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  • 特開-車載通信装置の相互接続性評価方法 図1
  • 特開-車載通信装置の相互接続性評価方法 図2
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  • 特開-車載通信装置の相互接続性評価方法 図6
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024036995
(43)【公開日】2024-03-18
(54)【発明の名称】車載通信装置の相互接続性評価方法
(51)【国際特許分類】
   H04B 17/29 20150101AFI20240311BHJP
   G01R 31/00 20060101ALI20240311BHJP
   H04B 17/15 20150101ALI20240311BHJP
【FI】
H04B17/29
G01R31/00
H04B17/15
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022141602
(22)【出願日】2022-09-06
(71)【出願人】
【識別番号】000004695
【氏名又は名称】株式会社SOKEN
(71)【出願人】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001276
【氏名又は名称】弁理士法人小笠原特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】溝口 幸
(72)【発明者】
【氏名】太田 宙志
(72)【発明者】
【氏名】松本 宙也
【テーマコード(参考)】
2G036
【Fターム(参考)】
2G036AA10
2G036AA19
2G036BA13
2G036BB20
(57)【要約】
【課題】評価の工数を削減できる車載通信装置の相互接続性評価方法を提供する。
【解決手段】送信側の車載通信装置と受信側の車載通信装置とが、一対の信号線で差動通信接続された試験システムを用い、送信側の車載通信装置の送信信号電力を、所定の規格で定められた最小値に設定するステップと、最小値に設定された送信信号電力を用いて、イミュニティ試験を実施するステップと、イミュニティ試験の結果に基づいて、受信側の車載通信装置の相互接続性を評価するステップと、を含む、車載通信装置の相互接続性評価方法。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
車載通信装置の相互接続性評価方法であって、
送信側の車載通信装置と受信側の車載通信装置とが、一対の信号線で差動通信接続された試験システムを用い、
前記送信側の車載通信装置の送信信号電力を、所定の規格で定められた最小値に設定するステップと、
前記最小値に設定された送信信号電力を用いて、イミュニティ試験を実施するステップと、
前記イミュニティ試験の結果に基づいて、前記受信側の車載通信装置の相互接続性を評価するステップと、を含む、
車載通信装置の相互接続性評価方法。
【請求項2】
前記送信信号電力を最小値に設定するステップでは、前記送信側の車載通信装置の出力端に信号電力を減衰させる治具を挿入することによって、前記送信信号電力を最小値に設定する、
請求項1に記載の車載通信装置の相互接続性評価方法。
【請求項3】
前記一対の信号線に差動ノイズを印加するステップと、
前記最小値に設定された送信信号電力に前記差動ノイズが印加された状態で、前記受信側の車載通信装置の差動電圧を測定するステップと、
前記測定された差動電圧から得られる前記受信側の車載通信装置に到達する最大同相ノイズ値と差動ノイズ耐性値との比から、前記受信側の車載通信装置が搭載されるECUの平衡度を算出するステップと、をさらに含む、
請求項1に記載の車載通信装置の相互接続性評価方法。
【請求項4】
前記送信側の車載通信装置の送信信号電力を、所定の規格で定められた最大値に設定するステップと、
前記最大値に設定された送信信号電力を用いて、エミッション評価を実施するステップと、をさらに含む、
請求項1に記載の車載通信装置の相互接続性評価方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、車載通信装置の相互接続性評価方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1に、車載イーサネットが搭載されたECUのイミュニティ特性を、コモンモードからディファレンシャルモードへの変換特性(変換量)から推定する方法が、開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2017-130917号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に記載された方法では、異なるメーカーの通信ICが搭載されたECU同士を接続したときにEMC(Electro-Magnetic Compatibility)性能が低下する現象である「車載通信装置の相互接続性」について、十分に考慮されていない。また、車載通信装置が増加すればするほど車載通信装置の組み合わせが増大し、相互接続性を評価する工数が増加するという課題もある。このため、車載通信装置の相互接続性を評価する方法については、さらなる検討の余地がある。
【0005】
本開示は、上記課題を鑑みてなされたものであり、評価の工数を削減できる車載通信装置の相互接続性評価方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために、本開示技術の一態様は、送信側の車載通信装置と受信側の車載通信装置とが、一対の信号線で差動通信接続された試験システムを用い、送信側の車載通信装置の送信信号電力を、所定の規格で定められた最小値に設定するステップと、最小値に設定された送信信号電力を用いて、イミュニティ試験を実施するステップと、イミュニティ試験の結果に基づいて、受信側の車載通信装置の相互接続性を評価するステップと、を含む、車載通信装置の相互接続性評価方法である。
【発明の効果】
【0007】
上記本開示の車載通信装置の相互接続性評価方法によれば、評価の工数を削減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】本開示の一実施形態に係る車載通信装置の相互接続性評価方法を適用可能な第1の試験システムの構成を示す図
図2】本開示の一実施形態に係る車載通信装置の相互接続性評価方法を適用可能な第1の試験システムの応用例の構成を示す図
図3】第1の試験システムを用いた車載通信装置の相互接続性評価方法の処理フローチャート
図4】第1の試験システムを用いたECUの平衡度の算出方法の処理フローチャート
図5】本開示の一実施形態に係る車載通信装置の相互接続性評価方法を適用可能な第5の試験システムの構成を示す図
図6】第2の試験システムを用いたエミッション評価の実施方法の処理フローチャート
【発明を実施するための形態】
【0009】
発明者らは、国際規格の通信信号電力と各通信ICの差動ノイズ耐性(イコライザーなどの動的フィルターを内蔵)とによってイミュニティ性能が決定することに着目し、国際規格の送信最小電力を用いたテスト環境で試験を行うことによって、試験増加の抑制が可能であることを見出した。本開示は、この適用によって、車載通信装置の相互接続性評価の工数を削減する。
以下、本開示の一実施形態について、図面を参照しながら詳細に説明する。
【0010】
<実施形態>
[第1の試験システムの構成]
図1は、本開示の一実施形態に係る車載通信装置の相互接続性評価方法を適用可能な第1の試験システム10の構成例を示す図である。図1に例示した第1の試験システム10は、テスト専用ボード110と、被試験物ボード120と、信号線130と、BCIプローブ140と、を備える。
【0011】
テスト専用ボード110は、差動信号を用いた通信(例えば、CAN:Controller Area Network、CAN-FD:CAN with Flexible Data-Rate、イーサネット(登録商標)など)機能を有する車載通信装置111を実装した電子制御装置(ECU)と、信号減衰回路112と、を搭載するテスト試験用の基板である。また、テスト専用ボード110には、信号線130を接続するコネクタ115が設けられている。
【0012】
テスト専用ボード110に搭載される車載通信装置111は、試験用の通信信号を出力するための送信側の車載通信装置(通信IC)である。この車載通信装置111には、すでに試験が終わっている既存の車載通信装置が使用される。
【0013】
信号減衰回路112は、車載通信装置111が出力する通信信号の電力を所定の電力に減衰するための構成である。減衰した後の所定の電力は、所定の規格で定められた最小(下限)の電力である。所定の規格としては、国際規格であるPSD(Power Spectral Density)規格を例示できる。すなわち、信号減衰回路112は、車載通信装置111が出力する通信信号を、所定の規格で定められた送信最小電力に減衰してコネクタ115に送出する。信号減衰を実現するための手法としては、通信線の延長、抵抗の挿入、及びアッテネーターの挿入などを例示できる。
【0014】
被試験物ボード120は、差動信号を用いた通信機能を有する車載通信装置121を搭載した電子制御装置(ECU)を実装する製品基板などである。この被試験物ボード120に搭載される車載通信装置121は、相互接続性評価のために受信性能が測定される新規採用の受信側の車載通信装置(通信IC)である。被試験物ボード120には、信号線130を接続するコネクタ125が設けられている。
【0015】
信号線130は、2本の通信線が一対となった差動通信用のペアケーブル(撚り線タイプ又は並行線タイプ)である。この信号線130は、テスト専用ボード110のコネクタ115と被試験物ボード120のコネクタ125を介して、車載通信装置111と車載通信装置121とを通信可能に接続する。
【0016】
BCI(Bulk Current Injection)プローブ140は、信号線130にクランプ接続される。このBCIプローブ140は、イミュニティ試験における試験信号である高周波妨害電流(差動ノイズ信号)を、図示しない所定の機器から信号線130に注入するための構成である。
【0017】
なお、図1では、テスト専用ボード110に搭載する信号減衰回路112を用いて、車載通信装置111が出力する通信信号の電力を所定の規格で定められた送信最小電力に減衰する構成を例示した。しかし、この構成の他にも、例えば図2に示す第1の試験システム11の応用例のように、車載通信装置111の出力端となるテスト専用ボード110と被試験物ボード120(BCIプローブ140)との間に、入力信号を減衰して出力することが可能な信号減衰治具150を挿入する構成としてもよい。この信号減衰治具150を用いれば、例えば信号減衰回路112のレジスタ変更だけでは所定の規格で定められた送信最小電力に減衰できない場合でも対応可能である。
【0018】
[第1の試験システムを用いた試験方法例]
図3は、第1の試験システム10を用いた車載通信装置の相互接続性を評価する方法の処理手順を説明するフローチャートである。
【0019】
(ステップS301)
最初に、テスト専用ボード110から出力する車載通信装置111の送信信号電力を、所定の規格で定められた最小値に設定する。
【0020】
(ステップS302)
次に、ステップS301で設定した車載通信装置111の送信最小電力を用いて、イミュニティ試験を実施する。
【0021】
(ステップS303)
最後に、ステップS303で実施したイミュニティ試験の結果に基づいて、被試験物ボード120の車載通信装置121の相互接続性を評価する。
【0022】
イミュニティ性能に寄与する送信性能、伝搬路特性+外来ノイズ、及び受信性能のうち、伝搬路特性+外来ノイズは試験系で決まる。このため、送信性能を規格の最小値とすることで最悪の相互接続環境を実現でき、受信性能のみで新規採用の通信ICの採用可否を判断できる。
【0023】
よって、上述した試験方法のように、新規採用の通信ICである車載通信装置121に対して、テスト専用ボード110を用いたイミュニティ試験を実施することで、車載通信装置の相互接続性を判断することが可能である。また、相互接続性を検証するための試験工数を削減することができる。
【0024】
また、図4は、第1の試験システム10を用いた車載通信装置121を実装した電子制御装置(ECU)の平衡度を算出する方法の処理手順を説明するフローチャートである。
【0025】
(ステップS401)
最初に、テスト専用ボード110から出力する車載通信装置111の送信信号電力を、所定の規格で定められた最小値に設定する。
【0026】
(ステップS402)
次に、BCIプローブ140を介して所定の機器から一対の信号線130に差動ノイズを印加する。
【0027】
(ステップS403)
次に、最小値に設定された送信信号電力に差動ノイズが印加された状態で、被試験物ボード120の車載通信装置121の差動電圧を測定する。
【0028】
(ステップS404)
最後に、測定された差動電圧から得られる車載通信装置121に到達する最大同相ノイズ値と差動ノイズ耐性値との比から、車載通信装置121を実装するECUの平衡度を算出する。
【0029】
このように、車載通信装置の相互接続性の判断を設計に反映することで、事前にECUに期待される平衡度を算出できる。よって、事前に相互接続性を考慮したECU設計が可能となる。
【0030】
[第2の試験システムの構成]
図5は、本開示の一実施形態に係る車載通信装置の相互接続性評価方法を適用可能な第2の試験システム20の構成例を示す図である。図4に例示した第2の試験システム20は、テスト専用ボード210と、被試験物ボード120と、信号線130と、BCIプローブ140と、を備える。
【0031】
テスト専用ボード210は、差動信号を用いた通信機能を有する車載通信装置111を実装した電子制御装置(ECU)と、信号減衰/増幅回路211と、を搭載するテスト試験用の基板である。また、テスト専用ボード210には、信号線130を接続するコネクタ115が設けられている。
【0032】
テスト専用ボード210に搭載される車載通信装置111は、上述した第1の試験システム10と同様に、試験用の通信信号を出力するための送信側の車載通信装置(通信IC)である。この車載通信装置111には、すでに試験が終わっている既存の車載通信装置が使用される。
【0033】
信号減衰/増幅回路211は、車載通信装置111が出力する通信信号の電力を、所定の電力に減衰したり、所定の電力に増幅したりするための構成である。減衰した後の所定の電力は、所定の規格で定められた最小(下限)の電力であり、増幅した後の所定の電力は、所定の規格で定められた最大(上限)の電力である。所定の規格としては、国際規格であるPSD規格を例示できる。すなわち、信号減衰/増幅回路211は、車載通信装置111が出力する通信信号を、所定の規格で定められた送信最小電力に減衰してコネクタ115に送出したり、所定の規格で定められた送信最大電力に増幅してコネクタ115に送出したりする。
【0034】
被試験物ボード120は、上述した第1の試験システム10と同様に、差動信号を用いた通信機能を有する車載通信装置121を搭載した電子制御装置(ECU)を実装する製品基板などである。
【0035】
信号線130は、上述した第1の試験システム10と同様に、2本の通信線が一対となった差動通信用のペアケーブル(撚り線タイプ又は並行線タイプ)である。この信号線130は、テスト専用ボード210のコネクタ115と被試験物ボード120のコネクタ125を介して、車載通信装置111と車載通信装置121とを通信可能に接続する。
【0036】
なお、図5の第2の試験システム20においても、テスト専用ボード210に搭載する信号減衰/増幅回路211に代えて、信号減衰/増幅治具(図示せず)を信号線130に挿入してもよい。
【0037】
[第2の試験システムを用いた試験方法例]
図6は、第2の試験システム20を用いたエミッション評価を実施する方法の処理手順を説明するフローチャートである。
【0038】
(ステップS601)
最初に、テスト専用ボード110から出力する車載通信装置111の送信信号電力を、所定の規格で定められた最大値に設定する。
【0039】
(ステップS602)
次に、ステップS601で設定した車載通信装置111の送信最大電力を用いて、エミッション評価を実施する。エミッション評価は、図示しないエミッション評測定用アンテナを用いて行われる。
【0040】
エミッション性能に寄与する項目は送信性能のみであることから、規格の最大値が最悪の相互接続環境であることに着目し、その条件がOKであればエミッション評価における相互接続性検証は不要となる。
【0041】
<作用・効果>
以上説明したように、本開示の一実施形態に係る車載通信装置の相互接続性評価方法では、送信側の車載通信装置111と受信側の車載通信装置121とが一対の信号線130で差動通信接続された第1及び第2の試験システム10、11、20を用いて、国際規格で定められた最小値に設定した送信信号電力を送信側の車載通信装置111から送信してイミュニティ試験を実施し、このイミュニティ試験の結果に基づいて受信側の車載通信装置121の相互接続性を評価する。
【0042】
この方法によって、受信性能のみで新規採用の通信ICの採用可否を判断できるので、車載通信装置の相互接続性評価の工数を削減することができ、試験増加を抑制することができる。
【産業上の利用可能性】
【0043】
本開示は、複数の車載通信装置について相互接続性評価を実施したい場合などに利用可能である。
【符号の説明】
【0044】
10、11、20 試験システム
110、210 テスト専用ボード
111 車載通信装置(送信側)
112 信号減衰回路
115 コネクタ
120 被試験物ボード
121 車載通信装置(送信側)
125 コネクタ
130 信号線
140 BCIプローブ
150 信号減衰治具
211 信号減衰/増幅回路
図1
図2
図3
図4
図5
図6