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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024037025
(43)【公開日】2024-03-18
(54)【発明の名称】インクジェット捺染方法
(51)【国際特許分類】
   D06P 5/30 20060101AFI20240311BHJP
   C09D 11/40 20140101ALI20240311BHJP
   B41M 5/00 20060101ALI20240311BHJP
   B41J 2/01 20060101ALI20240311BHJP
   D06P 5/00 20060101ALI20240311BHJP
【FI】
D06P5/30
C09D11/40
B41M5/00 114
B41M5/00 132
B41M5/00 120
B41M5/00 100
B41J2/01 501
B41J2/01 123
B41J2/01 401
B41J2/01 305
D06P5/00 105
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022141644
(22)【出願日】2022-09-06
(71)【出願人】
【識別番号】000105947
【氏名又は名称】サカタインクス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100162396
【弁理士】
【氏名又は名称】山田 泰之
(74)【代理人】
【識別番号】100214363
【弁理士】
【氏名又は名称】安藤 達也
(74)【代理人】
【識別番号】100131587
【弁理士】
【氏名又は名称】飯沼 和人
(72)【発明者】
【氏名】野田 竜太
(72)【発明者】
【氏名】村上 正樹
(72)【発明者】
【氏名】小西 廣幸
【テーマコード(参考)】
2C056
2H186
4H157
4J039
【Fターム(参考)】
2C056EC42
2C056EE18
2C056FB03
2C056HA42
2C056HA46
2H186AA04
2H186AB02
2H186AB05
2H186AB13
2H186AB27
2H186AB39
2H186AB44
2H186DA17
2H186FA01
2H186FA07
2H186FA13
2H186FB11
2H186FB15
2H186FB16
2H186FB17
2H186FB22
2H186FB25
2H186FB29
2H186FB48
2H186FB54
2H186FB56
4H157AA02
4H157AA03
4H157BA15
4H157BA22
4H157BA26
4H157BA27
4H157CA12
4H157CA15
4H157CA29
4H157CB08
4H157CB13
4H157CB36
4H157CB45
4H157CB46
4H157CC01
4H157DA01
4H157DA24
4H157DA34
4H157FA23
4H157GA06
4J039AD03
4J039AD09
4J039AE04
4J039BA13
4J039BA35
4J039BC07
4J039BC10
4J039BE01
4J039BE22
4J039CA06
4J039EA18
4J039EA46
4J039FA03
4J039GA24
(57)【要約】
【課題】インクジェット捺染方法によって白色生地などの淡色生地に画像印刷するにあたり、捺染物の印刷画像の彩度やOD値(画像濃度)、捺染物の風合いを維持し、タックを改善すること。
【解決手段】工程A~Cをこの順で含む、インクジェット捺染方法を提供する:前処理液で前処理された淡色布帛を準備する工程A;前記前処理された淡色布帛に、白色顔料、ガラス転移温度が-25℃以上の水分散性樹脂、及び水を含有する白色インク組成物を、インクジェット塗布する工程B;及び前記白色インク組成物の塗布により形成されたインク層の上に、有彩色顔料、ガラス転移温度が-25℃以上の水分散性樹脂、及び水を含有する有彩色インク組成物を、インクジェット塗布する工程C;であり、前記白色インク組成物の塗布領域における単位面積当たりの白色インク組成物の塗布量が、前記有彩色インク組成物の塗布領域における単位面積当たりの有彩色インク組成物の塗布量に対して、固形分質量比で3.0~13.0倍である。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記の工程A~Cを、この順で含む、インクジェット捺染方法:
前処理液で前処理された淡色布帛を準備する工程A;
前記前処理された淡色布帛に、白色顔料、ガラス転移温度が-25℃以上の水分散性樹脂、及び水を含有する白色インク組成物を、インクジェット塗布する工程B;及び
前記白色インク組成物の塗布により形成されたインク層の上に、有彩色顔料、ガラス転移温度が-25℃以上の水分散性樹脂、及び水を含有する有彩色インク組成物を、インクジェット塗布する工程C;であって、
前記白色インク組成物の塗布領域における単位面積当たりの白色インク組成物の塗布量が、前記有彩色インク組成物の塗布領域における単位面積当たりの有彩色インク組成物の塗布量に対して、固形分質量比で3.0~13.0倍である。
【請求項2】
前記前処理液が、多価金属塩及び水分散性樹脂を含有する、請求項1に記載のインクジェット捺染方法。
【請求項3】
前記白色インク組成物及び/又は有彩色インク組成物に含有される水分散性樹脂がウレタン系樹脂である、請求項1又は2に記載のインクジェット捺染方法。
【請求項4】
布帛をインクジェット捺染するためのインクジェット捺染装置であって、
白色顔料、ガラス転移温度が-25℃以上の水分散性樹脂、及び水を含有する白色インク組成物で布帛を塗布するためのインクジェットヘッドXと;有彩色顔料、ガラス転移温度が-25℃以上の水分散性樹脂、及び水を含有する有彩色インク組成物で布帛を塗布するためのインクジェットヘッドYと;布帛を搬送する搬送機構と;前記インクジェットヘッドXと前記インクジェットヘッドYと前記搬送機構とを制御する制御部とを具備し、
前記制御部は、前記白色インク組成物で布帛に形成された塗膜の上に、前記有彩色インク組成物を塗布するように構成され、かつ
前記制御部は、前記白色インク組成物の塗布領域における単位面積当たりの白色インク組成物の塗布量が、前記有彩色インク組成物の塗布領域における単位面積当たりの有彩色インク組成物の塗布量に対して、固形分質量比で3.0~13.0倍になるように構成される、インクジェット捺染装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インクジェット捺染方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来の捺染は、色材である染料や顔料を溶解する糊を使って、布帛と称される布生地に模様を描き、色材を布帛に固着したうえで水洗いをして、布帛に模様を描く技法である。従来の捺染は、布帛に対して色毎に、スクリーン製版を用いるスクリーン捺染を行い、布帛に模様を描く。これに対して、デジタル捺染はスクリーン製版を用いることなく、布帛に直接、捺染インクを塗布して印刷する手法である。従来の捺染と異なり、デジタル捺染では捺染インクで印刷する前に布帛に対して前処理を行い、捺染インクの布帛での「にじみ」を防止することが求められる。デジタル捺染の方法の一つがインクジェット捺染であり、インクジェット捺染用インクをインクジェットで布帛に塗布して画像を印刷する。
【0003】
インクジェット捺染において用いられるインクジェット捺染用インクは、色材として顔料又は染料を含む場合があるが、顔料を含む場合、染料を含む場合と比較して彩度が低いという課題がある。
【0004】
また、インクジェット捺染によって、黒色生地などの濃色生地に画像印刷する場合は、画像の発色性を向上させるため、前処理された布帛に白色のインクジェット捺染用インクでベタ画像を印刷し、その上にカラー(有彩色)のインクジェット捺染用インクで画像を印刷する方法が知られている(特許文献1)。
【0005】
一方、インクジェット捺染によって、白色生地などの淡色生地に画像印刷する場合は、淡色生地による画像の発色性への影響は少ないため、一般的にはコスト面などを考慮して、白色のインクジェット捺染用インクでベタ画像を形成することなく、直接、カラー(有彩色)のインクジェット捺染用インクで画像印刷することが多い。しかしながら、印刷画像の濃度をより高くする(より鮮明な発色とする)べく、白色生地に画像印刷する場合にも、白色のインクジェット捺染用インクでベタ画像を形成し、その上にカラー(有彩色)のインクジェット捺染用インクで画像を印刷する方法も提案されている(特許文献2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2019-137777号公報
【特許文献2】特開2009-149774号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上述の通り、インクジェット捺染によって、白色生地に画像印刷する場合にも、白色のインクジェット捺染用インクでベタ画像を形成し、その上にカラー(有彩色)のインクジェット捺染用インクで模様を印刷する方法も提案されてはいたが、インクジェットインクの組成や、捺染による印刷条件などを好適化しないと、得られる捺染物の品質、特にタック性が悪化するという課題があることがわかった。
【0008】
そこで本発明は、インクジェット捺染方法によって白色生地などの淡色生地に画像印刷するにあたり、前処理された白色生地などの淡色生地(布帛)に、白色のインクジェット捺染用インクでベタ画像を印刷したのち、有彩色のインクジェット捺染用インクで画像を印刷したときに、捺染物の印刷画像の品質(彩度や画像濃度)を向上させつつ、捺染物の風合いを維持し、タックを改善することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、以下に示すインクジェット捺染方法、及びインクジェット捺染装置に関する。
[1]下記の工程A~Cを、この順で含む、インクジェット捺染方法:
前処理液で前処理された淡色布帛を準備する工程A;前記前処理された淡色布帛に、白色顔料、ガラス転移温度が-25℃以上の水分散性樹脂、及び水を含有する白色インク組成物を、インクジェット塗布する工程B;及び前記白色インク組成物の塗布により形成されたインク層の上に、有彩色顔料、ガラス転移温度が-25℃以上の水分散性樹脂、及び水を含有する有彩色インク組成物を、インクジェット塗布する工程C;であり、
前記白色インク組成物の塗布領域における単位面積当たりの白色インク組成物の塗布量が、前記有彩色インク組成物の塗布領域における単位面積当たりの有彩色インク組成物の塗布量に対して、固形分質量比で3.0~13.0倍である。
[2]前記前処理液が、多価金属塩及び水分散性樹脂を含有する、[1]に記載のインクジェット捺染方法。
[3]前記白色インク組成物及び/又は有彩色インク組成物に含有される水分散性樹脂がウレタン系樹脂である、[1]又は[2]に記載のインクジェット捺染方法。
[4]布帛をインクジェット捺染するためのインクジェット捺染装置であって、
白色顔料、ガラス転移温度が-25℃以上の水分散性樹脂、及び水を含有する白色インク組成物で布帛を塗布するためのインクジェットヘッドXと;有彩色顔料、ガラス転移温度が-25℃以上の水分散性樹脂、及び水を含有する有彩色インク組成物で布帛を塗布するためのインクジェットヘッドYと;布帛を搬送する搬送機構と;前記インクジェットヘッドXと前記インクジェットヘッドYと前記搬送機構とを制御する制御部とを具備し、
前記制御部は、前記白色インク組成物で布帛に形成された塗膜の上に、前記有彩色インク組成物を塗布するように構成され、かつ前記制御部は、前記白色インク組成物の塗布領域における単位面積当たりの白色インク組成物の塗布量が、前記有彩色インク組成物の塗布領域における単位面積当たりの有彩色インク組成物の塗布量に対して、固形分質量比で3.0~13.0倍になるように構成される、インクジェット捺染装置。
【発明の効果】
【0010】
本発明のインクジェット捺染方法により淡色布帛に画像を印刷することで、印刷画像の品質(彩度、OD値など)が高く、風合いが維持されタックが改善された捺染物を得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
[1. インクジェット捺染方法]
本発明のインクジェット捺染方法は、前処理液と、白色インク組成物(白色のインクジェット捺染用インク)と、有彩色インク組成物(有彩色のインクジェット捺染用インク)と、を使用して、布帛に画像を印刷する方法である。ここで、布帛は、淡色を呈する布帛(淡色布帛)であることが好ましい。
【0012】
即ち、本発明のインクジェット捺染方法は、1)前処理液で前処理された布帛を準備する工程Aと、2) 前処理された布帛に、白色インク組成物をインクジェット塗布する工程Bと、3) 白色インク組成物の塗布により形成されたインク層の上に、有彩色インク組成物をインクジェット塗布する工程Cと、をこの順で含む。以下、各工程に分けて説明する。
【0013】
[1-1. 工程A]
本発明のインクジェット捺染方法は、前処理液で前処理された布帛を準備する工程Aを含む。具体的には、布帛に前処理液を塗布するか、布帛を前処理液に浸漬するなどして、布帛に前処理液を付着させればよい。また、他者によって前処理された布帛を入手して、本発明のインクジェット捺染方法に使用してもよい。
【0014】
[1-1-1. 布帛について]
インクジェット捺染方法において前処理される布帛は、前記の通り、淡色を呈する布帛であることが好ましい。淡色布帛とは、白色の布帛を含むが、これに限定されるわけではなく、例えば、明度(L*)が70以上かつ彩度(C*)が20以下の色彩の布帛であればよい。色彩の明度(L*)や彩度(C*)は色彩計で数値化することができる。前処理される布帛の材質は特に限定されず、インクジェット捺染方法によって画像形成される従来の布帛であればよく、例えば:綿、麻、羊毛、絹等の天然繊維;ポリプロピレン、ポリエステル、アセテート、トリアセテート、ポリアミド、ポリウレタン等の合成繊維;ポリ乳酸等の生分解性繊維:などが挙げられ、これらの混紡繊維であってもよい。
【0015】
[1-1-2. 前処理液について]
布帛を前処理するための前処理液は、インクジェット捺染方法において従来から用いられている前処理液であり得る。前処理液は、布帛上で、白色インク組成物と有彩色インク組成物の成分を凝集させ得る。前処理液は、好ましくは、a) 多価金属塩と b) 水分散性樹脂を含み、かつ通常は c) 水性媒体を含み、さらに他の任意成分を含んでいてもよい。
【0016】
a) 前処理液に含まれる多価金属塩は通常は水溶性であり、その例としてCaやMgなどのアルカリ土類金属の解離性塩が挙げられ、なかでもCaの塩類が好ましい。多価金属塩の代表的な例には、CaCl2, Ca(OH)2, (CH3COO)2Ca, MgCl2, Mg(OH)2, (CH3COO) 2Mg、硝酸カルシウムなどが含まれる。前処理液における多価金属塩の含有量は、特に限定されないが、例えば、0.1~40質量%の範囲である。
【0017】
b) 前処理液に含まれる水分散性樹脂は樹脂エマルジョンであってもよく、前処理液中の金属塩と反応して析出しないようなイオン性を有する水分散性樹脂であれば特に制限されず、例えばノニオン性又はカチオン性の水分散性樹脂である。また、インクジェット捺染方法によって得られる画像の濃度を高め、捺染物の布帛の風合いを損なわず、インク塗膜の耐久性及び洗濯堅牢度を高めるため、前処理液に含まれる水分散性樹脂のガラス転移温度は0℃以下であることが好ましい。
【0018】
水分散性樹脂は、樹脂成分として、アクリル系樹脂、スチレン-アクリル系樹脂、ウレタン系樹脂、ポリエステル系樹脂、オレフィン系樹脂、酢酸ビニル系樹脂等のものを挙げることができる。これらは単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。なお、より高い耐水性や洗濯堅牢性が要求される場合は、水分散性樹脂に、風合いが低下しない範囲で、熱により架橋する架橋成分を導入させることが好ましい。
【0019】
前処理液は、水分散性樹脂(又は樹脂エマルジョン)を、固形分含量として0.5~8質量%含むことが好ましい。水分散性樹脂の含有量が0.5質量%以上であると白色度が高まりやすく、8質量%以下であると捺染物の布帛の風合いが維持されやすい。
【0020】
c) 前処理液に含まれる水性媒体は、特に限定はなく、水、又は水と水混和性溶剤との混合溶媒を使用することができる。上記水混和性溶剤の具体例には、グリセリン等の多価アルコール類、(ポリ)エチレングリコール、(ポリ)プロピレングリコール等の(ポリ)アルキレングリコールとそのアルキルエーテル類等が含まれ、これらは2種以上を併用してもよい。
【0021】
前処理液は、必要に応じて界面活性剤を含んでいてもよい。界面活性剤は、処理液の表面張力を低下させ、処理される布帛との濡れ性を高める。界面活性剤の好ましい例には、アセチレングリコール系界面活性剤、シリコン系界面活性剤、フッ素系界面活性剤などが含まれる。処理液における界面活性剤の含有量は、特に限定されないが、0.01~1質量%の範囲であり得る。
【0022】
前処理液は、必要に応じて、粘度付与のための水溶性高分子を含みうる。水溶性高分子の具体例としては、天然高分子ではトウモロコシ、小麦等のデンプン物質、カルボキシメチルセルロース、メチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース等のセルロース系物質、アラビヤゴム、ローカストビーンガム、トラガカントガム、グアーガム、タマリンド種子等の多糖類、ゼラチン、カゼイン等のタンパク質物質、タンニン系物質、リグニン系物質等の公知の天然水溶性高分子が挙げられる。また、合成高分子としては、例えば、公知のポリビニルアルコール系化合物、ポリエチレンオキサイド系化合物等が挙げられる。これらの中でも多糖類系高分子やセルロース系高分子が好ましい。さらに前処理液は、必要に応じて、pH調整剤、防腐剤・防かび剤、防錆剤、キレート剤等を添加してもよい。
【0023】
前処理液は、配合される各成分を水性媒体中に混合して、分散又は溶解させて製造することができる。
【0024】
なお、前処理液の布帛への付着を、インクジェット印刷手法による塗布で行う場合には、前処理液の粘度(20℃)は3mPa・s以上10mPa・s以下であることが好ましく、表面張力(20℃)は20mN/m以上40mN/mであることが好ましい。
【0025】
[1-1-3. 前処理の条件について]
布帛を前処理することによって、捺染物における画像の発色を向上させることができる。布帛の前処理は、前処理液を布帛に付着することで行うが、例えば、布帛を前処理液に浸漬したり、各種塗工(ローター)手段や噴霧(スプレー)手段、インクジェット印刷手段などで前処理液を布帛に塗布することができる。
【0026】
布帛に付着させる前処理液の単位面積当たりの量は、前処理液の質量として、例えば、10g/m以上、好ましくは50g/m以上、より好ましくは100g/m以上であり;また、2000g/m以下、好ましくは1000g/m以下、より好ましくは500g/m以下である。また、布帛に付着させる前処理液の単位面積当たりの量は、前処理液の固形分質量として、例えば、0.5g/m以上、好ましくは1g/m以上、より好ましくは3g/m以上であり;また、50g/m以下、好ましくは30g/m以下、より好ましくは15g/m以下である。処理液の付着量を前記範囲とすることで、布帛に対して処理液を均一に塗布しやすく、捺染物の画像の凝集ムラを抑制でき、発色を高めることができる。
【0027】
布帛の前処理において、前処理液を布帛に付着させた後、付着した前処理液の溶媒などを乾燥させるが、乾燥させない場合もあり得る。乾燥は、自然乾燥であってもよいし、例えば加熱により行ってもよく、ヒートプレス法、常圧スチーム法、高圧スチーム法、及びサーモフィックス法を利用することができる。
【0028】
[1-2. 工程B]
本発明のインクジェット捺染方法は、前処理された布帛に白色インク組成物(白色のインクジェット捺染用インク)をインクジェット塗布する工程Bを含む。
【0029】
[1-2-1. 白色インク組成物(白色のインクジェット捺染用インク)]
本発明のインクジェット捺染方法で用いられる白色インク組成物は、a)白色顔料、c)水分散性樹脂、及びd)水を含む水性媒体、並びにb)高分子分散剤や、e)他の成分、を含むことができる。
【0030】
白色インク組成物において、固形分(白色顔料、高分子分散剤、水分散性樹脂を含む)の合計量(総固形分)は、インク組成物中に10~30質量%であることが好ましく、15~25質量%であることがより好ましい。総固形分が10質量%未満である場合は、布帛に印刷した画像の濃度が低下し、30質量%を超えるとインク組成物の粘度が高くなることもあり吐出安定性が低下する傾向がある。
【0031】
a)白色顔料の例には、二酸化チタン、酸化亜鉛、硫化亜鉛、酸化アンチモン、及び酸化ジルコニウム等の白色無機顔料等が挙げられ、二酸化チタンや酸化亜鉛等の遮蔽性の高い白色顔料を用いることが好ましいが、なかでも、高い遮光性が得られる点から二酸化チタンが好ましい。二酸化チタンとしては、従来からインクジェット用インクに配合されているものを用いることができる。例えば、ルチル型、アナターゼ型等の各種の二酸化チタンを、アルミナ/シリカ(質量比)=100/0~33.3/66.7の表面処理剤で表面被覆処理した、平均粒子径0.21~0.28μm、吸油量が15~33である二酸化チタンが好ましい。ここで吸油量は、JIS K 5101に規定されている吸油量である。
【0032】
白色インク組成物における白色顔料の含有量は、特に限定されないが、通常は3質量%以上であり、好ましくは5質量%以上であり、より好ましくは7質量%以上であり;また、通常は25質量%以下であり、好ましくは20質量%以下であり、より好ましくは15質量%以下であり;特に好ましくは12質量%以下である。
【0033】
b)白色インク組成物に含まれる高分子分散剤は、例えば、ガラス転移温度が0~80℃の範囲にあるアニオン性水溶性樹脂を、塩基性化合物で中和して得られる樹脂であることが好ましい。0℃以上のガラス転移温度を有するアニオン性水溶性樹脂を塩基性化合物で中和して得られる樹脂は凝集がしにくいため、インク組成物の保存安定性と吐出安定性が改善されやすい。また、80℃以下のガラス転移温度を有するアニオン性水溶性樹脂を塩基性化合物で中和して得られる樹脂を含むインク組成物では、捺染物の布帛の風合いを維持しやすい。
【0034】
アニオン性水溶性樹脂としては、アクリル酸、メタクリル酸、イタコン酸、マレイン酸、無水マレイン酸、マレイン酸モノアルキルエステル、シトラコン酸、無水シトラコン酸、シトラコン酸モノアルキルエステル等のカルボキシル基含有不飽和単量体(開環してカルボキシル基を与える酸無水物基含有不飽和単量体を含む)の1種又は2種以上と;スチレン、α-メチルスチレン、ビニルトルエン等のスチレン系単量体、ベンジルメタクリレート、ベンジルアクリレート等のアラルキルメタクリレート又はアクリレート、メチルメタクリレート、ブチルメタクリレート、2-エチルヘキシルメタクリレート、ステアリルメタクリレート、ラウリルメタクリレート、メチルアクリレート、ブチルアクリレート、2-エチルヘキシルアクリレート、ステアリルアクリレート、ラウリルアクリレート等のアルキルメタクリレート又はアクリレート等から選択される不飽和単量体の1種又は2種以上と;を単量体として組み合わせて得られる共重合体であり得る。
【0035】
また、アニオン性水溶性樹脂は、その酸価が100~300mgKOH/gであることが好ましい。高分子分散剤の水性媒体への溶解性を確保し、得られる捺染物の耐水性を高めるためである。さらに、アニオン性水溶性樹脂は、その質量平均分子量が5000~40000であることが好ましい。白色顔料の顔料分散性及び分散安定性を確保するためである。
【0036】
アニオン性水溶性樹脂の好ましい例には、(メタ)アクリル酸アルキルエステル/(メタ)アクリル酸共重合体、スチレン/(メタ)アクリル酸共重合体、スチレン/(メタ)アクリル酸/(メタ)アクリル酸アルキルエステル共重合体、スチレン/マレイン酸/(メタ)アクリル酸アルキルエステル共重合体、スチレン/マレイン酸ハーフエステル共重合体、スチレン/マレイン酸ハーフエステル-(メタ)アクリル酸アルキルエステル共重合体、スチレン/(メタ)アクリル酸/(メタ)アクリル酸アルキルエステル/ベンジル(メタ)アクリレート共重合体、アクリル酸/ラウリルアクリレート/スチレン共重合体等が含まれる。
【0037】
アニオン性水溶性樹脂を中和するための塩基性化合物としては、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等のアルカリ金属水酸化物;トリエチルアミン、モノエタノールアミン、トリエタノールアミン、トリエチレンジアミン等の有機塩基性化合物を挙げることができる。これらは単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0038】
白色インク組成物における高分子分散剤の含有量は、特に限定されないが、インク組成物に対して0.2~10質量%であることが好ましく;かつ白色顔料100質量部に対して通常は2質量部以上であり、好ましくは5質量部以上であり、また、通常は60質量部以下であり、好ましくは40質量部以下である。白色顔料に対する高分子分散剤の含有量が2質量部未満の場合は、水性媒体への顔料分散性が低下する。白色顔料に対する高分子分散剤の含有量が60質量部を超えると、インク組成物に対する高分子分散剤の含有量が高くなってインク組成物の粘度があがりやすくなるため、後述する水分散性樹脂(樹脂エマルジョン)の配合量や後述する水性媒体の配合量などが制限されるため、捺染物の洗濯堅牢性や、インク組成物の吐出安定性が低下する。
【0039】
c)白色インク組成物に含まれる水分散性樹脂は、通常は樹脂エマルジョンであり、ノニオン性樹脂エマルジョン及び/又はアニオン性樹脂エマルジョンであり得る。白色インク組成物に含まれる水分散性樹脂(つまり、樹脂エマルジョン)のガラス転移温度は-25℃以上である。水分散性樹脂のガラス転移温度が一定以上(つまり、-25℃以上)であると、捺染物のタックが抑えられ、べたつきを感じにくくなる。さらに、白色インク組成物に含まれる水分散性樹脂は、ガラス転移温度が0℃以上であると、捺染物のタックがより低下し、より効果的にべたつき感を抑えることができる。
【0040】
また、白色インク組成物に含まれる水分散性樹脂は、そのガラス転移温度が100℃以下であることが好ましく、90℃以下であることがより好ましい。ガラス転移温度が一定以下 (つまり100℃以下) であると、捺染物の風合いが維持されるとともに、捺染物の画像の品質(ひび割れの防止など)も高まる。
【0041】
一方で、水分散性樹脂は、捺染物の布帛の風合いをより効果的に維持するという点からは、水分散性樹脂がノニオン性樹脂エマルジョンであれば、そのガラス転移温度は20℃より低いことが好ましく、アニオン性樹脂エマルジョンであれば、そのガラス転移温度は0℃より低いことが好ましい場合もある。
【0042】
白色インク組成物中に含まれる水分散性樹脂(樹脂エマルジョン)は、熱により架橋する架橋成分を樹脂の構成成分として含むと、より高い耐水性や洗濯堅牢性を捺染物に付与することができる。そのため、捺染物の風合いが低下しない範囲で、水分散性樹脂は架橋成分を含むことが好ましい。
【0043】
白色インク組成物に含まれる水分散性樹脂(樹脂エマルジョン)は、ウレタン系樹脂、アクリル系樹脂、スチレン-アクリル系樹脂、フルオレン系樹脂、ポリオレフィン系樹脂、ロジン変性樹脂、テルペン系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリアミド系樹脂、エポキシ系樹脂、塩化ビニル系樹脂、塩化ビニル-酢酸ビニル共重合体、エチレン-酢酸ビニル系樹脂等であり得るが;塗膜のべたつきが少ないという観点からウレタン系樹脂であることが好ましい。
【0044】
白色インク組成物に水分散性樹脂として含まれるウレタン系樹脂は、イソシアネート基が他の反応性の基(例えば、水酸基、アミノ基、ウレタン結合基、カルボキシル基等)と反応して形成される、ウレタン結合、尿素結合、アロファネート結合等を含む樹脂である。したがって、例えば尿素樹脂は、ウレタン系樹脂に包含される。ウレタン系樹脂としては、イソシアネート基を有する化合物と水酸基を有する化合物とを反応して得られるウレタン結合を有する化合物であることが好ましい。
【0045】
ウレタン系樹脂は、エーテル結合を含むポリエーテル型、エステル結合を含むポリエステル型、カーボネート結合を含むポリカーボネート型などのいずれであってもよい。これらのうち、ポリカーボネート型又はポリエーテル型のウレタン系樹脂であって、かつ架橋性基を有するウレタン系樹脂は、捺染物の画像の摩擦堅牢性、捺染物の風合いを維持しやすい点でより好ましい。
【0046】
ウレタン系樹脂は、架橋性基を含有するウレタン系樹脂であることが好ましい。架橋性基としては、イソシアネート基、シラノール基、カルボキシル基、ヒドロキシル基が挙げられ、イソシアネート基が、化学的に保護(キャッピングあるいはブロッキング)されている置換基(ブロックドイソシアネート基)が好ましい。ブロックドイソシアネート基は、熱が加えられることにより脱保護されて活性化し、架橋結合(例えば、ウレタン結合、尿素結合、アロファネート結合等)を形成する。また、架橋性基を有するウレタン系樹脂の架橋性基は、1分子に3つ以上設けられていることが好ましく、そのような場合架橋性基の反応により、架橋構造が形成される。
【0047】
架橋性基を有するウレタン系樹脂エマルジョンは、市場から入手することも可能であり:タケラックWS-6021(Tg=40℃) (商品名、三井化学株式会社、ウレタン系樹脂エマルジョン、ポリエーテル由来骨格を有するポリエーテル系ポリウレタン);タケラックWS-5100 (Tg=120℃) (商品名、三井化学株式会社、ウレタン系樹脂エマルジョン、ポリカーボネート由来骨格を有するポリカーボネート系ポリウレタン);スーパーフレックス870 (Tg=78℃), 150 (Tg=40℃), 420 (Tg=-10℃), 460 (Tg=-25℃), 470 (Tg=-31℃), 620 (Tg=43℃), 130 (Tg=101℃) (商品名、第一工業製薬株式会社、ウレタン系樹脂エマルジョン);パーマリンUA-150 (Tg=36℃) (商品名、三洋化成工業株式会社、ウレタン系樹脂エマルジョン);サンキュア-2710 (商品名、日本ルーブリゾール株式会社、ウレタン系樹脂エマルジョン);Neo Rez R-9660, R-9637, R-940 (商品名、楠本化成株式会社、ウレタン系樹脂エマルジョン);アデカボンタイターHUX-380, 290K (商品名、株式会社ADEKA、ウレタン系樹脂エマルジョン);インプラニールDL1537 (Tg=-4℃)(商品名、Covestro、ウレタン系樹脂エマルジョン)等を例示することができるが、これらのうちから-25℃以上のガラス転移温度を有するものを用いることができる。
【0048】
白色インク組成物における水分散性樹脂(樹脂エマルジョン)の含有量は、固形分換算で、インクの総質量(100質量%)に対して1質量%以上であることが好ましく、2.5質量%以上であることがより好ましく、3質量%以上であることがさらに好ましく;また、20質量%以下であることが好ましく、15質量%以下であることがより好ましく、12質量%以下であることがさらに好ましい。水分散性樹脂の含有量を前記範囲とすることで、インク組成物の吐出安定性と、得られた記録物の摩擦堅牢性を両立することが可能となる。
【0049】
d)白色インク組成物に含まれる水性媒体は、特に限定はなく、従来からインクジェット分野で一般的に使用されている水、又は水と水混和性溶剤との混合溶媒を使用することができる。
【0050】
水混和性溶剤の具体例として、多価アルコール及びグリコールエーテルが挙げられる。多価アルコールの例には、1,2-ペンタンジオール、メチルトリグリコール(トリエチレングリコールモノメチルエーテル)、ブチルトリグリコール(トリエチレングリコールモノブチルエーテル)、ブチルジグリコール(ジエチレングリコールモノブチルエーテル)、ジプロピレングリコールモノプロピルエーテル、グリセリン、1,2-ヘキサンジオール、1,2-ヘプタンジオール、1,3-プロパンジオール、1,2-ブタンジオール、1,3-ブタンジオール、1,4-ブタンジオール、2,3-ブタンジオール、2-メチル-3-フェノキシ-1,2-プロパンジオール、3-(3-メチルフェノキシ)-1,2-プロパンジオール、3-ヘキシルオキシ-1,2-プロパンジオール、2-ヒドロキシメチル-2-フェノキシメチル-1,3-プロパンジオール、3-メチル-1,3-ブタンジオール、1,3-プロパンジオール、1,2-ブタンジオール、1,2-ペンタンジオール、1,4-ブタンジオール、1,5-ペンタンジオール、1,6-ヘキサンジオール、2-メチル-2,4-ペンタンジオール、3-メチル-1,5-ペンタンジオール等のグリコール類などが含まれる。グリコールエーテルの例には、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ポリエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、トリプロピレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレングリコールから選択されるグリコールのモノアルキルエーテルが含まれる。水混和性溶剤は、1種又は2種以上を併用してもよい。
【0051】
白色インク組成物における水混和性溶剤の含有量は、インクに求められる吐出安定性などを考慮して設定されればよく、インク組成物に対して1質量%以上、好ましくは5質量%以上、より好ましくは10質量%以上、さらに好ましくは15質量%以上であり;一方、50質量%以下、好ましくは45質量%以下、より好ましくは40質量%以下である。
【0052】
e)白色インク組成物に含まれる他の成分として、必要に応じて、界面活性剤、粘度調整剤、消泡剤、成膜助剤等の各種添加剤が挙げられる。界面活性剤は、特に限定されないが、アセチレングリコール系界面活性剤、シリコン系界面活性剤、フッ素系界面活性剤を好ましく用いることができる。また、界面活性剤は、捺染物の発色にムラを生じにくくするため、ノニオン性の界面活性剤であることが好ましい。白色インク組成物における界面活性剤の含有量は、特に限定されないが、通常は0.1質量%以上、好ましくは0.3質量%以上であり、また、通常は3質量%以下であり、好ましくは1.5質量%以下である。
【0053】
白色インク組成物は、その粘度(25℃, 例えば東機産業(株) のR115型粘度計 (RE017) で測定可能)が2~20mPa・sの範囲であることが好ましく、その表面張力(25℃, 例えばレスカ社 自動濡れ性試験機(WET-6000)で測定可能)が25~45mN/mの範囲であることが好ましい。
【0054】
白色インク組成物は、従来一般に用いられる製法により製造することができる。例えば、a)白色顔料、b)高分子分散剤、d)水性媒体などを混合して;各種分散・撹拌機、例えば、ビーズミル、ボールミル、サンドミル、アトライター、ロールミル、アジテータ、ヘンシェルミキサー、コロイドミル、超音波ホモジナイザー、超高圧ホモジナイザー、パールミル等を利用して分散して白色顔料分散液を調製し;さらにc)水分散性樹脂や、必要に応じて、界面活性剤、粘度調整剤、消泡剤等の材料を添加混合して、白色インク組成物を得ることができる。
【0055】
[1-2-2. 白色インク組成物の塗布条件]
本発明のインクジェット捺染方法は、前処理された布帛に、白色インク組成物をインクジェット塗布して、前処理された布帛に白色インク層を形成する。白色インク層は、布帛の前処理された領域のうち、後述する有彩色インク組成物を塗布する領域の一部又は全部(好ましくは全部)に形成すればよい。
【0056】
白色インク組成物の塗布において、白色インク組成物の塗布回数は1回でもよいし、複数回でもよい(つまり、繰り返し塗布して重ね塗りしてもよい)。白色インク組成物を塗布する回数は、例えば2~8回である。白色インク組成物を複数回塗布する場合には、1回ごとに乾燥させてもよいし、させなくてもよい。
【0057】
白色インク組成物の塗布において、白色インク組成物の塗布領域における単位面積当たりの塗布量(布帛への付着量)は、後述の有彩色インク組成物の塗布領域における単位面積当たりの塗布量(布帛への付着量)に対して、固形分質量比で3.0~13.0倍である。さらに、白色インク組成物の塗布量は、有彩色インク組成物の塗布量に対して、固形分質量比で5倍以上であることが好ましくは、7倍以上であることがより好ましく;また、12倍以下であることが好ましく、11倍以下であることがより好ましい。当該比率を3倍以上とすることで、捺染物の画像品質が改善され、例えば画像の彩度やOD値が向上する。また、当該比率を13倍以下とすることで、捺染物の風合いを維持することができる。
【0058】
白色インク組成物の固形分質量とは、布帛に塗布した白色インク組成物から乾燥により溶媒を除去した後のインク層の重量に相当する。当該インク層には、少なくとも、白色顔料と、水分散性樹脂とが含まれ;さらに通常は、顔料分散剤である高分子分散剤、乾燥によって除去されない他の任意成分が含まれる。
【0059】
白色インク組成物の塗布において、白色インク組成物の塗布領域における単位面積当たりの塗布量(布帛への付着量)は、固形分質量として、例えば0.2g/m以上であり、好ましくは0.3g/m以上であり、より好ましくは0.4g/m以上であり;また、例えば4.0g/m以下であり、好ましくは3.0g/m以下であり、より好ましくは2.5g/m以下である。
【0060】
白色インク組成物の塗布量を、固形分質量として、0.2g/m以上とすることで、白色の発色性が良好となり、背景画像として好ましい。また、当該塗布量を0.2g/m以上とすることで、画像の摩擦堅牢性が優れ、凝集ムラが目立たない傾向があり好ましい。一方で、当該塗布量を4.0g/m以下とすることで、捺染物の風合いが維持されやすい。
【0061】
白色インク組成物の塗布において、白色インク組成物の塗布領域における単位面積あたりの塗布量(布帛への付着量)は、後述の有彩色インク組成物の塗布領域における単位面積あたりの塗布量(布帛への付着量)に対して、インク組成物の質量比で2.0~8.0倍である。さらに、白色インク組成物の塗布量は、有彩色インク組成物の塗布量に対して、インク組成物の質量比で3.0倍以上であることが好ましく、3.5倍以上であることがより好ましく;7.0倍以下であることが好ましく、6.5倍以下であることがより好ましく、6.0倍以下であることがさらに好ましい。当該比率を2倍以上とすることで、捺染物の画像品質が改善され、例えば画像の彩度やOD値が向上する。また、当該比率を8倍以下とすることで、捺染物の風合いが維持されやすい。
【0062】
白色インク組成物の塗布において、白色インク組成物の塗布領域における単位面積当たりの塗布量(布帛への付着量)は、インク組成物の質量として、例えば1g/m以上であり、好ましくは1.5g/m以上であり、より好ましくは2g/m以上であり;また、例えば20g/m以下であり、好ましくは15g/m以下であり、より好ましくは13g/m以下である。なお、白色インク組成物を複数回塗布する場合には、その合計量を塗布量とする。
【0063】
白色インク組成物の塗布量を、インク組成物の質量として、1g/m以上とすることで、白色の発色性が良好となり、背景画像として好ましい。また、当該塗布量を1g/m以上とすることで、画像の摩擦堅牢性が優れ、凝集ムラが目立たない傾向があり好ましい。一方で、当該塗布量を20g/m以下とすることで、捺染物の風合いが維持されやすい。
【0064】
白色インク組成物を布帛に塗布した後であって、有彩色インク組成物を塗布する前に、白色インク組成物の水性溶媒などを乾燥させる必要はないが、乾燥させてもよい。
【0065】
[1-3. 工程C]
本発明のインクジェット捺染方法は、白色インク組成物の布帛への塗布により形成されたインク層の上に、有彩色インク組成物をインクジェット塗布する工程Cを含む。
【0066】
[1-3-1. 有彩色インク組成物(有彩色のインクジェット捺染用インク)]
本発明のインクジェット捺染方法で用いられる有彩色インク組成物は、A)有彩色顔料と、C)結着成分である水分散性樹脂と、D)水を含む水性媒体を含有し、通常はB)高分子分散剤をさらに含み、E)他の任意成分を含むことができる。なお、有彩色インク組成物の組成や特性は、前述の[1-2-1]で説明した「白色インク組成物」の組成や特性と共通する点が多いため;白色インク組成物に関する前述記載を適宜に参照して、有彩色インク組成物を以下に説明する。
【0067】
有彩色インク組成物において、固形分(顔料、高分子分散剤、水分散性樹脂を含む)の合計量(総固形分)は、インク組成物に対して5~20質量%の範囲であることが好ましい。総固形分が5質量%未満である場合は、布帛に印刷した画像の濃度が低下し、20質量%を超えるとインク組成物の吐出安定性が低下する傾向にある。
【0068】
A)有彩色インク組成物に含まれる有彩色顔料は、例えば、有彩色の有機顔料又は黒色顔料としてのカーボンブラックであり得るが;彩度の向上などの本発明による効果が発現しやすいのは、有彩色の有機顔料である。有彩色の有機顔料は、アゾレーキ、不溶性アゾ顔料、縮合アゾ顔料、キレートアゾ顔料等のアゾ顔料、フタロシアニン顔料、ペリレン顔料、アントラキノン顔料、キナクリドン顔料、ジオキサジン顔料、チオインジゴ顔料、イソインドリノン顔料、キナフタロン顔料等の多環式顔料、塩基性反応型レーキ、酸性染料型レーキ等の染料レーキ、ニトロ顔料などであり得る。なお、有彩色インク組成物に含まれる顔料は、その一部又は全部が有彩色顔料であればよく、一部が白色顔料であっても構わない。
【0069】
特に、鮮明な色相の表現を可能とする点から、C. I. Pigment Violet 19やC. I. Pigment Red 2, 3, 5, 16, 23, 31, 49, 57, 63, 122, 146, 177, 202, 242, 254等の赤色系顔料;C. I. Pigment Blue 1, 2, 15:3, 16, 17等の青色系顔料;C. I. Pigment Yellow 3, 4, 5, 7, 14, 17, 50, 51, 74, 81, 83, 98, 105, 128, 138, 139, 151, 155, 180, 185等の黄色系顔料等が使用できる。
【0070】
有彩色インク組成物における顔料の含有量は、インクに対して、通常は1質量%以上であり、好ましくは2質量%以上であり;また、通常は15質量%以下であり、好ましくは10質量%以下である。
【0071】
B)有彩色インク組成物に含まれる高分子分散剤は、アニオン性水溶性樹脂を塩基性化合物で中和して得られる高分子分散剤であり得る。アニオン性水溶性樹脂は、そのガラス転移温度が40~90℃(より好ましくは50~90℃)であり、酸価が100~300mgKOH/g(より好ましくは130~240mgKOH/g)、質量平均分子量が5000~40000(より好ましくは8000~30000)であることが好ましい。
【0072】
アニオン性水溶性樹脂の酸価が100mgKOH/g以上であると、水性媒体中への高分子分散剤の溶解性が十分に得られ、300mgKOH/g以下であると、捺染物の画像の耐水性が高まりやすい。アニオン性水溶性樹脂のガラス転移温度が40℃以上であると、顔料分散粒子同士の凝集が起こりにくく、保存安定性と吐出安定性が高まりやすく、90℃以下であると捺染物の風合いを維持しやすい。アニオン性水溶性樹脂の質量平均分子量が5000以上であると、インク組成物における顔料分散安定性が高まり、40000以下であると、水性媒体中への顔料分散性がよくなる。
【0073】
有彩色インク組成物におけるアニオン性水溶性樹脂を構成する単量体の例は、前述の白色インク組成物におけるアニオン性水溶性樹脂の単量体の例と同様であり得る。すなわち、有彩色インク組成物に含まれるアニオン性水溶性樹脂は、例えば、アクリル酸、メタクリル酸、イタコン酸、マレイン酸、無水マレイン酸、マレイン酸モノアルキルエステル、シトラコン酸、無水シトラコン酸、シトラコン酸モノアルキルエステル等のカルボキシル基含有不飽和単量体(開環してカルボキシル基を与える酸無水物基含有不飽和単量体を含む)の1種又は2種以上と;スチレン、α-メチルスチレン、ビニルトルエン等のスチレン系単量体、ベンジルメタクリレート、ベンジルアクリレート等のアラルキルメタクリレート又はアクリレート、メチルメタクリレート、ブチルメタクリレート、2-エチルヘキシルメタクリレート、ステアリルメタクリレート、ラウリルメタクリレート、メチルアクリレート、ブチルアクリレート、2-エチルヘキシルアクリレート、ステアリルアクリレート、ラウリルアクリレート等のアルキルメタクリレート又はアクリレート等から選択される不飽和単量体の1種又は2種以上と、を重合反応させて得られる共重合体が利用できる。
【0074】
有彩色インク組成物におけるアニオン性水溶性樹脂の具体例は、前述の白色インク組成物におけるアニオン性水溶性樹脂の具体例と同様であり;(メタ)アクリル酸アルキルエステル/(メタ)アクリル酸共重合体、スチレン/(メタ)アクリル酸共重合体、スチレン/(メタ)アクリル酸/(メタ)アクリル酸アルキルエステル共重合体、スチレン/マレイン酸/(メタ)アクリル酸アルキルエステル共重合体、スチレン/マレイン酸ハーフエステル共重合体、スチレン/マレイン酸ハーフエステル/(メタ)アクリル酸アルキルエステル共重合体、スチレン/(メタ)アクリル酸/(メタ)アクリル酸アルキルエステル/ベンジル(メタ)アクリレート共重合体、アクリル酸/ラウリルアクリレート/スチレン共重合体等が含まれる。
【0075】
有彩色インク組成物における高分子分散体を得るためにアニオン性水溶性樹脂を中和する塩基性化合物の例は、前述の白色インク組成物におけるアニオン性水溶性樹脂の例と同様であり、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等のアルカリ金属水酸化物;トリエチルアミン、モノエタノールアミン、トリエタノールアミン、トリエチレンジアミン等の有機塩基性化合物を挙げることができる。これらは単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0076】
有彩色インク組成物における高分子分散剤の含有量は、インク組成物に対して0.5~10質量%であることが好ましく;かつ有彩色顔料100質量部に対して好ましくは20質量部以上であり、より好ましくは30質量部以上であり;また、好ましくは60質量部以下であり、より好ましくは50質量部以下である。高分子分散剤の着色顔料に対する含有量が20質量部以上であると、水性媒体への顔料分散性が高まり、60質量部以下であると、インク組成物の粘度も高まりにくく、水分散性樹脂(アニオン性樹脂エマルジョンやノニオン性樹脂エマルジョンなど)の配合量や、後述する水性媒体の配合量等の設計自由度が高まり、結果として捺染物の洗濯堅牢性、及びインク組成物の吐出安定性が改善する。
【0077】
C)有彩色インク組成物に含まれる水分散性樹脂は、通常は樹脂エマルジョンであり、アニオン性樹脂エマルジョン及び/又はノニオン性樹脂エマルジョンであり得る。有彩色インク組成物に含まれる水分散性樹脂(又は樹脂エマルジョン)は、白色インク組成物に含まれる水分散性樹脂と同様、そのガラス転移温度が-25℃以上であり、0℃以上であることが好ましい。捺染物のタック性が高まり、べたつきが発生するのを防ぐためである。
【0078】
また、有彩色インク組成物に含まれる水分散性樹脂は、そのガラス転移温度が100℃以下であることが好ましく、90℃以下であることがより好ましい。ガラス転移温度が一定以下(つまり100℃以下) であると、捺染物の風合いが維持されるとともに、捺染物の画像の品質(ひび割れの防止など)も高まる。
【0079】
一方、有彩色インク組成物に含まれる水分散性樹脂は、白色インク組成物に含まれる水分散性樹脂と同様、アニオン性樹脂エマルジョン及び/又はノニオン性樹脂エマルジョンであり得るが、アニオン性樹脂エマルジョンのガラス転移温度は0℃以下であり、ノニオン性樹脂エマルジョンのガラス転移温度は0℃以下であることが好ましい場合がある。樹脂エマルジョンのガラス転移温度が0℃より高いと、得られる捺染物の布帛の風合いが低下する場合もある。
【0080】
有彩色インク組成物に含まれる水分散性樹脂は、白色インク組成物に含まれる水分散性樹脂と同様の理由で、熱により架橋する架橋成分を樹脂の構成成分として含むことが好ましい。
【0081】
有彩色インク組成物に含まれる水分散性樹脂は、白色インク組成物に含まれる水分散性樹脂と同様、ウレタン系樹脂、アクリル系樹脂、スチレン-アクリル系樹脂、フルオレン系樹脂、ポリオレフィン系樹脂、ロジン変性樹脂、テルペン系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリアミド系樹脂、エポキシ系樹脂、塩化ビニル系樹脂、塩化ビニル-酢酸ビニル共重合体、エチレン-酢酸ビニル系樹脂等であり得るが;塗膜のべたつきが少ないという観点からウレタン系樹脂であることが好ましい。
【0082】
有彩色インク組成物に含まれるウレタン系樹脂は、白色インク組成物に含まれるウレタン系樹脂と同様、ウレタン結合、尿素結合、アロファネート結合などを含む樹脂であり得るが、好ましくはイソシアネート基を有する化合物と水酸基を有する化合物とを反応して得られるウレタン結合を有する化合物である。
【0083】
有彩色インク組成物に含まれるウレタン系樹脂は、白色インク組成物に含まれるウレタン系樹脂と同様の理由で、ポリエーテル型、ポリエステル型、ポリカーボネート型のいずれでもよいが;ポリエーテル型又はポリカーボネート型のウレタン系樹脂であることがより好ましい。
【0084】
有彩色インク組成物に含まれるウレタン系樹脂は、白色インク組成物に含まれるウレタン系樹脂と同様、架橋性基を含有するウレタン系樹脂であることが好ましく;好ましい架橋性基の例や、架橋性基の数なども、白色インク組成物に含まれるウレタン系樹脂と同様である。
【0085】
有彩色インク組成物に含まれるウレタン系樹脂は、白色インク組成物に含まれるウレタン系樹脂と同様、市場から入手することが可能であり;その具体例も、白色インク組成物に含まれるウレタン系樹脂の具体例と同様である。
【0086】
有彩色インク組成物における水分散性樹脂(樹脂エマルジョン)の含有量は、固形分換算で、インクの総質量(100質量%)に対して1質量%以上であることが好ましく、下限値は2.5質量%以上であることがより好ましく、3質量%以上であることがさらに好ましく;また、20質量%以下であることが好ましく、15質量%以下であることがより好ましく、12質量%以下であることがさらに好ましい。水分散性樹脂の含有量を前記範囲とすることで、インク組成物の吐出安定性と、得られた記録物の摩擦堅牢性を両立することが可能となる。
【0087】
D)有彩色インク組成物に含まれる水性媒体としては、白色インク組成物に含まれる水性媒体と同様、従来からインクジェット分野で一般的に使用されている水、又は水と水混和性溶剤との混合物を使用することができる。有彩色インク組成物に含まれる水混和性溶剤の具体例は、白色インク組成物に含まれる水混和性溶剤の具体例と同様である。
【0088】
有彩色インク組成物は、良好な吐出安定性を得るために、界面活性剤を含んでいてもよく、アニオン性界面活性剤、ノニオン性界面活性剤を含むことができる。吐出安定性、発泡・起泡の少ないインクジェット捺染用インク組成物とするには、ノニオン性界面活性剤を含むことが好ましい。
【0089】
有彩色インク組成物における界面活性剤の含有量は、インク組成物中に0.1~2.0質量%の範囲であることが好ましい。界面活性剤の使用量が0.1質量%以上であると、所望の界面活性(表面張力を下げる)効果が得られやすく、2.0質量%以下であると、インク組成物の吐出安定性が高まりやすい。
【0090】
ノニオン性界面活性剤の具体例には、アセチレングリコール系界面活性剤、アセチレンアルコール系界面活性剤、ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンオクチルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンドデシルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルアリルエーテル、ポリオキシエチレンオレイルエーテル、ポリオキシエチレンラウリルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシアルキレンアルキルエーテルなどのエーテル系; ポリオキシエチレンオレイン酸、ポリオキシエチレンオレイン酸エステル、ポリオキシエチレンジステアリン酸エステル、ソルビタンラウレート、ソルビタンモノステアレート、ソルビタンモノオレエート、ソルビタンセスキオレート、ポリオキシエチレンモノオレエート、ポリオキシエチレンステアレート等のエステル系; ジメチルポリシロキサン等のポリエーテル変性シロキサン系界面活性剤;
その他フッ素アルキルエステル、パーフルオロアルキルカルボン酸塩等の含フッ素系界面
活性剤等が含まれる。ノニオン界面活性剤は、1種でもよく、2種以上を併用することもできる。これらの中でも、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、アセチレングリコールのエチレンオキサイド付加物が特に好ましい。
【0091】
有彩色インク組成物は、さらに必要に応じて、粘度調整剤、消泡剤、成膜助剤等の各種添加剤を含むことができる。
【0092】
有彩色インク組成物は、白色インク組成物と同様、その粘度が2~20mPa・sの範囲であることが好ましく、その表面張力が25~45mN/mの範囲であることが好ましい。
【0093】
有彩色インク組成物は、一般的な製法により製造することができる。例えば、A)有彩色顔料、B)高分子分散剤、D)水性媒体などを混合して;各種分散・撹拌機、例えば、ビーズミル、ボールミル、サンドミル、アトライター、ロールミル、アジテータ、ヘンシェルミキサー、コロイドミル、超音波ホモジナイザー、超高圧ホモジナイザー、パールミル等を利用して分散して有彩色顔料分散液を得て;さらに、C)水分散性樹脂、必要に応じて、界面活性剤、粘度調整剤、消泡剤等の残りの材料を添加混合して、インクを得ることができる。
【0094】
[1-3-2. 有彩色インク組成物の塗布条件]
本発明のインクジェット捺染方法は、白色インク層を形成した布帛に、有彩色インク組成物をインクジェット手法で塗布して、有彩色画像を印刷する。有彩色インク組成物は、布帛に形成された白色インク層の一部又は全部の上に塗布することができる。なお、有彩色インク組成物の塗布回数は、1回でも複数回でもよい。
【0095】
有彩色インク組成物の塗布において、有彩色インク組成物の塗布領域における単位面積当たりの塗布量と、白色インク組成物の塗布領域における単位面積当たりの塗布量との比率(白色インク/有彩色インク)は、前述の[1-1-2. 白色インク組成物の塗布条件]の欄において述べた通りであり;固形分質量比で3.0~13.0倍であり、インク組成物の質量比で2.0~8.0倍である。ここで、本発明のインクジェット捺染方法における有彩色インク組成物の塗布量とは、複数種の有彩色インク組成物を塗布する場合には、複数種の有彩色インク組成物の合計塗布量を意味する。
【0096】
有彩色インク組成物の塗布において、有彩色インク組成物の塗布領域における単位面積当たりの塗布量は、固形分質量として、例えば0.05g/m以上であり、好ましくは0.08g/m以上であり、より好ましくは0.10g/m以上であり;また、例えば1g/m以下であり、好ましくは0.5g/m以下、より好ましくは0.3g/m以下である。当該有彩色インクの塗布量を0.05g/m以上とすることで、捺染物の画像の発色性が良好となり、また、有彩色インクの塗布量を1g/m以下とすることで、印刷された画像の乾燥性が良好となり、画像の滲みを抑制でき、また、布帛に画像を再現性よく印刷できる点で好ましい。
【0097】
また、有彩色インク組成物の塗布において、有彩色インク組成物の塗布領域における単位面積当たりの塗布量は、インク組成物の質量として、例えば0.2g/m以上であり、好ましくは0.5g/m以上であり、より好ましくは1.0g/m以上であり;また、例えば10g/m以下であり、好ましくは5.0g/m以下、より好ましくは2.0g/m以下である。有彩色インクの塗布量を0.2g/m以上とすることで、捺染物の画像の発色性が良好となり、また、有彩色インクの塗布量を10g/m以下とすることで、印刷された画像の乾燥性が良好となり、画像の滲みを抑制でき、また、布帛に画像を再現性よく印刷できる点で好ましい。
【0098】
[1-4. 画像定着工程など]
本発明のインクジェット捺染方法は、布帛に有彩色インク組成物を塗布して画像を印刷したのち、加熱により画像を布帛に定着させる工程を含むことが好ましい。好ましくは、100~180℃に加熱することができ、加熱手段は特に限定されず、ヒートプレス機、アイロン、ドライヤー、加熱乾燥器などを利用することができる。なお、当該加熱により、白色インク及び/又は有彩色インクに含まれる水分散性樹脂(好ましくはウレタン系樹脂エマルジョン)の架橋反応が生じることが好ましい。
【0099】
本発明のインクジェット捺染方法は、布帛に十分に定着できなかった成分を除去するために、洗浄工程を有していてもよい。未定着の成分を除去することで、捺染物の洗濯堅牢性、耐水性などが改善されやすい。
【0100】
[2. インクジェット捺染用インクセット]
本発明のインクジェット捺染用インクセットは、白色インク組成物と、少なくとも一つの有彩色インク組成物とを具備する。有彩色インク組成物は、赤色インク(M)、青色インク(C)、黄色インク(Y)のいずれでもよく;それらのインクの一部又は全部の組み合わせでもよい。さらに、M, C, Y以外の色のインクを有していてもよく、黒色インク(K)を有していてもよい。
【0101】
本発明のインクジェット捺染用インクセットにおける、白色インク組成物及び有彩色インク組成物は、それぞれ、[1-2-1. 白色インク組成物]及び[1-3-1. 有彩色インク組成物]の欄において述べた通りである。
【0102】
これらのインク組成物は、いずれもインクジェット印刷装置を用いて、淡色生地である布帛をインクジェット捺染するために用いられる。具体的には、前処理された淡色生地(布帛)に、白色インク組成物をインクジェット塗布して白色インク層を形成し;形成されたインク層の上に、有彩色インク組成物をインクジェット塗布して有彩色画像を印刷して、捺染物を得ることができる。
【0103】
本発明のインクジェット捺染用インクセットが具備するインク組成物は、それぞれ、-25℃以上のガラス転移温度を有する水分散性樹脂を含むため、得られる捺染物のべたつきを抑制することができる。
【0104】
[3. インクジェット捺染装置]
本発明のインクジェット捺染装置は、白色インク組成物と有彩色インク組成物とで布帛をインクジェット捺染するための装置である。ここで、白色インク組成物及び有彩色インク組成物はそれぞれ、前述の[1-2-1. 白色インク組成物]及び[1-3-1. 有彩色インク組成物]にて記載したインク組成物であることが好ましい。また、本発明のインクジェット捺染装置によって捺染される布帛は、前述の[1-1. 前処理工程A]で記載した通りの、前処理がされた布帛である。
【0105】
本発明のインクジェット捺染装置は、少なくとも、白色インク組成物で布帛を塗布するためのインクジェットヘッドXと;有彩色インク組成物で布帛を塗布するためのインクジェットヘッドYと;布帛を搬送する搬送機構(プラテンともいう)と;インクジェットヘッドX、インクジェットヘッドY及び搬送機構とを制御する制御部と、を具備する。制御部は、少なくとも、各インクジェットヘッドのインクの吐出タイミング及び/又は吐出速度と、搬送機構とを制御する。インクジェットヘッドXとインクジェットヘッドYとは、別個独立したインクジェットヘッドであってもよいし、白色インク組成物と有彩色インク組成物とを(カートリッジとして)具備する一つのインクジェットヘッドであってもよい。
【0106】
本発明のインクジェット捺染装置は、制御部によって、インクジェットヘッドXから吐出された白色インク組成物で布帛を塗布した後に、布帛に形成された白色インク層の上を、インクジェットヘッドYから吐出された有彩色インク組成物で塗布するように構成される。
【0107】
本発明のインクジェット捺染装置は、制御部によって、インクジェットヘッドXから布帛に吐出される白色インク組成物の量を、インクジェットヘッドYから布帛に吐出される有彩色インク組成物の量に対して、布帛におけるインク組成物の塗布領域における単位面積当たりの固形成分の質量として3.0~13.0倍になるように構成される。また、本発明のインクジェット捺染装置は、制御部によって、インクジェットヘッドXから布帛に吐出される白色インク組成物の量を、インクジェットヘッドYから布帛に吐出される有彩色インク組成物の量に対して、布帛におけるインク組成物の塗布領域における単位面積当たりのインク組成物の質量として2.0~8.0倍になるように構成される。
【0108】
更に、本発明のインクジェット捺染装置は、前処理液を布帛に吐出するインクジェットヘッドZを具備していてもよい。前処理液は、前述の[1-1-2. 前処理液について]に記載した通りである。本発明のインクジェット捺染装置は、制御部によって、インクジェットヘッドXから吐出された白色インク組成物で布帛を塗布する前に、インクジェットヘッドZから吐出された前処理液を布帛に付着させるように構成される。
【0109】
また、本発明のインクジェット捺染装置は、従来のインクジェット捺染装置と同様の機構、同様の部材をさらに有していてもよく、例えば、布帛を加熱又は乾燥する加熱又は乾燥機構、インクジェットヘッドを移動させる移動機構、などを具備する。
【0110】
本発明のインクジェット捺染装置は、好ましくは、前述の[1.インクジェット捺染方法]に記載の捺染方法を実施する装置である。
【0111】
本発明において、前処理液、白色インク組成物、及び有彩色インク組成物に含まれる各樹脂のガラス転移温度、酸価、及び質量平均分子量は、以下のように求めることが好ましい。
【0112】
<ガラス転移温度>
各樹脂のガラス転移温度は、下記のWoodの式により求めた理論ガラス転移温度であることが好ましい。
Woodの式:
1/Tg=W1/Tg+W/Tg+W/Tg+ ・・・・・・+ W/Tg
(式中、Tgは樹脂の理論ガラス転移温度;Tg~Tgは樹脂の共重合体を構成する単量体1、2、3・・・nのそれぞれの単独重合体のガラス転移温度;W~Wは樹脂の単量体1、2、3・・・nのそれぞれの重合分率を表す。ただし、Woodの式におけるガラス転移温度は絶対温度である。)
【0113】
<酸価>
酸価は、共重合組成から計算により求めた理論酸価である。樹脂の酸価は、たとえば共重合体1gを得るために理論上必要な各エチレン性不飽和単量体の量に対して、KOHの理論上の中和量を求め、その中和量の総和のmg数を共重合体の酸価(「理論酸価」ともいう)とみなすことにより算出し得る。
【0114】
<質量平均分子量>
質量平均分子量は、ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)法によって測定することができる。一例として、GPC装置として Water 2690(ウォーターズ社)、カラムとしてPLgel 5μ MIXED-D(Polymer Laboratories社)を使用してクロマトグラフィーを行ない、ポリスチレン換算の質量平均分子量として求めることができる。
【0115】
なお、本願明細書に記載された、市場から入手可能な樹脂製品のガラス転移温度及び酸価は、サプライヤーが公表している数値であるが、それぞれ理論ガラス転移温度及び理論酸価であるとは限らず、参考値である。
【実施例0116】
以下において、実施例を参照して本発明を説明するが、本発明の範囲はこれら実施例によって限定して解釈されてはならない。
【0117】
A. 前処理液の調製
水94.98質量部に、塩化カルシウム1質量部、質量平均分子量1000のポリエチレングリコール2質量部、ガラス転移温度-32℃のアニオン性アクリル系樹脂エマルジョン(商品名:モビニール966A)2質量部、アセチレン系界面活性剤サーフィノール485 (日信化学社)0.02質量部を加えて撹拌し、前処理液を得た。
【0118】
B.白色のインクジェット捺染用インクの調製
B-1. 高分子分散剤(水溶性樹脂ワニス)の調製
アニオン性基含有樹脂(アクリル酸/ラウリルアクリレート/スチレン共重合体、質量平均分子量30000、酸価185mgKOH/g、ガラス転移温度55℃)25質量部を、水酸化カリウム4.9質量部と水70.1質量部との混合溶液に溶解させて、アニオン性基含有樹脂固形分25%の水溶性樹脂ワニスを得た。
【0119】
B-2. 白色顔料分散液の調製
上記水溶性樹脂ワニス16質量部に水44質量部を加えて混合し、顔料分散用樹脂ワニスを調製した。この顔料分散用樹脂ワニスに、更に白色顔料(酸化チタン、商品名「タイベークCR-90」、アルミナシリカ処理、平均一次粒径0.25μm、石原産業社)40質量部加え、撹拌混合後、湿式サーキュレーションミルで練肉を行い、白色顔料分散液を調製した。
【0120】
B-3. 白色インク組成物(白色のインクジェット捺染用インク)の調製
上記白色顔料分散液と、ウレタン系樹脂エマルジョンであるWS-6021又はスーパーフレックス460と、界面活性剤であるオルフィンE1010及びサーフィノール440と、溶媒であるグリセリン、プロピレングリコール及び水とを表1の処方の通りに混合・撹拌して、白色インク組成物W1及びW2を得た。
【0121】
C.青色インク組成物(青色のインクジェット捺染用インク)の調製
C-1. 青色顔料分散液の製造方法
上記B-1 で調製した水溶性樹脂ワニス32質量部に水48質量部を加えて混合し、顔料分散用樹脂ワニスを調製した。この顔料分散用樹脂ワニスに、更に青色顔料(Pigment Blue 15:3、商品名「LIONOL BLUE FG-7330」、トーヨーカラー社)20質量部加え、撹拌混合後、湿式サーキュレーションミルで練肉を行い、青色顔料分散液を調製した。
【0122】
C-2. 青色インク組成物(青色のインクジェット捺染用インク)の調製
上記青色顔料分散液と、ウレタン系樹脂エマルジョンであるWS-6021, スーパーフレックス460, スーパーフレックス130又はモビニール966Aと、界面活性剤であるオルフィンE1010及びサーフィノール440と、溶媒であるグリセリン、プロピレングリコール及び水とを表1の処方の通りに混合・撹拌して、青色インク組成物C1~C4を得た。
【0123】
D.赤色インク組成物(赤色のインクジェット捺染用インク)の調製
D-1. 赤色顔料分散液の調製
上記B-1で調製した水溶性樹脂ワニス32質量部に水48質量部を加えて混合し、顔料分散用樹脂ワニスを調製した。この顔料分散用樹脂ワニスに、更に赤色顔料(Pigment Red 122、商品名「CROMOPHTAL PINK PT」、BASF社)20質量部加え、撹拌混合後、湿式サーキュレーションミルで練肉を行い、赤色顔料分散液を調製した。
【0124】
D-2. 赤色インク組成物(赤色のインクジェット捺染用インク)の調製
上記赤色顔料分散液と、ウレタン系樹脂エマルジョンであるWS-6021と、界面活性剤であるオルフィンE1010及びサーフィノール440と、溶媒であるグリセリン、プロピレングリコール及び水とを表1の処方の通りに混合・撹拌して、赤色インク組成物M1を得た。
【0125】
【表1】
【0126】
表1に示された各成分の詳細は、以下の通りである。
タケラックWS-6021:アニオン性ウレタン系樹脂エマルジョン、Tg=40℃、NV=30%、三井化学社
スーパーフレックス460:アニオン性ウレタン系樹脂エマルジョン、Tg=-25℃、NV=38%、第一工業製薬社
スーパーフレックス130:アニオン性ウレタン系樹脂エマルジョン、Tg=101℃、NV=35%、第一工業製薬社
モビニール966A:アニオン性アクリル系樹脂エマルジョン、Tg=-32℃、NV=45%、ジャパンコーティングレジン社
オルフィン E1010:アセチレン系界面活性剤、日信化学工業株式会社
サーフィノール440:アセチレン系界面活性剤、日信化学工業株式会社
【0127】
調製した前処理液と、白色インク組成物(W1及びW2)と、有彩色インク組成物(C1~C4及びM1)とを用いて、布帛のインクジェット捺染を行った。布帛は、綿100%の白色布帛とした。
【0128】
綿100%の白色布帛に、前処理液を200g/mとなるように塗布し、塗布した前処理液の溶媒を乾燥により除去し、印刷媒体を得た。この印刷媒体に対して、SPECTRA社のヘッドを搭載した評価用プリンターを用いて、表2及び表3に記載の塗布量となるように白色インク組成物(W1又はW2)を塗布して、白色インク塗膜(ベタ画像)を印刷した。なお、白色インク組成物の塗布を複数回繰り返すことで、表2及び表3に記載の塗布量とした。次いで、白色インクの溶媒を乾燥させることなく、白色インク塗膜上に、表2及び表3に記載の塗布量となるように有彩色インク組成物(C1~C4又はM1)をベタ印刷した。その後、ヒートプレス機を用いて170℃、60秒の条件で加熱乾燥して評価用の各捺染物を得た。表2及び表3には、塗布したインクの量について、インクとしての単位面積当たりの質量(インク塗布量)とインク中の固形成分の単位面積当たりの質量(固形分量)とが示される。
【0129】
なお、比較例4及び5では、前処理をした印刷媒体に、白色インクを印刷せずに、直接、有彩色インク(C1又はM1)を印刷した。
【0130】
得られた捺染物を、以下の項目について評価し、評価結果を表2及び表3に示した:彩度及びOD値、風合い、タック。
【0131】
彩度及びOD値(光学濃度):分光測定計(製品名X-Rite eXact(エックスライト社))を用いて彩度及びOD値を測定した。
【0132】
風合い:各捺染物を手で触り、以下の基準で評価した。
評価基準
○:捺染物が容易に折れ曲がり、綿100%の布帛そのものの柔らかさに近いもの
△:捺染物が容易に折れ曲がるが、布帛そのものよりも若干ごわつきを感じるもの
×:捺染物がごわつきを感じるもの
【0133】
タック:各捺染物の印刷面を手で触り評価した。
評価基準
○:べたつきがない
△:若干べたつきがある
×:べたつきがある
【0134】
【表2】
【0135】
【表3】
【0136】
比較例4は、白色インク組成物による印刷を行わずに、直接、青色インク組成物C1で画像印刷を行った例である。実施例1~3及び5との比較から明らかなように、比較例4で得られた捺染物よりも、実施例1~3及び5で得られた捺染物の彩度及びOD値が高いことがわかる。また、比較例5は、白色インク組成物による印刷を行わずに、直接、赤色インク組成物M1で画像印刷を行った例である。実施例8~10との比較から明らかなように、比較例5で得られた捺染物よりも、実施例8~10で得られた捺染物の彩度及びOD値が高いことがわかる。これらの結果によれば、白色インク組成物による印刷を行なうことにより、捺染物の彩度及びOD値が高くなることがわかる。
【0137】
比較例1は、白色インク組成物W1による印刷での塗布量を、青色インク組成物C1での印刷での塗布量に対して、インク固形分質量で1.7倍(インク組成物質量で1倍)とした例である。実施例1~3及び5との比較から明らかなように、比較例1で得られた捺染物よりも、実施例1~3及び5で得られた捺染物は、白色インク組成物の単位面積当たりの塗布量が、前記有彩色インク組成物の単位面積当たりの塗布量に対して一定以上であるために、捺染物の彩度が高いことがわかる。このように、白色インク組成物の単位面積当たりの塗布量が、有彩色インク組成物の単位面積当たりの塗布量に対して一定以上であると、捺染物の彩度が高まることがわかる。
【0138】
比較例2は、白色インク組成物W1による印刷での塗布量を、青色インク組成物C1での印刷での塗布量に対して9.9倍とした例である。実施例1~3及び5で得られた捺染物は、比較例2で得られた捺染物と比較して、風合いの評価がよいことがわかる。このように、白色インク組成物の単位面積当たりの塗布量が、前記有彩色インク組成物の単位面積当たりの塗布量に対して一定以下であると、風合いの評価が高まることがわかる。
【0139】
比較例3は、白色インク組成物W1による印刷をし、その後、ガラス転移温度が-30℃である樹脂エマルジョンを含有する青色インク組成物C4で画像印刷を行った例である。ガラス転移温度が40℃及び-25℃である樹脂エマルジョンを含有する青色インク組成物C1及びC2で画像印刷を行った実施例2及び4の捺染物は、比較例3の捺染物と比較して、タックの評価がよいことがわかる。このように、有彩色インクに含まれる水分散性樹脂のガラス転移温度が一定温度以上であると、捺染物のべたつきが抑えられることがわかる。
【0140】
実施例1~10では、いずれも、得られた捺染物は高い評価を得られた。なかでも、実施例2と実施例5との比較、及び実施例4と実施例6との比較から、ガラス転移温度が40℃の樹脂エマルジョンを含む白色インクW1を用いると、ガラス転移温度が-25℃の樹脂エマルジョンを含む白色インクW2を用いた場合と比較して、タックの評価がより改善されることがわかる。
【0141】
また、実施例5及び6と実施例7との比較から、ガラス転移温度が101℃の樹脂エマルジョンを含む青色インクC3を用いると、ガラス転移温度が-25℃もしくは40℃の樹脂エマルジョンを含む青色インクC1とC2を用いた場合と比較して、タックの評価は改善され;一方で、ガラス転移温度が-25℃もしくは40℃の樹脂エマルジョンを含む青色インクC1とC2を用いると、ガラス転移温度が101℃の樹脂エマルジョンを含む青色インクC3を用いた場合と比較して、風合いの評価が高まることがわかる。
【0142】
また、実施例1~3の比較、及び実施例8~10の比較から、白色インクの塗布量が、有彩色インクの塗布量に対して一定以下とすると、得られる捺染物の風合いの評価がより高まることがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0143】
本発明のインクジェット捺染方法及びインクジェット捺染用インクセットにより、画像品質(彩度や画像濃度)がよく、捺染物の風合いが維持されタックを改善したインクジェット捺染物を得るために用いることができる。