、
前記第1歪み信号に、時間に応じて変化する歪み特性である第1時間特性を与えて第3歪み信号を取得し、前記第2歪み信号に、前記第1時間特性と異なる、時間に応じて変化する歪み特性である第2時間特性を与えて、第4歪み信号を取得する第1時間特性部と、
前記第3歪み信号に第2歪み特性を与えて第5歪み信号を取得し、前記第4歪み信号に前記第2歪み特性を与えて第6歪み信号を取得する、第2特性部と、
前記第1の信号と、前記第2の信号と、前記第5歪み信号と、前記第6歪み信号とに基づいて、前記第1歪み特性および前記第2歪み特性のうち少なくとも一方を推定する歪推定部と、
を備える電子装置。
【請求項2】
前記歪推定部は、
前記第1の信号と前記第2の信号と前記第5歪み信号と前記第6歪み信号とに基づく第1の演算により、前記第2歪み特性をキャンセルすることで、前記第1歪み特性を推定する、および、
前記第1の信号と前記第2の信号と前記第5歪み信号と前記第6歪み信号とに基づく第2の演算により、前記第1歪み特性をキャンセルすることで、前記第2歪み特性を推定する、の少なくとも一方を行う、
請求項1に記載の電子装置。
【請求項3】
前記歪推定部は、
前記第2歪み特性がキャンセルされた信号の固有ベクトルに基づいて、前記第1歪み特性を推定する、または、
前記第1歪み特性がキャンセルされた信号の固有ベクトルに基づいて、前記第2歪み特性を推定する、
請求項2に記載の電子装置。
【請求項4】
前記第1歪み特性は、前記第1の信号および前記第2の信号に対して、周波数軸上における線形の歪を生じさせ、
前記第2歪み特性は、前記第3歪み信号および前記第4歪み信号に対して、周波数軸上における線形の歪を生じさせる
請求項1に記載の電子装置。
【請求項5】
前記第1歪み特性は、前記第1の信号および前記第2の信号に対して、周波数軸上においてアフィン変換を行い、
前記第2歪み特性は、前記第3歪み信号および前記第4歪み信号に対して、周波数軸上においてアフィン変換を行う
請求項4に記載の電子装置。
【請求項6】
前記第1歪み特性および前記第2歪み特性のうち少なくとも1つは、IQインバランスを含む
請求項1に記載の電子装置。
【請求項7】
前記第1時間特性は、前記第1歪み信号に対し、位相、振幅、周波数およびインパルス応答のうち少なくとも1つを時間に応じて変化させ、
前記第2時間特性は、前記第2歪み信号に対し、位相、振幅、周波数およびインパルス応答のうち少なくとも1つを時間に応じて変化させる
請求項1に記載の電子装置。
【請求項8】
前記第1歪み特性および前記第2歪み特性は時間に応じて変化し、
前記第1歪み特性および前記第2歪み特性の単位時間当たりの変化量は、前記第1時間特性および前記第2時間特性の単位時間当たりの変化量よりも小さい
請求項1に記載の電子装置。
【請求項9】
前記第1時間特性部は、前記第1時間特性部に入力される信号の位相、振幅、周波数およびインパルス応答のうち少なくとも1つを変化させる複数の機器を含み、
前記第1時間特性部は、時間に応じて前記複数の機器を切り替えることで、前記第1歪み信号に前記第1時間特性を与え、前記第2歪み信号に前記第2時間特性を与える
請求項1に記載の電子装置。
【請求項10】
前記第1時間特性部は、周波数変換器を含み、
前記周波数変換器は、前記第1歪み信号に与える周波数シフト量を時間に応じて変化させることにより前記第1歪み信号に前記第1時間特性を与え、前記第2歪み信号に与える周波数シフト量を時間に応じて変化させることによりに前記第2歪み信号に前記第2時間特性を与え、
前記周波数変換器は、前記第2特性部の一部である、
請求項1に記載の電子装置。
【請求項11】
前記周波数変換器は、ミキサである
請求項10に記載の電子装置。
【請求項12】
前記ミキサは、RF帯域の無線信号をBB帯域に周波数変換する
請求項11に記載の電子装置。
【請求項13】
前記第1時間特性部は、前記ミキサが周波数変換に用いる局所発振信号を生成する局所発振器を含み、前記局所発振器が生成する前記局所発振信号に対して時間に応じて変化する雑音を加算することにより、前記第1歪み信号に前記第1時間特性を与え、かつ、前記第2歪み信号に前記第2時間特性を与える
請求項11に記載の電子装置。
【請求項14】
前記第1時間特性部は、アンプを含み、前記アンプを用いて前記位相、前記振幅、前記周波数および前記インパルス応答のうち少なくとも1つを時間に応じて変化させる
請求項7に記載の電子装置。
【請求項15】
前記第1時間特性部と前記第2特性部との間に、1つ以上の異なる第M特性部(Mは3以上の整数)と、1つ以上の異なる第P時間特性部(Pは2以上の整数)とが少なくとも部分的に交互に設けられ、
前記第1特性部は、前記第1歪み信号と前記第2歪み信号との2つの信号を前記第1時間特性部に出力し、前記第1時間特性部は、前記第3歪み信号と前記第4歪み信号との2つの信号を、前記第1時間特性部の出力側の前記第M特性部に出力し、
前記第M特性部は、前記第M特性部の入力側における前記第1時間特性部または前記第P時間特性部から入力される2つの歪み信号に第M歪み特性を与えて、前記第M特性部の出力側の前記第P時間特性部に出力し、前記第P時間特性部は、前記第P時間特性部の入力側の前記第M特性部から入力される2つの歪み信号に、それぞれ異なる歪み特性であって時間に応じて変化する歪み特性である時間特性を与えて出力側の前記第M特性部または前記第2特性部に出力し、
前記歪み推定部は、1つ以上の異なる前記第P時間特性部および前記第1時間特性部のうち機能を停止させる時間特性部を切り替えることにより、1つ以上の異なる前記第M特性部のうち少なくとも1つの前記第M特性部の前記第M歪み特性を推定する
請求項1に記載の電子装置。
【請求項16】
前記第1特性部および前記第2特性部のうち少なくとも1つは、任意の周波数成分の信号を減衰させる1つ以上のフィルタを含み、前記フィルタにより前記第1歪み特性または前記第2歪み特性を与える
請求項1に記載の電子装置。
【請求項17】
前記第1の信号の周波数帯域は、前記第5歪み信号の周波数帯域と異なり、
前記第2の信号の周波数帯域は、前記第6歪み信号の周波数帯域と異なる
請求項1に記載の電子装置。
【請求項18】
前記第1特性部の出力に接続され、信号の増幅を行うアンプと、
前記第1時間特性部の入力を前記アンプの入力および出力のいずれか一方に選択的に接続する切替器と、を備え、
前記歪推定部は、前記切替器を前記アンプの入力に接続して前記第1歪み特性を推定し、
前記切替器を前記アンプの出力に接続して、前記第1の信号に前記第1歪み特性と前記アンプの特性とが与えられた第7歪み信号と、前記第2の信号に前記第1歪み特性と前記アンプの特性とが与えられた第8歪み信号とを前記第1時間特性部に入力させることにより、前記第1歪み特性と前記アンプの特性との積を推定し、推定した前記積と、推定した前記第1歪み特性とに基づき、前記アンプの特性を推定する
請求項1に記載の電子装置。
【請求項19】
前記歪推定部により推定された第1歪み特性およびアンプの特性に基づいて、前記信号生成部によって生成される第3の信号を補償する歪補償器と、
前記歪み補償器によって補償された前記第3の信号に前記第1特性部によって前記第1歪み特性が与えられかつ前記アンプによって増幅された信号を出力する出力部と、
をさらに備える
請求項18に記載の電子装置。
【請求項20】
前記出力部は、前記信号に基づき電波を送信するアンテナを含む
請求項19に記載の電子装置。
【請求項21】
第1の信号を生成し、第2の信号を生成し、
前記第1の信号に第1歪み特性を与えて第1歪み信号を取得し、前記第2の信号に前記第1歪み特性を与えて第2歪み信号を取得し、
前記第1歪み信号に、時間に応じて変化する歪み特性である第1時間特性を与えて第3歪み信号を取得し、前記第2歪み信号に、前記第1時間特性と異なる、時間に応じて変化する歪み特性である第2時間特性を与えて、第4歪み信号を取得し、
前記第3歪み信号に第2歪み特性を与えて第5歪み信号を取得し、前記第4歪み信号に前記第2歪み特性を与えて第6歪み信号を取得し、
前記第1の信号と、前記第2の信号と、前記第5歪み信号と、前記第6歪み信号とに基づいて、前記第1歪み特性および前記第2歪み特性のうち少なくとも一方を推定する
信号処理方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、電子装置および信号処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
無線通信を行う送信機において、送信系から送信される一部の信号は送信信号の歪補償などを目的としてループバック(LB)信号としてループバックされる。ループバックさされる信号(LB信号)は、LB信号専用の受信系の回路を通って取得される。そのため、取得されたLB信号には、送信系の回路の周波数特性(送信系の歪み特性)に加え、LB系の回路の周波数特性(LB系の歪み特性)が含まれている。
【0003】
セルラーネットワークまたはテレビ放送などにおいて、より広帯域かつ安定した通信が求められている。広帯域な通信システムの場合、無線通信を行う送信機において、送信系周波数特性によって生じる歪を無視できない。しかしながら、この歪を推定および補償するためにLB信号を用いても、送信系の歪み特性とLB系の歪み特性の積は推定されるが、それぞれの歪み特性は個別に推定できなかった。
【0004】
また、広帯域の通信システムでは一般的にパワーアンプ(PA)が用いられるが、PAは経時的に信号を歪ませるため、安定的に歪補償を行うためには、PAからの出力(PA出力)をループバックし、歪補償状況を監視しながら歪補償を行う必要がある。歪補償状況を監視するためには、正確なPA出力を推定する必要がある。正確なPA出力を推定するためにも、送信系の歪み特性とLB系の歪み特性とを個別に分離して推定する必要がある。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】Y. Ma,et al.,“Test Bed for Characterization and Predistortion of Power Amplifiers” ,International Journal of RF and Microwave Computer-Aided Engineering 23(1):74-82
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の実施形態は、送信系およびループバック系の少なくとも一方の歪み特性を推定することを可能にする電子装置および信号処理方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本実施形態に係る電子装置は、第1の信号を生成し、第2の信号を生成する信号生成部と、前記第1の信号に第1歪み特性を与えて第1歪み信号を取得し、前記第2の信号に前記第1歪み特性を与えて第2歪み信号を取得する第1特性部と、前記第1歪み信号に、時間に応じて変化する歪み特性である第1時間特性を与えて第3歪み信号を取得し、前記第2歪み信号に、前記第1時間特性と異なる、時間に応じて変化する歪み特性である第2時間特性を与えて、第4歪み信号を取得する時間特性部と、前記第3歪み信号に第2歪み特性を与えて第5歪み信号を取得し、前記第4歪み信号に前記第2歪み特性を与えて第6歪み信号を取得する、第2特性部と、前記第1の信号と、前記第2の信号と、前記第5歪み信号と、前記第6歪み信号とに基づいて、前記第1歪み特性および前記第2歪み特性のうち少なくとも一方を推定する歪推定部と、を備える。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】第1実施形態に係る信号処理装置のブロック図。
【
図2】第1実施形態に係る信号処理装置の別の表現を示すブロック図。
【
図3】第1実施形態に係る信号処理装置の変形例を示すブロック図。
【
図4】第1実施形態に係る信号処理装置の別の変形例を示すブロック図。
【
図5】第1実施形態に係る信号処理装置が行う処理を説明するフローチャート。
【
図6】第2実施形態に係る信号処理装置のブロック図。
【
図7】第3実施形態に係る信号処理装置のブロック図。
【
図8】第3実施形態に係る信号処理装置の変形例を示すブロック図。
【
図9】第3実施形態に係る信号処理装置が行う処理を説明するフローチャート。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、図面を参照しながら、本発明の実施形態について説明する。
【0010】
(第1実施形態)
図1は第1実施形態に係る電子装置として信号処理装置1を示すブロック図である。信号処理装置1は、信号生成部2と、送信信号処理部3と、時間特性部4と、LB信号処理部5と、歪推定部6と、歪補償部7と、出力部8を備える電子装置である。第1実施形態では、信号の帯域に拘らず、送信信号処理部3に固有の周波数特性(送信系の歪み特性)を推定する。
【0011】
本実施形態では、信号を周波数軸上および/または時間軸上で歪ませる要因を「特性」または「歪み特性」という。また、本実施形態では、信号に何らかの特性を与えることによって、信号を歪ませ(信号に歪を生じさせ)、歪んだ信号を出力する機能を有する要素を「特性部」という。「信号に特性を与える」ことは、例えば信号に特性に応じて定義される行列または値を乗算することによってモデル化できる。送信信号処理部3、時間特性部4およびLB信号処理部5はいずれも本実施形態において特性部に相当する。
【0012】
図2は、送信信号処理部3、時間特性部4およびLB信号処理部5をそれぞれ特性部として見たときの信号処理装置1のブロック図である。第1特性部3は、送信信号処理部3に対応し、第2特性部5は、LB信号処理部5に対応し、時間特性部4は分離特性部4に対応する。つまり、第1実施形態では、第1特性部3は信号の送信のために要素31~33により種々の処理を行う送信信号処理部3に対応し、第2特性部5はLB信号の取得のために要素51~53により種々の処理を行うLB信号処理部5に対応する。分離特性部4は、本実施形態に係る特徴となる時間的に変化する歪み特性を与える処理を行うことで送信系の歪み特性とループバック系の歪み特性とを分離して推定することを可能にする時間特性部4に対応する。
【0013】
信号生成部2、送信信号処理部(第1特性部)3、時間特性部(分離特性部)4、LB信号処理部(第2特性部)5、歪推定部6、歪補償部7、出力部8のうち少なくとも一部はASIC(application specific integrated circuit)、FPGA(Field-Programmable Gate Array)等の回路またはプロセッサにより構成されていてもよい。あるいはこれらの要素のうちの一部または全部が、プログラムを実行するCPUによって実行されてもよい。
【0014】
信号生成部2は、信号(デジタル信号)X1および信号(デジタル信号)X2を含む信号を生成する。信号X1と信号X2は、異なる時間の信号である。信号生成部2は、時間経過によって信号X1と信号X2の出力を切り替えてもよい。信号生成部2は、1つの信号を信号X1と信号X2に分けてもよい。以下、信号X1と信号X2を区別する必要がない場合、信号X1と信号X2を単に信号Xと記載する場合がある。信号X1および信号X2はそれぞれ、本実施形態に係る第1の信号および第2の信号の一例である。
【0015】
信号Xは、数式1に示されるようなN×M行列で表される。Nが時間方向、Mが系列方向の数である。行列Xに含まれる1つの要素は1つの信号を表す。信号Xはある帯域幅を有し、行列Xの1つの列は当該帯域幅を有する信号の時間変化を表す。すなわち、行列Xの1つの列は、時間に応じて変化する信号をN個含む。信号Xは、このように時間方向に変化するN個の信号のセットを、系統方向に複数(M個)含む。信号Xに含まれる列数が増えると後述する歪推定部6が行う処理におけるSN比が向上する。信号X1と信号X2は互いに異なる行列X1、行列X2で表される信号でもよいし、同じ行列Xで表される信号でもよい。互いに異なる行列X1と行列X2は、行数が等しい必要があるが、列数(信号数)は異なっていてもよい。
【0016】
【0017】
送信信号処理部3は、
図1に示されるように、D/Aコンバータ31、変調器32およびミキサ33を備える。D/Aコンバータ31は、信号Xをデジタル信号からアナログ信号に変換する。変調器32は、信号Xを変調する。ミキサ33は、局所発振器(図示せず)によって生成される局所発振信号を用いて、信号Xをベースバンド(BB)帯域からRF(Radio Frequency)帯域に周波数変換(アップコンバージョン)する。ミキサ33は、例えば、信号XをKu帯へ周波数変換する。
【0018】
送信信号処理部3が信号Xに上記の処理を行う際、送信信号処理部3が備える要素31~33に起因する送信系周波数特性が、信号Xを歪ませる。つまり、送信信号処理部3を特性部として捉えた場合、送信信号処理部3は、信号生成部2によって生成された信号Xに送信系周波数特性(第1特性または第1歪み特性)H
tを与え、信号H
tXを出力する第1特性部3(
図2参照)として機能する。
【0019】
第1特性Htは、N×N行列で表される。第1特性Htは、信号に対して、周波数軸上においてアフィン変換を行うものである。つまり、第1特性Htは、信号に、周波数軸上における線形の歪を生じさせる。例えば、第1特性Htには、直流成分のノイズであるDCオフセットが含まれ得る。第1特性Htは、変調器32のIQインバランスであってもよい。
【0020】
送信信号処理部3から出力された信号の一部は帰還(ループバック)され、時間特性部4に入力される。
【0021】
送信信号処理部3から出力された信号の残りの部分は、出力部8に入力される。出力部8は、送信信号処理部3によって処理された信号を出力(送信)する。出力部8は、例えばアンテナ、またはアンテナを含む回路である。
【0022】
時間特性部4(分離特性部4)は、
図1に示されるように、ミキサ等の周波数変換器41と分離特性切替部42を備えている。周波数変換器41は特性Dを生成する。特性Dは、送信系の歪み特性とループバック系の歪み特性とを分離して取得可能にするためのものであり、この目的に鑑みて、以下では、特性Dのことを“分離特性D”と記載する。
【0023】
分離特性切替部42は周波数変換器41が生成する分離特性Dを、分離特性Dpと分離特性Dqとに切り替える。分離特性切替部42は、時刻によって分離特性Dpと分離特性Dqを切り替える。以下、分離特性Dpと分離特性Dqを区別する必要がない場合、分離特性Dpと分離特性Dqを単に分離特性Dと記載する場合がある。分離特性は、経時的に変化する歪み特性であり、時間特性とも記載される。この場合、例えば分離特性Dpは第1時間特性、分離特性Dqは第2時間特性に対応する。
【0024】
時間特性部4(分離特性部4)は、第1特性部3から出力された信号HtX1(第1歪み信号)および信号HtX2(第2歪み信号)のそれぞれに、分離特性Dpおよび分離特性Dqを乗算して、信号DpHtX1および信号DqHtX2を出力する特性部である。
【0025】
分離特性Dpおよび分離特性Dqはそれぞれ、本実施形態に係る第1分離特性(第1時間特性)および第2分離特性(第2時間特性)の一例である。信号DpHtX1および信号DqHtX2はそれぞれ、本実施形態に係る第3歪み信号および第4歪み信号の一例である。
【0026】
分離特性Dは、N×Nの対角行列で表され、時間に応じて変化する。つまり、D=diag[d1,d2,d3,・・・,dN]であり、DpとDqの要素をそれぞれd{p,n}、d{q,n}と表すと、DpとDqの要素ごとの商d{q,n}/d{p,n}(後述のDq-p)のうち少なくとも2つは互いに異なっている。他の要素と異なっている(ユニークな)要素の数は求めたい周波数特性(第1特性および/または第2特性)の分解能に対応する。また、分離特性Dは、入力信号に依存しない。分離特性Dpおよび分離特性Dqは、直交関係であることが望ましい。
【0027】
周波数変換器41が生成する分離特性Dpおよび分離特性Dqの一例は、数式2,3のように示される。
【0028】
【0029】
fsはDAC31およびADC51のサンプリング周波数である。ここではDAC31及びADC51のサンプリング周波数は同一としているが、必ずしも一致している必要はない。周波数変換器41は、例えば、信号Xに与える周波数シフト量を2Δf,4Δf,6Δf,・・・と時間に応じて変化させる。分離特性切替部42は、周波数変換器41の周波数シフト量の単位ΔfをΔf1とΔf2(Δf1≠Δf2)とで切り替えることで、分離特性Dpおよび分離特性Dqを生成する。
【0030】
また、後述するが、Dp
-1DqをDq-pと表し、分離特性Dq-pと記載する。分離特性Dq-pは、数式4のように表される。
【0031】
【0032】
LB信号処理部5は、
図1に示されるように、例えば、A/Dコンバータ51、復調器52およびミキサ53を備える。ミキサ53は、局所発振器により生成される局所発振信号を用いて、信号DH
tXをRF帯域からBB帯域に周波数変換(ダウンコンバージョン)する。復調器52は、周波数変換された信号DH
tXを復調する。A/Dコンバータ51は、復調された信号DH
tXをアナログ信号からデジタル信号に変換する。
【0033】
LB信号処理部5が信号DH
tXに上記の処理を行う際、LB信号処理部5が備える要素51~53に起因するLB系周波数特性が、信号DH
tXを歪ませる。つまり、LB信号処理部5を特性部として捉えた場合、LB信号処理部5は、信号DH
tXにLB系周波数特性(第2特性または第2歪み特性)H
rを与え、信号H
rDH
tXを出力する第2特性部5(
図2参照)として機能する。
【0034】
第2特性Hrは、N×N行列で表される。第2特性Hrは、信号に対して、周波数軸上においてアフィン変換を行うものである。つまり、第2特性Hrは、信号に、周波数軸上における線形の歪を生じさせる。例えば、第2特性Hrには、直流成分のノイズであるDCオフセットが含まれ得る。第2特性Hrは、復調器52のIQインバランスであってもよい。
【0035】
送信信号処理部3および/またはLB信号処理部5は、任意の周波数成分の信号を減衰させるフィルタ(図示せず)またはその他の追加の素子を備えていてもよい。フィルタは、例えば、ノイズの除去および歪推定部6の処理負荷の低減などを目的として配置される。フィルタは、例えば、ローパスフィルタ、バンドパスフィルタ、ハイパスフィルタ、オールパスフィルタおよびアンチエイリアシングフィルタ等のLTI(Liner time-invariant)フィルタである。
【0036】
歪推定部6は、LB信号処理部5から、信号Z1(=HrDpHtX1)および信号Z2(=HrDqHtX2)を取得する。信号Z1(=HrDpHtX1)は第5歪み信号、信号Z2(=HrDqHtX2)は第6歪み信号に対応する。
【0037】
歪推定部6は、信号X1、信号X2、信号Z1および信号Z2に基づく第1演算により第2特性Hrをキャンセルすることで第1特性Ht(第1歪み特性)を推定する。歪推定部6は、信号X1、信号X2、信号Z1および信号Z2に基づく第2演算により第1特性Htをキャンセルすることで第2特性Hr(第2歪み特性)を推定する。歪推定部6は、例えば、最小二乗法を用いて以下の計算を行う。以下、信号Z1と信号Z2を区別する必要がない場合、信号Z1と信号Z2を単に信号Zと記載する場合がある。
【0038】
歪推定部6は、信号Z
1および信号Z
2から、例えば、
を計算し、数式5のような式を得る。
【0039】
【0040】
数式5を参照すると、第2特性Hrがキャンセルされている。Dq-pは対角行列なので、例えば、Ht
-1Dq-pHt=Aとおくと、第1特性HtはAの固有ベクトルとして推定される。このとき、分離特性Dが既知である必要はない。
【0041】
また、歪推定部6は、信号Z
1および信号Z
2から第1特性H
tをキャンセルすることで第2特性H
rを推定してもよい。歪推定部6は、例えば、
を計算し、数式6のような式を得る。
【0042】
【0043】
数式6を参照すると、第1特性Htがキャンセルされている。Dq-pは対角行列なので、例えば、HrDq-pHr
-1=Bとおくと、第2特性HrはBの固有ベクトルとして推定される。このとき、分離特性Dが既知である必要はない。なお、各特性の導出の式は上記の式4,式5に限られない。
【0044】
なお、歪推定部6が行う処理において、LB信号処理部5がフィルタを備える場合、信号Xと信号Zでは周波数帯域が変化するが、信号Xの周波数帯域と信号Zの周波数帯域は異なっていてもよい。
【0045】
第1特性Htおよび第2特性Hrは、温度変化等によって時間に応じて変化し得る。しかし、この場合も、第1特性Htおよび第2特性Hrの単位時間当たりの変化量は、分離特性Dの単位時間当たりの変化量よりも小さい。そのため、第1特性Htおよび第2特性Hrは、分離特性Dが変化するタイムスケールにおいては時不変として扱うことができる。
【0046】
第1特性Htおよび第2特性Hrは、信号処理装置1の作動中に一定の時間間隔(頻度)で推定されてもよいし、信号処理装置1の工場出荷時に一回推定されてもよい。推定された第1特性Htおよび第2特性Hrの少なくとも一方は、歪補償部7からアクセス可能なメモリ等の記憶装置に記憶されてもよい。
【0047】
歪補償部7は、歪推定部6が推定した第1特性Htに基づいて、信号生成部2によって生成されたデジタル信号を前もって補償するデジタルプリディストーション(Digital Predistortion:DPD)を行う。具体的には、歪補償部7は、信号生成部2によって生成されたデジタル信号に、第1特性Htの逆行列を乗算する処理を行う。これにより高い精度で歪み補償された信号を出力部8から出力することができる。
【0048】
(変形例1)
上記の説明では、分離特性部4が周波数変換器41を備えている場合について説明したが、
図3に示されるように、第2特性部5が備えるミキサ53が、時間特性部4(分離特性部)に含まれていてもよい。ミキサ53が時間特性部4に含まれる場合、ミキサ33が与える特性H
upおよびミキサ53が与える分離特性D
downは数式7および数式8のように表される。特性H
upは信号に対して周波数軸上において線形の歪を生じさせる。
【0049】
【0050】
f0はミキサ33によるアップコンバージョンにおける周波数シフト量である。fsはミキサ33およびミキサ53のサンプリング周波数である。Δfはミキサ53が与える周波数シフト量の調整量である。分離特性切替部42は、ミキサ53の周波数シフト量の調整量ΔfをΔf1とΔf2とで切り替えることで、数式2および数式3と同様の分離特性Dpおよび分離特性Dqを生成する。
【0051】
分離特性(時間特性)は、入力された信号に対し、入力された信号の位相、振幅、周波数およびインパルス応答のうち少なくとも1つを時間に応じて変化させるものであれば、いかなる特性であってもよい。
【0052】
(変形例2)
または、時間特性部4(分離特性部)は、
図4に示されるように、機器切替部43と複数の機器44_1~44_mを備えていてもよい。1つの任意の機器44と表す。1つの機器44は、入力された信号に対し、入力された信号の位相、振幅、周波数およびインパルス応答のうち少なくとも1つを変化させる。全ての機器44が同一の機能を有していなくてもよい。例えば、入力された信号の位相を変化させる機器44と、入力された信号の振幅を変化させる機器44が混在していてもよい。機器切替部43は、入力された信号に作用させる機器44を時間的に切り替え、選択した機器44に入力された信号を出力する。機器切替部43は、例えばマルチプレクサまたはデバイダ等である。
図4の構成では入力された信号を機器切替部43によって選択された1つの機器44に出力したが、入力された信号を機器44_1~44_mのすべてに出力し、機器切替部43は機器44_1~44_mから出力される信号のうちの1つを選択してもよい。この場合、例えば機器切替部43は機器44_1~44_mとLB信号処理部5との間に位置していてもよい。
【0053】
時間特性部4は、機器切替部43によって、作用させる機器44を時間的に切り替えることによって、入力された信号に分離特性を与える。また信号XがN×M行列で表現されるため、機器切替部43は、機器44の切替をN回行う必要があるが、同一の機器44を複数回選択してもよい。つまり、機器44がN個ある必要はない。
【0054】
時間特性部4は、周波数変換に用いられる局所発振器により生成される局所発振信号に対して、時間に応じて変化する雑音を加算する機器を備えていてもよい。時間特性部4は、入力された信号の振幅を時間に応じて変化させるアンプ(可変利得アンプ)を備えていてもよい。時間特性部4は、入力された信号を増幅し、増幅の際に信号を時間的に歪ませるパワーアンプを備えていてもよい。
【0055】
時間特性部4が与える分離特性が、入力された信号の周波数以外を時間に応じて変化させるものである場合、分離特性切替部42は、1つの分離特性を時間的に2つに分けて分離特性Dpと分離特性Dqとしてもよい。
【0056】
図5は、信号処理装置1が行う処理を説明するフローチャートである。以下、
図5を参照しながら、信号処理装置1が行う処理を説明する。
【0057】
まず、信号生成部2が信号X1(第1の信号)を生成する(ステップS11)。
【0058】
次に、第1特性部3が、信号X1に第1特性Ht(第1歪み特性)を与え、信号HtX1(第1歪み信号)を出力する(ステップS12)。
【0059】
次に、時間特性部4(分離特性部)が、信号HtX1に、分離特性Dp(第1時間特性)を与え、信号DpHtX1(第3歪み信号)を出力する(ステップS13)。
【0060】
次に、第2特性部5が、信号DpHtX1に第2特性Hr(第3歪み特性)を与え、信号HrDpHtX1(第5歪み信号)を出力する(ステップS14)。
【0061】
次に、信号生成部2が信号X2(第2の信号)を生成し、各要素が信号X1に施した処理と同様の処理を行う(ステップS11’~S14’)。このとき、時間特性部4が分離特性Dpを分離特性Dq(第2時間特性)に切り替えている。なお、ステップS11’~S14’ のうちのいずれかのステップはステップS11~S14のうちのいずれかのステップと並行して行われてもよい。
【0062】
次に、歪推定部6は、信号X1、信号X2、信号Z1=HrDpHtX1(第5歪み信号)および信号Z2=HrDqHtX2(第6歪み信号)に基づく第1演算により、第2特性Hrをキャンセルすることで第1特性Htを推定する(ステップS15)。
【0063】
次に、歪補償部7は、歪推定部6によって推定された第1特性Htに基づいて、信号生成部2が生成する信号を前もって補償する(ステップS16)。
【0064】
以上、第1実施形態によれば、信号の帯域に拘らず、第1特性(送信系周波数特性、第1歪み特性)を分離して推定することができる。推定された第1特性に基づいて、信号生成部が生成する信号を補償することで歪みの少ないまたは無い信号を出力することができる。また、第1実施形態によれば、信号の帯域に拘らず、第2特性(ループバック系周波数特性、第2歪み特性)を分離して推定することができる。また、第1実施形態によれば、信号の帯域に拘らず、第1特性と第2特性の両方を分離して推定することができる。
【0065】
(第2実施形態)
図6は、本実施形態に係る電子装置として信号処理装置1Aのブロック図である。上述した第1実施形態における
図1と同じ名称または機能の要素には同じ符号を付している。以後、変更または追加された事項を除き説明を省略する。
【0066】
信号処理装置1Aは、n個(n≧3)の特性部20_1~20_nを備える。説明の便宜上、信号の経路に沿って、信号生成部2に近い方を「前」、歪推定部6に近い方を「後」と記載する。以下、n個の特性部のうち、前から数えてi番目の特性部を特性部20_i(i=1~n)と記載する。一例として特性部20_1は
図2の第1特性部3、特性部20_nは
図2の第2特性部5、その他の特性部20_2、20_3・・・は、互いに異なる1つ以上の第M特性部(Mは3以上の整数)に対応する。
【0067】
また複数の時間特性部4_1~4_n-1が設けられている。時間特性部4_1は、
図1の時間特性部4(第1時間特性部)に対応する。時間特性部4_2、4_3・・・は、互いに異なる1つ以上の第P時間特性部(Pは2以上の整数)に対応する。
【0068】
1つ以上の第M特性部と1つ以上の第P時間特性部とは、時間特性部4_1(
図1の時間特性部4に対応)と特性部20_n(
図2の第2特性部5に対応)との間に少なくとも部分的に交互に設けられている。
【0069】
また、
図6に図示されていないが、出力部8は何れかの特性部20_iの後に配置されている。
【0070】
特性部20_iは、特性部20_iの入力側の任意の時間特性部から入力された信号、より詳細には、時間に応じて入力される2つの信号(歪み信号)に特性Hi(歪み特性)与え、出力側の時間特性部(分離特性部)に出力する。但し、特性部20_1の場合は信号生成部2から信号(第1の信号、第2の信号)が入力される。特性Hiは、入力された信号に対して、周波数軸上においてアフィン変換を行うものである。つまり、特性Hiは、信号に対して、周波数軸上における線形の歪を生じさせる。例えば、特性Hiには、直流成分のノイズであるDCオフセットが含まれる。特性Hiは、前述のIQインバランスであってもよい。第P時間特性部は、入力側の任意の特性部から入力される2つの信号(歪み信号)に互いに異なる分離特性(時間特性)を与え、出力側の第M特性部または最終段の特性部(特性部20_n)に出力する。
【0071】
第1実施形態では、信号に線形の歪を生じさせる特性部は第1特性部3と第2特性部5の2つであったが、第2実施形態では、信号に線形の歪を生じさせる特性部が3個以上存在する。つまり第1特性部3と第2特性部5以外に1個以上の特性部(時間特性部すなわち分離特性部は除く)が存在する。第2実施形態では、任意の特性部20_iの特性Hiを推定する。
【0072】
本例では特性部20_1は
図2の第1特性部3に対応し、特性部20_nは
図2の第2特性部5に対応する場合を想定するが、これに限定されない。例えば、第1特性部3が備える要素31~33をそれぞれ特性部20_1~20_3と扱ってもよい。または、特性部20_iは、要素2~6の任意の要素間に配置されたフィルタなどの追加の素子でもよい。
【0073】
以下、特性部20_iの後に存在する分離特性部を分離特性部4_iと記載する。分離特性部4_iは、入力された信号に分離特性Diを乗算する。
【0074】
分離特性部4_iは少なくとも特性を推定したい所望の特性部20_i(特性部20_1および特性部20_nを除く)の前後に配置されていればよい。つまり、分離特性部4_iは必ずしもn-1個存在するわけではない。例えば、特性部20_4の特性H4を推定する必要が無い場合、分離特性部4_3,4_4は配置されていなくてもよい。ただし、特性部20_5の特性H5を推定する必要がある場合、少なくとも分離特性部4_4は配置される必要がある。
【0075】
歪推定部6は、第1実施形態と同様に、各特性部20_iの特性を推定する。一例としてn=3のときの歪推定部6の処理を説明する。以降の説明は、n≧4の場合にも成立する。n=3のとき、Z=H3D2H2D1H1Xである。
【0076】
まず、分離特性部4_1が、分離特性D
1をD
p/D
qと切り替える。これにより、歪推定部6は、信号Z
1および信号Z
2を取得し、
を計算し、数式9のような式を得る。
【0077】
【0078】
式9から、特性H1が推定される。
【0079】
次に、分離特性部4_2が、分離特性D
2をD
p/D
qと切り替える。これにより、歪推定部6は、信号Z
1および信号Z
2を取得し、
を計算し、数式10のような式を得る。
【0080】
【0081】
式10から、特性H3が推定される。
【0082】
次に、歪推定部6は、分離特性部4_1の分離特性(時間特性)を与える機能を停止させ、分離特性部4_2が、分離特性D
2をD
p/D
qと切り替えて、歪推定部6が信号Z
1および信号Z
2を取得する。そして、歪推定部6は、既に推定された特性H
1を用いて、
を計算し、数式11のような式を得る。分離特性部4_1は機能していないので、分離特性D
1は単なる単位行列となる。
【0083】
【0084】
式11から、特性H2が推定される。なお、歪推定部6が特性H1~H3を推定する順番は上記の順番に限られない。例えば、歪推定部6は、特性H1または特性H3を推定した時点で、特性H2を推定してもよい。また、各特性の導出の式は上記の式に限られない。
【0085】
以上のように、まず最初に特性H1または特性Hnが推定される。その後は、既知の特性Hiに基づいて、芋づる式に全ての特性Hiが推定される。
【0086】
以上、第2実施形態によれば、特性部が3個以上ある場合でも、任意の特性部の特性を推定することができる。
【0087】
(第3実施形態)
図7は、第3実施形態に係る電子装置として信号処理装置1Bのブロック図である。上述した第1実施形態における
図1と同じ名称または機能の要素には同じ符号を付している。信号処理装置1Bは、第1実施形態に係る信号処理装置1に加えて、アンプとしてパワーアンプ(PA)9を備え、さらに切替部10を備える。以後、変更または追加された事項を除き説明を省略する。第3実施形態では、PAを備える場合のDPDを実行する。
【0088】
PA9および切替部10のうち少なくとも一部はASIC(application specific integrated circuit)、FPGA(Field-Programmable Gate Array)等の回路またはプロセッサにより構成されていてもよい。あるいはこれらの要素のうちの一部または全部が、プログラムを実行するCPUによって実行されてもよい。
【0089】
PA9は、入力された信号を増幅する。PA9は、例えば、窒化ガリウム(GaN)により構成された化合物半導体増幅器である。PA9は、信号を増幅する際に、信号にPA特性HPAを与え、信号を歪ませる。
【0090】
切替部10は、PA9からの出力を帰還させるか否かを切り替える。切替部10は、スイッチを備えており、スイッチによって接続を切り替える。スイッチはPA9の入力側および出力側に接続を切替可能である。
【0091】
切替部10は、まず、PA9からの出力を帰還させないようにPA9の入力側に接続を切り替える。この状態において、第1実施形態と同様に、歪推定部6が第1特性Htを推定する。
【0092】
切替部10は、次に、PA9からの出力を帰還させるようにPA9の出力側に接続を切り替える。この状態において、歪推定部6は、第1特性HtとPA特性HPAの積を推定する。
【0093】
PA9からの出力を帰還させた場合、第1の信号X
1に第1特性部3の第1歪み特性とPA9の特性とが与えられた信号H
PAH
tX
1(第7歪み信号)が時間特性部(分離特性部)4に入力される。また、第2の信号X
2に第1特性部3の第1歪み特性とPA9の特性とが与えられた信号H
PAH
tX
2(第8歪み信号)が時間特性部(分離特性部)4に入力される。
そして、歪推定部6は、LB信号処理部5から、信号Z
1(=H
rD
pH
PAH
tX
1)および信号Z
2(=H
rD
qH
PAH
tX
2)を取得する。歪推定部6は、信号Z
1および信号Z
2から、例えば、
を計算し、数式12のような式を得る。
【0094】
【0095】
式12から、第1特性HtとPA特性HPAの積が推定される。そして、歪推定部6は、第1特性Htおよび第1特性HtとPA特性HPAの積から、PA特性HPAを推定する。
【0096】
歪補償部7は、歪推定部6によって推定された第1特性HtおよびPA特性HPAに基づいて、信号生成部2によって生成された信号(第3の信号)を前置補償する、DPDを実行する。具体的には、歪補償部7は、信号生成部2によって生成されたデジタル信号に、第1特性Htの逆行列およびPA特性HPAの逆行列を乗算する処理を行う。なお、信号生成部2によって生成される信号はデジタル信号である。
【0097】
歪補償部7は、信号処理装置1Bの作動中にリアルタイム且つ一定頻度でPA特性HPAを補償することが望ましい。PA特性HPAの推定のためには第1特性Htの推定が必要であるが、第1特性Htの時間的変化は比較的緩慢なため、第1特性Htの推定はPA特性HPAの推定ほど高頻度で行われる必要はない。その場合、例えば、信号処理装置1Bの作動中に、歪推定部6は、時間的変化が比較的緩慢な第1特性Htの推定頻度を下げる(あるいは推定しない)ことで、歪推定部6が行う処理負荷を低減してもよい。
【0098】
出力部8は、PA9が増幅した信号を出力(送信)する。すなわち、出力部8は、歪補償部7によって補償された信号(第3の信号)に第1特性部によって第1歪み特性が与えられかつPA9によって増幅された信号を出力する。出力部8がアンテナを含む場合、出力部8は、PA9によって増幅された信号に基づき電波を空間に放射する。
【0099】
(変形例)
図8は、第3実施形態の変形例を示す。上記の説明では、PA9と分離特性部4を別個に用意していたが、既述のように、PA9を分離特性部としてもよい。PA9は、信号を増幅する際に、信号にPA特性H
PAを与える。PA特性H
PAは、N×Nの対角行列で表され、時間に応じて変化する。PA特性H
PAの単位時間当たりの変化量は、第1特性H
tおよび第2特性H
rの単位時間当たりの変化量よりも大きい。PA特性H
PAは、入力信号に依存しない。そのため、PA特性H
PAは分離特性Dとしても作用する。
【0100】
例えば、歪推定部6は、まず、PA特性HPAを分離特性Dとして扱い、第1特性Htおよび第2特性Hrを推定する。そして、歪推定部6は、次に、第1特性Ht、第2特性HrおよびPA特性HPAが乗算された信号から、第1特性Ht、第2特性Hrをキャンセルすることで、PA特性HPAを推定する。このように歪推定部6が処理を行うことで、分離特性部4を新たに追加する必要がなく、より簡単な構成でDPDが達成される。
【0101】
図9は、信号処理装置1Bが行う処理を説明するフローチャートである。以下、
図9を参照しながら、信号処理装置1Bが行う処理を説明する。
【0102】
まず、切替部10が、PA9からの出力を帰還させないようにPA9の入力側に接続を切り替え、歪推定部6が第1特性Htを推定する(ステップS21)。ステップS21は、ステップS11~S15を含む。
【0103】
次に、切替部10が、PA9からの出力を帰還させるようにPA9の出力側に接続を切り替え、歪推定部6が第1特性HtとPA特性HPAの積を推定する(ステップS22)。
【0104】
次に、歪推定部6が、第1特性Htおよび第1特性HtとPA特性HPAの積に基づいて、PA特性HPAを推定する(ステップS23)。
【0105】
次に、歪補償部7が、推定された第1特性HtおよびPA特性HPAに基づいて、信号生成部2が生成するデジタル信号を補償するDPDを実行する(ステップS24)。
【0106】
以上、第3実施形態によれば、信号の帯域に係らず、パワーアンプのためのDPDを行うことができる。
【0107】
なお、本発明は上記各実施形態そのままに限定されるものではなく、実施段階ではその要旨を逸脱しない範囲で構成要素を変形して具体化できる。また、上記各実施形態に開示されている複数の構成要素を適宜組み合わせることによって種々の発明を形成できる。また例えば、各実施形態に示される全構成要素からいくつかの構成要素を削除した構成も考えられる。さらに、異なる実施形態に記載した構成要素を適宜組み合わせてもよい。
【0108】
なお、本実施形態は以下のような構成を取ることもできる。
[項目1]
第1の信号を生成し、第2の信号を生成する信号生成部と、
前記第1の信号に第1歪み特性を与えて第1歪み信号を取得し、前記第2の信号に前記第1歪み特性を与えて第2歪み信号を取得する第1特性部と、
前記第1歪み信号に、時間に応じて変化する歪み特性である第1時間特性を与えて第3歪み信号を取得し、前記第2歪み信号に、前記第1時間特性と異なる、時間に応じて変化する歪み特性である第2時間特性を与えて、第4歪み信号を取得する第1時間特性部と、
前記第3歪み信号に第2歪み特性を与えて第5歪み信号を取得し、前記第4歪み信号に前記第2歪み特性を与えて第6歪み信号を取得する、第2特性部と、
前記第1の信号と、前記第2の信号と、前記第5歪み信号と、前記第6歪み信号とに基づいて、前記第1歪み特性および前記第2歪み特性のうち少なくとも一方を推定する歪推定部と、
を備える電子装置。
[項目2]
前記歪推定部は、
前記第1の信号と前記第2の信号と前記第5歪み信号と前記第6歪み信号とに基づく第1の演算により、前記第2歪み特性をキャンセルすることで、前記第1歪み特性を推定する、および、
前記第1の信号と前記第2の信号と前記第5歪み信号と前記第6歪み信号とに基づく第2の演算により、前記第1歪み特性をキャンセルすることで、前記第2歪み特性を推定する、の少なくとも一方を行う、
項目1に記載の電子装置。
[項目3]
前記歪推定部は、
前記第2歪み特性がキャンセルされた信号の固有ベクトルに基づいて、前記第1歪み特性を推定する、または、
前記第1歪み特性がキャンセルされた信号の固有ベクトルに基づいて、前記第2歪み特性を推定する、
項目2に記載の電子装置。
[項目4]
前記第1歪み特性は、前記第1の信号および前記第2の信号に対して、周波数軸上における線形の歪を生じさせ、
前記第2歪み特性は、前記第3歪み信号および前記第4歪み信号に対して、周波数軸上における線形の歪を生じさせる
項目1~3のいずれか一項に記載の電子装置。
[項目5]
前記第1歪み特性は、前記第1の信号および前記第2の信号に対して、周波数軸上においてアフィン変換を行い、
前記第2歪み特性は、前記第3歪み信号および前記第4歪み信号に対して、周波数軸上においてアフィン変換を行う
項目4に記載の電子装置。
[項目6]
前記第1歪み特性および前記第2歪み特性のうち少なくとも1つは、IQインバランスを含む
項目1~5のいずれか一項に記載の電子装置。
[項目7]
前記第1時間特性は、前記第1歪み信号に対し、位相、振幅、周波数およびインパルス応答のうち少なくとも1つを時間に応じて変化させ、
前記第2時間特性は、前記第2歪み信号に対し、位相、振幅、周波数およびインパルス応答のうち少なくとも1つを時間に応じて変化させる
項目1~6のいずれか一項に記載の電子装置。
[項目8]
前記第1歪み特性および前記第2歪み特性は時間に応じて変化し、
前記第1歪み特性および前記第2歪み特性の単位時間当たりの変化量は、前記第1時間特性および前記第2時間特性の単位時間当たりの変化量よりも小さい
項目1~7のいずれか一項に記載の電子装置。
[項目9]
前記第1時間特性部は、前記第1時間特性部に入力される信号の位相、振幅、周波数およびインパルス応答のうち少なくとも1つを変化させる複数の機器を含み、
前記第1時間特性部は、時間に応じて前記複数の機器を切り替えることで、前記第1歪み信号に前記第1時間特性を与え、前記第2歪み信号に前記第2時間特性を与える
項目1~8のいずれか一項に記載の電子装置。
[項目10]
前記第1時間特性部は、周波数変換器を含み、
前記周波数変換器は、前記第1歪み信号に与える周波数シフト量を時間に応じて変化させることにより前記第1歪み信号に前記第1時間特性を与え、前記第2歪み信号に与える周波数シフト量を時間に応じて変化させることによりに前記第2歪み信号に前記第2時間特性を与え、
前記周波数変換器は、前記第2特性部の一部である、
項目1~9のいずれか一項に記載の電子装置。
[項目11]
前記周波数変換器は、ミキサである
項目10に記載の電子装置。
[項目12]
前記ミキサは、RF帯域の無線信号をBB帯域に周波数変換する
項目11に記載の電子装置。
[項目13]
前記第1時間特性部は、前記ミキサが周波数変換に用いる局所発振信号を生成する局所発振器を含み、前記局所発振器が生成する前記局所発振信号に対して時間に応じて変化する雑音を加算することにより、前記第1歪み信号に前記第1時間特性を与え、かつ、前記第2歪み信号に前記第2時間特性を与える
項目11または12に記載の電子装置。
[項目14]
前記第1時間特性部は、アンプを含み、前記アンプを用いて前記位相、前記振幅、前記周波数および前記インパルス応答のうち少なくとも1つを時間に応じて変化させる
項目7に記載の電子装置。
[項目15]
前記第1時間特性部と前記第2特性部との間に、1つ以上の異なる第M特性部(Mは3以上の整数)と、1つ以上の異なる第P時間特性部(Pは2以上の整数)とが少なくとも部分的に交互に設けられ、
前記第1特性部は、前記第1歪み信号と前記第2歪み信号との2つの信号を前記第1時間特性部に出力し、前記第1時間特性部は、前記第3歪み信号と前記第4歪み信号との2つの信号を、前記第1時間特性部の出力側の前記第M特性部に出力し、
前記第M特性部は、前記第M特性部の入力側における前記第1時間特性部または前記第P時間特性部から入力される2つの歪み信号に第M歪み特性を与えて、前記第M特性部の出力側の前記第P時間特性部に出力し、前記第P時間特性部は、前記第P時間特性部の入力側の前記第M特性部から入力される2つの歪み信号に、それぞれ異なる歪み特性であって時間に応じて変化する歪み特性である時間特性を与えて出力側の前記第M特性部または前記第2特性部に出力し、
前記歪み推定部は、1つ以上の異なる前記第P時間特性部および前記第1時間特性部のうち機能を停止させる時間特性部を切り替えることにより、1つ以上の異なる前記第M特性部のうち少なくとも1つの前記第M特性部の前記第M歪み特性を推定する
項目1に記載の電子装置。
[項目16]
前記第1特性部および前記第2特性部のうち少なくとも1つは、任意の周波数成分の信号を減衰させる1つ以上のフィルタを含み、前記フィルタにより前記第1歪み特性または前記第2歪み特性を与える
項目1~15のいずれか一項に記載の電子装置。
[項目17]
前記第1の信号の周波数帯域は、前記第5歪み信号の周波数帯域と異なり、
前記第2の信号の周波数帯域は、前記第6歪み信号の周波数帯域と異なる
項目1~16のいずれか一項に記載の電子装置。
[項目18]
前記第1特性部の出力に接続され、信号の増幅を行うアンプと、
前記第1時間特性部の入力を前記アンプの入力および出力のいずれか一方に選択的に接続する切替器と、を備え、
前記歪推定部は、前記切替器を前記アンプの入力に接続して前記第1歪み特性を推定し、
前記切替器を前記アンプの出力に接続して、前記第1の信号に前記第1歪み特性と前記アンプの特性とが与えられた第7歪み信号と、前記第2の信号に前記第1歪み特性と前記アンプの特性とが与えられた第8歪み信号とを前記第1時間特性部に入力させることにより、前記第1歪み特性と前記アンプの特性との積を推定し、推定した前記積と、推定した前記第1歪み特性とに基づき、前記アンプの特性を推定する
項目1~17のいずれか一項に記載の電子装置。
[項目19]
前記歪推定部により推定された第1歪み特性およびアンプの特性に基づいて、前記信号生成部によって生成される第3の信号を補償する歪補償器と、
前記歪み補償器によって補償された前記第3の信号に前記第1特性部によって前記第1歪み特性が与えられかつ前記アンプによって増幅された信号を出力する出力部と、
をさらに備える
項目18に記載の電子装置。
[項目20]
前記出力部は、前記信号に基づき電波を送信するアンテナを含む
項目19に記載の電子装置。
[項目21]
第1の信号を生成し、第2の信号を生成し、
前記第1の信号に第1歪み特性を与えて第1歪み信号を取得し、前記第2の信号に前記第1歪み特性を与えて第2歪み信号を取得し、
前記第1歪み信号に、時間に応じて変化する歪み特性である第1時間特性を与えて第3歪み信号を取得し、前記第2歪み信号に、前記第1時間特性と異なる、時間に応じて変化する歪み特性である第2時間特性を与えて、第4歪み信号を取得し、
前記第3歪み信号に第2歪み特性を与えて第5歪み信号を取得し、前記第4歪み信号に前記第2歪み特性を与えて第6歪み信号を取得し、
前記第1の信号と、前記第2の信号と、前記第5歪み信号と、前記第6歪み信号とに基づいて、前記第1歪み特性および前記第2歪み特性のうち少なくとも一方を推定する
信号処理方法。
【符号の説明】
【0109】
1,1A,1B 信号処理装置(電子装置)
2 信号生成部
3 送信信号処理部(第1特性部)
4,4_1~4_n-1 時間特性部(分離特性部)
5 LB信号処理部(第2特性部)
6 歪推定部
7 歪補償部
8 出力部
9 パワーアンプ(PA)
10 切替部
20_1~20_n 特性部
31 D/Aコンバータ
32 変調器
33 ミキサ
41 周波数変換器
42 分離特性切替部
43 機器切替部
44 機器
51 A/Dコンバータ
52 復調器
53 ミキサ