(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024037160
(43)【公開日】2024-03-18
(54)【発明の名称】エッチング液組成物
(51)【国際特許分類】
H01L 21/308 20060101AFI20240311BHJP
【FI】
H01L21/308 F
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023142968
(22)【出願日】2023-09-04
(31)【優先権主張番号】P 2022141490
(32)【優先日】2022-09-06
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000000918
【氏名又は名称】花王株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000040
【氏名又は名称】弁理士法人池内アンドパートナーズ
(72)【発明者】
【氏名】内田 洋平
【テーマコード(参考)】
5F043
【Fターム(参考)】
5F043AA24
5F043AA26
5F043BB16
5F043BB18
(57)【要約】
【課題】一態様において、保存安定性に優れるエッチング液組成物を提供する。
【解決手段】本開示は、一態様において、少なくとも1種の金属を含む被エッチング層をエッチングするためのエッチング液組成物であって、前記エッチング液組成物は、硝酸と、数平均分子量が300以上である多価アミンと、分子量が300未満である含窒素塩基性化合物と、水と、を含む、エッチング液組成物に関する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも1種の金属を含む被エッチング層をエッチングするためのエッチング液組成物であって、
前記エッチング液組成物は、硝酸と、数平均分子量が300以上である多価アミンと、分子量が300未満である含窒素塩基性化合物と、水と、を含む、エッチング液組成物。
【請求項2】
硝酸の配合量(質量%)aと数平均分子量が300以上である多価アミンの配合量(質量%)bと分子量が300未満である含窒素塩基性化合物の配合量(質量%)cとが、(a-c)4/b≦600の関係を満たす、請求項1に記載のエッチング液組成物。
【請求項3】
硝酸以外の酸をさらに含む、請求項1又は2に記載のエッチング液組成物。
【請求項4】
硝酸以外の酸は、リン酸、酢酸、メトキシ酢酸及びエトキシ酢酸から選ばれる少なくとも1種である、請求項3に記載のエッチング液組成物。
【請求項5】
前記金属が、タングステン、タンタル、ジルコニウム、ハフニウム、モリブデン、ニオブ、ルテニウム、オスミウム、レニウム、ロジウム、銅、ニッケル、コバルト、チタン、窒化チタン、アルミナ、アルミニウム及びイリジウムから選ばれる少なくとも1種の金属である、請求項1から4のいずれかに記載のエッチング液組成物。
【請求項6】
請求項1から5のいずれかに記載のエッチング液組成物を用いて、少なくとも1種の金属を含む被エッチング層をエッチングする工程を含む、エッチング方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、エッチング液組成物及びこれを用いたエッチング方法に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体装置の製造過程において、例えば、タングステン、タンタル、ジルコニウム、ハフニウム、モリブデン、ニオブ、ルテニウム、オスミウム、レニウム、ロジウム、銅、ニッケル、コバルト、チタン、窒化チタン、アルミナ、アルミニウム及びイリジウム等の少なくとも1種の金属を含む被エッチング層をエッチングして所定のパターン形状に加工する工程が行われている。
近年の半導体分野においては高集積化が進んでおり、配線の複雑化や微細化が求められており、パターンの加工技術やエッチング液に対する要求も高まりつつあり、様々なエッチング方法やエッチング液が提案されている(特許文献1~4)。
【0003】
例えば、特許文献1では、50~80質量%のリン酸と、0.5~10質量%の硝酸と5~30質量%の酢酸と0.01~5質量%のイミダゾールとを含むエッチング液組成物を用いて、Cu/Mo積層金属膜等の多重膜を一括でエッチング処理する方法が提案されている。
特許文献2では、硝酸と、含フッ素化合物と、窒素原子をもつ繰り返し単位を複数有する含窒素有機化合物Aまたはリン含有化合物Bとを含むエッチング液を用いて、チタン含有層とシリコン含有層とをエッチング処理する方法が提案されている。
特許文献3では、モリブデン又はモリブデン合金の金属薄膜の少なくとも1層を有する金属膜のエッチングに使用される、リン酸、硝酸、1分子中に3個以上のアミノ基を含有するポリアルキレンポリアミンを含有するエッチング液が提案されている。
特許文献4では、タングステン含有金属およびTiN含有材料の両方に好適なエッチング液であって、水、酸化剤、フッ素含有エッチング化合物、有機溶媒、キレート剤、腐食防止剤、界面活性剤から選択される少なくとも1種又は2種以上の成分を含んでなるエッチング液が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2012-49535号公報
【特許文献2】特開2015-144230公報
【特許文献3】特開2013-237873号公報
【特許文献4】特開2022-2324号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
エッチング液としては、リン酸、硝酸及び酢酸を含む混酸水溶液(強酸性水溶液)が一般的に使用されている。特許文献2では、エッチングを抑制してエッチング選択性を向上する剤としてポリエチレンイミン等の含窒素有機化合物を添加することが提案されているが、前記混酸水溶液にポリエチレンイミン等を添加すると、濁りが発生し、エッチング液の保存安定性が悪化する。特に、低温(例えば、10℃以下)で保存すると、濁りが発生しやすいという問題がある。
【0006】
そこで、本開示は、一態様において、保存安定性に優れるエッチング液組成物及びこれを用いたエッチング方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本開示は、一態様において、少なくとも1種の金属を含む被エッチング層をエッチングするためのエッチング液組成物であって、前記エッチング液組成物は、硝酸と、数平均分子量が300以上である多価アミンと、分子量が300未満である含窒素塩基性化合物と、水と、を含む、エッチング液組成物に関する。
【0008】
本開示は、一態様において、本開示のエッチング液組成物を用いて、少なくとも1種の金属を含む被エッチング層をエッチングする工程を含む、エッチング方法に関する。
【発明の効果】
【0009】
本開示によれば、一態様において、保存安定性に優れるエッチング液組成物を提供できる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明者らが鋭意検討した結果、硝酸と数平均分子量300以上の多価アミンと分子量300未満の含窒素塩基性化合物とが配合されているエッチング液を用いることで、保存安定性を向上、特に低温(10℃以下)での保存安定性を向上できることを見いだした。
【0011】
本開示は、一態様において、少なくとも1種の金属を含む被エッチング層をエッチングするためのエッチング液組成物であって、前記エッチング液組成物は、硝酸と、数平均分子量が300以上である多価アミンと、分子量が300未満である含窒素塩基性化合物と、水と、を含む、エッチング液組成物(以下、「本開示のエッチング液組成物」ともいう)に関する。
【0012】
本開示の効果発現のメカニズムの詳細は明らかではないが、以下のように推察される。
多価アミンは分子中に複数のアミノ基を有しており、この全てのアミノ基が水中で硝酸と塩を形成し得る。アミノ基と硝酸との塩は水への溶解性がそれほど高くないため、硝酸と塩を形成しているアミノ基の数が多いほど溶液への溶解性が低下し、特に低温(例えば、10℃以下)で液の濁りが発生しやすくなる。本開示では、数平均分子量が300以上である多価アミンと分子量が300未満である含窒素塩基性化合物を併用する。これにより、含窒素塩基性化合物が硝酸と塩を形成するため硝酸イオン量は減少し、多価アミン1分子中で硝酸と塩を形成するアミノ基の量が減少する。多価アミン1分子中のアミノ基と硝酸との塩の量が減少し、低温(例えば、10℃以下)で保存しても液の濁りが発生しにくく、保存安定性を向上できると考えられる。
また、本開示のエッチング液組成物は安定な組成を有することから、被エッチング層への均一な接触がなされ均一なエッチングも行えると考えられる。
但し、本開示はこれらのメカニズムに限定して解釈されなくてもよい。
【0013】
[硝酸]
本開示のエッチング液組成物中の硝酸の配合量は、エッチング速度向上の観点から、0.5質量%以上が好ましく、1質量%以上がより好ましく、1.5質量%以上が更に好ましく、そして、保存安定性向上の観点から、20質量%以下が好ましく、10質量%以下がより好ましく、8質量%以下が更に好ましい。より具体的には、本開示のエッチング液組成物中の硝酸の配合量は、0.5質量%以上20質量%以下が好ましく、1質量%以上10質量%以下がより好ましく、1.5質量%以上8質量%以下が更に好ましい。
【0014】
[数平均分子量が300以上である多価アミン]
本開示のエッチング液組成物に含まれる数平均分子量が300以上である多価アミンは、一又は複数の実施形態において、分子内に2つ以上のアミノ基を有する化合物であればよい。前記多価アミンとしては、一又は複数の実施形態において、エッチング抑制の観点から、ポリアルキレンイミン、アミノ基とエチレン性不飽和二重結合とを有する化合物由来の構成単位を有するポリマー等が挙げられる。前記ポリアルキレンイミンとしては、例えば、ポリエチレンイミン(PEI)等が挙げられ、分岐状のポリエチレンイミンが好ましい。前記アミノ基とエチレン性不飽和二重結合を有する化合物由来の構成単位を有するポリマーとしては、例えば、ジアリルアミン共重合体、ジアリルアミン/二酸化硫黄共重合体、ジアリルジメチルアンモニウムクロリド重合体、ジアリルジメチルアンモニウムクロリド/二酸化硫黄共重合体が挙げられる。これらの中でも、エッチング抑制の観点から、前記多価アミンとしては、PEI等のポリアルキレンイミンが好ましい。数平均分子量が300以上である多価アミンは、1種単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0015】
前記多価アミンの数平均分子量は、一又は複数の実施形態において、エッチング抑制の観点から、300以上であって、600以上が好ましく、1,200以上がより好ましく、そして、保存安定性向上の観点から、100,000以下が好ましく、5,000以下がより好ましく、3,000以下が更に好ましい。より具体的には、前記多価アミンの数平均分子量は、300以上100,000以下が好ましく、600以上5,000以下がより好ましく、1,200以上3,000以下 が更に好ましい。
【0016】
本開示において、数平均分子量は、ゲル・パーミエーション・クロマトグラフィー(GPC)によって下記条件で測定できる。
<GPC条件>
試料液:0.1wt%の濃度に調整したもの
装置/検出器:HLC-8320GPC(一体型GPC)東ソー株式会社製
カラム:α-M+α-M(東ソー株式会社製)
溶離液:0.15mol/L Na2SO4,1% CH3COOH/水
カラム温度:40℃
流速:1.0mL/min
試料液注入量:100μL
標準ポリマー:分子量が既知のプルラン(Shodex社 P-5、P-50、P-200、P-800)
【0017】
本開示のエッチング液組成物中の数平均分子量が300以上である多価アミンの配合量は、保存安定性向上の観点から、0.1質量%以上が好ましく、0.2質量%以上がより好ましく、0.4質量%以上が更に好ましく、そして、溶液粘度に伴うろ過時の通液性の観点から、20質量%以下が好ましく、10質量%以下がより好ましく、5質量%以下が更に好ましい。より具体的には、本開示のエッチング液組成物中の数平均分子量が300以上である多価アミンの配合量は、0.1質量%以上20質量%以下が好ましく、0.2質量%以上10質量%以下がより好ましく、0.4質量%以上5質量%以下が更に好ましい。前記多価アミンが2種以上の組合せである場合、前記多価アミンの配合量はそれらの合計配合量である。
【0018】
[分子量が300未満である含窒素塩基性化合物]
本開示のエッチング液組成物に含まれる含窒素塩基性化合物の分子量は、一又は複数の実施形態において、保存安定性向上の観点から、300未満であって、250以下が好ましく、200以下がより好ましく、そして、被エッチング層の均一なエッチングの観点から、15以上が好ましく、20以上がより好ましく、30以上が更に好ましい。より具体的には、前記含窒素塩基性化合物の分子量は、15以上300未満が好ましく、20以上250以下がより好ましく、30以上200以下が更に好ましい。
【0019】
前記含窒素塩基性化合物としては、一又は複数の実施形態において、保存安定性向上の観点から、アンモニア、アルキルアミン、アルカノールアミン、脂環式アミン、芳香族アミン及びポリアルキレンポリアミンから選ばれる少なくとも1種が好ましく、アンモニア、脂環式アミン、及びポリアルキレンポリアミンから選ばれる少なくとも1種がより好ましい。
前記アルキルアミンとしては、例えば、エチルアミンが挙げられる。前記アルカノールアミンとしては、例えば、2-(2-アミノエチルアミノ)エタノールが挙げられる。前記脂環式アミンとしては、例えば、N-(2-ヒドロキシエチル)ピペラジン、N-(2-アミノエチル)ピペラジンが挙げられる。前記芳香族アミンとしては、例えば、ベンゾトリアゾール、アミノピラゾール、アミノピリジン、アミノピリミジン、アミノピラジン、アミノオキサゾール、チアゾールアミンが挙げられる。前記ポリアルキレンポリアミンとしては、同様の観点から、分子内にアミノ基を2~4個有するポリアルキレンポリアミンが好ましく、アルキレンジアミン、ジアルキレントリアミン及びトリアルキレンテトラミンから選ばれる少なくとも1種がより好ましい。前記アルキレンジアミンとしては、例えば、エチレンジアミンが挙げられる。前記ジアルキレントリアミンとしては、例えば、ジエチレントリアミンが挙げられる。前記トリアルキレンテトラミンとしては、例えば、トリエチレンテトラミンが挙げられる。
分子量が300未満である含窒素塩基性化合物は、1種単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0020】
本開示のエッチング液組成物中の分子量が300未満である含窒素塩基性化合物の配合量は、保存安定性向上の観点から、0.4質量%以上が好ましく、0.8質量%以上がより好ましく、1.2質量%以上が更に好ましく、そして、溶液粘度に伴うろ過時の通液性の観点から、20質量%以下が好ましく、15質量%以下がより好ましく、10質量%以下が更に好ましい。より具体的には、本開示のエッチング液組成物中の分子量が300未満である含窒素塩基性化合物の配合量は、0.4質量%以上20質量%以下が好ましく、0.8質量%以上15質量%以下がより好ましく、1.2質量%以上10質量%以下が更に好ましい。前記含窒素塩基性化合物が2種以上の組合せである場合、前記含窒素塩基性化合物の配合量はそれらの合計配合量である。
【0021】
本開示において、硝酸の配合量(質量%)aと数平均分子量が300以上である多価アミンの配合量(質量%)bと分子量が300未満である含窒素塩基性化合物の配合量(質量%)cとが、(a-c)4/b≦600の関係を満たすことが好ましい。aとcは、一又は複数の実施形態において、a<c、a=c、又は、a>cの関係を満たす。なお、a、b及びcはそれぞれ質量又は質量%を表す(以下、同様)。
(a-c)4/bは、保存安定性の向上、及び、10℃以下の温度での保存安定性向上の観点から、600以下が好ましく、550以下がより好ましく、500以下が更に好ましく、400以下が更に好ましく、そして、被エッチング層の均一なエッチングの観点から、0.01以上が好ましく、0.1以上がより好ましく、0.5以上、50以上、100以上、200以上、又は300以上が更に好ましい。
同様の観点から、(a-c)4/bは、0.01以上600以下が好ましく、0.1以上600以下がより好ましく、0.5以上600以下が更に好ましく、50以上600以下が更に好ましく、100以上600以下が更に好ましく、200以上600以下が更に好ましく、300以上600以下が更に好ましく、300以上550以下が更に好ましく、300以上500以下が更に好ましい。
【0022】
ここで、(a-c)4/bが600以下であることが好ましい理由を以下に説明する。
多価アミンは、上述したように、分子中に複数のアミノ基を有しており、この全てのアミノ基が水中で硝酸と塩を形成し得る。多価アミンの分子中のいくつのアミノ基が硝酸と塩を形成するかは、エッチング液組成物中に含まれる硝酸イオン量とアンモニウムイオン量に依存する。多価アミンの配合量が増えると、アンモニウムイオン量に対して硝酸イオン量が相対的に減少するため、多価アミン1分子中で硝酸と塩を形成するアミノ基の量が減少する。硝酸の配合量が増えると、硝酸量の増加に加えてpHが大きく低下するためエッチング液組成物中の硝酸イオン量が飛躍的に増加し、多価アミン1分子中の硝酸と塩を形成するアミノ基の量が大きく増加する。数平均分子量が300以上である多価アミンと分子量が300未満である含窒素塩基性化合物が共存する場合、含窒素塩基性化合物は硝酸と塩を形成するため硝酸イオン量は減少し、多価アミン1分子中で硝酸と塩を形成するアミノ基の量が減少すると考えられる。また、アミン/硝酸塩は水への溶解性がそれほど高くないため、水の濃度が低い場合、硝酸と塩を形成しているアミノ基の数が多いほど溶液への溶解性が低下し、特に低温(例えば、10℃以下)で液の濁りが発生しやすくなる。塩の形成量は上記の通り、硝酸イオン量とアンモニウムイオン量に依存し、これは硝酸量と含窒素塩基性化合物の量の影響を大きく受ける。
本発明者らが詳細に硝酸イオン量とアンモニウムイオン量との量比の影響を確認した結果、硝酸の配合量(質量%)aと数平均分子量が300以上である多価アミンの配合量(質量%)bと分子量が300未満である含窒素塩基性化合物の配合量(質量%)cとが、(a-c)4/b≦600の関係を満たす場合に、低温(例えば、10℃以下)で保存しても液の濁りがより発生しにくく、保存安定性をより向上できることを明らかにした。
そして、より安定な組成を有することから、被エッチング層へのより均一な接触がなされ、エッチングむらがより低減されたエッチングも行えると考えられる。
【0023】
[硝酸以外の酸]
本開示のエッチング液組成物は、被エッチング層の均一なエッチングの観点から、硝酸以外の酸をさらに含むことができる。硝酸以外の酸は、1種で用いてもよいし、2種以上の組合せでもよい。
硝酸以外の酸としては、リン酸、塩酸、硫酸及び有機酸から選ばれる少なくとも1種が挙げられる。有機酸としては、例えば、ギ酸、酢酸、メトキシ酢酸、エトキシ酢酸、プロピオン酸、酪酸、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、マレイン酸、フマル酸、フタル酸、トリメリット酸、ヒドロキシ酢酸、乳酸、サリチル酸、リンゴ酸、酒石酸、クエン酸、アスパラギン酸、及びグルタミン酸から選ばれる少なくとも1種が挙げられる。これらの中でも、硝酸以外の酸としては、被エッチング層の均一なエッチングの観点から、リン酸、酢酸、メトキシ酢酸及びエトキシ酢酸から選ばれる少なくとも1種が好ましく、リン酸及び酢酸の少なくとも一方がより好ましく、リン酸及び酢酸の組合せであることがより好ましい。
【0024】
本開示のエッチング液が硝酸以外の酸を更に含む場合、本開示のエッチング液中の硝酸以外の酸の配合量は、被エッチング層の均一なエッチングの観点から、65質量%以上が好ましく、70質量%以上がより好ましく、75質量%以上が更に好ましく、そして、同様の観点から、98質量%以下が好ましく、95質量%以下がより好ましく、90質量%以下が更に好ましい。より具体的には、本開示のエッチング液組成物中の硝酸以外の酸の配合量は、65質量%以上98質量%以下が好ましく、70質量%以上95質量%以下がより好ましく、75質量%以上90質量%以下が更に好ましい。硝酸以外の酸の種類が2種以上の組合せである場合、硝酸以外の酸の配合量はそれらの合計配合量である。
硝酸以外の酸がリン酸及び酢酸の組合せである場合、本開示のエッチング液組成物中のリン酸の配合量は、被エッチング層の均一なエッチングの観点から、50質量%以上95質量%以下が好ましく、55質量%以上93質量%以下がより好ましく、60質量%以上90質量%以下が更に好ましい。同様の観点から、本開示のエッチング液組成物中の酢酸の配合量は、2質量%以上80質量%以下が好ましく、3質量%以上60質量%以下がより好ましく、5質量%以上30質量%以下が更に好ましい。
【0025】
[水]
本開示のエッチング液組成物は、一又は複数の実施形態において、水を含む。本開示のエッチング液組成物に含まれる水としては、蒸留水、イオン交換水、純水及び超純水等が挙げられる。
【0026】
本開示のエッチング液組成物中の水の配合量は、保存安定性向上の観点から、2質量%以上が好ましく、5質量%以上がより好ましく、7質量%以上が更に好ましく、そして、被エッチング層の均一なエッチングの観点から、30質量%以下が好ましく、25質量%以下がより好ましく、20質量%以下が更に好ましい。より具体的には、本開示のエッチング液組成物中の水の配合量は、2質量%以上30質量%以下が好ましく、5質量%以上25質量%以下がより好ましく、7質量%以上20質量%以下が更に好ましい。
【0027】
[その他の成分]
本開示のエッチング液組成物は、本開示の効果が損なわれない範囲で、その他の成分をさらに配合してなるものであってもよい。その他の成分としては、キレート剤、界面活性剤、可溶化剤、防腐剤、防錆剤、殺菌剤、抗菌剤、酸化防止剤等が挙げられる。
【0028】
本開示のエッチング液組成物は、一又は複数の実施形態において、イミダゾールを実質的に含まないものとすることができる。本開示のエッチング液組成物中のイミダゾールの配合量は、好ましくは0.01質量%未満、より好ましくは0.001質量%以下、更に好ましくは0質量%(すなわち、含まないこと)である。
【0029】
本開示のエッチング液組成物は、一又は複数の実施形態において、含フッ素化合物を実質的に含まないものとすることができる。本開示のエッチング液組成物中の含フッ素化合物の配合量は、好ましくは0.001質量%未満、より好ましくは0.0001質量%以下、更に好ましくは0質量%(すなわち、含まないこと)である。
【0030】
本開示のエッチング液組成物は、一又は複数の実施形態において、過酸化水素を含んでいてもよいし、過酸化水素を含まなくてもよい。
【0031】
本開示のエッチング液組成物は、一又は複数の実施形態において、好ましくは10℃以上、より好ましくは5℃以上、更に好ましくは1℃以上、更に好ましくは0.5℃以上、更に好ましくは0℃以上の温度で濁りが発生しない。濁りの発生の有無については、実施例に記載の方法により確認できる。
【0032】
[エッチング液組成物の製造方法]
本開示のエッチング液組成物は、一態様において、硝酸と、数平均分子量が300以上である多価アミンと、分子量が300未満である含窒素塩基性化合物と、水と、所望により上述した任意成分とを公知の方法で配合することにより得られる。したがって、本開示は、一態様において、少なくとも、硝酸と、数平均分子量が300以上である多価アミンと、分子量が300未満である含窒素塩基性化合物と、水とを配合する工程を含む、エッチング液組成物の製造方法(以下、「本開示のエッチング液製造方法」ともいう)に関する。
本開示において「少なくとも、硝酸と、数平均分子量が300以上である多価アミンと、分子量が300未満である含窒素塩基性化合物と、水とを配合する」とは、一又は複数の実施形態において、硝酸と、数平均分子量が300以上である多価アミンと、分子量が300未満である含窒素塩基性化合物と、水と、必要に応じて上述した任意成分とを同時に又は順に混合することを含む。混合する順序は、特に限定されなくてもよい。前記配合は、例えば、プロペラ型撹拌機、ポンプによる液循環撹拌、ホモミキサー、ホモジナイザー、超音波分散機及び湿式ボールミル等の混合器を用いて行うことができる。
本開示のエッチング液製造方法において各成分の好ましい配合量は、上述した本開示のエッチング液組成物中の各成分の好ましい配合量と同じとすることができる。
【0033】
本開示において「エッチング液組成物中の各成分の配合量」とは、一又は複数の実施形態において、エッチング工程に使用される、すなわち、エッチング処理への使用を開始する時点(使用時)でのエッチング液組成物の各成分の配合量をいう。
本開示のエッチング液組成物中の各成分の配合量は、一又は複数の実施形態において、本開示のエッチング液組成物中の各成分の含有量とみなすことができる。ただし、中和の影響を受ける場合は、配合量と含有量が異なる場合がある。
【0034】
本開示のエッチング液組成物の実施形態は、全ての成分が予め混合された状態で市場に供給される、いわゆる1液型であってもよいし、使用時に混合される、いわゆる2液型であってもよい。2液型のエッチング液組成物の一実施形態としては、硝酸を含む溶液(第1液)と、数平均分子量が300以上である多価アミン及び分子量が300未満である含窒素塩基性化合物を含む溶液(第2液)とから構成され、使用時に第1液と第2液とが混合されるものが挙げられる。第1液と第2液とが混合された後、必要に応じて水又は酸水溶液を用いて希釈されてもよい。第1液又は第2液には、エッチング液の調製に使用する水の全量又は一部が含まれていてもよい。第1液及び第2液にはそれぞれ必要に応じて、上述した任意成分が含まれていてもよい。
【0035】
本開示のエッチング液組成物のpHは、被エッチング層の均一なエッチングの観点から、1以下が好ましく、0以下がより好ましく、0未満が更に好ましく、-1程度が更に好ましい。なお、本開示のエッチング液組成物のpHは、好ましくは-5以上、より好ましくは-3以上とすることができる。本開示において、エッチング液組成物のpHは、25℃における値であって、pHメータを用いて測定でき、具体的には、実施例に記載の方法で測定できる。
【0036】
本開示のエッチング液組成物は、その安定性が損なわれない範囲で濃縮された状態で保存および供給されてもよい。この場合、製造・輸送コストを低くできる点で好ましい。そしてこの濃縮液は、必要に応じて水又は酸水溶液を用いて適宜希釈してエッチング工程で使用することができる。希釈割合は例えば、5~100倍とすることができる。
【0037】
[キット]
本開示は、その他の態様において、本開示のエッチング液組成物を製造するためのキット(以下、「本開示のキット」ともいう)に関する。
本開示のキットとしては、例えば、硝酸を含む溶液(第1液)と、数平均分子量が300以上である多価アミン及び分子量が300未満である含窒素塩基性化合物を含む溶液(第2液)とを相互に混合されない状態で含み、これらが使用時に混合されるキット(2液型エッチング液)が挙げられる。第1液と第2液とが混合された後、必要に応じて水又は酸水溶液を用いて希釈されてもよい。第1液又は第2液には、エッチング液の調製に使用する水の全量又は一部が含まれていてもよい。第1液及び第2液にはそれぞれ必要に応じて、上述した任意成分が含まれていてもよい。本開示のキットによれば、保存安定性に優れるエッチング液を調製できる。
【0038】
[被エッチング層]
本開示のエッチング液組成物を用いてエッチング処理される被エッチング層は、一又は複数の実施形態において、少なくとも1種の金属を含む被エッチング層である。ここで、金属としては、本開示の効果の奏する限り特に限定されるものではないが、例えば、タングステン、タンタル、ジルコニウム、ハフニウム、モリブデン、ニオブ、ルテニウム、オスミウム、レニウム、ロジウム、銅、ニッケル、コバルト、チタン、窒化チタン、アルミナ、アルミニウム及びイリジウムから選ばれる少なくとも1種の金属が挙げられる。これらの中でも、本開示のエッチング液組成物は、一又は複数の実施形態において、タングステン、モリブデン、ニオブ、タンタル及びジルコニウムの群より選ばれた少なくとも1種の金属を含む被エッチング層のエッチングに用いられることが好ましく、一又は複数の実施形態において、タングステン膜又はモリブデン膜のエッチングに好適に用いられる。すなわち、被エッチング層としては、一又は複数の実施形態において、タングステン膜又はモリブデン膜が挙げられる。
【0039】
[エッチング方法]
本開示は、一態様において、本開示のエッチング液組成物を用いて、少なくとも1種の金属を含む被エッチング層をエッチングする工程(以下、「本開示のエッチング工程」ともいう)を含む、エッチング方法(以下、「本開示のエッチング方法」ともいう)に関する。本開示のエッチング方法を使用することにより、一又は複数の実施形態において、保存安定性に優れるエッチング液を用いることで、半導体基板の生産性を向上できる。
【0040】
本開示のエッチング工程において、エッチング処理方法としては、例えば、浸漬式エッチング、枚葉式エッチング等が挙げられる。
【0041】
一又は複数の実施形態において、被エッチング層がタングステン膜の場合、本開示のエッチング工程におけるエッチング液組成物の温度(エッチング温度)は、エッチングむら低減の観点から、0℃以上が好ましく、50℃以上がより好ましく、70℃以上が更に好ましく、そして、150℃以下が好ましく、130℃以下がより好ましく、110℃以下が更に好ましい。より具体的には、一又は複数の実施形態において、被エッチング層がタングステン膜の場合、エッチング温度は、0℃以上150℃以下が好ましく、50℃以上130℃以下がより好ましく、70℃以上110℃以下が更に好ましい。
一又は複数の実施形態において、被エッチング層がモリブデン膜の場合、本開示のエッチング工程におけるエッチング液組成物の温度(エッチング温度)は、エッチングむら低減の観点から、0℃以上が好ましく、15℃以上がより好ましく、20℃以上が更に好ましく、そして、80℃以下が好ましく、65℃以下がより好ましく、50℃以下が更に好ましい。より具体的には、一又は複数の実施形態において、被エッチング層がモリブデン膜の場合、エッチング温度は、0℃以上80℃以下が好ましく、15℃以上65℃以下がより好ましく、20℃以上50℃以下が更に好ましい。
一又は複数の実施形態において、被エッチング層がニッケル膜の場合、本開示のエッチング工程におけるエッチング液組成物の温度(エッチング温度)は、エッチングむら低減の観点から、0℃以上が好ましく、15℃以上がより好ましく、30℃以上が更に好ましく、そして、80℃以下が好ましく、65℃以下がより好ましく、50℃以下が更に好ましい。より具体的には、一又は複数の実施形態において、被エッチング層がニッケル膜の場合、エッチング温度は、0℃以上80℃以下が好ましく、15℃以上65℃以下がより好ましく、30℃以上50℃以下が更に好ましい。
一又は複数の実施形態において、被エッチング層がコバルト膜の場合、本開示のエッチング工程におけるエッチング液組成物の温度(エッチング温度)は、エッチングむら低減の観点から、0℃以上が好ましく、15℃以上がより好ましく、30℃以上が更に好ましく、そして、80℃以下が好ましく、65℃以下がより好ましく、50℃以下が更に好ましい。より具体的には、一又は複数の実施形態において、被エッチング層がコバルト膜の場合、エッチング温度は、0℃以上80℃以下が好ましく、15℃以上65℃以下がより好ましく、30℃以上50℃以下が更に好ましい。
一又は複数の実施形態において、被エッチング層がチタン膜の場合、本開示のエッチング工程におけるエッチング液組成物の温度(エッチング温度)は、エッチングむら低減の観点から、0℃以上が好ましく、50℃以上がより好ましく、70℃以上が更に好ましく、そして、150℃以下が好ましく、130℃以下がより好ましく、110℃以下が更に好ましい。より具体的には、一又は複数の実施形態において、被エッチング層がチタン膜の場合、エッチング温度は、0℃以上150℃以下が好ましく、50℃以上130℃以下がより好ましく、70℃以上110℃以下が更に好ましい。
一又は複数の実施形態において、被エッチング層が銅膜の場合、本開示のエッチング工程におけるエッチング液組成物の温度(エッチング温度)は、エッチングむら低減の観点から、0℃以上が好ましく、15℃以上がより好ましく、30℃以上が更に好ましく、そして、80℃以下が好ましく、65℃以下がより好ましく、50℃以下が更に好ましい。より具体的には、一又は複数の実施形態において、被エッチング層が銅膜の場合、エッチング温度は、0℃以上80℃以下が好ましく、15℃以上65℃以下がより好ましく、30℃以上50℃以下が更に好ましい。
【0042】
本開示のエッチング工程において、エッチング時間は、例えば、1分以上180分以下に設定できる。
【0043】
本開示のエッチング方法は、一又は複数の実施形態において、本開示のエッチング液組成物を10℃以下の温度で保存もしくは保管又は輸送する工程を含んでもよい。
【0044】
本開示のエッチング液組成物及び本開示のエッチング方法は、一又は複数の実施形態において、電子デバイス、特に、半導体ウエハの製造工程において、金属をエッチングするために用いることができる。
本開示のエッチング液組成物及び本開示のエッチング方法は、一又は複数の実施形態において、半導体ウエハの作製に好適に用いることができる。これにより、エッチングむらが改善し、生産性、収率を向上できる。
本開示のエッチング液組成物及び本開示のエッチング方法は、一又は複数の実施形態において、電子デバイス、特に、NAND型フラッシュメモリを含む不揮発性メモリ等の半導体メモリの製造工程において、電極をエッチングするために用いることができる。
本開示のエッチング液組成物及び本開示のエッチング方法は、一又は複数の実施形態において、三次元構造を有するパターンの作製に好適に用いることができる。これにより、大容量化されたメモリ等の高度なデバイスを得ることができる。
本開示のエッチング液組成物及び本開示のエッチング方法は、例えば、特開2020-145412号公報に開示されるようなエッチング方法に用いることができる。
【実施例0045】
以下に、実施例により本開示を具体的に説明するが、本開示はこれらの実施例によって何ら限定されるものではない。
【0046】
1.エッチング液の調製(実施例1~6、比較例1)
表1に示す硝酸、硝酸以外の酸(リン酸、酢酸)、多価アミン、含窒素塩基性化合物及び水を配合して実施例1~6及び比較例1のエッチング液(pH:-1)を得た。
調製したエッチング液における各成分の配合量(質量%、有効分)を表1に示した。なお、表1中の水の配合量には、酸水溶液等に含まれる水の配合量も含まれている。
【0047】
エッチング液の調製には、下記成分を用いた。
硝酸[富士フイルム和光純薬株式会社、濃度70%]
リン酸[燐化学工業社製、濃度85%]
酢酸[富士フイルム和光純薬株式会社、濃度100%]
PEI(ポリエチレンイミン)[数平均分子量1,800、株式会社日本触媒製の「エポミンSP-018」]
エチレンジアミン[分子量60.1、富士フイルム和光純薬株式会社]
NH3(アンモニア)[分子量17.03、キシダ化学社製、濃度28%]
トリエチレンテトラミン[分子量146.23、富士フイルム和光純薬株式会社]
水[栗田工業株式会社製の連続純水製造装置(ピュアコンティ PC-2000VRL型)とサブシステム(マクエース KC-05H型)を用いて製造した超純水]
【0048】
2.各パラメータの測定方法
[エッチング液のpH]
エッチング液の25℃におけるpH値は、pHメータ(東亜ディーケーケー社製)を用いて測定した値であり、pHメータの電極をエッチング液へ浸漬して1分後の数値である。
【0049】
3.エッチング液の評価
[濁り発生の有無(保存安定性)]
調製直後のエッチング液組成物20mlをサンプル瓶に採取し、1℃で各時間静置した際の濁りの発生の有無を目視で確認した。48時間以上静置しても濁りが発生しなかったものはA、24時間超48時間未満で濁りが発生したものをB、24時間以下で濁りが発生したものをCとした。結果を表1に示した。
【0050】
[モリブデン板のエッチングむらの評価]
各組成に調製したエッチング液(実施例1~6及び比較例1)を1℃で1週間保存した後、該エッチング液に予め重量を測定した縦2cm、横2cm、厚み0.1mmのモリブデン板を浸漬させ、モリブデン板は40℃で30分間エッチングさせた。その後、水洗浄した後に再度、モリブデン板の表面をKEYENCE社製の形状測定レーザマイクロスコープVK-9710(レンズ倍率150倍)を用いて観察した写真を同装置の表面粗さモードで解析した。そして、エッチングむらの指標となる面精度を、下記式により求めた。結果を表1に示した。面精度の値が小さいほど、エッチングむらが抑制されていると判断できる。
面精度(%)=エッチング後の表面粗さ/エッチング前の表面粗さ×100
【0051】
【0052】
表1に示されるように、実施例1~6のエッチング液組成物はいずれも、分子量300未満の含窒素塩基性化合物を含まない比較例1に比べて、低温で保存しても濁りの発生が抑制され、保存安定性に優れていることが分かった。
また、実施例1~6は、(a-c)4/bの関係式が0.01以上600以下を示し、エッチングむらをより良く抑えることが分かった。