(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024037021
(43)【公開日】2024-03-18
(54)【発明の名称】画像処理方法、画像処理装置及びプログラム
(51)【国際特許分類】
G01T 1/161 20060101AFI20240311BHJP
G01T 1/164 20060101ALI20240311BHJP
【FI】
G01T1/161 D
G01T1/161 B
G01T1/164
【審査請求】有
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022141634
(22)【出願日】2022-09-06
(11)【特許番号】
(45)【特許公報発行日】2023-05-31
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り 開催日(公開日):令和3年12月4日/集会名、開催場所:中性脂肪学会 第4回学術集会、現地会場及びライブ配信のハイブリッド開催、現地会場:国立循環器病研究センター エントランス棟 3階講堂(大阪府吹田市岸部新町6番1号)/公開者:宮内秀行/公開された発明の内容:宮内秀行が、中性脂肪学会 第4回学術集会にて、宮内秀行、飯森隆志、澤田晃一が発明した画像処理方法、画像処理装置及びプログラムについて公開した。
(71)【出願人】
【識別番号】304021831
【氏名又は名称】国立大学法人千葉大学
(74)【代理人】
【識別番号】110002620
【氏名又は名称】弁理士法人大谷特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】宮内 秀行
(72)【発明者】
【氏名】飯森 隆志
(72)【発明者】
【氏名】澤田 晃一
【テーマコード(参考)】
4C188
【Fターム(参考)】
4C188EE02
4C188FF04
4C188KK24
4C188KK33
4C188MM04
4C188MM06
(57)【要約】 (修正有)
【課題】より正確に洗い出し率を算出できる、画像処理方法、画像処理装置及びプログラムの提供。
【解決手段】放射性医薬品を投与した対象の関心領域における前記医薬品の洗い出し率(WR)(%)を算出するための画像処理方法は、対象をSPECT撮影したデータを再構成して3次元情報に変換した後、任意の数の3次元情報保持分画に分けて、各々の分画のカウント代表値を定め、各分画のカウント代表値に変換して画像を作成するとともに、放射性医薬品を投与して作成された第1の画像、及び、第1の画像より後の時間に撮影した第2の画像のカウント代表値から式(I)により洗い出し率(%)を算出する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
放射性医薬品を投与した対象の関心領域(ROI)における前記医薬品の洗い出し率(WR)(%)を算出するための画像処理方法であって、
対象を単光子放射コンピュータ断層撮影(SPECT撮影)したデータを再構成して3次元情報に変換した後、得られた3次元情報を任意の数の3次元情報保持分画に分けて、各々の分画のカウント代表値を定めたのち、各分画のカウント代表値を視覚的に比較できるように変換して画像を作成する方法とともに用いる、下記工程を順番に行う画像処理方法。
(1)放射性医薬品を投与した対象を撮影したデータに基づいて作成された第1の画像、及び、前記第1の画像より後の時間に前記対象を撮影したデータに基づいて作成された第2の画像のそれぞれにおいて、関心領域を設定する工程、
(2)前記関心領域のそれぞれに含まれる前記3次元情報保持分画を特定し、関心領域に含まれるすべての3次元情報保持分画のカウント代表値を取得する工程、及び
(3)下記式(I)により洗い出し率(%)を算出する工程
式(I):
洗い出し率(%)={(第1の画像の関心領域に含まれるすべての3次元情報保持分画のカウント代表値の総和)-(第2の画像の関心領域に含まれるすべての3次元情報保持分画のカウント代表値の総和)}/(第3の画像の関心領域に含まれるすべての3次元情報保持分画のカウント代表値の総和)×100
【請求項2】
前記画像が、3次元情報保持分画を極座標配置により表示された画像である、請求項1に記載の画像処理方法。
【請求項3】
前記3次元情報が、フィルター補正逆投影法(FBP法)又は期待値最大化法(OSEM法)により作成される、請求項1に記載の画像処理方法。
【請求項4】
関心領域を心臓に設定する、請求項1に記載の画像処理方法。
【請求項5】
放射性医薬品が、放射性タリウム、放射性テクネチウム及び放射性ヨウ素よりなる群から選択される1種以上の放射性核種を含む、請求項1に記載の画像処理方法。
【請求項6】
対象が、心臓の123I-MIPPの取込が低下している患者であって、中性脂肪蓄積心筋血管症(TGCV)に罹患している又は罹患していると疑われる対象である、請求項1に記載の画像処理方法。
【請求項7】
前記心臓の123I-BMIPPの取込が低下している要因が陳旧性心筋梗塞(OMI)である、請求項6に記載の画像処理方法。
【請求項8】
中性脂肪蓄積心筋血管症(TGCV)の診断に用いるための洗い出し率(%)が提供される、請求項1に記載の画像処理方法。
【請求項9】
データ取得部及びデータ処理部を備える画像処理装置であって、
データ取得部は、放射性医薬品を投与した対象を単光子放射コンピュータ断層撮影(SPECT撮影)することにより得られるデータの取得部であり、
データ処理部は、
(0)データ取得部が得たSPECT撮影したデータを再構成して3次元情報に変換した後、得られた3次元情報を任意の数の3次元情報保持分画に分けて、各々の分画のカウント代表値を定めたのち、各分画のカウント代表値を視覚的に比較できるように変換して画像を作成する手段、
(1)放射性医薬品を投与した対象を撮影したデータに基づいて作成された第1の画像、及び、前記第1の画像より後の時間に前記対象を撮影したデータに基づいて作成された第2の画像のそれぞれにおいて、関心領域(ROI)を設定する手段、
(2)前記関心領域のそれぞれに含まれる前記3次元情報保持分画を特定し、関心領域に含まれるすべての3次元情報保持分画のカウント代表値を取得する手段、及び
(3)下記式(I)により洗い出し率(%)を算出する手段
式(I):
洗い出し率(%)={(第1の画像の関心領域に含まれるすべての3次元情報保持分画のカウント代表値の総和)-(第2の画像の関心領域に含まれるすべての3次元情報保持分画のカウント代表値の総和)}/(第1の画像の関心領域に含まれるすべての3次元情報保持分画のカウント代表値の総和)×100
を備える、画像処理装置。
【請求項10】
請求項1に記載の画像処理方法の各工程をコンピュータに実行させるためのプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、画像処理方法、画像処理装置及びプログラムに関する。画像処理方法は、特に放射性医薬品を投与した対象における関心領域の洗い出し率(%)を提供するための画像処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
放射性医薬品の洗い出し率(Washout Rate、WR)は、例えば心臓の臨床病態を心臓核医学検査により評価するために利用されている。中性脂肪蓄積心筋血管症(Triglyceride deposit cardiomyovasculopathy:TGCV)の診断において、放射性医薬品として123I-BMIPP(123I-β-メチル-p-ヨードフェニルペンタデカン酸)を用いた心筋シンチグラフィによる洗い出し率の測定は、TGCV診断基準必須項目の1つである。
その他、放射性医薬品として塩化タリウム(201Tl)、123I-MIBG(123I-メタヨードベンジルグアニジン)等が、洗い出し率の測定に使用される。
このように、洗い出し率の正確な算出は、心血管疾患の病態解明と診断に極めて重要である。
非特許文献1には、心筋における201Tlの洗い出し率の測定が記載されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【非特許文献1】Bateman TM, et. al. J Am Coll Cardiol. 1984 Jul, 4 (1) 55-64.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明者らは、従前の洗い出し率の算出方法では、実際の洗い出し率を正確に反映できず、算出方法の改善が必要であることを見出した。
本発明は、より正確に洗い出し率を算出できる、画像処理方法、画像処理装置及びプログラムに関する。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは下記<1>~<10>の態様により上記課題を解決できることを見出した。
<1> 放射性医薬品を投与した対象の関心領域(ROI)における前記医薬品の洗い出し率(WR)(%)を算出するための画像処理方法であって、
対象を単光子放射コンピュータ断層撮影(SPECT撮影)したデータを再構成して3次元情報に変換した後、得られた3次元情報を任意の数の3次元情報保持分画に分けて、各々の分画のカウント代表値を定めたのち、各分画のカウント代表値を視覚的に比較できるように変換して画像を作成する方法とともに用いる、下記工程を順番に行う画像処理方法。
(1)放射性医薬品を投与した対象を撮影したデータに基づいて作成された第1の画像、及び、前記第1の画像より後の時間に前記対象を撮影したデータに基づいて作成された第2の画像のそれぞれにおいて、関心領域を設定する工程、
(2)前記関心領域のそれぞれに含まれる前記3次元情報保持分画を特定し、関心領域に含まれるすべての3次元情報保持分画のカウント代表値を取得する工程、及び
(3)下記式(I)により洗い出し率(%)を算出する工程
式(I):
洗い出し率(%)={(第1の画像の関心領域に含まれるすべての3次元情報保持分画のカウント代表値の総和)-(第2の画像の関心領域に含まれるすべての3次元情報保持分画のカウント代表値の総和)}/(第1の画像の関心領域に含まれるすべての3次元情報保持分画のカウント代表値の総和)×100
<2> 前記画像が、3次元情報保持分画を極座標配置により表示された画像である、<1>に記載の画像処理方法。
<3> 前記3次元情報が、フィルター補正逆投影法(FBP法)又は期待値最大化法(OSEM法)により作成される、<1>又は<2>に記載の画像処理方法。
<4> 関心領域を心臓に設定する、<1>~<3>のいずれか1項に記載の画像処理方法。
<5> 放射性医薬品が、放射性タリウム、放射性テクネチウム及び放射性ヨウ素よりなる群から選択される1種以上の放射性核種を含む、<1>~<4>のいずれか1項に記載の画像処理方法。
<6> 対象が、心臓の123I-MIPPの取込が低下している患者であって、中性脂肪蓄積心筋血管症(TGCV)に罹患している又は罹患していると疑われる対象である、<1>~<5>のいずれか1項に記載の画像処理方法。
<7> 前記心臓の123I-BMIPPの取込が低下している要因が陳旧性心筋梗塞(OMI)である、<6>に記載の画像処理方法。
<8> 中性脂肪蓄積心筋血管症(TGCV)の診断に用いるための洗い出し率(%)が提供される、<1>~<7>のいずれか1項に記載の画像処理方法。
<9> データ取得部及びデータ処理部を備える画像処理装置であって、
データ取得部は、放射性医薬品を投与した対象を単光子放射コンピュータ断層撮影(SPECT撮影)することにより得られるデータの取得部であり、
データ処理部は、
(0)データ取得部が得たSPECT撮影したデータを再構成して3次元情報に変換した後、得られた3次元情報を任意の数の3次元情報保持分画に分けて、各々の分画のカウント代表値を定めたのち、各分画のカウント代表値を視覚的に比較できるように変換して画像を作成する手段、
(1)放射性医薬品を投与した対象を撮影したデータに基づいて作成された第1の画像、及び、前記第1の画像より後の時間に前記対象を撮影したデータに基づいて作成された第2の画像のそれぞれにおいて、関心領域(ROI)を設定する手段、
(2)前記関心領域のそれぞれに含まれる前記3次元情報保持分画を特定し、関心領域に含まれるすべての3次元情報保持分画のカウント代表値を取得する手段、及び
(3)下記式(I)により洗い出し率(%)を算出する手段
式(I):
洗い出し率(%)={(第1の画像の関心領域に含まれるすべての3次元情報保持分画のカウント代表値の総和)-(第2の画像の関心領域に含まれるすべての3次元情報保持分画のカウント代表値の総和)}/(第1の画像の関心領域に含まれるすべての3次元情報保持分画のカウント代表値の総和)×100
を備える、画像処理装置。
<10> <1>~<8>のいずれか1項に記載の画像処理方法の各工程をコンピュータに実行させるためのプログラム。
【発明の効果】
【0006】
本発明により、より正確に洗い出し率を算出できる画像処理方法、画像処理装置及びプログラムが提供される。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【
図1】
図1は、関心領域(ROI)におけるカウントの分布を模式的に示す。(a)は本発明の場合、(b)は従来方法の場合である。
【
図2】
図2は、関心領域(ROI)におけるカウントの分布を模式的に示す。(a)は本発明の場合、(b)は従来方法の場合である。
【
図3】
図3は、関心領域(ROI)におけるカウントの分布を模式的に示す。(a)は本発明の場合、(b)は従来方法の場合である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
[画像処理方法]
本発明の画像処理方法は、放射性医薬品を投与した対象の関心領域(ROI)における前記医薬品の洗い出し率(WR)(%)を算出するための画像処理方法であって、対象を単光子放射コンピュータ断層撮影(SPECT撮影)したデータを再構成して3次元情報に変換した後、得られた3次元情報を任意の数の3次元情報保持分画に分けて、各々の分画のカウント代表値を定めたのち、各分画のカウント代表値を視覚的に比較できるように変換して画像を作成する方法とともに用いる。
本発明の画像処理方法は、下記工程を順番に行う。
(1)放射性医薬品を投与した対象を撮影したデータに基づいて作成された第1の画像、及び、前記第1の画像より後の時間に前記対象を撮影したデータに基づいて作成された第2の画像のそれぞれにおいて、関心領域を設定する工程、
(2)前記関心領域のそれぞれに含まれる前記3次元情報保持分画を特定し、関心領域に含まれるすべての3次元情報保持分画のカウント代表値を取得する工程、及び
(3)下記式(I)により洗い出し率(%)を算出する工程
式(I):
洗い出し率(%)={(第1の画像の関心領域に含まれるすべての3次元情報保持分画のカウント代表値の総和)-(第2の画像の関心領域に含まれるすべての3次元情報保持分画のカウント代表値の総和)}/(第1の画像の関心領域に含まれるすべての3次元情報保持分画のカウント代表値の総和)×100
【0009】
<洗い出し率>
本発明の画像処理方法は、放射性医薬品を投与した対象の関心領域(ROI)における前記医薬品の洗い出し率(%)を提供するための方法である。
洗い出し率(Washout rate:WR)とは、放射性医薬品の関心領域における経時的な分布に関し、放射性医薬品がまず関心領域に集積し、時間経過とともに洗い出される現象を定量化した数値である。
洗い出し率は、対象の関心領域の情報の一つとして提供される。本発明の好ましい態様の1つは、放射性医薬品として123I-BMIPPを投与し、関心領域を心臓とする心筋脂肪酸代謝シンチグラフィであり、例えば、洗い出し率により、中性脂肪蓄積心筋血管症の診断を行うことができる。
【0010】
洗い出し率(%)は、下記式(I)により算出する。
式(I):
洗い出し率(%)={(第1の画像の関心領域に含まれるすべての3次元情報保持分画のカウント代表値の総和)-(第2の画像の関心領域に含まれるすべての3次元情報保持分画のカウント代表値の総和)}/(第1の画像の関心領域に含まれるすべての3次元情報保持分画のカウント代表値の総和)×100
【0011】
<対象>
本発明の画像処理方法の被検対象は、洗い出し率の測定を必要とする対象であれば特に限定されず、例えばヒトを含む哺乳類が挙げられる。非ヒト哺乳類としては、サル、マウス、ラット、ウサギ、イヌ、ネコ、ウシ、ヒツジ、ウマ、ブタなどが挙げられる。
被検対象がヒトである場合、性別、人種及び実年齢は限定されない。
本発明の好ましい態様の1つにおいて、対象は心筋シンチグラフィ検査を受ける対象である。例えば、心筋脂肪酸代謝シンチグラフィにおいて、対象は心臓の123I-BMIPPの取込が低下している患者である。より具体的には、例えば、中性脂肪蓄積心筋血管症(Triglyceride deposit cardiomyovasculopathy:TGCV)に罹患している又は罹患していると疑われる対象である。
心臓の123I-BMIPPの取込は、例えば、心臓壊死の患者において低下する。中でも、心臓の123I-BMIPPの取込が低下している要因が陳旧性心筋梗塞(Old myocardial infarction:OMI)である場合が挙げられる。
【0012】
<関心領域>
本発明の画像処理方法は、身体の各種臓器及び組織に関心領域(ROI:Region Of Interest)を設定することができる。例えば、心臓、脳、肝臓、筋肉、腎臓、膵臓、腫瘍病変に関心領域を設定することができる。中でも、重篤な疾患の診断ができるとの観点から、心臓、脳に関心領域を設定することが好ましい。
関心領域は、1つの領域であっても、2以上の領域の組み合わせであってもよい。また、特定の臓器の全体であっても、一部分であってもよい。
本発明の好ましい態様の1つである心筋脂肪酸代謝シンチグラフィにおいて、心臓全体又は一部分を関心領域とする。
【0013】
<放射性医薬品>
本発明で使用できる放射性医薬品は特に限定されない。例えば、放射性タリウム、放射性テクネチウム及び放射性ヨウ素よりなる群から選択される1種以上の放射性核種を含む放射性医薬品を、目的に応じて選択することができる。
より具体的には、放射性タリウムを含む放射性医薬品としては、塩化タリウム(201Tl)等が挙げられる。
放射性テクネチウムを含む放射性医薬品としては、テトロホスミンテクネチウム(99mTc)、ヘキサキス(2-メトキシイソブチルイソニトリル)テクネチウム(99mTc)(99mTc-MIBI)等が挙げられる。
放射性ヨウ素を含む放射性医薬品としては、123I-メタヨードベンジルグアニジン(123I-MIBG)、123I-β-メチル-p-ヨードフェニルペンタデカン酸(123I-BMIPP)等が挙げられる。
【0014】
<SPECTによって作成される画像>
本発明の画像処理方法は、対象をSPECT撮影したデータを再構成して3次元情報に変換した後、得られた3次元情報を任意の数の3次元情報保持分画に分けて、各々の分画のカウント代表値を定めたのち、各分画の代表値を視覚的に比較できるように変換して画像を作成する方法とともに用いられる。すなわち、本発明の画像処理方法は、SPECTによって作成される画像の取得と関連して実施されるものである。
SPECTによって作成される画像は、SPECT装置が備える解析ソフトウェアにより行うことができる。
【0015】
SPECTによって作成される画像は、例えば、ディスプレイ出力、プリンタ出力等により、放射性医薬品の分布を視覚的に表す診断用画像として提供される。関心領域部分を抽出して提供されることが好ましい。
目的に応じて、関心領域は分割表示される。例えば、日本メジフィジックス社製のSPECT解析ソフトウェアHeart Risk View-S(HRV-S)は、SPECTによって作成される画像を、0分割(全体)、3分割、5分割、17分割、及び20分割にできる。分割は、好ましくは0分割(全体)又は17分割である。
【0016】
本発明の画像処理方法は、SPECTによって作成される画像の取得と同時又は取得の直後に行うことができる。また、既存の取得されたSPECTによって作成される画像に基づいて、同日の後の時間又は後の日に行うこともできる。既存の取得されたSPECTによって作成される画像は、例えば、コンピュータ読取り可能媒体に記憶されたものを使用することができる。
【0017】
SPECTによる撮影は、ガンマカメラを備えたSPECT装置を用いて、放射性医薬品から放出されるガンマ線を検出しカウント値を測定する。そして、測定データを再構成して3次元情報に変換した後、得られた3次元情報を任意の数の3次元情報保持分画に分けて、各々の分画のカウント代表値を定めたのち、各分画の代表値を視覚的に比較できるように変換して画像を作成することにより、放射性医薬品の分布を画像として視覚的に確認できる。
SPECTによって作成される画像は、3次元の対象を複数の方向から2次元情報を取得し、それを基に再構成した3次元情報から作成した画像である。そのため、一方向からの撮影であるプラナー(planar)画像とは異なり、立体的に関心領域と重なった他の臓器、組織等への放射性医薬品の分布を排除した画像の作成が可能である。
【0018】
測定データを再構成して3次元情報に変換する具体的手法としては、公知のフィルター補正逆投影法(Filtered back projection:FBP法)、期待値最大化法(Ordered subset expectation maximization method:OSEM法)等が挙げられる。
3次元情報は、位置情報及びカウント値を含む。
【0019】
<3次元情報保持分画>
SPECTによって作成される画像を得るためのデータ処理において、3次元情報は、任意の数の3次元情報保持分画に分けられる。3次元情報保持分画の数は、取得した情報を目的に適合した状態で処理できる限り特に制限がないが、例えば、500~10000分画、好ましくは1000~5000分画を挙げることができる。具体的な例としては、約1500分画、2048分画(16×128),2400分画(20×120)を例示できるがこれに限定されない。任意の数の分画に分ける具体的方法の例として、各種メーカーが提供しているSPECT解析ソフトウェアをあげることができる。
【0020】
以下、日本メジフィジックス社製のSPECT解析ソフトウェアHeart Risk View-S(HRV-S)が心臓領域を任意の数の3次元情報保持分画に分ける態様を説明する。
まず、心臓領域を長軸中心線に垂直に、大きさの異なるドーナツ形状に分割する。ただし、心尖部は別の特殊処理に供する。より具体的には、長軸方向には20分割する。
次いで、各ドーナツ形状部分に対し、長軸中心線から放射状に線を引き分割するcircumferential profile解析に供する。より具体的には、例えば、3度単位に120分割、又は、6度単位に60分割することができる。
circumferential profile解析が120分割である場合、心臓領域を2400の分画に分割する。
なお、当該3次元情報保持分画への分割は、上記目的に応じた関心領域の分割表示とは、通常は異なる分画への分割である。
【0021】
次いで、得られた3次元情報保持分画は、各々の分画においてカウント代表値が定められる。各分画は、複数のVOI(Volume Of Interest)からなる。SPECT装置により、各VOIにおいて単位時間あたりに放射性医薬品から放出されるガンマ線の入射数がカウント値として取得される。
分画ごとのカウント代表値は、当該分画に属する複数のVOIのカウント値に基づいて選択する。例えば当該分画に属する複数のVOIのカウント値の最高値、最頻値、中央値、最低値、平均値等を、当該分画のカウント代表値とすることができる。カウント代表値としては、好ましくは最高値である。
次いで、各分画の代表値を視覚的に比較できるように変換して視覚的に確認できる画像が作成される。例えば、カウント代表値を、カラースケール又はグレースケールにあてはめ、カウント値に相当する色(グレースケールで言えば濃さ)を決定し、画像を生成する。
生成される画像は、例えば、極座標配置による表示であるポーラーマップとして得られる。
画像の作成は、SPECT装置が備える解析ソフトウェアにより行ってもよく、また、別のコンピュータに任意の段階の情報(例えば、再構成した3次元情報)を移し、専用のソフトウェアで行ってもよい。
【0022】
<工程(1)>
本発明の画像処理方法は、工程(1)として、放射性医薬品を投与した対象を撮影したデータに基づいて作成された第1の画像、及び、前記第1の画像より後の時間に前記対象を撮影したデータに基づいて作成された第2の画像のそれぞれにおいて、関心領域を設定する。
【0023】
(第1の画像及び第2の画像)
放射性医薬品を投与した対象を撮影したデータに基づいて作成された第1の画像、及び、前記第1の画像より後の時間に前記対象を撮影したデータに基づいて作成された第2の画像は、上記した画像生成手段により取得する。
第1の画像は、早期像とも言い、対象に放射性医薬品を投与した所定時間後に撮影して取得する。投与した後の所定時間は、放射性医薬品の種類に応じて適宜設定することができる。例えば、123I-BMIPPを投与する心筋脂肪酸代謝シンチグラフィにおいては、投与した後の所定時間は、好ましくは放射性医薬品の投与の5~60分間後、より好ましくは10~40分間後、更に好ましくは15~30分間後である。
第2の画像は、後期像とも言い、第1の撮影より後の時間に前記対象を撮影して取得する。第1の撮影より後の時間は、放射性医薬品の種類に応じて適宜設定することができる。例えば、123I-BMIPPを投与する心筋脂肪酸代謝シンチグラフィにおいては、好ましくは第1の撮影の1~6時間後、より好ましくは2~5時間後、更に好ましくは3~4時間後である。
【0024】
(関心領域(ROI)の設定)
第1の画像及び第2の画像のそれぞれにおいて、関心領域(ROI)を設定する。
関心領域は任意の数の3次元情報保持分画を含むように設定することが出来る。関心領域は、公知の方法で、例えばSPECT装置の解析ソフトウェアで設定することができる。
【0025】
第1のSPECT撮影から第2のSPECT撮影までの時間経過により、放射性医薬品の放射能は小さくなる。そのため、第2のSPECT撮影で取得するカウント値は、その後、減衰補正をした値に補正するのが好ましい。減衰補正は、使用する放射性医薬品、及び、第1のSPECT撮影と第2のSPECT撮影の間隔時間に基づいて行うことができる。
【0026】
<工程(2)>
次いで、工程(2)において、関心領域のそれぞれに含まれる、3次元情報保持分画を特定し、関心領域に含まれるすべての3次元情報保持分画のカウント代表値を取得する。
工程(2)により、第1の画像の関心領域及び第2の画像の関心領域のそれぞれにおいて、それぞれの3次元情報保持分画と関連付けられてカウント代表値が取得される。
【0027】
<工程(3)>
次いで、工程(3)において、下記式(I)により洗い出し率を算出する。
式(I):
洗い出し率(WR)(%)={(第1の画像の関心領域に含まれるすべての3次元情報保持分画のカウント代表値の総和)-(第2の画像の関心領域に含まれるすべての3次元情報保持分画のカウント代表値の総和)}/(第1の画像の関心領域に含まれるすべての3次元情報保持分画のカウント代表値の総和)×100
【0028】
第1の画像の関心領域に含まれる3次元情報保持分画のカウント代表値及び第2の画像の関心領域に含まれるすべての3次元情報保持分画のカウント代表値は、工程(2)で取得されたデータを使用する。
【0029】
本発明の画像処理方法により、放射性医薬品が不均一に分布する場合であっても、より正確に洗い出し率を算出することが可能となる。本発明が効果を奏する機序について、以下に説明する。
【0030】
以下、本発明と従来方法の方法を、
図1~3により比較する。
図1~3は、関心領域(ROI)における放射性医薬品の分布を模式的に示す。図中、黒丸は放射性医薬品の存在を示す。また、図中「Early」は第1の画像に対応する早期像、「Delayed」は第2の画像に対応する後期像をそれぞれ示す。なお、
図1~3の(a)と(b)は、同じ関心領域を表す。
図1~3のそれぞれにおいて、(a)は本発明の場合を示す。式(I)により洗い出し率を算出する本発明では、関心領域に含まれるすべてのカウント代表値を加算するため、3次元情報保持分画の境界は図中に示されていない。以下本明細書において、本発明の式(I)による洗い出し率の算出方法を、Total count法ともいう。
【0031】
従来方法においては、下記式(II)により洗い出し率を計算した。
式(II):
【0032】
【0033】
式中、nは3次元情報保持分画の数を表す整数、x
iは第1の画像のi番目の3次元情報保持分画のカウント代表値、y
iは第2の画像のi番目の3次元情報保持分画のカウント代表値である。
図1~3のそれぞれにおいて、(b)は従来方法の場合を示す。式(II)により洗い出し率を算出する従来方法では、3次元情報保持分画ごとに計算を行うため、図中では関心領域が4つの3次元情報保持分画から構成されていることを示す。以下本明細書において、従来の式(II)による洗い出し率の算出方法を、Arithmetic mean法ともいう。
【0034】
図1(a)では、早期像中、関心領域に含まれる黒丸の総和が8であり、後期像中、関心領域に含まれる黒丸の総和が4である。この場合、Total count法では式(I)により、WR=50%と算出される。
図1(b)は、関心領域が4つの3次元情報保持分画から構成されている。早期像中、左上分画、右上分画、左下分画及び右下分画のそれぞれに含まれるが黒丸2ずつである。後期像中、左上分画、右上分画、左下分画及び右下分画のそれぞれに含まれる黒丸が1ずつである。この場合、Arithmetic mean法では式(II)により、WR=50%と算出される。
【0035】
図2は、放射性医薬品が不均一に分布している場合を示す。
図2(a)では、早期像中、関心領域に含まれる黒丸の総和が8であり、後期像中、関心領域に含まれる黒丸の総和が4である。この場合、Total count法では式(I)により、WR=50%と算出される。
図2(b)では、早期像中、左上分画に含まれる黒丸の数が5、右上分画に含まれる黒丸の数が1、左下分画に含まれる黒丸の数が1、及び右下分画に含まれる黒丸の数が1である。後期像中、左上分画に含まれる黒丸の数が1、右上分画に含まれる黒丸の数が1、左下分画に含まれる黒丸の数が1、及び右下分画に含まれる黒丸の数が1である。この場合、Arithmetic mean法では式(II)により、WR=20%と算出される。
【0036】
図3は、放射性医薬品が不均一に分布している別の場合を示す。
図3(a)では、早期像中、関心領域に含まれる黒丸の総和が8であり、後期像中、関心領域に含まれる黒丸の総和が4である。この場合、Total count法では式(I)により、WR=50%と算出される。
図3(b)では、早期像中、左上分画に含まれる黒丸の数が5、右上分画に含まれる黒丸の数が1、左下分画に含まれる黒丸の数が1、及び右下分画に含まれる黒丸の数が1である。後期像中、左上分画に含まれる黒丸の数が4、右上分画に含まれる黒丸の数が0、左下分画に含まれる黒丸の数が0、及び右下分画に含まれる黒丸の数が0である。この場合、Arithmetic mean法では式(II)により、WR80%と算出される。
図2及び
図3で示すように、従来方法のArithmetic mean法では、放射性医薬品が不均一に分布している場合に洗い出し率が正確に算出できないおそれがある。
【0037】
[画像処理装置]
本発明の画像処理装置は、データ取得部及びデータ処理部を備える画像処理装置であって、
データ取得部は、放射性医薬品を投与した対象を単光子放射コンピュータ断層撮影(SPECT撮影)することにより得られるデータの取得部であり、
データ処理部は、
(0)データ取得部が得たSPECT撮影したデータを再構成して3次元情報に変換した後、得られた3次元情報を任意の数の3次元情報保持分画に分けて、各々の分画のカウント代表値を定めたのち、各分画のカウント代表値を視覚的に比較できるように変換して画像を作成する手段、
(1)放射性医薬品を投与した対象を撮影したデータに基づいて作成された第1の画像、及び、前記第1の画像より後の時間に前記対象を撮影したデータに基づいて作成された第2の画像のそれぞれにおいて、関心領域(ROI)を設定する手段、
(2)前記関心領域のそれぞれに含まれる前記3次元情報保持分画のそれぞれを特定し、関心領域に含まれるすべての3次元情報保持分画のカウント代表値を取得する手段、及び
(3)下記式(I)により洗い出し率(%)を算出する手段
式(I):
洗い出し率(%)={(第1の画像の関心領域に含まれるすべての3次元情報保持分画のカウント代表値の総和)-(第2の画像の関心領域に含まれるすべての3次元情報保持分画のカウント代表値の総和)}/(第1の画像の関心領域に含まれるすべての3次元情報保持分画のカウント代表値の総和)×100
を備える、画像処理装置である。
【0038】
本発明の画像処理装置は、好ましくは、SPECTシステムの一部である又はSPECT撮影装置と組み合わせることができるデータ及び画像処理装置の一部として備えることができる装置であって、本発明の画像処理方法による洗い出し率の算出を実施できるように構成されている。好ましい態様は、前記画像処理方法と同様である。
(データ取得部)
SPECTシステム又はSPECT撮影装置は、例えば複数のガンマ線検出器を備え、ガンマ線検出器が対象の周囲を回転し、複数方向から放射性医薬品から放出されるガンマ線を検出できるように構成されている。
SPECTシステムの一部として備えられた又はSPECT撮影装置に連結されたデータ取得部は、検出したガンマ線の位置情報、強度情報等のデータを収取する手段、及び取得したデータをデータ処理部に送信する手段を備える。
【0039】
(データ処理部)
データ処理部は、(0)データ取得部が得たSPECT撮影したデータを再構成して3次元情報に変換した後、得られた3次元情報を任意の数の3次元情報保持分画に分けて、各々の分画のカウント代表値を定めたのち、各分画のカウント代表値を視覚的に比較できるように変換して画像を作成する手段、(1)放射性医薬品を投与した対象を撮影したデータに基づいて作成された第1の画像、及び、前記第1の画像より後の時間に前記対象を撮影したデータに基づいて作成された第2の画像のそれぞれにおいて、関心領域(ROI)を設定する手段、(2)前記関心領域のそれぞれに含まれる前記3次元情報保持分画を特定し、関心領域に含まれるすべての3次元情報保持分画のカウント代表値を取得する手段、及び(3)上記式(I)により洗い出し率(%)を算出する手段を備える。
これらの各手段は、例えば、コンピュータに実行させるためのプログラムによって、例えば、SPECTシステムのワークステーションにより実行される。プログラムは、例えば、コンピュータ読取り可能媒体に記録されている。
【0040】
その他、データ処理装置はキーボード、マウス、タッチパネル等の入力手段;ディスプレイ、プリンタ等の出力装置を備えることができる。
【0041】
[プログラム]
本発明のプログラムは、上記画像処理方法の各工程をコンピュータに実行させるためのプログラムである。
【実施例0042】
以下、実施例により本発明をより詳細に説明する。
【0043】
(患者)
下記の患者を対象に、千葉大学倫理委員会の承認を受けて、検査を行った。
心血管疾患を有さない健常者(Normal)(n=11)
CD36欠損症患者(n=6)
中性脂肪蓄積心筋血管症患者(TGCV)(n=14)
陳旧性心筋梗塞(OMI)を伴うTGCV患者(TGCV with OMI)(n=17)
広範囲のOMIを伴う非TGCV患者(non-TGCV with OMI)(n=10)
【0044】
なお、CD36欠損症患者は、123I-BMIPP等の脂肪酸取り込みに関するCD36遺伝子の機能を喪失する遺伝子変異を有し、早期像における123I-BMIPP取り込み低下が生じる。
【0045】
(心筋脂肪酸代謝シンチグラフィ)
日本心臓核医学会の推奨するプロトコールに従い、12時間以上の絶食後、安静時に123I-BMIPP(カルディオダイン;日本メジフィジックス株式会社製)111MBqを静脈内投与した。
20分後に早期像(図中、Early)を、210分後に後期像(図中、Delayed)をそれぞれ取得した。SPECT装置として、拡張低エネルギー汎用コリメータを装備したGE Infinia Hawkeye 4(GEヘルスケア・ジャパン社製)を使用した。
後期像において、係数1/0.5(間隔時間/13.2)により減衰補正を行った。なお、「間隔時間」は、早期像と後期像の撮影の間隔時間である。
【0046】
撮影条件を以下に示す。
64×64マトリクス
180°step and shoot mode
サンプリング角 6°
60秒/view
ピクセルサイズ:5.89mm
スライス幅:5.89mm
【0047】
123Iのエネルギーウィンドウは、159keV±10%(main)と130keV±10%(sub)に設定した。
【0048】
画像の再構成は、rampフィルターを用いてフィルター補正逆投影法により行った。10次Butterworthフィルター(カットオフ周波数0.4cycle/cm)を用いて散乱補正を行った。
【0049】
(洗出し率(WR)の算出)
心筋SPECT解析ソフトウェアとして、Heart Risk View-S(HRV-S、日本メジフィジックス株式会社製)を使用した。
洗出し率を、下記に示すTotal count法及びArithmetic mean法により算出した。
【0050】
【0051】
式中、nは3次元情報保持分画の数を表す整数、xiは早期像を構成するi番目の3次元情報保持分画のカウント代表値、yiは後期像を構成するi番目の3次元情報保持分画のカウント代表値である。
【0052】
(結果)
結果
図4に結果を示す。また、各群の代表的な極座標配置画像を
図5に示す。
【0053】
健常者、CD36欠損症患者、中性脂肪蓄積心筋血管症患者、及びOMIを伴うTGCV患者では、Total count法及びArithmetic mean法により算出された洗い出し率に有意な差はなかった。
しかし、OMIを伴う非TGCV患者ではArithmetic mean法により算出された洗い出し率が、Total count法により算出されたものと比べ、異常に低い値であった。
【0054】
Arithmetic mean法においてOMIを伴う非TGCV患者で測定された低値の洗い出し率は、TGCVの診断基準を下回る場合もあり、診断するにあたり他の所見によりTGCVを除外する必要がある。
一方で、本発明のTotal count法では、OMIを伴う非TGCV患者においても正確に洗い出し率を算出することができるので、WR値のみで非TGCVと診断できる。