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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024037161
(43)【公開日】2024-03-18
(54)【発明の名称】ダストの洗浄処理方法
(51)【国際特許分類】
   B09B 3/70 20220101AFI20240311BHJP
   C02F 1/58 20230101ALI20240311BHJP
   C02F 1/70 20230101ALI20240311BHJP
【FI】
B09B3/70
C02F1/58 H ZAB
C02F1/70 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023143033
(22)【出願日】2023-09-04
(31)【優先権主張番号】P 2022141731
(32)【優先日】2022-09-06
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】591282766
【氏名又は名称】南海化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003465
【氏名又は名称】弁理士法人OHSHIMA&ASSOCIATES
(74)【代理人】
【識別番号】100106024
【弁理士】
【氏名又は名称】稗苗 秀三
(72)【発明者】
【氏名】南川 季久雄
(72)【発明者】
【氏名】青木 翔
【テーマコード(参考)】
4D004
4D038
4D050
【Fターム(参考)】
4D004AA37
4D004AA50
4D004AB03
4D004CA13
4D004CA34
4D004CA35
4D004CA37
4D004CC11
4D004DA03
4D004DA20
4D038AA08
4D038AB70
4D038AB82
4D038BA04
4D038BA06
4D038BB13
4D038BB15
4D038BB18
4D050AA12
4D050AB59
4D050BA10
4D050BD03
4D050BD06
4D050BD08
4D050CA13
4D050CA16
(57)【要約】
【課題】硫化水素ガスの発生を抑えて安全性を確保しつつ、ダストの処理時間を短縮し、処理コストの低減が実現できるダストの洗浄処理方法を提供する。
【解決手段】重金属を含むダストと水とを混合して得られたスラリーを液体成分と固体成分とに分離し、分離後の液体成分に含まれる鉛の含有量に合わせて硫黄化合物をアルカリ性条件下で添加し、セレン以外の重金属を沈殿させ、さらに、この溶液中に第一鉄化合物を添加して硫化鉄を生成させ、さらに、この溶液をpH3~pH5に調整することにより、6価のセレンの還元反応を促進させる。そして、この溶液にアルカリ剤を添加してpH8~pH10に調整し、鉄イオンから生じた沈殿性の鉄化合物と、析出したセレンとを共沈させ、重金属を除去する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも鉛及びセレンを含むダストと水とを混合してスラリーを得る混合工程と、
前記スラリーを液体成分と固体成分とに分離する第一の固液分離工程と、
前記第一の固液分離工程で分離した液体成分について、硫黄化合物をアルカリ性条件下で添加して、セレン以外の重金属を硫化物として沈殿させる第一の沈殿工程と、
前記第一の沈殿工程で生成した硫化物沈殿物を含む液に、セレンを還元する還元剤として第一鉄化合物を添加して、残存する前記硫黄化合物と反応させて硫化鉄を生成させる第二の沈殿工程と、
前記第二の沈殿工程で第一鉄化合物を添加した後、当該処理液をpH3~pH5の液に調整することにより、6価のセレンの還元反応を促進させるpH調整工程と、
前記pH調整工程後の溶液にアルカリ剤を添加してpH8~pH10に調整することにより、溶液中のイオン濃度積を溶解度積よりも高くなる過飽和な状態とし、鉄イオンから生じた沈殿性の鉄化合物と析出したセレンとを共沈させる共沈工程と、
前記共沈工程後の固液を分離する第二の固液分離工程と、を備えるダストの洗浄処理方法。
【請求項2】
前記硫黄化合物が、硫化水素、硫化水素ナトリウム、硫化ナトリウムおよび四硫化ナトリウムからなる群から選択される1種以上である請求項1に記載のダストの洗浄処理方法。
【請求項3】
前記第二の沈殿工程において、前記第一鉄化合物として塩化第一鉄を添加する請求項1又は2に記載のダストの洗浄処理方法。
【請求項4】
前記第一の固液分離工程の後に、前記液体成分に含まれる鉛の含有量を測定する重金属含有量測定工程を備える請求項1又は2に記載のダストの洗浄処理方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、少なくとも鉛及びセレンを含むダストの洗浄処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
セメント製造設備において、産業廃棄物をセメント原料として用いる量が多くなり、そのため、産業廃棄物に含まれる塩素がセメントキルン内で増加してセメントの品質や設備に悪影響を及ぼすため、セメント製造設備から塩素等を除去する塩素バイパス設備が用いられている。塩素バイパス設備では、セメントキルンから塩素を含む燃焼ガスの一部を抽気・冷却して塩素バイパスダストと呼ばれるダストを生成し、セメント製造設備外へ排出される。この塩素バイパスダストから塩素成分を除去してセメント原料として再利用することが行われている。この塩素バイパスダストには、塩素の他に、鉛、銅、亜鉛、カドミウム、水銀、セレン及びタリウム等の多種類の金属が含まれることが多い。
【0003】
特許文献1には、塩素成分の他、多種類の金属を含むダストをセメント原料として再利用する際に、環境を汚染するおそれがなく再利用可能に処理するダストの洗浄処理方法が開示されている。このダストの洗浄処理方法は、鉛、銅、亜鉛、カドミウム、水銀、セレン及びタリウムを含むダストと水とを混合してスラリーを得る混合工程と、前記スラリーを液体成分と固体成分とに分離する固液分離工程と、前記固液分離工程の後、硫黄が当量比になるように硫黄化合物を添加するために、前記液体成分に含まれる鉛、銅、亜鉛、カドミウム、水銀、タリウム及び硫黄の含有量を測定する工程と、前記液体成分における鉛、銅、亜鉛、カドミウム、水銀及びタリウムに対して硫黄が当量比1.0を超え2.0未満になるように、前記液体成分に硫黄化合物を添加して沈殿物を形成した後に該沈殿物と上澄み水とを固液分離する第一沈殿工程と、前記第一沈殿工程で得られた上澄み水に、第一鉄イオン源を添加して沈殿物を形成した後に該沈殿物と上澄み水とを固液分離する第二沈殿工程とを備えている。
【0004】
このダストの洗浄処理方法によれば、鉛、銅、亜鉛、カドミウム、水銀、セレン及びタリウムを含むダストと水とを混合してスラリーを得る混合工程と、前記スラリーを液体成分と固体成分とに分離する固液分離工程とを実施することで、ダストに含まれる鉛、銅、亜鉛、カドミウム、水銀、セレン及びタリウムを水に溶出させて、固体成分から、鉛、銅、亜鉛、カドミウム、水銀、セレン及びタリウムを除去することができる。
【0005】
さらに、固液分離工程で分離した前記液体成分に含まれる鉛、銅、亜鉛、カドミウム、水銀及びタリウムに対して、硫黄が当量比1.0を超え2.0未満になるように、前記液体成分に硫黄化合物を添加して、沈殿物と上澄み水とに分離する第一沈殿工程を実施することで、前記液体成分中の鉛、銅、亜鉛、カドミウム、水銀及びタリウムを硫化物として沈殿させて回収することができる。
【0006】
また、前記第一沈殿工程で得られた上澄み水に、第一鉄イオン源を添加して、さらに、沈殿物と上澄み水とに分離する第二沈殿工程を実施することで、前記第一沈殿工程の上澄み水に含まれるセレンを還元して沈殿物として回収することができる。同時に、前記第一沈殿工程で添加した硫黄化合物中に含まれる硫黄が上澄み水中に残存している場合でも、これを硫化鉄として沈殿させて上澄み水から除去することができる。
【0007】
また、特許文献2には、塩素バイパスダストの水洗時に発生する排水を浄化処理する際に、設備コストや運転コストを低減しながら、効率よく重金属を除去することを目的として、セメントキルンの窯尻から最下段サイクロンに至るまでのキルン排ガス流路より抽気した燃焼ガスに含まれるダストの水洗時に発生する排水のpHが10以上の状態で硫化剤を添加し、第一鉄化合物を添加した排水から析出物を分離する排水処理方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2013-237010号公報
【特許文献2】特開2009-112986号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
ところで、特許文献1のダストの洗浄処理方法では、第一沈殿工程で各金属の沈殿反応が終わった後、沈殿物を含む混合物をフィルタープレス等の固液分離装置に導入して、液体成分としての上澄み水と、固体成分としての沈殿物とに分離する。第二沈殿工程では、前記第一沈殿工程で得られた上澄み水を、さらに別の反応沈殿槽に導入し、第一鉄イオン源を添加して、上澄み水に含まれているセレンと、残存する硫黄化合物とを沈殿させている。
【0010】
しかし、ダストの洗浄処理において、洗浄処理水からセレンを含む各種金属を除去し、環境に良い排水を得る上では、第一沈殿工程から第二沈殿工程に移行する際の固液分離工程は、その必要性に乏しく、かえって処理時間を要することとなり、また、固液分離装置の設備費も要することから、全体的に処理コストが高くなると考えられる。
【0011】
その一方、特許文献2においては、低コストの排水処理方法を実現するため、特許文献1に示すような第一沈殿工程から第二沈殿工程に移行する際の固液分離工程を介在させていないが、特許文献1に示すように、鉛、タリウム及びセレン等の含有量を測定し、それに見合う当量比の硫化剤を添加する手法を採用していないため、排水のpHを10以上の状態で硫化剤を添加した後、pHを4以下に調整し、その調整後の排水に第一鉄化合物を添加する際に、前記硫化剤を過剰に添加してしまっている場合、硫化剤の一部が重金属硫化物の生成反応に消費されずにろ液中に残存し、この状態でろ液を酸性(pH4以下)に調整すると、硫化剤が分解し、非常に毒性の高い硫化水素ガスを発生する危険性がある。したがって、排水処理工程において、全体の処理コストを低減すると同時に、安全性の確保も重要な要素になってくる。
【0012】
本発明は、上記に鑑み、硫化水素ガスの発生を抑えて安全性を十分確保しつつ、ダストの処理時間を短縮し、ダスト設備費を削減することにより、全体として、処理コストの低減を実現することができるダストの洗浄処理方法の提供を目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記目的を達成するため、本発明に係るダストの洗浄処理方法においては、環境に良い排水を得るために、硫黄化合物の添加と第一鉄化合物の添加をアルカリ性(pH10以上)条件下で実施し、硫化水素ガスの発生を抑えて安全性を十分確保しつつ、洗浄処理水から鉛やセレンを含む各種金属を除去し、また、第一の沈殿工程から第二の沈殿工程に移行する際の固液分離工程をなくし、処理時間の短縮を図って処理コストを低減するものである。
【0014】
本発明に係るダストの洗浄処理方法は、少なくとも鉛及びセレンを含むダストと水とを混合してスラリーを得る混合工程と、前記スラリーを液体成分と固体成分とに分離する第一の固液分離工程と、前記第一の固液分離工程で分離した液体成分について、硫黄化合物をアルカリ性条件下で添加して、セレン以外の重金属を硫化物として沈殿させる第一の沈殿工程と、前記第一の沈殿工程で生成した硫化物沈殿物を含む液に、セレンを還元する還元剤として第一鉄化合物を添加して、残存する前記硫黄化合物と反応させて硫化鉄を生成させる第二の沈殿工程と、前記第二の沈殿工程で第一鉄化合物を添加した後、当該処理液をpH3~pH5の液に調整することにより、6価のセレンの還元反応を促進させるpH調整工程と、前記pH調整工程後の溶液にアルカリ剤を添加してpH8~pH10に調整することにより、溶液中のイオン濃度積を溶解度積よりも高くなる過飽和な状態とし、鉄イオンから生じた沈殿性の鉄化合物と析出したセレンとを共沈させる共沈工程と、前記共沈工程後の固液を分離する第二の固液分離工程とを備えている。
【0015】
また、第一の沈殿工程に用いられる硫黄化合物としては、硫化水素、硫化水素ナトリウム、硫化ナトリウムおよび四硫化ナトリウムからなる群から選択される1種以上を採用することができる。さらに、第二の沈殿工程において用いられる第一鉄化合物としては塩化第一鉄が好適である。
【発明の効果】
【0016】
本発明によると、セレン以外の重金属を硫化物として沈殿させる第一の沈殿工程から、セレンを還元する還元剤として第一鉄化合物を添加し、さらに残存する硫黄化合物と反応させて硫化鉄を生成させる第二の沈殿工程に移行する際に、固液を分離する工程をなくしているので、処理時間が短縮され、固液分離に要する設備費を削減することができる。また、硫黄化合物の添加と第一鉄化合物の添加をアルカリ性条件下で実施することで、余剰の硫黄化合物の分解を防止することができ、毒性の高い硫化水素ガスの発生を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】本発明の実施形態であるダストの洗浄処理方法の工程図である。
図2】同じくダストの洗浄処理設備の模式図である。
図3】本発明の実施形態の詳細なダストの洗浄処理方法の工程図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下に本発明の実施形態である塩素バイパスダストの洗浄処理方法について説明する。図1に示すように、本実施形態に係るダスト洗浄処理方法においては、
(1)少なくとも鉛及びセレンを含むダストと水とを混合してスラリーを得る混合工程S1と、
(2)前記スラリーを液体成分と固体成分とに分離する第一の固液分離工程S2と、
(3)前記第一の固液分離工程で分離した液体成分について、硫黄化合物をアルカリ性条件下で添加して、セレン以外の重金属を硫化物として沈殿させる第一の沈殿工程S3と、
(4)前記第一の沈殿工程で生成した硫化物沈殿物を含む液に、セレンを還元する還元剤として第一鉄化合物を添加して、残存する前記硫黄化合物と反応させて硫化鉄(II)を生成させる第二の沈殿工程S4と、
(5)前記第二の沈殿工程で第一鉄化合物を添加した後、当該処理液をpH3~pH5の液に調整することにより、6価のセレンの還元反応(Se(VI)⇒Se(IV)or Se(0))を促進させるpH調整工程S5と、
(6)前記pH調整工程後の溶液にアルカリ剤を添加してpH8~pH10に調整することにより、溶液中のイオン濃度積を溶解度積よりも高くなる過飽和な状態とし、鉄イオンから生じた沈殿性の鉄化合物と析出したセレンとを共沈させる共沈工程S6と、
(7)前記共沈工程後の固液を分離する第二の固液分離工程S7と、
を備えている。
【0019】
第一の沈殿工程S3に用いられる硫黄化合物としては、硫化水素、硫化水素ナトリウム、硫化ナトリウムおよび四硫化ナトリウムからなる群から選択される1種以上を採用することができるが、本実施形態では、硫黄化合物として硫化水素ナトリウム(NaSH)を用いた。また、第二の沈殿工程S4において用いられる第一鉄化合物としては塩化第一鉄(FeCl2)を用いた。
【0020】
また、pH調整工程S5においてpHをpH3~pH5に調整するために、塩酸、硫酸、硝酸等の無機酸や、アスコルビン酸等の有機酸を酸性の調整剤として添加することができる。本実施形態では、塩酸を使用してpH調整を行っている。また、共沈工程S6に添加されるアルカリ剤としては、水酸化カルシウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等が挙げられる。これらをアルカリ性のpH調整剤として添加することが好ましい。本実施形態では、アルカリ剤として、水酸化ナトリウムを用いた。
【0021】
図2はダストの洗浄処理設備を示す模式図である。図2に示すように、ダスト洗浄処理設備1は、ダストを収容するダストサイロ2と、ダストサイロ2から供給された鉛、セレン及びタリウム等を含むダストを水と混合撹拌してスラリー化するダスト溶解槽3と、ダスト溶解槽3で生成したスラリーを貯留するスラリー槽4と、スラリー槽4から供給されたスラリーを液体成分と固体成分とに分離するフィルタープレス5と、フィルタープレス5で固液分離した液体成分の溶液等を貯留するろ液槽6と、ろ液槽6からの溶液中の鉛(Pb)の含有量を測定する測定装置7と、ろ液槽6からの溶液中の重金属を薬剤により除去する薬剤反応槽8a、8b、8c、8d、8eと、最終の薬剤反応槽8eからの処理液を固液分離する沈殿槽9と、この沈殿槽9の上澄み水を貯留する上澄水槽10と、上澄水槽10からの上澄み水をさらにろ過して排水する砂ろ過装置11とを備えている。
【0022】
ダストサイロ2に収容されるダストとしては、少なくとも鉛及びセレンを含むダストであればよく、例えば、セメント製造設備において、セメントキルンの内部で発生する高濃度に塩素を含む高温の燃焼ガスをキルンから抽気し、熱交換器で冷却することで得られる塩素バイパスダストが挙げることができる。なお、ダストには、一般的に、原料の廃棄物に由来する鉛、銅、亜鉛、カドミウム、水銀、セレンおよびタリウム等の金属が含まれている例が多いが、本実施形態で処理するダストには、鉛が多く含まれ、その他の重金属の含有量は少量なダストを対象としている。
【0023】
ダスト溶解槽3では、ダストサイロ2から供給されたダストを水と混合撹拌してスラリー化する。水はダストに含まれる塩素や他の各金属が溶出しやすい温度範囲(例えば、15℃~30℃)で供給する。
【0024】
スラリー槽4は、ダスト溶解槽3でスラリー化したスラリーを一時的に貯留し、次工程のフィルタープレス5による処理の上流側でスラリーを撹拌しながら待機する。また、このスラリー槽4には、第二の固液分離工程において固液分離するために使用される沈殿槽9で沈殿した汚泥が戻され、ダスト溶解槽3から供給されたスラリーと共にフィルタープレス5に掛けられて固液分離され、分離した固体成分(ダストスラッジ)は系外に排出されて資源化される。
【0025】
フィルタープレス5は、スラリー槽4から供給されたスラリーを固体成分と液体成分とに分離する。ダスト中の鉛、セレン、タリウム等の金属はダスト溶解槽3において、塩素成分と共に水中に溶出しているため、フィルタープレス5による固液分離した後の固体成分からは、塩素成分の他に、鉛、セレン、タリウム等の重金属は除去されて減少している。塩素バイパスダストには塩素成分が高濃度に含有しているが、ダスト溶解槽3と、フィルタープレス5により、塩素成分および各種金属が溶解した液体成分は固体成分から分離することができ、また、固体成分はダストスラッジとして系外に排出されて資源化される。例えば、前記固体成分をセメントキルン等へ戻してセメント原料として再利用することができる。
【0026】
ろ液槽6は、フィルタープレス5で固液分離した液体成分の溶液を貯留する。当該溶液に含まれる鉛の含有量に応じた硫黄化合物を添加できるように、液体成分に含まれる鉛の含有量を測定する。この際に用いる測定装置7は、原子吸光分析の原理又はICP(誘導結合プラズマ)発光分光分析の原理を利用して重金属の含有量を測定する。実際の測定は、ろ液槽6の溶液をサンプリングし、測定のための前処理を行い、ICP(誘導結合プラズマ)発光分光分析装置等により測定する。便宜上、測定装置7は、図2の模式図において、ろ液槽6に接続する形式で図示した。
【0027】
誘導結合プラズマ発光分光分析の場合、原子吸光分析と比較して測定時間が短縮される。ここで、本実施形態では、測定する重金属を鉛(Pb)に限定した。その理由は以下のとおりである。塩素バイパスダスト等の処理対象のダストに含まれる重金属のほとんどが鉛(Pb)であり、鉛の含有量の測定により前段処理である硫黄化合物(硫化水素ナトリウム(NaSH))の添加量を決める因子となっている。安全性(硫化水素ナトリウム(NaSH)分解による硫化水素の発生を防止すること)を考慮し、硫化水素ナトリウム(NaSH)を過剰に加えないために、鉛(Pb)の含有量で必要な硫化水素ナトリウム(NaSH)量を算出するのが望ましい。
【0028】
勿論、溶液中には他の重金属も含有しており、硫化水素ナトリウム(NaSH)との反応ですべてを硫化物にすることはできないが、後段処理(共沈工程S6)でのアルカリ剤によるpH調整(pH8~pH10)により微量の重金属は除去可能であり、結果として排水中から重金属はすべて除去されると考えられる。
【0029】
薬剤反応槽8a~8eは、ろ液槽6から供給される溶液に含まれる重金属を薬剤により除去する。ろ液槽6から供給される溶液は、アルカリ性(pH10以上)であり、硫黄化合物の添加と第一鉄化合物の添加をアルカリ性条件下で実施することで、余剰の硫黄化合物の分解を防止し、毒性の高い硫化水素ガスの発生を抑制するようにしている。具体的には、5段の薬剤反応槽8a~8eにおいて、第一の薬剤反応槽8aでは、溶液中に硫黄化合物(硫化水素ナトリウム(NaSH))を添加してセレン以外の重金属を以下の硫化物として沈殿させる。鉛はPb⇒PbS、銅はCu⇒Cu2S、CuS、亜鉛はZn⇒ZnS、カドミウムはCd⇒CdS、水銀はHg⇒HgS、タリウムはTl⇒Tl2Sとして沈殿させる。この際の硫黄化合物の添加量は、重金属含有量測定装置7で測定した鉛(Pb)の含有量に対して、当量比で1.0~3.0未満が好ましい。特に、硫黄化合物が過剰にならないようにするために、1.0~2.0未満がより好ましい。当該溶液中には、重金属成分として、鉛(Pb)の含有量が最も多く、測定した鉛(Pb)の含有量に応じた量の硫黄化合物の添加により、余剰の硫黄化合物の分解により硫化水素(H2S)が発生するのを未然に防止する。
【0030】
第二の薬剤反応槽8bにおいては、第二の沈殿工程S4が行われる。すなわち、第一の沈殿工程S3で生成した硫化物沈殿物を含む液に、セレンを還元する還元剤として第一鉄化合物(FeCl2)を添加し、さらに、この第一鉄化合物を前記第一の沈殿工程S3で添加した後に残存する硫黄化合物と反応させて硫化鉄(II)を生成させる。さらに、第三の薬剤反応槽8cでは、第二の沈殿工程S4で第一鉄化合物(FeCl2)を添加した後、例えば、塩酸を加えてpH3~pH5の液に調整する(pH調整工程S5)。これにより、pHが低いほど反応に寄与する水素イオン濃度が高くなり、6価のセレンの還元反応(Se(VI)⇒Se(IV)or Se(0))が促進される。
【0031】
第四の薬剤反応槽8dでは、アルカリ剤(例えば、NaOH)を添加し、pH8~pH10に調整する。これにより、溶液中のイオン濃度積が溶解度積よりも高くなる過飽和な状態となり、鉄イオンから生じた沈殿性の鉄化合物と、析出したセレンとが共沈しやすくなる。セレンは難溶性塩を生成しないため、鉄化合物との共沈現象を利用して分離する。その際、pHをpH8~pH10に調整することにより、鉄イオンから生じた沈殿性の水酸化鉄とセレン(4価または0価のセレン)とが共沈しやすくなる。
【0032】
凝集沈殿を促進し、沈降に要する時間を短縮させるために、第五の薬剤反応槽8eで高分子凝集剤を添加してもよい。第五の薬剤反応槽8eでは、高分子凝集剤が添加されて、凝集沈殿が促進し、沈降に要する時間が短縮する。この凝集沈殿処理工程により、処理時間の短縮を図って処理コストを低減することができる。そして、第五の薬剤反応槽8eの下流に位置する沈殿槽9は、第五の薬剤反応槽8eから供給される沈殿物を含む処理液を固液分離する。固液分離により分離した固体成分には、鉛、タリウム、セレン等の重金属類を含んでいるので、これをスラリー槽4に戻してダスト溶解槽3から供給されたスラリーと共にフィルタープレス5に掛けられる。
【0033】
沈殿槽9の下流に位置する上澄水槽10は、沈殿槽9から排出される液体成分の上澄み水を貯留する。上澄水槽10の下流にある砂ろ過装置11は、上澄水槽10からの上澄み水をさらにろ過して処理水として排出する。
【0034】
上記の洗浄処理設備での詳細なダスト洗浄処理方法としては、図3に示すように、
(1)少なくとも鉛及びセレンを含むダストと水とを混合してスラリーを得る混合工程S1と、
(2)前記スラリーを液体成分と固体成分とに分離する第一の固液分離工程S2と、
(3)前記第一の固液分離工程の後に、前記液体成分に含まれる鉛の含有量を測定する重金属含有量測定工程S3と、
(4)前記第一の固液分離工程で分離した液体成分について、前記重金属含有量測定工程で測定した鉛の含有量に対して所定の硫黄化合物をアルカリ性条件下で添加して、セレン以外の重金属を硫化物として沈殿させる第一の沈殿工程S4と、
(5)前記第一の沈殿工程で生成した硫化物沈殿物を含む液に、セレンを還元する還元剤として第一鉄化合物を添加して、残存する前記硫黄化合物と反応させて硫化鉄(II)を生成させる第二の沈殿工程S5と、
(6)前記第二の沈殿工程で第一鉄化合物を添加した後、当該処理液をpH3~pH5の液に調整することにより、6価のセレンの還元反応(Se(VI)⇒Se(IV)or Se(0))を促進させるpH調整工程S6と、
(7)前記pH調整工程後の溶液にアルカリ剤を添加してpH8~pH10に調整することにより、溶液中のイオン濃度積を溶解度積よりも高くなる過飽和な状態とし、鉄イオンから生じた沈殿性の鉄化合物と析出したセレンとを共沈させる共沈工程S7と、
(8)更に、前記共沈工程後に高分子凝集剤を添加して、鉛やセレン等の重金属類の凝集沈殿を促進させ、沈降に要する時間を短縮させる凝集沈殿処理工程S8と、
(9)前記凝集沈殿処理工程後の固液を分離し、残った液を排水処理する第二の固液分離工程S9とを備えている。
【0035】
なお、特許文献1においては、第一の沈殿工程後の硫化物沈殿物を固液分離する工程を介在させ、さらに、最終工程で固液を分離する第二の固液分離工程を備えているが、排水放流前の最終工程における固液分離は必須であるが、前段階での固液分離工程の必要性について検討した。仮に、前段の固液分離で除去しようとする析出物は硫化物である。硫化物は一般的に安定性が高く、pHを極端に酸性側(例えば、pH2以下)にしない限り溶解しない。本実施形態でのpH調整工程では、pHをpH3~pH5の範囲としているため、硫化物は溶解しない。したがって、前段の固液分離工程は不要と考えられる。これにより、処理時間の短縮が可能となり、処理コストの低減を図ることができる。
【0036】
上記の固液分離工程の省略について、最終処理液への影響を確認するためラボスケールによる実証試験を行った。
<試験1>
試験1では、塩素バイパスダストを準備し、ダスト:水=1:4の比率で溶解させ、スラリーとし、濾紙を用いてスラリーを濾過した。そのろ液の成分中の鉛(Pb)とセレン(Se)の濃度を誘導結合プラズマ(ICP)発光分光分析装置により測定した。その結果を表1に示す。
【0037】
【表1】
【0038】
上記のろ液に硫黄化合物として硫化水素ナトリウム水溶液を添加し、15分間撹拌した。硫化水素ナトリウム水溶液の添加量はろ液成分中の鉛(Pb)に対する硫黄の当量比が1.5となるように計算することで定めた。
【0039】
次に、硫化水素ナトリウム水溶液を添加した液について、濾紙を用いて固液分離を行った液と固液分離を行っていない液を準備し、各液に第一鉄化合物として30%塩化第一鉄溶液を1.5%v/v添加し、塩酸を用いてpHを「4」に調整し、60分間撹拌した。その後、水酸化ナトリウム溶液を用いてpHを9.5に調整し、濾紙を用いて固液分離することで最終処理液を得た。最終処理液成分中の鉛(Pb)とセレン(Se)の濃度をICPで測定した結果を表2に示す。
【0040】
【表2】
【0041】
硫黄化合物の添加後の固液分離工程を省略した場合でも、排水基準(Pb<0.1ppm、Se<0.1ppm)を満たす結果が得られた。
【0042】
<試験2>
上記の試験1で良好な結果が得られたので、塩素バイパスダストを替えて同様の試験(固液分離工程省略)を繰り返し実施した。その結果を表3~表7に示す。これらの表から明らかな通り、塩素バイパスダストの鉛(Pb)とセレン(Se)の濃度を変更して行った5回の繰り返し試験でも最終処理液は排水基準(Pb<0.1ppm、Se<0.1ppm)を満たしていた。
【0043】
【表3】

【表4】

【表5】

【表6】

【表7】
【0044】
以上の説明から明らかな通り、本実施形態のダストの洗浄処理方法では、少なくとも鉛及びセレンを含むダストと水とを混合してスラリーを得る混合工程と、前記スラリーを液体成分と固体成分とに分離する第一の固液分離工程と、前記第一の固液分離工程で分離した液体成分について、硫黄化合物をアルカリ性条件下で添加して、セレン以外の重金属を硫化物として沈殿させる第一の沈殿工程と、前記第一の沈殿工程で生成した硫化物沈殿物を含む液に、セレンを還元する還元剤として第一鉄化合物を添加して、残存する前記硫黄化合物と反応させて硫化鉄を生成させる第二の沈殿工程と、前記第二の沈殿工程で第一鉄化合物を添加した後、当該処理液をpH3~pH5の液に調整することにより、6価のセレンの還元反応を促進させるpH調整工程と、前記pH調整工程後の溶液にアルカリ剤を添加してpH8~pH10に調整することにより、溶液中のイオン濃度積を溶解度積よりも高くなる過飽和な状態とし、鉄イオンから生じた沈殿性の鉄化合物と析出したセレンとを共沈させる共沈工程と、前記共沈工程後の固液を分離する第二の固液分離工程とを備えている。
【0045】
したがって、本実施形態においては、セレン以外の重金属を硫化物として沈殿させる第一の沈殿工程から、セレンを還元する還元剤としての第一鉄化合物を添加し、この第一鉄化合物と残存する硫黄化合物とを反応させて硫化鉄を生成させる第二の沈殿工程に移行する際に、固体成分と液体成分とを分離する工程をなくしているので、固液分離に要する処理時間が短縮され、固液分離に係る設備の費用を削減することができる。しかも、硫黄化合物の添加と第一鉄化合物の添加をアルカリ性条件下で実施しているので、毒性の高い硫化水素ガスの発生を抑制することができる。
【符号の説明】
【0046】
1 ダスト洗浄処理設備
2 ダストサイロ
3 ダスト溶解槽
4 スラリー槽
5 フィルタープレス
6 ろ液槽
7 重金属含有量測定装置
8a、8b、8c、8d、8e 薬剤反応槽
9 沈殿槽
10 上澄水槽
11 砂ろ過装置
図1
図2
図3