IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 株式会社クボタの特許一覧

特開2024-37034情報処理装置、含水率予測方法、および含水率予測プログラム
<>
  • 特開-情報処理装置、含水率予測方法、および含水率予測プログラム 図1
  • 特開-情報処理装置、含水率予測方法、および含水率予測プログラム 図2
  • 特開-情報処理装置、含水率予測方法、および含水率予測プログラム 図3
  • 特開-情報処理装置、含水率予測方法、および含水率予測プログラム 図4
  • 特開-情報処理装置、含水率予測方法、および含水率予測プログラム 図5
  • 特開-情報処理装置、含水率予測方法、および含水率予測プログラム 図6
  • 特開-情報処理装置、含水率予測方法、および含水率予測プログラム 図7
  • 特開-情報処理装置、含水率予測方法、および含水率予測プログラム 図8
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024037034
(43)【公開日】2024-03-18
(54)【発明の名称】情報処理装置、含水率予測方法、および含水率予測プログラム
(51)【国際特許分類】
   C02F 11/12 20190101AFI20240311BHJP
   C02F 11/125 20190101ALI20240311BHJP
   C02F 11/14 20190101ALI20240311BHJP
【FI】
C02F11/12 ZAB
C02F11/125
C02F11/14
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022141661
(22)【出願日】2022-09-06
(71)【出願人】
【識別番号】000001052
【氏名又は名称】株式会社クボタ
(74)【代理人】
【識別番号】110000338
【氏名又は名称】弁理士法人 HARAKENZO WORLD PATENT & TRADEMARK
(72)【発明者】
【氏名】東 隆司
(72)【発明者】
【氏名】山中 亮輝
【テーマコード(参考)】
4D059
【Fターム(参考)】
4D059AA03
4D059BE08
4D059BE15
4D059BE16
4D059BE26
4D059BE38
4D059BE54
4D059CB06
4D059CB07
4D059EA02
4D059EA16
4D059EA20
4D059EB02
4D059EB20
(57)【要約】
【課題】脱水ケーキの含水率の手作業分析における作業者の負荷を増やすことなく、含水率を精度よく予測する。
【解決手段】情報処理装置(1)では、取得部(101)が取得した測定データの測定時点から脱水機内で液体が滞留する滞留時間が経過した経過時点において脱水機から排出される脱水ケーキの含水率を、予測部(102)が測定データから予測モデル(111)を用いて予測する。予測モデル(111)は、測定データを説明変数とし、経過時点における脱水ケーキの含水率についての推定モデル(112)による推定値を目的変数として学習されている。推定モデル(112)は、脱水機の運転に関する測定データを説明変数とし、測定時点における脱水ケーキの含水率を目的変数として学習されている。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
浮遊固形物を含む液体に前記浮遊固形物を凝集させる薬剤が加えられる凝集槽に供給される前記液体に関する測定データ、前記凝集槽に供給される前記薬剤に関する測定データ、前記凝集槽内の前記液体に関する測定データ、前記凝集槽の運転に関する測定データ、および、前記凝集槽から排出された前記液体を搬送しながら脱水する脱水機の運転に関する測定データの少なくともいずれかを取得する取得部と、
予測モデルを用いて、前記取得部が取得した測定データから、当該測定データの測定時点から前記脱水機内で前記液体が滞留する滞留時間が経過した時点において前記脱水機から排出される脱水ケーキの含水率を予測する予測部とを備え、
前記予測モデルは、前記取得部が取得した前記測定データを説明変数とし、当該測定データの測定時点から前記滞留時間が経過した時点において前記脱水機から排出される脱水ケーキの含水率についての推定モデルによる推定値を目的変数として学習された予測モデルであり、
前記推定モデルは、前記脱水機の運転に関する測定データを説明変数とし、当該測定データの測定時点において前記脱水機から排出される脱水ケーキの含水率を目的変数として学習された推定モデルである、
情報処理装置。
【請求項2】
前記凝集槽に供給される前記液体に関する測定データは、当該液体の単位時間当たりの供給流量、および当該液体の濃度の少なくともいずれかである、請求項1に記載の情報処理装置。
【請求項3】
前記凝集槽に供給される前記薬剤に関する測定データは、当該薬剤の単位時間当たりの供給流量である、請求項1に記載の情報処理装置。
【請求項4】
前記凝集槽内の前記液体に関する測定データは、フロックの平均濃淡値、および、フロック間の隙間の平均単位面積、の少なくともいずれかである、請求項1に記載の情報処理装置。
【請求項5】
前記凝集槽の運転に関する測定データは、前記凝集槽における撹拌翼の回転速度である、請求項1に記載の情報処理装置。
【請求項6】
前記脱水機はスクリュープレス型脱水機であり、
前記予測モデルの説明変数としての前記脱水機の運転に関する測定データは、前記脱水機の運転時間、前記脱水機への前記液体の単位時間当たりの供給流量、前記脱水機のスクリューの回転速度、および、前記脱水機へ投入される前記液体の投入圧、の少なくともいずれかである、請求項1に記載の情報処理装置。
【請求項7】
前記脱水機はスクリュープレス型脱水機であり、
前記推定モデルの説明変数としての前記脱水機の運転に関する測定データは、前記脱水機の運転時間、前記脱水機のスクリューの回転速度、前記スクリューの駆動電流値またはトルク値、前記脱水機の排出部に設けられ前記液体を圧搾する背圧板による背圧、および、前記背圧板と前記排出部との開度、の少なくともいずれかである、請求項1に記載の情報処理装置。
【請求項8】
前記予測部は、前記取得部が新たな前記測定データを取得する毎に前記予測モデルを用いた予測を実行する、請求項1に記載の情報処理装置。
【請求項9】
前記脱水機の運転期間において前記取得部が取得した測定データと、当該測定データの測定時点から前記滞留時間が経過した時点において前記脱水機から排出される脱水ケーキの含水率についての前記推定モデルによる推定値との組を教師データとして、前記脱水機の運転停止期間において前記予測モデルを更新する更新部をさらに備える、
請求項1に記載の情報処理装置。
【請求項10】
1または複数の情報処理装置により実行される含水率予測方法であって、
浮遊固形物を含む液体に前記浮遊固形物を凝集させる薬剤が加えられる凝集槽に供給される前記液体に関する測定データ、前記凝集槽に供給される前記薬剤に関する測定データ、前記凝集槽内の前記液体に関する測定データ、前記凝集槽の運転に関する測定データ、および、前記凝集槽から排出された前記液体を搬送しながら脱水する脱水機の運転に関する測定データの少なくともいずれかを取得する取得ステップと、
予測モデルを用いて、前記取得ステップにて取得された測定データから、当該測定データの測定時点から前記脱水機内で前記液体が滞留する滞留時間が経過した時点において前記脱水機から排出される脱水ケーキの含水率を予測する予測ステップとを含み、
前記予測モデルは、前記取得ステップにて取得された前記測定データを説明変数とし、当該測定データの測定時点から前記滞留時間が経過した時点において前記脱水機から排出される脱水ケーキの含水率についての推定モデルによる推定値を目的変数として学習された予測モデルであり、
前記推定モデルは、前記脱水機の運転に関する測定データを説明変数とし、当該測定データの測定時点において前記脱水機から排出される脱水ケーキの含水率を目的変数として学習された推定モデルである、
含水率予測方法。
【請求項11】
請求項1に記載の情報処理装置としてコンピュータを機能させるための含水率予測プログラムであって、前記取得部および前記予測部としてコンピュータを機能させるための含水率予測プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、浮遊固形物を含む液体を脱水機で脱水することにより得られる脱水ケーキの含水率を予測する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
下水処理場などの排水処理施設において実施される汚泥処理には汚泥を脱水機で脱水する工程が含まれている。効率的な汚泥処理のためには脱水により得られる脱水ケーキの含水率を所定の範囲内で維持することが重要である。しかし、脱水機の運転条件を一定にして脱水処理した場合には、供給される汚泥の性状が一定しない等の原因によって脱水ケーキの含水率は変動するため、脱水ケーキの含水率を所定の範囲内で維持することは容易ではない。
【0003】
このため、脱水ケーキの含水率を予測する技術の開発が従来から進められている。含水率を予測できれば、フィードフォワード制御により含水率を所定の範囲内で維持することが可能になる。例えば、下記の特許文献1には、遠心式の脱水機に供給される汚泥の量や、当該脱水機の遠心効果に関する値等の複数のパラメータを用いて含水率推定モデルを生成し、含水率を推定する技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2020-114569号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記のような含水率推定モデルを生成するための教師データに関して、説明変数は、脱水機に供給される汚泥や各種機器の運転条件等に関する種々のパラメータである。また、目的変数は、上記パラメータの測定時点から、上記脱水機内で上記汚泥が滞留する滞留時間が経過した時点において上記脱水機から排出される脱水ケーキの含水率である。
【0006】
しかしながら、上記含水率を自動的に測定する場合、上記測定を頻繁に行うことができるが、上記測定の誤差が大きい。一方、上記含水率を手作業で分析して測定する場合、上記測定の誤差は小さいが、上記測定を頻繁に(例えば1日10回以上)行うことは、作業者の負荷を増やすことになる。上記測定の回数が少ないと、上記教師データの数も少なくなり、その結果、上記教師データを用いて学習された含水率推定モデルの精度が低下する。
【0007】
本発明の一態様は、上記含水率の手作業分析における作業者の負荷を増やすことなく、上記含水率を精度よく予測することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の課題を解決するために、本発明の一態様に係る情報処理装置は、浮遊固形物を含む液体に前記浮遊固形物を凝集させる薬剤が加えられる凝集槽に供給される前記液体に関する測定データ、前記凝集槽に供給される前記薬剤に関する測定データ、前記凝集槽内の前記液体に関する測定データ、前記凝集槽の運転に関する測定データ、および、前記凝集槽から排出された前記液体を搬送しながら脱水する脱水機の運転に関する測定データの少なくともいずれかを取得する取得部と、予測モデルを用いて、前記取得部が取得した測定データから、当該測定データの測定時点から前記脱水機内で前記液体が滞留する滞留時間が経過した時点において前記脱水機から排出される脱水ケーキの含水率を予測する予測部とを備え、前記予測モデルは、前記取得部が取得した前記測定データを説明変数とし、当該測定データの測定時点から前記滞留時間が経過した時点において前記脱水機から排出される脱水ケーキの含水率についての推定モデルによる推定値を目的変数として学習された予測モデルであり、前記推定モデルは、前記脱水機の運転に関する測定データを説明変数とし、当該測定データの測定時点において前記脱水機から排出される脱水ケーキの含水率を目的変数として学習された推定モデルである。
【0009】
また、本発明の一態様に係る含水率予測方法は、1または複数の情報処理装置により実行される含水率予測方法であって、浮遊固形物を含む液体に前記浮遊固形物を凝集させる薬剤が加えられる凝集槽に供給される前記液体に関する測定データ、前記凝集槽に供給される前記薬剤に関する測定データ、前記凝集槽内の前記液体に関する測定データ、前記凝集槽の運転に関する測定データ、および、前記凝集槽から排出された前記液体を搬送しながら脱水する脱水機の運転に関する測定データの少なくともいずれかを取得する取得ステップと、予測モデルを用いて、前記取得ステップにて取得された測定データから、当該測定データの測定時点から前記脱水機内で前記液体が滞留する滞留時間が経過した時点において前記脱水機から排出される脱水ケーキの含水率を予測する予測ステップとを含み、前記予測モデルは、前記取得ステップにて取得された前記測定データを説明変数とし、当該測定データの測定時点から前記滞留時間が経過した時点において前記脱水機から排出される脱水ケーキの含水率についての推定モデルによる推定値を目的変数として学習された予測モデルであり、前記推定モデルは、前記脱水機の運転に関する測定データを説明変数とし、当該測定データの測定時点において前記脱水機から排出される脱水ケーキの含水率を目的変数として学習された推定モデルである。
【発明の効果】
【0010】
本発明の一態様によれば、上記含水率の手作業分析における作業者の負荷を増やすことなく、上記含水率を精度よく予測することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本発明の一実施形態に係る情報処理装置の要部構成の一例を示すブロック図である。
図2】上記情報処理装置を含む制御システムの構成例を示す図である。
図3】作業者による含水率実測値に対する、上記情報処理装置における推定モデルによる含水率推定値のバラツキを示すグラフである。
図4】上記情報処理装置における予測モデルのための教師データを作成する概念を示すモデル図である。
図5】上記推定モデルによる含水率推定値を用いて学習された上記予測モデルによる含水率予測値の、作業者による含水率実測値に対するバラツキを示すグラフである。
図6】比較例であり、作業者による含水率実測値を用いて学習された上記予測モデルによる含水率予測値の、上記含水率実測値に対するバラツキを示すグラフである。
図7】上記情報処理装置における脱水ケーキの含水率の予測処理の一例を示すフローチャートである。
図8】上記情報処理装置における上記予測モデルおよび上記推定モデルの更新処理の一例を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
〔システム構成〕
図2に基づいて本発明の一実施形態に係る制御システムの構成を説明する。図2は、制御システム100の構成例を示す図である。制御システム100は、固体浮遊物を凝集させる薬剤を凝集槽内の被処理液(液体)に添加してフロックを形成し、フロックが形成された前記被処理液の固液分離を行うプラントで使用されるシステムである。以下では、被処理液が汚泥である例を説明するが、制御システム100は汚泥以外の被処理液を処理するプラントにも適用可能である。なお、汚泥とは、排水処理などで生じる微細な固形物を含む液体であり、スラリーと呼ぶこともできる。
【0013】
詳細は以下説明するが、制御システム100は、汚泥の処理工程のうち、処理対象の汚泥中の固体浮遊物を凝集させてフロックを形成させることによって、処理対象の汚泥を凝集汚泥とする工程から、凝集汚泥を脱水して脱水汚泥(脱水ケーキとも呼ばれる)と脱水ろ液を得る工程までの各処理を行う。図2に示すように、制御システム100は、情報処理装置1と、制御装置3と、フロキュレータ5と、脱水機9とを含む。
【0014】
フロキュレータ5は、固体浮遊物を凝集させる薬剤を凝集槽内の被処理液に添加して適度に撹拌することでフロックを形成させる機器である。具体的には、フロキュレータ5は、汚泥を被処理液とし、汚泥中の固体浮遊物を凝集させてフロックを形成させ、凝集汚泥を生成する。図2のフロキュレータ5は、凝集槽51と、撹拌翼52と、モータ53と、点検窓54とを備えている。また、フロキュレータ5には、汚泥投入口55と、薬剤投入口56と、排出口57とが設けられている。
【0015】
さらに、点検窓54には、撮影装置72と、撮影用の照明装置71とが取り付けられている。撮影装置72は、少なくとも静止画像が撮影できるものであればよい。制御システム100の稼働中、フロックへの光の当たり方が変化しないように、凝集槽51は光透過性のないものとすることが好ましい。また、撮影装置72および照明装置71は図示の例のように、点検窓54側が開口した遮光性の暗箱に収容することが好ましい。
【0016】
脱水機9は、フロックが形成された被処理液の固液分離を行う機器である。具体的には、脱水機9は、フロキュレータ5の後段に配設され、フロキュレータ5から排出される凝集汚泥(液体)を脱水して固液分離する。図2の脱水機9は、外胴スクリーン91とスクリュー92とを備えるスクリュープレス型脱水機である。また、脱水機9には、汚泥投入口93と、ろ液排出口94と、脱水ケーキ排出口95とが設けられている。なお、図示していないが、脱水機9は、スクリュー92を回転駆動するモータ等も備えている。無論、脱水機9は凝集汚泥を脱水できるものであればよく、スクリュープレス型に限られない。例えば、遠心脱水機、フィルタープレス型脱水機、またはベルトプレス脱水機等を適用することもできる。
【0017】
制御システム100において、処理対象の汚泥は、図示しない供給装置により、汚泥投入口55からフロキュレータ5の凝集槽51内に連続的あるいは断続的に供給される。汚泥の供給速度は、フロキュレータ5および脱水機9による汚泥の処理速度に応じて、供給装置あるいはその制御装置3が自動で制御する構成となっていてもよい。
【0018】
そして、凝集槽51内の汚泥に対して、薬剤投入口56から汚泥を凝集させるための薬剤(少なくとも凝集剤を含む)が投入される。この状態でモータ53を駆動させて撹拌翼52を回転させ、汚泥と薬剤を撹拌し、フロックを形成させる。形成されたフロックと、汚泥に含まれていた水との混合物である凝集汚泥は排出口57から排出される。
【0019】
続いて、この凝集汚泥は、脱水機9の汚泥投入口93から外胴スクリーン91内に供給される。脱水機9内において、上記凝集汚泥は、スクリュー92による加圧下で脱水されて、ろ液がろ液排出口94から排出され、脱水された凝集汚泥の固まりである脱水ケーキが脱水ケーキ排出口95から排出される。
【0020】
なお、上記汚泥は、汚泥投入口55から凝集槽51内に供給されることにより、上記凝集汚泥が凝集槽51の排出口57から押し出されて排出され、排出された凝集汚泥が脱水機9に供給される。このため、凝集槽51に供給される汚泥の流量と、脱水機9へ供給される汚泥の流量とは、同時刻で一致する。
【0021】
詳細は以下説明するが、情報処理装置1は、凝集槽51に供給される液体に関する測定データと、凝集槽51に供給される薬剤に関する測定データと、凝集槽51内の液体に関する測定データと、凝集槽51の運転に関する測定データと、脱水機9の運転に関する測定データと、の少なくともいずれかを取得する。そして、情報処理装置1は、取得した測定データに基づき、脱水ケーキの含水率を予測する。
【0022】
また、情報処理装置1は、制御装置3を介して制御システム100の構成要素である各種機器(例えば、フロキュレータ5、脱水機9、および図示していない汚泥および薬剤の供給装置等)の動作制御を行うこともできる。制御装置3は、制御システム100の構成要素である各種機器の動作を制御する装置である。制御装置3は、例えばPLC(Programmable Logic Controller)であってもよい。
【0023】
〔装置構成〕
図1に基づいて情報処理装置1の構成を説明する。図1は、情報処理装置1の要部構成の一例を示すブロック図である。図示のように、情報処理装置1は、情報処理装置1の各部を統括して制御する制御部10と、情報処理装置1が使用する各種データを記憶する記憶部11と、を備えている。また、情報処理装置1は、情報処理装置1が他の装置と通信するための通信部12、情報処理装置1に対する各種データの入力を受け付ける入力部13、および情報処理装置1が各種データを出力するための出力部14を備えている。
【0024】
また、制御部10には、取得部101、予測部102、および更新部103が含まれている。なお、更新部103については、後記「更新部103について」の項目で説明する。
【0025】
記憶部11には、予測モデル111、および推定モデル112が含まれている。これらの詳細については、それぞれ後記「予測モデルについて」および「推定モデルについて」の項目で説明する。
【0026】
取得部101は、凝集槽51に供給される液体に関する測定データと、凝集槽51に供給される薬剤に関する測定データと、凝集槽51内の液体に関する測定データと、凝集槽51の運転に関する測定データと、脱水機9の運転に関する測定データと、の少なくともいずれかを取得する。なお、各測定データの詳細に関しては、後記「予測モデルについて」の項目で説明する。
【0027】
予測部102は、記憶部11に記憶された予測モデル111を用いて、取得部101が取得した測定データから脱水ケーキの含水率を予測する。この脱水ケーキは、上記測定データの測定時点から脱水機9内で上記凝集汚泥が滞留する滞留時間が経過した時点(以下、「経過時点」と称する。)において脱水機9から排出される脱水ケーキである。予測部102は、取得部101が新たな測定データを取得する毎に予測モデル111を用いた予測を実行する。これにより、予測部102は脱水ケーキの含水率をリアルタイムに、すなわち短い時間間隔で連続的に(例えば1分ごとに)予測することができる。なお、脱水ケーキの含水率の具体的な算出手法については、後記「予測モデルによる含水率の予測方法」の項目で説明する。
【0028】
〔予測モデルについて〕
予測モデル111は、取得部101が取得した、測定時点の測定データを説明変数とし、経過時点において脱水機9から排出される脱水ケーキの含水率(以下、「経過時点の含水率」と称する。)を目的変数として学習された予測モデルである。本実施形態では、上記目的変数である含水率は、推定モデル112による推定値である。なお、推定モデル112については、後記「推定モデル」の項目で説明する。取得部101が取得した測定データであって、予測モデル111の予測に用いる測定データには次のようなものが含まれる。
【0029】
(1)凝集槽51に供給される汚泥に関する測定データ。当該測定データは、例えば、当該汚泥の単位時間当たりの供給流量、および当該汚泥の濃度の少なくともいずれかであり、汚泥投入口55の手前にて測定される。
【0030】
(2)凝集槽51に供給される薬剤に関する測定データ。当該測定データは、例えば、当該薬剤の単位時間当たりの供給流量であり、薬剤投入口56の手前にて測定される。
【0031】
(3)凝集槽51内の汚泥に関する測定データ。当該測定データは、フロックの平均濃淡値、および、フロック間の隙間の平均単位面積、の少なくともいずれかであり、撮影装置72における静止画像を画像処理することで得られる。上記平均濃淡値は、汚泥色調(明暗)の指標となる。また、上記平均単位面積は、フロック径の指標となる。
【0032】
(4)凝集槽51の運転に関する測定データ。当該測定データは、凝集槽51における撹拌翼の回転速度であり、制御装置3から取得する。
【0033】
(5)脱水機9の運転に関する測定データ。当該測定データは、脱水機9の運転時間、脱水機9のスクリューの回転速度、脱水機9への凝集汚泥の単位時間当たりの供給流量、および、脱水機9へ投入される凝集汚泥の投入圧、の少なくともいずれかであり、制御装置3から取得する。
【0034】
本実施形態では、上記(1)~(5)に示すように、様々な測定データを採用することができる。そのため、脱水ケーキの含水率を、多面的な説明変数を用い、精度良く予測することができる。なお、上記(1)~(5)に示す測定データのうち、予測モデル111の予測精度に対する寄与が大きい測定データとしては、上記(5)に示す上記運転時間、上記スクリューの回転速度、および、上記供給流量と、上記(3)に示すフロックの平均濃淡値が挙げられる。
【0035】
〔推定モデルについて〕
推定モデル112は、取得部101が取得した測定データのうち、脱水機9の運転に関する測定データを説明変数とし、当該測定データの測定時点において、脱水機9の脱水ケーキ排出口95から排出される脱水ケーキの含水率(以下、「測定時点の含水率」と称する。)を目的変数として学習された推定モデルである。
【0036】
上記測定データとしては、脱水機9の運転時間、脱水機9のスクリューの回転速度、当該スクリューの駆動電流値またはトルク値、脱水機9の脱水ケーキ排出口95(排出部)に設けられ液体を圧搾する背圧板による背圧、および、当該背圧板と脱水ケーキ排出口95との開度、の少なくともいずれかであり、制御装置3から取得する。なお、これらのうち、推定モデル112の推定精度に対する寄与が大きい測定データとしては、上記スクリューの駆動電流値および上記開度(特に上記背圧が一定となるように脱水機9を制御する場合)が挙げられる。上記含水率は、制御システム100外部の装置を用いて、作業者が手作業で分析して測定(実測)する。このため、当該測定を頻繁に行うことができない。
【0037】
図3は、作業者による含水率実測値に対する、推定モデル112による含水率推定値のバラツキを示すグラフである。図3の例では、脱水機9の運転時間、脱水機9のスクリューの回転速度および駆動電流値、上記背圧板による背圧、並びに、背圧板と脱水ケーキ排出口95との開度とを説明変数としている。図3を参照すると、上記バラツキが極めて小さいことが理解できる。従って、推定モデル112に対し、脱水機9の運転に関する測定データを用いることで、測定時点の含水率を精度よくかつ頻繁に推定することができる。
【0038】
〔予測モデルの学習方法〕
次に、予測モデル111による含水率の学習方法に関して説明する。予測モデル111は、上記したように、測定時点における測定データを用いて、当該測定時点よりも未来の経過時点の含水率を予測するモデルである。
【0039】
図4は、予測モデル111のための教師データを作成する概念を示すモデル図である。図4の横軸は運転時間(分)である。また、図4の縦軸は、各測定データの測定値であり、測定データごとに任意のスケールで示している。
【0040】
予測モデル111の説明変数となる、測定時点の測定データは、図4の上段に示すように、液体(汚泥)の単位時間当たりの供給流量、液体(汚泥)の濃度、フロックの平均濃淡値、フロック間の隙間の平均単位面積、凝集槽51における撹拌翼の回転速度、脱水機9の運転時間、脱水機9のスクリューの回転速度、および、脱水機9へ投入される液体(凝集汚泥)の投入圧である。
【0041】
そして、予測モデル111の目的変数は、経過時点の含水率である。この含水率として、作業者による実測値を用いる場合、図4の下段において白色の丸印で示すように、作業者が一日の作業で測定できる回数に上限がある。このため、説明変数および目的変数の組み合わせである教師データの数が制限され、その結果、高精度な予測モデルを作成することが困難である。
【0042】
そこで、本実施形態では、上記教師データの目的変数として、作業者による実測値の代わりに、上記した推定モデル112による推定値を用いている。これにより、図4の下段にて灰色の丸印で示すように、目的変数の数が、作業者が測定できる回数に制限されることが無くなるので、上記教師データの数を増やすことができ、高精度な予測モデル111を作成することができる。
【0043】
ところで、上記経過時点の含水率の推定値は、上記経過時点における測定データから推定モデル112を用いて算出される。従って、予測モデル111の学習には、予測モデル111の説明変数である測定時点の測定データと、推定モデル112の説明変数である経過時点の測定データとが利用されることになる。
【0044】
図5は、推定モデル112による含水率推定値を用いて学習された予測モデル111による含水率予測値の、作業者による含水率実測値に対するバラツキを示すグラフである。また、図6は、比較例であり、作業者による含水率実測値を用いて学習された予測モデルによる含水率予測値の、上記含水率実測値に対するバラツキを示すグラフである。図5および図6を参照すると、推定モデル112による含水率推定値を用いて学習された予測モデル111は、作業者による含水率実測値を用いて学習された予測モデルに比べて、上記バラツキが小さく、精度がよいことが理解できる。実際、図5に示す含水率予測値および含水率実測値の平均絶対誤差(MAE)は1.12%であり、図6に示す含水率予測値および含水率実測値のMAEは1.29%であった。
【0045】
〔予測モデルによる含水率の予測方法〕
予測部102は、学習を行った予測モデル111を用いて、脱水ケーキの含水率を予測する。すなわち、予測部102は、説明変数である、凝集槽51に供給される液体に関する測定データと、凝集槽51に供給される薬剤に関する測定データと、凝集槽51内の液体に関する測定データと、凝集槽51の運転に関する測定データと、脱水機9の運転に関する測定データと、の少なくともいずれかを、予測モデル111に入力することで、目的変数である、脱水完了時における脱水ケーキの含水率を予測する。
【0046】
このとき、推定モデル112の説明変数であるが予測モデル111の説明変数ではない測定データに関しては、予測部102は利用しないので、取得部101は取得を省略してもよい。しかしながら、後述する更新部103の処理のために、取得部101は上記取得を行うことが望ましい。
【0047】
以上のように、本実施形態の情報処理装置1は、浮遊固形物を含む液体に浮遊固形物を凝集させる薬剤が加えられる凝集槽51に供給される液体に関する測定データ、凝集槽51に供給される薬剤に関する測定データ、凝集槽51内の液体に関する測定データ、凝集槽51の運転に関する測定データ、および、凝集槽51から排出された液体を搬送しながら脱水する脱水機9の運転に関する測定データの少なくともいずれかを取得する取得部101と、予測モデル111を用いて、取得部101が取得した測定データから、当該測定データの測定時点から脱水機9内で液体が滞留する滞留時間が経過した経過時点において脱水機9から排出される脱水ケーキの含水率を予測する予測部102とを備える。上記予測モデル111は、取得部101が取得した測定データを説明変数とし、当該測定データの測定時点から滞留時間が経過した経過時点において脱水機9から排出される脱水ケーキの含水率についての推定モデル112による推定値を目的変数として学習された予測モデルである。上記推定モデル112は、脱水機9の運転に関する測定データを説明変数とし、当該測定データの測定時点において脱水機9から排出される脱水ケーキの含水率を目的変数として学習された推定モデルである。
【0048】
上記の構成によると、推定モデル112は、説明変数である脱水機9の運転に関する測定データの測定時点(脱水完了時)と、目的変数である脱水機9から排出される脱水ケーキの含水率の測定時点(脱水完了時)とが同じである。このため、測定データと含水率とを含む教師データが少なくても、学習された推定モデル112を用いた推定の精度は良好である。従って、含水率の手作業分析における作業者の負荷を増やすことなく、推定モデル112を学習することができる。また、推定モデル112を利用して、測定データの測定回数だけ、含水率の推定値を算出できる。
【0049】
一方、予測モデル111に関して、取得部101が取得した測定データの測定時点(液体の供給時)から滞留時間が経過した経過時点(脱水完了時)に測定された脱水機9の運転に関する測定データから推定モデル112を用いて推定された、経過時点における含水率の推定値を取得することができる。そして、取得した推定値を目的変数とし、取得部が取得した測定時点の測定データを説明変数とする教師データを、前記取得部が取得した測定データの測定回数だけ作成することができる。従って、教師データを用いて学習された予測モデル111を用いて、取得部101が取得した測定データから、当該測定データの測定時点から滞留時間が経過した経過時点における含水率を精度よく予測することができる。
【0050】
〔更新部について〕
更新部103は、凝集槽51および脱水機9が停止している期間(運転停止期間)に、予測モデル111および推定モデル112を更新する処理を行う。具体的には、更新部103は、脱水機9の運転期間において取得部101が取得した測定データと、作業者が実測した脱水ケーキの含水率との組を教師データとして、上記運転停止期間において推定モデル112を更新する。
【0051】
次に、更新部103は、凝集槽51および脱水機9の運転期間において取得部101が取得した測定データと、測定データの測定時点から滞留時間が経過した経過時点において脱水機9から排出される脱水ケーキの含水率についての推定モデル112による推定値との組を教師データとして、上記運転停止期間において予測モデルを更新する。
【0052】
通常、上記運転期間は、1日における設定された1期間である。従って、更新部103による更新は1日1回行われる。また、作業者が行う脱水ケーキの含水率の実測には1日程度かかる。このため、推定モデル112の更新は、例えば2日前の上記運転期間における測定データを用いてもよい。一方、予測モデル111の更新は、最新の運転期間における測定データを用いることが望ましい。
【0053】
したがって、最新の測定データを用いて予測モデル111が更新されるので、予測モデル111を用いた予測を凝集槽51および脱水機9の最新の状況に適合させることができる。同様に、最新の測定データおよび作業者の実測値を用いて推定モデル112が更新されるので、推定モデル112を用いた推定を脱水機9の最新の状況に適合させることができる。
【0054】
〔予測処理〕
図7は、上記構成の情報処理装置1における脱水ケーキの含水率の予測処理(含水率予測方法)の一例を示すフローチャートである。この予測処理は、上述のように、運転期間中に実行される。図7に示すように、まず、取得部101は、各種の測定データを収集(取得)する(S11、取得ステップ)。次に、予測部102は、予測モデル111を用いて、上記測定データから、該測定データの測定時点から滞留時間が経過した経過時点における含水率の予測値を予測する(S12、予測ステップ)。その後、ステップS11に戻って上記動作を繰り返す。
【0055】
〔更新処理〕
図8は、情報処理装置1における予測モデル111および推定モデル112の更新処理の一例を示すフローチャートである。この更新処理は、上述のように、運転停止期間ごとに実行される。
【0056】
図8に示すように、まず、取得部101は、作業者による含水率の実測値を新たに取得したか否かを判断する(S21)。上記実測値を新たに取得しなかった場合(S21にてNO)、ステップS24に進む。一方、上記実測値を新たに取得した場合(S21にてYES)、更新部103は、新たに取得した含水率の実測値と、該実測値の実測時点における測定データとの組を新たな教師データとして作成し(S22)、作成した教師データを用いて推定モデル112を更新する(S23)。
【0057】
次に、更新部103は、推定モデル112を用いて、最新の運転期間における測定データから当該運転期間における含水率の推定値を算出する(S24)。次に、更新部103は、最新の運転期間における測定時点ごとに、該測定時点の測定データと、上記測定時点から滞留時間が経過した経過時点の上記推定値との組を新たな教師データとして作成する(S25)。そして、更新部103は、作成した教師データを用いて予測モデル111を更新する(S26)。その後、上記更新処理を終了する。
【0058】
〔変形例〕
上述の実施形態で説明した各処理の実行主体は任意であり、上述の例に限られない。例えば、図7に示した含水率予測方法の各ステップは、複数の情報処理装置に分担させることもできる。つまり、当該含水率予測方法は、1つの情報処理装置1により実行されるものであってもよいし、複数の情報処理装置により実行されるものであってもよい。
【0059】
〔ソフトウェアによる実現例〕
情報処理装置1(以下、「装置」と呼ぶ)の機能は、当該装置としてコンピュータを機能させるためのプログラムであって、当該装置の各制御ブロック(特に制御部10に含まれる各部)としてコンピュータを機能させるためのプログラム(含水率予測プログラム)により実現することができる。
【0060】
この場合、上記装置は、上記プログラムを実行するためのハードウェアとして、少なくとも1つの制御装置(例えばプロセッサ)と少なくとも1つの記憶装置(例えばメモリ)を有するコンピュータを備えている。この制御装置と記憶装置により上記プログラムを実行することにより、上記各実施形態で説明した各機能が実現される。
【0061】
上記プログラムは、一時的ではなく、コンピュータ読み取り可能な、1または複数の記録媒体に記録されていてもよい。この記録媒体は、上記装置が備えていてもよいし、備えていなくてもよい。後者の場合、上記プログラムは、有線または無線の任意の伝送媒体を介して上記装置に供給されてもよい。
【0062】
また、上記各制御ブロックの機能の一部または全部は、論理回路により実現することも可能である。例えば、上記各制御ブロックとして機能する論理回路が形成された集積回路も本発明の範疇に含まれる。この他にも、例えば量子コンピュータにより上記各制御ブロックの機能を実現することも可能である。
【0063】
本発明は上述した各実施形態に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能であり、異なる実施形態にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0064】
1 情報処理装置
9 脱水機
10 制御部
11 記憶部
51 凝集槽
52 撹拌翼
92 スクリュー
101 取得部
102 予測部
103 更新部
111 予測モデル
112 推定モデル
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8