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特開2024-37109分析容器、前処理方法、代謝物解析方法、タンパク質解析方法、及び質量分析方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024037109
(43)【公開日】2024-03-18
(54)【発明の名称】分析容器、前処理方法、代謝物解析方法、タンパク質解析方法、及び質量分析方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 1/00 20060101AFI20240311BHJP
   G01N 27/62 20210101ALI20240311BHJP
   G01N 1/10 20060101ALI20240311BHJP
   G01N 33/68 20060101ALI20240311BHJP
   G01N 33/48 20060101ALI20240311BHJP
【FI】
G01N1/00 101H
G01N27/62 V
G01N27/62 F
G01N1/10 V
G01N33/68
G01N33/48 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】15
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022141782
(22)【出願日】2022-09-06
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)令和2年度、国立研究開発法人科学技術振興機構、未来社会創造事業「1細胞定量分子フェノタイプ解析システムの開発」委託研究、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(71)【出願人】
【識別番号】504145342
【氏名又は名称】国立大学法人九州大学
(71)【出願人】
【識別番号】304027279
【氏名又は名称】国立大学法人 新潟大学
(71)【出願人】
【識別番号】515177608
【氏名又は名称】ヨダカ技研株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100190274
【弁理士】
【氏名又は名称】山下 滋之
(72)【発明者】
【氏名】秦 康祐
(72)【発明者】
【氏名】和泉 自泰
(72)【発明者】
【氏名】馬場 健史
(72)【発明者】
【氏名】中谷 航太
(72)【発明者】
【氏名】高橋 政友
(72)【発明者】
【氏名】油屋 駿介
(72)【発明者】
【氏名】松本 雅記
(72)【発明者】
【氏名】平藤 衛
【テーマコード(参考)】
2G041
2G045
2G052
【Fターム(参考)】
2G041CA01
2G041EA04
2G041FA12
2G041GA15
2G041JA02
2G045BB10
2G045DA36
2G045FB06
2G045HA04
2G052AA33
2G052AB18
2G052AD29
2G052AD49
2G052CA04
2G052CA18
2G052DA02
2G052GA24
(57)【要約】
【課題】1個~100個程度の細胞を含む少量のサンプルを分析する場合にも、サンプルの蒸発を抑制すると共に、質量分析の効率化を実現させる分析容器及び前処理方法と、該前処理方法を活かした代謝物解析方法及びタンパク質解析方法を提供すること。
【解決手段】開口端から閉塞端に向けて延伸し、断面視円形状の内側面が開口端から閉塞端に向けて狭くなるように形成された分析容器。分析容器は、内部が段差なく滑らかに形成されている。分析容器は、全長が5.0mm以上30.0mm以下で、かつ内容量が10.0μL以上45.0μL以下となるように形成される。分析容器は、内部の底端部から3.0mmの高さにおける内径が、0.5mm以上0.8mm以下である。分析容器は、1.0μLの溶液を注入したときの、内部の底端部から液面までの高さが、2.0mm以上4.0mm以下である。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
開口端から閉塞端に向けて延伸し、断面視円形状の内側面が前記開口端から前記閉塞端に向けて狭くなるように形成された分析容器であって、
全長が5.0mm以上30.0mm以下で、かつ内容量が10.0μL以上45.0μL以下であり、
内部の底端部である内底端から3.0mmの高さにおける内径が、0.5mm以上0.8mm以下であり、
1.0μLの溶液を注入したときの前記内底端から液面までの高さが、2.0mm以上4.0mm以下であり、
内部は、段差なく滑らかに形成されている、分析容器。
【請求項2】
全長が10.0mm以上20.0mm以下であり、
前記内底端から6.0mmの高さにおける内径が0.6mm以上1.0mm以下であり、
5.0μLの溶液を注入したときの前記内底端から液面までの高さが4.0mm以上7.0mm以下である、請求項1に記載の分析容器。
【請求項3】
全長が12.0mm以上20.0mm以下であり、
10.0μLの溶液を注入したときの前記内底端から液面までの高さが5.0mm以上10.0mm以下である、請求項1に記載の分析容器。
【請求項4】
前記底端部から内径0.4mmの位置までの距離が、0.05mm~0.15mmとなるように形成されている、請求項1に記載の分析容器。
【請求項5】
前記開口端から延伸方向における中央の箇所までを構成する筒状部と、
前記筒状部の下端から前記閉塞端までを構成するテーパ状部と、を有し、
前記テーパ状部は、
前記筒状部の下端から当該テーパ状部の前記延伸方向における中央の箇所までを構成する狭窄部と、
前記狭窄部の下端から前記閉塞端の上端までを構成する細下部と、を有し、
前記狭窄部における内径の減少率は、10%以上35%以下であり、
前記細下部における内径の減少率は、5%以上20%以下であり、
前記狭窄部における内径の減少率は、前記細下部における内径の減少率よりも大きくなっている、請求項1に記載の分析容器。
【請求項6】
前記筒状部は、
前記開口端を含む口部と、
前記口部から前記テーパ状部まで延伸する中継部と、を有し、
前記口部は、
前記中継部の壁厚の3倍以上5倍以下の壁厚となるように形成されている、請求項5に記載の分析容器。
【請求項7】
請求項1~6の何れか一項に記載の分析容器に、1個以上100個以下の細胞を含むサンプルを注入するサンプル注入工程と、
前記サンプルが注入された前記分析容器に、予め設定さられた規定量のアルコールを注入するアルコール注入工程と、
前記分析容器を遠心機にかけて、前記分析容器の内容物を、代謝物が多く含まれる液層と、タンパク質が多く含まれる沈殿層とに分離する分離工程と、を有する、
前記液層及び前記沈殿層のうちの少なくとも一方の質量分析のための、前処理方法。
【請求項8】
請求項1~6の何れか一項に記載の分析容器に、予め設定さられた規定量のアルコールを注入するアルコール注入工程と、
前記アルコールが注入された前記分析容器に、1個以上100個以下の細胞を含むサンプルを注入するサンプル注入工程と、
前記分析容器を遠心機にかけて、前記分析容器の内容物を、代謝物が多く含まれる液層と、タンパク質が多く含まれる沈殿層とに分離する分離工程と、を有する、
前記液層及び前記沈殿層のうちの少なくとも一方の質量分析のための、前処理方法。
【請求項9】
前記アルコール注入工程では、
前記分析容器に、2μL以上10μL以下に設定された前記規定量の、前記アルコールとしてのメタノールを注入する、請求項7に記載の前処理方法。
【請求項10】
前記サンプル注入工程及び前記アルコール注入工程の後、前記分離工程の前に、
前記分析容器の内容物を攪拌し、細胞中のタンパク質を変性させる攪拌工程をさらに有する、請求項7に記載の前処理方法。
【請求項11】
請求項7に記載の前処理方法の後、
前記分離工程において分離された前記液層を抽出し、
抽出した前記液層に含まれる代謝物を、メタボロミクスによって解析する、代謝物解析方法。
【請求項12】
請求項7に記載の前処理方法を経て、
前記分離工程において分離された前記液層を前記分析容器外へ移した後、
予め設定された分解基準量の消化酵素溶液を前記分析容器に注入して、前記沈殿層に含まれるタンパク質を分解し、
前記分析容器の内容物に、所定量のトリフルオロ酢酸溶液及びイソプロパノールを混合して、その混合物に含まれるタンパク質をプロテオミクスによって解析する、タンパク質解析方法。
【請求項13】
請求項7に記載の前処理方法の後、
前記分離工程において分離された前記液層を抽出する液層抽出工程と、
前記液層抽出工程において抽出した前記液層に含まれる代謝物を、メタボロミクスによって解析する、代謝物解析工程と、
前記液層抽出工程を経て前記沈殿層が残存する前記分析容器内に、予め設定された分解基準量の消化酵素溶液を注入して、前記沈殿層に含まれるタンパク質を分解した後、前記分析容器の内容物に、所定量のトリフルオロ酢酸及びイソプロパノールを混合し、その混合物に含まれるタンパク質をプロテオミクスによって解析する、タンパク質解析工程と、を有する、質量分析方法。
【請求項14】
開口端から閉塞端に向けて延伸し、断面視円形状の内側面が前記開口端から前記閉塞端に向けて狭くなるように形成され、1.0μLの溶液を注入したときの内部の底端部から液面までの高さが2.0mm以上4.0mm以下である分析容器に、1個以上100個以下の細胞を含むサンプルを注入するサンプル注入工程と、
前記サンプルが注入された前記分析容器に、予め設定さられた規定量のアルコールを注入するアルコール注入工程と、
前記分析容器を遠心機にかけて、前記分析容器の内容物を、代謝物が多く含まれる液層と、タンパク質が多く含まれる沈殿層とに分離する分離工程と、を有する、
前記液層及び前記沈殿層のうちの少なくとも一方の質量分析のための、前処理方法。
【請求項15】
開口端から閉塞端に向けて延伸し、断面視円形状の内側面が前記開口端から前記閉塞端に向けて狭くなるように形成され、1.0μLの溶液を注入したときの内部の底端部から液面までの高さが2.0mm以上4.0mm以下である分析容器に、予め設定さられた規定量のアルコールを注入するアルコール注入工程と、
前記アルコールが注入された前記分析容器に、1個以上100個以下の細胞を含むサンプルを注入するサンプル注入工程と、
前記分析容器を遠心機にかけて、前記分析容器の内容物を、代謝物が多く含まれる液層と、タンパク質が多く含まれる沈殿層とに分離する分離工程と、を有する、
前記液層及び前記沈殿層のうちの少なくとも一方の質量分析のための、前処理方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、代謝物やタンパク質を分析する際に用いる分析容器と、該分析に係る前処理方法、代謝物解析方法、タンパク質解析方法、及び質量分析方法に関する。
【背景技術】
【0002】
1細胞レベルでの遺伝子、タンパク質、代謝物の解析を行う1細胞研究は、生命科学の分野で、世界的にも重要視されている研究の一つである。
【0003】
例えば、米国では、2017年より、ヒトの全身細胞を1細胞単位で計測する「Human Cell Atlas」というプロジェクトを推進しており(Rozenblatt-Rosen O et al., Nature, 2017)、2019年からは、新たに「The Human BioMolecular Atlas Program(HuBMAP)by NIH」というプロジェクトが始まっている(HuBMAP Consotium, Nature, 2019)。また、欧州でも、「Life Time Initiative」という1細胞研究に関するプロジェクトが開始されている。
【0004】
日本においても、2018年9月に、JST-CRDS(科学技術振興機構-研究開発戦略センター)より、「ライブセルアトラス」という1細胞単位での技術開発を重視していく報告書が発表されている。
【0005】
1細胞研究における具体的な研究対象としては、下記(1)~(10)のような例が挙げられる。
(1)病気の解明・治療方法
(2)病気の診断
(3)がんの薬剤耐性が個々の細胞ごとに異なる不均一性に関する研究
(4)免疫細胞の機能解析
(5)再生医療で用いるiPS細胞、ES細胞の機能解析
(6)バイオ医薬品で用いる抗体産生細胞のクローニング
(7)新規有用微生物の探索
(8)分化、発生の研究
(9)魚類、甲殻類等の完全養殖研究
(10)植物育種、機能研究
【0006】
このように、世界のライフサイエンス分野において盛んに取り扱われている1細胞研究は、上記のような研究対象の多様性・有用性と相俟って、今後更なる発展が予想される。
【0007】
ところで、近年の分子生物学的研究においては、細胞を集団で扱うことで個別事象には目をつむり、平均化された遺伝子発現量の結果を比較するという手法を採ってきた。しかし、そのような手法では、個々の細胞各々が有する性質の他、細胞ごとの経時的な変化や多様性を無視することになるため、疾患の発症メカニズムや原因究明に関わる重要なイベントを見逃している可能性が高い。
【0008】
とは言え、上記のような重要なイベントを観察するためには、蛍光色素の開発と共に、顕微鏡イメージングシステム(タイムラプス)で用いるカメラ・ソフトウェアの高性能化及び低価格化などが必要となるため、1細胞研究の世界的な拡散には至っていなかった。ところが、この数十年の間に、技術の飛躍的な向上とコストダウンが実現され、生命科学の分野に1細胞研究が広まった。
【0009】
1細胞研究に係る技術を用いて実際に、培養細胞の観察や、実験動物から抽出した組織の観察を行うと、全細胞中において、1個あるいは数十個の細胞のみが、ある特定のフェノタイプ(表現型)を有するタイミングが存在することが分かってきた。
【0010】
このような特定のフェノタイプをもつ少数細胞の内的要因を調べる場合は、遺伝子発現の網羅的解析(トランスクリプトミクス)、タンパク質の網羅的解析(プロテオミクス)、あるいは代謝物の網羅的解析(メタボロミクス)が行われる。こうした解析を行うためには、培養細胞や抽出した組織から特定の構造や機能を有する少数細胞を、蛍光色素などを用いて分類判別し、該少数細胞だけを正確に分離・回収する必要がある。この点、近年の世界的な1細胞研究に関するプロジェクトなどに起因して、少数の細胞を分離・回収するセルソータやピッキング装置が開発されており、これにより、上記のような網羅的解析も実現化されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0011】
【非特許文献1】Fessenden M., Nature, 540, 153-155 (2016)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
ここで、上述の網羅的解析のうち、トランスクリプトミクスついては、遺伝子となるmRNA分子がPCR法やRCA法で増幅可能なことに加え、次世代シーケンサなどの解析装置の発展もあり、論文などの報告も増加している(例えば、非特許文献1参照)。しかしながら、タンパク質や代謝物は、遺伝子のように増幅することができないため、存在する分子の数をそのまま質量分析装置で解析しなければならない。そのため、従来用いられてきた前処理方法では、適量のタンパク質や代謝物を検出することが困難である。具体的には、1個から100個までの少数細胞を含むサンプルにつき、タンパク質や代謝物を解析しようとすると、従来の容器の形状及びサイズと前処理方法では、以下のような課題が発生する。
【0013】
すなわち、従来から最もよく使用されているエッペンチューブやPCR容器は、開口部から底部に到るまでの容器内側の側壁が緩やかにカーブしながら細くなり、開口部の内径と底部の内径との間にあまり差がない「砲弾型」の構造となっている。なお、こうした容器の容量は、一般に、0.2mL(200μL)又は0.5mL(500μL)となっている。したがって、少数細胞を含むサンプルとしての溶液の量が0.01mL以下(10.0μL以下)と少量で、かつサンプルに水以外の有機溶媒や界面活性剤等が含まれる場合は特に、容器の底部付近の断面積が大きくなり、容器内の溶液がすぐに蒸発してしまう。そのため、複数のサンプルを連続的に測定したい場合など、測定を待っているサンプルが容器内で乾固する事態が生じ、サンプルの無駄が発生すると共に連続的な測定が実施できなくなる。
【0014】
また、1個~100個程度の少量の細胞を含むサンプルを、総タンパク質と総代謝物とに再現性よく分画することができれば、プロテオミクスとメタボロミクスとを並行して行うことも可能となり、質量分析の精度向上と効率化につながる。そのため、少量のサンプルからプロテオミクスの情報とメタボロミクスの情報とを同時かつ定量的に、再現性よく取得する手法が望まれている。
【0015】
本発明は、上述のような課題を解決するためになされたものであり、少量のサンプルを分析する場合にも、サンプルの蒸発を抑制すると共に、質量分析の精度向上及び効率化を実現させる分析容器及び前処理方法と、該前処理方法を活かした代謝物解析方法及びタンパク質解析方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明の一態様に係る分析容器は、開口端から閉塞端に向けて延伸し、断面視円形状の内側面が開口端から閉塞端に向けて狭くなるように形成された分析容器であって、全長が5.0mm以上30.0mm以下で、かつ内容量が2.0μL以上45.0μL以下であり、内部の底端部である内底端から3.0mmの高さにおける内径が、0.5mm以上0.8mm以下であり、1.0μLの溶液を注入したときの内底端から液面までの高さが、2.0mm以上4.0mm以下であり、内部は、段差なく滑らかに形成されている。
【0017】
本発明の一態様に係る前処理方法は、開口端から閉塞端に向けて延伸し、断面視円形状の内側面が開口端から閉塞端に向けて狭くなるように形成され、1.0μLの溶液を注入したときの内部の底端部から液面までの高さが2.0mm以上4.0mm以下である分析容器に、1個以上100個以下の細胞を含むサンプルを注入するサンプル注入工程と、サンプルが注入された分析容器に、予め設定さられた規定量のアルコールを注入するアルコール注入工程と、分析容器を遠心機にかけて、分析容器の内容物を、代謝物が多く含まれる液層と、タンパク質が多く含まれる沈殿層とに分離する分離工程と、を有する、液層及び沈殿層のうちの少なくとも一方の質量分析のためのものである。
【0018】
本発明の一態様に係る代謝物解析方法は、上記の前処理方法の後、分離工程において分離された液層を抽出し、抽出した液層に含まれる代謝物を、メタボロミクスによって解析する、という手法を採っている。
【0019】
本発明の一態様に係るタンパク質解析方法は、上記の前処理方法を経て、分離工程において分離された液層を分析容器外へ移した後、予め設定された分解基準量の消化酵素溶液を分析容器に注入して、沈殿層に含まれるタンパク質を分解し、分析容器の内容物に、所定量のトリフルオロ酢酸と所定量のイソプロパノールとを混合して、その混合物に含まれるタンパク質を、プロテオミクスによって解析する、という手法を採っている。
【0020】
本発明の一態様に係る質量分析方法は、上記の前処理方法の後、分離工程において分離された液層を抽出する液層抽出工程と、液層抽出工程において抽出した液層に含まれる代謝物を、メタボロミクスによって解析する、代謝物解析工程と、液層抽出工程を経て沈殿層が残存する分析容器内に、予め設定された分解基準量の消化酵素溶液を注入して、沈殿層に含まれるタンパク質を分解した後、分析容器の内容物に、所定量のトリフルオロ酢酸と所定量のイソプロパノールとを混合し、その混合物に含まれるタンパク質を、プロテオミクスによって解析する、タンパク質解析工程と、を有するものである。
【発明の効果】
【0021】
本発明に係る分析容器は、内側面が開口端から閉塞端に向けて狭くなっていることを前提とし、内部の底端部から3.0mmの高さにおける内径が0.5mm以上0.8mm以下となっている。したがって、少量のサンプルを注入した場合でも、サンプルの高さを確保することができ、液層と沈殿層とに分離させた際の液層の高さを確保することができる。そして、サンプルの液面の面積を従来の容器よりも小さくすることができる。よって、1個~100個程度の細胞を含む少量のサンプルを分析する場合にも、サンプルの蒸発を抑制すると共に、質量分析の効率化を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1】本発明の実施の形態に係る分析容器を例示した正面図である。
図2図1の分析容器を例示した平面図である。
図3図2のA-A線に沿った分析容器の概略断面図である。
図4図1の分析容器にオートサンプラのサンプリングニードルを挿入した状態例を示す正面図である。
図5】本発明の実施の形態に係る前処理方法、代謝物解析方法、タンパク質解析方法、及び質量解析方法の流れを例示したフローチャートである。
図6】本発明の実施の形態に係る分析容器(a)と従来の容器(b)とに10μLの溶液を注入し、底から液面までの高さを比較した参考図である。
図7】本発明の実施の形態に係る分析容器に注入する溶液の量を段階的に増やしたときの液面の高さの変化を示す説明図である。
図8】従来の容器と本発明の実施の形態に係る分析容器とに同量の水を注入したときの、液量(蒸発量)の経時的な変化を示すグラフである。
図9】従来の容器と本発明の実施の形態に係る分析容器とに同量のメタノールを注入したときの、液量(蒸発量)の経時的な変化を示すグラフである。
図10】従来の容器の天面にアルミシールを貼り付けた状態例(a)と、本発明の実施の形態に係る分析容器の天面にアルミシールを貼り付けた状態例(b)とを示す説明図である。
図11図10(a)のようにアルミシールを貼り付けた従来の容器と、図10(b)のようにアルミシールを貼り付けた分析容器との間で、一定時間経過後の蒸発量を比較した結果を示すグラフである。
図12】従来の容器と本発明の実施の形態に係る分析容器とをそれぞれ用い、プロテオミクスによる解析を行った場合の、ペプチドの検出数の比較結果(a)、タンパク質の検出数の比較結果(b)、及び同定されたペプチドのピーク高さの中央値の比較結果(c)を示すグラフである。
図13】従来の容器に注入する溶液の量を段階的に増やしたときの液面の高さの変化を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
実施の形態.
まず、図1図4を参照して、本実施の形態における分析容器の形状及びサイズ等について説明する。各図では、図面の煩雑化を避ける等の意図で、各構成部材を示す符号の一部を省略することがある。後述する各図についても同様である。
【0024】
分析容器10は、一方の端部が開口し、他方の端部が閉口した容器であり、全長Hが5.0mm以上30.0mm以下で、かつ、内容量が10.0μL以上45.0μL以下となるように形成される。図1のように、分析容器10の一方の端部を開口端11とし、分析容器10の他方の端部を閉塞端12とする。
【0025】
分析容器10は、開口端11から閉塞端12に向けて延伸するように形成されている。ここで、図1のように、開口端11から閉塞端12に向かう方向を延伸方向とする。分析容器10は通常、開口端11を上に向け、閉塞端12を下に向け、延伸方向が上下方向と平行になるように配置されて使用される。以降では、このような使用状況に鑑み、開口端11側を上側とし、閉塞端12側を下側として、各構成部材の位置関係を説明することがある。分析容器10は、内側面10sが開口端11から閉塞端12に亘って断面視円形状となっている。分析容器10は、内側面10sが開口端11から閉塞端12に向けて狭くなるように形成されている。つまり、分析容器10は、断面積が開口端11から閉塞端12に向けて小さくなるように形成されている。ここで、容器の断面積とは、容器の断面における内周の内側の面積のことであり、容器に液体を入れた際の液面の面積に相当する。また、分析容器10は、内部が段差なく滑らかになるよう形成れている。
【0026】
分析容器10は、内底端33aから3.0mmの高さにおける内径が0.5mm以上0.8mm以下となるように形成するとよい。内底端33aは、内部の底端部であり、分析容器10の内部で最も低い箇所である。また、分析容器10は、1.0μLの溶液を注入したときの内底端33aから液面までの高さが2.0mm以上4.0mm以下となるように形成するとよい。
【0027】
分析容器10は、全長Hが10.0mm以上20.0mm以下となるように形成してもよい。そして、分析容器10は、内底端33aから6.0mmの高さにおける内径が0.6mm以上1.0mm以下で、かつ、5.0μLの溶液を注入したときの内底端33aから液面までの高さが4.0mm以上7.0mm以下となるように形成してもよい。また、分析容器10は、10.0μLの溶液を注入したときの内底端33aから液面までの高さが5.0mm以上10.0mm以下となるように形成してもよい。
【0028】
より具体的に、分析容器10は、筒状部20とテーパ状部30とを有している。筒状部20は、開口端11から本体中央部18までを構成し、テーパ状部30は、筒状部20の下端から閉塞端12までを構成する。本体中央部18は、筒状部20とテーパ状部30との境界部分に相当し、本実施の形態では、分析容器10の延伸方向における中央の箇所となっている。
【0029】
筒状部20は、開口端11を含む口部21と、口部21の下端からテーパ状部30の上端まで延伸する中継部22と、を有している。口部21は、厚みKが、中継部22の壁厚Mの3倍以上5倍以下となるように形成される。より具体的に、中継部22の厚みKは、1.0mm~3.0mmの範囲にするとよく、1.5mm~2.5mmの範囲に設定するとより好適である。厚みKが短すぎると、アルミシールを貼り付けて天面21aを塞ぐ際、容器の気密性確保が不十分となる可能性があり、厚みKが厚すぎると、穴あきプレート500(図7及び図13参照)への挿入の妨げとなるためである。なお、各図では、口部21の厚みKが、中継部22の壁厚Mの約4倍となるように形成された例を示している。各図において、口部21の縁の部分には、R面取りが施されている。
【0030】
テーパ状部30は、狭窄部31と細下部32と底部33とを有している。狭窄部31は、筒状部20の下端からテーパ中央部38までを構成する。本実施の形態において、テーパ中央部38は、テーパ状部30の延伸方向における中央の箇所である。細下部32は、狭窄部31の下端から閉塞端12(底部33)の上端までを構成する。なお、テーパ状部30の壁厚Nは、中継部22の壁厚Mと概ね等しくなっている。
【0031】
底部33は、細下部32の下端から底端33bまでの部分であり、閉塞端12に相当する。より具体的に、底部33は、テーパ状部30における、内径0.4mmの位置から底端33bまでの部分である。つまり、底部33の上端の内径Dは0.4mmである。そして、分析容器10は、内底端33aから底部33の上端まで、つまり内底端33aから内径0.4mmの位置までの距離Tが0.05mm~0.15mmとなるように形成されている。
【0032】
かかる構造により、図4に例示するように、オートサンプラのサンプリングニードル200(外径約0.36mm)の先端が、分析容器10の底部33に位置する内側面10sに接する。そのため、分析容器10内のサンプル等を、サンプリングニードル200により、効率よく最後まで吸引することができる。なお、底端33bから内底端33aまでの距離である底厚Uは、中継部22の壁厚Mと概ね等しくなっている。
【0033】
サンプリングニードル200は、分析容器10内の試料を、分析容器10の底から吸引したり、他の容器等に吐出したりする際に使用する。サンプリングニードル200としては、フューズドシリカ(溶融石英)製のキャピラリーチューブ(細管)を好適に用いることができる。本実施の形態における分析容器10の形状は、サンプリングニードル200の外径に基づいて設計されている。すなわち、分析容器10の内径は、外径0.36mmのサンプリングニードル200を差し込むことのできるぎりぎりの細さから、試料を遠心して沈殿させたときに上清となる層を吸い出す際に要求されるサンプリングニードル200の位置を割り出して設定される。
【0034】
狭窄部31における内径の減少率は、10%以上35%以下である。ここで、内径の減少率とは、分析容器10の延伸方向に沿った特定の部分について、延伸方向に沿った長さに対する内径の変化量の割合のことであり、下記の式(1)で表される。つまり、狭窄部31における内径の減少率は、狭窄部31の延伸方向に沿った長さTに対する、狭窄部31の一端の内径Dと他端の内径Dとの差の割合のことである。狭窄部31の一端は、本体中央部18に相当し、狭窄部31の他端は、テーパ中央部38に相当する。
【0035】
(数1)
内径の減少率=(内径の変化量/延伸方向に沿った長さ)× 100[%] … (1)
【0036】
細下部32における内径の減少率は、5%以上20%以下である。ここで、細下部32における内径の減少率は、細下部32の延伸方向に沿った長さTに対する、細下部32の一端の内径Dと他端の内径Dとの差の割合のことである。細下部32の一端は、テーパ中央部38に相当し、細下部32の他端は、細下部32と底部33との境界部分に相当する。
【0037】
そして、狭窄部31における内径の減少率は、細下部32における内径の減少率よりも大きくなっている。したがって、テーパ状部30は、内側面10sが断面視で、直線よりも内側に湾曲している(直線よりも内側に絞られている)。
【0038】
ここで、図1図4に例示する分析容器10の構成例を用い、全長Hが15mmであり、壁厚Mが0.5mmであることを想定して、各構成部材の長さ等の具体例を示す。上記の前提によると、分析容器10の内部の深さTは約14.5mmとなり、筒状部20の長さTaは約7.25mmとなり、テーパ状部30における内底端33aから上端までの長さTbは約7.25mmとなる。口部21の長さTは約2.6mmとなり、中継部22の長さTは約4.65mmとなる。狭窄部31の長さTは約3.625mmとなり、細下部32の長さTは約3.525mmとなり、内底端33aから底部33の上端までの距離Tは約0.1mmとなっている。
【0039】
口部21の外径Dは約6.2mmとなり、口部21の上端部の内径D、つまり開口端11の内径Dは、約2.5mmとなり、口部21の厚みKは約1.85mmとなる。狭窄部31の一端の内径Dは約2.0mmとなり、他端の内径Dは約1.0mmとなる。なお、内径Dは0.4mmとされている。
【0040】
そして、式(1)によると、狭窄部31における内径の減少率は、[(D-D)/T]×100との演算により、約27.6%となり、10%以上35%以下の範囲内に収まっている。細下部32における内径の減少率は、[(D-D)/T]×100との演算により、約17%となり、5%以上20%以下の範囲内に収まっている。
【0041】
分析容器10は、ポリプロピレンを材料として形成するとよい。また、分析容器10は、表面(特に内面)に、Blockmaster PA1080コーティング(MEDICAL & BIOLOGICAL LABORATORIES CO.,LTD. JAPAN)を施してもよい。このようにすれば、分析容器10の内部への細胞の付着の他、タンパク質やペプチド、脂質、核酸などの生体分子全般の付着を抑制することができる。少数細胞の質量分析では、上記のような生体分子の量を質量分析装置で分析する。そのため、分析容器10への生体分子の付着を抑えることにより、質量分析の精度向上を図ることができる。なお、生体分子の付着を抑える機能を付加するコーティングであれば、上記以外のものを採用してもよい。
【0042】
次に、図5のフローチャートを参照して、本実施の形態に係る前処理方法、代謝物解析方法、タンパク質解析方法、及び質量分析方法の一例について説明する。ここで、前処理方法は、質量分析を基盤としたオミクス解析のための前処理に係り、細胞内に存在するタンパク質や代謝物を、質量分析装置を用いて高感度かつ網羅的に解析するためのものである。
【0043】
〔前処理方法〕
まず、標準的な細胞培養ディッシュ(φ60mm)に培養してあるサンプルを、細胞回収装置(TOPickV:ヨダカ技研株式会社製)を用いてピッキングする。ここでは、1個以上100個以下のHeLa細胞を含むサンプルを用いた(ステップS101)。次いで、ピッキングしたサンプルを分析容器10に注入する。つまり、ピッキングしたサンプルを細胞回収装置から分析容器10内に吐出させる。ここで、細胞を1個ずつ拾うときは、周りの溶液も一緒に吸い込むことになり、一般的な回収装置の場合、1個の細胞を拾うときに300nL~1000nLの溶液を一緒に吸い込むことになる。この点、本実施の形態では、上記の細胞回収装置を用いたため、1個の細胞を拾うときに吸い込む溶液の量は20nL以下となり、50個の細胞を拾っても、吸い込む溶液の量は1000nL(1μL)以下となる。したがって、分析容器10の容量が仮に10μLであったとしても、これを用いて精度のよい質量分析を行うことができる(ステップS102:サンプル注入工程)。
【0044】
次に、サンプルが注入された分析容器10に、予め設定された規定量のアルコールを注入する。本実施の形態では、アルコールとしてメタノールを用いた。規定量は、例えば4.8μLに設定され、サンプルの量に応じて、2μL以上10μL以下の範囲で適宜調整される(ステップS103:アルコール注入工程)。
【0045】
次いで、分析容器10の内容物を攪拌し、細胞中のタンパク質を変性させる。ここで、変性とは、立体構造を採っているタンパク質を一本鎖にすることである(ステップS104:攪拌工程)。続いて、分析容器10を遠心機にかけて、分析容器10の内容物を、アミノ酸やリン脂質などの代謝物が多く含まれる液層と、タンパク質が多く含まれる沈殿層とに分離する。分析容器10内において、液層は上側の層となり、沈殿層は下側の層となる。ここでは、分析容器10を、4℃の環境下で、遠心力を19,000gに設定した遠心機に20分間かけた(ステップS105:分離工程)。
【0046】
そして、分離工程において分離された液層を抽出する。すなわち、分析容器10から、液層の溶液を、メタボロミクスの試料として別の容器に回収する。液層の回収量は、サンプル及びアルコールの量によって違ってくるが、ここでは、2.5μLの液層の溶液を回収した。もっとも、分析容器10から極力多くの液層部分を抽出し、そのうちの一部をメタボロミクスの試料としてもよい(ステップS106:液層抽出工程)。
【0047】
前処理方法は、分離工程で生じた液層及び沈殿層のうちの少なくとも一方の質量分析を精度よく行うためのものである。上記の説明は、図5に付したステップ番号の順に行ったが、これに限らず、前処理の役割を果たす限度において、各工程の順序を適宜変更してもよく、一部の工程を省略してもよい。例えば、ステップS102のサンプル注入工程と、ステップS103のアルコール注入工程とは入れ替えてもよい。すなわち、分析容器10内に、事前に規定量のアルコールを注入した後で(アルコール注入工程)、1個以上100個以下の細胞を含むサンプルを注入してもよい(サンプル注入工程)。また、ステップS104の攪拌工程は省略してもよい。ただし、攪拌工程を実施すれば、分離工程の精度を高めることができる。なお、ステップS106の液層抽出工程は、前処理方法に含めなくてもよい。
【0048】
〔代謝物解析方法(代謝物解析工程)〕
液層抽出工程において抽出された液層に含まれる代謝物を、メタボロミクスによって網羅的に解析する。すなわち、分離工程で分離された液層の溶液は、そのままメタボロミクスの試料として用いることができる(ステップS201)。
【0049】
〔タンパク質解析方法(タンパク質解析工程)〕
液層抽出工程により、分離工程において分離された液層を分析容器10の外に移した後、分析容器10に残存している内容物に対し、溶媒除去処理を施す。溶媒除去処理とは、常温よりも高く設定される除去温度の環境下に、除去時間の間、分析容器10をおき、分析容器10内に残存している液層部分を除去するための処理である。除去温度は、例えば95℃に設定され、除去時間は例えば3分に設定される(ステップS301:溶媒除去工程)。
【0050】
次いで、予め設定された分解基準量の消化酵素溶液を分析容器10に注入し、沈殿層に含まれるタンパク質を分解する。消化酵素溶液は、タンパク質を断片化するためのものである。本実施の形態では、[Trypsin/Lys-C 500ng/μL (1μL) in 50mM 炭酸アンモニウム溶液(8μL)]により生成された消化酵素溶液を用いた。すなわち、ここで用いた消化酵素溶液は、消化酵素であるTrypsin=トリプシン[NH2末端からCOOH末端となっているタンパク質配列においてCOOH末端側がLys(リジン:アミノ酸の一種)の時にその場所を切断する機能を有する]が500ng/μLの濃度で存在し、そのうちの1μLを、50mMの濃度となっている炭酸アンモニウム溶液8μLに溶解させ、合計9μLにしたものである。分解基準量は、0.1μL~0.9μLに設定されるが、ここでは0.4μLとした。そして、例えば37℃に設定される分解温度の環境下に、分解時間の間、分析容器10をおき、分析容器10内のタンパク質を反応させる。分解時間は、例えば120分に設定され、比較的長時間となることから、試料の蒸発を抑制するため、天面21aにアルミシールを貼り付けるとよい(ステップS302:分解工程)。
【0051】
次に、分析前の試料調製として、分析容器10の内容物に、所定量のトリフルオロ酢酸(TFA:Trifluoroacetic Acid)溶液と、所定量のイソプロパノール(Isopropanol)(合成ペプチド混合物:内部標準物質)とを混合する。トリフルオロ酢酸溶液及びイソプロパノールは、タンパク質からペプチドへの分解等を目的として添加する試薬である。トリフルオロ酢酸溶液は、質量分析の感度を上げるためのもので、具体的には、分析容器10の内容物を酸性にすることで、クロマトカラムへの試料吸着を改善し、トリプシンを失活させる試薬である。トリフルオロ酢酸溶液としては、濃度0.37%のもの、あるいは濃度0.6%のものを好適に用いることができる。トリフルオロ酢酸溶液及びイソプロパノールの添加量は、0.1μL~0.9μLの範囲内で設定するとよい。例えば、消化酵素溶液の注入後の分析容器10の内容物が0.4μLの場合、トリフルオロ酢酸溶液とイソプロパノールとを合わせて0.2μL添加する。これにより、合計0.6μLのプロテオミクス用の試料が生成される。なお、ここで生成される混合物が0.2μL~1.0μLであれば、該試料には、タンパク質が0.25ng~12.5ng程度含まれることになる(ステップS303:試薬添加工程)。
【0052】
そして、試薬添加工程で生成された混合物に含まれるタンパク質を、プロテオミクス(proteomics)によって網羅的に解析する。ここで、プロテオミクスは、タンパク質の分離と同定に関する解析手法の他、タンパク質の構造、機能、相互作用などに関する解析手法も含む(ステップS304)。
【0053】
上記の説明では、ステップS302の分解工程にて、天面21aにアルミシールを貼り付ける例を示したが、これに限定されない。前処理方法、タンパク質解析方法、及び代謝物解析方法の各工程において、適宜、天面21aにアルミシールを貼り付け、分析容器10の内容物の蒸発抑制及び粉塵等の混入防止を図ってもよい。
【0054】
ところで、タンパク質解析方法及び代謝物解析方法において、分析容器10から抽出された各試料は、分離カラムを介して質量分析装置に運ばれる。ここで、高感度を目的とするLC/MS(液体クロマトグラフィー質量分析測定)では、分離カラムの内径が細く、導入する試料が濃縮され少量であるほど、分離カラム内での希釈が抑制されるため、高感度化につながる傾向にある。例えば、内径50μm以下の分離カラムを用いた場合に10nL~1μLのサンプルをLC/MSシステムに導入すると、分離カラム内において試料中のペプチドが吸着しながら分離濃縮していくことで、試料が希釈されずに高感度、高精度のデータ取得につながる。
【0055】
続いて、図6図13を参照し、従来の容器(以下、従来容器100ともいう。)に対する分析容器10の優位性について説明する。ここでは、従来容器100として、本発明の分野で使用されているなかで最小の容量である「384 well PCR plate(55μL)」を用い(図6(b)、図10(a)、図13参照)、分析容器10との比較対象とした。分析容器10としては、全長Hが約15mmであり、容量が35μLのものを用いた。
【0056】
図6(b)に示すように、従来容器100に10μLの溶液を注入した場合、液面Pの高さ(従来容器100を直立させたときの底から液面Pまでの距離)が3.262mmとなる。一方、図6(a)に示すように、分析容器10に10μLの溶液を注入した場合、液面Sの高さ(分析容器10を直立させたときの内底端33aから液面Sまでの距離)は8.156mmとなる。
【0057】
また、図13のように、従来容器100に対し、0.25μL、0.50μL、1.0μL、2.5μL、5.0μL、10.0μLの液量の溶液を添加した場合、液量が0.25μL及び0.50μLのときは、液面を特定することができない。液量が1.0μLのときは、液面の特定はできるものの、その高さは1mm未満となる。液量が2.5μLのときにようやく、液面高さが約1mmとなり、液量が5.0μL、10.0μLのときは、それぞれ、液面高さが約2mm、約3mmとなる。なお、従来容器100の場合、10.0μL(0.01mL)の水を入れたときの液面の面積は、概ねφ2.3mm程度となる。
【0058】
一方、図7のように、分析容器10に対し、0.25μL、0.50μL、1.0μL、2.5μL、5.0μL、10.0μLの液量の溶液を添加した場合、液量が0.25μLのときに、約1mmの液面高さを確保することができる。そして、液量が0.50μL、1.0μL、2.5μL、5.0μL、10.0μLのとき、それぞれ、液面高さが約2mm、約3mm、約5mm、約6mm、約8mmとなる。
【0059】
図8は、従来容器100と分析容器10とに、それぞれ、5μLの水を添加し、室温で保管した際の蒸発時間と残存液量との関係を例示したグラフである。図8に示すように、従来容器100の場合は、約10時間で全ての水が蒸発したのに対し、分析容器10の場合は、約21時間かけて全ての水が蒸発した。
【0060】
図9は、従来容器100と分析容器10とに、それぞれ、5μLのエタノールを添加し、室温で保管した際の蒸発時間と残存液量との関係を例示したグラフである。図9に示すように、従来容器100の場合は、約90分で全ての水が蒸発したのに対し、分析容器10の場合は、約250分かけて全ての水が蒸発した。
【0061】
ここで、図6図9、及び図13の内容について考察する。従来容器100は、図13からも分かるように、底近傍の内径が長く、つまり底近傍の断面積が大きくなっており、しかも、底部から開口部に向かって内径が徐々に大きくなっている。したがって、ある程度の量の溶液が入っている場合はもとより(図13の10.0μL等参照)、液量が少なくなっても(図13の5.0μL、2.5μL、1.0μL参照)、溶液表面の面積が大きくなっているため、その分、液体の蒸発速度が速くなる。そして、従来容器100は、底の面積が大きいことから、液量が1.0μL未満になると、溶液が底の一部に配置される状態となり、その分、外気に触れる面積が相対的に大きくなるため、蒸発速度がさらに加速する。すなわち、従来容器100のような砲弾型の容器は、注入したサンプルの蒸発を促進する構造であり、サンプルの早期乾固につながるため、少量のサンプルを用いる質量分析には適さない。
【0062】
これに対し、分析容器10は、内底端33aから内径0.4mmの位置までの距離Tが0.05mm~0.15mmとなるように形成されており(各図では距離Tが約0.1mm)、つまり底の面積が小さくなっている。そして、細下部32における内径の減少率は、5%以上20%以下となっている。したがって、極めて少量のサンプルを注入した場合でも、底の一部に配置されるような状態とならず、ある程度の液面高さを確保することができ、液面の面積を小さく留めることができる(図7の0.25μL、0.50μL、1.0μL参照)。よって、図8及び図9のように、後半の液量低下が遅くなっており、このことから、分析容器10は、微小量のサンプルを用いた質量解析にも有用であることがわかる。また、狭窄部31における内径の減少率は、10%以上35%以下となっており、液量が増えた場合にも、液面の面積がそれほど増加しない。そのため、分析容器10によれば、図8及び図9のように、従来容器100よりも液量の減少速度を小さくすることができる。したがって、複数の分析容器10を用いて順次質量分析を行うような場合でも、サンプルの乾固を抑制することができる。
【0063】
さらに、図10及び図11を用いて、分析容器10における口部21の形状の利点について説明する。図11は、従来容器100及び分析容器10に5μLの水を入れ、それぞれの天面にアルミシールを貼り付けた状態で、温度37℃の環境下、一定時間が経過するまでの蒸発量(蒸発液量)を比較したグラフである。
【0064】
従来容器100は、図6(b)、図10(a)、及び図13からもわかるように、開口部の厚みが他の部分の厚みと同程度になっており、天面にはフラットな部分が少ない。そのため、従来容器100は、天面にアルミシールを貼り付けた際の気密性に問題がある。したがって、図11に示すように、2時間が経過するまでの間に、約1.7μLの水が蒸発した。
【0065】
一方、分析容器10は、口部21の厚みKが、他の部分の厚みである壁厚Mの3倍以上5倍以下となっており、天面21aの面積を十分に確保することができる。したがって、図10(b)のようにアルミシールを貼り付けると、該アルミシールと天面21aとの間に隙間がほとんど生じない。よって、図11に示すように、従来容器100と同一の条件下であっても、2時間が経過するまでの間に1.0μL程度の水しか蒸発しなかった。
【0066】
上述したように、サンプル入りの容器に主にアルコール等の有機溶媒を入れて細胞の破壊とタンパク質の変性を行い、その後、遠心機にかけることにより液層と沈殿層とに分離することができる。そこで、分析容器10を用いた場合との解析結果の比較のため、従来容器100を用いてサンプルに対する前処理(図5のステップS101~S106参照)を行い、少数細胞に基づく内容物を液層と沈殿層とに分離した。
【0067】
前処理後、液層側のみを回収してメタボロミクスを行う際、従来容器100は、底の部分の断面積が相対的に大きいため、液層の高さが低くなる。例えば、0.01mL(10μL)の水を従来容器100に注入した場合、液面の高さは約3mmとなり(図13参照)、液層の高さはそれよりも短くなる。したがって、沈殿層の部分を回収することなく、液層の部分だけを正確に吸引するのは困難であり、このことは、メタボロミクス及びプロテオミクスの両方の解析結果に悪影響を及ぼす。
【0068】
図12は、従来容器100と分析容器10とを用いて少数細胞のプロテオミクスを行ったときの比較結果を示す棒グラフである。図12を参照して、分析容器10の下部(テーパ状部30)の細さ(内径の小ささ)に起因した利点について説明する。図12(a)には、ペプチドの検出数(同定数)の平均を示し、図12(b)には、タンパク質の検出数(同定数)の平均を示し、図12(c)には、同定されたペプチドのピーク高さの中央値の平均を示す。
【0069】
図12(a)に示すように、従来容器100では、ペプチドの同定数が平均806個であったのに対し、分析容器10では、ペプチドの同定数が平均1825個であった。しかも、従来容器100では、複数回の同定数に、28個~1933個という大きなバラつきがあったのに対し、分析容器10では、複数回の同定数が1738個~1880個という狭い範囲に収まった。つまり、分析容器10を用いた方が、ペプチドの同定数が高く、その再現性も高いため、非常に信頼性の高い解析結果が得られるといえる。
【0070】
また、図12(b)に示すように、従来容器100では、タンパク質の同定数が平均234個であったのに対し、分析容器10では、タンパク質の同定数が平均455個であった。しかも、従来容器100では、複数回の同定数に、29個~492個という大きなバラつきがあったのに対し、分析容器10では、複数回の同定数が448個~467個という狭い範囲に収まった。つまり、分析容器10を用いた方が、タンパク質の同定数が高く、その再現性も高いため、非常に信頼性の高い解析結果が得られるといえる。
【0071】
さらに、図12(c)に示すように、同定されたペプチドのピーク高さの中央値は、従来容器100を用いた場合よりも、分析容器10を用いた場合の方が、約3倍高かった。以上から、本実施の形態における分析容器10及び前処理方法が、メタボロミクス及びプロテオミクスを行う上で極めて有用であるといえる。
【0072】
以上のように、本発明に係る分析容器10は、断面視円形状の内側面10sが開口端11から閉塞端12に向けて狭くなるように形成され、1.0μLの溶液を注入したときの内部の底端部(内底端33a)から液面までの高さが2.0mm以上4.0mm以下となっている。したがって、1個又は数十個程度の細胞を含む微量なサンプルが入っている状態でも、液面が一定の高さに位置し、後の工程で液層と沈殿層とに分離させたときも、2つの層を明確に分け、液層の高さを確保することができる。したがって、液層抽出工程(S106)で液層の部分を抽出する際に、沈殿層の部分を回収してしまうことを避け、液層と沈殿層との高精度な分離が可能となる。よって、プロテオミクス及びメタボロミクスの精度向上を図ることができる。また、分析容器10は、内底端33aから3.0mmの高さにおける内径が、0.5mm以上0.8mm以下となっている。すなわち、分析容器10は、微量なサンプルが入っている状態での液面の面積を、従来容器の場合よりも小さくすることができる。よって、分析容器10を用いれば、1個~数十個程度の細胞を含む微量なサンプルを分析する場合にも、内容物の蒸発速度を低下させることができる。
【0073】
分析容器10は、全長Hが10.0mm以上20.0mm以下となり、5.0μLの溶液を注入したときの内底端33aから液面までの高さが4.0mm以上7.0mm以下となるように形成してもよい。そして、分析容器10は、内底端33aから6.0mmの高さにおける内径が0.6mm以上1.0mm以下となるように形成してもよい。さらに、分析容器10は、全長Hが12.0mm以上20.0mm以下となり、10.0μLの溶液を注入したときの内底端33aから液面までの高さが5.0mm以上10.0mm以下となるように形成してもよい。かかる構成により、分析容器10は、サンプルの量がある程度増えた場合でも、液面の高さを確保することができ、かつ断面積を従来の容器よりも小さくすることができる。
【0074】
すなわち、本実施の形態の前処理方法を用いれば、サンプルの入った容器にアルコール等を加えた後、遠心力を作用させることにより、原理的には、高分子化合物であるタンパク質を沈殿させ、低分子化合物を主とする代謝物を液層として分離させることができる。ただし、容器の内容物を分離することができたとしても、従来の断面積が広い容器を用いると、液層の高さが低くなるため、液層のみを正確に吸引することが難しくなる。例えば、従来の容量0.055mLのチューブに0.01mLの水を注入した場合、液層の高さは約3.26mmにしか到達しない。そして、液層の吸引精度の低下は、プロテオミクス及びメタボロミクスの両方に影響し、質量分析を基盤としたオミクス解析の精度が低下する。この点、分析容器10は、上記のような形状を採っているため、質量分析の精度向上を図ると共に、サンプルを含む内容物の蒸発を抑制することができる。
【0075】
また、分析容器10は、内底端33aから内径0.4mmの位置までの距離が、0.05mm~0.15mmとなるように形成されている。したがって、外径約0.36mmのサンプリングニードル200の先端が、分析容器10の底部33に位置する内側面10sに接し、該先端の下部には、ほとんど容量がない状態となる。よって、分析容器10内のサンプル等が微小量となっても、効率よく回収することができる。
【0076】
分析容器10は、狭窄部31における内径の減少率が10%以上35%以下となり、細下部32における内径の減少率が5%以上20%以下となるよう構成してもよい。つまり、テーパ状部30は、全体として細いろうと型の構造を採ってもよい。そして、狭窄部31における内径の減少率は、細下部32における内径の減少率よりも大きくなるようにしてもよい。このようにすれば、より微小なサンプルに対しては、蒸発量の抑制と液面高さの確保を図りつつ、若干サンプルの量が増え、液面高さの確保もある程度できる状態になれば、容量の確保を図ることができる。さらに分析容器10は、内底端33aから内径0.4mmの位置までの距離が0.05mm~0.15mmとなるように形成することにより、底部33の内側の狭さと、細下部32における内径の減少率の小ささとが相俟って、特に下方の細い容器として形作ることができる。
【0077】
またこれまで、1個もしくは数十個程度の細胞と、細胞溶液と、少数細胞分泌物とを含むサンプルからプロテオミクスの情報とメタボロミクスの情報とを同時かつ定量的に取得するための方法論はなかった。この点、前処理方法は、サンプル注入工程と、アルコール注入工程と、分離工程と、を有している。そのため、分析容器10に注入されたサンプルから、主に代謝物を含むメタボロミクス用の試料と、主にタンパク質を含むプロテオミクス用の試料とを精度よく生成することができる。より具体的に、前処理方法によれば、1個~数十個程度の少数細胞を含むサンプルを、アルコール等の有機溶媒と共に容器に添加し、細胞の破裂とタンパク質の変性を行い、その後遠心することで、主に高分子量のタンパク質を沈殿させ、主に低分子量の代謝物を含む溶液を上層として分離することができる。すなわち、本前処理方法を実施することで、1細胞あるいは数十個程度の細胞を含む微量試料から、総タンパク質と総代謝物を再現性よく分画することができる。そして、同じタイミングで分画した2つの微量サンプルのそれぞれに、本実施の形態におけるタンパク質解析方法と代謝物解析方法とを適用すれば、プロテオミクスの情報とメタボロミクスの情報とを比較することができ、これらの相関性を見出すことが可能となる。
【0078】
本実施の形態におけるタンパク質解析方法は、上記の前処理方法を経て、分離工程において分離された液層を分析容器10の外部へ移した後に実行する。そして、タンパク質解析方法は、分解基準量の消化酵素溶液を分析容器10に注入して、沈殿層に含まれるタンパク質を分解した後、分析容器10の内容物に、所定量のトリフルオロ酢酸溶液及びイソプロパノールを混合して、その混合物に含まれるタンパク質をプロテオミクスによって解析する、という手法を採っている。ここで、タンパク質解析方法を実施する際、タンパク質をペプチド断片化するための酵素消化を行う工程がある(ステップS302の分解工程に相当)。この工程に際し、タンパク質沈殿が含まれている溶液の量が増えると、酵素量も増やす必要があり、その分バックグラウンドが上がると共に、酵素消化の効率も悪くなり、同定数(タンパク質の検出数)も減ってしまう。加えて、酵素消化反応速度は、基質濃度に依存することもあり、添加する消化酵素溶液の量は、より少ない方が好ましい。しかしながら、従来から広く用いられている中で最小と考えられる容量0.055mLのPCR容器(384 well PCR plate)であっても、容器底部分の面積が大きいため、消化酵素溶液の量が0.5μL以下になると、容器底部分を満たすことができず、タンパク質を完全に溶解することができなくなる(図13参照)。
【0079】
この点、分析容器10は、上記のとおり底部33の内側が狭くなっており、そこから上方に向けての傾斜も緩やかで、内部が全体として細く形成されている。よって、微小量のサンプルであっても、液面が一定の高さの位置まで到達するため、液層と沈殿層との分離が容易であり、その分、液層回収後の内容物の量を減らすことができる。したがって、消化酵素溶液の量を減らすことができ、酵素消化の効率を高めると共に、同定数を上昇させることが可能となる。さらに、酵素消化液量を減らすことで、基質と酵素の比率を維持したまま、酵素量を低減することが可能となり、酵素の自己消化によって生じたペプチドによるサプレッションの影響を低下させることができる。すなわち、本実施の形態における各手法を用いることで、サンプル等の蒸発を抑制し、液層と沈殿層のうち液層のみの回収率および沈殿層の沈殿効率の向上を図ることができ、酵素消化試薬を減らし、酵素消化効率を高めることが可能となる。
【0080】
上述した実施の形態は、分析容器、前処理方法、代謝物解析方法、タンパク質解析方法、及び質量分析方法における具体例であり、本発明の技術的範囲は、これらの態様に限定されるものではない。例えば、上記実施の形態では、分析容器10がポリプロピレン製である例を示したが、これに限らず、分析容器10は、ポリスチレンなどの他の樹脂を材料として形成してもよい。上記の各図では、本体中央部18が分析容器10の延伸方向における中央の箇所となる例を示したが、これに限らず、本体中央部18の上下の位置は、分析容器10の用途などに応じて適宜変更してもよい。同様に各図では、テーパ中央部38がテーパ状部30の延伸方向における中央の箇所である例を示したが、これに限らず、テーパ中央部38の上下の位置は、分析容器10の用途などに応じて適宜変更してもよい。
【符号の説明】
【0081】
10 分析容器、10s 内側面、11 開口端、12 閉塞端、18 本体中央部、20 筒状部、21 口部、21a 天面、22 中継部、30 テーパ状部、31 狭窄部、32 細下部、33 底部、33a 内底端、33b 底端、38 テーパ中央部、100 従来容器、200 サンプリングニードル、500 穴あきプレート、D~D 内径、D 外径、H 全長、K 厚み、M、N 壁厚、U 底厚。

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