(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024037036
(43)【公開日】2024-03-18
(54)【発明の名称】多泡状無機酸化物中空粒子
(51)【国際特許分類】
C01B 33/26 20060101AFI20240311BHJP
【FI】
C01B33/26
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022141665
(22)【出願日】2022-09-06
(71)【出願人】
【識別番号】000000240
【氏名又は名称】太平洋セメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000084
【氏名又は名称】弁理士法人アルガ特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】徳田 秀樹
(72)【発明者】
【氏名】増田 賢太
(72)【発明者】
【氏名】山崎 広樹
(72)【発明者】
【氏名】松下 修也
【テーマコード(参考)】
4G073
【Fターム(参考)】
4G073BA10
4G073BA11
4G073BA56
4G073BA57
4G073BA62
4G073BA63
4G073BA69
4G073BA75
4G073BB34
4G073BB58
4G073BD11
4G073BD30
4G073FC08
4G073GA11
4G073GA28
4G073GA40
4G073UA02
4G073UB11
4G073UB60
(57)【要約】
【課題】誘電特性に優れ、かつ粒子強度の高い無機酸化物中空粒子を提供すること。
【解決手段】外殻で覆われた空洞が1以上の隔壁によって区切られた複数の独立した気泡空間を備える多泡状無機酸化物中空粒子であって、
下記の(1)及び(2)から選択される1以上の水溶性塩を含む被噴霧液体を、噴霧熱分解装置内に装着された噴霧装置から噴霧し、噴霧された液滴を熱分解して、無機酸化物と炭酸ガスの気泡を生成させる工程を含む方法により製造される、多泡状無機酸化物中空粒子。
(1)周期表第1族元素、周期表第2族元素、周期表第13族元素及び周期表第14族元素から選択される1以上を含む元素と、有機カルボン酸との水溶性塩
(2)周期表第1族元素、周期表第2族元素、周期表第13族元素及び周期表第14族元素から選択される1以上を含む元素のイオンと、炭酸イオン又は重炭酸イオンとの水溶性塩
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
外殻で覆われた空洞が1以上の隔壁によって区切られた複数の独立した気泡空間を備える多泡状無機酸化物中空粒子であって、
下記の(1)及び(2)から選択される1以上の水溶性塩を含む被噴霧液体を、噴霧熱分解装置内に装着された噴霧装置から噴霧し、噴霧された液滴を熱分解して、無機酸化物と炭酸ガスの気泡を生成させる工程を含む方法により製造される、多泡状無機酸化物中空粒子。
(1)周期表第1族元素、周期表第2族元素、周期表第13族元素及び周期表第14族元素から選択される1以上を含む元素と、有機カルボン酸との水溶性塩
(2)周期表第1族元素、周期表第2族元素、周期表第13族元素及び周期表第14族元素から選択される1以上を含む元素のイオンと、炭酸イオン又は重炭酸イオンとの水溶性塩
【請求項2】
誘電正接が0.006以下である、請求項1記載の多泡状無機酸化物中空粒子。
【請求項3】
比誘電率が1.9以下である、請求項1記載の多泡状無機酸化物中空粒子。
【請求項4】
粒子強度が7.0MPa以上である、請求項1記載の多泡状無機酸化物中空粒子。
【請求項5】
平均粒子径が5.0μm以下である、請求項1記載の多泡状無機酸化物中空粒子。
【請求項6】
空洞率が65%以上である、請求項1記載の多泡状無機酸化物中空粒子。
【請求項7】
外殻が無気孔である、請求項1記載の多泡状無機酸化物中空粒子。
【請求項8】
当該多泡状無機酸化物中空粒子が、25質量%以下の周期表第2族元素酸化物と、60質量%以下の周期表第13族元素酸化物と、40質量%以上の周期表第14族元素酸化物を含む無機酸化物により構成されている、請求項1~7のいずれか1項に記載の多泡状無機酸化物中空粒子。
【請求項9】
請求項1に記載の多泡状無機酸化物中空粒子の製造方法であって、
下記の(1)及び(2)から選択される1以上の水溶性塩を含む被噴霧液体を、噴霧熱分解装置内に装着された噴霧装置から噴霧し、噴霧された液滴を熱分解して、無機酸化物と炭酸ガスの気泡を生成させる工程を含む、多泡状無機酸化物中空粒子の製造方法。
(1)周期表第1族元素、周期表第2族元素、周期表第13族元素及び周期表第14族元素から選択される1以上を含む元素と、有機カルボン酸との水溶性塩
(2)周期表第1族元素、周期表第2族元素、周期表第13族元素及び周期表第14族元素から選択される1以上を含む元素のイオンと、炭酸イオン又は重炭酸イオンとの水溶性塩
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、多泡状無機酸化物中空粒子に関する。
【背景技術】
【0002】
無機酸化物中空粒子は、粒子内部に空洞を有することから、熱性・軽量性に優れており、断熱材料、遮熱材料、触媒担体、建築材料、電子材料等として幅広く普及している。
【0003】
従来、種々の無機酸化物中空粒子が開発され、例えば、真珠岩、黒曜石等の天然ガラス質岩石を原料とし、内部空間が隔壁によって区切られたシリカ質の中空微粒子であって、容重及び最も薄い部分の殻の膜厚が特定範囲内に制御されたシリカ質中空微粒子が知られている(特許文献1)。また、アルミニウム酸化物、ケイ素酸化物、ホウ素酸化物、2族元素酸化物及びアルカリ金属酸化物を含む無機酸化物により形成された無機酸化物中空粒子であって、ホウ素酸化物、2族元素酸化物及びアルカリ金属酸化物の各含有量が制御された無機酸化物中空粒子も知られている(特許文献2)。更に、外殻で覆われた空洞が1以上の隔壁によって区切られた複数の独立した空間を備える無機酸化物中空粒子であって、ホウ素酸化物、ナトリウム酸化物、カルシウム酸化物、アルミニウム酸化物、ケイ素酸化物及びマグネシウム酸化物の各含有量が制御された無機酸化物中空粒子が報告されている(特許文献3)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2010-172863号公報
【特許文献2】特開2021-143089号公報
【特許文献3】特許第6959467号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
近年、5Gや6G等の高速通信規格の普及に伴い、高周波帯用デバイスに用いられる材料には、比誘電率及び誘電正接がともに低い材料が求められており、無機酸化物中空粒子は、誘電特性に優れることから、電子材料分野における低誘電フィラー材として需要が増加している。
しかし、無機酸化物中空粒子を低誘電フィラー材として用いるために樹脂と混練すると、膜厚の薄い部分が起点となって中空構造が破壊されてしまう。そのため、良好な誘電特性を維持しつつ、粒子強度の高い無機酸化物中空粒子が求められている。
本発明の課題は、良好な誘電特性を維持しつつ、粒子強度の高い無機酸化物中空粒子を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、特定元素と有機カルボン酸等との水溶性塩を含む被噴霧液体を用いて噴霧熱分解法により無機酸化物中空粒子を製造することで、熱分解の際に無機酸化物と微小な炭酸ガスが多数発生し、粒子内に独立した微小な気泡が多数形成され、粒子内の隔壁数を増加させることができるため、良好な誘電特性を維持しつつ、粒子強度の高い無機酸化物中空粒子が得られることを見出した。
【0007】
すなわち、本発明は、次の〔1〕~〔13〕を提供するものである。
〔1〕外殻で覆われた空洞が1以上の隔壁によって区切られた複数の独立した気泡空間を備える多泡状無機酸化物中空粒子であって、
下記の(1)及び(2)から選択される1以上の水溶性塩を含む被噴霧液体を、噴霧熱分解装置内に装着された噴霧装置から噴霧し、噴霧された液滴を熱分解して、無機酸化物と炭酸ガスの気泡を生成させる工程を含む方法により製造される、多泡状無機酸化物中空粒子。
(1)周期表第1族元素、周期表第2族元素、周期表第13族元素及び周期表第14族元素から選択される1以上を含む元素と、有機カルボン酸との水溶性塩
(2)周期表第1族元素、周期表第2族元素、周期表第13族元素及び周期表第14族元素から選択される1以上を含む元素のイオンと、炭酸イオン又は重炭酸イオンとの水溶性塩
〔2〕誘電正接が0.006以下である、前記〔1〕記載の多泡状無機酸化物中空粒子。
〔3〕比誘電率が1.9以下である、前記〔1〕又は〔2〕記載の多泡状無機酸化物中空粒子。
〔4〕粒子強度が7.0MPa以上である、前記〔1〕~〔3〕のいずれか一に記載の多泡状無機酸化物中空粒子。
〔5〕平均粒子径が5.0μm以下である、前記〔1〕~〔4〕のいずれか一に記載の多泡状無機酸化物中空粒子。
〔6〕空洞率が70%以上である、前記〔1〕~〔5〕のいずれか一に記載の多泡状無機酸化物中空粒子。
〔7〕外殻が無気孔である、前記〔1〕~〔6〕のいずれか一に記載の多泡状無機酸化物中空粒子。
〔8〕当該多泡状無機酸化物中空粒子が、25質量%以下の周期表第2族元素酸化物と、60質量%以下の周期表第13族元素酸化物と、40質量%以上の周期表第14族元素酸化物を含む無機酸化物により構成されている、前記〔1〕~〔7〕のいずれか一に記載の多泡状無機酸化物中空粒子。
〔9〕当該多泡状無機酸化物中空粒子が、15質量%以下の酸化カルシウムと、10質量%以下の酸化マグネシウムと、35質量%以下の酸化ホウ素と、25質量%以下の酸化アルミニウムと、40質量%以上の酸化ケイ素を含む無機酸化物により構成されている、前記〔1〕~〔8〕のいずれか一に記載の多泡状無機酸化物中空粒子。
〔10〕前記〔1〕~〔9〕のいずれか一に記載の多泡状無機酸化物中空粒子の製造方法であって、
下記の(1)及び(2)から選択される1以上の水溶性塩を含む被噴霧液体を、噴霧熱分解装置内に装着された噴霧装置から噴霧し、噴霧された液滴を熱分解して、無機酸化物と炭酸ガスの気泡を生成させる工程を含む、多泡状無機酸化物中空粒子の製造方法。
(1)周期表第1族元素、周期表第2族元素、周期表第13族元素及び周期表第14族元素から選択される1以上を含む元素と、有機カルボン酸との水溶性塩
(2)周期表第1族元素、周期表第2族元素、周期表第13族元素及び周期表第14族元素から選択される1以上を含む元素のイオンと、炭酸イオン又は重炭酸イオンとの水溶性塩
〔11〕下記の(1―1)及び(2-1)から選択される1以上の水溶性塩を含む被噴霧液体を噴霧する、前記〔10〕記載の多泡状無機酸化物中空粒子の製造方法。
(1-1)周期表第2族元素、周期表第13族元素及び周期表第14族元素から選択される1以上を含む元素と、有機カルボン酸との水溶性塩、
(2-1)周期表第2族元素、周期表第13族元素及び周期表第14族元素から選択される1以上を含む元素のイオンと、炭酸イオン又は重炭酸イオンとの水溶性塩
〔12〕多泡状無機酸化物中空粒子が、25質量%以下の周期表第2族元素酸化物と、60質量%以下の周期表第13族元素酸化物と、40質量%以上の周期表第14族元素酸化物を含む無機酸化物により構成されている、前記〔10〕又は〔11〕記載の多泡状無機酸化物中空粒子の製造方法。
〔13〕多泡状無機酸化物中空粒子が、15質量%以下の酸化カルシウムと、10質量%以下の酸化マグネシウムと、35質量%以下の酸化ホウ素と、25質量%以下の酸化アルミニウムと、40質量%以上の酸化ケイ素を含む無機酸化物により構成されている、前記〔10〕~〔12〕のいずれか一に記載の多泡状無機酸化物中空粒子の製造方法。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、良好な誘電特性を維持しつつ、粒子強度の高い多泡状無機酸化物中空粒子を提供することができる。また、本発明によれば、このような多泡状無機酸化物中空粒子を簡便な操作で製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】実施例1で得られた多泡状無機酸化物中空粒子の走査型電子顕微鏡(SEM)像を示す図である。
【
図2】比較例1で得られた無機酸化物中空粒子の走査型電子顕微鏡(SEM)像を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
〔多泡状無機酸化物中空粒子及びその製造方法〕
本発明の多泡状無機酸化物中空粒子は、外殻で覆われた空洞が1以上の隔壁によって区切られた複数の独立した気泡(以下、「独立気泡」ともいう。)を備えている。ここで、本明細書において「中空粒子」とは、外殻の内部に空洞を有する粒子をいい、「多泡」とは、独立気泡の集合体をいう。また、本明細書において「外殻」とは、粒子の最も表面側に位置する壁であって、粒子内部の1つの独立気泡のみ接する壁をいい、「隔壁」とは、粒子内部の隣接する2つの独立気泡を互いに区画する壁をいう。
本発明の多泡状無機酸化物中空粒子は、
図1に示されるように、粒子内の独立気泡が隔壁によって区画され、隣接する独立気泡は隔壁によって互いに連通していないため、粒子強度が高められる。
また、本発明の多泡状無機酸化物中空粒子は、外殻に開口がなく、無気孔であるため、独立気泡は完全に閉じられている。なお、空洞には、例えば、炭酸ガスが含まれている。本発明の多泡状無機酸化物中空粒子は、このような独立気泡を有し、かつ無気孔であることにより、誘電特性に優れるだけでなく、優れた断熱性、遮熱性を発現することができる。更に、本発明の多泡状無機酸化物中空粒子は、誘電特性の観点から、凝集していない一次粒子であることが好ましい。なお、外殻が無気孔であることは、走査型電子顕微鏡(SEM)像や、水に浮かぶことにより確認できる。したがって、本発明の多泡状無機酸化物中空粒子は、粒子表面から内部へ延びる複数の細孔を有する多孔質粒子とは異なる。また、走査型電子顕微鏡(SEM)像により、多孔質粒子や二次粒子と明確に区別することが可能である。
【0011】
本発明の多泡状無機酸化物中空粒子の製造方法は、特定の被噴霧液体を、噴霧熱分解装置内に装着された噴霧装置から噴霧し、噴霧された液滴を熱分解して、無機酸化物と炭酸ガスの気泡を生成させる工程を含むものであり、また本発明の多泡状無機酸化物中空粒子は、当該工程を含む方法により製造されるものである。これにより、熱分解の際に無機酸化物と微小な炭酸ガスが多数発生し、無機酸化物中空粒子の内部に微小な独立気泡が多数形成され、粒子内の隔壁数を増加させることができるため、良好な誘電特性を維持しつつ、粒子強度を高めることができる。
【0012】
(被噴霧液体)
被噴霧液体は、下記の(1)及び(2)から選択される1以上の水溶性塩を含むものである。
(1)周期表第1族元素、周期表第2族元素、周期表第13族元素及び周期表第14族元素から選択される1以上を含む元素と、有機カルボン酸との水溶性塩
(2)周期表第1族元素、周期表第2族元素、周期表第13族元素及び周期表第14族元素から選択される1以上を含む元素のイオンと、炭酸イオン又は重炭酸イオンとの水溶性塩
【0013】
周期表第1族元素としては、例えば、リチウム、ナトリウム、カリウム、セシウムを挙げることができる。周期表第2族元素としては、例えば、マグネシウム、カルシウム、ストロンチウム、バリウムを挙げることができる。周期表第13族元素としては、例えば、ホウ素、アルミニウム、ガリウム、インジウム、タリウムを挙げることができる。周期表第14族元素としては、例えば、ケイ素、ゲルマニウム、スズ、鉛を挙げることができる。
【0014】
被噴霧液体は、周期表第1族元素、周期表第2族元素、周期表第13族元素及び周期表第14族元素から選択される1以上の元素を含有すれば、これら以外の元素を含んでいてもよい。例えば、周期表第4族元素、周期表第8族元素、周期表第9族元素、周期表第10族元素、周期表第11族元素、周期表第12族元素、周期表第15族元素を挙げることができる。
【0015】
周期表第4族元素としては、例えば、チタン、ジルコニウムが挙げられる。周期表第8族元素としては、例えば、鉄、ルテニウムを挙げることができる。周期表第9族元素としては、例えば、コバルト、ロジウム、イリジウムが挙げられる。周期表第10族元素としては、例えば、ニッケル、パラジウム、白金を挙げることができる。周期表第11族元素としては、例えば、銅、銀、金が挙げられる。周期表第12族元素としては、例えば、亜鉛、カドミウムが挙げられる。周期表第15族元素としては、例えば、リン、ヒ素、アンチモン、ビスマスを挙げることができる。
【0016】
中でも、本発明の効果を享受しやすい点で、周期表第2族元素、周期表第13族元素及び周期表第14族元素から選択される1以上を含む元素が好ましく、カルシウム、マグネシウム、ホウ酸、アルミニウム及びケイ素から選択される1以上を含む元素が更に好ましい。
【0017】
有機カルボン酸としては、上記した元素との有機カルボン酸塩が水溶性となれば、一価の有機カルボン酸でも、二価の有機カルボン酸でもよい。
一価の有機カルボン酸としては、例えば、ギ酸、酢酸、プロピオン酸を挙げることができる。
二価の有機カルボン酸としては、例えば、マロン酸、コハク酸を挙げることができる。
中でも、有機カルボン酸としては、本発明の効果を享受しやすい点で、炭素数5以下の有機カルボン酸が好ましく、炭素数5以下の一価飽和炭化水素カルボン酸がより好ましく、ギ酸、酢酸及びプロピオン酸から選択される1以上が更に好ましい。
なお、炭酸イオン及び重炭酸イオンについても、上記した元素との炭酸イオン塩及び重炭酸イオン塩が水溶性であればよい。
【0018】
中でも、好適な被噴霧液体としては、次の態様を挙げることができる。
(1-1)周期表第2族元素、周期表第13族元素及び周期表第14族元素から選択される1以上を含む元素と、有機カルボン酸との水溶性塩
(1-2)カルシウム、マグネシウム、ホウ酸、アルミニウム及びケイ素から選択される1以上を含む元素と、有機カルボン酸との水溶性塩
(2-1)周期表第2族元素、周期表第13族元素及び周期表第14族元素から選択される1以上の元素のイオンと、炭酸イオン又は重炭酸イオンとの水溶性塩
(2-2)カルシウム、マグネシウム、ホウ酸、アルミニウム及びケイ素から選択される1以上を含む元素のイオンと、炭酸イオン又は重炭酸イオンとの水溶性塩
【0019】
また、被噴霧液体は、上記した(1)及び(2)以外の化合物を含んでいてもよい。かかる化合物としては、水に溶解する化合物であれば特に限定されない。例えば、周期表第1族元素、周期表第2族元素、周期表第4族元素、周期表第8族元素、周期表第9族元素、周期表第10族元素、周期表第11族元素、周期表第12族元素、周期表第13族元素、周期表第14族元素及び周期表第15族元素から選択される1以上の元素を含む無機塩(炭酸イオン塩又は重炭酸イオン塩を除く)、有機塩(有機カルボン酸塩を除く)、アルコキシドを挙げることができる。上記した(1)及び(2)以外の化合物は、1又は2以上を含有することができる。無機塩としては、例えば、硝酸塩、硫酸塩、炭酸塩、水酸化物、ハロゲン化物を挙げることができる。例えば、ホウ素含有化合物の具体例として、ホウ酸ナトリウム、ホウ酸カリウム等のメタホウ酸塩、四ホウ酸ナトリウム、四ホウ酸カリウム等の四ホウ酸塩、五ホウ酸ナトリウム、五ホウ酸カリウム等の五ホウ酸塩等のホウ酸塩、ホウ酸を使用することができる。また、アルコキシドとしては、例えば、オルトケイ酸テトラメチル(TMOS)、オルトケイ酸テトラエチル(TEOS)、オルトケイ酸テトラプロピル(TPOS)、テトラブトキシシラン等のケイ酸アルコキシド、アルミニウムメトキシド、アルミニウムエトキシド、アルミニウムイソプロポキシド等のアルミニウムアルコキシドを使用することが可能である。更に、アルミノケイ酸ナトリウム、アルミノケイ酸カリウム、アルミノケイ酸カルシウム等のアルミノケイ酸塩や、アルミニウム酸化物を溶媒に分散した溶液、アルミニウム酸化物のゾル溶液も用いることができる。
【0020】
被噴霧液体の調製に使用する溶媒としては、水、有機溶媒を挙げることができる。中でも、環境への影響、製造コストの点から、水が好ましい。
【0021】
被噴霧液体中の原料化合物の合計濃度は、得られる無機酸化物粒子の密度、強度等を考慮し、好ましくは0.01mol/Lから飽和濃度であり、更に好ましくは0.1~1.0mol/Lである。なお、被噴霧液体中の原料化合物の各濃度は、所望の組成が得られるように適宜選択することができる。また、上記した(1)及び(2)の化合物の合計濃度は、粒子強度向上の観点から、被噴霧媒体中に、好ましくは4モル%以上であり、より好ましくは8モル%以上であり、更に好ましくは12モル%以上であり、より更に好ましくは15モル%以上である。なお、上記した(1)及び(2)の化合物の合計濃度の上限値は特に限定されないが、被噴霧媒体中に、好ましくは55モル%以下であり、より好ましくは45モル%以下であり、更に好ましくは35モル%以下である。
【0022】
本発明の多泡状無機酸化物中空粒子は、外殻部及び隔壁が、周期表第1族元素、周期表第2族元素、周期表第13族元素及び周期表第14族元素から選択される1以上の元素を含む無機酸化物により構成されている。無機酸化物は、1種又は2種以上含有することができる。無機化合物の具体例としては、例えば、酸化ナトリウム、酸化カリウム、酸化マグネシウム、酸化カルシウム、酸化バリウム、酸化ホウ素、酸化アルミニウム、酸化ケイ素、アルミノシリケート、アルミノホウケイ酸を挙げることができる。また、無機酸化物を組み合わせた複合酸化物でも構わない。
【0023】
好適な多泡状無機酸化物中空粒子の組成としては、次の態様を挙げることができる。
(i)10質量%以下の周期表第1族元素酸化物と、25質量%以下の周期表第2族元素酸化物と、60質量%以下の周期表第13族元素酸化物と、40質量%以上の周期表第14族元素酸化物を含む無機酸化物により構成されている多泡状無機酸化物中空粒子。
(ii)25質量%以下の周期表第2族元素酸化物と、60質量%以下の周期表第13族元素酸化物と、40質量%以上の周期表第14族元素酸化物を含む無機酸化物により構成されている多泡状無機酸化物中空粒子。
(iii)15質量%以下の酸化カルシウムと、10質量%以下の酸化マグネシウムと、35質量%以下の酸化ホウ素と、25質量%以下の酸化アルミニウムと、40質量%以上の酸化ケイ素を含む無機酸化物により構成されている多泡状無機酸化物中空粒子。
【0024】
(i)の態様において、周期表第1族元素酸化物の含有量は、好ましくは5質量%以下であり、0質量%であっても構わない。
(i)及び(ii)の態様において、周期表第2族元素酸化物の含有量は、好ましくは20質量%以下であり、更に好ましくは15質量%以下であり、そして好ましくは3質量%以上であり、更に好ましくは5質量%以上である。周期表第13族元素酸化物の含有量は、好ましくは55質量%以下であり、より好ましくは50質量%以下であり、更に好ましくは45質量%以下であり、そして好ましくは10質量%以上であり、より好ましくは20質量%以上であり、更に好ましくは30質量%以上である。周期表第14族元素酸化物の含有量は、好ましくは42質量%以上であり、更に好ましくは44質量%以上であり、そして好ましくは60質量%以下であり、更に好ましくは55質量%以下である。
(iii)の態様において、酸化カルシウムの含有量は、好ましくは13質量%以下であり、より好ましくは10質量%以下であり、更に好ましくは8質量%以下であり、そして好ましくは2質量%以上であり、更に好ましくは4質量%以上である。酸化マグネシウムの含有量は、好ましくは8質量%以下であり、更に好ましくは6質量%以下であり、そして好ましくは1質量%以上であり、更に好ましくは3質量%以上である。酸化ホウ素の含有量は、好ましくは33質量%以下であり、より好ましくは30質量%以下であり、更に好ましくは28質量%以下であり、そして好ましくは10質量%以上であり、より好ましくは15質量%以上であり、更に好ましくは20質量%以上である。酸化アルミニウムの含有量は、好ましくは23質量%以下であり、より好ましくは20質量%以下であり、更に好ましくは17質量%以下であり、そして好ましくは3質量%以上であり、より好ましくは5質量%以上であり、更に好ましくは8質量%以上である。酸化ケイ素の含有量は、好ましくは42質量%以上であり、更に好ましくは44質量%以上であり、そして好ましくは60質量%以下であり、更に好ましくは55質量%以下である。
【0025】
本明細書において、上記において説明した無機酸化物の各含有量は、蛍光X線分析法にて酸化物換算で測定し化学成分を算出した値である。分析対象である元素の酸化物の合計値が100%となるよう、下記式により補正することで、各々の化学成分を算出する。
【0026】
化学組成(補正後)(%)=化学組成(補正前)×100/(100-不純物(%))
〔式中、不純物(%)は、100から上述した酸化物の化学組成の合計値を差し引いたものである。〕
【0027】
(熱分解)
被噴霧液体を噴霧熱分解装置内に装着された噴霧装置から噴霧し、噴霧された液滴を熱分解する。
噴霧熱分解装置内に噴霧された液滴が炉内で加熱されると、液滴表面が乾燥して外殻が生成する。そして、粒子内部の水分が水蒸気化し、外殻の孔を通って外部へ放出され、水蒸気が抜けた孔を、溶融した無機酸化物が被覆して無気孔化するものと考えられる。この生成メカニズムにおいて、粒子内部の水蒸気等が容易に外部に放出されない場合、粒子内部で滞留し泡立つため、外殻が歪んで膨張して独立気泡が形成されると考えられる。一方、本発明においては、上記した(1)及び(2)から選択される水溶性塩が被噴霧液体に含まれているため、水溶性塩以外の無機塩を含む被噴霧液体を使用した場合と比較して、液滴の熱分解により発生するガスの量が多く、粒子内で滞留するガス総量が増加するため、泡立ちがより顕著になり、独立気泡がより多く形成される。
図1に本発明の多泡状無機酸化物中空粒子のSEM像の一例を示す。また、
図2に、水溶性塩以外の無機塩を含む被噴霧液体を用いた従来の無機酸化物中空粒子のSEM像を示す。
図1の無機酸化物中空粒子は、
図2の無機酸化物中空粒子比べて、粒子内に微小な独立気泡が多数存在し、隔壁数が多いため、隔壁が支柱として働き、より高い粒子強度を発現することができる。このように、本発明の多泡状無機酸化物中空粒子は、従来の無機酸化物中空粒子に比べて、微小な独立気泡が多数存在し、それにより隔壁が多数設けられていることが特徴であるが、個々の独立気泡の大きさや、独立気泡及び隔壁の数等を直接特定することが困難であるという不可能・非実際的事情が存在する。
【0028】
噴霧熱分解装置は、熱分解炉の形状が堅型円筒状であることが好ましく、熱分解炉の大きさは、製造スケールにより適宜選択することができる。
【0029】
噴霧装置としては、例えば、2流体ノズル、3流体ノズル、4流体ノズル等の流体ノズルを挙げることができる。ここで、流体ノズルの方式には、気体と原料溶液とをノズル内部で混合する内部混合方式と、ノズル外部で気体と原料溶液を混合する外部混合方式があるが、いずれも採用できる。ノズルに供給する気体としては、例えば、空気や、窒素、アルゴン等の不活性ガス等を使用することができる。中でも、経済性の観点から、空気が好ましい。なお、噴霧装置は、1基又は2基以上設置することができる。
【0030】
被噴霧液体の流量は、通常1~100L/hであり、好ましくは3~80L/hであり、更に好ましくは5~60L/hである。
液滴の噴出速度は、通常1~50m/sであり、好ましくは5~35m/sであり、更に好ましくは10~20m/sである。
【0031】
熱分解炉の加熱装置は、例えば、燃焼バーナー、熱風ヒータ、電気ヒータ等を挙げることができる。加熱装置は、1基又は2基以上設置することが可能である。なお、燃焼バーナー、熱風ヒータ及び電気ヒータは、一般的に販売されているものあれば、いずれも使用することができる。
加熱装置の温度は、通常400~1800℃であり、好ましくは600~1500℃であり、より好ましくは700~1400℃であり、更に好ましくは800~1200℃である。このような温度であれば、熱分解が十分となり、また粒子が熱分解炉外に排出されたときに粒子同士が凝集し難くなる。
【0032】
熱分解反応によって生じた多泡状無機酸化物中空粒子は、熱分解炉の下流側から回収される。多泡状無機酸化物中空粒子の回収は、高性能サイクロン粉体回収機やバグフィルターを用いた粉体回収装置を用いることができる。
【0033】
また、本発明においては、回収した多泡状無機酸化物中空粒子をエタノールと撹拌混合し、該粒子をエタノールに一旦浸漬させた後、液面に浮遊した粒子のみを採取してもよい。これにより、粒子内部の空洞が独立気泡を有する多泡状無機酸化物中空粒子を高純度で得ることができる。なお、エタノールの使用量は、多泡状無機酸化物中空粒子に対して、通常5~20質量倍であり、好ましくは10~15質量倍である。
【0034】
本発明の製造方法により得られた多泡状無機酸化物中空粒子は、例えば、次の特性を具備することができる。
本発明の多泡状無機酸化物中空粒子は、粒子強度が通常7.0MPa以上であるが、より一層の強度向上の観点から、好ましくは7.3MPa以上であり、より好ましくは7.5MPa以上であり、更に好ましくは7.8MPa以上である。ここで、本明細書において「粒子強度」とは、加圧成型プレス機で無機酸化物中空粒子に印加した際の中空構造残存率が50%時の粒子強度である。具体的には、後掲の実施例に記載の方法により測定することができる。
【0035】
本発明の多泡状無機酸化物中空粒子は、誘電正接が通常0.006以下であるが、低誘電率化の観点から、好ましくは0.0058以下であり、更に好ましくは0.0055以下である。ここで、本明細書において「誘電正接」とは、1GHzにおける誘電正接をいい、温度25℃、湿度60%の環境下、1GHzにおいて測定するものとする。なお、誘電正接は、例えば、摂動方式空洞共振器(KEYCOM社製)を用いて測定することができる。
【0036】
また、本発明の多泡状無機酸化物中空粒子は、比誘電率が通常1.9以下であるが、低誘電率化の観点から、好ましくは1.88以下であり、より好ましくは1.85以下であり、更に好ましくは1.80以下である。ここで、本明細書において「比誘電率」とは、1GHzにおける比誘電率をいい、温度25℃、湿度60%の環境下、1GHzにおいて測定するものとする。なお、比誘電率は、例えば、摂動方式空洞共振器(KEYCOM社製)を用いて測定することができる。
【0037】
本発明の多泡状無機酸化物中空粒子は、微小な粒子であるため、小型化や薄型化が必要とされる電子機器部品への適用が容易である。より具体的には、本発明の多泡状無機酸化物中空粒子の平均粒子径は、通常5μm以下であり、好ましくは4.5μm以下であり、より好ましくは4.0μm以下であり、更に好ましくは3.5μm以下である。なお、かかる平均粒子径の下限値は、空洞を十分確保する観点から、好ましくは0.6μm以上であり、より好ましくは0.7μm以上であり、更に好ましくは0.8μm以上である。ここで、本明細書において「平均粒子径」とは、JIS R 1629に準拠して試料の粒度分布を体積基準で作成したときに積算分布曲線の50%に相当する粒子径(D50)を意味する。なお、粒子径分布測定には、例えば、レーザ回折・散乱式粒子径分布測定装置を使用することができる。
【0038】
本発明の多泡状無機酸化物中空粒子は、空洞率が、通常70%以上であるが、誘電特性の観点から、好ましくは72%以上であり、更に好ましくは75%以上である。なお、かかる空洞率の上限値は、十分な強度を確保する観点から、95%以下が好ましく、90%以下が更に好ましい。ここで、本明細書において「空洞率」は、乾式自動密度計を使用して粒子の嵩密度と真密度とを測定し、その値から下記式により算出される値である。なお、個々の粒子について計測することが難しいため、粒子群としての空洞割合である。また、「真密度」は、空洞部分を取り除くために、箱型電気炉にて融点以上で6時間加熱した後、冷却して乾式自動密度計で測定するものとする。乾式自動密度計として、例えば、アキュピック(島津製作所)を使用することができる。
【0039】
空洞率=(真密度-嵩密度)×100/真密度
【0040】
本発明の多泡状無機酸化物中空粒子の形状は、真球状、扁楕円体や長楕円体等の略球状のいずれであってもよい。平均円形度は、低誘電正接化の観点から、好ましくは0.85以上であり、更に好ましくは0.90以上である。ここで、「円形度」は、走査型電子顕微鏡写真から粒子の投影面積(A)と周囲長(PM)を測定し、周囲長(PM)に対する真円の面積を(B)とすると、その粒子の円形度はA/Bとして表される。そこで、試料粒子の周囲長(PM)と同一の周囲長を持つ真円の周囲長及び面積は、それぞれPM=2πr、B=πr2であるから、B=π×(PM/2π)2となり、この粒子の円形度は、円形度=A/B=A×4π/(PM)2として算出される。100個の粒子について円形度を測定し、その平均値でもって平均円形度とする。
【0041】
本発明の多泡状無機酸化物中空粒子は、例えば、断熱材料、遮熱材料、触媒担体、建築材料、電子材料に適用することができるが、誘電特性に優れ、粒子強度の高い微小粒子であることから、電子材料、とりわけ配線回路基板、半導体封止材等に有用である。
【0042】
また、本発明の多泡状無機酸化物中空粒子は、媒体への分散性にも優れる。
媒体としては特に限定されないが、本発明の効果を享受しやすい点で、例えば、樹脂、塗料、ゴム、溶剤を挙げることができる。媒体として樹脂を用いた場合には、電子材料、例えば、配線回路基板や半導体封止材等を形成するための樹脂組成物とすることができる。なお、樹脂としては、配線回路や半導体封止材の分野において一般的に使用されているものであれば、特に限定されない。樹脂組成物中の無機酸化物中空粒子の含有量は、その用途により適宜選択可能であるが、通常1~97質量%であり、好ましくは5~60質量%であり、更に好ましくは15~40質量%である。
【0043】
また、樹脂組成物は、有機溶媒に溶解又は分散したワニスの形態であってもよく、該ワニスを基材に含浸させてプリプレグとすることもできる。ワニス中の固形分(不揮発分)濃度は、その用途に応じて適宜選択可能であるが、通常5~80質量%であり、好ましくは10~70質量%である。ワニスを含浸させる基材としては特に限定されず、例えば、無機繊維、有機繊維、炭素繊維等が挙げられる。なお、含浸は、浸漬(ディッピング)や塗布等によって行うことができる。
【0044】
更に、例えば、金属箔付基板上に、上記したワニスを塗布した後、加熱・硬化を行って金属箔付基板上に樹脂層を形成した後、金属箔をエッチングにより除去して導体パターンを形成することにより配線回路基板を製造することもできる。なお、ワニスを基材上に塗布する際には、スプレー法、ロールコート法、回転塗布法(スピンコート法)、スリットダイ塗布法(スリット塗布法)、バー塗布法等の適宜の塗布法を採用することができる。
【0045】
媒体と無機酸化物中空粒子との混合方法は特に限定されないが、例えば、各成分をミキサー等によって十分に均一に撹拌及び混合した後、ミキシングロール、押出機、ニーダー、ロール、エクストルーダー等を用いて混練すればよい。なお、混合条件は、混合方法により適宜設定することができる。
【実施例0046】
以下、実施例を挙げて、本発明の実施の形態をさらに具体的に説明する。但し、本発明は、下記の実施例に限定されるものではない。
【0047】
1.中空率の測定
乾式自動密度計としてアキュピック(島津製作所製)を使用し、無機酸化物中空粒子の嵩密度と真密度を測定し、下記式により算出した。なお、真密度は、空洞部分を取り除くために、箱型電気炉にて融点以上で6時間加熱した後、冷却して乾式自動密度計で測定した。
【0048】
中空率(%)=(真密度-見かけ密度)×100/真密度
【0049】
2.粒子強度の測定
得られた無機酸化物中空粒子を用いて、以下の操作を行った。
(1)サンプル:エタノール=4:1で混合する(サンプルのみでは、加圧によるペレット成形が困難なため、エタノールを混合した)。
(2)混合したサンプルを冶具へ一定量投入する。
(3)圧力成形機へ載せ、油圧で所定の圧力(2~30MPa)をかける(
図3)。
(4)所定の圧力にて1分間、静置する。
(5)成形機からサンプル(ペレット)を取り外す。
80℃で2時間以上乾燥する(熱風乾燥機で、(1)で混合したエタノールを除去)。
(6)密度を測定する。
【0050】
そして、得られた密度、質量、破壊前の体積、破壊後の体積から、下記式(a)及び(b)に基いて、中空構造残存率を求めた。
【0051】
中空構造残存率pは、以下のように求めた。
質量をm、破壊前の体積をV、破壊後の体積をvとする。このとき、破壊前の密度(見かけ密度)x=m/V、破壊後の密度(真密度)y=m/vとなる。中空構造残存率をpとすると、見掛け密度ρは以下で表される。
【0052】
m/((V×p+v×(1-p))=ρ・・・(a)
これをpについて解くと、以下のようになる。
p=(1-ρ/y)/ρ×(1/x-1/y)・・・(b)
【0053】
また、中空構造残存率(線形)に下記計算で算出される残存率Pを示す。式(c)で残存率(線形)を求めてもよい。
x×P+y×(1-P)=ρ・・・(c)
【0054】
中空構造残存率pと圧力の関係を示したグラフを作成し、グラフから50%残存時の圧力を求め、その値を無機酸化物中空粒子の50%残存強度とした。
【0055】
3.誘電正接
誘電正接は摂動方式空洞共振器(KEYCOM社製)を用い、温度25℃、湿度60%の環境下、1GHzにおいて測定した。
【0056】
4.化学組成の分析
無機酸化物中空粒子をプレス機で成型してブリケットを作製し、そのブリケットを蛍光X線分析装置(ZSXprimusII、リガク社製)にて酸化物換算で測定し、分析対象である元素の酸化物(SiO2、Al2O3、CaO、MgO、B2O3)の合計値が100%となるよう、下記式により補正することで、各々の化学成分を算出した。
【0057】
化学組成(補正後)(%)=化学組成(補正前)×100/(100-不純物(%))
〔式中、不純物(%)は、100から上述した酸化物の化学組成の合計値を差し引いたものである。〕
【0058】
実施例1
反応容器内に原料無機化合物含有水溶液を投入し、原料無機化合物含有水溶液を3時間攪拌した。なお、原料無機化合物含有水溶液は、酢酸カルシウム(大崎工業製)を0.025mol/L、硝酸マグネシウム(赤穂化成製)を0.022mol/L、硝酸アルミニウム(博光化学工業製)を0.050mol/L、オルトケイ酸テトラエチル(多摩化学工業製)を0.172mol/L、ホウ酸(米山化学工業)を0.167mol/Lとなるように水道水に溶解して調製した。続いて、この原料無機化合物含有水溶液を2流体ノズルに送液し、ノズルから噴霧熱分解炉内に原料無機化合物含有水溶液を噴霧し、1100℃で焼成して無機酸化物中空粒子を回収した。回収した無機酸化物中空粒子20gをエタノール300gと撹拌混合し、該粒子をエタノールに一旦浸漬させた後、液面に浮遊した粒子のみを採取した。そして、採取した無機酸化物中空粒子について分析を行った。その結果を表1に示す。また、無機酸化物中空粒子のSEM写真を
図1に示す。
【0059】
実施例2
硝酸マグネシウムを酢酸マグネシウムに変更したこと以外は、実施例1と同様の手順で無機酸化物中空粒子を製造した。そして、採取した無機酸化物中空粒子について分析を行った。その結果を表1に示す。
【0060】
実施例3
硝酸マグネシウムを酢酸マグネシウムに、硝酸アルミニウムを酢酸アルミニウムに、それぞれ変更したこと以外は、実施例1と同様の手順で無機酸化物中空粒子を製造した。そして、採取した無機酸化物中空粒子について分析を行った。その結果を表1に示す。
【0061】
実施例4
酢酸カルシウムをギ酸カルシウムに変更したこと以外は、実施例1と同様の手順で無機酸化物中空粒子を製造した。そして、採取した無機酸化物中空粒子について分析を行った。その結果を表1に示す。
【0062】
比較例1
酢酸カルシウムを硝酸カルシウムに変更したこと以外は、実施例1と同様の手順で無機酸化物中空粒子を製造した。そして、採取した無機酸化物中空粒子について分析を行った。その結果を表1に示す。また、比較例1で得られた無機酸化物中空粒子のSEM写真を
図2に示す。
【0063】
比較例2
酢酸カルシウムをクエン酸カルシウムに変更したところ、水に殆ど溶けないため、被噴霧液体を作製できず、製造を断念した。
【0064】
【0065】
比較例1は、無機酸化物源として本願発明に係る水溶性塩以外の無機塩を用いた例であるが、熱分解後に発生するガス量が少なく、粒子内に独立気泡の形成が不十分で隔壁数が少ないため、十分な強度が発現しなかった。
これに対し、実施例1~4は、無機酸化物源として有機カルボン酸塩を用いた例であるが、比較例1と比較して、熱分解後に炭酸ガスが多量に発生し、粒子内に微細な独立気泡が多数形成され、隔壁数が増加したため、粒子強度が高くなった。また、実施例1~4から、有機カルボン酸塩の使用量が多いほど、粒子内の隔壁数が増加し、強度は高くなった。