(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024037017
(43)【公開日】2024-03-18
(54)【発明の名称】既存のダム堤体に貫通孔を施工する方法
(51)【国際特許分類】
E02B 7/00 20060101AFI20240311BHJP
E02B 7/02 20060101ALI20240311BHJP
【FI】
E02B7/00 Z
E02B7/00 A
E02B7/02 B
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022141629
(22)【出願日】2022-09-06
(71)【出願人】
【識別番号】000206211
【氏名又は名称】大成建設株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠重
(74)【代理人】
【識別番号】100070150
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠彦
(72)【発明者】
【氏名】竹中 万人
(72)【発明者】
【氏名】黒羽 陽一郎
(72)【発明者】
【氏名】山下 益
(72)【発明者】
【氏名】吉村 英昭
(57)【要約】
【課題】ゲートの寸法に左右されることなく仮締切体の内部にゲートを搬入でき、仮締切体の揚重不能の恐れがなく、仮締切体の内部におけるゲート設置の際の作業性が良好である、既存のダム堤体に貫通孔を施工する方法を提供する。
【解決手段】資機材の投入口61aと開口部65を備えた殻体により形成される仮締切体60をダム堤体10の上流側に吊り下ろし、開口部65を上流側側面12に対向させた姿勢として開口縁64を上流側側面12に密着させる仮締切体設置工程、ゲート71を投入口61aを介して仮締切体60の内部に収容する収容工程、仮締切体60の内部の水を排水する排水工程、上流側側面12の手前まで貫通孔20の第1区間孔25を施工する第1区間孔施工工程、第2区間孔26を施工して貫通孔20を施工する第2区間孔施工工程、上流側開口22にゲート71を設置するゲート設置工程、仮締切体60を撤去する撤去工程とを有する。
【選択図】
図5
【特許請求の範囲】
【請求項1】
既存のダム堤体に貫通孔を施工する方法であって、
資機材の投入口と開口部を備えた殻体により形成される、仮締切体を前記ダム堤体の上流側に吊り下ろし、前記開口部を前記ダム堤体の上流側側面に対向させた姿勢として該仮締切体の開口縁を該上流側側面に密着させる、仮締切体設置工程と、
前記貫通孔の上流側開口を開閉するゲートを、前記投入口を介して、前記仮締切体の内部に収容する、収容工程と、
前記投入口を閉塞し、前記仮締切体の内部の水を排水する、排水工程と、
前記ダム堤体の下流側から上流側に向かって、前記上流側側面の手前まで前記貫通孔の第1区間孔を施工する、第1区間孔施工工程と、
前記第1区間孔と前記上流側側面の間の第2区間孔を施工して、前記上流側側面に前記上流側開口を形成し、該第1区間孔と該第2区間孔とにより形成される前記貫通孔を施工する、第2区間孔施工工程と、
前記上流側開口に前記ゲートを設置する、ゲート設置工程と、
前記仮締切体を前記上流側側面から取り外して撤去する、撤去工程とを有することを特徴とする、既存のダム堤体に貫通孔を施工する方法。
【請求項2】
前記排水工程に先行して、前記仮締切体に対して上流側の水面上まで延設するシャフトを設置する、シャフト設置工程をさらに有し、
前記排水工程では、前記シャフトを介して前記仮締切体の内部の水を排水することを特徴とする、請求項1に記載の既存のダム堤体に貫通孔を施工する方法。
【請求項3】
前記仮締切体設置工程に先行して、前記上流側側面における前記仮締切体の設置予定位置の下方に、該仮締切体を載置する仮締切体用架台を設置する、架台設置工程をさらに有することを特徴とする、請求項1又は2に記載の既存のダム堤体に貫通孔を施工する方法。
【請求項4】
前記収容工程では、前記ゲートを載置するゲート用架台をさらに投入し、
前記ゲート設置工程では、前記ゲート用架台に載置されている前記ゲートを前記上流側開口に対応する位置に位置合わせすることを特徴とする、請求項1又は2に記載の既存のダム堤体に貫通孔を施工する方法。
【請求項5】
前記仮締切体が複数の分割仮締切体の積層体であり、
前記仮締切体設置工程では、予め積層体として形成されている前記仮締切体を吊り下ろす方法、もしくは、前記分割仮締切体を順次吊り下ろし、水中にて上下に隣接する該分割仮締切体同士を接続して前記積層体を形成する方法のいずれか一種を適用することを特徴とする、請求項1又は2に記載の既存のダム堤体に貫通孔を施工する方法。
【請求項6】
前記第1区間孔施工工程と前記第2区間孔施工工程を連続的に実施する、もしくは、前記第1区間孔施工工程と前記第2区間孔施工工程の間で他の工程を実施することを特徴とする、請求項1又は2に記載の既存のダム堤体に貫通孔を施工する方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、既存のダム堤体に貫通孔を施工する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ダムは、河川を横断して流水を貯留するために設置される構造物であり、洪水調節や水資源の確保(水道用水、工業用水、農業用水等)、発電、河川環境の保全(流水の正常な機能維持)等の役割を有している。河川法上は高さ15m以上の構造物がダムであるが、15m未満の砂防ダム等の堰堤も、ダムに含まれる。
ところで、昨今の地球環境変動に起因する集中豪雨により、全国各地で洪水対策が喫緊の課題となっているが、ダムを設置可能な候補地が減少していること、ダムの建設には多大な施工コストを要すること等から、ダムの新設施工は極めて困難な状況にある。このような状況を踏まえて、既存のダムに対して、洪水対策措置を講じる技術開発(所謂、既存のダムの再開発)が検討され、実施されている。この洪水対策措置としては、ダム堤体の放流能力を高めるべく、ダム堤体に対してその上流側側面と下流側側面に亘る貫通孔を施工する措置が挙げられる。
このような既存のダムの再開発施工は、当該既存のダムを供用しながら実施することから、ダム堤体の上流側に仮締め切りを設置し、貫通孔が上流側側面に臨む施工エリアをドライな環境にする必要がある。そのため、施工エリアの周囲に鋼管矢板等で仮締め切りを施工した後、仮締め切り内の貯留水を排水し、貫通孔が上流側側面に臨む開口にゲートを設置する施工を順次行う。しかしながら、このような仮締め切り施工においては、仮設構造が大掛かりになり、工期が長くなり、工費が増大するといった課題がある。
【0003】
以上の課題を解消するべく、特許文献1には、既設コンクリートダムの出水口新設工事の施工法が提案されており、特許文献2には、既存のダム堤体に貫通孔を構築する方法が提案されている。特許文献1に記載される既設コンクリートダムの出水口新設工事の施工法は、出水口を新設する堰堤上流側の所要位置を清掃し、一側に止水パツキングを備えた開口部が形成され上部に締め切りフランジが設けられた殻体を吊り下し、開口部の位置に1次圧接し、内部の水を排水して2次圧接した後に殻体の位置を保持し、締め切りフランジ部に水面上に至るシャフトを連結し、内部の水を排水した後に締め切りフランジを撤去する。次に、出水口を掘削して出水ゲートを取付け、締め切りフランジをセツトし、シャフト内に注水してシャフトを撤収し、殻体内に注水して殻体を撤収した後にゲート開閉装置を取付ける施工法である。
【0004】
一方、特許文献2に記載の既存のダム堤体に貫通孔を構築する方法は、貫通坑の上流側の坑口を開閉するためのゲートを内部に収容し、開口部を有する殻体からなる仮締切をその開口部がダム堤体に密着するように設置する仮締切設置工程と、仮締切内の水を排出する排水工程と、ダム堤体の下流側から仮締切内に向かってダム堤体を貫通する貫通坑を構築する貫通坑構築工程と、仮締切内で貫通坑の上流側の坑口にゲートを取り付けるゲート設置工程と、仮締切をダム堤体から取り外す撤去工程と有する構築方法である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開昭64-58709号公報
【特許文献2】特開2010-216125号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1,2に記載の施工法や構築方法によれば、ダム堤体の上流側における施工ヤードの周囲に鋼管矢板等の大規模な仮締め切りを施工する施工方法が内包する、工期の長期化と工費の増大といった課題を抑制もしくは解消することができる。しかしながら、特許文献1に記載の施工法では、殻体の上部に設けられているシャフトを介して出水ゲートが殻体の内部に搬入されることから、出水ゲートの規模がシャフトの大きさによって制限を受けることになり、逆に言えば、出水ゲートが通過可能な内空規模のシャフトを殻体の上部に設置する必要があることから、殻体に対するシャフトの設置が困難になり得るとともに、ダム堤体における坑口位置から水面上までの長さが長くなり、シャフトの長さが長くなるに従い、この設置困難性は一層顕著になる。
【0007】
一方、特許文献2に記載の構築方法では、殻体からなる仮締切の内部にゲートが設置された状態でその全体がゲート設置位置まで吊り下ろされることから、吊り下ろし重量が大きくなり、揚重クレーン規模(規格)を増大させる必要が生じたり、場合によっては揚重不能になる恐れがあり、ゲートの設置深度が大水深位置である場合やゲート寸法と重量が大きい場合はこの課題が一層顕著になる。
さらに、仮締切の内部に予めゲートが設置されていることから、仮締切の内部において坑口にゲートを取り付けるゲート設置工程では、作業スペースがゲートによって制約を受け、作業性が不良になるといった課題もある。作業性を高めるべく、仮締切の規模を大きくすると、仮締切の重量がさらに大きくなることから、上記する揚重不能の可能性を高める結果となる。
【0008】
本発明は、既存のダム堤体の上流側側面に対して殻体からなる仮締切体を適用してゲートを設置する方法に関し、ゲートの寸法に左右されることなく仮締切体の内部にゲートを搬入でき、仮締切体の揚重不能の恐れがなく、仮締切体の内部におけるゲート設置の際の作業性が良好である、既存のダム堤体に貫通孔を施工する方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記目的を達成すべく、本発明による既存のダム堤体に貫通孔を施工する方法の一態様は、
資機材の投入口と開口部を備えた殻体により形成される、仮締切体を前記ダム堤体の上流側に吊り下ろし、前記開口部を前記ダム堤体の上流側側面に対向させた姿勢として該仮締切体の開口縁を該上流側側面に密着させる、仮締切体設置工程と、
前記貫通孔の上流側開口を開閉するゲートを、前記投入口を介して、前記仮締切体の内部に収容する、収容工程と、
前記投入口を閉塞し、前記仮締切体の内部の水を排水する、排水工程と、
前記ダム堤体の下流側から上流側に向かって、前記上流側側面の手前まで前記貫通孔の第1区間孔を施工する、第1区間孔施工工程と、
前記第1区間孔と前記上流側側面の間の第2区間孔を施工して、前記上流側側面に前記上流側開口を形成し、該第1区間孔と該第2区間孔とにより形成される前記貫通孔を施工する、第2区間孔施工工程と、
前記上流側開口に前記ゲートを設置する、ゲート設置工程と、
前記仮締切体を前記上流側側面から取り外して撤去する、撤去工程とを有することを特徴とする。
【0010】
本態様によれば、資機材の投入口を天端面に備えている殻体により形成される仮締切体を適用し、仮締切体の吊り下ろしと、貫通孔の上流側開口を開閉するゲートを含む資機材の吊り下ろしを別で行うことにより、吊り荷重量が嵩んで仮締切体を揚重できないといった課題を解消することができる。
また、シャフトではなく、仮締切体の天端面に設けられている投入口を介してゲートを含む資機材を仮締切体の内部に搬入することから、ゲートの寸法がシャフトの内空に制約を受けるといった課題を解消することができ、様々な寸法のゲートを仮締切体の内部に収容することが可能になる。
さらに、仮締切体の吊り下ろしの際に予めゲートが仮締切体の内部に設置されていないことから、吊り下ろされた仮締切体の内部における作業スペースがゲートによって狭められておらず、仮締切体の内部における良好な作業性を保証することができる。
【0011】
仮締切体設置工程では、後施工である第2区間孔施工工程において、ダム堤体の上流側側面に形成される上流側開口を仮締切体の開口部が包囲するようにして仮締切体が上流側側面に設置される。この設置においては、上流側の貯水池内に仮締切体が吊り下ろされ、例えば、クレーン等の重機で仮締切体が吊られた状態で、貯水池内にいるダイバー等が仮締切体の開口縁をダム堤体の上流側側面に対してアンカー等により固定することができる。
ダム堤体のダム天端は幅に制限があることから、ダム天端に連続するようにして下流側に施工用のステージ(桟橋)を構築し、ステージとダム天端の上に重機を設置するのがよい。また、このようにダム天端に重機を設置して仮締切体やゲート等を吊り下ろす方法の他にも、貯水池にクレーン装備を備えた台船を浮遊させ、台船から仮締切体やゲート等を吊り下ろす施工方法であってもよい。
開口縁には、止水ゴムパッキン等の定型のシール材が開口縁に沿って無端状に設けられていることで、開口縁をダム堤体の上流側側面に密着した際に、シール材にて止水性が保証される。
その後、収容工程において、投入口を介してゲートを仮締切体の内部に収容した後、排水工程にて仮締切体の内部の水を排水することにより、仮締切体はその側方から水圧にてダム堤体の上流側側面に押し付けられ、この水圧にてシール材がさらに押圧されることにより、仮締切体と上流側側面との止水性が一層高められる。
【0012】
ダム堤体に対する貫通孔の施工は、ダム堤体の下流側から上流側に向かって、上流側側面の手前まで前記貫通孔の第1区間孔を施工する、第1区間孔施工工程と、第1区間孔と上流側側面の間の第2区間孔を施工する、第2区間孔施工工程とにより行う。
ここで、「上流側側面の手前まで」とは、文字通り、上流側側面の手前の数十cm程度や1,2mm程度の手前の他にも、貫通孔の中央位置等、上流側側面から比較的離れた位置も含んでいる。上流側側面の手前の数十cm乃至1,2m程度まで第1区間孔を施工した際に、この残置されているコンクリート塊の長さ(貫通孔の長手方向の長さの数十cm乃至1,2m程度)は、貯水池から作用する水圧に対して破壊されずに抵抗可能な長さとして設定される。
また、第1区間孔施工工程の施工のタイミングは、仮締切体設置工程の前であってもよいし、排水工程の後であってもよく、また、仮締切体設置工程等の他の工程と並行して行ってもよい。さらに、第1区間孔施工工程と第2区間孔施工工程との間に他の工程が実施されてもよいし、第1区間孔施工工程と第2区間孔施工工程が連続的に実施されて貫通孔が施工されてもよい。
【0013】
上流側開口を閉塞するようにしてゲートを上流側側面に設置する、ゲート設置工程と、仮締切体を上流側側面から取り外して撤去する、撤去工程を実施することにより、既存のダム堤体に貫通孔が施工される。
【0014】
また、本発明による既存のダム堤体に貫通孔を施工する方法の他の態様は、
前記排水工程に先行して、前記仮締切体に対して上流側の水面上まで延設するシャフトを設置する、シャフト設置工程をさらに有し、
前記排水工程では、前記シャフトを介して前記仮締切体の内部の水を排水することを特徴とする。
【0015】
本態様によれば、シャフト設置工程により、仮締切体の例えば天端面に対して上流側の水面上まで延設するシャフトを設置し、シャフトを利用して排水することにより、効率的な排水を実現できる。
また、本態様にて仮締切体の天端面に設置されるシャフトは、特許文献1に記載されるような資機材搬入用のシャフトではないことから、ゲートの寸法に応じてシャフトの内空が決定されることはない。仮締切体の天端面には、シャフトが設置されるシャフト口が投入口とは別に設けられているのが好ましい。
ここで、シャフトの内部に排水ポンプ(揚水ポンプ)等を設置して排水することができる。また、シャフトには、その上方から下方に亘って連続する螺旋階段等が設置されていてもよく、作業員がシャフトの上端まで吊り下ろされ、シャフト内の螺旋階段を利用して仮締切体の内部にアクセスできるようになっていてもよい。
【0016】
シャフト設置工程は、仮締切体設置工程の前に実施されてもよい。すなわち、仮締切体を吊り下ろす前に、仮締切体に予めシャフトが取り付けられている状態で貯水池の水中に吊り下ろされてもよい。しかしながら、この方法では、吊り荷重量が大きくなることから、ダム堤体の上流側側面に仮締切体が設置された後にシャフト設置工程が実施されるのが好ましい。
【0017】
また、本発明による既存のダム堤体に貫通孔を施工する方法の他の態様は、
前記仮締切体設置工程に先行して、前記上流側側面における前記仮締切体の設置予定位置の下方に、該仮締切体を載置する仮締切体用架台を設置する、架台設置工程をさらに有することを特徴とする。
【0018】
本態様によれば、架台設置工程により、ダム堤体の上流側側面における仮締切体の設置予定位置の下方に仮締切体用架台を設置し、この仮締切体用架台に対して仮締切体を吊り下ろして載置することにより、仮締切体設置工程において上流側側面に対する仮締切体の設置の際の施工性を向上させることができる。
仮締切体用架台は重機にて吊り下ろされ、貯水池内にダイバーが入り、仮締切体用架台をダム堤体の上流側側面に対してアンカー等により固定することができる。
重機にて吊り下ろされた仮締切体は、ダム堤体の上流側側面に既に設置されている仮締切体用架台に係止されているワイヤ等を利用して、仮締切体の設置位置まで引き込み、仮締切体用架台の上に載置することができる。
【0019】
また、本発明による既存のダム堤体に貫通孔を施工する方法の他の態様において、
前記収容工程では、前記ゲートを載置するゲート用架台をさらに投入し、
前記ゲート設置工程では、前記ゲート用架台に載置されている前記ゲートを前記上流側開口に対応する位置に位置合わせすることを特徴とする。
【0020】
本態様によれば、ゲート設置工程において、仮締切体の内部に搬入され、設置されているゲート用架台にゲートを載置して上流側開口に対応する位置に位置合わせすることにより、上流側開口に対してゲートを設置する際の施工性を向上させることができる。
【0021】
また、本発明による既存のダム堤体に貫通孔を施工する方法の他の態様において、
前記仮締切体が複数の分割仮締切体の積層体であり、
前記仮締切体設置工程では、予め積層体として形成されている前記仮締切体を吊り下ろす方法、もしくは、前記分割仮締切体を順次吊り下ろし、水中にて上下に隣接する該分割仮締切体同士を接続して前記積層体を形成する方法のいずれか一種を適用することを特徴とする。
【0022】
本態様によれば、仮締切体が複数の分割仮締切体の積層体であることにより、仮締切体の規模が大きい場合にはその製作性が良好になる。また、仮締切体設置工程において、分割仮締切体を順次吊り下ろし、水中にて上下に隣接する分割仮締切体同士を接続して積層体を形成することにより、仮締切体の規模が大きい場合の吊り下ろし困難性を解消することができる。この吊り下ろし方法では、貯水池の内部において、ダイバーが分割仮締切体同士を順次接続することにより仮締切体が形成できる。
【0023】
また、本発明による既存のダム堤体に貫通孔を施工する方法の他の態様において、
前記第1区間孔施工工程と前記第2区間孔施工工程を連続的に実施する、もしくは、前記第1区間孔施工工程と前記第2区間孔施工工程の間で他の工程を実施することを特徴とする。
【0024】
本態様によれば、例えば第1区間孔施工工程と第2区間孔施工工程を連続的に実施して貫通孔を施工することにより、貫通孔の施工効率を高めることができる。また、第1区間孔施工工程と第2区間孔施工工程の間で他の工程を実施すること(他の工程の実施を当初計画から変更することも含む)により、一連の全工程に対して様々なバリエーションを付与することができ、自然現象の変化(大雨の継続や台風の到来)等に応じて臨機に施工計画の見直しを図ることができる。
【発明の効果】
【0025】
本発明の既存のダム堤体に貫通孔を施工する方法によれば、既存のダム堤体の上流側側面に対して殻体からなる仮締切体を適用してゲートを設置する方法に関し、ゲートの寸法に左右されることなく仮締切体の内部にゲートを搬入でき、仮締切体の揚重不能の恐れがなく、仮締切体の内部におけるゲート設置の際の良好な作業性を享受できる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【
図1】実施形態に係る既存のダム堤体に貫通孔を施工する方法の一例の工程図である。
【
図2】
図1に続いて、実施形態に係る既存のダム堤体に貫通孔を施工する方法の一例の工程図である。
【
図3】
図2に続いて、実施形態に係る既存のダム堤体に貫通孔を施工する方法の一例の工程図である。
【
図4】殻体により形成される仮締切体の一例の斜視図である。
【
図5】
図3に続いて、実施形態に係る既存のダム堤体に貫通孔を施工する方法の一例の工程図である。
【
図6】
図5に続いて、実施形態に係る既存のダム堤体に貫通孔を施工する方法の一例の工程図である。
【
図7】
図6に続いて、実施形態に係る既存のダム堤体に貫通孔を施工する方法の一例の工程図である。
【
図8】
図7に続いて、実施形態に係る既存のダム堤体に貫通孔を施工する方法の一例の工程図である。
【
図9】
図8に続いて、実施形態に係る既存のダム堤体に貫通孔を施工する方法の一例の工程図である。
【
図10】
図9に続いて、実施形態に係る既存のダム堤体に貫通孔を施工する方法の一例の工程図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下、実施形態に係る既存のダム堤体に貫通孔を施工する方法について、添付の図面を参照しながら説明する。尚、本明細書及び図面において、実質的に同一の構成要素については、同一の符号を付することにより重複した説明を省く場合がある。
【0028】
[実施形態に係る既存のダム堤体に貫通孔を施工する方法]
図1乃至
図10を参照して、実施形態に係る既存のダム堤体に貫通孔を施工する方法の一例について説明する。ここで、
図1乃至
図3,
図5乃至
図10は順に、実施形態に係る既存のダム堤体に貫通孔を施工する方法の一例の工程図であり、
図4は、殻体により形成される仮締切体の一例の斜視図である。
【0029】
図1に示すように、本施工方法は、既存のコンクリート製のダム堤体10に対して、その下流側側面13と上流側側面12に亘って下流側へ斜め下方に延設する、一点鎖線で示す貫通孔20を施工する方法である。貫通孔20の下流側開口21が下流側側面13に臨み、上流側開口22が上流側側面12に臨む。この貫通孔20は、洪水対策を主たる目的として施工されるものであり、施工される貫通孔20によってダム堤体10の放流能力を高めることが可能になる。
【0030】
図1に示すように、貫通孔20は、基礎地盤G上にあるダム堤体10の下流側側面13から上流側側面12に向かってX1方向に、連続的もしくは途中に他の工程を挟む態様で施工される。
【0031】
本施工方法では、ダム堤体10の供用を図りながら、上流側側面12における上流側開口22にゲートを設置するべく、ゲートを収容してゲート設置作業を行うための殻体からなる仮締切体60(
図4参照)を貯水池30の水中に吊り下ろす方法を含んでいる。この吊り下ろしに際し、ダム堤体10のダム天端11の上流側にステージ41を構築し、ダム天端11とステージ41の上にクレーン43を設置する。
【0032】
次に、
図2に示すように、ダム堤体10の下流側から上流側に向かってX2方向に、上流側側面12の手前までコンクリートを斫りながら、貫通孔20の第1区間孔25を施工する。図示例における上流側側面12の手前とは、数十cm乃至1,2m程度手前であり、未施工のコンクリート塊が貯水池30の水圧に対して抗し得る長さに設定される。尚、第1区間孔25は、例えば貫通孔20の全長の中央位置当たりまでの長さ等であってもよく、様々な長さで施工されてよい。このように未施工の長さ区間が比較的長い場合でも、「上流側側面12の手前まで施工する」ことに含まれるものとする(第1区間孔施工工程)。
【0033】
ここで、第1区間孔施工工程の実施は図示例のタイミングに限定されるものでなく、例えば以下で説明する仮締切体設置工程の後に実施されてもよい。また、図示例は、第1区間孔施工工程と以下で説明する第2区間孔施工工程の間に、他の工程を実施する例であるが、例えば、以下で説明する仮締切体60の内部の排水を行う排水工程の後で、第1区間孔施工工程と第2区間孔施工工程を連続的に行って貫通孔20を施工してもよい。
【0034】
次に、
図3に示すように、ダム堤体10の上流側側面12における仮締切体60の設置予定位置の下方に、仮締切体60を載置する仮締切体用架台51をX3方向に吊り下ろし、不図示のダイバー等が水中に潜り、上流側側面12に対して仮締切体用架台51をアンカー52により固定する(架台設置工程)。
【0035】
次に、
図4を参照して、本施工にて適用される仮締切体60の構成について説明する。図示例の仮締切体60は、外形が直方体状で箱型の殻体である。殻体60は、鋼製、コンクリート製のいずれであってもよいが、重量が低減できることから鋼製の殻体が好ましい。また、仮締切体60の形状は、図示例の直方体状に限定されるものでなく、半円柱形や、上流側の隅角部にハンチを備えた多角形状などであってもよく、このように湾曲面やハンチを一部に備える形状を呈することにより、作用する水圧低減や、作用する水圧により生じる応力低減を図ることが可能になる。
【0036】
仮締切体60は、3つの側面62と天端面61と底面63を備え、残りの側面には開口部65が設けられ、開口部65の周囲に矩形枠状の開口縁64が設けられている。そして、この開口縁64には、止水ゴムパッキン等の定型で無端状のシール材69が取り付けられている。
【0037】
天端面61には、資機材を搬入するための相対的に大きな平面寸法の投入口61aと、シャフト80(
図6参照)が取り付けられる相対的に小さな平面寸法のシャフト口61bが開設されている。
【0038】
天端面61の投入口61aの側方には回動軸66があり、この回動軸66を中心にY1方向に回動して投入口61aの閉塞と開放を行うことのできる資機材搬入ハッチ67が取り付けられている。ここで、資機材搬入ハッチが図示例のように回動自在な形態でなく、投入口61aを閉塞するようにして上方から落とし込まれている形態であってもよい。
【0039】
一方、シャフト口61bには、シャフトハッチ68が上方から落とし込みにて設置されている。仮締切体60が水中にある際には、クレーン43にてシャフトハッチ68を上方へY2方向に吊り上げることによりシャフト口61bを開放することができる。尚、シャフトハッチは、資機材搬入ハッチ67と同様に回動自在に設けられていてもよい。また、仮締切体60が水中にある際の資機材搬入ハッチ67の回動も、上方から水圧が作用していることを勘案して、クレーン43にて吊り上げながら回動されてよい。
【0040】
図5に示すように、仮締切体60を吊り下げて貯水池30の水中に落とし込み、仮締切体用架台51の上に載置した後、開口縁64にある無端状のシール材69を上流側側面12に密着させるようにして仮締切体60を設置する。
【0041】
上流側側面12に対する仮締切体60の設置では、ダイバーが不図示のアンカーにて上流側側面12に開口縁64を固定する方法の他に、上流側側面12に固定されている仮締切体用架台51に対して仮締切体60を固定することにより、仮締切体60を間接的に上流側側面12に固定する方法であってもよい。
【0042】
この仮締切体60を水中へ落とし込む際は、大きな浮力が生じることを防止するべく、資機材搬入ハッチ67をY1方向に開いて投入口61aを開放し、仮締切体60の内部に通水させた状態で水中への落とし込みを行う(以上、仮締切体設置工程)。
【0043】
ここで、架台設置工程を適用せず、仮締切体60を吊り下げた状態で仮締切体60を上流側側面12に設置してもよいが、架台設置工程にて上流側側面12に固定されている仮締切体用架台51の上に仮締切体60を載置した後、仮締切体60を上流側側面12に設置することにより、仮締切体60の設置の際の施工性が良好になって好ましい。
【0044】
次に、貯水池30の水中で開放している投入口61aを介して、ゲート71を載置するゲート用架台55を仮締切体60の内部に吊り下ろし、仮締切体60の床面における上流側側面12の近傍にゲート用架台55を設置する。
【0045】
次に、ベルマウス72とゲート71を、投入口61aを介して仮締切体60の内部のゲート用架台55の上へX4方向に吊り下ろす。ここで、ベルマウス72とゲート71が予め一体に固定された状態で吊り下ろされてもよい(以上、収容工程)。
【0046】
このように、ゲート71を含む資機材が搬入される投入口61aを天端面61に備えている殻体により形成される仮締切体60を適用し、仮締切体60の吊り下ろしと、ゲート71を含む種々の資機材の吊り下ろしを別で行うことにより、吊り荷重量が嵩んで仮締切体60を揚重できないといった課題は生じない。
【0047】
ここで、図示を省略するが、仮締切体は、複数の分割仮締切体の積層体であってもよい。この場合、仮締切体設置工程では、予め積層体として形成されている仮締切体を吊り下ろす方法であってもよいし、分割仮締切体を順次吊り下ろし、水中にて上下に隣接する分割仮締切体同士を接続して積層体を形成する方法であってもよい。
【0048】
次に、
図6に示すように、シャフトハッチ68を吊り上げてシャフト口61bを開放した後、シャフト80をX5方向に吊り下ろし、シャフト80の下端をシャフト口61bに設置することにより、シャフト80を仮締切体60の天端面61から貯水池30の水面上まで延設した状態で立設させる。また、資機材搬入ハッチ67をY3方向に回動して、投入口61aを閉塞する。
【0049】
ここで、図示を省略するが、シャフト80の内部には、排水ポンプ等が設置されている。さらに、シャフト80の内部には、その上方から下方に亘って連続する螺旋階段等が設置されており、作業員がシャフト80の上端まで吊り下ろされ、シャフト80の内部の螺旋階段を利用して仮締切体60の内部にアクセスできるようになっているのが好ましい(以上、シャフト設置工程)。
【0050】
次に、
図7に示すように、不図示の排水ポンプを稼働させて、仮締切体60の内部の水をシャフト80を介してX6方向に排水する。この排水により、仮締切体60の内部に作業空間を形成する。
【0051】
また、仮締切体60の内部の水が排水されることにより、仮締切体60には貯水池30から水圧が作用し、この水圧により、上流側側面12に密着しているシール材69が押圧され、仮締切体60と上流側側面12との間の止水性が一層高められる(以上、排水工程)。
【0052】
次に、
図8に示すように、第1区間孔25と上流側側面12の間の第2区間孔26を施工することにより、上流側側面12に上流側開口22を備えた、第1区間孔25と第2区間孔26とにより形成される貫通孔20を施工する。
【0053】
第2区間孔26の施工は、仮締切体60の内部に不図示の施工足場を設置し、施工足場を利用して、作業員が第1区間孔25に向かってコンクリートを斫ることにより施工してもよいし、逆に、第1区間孔25から仮締切体60に向かってコンクリートを斫ることにより施工してもよい(第2区間孔施工工程)。
【0054】
次に、
図9に示すように、ゲート用架台55の上に載置されているベルマウス72とゲート71を、上流側開口22側へ順次移載し、ベルマウス72を上流側開口22に嵌め込むようにして上流側開口22に対してベルマウス72を設置し、ベルマウス72に対してゲート71を設置する。
【0055】
上流側開口22に対するゲート71の設置により、ダム堤体10に対して、洪水対策措置である貫通孔20の施工とゲート71の設置が完了する(以上、ゲート設置工程)。
【0056】
貫通孔20の上流側開口22にゲート71が設置された後、
図10に示すように、シャフト80の解体と吊り上げ撤去、上流側側面12からの仮締切体60の取り外しと吊り上げ撤去、上流側側面12からの仮締切体用架台51の取り外しと吊り上げ撤去を順次行うことにより、既存のダム堤体10に貫通孔20を構築する一連の施工が完了する(撤去工程)。
【0057】
図示する既存のダム堤体に貫通孔を施工する方法によれば、既に記載したように、ゲート71を含む資機材が搬入される投入口61aを天端面61に備えている殻体により形成される仮締切体60を適用し、仮締切体60の吊り下ろしと、ゲート71を含む種々の資機材の吊り下ろしを別で行うことにより、吊り荷重量が嵩んで仮締切体60を揚重できないといった課題は解消される。
【0058】
また、シャフト80ではなく、仮締切体60の天端面61に設けられている投入口61aを介してゲート71を含む資機材を仮締切体60の内部に搬入することから、ゲート71の寸法がシャフト80の内空に制約を受けるといった課題を解消することができ、様々な寸法のゲート71を仮締切体60の内部に収容することが可能になる。
【0059】
さらに、仮締切体60の吊り下ろしの際に予めゲート71が仮締切体60の内部に設置されていないことから、吊り下ろされて上流側側面12に設置された仮締切体60の内部における作業スペースは、ゲート71によって狭められておらず、仮締切体60の内部における良好な作業性を保証することができる。例えば、仮締切体設置工程において、仮締切体60の開口縁64にあるシール材69を上流側側面12に密着させながら設置する際の施工性は、ゲート71が既に存在している場合と比較して格段に向上する。
【0060】
尚、上記実施形態に挙げた構成等に対し、その他の構成要素が組み合わされるなどした他の実施形態であってもよく、ここで示した構成に本発明が何等限定されるものではない。この点に関しては、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で変更することが可能であり、その応用形態に応じて適切に定めることができる。
【符号の説明】
【0061】
10:ダム堤体
11:ダム天端
12:上流側側面
13:下流側側面
20:貫通孔
21:下流側開口
22:上流側開口
25:第1区間孔
26:第2区間孔
30:貯水池
41:ステージ(桟橋)
43:クレーン(重機)
51:仮締切体用架台
52:アンカー
55:ゲート用架台
60:仮締切体(殻体)
61:天端面
61a:投入口
61b:シャフト口
62:側面
63:底面
64:開口縁
65:開口部
66:回動軸
67:資機材搬入ハッチ
68:シャフトハッチ
69:シール材
71:ゲート
72:ベルマウス
80:シャフト
G:基礎地盤