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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024037207
(43)【公開日】2024-03-19
(54)【発明の名称】水硬性組成物用増粘剤組成物
(51)【国際特許分類】
   C04B 24/20 20060101AFI20240312BHJP
   C04B 24/12 20060101ALI20240312BHJP
   C04B 28/02 20060101ALI20240312BHJP
   C09K 3/00 20060101ALI20240312BHJP
   C04B 103/44 20060101ALN20240312BHJP
【FI】
C04B24/20
C04B24/12 A
C04B28/02
C09K3/00 103H
C04B103:44
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022141843
(22)【出願日】2022-09-07
(71)【出願人】
【識別番号】000000918
【氏名又は名称】花王株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100087642
【弁理士】
【氏名又は名称】古谷 聡
(74)【代理人】
【氏名又は名称】義経 和昌
(72)【発明者】
【氏名】齊田 和哉
(72)【発明者】
【氏名】岡田 康平
【テーマコード(参考)】
4G112
【Fターム(参考)】
4G112PB20
4G112PB24
4G112PC08
(57)【要約】
【課題】調製後の水硬性組成物スラリーの粘度を高め、且つブリージング率を高める、水硬性組成物用増粘剤組成物、及び調製後のスラリーの粘度が高く、且つブリージング率が高い、水硬性組成物を提供する。
【解決手段】(a)アルキル基の炭素数が2以上のアルキルナフタレンスルホン酸、又はその塩、並びに(b)両性界面活性剤、及びカチオン界面活性剤から選ばれる1種以上を含有する、水硬性組成物用増粘剤組成物。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)アルキル基の炭素数が2以上のアルキルナフタレンスルホン酸、又はその塩(以下、(a)成分という)、並びに(b)両性界面活性剤、及びカチオン界面活性剤から選ばれる1種以上(以下、(b)成分という)を含有する、水硬性組成物用増粘剤組成物。
【請求項2】
(a)成分が、ブチルナフタレンスルホン酸、又はその塩である、請求項1に記載の水硬性組成物用増粘剤組成物。
【請求項3】
(a)成分の含有量と(b)成分の含有量との質量比(a)/(b)が、0.15以上2以下である、請求項1又は2に記載の水硬性組成物用増粘剤組成物。
【請求項4】
(a)アルキル基の炭素数が2以上のアルキルナフタレンスルホン酸、又はその塩(以下、(a)成分という)、(b)両性界面活性剤、及びカチオン界面活性剤から選ばれる1種以上(以下、(b)成分という)、水硬性粉体、及び水を含有する、水硬性組成物。
【請求項5】
(a)成分が、ブチルナフタレンスルホン酸、又はその塩である、請求項4に記載の水硬性組成物。
【請求項6】
(a)成分の含有量と(b)成分の含有量との質量比(a)/(b)が、0.15以上2以下である、請求項4又は5に記載の水硬性組成物。
【請求項7】
(b)成分の含有量が、水100質量部に対して、0.01質量部以上1質量部以下である、請求項4~6の何れか1項に記載の水硬性組成物。
【請求項8】
前記水硬性組成物中の水と水硬性粉体の質量百分率(水/水硬性粉体比)が、50質量%以上120質量%以下である、請求項4~7の何れか1項に記載の水硬性組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水硬性組成物用増粘剤組成物、及び水硬性組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
セメントのような水硬性粉体を含有する水硬性組成物スラリーでは、該スラリー調製後の粘性、材料分離抵抗性などの物性を改善するために、水硬性組成物スラリーに増粘剤を含有させることがある。
【0003】
例えば、特許文献1には、幅広い温度領域でレオロジー改質効果が発現するレオロジー改質剤として、特定のアミンオキサイド化合物を2種以上含有するレオロジー改質剤が開示されている。
特許文献2には、水硬性組成物に、凝結遅延や高性能減水剤の効果の阻害がなく、優れた流動性と分離抵抗性を付与できると共に、強度、特に初期の強度発現にも優れた水硬性組成物用添加剤として、第1の水溶性低分子化合物(以下、化合物(A)という)と化合物(A)とは異なる第2の水溶性低分子化合物(以下、化合物(B)という)とを含有し、化合物(A)及び(B)の組み合わせが、(1)両性界面活性剤から選ばれる化合物及びアニオン性界面活性剤から選ばれる化合物の組み合わせ、(2)カチオン性界面活性剤から選ばれる化合物及びアニオン性芳香族化合物から選ばれる化合物の組み合わせ、(3)カチオン性界面活性剤から選ばれる化合物及び臭化化合物から選ばれる化合物の組み合わせ、から選択される化合物を含有する水硬性組成物用添加剤が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2020-76022号公報
【特許文献2】特開2003-238222号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
一方、水硬性組成物は、硬化前にある程度の範囲でブリージングを発生させると水硬性組成物硬化体の強度が向上する傾向がある。
特許文献1や特許文献2の技術では、硬化前の水硬性組成物スラリーの増粘により材料分離を抑制することができるが、該スラリー硬化後の強度を向上させるために意図的にブリージングを発生させることは困難である。
また、水硬性組成物に用いられるセルロース系などの増粘剤を用いても、水硬性組成物スラリーの粘度を高めつつブリージングを発生させることの両立は困難である。
【0006】
本発明は、調製後の水硬性組成物スラリーの粘度を高め、且つブリージング率を高める、水硬性組成物用増粘剤組成物、及び調製後のスラリーの粘度が高く、且つブリージング率が高い、水硬性組成物を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、(a)アルキル基の炭素数が2以上のアルキルナフタレンスルホン酸、又はその塩(以下、(a)成分という)、並びに(b)両性界面活性剤、及びカチオン界面活性剤から選ばれる1種以上(以下、(b)成分という)を含有する、水硬性組成物用増粘剤組成物に関する。
【0008】
また本発明は、(a)成分、(b)成分、水硬性粉体、及び水を含有する、水硬性組成物に関する。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、調製後の水硬性組成物スラリーの粘度を高め、且つブリージング率を高める、水硬性組成物用増粘剤組成物、及び調製後のスラリーの粘度が高く、且つブリージング率が高い、水硬性組成物が提供される。
【0010】
本発明により得られた水硬性組成物は、調製後の水硬性組成物スラリーの粘度を高めることにより材料分離抵抗性に優れ、またブリージング率を高めることにより硬化後の強度に優れる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明者らは、(a)成分、(b)成分を含有する、水硬性組成物用増粘剤組成物を水硬性組成物に含有させた場合、調製後の水硬性組成物スラリーの粘度を高め、且つブリージング率を高められることを見出した。このような効果が発現する理由は必ずしも定かではないが、以下のように推測される。
芳香環を有するアニオン界面活性剤は、芳香環部分に大きなπ共役系を有するため、本発明の(b)成分と共存した場合、(b)成分中のカチオン性基又は両性基とカチオン―π相互作用を起こしやすい。そのため、両者が共存した場合、芳香環を有するアニオン界面活性剤は、(b)成分中のカチオン性官能基又は両性官能基の近傍に存在し、会合体を形成しているものと考えられている。よって(b)成分と芳香環を有するアニオン界面活性剤との会合体は、親水性基同士の電荷反発をお互いの電荷によって打ち消し合い、パッキングパラメーターがより1/2に近づくため、紐状ミセルや棒状ミセルを形成すると考えられている。しかしながら、芳香環がナフタレン環の場合、電荷の反発を打ち消し合っても立体反発が大きく曲率が変化しにくいと考えられる。本発明の(a)成分は、ナフタレン環を有していても同時にアルキル鎖も有しているため、その高い疎水性相互作用により(b)成分の疎水基側に入り込むことができ、会合体の曲率変化を阻害しないと考えられる。さらに、ナフタレン環はアルミニウムイオンやカルシウムイオンのような無機イオンに対してもカチオン―π相互作用を示す。紐状ミセルのような無限長の疑似ポリマー構造がナフタレン環のような吸着基を有することから凝集剤のような役割を示すことで、高粘性だが静置時にはセメントが凝集することで水と分離させられ、ブリージングが発生すると考えられる。
【0012】
[水硬性組成物用増粘剤組成物]
<(a)成分>
本発明の水硬性組成物用増粘剤組成物は、(a)成分として、アルキル基の炭素数が2以上のアルキルナフタレンスルホン酸、又はその塩を含有する。
(a)成分のアルキルナフタレンスルホン酸におけるアルキル基の炭素数は、疎水性相互作用及び水溶性のバランスの観点から、2以上、好ましくは3以上、そして、好ましくは10以下、より好ましくは5以下、更に好ましくは4である。また、ナフタレン環におけるアルキル基の位置はいずれであっても良い。
(a)成分のアルキルナフタレンスルホン酸におけるアルキル基の置換基の数は、パッキング性の観点から、好ましくは1以上、そして、好ましくは3以下、より好ましくは2以下であり、更に好ましくは1である。また、アルキル基の置換基の数が2以上の場合、少なくとも一つのアルキル基の炭素数が2以上であればよい。
(a)成分のアルキルナフタレンスルホン酸におけるスルホ基の置換基の数は、(b)成分との相互作用の観点から、好ましくは1以上、そして、好ましくは3以下、より好ましくは2以下であり、更に好ましくは1である。また、ナフタレン環におけるスルホ基の位置は、少なくとも一つのスルホ基が1の位置にあることが好ましい。
(a)成分のアルキルナフタレンスルホン酸の塩としては、ナトリウム塩、カリウム塩などのアルカリ金属塩、及びアンモニウム塩から選ばれる1種以上が挙げられる。
【0013】
(a)成分の化合物の具体的例としては、ブチルナフタレンスルホン酸、エチルナフタレンスルホン酸、プロピルナフタレンスルホン酸、ペンチルナフタレンスルホン酸、ヘキシルナフタレンスルホン酸、オクチルナフタレンスルホン酸、デシルナフタレンスルホン酸、及びこれらの塩から選ばれる1種以上が挙げられ、疎水性相互作用及び水溶性のバランスの観点から、好ましくはブチルナフタレンスルホン酸、エチルナフタレンスルホン酸、プロピルナフタレンスルホン酸、ペンチルナフタレンスルホン酸、及びこれらの塩から選ばれる1種以上であり、より好ましくはブチルナフタレンスルホン酸、エチルナフタレンスルホン酸、プロピルナフタレンスルホン酸、及びこれらの塩から選ばれる1種以上であり、更に好ましくはブチルナフタレンスルホン酸又はその塩である。
【0014】
<(b)成分>
本発明の水硬性組成物用増粘剤組成物は、(b)成分として、(b1)両性界面活性剤(以下、(b1)成分という)、(b2)カチオン界面活性剤(以下、(b2)成分という)から選ばれる1種以上を含有する。(b)成分は、窒素原子を有する両性界面活性剤、及び窒素原子を有するカチオン界面活性剤から選ばれる1種以上であることが好ましい。
【0015】
(b1)成分の両性界面活性剤としては、アミンオキサイド型界面活性剤が好ましく、下記一般式(b1)で表される化合物がより好ましい。
【0016】
【化1】
【0017】
〔式中、Xは、R11b又はR12b-[CONH-CHCHCH-で表される基である。R11bは、炭素数14以上22以下のアルキル基又は炭素数14以上22以下のアルケニル基である。R12bは、炭素数13以上21以下のアルキル基又は炭素数13以上21以下のアルケニル基である。nは1以上3以下の整数である。R及びRは、それぞれ独立に、炭素数1以上4以下のアルキル基又は-(CO)Hで表される基である。pは、平均付加モル数であり、R及びRの合計で0以上5以下の数である。〕
【0018】
一般式(b1)中、Xは、R11b又はR12b-[CONH-CHCHCH-で表される基である。
11bは、炭素数14以上22以下のアルキル基又は炭素数14以上22以下のアルケニル基である。
11bがアルケニル基の場合、炭素数は、好ましくは18以上、そして、好ましくは22以下である。
11bがアルキル基の場合、炭素数は、好ましくは16以上、そして、好ましくは22以下である。
12bは、炭素数13以上21以下のアルキル基又は炭素数13以上21以下のアルケニル基である。
12bがアルケニル基の場合、炭素数は、好ましくは17以上、そして、好ましくは21以下である。
12bがアルキル基の場合、炭素数は、好ましくは15以上、そして、好ましくは21以下である。
nは、好ましくは0又は1である。
及びRは、それぞれ独立に、好ましくは炭素数1以上2以下のアルキル基または-(CO)Hで表される基である。
pは、好ましくは0以上3以下の数である。
【0019】
(b1)成分の化合物の具体的例としては、オレイルジメチルアミンオキシド、オレイン酸アミドプロピルジメチルアミンオキシド、ステアリルジメチルアミンオキシド、及びパルミチルジメチルアミンオキシドから選ばれる1種以上が挙げられる。
【0020】
(b2)成分のカチオン界面活性剤としては、4級アンモニウム型界面活性剤が好ましく、下記一般式(b21)で表される化合物、及び下記一般式(b22)で表される化合物から選ばれる1種以上であることがより好ましい。
【0021】
【化2】
【0022】
〔式中、R21bは、炭素数8以上22以下の脂肪族炭化水素基であり、R22bは、炭素数8以上22以下の脂肪族炭化水素基、炭素数1以上3以下のアルキル基及び炭素数1以上3以下のヒドロキシアルキル基から選ばれる基であり、R23b及びR24bは、それぞれ独立に、炭素数1以上3以下のアルキル基及び炭素数1以上3以下のヒドロキシアルキル基から選ばれる基であり、Xは陰イオンである。〕
【0023】
【化3】
【0024】
〔式中、R25bは、炭素数8以上22以下の脂肪族炭化水素基であり、R26b及びR27bは、それぞれ独立に、炭素数1以上3以下のアルキル基及び炭素数1以上3以下のヒドロキシアルキル基から選ばれる基であり、Xは陰イオンである。〕
【0025】
一般式(b21)において、R21bの炭素数は、水溶性及び(a)成分と相互作用しやすい疎水性の高さとのバランスの観点から、8以上、好ましくは10以上、より好ましくは14以上、更に好ましくは16以上、そして、22以下、好ましくは20以下、より好ましくは18以下である。R21bは、アルキル基又はアルケニル基が好ましく、アルキル基が好ましい。
一般式(b21)において、R22bは、炭素数8以上22以下の脂肪族炭化水素基、炭素数1以上3以下のアルキル基及び炭素数1以上3以下のヒドロキシアルキル基から選ばれる基である。
22bが、炭素数8以上22以下の脂肪族炭化水素基である場合、R22bは、8以上、好ましくは10以上、より好ましくは14以上、更に好ましくは16以上、そして、22以下、好ましくは20以下、より好ましくは18以下であり、アルキル基又はアルケニル基であり、好ましくはアルキル基である。
22bは、好ましくは炭素数1以上3以下のアルキル基である。
【0026】
一般式(b21)において、R23b及びR24bは、それぞれ独立に、炭素数1以上3以下のアルキル基及び炭素数1以上3以下のヒドロキシアルキル基から選ばれる基である。R23b及びR24bは、それぞれ独立に、炭素数1以上3以下のアルキル基から選ばれる基であることが好ましい。炭素数1以上3以下のアルキル基としては、メチル基、エチル基、プロピル基が挙げられる。炭素数1以上3以下のヒドロキシアルキル基としては、ヒドロキシメチル基、ヒドロキシエチル基、ヒドロキシプロピル基が挙げられる。
【0027】
一般式(b21)において、Xは陰イオンである。陰イオンとしては、ハロゲンイオン、例えばクロルイオン、ブロモイオン及びヨウ素イオンが挙げられる。また、炭素数1以上3以下のアルキル硫酸イオン、例えばメチル硫酸イオン、エチル硫酸イオン及びプロピル硫酸イオンが挙げられる。
【0028】
一般式(b21)の化合物の好ましい化合物としては、アルキル基の炭素数が8以上22以下であるN-アルキル-N,N,N-トリメチルアンモニウム塩、アルキル基の炭素数が8以上22以下であるN,N-ジアルキル-N,N-ジメチル-アンモニウム塩、アルキル基の炭素数が8以上22以下であるN,N-ジアルキル-N-エチル-N-メチルアンモニウム塩及びアルキル基の炭素数が8以上22以下であるN-アルキル-N,N-ジメチル-N-エチルアンモニウム塩から選ばれる1種以上が挙げられる。
(b21)成分の化合物の具体的例としては、ラウリルトリメチルアンモニウム塩、ミリスチルトリメチルアンモニウム塩、パルミチルトリメチルアンモニウム塩及びステアリルトリメチルアンモニウム塩から選ばれる1種以上が挙げられる。
【0029】
一般式(b22)において、R25bは、炭素数8以上22以下の脂肪族炭化水素基である。R25bの炭素数は、水溶性及び(a)成分と相互作用しやすい疎水性の高さとのバランスの観点から、8以上、好ましくは12以上、より好ましくは14以上、更に好ましくは16以上、そして、22以下、好ましくは20以下、より好ましくは18以下である。R25bは、アルキル基又はアルケニル基が好ましく、アルキル基が好ましい。
【0030】
一般式(b22)において、R26b及びR27bは、それぞれ独立に、炭素数1以上3以下のアルキル基及び炭素数1以上3以下のヒドロキシアルキル基から選ばれる基である。R26b及びR27bは、それぞれ独立に、炭素数1以上3以下のアルキル基から選ばれる基であることが好ましい。炭素数1以上3以下のアルキル基としては、メチル基、エチル基、プロピル基が挙げられる。炭素数1以上3以下のヒドロキシアルキル基としては、ヒドロキシメチル基、ヒドロキシエチル基、ヒドロキシプロピル基が挙げられる。
【0031】
一般式(b22)において、Xは陰イオンである。陰イオンとしては、ハロゲンイオン、例えばクロルイオン、ブロモイオン及びヨウ素イオンが挙げられる。また炭素数1以上3以下のアルキル硫酸イオン、例えばメチル硫酸イオン、エチル硫酸イオン及びプロピル硫酸イオンが挙げられる。
【0032】
一般式(b22)の化合物の具体例としては、N-オクチル-N,N-ジメチル-N-ベンジルアンモニウム塩、N-デシル-N,N-ジメチル-N-ベンジルアンモニウム塩、N-ドデシル-N,N-ジメチル-N-ベンジルアンモニウム塩、N-トリデシル-N,N-ジメチル-N-ベンジルアンモニウム塩、N-テトラデシル-N,N-ジメチル-N-ベンジルアンモニウム塩、N-ペンタデシル-N,N-ジメチル-N-ベンジルアンモニウム塩、N-ヘキサデシル-N,N-ジメチル-N-ベンジルアンモニウム塩、N-ドデシル-N,N-ジエチル-N-ベンジルアンモニウム塩、N-トリデシル-N,N-ジエチル-N-ベンジルアンモニウム塩、N-テトラデシル-N,N-ジエチル-N-ベンジルアンモニウム塩、N-ペンタデシル-N,N-ジエチル-N-ベンジルアンモニウム塩、N-ヘキサデシル-N,N-ジエチル-N-ベンジルアンモニウム塩、N-ドデシル-N-メチル-N-エチル-N-ベンジルアンモニウム塩、N-トリデシル-N-メチル-N-エチル-N-ベンジルアンモニウム塩、N-テトラデシル-N-メチル-N-エチル-N-ベンジルアンモニウム塩、N-ペンタデシル-N-メチル-N-エチル-N-ベンジルアンモニウム塩及びN-ヘキサデシル-N-メチル-N-エチル-N-ベンジルアンモニウム塩から選ばれる1種以上の化合物が挙げられる。
【0033】
<組成等>
本発明の水硬性組成物用増粘剤組成物は、取り扱い性の観点から水溶液とすることが好ましく、水溶液の場合(a)成分を、経済性と扱いやすさの観点から、増粘剤組成物中、好ましくは0.15質量%以上、より好ましくは1質量%以上、更に好ましくは3質量%以上、そして、好ましくは66質量%以下、より好ましくは25質量%以下、更に好ましくは20質量%以下含有する。
本発明において、(a)成分の質量に関する規定は、(a)成分をナトリウム塩に換算した値を用いるものとする。
【0034】
本発明の水硬性組成物用増粘剤組成物は、取り扱い性の観点から水溶液とすることが好ましく、水溶液の場合(b)成分を、経済性と扱いやすさの観点から、増粘剤組成物中、好ましくは0.4質量%以上、より好ましくは1質量%以上、更に好ましくは8質量%以上、そして、好ましくは87質量%以下、より好ましくは30質量%以下、更に好ましくは20質量%以下含有する。
本発明において、(b)成分として、(b2)成分を含む場合、(b2)成分の質量は、(b2)成分をクロル塩に換算した値を用いるものとする。
【0035】
本発明の水硬性組成物用増粘剤組成物中、(a)成分の含有量と(b)成分の含有量との質量比(a)/(b)は、ミセル形状を紐又は棒状に保つパッキングパラメーターを調整してブリージング率と増粘性を高める観点から、好ましくは0.15以上、より好ましくは0.2以上、更に好ましくは0.3以上、そして、好ましくは2以下、より好ましくは1.5以下、更に好ましくは1以下、より更に好ましくは0.8以下、より更に好ましくは0.6以下である。
【0036】
本発明の水硬性組成物用増粘剤組成物は、粗大気泡低減による強度低下抑制の観点から、(c)成分として、消泡剤を含有することができる。
消泡剤としては、シリコーン系消泡剤、脂肪酸エステル系消泡剤、エーテル系消泡剤、及び脂肪族アミン系消泡剤から選ばれる1種以上が好ましく、シリコーン系消泡剤がより好ましい。シリコーン系消泡剤ではジメチルポリシロキサンがより好ましく、脂肪酸エステル系消泡剤ではポリアルキレングリコール脂肪酸エステルがより好ましく、エーテル系消泡剤ではポリアルキレングリコールアルキルエーテルがより好ましく、脂肪族アミン系消泡剤ではアルキルジメチルアミン又はその塩がより好ましい。
【0037】
本発明の水硬性組成物用増粘剤組成物は、(c)成分を含有する場合、組成物中、(c)成分の含有量と、(a)成分及び(b)成分の合計含有量との質量比(c)/[(a)+(b)]は、消泡性、経済性、性能阻害させない観点から、好ましくは0.00001以上、より好ましくは0.00005以上、更に好ましくは0.0001以上、そして、好ましくは0.1以下、より好ましくは0.05以下、更に好ましくは0.02以下である。
【0038】
本発明の水硬性組成物用増粘剤組成物は、温度汎用性の観点から、(d)成分として、ベンゼン環を有するアニオン性界面活性剤を含有することができる。但し、(d)成分からは、(a)成分に該当するものは除かれる。(d)成分は、具体的には、パラトルエンスルホン酸、サリチル酸、安息香酸、メタキシレンスルホン酸、クメンスルホン酸、スチレンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸等が挙げられる。これらの成分は塩の形態であってもよい。塩は、ナトリウム塩、カリウム塩などのアルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩などが挙げられ、アルカリ金属塩が好ましい。(d)成分は、好ましくはパラトルエンスルホン酸、メタキシレンスルホン酸、サリチル酸、及びこれらの塩から選ばれる1種以上の化合物であり、より好ましくはメタキシレンスルホン酸又はその塩である。
【0039】
本発明の水硬性組成物用増粘剤組成物は、(d)成分を含有する場合、組成物中、(d)成分の含有量と、(b)成分の含有量との質量比(d)/(b)は、水硬性組成物の増粘性の観点から、好ましくは0.01以上、より好ましくは0.02以上、更に好ましくは0.05以上、より更に好ましくは0.08以上、より更に好ましくは0.1以上、そして、好ましくは2以下、より好ましくは1以下、更に好ましくは0.8以下、より更に好ましくは0.6以下、より更に好ましくは0.4以下、より更に好ましくは0.2以下である。
【0040】
本発明の水硬性組成物用増粘剤組成物は、本発明の効果を損なわない範囲で任意成分を含有することができる。任意成分としては、分散剤、AE剤、流動化剤、遅延剤、早強剤、凝結促進剤、硬化促進剤、起泡剤、増粘剤、防水剤、収縮低減剤、膨張剤、水溶性高分子等(但し、(a)成分、(b)成分、(c)成分、(d)成分に該当するものは除かれる)を含有することができる。
【0041】
本発明の水硬性組成物用増粘剤組成物は、水を含有することができる。すなわち本発明の水硬性組成物用増粘剤組成物は、取り扱い性を向上する観点から、水を含有する液状物、好ましくは水溶液とすることもできる。
本発明の水硬性組成物用増粘剤組成物は、水を含有する場合、増粘剤組成物中、水を、好ましくは0.1質量%以上、より好ましくは0.5質量%以上、更に好ましくは1質量%以上、そして、好ましくは99.99質量%以下、より好ましくは99.9質量%以下、更に好ましくは99質量%以下含有する。
【0042】
本発明の水硬性組成物用増粘剤組成物は、(a)成分、(b)成分、更には任意に(c)成分、任意に(d)成分、任意に水を混合することで製造できる。
すなわち、本発明により、(a)成分、(b)成分、更には任意に(c)成分、任意に(d)成分、任意に水を混合する水硬性組成物用増粘剤組成物の製造方法が提供される。本発明の水硬性組成物用増粘剤組成物は、取り扱い性を向上する観点から、水と混合して水溶液とすることができる。
本発明の水硬性組成物用増粘剤組成物の製造方法には、本発明の水硬性組成物用増粘剤組成物で述べた事項を適宜適用することができる。例えば、各成分の具体例及び好ましい態様も本発明の水硬性組成物用増粘剤組成物と同じである。また、本発明の水硬性組成物用増粘剤組成物における各成分の含有量、及び各質量比は、各成分の含有量を混合量に置き換えて本発明の水硬性組成物用増粘剤組成物の製造方法に適用することができる。
【0043】
本発明の水硬性組成物用増粘剤組成物は、水硬性組成物の増粘剤として、材料分離抑制、水中分離抑制、地盤への逸水防止などの適度な粘性が要求される用途に好適に用いられる。例えば、吹付用コンクリート用、トンネル補修用、水平でない壁への施工用、坑井掘削用添加剤の用途、根固め液、杭周固定液、水中不分離コンクリート、プレパックドコンクリート、可塑性グラウトなどに用いることが出来る。
【0044】
[水硬性組成物]
本発明は、(a)成分、(b)成分、水硬性粉体、及び水を含有する、水硬性組成物を提供する。
本発明の水硬性組成物は、更に上記した(c)成分を含有することができる。
また本発明の水硬性組成物は、更に上記した(d)成分を含有することができる。
また本発明は、本発明の水硬性組成物用増粘剤組成物、水硬性粉体、及び水を含有する水硬性組成物である。
(a)成分、(b)成分、(c)成分、(d)成分は、本発明の水硬性組成物用増粘剤組成物で記載した態様と同じである。
本発明の水硬性組成物は、本発明の水硬性組成物用増粘剤組成物で記載した態様を適宜適用することができる。
【0045】
本発明の水硬性組成物に使用される水硬性粉体とは、水と混合することで硬化する粉体であり、例えば、普通ポルトランドセメント、早強ポルトランドセメント、超早強ポルトランドセメント、耐硫酸塩ポルトランドセメント、低熱ポルトランドセメント、白色ポルトランドセメント、エコセメント(例えばJIS R5214等)が挙げられる。これらの中でも、水硬性組成物の必要な強度に達するまでの時間を短縮する観点から、早強ポルトランドセメント、普通ポルトランドセメント、耐硫酸性ポルトランドセメント及び白色ポルトランドセメントから選ばれるセメントが好ましく、早強ポルトランドセメント、及び普通ポルトランドセメントから選ばれるセメントがより好ましい。
【0046】
また、水硬性粉体には、高炉スラグ、フライアッシュ、シリカヒューム、無水石膏等が含まれてよく、また、非水硬性の石灰石微粉末等が含まれていてもよい。水硬性粉体として、セメントと高炉スラグ、フライアッシュ、シリカヒューム等とが混合された高炉セメントやフライアッシュセメント、シリカヒュームセメントを用いてもよい。
また、水硬性粉体は、セメント又はセメントとベントナイトとの混合粉末が挙げられる。
【0047】
本発明の水硬性組成物は、(a)成分を、水100質量部に対して、増粘性の観点から、好ましくは0.001質量部以上、より好ましくは0.01質量部以上、更に好ましくは0.015質量部以上、より更に好ましくは0.02質量部以上、そして、経済性及びブリージング発生の観点から、好ましくは4質量部以下、より好ましくは2質量部以下、更に好ましくは1質量部以下、より更に好ましくは0.5質量部以下、より更に好ましくは0.1質量部以下含有する。
【0048】
本発明の水硬性組成物は、(b)成分を、水100質量部に対して、増粘性の観点から、好ましくは0.01質量部以上、より好ましくは0.02質量部以上、更に好ましくは0.05質量部以上、そして、経済性及びブリージング発生の観点から、好ましくは1質量部以下、より好ましくは0.8質量部以下、更に好ましくは0.5質量部以下、より更に好ましくは0.3質量部以下、より更に好ましくは0.2質量部以下含有する。
【0049】
本発明の水硬性組成物中、(a)成分の含有量と(b)成分の含有量との質量比(a)/(b)は、ミセル形状を紐又は棒状に保つパッキングパラメーターを調整してブリージング率と増粘性を高める観点から、好ましくは0.15以上、より好ましくは0.2以上、更に好ましくは0.3以上、そして、好ましくは2以下、より好ましくは1.5以下、更に好ましくは1以下、より更に好ましくは0.8以下、より更に好ましくは0.6以下である。
【0050】
本発明の水硬性組成物は、(c)成分を含有する場合、水硬性組成物中、(c)成分の含有量と、(a)成分及び(b)成分の合計含有量との質量比(c)/[(a)+(b)]は、消泡性、経済性、性能阻害させない観点から、好ましくは0.00001以上、より好ましくは0.00005以上、更に好ましくは0.0001以上、そして、好ましくは0.1以下、より好ましくは0.05以下、更に好ましくは0.02以下である。
【0051】
本発明の水硬性組成物は、(d)成分を含有する場合、水硬性組成物中、(d)成分の含有量と、(b)成分の含有量との質量比(d)/(b)は、増粘性の観点から、好ましくは0.01以上、より好ましくは0.02以上、更に好ましくは0.05以上、より更に好ましくは0.08以上、より更に好ましくは0.1以上、そして、好ましくは2以下、より好ましくは1以下、更に好ましくは0.8以下、より更に好ましくは0.6以下、より更に好ましくは0.4以下、より更に好ましくは0.2以下である。
【0052】
本発明の水硬性組成物において、前記水硬性組成物中の水と水硬性粉体の質量百分率(水/水硬性粉体比(W/C))は、経済性及び流動性の観点から、好ましくは45質量%以上、より好ましくは50質量%以上、更に好ましくは60質量%以上、そして、好ましくは150質量%以下、より好ましくは120質量%以下、更に好ましくは100質量%以下である。
ここで、水/水硬性粉体比(W/C)は、水硬性組成物中の水と水硬性粉体の質量百分率(質量%)であり、水/水硬性粉体×100で算出される。
なお、水硬性粉体が、セメントなどの水和反応により硬化する物性を有する粉体の他、ポゾラン作用を有する粉体、潜在水硬性を有する粉体、及び石粉(炭酸カルシウム粉末)から選ばれる粉体を含む場合、本発明では、それらの量も水硬性粉体の量に算入する。また、水和反応により硬化する物性を有する粉体が、高強度混和材を含有する場合、高強度混和材の量も水硬性粉体の量に算入する。これは、水硬性粉体の質量が関係する他の質量部などにおいても同様である。
【0053】
本発明の水硬性組成物は、骨材を含有することができる。骨材としては、細骨材及び粗骨材から選ばれる骨材が挙げられる。細骨材として、JISA0203-2014中の番号2311で規定されるものが挙げられる。細骨材としては、川砂、陸砂、山砂、海砂、石灰砂、珪砂及びこれらの砕砂、高炉スラグ細骨材、フェロニッケルスラグ細骨材、軽量細骨材(人工及び天然)及び再生細骨材等が挙げられる。また、粗骨材として、JIS A 0203-2014中の番号2312で規定されるものが挙げられる。例えば粗骨材としては、川砂利、陸砂利、山砂利、海砂利、石灰砂利、これらの砕石、高炉スラグ粗骨材、フェロニッケルスラグ粗骨材、軽量粗骨材(人工及び天然)及び再生粗骨材等が挙げられる。細骨材、粗骨材は種類の違うものを混合して使用しても良く、単一の種類のものを使用しても良い。
【0054】
水硬性組成物がコンクリートの場合、粗骨材の使用量は、水硬性組成物の強度の発現とセメント等の水硬性粉体の使用量を低減し、型枠等への充填性を向上する観点から、嵩容積が、好ましくは50%以上、より好ましくは55%以上、更に好ましくは60%以上であり、そして、好ましくは100%以下、より好ましくは90%以下、更に好ましくは80%以下である。嵩容積は、コンクリート1m中の粗骨材の容積(空隙を含む)の割合である。
また、水硬性組成物がコンクリートの場合、細骨材の使用量は、型枠等への充填性を向上する観点から、好ましくは500kg/m以上、より好ましくは600kg/m以上、更に好ましくは700kg/m以上であり、そして、好ましくは1000kg/m以下、より好ましくは900kg/m以下である。
水硬性組成物がモルタルの場合、細骨材の使用量は、好ましくは800kg/m以上、より好ましくは900kg/m以上、更に好ましくは1000kg/m以上であり、そして、好ましくは2000kg/m以下、より好ましくは1800kg/m以下、更に好ましくは1700kg/m以下である。
【0055】
本発明の水硬性組成物は、調製後の水硬性組成物スラリーの粘度を高めることにより材料分離抵抗性、水中分離抑制、地盤への逸水防止などに優れ、またブリージング率を高めることにより硬化後の強度に優れるため、例えば、吹付用コンクリート用、トンネル補修用、水平でない壁への施工用、坑井掘削用添加剤の用途、根固め液、杭周固定液、水中不分離コンクリート、プレパックドコンクリート、可塑性グラウトなどに用いることが出来る。
【0056】
本発明の水硬性組成物は、水硬性粉体、水、(a)成分、及び(b)成分を混合することで製造できる。すなわち、本発明により、水硬性粉体、水、(a)成分、及び(b)成分を混合する水硬性組成物の製造方法が提供される。
本発明の水硬性組成物の製造方法は、更に(c)成分を混合することができる。
本発明の水硬性組成物の製造方法は、更に(d)成分を混合することができる。
本発明の水硬性組成物の製造方法は、本発明の水硬性組成物用増粘剤組成物、水硬性粉体、及び水を混合することで製造してよい。
本発明の水硬性組成物の製造方法には、本発明の水硬性組成物用増粘剤組成物及び水硬性組成物で述べた事項を適宜適用することができる。例えば、各成分の具体例及び好ましい態様も本発明の水硬性組成物用増粘剤組成物及び水硬性組成物と同じである。また、本発明の水硬性組成物用増粘剤組成物及び水硬性組成物における各成分の含有量、及び各質量比は、各成分の含有量を混合量に置き換えて本発明の水硬性組成物の製造方法に適用することができる。
【実施例0057】
実施例、比較例、参考例で使用した材料を以下に示す。
<(a)成分>
・ブチルナフタレンスルホン酸Na:ブチルナフタレンスルホン酸ナトリウム、花王(株)製
<(a’)成分((a)成分の比較成分)>
・ナフタレンスルホン酸Na:1-ナフタレンスルホン酸ナトリウム、東京化成工業(株)製
・アミノナフタレンスルホン酸Na:2-アミノ-1-ナフタレンスルホン酸ナトリウム、富士フイルム和光純薬(株)製
・ジメチルアミノナフタレンスルホン酸:5-ジメチルアミノナフタレン-1-スルホン酸、東京化成工業(株)製
・ナフタレンスルホン酸ホルマリン縮合物:β‐ナフタレンスルホン酸ホルマリン縮合物ナトリウム塩、デモールNL、花王(株)製
【0058】
<(b)成分>
・オレイルジメチルアミンオキシド:(b1)成分、一般式(b1)中、XがR11bであり、R11bが炭素数18のアルケニル基、R及びRがメチル基である化合物、特開2020-76022号を参考に合成した。
・オレイン酸アミドプロピルジメチルアミンオキシド:(b1)成分、一般式(b1)中、XがR12b-[CONH-CHCHCH-であり、R12bが炭素数18のアルケニル基、nが1、n2が1、R及びRがメチル基である化合物(b12)、特開2020-76022号を参考に合成した。
・アルキル(C16/C18)トリメチルアンモニウムクロリド:(b2)成分、一般式(b21)中、R21bが炭素数16及び18のアルキル基(C16/C18(質量比)=6/4)、R22b、R23b及びR24bがメチル基、Xがクロルイオンである化合物、花王(株)製
【0059】
<(c)成分>
・アサヒシリコーンAF-146:シリコーン系消泡剤、旭化学工業株式会(株)製
・DK Q1-1183:シリコーン系消泡剤、ダウ・ケミカル社製
<(d)成分>
・m-キシレンスルホン酸Na:m-キシレンスルホン酸ナトリウム、東京化成工業(株)製
【0060】
・セメント:普通ポルトランドセメント(太平洋セメント(株)製と住友大阪セメント(株)製を質量比50/50で混合した物、比重3.16)
・水:上水道水(和歌山市上水、比重1.00)
【0061】
[実施例、比較例]
水硬性組成物の調製
表2~4に示す所定の温度に調整した水から50質量部除いた水とセメントとを混合し、市販のハンドミキサーを用いて30秒間撹拌し、その後、表2~4に示す組成の水硬性組成物用増粘剤組成物を添加し、水硬性組成物用増粘剤組成物の添加後に1分間撹拌を続けることで、水硬性組成物のスラリーを調製した。なお、水硬性組成物用増粘剤組成物は、(a)成分又は(a’)成分、表1に記載の配合の(b)成分、(c)成分、及び(d)成分を表2~4の水硬性組成物の含有量になる量を、予め温度調整した水から取り除いていた水50質量部に均一になるまで混合して調製した。
最初にセメントに添加した水量と各組成物中の水量との合計が表2~4に記載の水量となるように調製した。
また、各水硬性組成物中、水の含有量(質量部)、セメント(水硬性粉体)の含有量(質量部)、水と水硬性粉体の質量百分率(水/水硬性粉体比(W/C))、水100質量部に対する(a)成分の含有量(質量部)、水100質量部に対する(b)成分の含有量(質量部)、(a)成分の含有量と(b)成分の含有量との質量比(a)/(b)、(c)成分の含有量と(a)成分及び(b)成分の合計含有量との質量比(c)/[(a)+(b)]、(b)成分の含有量と(d)成分の含有量との質量比(d)/(b)は、それぞれ表2~4に記載の通りとした。
また比較例1-15~1-17について、m-キシレンスルホン酸Naは、(d)成分に該当するが、便宜上、(a’)成分の欄に記載した。
【0062】
【表1】
【0063】
ブリージング率の測定
調製した各水硬性組成物について、JSCE-F 522-2007 プレパックドコンクリートの注入モルタルのブリージング率及び膨張率試験方法(ポリエチレン袋方法)に従って、表2~4に記載の調製から数時間後のブリージング率を測定した。結果を表2~4に示す。ブリージング率の値が高いほど、水硬性組成物の硬化体強度に優れることを意味する。判定は、ブリージング率が1%以上を、判定「〇」とした。
【0064】
増粘性(J14ロート)の測定
土木学会規準「PCグラウト試験方法(JCSE-F531)」に準じて、上記した調製直後の各水硬性組成物であるセメントペースト約630mlをJ14ロートに流し込み、J14ロートからの流下時間(sec.)を測定した。結果を表2~4に示す。また得られた各実施例、比較例の流下時間について、実施例1-1~1-14、比較例1-1~1-21は、比較例1-1を基準に、実施例2-1~2-2、比較例2-1~2-5は、比較例2-1を基準に、実施例3-1~3-4、比較例3-1~3-4は、比較例3-1を基準に、流下時間の増加率(%)を算出し、表に示した。増加率が高い程、水硬性組成物スラリーの粘度を高め、材料分離抵抗性に優れることを意味する。
判定は、流下時間の増加率が10%以上を、判定「〇」とした。
【0065】
(4)水中不分離性の測定
1000mLのビーカーに800mLの水を計り取り、調製直後の各水硬性組成物であるセメントペースト約500gを10~15秒かけて静かに流し入れ3分間静置した後、デカンテーションにて上澄みを600mL分け取った。得られた上澄み液を、濁度計(アズワン製 濁度計TN-100)を用いて濁度を測定し、さらにpHメーターにてpHを測定し、水中不分離性を判断した。結果を表3、4に示す。濁度の測定値が小さいほど水中不分離性に優れることを意味する。表中、濁度が「測定上限以上」と記載されているものは、濁度が測定上限である1000以上を超えていたことを示している。また、JSCE-104「コンクリート用水中不分離性混和剤品質規格(案)」より、pHが12未満であれば水中不分離性があると判断できる。
【0066】
【表2】
【0067】
【表3】
【0068】
【表4】
【0069】
[参考例]
実施例、比較例と同様に、表5に示す所定の温度に調整した水とセメントとを混合し、市販のハンドミキサーを用いて30秒間撹拌し、その後、表5に示す通り、水硬性組成物用増粘剤組成物として、表1に記載の配合の(b)成分、及び(c)成分を添加し、水硬性組成物用増粘剤組成物の添加後に1分間撹拌を続けることで、水硬性組成物のスラリーを調製した。
最初にセメントに添加した水量と各組成物中の水量との合計が表5に記載の水量となるように調製した。
また、各水硬性組成物中、水の含有量(質量部)、セメント(水硬性粉体)の含有量(質量部)、水と水硬性粉体の質量百分率(水/水硬性粉体比(W/C))、水100質量部に対する(b)成分の含有量(質量部)、(c)成分の含有量と(b)成分の含有量との質量比(c)/(b)は、それぞれ表5に記載の通りとした。
【0070】
調製した各水硬性組成物について、上記した方法と同様に、ブリージング率の測定と増粘性(J14ロート)の測定を行った。また調製した各水硬性組成物の28日後の圧縮強度を以下の方法により測定した。供試体作成方法は、JSCE-F 506-2010「モルタルまたはセメントペーストの圧縮強度試験用円柱供試体の作り方(案)」に準じて作成した。得られた供試体は20℃の水中下にて養生した。強度測定はJSCE-G 505-2010「円柱供試体を用いたモルタルまたはセメントペーストの圧縮強度試験方法(案)」に準じて測定した。結果を表5に示す。
【0071】
【表5】
【0072】
表5の結果の通り、増粘剤として、(b)成分を水硬性組成物に添加すると、水硬性組成物スラリーの粘度を高めることができるが、増粘することにより、ブリージング率が低下する。このブリージング率が低下すると、表5の結果の通り、水硬性組成物硬化体の強度が低下する。言い換えれば、ブリージング率を上げることで水硬性組成物硬化体の強度を上げることができる。
一方、本発明である実施例は、(a)成分、(b)成分を用いることにより、調製後の水硬性組成物スラリーの粘度を高めるにも関わらず、ブリージング率を高めることができ、硬化後の強度を高めることができる。