(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024037168
(43)【公開日】2024-03-18
(54)【発明の名称】自己架橋ヒアルロン酸ゲルを製造する方法、及びその生成物
(51)【国際特許分類】
C08B 37/08 20060101AFI20240311BHJP
A61K 31/728 20060101ALI20240311BHJP
A61P 19/08 20060101ALI20240311BHJP
A61P 19/02 20060101ALI20240311BHJP
A61K 9/06 20060101ALI20240311BHJP
【FI】
C08B37/08 Z
A61K31/728
A61P19/08
A61P19/02
A61K9/06
【審査請求】有
【請求項の数】17
【出願形態】OL
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2023143326
(22)【出願日】2023-09-05
(31)【優先権主張番号】111133781
(32)【優先日】2022-09-06
(33)【優先権主張国・地域又は機関】TW
(71)【出願人】
【識別番号】523337915
【氏名又は名称】シビジョン バイオテック インコーポレーテッド
(74)【代理人】
【識別番号】110002572
【氏名又は名称】弁理士法人平木国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】タイ-シエン ハン
(72)【発明者】
【氏名】ツン-ウェイ パン
(72)【発明者】
【氏名】トル-チャーン チェン
(72)【発明者】
【氏名】チュン-チャン チェン
(72)【発明者】
【氏名】ポー-シュアン リン
(72)【発明者】
【氏名】リー-スー チェン
【テーマコード(参考)】
4C076
4C086
4C090
【Fターム(参考)】
4C076AA09
4C076BB11
4C076BB32
4C076CC09
4C076FF70
4C086AA01
4C086AA02
4C086AA04
4C086EA25
4C086MA01
4C086MA04
4C086MA28
4C086MA65
4C086MA67
4C086NA14
4C086ZA96
4C090AA05
4C090BA67
4C090CA35
4C090DA23
(57)【要約】 (修正有)
【課題】自己架橋ヒアルロン酸ゲルを製造するための方法を提供する。
【解決手段】ヒアルロン酸含有コロイドの自己架橋反応を、酸性環境で低温にて継続的に実施するステップ、及び反応生成物を高温の蒸気で処理して、高い粘度を有する自己架橋ヒアルロン酸ゲルを得るステップを含む、方法を提供する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
自己架橋ヒアルロン酸ゲルを製造するための方法であって、
(a)ヒアルロン酸又はその金属塩含有コロイドを用意するステップ、
(b)ヒアルロン酸又はその金属塩含有コロイドの自己架橋反応を、酸性環境で約-10℃から約-30℃にて約7日から約42日実施するステップ、及び
(c)ステップ(b)の生成物を蒸気により処理して、自己架橋ヒアルロン酸ゲルを得るステップを含む、方法。
【請求項2】
いかなる架橋剤及び2-クロロ-1-メチルピリジニウムヨージド(CMPI)の使用も含まない、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
ステップ(a)が、ヒアルロン酸又はその金属塩含有コロイドを顆粒状形態、ストライプ形態又はストリング形態で用意するステップを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
ステップ(b)において、酸性環境が、約0.5Nから約1.5Nの濃度の酸により用意され、酸が、塩酸、硝酸及び硫酸からなる群から選択される、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
ステップ(b)が、ヒアルロン酸又はその金属塩含有コロイドを酸と室温にて混合して、混合物を形成するステップ、及び混合物を約-10℃から約-30℃にて約7日から約42日静置するステップを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
混合物中のヒアルロン酸又はその金属塩の濃度が、約10wt%から約30wt%である、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
ステップ(b)において、
酸性環境が、約0.58Nから約1.0Nの濃度の酸により用意され、自己架橋反応を、約-10℃にて約7日から約42日実施する、
酸性環境が、約0.58Nから約1.5Nの濃度の酸により用意され、自己架橋反応を、約-20℃にて約7日から約35日実施する、
酸性環境が、約0.58Nから約1.0Nの濃度の酸により用意され、自己架橋反応を、約-20℃にて約7日から約28日実施する、
酸性環境が、約1.0Nから約1.5Nの濃度の酸により用意され、自己架橋反応を、約-30℃にて約14日から約35日実施する、又は
酸性環境が、約0.58Nから約1.0Nの濃度の酸により用意され、自己架橋反応を、約-30℃にて約14日から約35日実施する、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
自己架橋反応を1回のみ実施するステップを含み、全体の自己架橋反応を約-10℃から約-30℃にて継続的に実施する、請求項1に記載の方法。
【請求項9】
ステップ(c)の前に、ステップ(b)の生成物を均質化及び/又は洗浄するステップをさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項10】
ステップ(b)の生成物が、約12から約30の平衡膨潤能を有する、請求項1に記載の方法。
【請求項11】
ステップ(c)の前に、ステップ(b)の生成物のpHを、約6.0から約7.0に調整するステップをさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項12】
ステップ(c)の前に、ステップ(b)の生成物のpHを、約6.3から約6.8に調整するステップをさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項13】
ステップ(c)が、ステップ(b)の生成物を、約110℃から約130℃の蒸気により約10分から約60分処理するステップを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項14】
自己架橋ヒアルロン酸ゲルが、以下の少なくとも1つを呈する:
25℃にて、また、0.1Hzから10.0Hzの周波数のそれぞれ且つすべてで測定した約1.5wt%から約7.5wt%の濃度の自己架橋ヒアルロン酸ゲルのtan δが、1以下であり、
25℃にて、また、1.0Hzで測定した約1.5wt%から約7.5wt%の濃度の自己架橋ヒアルロン酸ゲルの弾性率が、約30Paから約8000Paであり、
25℃にて、また、1.0Hzで測定した約1.5wt%から約7.5wt%の濃度の自己架橋ヒアルロン酸ゲルの粘性率が、約20Paから約2000Paであり、
25℃にて、また、1sec-1のせん断率で測定した約1.5wt%から約7.5wt%の濃度の自己架橋ヒアルロン酸ゲルのせん断粘度が、約20Pa・sから約900Pa・sである、請求項1に記載の方法。
【請求項15】
25℃にて、また、0.1Hzから10.0Hzの周波数のそれぞれ且つすべてで測定した約1.5wt%から約7.5wt%の濃度の自己架橋ヒアルロン酸ゲルのtan δが1以下であり、自己架橋ヒアルロン酸ゲルが無菌である、自己架橋ヒアルロン酸ゲル。
【請求項16】
以下の少なくとも1つを呈する:
25℃にて、また、1.0Hzで測定した約1.5wt%から約7.5wt%の濃度の自己架橋ヒアルロン酸ゲルの弾性率が、約30Paから約8000Paであり、
25℃にて、また、1.0Hzで測定した約1.5wt%から約7.5wt%の濃度の自己架橋ヒアルロン酸ゲルの粘性率が、約20Paから約2000Paであり、
25℃にて、また、1sec-1のせん断率で測定した約1.5wt%から約7.5wt%の濃度の自己架橋ヒアルロン酸ゲルのせん断粘度が、約20Pa・sから約900Pa・sであり、
25℃にて、また、50sec-1のせん断率で測定した約1.5wt%から約7.5wt%の濃度の自己架橋ヒアルロン酸ゲルのせん断粘度が、約0.31Pa・sから約35.66Pa・sである、請求項15に記載の自己架橋ヒアルロン酸ゲル。
【請求項17】
請求項15に記載の自己架橋ヒアルロン酸ゲルを含む、骨再生を促進する、骨欠損を処置する、術後癒着を防止する、皮下充填する、及び/又は関節症を処置するための医薬組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
発明の詳細な説明
本開示は、ヒアルロン酸、特に自己架橋ヒアルロン酸ゲルを製造する方法、及びその生成物に関する。
【背景技術】
【0002】
ヒアルロン酸は、約400Dの分子量を有し、交互のβ-1-4及びβ-1-3グリコシド結合を経由して連結したβ-1,3-N-アセチルグルコサミン及びβ-1,4-グルクロン酸で構成されるジサッカリド単位から形成される直線状多糖である。商用のヒアルロン酸は、細菌、例えばレンサ球菌(Streptococcus)の発酵から、又は動物組織、例えば鶏冠から抽出され得る。直鎖状ヒアルロン酸は、ある酵素(例えばヒアルロニダーゼ)、又はフリーラジカル反応によりin vivoで急速に分解され、したがってその半減期はin vivoで短縮する。さらに、直鎖状ヒアルロン酸の用途は、機械的強度を欠くため限定される。したがって、ヒアルロン酸は、実務的な用途では架橋されることが多い。
【0003】
自己架橋ヒアルロン酸は、活性化物質又は触媒の存在下で、ヒアルロン酸の分子間又は分子内ヒドロキシル基(-OH)及びカルボキシル基(-COOH)のエステル化により生成されるエステルである。架橋剤が使用されないので、生じた自己架橋ヒアルロン酸上に架橋基の分子断片は形成されず、これにより、したがって、優れた生体適合性及び粘弾性を保つことができ、様々な医療用途に広く使用されている。例えば、自己架橋ヒアルロン酸は、関節症を処置する(例えば、US6,251,876で開示されている)ために、術後癒着を防止する(例えば、US 7,504,386)ために、又は皮下充填剤(例えば、Andrea Alessandriniら、Plastic and Reconstructive Surgery、第118巻、341~346頁(2006年)で開示されている)として適用され得る。自己架橋ヒアルロン酸も、組織工学用途に幅広く使用される。自己架橋ヒアルロン酸ベースの術後癒着防止ゲルは、Hyalobarrier(登録商標)及びHYALOGLIDE(登録商標)として市販されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
先述の問題の1つ以上に取り組むために、本開示は、蒸気処理される高粘度自己架橋ヒアルロン酸ゲルを生成するための、酸の存在下での低温自己架橋反応プロセスを提供する。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本開示は、自己架橋ヒアルロン酸ゲルを製造するための方法であって、
(a)ヒアルロン酸又はその金属塩含有コロイドを用意するステップ、
(b)ヒアルロン酸又はその金属塩含有コロイドの自己架橋反応を、酸性環境で約-10℃から約-30℃にて約7日から約42日実施するステップ、及び
(c)ステップ(b)の生成物を蒸気により処理して、自己架橋ヒアルロン酸ゲルを得るステップを含む、方法を提供する。
【0006】
ヒアルロン酸の塩の例は、ヒアルロン酸のカリウム、ナトリウム、亜鉛又はリチウム塩を含むが、それらに限定されないアルカリ金属塩であり得る。例えば、ヒアルロン酸の金属塩は、ヒアルロン酸ナトリウムであり得る。
【0007】
本開示のいくつかの実施形態では、方法は、いかなる架橋剤の使用も含まない。
【0008】
本開示のいくつかの実施形態では、ステップ(a)は、ヒアルロン酸又はその金属塩含有コロイドを顆粒形態、ストライプ形態又はストリング形態で用意するステップを含む。
【0009】
本開示のいくつかの実施形態では、ステップ(b)において、酸性環境は、約0.5Nから約1.5Nの、例えば約0.51Nから約1.4Nの、約0.52Nから約1.3Nの、約0.53Nから約1.2Nの、約0.54Nから約1.1Nの、約0.55Nから約1.0Nの、約0.56Nから約0.9Nの、約0.57Nから約0.8Nの、約0.58Nから約0.7Nの、又は約0.59Nから約0.6Nの濃度の酸により用意される。本開示のいくつかの実施形態では、酸は、塩酸、硝酸及び/又は硫酸である。
【0010】
本開示のいくつかの実施形態では、ステップ(b)は、ヒアルロン酸又はその金属塩含有コロイドを酸と室温にて混合して、混合物を形成するステップ、及び混合物を約-10℃から約-30℃にて約7日から約42日静置するステップを含む。例えば、混合物は、約-12℃から約-28℃にて、約-14℃から約-26℃にて、約-16℃から約-24℃にて、約-18℃から約-22℃にて、約-10℃にて、約-20℃にて又は約-30℃にて;約9から約40日、約11から約40日、約13から約38日、約15から約36日、約17から約34日、約19から約32日、約21から約30日、約23から約28日、約25から約27日、約7日、約14日、約21日又は約28日静置する。本開示のいくつかの実施形態では、混合物中のヒアルロン酸又はその金属塩の濃度は、約10wt%から約30wt%、例えば、約11wt%から約28wt%、約12wt%から約26wt%、約13wt%から約24wt%、約14wt%から約22wt%、約15wt%から約20wt%、約16wt%から約18wt%、約10wt%から約20wt%、又は約10wt%から約14.5wt%である。
【0011】
本開示のいくつかの実施形態では、ステップ(b)において、
酸性環境は、約0.58Nから約1.0Nの濃度の酸により用意され、自己架橋反応を、約-10℃にて約7日から約42日実施する、
酸性環境は、約0.58Nから約1.5Nの濃度の酸により用意され、自己架橋反応を、約-20℃にて約7日から約35日実施する、
酸性環境は、約0.58Nから約1.0Nの濃度の酸により用意され、自己架橋反応を、約-20℃にて約7日から約28日実施する、
酸性環境は、約1.0Nから約1.5Nの濃度の酸により用意され、自己架橋反応を、約-30℃にて約14日から約35日実施する、又は
酸性環境は、約0.58Nから約1.0Nの濃度の酸により用意され、自己架橋反応を、約-30℃にて約14日から約35日実施する。
【0012】
本開示のいくつかの実施形態では、方法は、自己架橋反応を1回のみ実施するステップを含み、全体の自己架橋反応を約-10℃から約-30℃にて継続的に実施する。
【0013】
本開示のいくつかの実施形態では、ステップ(c)の前に、方法は、ステップ(b)の生成物を均質化及び/又は洗浄するステップをさらに含む。
【0014】
本開示のいくつかの実施形態では、ステップ(b)の生成物は、約12から約30の平衡膨潤能を有する。
【0015】
本開示のいくつかの実施形態では、ステップ(c)の前に、方法は、ステップ(b)の生成物のpHを、約6.0から約7.0に調整するステップをさらに含む。本開示のいくつかの実施形態では、ステップ(c)の前に、方法は、ステップ(b)の生成物のpHを、約6.3から約6.8に調整するステップをさらに含む。本開示のいくつかの実施形態では、pHを調整するステップは、均質化及び/又は洗浄するステップの後である。
【0016】
蒸気処理の温度及び時間は、本開示で限定されないが、但し、本開示の自己架橋ヒアルロン酸ゲルが、正しく生成できることを条件とする。本開示のいくつかの実施形態では、ステップ(c)は、ステップ(b)の生成物を約110℃から約130℃の蒸気により、約10分から約60分処理するステップを含む。例えば、ステップ(c)に使用される蒸気の温度は、約112℃から約128℃、約114℃から約126℃、約116℃から約124℃、約118℃から約122℃、又は約121℃である。
【0017】
本開示のいくつかの実施形態では、方法は、自己架橋ヒアルロン酸ゲルを製造するためのものであり、自己架橋ヒアルロン酸ゲルは、以下の少なくとも1つを呈する:
25℃にて、また、0.1Hzから10.0Hzの周波数のそれぞれ且つすべてで測定した約1.5wt%から約7.5wt%の濃度の自己架橋ヒアルロン酸ゲルのtan δが1以下であり、
25℃にて、また、1.0Hzで測定した約1.5wt%から約7.5wt%の濃度の自己架橋ヒアルロン酸ゲルの弾性率が、約30Paから約8000Paであり、
25℃にて、また、1.0Hzで測定した約1.5wt%から約7.5wt%の濃度の自己架橋ヒアルロン酸ゲルの粘性率が、約20Paから約2000Paであり、又は、
25℃にて、また、1sec-1のせん断率で測定した約1.5wt%から約7.5wt%の濃度の自己架橋ヒアルロン酸ゲルのせん断粘度が、約20Pa・sから約900Pa・sである。本開示のいくつかの実施形態では、前述の濃度は、自己架橋ヒアルロン酸ゲルにおけるその塩のヒアルロン酸(hyaluronic acid of a salt thereof)の濃度を指す。
【0018】
本開示は、25℃にて、また、0.1Hzから10.0Hzの周波数のそれぞれ且つすべてで測定した約1.5wt%から約7.5wt%の濃度の自己架橋ヒアルロン酸ゲルのtan δが1以下であり、自己架橋ヒアルロン酸ゲルが無菌である、自己架橋ヒアルロン酸ゲルをさらに提供する。
【0019】
本開示のいくつかの実施形態では、25℃にて、また、1.0Hzで測定した約1.5wt%から約7.5wt%の濃度の自己架橋ヒアルロン酸ゲルの弾性率は、約30Paから約8000Paである。
【0020】
本開示のいくつかの実施形態では、25℃にて、また、1.0Hzで測定した約1.5wt%から約7.5wt%の濃度の自己架橋ヒアルロン酸ゲルの粘性率は、約20Paから約2000Paである。
【0021】
本開示のいくつかの実施形態では、25℃にて、また、1sec-1のせん断率で測定した約1.5wt%から約7.5wt%の濃度の自己架橋ヒアルロン酸ゲルのせん断粘度は、約20Pa・sから約900Pa・s、約38.04Pa・sから約896.91Pa・s、又は約55.69Pa・sから約896.91Pa・sである。
【0022】
本開示のいくつかの実施形態では、25℃にて、また、50sec-1のせん断率で測定した約1.5wt%から約7.5wt%の濃度の自己架橋ヒアルロン酸ゲルのせん断粘度は、約0.31Pa・sから約35.66Pa・s、約1.97Pa・sから約35.66Pa・s、又は約2.18Pa・sから約35.66Pa・sである。
【0023】
本開示は、それを必要とする対象において骨再生を促進する、骨欠損を処置する、術後癒着を防止する、皮下充填する、及び/又は関節症を処置するための方法であって、自己架橋ヒアルロン酸ゲルを、必要とする対象に投与するステップを含む、方法をさらに提供する。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【
図1】自己架橋ヒアルロン酸粒子(蒸気処理前)及び自己架橋ヒアルロン酸ゲル(蒸気処理後)のせん断粘度の比較を示す図である。自己架橋ヒアルロン酸粒子は、1.0N HClの存在下での、ヒアルロン酸又はその塩含有コロイド(ヒアルロン酸濃度14.5wt%)の、-10℃にて14日の自己架橋反応により調製される。自己架橋ヒアルロン酸粒子(蒸気処理前)のpHは6.5であり、自己架橋ヒアルロン酸粒子は、蒸気により121℃にて15分処理される。
【
図2】自己架橋ヒアルロン酸ゲルの弾性率(G')及び粘性率(G'')対測定の周波数を示す図である。自己架橋ヒアルロン酸粒子は、1.5N HClの存在下での、ヒアルロン酸又はその塩含有コロイド(ヒアルロン酸濃度14.5wt%)の、-30℃にて14日の自己架橋反応により調製される。自己架橋ヒアルロン酸粒子(蒸気処理前)のpHは6.5であり、自己架橋ヒアルロン酸粒子は、蒸気により121℃にて15分処理される。
【
図3】自己架橋ヒアルロン酸ゲルのせん断粘度対せん断率を示す図である。自己架橋ヒアルロン酸粒子は、1.5N HClの存在下での、ヒアルロン酸又はその塩含有コロイド(ヒアルロン酸濃度14.5wt%)の、-30℃にて14日の自己架橋反応により調製される。自己架橋ヒアルロン酸粒子(蒸気処理前)のpHは6.5であり、自己架橋ヒアルロン酸粒子は、蒸気により121℃にて15分処理される。
【
図4】自己架橋ヒアルロン酸粒子(蒸気処理前)の、自己架橋ヒアルロン酸ゲル(蒸気処理後)の弾性率に対するpHの効果を示す図である。自己架橋ヒアルロン酸粒子は、1.5N HClの存在下での、ヒアルロン酸又はその塩含有コロイド(ヒアルロン酸濃度14.5wt%)の、-20℃にて21日の自己架橋反応により調製される。自己架橋ヒアルロン酸粒子は、蒸気により121℃にて20分処理される。
【
図5】自己架橋ヒアルロン酸粒子(蒸気処理前)の、自己架橋ヒアルロン酸ゲル(蒸気処理後)の粘性率に対するpHの効果を示す図である。自己架橋ヒアルロン酸粒子は、1.5N HClの存在下での、ヒアルロン酸又はその塩含有コロイド(ヒアルロン酸濃度14.5wt%)の、-20℃にて21日の自己架橋反応により調製される。自己架橋ヒアルロン酸粒子は、蒸気により121℃にて20分処理される。
【
図6】開示されている自己架橋ヒアルロン酸ゲル及び対照群での処理後の、頭蓋欠損後に新たに形成された骨の、体積に対するパーセンテージを比較する実験結果を示す、表14に対応する図である。No. 1:ブランク群:頭蓋欠損手術後に、創傷をBio-Gideメンブレンで直接覆う;No. 2:頭蓋欠損手術後、創傷に対照群のゲルをインプラントし、次いでBio-Gideメンブレンで覆う;No. 3:頭蓋欠損手術後、創傷に実験群1のゲルをインプラントし、次いでBio-Gideメンブレンで覆う;No. 4:頭蓋骨欠損手術後、創傷に実験群2のゲルをインプラントし、次いでBio-Gideメンブレンで覆う;No. 5:頭蓋骨欠損手術後、創傷に実験群3のゲルをインプラントし、次いでBio-Gideメンブレンで覆う;No. 6:頭蓋骨欠損手術後、創傷に実験群4のゲルをインプラントし、次いでBio-Gideメンブレンで覆う;No. 7:陽性対照群:頭蓋骨欠損手術後、創傷にCoreBone 1000骨粉をインプラントし、次いでBio-Gideメンブレンで覆う。陽性対照群に使用されるCoreBone 1000は、顆粒形態の外国の商用骨移植材料であり、これは、イスラエルのCoreBoneという会社により生産され、欧州連合により認証されている。CoreBone 1000は、天然の骨移植材料であり、高い生体適合性という利点を有する。
【発明を実施するための形態】
【0025】
自己架橋ヒアルロン酸は、活性化物質、2-クロロ-1-メチルピリジニウムヨージド(CMPI)(米国特許第5,676,964号で開示されている)の存在下での、又は、低温にて、酸(例えば、硝酸又は塩酸)の存在下での自己架橋反応(例えば、日本特許第4460663号)により得られることが知られているが、これらの既存の技術のいずれも難点がある。
【0026】
CMPIを活性化物質として使用したヒアルロン酸の自己架橋エステル交換は、大量の有機溶媒、イオン交換樹脂及び毒性試薬を伴う複雑な反応である。反応は、樹脂を充填したカラムを用いて、ヒアルロン酸ナトリウムから、極性有機溶媒中に可溶性のテトラアモニウムヒアルロネート(tetramonium hyaluronate)への転化を引き起こし、カラムでは、樹脂が毒性TBAOH(水酸化テトラブチルアンモニウム)で処置されなければならない。テトラアンモニウムヒアルロネートを含有する得られた水溶液をフリーズドライさせ、有機溶媒、例えばジメチルスルホキシド(DMSO)に溶解し、次いでCMPIを添加して、自己架橋反応を実行する。反応中、トリエチルアミンを添加して、反応で生成された塩酸を中和し、これにより、溶液のpHが低下する。自己架橋反応後、保護基を除去するために、塩化ナトリウム水溶液を反応後混合物に添加し、次いで溶媒(例えば、エタノール)を使用して、自己架橋ヒアルロネートを沈殿させ、これを次いで乾燥させて、自己架橋ヒアルロン酸を形成する。前述のプロセスでは、樹脂カラムにおいてヒアルロン酸が官能基の置換反応を受ける場合、ヒアルロン酸溶液の高い粘度のため、置換の際にヒアルロン酸の濃度は低い(約0.5wt%から1.0wt%ヒアルロン酸)。低濃度のヒアルロン酸では、大きい体積の溶液が生じ、これは、沈殿させるために大量の溶媒(例えば、エタノール)を必要とする。樹脂イオン交換により得られるヒアルロネートのテトラアンモニウム塩は、有機溶媒中で限定された溶解度を有し、これは、エステル化反応中に大量の有機溶媒も必要とし、溶媒回収の問題が生じる。
【0027】
自己架橋ヒアルロン酸を合成するための別の方法は、有機溶媒及び毒性活性化物質を使用せずに、低温にて、また酸の存在下で実行する。方法は、日本特許第4460663号で開示されており、1%ヒアルロン酸溶液のpHを酸性溶液(例えば、塩酸、硝酸及び硫酸)で2.0以下に調整するステップ、ヒアルロン酸溶液を-20℃にて120時間置くステップ、次いで得られた生成物をpH7.0の緩衝溶液で洗浄するステップ、及び得られた生成物を破砕して、ヒアルロン酸ゲルを得るステップを含む。前述の洗浄するステップでは、可溶性ヒアルロン酸は除去されることがあり、したがって得られたヒアルロン酸ゲルの粘度は比較的低く、これは実務的な医薬用途に望ましくない。さらに、ヒアルロン酸のそのような低い反応濃度で得られたゲルは、蒸気処理又は滅菌後にゲル状態で留まることができず、適用のために無菌を持続させることが困難になる。
【0028】
さらに、反応のために高濃度のヒアルロン酸を含有する混合物を調製する場合、ヒアルロン酸粉末を、酸(例えば、硫酸、塩酸、又は硝酸)を含有する溶液と直接的に混合すると、混合物は、ヒアルロン酸粉末を内側に含有する凝集体を形成する傾向がある。そのような凝集体は、撹拌により分散させる、又は溶解することが困難であり、このため、ヒアルロン酸が酸性溶液と効率的に混合されることが妨げられる、又は長い撹拌時間が必要となり、ヒアルロン酸の加水分解が生じる。したがって、後続の低温度下の自己架橋反応は、正しく実行できず、自己架橋しない、又は低度にしか自己架橋しない大量のヒアルロン酸は後続の洗浄するステップで失われるおそれがある。したがって、前述の方法を通して、安定な性質の自己架橋ヒアルロン酸粒子又はゲルを得ることはできない。
【0029】
自己架橋ヒアルロン酸ゲルの生分解性医療材料としての性能を改善するためには、反応において高分子量を有し、高濃度(例えば、10wt%以上)を有するヒアルロン酸を使用する必要がある。しかし、高分子量を有するヒアルロン酸のコロイドは、濃度が上昇するにつれてきわめて粘性になるので、ヒアルロン(hyaluronic)を酸と適切に混合するのに長い撹拌時間が必要とされ、これもヒアルロン酸の加水分解を生じる。例えば、日本特許第4383035号の比較例1は、1N濃度の15グラムの硝酸を乳鉢に入れ、200万ダルトンの分子量を有する6グラムのヒアルロン酸ナトリウム粉末を硝酸と混合し(ヒアルロン酸ナトリウムの反応濃度は28.6wt%である)、混合物を、均一に混合されるまで徹底的に混練したと述べている。ヒアルロン酸ナトリウムが硝酸との凝集体を直ちに形成するので、継続して混練した約30分後でさえも、混合物を均一に混合することは困難であった。継続した混練プロセスでは、ヒアルロン酸の分子量は硝酸により低下し、したがって液体状混合物が形成された。-20℃にて所定の日数の冷蔵及び冷凍後、冷凍生成物をリン酸緩衝液中で解凍した場合、ヒアルロン酸ナトリウムはリン酸緩衝液に溶解し、ヒアルロン酸ゲルを形成することさえできなかった。この特許は、最初に酸性溶液を微細顆粒状若しくは粉砕形態に冷凍するステップ、次いでこれをヒアルロン酸粉末と、0℃から-20℃の低温にて混合し、ヒアルロン酸の反応濃度を10wt%以上とするステップにより、ヒアルロン酸及び酸性溶液を混合する改善した方法を提案する。しかし、そのような方法は、微細顆粒状若しくは粉砕形態に冷凍される酸性溶液、及び低温にて継続的に実行される混合を必要とする。方法は複雑で、工業生産に不向きである。
【0030】
米国特許第9,216,193号は、3から10の平衡膨潤能、10μmから100μmの粒子サイズ、及び3wt%から8wt%のヒアルロン酸濃度を有する自己架橋ヒアルロン酸粒子を含む自己架橋ヒアルロン酸組成物について開示している。自己架橋ヒアルロン酸組成物は、50sec-1のせん断率及び25±2℃にて測定して、300mPa・s未満のせん断粘度を有し、これは、高濃度の関節腔注入物の製造における過剰なスラストの問題を改善できる。しかし、この特許は、日本特許第4383035号で使用される方法に従っており、そこでは酸性溶液を、最初に微細顆粒状又は粉砕形態へと冷凍し、次いでヒアルロン酸粉末と-10℃にて混合する。したがって、この特許は、低温での混合という欠点を依然として有し、複雑で、工業生産に望ましくない。一方、この方法により得られた自己架橋ヒアルロン酸組成物は、300mPa・s以下の粘度しか有さない顆粒状形態であり、これは、高粘度を必要とする医療製品、例えば創傷包帯又は術後癒着防止製品に好適ではない。
【0031】
低温にて、また酸の存在下で自己架橋ヒアルロン酸ゲルを合成するための他の技術は、US6,387,413、US6,790,461、US6,635,267及びUS7,014,860を含み、それらから得られたゲルも、酸を除去するために洗浄するステップ、及び中和するステップの後で低粘度を示す。これらの特許も、蒸気処理又は滅菌後に、得られたゲルが、医療用途に必要とされる望ましい状態及び架橋性質を保つことができると実証できない。
【0032】
特に定義がない限り、本明細書で使用されるすべての技術及び科学用語は、本開示が関係する当業者により普通に理解されるものと同じ意味を有する。不一致のケースでは、定義を含む本文書が支配する。
【0033】
本明細書及び添付の特許請求の範囲に使用される単数形「a」、「an」及び「the」は、内容が別途明らかに指示しない限り複数の言及を含む。
【0034】
本明細書及び添付の特許請求の範囲に使用される「又は」という用語は、内容が別途明らかに指示しない限り「及び/又は」を意味する。複数の従属請求項のケースでは、「又は」という用語は、先述の独立又は従属請求項の1つ超を、置き換えの目的のみで再び言及することが意図される。
【0035】
本明細書で使用される「ヒアルロン酸又はその金属塩コロイド」という用語は、液体溶媒を吸収することにより膨潤する固体粉末又は固体羊毛状物質から形成されるコロイドを指す。液体溶媒の例は、蒸留水、脱イオン水、又は生理食塩水若しくは緩衝溶液を含むが、それらに限定されない。
【0036】
本明細書で使用される「ゲル」という用語は、その損失弾性率又は粘性率(G'')以上の貯蔵弾性率又は弾性率(G')を有する材料を指す。貯蔵弾性率又は弾性率(G')及び損失弾性率又は粘性率(G'')は、レオメーター(例えば、AR2000exレオメーター、TA instruments)により、一定の周波数で測定され得る。例えば、25℃にて、また、0.1から10Hzの周波数のそれぞれ且つすべてで測定した場合、「ゲル」の弾性率(G')は、粘性率(G'')以上になり得、損失正接(tan δ、粘性率G''/弾性率G'に等しい)は1以下である。本開示のいくつかの実施形態では、25℃にて、また、1sec-1のせん断率で測定した「ゲル」のせん断粘度は、少なくとも20Pa・s以上である。
【0037】
本開示は、低温にて、また、酸の存在下で自己架橋ヒアルロン酸ゲルを合成するための方法であって、自己架橋ヒアルロン酸ゲルが、高温にて蒸気処理できる方法を提供する。得られた自己架橋ヒアルロン酸ゲルは、高粘度を有し、無菌であり、これは医療用途、例えば癒着防止、骨再生及び修復、皮下充填剤(又は皮膚充填剤)、関節疾患処置等に好適である。具体的には、本開示は、自己架橋ヒアルロン酸ゲルを製造するための方法であって、
(a)ヒアルロン酸又はその金属塩含有コロイドを用意するステップ、
(b)ヒアルロン酸又はその金属塩含有コロイドの自己架橋反応を、酸性環境で約-10℃から約-30℃にて約7日から約42日実施するステップ、及び
(c)ステップ(b)の生成物を蒸気により処理して、自己架橋ヒアルロン酸ゲルを得るステップを含む、方法を提供する。
【0038】
本開示のいくつかの実施形態では、自己架橋ヒアルロン酸ゲルを製造するための方法は、以下の少なくとも1つを呈する:
25℃にて、また、0.1Hzから10.0Hzの周波数のそれぞれ且つすべてで測定した約1.5wt%から約7.5wt%の濃度のtan δが1以下、25℃にて、また、1.0Hzで測定した約1.5wt%から約7.5wt%の濃度の弾性率が、約30Paから約8000Pa、25℃にて、また、1.0Hzで測定した約1.5wt%から約7.5wt%の濃度の粘性率が、約20Paから2000Pa、並びに25℃にて、また、1sec-1のせん断率で測定した約1.5wt%から約7.5wt%の濃度のせん断粘度が、約20Pa・sから約900Pa・s。本開示のいくつかの実施形態では、前述の濃度は、自己架橋ヒアルロン酸ゲルにおけるその塩のヒアルロン酸(hyaluronic acid of a salt thereof)の濃度を指す。
【0039】
本開示のいくつかの実施形態では、自己架橋反応前に、ヒアルロン酸又はその金属塩(これは、粉末又は顆粒状形態であり得る)を水性溶媒に浸して、又はそれと混合して、水性溶媒を吸収させ、ひいては硬度が近似した(approaching solidity)ヒアルロン酸又はその金属塩含有コロイドを形成する。本開示のいくつかの実施形態では、水性溶媒は、蒸留水又は脱イオン水である。いかなる理論にも束縛されることを意図していないが、ヒアルロン酸又はその金属塩の粉末は、水性溶媒を吸収し、均一に膨潤してコロイドを形成するので、酸は、撹拌することによりヒアルロン酸又はその金属塩含有コロイドと容易且つ十分に混合できると考えられている。本開示のいくつかの実施形態では、ヒアルロン酸又はその金属塩含有コロイドは、ヒアルロン酸粉末を含有する凝集体を形成することなく、酸と室温にて混合でき、これにより、従来技術における凝集及び低温での混合の難点を克服できる。混合物は、低温にて自己架橋するのに十分な時間維持でき、次いで任意選択で均質化でき、洗浄でき、且つ中和できる。水性溶媒の除去後、自己架橋ヒアルロン酸粒子が得られる。自己架橋ヒアルロン酸粒子は、次いで高温の蒸気により処理されて、無菌の高粘度自己架橋ヒアルロン酸ゲルが形成され得る。本開示の方法は、従来の低温合成により生成される架橋したヒアルロン酸の低粘度を改善し、医療用途、例えば術後癒着防止、骨再生及び欠損の修復、皮膚充填剤、並びに関節症処置等に使用できる。
【0040】
本開示のいくつかの実施形態では、ヒアルロン酸の自己架橋は、ヒアルロン酸の分子間又は分子内ヒドロキシル基(-OH)とカルボキシル基(-COOH)との間のエステル化反応である。本開示の方法は、架橋剤を使用せず、挙げられている自己架橋反応を通してのみ達成される。
【0041】
本開示によるヒアルロン酸又はその金属塩の平均分子量は、特に限定されないが、但し、ヒアルロン酸又はその金属塩が、コロイド及びゲルの形成に使用できることを条件とする。本開示のいくつかの実施形態では、ヒアルロン酸又はその金属塩の平均分子量は、約766,000以上(固有粘度η=1.4m3/kg;平均分子量、Laurentの式(分子量={[η]×105/3.6}1/0.78)、766,000)により計算される。本開示のいくつかの実施形態では、ヒアルロン酸又はその金属塩の平均分子量は、約983,000から約1,121,000である(約1.7m3/kgから約2.0m3/kgの固有粘度を有する)。ヒアルロン酸又はその金属塩の固有粘度は、薬局方、例えば欧州薬局方9.0に記載されているものに従って測定され得る。
【0042】
本開示のいくつかの実施形態では、ステップ(a)は、ヒアルロン酸又はその金属塩含有コロイドを、顆粒形態、ストライプ形態又はストリング形態で用意するステップを含む。例えば、ヒアルロン酸又はその金属塩含有コロイドは、ステップ(b)における自己架橋反応の前に小片(例えば、顆粒、ストライプ又はストリング)に破砕され得る。破砕する方法は、本開示に限定されない。例えば、ヒアルロン酸又はその金属塩含有コロイドは、シリンジ、ふるいを通して、又は金属、例えばブレードにより破砕、ふるい分け又は細断され得る。
【0043】
本開示のいくつかの実施形態では、ステップ(b)の反応温度は、約-10℃から約-30℃、例えば、約-10℃から約-20℃である。
【0044】
本開示のいくつかの実施形態では、酸性環境は、任意の濃度の、任意の種類の酸で用意され得るが、但し、ヒアルロン酸又はその金属塩が、酸性環境において十分に自己架橋して、自己架橋ヒアルロン酸ゲルを形成できることを条件とする。本開示のいくつかの実施形態では、酸性環境は、約0.5Nから約1.5Nの濃度の酸により用意され、酸は、塩酸、硝酸及び硫酸からなる群から選択される。
【0045】
本開示のいくつかの実施形態では、ステップ(b)は、ヒアルロン酸又はその金属塩含有コロイドを酸と室温にて混合して、混合物を形成するステップ、及び混合物を約-10℃から約-30℃にて約7から42日静置するステップを含む。酸は、混合する前に任意の濃度の溶液(例えば、水溶液)として調製され得るが、但し、混合物における酸の濃度、例えば約0.5Nから1.5Nが、ヒアルロン酸の自己架橋反応に適正な環境を作り出すことができることを条件とする。本開示のいくつかの実施形態では、混合物は、ヒアルロン酸又はその金属塩含有コロイドを、十分な量の14N硝酸溶液、12N塩酸溶液又は12N硫酸溶液と混合することにより調製される。或いは、本開示のいくつかの実施形態では、混合物は、ヒアルロン酸又はその金属塩含有コロイドを、十分な量の、約6Nから約12Nの濃度の塩酸溶液、硝酸溶液又は硫酸溶液と混合することにより調製される。
【0046】
本開示のいくつかの実施形態では、ヒアルロン酸又はその金属塩は、混合物において所定の濃度に達する。本開示のいくつかの実施形態では、混合物中のヒアルロン酸又はその金属塩の濃度は、約10wt%から約30wt%、例えば約10wt%から約20wt%、又は約10wt%から約14.5wt%である。
【0047】
ヒアルロン酸又はその金属塩含有コロイドを酸と混合する手段は、本開示に限定されないが、但し、均質な混合を達成できることを条件とする。混合は、人力若しくは機械、例えば、手持ち式ミキシングスティック、又は機械、例えば混練機、撹拌機、ブレンダー若しくは自転公転混合機により実行され得るが、それらに限定されない。
【0048】
本開示のいくつかの実施形態では、混合物における酸濃度は、自己架橋反応の反応温度、及びヒアルロン酸又はその塩の濃度と関係する、又は相関する。本開示のいくつかの実施形態では、混合物における酸濃度は、約-10℃の反応温度で約0.58Nから約1.0Nであり得る。混合物における酸濃度は、約-20℃の反応温度で約0.58Nから約1.5Nであり得る。混合物における酸濃度は、約-30℃の反応温度で約1.0Nから約1.5Nであり得る。本開示のいくつかの実施形態では、混合物における酸濃度は、約-10℃の反応温度で約0.58Nから約1.0Nであり得、混合物におけるヒアルロン酸又はその塩の濃度は、約10wt%である。
【0049】
本開示のいくつかの実施形態では、自己架橋反応の反応時間は、少なくとも7日又は14日であり得、これは、反応温度、及び混合物におけるヒアルロン酸又はその塩の濃度に基づいて変動する。
【0050】
本開示のいくつかの実施形態では、混合物におけるヒアルロン酸又はその塩の濃度は、約14.5wt%、反応温度は約-10℃であり、反応時間は、約14日から約42日、例えば約21日から約28日であり得る。
【0051】
本開示のいくつかの実施形態では、混合物におけるヒアルロン酸又はその塩の濃度は、約14.5wt%、反応温度は約-20℃であり、反応時間は、約7日から約35日、例えば約14日から約28日であり得る。
【0052】
本開示のいくつかの実施形態では、混合物におけるヒアルロン酸又はその塩の濃度は、約14.5wt%、反応温度は約-30℃であり、反応時間は、約14日から約35日、例えば約14日から約28日であり得る。
【0053】
本開示のいくつかの実施形態では、混合物におけるヒアルロン酸又はその塩の濃度は、約10wt%、反応温度は約-10℃であり、反応時間は、約7日から約28日、例えば約14日から約28日であり得る。
【0054】
本開示のいくつかの実施形態では、混合物におけるヒアルロン酸又はその塩の濃度は、約10wt%、反応温度は約-20℃であり、反応時間は、約7日から約28日、例えば約14日から約28日であり得る。
【0055】
本開示のいくつかの実施形態では、混合物におけるヒアルロン酸又はその塩の濃度は、約10wt%、反応温度が約-30℃であり、反応時間は、約14日から約35日、例えば約14日から約28日であり得る。
【0056】
本開示のいくつかの実施形態では、方法は、自己架橋反応を1回のみ、約-10℃から約-30℃にて継続的に実施するステップを含む。すなわち、混合後、混合物は、自己架橋反応の全体の反応時間を通して、約-10℃から約-30℃にて保持される。本開示のいくつかの実施形態では、反応温度は、全体の自己架橋反応を通して実質的に一定であり得る。
【0057】
本開示のいくつかの実施形態では、ステップ(c)の前に、方法は、ステップ(b)の生成物を均質化及び/又は洗浄するステップをさらに含む。本開示のいくつかの実施形態では、(c)の前に、方法は、ステップ(b)の生成物を均質化及び洗浄するステップ、したがって自己架橋ヒアルロン酸粒子を形成するステップをさらに含む。
【0058】
本開示のいくつかの実施形態では、ステップ(b)の生成物は、洗浄するステップの前に均質化される。本開示のいくつかの実施形態では、本開示の均質化するステップは、ステップ(b)の産物(produce)の大きさを縮小すること、したがってステップ(b)の産物(produce)を液体、例えば洗浄するステップに使用される液体中に均等に分散させることを意味する。本開示の均質化するステップは、破砕するステップを含み得、ホモジナイザーにより、又はふるいを通して達成され得る。本開示のいくつかの実施形態では、ステップ(b)の生成物は、ホモジナイザーにより均質化される。
【0059】
洗浄するステップは、水、蒸留水、脱イオン水、生理食塩水又は緩衝溶液を使用し得る。洗浄するステップは、ステップ(b)の生成物から酸性成分、例えば硝酸、塩酸又は硫酸を除去し、得られた生成物を中性又はおおよそ中性のpHに中和する。
【0060】
いかなる理論にも束縛されることを意図していないが、蒸気処理前の自己架橋ヒアルロン酸粒子のpHは、蒸気処理後における自己架橋ヒアルロン酸ゲルのレオロジーの性質に影響を与え得ると考えられている。本開示のいくつかの実施形態では、自己架橋ヒアルロン酸粒子のpHは、ステップ(c)における蒸気処理の前に、緩衝溶液、弱酸及び/又は弱塩基で調整される。懸濁した水性溶媒は、洗浄するステップにおいてふるい分け又は濾過により除去されるので、自己架橋ヒアルロン酸粒子のpHは容易に測定できず、したがって、洗浄するステップの廃溶媒のpHが、代わりとして測定される。蒸気処理前のpHは、pH約7.0からpH約6.0、例えばpH約6.3から約6.8に調整できる。
【0061】
ステップ(b)の生成物及び/又は自己架橋ヒアルロン酸粒子を洗浄する、また、そのpHを調整する手段は、本開示に限定されないが、但し、自己架橋ヒアルロン酸粒子の所定のpHが達成できることを条件とする。例えば、これは、単独で(alone)、目標pHの緩衝溶液と共に、又は低濃度の酸性又は塩基性溶液を用いた滴定の補助によりなされ得る。自己架橋ヒアルロン酸粒子は、塩基性緩衝溶液中で急速に加水分解する傾向があるので、それらを、洗浄するプロセスの高いpHによる加水分解から保護することが重要である。本開示のいくつかの実施形態では、ステップ(b)の生成物は、中性又はおおよそ中性のpHまで中性緩衝溶液で洗浄し、懸濁した水性溶媒を除去する。次いで、自己架橋ヒアルロン酸粒子を、目標pHの緩衝溶液で少なくとも1回洗浄し、次いで、低濃度の酸性又は塩基性溶液(例えば、0.1Nの塩酸又は水酸化ナトリウム溶液)を用いた滴定により目標pHに調整する。例えば、低温の反応後、反応生成物は、最初に室温にて配置し、次いでpH7.0の一定量の100mMリン酸緩衝溶液に添加し、破砕することにより均質化できる。濾過による緩衝溶液の除去後、生成物は、新たなpH7.0の100mMリン酸緩衝溶液で、溶液が約7.0のpHを有するまで数回洗浄する。次いで、生成物は、目標pH(例えば、pH7.0、pH6.8、pH6.5、pH6.3及びpH6.0)の緩衝溶液で少なくとも1回洗浄し、次いで、弱酸性又は塩基性溶液を用いて目標pHに滴定する。そのようなプロセスは、洗浄及び/又はpH調整中に、反応生成物の加水分解を最小限にし得る。
【0062】
使用される緩衝溶液の成分及び濃度は、本開示に限定されないが、但し、これらが、ヒトの医薬的使用に好適なことを条件とする。本開示のいくつかの実施形態では、緩衝溶液は、約1mMから約1000mMの、約10mMから約300mMの、又は約10mMから約100mMの濃度のリン酸緩衝溶液であり得る。緩衝溶液のpHは、pH約6.0から約7.0であり得る。例えば、100mMリン酸ナトリウム又はリン酸カリウム溶液を含有し、約6.0から約7.0のpHを有するリン酸緩衝溶液が使用され得る。
【0063】
均質化するステップ、洗浄するステップ、及びpHを調整するステップの後で、自己架橋ヒアルロン酸粒子は、一定期間静置するだけで、自動的に水相から単一層へと分離する。自動的に水相から分離しない、又は水相と懸濁液を形成する自己架橋ヒアルロン酸ゲルは、架橋した構造が弱いため、蒸気処理後に架橋した状態を維持できない。
【0064】
本開示の方法は、約110℃から約130℃のような蒸気によりステップ(b)の生成物を約10分から約60分処理して、自己架橋ヒアルロン酸ゲルを得るステップであるステップ(c)を含む。
【0065】
本開示によれば、得られた自己架橋ヒアルロン酸ゲルの構造は、蒸気処理の温度及び時間を調整することにより変更でき、これにより、粘弾性、例えば弾性率(G')、粘度係数(G'')及びせん断粘度の変更が生じる。
【0066】
蒸気処理の手段は、本開示に特に限定されないが、但し、自己架橋ヒアルロン酸粒子を無菌の高粘度自己架橋ヒアルロン酸ゲルに転化するのに十分であることを条件とする。本開示のいくつかの実施形態では、pH調整した自己架橋ヒアルロン酸粒子を、ガラス又はプラスチックコンテナ(例えば、ガラス又はプラスチックシリンジ)中に充填し、次いで高温蒸気により処理する。本開示のいくつかの実施形態では、蒸気の温度は、約110℃から約130℃、約115℃から約125℃、又は約120℃から約121℃である。蒸気処理の時間は、蒸気温度、及びゲルの必要とされる粘弾性に基づいてセットするが、但し、自己架橋ヒアルロン酸を、顆粒状形態から、架橋状態を維持しつつ無菌のゲル形態に転化できることを条件とする。例えば、121℃の蒸気処理では、処理時間は、約10分から約60分、約15分から約60分、又は約15分から約35分になり得る。異なる処理時間は、異なる粘弾性の自己架橋ヒアルロン酸ゲルを生じ得る。本開示の自己架橋ヒアルロン酸ゲルの無菌は、薬局方の無菌試験方法(例えば、欧州薬局方第9.0版)により検証され得る。
【0067】
本開示の蒸気処理に使用されるシリンジ又はコンテナの体積は、約0.5mLから約50mL、約1mLから約10mL、又は約3mLから約10mLであり得る。
【0068】
文献(K. EDSMANら、「Gel properties of hyaluronic acid dermal fillers」、Dermatol Surg.第38巻、1170~1179頁(2012年))は、直鎖状ヒアルロン酸のケースでは、低周波数で測定した場合、その弾性率(G')は、粘性率(G'')より低く;一方、高周波数で測定した場合、その弾性率(G')は、粘性率(G'')より高いとしている。対照的に、架橋ヒアルロン酸のケースでは、架橋ネットワーク構造のため、その弾性率(G')は、測定の周波数に関係なく粘性率(G'')より高い。ヒアルロン酸ゲルのそのような性質は、直鎖状であるか又は架橋であるかどうかを判定するために使用され得る。したがって、本開示の自己架橋ヒアルロン酸ゲルは、蒸気処理後のヒアルロン酸ゲルを指し、25℃にて、また、0.1Hzから10.0Hzの周波数のそれぞれ且つすべてで測定したその弾性率(G')は、粘性率(G'')以上であり、tan δが1以下である。さらに、1sec-1のせん断率で、また、25℃にて測定した本開示の自己架橋ヒアルロン酸ゲルのせん断粘度は、少なくとも20Pa・s以上である。一方、ヒアルロン酸ゲルが、0.1Hzから10.0Hzの周波数のいずれかで粘性率(G'')より低い弾性率(G')を有する場合、直鎖状と判定される。
【0069】
本開示のいくつかの実施形態では、自己架橋ヒアルロン酸ゲルの粘弾性は、20mm金属プレートを有するレオメーター(TA、AR2000ex)により、25℃にて、また1.0Hzで測定され得る。弾性率(G')は、約30Paから約8000Pa、約200Paから約1000Pa、又は約300Paから約800Paである。粘性率(G'')は、約20Paから約2000Pa、約100Paから約600Pa又は約150Paから約500Paである。自己架橋ヒアルロン酸ゲルの弾性率及び粘性率は、蒸気処理の時間が増加するにつれて低下する。
【0070】
本開示のいくつかの実施形態では、1sec-1のせん断率で、また、25℃にて測定した自己架橋ヒアルロン酸ゲルのせん断粘度は、約20Pa・sから約900Pa・s、約100Pa・sから約800Pa・s、又は約250Pa・sから約700Pa・sである。いくつかのさらなる実施形態では、25℃にて、また、1sec-1のせん断率で測定した自己架橋ヒアルロン酸ゲルのせん断粘度は、約38.04Pa・sから約896.91Pa・s、又は約55.69Pa・sから約896.91Pa・sである。本開示のいくつかの実施形態では、25℃にて、また、50sec-1のせん断率で測定した自己架橋ヒアルロン酸ゲルのせん断粘度は、約0.31Pa・s以上、例えば約0.35Pa・s以上、約0.4Pa・s以上、約0.5Pa・s以上、約0.6Pa・s以上、約0.8Pa・s以上、又は約1Pa・s以上である。いくつかのさらなる実施形態では、25℃にて、また、50sec-1のせん断率で測定した自己架橋ヒアルロン酸ゲルのせん断粘度は、約1.97Pa・sから約35.66Pa・s、又は約2.18Pa・sから約35.66Pa・sである。
【0071】
本開示のいくつかの実施形態では、自己架橋ヒアルロン酸粒子の平衡膨潤能は、以下のように判定される。均質化し、洗浄し、pH約7.0に中和した1gの自己架橋ヒアルロン酸粒子の試料を、0.9wt%塩化ナトリウム及び10mMリン酸ナトリウムを含有するpH6.0緩衝溶液に、5℃にて24時間浸して、平衡状態まで膨潤させ、次いで25℃にて一定重量に乾燥させた。緩衝溶液で膨潤させた自己架橋ヒアルロン酸粒子は顆粒形態なので、その密度は測定できない。したがって、本開示における平衡膨潤能は、以下の式により判定される。
平衡膨潤能=(緩衝溶液で膨潤させた自己架橋ヒアルロン酸粒子の湿重量/緩衝溶液で膨潤させた自己架橋ヒアルロン酸粒子の乾燥重量)
【0072】
本開示のいくつかの実施形態では、自己架橋ヒアルロン酸粒子の平衡膨潤能は、10超、例えば約12から約30、約12から約20、約13から約18、又は約13から約16である。
【0073】
典型的には、より効率的な架橋を有するヒアルロン酸は、より緊密な架橋ネットワークを生成し、したがってそのコロイド又は粒子は、より硬質になり得、膨潤比はより低くなる(Mohammed Al-Sibaniら、「Study of the effect of mixing approach on cross-linking efficiency of hyaluronic acid-based hydrogel cross-linked with 1,4-butanediol diglycidyl ether」、European Journal of Pharmaceutical Sciences、第91巻、131~137頁(2016年))。他の文献も、より高い架橋密度により、膨潤比はより低くなるとしている(Noel L. Davisonら、「Degradation of Biomaterials」、Tissue Engineering(第2版)、第6章、Elsevier Inc.、197頁(2014年))。
【0074】
反応時間が増加するにつれて、得られた自己架橋ヒアルロン酸粒子のヒアルロン酸濃度は上昇し、回収率は上昇し、平衡膨潤能は低下する。反応温度が低下するにつれて、自己架橋ヒアルロン酸粒子のヒアルロン酸濃度は低下し、回収率は低下し、平衡膨潤能は上昇する。本開示のいくつかの実施形態では、ヒアルロン酸の回収率は、約70%から100%である。
【0075】
さらに、6.0から7.0のpHに調整した後、25℃にて一定重量に直接乾燥させた場合、平衡膨潤能は、様々なpHの自己架橋ヒアルロン酸粒子で実質的に同一である。自己架橋ヒアルロン酸粒子の平衡膨潤能は、少なくとも6.0から7.0の範囲のpHとは無関係であり、0.9wt%塩化ナトリウム及び10mMリン酸ナトリウムを含有するpH6.0緩衝溶液中で、5℃にて24時間平衡状態に膨潤した自己架橋ヒアルロン酸粒子の前述の平衡膨潤能とほぼ同一である。
【0076】
蒸気処理前における、本開示の自己架橋ヒアルロン酸粒子の平均粒子サイズは、特に限定されず、様々なホモジナイザーで、様々な回転速度で、及び様々な均質化時間で得られる。本開示のいくつかの実施形態では、自己架橋ヒアルロン酸粒子の平均粒子サイズは、約200μmから約3000μm、約600μmから約2500μm、又は約1500μmから約2200μmである。平均粒子サイズは、生理食塩水を懸濁溶媒として使用して判定され、25℃にて粒子サイズ測定機器(PARTICA LA-960、HORIBA)で測定される。
【0077】
本開示のいくつかの実施形態では、蒸気処理後における自己架橋ヒアルロン酸ゲルのpHは、約4.5から約6.5、約5.0から約6.0、又は約5.1から約5.8である。
【0078】
本開示の自己架橋ヒアルロン酸ゲルのヒアルロン酸濃度は、薬局方のカルバゾールアッセイ(例えば、欧州薬局方第9.0版)により判定される。本開示の自己架橋ヒアルロン酸ゲルのヒアルロン酸濃度は、反応時間の増加及び反応温度の上昇につれて上昇し、その濃度は、約1.5wt%から約7.5wt%、約2.0wt%から約6.0wt%、約3.0wt%から約6.0wt%、又は約4.0wt%から約6.0wt%である。本開示では、蒸気処理後における自己架橋ヒアルロン酸ゲルのヒアルロン酸濃度は、蒸気処理前における自己架橋ヒアルロン酸粒子のヒアルロン酸濃度と同一となる。
【0079】
本開示の自己架橋ヒアルロン酸ゲルは、直鎖状ヒアルロン酸溶液又は水相(例えば、蒸留水、生理食塩水、又は緩衝溶液)を、本開示の自己架橋ヒアルロン酸粒子と混合し、次いで得られた混合物を蒸気で処理することによっても得られる。但し、生成物が、本開示で定義される自己架橋ヒアルロン酸ゲルの定義を満たし、これが、本開示の範囲内であると判定されることを条件とする。
【0080】
本開示のいくつかの実施形態では、蒸気処理後における自己架橋ヒアルロン酸ゲルの浸透圧は、洗浄するステップ及び/又はpHを調整するステップに使用される水溶液又は緩衝溶液の浸透圧により制御でき、したがって特に限定されないが、但し、ヒトに対する医薬的使用に好適なことを条件とする。蒸気処理後における本開示の自己架橋ヒアルロン酸ゲルの浸透圧は、約10から約350mOsm/kg、約30から約200mOsm/kg、又は約50から約150mOsm/kgであり得る。
【0081】
本開示の自己架橋ヒアルロン酸ゲルは、骨再生及び欠損の処置に使用され得る。実験方法は、ラットにおける頭蓋骨欠損に関与し(Patrick P Spicerら、「Evaluation of bone regeneration using the rat critical size calvarial defect」、Nature Protocol、第7巻、1918~1929頁(2012年))、そこでは創傷が自己架橋ヒアルロン酸ゲルにより覆われている。ラットを手術後3カ月で屠殺し、骨を除去し、マイクロコンピューター断層撮影により分析する。結果を、商品群、直鎖状ヒアルロン酸群、ブランク対照群(手術後に添加される物質なし)、及び陽性対照群と比較する。本開示の自己架橋ヒアルロン酸ゲルを製造するための方法は簡潔であり、毒性有機溶媒又は架橋剤の使用を含まず、得られた自己架橋ヒアルロン酸ゲルは、動物実験で好都合な骨修復及び再生効果を示す。
【0082】
本開示は、低温下で、自己架橋ヒアルロン酸粒子を合成するための、改変された製造方法を提供する。所定のpHに調整した後で、自己架橋ヒアルロン酸粒子は、蒸気により処理して、無菌の高粘度自己架橋ヒアルロン酸ゲルを形成でき、これを医療用途、例えば骨再生及び欠損の修復、術後癒着防止、皮下充填剤、及び関節症処置に使用できる。
【0083】
以下の実施例は、例証する目的のためだけに示されており、本発明の範囲を限定することは意図されていない。
【0084】
[実施例1]
反応条件:ヒアルロン酸(HA)濃度14.5wt%、0.58N HCl、反応温度-10℃
水分量が3.65wt%、固有粘度が1.7m3/kg及び平均分子量が983,000の、12グラムのヒアルロン酸を、59.57グラムの蒸留水中に添加し、混合機(SPAR FOOD MACHINERYMFG. CO., LTD.、モデルSP-502A)で253rpmで5分混合して、水で膨潤させたヒアルロン酸含有コロイドを形成した。コロイドは、大きさ約0.2cmの開口部を有する金属ふるいを通してストライプに押し出し、次いで、混合機において8.43gの6N塩酸(密度1.1g/cm3)と同一の速度で5分混合して、ヒアルロン酸含有コロイド及び塩酸を均質な手段で形成した。得られたコロイドを血清ボトル(serum bottle)に入れ、表1に示されているように、自己架橋反応のために、冷蔵庫中で低温にて14日保持した。反応後、生成物を室温にて解凍し、次いで、pH7.00の600mLの100mMリン酸緩衝溶液中に添加し、ホモジナイザー(IKA、モデルT-25)により10,000rpmで1分均質化した。次いで、緩衝溶液をふるい分けにより除去し、生成物を次いで、pH7.0の、別の600mLの新たな100mMリン酸緩衝溶液中に添加し、高速乳化ホモジナイザー(Gordon、モデルHM25)により6,000rpmで5分均質化した。緩衝溶液を、ふるい分けにより除去し、生成物を3000mLの新たな緩衝溶液で、緩衝溶液が7.00±0.10の安定なpHを有するまで数回洗浄した。緩衝溶液を除去するために濾過した後で、得られた生成物を秤量し、5等分に分け、次いで生成物の重量の10倍の100mMリン酸緩衝溶液により、目標pH(pH7.00、pH6.80、pH6.50、pH6.30、及びpH6.00)で別々に洗浄し、次いで、溶液が、目標pH(pH7.00、pH6.80、pH6.50、pH6.30、及びpH6.00)に等しい安定化したpHに達するまで、0.1N塩酸又は水酸化ナトリウムの水溶液で滴定した。得られたヒアルロン酸粒子をふるいで濾過して、溶液を除去し、次いで1mLシリンジ中に満たし、自己架橋ヒアルロン酸粒子を自己架橋ヒアルロン酸ゲルに転化するために、121℃の蒸気で異なる固定時間にわたり処理した。反応時間が21、28、35及び42日の実験では、方法のステップ及び反応条件は、セットされた低温反応時間を除いて記載されているものと同一であった。得られた自己架橋ヒアルロン酸ゲルを、微生物の無菌試験のために14日インキュベーションし、微生物成長を含まないこと(陰性)を確認した。
【0085】
【0086】
[実施例2]
反応条件:ヒアルロン酸濃度14.5wt%、1.0N HCl、反応温度-10℃
実施例2の方法のステップ及び反応条件は、蒸留水の量が53.47g、6N HClの量が14.53g、また、反応時間が14日、21日、及び28日であることを除いて、実施例1のものと同一であった。
【0087】
【0088】
[実施例3]
反応条件:ヒアルロン酸濃度14.5wt%、0.58N HCl、反応温度-20℃
実施例3の方法のステップ及び反応条件は、反応温度が-20℃、また、反応時間が14日、21日、28日、及び35日であることを除いて、実施例1のものと同一であった。
【0089】
【0090】
[実施例4]
反応条件:ヒアルロン酸濃度14.5wt%、1.5N HCl、反応温度-20℃
実施例4の方法のステップ及び反応条件は、蒸留水の量が46.18g、6N HClの量が21.82g、また、反応時間が7日、14日、21日、及び28日であることを除いて、実施例1のものと同一であった。
【0091】
【0092】
[実施例5]
反応条件:ヒアルロン酸濃度14.5wt%、1.0N HCl、反応温度-30℃
実施例5の方法のステップ及び反応条件は、反応温度が-30℃、また、反応時間が14日、21日、28日、及び35日であることを除いて、実施例2のものと同一であった。
【0093】
【0094】
[実施例6]
反応条件:ヒアルロン酸濃度14.5wt%、1.5N HCl、反応温度-30℃
実施例6の方法のステップ及び反応条件は、反応温度が-30℃、また、反応時間が14日、21日、28日、及び35日であることを除いて、実施例4のものと同一であった。
【0095】
【0096】
[実施例7]
反応条件:ヒアルロン酸濃度10wt%、0.58N HCl、反応温度-10℃
実施例7の方法のステップ及び反応条件は、ヒアルロン酸の量が8.3g、蒸留水の量が63.27g、6N HClの量が8.43g、また、反応時間が7日、14日、21日、及び28日であることを除いて、実施例1のものと同一であった。
【0097】
【0098】
[実施例8]
反応条件:ヒアルロン酸濃度10wt%、1.0N HCl、反応温度-10℃
実施例8の方法のステップ及び反応条件は、蒸留水の量が57.17g、6N HClの量が14.53g、及び反応時間が14日、21日、及び28日であることを除いて、実施例7のものと同一であった。
【0099】
【0100】
[実施例9]
反応条件:ヒアルロン酸濃度10wt%、0.58N HCl、反応温度-20℃
実施例9の方法のステップ及び反応条件は、反応温度が-20℃、また、反応時間が7日、14日、21日、及び28日であることを除いて、実施例7のものと同一であった。
【0101】
【0102】
[実施例10]
反応条件:ヒアルロン酸濃度10wt%、1.0N HCl、反応温度-20℃
実施例10の方法のステップ及び反応条件は、反応温度が-20℃であることを除いて、実施例8のものと同一であった。
【0103】
【0104】
[実施例11]
反応条件:ヒアルロン酸濃度10wt%、0.58N HCl、反応温度-30℃
実施例11の方法のステップ及び反応条件は、反応温度が-30℃、また、反応時間が14日、21日、28日、及び35日であることを除いて、実施例7のものと同一であった。
【0105】
【0106】
[実施例12]
反応条件:ヒアルロン酸濃度10wt%、1.0N HCl、反応温度-30℃
実施例12の方法のステップ及び反応条件は、反応温度が-30℃、また、反応時間が14日、21日、及び28日であることを除いて、実施例8のものと同一であった。
【0107】
【0108】
実施例1から12の物理的性質は、表13及び
図1から5に示されている。
【0109】
【0110】
[実施例13]
試料調製及び動物試験のプロセス
重さ約360gから390gの雄Wistar系ラットを、7日隔離した。室温を24℃にて制御し、湿度を60%から70%にて維持し、光周期を12時間の明期/12時間の暗期でセットする。ラットをアクリルケージに収容し、餌及び水を自由に摂取させた。ラットにイソフルランで麻酔をかけ、ラットが術後感染症で死亡することを防止するために、手術全体で使用される機器を加熱滅菌した。すべての動物実験は、American Physiological Society Guidelines for the Care and Use of Animalsに従って実施した。
【0111】
動物試験モデルは、一般的に、Spicerら(「Evaluation of bone regeneration using the rat critical size calvarial defect」、Nature Protocols、第7巻、第10号、1918~1929頁(2012年))、及びChenら(「Bone Formation Using Cross-Linked Chitosan Scaffolds in Rat Calvarial Defects」、Implant Dent.第27巻、第6号、1~7頁(2017年))により使用される方法に従った。最初に、ラットにガス麻酔薬イソフロウラン(isoflourane)で麻酔をかけ、次いで剃毛した。手術領域をポビドン-ヨウ素アルコール溶液及び70%アルコールで消毒し、次いでアンピシリンを注入した。次いで、ラットの頭部を、手術領域のみを曝露させるための切抜き穴を有する滅菌したティッシュペーパーで覆った。頭部真上の皮膚及び骨膜を、1.5センチメートルの大きさに切開した。頭蓋は、骨膜ピーラー(periosteal peeler)を使用することにより骨膜から分離した。直径5mm骨欠損を、正中線の矢状縫合(頭蓋の中心の膨らみ、頭頂骨に隣接する)の中心に、直径5mmトレフィンバーを使用することにより作り出した。次いで、2.05wt%の、0.15gから0.2gの直鎖状ヒアルロン酸(対照群)、ヒアルロン酸含有量が異なる自己架橋ヒアルロン酸ゲル(実験群1から4)、又はCoreBone 1000ボーンミール(陽性対照群)を骨欠損にインプラントし、骨欠損を次いでBio-Gideメンブレン(3M、Geistlich Bio-Oss(登録商標)、Switzerland)で覆った。ブランク群では、骨欠損をBio-Gideメンブレンで直接覆った。動物が手術中に麻酔から覚醒した場合、呼吸マスクを通してガス麻酔器から麻酔ガスを吸入させることにより、麻酔を維持させた。動物試験試料の調製条件及び性質は、表14に示されている通りである。
【0112】
【0113】
ラットを実験後3カ月で屠殺した。深麻酔後、頭蓋骨をラットから除去した。試料は、最初に固定のために10%パラホルムアルデヒドに4日浸漬し、次いで、マイクロコンピューター断層撮影(micro-CT)3Dイメージングシステム(SkyScan 1076、Bruker、Antwerp、Belgium)を使用したスキャン及び分析のためにTaiwan Mouse Clinic(TMC)に送付した。パラメーターを画像ピクセルサイズ(μm)=9、電源電圧(kV)=70、電源電流(uA)=200、フィルター=Al 0.5mm、曝露(ms)=453、回転ステップ(deg)=0.2、及び関心領域(ROI):直径5.5mm×高さ0.5mmとセットした。マイクロCT画像は、矢状断断層撮影及び組織形態計測を使用して分析した。データは、新たに形成された骨体積/合計体積(BV/TV(%))により評価して、骨再生の量を定量化した。
【0114】
結果は、
図6に示されている。ブランク群(No. 1)及び対照群(No. 2)は、それぞれ21%及び40%の、新たに形成された骨の最低パーセンテージを有していた一方、実験群1から4(Nos. 3から6)の新たに形成された骨のパーセンテージは、それぞれ48%、61%、49%及び57%であり、陽性対照群(No. 7)の新たに形成された骨のパーセンテージは45%であった。データは、本開示の自己架橋ヒアルロン酸ゲルが、市販品(陽性対照群)、直鎖状ヒアルロン酸ゲル(対照群)及びブランク群より優れた骨再生の機能を有することを示した。
【0115】
本開示は、その特定の実施形態への言及により記載及び例証されているが、これらの記載及び例証は、限定的ではない。様々な変化がなされ得ること、並びに等価物が、添付の特許請求の範囲により定義されている本開示の真の趣旨及び範囲から逸脱することなく置き換えられ得ることは、当業者により理解されるべきである。
【外国語明細書】