(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024003716
(43)【公開日】2024-01-15
(54)【発明の名称】個包装歯科材料およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
A61K 6/90 20200101AFI20240105BHJP
B65D 65/46 20060101ALI20240105BHJP
A61C 19/02 20060101ALI20240105BHJP
A61C 9/00 20060101ALI20240105BHJP
【FI】
A61K6/90
B65D65/46
A61C19/02
A61C9/00 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022103065
(22)【出願日】2022-06-27
(71)【出願人】
【識別番号】000004293
【氏名又は名称】株式会社ノリタケカンパニーリミテド
(74)【代理人】
【識別番号】100174090
【弁理士】
【氏名又は名称】和気 光
(74)【代理人】
【識別番号】100205383
【弁理士】
【氏名又は名称】寺本 諭史
(74)【代理人】
【識別番号】100224661
【弁理士】
【氏名又は名称】牧内 直征
(74)【代理人】
【識別番号】100100251
【弁理士】
【氏名又は名称】和気 操
(72)【発明者】
【氏名】吉野 泰
(72)【発明者】
【氏名】三品 誉夫
(72)【発明者】
【氏名】岡下 明弘
(72)【発明者】
【氏名】吉川 聖一
(72)【発明者】
【氏名】岩本 卓也
(72)【発明者】
【氏名】金子 太地
【テーマコード(参考)】
3E086
4C052
4C089
【Fターム(参考)】
3E086AA22
3E086AA23
3E086AC07
3E086AD01
3E086AD02
3E086BA02
3E086BB01
3E086BB72
3E086CA27
4C052HH10
4C089AA14
4C089BA18
4C089BE05
4C089CA02
(57)【要約】
【課題】作業性に優れるとともに、開封時の臭気が抑制された個包装歯科材料を提供する。
【解決手段】個包装歯科材料1は、石膏粉末2と、水溶性フィルム3と、香料組成物とを含み、石膏粉末2が、水溶性フィルム3によって、所定量ごとに個別に包装され、香料組成物は、香り成分と、該香り成分の揮発速度を調整する保香剤とを含み、水溶性フィルム3が、ポリビニルアルコール系樹脂を含み、保香剤のハンセン溶解度パラメータが、水溶性フィルム3のハンセン溶解度パラメータを中心座標とする相互作用半径R=8.0MPa
1/2の球の範囲外である。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
石膏粉末と、水溶性フィルムとを含む歯科材料であって、
前記石膏粉末が、前記水溶性フィルムによって、所定量ごとに個別に包装され、
前記歯科材料が、香料組成物を含むことを特徴とする個包装歯科材料。
【請求項2】
前記香料組成物は、香り成分と、該香り成分の揮発速度を調整する保香剤とを含むことを特徴とする請求項1記載の個包装歯科材料。
【請求項3】
前記水溶性フィルムが、ポリビニルアルコール系樹脂を含むことを特徴とする請求項2記載の個包装歯科材料。
【請求項4】
前記保香剤のハンセン溶解度パラメータが、前記水溶性フィルムのハンセン溶解度パラメータを中心座標とする相互作用半径R=8.0MPa1/2の球の範囲外であることを特徴とする請求項2または請求項3記載の個包装歯科材料。
【請求項5】
前記保香剤のハンセン溶解度パラメータが、中心座標(δD,δP,δH)=(15.6,12.3,27.3)MPa1/2で相互作用半径R=15.5MPa1/2である球、および、中心座標(δD,δP,δH)=(18.5,14.7,11.1)MPa1/2で相互作用半径R=8.8MPa1/2である球の範囲外であることを特徴とする請求項2または請求項3記載の個包装歯科材料。
【請求項6】
前記個包装歯科材料が気密性フィルムによって梱包され、
前記気密性フィルムは、前記香料組成物を含んだフィルムであることを特徴とする請求項1または請求項2記載の個包装歯科材料。
【請求項7】
石膏粉末が水溶性フィルムによって所定量ごとに個別に包装された個包装歯科材料の製造方法であって、
前記水溶性フィルムを準備するフィルム準備工程と、
前記石膏粉末を前記水溶性フィルムで所定量ごとに個別に包装する個包装工程とを有し、
香料組成物が、前記フィルム準備工程において前記水溶性フィルムに噴霧され、または、前記個包装工程に続いて前記個包装歯科材料の外表面に噴霧されることを特徴とする個包装歯科材料の製造方法。
【請求項8】
前記香料組成物は、香り成分と、該香り成分の揮発速度を調整する保香剤とを含み、
前記保香剤のハンセン溶解度パラメータが、中心座標(δD,δP,δH)=(15.6,12.3,27.3)MPa1/2で相互作用半径R=15.5MPa1/2である球、および、中心座標(δD,δP,δH)=(18.5,14.7,11.1)MPa1/2で相互作用半径R=8.8MPa1/2である球の範囲外であることを特徴とする請求項7記載の個包装歯科材料の製造方法。
【請求項9】
石膏粉末が水溶性フィルムによって所定量ごとに個別に包装された個包装歯科材料の製造方法であって、
前記石膏粉末を準備する石膏粉末準備工程と、
前記石膏粉末を前記水溶性フィルムで所定量ごとに個別に包装する個包装工程とを有し、
香料組成物が、前記石膏粉末準備工程において前記石膏粉末に噴霧されることを特徴とする個包装歯科材料の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は半水石こう(膏)を主成分とする粉末状歯科用石膏組成物の水溶性フィルム包装物であって、口くう(腔)内印象、義歯埋没、模型、歯型、模型基底部の作成や、こう(咬)合器装着などに用いる歯科用石膏が個別に包装された個包装歯科材料に関する。
【背景技術】
【0002】
半水石膏などの石膏粉末は、その水硬性を利用して、歯科用石膏として模型等の作製に使われている。従来、歯科用石膏は、数百g~数kg程度のアルミニウム製の外装体やフィルム外装体に詰められた状態で販売されている。
【0003】
歯科用石膏を使用する際には、使用のたびに外装体を開封し、石膏粉末を計量する必要がある。そのため、石膏粉末を計量容器に移す際に、石膏粉末をこぼしたり、取扱者が粉塵を吸い込んだりしやすく、粉を掬うさじなどの器具や粉が付着した手を洗う必要があった。
【0004】
また、開封後の歯科用石膏の保管場所が多湿環境の場合、石膏粉末が固まったり、硬化時間が変化したりするおそれがあった。さらに、石膏粉末が周辺の臭気を吸着し、水を加えて撹拌(練和)する際に臭いが放出される場合があった。
【0005】
さらに、歯科用石膏と水を練和する際には、石膏粉末に所定量の水を加えて機械や手で撹拌して練和するところ、石膏粉末と水との練和比率(混水比)が所定の比率からずれた場合、硬化物の強度が低下したり、練和物の取り扱い性が変化したりするおそれがあった。
【0006】
これに対し、特許文献1には、歯科用石膏などの粉末化学材料を水溶性フィルムにより所定量ずつ予め包装した歯形成型材が記載されている。特許文献1記載の歯形成型材を用いることで、石膏粉末の計量を行うことなく正確な混水比での練和ができ時間を節約できるとともに、粉末の飛散防止、衛生管理の容易化など作業性を向上できる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
歯科用石膏は通常、石膏粉末が吸湿により固まったり、周辺の臭気を吸着したりすることを抑制するために、水分や臭気性分子を透過しにくいガスバリア性の密封フィルムにより包装され、包装体(梱包物)の形態で流通する。使用者により購入された歯科用石膏は、使用頻度によっては密封状態で長期間保管される場合がある。
【0009】
歯科用石膏として特許文献1記載の歯形成型材が用いられる場合、梱包物の中には石膏粉末とともに水溶性フィルムが梱包される。ここで、水溶性フィルムなどのフィルムは、例えば、製造時の残留溶剤、加水分解、熱劣化などの要因により低分子成分を微量ずつ発散する場合がある。そのため、特許文献1記載の歯形成型材が密封状態で長期間保管されたり、比較的高温状態で保管されたりする場合、梱包物内に徐々に蓄積した臭気が開封時に放出され、使用者が異臭として感知するおそれがある。
【0010】
本発明はこのような事情に鑑みてなされたものであり、作業性に優れるとともに、開封時の臭気を抑制された個包装歯科材料の提供を課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の個包装歯科材料は、石膏粉末と、水溶性フィルムとを含む歯科材料であって、上記石膏粉末が、上記水溶性フィルムによって、所定量ごとに個別に包装され、上記歯科材料が、香料組成物を含むことを特徴とする。
【0012】
上記香料組成物は、香り成分と、該香り成分の揮発速度を調整する保香剤とを含むことを特徴とする。
【0013】
上記水溶性フィルムが、ポリビニルアルコール(以下、「PVA」ともいう)系樹脂を含むことを特徴とする。
【0014】
上記保香剤のハンセン溶解度パラメータ(以下、「HSP」ともいう)が、上記水溶性フィルムのハンセン溶解度パラメータを中心座標とする相互作用半径R=8.0MPa1/2の球の範囲外であることを特徴とする。
【0015】
上記保香剤のハンセン溶解度パラメータが、中心座標(δD,δP,δH)=(15.6,12.3,27.3)MPa1/2で相互作用半径R=15.5MPa1/2である球、および、中心座標(δD,δP,δH)=(18.5,14.7,11.1)MPa1/2で相互作用半径R=8.8MPa1/2である球の範囲外であることを特徴とする。ここで、ハンセン溶解度パラメータは、分散項δD、分極項δP、水素結合項δHの3つの項により表現され、3次元空間上の1点(ベクトル)として取り扱われる。
【0016】
上記個包装歯科材料が気密性フィルムによって梱包され、上記気密性フィルムは、上記香料組成物を含んだフィルムであることを特徴とする。
【0017】
本発明の個包装歯科材料の製造方法は、石膏粉末が水溶性フィルムによって所定量ごとに個別に包装された個包装歯科材料の製造方法であって、上記水溶性フィルムを準備するフィルム準備工程と、上記石膏粉末を上記水溶性フィルムで所定量ごとに個別に包装する個包装工程とを有し、香料組成物が、上記フィルム準備工程において上記水溶性フィルムに噴霧され、または、上記個包装工程に続いて上記個包装歯科材料の外表面に噴霧されることを特徴とする。
【0018】
上記香料組成物は、香り成分と、該香り成分の揮発速度を調整する保香剤とを含み、上記保香剤のハンセン溶解度パラメータが、中心座標(δD,δP,δH)=(15.6,12.3,27.3)MPa1/2で相互作用半径R=15.5MPa1/2である球、および、中心座標(δD,δP,δH)=(18.5,14.7,11.1)MPa1/2で相互作用半径R=8.8MPa1/2である球の範囲外であることを特徴とする。
【0019】
石膏粉末が水溶性フィルムによって所定量ごとに個別に包装された個包装歯科材料の製造方法であって、上記石膏粉末を準備する石膏粉末準備工程と、上記石膏粉末を上記水溶性フィルムで所定量ごとに個別に包装する個包装工程とを有し、香料組成物が、上記石膏粉末準備工程において上記石膏粉末に噴霧されることを特徴とする。
【発明の効果】
【0020】
本発明の個包装歯科材料は、石膏粉末と、水溶性フィルムとを含む歯科材料であって、石膏粉末が、水溶性フィルムによって、所定量ごとに個別に包装され、香料組成物を含むので、作業性に優れるとともに、水溶性フィルム由来の臭気がマスキングされ、開封時の臭気を抑制できる。
【0021】
香料組成物は、香り成分と、該香り成分の揮発速度を調整する保香剤とを含むので、香り成分の添加量が少なくても、開封時の臭気抑制効果に優れる。
【0022】
水溶性フィルムが、ポリビニルアルコール系樹脂を含むので、水溶性、ガスバリア性、ヒートシール性に優れるとともに、包装用フィルムとして適度な強度を有し、取り扱い性に優れる。
【0023】
保香剤のハンセン溶解度パラメータが、水溶性フィルムのハンセン溶解度パラメータを中心座標とする相互作用半径R=8.0MPa1/2の球の範囲外であるので、香料組成物が水溶性フィルムをより膨潤や溶解しにくく、水溶性フィルムがより破損しにくい。
【0024】
保香剤のハンセン溶解度パラメータが、中心座標(δD,δP,δH)=(15.6,12.3,27.3)MPa1/2で相互作用半径R=15.5MPa1/2である球、および、中心座標(δD,δP,δH)=(18.5,14.7,11.1)MPa1/2で相互作用半径R=8.8MPa1/2である球の範囲外であるので、香料組成物が水溶性フィルムをさらに膨潤や溶解しにくく、水溶性フィルムがさらに破損しにくい。
【0025】
個包装歯科材料が気密性フィルムによって梱包され、気密性フィルムは、香料組成物を含んだフィルムであるので、簡易に水溶性フィルム由来の臭気をマスキングできる。
【0026】
本発明の個包装歯科材料の製造方法は、石膏粉末が水溶性フィルムによって所定量ごとに個別に包装された個包装歯科材料の製造方法であって、水溶性フィルムを準備するフィルム準備工程と、石膏粉末を水溶性フィルムで所定量ごとに個別に包装する個包装工程とを有し、香料組成物が、フィルム準備工程において水溶性フィルムに噴霧され、または、個包装工程に続いて個包装歯科材料の外表面に噴霧されるので、個包装歯科材料に香りが付与され、開封時の臭気をより抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【
図2】個包装歯科材料を水と練和する際に用いるものを示す図である。
【
図3】HSPの3次元空間上に膨潤球および各保香剤を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
本発明の個包装歯科材料を
図1に基づき説明する。
図1は、本発明の個包装歯科材料を示す図である。
図1(a)は個包装歯科材料の平面図であり、
図1(b)は個包装歯科材料の断面図である。なお、
図1(b)において、個包装歯科材料1に対する水溶性フィルム3の厚みは実際よりも厚く描いている。
図1に示すように、個包装歯科材料1は、石膏粉末2と、該石膏粉末を包装する水溶性フィルム3とを含む。石膏粉末2は、水溶性フィルム3によって、所定量(1回の施用量)ごとに個別に包装されている。上記所定量としては、作業者が1回の練和作業で使い切る石膏粉末2の量であり、例えば、10g~200g、好ましくは10g~150g、より好ましくは50g~150g、特に好ましくは100gである。
【0029】
本発明の個包装歯科材料は、上記構成であることにより、個包装歯科材料を袋ごと練和用の容器につまんで入れて、石膏の混水比に応じた所定量の水を入れて機械などで撹拌するだけで練和が完了し、石膏粉末の計量ミスによる硬化の不具合を解決できる。また、計量や計量器具の洗浄の手間の削減や、粉塵の飛散防止もできる。さらに、石膏粉末の保存時の安定性が向上するとともに、保存時に発生していた種々の問題も解決できる。さらに、石膏粉末が入った梱包物の開封後に、石膏粉末が吸湿により固まったり、周辺の臭気を吸着したりすることも改善される。
【0030】
石膏粉末としては、例えば、半水石膏(CaSO4・1/2H2O)を含む。半水石膏は、例えば、石膏の主原料である二水石膏(CaSO4・2H2O)を、回転釜などを用いて乾式加熱することによって得ることができる(β型半水石膏)。また、半水石膏は、二水石膏を湿式加熱して得ることもできる(α型半水石膏)。本発明では、α型およびβ型のいずれの半水石膏も用いることができる。石膏粉末は、硬化物の強度が一定の強度を維持できる範囲で、着色剤や、充填剤を含むことができる。さらに、石膏粉末は、凝結促進剤や凝結遅延剤を含んでもよく、これらによって水硬性を調整することもできる。石膏粉末は、陰型内への注入時の流動性調整や、硬化物の寸法安定性の観点から、シリカや、ジルコニア、アルミナを含んでもよい。
【0031】
水溶性フィルムは、フィルム形成可能な(成膜性を有する)水溶性の材料を含む。石膏粉末をヒートシールによって簡易に包装できるとともに、包装物の取り扱い時に容易に破損しない強度(破れにくさ)を有する観点から、水溶性有機材料を含むことが好ましい。水溶性有機材料としては、例えば、PVA系樹脂、ポリビニルピロリドン(PVP)、アルキルセルロース、水溶性ポリアクリレート、ポリアクリルアミド、アクリル無水マレイン酸樹脂、ゼラチン、水溶性でんぷん、寒天などから選択される。
【0032】
水溶性フィルムは、上記水溶性有機材料の単一組成のフィルムであってもよいし、2以上の水溶性有機材料の混合組成のフィルムであってもよい。さらに、着色剤や、補強材などを含んでもよい。
【0033】
歯科用石膏の練和時および硬化時にフィルム成分が共存することによる石膏本来の特性(練和物の流動性、硬化物の強度など)への影響を考慮すると、石膏粉末に対する水溶性フィルムの比率は適切な範囲で制御する必要があると考えられる。本発明の個包装歯科材料は、100質量部の石膏粉末に対して、例えば、0.1~10.0質量部の水溶性フィルムを含むことができる。個包装歯科材料中の水溶性フィルムの含有量は、開封時の臭気抑制や硬化物の強度の観点から、100質量部の石膏粉末に対して、0.1~5.0質量部であることが好ましく、0.1~3.0質量部であることがより好ましく、0.1~1.5質量部であることがより好ましい。
【0034】
本発明の個包装歯科材料は、上述した石膏粉末と水溶性フィルムとともに、香料組成物を含む。これにより、水溶性フィルム由来の臭気が香料組成物から発散される香気によってマスキングされ、密封状態から開封される際の臭気が抑制される。本発明の個包装歯科材料は、水に投入して使用する歯科材料であるため、香料組成物は水と馴染みの良い(親水性)材料であるか、極微量の添加で十分な香気を付与でき油膜などが発生しにくい材料であることが好ましい。歯科用石膏は着色されることも多いため、色のイメージに合わせた香料を添加することで、色と香りの組み合わせを提供することもできる。
【0035】
香料組成物は、香り成分と、該香り成分の揮発速度を調整する保香剤とを含むことが好ましい。保香剤は、例えば、香り成分よりも沸点が高く、香り成分に配合することで香り成分の揮発速度を低下させることができる。保香剤は、水溶性フィルムの破損防止の観点から、水溶性フィルムに対して非膨潤性、または、非溶解性であることが好ましい。香料組成物は、保香剤を、例えば30体積%以上含むことができる。香料組成物は、さらに防腐剤や酸化防止剤など他の成分を含んでもよい。
【0036】
香料組成物の性状は、例えば、液状であってもよいし、粉状であってもよい。取り扱い性や香り付与のしやすさの観点からは、液状であることが好ましい。
【0037】
香り成分としては、例えば、オレンジ香料、ハッカ香料、ライム香料、ユーカリ香料、シトロネラ香料、ショウガ香料などから自由に選択できる。香り成分は、単一成分から構成されてもよいし、複数成分から構成されてもよい。香り成分は、保香剤など他の成分との相溶性に優れることが好ましい。
【0038】
保香剤のHSPは、水溶性フィルムのHSPを中心座標とする相互作用半径R=8.0MPa1/2の球の範囲外であることが好ましい。上記球の範囲内のHSPを有する保香剤は、HSPの3次元空間において水溶性フィルムとの距離が近く親和性が高いため、水溶性フィルムを膨潤したり、溶解したりするおそれがある。よって、保香剤のHSPが上記球の範囲外である場合、保香剤が水溶性フィルムを膨潤や溶解しにくく、水溶性フィルムがより破損しにくい。なお、上記水溶性フィルムのHSPは、水溶性フィルムを構成する材料の化学構造に基づいて、HSP計算ソフトにより計算できる。
【0039】
水溶性フィルムが、特に親水性の高いフィルムの場合、保香剤のHSPが、中心座標(δD,δP,δH)=(15.6,12.3,27.3)MPa1/2で相互作用半径R=15.5MPa1/2である球、および、中心座標(δD,δP,δH)=(18.5,14.7,11.1)MPa1/2で相互作用半径R=8.8MPa1/2である球の範囲外であることが特に好ましい。
【0040】
また、水溶性フィルムの破損防止の観点からは、香り成分のHSPも、水溶性フィルムのHSPを中心座標とする相互作用半径R=8.0MPa1/2の球の範囲外であることが好ましく、中心座標(δD,δP,δH)=(15.6,12.3,27.3)MPa1/2で相互作用半径R=15.5MPa1/2である球、および、中心座標(δD,δP,δH)=(18.5,14.7,11.1)MPa1/2で相互作用半径R=8.8MPa1/2である球の範囲外であることがより好ましい。
【0041】
上述した球の範囲外のHSPを有する保香剤の含有量としては、香料組成物に対して30体積%以上が好ましく、40体積%以上がより好ましく、50体積%以上がさらに好ましい。
【0042】
香料組成物中の添加量は少量であるため、球の範囲内にある成分が存在しても含有量が少なければ、香料組成物が水溶性フィルムに付着などしても問題は起きにくい。球の範囲内にある成分が香料組成物に対して70体積%以下であれば、水溶性フィルムの強度が低下したり、フィルム表面がヌルヌル、ベタベタした触感になりにくい。また、50体積%以下であれば、水溶性フィルムに液滴の跡が残りにくくなり、歯科用石膏として外観上、使用特性上ともに影響を及ぼさない。
【0043】
保香剤としては、例えば、パルミチン酸イソプロピル、ベンジルベンゾエート、イソプロピルミリステート、リナロール、2-メチル-3-(4-tert-ブチルフェニル)プロパナール、2-tert-ブチルシクロヘキシルアセテート、2,4-ジメチル-3-シクロヘキセニルカルバルデヒド、酢酸イソペンチル、ゲラニオール、4,6,6,7,8,8-ヘキサメチル-1,3,4,6,7,8-ヘキサヒドロシクロペンタ[g]イソクロメン、酢酸ゲラニル、(E)-シトラール、3,7-ジメチル-3-オクタノール、α-ターピネオール、β-ターピネオール、ヘキサヒドロ-4,7-メタノインデン-(5or6)-イルプロピオネート、メチル-2-ナフチルエーテル、ヘキシルアセテート、エチル-2-トリシクロ[5.2.1.02,6]デカンカルボキシラート、シクロヘキシルプロピオン酸アリル、シクラメンアルデヒド、2-メチルウンデカナール、δ-ダマスコン、2,6-ジメチル-5-ヘプテナール、酢酸n-ブチル、ヘキサン酸エチル、α-ヘキシルシンナムアルデヒド、δ-ダマスコン、スチラリルアセテート、γ-テルピネン、オイゲノール、オルトオイゲノール、ジプロピレングリコール、ジエチル二レート、ハーコリン、テルペン、流動パラフィン、イソデカン、イソウンデカン、イソドデカン、イソトリデカン、イソテトラデカン、イソペンタデカン、イソヘキサデカンなどのイソパラフィン、などから自由に選択できる。保香剤は、単一成分から構成されてもよいし、複数成分から構成されてもよい。
【0044】
保香剤が複数成分から構成される場合(混合系保香剤の場合)、混合系保香剤のHSPは、3つの項それぞれにおいて、各保香剤成分の項に体積分率を掛け合わせた値の総和として算出できる。例えば、成分a、成分bの2成分からなる混合系保香剤の分散項は下記式(1)のように算出できる。
(混合系保香剤の分散項)
=(成分aの分散項)×(成分aの体積分率)+(成分bの分散項)×(成分bの体積分率)・・・(1)
また、例えば4成分からなる混合系保香剤の場合、成分a~dまで拡張して同様に計算できる。分極項および水素結合項についても分散項と同様に計算することで、混合系保香剤のHSPを算出できる。
【0045】
水溶性フィルムは、水溶性、ガスバリア性、ヒートシール性、取り扱い性などの観点から、PVA系樹脂を含むPVA系フィルムであることが特に好ましい。PVA系樹脂としては特に限定されず、公知のPVA系樹脂を用いることができる。そして、公知の方法に従って、酢酸ビニルなどのビニルエステルを溶液重合法、塊状重合法および懸濁重合法などの公知の方法により重合してポリマーを得た後、ポリマーをケン化することにより得られる。ケン化は、アルカリまたは酸を用いてなされ、特にアルカリを用いることが好ましい。水溶性フィルムは、PVA系樹脂を1種のみ含んでもよいし、けん化度や構造が異なる2種以上のPVA系樹脂を含んでもよい。
【0046】
PVA系フィルムは臭気を通しにくいものの、その製法や構造によってはフィルム自体が独特の臭気を発する。PVA系フィルムには、例えば、鼻にツンとくる酢酸臭を放出しやすいものがある。そのようなPVA系フィルムで包装された複数の個包装歯科材料が梱包された梱包物を開封した際などには作業者が特に臭気を気にしやすいと考えられる。また、強い臭気はなくても、作業者によっては異臭と感じるPVA系フィルムもある。
【0047】
このように独特の臭気を発しやすいPVA系フィルムを、石膏粉末を包装する水溶性フィルムとして用いる場合、個包装歯科材料が、PVA系フィルムを、石膏粉末100質量部に対して0.1~3.0質量部含むことにより、それよりも多量のPVA系フィルムを含む場合に比べ、個包装歯科材料が梱包された密閉容器を開封した際の臭気を抑制できる。
【0048】
PVA系樹脂の平均ケン化度は、特に限定されない。水溶性の観点から、60~100モル%が好ましく、70モル%~99モル%がより好ましく、80~99モル%がさらに好ましく、87~98モル%が特に好ましい。なお、上記の平均ケン化度は、JIS K 6726-1994に準拠して測定される。
【0049】
PVA系樹脂を含むフィルム(PVA系フィルム)としては、例えば、ソルブロン(アイセロ社製)、ハイセロン(三菱ケミカル社製)、トスロン(東京セロハン紙社製)、クラレポバールフィルム(クラレ社製)などが挙げられる。
【0050】
歯科用石膏と水との練和について説明する。石膏粉末は、JIS T 6600:2016(以下、単に「JIS規格」ともいう)に基づき、23℃±2℃の温度条件下で所定量の水と水和反応して硬化するように水硬性が制御されている。作業者が石膏粉末と水との練和を行う時間は約1分~2分程度であると考えられる。このため、水溶性フィルムは、23℃の水に入れて1分以内で溶解するフィルムであることが好ましい。ここで、フィルムの溶解に用いる水の量は、フィルムを溶解させるのに十分な量であることとする。
【0051】
練和用の水として水道水が用いられることも考慮すると、冬季の水道水を想定し、水溶性フィルムは冷水にも溶解することが好ましい。水溶性フィルムは、例えば、10℃の水に入れて1分以内で溶解するフィルムであることがより好ましく、4℃の水に入れて1分以内で溶解するフィルムであることがさらに好ましい。
【0052】
水溶性フィルムの厚さとしては、例えば、1μm~100μmの範囲で自由に選択できる。水溶性フィルムの厚さは、開封時の臭気抑制の観点からは、1μm~80μmであることが好ましく、1μm~60μmであることがより好ましく、1μm~40μmであることがさらに好ましい。また、水溶性フィルムの厚さは、取り扱いやすさの観点からは、10μm~60μmであることが好ましく、20μm~50μmであることがより好ましく、20μm~40μmであることがさらに好ましい。
【0053】
水溶性フィルムは、破れにくさの観点からは引張強度が40MPa~80MPaであることが好ましく、取り扱いやすさの観点からは20MPa~50MPaであることが好ましい。また、引張伸度が150%~400%であることが好ましい。
【0054】
本発明の個包装歯科材料の製造方法(石膏粉末を包装する方法)の一例について説明する。本発明の個包装歯科材料の製造方法は、石膏粉末を準備する石膏粉末準備工程と、水溶性フィルムを準備するフィルム準備工程と、石膏粉末を水溶性フィルムで所定量ごとに個別に包装する個包装工程とを有する。なお、石膏粉末準備工程と水溶性フィルム準備工程はどちらが先に行われてもよく、同時並行で行われてもよい。
【0055】
石膏粉末準備工程では所定量(1回の使用で使い切る量で、例えば、100g)の石膏粉末を計量して準備する。フィルム準備工程では所定の大きさ(例えば、15cm×15cm)の水溶性フィルムを切り出すなどして準備する。個包装工程では、準備した水溶性フィルムを折り畳んだ折り畳み部の両端に位置する対向する2辺それぞれを、例えば約120℃~200℃の温度でヒートシールして袋状にする。得られた袋状フィルムに、所定量の石膏粉末を入れ、袋状フィルムの開口部をヒートシールして個包装歯科材料が得られる。なお、個包装歯科材料は、2枚の水溶性フィルムで所定量の石膏粉末を挟み、石膏粉末周囲をヒートシールすることで個包装するなどしてもよい。
【0056】
香料組成物は、石膏粉末準備工程において石膏粉末に噴霧されてもよいし、フィルム準備工程において水溶性フィルムに噴霧されてもよいし、または個包装工程に続いて個包装歯科材料の外表面に噴霧されてもよい。これら3つの方法(段階)のうち少なくとも1つで香料組成物が噴霧されることで、個々の個包装歯科材料に香りが付与される。その結果、密封状態において個包装歯科材料から香り成分が徐々に揮発し、開封時の臭気が抑制される。また、使用時には華やかな香気を作業者へ届けることができる。
【0057】
香料組成物の噴霧量は、例えば1~200μLであり、水溶性フィルムの破損や個包装歯科材料表面のベタつき防止の観点から、1~100μLが好ましく、1~20μLがより好ましく、1~10μLがさらに好ましい。
【0058】
後述するように個包装歯科材料は製造後に複数個ずつ包装されたり、容器に入れられる。そのため、香料組成物は、個包装工程に続く包装時や、容器に入れられた際に個包装歯科材料の外表面に噴霧してもよい。この場合、香料組成物は水溶性フィルムに直接付着するため、その組成の多くを占める保香剤が、水溶性フィルムに対して非膨潤性、または、非溶解性であることが特に好ましい。本方法によれば、少量多品種に適し、特に幅広い香りのラインナップを提供しやすい。
【0059】
本発明の個包装歯科材料は、流通や長期保管時における個包装歯科材料の品質保持などを目的に、例えば複数個がまとめて梱包された梱包物として出荷される。この際、個包装歯科材料は、気密性フィルムによって梱包されることが好ましい。気密性フィルムは、香料組成物を含んだフィルムであることが好ましい。これにより、長期保管時などに梱包物中に徐々に香り成分が揮発し梱包物内に香気が充満するので、香料組成物を水溶性フィルムへ噴霧したり、個包装歯科材料の外表面へ噴霧したりすることなく、簡易に水溶性フィルム由来の臭気をマスキングできる。また、気密性フィルムから、個包装歯科材料へ香料組成物が徐々に移行し、個包装歯科材料に対して簡易に香り付けすることができる。
【0060】
個包装歯科材料の梱包物の製造方法の一例について説明する。個包装歯科材料の梱包物の製造方法は、例えば、石膏粉末を水溶性フィルムで所定量ごとに個別に包装する個包装工程と、個包装歯科材料を密封する気密性フィルムを準備する気密性フィルム準備工程と、気密性フィルムで個包装歯科材料を包装する包装工程とを有する。
【0061】
香料組成物を含んだ気密性フィルムは、例えば、気密性フィルムを構成する多層フィルム(アルミ蒸着フィルムなどのいわゆるバリアフィルム)において、包装体とした際に内側となる層、またはヒートシール層(LLDPEなど)に、香料組成物を含んだ樹脂材料を用いることにより得られる。
【0062】
本発明の個包装歯科材料は、作業者が練和作業をする際に所定量の水との練和を簡易に行えるように、例えば、各個包装歯科材料のパックの表面、複数の個包装歯科材料を梱包した梱包物の外面、取扱説明書などに1袋分の練和に必要な水量を表示することが好ましい。作業者が必要な水量を確認しやすくして水量間違いを抑制する観点から、各個包装歯科材料のパックの表面に上記必要な水量を表示しておくことがより好ましい。この場合、ヒートシール前のフィルムの状態で表記してもよいし、石膏粉末を包装してパックとなった状態で表記してもよい。
【0063】
本発明の個包装歯科材料の使用方法の一例について
図2に基づき説明する。
図2は、個包装歯科材料を水と練和する際に用いるものを示す図である。100gの石膏粉末2を有する個包装歯科材料1を用いて混水比23%で練和する場合、個包装歯科材料1を1袋と、1袋当たりの必要水量(単位必要水量)である23gの水4とを容器5の中で練和する。練和に用いる水4は、例えば23℃の水である。個包装歯科材料1と水4を、ヘラを用いて30秒間撹拌し、さらに撹拌羽根6を用いて機械により1分間撹拌して均一に練和された石膏の練和物が得られる。練和物は、印象に注入され、例えば約9分かけて硬化させることで模型が得られる。なお、練和の開始は、容器5の中の水4に個包装歯科材料1を投入したときである。容器5の中に個包装歯科材料1が先にある場合は、容器5の中の個包装歯科材料1に水4を投入したときを練和の開始とする。模型の作製などに大量の練和物が必要な場合、複数個の個包装歯科材料1と、それと同数倍の単位必要水量を用いて練和することもできる。
【0064】
歯科用石膏は、JIS規格において、線硬化膨張および圧縮強さによりタイプ1~タイプ5に分類される。例えば、JIS規格タイプ4またはタイプ5の歯科用石膏は、当該石膏の製造販売業者が指定する混水比で水と練和して得られる硬化物の圧縮強さが35.0MPa以上である。ここで、「圧縮強さ」は、JIS T 6600:2016に準拠して測定される温度23℃での圧縮強さであり、練和開始から60分後の硬化物を測定して得られる破壊時の最大強度(いわゆる「ぬれ圧縮強度」)である。
【0065】
本発明の個包装歯科材料の梱包形状は、
図1に示すような平らな袋状に限定されず、円筒状(俵状)、箱状、三角錐状など、任意に形状を採用できる。
【実施例0066】
以下に試験例および実施例を記載するがなんらこれに限定されるものではない。
【0067】
(試験例)
種々の保香剤について、水溶性フィルム(2cm×2cm)に保香剤を2μL滴下した際の液滴痕や変形の有無を確認する膨潤試験を実施し、膨潤球の作成を行った。ここでの膨潤球は、HSPの3次元空間において、液滴痕や変形が見られた(膨潤や溶解が起こった)保香剤を内側に内包し、液滴痕や変形が見られなかった保香剤が外側になるような球である。HSPが膨潤球の範囲内の保香剤は、水溶性フィルムに対してダメージを与えるため、適切な保香剤とはいえない。HSPが膨潤球の範囲外の保香剤は、水溶性フィルムに対して形状変化や強度の低下を起こしにくいと考えられる。
【0068】
水溶性フィルムとしては、PVA系フィルムであるソルブロンCP(アイセロ社製、厚さ30μm)と、ハイセロンC-200(三菱ケミカル社製、厚さ30μm)の2種類を用いた。なお、保香剤のHSPは各化学構造に基づき、HSP計算ソフトHansen Solubility Parameters in Practice(HSPiP) 5th Edition 5.2.06を用いて算出した。HSPの定義と計算は、Charles M.Hansen著、Hansen Solubility Parameters: A Users Handbook(CRCプレス,2007年)に記載されている。
【0069】
表1には、試験に用いた保香剤のHSP、およびPVA系フィルム膨潤球領域における高δH側の膨潤球(高δH球)と低δH側の膨潤球(低δH球)の範囲に対する内外を示す。また、表2には、高δH球と低δH球のHSPおよび相互作用半径R(HSPの3次元空間における水溶性フィルムの膨潤球の中心座標と、液滴痕や変形が見られた保香剤のうち最も離れた位置にある保香剤の座標との距離)を示す。なお、化学構造に基づいて計算された上記2種のPVA系フィルムのHSPはそれぞれ近しい値であり、保香剤を滴下した際の挙動も同じ傾向を示した。膨潤球は、2つの球で表現することにより、膨潤試験の結果と矛盾のない形状となった(膨潤球の範囲内の保香剤は膨潤・溶解性を示し、膨潤球の範囲外の保香剤は膨潤・溶解性を示さない)。
【0070】
【0071】
【0072】
図3は、HSPの3次元空間上に上記水溶性フィルムの膨潤球および各保香剤を示した図である。水溶性フィルムとしてPVA系フィルムを用い、香料組成物がフィルムへ直接噴霧される場合、水溶性フィルムの破損防止の観点から、保香剤のHSPは、2つの膨潤球の範囲外であることが特に好ましい。
【0073】
(実施例1~5、比較例1、2)
実施例1~5、比較例2では、歯科用の石膏粉末として硬石膏ノリタケストンExホワイト(クラレノリタケデンタル社製)を用いて、石膏粉末に対する混水比23%で練和、硬化を行った。石膏粉末を100gずつ計量し、重量(フィルム面積)が異なる水溶性のPVA系フィルムで石膏粉末を包装後、155℃でヒートシールし個包装歯科材料とした。
【0074】
各実施例において、個包装歯科材料に上記PVA系フィルムの膨潤球の範囲外のHSPを有する保香剤を含んだ香料組成物(長谷川香料製、保香剤としてイソパラフィンを50体積%以上含有)を5μL噴霧した。個包装歯科材料は10個ずつ、気密性フィルムであるアルミ蒸着フィルムを用いて155℃でヒートシールにより梱包した。個包装歯科材料は、梱包物中に密封し、24時間後に開封した。梱包物の開封時にはフィルム起因の臭気の有無について試験した。なお、比較例2の個包装歯科材料には香料組成物の噴霧を行わず、開封時の臭気試験を行った。
【0075】
開封された個包装歯科材料はそれぞれ、23℃の水23gが入った容器内へ1袋の個包装歯科材料を投入した後、ヘラを用いて30秒間撹拌し、さらに機械により1分間撹拌した。得られた練和物についてちょう度測定を行うとともに、練和物が硬化物となるまでの時間(硬化時間)、硬化膨張率(線硬化膨張)、圧縮強さ、細線再現性の試験を行った。また、比較例1として、水溶性フィルムで個包装していない上記石膏粉末100gからなる歯科材料についても同様に練和、硬化させ、上記試験を行った。実施例1~5、比較例2で用いたPVA系フィルムを以下に示す。
【0076】
実施例1~4、比較例2:アイセロ社製、ソルブロンCS、厚さ30μm
実施例5:三菱ケミカル社製、ハイセロンC-200、厚さ30μm
【0077】
<開封時の臭気>
開封時の臭気は、梱包物を室温下に置き、密封から24時間後に梱包物を開封した際に、評価者が水溶性フィルム起因の臭気を感じたか否か(水溶性フィルム起因の臭気を感じなかった場合を「○」、感じた場合を「×」と判定)により評価した。結果を表3に示す。
【0078】
<ちょう度測定>
JIS K 2220に準拠した方法で、各練和物のちょう度を測定した。ちょう度測定は、機械による撹拌の直後に行った。結果を表3に示す。
【0079】
<硬化時間、硬化膨張率、圧縮強さ、細線再現性>
硬化時間、硬化膨張率、圧縮強さ、および細線再現性は、JIS T 6600:2016 タイプ5に準拠して測定した。結果を表3に示す。なお、細線再現性は、練和物を印象に注入して得られる硬化物の模型を用いて行い、50±8μmのラインを再現可能な場合を「○」、再現不可能な場合を「×」として評価した。
【0080】
【0081】
表3に示すように、実施例1~5では、開封時に水溶性フィルム起因の臭気を感じなかった。また、水溶性フィルムに噴霧痕や変形などの外観上の変化はなく、手触りや強度にも変化がなかった。実施例1~5は練和物を得るための撹拌時には華やかな香気が感じられた。一方、比較例2では、開封時に水溶性フィルム起因の臭気が感じられた。
【0082】
実施例1~5は、石膏粉末が個包装されていない比較例1よりも作業性に優れつつ、比較例1と同等程度のちょう度、硬化時間、硬化膨張率であった。なお、実施例1~5は、比較例1よりも、ちょう度がやや大きく(実施例5を除く)、硬化時間がやや長い傾向を示した。
【0083】
JIS T 6600:2016 タイプ5の硬質石膏の場合、硬化物の圧縮強さの規格値が35.0MPa以上であるところ、水溶性フィルムを石膏粉末100質量部に対して0.1~3.0質量部含む実施例1~3、5の硬化物の圧縮強さは全て35.0MPa以上で、規格値を満たした。また、実施例1~5は、JIS T 6600:2016 タイプ5で規定される硬化膨張率、細線再現性を満たすことが確認された。
【0084】
(実施例6~8)
実施例6~8では、上述の実施例2と同様に、原料として石膏粉末(クラレノリタケデンタル社製、硬石膏ノリタケストンExホワイト)と、PVA系フィルム(アイセロ社製、ソルブロンCS、厚さ30μm)を用い、1.4gの水溶性のPVA系フィルムで100gの石膏粉末を包装後、155℃でヒートシールし個包装歯科材料とした。
【0085】
実施例6の個包装歯科材料には、上記PVA系フィルムの膨潤球の範囲外のHSPを有する保香剤を含んだ香料組成物(長谷川香料製、保香剤としてイソパラフィンを50体積%以上含有)を100μL噴霧し、アルミ蒸着フィルムを用いて155℃でヒートシールして梱包した。
【0086】
実施例7の個包装歯科材料には、上記PVA系フィルムの膨潤球の範囲内のHSPを有する保香剤を含んだ香料組成物(長谷川香料製、保香剤としてジプロピレングリコールを70体積%以上含有)を5μL噴霧し、アルミ蒸着フィルムを用いて155℃でヒートシールして梱包した。
【0087】
実施例8の個包装歯科材料には、上記PVA系フィルムの膨潤球の範囲内のHSPを有する保香剤を含んだ香料組成物(長谷川香料製、保香剤としてジプロピレングリコールを50~60体積%以上含有)を5μL噴霧し、アルミ蒸着フィルムを用いて155℃でヒートシールして梱包した。
【0088】
個包装歯科材料は、それぞれ上述した条件で開封時の臭気の試験を行った。
【0089】
実施例6では、開封時に水溶性フィルム起因の臭気を感じなかったものの、香り成分の臭いが強かった。水溶性フィルムに噴霧痕、変形、損傷などの外観上の変化はなく、手触りや強度にも変化がなかった。
【0090】
実施例7では、開封時に水溶性フィルム起因の臭気を感じなかったものの、水溶性フィルムの表面にベタつきがあり、掴みにくく、フィルム強度もやや低下していた。
【0091】
実施例8では、開封時に水溶性フィルム起因の臭気を感じず、水溶性フィルムの手触りや強度に変化がなかったものの、水溶性フィルムの表面に噴霧痕が観察された。
【0092】
実施例6~8の個包装歯科材料は、作業性に優れるとともに、水との練和物の細線再現性と硬化物の各種特性は実施例2と同等であり、水との練和時には香料組成物の油膜は見られなかった。