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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024037095
(43)【公開日】2024-03-18
(54)【発明の名称】車輪用軸受装置
(51)【国際特許分類】
   F16C 19/14 20060101AFI20240311BHJP
   F16C 33/40 20060101ALI20240311BHJP
   F16C 33/58 20060101ALI20240311BHJP
   F16C 33/32 20060101ALI20240311BHJP
   B60B 35/14 20060101ALI20240311BHJP
【FI】
F16C19/14
F16C33/40
F16C33/58
F16C33/32
B60B35/14 V
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022141747
(22)【出願日】2022-09-06
(71)【出願人】
【識別番号】000102692
【氏名又は名称】NTN株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002217
【氏名又は名称】弁理士法人矢野内外国特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】仲 大介
(72)【発明者】
【氏名】福島 茂明
【テーマコード(参考)】
3J701
【Fターム(参考)】
3J701AA03
3J701AA32
3J701AA43
3J701AA54
3J701AA62
3J701AA72
3J701BA02
3J701BA09
3J701BA22
3J701BA34
3J701BA44
3J701BA49
3J701BA54
3J701BA56
3J701BA69
3J701FA15
3J701FA31
3J701GA03
3J701XB03
3J701XB14
3J701XB23
3J701XB26
(57)【要約】
【課題】外方部材と転動体の保持器との干渉、およびトルクの増加を抑制しつつ、寿命を向上することができる車輪用軸受装置を提供する。
【解決手段】車輪用軸受装置1は、複列の外側軌道面23、24を有する外輪2と、複列の外側軌道面23、24に対向する複列の内側軌道面33、41を有する内方部材(ハブ輪3および内輪4)と、外輪2と内方部材との両軌道面間に転動自在に収容された複列のボール列5、6と、ボール列5、6のボール7を保持する保持器8を備える車輪用軸受装置1であって、外側軌道面23、24の底部23a、24aと肩部23b、24bとの径方向における距離h1、h2とボール7の半径rとが、h≧0.7×r(h=h1、h2)の関係を満たし、かつ、保持器8の円環部81と外輪2の内周面28との最短距離d1、d2が0.2mm以上、かつ2mm以下である。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
内周に複列の外側軌道面を有する外方部材と、
前記複列の外側軌道面に対向する複列の内側軌道面を有する内方部材と、
前記外方部材と前記内方部材との両軌道面間に転動自在に収容された複列の転動体と、
前記転動体を保持する保持器とを備え、
前記保持器は、環状に形成される円環部と、前記円環部から軸方向に延出し、周方向に沿って一定の間隔で配置される複数の柱部と、前記円環部と隣り合う前記柱部とによって形成され、前記転動体を保持するポケットとを有する車輪用軸受装置であって、
前記複列の外側軌道面における、軸方向一側の外側軌道面と軸方向他側の外側軌道面との少なくとも一方において、
前記外側軌道面の底部と肩部との径方向における距離hと、前記転動体の半径rとが、
h≧0.7×r
の関係を満たし、
かつ、
前記保持器の前記円環部と、前記円環部と対向する前記外方部材の内周面との最短距離dが0.2mm以上、かつ2mm以下であることを特徴とする車輪用軸受装置。
【請求項2】
前記最短距離dは、1mm以下であることを特徴とする請求項1に記載の車輪用軸受装置。
【請求項3】
前記複列の転動体のピッチ円径bと、前記複列の転動体における、軸方向一側の転動体と軸方向他側の転動体との転動体間ピッチaとが、
b/a≧2.0
の関係を満たすことを特徴とする請求項1に記載の車輪用軸受装置。
【請求項4】
前記複列の外側軌道面における、軸方向一側の外側軌道面と軸方向他側の外側軌道面との少なくとも一方において、
前記転動体の前記外側軌道面に対する接触角αが、35°よりも大きく、かつ45°以下であることを特徴とする請求項1~請求項3の何れか一項に記載の車輪用軸受装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は車輪用軸受装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、自動車等の車両の懸架装置において車輪を回転自在に支持する車輪用軸受装置が知られている。
【0003】
車輪用軸受装置が用いられる車両においては、電気自動車の普及拡大が見込まれているが、電気自動車はバッテリーを搭載しているため車両重量が増加する傾向にあり、電気自動車に用いられる車輪用軸受装置も大型化して剛性を高める必要がある。しかし、車輪用軸受装置を単に大型化しただけでは車輪用軸受装置の重量が増加してしまうといった問題がある。
【0004】
従って、特許文献1に開示されるように、外輪部材の外輪軌道面と内輪部材の内輪軌道面との間に介装される複列の転動体群を含んだ車輪用軸受装置において、アウター側の転動体群のピッチ円径をインナー側の転動体群のピッチ円径よりも大きく設定して、重量の増加を抑えつつ大型化を図ることが行われている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第4206716号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
一方、車輪用軸受装置においては、径方向の大きさを大きく形成するとともに、軸方向の大きさを小さく形成することで、剛性を高めつつ軽量化および省スペース化を図ることが可能である。
【0007】
しかし、車輪用軸受装置を軸方向に小型化すると、剛性および寿命が低下する傾向にある。例えば、車輪用軸受装置に旋回荷重が負荷されたときに、外方部材における外側軌道面と転動体とが接触した際に生じる楕円状の接触面が、外側軌道面の肩部にはみ出すことにより、外側軌道面の肩部に応力が集中して早期に破損するおそれがある。
【0008】
転動体の接触面が外側軌道面の肩部にはみ出すことを抑制するためには、外側軌道面の底部と肩部との距離を大きくすることが考えられるが、外側軌道面の底部と肩部との距離を大きくし過ぎると、外方部材の内周面と転動体を保持する保持器とが干渉するとともに、グリースのせん断抵抗によりトルクが増加するおそれがある。
【0009】
本発明は以上の如き状況に鑑みてなされたものであり、外方部材と転動体の保持器との干渉、およびトルクの増加を抑制しつつ、寿命を向上することができる車輪用軸受装置を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
即ち、車輪用軸受装置は、内周に複列の外側軌道面を有する外方部材と、前記複列の外側軌道面に対向する複列の内側軌道面を有する内方部材と、前記外方部材と前記内方部材との両軌道面間に転動自在に収容された複列の転動体と、前記転動体を保持する保持器とを備え、前記保持器は、環状に形成される円環部と、前記円環部から軸方向に延出し、周方向に沿って一定の間隔で配置される複数の柱部と、前記円環部と隣り合う前記柱部とによって形成され、前記転動体を保持するポケットとを有する車輪用軸受装置であって、前記複列の外側軌道面における、軸方向一側の外側軌道面と軸方向他側の外側軌道面との少なくとも一方において、前記外側軌道面の底部と肩部との径方向における距離hと、前記転動体の半径rとが、h≧0.7×rの関係を満たし、かつ、前記保持器の前記円環部と、前記円環部と対向する前記外方部材の内周面との最短距離dが0.2mm以上、かつ2mm以下である。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、外方部材と転動体の保持器との干渉、およびトルクの増加を抑制しつつ、車輪用軸受装置の寿命を向上することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】車輪用軸受装置を示す側面断面図である。
図2】車輪用軸受装置におけるインナー側の外側軌道面部分を示す側面断面図である。
図3】ボールと外側軌道面との接触面を示す概略図である。
図4】円環部の外周面と外輪の内周面とが軸方向に対して傾斜したテーパ面である場合のインナー側の外側軌道面部分を示す側面断面図である。
図5】車輪用軸受装置におけるアウター側の外側軌道面部分を示す側面断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下に、本発明を実施するための形態を、添付の図面を用いて説明する。
【0014】
[車輪用軸受装置]
図1に示す車輪用軸受装置1は、本発明に係る車輪用軸受装置の一実施形態であり、自動車等の車両の懸架装置において車輪を回転自在に支持するものである。
【0015】
以下の説明において、軸方向とは車輪用軸受装置1の回転軸心Xに沿った方向を表す。また、アウター側とは、軸方向の一側であって車体に取り付けた際の車輪用軸受装置1の車輪側を表し、インナー側とは、軸方向の他側であって車体に取り付けた際の車輪用軸受装置1の車体側を表す。
【0016】
車輪用軸受装置1は第3世代と称呼される構成を備えており、外方部材である外輪2と、内方部材であるハブ輪3および内輪4と、転動列である二列のインナー側ボール列5およびアウター側ボール列6と、アウター側シール部材9と、インナー側シール部材10とを具備する。
【0017】
外輪2のインナー側端部には、インナー側シール部材10が嵌合可能なインナー側開口部21が形成されている。外輪2のアウター側端部には、アウター側シール部材9が嵌合可能なアウター側開口部22が形成されている。
【0018】
インナー側シール部材10がインナー側開口部21に嵌合されることにより、外方部材である外輪2と内方部材であるハブ輪3および内輪4とによって形成された環状空間Sのインナー側の開口端が塞がれている。アウター側シール部材9がアウター側開口部22に嵌合されることにより、環状空間Sのアウター側の開口端が塞がれている。
【0019】
インナー側シール部材10およびアウター側シール部材9は、環状空間Sの開口端を塞ぐ密封装置である。このように、インナー側シール部材10およびアウター側シール部材9により環状空間Sのインナー側およびアウター側の開口端を塞ぐことで、泥水等の異物が車輪用軸受装置1の内部へ浸入することを抑制している。
【0020】
外輪2の内周面28には、インナー側の外側軌道面23と、アウター側の外側軌道面24とが形成されている。外輪2の外周面27には、外輪2を車体側部材に取り付けるための車体取り付けフランジ25が一体的に形成されている。車体取り付けフランジ25には、車体側部材と外輪2とを締結する締結部材(ここでは、ボルト)が挿入されるボルト孔26が設けられている。
【0021】
ハブ輪3の外周面におけるインナー側端部には、アウター側端部よりも縮径された小径段部31が形成されている。ハブ輪3のアウター側端部には、車輪を取り付けるための車輪取り付けフランジ32が一体的に形成されている。
【0022】
車輪取り付けフランジ32には、複数のボルト孔35が形成されている。ボルト孔35には、ハブ輪3と車輪またはブレーキ部品とを締結するためのハブボルト36が圧入可能である。
【0023】
ハブ輪3においては、車輪取り付けフランジ32の基部側にアウター側シール部材9が摺接する摺接面34が形成されている。ハブ輪3の外周面には、外輪2のアウター側の外側軌道面24に対向するようにアウター側の内側軌道面33が設けられている。つまり、内方部材のアウター側には、ハブ輪3によって内側軌道面33が構成されている。
【0024】
ハブ輪3の内径部には、軸方向に沿って形成される軸孔37が形成されている。軸孔37はハブ輪3を軸方向に沿って貫通しており、軸孔37には等速自在継手の軸部が結合可能である。
【0025】
ハブ輪3の小径段部31には、内輪4が設けられている。内輪4は、圧入によりハブ輪3の小径段部31に固定されている。内輪4の外周面には、外輪2のインナー側の外側軌道面23と対向するようにインナー側の内側軌道面41が設けられている。つまり、内方部材のインナー側には、内輪4によって内側軌道面41が構成されている。
【0026】
転動列であるインナー側ボール列5とアウター側ボール列6とは、転動体である複数のボール7が保持器8によって保持されることにより構成されている。インナー側ボール列5は、内輪4の内側軌道面41と、外輪2のインナー側の外側軌道面23との間に転動自在に挟まれている。アウター側ボール列6は、ハブ輪3の内側軌道面33と、外輪2のアウター側の外側軌道面24との間に転動自在に挟まれている。つまり、インナー側ボール列5とアウター側ボール列6とは、外方部材と内方部材との両軌道面間に転動自在に収容されている。
【0027】
車輪用軸受装置1においては、外輪2と、ハブ輪3および内輪4と、インナー側ボール列5と、アウター側ボール列6とによって複列アンギュラ玉軸受が構成されている。なお、車輪用軸受装置1は複列アンギュラ玉軸受に替えて複列円錐ころ軸受を構成していてもよい。
【0028】
[車輪用軸受装置におけるボールのピッチ円径とボール間ピッチとの関係]
インナー側ボール列5を構成するボール7とアウター側ボール列6を構成するボール7とは、軸方向においてボール間ピッチがaとなるように配置されている。ボール間ピッチaは、インナー側ボール列5におけるボール7の中心P1と、アウター側ボール列6におけるボール7の中心P2との、軸方向における距離である。ボール間ピッチaは、転動体間ピッチaの一例である。
【0029】
インナー側ボール列5を構成するボール7のピッチ円径と、アウター側ボール列6を構成するボール7のピッチ円径とは同じ大きさに形成されており、インナー側ボール列5およびアウター側ボール列6を構成するボール7のピッチ円径はbである。
【0030】
ピッチ円径bは、回転軸心Xを中心とし、インナー側ボール列5におけるボール7の中心P1を通る円の直径である。また、ピッチ円径bは、回転軸心Xを中心とし、アウター側ボール列6におけるボール7の中心P2を通る円の直径である。ボール7のピッチ円径bは、転動体のピッチ円径bの一例である。
【0031】
車輪用軸受装置1においては、ボール間ピッチaに対するピッチ円径bの比率(b/a)が2.0以上となるように設定されている。つまり、ピッチ円径bとボール間ピッチaとが、b/a≧2.0の関係を満たすように設定されている。
【0032】
ピッチ円径bとボール間ピッチaとを、b/a≧2.0となるように設定することで、車輪用軸受装置1の径方向の大きさを大きく形成するとともに、インナー側ボール列5の保持器8とアウター側ボール列6の保持器8とが干渉することを防ぎながら車輪用軸受装置1の軸方向の大きさを小さく形成することが可能となる。これにより、車輪用軸受装置1の径方向の大きさと軸方向の大きさとの最適化を図って、車輪用軸受装置1の剛性や寿命を高めつつ、車輪用軸受装置1を軽量化することが可能となっている。
【0033】
[外輪の外側軌道面および内周面とボールおよび保持器との関係]
図2に示すように、インナー側ボール列5における保持器8は、環状に形成される円環部81と、円環部81から軸方向におけるインナー側に延出し、周方向に沿って一定の間隔で配置される複数の柱部82と、円環部81と隣り合う柱部82とによって形成され、ボール7を保持するポケット83とを有している。保持器8に保持されるボール7の半径はrである。
【0034】
外輪2のインナー側の外側軌道面23は、底部23aと、肩部23bとを有している。底部23aは、外側軌道面23において最も外径側に位置する部分である。肩部23bは、外側軌道面23と外輪2の内周面28との境界部であり、外側軌道面23のアウター側端部に位置している。肩部23bは、外側軌道面23において最も内径側に位置している。
【0035】
径方向における外側軌道面23の底部23aと肩部23bとの距離はh1である。距離h1は、距離hの一例である。車輪用軸受装置1においては、距離h1がボール7の半径rの0.7倍以上となるように設定されている。つまり、距離h1と半径rとが、h1≧0.7×rの関係を満たすように設定されている。
【0036】
インナー側ボール列5におけるボール7は、接触点23cにおいて外側軌道面23と接触しており、インナー側ボール列5におけるボール7の外側軌道面23に対する接触角はα1である。接触角α1は、接触角αの一例である。接触角α1は、インナー側ボール列5におけるボール7の中心P1と接触点23cとを結んだ直線の径方向に対する傾斜角である。車輪用軸受装置1においては、接触角α1が35°よりも大きく、かつ45°以下(35°<α1≦45°)となるように設定されている。
【0037】
図3に示すように、インナー側ボール列5におけるボール7が接触点23cにおいて外側軌道面23と接触した場合、外側軌道面23上には、接触点23cを中心に広がる楕円形状の接触面Cが生じる。
【0038】
距離h1と半径rとを、h1≧0.7×rの関係を満たすように設定することで、距離h1を大きく確保することができ、例えば車輪用軸受装置1に旋回荷重等の大きな荷重が負荷されたときにおいても、接触面Cが外側軌道面23の肩部23bにはみ出すことがない。これにより、外側軌道面23の肩部23bに応力が集中することを抑制でき、車輪用軸受装置1の寿命を向上することが可能となっている。
【0039】
また、一般的な車輪用軸受装置においては、ボールの外側軌道面に対する接触角が35°程度であるところ、車輪用軸受装置1においては、ボール7の外側軌道面23に対する接触角α1を、35°よりも大きく、かつ45°以下となるように設定している。
【0040】
このように、接触角α1を、35°<α1≦45°を満たす大きな角度に設定することで、車輪用軸受装置1を軸方向に小型化した場合でも、車輪用軸受装置1の剛性が低下することを抑制可能となっている。
【0041】
また、インナー側ボール列5における保持器8の円環部81は、外周面81aを有している。円環部81の外周面81aは、外側軌道面23のアウター側に隣接する外輪2の内周面28と対向している。円環部81の外周面81aと、円環部81と対向する外輪2の内周面28との最短距離はd1である。最短距離d1は、最短距離dの一例である。
【0042】
円環部81の外周面81aと外輪2の内周面28との最短距離d1は、例えば図2に示すように、外周面81aおよび内周面28が軸方向に沿った面である場合には、径方向における外周面81aと内周面28との距離である。
【0043】
また、外周面81aおよび内周面28の一方が軸方向に沿った面であり、他方が軸方向に対して傾斜したテーパ面である場合には、最短距離d1は、対向する外周面81aと内周面28とが径方向において最も近くなる距離とすることができる。
【0044】
さらに、図4に示すように、外周面81aおよび内周面28が軸方向に対して傾斜したテーパ面である場合には、最短距離d1は、内周面28と直交する方向において対向する外周面81aと内周面28とが最も近くなる距離、および外周面81aと直交する方向において対向する外周面81aと内周面28とが最も近くなる距離のうち、短い方の距離とすることができる(図4においては、内周面28と直交する方向の距離を示している)。
【0045】
車輪用軸受装置1においては、円環部81の外周面81aと外輪2の内周面28との最短距離d1が0.2mm以上(d1≧0.2mm)となるように設定している。
【0046】
このように、円環部81の外周面81aと外輪2の内周面28との間に0.2mm以上の隙間を設けることで、保持器8の円環部81と外輪2の内周面28とが干渉することを抑制するとともに、円環部81の外周面81aと外輪2の内周面28との間に塗布されたグリースのせん断抵抗によるトルク増加を抑制することが可能である。
【0047】
また、最短距離d1は、2mm以下(2mm≧d1)となるように設定している。このように、最短距離d1を2mm以下に設定することで、ボール7が荷重を受けた際に、外側軌道面23の肩部23bに乗り上げることを抑制することが可能となる。ボール7が外側軌道面23の肩部23bに乗り上げることを、より抑制するためには、最短距離d1を1mm以下(1mm≧d1)に設定することが好ましい。
【0048】
また、円環部81の外周面81aと外輪2の内周面28との間の最短距離d1を0.2mm以上、かつ2mm以下とすることで、ボール7と保持器8との間に隙間を確保してボール7が円滑に回転することが可能となり、ボール7と保持器8との間に塗布されたグリースのせん断抵抗によるトルク増加を抑制することが可能である。
【0049】
以上のように、車輪用軸受装置1においては、距離h1と半径rとを、h1≧0.7×rの関係を満たすように設定するとともに、円環部81の外周面81aと外輪2の内周面28との最短距離d1が0.2mm以上、かつ2mm以下となるように設定することで、外輪2と保持器8との干渉、およびグリースによるトルクの増加を抑制しつつ、車輪用軸受装置1の寿命を向上することが可能となっている。
【0050】
図5に示すように、外輪2のアウター側の外側軌道面24は、底部24aと、肩部24bとを有している。底部24aは、外側軌道面24において最も外径側に位置する部分である。肩部24bは、外側軌道面24と外輪2の内周面28との境界部であり、外側軌道面24のインナー側端部に位置している。肩部24bは、外側軌道面24において最も内径側に位置している。
【0051】
アウター側ボール列6における保持器8は、環状に形成される円環部81と、円環部81から軸方向におけるアウター側に延出し、周方向に沿って一定の間隔で配置される複数の柱部82と、円環部81と隣り合う柱部82とによって形成され、ボール7を保持するポケット83とを有している。
【0052】
外輪2の外側軌道面24および内周面28と、アウター側ボール列6におけるボール7および保持器8との関係は、外輪2の外側軌道面23および内周面28と、インナー側ボール列5におけるボール7および保持器8との関係と同様である。
【0053】
具体的には、径方向における外側軌道面24の底部24aと肩部24bとの距離h2は、ボール7の半径rの0.7倍以上となるように設定されている。つまり、距離h2と半径rとが、h2≧0.7×rの関係を満たすように設定されている。距離h2は、距離hの一例である。
【0054】
また、アウター側ボール列6におけるボール7の外側軌道面24に対する接触角α2は、35°よりも大きく、かつ45°以下(35°<α1≦45°)となるように設定されている。接触角α2は、アウター側ボール列6におけるボール7の中心P2と接触点24cとを結んだ直線の径方向に対する傾斜角である。接触角α2は、接触角αの一例である。
【0055】
さらに、アウター側ボール列6における保持器8の円環部81は外周面81aを有している。アウター側ボール列6における円環部81の外周面81aと、アウター側ボール列6における円環部81と対向する外輪2の内周面28との最短距離d2は0.2mm以上(d2≧0.2mm)となるように設定されている。最短距離d2は、最短距離dの一例である。
【0056】
また、最短距離d2は、2mm以下(2mm≧d2)となるように設定されている。これにより、ボール7が荷重を受けた際に、外側軌道面24の肩部24bに乗り上げることを抑制することが可能となる。最短距離d2は、ボール7が外側軌道面24の肩部24bに乗り上げることをより抑制するためには、1mm以下(1mm≧d2)に設定することが好ましい。
【0057】
このように、距離h2と半径rとを、h2≧0.7×rの関係を満たすように設定するとともに、最短距離d2が0.2mm以上、かつ2mm以下となるように設定することで、外輪2と保持器8との干渉、およびグリースによるトルクの増加を抑制しつつ、車輪用軸受装置1の寿命を向上することが可能となっている。
【0058】
また、接触角α2を、35°<α2≦45°を満たす大きな角度に設定することで、車輪用軸受装置1を軸方向に小型化した場合でも、車輪用軸受装置1の剛性が低下することを抑制可能となっている。
【0059】
車輪用軸受装置1においては、距離h1および最短距離d1と、距離h2および最短距離d2との少なくとも一方が、h≧0.7×r(h=h1、h2)の関係、および2mm≧d≧0.2mm(d=d1、d2)の関係を満たすように構成することができる。
【0060】
また、車輪用軸受装置1においては、接触角α1および接触角α2の少なくとも一方が、35°<α≦45°(α=α1、α2)の関係を満たすように構成することができる。
【0061】
なお、本実施形態においては、ハブ輪3の外周にアウター側ボール列6の内側軌道面33が直接形成されている第3世代構造の車輪用軸受装置1について説明したが、車輪用軸受装置はこれに限定するものではなく、ハブ輪に一対の内輪が圧入固定された第2世代構造や、ハブ輪を備えずに外方部材である外輪と内方部材である一対の内輪とから構成される第1世代構造であってもよい。
【0062】
以上、本発明の実施の形態について説明を行ったが、本発明はこうした実施の形態に何等限定されるものではなく、あくまで例示であって、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において、さらに種々なる形態で実施し得ることは勿論のことであり、本発明の範囲は、特許請求の範囲の記載によって示され、さらに特許請求の範囲に記載の均等の意味、および範囲内のすべての変更を含む。
【符号の説明】
【0063】
1 車輪用軸受装置
2 外輪
3 ハブ輪
4 内輪
5 インナー側ボール列
6 アウター側ボール列
7 ボール
8 保持器
23 (インナー側の)外側軌道面
23a 底部
23b 肩部
24 (アウター側の)外側軌道面
24a 底部
24b 肩部
28 内周面
33 (アウター側の)内側軌道面
41 (インナー側の)内側軌道面
81 円環部
81a 外周面
82 柱部
83 ポケット
a ボール間ピッチ
b (ボールの)ピッチ円径
d1、d2 (保持器の円環部と外輪の内周面との)最短距離
h1、h2 (外側軌道面の底部と肩部との)距離
r (ボールの)半径
α1、α2 (転動体の外側軌道面に対する)接触角
図1
図2
図3
図4
図5