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特開2024-37083被裁断素材の打抜き刃物と打抜き刃物を備える裁断装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024037083
(43)【公開日】2024-03-18
(54)【発明の名称】被裁断素材の打抜き刃物と打抜き刃物を備える裁断装置
(51)【国際特許分類】
   B26F 1/44 20060101AFI20240311BHJP
   B26F 1/40 20060101ALI20240311BHJP
   B26D 3/00 20060101ALI20240311BHJP
【FI】
B26F1/44 J
B26F1/40 Z
B26F1/44 B
B26D3/00 601D
B26F1/44 H
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022141732
(22)【出願日】2022-09-06
(71)【出願人】
【識別番号】300082863
【氏名又は名称】喜岡 達
(74)【代理人】
【識別番号】110003225
【氏名又は名称】弁理士法人豊栖特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】喜岡 達
【テーマコード(参考)】
3C060
【Fターム(参考)】
3C060AA04
3C060AB02
3C060BA03
3C060BB05
3C060BB19
3C060BD01
3C060BE09
3C060BG07
3C060BH01
(57)【要約】
【課題】裁断物の対向面の厚さ方向の寸法誤差を少なくしながら、裁断された裁断物をスムーズに取り出しできる打抜き刃物と裁断装置を提供する
【解決手段】打抜き刃物1は、所定の厚さの被裁断素材6を打抜きして所定の外形の裁断物7に切断する打抜き刃物1であって、下端縁を裁断物7の裁断縁に沿う刃先13としてなる裁断プレート10を備え、互いに対向位置に垂直姿勢に配置されてなる裁断プレート10の対向裁断プレート10aが、下端縁を外側刃面の片刃とする薄肉裁断刃領域20と、薄肉裁断刃領域20の上に連結されてなる薄肉裁断刃領域20よりも厚い補強筒部領域30とを有し、対向裁断プレート10aが、薄肉裁断刃領域20と補強筒部領域30の境界領域を凹部とするように切除された形状の切除凹部40を外周面に有する。
【選択図】図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
所定の厚さの被裁断素材を打抜きして所定の外形の裁断物に切断する打抜き刃物であって、
下端縁を裁断物の裁断縁に沿う刃先としてなる裁断プレートを備え、
互いに対向位置に垂直姿勢に配置されてなる前記裁断プレートの対向裁断プレートが、
下端縁を外側刃面の片刃とする薄肉裁断刃領域と、
前記薄肉裁断刃領域の上に連結されてなる前記薄肉裁断刃領域よりも厚い補強筒部領域とを有し、
前記対向裁断プレートが、
前記薄肉裁断刃領域と前記補強筒部領域の境界領域を凹部とするように切除された形状の切除凹部を外周面に有する打抜き刃物。
【請求項2】
請求項1に記載の打抜き刃物であって、
前記対向裁断プレートが、
前記薄肉裁断刃領域と前記補強筒部領域との境界の外周面に段差を設けてなる切除凹部を備える打抜き刃物。
【請求項3】
請求項1に記載の打抜き刃物であって、
前記対向裁断プレートが、
前記薄肉裁断刃領域と前記補強筒部領域との境界領域に傾斜面のある切除凹部を設けてなる打抜き刃物。
【請求項4】
請求項1に記載の打抜き刃物であって、
前記対向裁断プレートが、
前記薄肉裁断刃領域と前記補強筒部領域との境界領域に中央部を凹部とする湾曲面の切除凹部を設けてなる打抜き刃物。
【請求項5】
請求項1に記載の打抜き刃物であって、
前記対向裁断プレートが、
前記薄肉裁断刃領域と前記補強筒部領域との境界領域から上下に広がる領域に横断面視逆アーチ状の湾曲面のある切除凹部を設けてなる打抜き刃物。
【請求項6】
請求項1に記載の打抜き刃物であって、
前記薄肉裁断刃領域と前記補強筒部領域が1枚の金属板である打抜き刃物。
【請求項7】
請求項1に記載の打抜き刃物であって、
前記裁断プレートの刃先形状が底面視長方形状で、
長辺側の前記対向裁断プレートが、
前記薄肉裁断刃領域と前記補強筒部領域とからなる打抜き刃物。
【請求項8】
請求項7に記載の打抜き刃物であって、
前記裁断プレートの刃先形状が底面視長方形状で、
長辺側の前記対向裁断プレートの刃先が同一水平面に位置する直線状で、
短辺側の前記対向裁断プレートの刃先が中央凹に湾曲してなる打抜き刃物。
【請求項9】
請求項8に記載の打抜き刃物であって、
前記打抜き刃物で裁断される被裁断素材が、プラスチック製水道管である打抜き刃物。
【請求項10】
請求項9に記載の打抜き刃物であって、
被裁断素材がプラスチック製水道管の熱溶着連結部の一部を含む打抜き刃物。
【請求項11】
請求項1に記載の打抜き刃物であって、
前記裁断プレートの刃先形状が、前記薄肉裁断刃領域と前記補強筒部領域の内周面を同一平面とする四角筒状で、
前記薄肉裁断刃領域の刃先が立体的に配置されて、
立体形状の被裁断素材を裁断物に打抜きする打抜き刃物。
【請求項12】
請求項1ないし11のいずれか一項に記載の打抜き刃物と、
前記打抜き刃物を被裁断素材に向かって押圧するプレス装置とを備え、
前記プレス装置が、
被裁断素材を載せる裁断台と、
前記打抜き刃物を押し下げる上下台と、
前記上下台を上下方向に往復運動する駆動機構と、
を備える裁断装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プラスチックやゴム等の被裁断素材を所定の外形に抜きする打抜き刃物とこの打抜き刃物を備える裁断装置に関し、とくに厚さを3mm以上とする厚い被裁断素材の打抜きに好適な打抜き刃物と裁断装置に関する。
【背景技術】
【0002】
打抜き刃物は、薄いシート状の被裁断素材を高い寸法精度で打抜きできる。さらに刃物やレーザービームを裁断ラインに沿って移動して被裁断素材を切断する他の裁断装置に比較して、簡単なプレス装置を使用して、タクトタイムを短縮しながら能率よく低コストに、しかも高い精度で裁断できる特長がある。しかしながら、打抜き刃物は、厚い被裁断素材を打抜きすると、裁断物の寸法精度が低下する欠点がある。それは、図10に示すように、外側に刃面を設けた外側片刃の刃先913で被裁断素材6を裁断するので、刃先913が被裁断素材6を垂直方向に切断できないからである。打抜き刃物901は、打抜きした裁断物907を製品とするので、内側を垂直面として外側に刃面を設けた片刃の刃先913が使用される。片刃の刃先913は、外側の刃面が傾斜するので、刃先913の切り込み方向が、図10の鎖線矢印Bで示すように、垂直方向に対して傾斜する。打抜き刃物901は、切り込み方向が下窄み状に傾斜するので、対向する刃先913が被裁断素材6を裁断するにしたがって、対向刃先間の被裁断素材6を両側方向に引き延ばしながら切断する。引き延ばして裁断された被裁断素材6は、打抜き刃物901から取り出されると元の形状に復元して、横幅(w)が対向刃先の間隔(D)よりも狭くなる。したがって、打抜き刃物901は厚い被裁断素材6を裁断するほど、裁断物907の横幅(w)は下方に向かって次第に狭くなる。さらに、打抜き刃物901の刃先913間隔が広いほど、すなわち裁断物907の横幅が広くなるほど被裁断素材6が伸びやすくなるので、裁断物907の横幅(w)は下方に向かって次第に狭くなる。このため、裁断物907の横幅(w)は、上面側の横幅(w1)に対して下面側の横幅(w2)の方が狭くなり、w1>w2となる。打抜き刃物で裁断される被裁断素材は、ほとんど例外なく引張力が作用して伸びる物性があるので、裁断物の横幅が次第に狭くなる弊害を解消できない。
【0003】
打抜き刃物は、裁断物の裁断面を垂直面として、厚さ方向に外形が変化しない寸法精度が要求される。しかしながら、従来の打抜き刃物901は、厚い被裁断素材6を裁断して、厚さ方向に小さくなる欠点がある。本発明者は、以上の問題を解消することを目的として、図11の断面図に示すように、打抜き刃物801の対向裁断プレート810aの刃先813に、被裁断素材6の裁断方向を修正する修正刃面814を刃先内面に設ける打抜き刃物801を開発した(特許文献1参照)。
【0004】
以上の打抜き刃物801は、修正刃面814によって刃先813の切り込み方向を垂直方向に修正できるが、修正刃面814の作用を強くして、裁断面を垂直方向に修正するほど、裁断された裁断物807を打抜き刃物801の内側にスムーズに挿入させるのが難しくなる。とくに、厚い被裁断素材を裁断すると、打抜きされた裁断物807が打抜き刃物801の内側で強く圧迫されて強い内部応力が作用し、素材の物性に悪影響を与える欠点があり、さらに打抜き刃物801の内側に強制的に強く押し込まれた裁断物807の取り出しに手間がかかる欠点があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2022-66073号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は以上の欠点を解消することを目的として開発されたもので、本発明の一目的は、裁断物の対向面の厚さ方向の寸法誤差を少なくしながら、裁断された裁断物をスムーズに取り出しできる打抜き刃物と裁断装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明のある態様の打抜き刃物は、所定の厚さの被裁断素材を打抜きして所定の外形の裁断物に切断する打抜き刃物であって、下端縁を裁断物の裁断縁に沿う刃先としてなる裁断プレートを備え、互いに対向位置に垂直姿勢に配置されてなる裁断プレートの対向裁断プレートが、下端縁を外側刃面の片刃とする薄肉裁断刃領域と、薄肉裁断刃領域の上に連結されてなる薄肉裁断刃領域よりも厚い補強筒部領域とを有し、対向裁断プレートが、薄肉裁断刃領域と補強筒部領域の境界領域を凹部とするように切除された形状の切除凹部を外周面に有する。
【発明の効果】
【0008】
以上の打抜き刃物と裁断装置は、裁断物の対向面の厚さ方向の寸法誤差を少なくしながら、裁断された裁断物を打抜き刃物の内側にスムーズに案内して、打抜き刃物から速やかに取り出しできる特長がある。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】本発明の実施形態1に係る裁断装置の概略拡大斜視図である。
図2】本発明の実施形態1に係る裁断装置の概略断面図である。
図3】打抜き刃物が被裁断素材を裁断する概略断面図である。
図4図3に示す打抜き刃物の薄肉裁断刃領域の刃先の拡大断面図である。
図5】打抜き刃物の切除凹部の一例を示す概略断面図である。
図6】打抜き刃物の切除凹部の変形例を示す概略断面図である。
図7】打抜き刃物の切除凹部の変形例を示す概略断面図である。
図8】打抜き刃物の切除凹部の変形例を示す概略断面図である。
図9】打抜き刃物の薄肉裁断刃領域の刃先の変形例を示す概略断面図である。
図10】従来の打抜き刃物が被裁断素材を裁断する概略断面図である。
図11】従来の打抜き刃物が被裁断素材を裁断する概略断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の実施形態にかかるの打抜き刃物と裁断装置を具体的に説明する。なお、以下の説明では、必要に応じて特定の方向や位置を示す用語(例えば、「上」、「下」、及びそれらの用語を含む別の用語)を用いるが、それらの用語の使用は図面を参照した発明の理解を容易にするためであって、それらの用語の意味によって本発明の技術的範囲が制限されるものではない。また、複数の図面に表れる同一符号の部分は同一もしくは同等の部分又は部材を示す。
さらに以下に示す実施形態は、本発明の技術思想の具体例を示すものであって、本発明を以下に限定するものではない。また、以下に記載されている構成部品の寸法、材質、形状、その相対的配置等は、特定的な記載がない限り、本発明の範囲をそれのみに限定する趣旨ではなく、例示することを意図したものである。また、一の実施の形態、実施例において説明する内容は、他の実施の形態、実施例にも適用可能である。また、図面が示す部材の大きさや位置関係等は、説明を明確にするため、誇張していることがある。
【0011】
本発明の一実施態様にかかる打抜き刃物は以下の構成とすることができる。この打抜き刃物は、所定の厚さの被裁断素材を打抜きして所定の外形の裁断物に切断する刃物であって、下端縁を裁断物の裁断縁に沿う刃先としてなる裁断プレートを備える。裁断プレートは、互いに対向位置に垂直姿勢に配置されてなる対向裁断プレートを有し、対向裁断プレートは、下端縁を外側刃面の片刃とする薄肉裁断刃領域と、薄肉裁断刃領域の上に連結している薄肉裁断刃領域よりも厚い補強筒部領域が一体構造に連結されてなる。さらに対向裁断プレートは、薄肉裁断刃領域と補強筒部領域の境界領域を凹部とする切除凹部を外周面に設けている。
【0012】
以上の打抜き刃物は、裁断物の対向面の厚さ方向の寸法誤差を少なくできる特長がある。この特長は、厚い被裁断素材を試験片に裁断する打抜き刃物において特に重要である。それは、試験片の引張試験において、横幅(W)の寸法誤差が測定誤差の原因となるからである。試験片に限らず、対向面の横幅が厚さ方向に変化する打抜き刃物は、種々の被裁断素材を正確な外形に裁断できない欠点がある。
【0013】
以上の打抜き刃物は、対向裁断プレートを薄肉裁断刃領域と補強筒部領域で構成して、被裁断素材を裁断する領域を薄肉裁断刃領域として、被裁断素材を裁断しない領域を厚い補強筒部領域として、薄肉裁断刃領域で被裁断素材を高い寸法精度で裁断して、十分な強度でない薄肉裁断刃領域を補強筒部領域で補強している。以上の打抜き刃物は、補強筒部領域で補強されて変形しない薄い薄肉裁断刃領域で被裁断素材を裁断して、裁断物の対向面の厚さ方向の寸法誤差を少なくして、対向面を正確な横幅(w)に裁断する。以上の打抜き刃物は、例えば、横幅(w)に高い寸法精度が要求される試験片の裁断において理想的な特性を実現する。極めて高い寸法精度が要求される試験片の裁断に使用できる打抜き刃物は、他の用途の裁断物の打抜きにおいても十分な精度で被裁断素材を裁断できる。
【0014】
さらに、以上の打抜き刃物は、独特の構造で厚くて軟らかい被裁断素材を高い寸法精度で裁断できるので、本発明者が先に開発した打抜き刃物のように、片刃の刃先の内周面に修正刃面を設けることなく、あるいは修正刃面による修正作用を弱くして、裁断物の対向面の厚さ方向の寸法誤差を少なくできるので、裁断物をスムーズに打抜き刃物の内側に案内できる。このため、打抜きされて打抜き刃物の内部に挿入された裁断物を、スムーズに取り出しできる特長もある。また、修正刃面を設けた打抜き刃物の弊害、すなわち、裁断された裁断物が打抜き刃物に押し込まれ発生する内部応力による変質をも抑制できる特長がある。
【0015】
本発明の他の実施態様にかかる打抜き刃物は以下の構成とすることができる。打抜き刃物は、対向裁断プレートの外周面であって、薄肉裁断刃領域と補強筒部領域との境界に段差のある切除凹部を設けている。以上の打抜き刃物は、薄肉裁断刃領域全体を薄くできるので、薄肉裁断刃領域で裁断される裁断物の対向面の厚さ方向の寸法誤差を少なくしながら、薄肉裁断刃領域を厚い補強筒部領域で補強し、変形を防止した裁断物を正確な外形に裁断できる特長がある。
【0016】
本発明の他の実施態様にかかる打抜き刃物は、対向裁断プレートが、薄肉裁断刃領域と補強筒部領域と境界領域に傾斜面のある切除凹部を設けることができる。以上の打抜き刃物の対向裁断プレートは、薄肉裁断刃領域と補強筒部領域との境界領域において、肉厚を次第に厚くできるので、薄肉裁断刃領域と補強筒部領域との境界領域の局所的な破損を防止して、裁断物を正確に打抜きできる特長がある。
【0017】
本発明の他の実施態様にかかる打抜き刃物は、対向裁断プレートが、薄肉裁断刃領域と補強筒部領域との境界領域に中央部を凹部とする湾曲面の切除凹部を設けることができる。以上の打抜き刃物も、薄肉裁断刃領域と補強筒部領域との境界領域において、肉厚を次第に厚くできるので、境界領域の局所的な破損を防止して、裁断物を正確に打抜きできる特長がある。
【0018】
本発明の他の実施態様にかかる打抜き刃物は、対向裁断プレートが、薄肉裁断刃領域と補強筒部領域との境界領域から上下に広がる領域に横断面視逆アーチ状の湾曲面のある切除凹部を設けることができる。以上の打抜き刃物も、薄肉裁断刃領域と補強筒部領域との境界領域において、肉厚を次第に厚くできるので、境界領域の局所的な破損を防止して、裁断物を正確に打抜きできる特長がある。
【0019】
本発明の他の実施態様にかかる打抜き刃物は、薄肉裁断刃領域と補強筒部領域を1枚の金属板にできる。
【0020】
本発明の他の実施態様にかかる打抜き刃物は、裁断プレートの刃先形状が底面視長方形状で、長辺側の対向裁断プレートが、薄肉裁断刃領域と補強筒部領域とからなることができる。以上の打抜き刃物は、被裁断素材を長方形の裁断物に裁断して、長辺側の対向面の厚さ方向の寸法誤差を少なくして裁断できる特長がある。従って、この打抜き刃物は長方形の試験片を裁断して、高い寸法精度が要求される試験片の横幅(W)を高い寸法精度で裁断できる特長がある。
【0021】
本発明の他の実施態様にかかる打抜き刃物は、裁断プレートの刃先形状が底面視長方形状で、長辺側の対向裁断プレートの刃先が同一水平面に位置する直線状で、短辺側の対向裁断プレートの刃先が中央凹に湾曲してなることができる。以上の打抜き刃物は、プラスチック管などの円筒の被裁断素材を正確な裁断物に裁断できる特長がある。
【0022】
本発明の他の実施態様にかかる打抜き刃物は、打抜き刃物で裁断される被裁断素材が、プラスチック製水道管である。この打抜き刃物は、プラスチック製の水道管から、正確な外形の試験片を裁断できる特長がある。
【0023】
本発明の他の実施態様にかかる打抜き刃物は、被裁断素材がプラスチック製水道管の熱溶着連結部の一部を含んでいる。この打抜き刃物は、プラスチック製の水道管の溶着連結部を含む部位から、正確な外形の試験片を裁断できる特長がある。
【0024】
本発明の他の実施態様にかかる打抜き刃物は、裁断プレートの刃先形状が、薄肉裁断刃領域と補強筒部領域の内周面を同一平面とする四角筒状で、薄肉裁断刃領域の刃先が立体的に配置されて、立体形状の被裁断素材を裁断物に打抜きできる。以上の打抜き刃物は、平面状でなくて立体的に変形している被裁断素材を正確な外形であって、裁断面の傾斜が減少された裁断物に裁断できる特長がある。
【0025】
本発明の他の実施態様にかかる裁断装置は、以上のいずれかの打抜き刃物と、この打抜き刃物を被裁断素材に向かって押圧するプレス装置とを備え、プレス装置が、被裁断素材を載せる裁断台と、打抜き刃物を押し下げる上下台と、上下台を上下方向に往復運動する駆動機構とを備える。
【0026】
(実施形態1)
以下、図面に基づいて本発明の打抜き刃物1と裁断装置100の具体例を記載する。以下に記載の打抜き刃物1と裁断装置100は、裁断物7を試験片とする具体例を開示するが、本発明は裁断物を試験片に特定するものでなく、種々の用途に使用される外形の裁断物7を打抜きできる。また、以下に記載の打抜き刃物1と裁断装置100は、湾曲した裁断物7を裁断する具体例を開示するが、本発明は裁断物7の形状、厚み、素材などを特定するものではない。打抜き刃物1は、湾曲物、平板をはじめ種々の外形の裁断物7を打抜きできる。図1図2に示す裁断装置100は、打抜き刃物1と、打抜き刃物1を被裁断素材6に向かって押圧するプレス装置3とを備える。
【0027】
(プレス装置3)
プレス装置3は、被裁断素材6を載せる裁断台50と、打抜き刃物1を押し下げる上下台55と、上下台55を上下方向に往復運動させる駆動機構60とを備える。
(裁断台50)
【0028】
裁断台50は上面を裁断面51としている。裁断台50は、全体を金属又はプラスチック、ゴムとすることができる。金属製の裁断台50は、図1に示すように、裁断面51に打抜き刃物1の刃先13の損傷を防止する保護層52を設けている。保護層52は、裁断台50と一体構造とし、あるいは裁断台50の上に積層して設けることもできる。裁断台50の上に積層する保護層52は、裁断台50に接合し、あるいは接合することなく脱着自在にセットすることができる。保護層52は、被裁断素材6を裁断した打抜き刃物1の刃先13が僅かに切れ込んで、あるいは接触して刃先13の損傷を防止する。保護層52は、好ましくはプラスチックやゴム製で、打抜き刃物1が被裁断素材6を裁断する状態で、ほとんど押し潰されない可撓性の層である。保護層52は、厚さを3mmないし20mmとするプラスチックやゴムの層である。上面に保護層52を設けている裁断台50は、打抜き刃物1で被裁断素材6を打抜きする状態で、打抜き刃物1の刃先13を保護層52に密着し、あるいは刃先13が保護層52の表面に切れ込んで、被裁断素材6から裁断物7の全周を綺麗に裁断できる。ただし、保護層52は、プラスチックやゴムに代わって、刃先10を損傷しない材質、例えば真鍮や鉛などとすることができる。また、裁断台50自体を柔らかい金属、銅、アルミなどにでき、さらにまた、裁断台50に保護層52を積層することなく、裁断台50の裁断面51に打抜き刃物1を接近ないし接触させて、被裁断素材6を打抜き加工して裁断することもできる。
【0029】
裁断台50は、裁断面51を被裁断素材6の立体形状に沿う形状とする。湾曲状、曲面状の被裁断素材6、さらに凹凸のある被裁断素材6を立体形状に裁断する裁断台50は、裁断面51を被裁断素材6の立体形状に沿う形状とする。図1に示す一例の被裁断素材6は、平面視が長方形状で、横断面形状が円弧状に湾曲された板状としている。さらに、板状の被裁断素材6は、長手方向の中央部に凸部6aが表裏両面に設けられ、凸部6aは短辺と平行に伸びるように配置される。裁断台50は、被裁断素材6を所定の位置に配置して打抜き刃物1で所定の形状に裁断できるように、裁断面51を被裁断素材6の立体形状に合わせた形状とする。表面に保護層52を積層している裁断台50は、保護層52の上面を立体形状として裁断面51を立体形状とする。この裁断台50は、表面形状を立体形状とする裁断台50の表面に一様な厚さの保護層52を設けて、裁断面51の形状を立体形状とすることができる。被裁断素材6と裁断面51の間に隙間ができることのないように、スペーサーなどを介在させることもできる。図示しないが、平板状の被裁断素材を裁断する裁断台は、裁断面を平面状とする。上面を立体形状とする保護層は、下面を平面状として、平面状の裁断台の上面に脱着自在に、あるいは固定して裁断面を立体形状としてもよい。
【0030】
(上下台55)
上下台55は、水平姿勢に保持された状態で裁断台50の上方に配置されている。上下台55は、水平姿勢に保持した状態で駆動機構60により押し下げられて、打抜き刃物1を被裁断素材6に向かって押圧する。上下台55は、打抜き刃物1を所定の押圧力で押し下げでき、かつ均等に押圧できるように十分な剛性を有する金属プレートや鋼材が使用できる。
【0031】
図1及び図2の上下台55は、平面状の金属プレートで、下面に打抜き刃物1を水平姿勢で固定している。打抜き刃物1は溶接して上下台55に固定できるが、接着して、あるいは止ネジ等の連結具を介して脱着自在に連結することもできる。ただ、本発明の裁断装置100は、打抜き刃物1を上下台55に連結することなく、被裁断素材6の定位置に載せて、被裁断素材6の上に載せた打抜き刃物1を上下台55で押圧して被裁断素材6を裁断することもできる。
【0032】
(駆動機構60)
駆動機構60は、打抜き刃物1を水平姿勢に保持した状態で、上下台55を垂直方向に往復運動させて裁断台50の裁断面51に載せた被裁断素材6を打抜き刃物1で裁断して裁断物7に打抜きする。駆動機構60は、打抜き刃物1を押し下げる上下台55を上下に往復運動させるシリンダ56を備える。打抜き刃物1は、上下台55の下に配置されて、シリンダ56で押し下げられて、裁断台50に載せている被裁断素材6を裁断物7に打抜きする。
【0033】
図2の概略断面図に示す裁断装置100の駆動機構60は、ロッド56aが伸縮するシリンダ56を、ロッド56aを下向きとする垂直姿勢で配置しており、ロッド56aの下端を上下台55の中央部に連結している。駆動機構は、図示しないが、上下台の両端部に対向して、一対のガイド機構を備えることができる。一対のガイド機構は、例えば、ガイド筒部に挿通されたガイドロッドを垂直姿勢で配置して、ガイドロッドの下端を上下台の両端部に連結することで、上下台を水平姿勢に保持した状態で上下に往復運動できる。駆動機構60は、シリンダ56がロッド56aを伸縮する状態で、上下台55を水平姿勢に保持しながら上下に往復運動させる。
【0034】
(打抜き刃物1)
打抜き刃物1は、裁断装置100の裁断台5にセットされた被裁断素材6を打抜きして所定の外形の裁断物7に切断する刃物で、下端縁が刃先13の裁断プレート10を備える。裁断プレート10は、互いに対向位置に垂直姿勢に配置している対向裁断プレート10aを有し、対向裁断プレート10aは、厚さが異なる薄肉裁断刃領域20と補強筒部領域30を備える。対向裁断プレート10aは、薄肉裁断刃領域20を薄くして、補強筒部領域30を厚くするために、薄肉裁断刃領域20と補強筒部領域30との境界領域18を凹部とするように切除された形状の切除凹部40を外周面に設けている。対向裁断プレート10aは、1枚の金属板の外周面に切除凹部40を設けて、薄肉裁断刃領域20を補強筒部領域30よりも薄くしている。薄肉裁断刃領域20は、下端縁を外側刃面の片刃として被裁断素材6を裁断し、補強筒部領域30は薄肉裁断刃領域20よりも厚くして、薄肉裁断刃領域20を補強している。
【0035】
以上の打抜き刃物1は、図1図2に示すように、被裁断素材6を裁断物7に打抜きする筒状として、下端縁を刃先13としている。打抜き刃物1は、焼き入れできる鋼材で製作され、加工性に優れた炭素鋼が適している。炭素鋼は、要求される硬さと脆さとを考慮して炭素の含有量を最適値に調整する。打抜き刃物1の金属プレートは、炭素の含有量を多くして硬くできる。ただ、炭素の含有量が多くなると脆くなるので、刃物に加工される鋼材の炭素の含有量は、例えば0.4%以上であって1.4%以下、好ましくは0.45%以上であって0.7%以下とする。
【0036】
筒状の裁断プレート10は、互いに対向位置に垂直姿勢の対向裁断プレート10aを備えている。平面視を長方形とする裁断物7を裁断する裁断プレート10は、長辺側の対向裁断プレート11と短辺側の対向裁断プレート12を互いに直角姿勢に連結して四角筒状としている。長辺側の対向裁断プレート11は、長方形の裁断物7の両側である長辺を裁断し、短辺側の対向裁断プレート12はその両端である短辺を裁断する。対向裁断プレート10aは、1枚の金属板の外周面を切削して切除凹部40を設けて、一体構造の薄肉裁断刃領域20と補強筒部領域30を設けることができる。長辺側の対向裁断プレート11と短辺側の対向裁断プレート12は、金属板の外周面を切削して切除凹部40を設けて、薄肉裁断刃領域20と補強筒部領域30を設けることができるので、四角筒状の金属板の外周の4面に切除凹部40を設けて、長辺側の対向裁断プレート11と短辺側の対向裁断プレート12の両方に薄肉裁断刃領域20と補強筒部領域30を設けることができる。裁断物7の外形は、裁断プレート10の刃先13形状で特定できる。したがって、裁断プレート10の刃形13の形状は、裁断物7の外形と等しくしている。例えば、図1に示すように、平面視長方形の裁断物7は、長辺が水平方向に延伸された直線状で、短辺が上面側を中央凸に湾曲する形状である場合、打抜き刃物1は、裁断物7の外形に合わせて、長辺側の対向裁断プレート11の刃先13が同一水平面に位置する直線状で、短辺側の対向裁断プレート12の刃先13が垂直面内で中央凹に湾曲する形状にできる。
【0037】
(薄肉裁断刃領域20)
薄肉裁断刃領域20の上下幅(H)は、好ましくは裁断する被裁断素材6の厚さ(h)より広くする。この薄肉裁断刃領域20が、被裁断素材6をスムーズに裁断できるからである。図3の横断面図は、長辺側の対向裁断プレート11が被裁断素材6を裁断する状態を示している。この図に示すように、薄肉裁断刃領域20の上下幅(H)が被裁断素材6の厚さ(h)よりも広い対向裁断プレート10aは、薄肉裁断刃領域20が被裁断素材6を打抜きする時に、厚い補強筒部領域30の下端が被裁断素材6の上面に接触して押し潰さないからである。薄肉裁断刃領域20が被裁断素材6を裁断する時に、補強筒部領域30の下端部が被裁断素材6の表面に接触すると、被裁断素材6が補強筒部領域30で強制的に変形される。変形した被裁断素材6は、復元力の作用で補強筒部領域30を押し上げて、裁断プレート10のスムーズな降下を阻害する。特に、硬くて弾性変形し難い被裁断素材は、押し潰された反作用で補強筒部領域を押し上げてスムーズな裁断を阻害する。また、補強筒部領域30の下端が被裁断素材6の上面に接触して押し潰し変形させ、また被裁断素材6を加圧して物性に影響を与えることもある。したがって、柔軟で弾性変形し易い被裁断素材6を裁断する打抜き刃物1は、必ずしも薄肉裁断刃領域20の上下幅(H)を被裁断素材6の厚さ(h)よりも広くする必要はないが、本発明の打抜き刃物1は、好ましくは、弾性変形し易い被裁断素材6のみでなく、硬くて弾性変形し難い被裁断素材6をもスムーズに裁断できるように、薄肉裁断刃領域20の上下幅(H)を被裁断素材6の厚さ(h)よりも大きくする。
【0038】
薄肉裁断刃領域20は、最大厚さ(Tmax)を薄くして、好ましくは被裁断素材6を裁断する領域の最大厚さを薄くして、裁断物7をより高い寸法精度で裁断できる。最大厚さ(Tmax)を薄くして、図4に示すように、刃先13の切り込み方向を垂直方向に近づけられるからである。図4は、薄肉裁断刃領域20が被裁断素材6を裁断する拡大断面図を示す。図の薄肉裁断刃領域20は、刃物角(α1)を極めて小さくできることから、刃先13が被裁断素材6を裁断する切り込み方向を、矢印Aで示すように、垂直方向に接近できる。それは、刃先13の切り込み方向が、刃物角(α1)の中心線となるからである。これに対し、図10は、薄肉裁断刃領域のない従来の打抜き刃物901が裁断する拡大断面図を示す。従来の打抜き刃物901は、刃物角(α2)が大きいので、刃先913が被裁断素材6を裁断して侵入する切り込み方向が鎖線矢印Bで示すように、垂直方向に対して大きく傾斜する。切り込み方向の傾斜が大きい打抜き刃物901は、刃先913が被裁断素材6を裁断するにしたがって、刃先913間の被裁断素材6を幅方向に引き延ばしながら切断するので、引き延ばされて裁断された被裁断素材6は、打抜き刃物901から取り出されると元の形状に復元して、横幅(w)が対向する刃先913の間隔(D2)よりも狭くなる。したがって、打抜き刃物901が厚い被裁断素材6を裁断するほど、裁断物7の横幅(w)は次第に狭くなる欠点がある。さらに、打抜き刃物901は、対向裁断プレート910aの刃先913の間隔(D2)が長くなるほど、被裁断素材6が伸びやすくなって、裁断物7の横幅(w)が打抜き刃物901の裁断方向に向かって次第に狭くなる。
【0039】
図4に示す薄肉裁断刃領域20は、切り込み方向(矢印A)をほぼ垂直方向として、裁断する被裁断素材6を幅方向に引き延ばすことなく、または裁断する被裁断素材6の幅方向への引き延ばしを小さくして、裁断する被裁断素材6を幅方向に実質的に引き延ばすことなく裁断できる。被裁断素材6を幅方向に実質的に引き延ばすことなく垂直方向に裁断できる刃物角(α1)の小さい薄肉裁断刃領域20は、厚い被裁断素材6を裁断して、さらに横幅(w)の広い裁断物7を高い寸法精度で裁断できる。図の薄肉裁断刃領域20による裁断の寸法精度は、被裁断素材6の厚みが増すほど、また裁断物7の横幅(w)が広くなるほど、打抜き刃物901の寸法精度との差が大きくなる。
【0040】
薄肉裁断刃領域20の刃物角(α1)を小さくするために、薄肉裁断刃領域20の最大厚さ(Tmax)は、例えば、補強筒部領域30の厚さ(S)の10%以上であって70%以下、好ましくは15%以上であって60%以下、さらに好ましくは20%以上であって50%以下、最適には25%以上であって40%以下とする。
【0041】
(切除凹部40)
対向裁断プレート10aは、薄肉裁断刃領域20と補強筒部領域30の境界領域18を凹部とするように切除された形状の切除凹部40を外周面に有する。切除凹部40は、補強筒部領域30の下端と刃先13を結ぶ直線よりも内側に切除された凹形状となる。対向裁断プレート10aは、切除凹部40を外周面に有することで、薄肉裁断刃領域20と補強筒部領域30の厚み差を大きくでき、薄い薄肉裁断刃領域20で裁断物7の対向面の厚さ方向の寸法誤差を少なくし、厚い補強筒部領域30で薄い薄肉裁断刃領域20を補強できる。切除凹部40は、薄肉裁断刃領域20と補強筒部領域30の境界領域18、連結する部分を含む領域の形状である。対向裁断プレート10aは、図5に示すように、薄肉裁断刃領域20と補強筒部領域30を直接連結でき、また図6及び図7に示すように、薄肉裁断刃領域20と補強筒部領域30の間に連結する部分を介在させることができる。薄肉裁断刃領域20と補強筒部領域30の境界領域18において面取りされて、薄肉裁断刃領域20と補強筒部領域30の境界、薄肉裁断刃領域20と切除凹部40の境界、補強筒部領域30と切除凹部40の境界のいずれかを滑らかな形状にできる。
【0042】
境界領域18は、薄肉裁断刃領域20と補強筒部領域30の境界面17を含んで上下方向に広がる領域である。境界16は、図5ように薄肉裁断刃領域20と補強筒部領域30が直接連結する境界面17と、図6及び図7のように、薄肉裁断刃領域20と補強筒部領域30の間に一定の厚みで介在し、外周面に傾斜面42や湾曲面43が形成される境界領域18を含むものとする。薄肉裁断刃領域20と補強筒部領域30の境界16、または補強筒部領域30の下端31もしくは薄肉裁断刃領域20の上端21が、例えば段差などがなく外観上明らかでない場合は、補強筒部領域30の最大厚さ(Smax)の30%の肉厚の領域を薄肉裁断刃領域20の上端21として境界16または境界領域18の下端を定める。
【0043】
図5の横断面図に示す対向裁断プレート10aは、薄肉裁断刃領域20と補強筒部領域30との境界16(境界面17)の外周面に段差41を設けて切除凹部40とし、薄肉裁断刃領域20を補強筒部領域30よりも薄くしている。この打抜き刃物1は、図において段差41よりも下を薄肉裁断刃領域20、段差41よりも上を補強筒部領域30としている。この打抜き刃物1は、薄肉裁断刃領域20の全体を薄くできるので、薄肉裁断刃領域20で裁断される裁断物7の対向面の厚さ方向の寸法誤差を少なくしながら、薄肉裁断刃領域20を厚い補強筒部領域30で補強して、薄肉裁断刃領域20の変形を防止して裁断物7を正確な外形に裁断できる特長がある。
【0044】
図6図8に切除凹部40の変形例を示す。図6の対向裁断プレート10aは、薄肉裁断刃領域20と補強筒部領域30との境界領域18の外周面に傾斜面42のある切除凹部40を設けて、薄肉裁断刃領域20を補強筒部領域30よりも薄くしている。この打抜き刃物1は、図6において傾斜面42よりも下を薄肉裁断刃領域20、傾斜面42よりも上を補強筒部領域30としている。この対向裁断プレート10aは、薄肉裁断刃領域20と補強筒部領域30との境界領域18の肉厚を次第に厚くできるので、薄肉裁断刃領域20と補強筒部領域30との境界領域18の局所的な破損を防止して、裁断物7を正確に打抜きできる特長がある。
【0045】
図7の対向裁断プレート10aは、薄肉裁断刃領域20と補強筒部領域30の境界領域18に、中央部を凹部とする湾曲面43の切除凹部40を設けて、薄肉裁断刃領域20を補強筒部領域30よりも薄くしている。この打抜き刃物1は、図7において湾曲面43の下端縁よりも下を薄肉裁断刃領域20、湾曲面43の上端縁よりも上を補強筒部領域30とする。仮に、湾曲面43の下端、または薄肉裁断刃領域20の上端21が明確でない場合は、補強筒部領域30の最大厚さ(Smax)の30%の肉厚の領域を薄肉裁断刃領域20の上端21として境界領域18を定め、この領域よりも下を薄肉裁断刃領域20、上を補強筒部領域30とする。この形状の打抜き刃物1も、薄肉裁断刃領域20と補強筒部領域30との境界領域18において、肉厚を次第に厚くできるので、境界領域18の局所的な破損を防止して、裁断物7を正確に打抜きできる特長がある。
【0046】
図8の対向裁断プレート10aは、薄肉裁断刃領域20と補強筒部領域30との境界領域18から上下に広がる領域に逆アーチ状の湾曲面43のある切除凹部40を設けている。図8の湾曲面43は、湾曲する面を図7よりも広く、境界領域18から上下に広がる領域にまで及ぶようにして設けられる。湾曲面43などの切除凹部40は、対向裁断プレート10aの外周面の形状であって、境界領域18の範囲に限定されるものではない。図8の打抜き刃物1は、薄肉裁断刃領域20と補強筒部領域30との境界、補強筒部領域30の下端も薄肉裁断刃領域20の上端も明確でない場合の例である。したがって、補強筒部領域30の最大厚さ(Smax)の30%の肉厚の領域を薄肉裁断刃領域20の上端21として境界16(境界面または境界領域)を定め、この境界16よりも下を薄肉裁断刃領域20、上を補強筒部領域30としている。以上の打抜き刃物1も、薄肉裁断刃領域20と補強筒部領域30との境界16を含む領域において、肉厚を次第に厚くできるので、境界16の局所的な破損を防止して、裁断物7を正確に打抜きできる特長がある。
【0047】
裁断物7の外形は、裁断プレート10の刃先形状で特定できる。したがって、裁断プレート10の刃先13の形状は、裁断物7の外形としている。例えば、平面視四角形の裁断物7を裁断する裁断プレート10は、刃先形状を四角形とし、平面視長方形の裁断物7を裁断する裁断プレート10は、刃先形状を長方形とする。長方形の裁断プレート10は、長辺側の対向裁断プレート11と短辺側の対向裁断プレート12を、薄肉裁断刃領域20と補強筒部領域30を一体構造とする1枚の金属板で構成して、長方形の裁断物7の長辺と短辺を高い寸法精度で裁断できる。
【0048】
被裁断素材6を長方形に裁断して得られる長方形の試験片(裁断物7)は、対向して配置される長辺の間隔、すなわち横幅(w)に高い寸法精度が要求される。長方形の試験片を、長手方向の両端部に2つの穴を設けて、または、長手方向の両端部を挟んで長手方向に引っ張る試験において、横幅(w)の寸法誤差が試験片の引張強度の誤差原因となるからである。したがって、長方形の試験片は、横幅(w)には高い寸法精度が要求されるが、長手方向の寸法には、横幅(w)程の高い精度が要求されない。長手方向の寸法誤差が、試験片の引張強度の誤差の原因とならないからである。したがって、長方形の試験片を裁断する打抜き刃物1は、試験片の長辺側を裁断する長辺側の対向裁断プレート11を薄肉裁断刃領域20と補強筒部領域30とで構成して長方形の横幅(w)を高い寸法精度で裁断して、長手方向の両端である短辺を裁断する短辺側の対向裁断プレート12は、薄肉裁断刃領域20と補強筒部領域30とで構成することなく、薄肉裁断刃領域20のない刃物形状とすることができる。
【0049】
打抜き刃物1は、長辺側を裁断する両方の長辺側の対向裁断プレート11と、短辺側を裁断する両方の短辺側の対向裁断プレート12を、薄肉裁断刃領域20と補強筒部領域30とで構成して、長方形の裁断物7の横幅(w)と長さの両方を高い寸法精度で裁断できるので、本発明の打抜き刃物1は、好ましくは、全ての対向裁断プレート10aを薄肉裁断刃領域20と補強筒部領域30とで構成する。ただ、必ずしも全ての対向裁断プレート10aを薄肉裁断刃領域20と補強筒部領域30で構成する必要はなく、高い寸法精度で裁断する対向裁断プレート10aのみを薄肉裁断刃領域20と補強筒部領域30で構成することもできる。打抜き刃物1は、高い寸法精度が要求される領域を裁断する対向裁断プレート10aのみを薄肉裁断刃領域20と補強筒部領域30とで構成して、高い寸法精度が要求されない領域を裁断する対向裁断プレート10aは、薄肉裁断刃領域20を設けない裁断プレート10とすることができる。
【0050】
本発明の打抜き刃物1と裁断装置100は、プラスチックやゴム等の被裁断素材6を裁断でき、特に、厚みを3mm以上とする厚い被裁断素材6の打抜きに好適に使用できる。打抜き刃物1は、裁断物7の対向面の厚さ方向の寸法誤差を少なくできるからである。図10に示すように、厚みのある被裁断素材6を厚みのある打抜き刃物901で裁断する場合、打抜き刃物901の刃物角(α2)が、図4で示す打抜き刃物1の刃物角(α1)に比べて大きいことから、打抜き刃物901の外刃の外側勾配の抵抗が内側(内周面)よりも大きく、打抜き刃物901の刃先913が鎖線矢印Bで示す、内側に入る方向に進み、裁断物907の横幅(w)は、刃先913の進行方向に向かって次第に狭くなるからである。また、刃先913で被裁断素材6が押し伸ばされる量が、刃先913の内側よりも外側の方が大きくなるからである。打抜き刃物901で裁断された裁断物907の横幅(w)は、刃物の入口側(w1)よりも出口側(w2)の方が小さくなる(w1>w2)。裁断物907のサイズを、横幅(w)8cm、厚さ(h)17mmとして、複数サンプルを裁断した平均実測値は、w1よりw2が2mm以上短く、片側で1mm以上ずつ狭くなる結果が得られた。
【0051】
これに対し、図3及び図4に示すように、同様のサイズで被裁断素材6を打抜き刃物1で裁断する場合、打抜き刃物1の薄肉裁断刃領域20の刃物角(α1)が小さく、打抜き刃物1の外刃の外側勾配の抵抗を少なくでき、刃先3の切り込み方向を鎖線矢印Aで示す、垂直方向に近づけることができるからである。また、刃先13で被裁断素材6が押し伸ばされる量を、刃先13の内側よりも外側の方が大きくなるのを相対的に抑制できるからである。裁断物7の対向面の厚さ方向の寸法誤差、打抜き刃物1で裁断された裁断物7の横幅の入口側(w1)と出口側(w2)の差を裁断物907よりも小さくできる。サイズで複数サンプルを裁断した平均実測値のw1とw2の差は0.1mm以下であり、±0.2mmの誤差許容範囲内とすることが可能である。厚みのある被裁断素材6の打抜き試験において、打抜き刃物1と打抜き刃物901との顕著な差が現れた。しかも、同様の横幅で、厚さ(h)10mm、13mm、17mmで比較したところ、被裁断素材6の厚さ(h)が増すほど、打抜き刃物1と打抜き刃物901との差が大きくなることが判明した。試験片の引張試験において、横幅(w)の寸法誤差は測定誤差の原因となるため、厚い被裁断素材6を試験片(裁断物7)に裁断する打抜き刃物1において特に重要である。
【0052】
また、打抜き刃物901は、厚みが大きい刃先部分が被裁断素材6の裁断部分に入り込み、裁断された裁断物907の取り出しに手間がかかる。これに対し、打抜き刃物1は、被裁断素材6の裁断部分に入り込むのは、薄い薄肉裁断刃領域20であり、打抜き刃物901よりも、打抜き刃物から速やかに取り出しすることができる。打抜き刃物901の刃先部分と打抜き刃物1の薄肉裁断刃領域20の厚みの差によるものである。さらに、被裁断素材6の厚みが増すほど、刃物が切り込んだ両側の被裁断素材6を接する面積が広く、挟み込まれる力も大きくなる。
【0053】
さらに、図3及び図4に示すように、湾曲した被裁断素材6、例えば、被裁断素材6が円筒状のプラスチック製水道管から部分的に切除した部分の場合、平板に比べ、裁断物7の対向面の厚さ方向の寸法誤差、打抜き刃物1で裁断された裁断物7の横幅の入口側(w1)と出口側(w2)の差が大きくなる傾向がある。打抜き刃物1の外刃の外側勾配の抵抗、及び刃先13で被裁断素材6が押し伸ばされる量、抵抗などが、平板と湾曲した被裁断素材6とでは表面形状に沿って加わる力の方向が異なることが一原因と考えられる。
【0054】
さらに、被裁断素材6が軟質の素材の場合、例えば、被裁断素材6がプラスチック製水道管で、材質がポリエチレンの場合、硬質の素材に比べ、裁断物7の対向面の厚さ方向の寸法誤差、打抜き刃物1で裁断された裁断物7の横幅の入口側(w1)と出口側(w2)の差が大きくなる傾向がある。ポリエチレンのように軟質で伸縮が大きく、摩擦熱で溶ける材質の場合は、打抜き刃物1の外刃の外側勾配の抵抗、及び刃先13で被裁断素材6が押し伸ばされる量、抵抗、加わる力などが、ポリエチレンより硬質の他の素材とは異なることが一原因と考えられる。
【0055】
薄肉裁断刃領域20は、外周面に刃面を設けた片刃であるが、図9の拡大断面図に示すように、刃先13の内周縁を僅かに研磨して、修正刃面14を設けることもできる。ただ、本発明の打抜き刃物1は、被裁断素材6を裁断する領域を薄肉裁断刃領域20として肉厚を薄くして、裁断物7の横幅(w)を正確に裁断するので、修正刃面14を設けることなく、あるいは僅かな修正刃面14を設けて、裁断物7を高い寸法精度で裁断できる。外刃とともに、刃先13の内周縁を仕上げ研磨で僅かに研磨することもできる。
【0056】
(補強筒部領域30)
補強筒部領域30は、薄肉裁断刃領域20よりも厚さが大きく、その厚さと高さ(上下幅)で薄肉裁断刃領域20を補強する。補強筒部領域30は、その下端に境界16(境界面17または境界領域18)を介して、一体構造に薄肉裁断刃領域20が連結されてなる。薄肉裁断刃領域20と補強筒部領域30の内周面は同一平面とし、薄肉裁断刃領域20と補強筒部領域30の外周面に切除凹部40を設けて、補強筒部領域30と裁断刃領域20との厚み差を設けている。補強筒部領域30の厚さと高さは、薄肉裁断刃領域20の上下幅(H)、被裁断素材6の素材、厚み、裁断時の衝撃、境界領域18の厚み、高さ、形状などに合わせて、薄肉裁断刃領域20を適切に補強できる範囲に定められる。打抜き刃物1は、補強筒部領域30で補強されて変形しない薄い薄肉裁断刃領域20で被裁断素材6を裁断して、裁断物7の対向面の厚さ方向の寸法誤差を少なくして、対向面を正確な横幅(w)に裁断できる。
【0057】
以上の打抜き刃物1は、例えば、以下の工程で製作できる。
(1)下半分を薄肉裁断刃領域20とし上半分を補強筒部領域30とする上下幅(H)のある金属板を筒状に曲げ加工した後、両端縁を溶着して四角筒状の素材に加工する。
(2)筒状外周面の下半分を研削して切除凹部40を設けて薄肉裁断刃領域20を補強筒部領域30よりも薄くする。
(3)薄肉裁断刃領域20の下端部の外周面を研磨して、外周面に刃面のある片刃の刃先13を設ける。
(4)最後に焼き入れ処理して刃先13を硬化した後、さらに刃先13を仕上げ研磨して打抜き刃物1とする。
【0058】
以上の製造方法は、金属板を曲げ加工し、溶着して四角筒状の素材を製作するが、(1)の工程は、金属板を使用することなく、金属ブロックを放電加工して筒状に加工して素材を製作することもできる。
【0059】
以上の方法で製作された打抜き刃物1は、薄肉裁断刃領域20と補強筒部領域30の内周面が同一平面の筒状とするので、刃先13で被裁断素材6を打抜きすると、打抜きされた裁断物7が打抜き刃物1の内側に案内される。内側に挿入された裁断物7は、薄肉裁断刃領域20から押し出して取り出しできる。裁断物7は薄肉裁断刃領域20の刃先13に向かって下方に押し出して取り出しでき、また、上方に押し出して取り出しできる。打抜き刃物1は、薄肉裁断刃領域20と補強筒部領域30の内周面を同一平面として裁断物7を取り出しできるが、補強筒部領域30の内形を薄肉裁断刃領域20よりも大きくして、裁断物7をよりスムーズに取り出しできる。補強筒部領域30は薄肉裁断刃領域20よりも厚いので、内面を切削して薄く加工しても十分な強度に保持できる。したがって、打抜き刃物1は、薄肉裁断刃領域20と補強筒部領域30の内周面を同一平面として簡単に製造できるが、補強筒部領域30の内形を大きくすることもできる。
【産業上の利用可能性】
【0060】
本発明は、裁断物の対向面の厚さ方向の寸法誤差を少なくしながら、裁断された裁断物をスムーズに取り出しできる打抜き刃物と裁断装置として好適に使用できる。
【符号の説明】
【0061】
100…裁断装置
1…打抜き刃物
3…プレス装置
6…被裁断素材
6a…凸部
7…裁断物
10…裁断プレート
10a…対向裁断プレート
11…長辺側の対向裁断プレート
12…短辺側の対向裁断プレート
13…刃先
14…修正刃面
15…筒状内周面
16…境界
17…境界面
18…境界領域
20…薄肉裁断刃領域
21…上端
30…補強筒部領域
31…下端
40…切除凹部
41…段差
42…傾斜面
43…湾曲面
50…裁断台
51…裁断面
52…保護層
55…上下台
56…シリンダ
56a…ロッド
60…駆動機構
801、901…打抜き刃物
807、907…裁断物
810a、910a…対向裁断プレート
813、913…刃先
814…修正刃面
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11