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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024037179
(43)【公開日】2024-03-18
(54)【発明の名称】ガラス、及びガラスの製造方法
(51)【国際特許分類】
   C03C 3/087 20060101AFI20240311BHJP
   C03C 1/10 20060101ALI20240311BHJP
   C03C 4/12 20060101ALI20240311BHJP
【FI】
C03C3/087
C03C1/10
C03C4/12
【審査請求】未請求
【請求項の数】15
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023143999
(22)【出願日】2023-09-05
(31)【優先権主張番号】P 2022141775
(32)【優先日】2022-09-06
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000178826
【氏名又は名称】日本山村硝子株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100180644
【弁理士】
【氏名又は名称】▲崎▼山 博教
(72)【発明者】
【氏名】山本 柱
(72)【発明者】
【氏名】堀 詩織
【テーマコード(参考)】
4G062
【Fターム(参考)】
4G062AA01
4G062BB01
4G062DA06
4G062DA07
4G062DB01
4G062DC01
4G062DD01
4G062DE01
4G062DF01
4G062EA01
4G062EB03
4G062EB04
4G062EC01
4G062ED01
4G062EE03
4G062EE04
4G062EF01
4G062EG01
4G062FA01
4G062FA10
4G062FB01
4G062FC01
4G062FD01
4G062FE01
4G062FF01
4G062FG01
4G062FH01
4G062FJ01
4G062FK01
4G062FL01
4G062GA01
4G062GB02
4G062GC01
4G062GD01
4G062GE01
4G062HH01
4G062HH03
4G062HH05
4G062HH07
4G062HH09
4G062HH12
4G062HH13
4G062HH15
4G062HH17
4G062JJ01
4G062JJ03
4G062JJ05
4G062JJ07
4G062JJ10
4G062KK01
4G062KK03
4G062KK05
4G062KK07
4G062KK10
4G062MM01
4G062NN21
4G062NN34
(57)【要約】
【課題】ガラス以外の材料から再生された再生材料を活用したガラス、及び当該ガラスの製造方法の提供を目的とした。
【解決手段】本発明のガラスは、ガラス以外の材料から再生されるガラス成形用再生材料を用いて形成されたものであり、前記ガラス成形用再生材料として、貝殻又は貝殻を用いた成形品に由来する貝殻由来再生材料をカルシウム成分として含むものが用いられること、を特徴とするものである。当該ガラスは、ガラス以外の材料から再生される再生材料を一部又は全部として含むガラス成形用再生材料を用い、前記ガラス成形用再生材料として、貝殻又は貝殻を用いた成形品に由来する貝殻由来再生材料をガラス成形のためのカルシウム成分の一部又は全部として準備する工程を含む一又は複数の工程からなる製造方法により製造される。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガラス以外の材料から再生されるガラス成形用再生材料を用いて形成されたものであって、
前記ガラス成形用再生材料が、貝殻又は貝殻を用いた成形品に由来する貝殻由来再生材料をカルシウム成分として含むものを構成材料として形成されたものであること、
を特徴とするガラス。
【請求項2】
ガラス以外の材料から再生されるガラス成形用再生材料を用いて形成されたガラスであって、
前記ガラス成形用再生材料が、カルサイト、及びアラゴナイトのいずれか一方又は双方を含むものに由来するものを構成材料として形成されたものであること、
を特徴とするガラス。
【請求項3】
前記ガラス成形用再生材料の一部又は全部に由来する蛍光特性を有すること、
を特徴とする請求項1又は2に記載のガラス。
【請求項4】
前記ガラス成形用再生材料の一部又は全部に由来する蛍光特性を有するものであり、
前記蛍光特性を発現する前記ガラス成形用再生材料が、カルサイトを含むものであること、
を特徴とする請求項3に記載のガラス。
【請求項5】
前記蛍光特性を発現する前記ガラス成形用再生材料が、空気雰囲気下において20[℃/min]の昇温速度により50℃以上600℃以下の範囲内で昇温し、基準試料としてアルミナを用い、水洗により洗浄した試料を乾燥させた後に粉砕した状態の条件下おけるTG-DTA分析結果において、4.0[%]以上10.0[%]以下の重量減少を示す材料を前記構成材料として含むものであること、を特徴とする請求項3又は4に記載のガラス。
【請求項6】
前記構成材料が、真珠貝、及び棘皮動物のいずれか一方又は双方に由来するものであること、
を特徴とする請求項3又は4に記載のガラス。
【請求項7】
前記真珠貝が、アコヤガイ、シロチョウガイ、及びクロチョウガイの少なくともいずれかであり、
前記棘皮動物が、ウニであること、
を特徴とする請求項6に記載のガラス。
【請求項8】
ガラス以外の材料から再生される再生材料を一部又は全部として含むガラス成形用再生材料を用いたガラスの製造方法であって、
前記ガラス成形用再生材料として、貝殻又は貝殻を用いた成形品に由来する貝殻由来再生材料をガラス成形のためのカルシウム成分の一部又は全部をなす構成材料として準備する工程を含むこと、
を特徴とするガラスの製造方法。
【請求項9】
ガラス以外の材料から再生される再生材料を一部又は全部として含むガラス成形用再生材料を用いたガラスの製造方法であって、
前記ガラス成形用再生材料をなす構成材料として、カルサイト、及びアラゴナイトのいずれか一方又は双方を含むものに由来するものを準備する工程を含むこと、
を特徴とするガラスの製造方法。
【請求項10】
前記構成材料が、カルサイト、及びアラゴナイトのいずれか一方又は双方を含むものに由来するものであり、所定温度未満の温度雰囲気下において準備されたものであること、を特徴とする請求項8又は9に記載のガラスの製造方法。
【請求項11】
前記ガラスが、前記ガラス成形用再生材料の一部又は全部に由来する蛍光特性を有するものであり、
前記蛍光特性を発現する前記構成材料として、カルサイトを含むものを用いること、
を特徴とする請求項8又は9に記載のガラスの製造方法。
【請求項12】
前記ガラスが、前記ガラス成形用再生材料の一部又は全部に由来する蛍光特性を有するものであり、
前記蛍光特性を発現する前記ガラス成形用再生材料として、空気雰囲気下において20[℃/min]の昇温速度により50℃以上600℃以下の範囲内で昇温し、基準試料としてアルミナを用い、水洗により洗浄した試料を乾燥させた後に粉砕した状態の条件下おけるTG-DTA分析結果において、4.0[%]以上10.0[%]以下の重量減少を示す材料を前記構成材料として含むものを用いること、を特徴とする請求項8又は9に記載のガラスの製造方法。
【請求項13】
前記構成材料が、真珠貝、及び棘皮動物のいずれか一方又は双方に由来するものであること、
を特徴とする請求項8又は9に記載のガラスの製造方法。
【請求項14】
前記真珠貝が、アコヤガイ、シロチョウガイ、及びクロチョウガイの少なくともいずれかであり、
前記棘皮動物が、ウニであること、
を特徴とする請求項13に記載のガラスの製造方法。
【請求項15】
前記構成材料が、所定温度以上の温度雰囲気下において熱処理することにより準備されること、
を特徴とする請求項8又は9に記載のガラスの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガラス、及びガラスの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、下記非特許文献1や非特許文献2に開示されているように、ガラスびんは、リユースやリサイクルの形態により再活用されてきた。具体的には、ガラスびんは、非特許文献1に開示されているように、回収した使用済みのびんに洗浄等を施して繰り返し使用する、リユースと呼ばれる形態で再活用することができる。また、ガラスびんは、非特許文献2に開示されているように、使用済みのびんを細かく砕くことによって得られたカレットを、新しいびんなどのガラス製品を作るために活用する、リサイクルと呼ばれる形態でも再活用することができる。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【非特許文献1】ガラスびん3R推進協議会ウェブサイト(https://www.glass-3r.jp/learn/reuse.html)
【非特許文献2】ガラスびん3R推進協議会ウェブサイト(https://www.glass-3r.jp/learn/recycle.html)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ここで、上述したように、ガラスびんを砕いてカレットの形態にして、ガラス製品を形成するための資源として再活用する等の形態においては、新しいガラス容器のガラス製品を作成するために使用済みのガラスを活用することができる。しかしながら、限りある資源の有効活用を図ることを鑑みれば、使用済みのガラスだけでなく、ガラス以外の材料もガラスを製造するための材料として活用できるようにすることが好ましい。
【0005】
そこで本発明は、ガラス以外の材料から再生されたガラス成形用再生材料を用いて形成されたガラス、及び当該ガラスの製造方法の提供を目的とした。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上述した知見に基づいて本発明者らが鋭意検討したところ、貝殻そのものや、貝殻を用いて作られたボタン等の物品については、ガラス原料を構成するカルシウム成分の一部又は全部として好適に利用できるとの知見に至った。
【0007】
(1)かかる知見に基づいて提供される本発明のガラスは、ガラス以外の材料から再生されるガラス成形用再生材料を用いて形成されたものであって、前記ガラス成形用再生材料が、貝殻又は貝殻を用いた成形品に由来する貝殻由来再生材料をカルシウム成分として含むものを構成材料として形成されたものであること、を特徴とするものである。
【0008】
本発明によれば、貝殻又は貝殻を用いた成形品に由来する貝殻由来再生材料をカルシウム成分として含んだガラス成形用再生材料を用いて作ったガラスを提供できる。従って、本発明は、使用済みのガラスやガラスびんを用いた従来型のリユースやリサイクルとは一線を画した方法で資源の有効利用を図ったガラスを提供できる。
【0009】
(2)本発明のガラスは、ガラス以外の材料から再生されるガラス成形用再生材料を用いて形成されたものであって、前記ガラス成形用再生材料が、カルサイト、及びアラゴナイトのいずれか一方又は双方を含むものに由来するものを構成材料として形成されたものであること、を特徴とするものである。
【0010】
本発明によれば、カルサイト、及びアラゴナイトのいずれか一方又は双方を含むものを由来として形成されたものを構成材料とし、当該構成材料が含まれたガラス成形用再生材料を用いて作ったガラスを提供できる。従って、本発明は、使用済みのガラスやガラスびんを用いた従来型のリユースやリサイクルとは一線を画した方法で資源の有効利用を図ったガラスを提供できる。
【0011】
(3)上述した本発明のガラスは、前記構成材料が、貝殻を用いて形成された貝ボタンに由来するものであると良い。
【0012】
本発明のガラスは、衣類などに用いられる貝ボタンを活用した構成材料を用いて作られたガラス成形用再生材料を用いたものである。そのため、本発明によれば、衣類などの貝ボタンを用いた物品のリサイクルに貢献可能なガラスを提供できる。
【0013】
ここで、炭酸カルシウムあるいは酸化カルシウムのいずれの形態でカルシウム成分が含まれていても、カルシウムの量を精度良くコントロールできれば、品質的に問題ないガラスを形成できる。しかしながら、炭酸カルシウム及び酸化カルシウムは、重量当たりに占めるカルシウムの含有量が相違している。そのため、ガラス成形用再生材料を用いたガラスにおいて、ガラス成形用再生材料に含まれる成型物由来カルシウム成分が炭酸カルシウム及び酸化カルシウムの混合物である場合には、成型物由来カルシウム成分の重量に基づいてガラスの原料を調合すると、これを用いて製造したガラスの品質に大幅なバラツキが生じてしまう可能性が高い。また一般的に、石灰石(炭酸カルシウム)がガラスの製造工程に用いられること等の事情を鑑みれば、ガラス成形用再生材料として、カルシウム成分を炭酸カルシウムとして含有したものを用いることにより、品質的に安定したガラスを提供できると考えられる。
【0014】
(4)かかる知見に基づけば、上述した本発明のガラスは、前記構成材料が、カルシウム成分を炭酸カルシウムとして含有すること、を特徴とするものであると良い。
【0015】
本発明のガラスは、かかる構成とされているため、ガラスの製造工程において石灰石(炭酸カルシウム)等をカルシウム成分として利用しているガラスの製造現場において、石灰石(炭酸カルシウム)の一部又は全部を構成材料で置き換えて使用しやすい。すなわち、本発明のガラスは、ガラスの製造工程においてカルシウム成分として用いる石灰石(炭酸カルシウム)の重量の一部又は全部と同重量の構成材料を含むガラス成形用再生材料を用いることにより、カルシウム成分の全量を石灰石とした場合と遜色のない品質のものとして製造できる。従って、上述したように、ガラス成形用再生材料としてカルシウム成分を炭酸カルシウムとして含有するものを用いることにより、ガラス成形用再生材料をガラス成形用再生材料として活用しやすくなる。
【0016】
(5)本発明のガラスは、前記ガラス成形用再生材料の一部又は全部に由来する蛍光特性を有すること、を特徴とするものであると良い。
【0017】
本発明のガラスは、かかる構成とすることにより、ガラス成形用再生材料の一部又は全部に由来する蛍光特性を備えた意匠効果の高いものとして提供できる。
【0018】
(6)本発明のガラスは、前記ガラス成形用再生材料の一部又は全部に由来する蛍光特性を有するものであり、前記蛍光特性を発現する前記ガラス成形用再生材料が、カルサイトを含むものであること、を特徴とするものであると良い。
【0019】
本発明のガラスは、かかる構成とすることにより、カルサイトを含むガラス成形用再生材料に由来する蛍光特性を備えた意匠効果の高いものとして提供できる。
【0020】
(7)本発明のガラスは、前記蛍光特性を発現する前記ガラス成形用再生材料が、空気雰囲気下において20[℃/min]の昇温速度により50℃以上600℃以下の範囲内で昇温し、基準試料としてアルミナを用い、水洗により洗浄した試料を乾燥させた後に粉砕した状態の条件下おけるTG-DTA分析結果において、4.0[%]以上10.0[%]以下の重量減少を示す材料を前記構成材料として含むものであると良い。
【0021】
本発明のガラスは、かかる構成とすることにより、ガラス成形用再生材料に由来する蛍光特性を備えた意匠性の高いものとすることができる。
【0022】
(8)本発明のガラスは、前記構成材料料が、真珠貝、及び棘皮動物のいずれか一方又は双方に由来するものであること、を特徴とするものであると良い。
【0023】
本発明のガラスは、かかる構成とすることにより、真珠貝、及び棘皮動物のいずれか一方又は双方に由来する蛍光特性を備えた意匠性の高いものとすることができる。
【0024】
(9)本発明のガラスは、前記真珠貝が、アコヤガイ、シロチョウガイ、及びクロチョウガイの少なくともいずれかであり、前記棘皮動物が、ウニであること、を特徴とするものであると良い。
【0025】
本発明のガラスは、かかる構成とすることにより、アコヤガイ、シロチョウガイ、クロチョウガイ、及びウニの少なくともいずれかに由来する蛍光特性を備えた意匠性の高いものとすることができる。
【0026】
(10)本発明のガラスの製造方法は、ガラス以外の材料から再生される再生材料を一部又は全部として含むガラス成形用再生材料を用いたガラスの製造方法であって、前記ガラス成形用再生材料として、貝殻又は貝殻を用いた成形品に由来する貝殻由来再生材料をガラス成形のためのカルシウム成分の一部又は全部として準備する工程を含むこと、を特徴とするものである。
【0027】
本発明によれば、貝殻や貝殻を用いた成形品に由来する貝殻由来再生材料をカルシウム成分として活用したガラスの製造方法を提供できる。従って、本発明は、使用済みのガラスやガラスびんを用いた従来型のリユースやリサイクルとは一線を画した、貝殻や貝殻を用いた成形品を活用したガラスの製造方法を提供できる。
【0028】
(11)本発明のガラスの製造方法は、ガラス以外の材料から再生される再生材料を一部又は全部として含むガラス成形用再生材料を用いたものであって、前記ガラス成形用再生材料をなす構成材料として、カルサイト、及びアラゴナイトのいずれか一方又は双方を含むものに由来するものを準備する工程を含むこと、を特徴とするものである。
【0029】
本発明によれば、カルサイト、及びアラゴナイトのいずれか一方又は双方を含むものに由来する構成材料を活用したガラスの製造方法を提供できる。従って、本発明は、使用済みのガラスやガラスびんを用いた従来型のリユースやリサイクルとは一線を画した、貝殻や貝殻を用いた成形品を活用したガラスの製造方法を提供できる。
【0030】
ここで、ウランを用いて製造されたウランガラスと称されるガラスは、蛍光を発するものとして知られている。しかしながら、ウランは放射性物質であるため、製造時、製造後のいずれの段階においても被爆の懸念を払拭できず、製造や利用に際して安全を確保するために細心の注意が必要であり、取り扱いが極めて困難であるという問題がある。
【0031】
そこで、本発明者らは、上述したウランガラスのように放射性物質を用いることなく、蛍光による意匠効果が得られるガラスの製造方法について検討を行った。その結果、貝殻又は貝殻を用いた成形品を所定温度未満の雰囲気下において準備した貝殻由来再生材料や、カルサイト、及びアラゴナイトのいずれか一方又は双方を含むものをに由来するものを構成材料として含むガラス形成用再生材料を用いると、蛍光を発する意匠効果の高いガラスを製造できるとの知見に至った。
【0032】
(12)かかる知見に基づけば、上述した本発明のガラスの製造方法は、前記構成材料が、貝殻又は貝殻を用いた成形品を所定温度未満の温度雰囲気下において準備されること、を特徴とするものであると良い。
【0033】
本発明に係るガラスの製造方法は、上述した本発明者らの知見に基づいて提供されるものである。本発明に係るガラスの製造方法は、蛍光を発する意匠効果の高いガラスを、安全かつ取り扱いやすいものとして製造するために有効利用できる。
【0034】
ここで、本発明者らがさらに鋭意検討したところ、蛍光を発する意匠効果の高いガラスを製造するためには、構成材料として、クロチョウガイ、又はアコヤガイの貝殻、あるいは当該貝殻由来の成形品を用いて所定温度未満の温度雰囲気下において準備されたものとすることが好適であるとの知見が得られた。
【0035】
(13)かかる知見に基づけば、上述した本発明のガラスの製造方法は、前記構成材料が、クロチョウガイ、又はアコヤガイの貝殻、あるいは当該貝殻由来の成形品を用いて所定温度未満の温度雰囲気下において準備されたものであると良い。
【0036】
本発明に係るガラスの製造方法によれば、蛍光を発する意匠効果の高いガラスをより一層好適な条件下で製造できる。
【0037】
ここで、本発明者らがさらに鋭意検討したところ、蛍光を発する意匠効果の高いガラスを製造するためには、構成材料として、カルサイト、及びアラゴナイトのいずれか一方又は双方を含むものを用いて所定温度未満の温度雰囲気下において準備されたものとすることが好適であるとの知見が得られた。
【0038】
(14)上述した本発明のガラスの製造方法は、前記構成材料が、カルサイト、及びアラゴナイトのいずれか一方又は双方を含むものに由来するものであり、所定温度未満の温度雰囲気下において準備されたものであると良い。
【0039】
本発明に係るガラスの製造方法によれば、蛍光を発する意匠効果の高いガラスをより一層好適な条件下で製造できる。
【0040】
(15)本発明のガラスの製造方法は、前記ガラスが、前記ガラス成形用再生材料の一部又は全部に由来する蛍光特性を有するものであり、前記蛍光特性を発現する前記構成材料として、カルサイトを含むものを用いること、を特徴とするものであると良い。
【0041】
本発明のガラスの製造方法は、かかる構成とすることにより、カルサイトを含む構成材料に由来する蛍光特性を備えた意匠効果の高いガラスを製造するのに適したものとすることができる。
【0042】
(16)本発明のガラスの製造方法は、前記ガラスが、前記ガラス成形用再生材料の一部又は全部に由来する蛍光特性を有するものであり、前記蛍光特性を発現する前記ガラス成形用再生材料として、空気雰囲気下において20[℃/min]の昇温速度により50℃以上600℃以下の範囲内で昇温し、基準試料としてアルミナを用い、水洗により洗浄した試料を乾燥させた後に粉砕した状態の条件下おけるTG-DTA分析結果において、4.0[%]以上10.0[%]以下の重量減少を示す材料を前記構成材料として含むもの用いること、を特徴とするものであると良い。
【0043】
本発明のガラスの製造方法は、かかる構成とすることにより、構成材料に由来する蛍光特性を備えた意匠性の高いガラスを製造するのにより一層適したものとすることができる。
【0044】
(17)本発明のガラスの製造方法は、前記構成材料が、真珠貝、及び棘皮動物のいずれか一方又は双方に由来するものであること、を特徴とするものであると良い。
【0045】
本発明のガラスの製造方法は、かかる構成とすることにより、真珠貝、及び棘皮動物のいずれか一方又は双方に由来する蛍光特性を備えた意匠性の高いガラスの製造に適したものとすることができる。
【0046】
(18)本発明のガラスの製造方法は、前記真珠貝が、アコヤガイ、シロチョウガイ、及びクロチョウガイの少なくともいずれかであり、前記棘皮動物が、ウニであること、を特徴とするものであると良い。
【0047】
本発明のガラスの製造方法は、かかる構成とすることにより、アコヤガイ、シロチョウガイ、クロチョウガイ、及びウニの少なくともいずれかに由来する蛍光特性を備えた意匠性の高いガラスの製造に適したものとすることができる。
【0048】
ここで、本発明者らは、貝殻又は貝殻を用いた成形品に由来する貝殻由来再生材料や、カルサイト、及びアラゴナイトのいずれか一方又は双方を含むものに由来するものを構成材料として含むガラス形成用再生材料の構成材料を用いた場合において、蛍光を発しないガラスを製造するために最適な方法を見いだすべく、さらに鋭意検討を行った。その結果、本発明者らは、貝殻由来再生材料等の構成材料を用いた場合において、熱処理の条件を最適化することにより、蛍光を発しないガラスを製造できるとの知見を得た。
【0049】
(19)かかる知見に基づいて提供される本発明のガラスの製造方法は、前記構成材料が、所定温度以上の温度雰囲気下において熱処理することにより準備されること、を特徴とするものである。
【0050】
本発明に係るガラスの製造方法によれば、貝殻由来再生材料等の構成材料を用いつつ、蛍光を発しないガラスを製造することができる。
【0051】
(a)上述した本発明のガラスを製造するために用いられる本発明のガラス成形用再生材料は、ガラス以外の材料から再生される再生材料が配合され、ガラスの成形に用いられるものであって、前記再生材料が、貝殻又は貝殻由来の成形品から得られた貝殻由来再生材料をカルシウム成分として含むものを構成材料として形成されたものであること、を特徴とするものである。
【0052】
本発明によれば、貝殻又は貝殻を用いた成形品に由来する貝殻由来再生材料をカルシウム成分として含んだガラス成形用再生材料を提供できる。従って、本発明は、貝殻又は貝殻を用いた成形品を、ガラスを製造するための材料として有効利用を図ったガラス成形用再生材料を提供できる。
【0053】
(b)上述したガラス成形用再生材料は、前記構成材料が、貝殻を用いて形成された貝ボタンに由来するものであると良い。
【0054】
本発明によれば衣類などに用いられる貝ボタンをガラスの製造に利用するための原料として活用可能なガラス成形用再生材料を提供できる。
【0055】
(c)上述したガラス成形用再生材料は、前記再生材料として、少なくともガラスの成形後に蛍光特性を発現する蛍光特性再生材料が含まれているものであると良い。
【0056】
本発明のガラス成形用再生材料は、上述した構成とすることにより、ガラス成形用再生材料の一部又は全部に由来する蛍光特性を備えた意匠効果の高いガラスの製造に適したものとして提供できる。
【0057】
(d)上述したガラス成形用再生材料は、前記蛍光特性再生材料が、カルサイトを含むものであると良い。
【0058】
本発明のガラス成形用再生材料は、上述した構成とすることにより、ガラス成形用再生材料の一部又は全部に由来する蛍光特性を備えた意匠効果の高いガラスの製造に適したものとして提供できる。
【0059】
(e)上述したガラス成形用再生材料は、前記蛍光特性再生材料が、空気雰囲気下において20[℃/min]の昇温速度により50℃以上600℃以下の範囲内で昇温し、基準試料としてアルミナを用い、水洗により洗浄した試料を乾燥させた後に粉砕した状態の条件下おけるTG-DTA分析結果において、4.0[%]以上10.0[%]以下の重量減少を示すものであると良い。
【0060】
本発明のガラス成形用再生材料は、かかる構成とすることにより、ガラス成形用再生材料に由来する蛍光特性を備えた意匠性の高いガラスを製造するのにより一層適したものとすることができる。
【0061】
(f)上述したガラス成形用再生材料は、前記蛍光特性再生材料が、真珠貝、及び棘皮動物のいずれか一方又は双方に由来するものであると良い。
【0062】
本発明のガラス成形用再生材料は、かかる構成とすることにより、真珠貝、及び棘皮動物のいずれか一方又は双方に由来する蛍光特性を備えた意匠性の高いガラスの製造に適したものとすることができる。
【0063】
(g)上述したガラス成形用再生材料は、前記真珠貝が、アコヤガイ、シロチョウガイ、及びクロチョウガイの少なくともいずれかであり、前記棘皮動物が、ウニであると良い。
【0064】
本発明のガラス成形用再生材料は、かかる構成とすることにより、アコヤガイ、シロチョウガイ、クロチョウガイ、及びウニの少なくともいずれかに由来する蛍光特性を備えた意匠性の高いガラスの製造に適したものとすることができる。
【0065】
(h)上述したガラス成形用再生材料の製造方法は、ガラス以外の材料から再生される再生材料が配合され、ガラスの成形に用いられるものであって、貝殻又は貝殻由来の成形品から得られた貝殻由来再生材料を、前記再生材料を構成するカルシウム成分の一部又は全部として準備するカルシウム成分準備工程を含むものであること、を特徴とするものであると良い。
【0066】
本発明によれば、貝殻や貝殻を用いた成形品に由来する貝殻由来再生材料をカルシウム成分として活用したガラス成形用再生材料の製造方法を提供できる。従って、本発明は、使用済みのガラスやガラスびんを用いた従来型のリユースやリサイクルとは一線を画した、貝殻や貝殻を用いた成形品を活用したガラス成形用再生材料の製造方法を提供できる。
【0067】
(i)上述したガラス成形用再生材料の製造方法は、カルシウム成分準備工程が、所定温度未満の温度雰囲気下で行われること、を特徴とするものであると良い。
【0068】
本発明に係るガラス成形用再生材料の製造方法は、上述した本発明者らの知見に基づくものである。本発明に係るガラス成形用再生材料の製造方法によれば、蛍光を発する意匠効果の高いガラスを、安全かつ取り扱いやすいものとして製造するために有効利用可能なガラス成形用再生材料を製造できる。
【0069】
(j)上述したガラス成形用再生材料の製造方法は、カルシウム成分準備工程において、貝殻又は貝殻由来の成形品を所定温度以上の温度雰囲気下において熱処理する熱処理工程と、を有すること、を特徴とするものであると良い。
【0070】
本発明に係るガラス成形用再生材料の製造方法は、上述した本発明者らの知見に基づくものである。本発明に係るガラス成形用再生材料の製造方法によれば、貝殻由来再生材料を用いつつ、蛍光を発しないガラスを製造するためのガラス成形用再生材料を製造できる。
【発明の効果】
【0071】
本発明によれば、貝殻又は貝殻を用いた成形品から得られた貝殻由来再生材料を用いたガラス、及び当該ガラスの製造方法を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0072】
図1】本発明の一実施形態に係るガラスの製造方法の一例を示したフロー図である。
図2】貝殻ガラスを、可視光および365nm、265nmのUV光下で撮影した写真である。
図3】貝殻粉末および貝殻ガラスの蛍光分光測定の結果を示した図である。
図4】第三実施例に係るガラス形成用再生材料の原料について行ったXRFの結果を示す表である。
図5】第三実施例に係るガラス形成用再生材料の原料とされたものと、当該原料を用いて作成されたガラス形成用再生材料について行ったXRD、TG-DTA分析結果、原料表面に蛍光UV光を照射したときの蛍光特性、ガラス形成用再生材料を用いて形成されたガラスに蛍光UV光を照射したときの蛍光特性を調べた結果を纏めた表である。
図6】第三実施例に係るガラス形成用再生材料により成形されたガラスについて行ったXRFの結果を示す表である。
図7】第三実施例に係るガラス形成用再生材料により成形されたガラスの外観写真である。
図8】第三実施例に係るガラス形成用再生材料のうち、ガラス形成用再生材料の製造過程において加熱工程を行った加熱ガラス形成用再生材料を用いて成形したガラスに係るガラス透過率曲線である。
図9】第三実施例に係るガラス形成用再生材料のうち、ガラス形成用再生材料の製造過程において加熱工程を省略した非加熱ガラス形成用再生材料を用いて成形したガラスに係るガラス透過率曲線である。
【発明を実施するための形態】
【0073】
以下、本発明の一実施形態に係るガラス成形用再生材料を用いて形成されたガラス、及び当該ガラスの製造方法について説明する。
【0074】
≪ガラス、及びガラス成形用再生材料について≫
本実施形態のガラスは、ガラス以外の材料から再生される再生材料(ガラス成形用再生材料:以下単に「再生材料」とも称す)を用いて形成されたものである。本実施形態のガラスの原料となるガラス成形用再生材料は、ケイ素成分の総量、及びカルシウム成分の総量が所定の調合比となるように配合されたものとされている。
【0075】
また、ガラス成形用再生材料は、例えば、後に詳述する貝殻に由来する貝殻由来再生材料、棘皮動物に由来する棘皮動物由来再生材料、棘胞動物に由来する棘胞動物由来再生材料等からなる各種の動物性の再生材料(動物性再生材料)を一又は複数種含むもの、植物性の再生材料(植物性再生材料)を一又は複数種含むもの、産業廃棄物等の産業由来の再生材料を一又は複数種含むもの、又はこれらとは異なるものに由来する再生材料等、ガラス以外の様々なものに由来する再生材料を構成材料の一部又は全部として含むものとすることができる。また、ガラス成形用再生材料は、例えば、ガラスを成形した状態において蛍光特性を発現する蛍光特性再生材料のように、特性により分類される様々な再生材料を一部又は全部として含む構成材料を用いて形成されたものとすることができる。以下、本実施形態のガラスに用いられる貝殻由来再生材料等の再生材料(構成材料)について、さらに詳細に説明する。
【0076】
[再生材料]
≪動物由来再生材料≫
上述した各種の再生材料のうち、動物性再生材料は、各種の動物に由来する動物性の再生材料である。動物性再生材料は、上述したように、棘皮動物由来再生材料、及び棘胞動物由来再生材料等とすることができる。以下、これらの再生材料についてさらに詳細に説明する。
【0077】
〔貝殻由来再生材料〕
貝殻由来再生材料は、貝殻又は貝殻を用いた成形品に由来するカルシウム成分を含む再生材料である。貝殻由来再生材料の材料となる貝殻や、材料となる成形品に用いられた貝殻には、食料品製造業、装飾具製造業、医薬品製造業、香料製造業等の各種製造業における製造工程から発生した廃棄物や、漁業、小売業、飲食店業等において発生した廃棄物、これらの業種に当てはまらない他の法人や個人が廃棄物として廃棄したもの、リサイクル用として回収された衣類やアクセサリー等の物品から分別されたもの等を用いることができる。
【0078】
貝殻由来再生材料の材料には、各種の貝類の貝殻を用いることができる。具体的には、、貝殻由来再生材料の材料には、例えばクロチョウガイ、アコヤガイ、タカセガイ、シロチョウガイ、アワビ、ホタテガイ、カキ、シジミ、ウニ、サザエ、アサリ、ハマグリ、ウバガイ、サルボウガイ等の貝類の貝殻や、当該貝殻を用いた成形品を用いることができる。
【0079】
貝殻由来再生材料は、ガラスの成形に用いられる再生材料(ガラス成形用再生材料)において、カルシウム成分の全部をなすものとすることができる。また、貝殻由来再生材料は、他のカルシウム成分と共にガラス成形用再生材料におけるカルシウム成分の一部をなすものとすることができる。具体的には、貝殻由来再生材料は、石灰石や炭酸カルシウム試薬、酸化カルシウム試薬などと共に、ガラス成形用再生材料のカルシウム成分をなすものとしたり、貝殻以外の材料を用いて作成されたカルシウム成分を含む再生材料と共にガラス成形用再生材料のカルシウム成分をなすものとしたりすることができる。
【0080】
〔棘皮動物由来再生材料〕
棘皮動物由来再生材料は、棘皮動物に由来する再生材料である。棘皮動物由来再生材料は、例えば、ウニ目に分類されるウニ等の動物、ヒトデ目に分類されるヒトデ等の動物、ナマコ目に分類されるナマコ等の動物、リュウグウノツカイ目に分類されるリュウグウノツカイ等の動物、ヒラムシ目に分類されるヒラムシ等に由来するものとすることができる。棘皮動物由来再生材料は、カルサイト、及びアラゴナイトのいずれか一方又は双方を含む棘皮動物を原料として形成されるとよい。
【0081】
〔棘胞動物由来再生材料〕
棘胞動物由来再生材料は、棘胞動物に由来する再生材料である。棘胞動物由来再生材料は、例えば、サンゴ類に分類されるソフトコーラル(軟質サンゴ)、ストーニーコーラル(硬質サンゴ)等の生物、クラゲ類に分類されるアカクラゲ、ムラサキクラゲ等の生物、ヒドロ虫類に分類されるヒドラ、ポルトガルカラワリクラゲ等の生物に由来するものとすることができる。棘皮動物由来再生材料は、カルサイト、及びアラゴナイトのいずれか一方又は双方を含む棘皮動物を原料として形成されるとよい。
【0082】
上述した貝殻由来再生材料、棘皮動物由来再生材料、棘胞動物由来再生材料は、動物由来再生材料の一例であり、その他の動物に由来する材料についても動物由来再生材料として利用しうる。動物由来再生材料は、例えば、鶏等の鳥類、牛、豚等の哺乳類、魚類、甲殻類の殻、食品廃棄物(鶏卵の殻、動物や魚類の骨)等の動物性に由来する再生素材を含むものとすることができる。
【0083】
≪植物由来再生材料≫
植物由来再生材料は、植物に由来する再生材料である。植物由来再生材料は、例えば、もみ殻やトウモロコシ殻、ピーナッツ殻等の穀物に由来するものや、プランクトン、海藻、珪藻等などの他の植物に由来するもの等とすることができる。これらの植物由来再生材料は、ケイ素成分を含有するケイ素系素材としてガラス原料の一部又は全部として好適に用いることができる。また、植物由来再生材料は、例えば、ナス科等の双子葉植物に由来するものとし、ガラス原料においてカルシウム成分を含有するカルシウム系素材として用いることも可能である。
【0084】
≪産業由来再生材料≫
産業由来再生材料は、産業廃棄物等の産業由来の再生材料を一又は複数種含むものである。産業由来再生材料は、鉄鋼スラグ(カルマイト)、ゼオライト、建設材(ケイ酸カルシウム)に由来する再生素材を、ガラス原料においてケイ素系素材として含んだものとすることができる。また、産業由来再生材料は、COを回収(CCS、CCUS、BEC、BECCS、DAC、DACCSなどのCO回収技術で発生)した廃棄物から再生された再生素材(CaCO等)等のように、カルシウム成分を含むガラス以外の材料から再生された再生素材をガラス原料においてカルシウム系素材として含んだものとすることができる。また、産業由来再生材料は、燃焼排ガスのばいじんを回収(排ガス処理技術で発生)した廃棄物(NaSO、NaHSO、NaHSO、NaSO、Na、Na)、COを回収(CCS、CCUS、BEC、BECCS、DAC、DACCSなどのCO回収技術で発生)した廃棄物から再生された再生素材(NaCO,NaHCO)等のように、ナトリウム成分を含むガラス以外の材料から再生された再生素材をナトリウム系素材として含んだものとすることができる。
【0085】
≪蛍光特性再生材料≫
蛍光特性再生材料は、これを用いてガラスを成形した状態において蛍光特性を発現する特性を有する再生材料である。本発明者らが鋭意検討したところ、蛍光特性再生材料は、これに含まれる物質の種類や、TG-DTA分析結果において特徴的であることが見いだされた。具体的には、蛍光特性再生材料は、カルサイトを含むもの、カルサイトに加えてアラゴナイトを含むものであるとの特徴を有することが見いだされた。また、蛍光特性再生材料は、空気雰囲気下において20[℃/min]の昇温速度により50℃以上600℃以下の範囲内で昇温し、基準試料としてアルミナを用い、水洗により洗浄した試料を乾燥させた後に粉砕した状態の条件下おけるTG-DTA分析結果において、4.0[%]以上10[%]以下の重量減少を示すという特徴を有することが見いだされた。これらの特徴を兼ね備えた蛍光特性再生材料として、例えば上述した真珠貝に由来する再生材料、棘皮動物に由来する再生材料等がある。具体的には、真珠貝であるアコヤガイ、シロチョウガイ、及びクロチョウガイに由来する再生材料、棘皮動物であるウニに由来する再生材料は、蛍光特性再生材料として好適に用いることができる。
【0086】
上述したように、ガラス成形用再生材料(再生材料)は、貝殻由来再生材料、棘皮動物由来再生材料、棘胞動物由来再生材料等からなる各種の動物性再生材料、植物性再生材料、産業由来再生材料を一又は複数種含むもの、又はこれらとは異なるものに由来する再生材料等、ガラス以外の様々なものに由来する再生材料を一部又は全部として含むものとすることができる。複数種のガラス成形用再生材料を組み合わせてガラス形成用の原料(ガラス原料)を準備する場合には、カルシウム系素材、ケイ素系素材、ナトリウム系素材として機能するものを組み合わせて配合して混合した混合材料(混合再生材料)とすると良い。
【0087】
例えば、上述した貝殻由来再生材料を用いたガラス成形用再生材料は、ガラスの成形に用いられるカルシウム成分だけでなく、ケイ素成分等の他の成分も含んだものとすることが可能である。ガラス成形用再生材料は、貝殻由来再生材料をカルシウム成分の一部又は全部として含むと共に、ガラスの製造に必要とされるケイ素成分等の他の成分をなす再生材料を含む混合物からなるものとすることも可能である。さらに具体的には、本発明者らが鋭意検討したところ、もみ殻などの穀物を材料とすることにより穀物由来ケイ素成分を含む穀物由来再生材料をガラスの製造において必要とされるケイ素成分として用いることができるとの知見に至った。そのため、ガラス成形用再生材料は、上述した貝殻由来再生材料に対して、穀物由来再生材料を混合した混合材料(混合再生材料)とすることも可能である。
【0088】
ここで、ガラス成形用再生材料を上述した混合再生材料とする場合は、ガラスの製造原料に含まれるケイ素成分及びカルシウム成分の調合比、製造するガラスの色等の条件を考慮して、混合再生材料におけるカルシウム成分及びケイ素成分の調合比を調整すると良い。さらに具体的には、例えばガラスびん等の成形品を構成するソーダ石灰ガラスを製造するための製造原料として珪砂、及び石灰石を使用する場合において、珪砂や石灰石の一部又は全部として混合再生材料を用いる場合には、ケイ素成分として二酸化ケイ素を重量比で73%以下の範囲で含み、カルシウム成分として重量比で13%以下の範囲で炭酸カルシウムを含むものであると良い。また、透明(フリント)のガラスを製造する場合には、酸化鉄の調合比が重量比で0.09%以下の範囲で含むものであると良い。
【0089】
また、成形後のガラスが蛍光特性を発揮するものとしたい場合には、ガラス成形用再生材料は、上述した蛍光特性再生材料を含むものとすると良い。これにより、蛍光特性再生材料の原料となったものに由来する蛍光特性を発現するガラスの製造が可能となる。
【0090】
≪ガラスの製造方法≫
本実施形態のガラスは、上述したようなガラス以外の材料から形成されるガラス成形用再生材料を用いることにより、珪砂や石灰石等を用いた場合と同様にして、ガラスを製造することができる。具体的には、ガラス成形用再生材料を用いてガラス製品を製造する場合には、先ず酸化ケイ素の重量を100としたときに、炭酸カルシウムが重量比で27、炭酸ナトリウムが重量比で28、硫酸ナトリウムが重量比で1.5、炭素(カーボン)が重量比で0.1となる調合比を標準的な調合比とし、製造するガラスの特性(例えば粘性等)に応じて各成分の調合比率を変動させることにより、原料の調合を行う。このようにして原料の調合を行う際に、炭酸カルシウムについて、その一部又は全部として、上述した貝殻由来再生材料(ガラス成形用再生材料)を配合する。
【0091】
また、ガラス成形用再生材料を用いたガラス製品を製造する場合には、上述したようにして調合された原料を溶解炉に投入して溶解させる。貝殻由来再生材料をガラス成形用再生材料としてガラスの製造に用いる場合も、貝殻由来再生材料を用いない場合と同様に、例えばシーメンス型の連続炉などの大規模なガラス溶解炉や、光学炉や手吹き炉などの小規模なタンク炉を溶解炉として用いることができる。貝殻由来再生材料を含む原料を溶解して得られた溶解物を溶解炉から取り出し、これを例えばガラスびんなどの形状に成形した後、徐冷することにより、ガラス製品とすることができる。
【0092】
本実施形態のガラスの製造方法は、原料の準備段階において、ガラス以外の材料からガラス成形用再生材料の一部又は全部となるを製造する工程が含まれる点において、従来公知のガラスの製造方法と相違しており、この点に大きな特徴を有する。例えば、貝殻由来再生材料や、棘皮動物由来再生材料、棘胞動物由来再生材料は、図1に示したフローに則って準備される。貝殻由来再生材料、棘皮動物由来再生材料、棘胞動物由来再生材料は、それぞれ同様の製造方法によって準備できる。そのため、以下の説明においては、特に断りのない限り、貝殻由来再生材料を例に挙げ、ガラス以外の材料から貝殻由来再生材料(ガラス成形用再生材料)等のガラス形成用再生材料を製造する工程(再生材料の製造方法)について、さらに詳細に説明する。
【0093】
≪再生材料の製造方法≫
図1に示すように、貝殻由来再生材料は、原料準備工程、洗浄工程、分別工程、粉砕工程、熱処理工程を含む工程から選ばれる一又は複数の工程を経て製造される。貝殻由来再生材料の製造に際し、工程の選定、及び選定された工程を行う順番については、原料となる貝殻又は貝殻を用いた成形品の種類や状態に応じて適宜変更可能である。以下、貝殻由来再生材料の製造工程について工程毎に説明する。また、原料として衣類等に取り付けられた貝ボタンを用いる場合と、例えば食料品製造業や装飾具製造業等において廃棄物として発生した貝殻を用いる場合とを例に挙げ、貝殻由来再生材料の製造に際して選定される工程、及び選定された工程を行う順番等について説明する。
【0094】
(原料準備工程)
原料準備工程は、貝殻由来再生材料の原料となる貝殻又は貝殻を用いた成形品を準備する工程である。例えば、原料準備工程は、食料品製造業や装飾具製造業等において廃棄物として発生した貝殻を回収することにより行える。また、原料準備工程は、リサイクルの対象とされた衣類から貝ボタンを取り外したり、貝殻を用いたアクセサリーを回収する等して、貝殻を用いた成形品の形で回収することができる。
【0095】
(洗浄工程)
洗浄工程は、原料準備工程において回収された貝殻又は貝殻を用いた成形品を洗浄する工程である。洗浄工程においては、貝殻や成形品を水洗したり、界面活性剤等の薬剤を用いて洗浄したりして、貝殻や成形品に付着している異物が除去される。洗浄工程は、貝殻由来再生材料の原料となる貝殻又は貝殻を用いた成形品の種類や状態、他に行われる工程等に応じて適宜省略できる。具体的には、例えば貝ボタンのように、洗浄しなくてもガラスの成形品質に与える影響が低いものを貝殻由来再生材料の原料とする場合や、洗浄工程に代わって他の処理を行う別の工程を行うことにより最終的に貝殻由来再生材料として得られるものの品質を十分に確保できる場合などにおいては、洗浄工程を省略して貝殻由来再生材料の製造方法(製造工程)の簡素化を図ると良い。
【0096】
(分別工程)
分別工程は、貝殻又は貝殻を用いた成形品について、貝殻と、例えば繊維や樹脂、木材等の貝殻以外のものとに分別する工程である。分別工程は、洗浄工程と同様に、貝殻由来再生材料の原料となる貝殻又は貝殻を用いた成形品の種類や状態、他に行われる工程等に応じて適宜省略できる。具体的には、例えば貝ボタンの製造工程において発生した不良品や、貝ボタンの製造に伴って発生した端材のように、繊維等の異物が付着していないものを貝殻由来再生材料の原料とする場合や、分別工程に代わって他の処理を行う別の工程を行うことにより最終的に貝殻由来再生材料として得られるものの品質を十分に確保できる場合などにおいては、分別工程を省略して貝殻由来再生材料の製造方法(製造工程)の簡素化を図ると良い。
【0097】
(粉砕工程)
粉砕工程は、貝殻又は貝殻を用いた成形品を粉砕する工程である。粉砕工程は、従来公知の破砕機等を用いて貝殻がガラスの成形に用いるのに適した大きさになるように物理的に破砕する工程である。破砕工程は、上述した洗浄工程や分別工程と同様に、貝殻由来再生材料の原料となる貝殻又は貝殻を用いた成形品の種類や状態、他に行われる工程等に応じて適宜省略できる。具体的には、例えば貝ボタンを貝殻由来再生材料の原料とする場合には、直径が5mmから3cm前後の範囲であり、形状や大きさが所定の範囲内のものであると想定される。そのため、このような場合には粉砕工程を省略することが可能である。また、粉砕工程は、他の処理を行う別の工程を行うことにより、最終的に貝殻由来再生材料として得られるものの品質を十分に確保できる場合などにおいては、粉砕工程を省略できる。このように、貝殻由来再生材料の原料の状態に応じて、粉砕工程を適宜省略することにより、貝殻由来再生材料の製造方法(製造工程)の簡素化を図れる。
【0098】
(熱処理工程)
熱処理工程は、貝殻又は貝殻を用いた成形品を熱処理する工程である。熱処理工程は、貝殻由来再生材料の原料となる貝殻又は貝殻を用いた成形品を直接加熱、あるいは間接加熱することにより、ガラスの製造において不要であったり、ガラスの製造に悪影響を与えたりする物質を熱分解して除去することができる。貝殻由来再生材料の原料となる貝殻等を直接加熱する場合は、例えば燃焼炉内において貝殻等を直接燃焼する等の方法で行うと良い。また、貝殻等を間接加熱する場合には、例えば、ロータリーキルン等の熱処理装置を用い、炉内温度が所定温度になるように条件設定して加熱を行うと良い。
【0099】
貝殻又は貝殻を用いた成形品に含まれているカルシウム成分が炭酸カルシウムである場合には、炭酸カルシウムの熱分解温度よりも低温の温度域において貝殻等を加熱すると良い。これにより、炭酸カルシウムが熱分解されて酸化カルシウムになるのを抑制できる。その結果、貝殻由来再生材料を、ガラスの製造工程に用いられる石灰石と同様にガラスの原料として取り扱い可能なものとすることができる。
【0100】
ここで、本発明者らが鋭意検討したところ、例えばクロチョウガイ、アコヤガイ、又はシロチョウガイ等の真珠貝の貝殻、あるいは当該貝殻由来の成形品を原料としつつ、所定温度未満(100℃未満)の温度雰囲気下において貝殻由来再生材料を準備することにより、蛍光を発するガラスを製造するのに適した貝殻由来再生材料を作成できるとの知見が得られた。一方、前述した貝類の貝殻あるいは当該貝殻を用いた成形品を原料としつつ、所定温度以上(600℃以上)の温度雰囲気下において貝殻由来再生材料を準備した場合には、この貝殻由来再生材料を用いてガラスを製造しても蛍光を発するものとはならないとの知見を得た。また同様の知見が、棘皮動物由来再生材料、棘胞動物由来再生材料を製造する場合にも適用できることが見いだされた。そのため、クロチョウガイ、アコヤガイ、又はシロチョウガイ等の真珠貝の貝殻や、ウニ等の棘皮動物の殻、棘胞動物の殻等を原料としつつ、蛍光を発するガラスを製造するための貝殻由来再生材料、棘皮動物由来再生材料、棘胞動物由来再生材料を作成する場合には、熱処理工程を省略、あるいは所定温度未満(100℃未満)の温度条件下で熱処理工程を行うと良い。一方、これらの貝殻等を原料としつつ、蛍光を発しないガラスを製造するための貝殻由来再生材料、棘皮動物由来再生材料、棘胞動物由来再生材料を準備する場合には、所定温度以上(600℃以上)の温度雰囲気下において熱処理工程を行うようにすると良い。
【0101】
熱処理工程は、上述した洗浄工程等と同様に、貝殻由来再生材料の原料となる貝殻又は貝殻を用いた成形品の種類や状態、他に行われる工程等に応じて適宜省略できる。具体的には、例えば上述したようにクロチョウガイ、又はアコヤガイの貝殻等を用いつつ、蛍光を発するガラスに用いる貝殻由来再生材料を製造したい場合や、熱処理を行わなくても不純物の除去等が可能である場合、貝殻由来再生材料を酸化カルシウムとしてガラスの製造に用いるものとしたい場合などにおいては、熱処理工程を省略して貝殻由来再生材料の製造方法(製造工程)の簡素化を図ると良い。
【0102】
(その他の工程)
貝殻由来再生材料の製造に際しては、上述した各工程以外の他の工程を適宜追加したり、上述した各工程に代えて別の工程を採用したりしても良い。例えば、洗浄工程や分別工程に代えて、あるいは加えて、異物を除去するための異物除去工程を設けても良い。異物除去工程は、例えば、薬液等を用いて化学的に異物を除去するものとしたり、物理的に外力を加えて異物を除去するものとしたりすると良い。
【実施例0103】
続いて、本発明の一実施形態に係る貝殻由来再生材料、及びこれを用いて製造したガラスの実施例について説明する。本実施例においては、上述した貝殻由来再生材料の製造方法における原料準備工程、粉砕工程を経て、表1に示したように、アコヤガイ、タカセガイ、シロチョウガイ、クロチョウガイを原料とした貝殻由来再生材料としてサンプル1~サンプル4として準備した。また、表2に示したように、サンプル1~サンプル4に係る貝殻由来再生材料を用い、上述したガラスの製造方法に則ってサンプルA~サンプルHに係るガラスを作成した。なお、サンプルA及びサンプルHにおいて使用した貝殻由来再生材料については、サンプル1及びサンプル4に係る貝殻由来再生材料についてさらに所定温度以上(700℃以上)の温度雰囲気下における熱処理工程を施したものを利用した。
【0104】
【表1】
【0105】
【表2】
【0106】
表1に示すように、アコヤガイ、タカセガイ、シロチョウガイ、クロチョウガイを原料としたサンプル1~サンプル4に係る貝殻由来再生材料は、いずれも組成の95%以上がカルシウム成分によって構成されたものであった。表1に係る試験結果に照らせば、これらの貝殻由来再生材料は、いずれもガラスの製造において好適に利用できるものであると考えられる。
【0107】
また、上述したサンプル1~サンプル4に係る貝殻由来再生材料を用い、上述したガラスの製造方法によってガラスの製造試験を行った。その結果、サンプルA~サンプルHに係るガラスの組成は、表2に示すような結果となり、ガラスとして適正な範囲にあることが見いだされた。また、目視により確認したところ、サンプル1~サンプル4に係るいずれの貝殻由来再生材料を用いた場合についても、表2における添付写真のように、ガラスとして適正に製造できることが見いだされた。
【0108】
また、アコヤガイやクロチョウガイを用いたサンプル1及びサンプル4に係る貝殻由来再生材料を用いて作成したガラスのサンプルのうち、貝殻由来再生材料を焼成せずに使用したサンプルB、サンプルF、及びサンプルFは、それぞれアンバーの色彩を呈するガラスであった。アコヤガイやクロチョウガイの貝殻が黒色あるいは暗色の色彩を呈する部分を有するものであることから、当該貝殻に含まれる微少成分の影響がガラスを製造した際に発現したものと考えられる。
【0109】
一方、アコヤガイやクロチョウガイを用いたサンプル1及びサンプル4に係る貝殻由来再生材料を用いて作成したガラスのサンプルのうち、貝殻由来再生材料を焼成して使用したサンプルA、及びサンプルHは、それぞれフリントの色彩を呈するガラスであった。そのため、アコヤガイやクロチョウガイのように焼成せずに準備した貝殻由来再生材料を用いるとアンバーの色彩を呈するガラスが得られる場合であっても、ガラスの製造に用いる前に焼成を施すことにより、貝殻由来再生材料をフリントの色彩を呈するガラスを得るための原料として有効利用できることが見いだされた。
【0110】
また、全体として白色系の色彩を呈するタカセガイやシロチョウガイを原料としたサンプル2及びサンプル3に係る貝殻由来再生材料を用い、上述した製造方法で作成したガラスのサンプルC、サンプルD、及びサンプルEは、いずれもフリントの色彩を呈するガラスであった。
【0111】
さらに、上述したサンプルA~サンプルHに係るガラスの特性について検討したところ、クロチョウガイを使用したサンプルのうち、貝殻由来再生材料を焼成せずに使用したサンプルF及びサンプルGについて、紫外線を照射することにより蛍光を呈する特徴を有することが見いだされた。
【実施例0112】
一般的に、ソーダ石灰ガラスは、おおよそ70%のSiO、15%のCaO、15%のNaOから構成され、原料として珪砂(SiO)、石灰石(CaCO)、ソーダ灰(NaCO)が用いられる。原料の石灰石とソーダ灰は炭酸塩であり、使用時にCOが発生することから、ガラス製造におけるCO排出量削減のためには新たな原料の探索が必要である。本発明者らは、ガラス構成元素を含む廃棄物をガラス原料化する原料の探索をおこなっており、本発明に想到した。本発明の実施例として、本実施例では石灰石の代わりに生物由来原料である貝殻を使用したガラス(以下貝殻ガラス)を用いた実験を行った。また、UV光下で貝殻ガラスに蛍光が確認されたことから、本実施例では、組成分析、色調分析、熱物性測定、蛍光分光測定をおこない、貝殻とガラスの双方の関係性から蛍光特性を考察した。以下、本実施例において行った実験方法、及びその結果と考察について説明する。
【0113】
(1)実験方法
ガラス原料に用いるクロチョウガイの貝殻は、ミルで粉砕し、得られた粉末(貝殻粉末)を試料成形機で圧粉体へ成型したのち、走査型蛍光X線分析装置を用いて定性分析、FP法による半定量分析、およびモジュール型蛍光分光測定装置による蛍光分光測定をおこなった。なお、蛍光の有無はUVランプを用い、365nmおよび265nmのUV波長の光で判定した。貝殻粉末は個体差を考慮し、2回サンプリングをおこなった。さらに、クロチョウガイの黒色の外皮部分は、365nmのUV光下で紅色の蛍光が確認された箇所を削り真珠層と分離し、粉砕後に測定した。その後、珪砂(100g)、ソーダ灰(28.0g)、芒硝(1.50g)、カーボン(0.120g)、貝殻粉末(27.0g)を混合し、ガラス混合原料を得た。さらに、ガラス混合原料は白金ルツボを用いて1450℃に昇温した電気炉で2時間溶融し、分析に用いる貝殻ガラスとした。さらに、貝殻ガラスは、両面を鏡面研磨し、走査型蛍光X線分析装置によるガラスの代表的な13組成の定量分析、分光光度計による色調分析、熱分析装置によるガラス転移点、屈服点温度、熱膨張係数の各測定、およびモジュール型蛍光分光測定装置による蛍光分光測定をおこなった。
【0114】
(2)実験結果と考察
表3に貝殻ガラスに使用した貝殻粉末の定性分析および半定量分析を示す。本実施例に係る実験の結果、クロチョウガイの貝殻粉末は、石灰石の50-80倍のNaOのほか、P、SO、Cl、NiO、Br、SrOを不純物として含有することが確認された。さらに、クロチョウガイは、1回目の貝殻粉末でCuO(0.002mass%)が存在し、外皮部分でMnO(0.007mass%)やFe(0.031mass%)が確認されるなど、個体ごとの組成に差があることがわかった。さらに、クロチョウガイの外皮部分は真珠層よりもMnOやFeなどの金属成分を多く含有していた。
【0115】
【表3】
【0116】
貝殻ガラスを、可視光および365nm、265nmのUV光下で撮影した写真を図2に示す。貝殻ガラスは可視光下で茶色を示し、365nmおよび265nmのUV光下で橙色の蛍光を示した。ガラス中にドープされた遷移金属は、ガラスの着色や蛍光へ影響することから、クロチョウガイ外皮に含有されるMnOおよびFeなどの金属成分が着色および蛍光の発現に寄与したと考えられる。
【0117】
図3に貝殻粉末および貝殻ガラスの蛍光分光測定の結果を示す。貝殻粉末および貝殻ガラスは、400nmの波長で励起したとき、共に650nm付近の蛍光特性が確認された。このことから、貝殻粉末中の一部の蛍光特性は、ガラス化されても保持されていることがわかった。表3の組成分析結果より、貝殻粉末および貝殻ガラスの650nmの蛍光特性は、貝殻粉末中のMn、Fe、Cuなどの遷移金属が由来と考えられる。しかし、Mn、Feは通常使用する石灰石にも含有されていることから、650nmの蛍光特性は、Mn、Feに加え、Mg、Clなど貝殻粉末中の不純物も関与していると考えられる。
【0118】
さらに貝殻粉末と貝殻ガラスとを270-300nmの波長で励起したところ、貝殻粉末は330nm付近に強い蛍光特性が存在するが、貝殻ガラスには存在しなかった。330nm付近の蛍光特性は貝殻粉末に含まれる有機物もしくは金属元素によるものと考えられる。同波長で貝殻ガラスに蛍光特性が確認されなかったことは、貝殻粉末の蛍光が有機物由来と推測すると、有機物は1450℃の温度条件下でのガラス化段階で熱によって有機物が分解され蛍光特性が消失したと考えられる。
【0119】
一方、金属元素由来と推測すると、遷移金属は貝殻粉末と貝殻ガラスで価数が変わることで蛍光特性が変化したと考えられる。また、貝殻ガラスは、300nmと250nmの励起時に380nmと400-800nmとに蛍光特性が確認された。このことから、貝殻ガラスは、Mn、Cu、Feなどの遷移金属と貝殻粉末以外の原料由来であるSiO、CaO、NaOとの相互作用により、貝殻ガラスのみに蛍光特性が発現する事象が存在すると考えられる。
【0120】
(3)考察
上述したように、本実施例では、クロチョウガイの貝殻粉末を用いて貝殻ガラスを作製した。得られた貝殻ガラスは可視光下では茶色を示し、365nmおよび265nmのUV光下では橙色の蛍光を示した。クロチョウガイの貝殻は外皮と真珠層で組成に違いがあり、外皮に0.007mass%のMnO、0.031mass%のFeが含有されていた。貝殻ガラスは、400nmのUV光での励起時にクロチョウガイの貝殻粉末と同じ650nm付近の蛍光特性を持つことがわかった。また、貝殻ガラスは、300nmと250nmのUV光での励起時に380nmと400-800nmとにおいて、貝殻粉末にみられない蛍光特性を発現することがわかった。
【実施例0121】
本実施例においては、上述した再生材料の製造方法により、各種の原料を用いてガラス形成用再生材料を準備し、各ガラス形成用再生材料の特性についての検討を行った。なお、上述した再生材料の製造方法に含まれる熱処理工程がガラス形成用再生材料やこれを用いて形成されるガラスの特性に与える影響を確認すべく、必要に応じて各ガラス形成用再生材料について熱処理工程を省略した非加熱のもの(以下、「NHT」とも称す)、及び上記実施例1で例示したのと同様に700℃で熱処理工程を行ったもの(以下、「HT」とも称す)を準備した。また、当該ガラス形成用再生材料を用い、上述したガラスの製造方法によってガラスを成形し、各ガラスの特性についての検討を行った。以下、その結果について詳細に説明する。
【0122】
本実施例では、アコヤガイ、シロチョウガイ、クロチョウガイ、ウニ、ホタテ、カキを原料としてガラス形成用再生材料について、粉末X線蛍光分析(XRF:X-RAY Fluorescence)を行った。
【0123】
本出願に係る実施例において行ったXRFは、走査型蛍光X線分析装置(Rigaku製 ZSX Primus II)にて測定を行った。XRFにおいて使用したX線菅は、エンドウィンドウ型:Rhターゲットであり、真空雰囲気(分光室4.0Pa/予備排気室6.8Pa)にて、Rh4.0kW、印加電流60mA、印加電圧50kVの条件下で測定を行った。また、X線の照射時間は、粉末の場合は45min、ガラスの場合は30minであった。解析方法は、粉末測定時はFP法、ガラス測定時は検量線法であった。また、光学系に係る測定条件については、フィルターがNi400又はZr150、ダイアグラムが30mm、スリットがS2(検出器SC用)、分光結晶がLiF(200)、検出器がSC(658.4V)、2θが27.920deg、アッテネータ1/1、PHAがLL100~UL300とした。XRFに用いた試料は、CMT Co.,LTD.製のサンプルミル(TI-100)にて、粉砕時間を10minとして粉砕することにより、粒径が0.5mm以下となるまで粉砕したものとし、これを粉末試料成型機により、最大圧力30t/cm、圧縮時間5sec、圧縮径30mmの条件のもと圧縮することにより準備した。XRFに用いた粉末のサンプルは、30mm径のものとして準備した。XRFに用いたガラスのサンプルは、30mm径のものとし、ガラス研磨処理(400,700,1000,酸化セリウム研磨後、超音波洗浄)により表面を鏡面処理した状態のものとして準備した。
【0124】
上述したガラス形成用再生材料に係るXRFの結果を、図4に示す。図4を参照して分かるように、アコヤガイ、シロチョウガイ、クロチョウガイ、ウニ、ホタテ、カキを原料としてガラス形成用再生材料は、いずれも90%を越えるカルシウム成分を含むものであった。これらのガラス形成用再生材料におけるカルシウム成分の含有量は、比較例として準備した石灰と同等であった。従って、アコヤガイ、シロチョウガイ、クロチョウガイ、ウニ、ホタテ、カキを原料としてガラス形成用再生材料は、いずれも石灰と同様にガラス原料におけるカルシウム成分の供給源として使用しうるものであるとの知見が得られた。
【0125】
上述したアコヤガイ、シロチョウガイ、クロチョウガイ、ウニ、ホタテ、カキを原料としてガラス形成用再生材料について、熱処理工程を省略した非加熱のもの(NHT)として準備した場合、及び熱処理工程を行うことにより700℃で加熱したもの(HT)として準備した場合について、ガラス形成用再生材料としての特性の違いを確認すべく、X線解析(XRD:X-Ray Diffraction)を行うとともに、熱重量分析及び示差熱分析(TG-DTA分析:Thermogravimetry-Differential Thermal Analysis)を行った。XRD及びTG-DTA分析に係る条件は、以下のとおりである。
【0126】
本出願に係る実施例において行ったXRDは、粉末X線回折装置(Rigaku製 RINT2500VL)にて、25℃の大気雰囲気下において行った。XRDは、Cu KαのX線管球を用い、印加電流を60mA、印加電圧を40kV、フィルターをNiとして行った。また、XRDに用いた試料は、粒径が0.5mm以下となるまで粉砕したものをアルミニウム製のセルにセットすることにより準備した。また、本実施例において行ったXRDは、10~80θの測定範囲において、サンプリング幅を0.02°、スキャンスピードを4.00°/min、発散スリットを1°、散乱スリットを1°、受光スリットを0.3mmの測定条件下において実施した。
【0127】
本出願に係る実施例において行ったTG-DTA分析は、示差熱-熱重量同時測定装置(Rigaku製 Thermo Plus EVO2 TG-DTA)により行った。TG-DTA分析に係る試料は、粒度が0.5mm以下で、その重量が30~50mgの範囲内となるように準備した。また、TG-DTA分析においては、試料をアルミナ(Al)製のサンプルセルに入れ、プラチナ(Pt)製のサンプルホルダーに配置した。また、本実施例のTG-DTA分析は、アルミナ(Al)を基準試料とし、この基準試料を測定対象であるサンプルと同様にアルミナ製のサンプルセルおよびプラチナ製のサンプルホルダーに配置した状態で実施された。本実施例のTG-DTA分析は、大気雰囲気下において、温度範囲を30℃から1000℃の範囲、昇温速度を20℃/minと設定し、1000℃に到達した後にファンによる冷却を行うことにより行った。
【0128】
また、ガラス形成用再生材料の原料とされたアコヤガイ、シロチョウガイ、クロチョウガイ、ウニ、ホタテ、カキの表面に対し、365[nm]以上400[nm]以下の波長のUV光を照射することにより発せられる蛍光色について調べた。その結果は、図5に示す通りであった。すなわち、比較例として準備された石灰が蛍光色を示さない一方で、アコヤガイ、シロチョウガイ、及びクロチョウガイはピンク色の蛍光色を示した。また、ウニはオレンジ色、ホタテはイエロー色、カキはオレンジ色の蛍光色を示した。そのため、ガラス形成用再生材料の原料とされたアコヤガイ、シロチョウガイ、クロチョウガイ、ウニ、ホタテ、カキは、それぞれ蛍光特性を示す物質が含まれていることが見いだされた。
【0129】
続いて、上述したガラス形成用再生材料について、XRD及びTG-DTA分析を行った。その結果を纏めたものを、図5に示す。図5を参照して分かるように、XRDの結果、比較例として準備した石灰を含め、アコヤガイ、シロチョウガイ、クロチョウガイ、ウニ、ホタテ、カキを原料として作成した全てのガラス形成用再生材料において、熱処理工程を省略した非加熱のもの(NHT)及び加熱したもの(HT)の双方においてカルサイトが検出された。また、アコヤガイ、シロチョウガイ、クロチョウガイについては、非加熱のもの(NHT)においてアラゴナイトが検出されたものの、加熱したもの(HT)とすることによりアラゴナイトが消失することが判明した。
【0130】
また、TG-DTA分析の結果、比較例として準備した石灰、及びアコヤガイ、シロチョウガイ、クロチョウガイ、ウニ、ホタテ、カキを原料として加熱工程において加熱して準備されたガラス形成用再生材料(HT)は、いずれも重量減少率が1.0[%]未満であることが見いだされた。これに対して、アコヤガイ、シロチョウガイ、クロチョウガイ、ウニ、ホタテ、カキを原料として加熱工程を経ることなく、非加熱で準備されたガラス形成用再生材料(NHT)は、いずれも重量減少率が1.0[%]以上であることが見いだされた。また、アコヤガイ(HT)、シロチョウガイ(HT)、クロチョウガイ(HT)、ウニ(HT)、ホタテ(HT,NHT)、カキ(HT,NHT)については、重量減少率が0.05[%]以上2.7[%]以下の範囲内にあることが見いだされた。これに対し、アコヤガイ(NHT)、シロチョウガイ(NHT)、クロチョウガイ(NHT)、ウニ(NHT)については、重量減少率が4.0[%]以上10.0[%]以下の範囲にあることが見いだされた。
【0131】
上述したガラス形成用再生材料を用い、上記実施形態において説明したガラスの製造方法に則ってガラスを製造した。また、第一の比較例(比較例1)として、ガラス形成用再生材料を用いず、石灰石を用いることにより、フリント(無色透明)のガラスの製造に適した配合となるように各種原料を配合したガラス原料により、同様の製造方法によりガラスを製造した。さらに別の比較例として、ガラス形成用再生材料を用いず、比較例1のものと比べてカーボンの配合量を多くしたガラス原料を用い、同様の製造方法によりガラスを第二の比較例(比較例2)として製造した。比較例2に係るガラスの製造に際し、ガラス原料として添加するカーボンの配合量は、上述したTG-DTA分析の結果に即して、加熱工程を経ることなく製造されたガラス形成用再生材料(NHT)に含まれるカーボン量を導出し、これと同程度の量となるように決定した。具体的には、真珠貝であるアコヤガイ、シロチョウガイ、クロチョウガイの殻を用いて加熱工程を経ることなく製造されたガラス形成用再生材料(NHT)に関するTG-DTA分析により判明した重量減少率の平均値(全重量の4.5%)を導出し、これに基づいて同等の割合でガラス原料にカーボンが含まれることとなるように、カーボン量を調整した。
【0132】
上述したようにして準備したガラス形成用再生材料を用いたガラス、比較例1、比較例2に係るガラスについて、粉末X線蛍光分析(XRF:X-RAY Fluorescence)を、上述したものと同一の条件下において行った。その結果を、図6に示す。なお、比較例2に係るガラスについては、製造過程においてガラス原料に含まれる炭素と酸素とが反応して発生した二酸化炭素によるものと想定される泡跡を多く含み、測定不能であったことから、粉末X線蛍光分析に係る測定結果を省略する。
【0133】
図6を参照して分かるように、アコヤガイ(NHT)、クロチョウガイ(NHT)、シロチョウガイ(NHT)においては、それぞれSOが0.07mass%、0.06mass%、0.09mass%と他のサンプルよりも低い値を示し、溶融時の還元雰囲気が強くなっている状態であると推認できることが見いだされた。なお、ウニ(NHT)についても強い還元雰囲気下で溶融されたガラスであると推認されるが、SOが0.29mass%であり、アコヤガイ(NHT)、クロチョウガイ(NHT)、シロチョウガイ(NHT)よりも高い値を示した。これは、ウニ(NHT)を用いた場合、細かな気泡が非常に多く発生し、分析対象面まで気泡跡が到達していたことが、SOの測定に与えた影響が高いものと推認される。
【0134】
上述したようにして準備したガラス形成用再生材料を用いたガラス、比較例1、比較例2に係るガラス、及びガラス形成用再生材料の原料とされたものについての外観写真を図7に示す。図7を参照して分かるように、比較例1に係るガラスは、フリント(無色透明)の外観を有するものであった。また、比較例2に係るガラスは、アンバー(茶褐色)の外観を有するものであった。比較例2に係るガラスは、上述したように製造過程においてガラス原料に含まれる炭素と酸素とが反応して二酸化炭素が発生することから、当該二酸化炭素によるものと想定される泡跡を多く含むものであった。
【0135】
ガラス形成用再生材料を用いたガラスのうち、ガラス形成用再生材料の製造過程において加熱工程を行ったもの(加熱ガラス形成用再生材料(HT))を用いて成形したガラスは、いずれも比較例1のものと同様に、フリント(無色透明)の外観を呈するものであった。また、ガラス形成用再生材料の製造過程において加熱工程を省略したもの(非加熱ガラス形成用再生材料(NHT))を用いて成形したガラスのうち、ガラス形成用再生材料の原料としてホタテ、及びカキを用いたものについても、比較例1のものと同様に、フリント(無色透明)の外観を呈するものであった。
【0136】
これに対し、ガラス形成用再生材料の製造過程において加熱工程を省略したもの(非加熱ガラス形成用再生材料(NHT))を用いて成形したガラスのうち、ガラス形成用再生材料の原料としてアコヤガイ、シロチョウガイ、クロチョウガイ、及びウニを用いたガラスは、茶褐色の着色が見られた。しかしながら、これらのガラスにおいて見られた着色は、比較例2に係るガラスのものよりも薄いものであった。さらに、これらのガラスにおいては、比較例2にガラスにおいて確認された泡跡が殆ど見られないものであった。
【0137】
また上記の外観観察結果を裏付けるべく、各サンプルについてガラス透過率を測定した。本出願に係る実施例において行ったガラス透過率の測定は、分光光度計(HITACHI製 U-3010)を使用し、380~780nmの波長範囲でスキャンすることにより行った。ガラス透過率の測定時におけるスキャンスピードは300nm/min、サンプリング時間は0.5nm、スリット幅は5nmであった。ガラス透過率の測定は、大気雰囲気下において行い、ヨウ素タングステンランプを光源として使用し、ベースライン平坦度を±0.001Abs(スリット幅2mm)、ベースラインの安定度を±0.0004Abs以下/60min(340nm、電源投入後2h)とする測定条件下において行った。ガラス透過率の測定に用いたサンプルは、両面に鏡面研磨処理を施した後、超音波洗浄を行い、エタノールを使用してふき取り清掃を実施することにより、厚みが3mm~6mmのものとして準備された。
【0138】
上述したようにして分光光度計を用いてガラス透過率を測定することにより得られたガラス透過率曲線を、図8及び図9に示す。図8を参照して分かるように、ガラス形成用再生材料の製造過程において加熱工程を行った加熱ガラス形成用再生材料(HT)を用いて成形したガラスは、いずれも測定範囲である380[nm]~780[nm]の全般に亘って70%を越える透過率を示すものであった。従って、加熱ガラス形成用再生材料(HT)を用いて成形したガラスは、いずれも比較例1に係るフリントのガラスと同様に、フリントの特性を有するものであることが確認された。
【0139】
図9を参照して分かるように、ガラス形成用再生材料の製造過程において加熱工程を省略した非加熱ガラス形成用再生材料(NHT)を用いて成形したガラスのうち、ガラス形成用再生材料の原料としてホタテ、及びカキを用いたものについては、いずれも測定範囲である380[nm]~780[nm]の全般に亘って、比較例1に係るフリントのガラスを上回る透過率を有するものであった。従って、ホタテ、及びカキを原料とする非加熱ガラス形成用再生材料(NHT)を用いて成形したガラスは、比較例1に係るフリントのガラスと同等、あるいはそれ以上の透過率を有する、フリント(無色透明)の特性が強く現れたものであることが確認された。
【0140】
これに対し、ガラス形成用再生材料の製造過程において加熱工程を省略した非加熱ガラス形成用再生材料(NHT)を用いて成形したガラスのうち、ガラス形成用再生材料の原料としてアコヤガイ、シロチョウガイ、クロチョウガイ、及びウニを用いたガラスは、比較例2に係るガラスと同様に、410[nm]付近をピークとする下向きに凸形状の透過率曲線を示すものであった。その一方で、アコヤガイ、シロチョウガイ、クロチョウガイ、及びウニを原料とする非加熱ガラス形成用再生材料(NHT)を用いて形成したガラスは、比較例2に係るアンバーガラスよりもガラス透過率が高いものであった。従って、これらのガラスにおいて見られた着色は、比較例2に係るガラスのものよりも薄いものであることが裏付けられた。
【0141】
また、加熱ガラス形成用再生材料(HT)を用いて成形したガラス、非加熱ガラス形成用再生材料(NHT)を用いて成形したガラス、及び比較例1に係るガラスについて、365[nm]以上400[nm]以下の波長のUV光を照射することにより発せられる蛍光色について調べた。その結果、図5に示すように、加熱ガラス形成用再生材料(HT)を用いて成形したガラス、及び非加熱ガラス形成用再生材料(NHT)を用いて成形したガラスのうち、ホタテ、及びカキを原料として作成されたガラス形成用再生材料を用いて成形したガラスについては、比較例1に係るガラスと同様に蛍光特性を示さないものであった。これに対して、非加熱ガラス形成用再生材料(NHT)を用いて成形したガラスのうち、アコヤガイ、シロチョウガイ、クロチョウガイ、及びウニを原料として作成されたガラス形成用再生材料を用いて成形したガラスについては、蛍光色に発色する蛍光特性を有するものであった。具体的には、アコヤガイ、シロチョウガイ、クロチョウガイ、及びウニを原料として作成されたガラス形成用再生材料を用いて成形したガラスは、いずれもオレンジ色に発色する蛍光特性を有するものであった。
【0142】
上述したように、非加熱ガラス形成用再生材料(NHT)を用いて成形したガラスのうち、ホタテ、及びカキを原料として作成されたガラス形成用再生材料を用いて成形したガラスについて蛍光色を発する特性を有する理由として様々な理由が考えられるが、例えば、原料である有機物に含まれているカーボンがガラスの製造過程において熔融雰囲気を酸化性から還元性に寄せる効果を発現したことに起因する可能性がある。その一方で、比較例2のように、同様の効果を狙って単にカーボンを添加しただけでは、ガラスの色をアンバー色にする効果しかなく、蛍光特性を発現するうえで何ら効果を発揮しないことが見いだされた。従って、非加熱ガラス形成用再生材料(NHT)を用いてガラスを成形することにより、単にカーボンを添加する等するだけでは得られない蛍光特性などの特性を備えたガラスを製造できることが見いだされた。
【産業上の利用可能性】
【0143】
本発明は、ガラス以外の材料から再生されたガラス成形用再生材料を用いたガラス、及び当該ガラスの製造するために好適に適用可能である。
図1
図2
図3
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図7
図8
図9