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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024037052
(43)【公開日】2024-03-18
(54)【発明の名称】軌道回路監視システム
(51)【国際特許分類】
   B61L 1/18 20060101AFI20240311BHJP
   B61L 3/08 20060101ALI20240311BHJP
   B61L 23/04 20060101ALI20240311BHJP
   H04J 13/00 20110101ALI20240311BHJP
【FI】
B61L1/18 Z
B61L3/08 A
B61L23/04
H04J13/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022141691
(22)【出願日】2022-09-06
(71)【出願人】
【識別番号】000004651
【氏名又は名称】日本信号株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100181146
【弁理士】
【氏名又は名称】山川 啓
(74)【代理人】
【識別番号】100109221
【弁理士】
【氏名又は名称】福田 充広
(72)【発明者】
【氏名】小川 貴弘
(72)【発明者】
【氏名】坪島 宏和
(72)【発明者】
【氏名】金子 貴志
(72)【発明者】
【氏名】菅原 淳
【テーマコード(参考)】
5H161
【Fターム(参考)】
5H161AA01
5H161BB02
5H161CC13
5H161DD02
5H161FF02
5H161FF05
5H161FF07
5H161GG02
5H161GG11
5H161GG21
(57)【要約】
【課題】軌道回路についての保守作業の必要性を的確に判定し、保守作業の軽減等を図ることができる軌道回路監視システムを提供すること。
【解決手段】軌道回路監視システム100は、軌道回路2Tの送信器S2であって、軌道回路2Tに関する監視情報を、列車検知信号TDsに重畳させて送信する地上側送信部GSと、地上側送信部GSから送信された監視情報を含む列車検知信号TDsを受信する列車側受信部REと、を備えている。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
軌道回路の送信器であって、軌道回路に関する監視情報を列車検知信号に重畳させて送信する地上側送信部と、
前記地上側送信部から送信された監視情報を含む列車検知信号を受信する列車側受信部と
を備える軌道回路監視システム。
【請求項2】
軌道回路の受信器であって、自己に関する監視情報を前記地上側送信部に伝送する地上側受信部を備え、
前記地上側送信部は、自己に関する監視情報とともに、前記地上側受信部から伝送された前記受信器に関する監視情報を、列車検知信号に重畳する、請求項1に記載の軌道回路監視システム。
【請求項3】
前記地上側送信部は、監視情報として、故障予兆の情報又は故障情報を送信する、請求項1及び2のいずれか一項に記載の軌道回路監視システム。
【請求項4】
前記地上側送信部は、PN符号を利用した列車検知信号において、PN符号の組合せにより監視情報を重畳する、請求項1に記載の軌道回路監視システム。
【請求項5】
前記列車側受信部は、ATS車上子又は受電器を構成する受信アンテナにより、レールに流れている監視情報を含む列車検知信号を受信する、請求項1に記載の軌道回路監視システム。
【請求項6】
前記列車側受信部は、前記受信アンテナで取得した情報から、列車検知信号に含まれる監視情報を検出する監視情報検出部を有し、
前記列車側受信部は、前記受信アンテナで取得した情報を、前記ATS車上子又は受電器の設備から、前記監視情報検出部に出力する、請求項5に記載の軌道回路監視システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、軌道回路の監視に適用する軌道回路監視システムに関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、軌道回路装置に関する技術として、保守作業について言及しているものが知られている(特許文献1参照)。
【0003】
しかしながら、上記特許文献1では、例えば保守作業の軽減等を行うための具体的手法といったことに関する開示が無い。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2019-156257号公報
【発明の概要】
【0005】
本発明は上記した点に鑑みてなされたものであり、軌道回路についての保守作業の必要性を的確に判定し、保守作業の軽減等を図ることができる軌道回路監視システムを提供することを目的とする。
【0006】
上記目的を達成するための軌道回路監視システムは、軌道回路の送信器であって、軌道回路に関する監視情報を列車検知信号に重畳させて送信する地上側送信部と、地上側送信部から送信された監視情報を含む列車検知信号を受信する列車側受信部とを備える。
【0007】
上記軌道回路監視システムでは、軌道回路に関する監視情報が重畳された列車検知信号を、列車側受信部において受信することで、例えば、軌道回路についての保守作業の必要性を判定するために必要な情報を、列車側において簡易かつ確実に収集可能となることで、保守作業の軽減等を図ることができる。
【0008】
本発明の具体的な側面では、軌道回路の受信器であって、自己に関する監視情報を地上側送信部に伝送する地上側受信部を備え、地上側送信部は、自己に関する監視情報とともに、地上側受信部から伝送された受信器に関する監視情報を、列車検知信号に重畳する。この場合、軌道回路の送信器及び受信器に関する監視情報を、地上側送信部を介して、列車側受信部に受信させることができる。
【0009】
本発明の別の側面では、地上側送信部は、監視情報として、故障予兆の情報又は故障情報を送信する。この場合、軌道回路の故障状況について列車側において簡易かつ確実に収集可能となる。
【0010】
本発明のさらに別の側面では、地上側送信部は、PN符号を利用した列車検知信号において、PN符号の組合せにより監視情報を重畳する。この場合、簡易な構成であっても的確な情報収集が可能となる。
【0011】
本発明のさらに別の側面では、列車側受信部は、ATS車上子又は受電器を構成する受信アンテナにより、レールに流れている監視情報を含む列車検知信号を受信する。この場合、列車側において確実に監視情報を含む列車検知信号を受信できる。
【0012】
本発明のさらに別の側面では、列車側受信部は、受信アンテナで取得した情報から、列車検知信号に含まれる監視情報を検出する監視情報検出部を有し、列車側受信部は、受信アンテナで取得した情報を、ATS車上子又は受電器の設備から、監視情報検出部に出力する。この場合、列車検知信号に含まれる監視情報を、確実に出力できる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】(A)及び(B)は、第1実施形態の軌道回路監視システムについて説明するための概念的な側面図及び平面図である。
図2】(A)及び(B)は、軌道回路監視システムについて説明するための概念的な側面図及び平面図である。
図3】一の軌道回路の送信器と、一の軌道回路に隣接する他の軌道回路の受信器とについての一構成例を概念的に示すブロック図である。
図4】(A)及び(B)は、列車検知信号の送受信に際して取り扱われるPN符号について一例を示す概念図である。
図5】(A)及び(B)は、軌道回路の送信器と受信器とにおける内部での動作について説明するためのブロック図である。
図6】列車上に設けた装置について一例を説明するための概念的な側面図である。
図7】(A)~(C)は、車上子による列車検知信号の受信について一例を説明するための概念図である。
図8】受電器による列車検知信号の受信について一例を説明するための概念図である。
図9】軌道回路監視システムの特徴事項について簡潔に説明するための概念的な側面図である。
図10】第2実施形態の軌道回路監視システムについて説明するための概念的な側面図である。
図11】第3実施形態の軌道回路監視システムについて説明するための概念図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
〔第1実施形態〕
以下、図1等を参照して、第1実施形態の軌道回路監視システムについて、一例を説明する。図1(A)は、本実施形態の軌道回路監視システム100について説明するための概念的な側面図であり、図1(B)は、概念的な平面図である。図1(A)及び図1(B)では、一の軌道回路(軌道回路2T)に列車TRが在線している場合を例示している。一方、図2(A)及び図2(B)は、図1(A)及び図1(B)に対応するものとなっており、図2(A)及び図2(B)では、列車TRが在線していない場合における軌道回路監視システム100についての側面図及び平面図が示されている。なお、各図において、+X方向が列車TRの進行方向である、すなわち±X方向が軌道回路の延びる方向であり、±Y方向が列車TRの左右方向(水平方向)であり、±Z方向が列車TRの上下方向(垂直方向)であるものとする。
【0015】
軌道回路監視システム100は、地上側に設けた地上側装置50と、車上側(列車TR側)に設けた車上側装置70とで構成されている。
【0016】
まず、軌道回路監視システム100のうち、地上側装置50は、各軌道回路1T,2T,3T…に対応して設けられる列車検知装置1D,2D,3D…で構成されている。各列車検知装置1D,2D,3D…は、一対構成の送信器及び受信器で構成されている。図の一例では、主に、軌道回路2Tに対応して設けられた列車検知装置2Dとして、一対構成の送信器S2及び受信器R2が設けられている箇所を示している。すなわち、図示において、送信器S2と受信器R2とは、列車検知装置2Dとして機能すべく、軌道回路2T上における2本のレールRLを介して列車検知信号TDsの送受信を行う。
【0017】
以下、地上側装置50によるレールRLを介した列車検知信号TDsの送受信による在線・非在線の確認の動作について一例を説明する。例えば、図2(A)に示すように、列車TR(図1参照)が在線していない場合には、図2(B)において破線で示すように、列車検知信号TDsに相当する電流(交流電流)が送信器S2から出力され、これが軌道回路2Tを構成するレールRLを介して受信器R2において所定レベル以上の信号として受信されることで、軌道回路2Tにおける列車非在線を検知する。
【0018】
これに対して、図1(A)に示すように、列車TRが在線している場合には、図1(B)において破線で示すように、列車検知信号TDsに相当する電流(交流電流)が送信器S2から出力されても、2本のレールRL上に在線する列車TRの車輪WLにより短絡されて、受信器R2において所定レベル以上の受信がなされないことにより、軌道回路2Tにおける列車在線が検知される。
【0019】
上記のような態様において、本実施形態では、送信器S2から出力される列車検知信号TDsに、軌道回路2T等に関する監視情報(軌道回路を構成する送信器や受信器の動作に異常等が無いかを監視した結果としての情報)を重畳させ、さらに、監視情報を含む列車検知信号TDsを列車TR側において受信する、すなわち車上側装置70において受信することで、例えば、軌道回路2T等についての保守作業の必要性を判定するために必要な情報を、列車TR側において簡易かつ確実に収集可能としている。これにより、保守作業の軽減等を図ることができる。
【0020】
ここで、図示の一例では、軌道回路1Tとこれに隣接する軌道回路2Tとの境界BD1及びその付近において、一の軌道回路である軌道回路2Tの送信器S2と、軌道回路2Tに隣接する他の軌道回路である軌道回路1Tの受信器R1とが、1つの器具箱B12に収納されている。送信器S2は、器具箱B12に収納されている受信器R1から、受信器R1に関する監視情報を受け付けるものとなっている。これにより、送信器S2は、自身に関する監視情報すなわち送信器S2(軌道回路2T)に関する監視情報のみならず、受信器R1(軌道回路1T)に関する監視情報を、列車検知信号TDsに重畳させることが可能となっている。また、他の軌道回路の境界においても同様であり、例えば軌道回路2Tとこれに隣接する軌道回路3Tとの境界BD2においては、軌道回路2Tの受信器R2と軌道回路3Tの送信器S3とが、1つの器具箱B23に収納されており、送信器S3は、受信器R2からの受信器R2に関する監視情報を受け付けている。
【0021】
以上において、例えば、軌道回路2Tの送信器である送信器S2は、地上側送信部GSとして、軌道回路2Tに関する監視情報を列車検知信号TDsに重畳させて送信する。一方、軌道回路1Tの受信器である受信器R1は、自己に関する監視情報を地上側送信部GSである送信器S2に伝送する地上側受信部GRとして機能する。上記の場合、地上側送信部GSである送信器S2は、自己に関する監視情報とともに、地上側受信部GRである受信器R1から伝送された受信器R1に関する監視情報を、列車検知信号TDsに重畳するものとなっている。なお、上記のような関係は、地上側送信部GSとしての送信器S3と地上側受信部GRとしての受信器R2との間においても、同様となっている。
【0022】
車上側装置70は、レールRL上を電気信号(交流電流)として流れる列車検知信号TDs(重畳された監視情報を含む)について、受信可能とすべく、受信設備等を有しており、さらに、受信した列車検知信号TDsに重畳されている監視情報を抽出し、これを外部へ送信可能な構成となっている。なお、車上側装置70には、上記受信設備等として、地上側送信部GSである送信器(例えば送信器S2)から送信された監視情報を含む列車検知信号TDsを受信する列車側受信部REが設けられているものとする。なお、列車側受信部REについては、車上側装置70の一部と捉えることも可能であるが、車上側装置70全体をもって、列車側受信部REと捉えるものとしてもよい。車上側装置70から、すなわち列車TRの側から外部に向けて送信される監視情報を、例えば設備点検を行う中央管理装置(図示略)等において受け取ることで、地上側装置50が設置された現場に向かうことなく、鉄道設備の管理側において、地上側装置50の監視情報を取得することが可能となる。なお、車上側装置70の詳しい一構成例については、図6を参照して後述する。
【0023】
以下、図3として示すブロック図を参照して、上述した器具箱(例えば器具箱B12)の一構成例について、すなわち送信器(例えば送信器S2)と受信器(例えば受信器R1)とに関する一構成例について、より詳細に説明する。
【0024】
まず、図示のように、器具箱B12に収納されているもののうち、送信器S2は、CPU等で構成される主制御部12sと、各種センサーで構成されて装置各部のセンシングを行うセンサー部22sと、各種駆動動作を行う駆動部32sと、記憶部であるメモリ42sと、各種データの授受を行う伝送部52sとを備える。このほか、送信器S2は、列車検知信号TDsの出力に際して出力信号の変調を行う変調部62sを備える。
【0025】
主制御部12sは、各部と接続され、駆動部32sにおける各種動作の制御等を担う。一方、センサー部22sは、駆動部32s等における各種動作の状況についてセンシングを行い、検出結果を主制御部12sに出力する。主制御部12sは、センサー部22sからの検出結果をメモリ42sに格納するとともに、検出結果から各部の動作が正常なものとなっているか等の判定をすることで、自身の動作正常性を監視する監視部として機能する。ここでは、主制御部12sは、検出結果を予め定めた各種閾値と比較して、各部が故障していることを示すものとなっているか、あるいは故障する予兆を示すものとなっているかについて、判定可能となっているものとする。主制御部12sは、故障を示しているあるいは故障する予兆を示すものとなっている場合には、これらをメモリ42sの所定領域において、送信器側故障情報・故障予兆情報として格納する。送信器側故障情報・故障予兆情報は、自身に関する監視情報として取り扱われる。伝送部52sは、各種データについて外部との授受を行うための接続装置であり、ここでは、器具箱B12に収納されている受信器R1から送信される各種データを受け付ける。なお、受け付けたデータは、メモリ42sの所定領域に格納される。
【0026】
一方、器具箱B12に収納されているもののうち、受信器R1は、送信器S2と同様の構成として、送信器S2の主制御部12sと、センサー部22sと、駆動部32sと、メモリ42sと、伝送部52sとにそれぞれ対応するものとして、主制御部11rと、センサー部21rと、駆動部31rと、メモリ41rと、伝送部51rとを備える。すなわち、受信器R1は、主制御部11rの制御下で各部が動作し、メモリ41rにおいて、受信器R1の各部についての故障を示しているあるいは故障する予兆を示すデータである受信器側故障情報・故障予兆情報が、所定領域に格納されている。伝送部51rは、受信器側故障情報・故障予兆情報を、自身に関する監視情報として、送信器S2に対して送信する。
【0027】
送信器S2において、主制御部12sは、伝送部52sで受け付けた受信器R1からの受信器側故障情報・故障予兆情報を、メモリ42sに格納する。
【0028】
送信器S2の主制御部12sは、メモリ42sに格納した送信器側故障情報・故障予兆情報と、受信器側故障情報・故障予兆情報とに基づいて、列車検知信号TDsに重畳させる監視情報を決定し、変調部62sにおいて、列車検知信号TDsに決定した監視情報を重畳させつつ変調を行い、外部への信号出力を行う。
【0029】
以下、図4(A)及び図4(B)を参照して、列車検知信号TDsに監視情報を重畳するための信号処理に関して一例を説明する。
【0030】
上記一例の説明に先立って、まず、一般に、列車検知信号を用いた在線確認においては、耐ノイズ性向上のため、ディジタル変調信号を列車検知信号として軌道回路に使用する例が増えてきており、その中でもPSK信号を列車検知信号として軌道回路に送信するものが知られている。これを踏まえた上で、本実施形態では、特にPSK信号を列車検知信号として送信するものの一例として、PN符号を新たな態様で使用する。
【0031】
従来、列車検知信号として連続したPN符号の電文を送信器から出力し、受信器で復号して符号列の一致を識別し、さらに受信レベルが閾値以上という2つの条件が成立すれば、その軌道回路においては、列車非在線であるものとしていた。すなわち、従来においては、列車検知のためのみに、PN符号が使用されていた。これに対して、本実施形態では、PN符号の位相を最大限利用することで、上述したような列車検知信号TDsとしてのみならず、地上側装置50の状態監視情報すなわち送信器S2等や受信器R1,R2等に関する監視情報を収集・伝達できるようにしている。
【0032】
図4(A)は、本実施形態において使用するPN符号による列車検知信号TDsの一例を示すものであり、図示の一例では、アドレスとデータとを、それぞれ4ビットずつの情報量をもたせるものとし、合計8ビットを一単位としている。このため、8ビットごとに区切りを設けている。これらの点において、従来の連続したPN符号の電文と異なっている。このうち、データについては、図4(B)に示すように、4つの連なるPN符号の位相を、正相(PN)の場合には「1」、逆相(PNにアンダーバーを付したもの)の場合には「0」を割り付けることで、16通りの組合せ、つまり16種類の情報とすることができる。なお、図示の一例では、16種類の情報のうち、8つを受信器側故障及び故障予兆の種別を示すものとして利用し、残りの8つを送信器側故障及び故障予兆の種別を示すものとして利用している。つまり、16種類の故障及び故障予兆の情報について対応するIDが予め付与されている(対応付けられている)。また、アドレスについては、どの軌道回路かを識別するものとして利用すべく、軌道IDが付与されている。以上により、各軌道回路における装置の故障や、故障予兆(劣化)に関する監視結果の伝送が可能となっている。より具体的には、PN符号の正相1フレームを故障監視データの「1」、PN符号の逆相1フレームを故障監視データの「0」に割り当て、受信側でその相関値検出をすることにより、故障監視データの「1」、故障監視データの「0」を検出する、といった態様にできる。
【0033】
以下、図5(A)及び図5(B)として示すブロック図を参照して、上記のような列車検知信号TDsの生成や、検出における動作について一例を説明する。なお、図5(A)は、軌道回路2Tの送信器S2における動作について説明するための図であり、図5(B)は、軌道回路2Tの受信器R2における動作について説明するための図である。
【0034】
まず、図5(A)に示すように、送信器S2のうち、CPU等で構成される主制御部12sでは、図4を参照して例示したような軌道回路のアドレス(4ビット)と各装置の故障及び故障予兆のデータ(4ビット)を合成した合成データ(8ビット)が作成される、すなわちこれに対応するPN符号の組合せが選択される。主制御部12sは、該当する合成データSDを、変調部62sの送信信号発生部(列車検知信号発生部)SGに出力する。すなわち、変調部62sは、送信信号発生部SGにおいて選択された組合せのPN符号を、列車検知信号TDsとして発生させ、増幅器AMにおいて増幅させて、軌道回路2T上のレールRLに出力する。以上により、列車検知信号TDsに監視情報が重畳されたものが出力されることになる。
【0035】
ここで、図5(A)のうち、状態監視部としてのセンサー部22sは、破線矢印AR1で示すように、例えば変調部62sを構成する各部についてセンシングを行った結果を受け付け、これを破線矢印AR2で示すように、主制御部12sに対して検出結果として出力している。主制御部12sは、このようなセンサー部22sにおけるセンシングの結果に基づいて、装置を構成する各部における故障あるいは故障の予兆を判定し、判定結果に応じた故障及び故障予兆のデータ(4ビット)すなわち故障及び故障予兆ID(状態監視結果)を選択している。
【0036】
以上のように、地上側送信部GSである送信器S2は、PN符号を利用した列車検知信号TDsにおいて、PN符号の組合せにより監視情報を重畳するものとなっている。
【0037】
一方、図5(B)に示すように、受信器R2は、駆動部32rとして、信号検出を行うべく、トランスTSや、バンドパスフィルターFL1、1ビット遅延を行う回路DE、相関検出器CD1、ローパスフィルターFL2等を備え、駆動部32rにおける検出結果に基づき、主制御部12rにおいて、在線確認を行う。すなわち、受信器R2は、送信器S2からの列車検知信号TDsを軌道回路2T上のレールRLから受け取ると、駆動部32rを構成する上記各部において処理を行い、所定レベル以上の信号として受信されれば、軌道回路2Tにおいて列車非在線とし、所定レベル以上の受信がなされなければ、列車在線として取り扱う。なお、以上のように、従来の連続のPN符号を用いる場合と異なり、PN符号の位相が正相であるものと逆相であるものとが種々のパターン(16種類×16種類)を取り得る場合であっても、ディジタルデータとしてのPN符号についての検出がなされてその値が所定レベル以上となっていれば、列車非在線であり、そうでなければ、列車在線であるものとできる点においては、従来と同様の列車検知ができている。
【0038】
以下、図6として示す概念的な側面図を参照して、列車TR上に設けた装置である車上側装置70について、一構成例を説明する。図示の一例では、地上に設置された地上子(図示略)からATS信号を受け取るためのATS受信器70Xに設けられているATS車上子71を構成する受信アンテナ71aを利用して(援用して)、レールRLに流れている監視情報を含む列車検知信号TDsを受信する態様となっている。すなわち、ATS車上子71又は受信アンテナ71aが、列車検知信号TDsを受信する列車側受信部REとして、あるいはその一部として機能している。
【0039】
上記構成では、車上側装置70は、ATS車上子71(受信アンテナ71aを)を含むATS受信器70Xと、監視情報受信器70Yとを備え、ATS受信器70Xの受信アンテナ71aにおいて受信した列車検知信号TDsを分岐して監視情報受信器70Yに対して出力し、これを受けた監視情報受信器70Yにおいて列車検知信号TDsから監視情報を抽出することで、保守作業の必要性を判定するために必要な情報の習得が可能となっている。
【0040】
このため、監視情報受信器70Yは、トランス等のほか、例えば、DSP(digital signal processor)等で構成される信号処理部71Yや、CPU等で構成されるデータ処理部72Y等を備え、受信アンテナ71aにおいて受信した各種信号中から列車検知信号TDsを捉えるとともに、これから監視情報を抽出し、その内容すなわち装置の故障あるいは故障の予兆の内容について取り出す。なお、上記構成において、例えば、信号処理部71Yは、各種信号中から列車検知信号TDsを取り出すべく、フィルターFFや、列車検知信号TDsを復調するためのPSK復調部DD、さらに相関検出器CD2等で構成されている。また、データ処理部72Yは、上記のうち、例えば故障あるいは故障の予兆に関するデータの判別を行う。すなわち、抽出された監視情報としてのデータ(8ビット)に基づいて、軌道回路のIDからどの軌道回路かを特定し、かつ、故障あるいは故障の予兆の種別を特定する。また、監視情報受信器70Yには、上記のほか、例えば、外部へ送信するための無線機やアンテナで構成される送信部73Yや、データ処理部72Yを送信部73Yに接続するためのインターフェース部IFy等が設けられている。データ処理部72Yは、併せて、送信部73Yに送信するデータ(送信データ)の作成を担うものとしてもよい。
【0041】
以上のように、監視情報受信器70Yにおいて、列車検知信号TDsに含まれる監視情報が抽出され、さらに、抽出された監視情報が、列車TRの外部に向けて送信可能となっている。
【0042】
以上の場合、列車側受信部REとしての車上側装置70において、監視情報受信器70Yは、受信アンテナ71aで取得した情報から、列車検知信号TDsに含まれる監視情報を検出する監視情報検出部として機能し、この際、前提として、車上側装置70は、受信アンテナ71aで取得した情報を、ATS車上子71から、監視情報検出部としての監視情報受信器70Yに出力するものとなっている。
【0043】
なお、ATS受信器70Xについては、トランス等のほか、例えば、DSP等で構成される信号処理部71Xや、ブレーキ制御装置72X等で構成され、信号処理部71Xに設けたフィルターFFxや、ATS情報判別部JDxにより、地上子(図示略)からATS情報信号ATS信号を受信するとともに、これについての判別を行って、判別結果に応じたブレーキ制御が、ブレーキ制御装置72Xにおいて行われる。この際、列車検知信号TDsとATS信号とでは周波数帯域が異なっていることで、車上側において分離が可能となっており、それぞれの信号処理回路に入力され、それぞれの情報を識別される。すなわち、列車検知信号TDsによる影響を受けないように構成されている。
【0044】
以下、図7(A)~図7(C)を参照して、上記のようなATS車上子71の受信アンテナ71aを利用した列車検知信号TDsの受信の様子について、一例を説明する。図7(A)は、2本のレールRLとATS車上子71あるいは受信アンテナ71aとの位置関係を示す概念図である。図示において、2本のレールRLの仮想的な中心位置COから同心円状に沿って磁力線ができるように、列車検知信号TDsとして流れる交流電流による磁界が発生するものと捉えることとし、その様子を(図面向かって右側のみ)同心円状の破線で示している。これに対して、図7(B)は、この時に(列車TRが軌道回路に在線している時に)、列車検知信号TDsとして流れる交流電流の様子を示しており、図1(B)に対応する図となっている。また、図7(C)は、比較対象として、列車TRが軌道回路に在線していない時の交流電流の様子を示している。図7(A)に示すように、ATS車上子71あるいは受信アンテナ(ループコイル)71aは、左右に並ぶ2本のレールRLの上方において、これらの中間的な位置に配置されていることが想定される。この場合、2本のレールRLには、既述のように列車検知信号TDsとしての交流電流が流れており、その変化に伴い、受信アンテナ(ループコイル)71aにおいて、受信アンテナ(ループコイル)71aにおいて誘導電流が発生することで、列車検知信号TDsが列車側において捉えられることになる。この際、図7(B)に示すように、列車TRの車輪WLにより短絡されているため、流れる電流量は、図7(C)に示す列車TRが非在線である場合と比べて多くなっている。これにより、当該電流量は、受信アンテナ71aによって列車検知信号TDsを検知できるのに十分な程度となっている。
【0045】
また、上記一例では、ATS車上子71を利用した場合について説明したが、これ以外に、図8に示す一例のように、受電器CCの設備を利用する(援用する)態様とすることも考えられる。なお、受電器CCは、2本のレールRLの直近上方に位置し、レールRLに対応する2つで一組の構成となっていることで、電車としての列車TRにおける帰線電流の影響を相殺できるものとなっている。なお、この場合も、図7を参照して説明した場合と同様に、列車TRの車輪WLにより短絡されていることで、列車検知信号TDsとしての交流電流は、列車検知信号TDsを検知できるのに十分な電流量となっている。
【0046】
以下、図9として示す概念的な側面図を参照して、軌道回路監視システム100の各種事項のうち、特徴事項の一部について簡略化して説明する。図示のように、軌道回路監視システム100は、軌道回路nTの送信器Snであって、軌道回路nTに関する監視情報MIを列車検知信号TDsに重畳させて送信する地上側送信部GSと、地上側送信部GSから送信された監視情報MIを含む列車検知信号TDsを受信する列車側受信部REとを備えている。以上のような軌道回路監視システム100では、軌道回路nTに関する監視情報MIが重畳された列車検知信号TDsを、列車側受信部REにおいて受信することで、例えば、軌道回路nTについての保守作業の必要性を判定するために必要な情報を、列車TR側において簡易かつ確実に収集可能となる。これにより、例えば装置の故障が発生してしまって、列車の運行を止めた上で保守員を現場に向かわせる、といった事態が生じることを回避あるいは低減できるので、保守作業の軽減等が図られるものとなる。
【0047】
従来では、例えば上記各部とは別途に設けられている継電連動装置等において検知される事項等の間接的な事項から故障等の発生が判明するように、継電連動装置等と管理装置とを結びつけた構成とし、本構成において故障等の発生が確認された場合に、現場に作業員が向かわせること等により対処がなされていた。これに対して、本実施形態では、列車検知信号TDsに監視情報MIとして、装置各部の故障予兆の情報又は故障情報を重畳させ、これを地上側送信部GSから送信し、列車検知信号TDsを、列車側受信部REで受信する構成としている。これにより、地上車上間での故障予兆の情報又は故障情報の授受が可能となり、従来における故障発生の対処のような事態が生じることを回避又は低減させ、さらに、予兆保全を行うことが可能となっている。また、準備として、継電連動装置等との結び付け等を行う必要もない。
【0048】
〔第2実施形態〕
以下、図10を参照して、第2実施形態の軌道回路監視システム100について説明する。図10は、図6に対応する図であり、車上側装置70における列車検知信号TDsの受信態様を除いて、第1実施形態の場合と同様であるので、軌道回路監視システム100全体に関する説明や図示を省略する。
【0049】
本実施形態では、監視情報受信器70Yにおいて、列車検知信号TDsを受信するための専用アンテナATyを設け、ATS受信器70XにおけるATS車上子71(受信アンテナ71aを)を利用しない構成としている点において、第1実施形態の場合と異なっている。この場合、監視情報受信器70YがATS受信器70Xとは別個独立して列車検知信号TDsの受信を行うため、ATS受信器70Xからの列車検知信号TDsの分岐も不要となる。
【0050】
〔第3実施形態〕
以下、図11を参照して、第3実施形態の軌道回路監視システム100について説明する。本実施形態では、監視情報の列車検知信号TDsへの重畳態様を除いて、他の実施形態と同様であるので、軌道回路監視システム100全体に関する説明や図示を省略する。
【0051】
本実施形態では、例えば送信器S2において重畳された受信器R1及び送信器S2に関する監視情報MI2を、受信器R2において受け付け、送信器S3において、受信器R2及び送信器S3に関する監視情報に受信器R1及び送信器S2に関する監視情報MI2を加えたものを監視情報MI3として列車検知信号TDsへ重畳させる。さらに、監視情報MI3を受信器R2において受け付ける、といったことを繰り返すことで、例えば、図示のように、列車TRが送信器S5から列車検知信号TDsを受けると、受信器R1~R4及び送信器S2~S5までについての監視情報MI5により各設備の状況を一括で受け取ることができる。
【0052】
〔その他〕
この発明は、上記の実施形態に限られるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲において種々の態様で実施することが可能である。
【0053】
まず、上記において、PN符号を利用したデータとして、軌道回路のアドレス(4ビット)と故障及び故障予兆のデータ(4ビット)を合成した合成データ(8ビット)が作成されるものとしているが、取り扱われるデータ等については、構成可能な範囲において、種々の態様とすることができる。
【0054】
また、上記では、車上において列車検知信号TDsから監視情報を抽出する等しているが、取得した情報の解析処理をどこで行うかについては、上記に限らず、種々の態様が想定され、例えば、車上においては、受信した列車検知信号TDsに関する解析を行わず、そのまま管理側へ出力して、管理側において列車検知信号TDsから監視情報を抽出する処理を行う態様とする、といったことも可能である。
【0055】
また、上記において、故障あるいは故障の予兆として取り上げるべき事項については、様々な態様が想定され、例えば、受信器(受信器R1等)や送信器(送信器S2等)について対象となる情報としては、動作電源電圧の値の低下や、受信周期エラーのカウンタ値等が想定される。これらについて、例えば予め定めた所定値以下となったり、所定回数を超えたりした場合に故障と判断することが考えられる。また、例えば上記カウンタ値が所定回数に達しなくても、1度でもカウントされた場合には、故障の予兆とみなして、その旨を出力する、といった態様とすることも考えられる。
【符号の説明】
【0056】
1D,2D,3D…列車検知装置、1T,2T,3T,nT…軌道回路、11r,12r,12s…主制御部、21r,22s…センサー部、31r,32r,32s…駆動部、41r,42s…メモリ、50…地上側装置、51r,52s…伝送部、62s…変調部、70…車上側装置、70X…ATS受信器、70Y…監視情報受信器、71…ATS車上子、71X,71Y…信号処理部、71a…受信アンテナ、72X…ブレーキ制御装置、72Y…データ処理部、73Y…送信部、100…軌道回路監視システム、AM…増幅器、AR1…破線矢印、ATy…専用アンテナ、B12,B23…器具箱、BD1,BD2…境界、CC…受電器、CD1,CD2…相関検出器、CO…中心位置、DD…PSK復調部、DE…回路、FF,FFx…フィルター、FL1…バンドパスフィルター、FL2…ローパスフィルター、GR…地上側受信部、GS…地上側送信部、IFy…インターフェース部、JDx…ATS情報判別部、MI,MI2,MI3…監視情報、R1~R4…受信器、S2~S5,Sn…送信器、SD…合成データ、SG…送信信号発生部(列車検知信号発生部)、TDs…列車検知信号、TR…列車、TS…トランス、WL…車輪
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