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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024037145
(43)【公開日】2024-03-18
(54)【発明の名称】痛み提示シート、及び、痛み提示方法
(51)【国際特許分類】
   A61F 13/02 20240101AFI20240311BHJP
【FI】
A61F13/02 D
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023134539
(22)【出願日】2023-08-22
(31)【優先権主張番号】P 2022141164
(32)【優先日】2022-09-06
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り (証明書1) 公開日 令和3年9月10日 第26回日本バーチャルリアリティ学会大会Web予稿集 (証明書2) 公開日 令和5年6月28日 ロボティクス・メカトロニクス講演会2023 in Nagoya Web予稿集
(71)【出願人】
【識別番号】504133110
【氏名又は名称】国立大学法人電気通信大学
(74)【代理人】
【識別番号】110000925
【氏名又は名称】弁理士法人信友国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】浜崎 拓海
(72)【発明者】
【氏名】金田 実久
(72)【発明者】
【氏名】張 建堯
(72)【発明者】
【氏名】金子 征太郎
(72)【発明者】
【氏名】梶本 裕之
(57)【要約】
【課題】簡便な手法によりサーマルグリル錯覚を提示可能な、痛み提示シートを提供する。
【解決手段】基材と、基材上に設けられた温感提示物質を含む温感提示領域と、基材上において、温感提示領域に隣接して設けられた冷感提示物質を含む冷感提示領域とを備える痛み提示シートを構成する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材と、
前記基材上に設けられた温感提示物質を含む温感提示領域と、
前記基材上において、前記温感提示領域に隣接して設けられた冷感提示物質を含む冷感提示領域と、を備える
痛み提示シート。
【請求項2】
前記温感提示領域は、前記温感提示物質としてカプサイシンを含む
請求項1に記載の痛み提示シート。
【請求項3】
前記冷感提示領域は、前記冷感提示物質としてメントールを含む
請求項1に記載の痛み提示シート。
【請求項4】
前記基材の前記温感提示領域、及び、前記冷感提示領域が設けられた第1面側に対して、反対側の面である第2面側から視認可能な、前記温感提示領域、又は、前記冷感提示領域が形成されている方向を示す貼付け方向マークを有する
請求項1に記載の痛み提示シート。
【請求項5】
前記温感提示領域と、前記冷感提示領域とが、一方向でのみ隣接する
請求項1に記載の痛み提示シート。
【請求項6】
皮膚の隣接する領域に、温感提示物質を含む温感提示領域と、冷感提示物質を含む冷感提示領域とを、接触させる
痛み提示方法。
【請求項7】
前記温感提示物質としてカプサイシンを含む前記温感提示領域を接触させる
請求項6に記載の痛み提示方法。
【請求項8】
前記冷感提示物質としてメントールを含む前記冷感提示領域を接触させる
請求項6に記載の痛み提示方法。
【請求項9】
前記温感提示領域を前記冷感提示領域よりも体中心側に接触させる
請求項6に記載の痛み提示方法。
【請求項10】
前記温感提示領域を接触させた後に、前記冷感提示領域を接触させるz
請求項6に記載の痛み提示方法。
【請求項11】
前記温感提示領域を接触させた4分以上後に、前記冷感提示領域を接触させる
請求項10に記載の痛み提示方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、サーマルグリル錯覚による痛み提示シート、及び、痛み提示方法に係わる。
【背景技術】
【0002】
相対的な温度差を利用した知覚現象として、サーマルグリル錯覚(thermal grill illusion)が知られている。この現象は、温刺激と冷刺激を皮膚上の近傍へ同時に提示した際に痛覚や灼熱感を生じるというものであり、皮膚に損傷を与えない刺激温度であっても痛覚の生起が可能である。
例えば、相対的な温度差を有する2枚の肌接触面を肌に接触させ、サーマルグリル錯覚を引き起こす装置が提案されている(例えば、特許文献1参照)。この装置は、ローラー部の湾曲面に相対的な温度差を有する2枚の肌接触面を円周方向に配置した構造を有する。ローラー部の内部には、吸熱部及び放熱部としてそれぞれ機能するペルチェ素子が備えられる。そして、ペルチェ素子による吸熱及び放熱の効果が肌接触面に伝導し、2つの肌接触面に相対的な温度差を生じさせることにより、サーマルグリル錯覚の知覚現象を生じさせる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2014-17395号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上述の装置では、温刺激及び冷刺激を与えるためのペルチェ素子や、ペルチェ素子を駆動するための電源回路や制御装置等を設ける必要があり、エネルギー消費も大きい。
そこで、ペルチェ素子等の温熱源や冷熱源、及び、電源等を必要とせず、簡便な方法でサーマルグリル錯覚を提起できる手法が求められている。
【0005】
上述した問題の解決のため、本発明においては、より簡便な手法によりサーマルグリル錯覚を提示可能な、痛み提示シート、及び、痛み提示方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の痛み提示シートは、基材と、基材上に設けられた温感提示物質を含む温感提示領域と、基材上において、温感提示領域に隣接して設けられた冷感提示物質を含む冷感提示領域とを備える。
【0007】
また、本発明の痛み提示方法は、皮膚の隣接する領域に、温感提示物質を含む温感提示領域と、冷感提示物質を含む冷感提示領域とを接触させる。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、サーマルグリル錯覚を提示可能な痛み提示シート、及び、痛み提示方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】痛み提示シートの構成(第1面)を示す平面図である。
図2】痛み提示シートの構成を示す断面図である。
図3】痛み提示シートの構成(第2面)を示す平面図である。
図4】対象者の前腕に痛み提示シートを貼り付けた例を示す図である。
図5】痛み提示シートにおける、貼付け方向マークと温感提示領域及び冷感提示領域の位置関係の例を示す図である。
図6】痛み提示シートにおける、貼付け方向マークと温感提示領域及び冷感提示領域の位置関係の例を示す図である。
図7】痛み提示シートにおける、貼付け方向マークと温感提示領域及び冷感提示領域の位置関係の例を示す図である。
図8】痛み提示シートにおける、貼付け方向マークと温感提示領域及び冷感提示領域の位置関係の例を示す図である。
図9】痛み提示シートにおける、貼付け方向マークと温感提示領域及び冷感提示領域の位置関係の例を示す図である。
図10】実験例1において、対象者の前腕に温感提示物質、冷感提示物質を含むシート(a)~(d)を貼付けた例である。
図11】実験例1におけるリッカートスケールによる回答(1)温度感、及び、(2)痛みの結果を示すグラフである。
図12】実験例1におけるリッカートスケールによる回答(1)温度感、及び、(2)痛みの結果を示すグラフである。
図13】実験例1におけるリッカートスケールによる回答(1)温度感、及び、(2)痛みの結果を示すグラフである。
図14】実験例1におけるリッカートスケールによる回答(1)温度感、及び、(2)痛みの結果を示すグラフである。
図15】実験例1における(3)質的な主観評価による結果を示す図である。
図16】実験例1における(3)質的な主観評価による結果を示す図である。
図17】実験例2における温感提示領域と冷感提示領域とを、皮膚に接触させるタイミングを示す図である。
図18】実験例2におけるリッカートスケールによる回答(1)温度感、及び、(2)痛みの結果を示すグラフである。
図19】実験例2における(3)質的な主観評価による結果を示す図である。
図20】実験例2におけるリッカートスケールによる回答(1)温度感、及び、(2)痛みの結果を示すグラフである。
図21】実験例2における(3)質的な主観評価による結果を示す図である。
図22】実験例2におけるリッカートスケールによる回答(1)温度感、及び、(2)痛みの結果を示すグラフである。
図23】実験例2における(3)質的な主観評価による結果を示す図である。
図24】実験例3におけるリッカートスケールによる回答(1)温度感、及び、(2)痛みの結果を示すグラフである。
図25】実験例3における(3)質的な主観評価による結果を示す図である。
図26】実験例3におけるリッカートスケールによる回答(1)温度感、及び、(2)痛みの結果を示すグラフである。
図27】実験例3における(3)質的な主観評価による結果を示す図である。
図28】実験例3におけるリッカートスケールによる回答(1)温度感、及び、(2)痛みの結果を示すグラフである。
図29】実験例3における(3)質的な主観評価による結果を示す図である。
図30】実験例3におけるリッカートスケールによる回答(1)温度感、及び、(2)痛みの結果を示すグラフである。
図31】実験例3における(3)質的な主観評価による結果を示す図である。
図32】実験例3におけるリッカートスケールによる回答(1)温度感、及び、(2)痛みの結果を示すグラフである。
図33】実験例3における(3)質的な主観評価による結果を示す図である。
図34】実験例3におけるリッカートスケールによる回答(1)温度感、及び、(2)痛みの結果を示すグラフである。
図35】実験例3における(3)質的な主観評価による結果を示す図である。
図36】実験例4において、対象者の前腕に痒み誘発物質を貼付けた例である。
図37】実験例4において、対象者の前腕に痛み提示シートを貼付けた例である。
図38】実験例4における被験者の痒み評価を示す図である。
図39】実験例4における被験者の痒み評価を示す図である。
図40】痛み提示シートにおける、貼付け方向マークと温感提示領域及び冷感提示領域の位置関係の例を示す図である。
図41】痛み提示シートにおける、貼付け方向マークと温感提示領域及び冷感提示領域の位置関係の例を示す図である。
図42】追加実施例1-図5 リッカートスケールによる回答(1)温度感、及び、(2)痛みの結果を示すグラフである。
図43】追加実施例2-図1 リッカートスケールによる回答(1)温度感、及び、(2)痛みの結果を示すグラフである。
図44】追加実施例3-図40 リッカートスケールによる回答(1)温度感、及び、(2)痛みの結果を示すグラフである。
図45】追加実施例4-図41 リッカートスケールによる回答(1)温度感、及び、(2)痛みの結果を示すグラフである。
図46】追加実施例-1~4の30分後の結果
図47】追加実施例1-図5 (3)質的な主観評価による結果を示す図である。
図48】追加実施例2-図1 (3)質的な主観評価による結果を示す図である。
図49】追加実施例3-図40 (3)質的な主観評価による結果を示す図である。
図50】追加実施例4-図41 (3)質的な主観評価による結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、痛み提示シート、及び、痛み提示方法の一実施形態を説明するが、本発明は以下の形態に限定されるものではない。
〈痛み提示シート、及び、痛み提示方法〉
本実施形態の痛み提示シートの構成を図1図3に示す。図1は、痛み提示シートの一方の面(第1面)の平面図である。図2は、図1に示す痛み提示シートのA-A線断面図である。図3は、痛み提示シートの他方の面(第2面)の平面図である。
【0011】
図1図3に示すように、痛み提示シート10は、シート状の基材11、温感提示領域12、冷感提示領域13、貼付け方向マーク14、及び、粘着層15を有する。なお、痛み提示シート10は、図示しない他の構成を備えていてもよい。
痛み提示シート10は、人等の対象者の皮膚に貼ることで、温感提示領域12で化学物質による温刺激と、冷感提示領域13で化学物質による冷刺激とを、皮膚上において近距離で同時に提示する。これにより、痛み提示シート10は、皮膚温度を変化させない温度提示でサーマルグリル錯覚(thermal grill illusion:TGI)による痛覚や灼熱感を、貼り付けた対象者に生じさせることができる。
【0012】
[基材]
痛み提示シート10には、基材11上に、温感提示領域12、冷感提示領域13、貼付け方向マーク14、及び、粘着層15が形成される。例えば、痛み提示シート10は、基材11の一方の面(第1面)に温感提示領域12、冷感提示領域13、及び、粘着層15が形成され、他方の面(第2面)に貼付け方向マーク14が形成される。
【0013】
基材11は、皮膚貼付時に違和感が少ないことから伸縮性を有することが好ましい。また、伸縮性を有するほうが皮膚に追従しやすく痛み提示シート10が剥がれにくい。また、痛み提示シート10による蒸れを予防するため、基材11は透湿性に優れていることが好ましい。
【0014】
基材11を構成する材料としては、フィルム、不織布、綿布、編布、不織布とフィルムのラミネート複合体等の伸縮性を有する基材が挙げられる。これらの基材11としては、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリスチレン、ポリアミド、ポリオレフィン、ナイロン、コットン、パルプ、アセテートレーヨン、レーヨン、レーヨン/ポリエチレンテレフタレート複合体、ポリアクリロニトリル、ポリビニルアルコール、アクリル系ポリウレタン、エステル系ポリウレタン、エーテル系ポリウレタン、スチレン-イソプレン-スチレン共重合体、スチレン-ブタジエン-スチレン共重合体、スチレン-エチレン-プロピレン-スチレン共重合体、エチレン-酢酸ビニル共重合体等が挙げられる。基材11は、一軸延伸、二軸延伸、無延伸の何れの方法で製造されたものでもよい。また、基材11は、一層だけでなく、異種又は同種の層を複数重ねた多層構造でもよい。
【0015】
基材11の厚みは特に限定されないが、伸縮性及び透湿性を得やすいことから、1000μm以下が好ましく、500μm以下がより好ましく、300μm以下がさらに好ましい。一方、強度が得やすいことから、基材11の厚みは15μm以上が好ましく、20μm以上がより好ましく、30μm以上がさらに好ましい。
【0016】
[温感提示領域・冷感提示領域]
図1及び図2に示すように、温感提示領域12と冷感提示領域13とは、基材11の一方の面(第1面)において隣接して設けられている。温感提示領域12と冷感提示領域13とは、基材11上において、互いに隣接するように少なくとも1つ以上設けられていればよく、温感提示領域12と冷感提示領域13とがそれぞれ隣接するように複数設けられていてもよい。
【0017】
温感提示領域12と冷感提示領域13とは、互いの領域が接していてもよく、また、サーマルグリル錯覚を発生可能な範囲で、互いの領域が離れていてもよい。温感提示領域12と冷感提示領域13とは、サーマルグリル錯覚を良好に発生させるために、互いの領域が接していることが好ましい。また、温感提示領域12と冷感提示領域13との領域が離れている場合には、サーマルグリル錯覚を良好に発生させるために、例えば、5mm以下の間隔で配置することが好ましい。
【0018】
また、温感提示領域12と冷感提示領域13とは、図1に示すように、少なくとも一方向側において互いに隣接していればよく、複数方向において隣接する配置でもよい。温感提示領域12と冷感提示領域13とが複数設けられている場合にも、温感提示領域12と冷感提示領域13とが少なくとも一方向側において互いに隣接していればよく、複数方向において複数の領域と互いに隣接する配置でもよい。
【0019】
温感提示領域12と冷感提示領域13の形成面積は、特に限定されない。サーマルグリル錯覚を生起可能な範囲以上であれば、サーマルグリル錯覚を生じさせる対象領域の大きさ等を考慮して温感提示領域12及び冷感提示領域13を形成すればよい。例えば、温感提示領域12及び冷感提示領域13は、共に3cm以上であれば、サーマルグリル錯覚を生起可能である。サーマルグリル錯覚を良好に生起させるために、好ましくは、共に4.5cm以上であることが好ましい。
また、温感提示領域12と冷感提示領域13とは、面積が同じであっても、異なっていてもよい。温感提示領域12と冷感提示領域13に含まれる温感又は冷感提示物質の濃度等を考慮し、サーマルグリル錯覚の生起に好適な面積で形成すればよい。
【0020】
また、温感提示領域12及び冷感提示領域13は、基材11上において形成される形状も限定されない。図では温感提示領域12及び冷感提示領域13として、矩形状の例を示しているが、サーマルグリル錯覚を生じるように隣接して設けることができれば、その他の形状であってもよい。
【0021】
温感提示領域12は、対象者の皮膚に温刺激を与えるための温感提示物質を含む。温感提示物質は、温刺激を与えられれば特に限定されず、例えば、カプサイシン、ピペリン、レシニフィラトキシン、ショウガオール等を用いることができる。
これらの温感提示物質は、必要に応じて溶媒等を用いて濃度を調整して用いることができる。溶媒としては、温感提示物質を溶解できれば特に限定されず、例えば、水、エタノール等を用いることができる。
温感提示物質としてカプサイシンを用いる場合には、溶媒としてエタノール70wt%水溶液を用いて、カプサイシンを1~5wt%程度に調整して用いることが好ましい。
また、温感提示領域12は、上記温感提示物質、溶媒以外にも、その他の添加物等を含んでもよい。
【0022】
冷感提示領域13は、対象者の皮膚に冷刺激を与えるための冷感提示物質を含む。冷感提示物質は、冷刺激を与えられれば特に限定されず、例えば、メントール、オイゲノール,シネオール(ユーカリプトール)等を用いることができる。
これらの冷感提示物質は、必要に応じて溶媒等を用いて濃度を調整して用いることができる。溶媒としては、冷感提示物質を溶解できれば特に限定されず、例えば、水、エタノール等を用いることができる。
冷感提示物質としてメントールを用いる場合には、メントール10~30wt%程度の水溶液を用いることが好ましい。
また、冷感提示領域13は、上記冷感提示物質、溶媒以外にも、その他の添加物等を含んでもよい。
【0023】
温感提示領域12及び冷感提示領域13を基材11上に形成する方法としては、例えば、基材11上に温感提示物質、又は、冷感提示物質を保持するための支持体に含有させる方法、及び、基材11上に直接温感提示物質、又は、冷感提示物質を含む層をゲル化剤や増粘剤等を用いて形成する方法が挙げられる。
支持体としては、例えば、ガーゼやネット、不織布、軟質発泡体等の多孔質体等が挙げられ、ガーゼ、脱脂綿等が好ましい。
【0024】
[粘着層]
粘着層15は、痛み提示シート10を皮膚等に貼着するための粘着性を有する。
粘着層15は、基材11の一方の面(第1面)に設けられる。粘着層15は、基材11の第1面の全面に設けられていてもよく、また、温感提示領域12と冷感提示領域13との形成領域を除く領域に形成されていてもよい。温感提示領域12と冷感提示領域13とが温感提示物質や冷感提示物質を保持するための支持体を有する場合には、基材11の第1面の全面に設けられていていることが好ましい。
【0025】
粘着層15を構成する粘着剤としては、ゴム系粘着剤、アクリル系粘着剤、シリコン系粘着剤、ハイドロコロイド等が挙げられる。基材11と粘着剤、及び皮膚と粘着剤との密着性、粘着力を考慮して、粘着剤にイソシアネート系架橋剤、金属キレート系架橋剤、タッキファイヤー等を適宜添加してもよい。粘着剤成分の分子量を高く設定し、粘着剤の皮膚への浸透を抑制することが好ましい。
【0026】
粘着剤を用いた粘着層15の厚みは特に限定されない。透湿性を得るためには、100μm以下が好ましく、70μm以下がより好ましい。一方、必要な接着力を得るために、粘着層15の厚みは10μm以上が好ましく、20μm以上がより好ましい。また、上記粘着層15は、発泡糊を塗工して形成してもよく、塗工方法は、例えば点状、ストライプ状等の規則的なあるいはランダムなパターンに形成されていてもよい。
【0027】
[剥離剤]
痛み提示シート10は、温感提示領域12、冷感提示領域13、粘着層15を保護するために図示しない剥離材層を備えていてもよい。剥離材層は、基材11の第1面側において、温感提示領域12、冷感提示領域13、粘着層15の全体を覆い、粘着層15の粘着力によって保持され、且つ、使用時に容易に剥離可能に構成される。剥離材層には、絆創膏等に使用されている公知の剥離材を使用できる。剥離材としては、紙、プラスチックフィルム等が挙げられる。剥離材層は、使用時に剥離材層の剥離が容易となるように、スリットを有していてもよい。
【0028】
[貼付け方向マーク]
痛み提示シート10は、後述の実施例に記載のように、対象者の皮膚に貼り付ける際の温感提示領域12及び冷感提示領域13の配置により、サーマルグリル錯覚の発現の強さが異なる。痛み提示シート10は、好ましくは、温感提示領域12が、冷感提示領域13よりも感覚神経の伝達経路に沿って、脊髄又は脳に近い位置、即ち体中心側に貼り付けられることが好ましい。
このため、図3に示すように、基材11の第2面側において、痛み提示シート10を貼り付ける対象者から視認可能な位置に、痛み提示シート10の貼り付け方向を示す貼付け方向マーク14を形成することが好ましい。
【0029】
貼付け方向マーク14の形状は、特に限定されない。図3に示す痛み提示シート10の例では、温感提示領域12が形成されている側に貼付け方向マーク14が設けられている。貼付け方向マーク14の形状は、貼付けの際に確認できればよく、図に示す矩形状以外にも、文字、矢印や円形、その他の形状の記号、シンボルマーク、イラスト等であってもよい。
【0030】
また、痛み提示シート10において貼付け方向マーク14を形成する位置や、貼付け方向マーク14の形成個数も、貼付け対象者が貼付け方向を認識できれば、特に限定されない。貼付け方向マーク14の貼付け例を図4に示す。図4は、対象者の前腕100に痛み提示シート10を貼り付けた例である。図4において、前腕100は、図中上側が肘側であり、図中下側が手首側である。図1~3に示す痛み提示シート10では、図4に示すように、対象者の前腕100に対し、温感提示領域12が形成されている側である貼付け方向マーク14を体中心側(肘側)に向けて貼り付けることが好ましい。
【0031】
また、痛み提示シート10に貼付け方向マーク14と対象者での貼付け方向との関係を記載した説明書きを添付することにより、痛み提示シート10における貼付け方向マーク14の形成位置を自由に変更できる。例えば、痛み提示シート10の体中心側から遠い位置側に貼付け方向マーク14を形成してもよい。
さらに、貼付け方向マーク14として、矢印や文字、イラスト等で直接方向を示すことが可能な構成を用いる場合には、痛み提示シート10の中央に貼付け方向マーク14を形成することもできる。
【0032】
また、貼り付け方向マーク14の形成位置は、痛み提示シート10の基材11の第2面側でなくてもよい。対象者への貼付けの際に、基材11の第2面側から視認可能なように形成されていれば、基材11の第1面側や、基材11の側面を含む領域に貼付け方向マーク14を形成してもよい。
【0033】
(貼付け方向マークと温感提示領域及び冷感提示領域との関係)
痛み提示シート10における、貼付け方向マーク14と温感提示領域12及び冷感提示領域13の位置関係の例を図5~9、図40、および、図41に示す。
図5に示す痛み提示シート20には、貼付け方向マーク14側(近方)に冷感提示領域13が配置され、遠方に温感提示領域12が配置されている。この場合には、貼付する説明書きに、貼り付け方向マーク14が体中心側から遠い位置側になるように対象者に貼り付けることを記載しておく。
図6に示す痛み提示シート30は、貼付け方向マーク14側(第2面側)から見て右側に冷感提示領域13が配置され、左側に温感提示領域12が配置されている。
図7に示す痛み提示シート40は、貼付け方向マーク14側(第2面側)から見て右側に温感提示領域12が配置され、左側に冷感提示領域13が配置されている。
図8に示す痛み提示シート50は、冷感提示領域13を中心として、冷感提示領域13の四方を温感提示領域12が囲むように配置されている。この痛み提示シート50は、貼付け方向マーク14の最も近い側に温感提示領域12が形成されている。また、痛み提示シート50は、温感提示領域12と冷感提示領域13とが複数方向で隣接する構成の例である。
図9に示す痛み提示シート60は、温感提示領域12を中心として、温感提示領域12の四方を冷感提示領域13が囲むように配置されている。貼付け方向マーク14の最も近い側には冷感提示領域13が配置されている。また、痛み提示シート60は、温感提示領域12と冷感提示領域13とが複数方向で隣接する構成の例である。
【0034】
(温感提示領域及び冷感提示領域の変形例)
痛み提示シートは、温感提示領域12と冷感提示領域13とを、それぞれ複数を有していてもよい。温感提示領域12と冷感提示領域13とを複数有する痛み提示シートの例を、図40及び図41に示す。図40及び図41では、温感提示領域12と冷感提示領域13とそれぞれ2領域有する痛み提示シートの例を示す。なお、痛み提示シートは、温感提示領域12と冷感提示領域13とを3領域以上有してもよく、温感提示領域12と冷感提示領域13との領域数が同じでなくてもよい。
【0035】
図40及び図41に示す痛み提示シート120,130は、温感提示領域12と冷感提示領域13とが格子状に配置された例である。痛み提示シート120,130は、温感提示領域12と冷感提示領域13とが、貼付け方向マーク14から見て近方及び遠方の2行と、右側及び左側の2列とによる2×2の格子状に配列されている。
【0036】
図40に示す痛み提示シート120は、貼付け方向マーク14側(近方)では、貼付け方向マーク14側(第2面側)から見て右側に温感提示領域12が配置され、左側に冷感提示領域13が配置されている。また、貼付け方向マーク14と逆側(遠方)では、貼付け方向マーク14側(第2面側)から見て右側に冷感提示領域13が配置され、左側に温感提示領域12が配置されている。
【0037】
図41に示す痛み提示シート130は、貼付け方向マーク14側(近方)では、貼付け方向マーク14側(第2面側)から見て右側に冷感提示領域13が配置され、左側に温感提示領域12が配置されている。また、貼付け方向マーク14と逆側(遠方)では、貼付け方向マーク14側(第2面側)から見て右側に温感提示領域12が配置され、左側に冷感提示領域13が配置されている。
【0038】
[痛み提示方法]
本技術による対象者の皮膚上の近距離で、温感提示領域における化学物質による温刺激と、冷感提示領域で化学物質による冷刺激とにより、サーマルグリル錯覚を発現する方法は、上述の構成の痛み提示シート10を対象者に貼る方法に限定されない。本技術の痛み提示方法は、例えば、痛み提示シート10を用いずに、温感提示物質を含む温感提示領域と、冷感提示物質を含む冷感提示領域とを、それぞれ別に対象者の皮膚に接触させてサーマルグリル錯覚を発現してもよい。例えば、温感提示物質を含む支持体と、冷感提示物質を含む支持体とを準備し、それぞれを対象者の皮膚上に隣接して接触させる方法が挙げられる。また、温感提示物質を含む溶液と、冷感提示物質を含む溶液とを準備し、それぞれを対象者の皮膚上に直接塗布する方法でもよい。
【0039】
また、温感提示物質と冷感提示物質と別々に対象者の皮膚に接触させる際に、時間差を設けてもよい。
本技術の化学物質を用いた痛み提示では、温感提示物質や冷感提示物質の濃度や貼り付け位置等に応じて、各物質の肌への接触から対象者が温刺激や冷刺激を感じるまでの時間に差が発生する。後述の実施例に記載のように、温感提示物質による温刺激の方が冷感提示物質による冷刺激よりも、肌に接触させてから対象者が知覚するまでの時間が遅れやすい。特に、温感提示物質としてカプサイシン、冷感提示物質としてメントールを用いた場合には、温刺激の知覚が冷刺激の知覚よりも数分間隔で遅れる。このため、温感提示物質を皮膚に接触させた後に、冷感提示物質を皮膚に接触させることで、サーマルグリル錯覚を発現しやすい。
【実施例0040】
以下、実施例を挙げて本発明についてより詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されない。
〈実験例1〉
[化学物質同士によるサーマルグリル錯覚発現の比較試験]
(試験条件)
化学物質による温感提示、冷感提示のみでサーマルグリル錯覚による痛覚の生起が可能かどうかを検証した。
図10に示すように、対象者の左腕の前腕100の後面側に、下記の条件(a)~(d)として、温感提示物質、冷感提示物質を含むシート70,80,90、及び、痛み提示シート20を貼付けた。
・条件(a)メントール溶液単体による冷感提示領域13のみから構成されたシート70
・条件(b)カプサイシン溶液単体による温感提示領域12のみから構成されたシート80
・条件(c)メントールとカプサイシンとの混合溶液による温度提示領域16のみから構成されたシート90
・条件(d)カプサイシン溶液単体による温感提示領域12と、メントール溶液単体による冷感提示領域13とを隣接して配置した構成のシート(図5に示す痛み提示シート20と同様の構成)
【0041】
メントール溶液は、ハッカ油(健栄製薬、メントール濃度30wt%)を使用した。また、カプサイシン溶液は、エタノール70%精製水に溶解した5%濃度のカプサイシン水溶液を使用した。メントールとカプサイシンとの混合溶液は、上記メントール溶液とカプサイシン溶液とを同体積で混合して作製した。
これらの溶液を図10に示すように、3cm四方のガーゼに染みこませて皮膚に塗布し、その上から5cm四方の粘着包帯を被せることで条件(a)~(d)として痛み提示シート20、及び、シート70,80,90を作製した。
【0042】
試験は、男性9名、女性1名(21歳から歳から28歳)の10名を被験者として行った。試験は2日に分けて行い、1日2条件の測定を行った。1日目は、条件(a)と条件(b)との2条件による試験を行い、2日目は、条件(c)と条件(d)との2条件による試験を行った。
被験者は、左腕の前腕100へ形成した各条件(a)~(d)を30分間保持し、1分毎に下記(1)~(3)による3つの回答を行った。回答は、下記のリッカートスケールによる(1)温度感の回答、及び(2)痛みの回答と、(3)質的な主観評価による回答からの選択とした。
(1)温度感:4から-4の9段階リッカートスケール[4:“とても熱い、-4:“とても冷たい”]
(2)痛み:0から4の5段階リッカートスケール[4:“とても痛い、0:“感じない]
(3)質的な主観評価:質的な主観評価では、10個の感覚項目を用意し回答時には複数回答可とした。項目は[“感覚なし”、“冷たい”、“ひんやりする”、“熱い”、“温かい”、“灼熱感がある”、“凍結感がある”、“気持ちが良い”、“奇妙な”、“痛い”]である。
【0043】
(試験結果)
リッカートスケールによる回答(1)温度感、及び、(2)痛みの結果を、図11図14のグラフに示す。図11図14のグラフでは、縦軸が評価を-4から4で示し、横軸がシート形成からの経過時間である。このため、(2)痛みの評価では、グラフの上半分(0から4)までの領域で評価を記載した。また、図11図14のグラフでは、(1)温度感の評価の上限値と下限値を破線(細)で示し、平均値を実線(太)で示している。また、(2)痛みの評価の上限値と下限値を一点鎖線(細)で示し、平均値を一点鎖線(太)で示している。
【0044】
図11は、条件(a)の結果である。メントール溶液のみを肌に接触させた場合には、(2)痛みの評価が常に小さい値であり、変化量も小さいものとなった。一方、(1)温度感の評価では、単調に減少した。すなわち、メントール溶液単体では、冷刺激が可能であり、痛みの提示が小さい結果が得られた。
【0045】
図12は、条件(b)の結果である。カプサイシン溶液のみを肌に接触させた場合には、(1)温度感及び(2)痛みの評価が、ともに単調に増加した。このため、カプサイシン溶液単体では、温刺激と共に痛みの提示が可能であった。また、カプサイシン溶液単体では、温度感よりも痛みが強く表れた。
【0046】
図13は、条件(c)の結果である。メントール溶液とカプサイシン溶液との混合溶液を接触させた場合には、メントール溶液のみを肌に接触させた場合と類似する結果が得られた。すなわち、(2)痛みの評価が常に小さく変化量も小さいものとなり、(1)温度感の評価が単調に減少した。この結果、メントール溶液とカプサイシン溶液とを用いたにもかかわらず、混合溶液では、痛みを大きく生成することができなかった。
【0047】
図14は、条件(d)の結果である。カプサイシン溶液による温感提示領域12とメントール溶液による冷感提示領域13とを隣接して配置した場合、カプサイシン溶液のみを肌に接触させた場合と類似する結果が得られた。すなわち、(1)温度感及び(2)痛みの評価が、ともに増加した。
【0048】
また、条件(d)と条件(b)とでグラフの形状は似ているものの、時間変化による評価の変化では差異が見られた。例えば、条件(d)の痛み提示シート20の形成から5分後の(2)痛みの評価では、条件(b)のカプサイシン溶液単体の場合と同様に痛みが生起された。一方、(1)温度感の評価では、条件(b)のカプサイシン溶液単体、及び、条件(a)のメントール溶液単体に比べて、明らかに冷たさが生起された。
さらに、条件(d)の10分後の(2)痛みの評価では、条件(b)のカプサイシン溶液単体より痛みが生起された。10分後の(1)温度感の評価では被験者によるばらつきが大きいことから、一意での知覚が得られなかった。
条件(d)の15分後の(2)痛みの評価では、条件(b)のカプサイシン溶液単体と同程度の痛みが生起された。一方、条件(d)の15分後の(1)温度感の評価では、条件(b)のカプサイシン溶液単体より低い温度が知覚された。
【0049】
次に、条件(b)と条件(d)とにおける(3)質的な主観評価による結果を図15、及び、図16に示す。図15及び図16は、縦軸に(3)質的な主観評価における温度に関する主観評価[“冷たい(cold)”、“ひんやりする(cool)”、“熱い(hot)”、“温かい(warm)”、“灼熱感がある(burn)”、“凍結感がある(freeze)”]のみの回答数を抽出して示し、横軸は経過時間である。
【0050】
図15は、条件(b)によるカプサイシン溶液単体の結果である。カプサイシン溶液単体を用いた場合には、“熱い”、“温かい”、及び、“灼熱感がある”の温かさが提示された結果の回答が多く得られた。
【0051】
図16は、条件(d)による温感提示領域12と冷感提示領域13とを隣接配置した結果である。温感提示領域12と冷感提示領域13とを隣接配置し場合、“冷たい”、及び、“ひんやりする”という冷たさが提示された回答が多く得られた。また、“灼熱感がある”という回答が、条件(b)によるカプサイシン溶液単体の場合と同程度に得られた。
この結果から、条件(d)による温感提示領域12と冷感提示領域13とを隣接配置した場合は、条件(b)によるカプサイシン溶液単体の場合と、生起する温度域が異なるものと判断できる。
【0052】
サーマルグリル錯覚によって生起される痛みは、燃えるような痛みとともに、凍るような痛みを生起する。すなわち、図11図14に示す評価において痛みの回答が多く、且つ、図15、及び、図16に示す評価において“灼熱感がある(burn)”、及び、“凍結感がある(freeze)”の回答が多いほど、サーマルグリル錯覚による痛みが提示されたことを表す。
図15に示す、条件(b)によるカプサイシン溶液単体の構成の主観評価では、“灼熱感がある”の回答が多いものの、“凍結感がある”の回答が非常に少ない。このため、条件(b)の構成では、サーマルグリル錯覚による痛みが生起されないことが示唆された。
これに対し、図16に示す、条件(d)による温感提示領域12と冷感提示領域13とを隣接配置した構成の主観評価では、“灼熱感がある”の回答、及び、“凍結感がある”の回答が多い。このため、条件(d)の構成では、サーマルグリル錯覚による痛みが生起されたことが示唆された。
【0053】
従って、図14に示す(1)温度感及び(2)痛みがともに提示された結果、及び、図16に示す“灼熱感がある”、及び、“凍結感がある”が生起された結果から、条件(d)のカプサイシン溶液単体による温感提示領域12と、メントール溶液単体による冷感提示領域13とを隣接して配置した構成を用いることにより、サーマルグリル錯覚による痛みが生起されることがわかった。これにより、物理的な温度提示を行わずに、対象者の皮膚に化学物質を接触させることで、サーマルグリル錯覚による痛みが生起できることがわかる。
【0054】
〈実験例2〉
[時間差によるサーマルグリル錯覚発現の比較試験]
化学物質による温感提示、冷感提示を時間差で行った場合のサーマルグリル錯覚による痛覚の生起について検証した。
図17に示すように、対象者の左腕の前腕100の後面側に、上記実験例1の条件(d)における痛み提示シート20(図5)と同様の構成を形成した。このとき、下記条件(1)~(3)により、カプサイシン溶液単体による温感提示領域12と、メントール溶液単体による冷感提示領域13とを、皮膚に接触させるタイミングを変化させた。
【0055】
・条件(1)メントール溶液単体による冷感提示領域13を皮膚に接触させるタイミングを基準に、カプサイシン溶液単体による温感提示領域12を皮膚に接触させるタイミングを被験者毎に個別に変化させた。
・条件(2)メントール溶液単体による冷感提示領域13を皮膚に接触させる4分前に、カプサイシン溶液単体による温感提示領域12を皮膚に接触させた。
・条件(3)メントール溶液単体による冷感提示領域13と、カプサイシン溶液単体による温感提示領域12とを、同時に皮膚に接触させた。
【0056】
試験では、男性9名、女性1名(21歳から歳から28歳)の10名を被験者として行った。試験は3日に分けて行い、1日1条件の測定を行った。1日目は条件(1)による試験を行い、2日目は条件(2)による試験を行い、3日目は条件(3)による試験を行った。
被験者は、上述の実験例1のリッカートスケールによる(1)温度感の回答、及び(2)痛みの回答と、(3)質的な主観評価の回答とを同様に行った。
【0057】
(試験結果)
図18図23に、リッカートスケールによる回答(1)温度感、及び、(2)痛みの結果、及び、(3)質的な主観評価による結果を示す。
【0058】
図18は、上記条件(1)におけるリッカートスケールによる回答(1)温度感、及び、(2)痛みの結果である。個別に変化させた条件では、(2)痛みの評価が単調に増加した。(1)温度感の評価は、試験開始直後に下がるが、時間経過とともに0に近づいた。しかし、変動幅が-2~0の範囲であり、(1)温度感の評価の変動が小さかった。
図19は、上記条件(1)における(3)質的な主観評価による結果である。個別に変化させた条件では、“灼熱感がある”と、“凍結感がある”とがともに生起された。また、全体的に、“冷たい”、“ひんやりする”という冷たさを感じる回答の多い中で、“灼熱感がある”の回答が得られた。このため、サーマルグリル錯覚によって生起される燃えるような痛みとともに、凍るような痛みが生起された。
【0059】
図20は、上記条件(2)におけるリッカートスケールによる回答(1)温度感、及び、(2)痛みの結果である。4分前に温感提示領域12を接触させた条件では、(2)痛みの評価が単調に増加した。(1)温度感の評価は、試験開始直後に下がった後、時間経過とともに単調に増加し、プラスに転じた。また、(1)温度感の評価の変動幅も大きかった。
図21は、上記条件(2)における(3)質的な主観評価による結果である。4分前に温感提示領域12を接触させた条件では、灼熱感がある”と、“凍結感がある”とがともに生起された。また、全体的に、“冷たい”、“ひんやりする”という冷たさを感じる回答が時間経過とともに減少するものの、冷たさを感じる回答を得られた中で“灼熱感がある”の回答が他の条件(1)、(3)よりも多く得られた。このため、上記条件(2)による時間差を設けて温感提示領域12を先に接触させる条件では、サーマルグリル錯覚による痛みが最も生起されたと考えられる。
【0060】
図22は、上記条件(3)におけるリッカートスケールによる回答(1)温度感、及び、(2)痛みの結果である。同時に皮膚に接触させた条件では、(2)痛みの評価、及び、(1)温度感の評価が、ともに上記条件(1)と同様のグラフとなった。すなわち、(2)痛みの評価が単調に増加し、(1)温度感の評価が-1~0の範囲で変動が小さかった。
図23は、上記条件(3)における(3)質的な主観評価による結果である。同時に皮膚に接触させた条件も上記条件(1)と同様に、冷たさを感じる回答の多い中で、“灼熱感がある”の回答が得られ、サーマルグリル錯覚によって生起される燃えるような痛みとともに、凍るような痛みが生起された。また、条件(1)に比べ、“灼熱感がある”の回答が少なく、本試験の3条件の中で最も“灼熱感がある”の回答が少なかった。
【0061】
上記試験の結果、条件(2)の結果に示すように、温感提示物質と冷感提示物質とを時間差を設けて皮膚に接触させることで、最もサーマルグリル錯覚による痛みが生起できた。これは、図20のグラフに示すように、サーマルグリル錯覚が発現する条件では、温感提示物質を4分前に接触させたにも関わらず、(1)温度感の評価が上昇するまでの経過時間が大きい。この傾向は図18及び図19のグラフにも見られる。このため、温感提示物質の接触から温刺激を感じるまでの経過時間が、冷感提示物質の接触から冷刺激を感じるまでの経過時間よりも大きいと考えられる。このため、温感提示物質を冷感提示物質よりも前に接触させることにより、温刺激と冷刺激を感じ始めるタイミングを近づけることができ、サーマルグリル錯覚がより発現したと考えられる。従って、効率的にサーマルグリル錯覚を生起するためには、温感提示領域12を皮膚に接触させた4分以上後に、冷感提示領域13を接触させることが好ましい。
【0062】
また、条件(1)は、温感提示領域12を接触させた後に冷感提示領域13を接触させる条件が含まれている。このため、条件(1)では、条件(3)よりも温度感の評価で灼熱感の回答が増えたと考えられる。
このように、温感又は冷感提示物質の接触から、対象者が温刺激又は冷刺激を感じるまでの経過時間に差がある場合には、温感提示、冷感提示を時間差で行うことにより、サーマルグリル錯覚による痛覚がより生起しやすい。
【0063】
〈実験例3〉
[配置によるサーマルグリル錯覚発現の比較試験]
(試験条件)
図1、及び、図5~9に示す構成の痛み提示シート10,20,30,40,50,60において、温感提示領域12と冷感提示領域13との配置によって、サーマルグリル錯覚の感覚が増強するかどうかを検証した。
上述の図4に示すように、痛み提示シート10を貼り付け方向マーク14が体中心側(肘側)となるように対象者の左腕の前腕100の後面側に貼り付けた。さらに、図4に示す痛み提示シート10の貼付け方法と同様に、図5図9に示す痛み提示シート20,30,40,50,60に変更して、貼り付け方向マーク14が体中心側(肘側)となるように対象者の前腕100に貼り付けた。このとき,温感提示領域12と冷感提示領域13の刺激面積は同じになるように、痛み提示シート10,20,30,40,50,60を形成した。
温感提示物質、及び、冷感提示物質は、上記実験例1と同様のカプサイシン溶液、及び、メントール溶液を用いた。
【0064】
試験は、男性9名、女性1名(21歳から歳から28歳)の10名を被験者として試験を行った。試験は6日に分けて行い、1日1条件の測定を行った。
被験者は前腕100の外側(甲側)中央に痛み提示シート10,20,30,40,50,60を貼付け、1条件につき30分間刺激した。
被験者は1分毎に、上述の実験例1のリッカートスケールによる(1)温度感の回答、及び(2)痛みの回答と、(3)質的な主観評価の回答とを同様に行った。
【0065】
(試験結果)
図24図35に、リッカートスケールによる回答(1)温度感、及び、(2)痛みの結果、及び、(3)質的な主観評価による結果を示す。
図24及び図25は、痛み提示シート30(図6)を用いたリッカートスケールによる回答(1)温度感、及び、(2)痛みの結果、及び、(3)質的な主観評価による結果である。
図26及び図27は、痛み提示シート40(図7)を用いたリッカートスケールによる回答(1)温度感、及び、(2)痛みの結果、及び、(3)質的な主観評価による結果である。
図28及び図29は、痛み提示シート20(図5)を用いたリッカートスケールによる回答(1)温度感、及び、(2)痛みの結果、及び、(3)質的な主観評価による結果である。
図30及び図31は、痛み提示シート10(図1)を用いたリッカートスケールによる回答(1)温度感、及び、(2)痛みの結果、及び、(3)質的な主観評価による結果である。
図32及び図33は、痛み提示シート60(図9)を用いたリッカートスケールによる回答(1)温度感、及び、(2)痛みの結果、及び、(3)質的な主観評価による結果である。
図34及び図35は、痛み提示シート50(図8)を用いたリッカートスケールによる回答(1)温度感、及び、(2)痛みの結果、及び、(3)質的な主観評価による結果である。
【0066】
図34及び図35に示す痛み提示シート60の試験結果では、(2)痛みの評価を見ると常に小さい値を取っており変化量も小さいのに対し、(1)温度感の評価に着目すると減少傾向にあった。痛み提示シート60を除き、図24図33に結果を示す痛み提示シート10,20,30,40,50は、(2)痛みの評価が単調に増加し、(1)温度感の評価では15分以降から温度感覚に上昇傾向が見られ、概形が類似していた。
【0067】
また、痛み提示シート60を除く他の痛み提示シート10,20,30,40,50は、図24図33に示す結果の概形は類似しているが、時系列データの後半に多少の差異が見られる。このため、痛み提示シート10,20,30,40,50において、時間に着目した。
痛み提示シート10,20,30,40,50では、それぞれ20分後、及び、25分後の結果(図24図26図28図30、及び、図32)では、(2)痛みの評価に差が見られた。
また、痛み提示シート10,20,30,40,50では、(1)温度感の評価がいずれも分散が大きく、被験者によって温冷の識別が大きく異なっていた。
塗布20分後の結果では、温感提示領域12と冷感提示領域13がいずれも縦置きに配置されている痛み提示シート10,20(図28、及び、図30)において、有意差があった。
また、塗布25分後の結果では、痛み提示シート50,60を除き、痛み提示シート10,20,30,40(図24図26図28、及び、図30)のすべてにおいて、有意差があった。
以上の結果から、痛み提示シート10,20,30,40,50,60において、温感提示領域12と冷感提示領域13の配置によって、生起する痛みの強さが異なることが明らかとなった
【0068】
次に、図25図27図29図31図33、及び図35に示す、痛み提示シート10,20,30,40,50,60の(3)質的な主観評価による結果を比較した。
図31に示す痛み提示シート10の結果では、“灼熱感がある”、“凍結感がある”といった極度な温度感覚に関する回答が多い。この結果は、温感提示領域12及び冷感提示領域13の向きだけが異なる痛み提示シート20の結果(図29)や、痛み提示シート30,40,50,60の結果(図25図27図33、及び図35)に比較して、より多くの灼熱感の回答が得られた。
【0069】
一方、図33に示す痛み提示シート60では“灼熱感がある”、“凍結感がある”といった極度な温度感覚に関する回答が少なく、“ひんやりする”、“冷たい”といった冷たさに関する回答が大半であった。
【0070】
また、図25図27図29、及び図35に示す、痛み提示シート20,30,40,50の結果では、痛み提示シート10に比べて少ないものの、“灼熱感がある”、“凍結感がある”といった回答が得られた。
【0071】
以上の結果から、温感提示領域12、及び、冷感提示領域13の配置を変化させることで、異なった感覚が生起することがわかった。
中心に温感提示領域12、それを囲うように冷感提示領域13を配置した痛み提示シート60では、及び、中心に冷感提示領域13、それを囲うように温感提示領域12を配置した痛み提示シート50では、(1)温度感及び(2)痛みの評価から、痛みがあまり生起しないことが得られた。さらに、痛み提示シート50,60の(3)質的な主観評価による結果でもサーマルグリル錯覚の生起による“灼熱感がある”、“凍結感がある”といった回答はあまり見られなかった。
【0072】
これに対し、痛み提示シート50,60を除く他の痛み提示シート10,20,30,40は、(1)温度感及び(2)痛みの評価から、痛みが生起し、(3)質的な主観評価による結果でも“灼熱感がある”、“凍結感がある”といった回答が見られた。
以上の結果から痛み提示シート50,60では、サーマルグリル錯覚が生起するものの強度が弱く、痛み提示シート10,20,30,40では、サーマルグリル錯覚が強く生起していることが示唆された。
【0073】
また、前腕100の肘側(体中心側)に冷感提示領域13、手首側に温感提示領域12を配置する痛み提示シート20と、温感提示領域12及び冷感提示領域13の配置向きのみが異なる痛み提示シート10では、(1)温度感及び(2)痛みの評価で有意差が見られた。さらに、痛み提示シート10,20では、(3)質的な主観評価の結果においても、痛み提示シート10のほうが強いサーマルグリル錯覚を生起していることが考えられる。
【0074】
上記痛み提示シート10,20の結果は、知覚温度決定の際に前腕の近位、遠位によって参照されやすい温度感覚が異なり、熱い感覚は中心に向かって広がり冷たい感覚は末梢に向かって広がるためだと考えられる。痛み提示シート10,20において、温感提示領域12及び冷感提示領域13の配置向きが異なることで知覚が変わり、(1)温度感、(2)痛み、及び、(3)質的な主観評価の結果において、異なる結果が得られたと考えられる。
【0075】
また、痛み提示シート50,60のように、温感提示領域12又は冷感提示領域13の一方が、他方の領域を囲うように配置した構成では、温刺激と冷刺激をほぼ同じ場所に感じさせたが、いずれの場合も弱いサーマルグリル錯覚しか生起できなかった。この結果から、より強いサーマルグリル錯覚を生起させるためには、温刺激と冷刺激とが空間的に混じり合わないように感じさせることが必要と考えられる。
【0076】
また、痛み提示シート30,40のように、前腕100に対して横向きに温感提示領域12及び冷感提示領域13が配置された構成において、痛み提示シート40は、痛み提示シート30よりもサーマルグリル錯覚をより強く生起した。これは、痛み提示シート30,40を貼り付けた場所の影響によるものと考えられる。皮膚の表面は皮膚分節と呼ばれる領域に分けられ、1つの皮膚分節は1つの脊髄神経根から伸びている感覚神経が支配する領域である。そして、痛み提示シート30,40を貼り付けた場所は、前腕100の中央であり、横方向の皮膚分節間の境界にあたり、皮膚分節を超えずに皮膚分節内に刺激が提示されたために、痛み提示シート40が痛み提示シート30よりもサーマルグリル錯覚をより強く生起したことが考えられる。
【0077】
〈実験例4〉
[サーマルグリル錯覚の発現による痒み抑制]
(試験条件)
痛み提示シート10を用いて、サーマルグリル錯覚による痛みの生起で痒みの抑制が可能かどうかを検証した。
試験は、2名を被験者として行った。
まず、図36に示すように、被験者の左腕の前腕100の後面側に痒み誘発物質110として、山芋の皮部分の実側(中心側)を皮膚に接触させ、皮側が外になるように5分間貼り付けた。そして、山芋を外した後、下記条件(a)、又は、条件(b)による処理を行った。
・条件(a)山芋をはずしたままの状態。
・条件(b)図37に示すように、山芋を貼り付けた領域に、痛み提示シート10を貼り付け方向マーク14が肘側(体中心側)となる向きで貼り付けた。
被験者は、条件(a)山芋を外した後、又は、条件(b)痛み提示シート10を貼り付けた後、20分間、1分毎に痒みの評価としてVAS(visual analog scale)を用いて痒みの程度を0~100で回答した。
【0078】
(試験結果)
図38に被験者1の痒み評価、図39に被験者2の痒み評価を示す。図38及び図39に示すグラフは、縦軸がVASによる痒みの程度、横軸が経過時間を示している。また、実線が条件(a)山芋をはずしたままの状態での痒みの程度の評価、破線が条件(b)痛み提示シート10を貼り付けた状態での痒みの程度の評価である。
図38及び図39に示すように、被験者1、被験者2ともに、明らかに痒みが抑制された。従って、痛み提示シート10を用いることにより、サーマルグリル錯覚による痛みの生起によって対象者の痒みを抑制することが可能である。
【0079】
〈実験例5〉
[配置によるサーマルグリル錯覚発現の比較試験]
(試験条件)
図40、及び、図41に示す構成の痛み提示シート120,130において、温感提示領域12と冷感提示領域13とを格子状の配置した場合にも、サーマルグリル錯覚の感覚が増強するかどうかを検証した。なお、本試験では比較のため、図1、及び、図5に示す構成の痛み提示シート10,20も同条件で試験を行った。
【0080】
上述の図4に示すように、痛み提示シート10を貼り付け方向マーク14が体中心側(肘側)となるように対象者の左腕の前腕100の後面側に貼り付けた。さらに、図4に示す痛み提示シート10の貼付け方法と同様に、図5図40、及び、図41に示す痛み提示シート20,120,130に変更して、貼り付け方向マーク14が体中心側(肘側)となるように対象者の前腕100に貼り付けた。このとき、温感提示領域12と冷感提示領域13の刺激面積は同じになるように、痛み提示シート10,20,120,130を形成した。
温感提示物質、及び、冷感提示物質は、上記実験例1と同様のカプサイシン溶液、及び、メントール溶液を用いた。
【0081】
試験は、男性10名、女性1名(20歳から歳から27歳)の計11名を被験者として試験を行った。試験は4日に分けて行い、1日1条件の測定を行った。
被験者は前腕100の外側(甲側)中央に痛み提示シート10,20,120,130を貼付け、1条件につき30分間刺激した。
被験者は1分毎に、上述の実験例1のリッカートスケールによる(1)温度感の回答、及び、(2)痛みの回答と、(3)質的な主観評価の回答とを同様に行った。
【0082】
(試験結果)
リッカートスケールによる回答(1)温度感、及び、(2)痛みの結果を、図42図45のグラフに示す。
図42は、痛み提示シート10(図1)を用いたリッカートスケールによる回答(1)温度感、及び、(2)痛みの結果である。
図43は、痛み提示シート20(図5)を用いたリッカートスケールによる回答(1)温度感、及び、(2)痛みの結果である。
図44は、痛み提示シート120(図40)を用いたリッカートスケールによる回答(1)温度感、及び、(2)痛みの結果である。
図45は、痛み提示シート130(図41)を用いたリッカートスケールによる回答(1)温度感、及び、(2)痛みの結果である。
図42~45に示すように、痛み提示シート10,20,120,130のすべての条件で、痛みが単調に増加している。特に、すべての条件で、約15分以降から温度感覚に上昇傾向が観察される。また、10,20,120,130の各条件のグラフは、概形が類似している。
【0083】
しかしながら、時系列データの後半に多少の差異が見られる。このことから各条件において時間に着目した調査を行った。図46に、痛み提示シート10,20,120,130の各条件における、塗布30分後の温度感と痛みのみを抽出した結果を示す。
図46に示すように、各条件において、温度感覚や痛みに大きな差は見られなかった。温度感覚は、どの条件でも分散が大きく、被験者によって温冷の識別が大きく異なっていた。一方、痛みは、どの条件においても被験者が知覚していることが示された。
【0084】
次に、(3)質的な主観評価による結果を、図47図50に示す。
図47は、痛み提示シート10(図1)を用いた(3)質的な主観評価による結果である。
図48は、痛み提示シート20(図5)を用いた(3)質的な主観評価による結果である。
図49は、痛み提示シート120(図40)を用いた(3)質的な主観評価による結果である。
図50は、痛み提示シート130(図41)を用いた(3)質的な主観評価による結果である。
【0085】
図47~50に示すように、すべての条件で“灼熱感がある”,“凍結感がある”といった回答が見られた。特に、痛み提示シート20は、“灼熱感がある”,“凍結感がある”の回答が多く得られた。このため、温感提示領域12と冷感提示領域13との配置のみが異なる痛み提示シート10や、格子状配列の痛み提示シート120、痛み提示シート130の条件と比較し、手首側に温感提示領域12を配置する痛み提示シート20が最も灼熱感を感じていた。
【0086】
上記の試験では、上述の実験例3において痛みが強く発生した、痛み提示シート10,20の2種と、格子状に温感提示領域12と冷感提示領域13とを配置した痛み提示シート120,130の2種類の計4種類を用いた。この結果、格子状に温感提示領域12と冷感提示領域13とを配置した痛み提示シート120,130であっても、痛み提示シート10,20と同程度のサーマルグリル錯覚が生起することが示唆された。また、格子状に温感提示領域12と冷感提示領域13との配置のみが異なる痛み提示シート120,130では、時間変化や各時間の結果、主観評価のいずれの指標でも差は見られなかった。
【産業上の利用可能性】
【0087】
本技術は、サーマルグリル錯覚による対象者への痛みの提示を行うことが可能な痛み提示シート、及び、痛みの提示方法であり、対象者への痛みの提示だけでなく、痛みの提示による痒み抑制シート、痒み抑制処置等に適用可能であり、産業上の利用可能性を有する。
【0088】
なお、本発明は上述の実施形態例において説明した構成に限定されるものではなく、その他本発明の構成を逸脱しない範囲において種々の変形、変更が可能である。
【符号の説明】
【0089】
10,20,30,40,50,60,70,80,90,120,130 痛み提示シート、11 基材、12 温感提示領域、13 冷感提示領域、14 方向マーク、15 粘着層、16 温度提示領域、100 前腕、110 痒み誘発物質
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