(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024037229
(43)【公開日】2024-03-19
(54)【発明の名称】積層フィルムの製造方法
(51)【国際特許分類】
B26D 1/24 20060101AFI20240312BHJP
B26D 3/00 20060101ALI20240312BHJP
B26D 7/06 20060101ALI20240312BHJP
【FI】
B26D1/24 E
B26D1/24 A
B26D3/00 601B
B26D7/06 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022141913
(22)【出願日】2022-09-07
(71)【出願人】
【識別番号】000003964
【氏名又は名称】日東電工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100103517
【弁理士】
【氏名又は名称】岡本 寛之
(74)【代理人】
【識別番号】100149607
【弁理士】
【氏名又は名称】宇田 新一
(72)【発明者】
【氏名】田邉 凌祐
(72)【発明者】
【氏名】碓井 圭太
【テーマコード(参考)】
3C027
【Fターム(参考)】
3C027UU01
3C027WW01
3C027WW11
3C027WW18
(57)【要約】
【課題】仮支持フィルムと硬化樹脂層と無機物層とを順に有する積層フィルム原反のスリットにおいて、切り屑を低減しつつ硬化樹脂層および無機物層の良好な切断端部を確保するのに適した、積層フィルムの製造方法を提供する。
【解決手段】積層フィルムの製造方法では、支持ローラー10と2枚刃ユニット20とを備えるスリッター装置Xによってフィルム原反Fをスリットする。支持ローラー10は、ローラー部11、円形刃12、スペーサー13、円形刃14及びローラー部11を一方向にこの順で備える。2枚刃ユニット20は円形刃21,22を備える。円形刃21,22の刃先間の距離は5~20mmである。本製造方法では、フィルム原反Fを、無機物層130とは反対側がローラー部11,11に接する状態で支持ローラー10により送りつつ、円形刃12,21間および円形刃14,22間でスリットする。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
長尺の積層フィルム原反を用意する用意工程と、
スリッター装置によって前記積層フィルム原反を長手方向にスリットして積層フィルムを得るスリット工程とを含む、積層フィルムの製造方法であって、
前記スリッター装置が、刃付支持ローラーと、2枚刃ユニットとを備え、
前記刃付支持ローラーが、第1ローラー部と、第1円形刃と、スペーサーと、第2円形刃と、第2ローラー部とを第1方向にこの順で備え、前記第1方向に延びる第1回転軸心まわりに回転可能であり、
前記第1円形刃が、前記スペーサーに第1の空隙を介して対向する刃裏面を有する片刃であり、
前記第2円形刃が、前記スペーサーに第2の空隙を介して対向する刃裏面を有する片刃であり、
前記2枚刃ユニットが、前記第1円形刃と協働してフィルムをスリットする第3円形刃と、前記第2円形刃と協働してフィルムをスリットする第4円形刃とを備え、前記第1方向に延びる第2回転軸心まわりに回転可能であり、
前記第3円形刃が、前記第1の空隙に入る刃先を有する片刃であって、前記第1方向における前記第1円形刃側を向く刃裏面を有する片刃であり、
前記第4円形刃が、前記第2の空隙に入る刃先を有する片刃であって、前記第1方向における前記第2円形刃側を向く刃裏面を有する片刃であり、
前記第1方向における前記第3円形刃の刃先と前記第4円形刃の刃先との間の離隔距離が5mm以上20mm以下であり、
前記積層フィルム原反は、仮支持フィルムと、当該仮支持フィルムに対して剥離可能に接している硬化樹脂層と、無機物層とを厚さ方向にこの順で備え、
前記スリット工程では、前記積層フィルム原反の前記無機物層とは反対側が前記第1ローラー部および前記第2ローラー部に接する状態で前記刃付支持ローラーを回転駆動して、前記積層フィルム原反を前記長手方向に送ることにより、当該積層フィルム原反を、前記第1および第3円形刃間でスリットしつつ、前記第2および第4円形刃間でスリットする、積層フィルムの製造方法。
【請求項2】
前記硬化樹脂層が1μm以上3μm以下の厚さを有する、請求項1に記載の積層フィルムの製造方法。
【請求項3】
前記仮支持フィルムにおける前記硬化樹脂層側の表面が20mN/m以上40mN/m以下の表面自由エネルギーを有する、請求項1に記載の積層フィルムの製造方法。
【請求項4】
前記仮支持フィルムと前記硬化樹脂層との間の剥離強度が1N/24mm以下である、請求項1に記載の積層フィルムの製造方法。
【請求項5】
前記硬化樹脂層における前記無機物層側の表面の、ナノインデンテーション法により測定される25℃での硬さが、0.3GPa以上である、請求項1に記載の積層フィルムの製造方法。
【請求項6】
前記第1ローラー部の外周面と、前記第1円形刃の外周面とは面一であり、前記第2ローラー部の外周面と、前記第2円形刃の外周面とは面一である、請求項1から5のいずれか一つに記載の積層フィルムの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、積層フィルムの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
長尺かつ幅広のフィルム原反を長さ方向にスリットするためのスリッター装置が知られている。スリッター装置によると、フィルム原反をスリットして所定幅のフィルムを製造できる。スリッター装置は、例えば、フィルムの幅方向における所定位置(スリット位置)ごとに、一対の回転式の裁断刃を備える。一対の裁断刃は、互いの刃先の干渉によって協働してフィルムをスリットできるように配置されている。このようなスリッター装置によるスリット工程を含む方法は、例えば下記の特許文献1に記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
スリッター装置の裁断刃としては、刃先の鋭さの観点から、片刃が好ましく用いられる。また、裁断刃としては、スリット後のフィルムにおける耳立ちの抑制の観点から、2枚の片刃が重ねられた2枚刃ユニットが好ましく用いられる。耳立ちとは、フィルムにおける切断端部の局所的な反りを意味する。
図8は、そのような2枚刃ユニットを備えるスリッター装置の一例としてのスリッター装置Zを表す。スリッター装置Zは、支持ローラー80と、2枚刃ユニット90とを備える。
【0005】
支持ローラー80は、ローラー部81と、円形刃82と、スペーサー83と、円形刃84と、ローラー部85とを、一方向にこの順で備える。円形刃82は、片刃であり、スペーサー83に空隙G1を介して対向する刃裏面82aを有する。円形刃84は、片刃であり、スペーサー83に空隙G2を介して対向する刃裏面84aを有する。このような支持ローラー80は、一方向に延びる回転軸心B1まわりに回転可能である。
【0006】
2枚刃ユニット90は、円形刃91,92を備える。円形刃91は、空隙G1(円形刃82とスペーサー83との間)に入る刃先を有する片刃であり、円形刃82側の刃裏面91aと、先端傾斜面91bとを有する。刃裏面91aと先端傾斜面91bとは鋭角を形成する。円形刃92は、空隙G2(円形刃84とスペーサー83との間)に入る刃先を有する片刃であり、円形刃84側の刃裏面92aと、先端傾斜面92bとを有する。刃裏面92aと先端傾斜面92bとは鋭角を形成する。円形刃91の刃先91eと円形刃92の刃先92eとの間の離隔距離d’は、4mm以下に設定される。このような2枚刃ユニット90は、一方向に延びる回転軸心B2まわりに回転可能である。
【0007】
スリッター装置Zにおいては、
図9に示すように、支持ローラー80と2枚刃ユニット90との間をフィルム原反200(スリット対象物)が通過する時、当該フィルム原反200は、円形刃82(
図8)と円形刃91とによってスリットされ、且つ、円形刃84(
図8)と円形刃92とによってスリットされる。このようなスリットにより、所定幅の製品フィルム200aが得られる。また、製品フィルム200a間にはストリップ200b(中抜き部)が生じる。
【0008】
一方、転写用導電性フィルム等の転写用積層フィルムが知られている。転写用積層フィルムは、例えば、仮支持フィルムと、当該仮支持フィルムに対して剥離可能に接している硬化樹脂層と、無機物層(転写用導電性フィルムでは導電層)とを、厚さ方向にこの順で備える。仮支持フィルムは、硬化樹脂層および無機物層よりも相当程度に厚い。このような転写用積層フィルムは、無機物層の供給材として用いられる。例えば、転写用導電性フィルムは、ディスプレイパネルの製造過程において、導電層の供給材として用いられる。具体的には、まず、転写用導電性フィルムにおける硬化樹脂層上の導電層が、パターニングされる。次に、当該転写用導電性フィルムの導体層側が、粘着剤層を介して、フィルム状の偏光板(偏光フィルム)に貼り合わされる。次に、転写用導電性フィルムにおいて、硬化樹脂層から仮支持フィルムが剥離される。これにより、硬化樹脂層とその上の導電層とが、基材レスの透明導電性フィルムとして、偏光フィルムに転写される。このように、転写用導電性フィルムによると、基材レスの薄い透明導電性フィルムを偏光フィルムに貼り合わせることができる。
【0009】
転写用積層フィルムは、例えば、ロールトゥロール方式において次のようにして製造される。まず、長尺かつ幅広の基材フィルムとしての仮支持フィルム上に、硬化樹脂層が形成される。仮支持フィルムは、硬化樹脂層が事後的に剥離可能なように、予め表面改質処理されている。硬化樹脂層は、無機物層にとっての下地層である。次に、硬化樹脂層上に無機物層が形成される。これにより、長尺かつ幅広の転写用積層フィルム原反のロールが得られる。次に、このフィルム原反が長さ方向にスリットされることにより、所定幅の転写用積層フィルムが得られる(スリット工程)。
【0010】
図10は、転写用積層フィルムの従来のスリット工程において上述のスリッター装置Zが用いられる場合の部分拡大図(フィルム原反の流れ方向)である。
図10に示す転写用積層フィルム原反200Aは、仮支持フィルム201と、当該仮支持フィルム201に対して剥離可能に接している硬化樹脂層202と、無機物層203とを、厚さ方向Hにこの順で備える。転写用積層フィルム原反200Aは、仮支持フィルム201側が支持ローラー80に接する状態で支持ローラー80と2枚刃ユニット90との間を通されて、円形刃82,84と円形刃91,92とによってスリットされる。これにより、所定幅の製品フィルム200aとしての転写用積層フィルムが得られる。また、製品フィルム200a間にはストリップ200bが生じる。
【0011】
しかし、転写用積層フィルム原反200Aのこのようなスリット工程(2枚刃タイプのスリッター装置による従来のスリット工程)では、ストリップ200bにおける硬化樹脂層202および無機物層203の切断端部に欠けが発生しやすく、その結果、多量の切り屑(粉塵)が発生する。このような知見を本発明者らは得た。切り屑は、製品フィルム200aに付着して品質不良を招く。また、端面に欠けが発生しやすい理由は、次のとおりである。
【0012】
転写用積層フィルム原反200Aでは、仮支持フィルム201上の硬化樹脂層202および無機物層203が、仮支持フィルム201から剥離しやすいように設計されている。硬化樹脂層202および無機物層203が仮支持フィルム201に強く固定されていないので、両層に対する仮支持フィルム201による補強効果は小さい。スリット工程において、そのような転写用積層フィルム原反200Aに対して厚さ方向Hに押し入る円形刃91(92)の先端傾斜面91b(92b)側では、
図11に示すように、同フィルムの上位側ほど、面方向における材料変形量が大きい。すなわち、硬化樹脂層202および無機物層203は、面方向に比較的大きな応力を受けつつ円形刃91(92)の先端傾斜面91b(92b)に擦られる。そのため、ストリップ200bにおける硬化樹脂層202および無機物層203の切断端部に、欠けが発生しやすい。
【0013】
本発明は、仮支持フィルムと硬化樹脂層と無機物層とをこの順で有する積層フィルム原反のスリットにおいて、切り屑を低減しつつ硬化樹脂層および無機物層の良好な切断端部を確保するのに適した、積層フィルムの製造方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明[1]は、長尺の積層フィルム原反を用意する用意工程と、スリッター装置によって前記積層フィルム原反を長さ方向にスリットして積層フィルムを得るスリット工程とを含む、積層フィルムの製造方法であって、前記スリッター装置が、刃付支持ローラーと、2枚刃ユニットとを備え、前記刃付支持ローラーが、第1ローラー部と、第1円形刃と、スペーサーと、第2円形刃と、第2ローラー部とを第1方向にこの順で備え、前記第1方向に延びる第1回転軸心まわりに回転可能であり、前記第1円形刃が、前記スペーサーに第1の空隙を介して対向する刃裏面を有する片刃であり、前記第2円形刃が、前記スペーサーに第2の空隙を介して対向する刃裏面を有する片刃であり、前記2枚刃ユニットが、前記第1円形刃と協働してフィルムをスリットする第3円形刃と、前記第2円形刃と協働してフィルムをスリットする第4円形刃とを備え、前記第1方向に延びる第2回転軸心まわりに回転可能であり、前記第3円形刃が、前記第1の空隙に入る刃先を有する片刃であって、前記第1方向における前記第1円形刃側を向く刃裏面を有する片刃であり、前記第4円形刃が、前記第2の空隙に入る刃先を有する片刃であって、前記第1方向における前記第2円形刃側を向く刃裏面を有する片刃であり、前記第1方向における前記第3円形刃の刃先と前記第4円形刃の刃先との間の離隔距離が5mm以上20mm以下であり、前記積層フィルム原反は、仮支持フィルムと、当該仮支持フィルムに対して剥離可能に接している硬化樹脂層と、無機物層とを厚さ方向にこの順で備え、前記スリット工程では、前記積層フィルム原反の前記無機物層とは反対側が前記第1ローラー部および前記第2ローラー部に接する状態で前記刃付支持ローラーを回転駆動して、前記積層フィルム原反を前記長さ方向に送ることにより、当該積層フィルム原反を、前記第1および第3円形刃間でスリットしつつ、前記第2および第4円形刃間でスリットする、積層フィルムの製造方法を含む。
【0015】
本発明[2]は、前記硬化樹脂層が1μm以上3μm以下の厚さを有する、上記[1]に記載の積層フィルムの製造方法を含む。
【0016】
本発明[3]は、前記仮支持フィルムにおける前記硬化樹脂層側の表面が20mN/m以上40mN/m以下の表面自由エネルギーを有する、上記[1]または[2]に記載の積層フィルムの製造方法を含む。
【0017】
本発明[4]は、前記仮支持フィルムと前記硬化樹脂層との間の剥離強度が1N/24mm以下である、上記[1]から[3]のいずれか一つに記載の積層フィルムの製造方法を含む。
【0018】
本発明[5]は、前記硬化樹脂層における前記無機物層側の表面の、ナノインデンテーション法により測定される25℃での硬さが、0.3GPa以上である、上記[1]から[4]のいずれか一つに記載の積層フィルムの製造方法を含む。
【0019】
本発明[6]は、前記第1ローラー部の外周面と、前記第1円形刃の外周面とは面一であり、前記第2ローラー部の外周面と、前記第2円形刃の外周面とは面一である、上記[1]から[5]のいずれか一つに記載の積層フィルムの製造方法を含む。
【発明の効果】
【0020】
本発明の積層フィルムの製造方法のスリット工程では、上記のように、2枚の片刃を有する2枚刃ユニットによって積層フィルム原反(仮支持フィルムと硬化樹脂層と無機物層とを含む)をスリットする。そのため、本製造方法は、スリット後の積層フィルムにおいて、耳立ちを抑制しつつ、硬化樹脂層および無機物層の良好な切断端部を確保するのに適する。
【0021】
加えて、スリット工程では、上記のように、積層フィルム原反の無機物層とは反対側が第1ローラー部および第2ローラー部に接する状態で、当該積層フィルム原反を、長さ方向に送って第1・第3円形刃間でスリットしつつ第2・第4円形刃間でスリットする。これにより、所定幅の製品フィルムとしての積層フィルムが得られ、積層フィルム間にはストリップが生ずる。このスリット工程では、上述の従来のスリット工程よりも、2枚刃ユニットにおける第3・第4円形刃の刃先間の離隔距離が5mm以上であって長いスリッター装置により、積層フィルム原反をスリットする。このようなスリット工程は、ストリップにおける硬化樹脂層および無機物層に対して面方向に作用する応力を軽減するのに適し、従って、両層の切断端部に欠けが発生するのを抑制するのに適する。切断端部における欠けの抑制により、切り屑は低減される。
【0022】
以上のように、本発明の転写用積層フィルムの製造方法は、仮支持フィルムと硬化樹脂層と無機物層とをこの順で有する積層フィルム原反のスリットにおいて、切り屑を低減しつつ硬化樹脂層および無機物層の良好な切断端部を確保するのに適する。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【
図1】本発明の積層フィルム製造方法の一実施形態の工程図である。
【
図3】
図2に示す積層フィルムの製造方法の一例を表す。
図3Aは硬化樹脂層形成工程を表し、
図3Bは無機物層形成工程を表し、
図3Cは保護フィルム貼合せ工程を表す。
【
図4】本発明の積層フィルム製造方法の一実施形態に用いられるスリッター装置を表す。
【
図5】
図4に示すスリッター装置の部分拡大図(フィルム原反の流れ方向)である。
【
図6】
図4に示すスリッター装置の部分拡大図(フィルム原反の幅方向)である。
【
図7】本発明の積層フィルム製造方法の一実施形態におけるスリット工程を表す。
【
図8】2枚刃ユニットを備えるスリッター装置の一例を表す。
【
図9】
図8に示すスリッター装置によるスリット工程を表す。
【
図10】
図8に示すスリッター装置によるスリット工程の部分拡大図(フィルム原反の流れ方向)である。
【
図11】
図8に示すスリッター装置によるスリット工程の部分拡大図(フィルム原反の幅方向)である。
【
図12】実施例1の製造方法で生じたストリップにおける切断端部の顕微鏡観察画像である。
【
図13】比較例1の製造方法で生じたストリップにおける切断端部の顕微鏡観察画像である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
本発明の積層フィルムの製造方法(積層フィルム製造方法)の一実施形態は、
図1に示すように、用意工程S1と、スリット工程S2とを含む。用意工程S1では、長尺の積層フィルム原反F(
図2に示す)を用意する。スリット工程S2では、スリッター装置X(
図4に示す)によって積層フィルム原反Fを長さ方向にスリットして積層フィルム100(
図7に示す)を得る。
【0025】
積層フィルム原反Fは、
図2に示すように、仮支持フィルム110と、硬化樹脂層120と、無機物層130とを、厚さ方向Hにこの順で備える。また、積層フィルム原反Fは、厚さ方向Hと直交する方向(面方向)に広がるシート形状を有する。仮支持フィルム110は、第1面111と、当該第1面111とは反対側の第2面112とを有する。硬化樹脂層120は、第1面111上に配置されている。硬化樹脂層120は、仮支持フィルム110に対して剥離可能に接している。硬化樹脂層120としては、例えば、ハードコート層および屈折率調整層が挙げられる。硬化樹脂層120は、ハードコート層と屈折率調整層とを兼ねる複合機能層であってもよい。無機物層130は、本実施形態では、硬化樹脂層120に接して硬化樹脂層120に固定されている。このような積層フィルム原反Fは、硬化樹脂層120および無機物層130を仮支持フィルム110から他の対象物へと転写するための転写用積層フィルムの原反である。転写用積層フィルムとしては、例えば、転写用導電性フィルムが挙げられる(この場合、無機物層130は導電層である)。転写用導電性フィルムは、例えばディスプレイパネルの製造過程において、導電層の供給材として用いられる。このような積層フィルム原反Fは、例えば、以下のように作製することによって用意できる。
【0026】
まず、
図3Aに示すように、仮支持フィルム110の第1面111上に硬化樹脂層120を形成する。これにより、硬化樹脂層120付きの仮支持フィルム110が得られる。
【0027】
仮支持フィルム110は、ロールトゥロール方式で積層フィルム原反Fを製造できるように長尺形状を有する。仮支持フィルム110は、例えば、可撓性を有する樹脂フィルムである。仮支持フィルム110の材料としては、例えば、ポリエステル樹脂、ポリオレフィン樹脂、アクリル樹脂、ポリカーボネート樹脂、およびポリスチレン樹脂が挙げられる。ポリエステル樹脂としては、例えば、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリブチレンテレフタレート、およびポリエチレンナフタレートが挙げられる。ポリオレフィン樹脂としては、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、およびシクロオレフィンポリマー(COP)が挙げられる。アクリル樹脂としては、例えばポリメタクリレートが挙げられる。仮支持フィルム110の材料としては、可撓性と強度とのバランスの観点から、好ましくは、ポリエステル樹脂およびポリオレフィン樹脂からなる群より選択される少なくとも一つが用いられ、より好ましくは、PETおよびCOPからなる群より選択される少なくとも一つが用いられる。
【0028】
仮支持フィルム110の厚さは、製造される積層フィルム原反Fの取り扱い性を確保する観点から、好ましくは10μm以上、より好ましくは30μm以上、更に好ましくは50μm以上である。仮支持フィルム110の厚さは、積層フィルム原反Fの薄型化の観点から、好ましくは300μm以下、より好ましくは200μm以下、更に好ましくは100μm以下である。
【0029】
仮支持フィルム110の第1面111の表面自由エネルギーは、仮支持フィルム110と硬化樹脂層120との間における仮固定性と剥離性とのバランスをとる観点から、好ましくは20mN/m以上、より好ましくは25mN/m以上、更に好ましくは28mN/m以上であり、また、好ましくは40mN/m以下、より好ましくは35mN/m以下、更に好ましくは32mN/m以下である。表面自由エネルギーは、実施例に関して後述する方法によって測定される。
【0030】
仮支持フィルム110の第1面111は、剥離処理されていてもよい。剥離処理により、仮支持フィルム110と硬化樹脂層120との間の剥離強度を調整できる。剥離処理用の剥離剤としては、例えば、シリコーン樹脂含有の剥離剤、長鎖アルキル樹脂を含有する剥離剤、および、脂肪酸アミド樹脂を含有する剥離剤が挙げられる。
【0031】
仮支持フィルム110と硬化樹脂層120との間の剥離強度は、仮支持フィルム110と硬化樹脂層120との間の剥離性(剥離時の剥離しやすさ)を確保する観点から、好ましくは1N/24mm以下、より好ましくは0.7N/24mm以下、更に好ましくは0.5N/24mm以下、特に好ましくは0.3N/24mm以下である。仮支持フィルム110と硬化樹脂層120との間の剥離強度は、仮支持フィルム110に対する硬化樹脂層120の仮固定性を確保する観点から、好ましくは0.05N/24mm以上、より好ましくは0.1N/24mm以上、更に好ましくは0.2N/24mm以上である。剥離強度は、実施例に関して後述する方法によって測定できる。
【0032】
硬化樹脂層120は、第1面111上に硬化性樹脂組成物(ワニス)を塗布して塗膜を形成した後、この塗膜を乾燥および硬化させることによって形成できる。硬化性樹脂組成物は、硬化性樹脂と溶剤とを含有する。硬化樹脂層120は、硬化性樹脂組成物(具体的には硬化性樹脂)の硬化物である。
【0033】
硬化性樹脂としては、例えば、ポリエステル樹脂、アクリル樹脂、ウレタン樹脂、アクリルウレタン樹脂、アミド樹脂、シリコーン樹脂、エポキシ樹脂、およびメラミン樹脂が挙げられる。これら硬化性樹脂は、単独で用いられてもよいし、二種類以上が併用されてもよい。硬化樹脂層120の光透過性および硬さを確保する観点から、硬化性樹脂としては、好ましくはアクリル樹脂が用いられる。
【0034】
また、硬化性樹脂としては、例えば、紫外線硬化性樹脂、および、熱硬化性樹脂が挙げられる。硬化性樹脂組成物が紫外線硬化性樹脂を含有する場合には、紫外線照射によって上記塗膜を硬化させる。硬化性樹脂組成物が熱硬化性樹脂を含有する場合には、加熱によって上記塗膜を硬化させる。高温加熱せずに硬化可能であるために積層フィルム原反Fの製造効率向上に役立つ観点から、硬化性樹脂としては、好ましくは紫外線硬化性樹脂が用いられる。紫外線硬化性樹脂には、紫外線硬化型モノマー、紫外線硬化型オリゴマー、および紫外線硬化型ポリマーからなる群より選択される少なくとも一種類が含まれる。紫外線硬化性樹脂を含有する組成物の具体例としては、特開2016-179686号公報に記載のハードコート層形成用組成物が挙げられる。
【0035】
硬化性樹脂組成物が含有する溶剤としては、例えば、酢酸エチル、酢酸ブチル、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、ベンゼン、トルエン、キシレン、メタノール、エタノール、イソプロパノール、エチレングリコールモノメチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、ジクロロメタン、およびクロロホルムが挙げられる。
【0036】
硬化性樹脂組成物は、微粒子を含有してもよい。硬化性樹脂組成物に対する微粒子の配合は、硬化樹脂層120における硬さの調整、表面粗さの調整、屈折率の調整、および防眩性の付与に、役立つ。微粒子としては、例えば、無機粒子および有機粒子が挙げられる。無機粒子としては、例えば、金属酸化物粒子およびガラス粒子が挙げられる。金属酸化物粒子の材料としては、例えば、シリカ、アルミナ、チタニア、ジルコニア、酸化カルシウム、酸化スズ、酸化インジウム、酸化カドミウム、および酸化アンチモンが挙げられる。有機粒子の材料としては、例えば、ポリメチルメタクリレート、ポリスチレン、ポリウレタン、アクリル・スチレン共重合体、ベンゾグアナミン、メラミン、およびポリカーボネートが挙げられる。
【0037】
硬化樹脂層120の厚さは、仮支持フィルム110からの硬化樹脂層120の剥離性を確保する観点から、好ましくは1μm以上、より好ましくは1.5μm以上である。硬化樹脂層120の厚さは、後述のスリット工程S2において硬化樹脂層120でのクラックの発生を抑制する観点から、好ましくは3μm以下、より好ましくは2.5μm以下、更に好ましくは2μm以下、一層好ましくは1.7μm以下、特に好ましくは1.5μmである。
【0038】
硬化樹脂層120における無機物層130側の表面(表面121)の、ナノインデンテーション法により測定される25℃での硬さは、転写後の無機物層130が傷付くのを抑制する観点から、好ましくは0.3GPa以上、より好ましくは0.4GPa以上、更に好ましくは0.5GPa以上である。表面121の、ナノインデンテーション法により測定される25℃での硬さは、硬化樹脂層120の可撓性を確保して積層フィルム原反Fの取り扱い性と硬化樹脂層120の割れにくさとを確保する観点から、好ましくは1.2GPa以下、より好ましくは1.0GPa以下、更に好ましくは0.8GPa以下である。硬化樹脂層120の表面121の硬さを調整する方法としては、例えば、硬化樹脂層120における無機粒子の配合量の調整、および、硬化条件の調整が挙げられる。
【0039】
ナノインデンテーション法とは、試料の諸物性をナノメートルスケールで測る技術である。本実施形態において、ナノインデンテーション法は、ISO14577に準拠して実施される。ナノインデンテーション法では、ステージ上にセットされた試料に圧子を押し込む過程(荷重印加過程)と、それより後に試料から圧子を引き抜く過程(除荷過程)とが実施されて、一連の過程中、圧子-試料間に作用する荷重と、試料に対する圧子の相対変位とが測定される(荷重-変位測定)。これにより、荷重-変位曲線を得ることが可能である。この荷重-変位曲線から、測定試料について、ナノメートルスケール測定に基づく弾性率や硬さなどの物性を求めることが可能である。ナノインデンテーション法による硬化樹脂層120の表面の荷重-変位測定には、例えば、ナノインデンター(商品名「Triboindenter」,Hysitron社製)を使用できる。その測定において、測定モードは単一押込み測定とし、測定温度は25℃とし、使用圧子はBerkovich(三角錐)型のダイヤモンド圧子とし、荷重印加過程での測定試料に対する圧子の最大押込み深さ(最大変位H1)は20nmとし、当該圧子の押込み速度は2nm/秒とし、除荷過程での測定試料からの圧子の引抜き速度は2nm/秒とする。本測定によって得られる荷重-変位曲線に基づき、例えば、最大荷重Pmax(最大変位H1にて圧子に作用する荷重)、接触投影面積Ap(最大荷重時における圧子と試料との間の接触領域の投影面積)、接触剛性S(除荷過程開始時における荷重-変位曲線(除荷曲線)の接線の傾き)、および、除荷過程後の試料表面における塑性変形量H2(試料表面から圧子を離した後に当該試料表面に維持される凹部の深さ)を得ることができる。そして、最大荷重Pmaxと接触投影面積Apから、試料表面の硬さ(=Pmax/Ap)を算出できる。
【0040】
硬化樹脂層120の表面121(無機物層130が積層される表面)は、必要に応じて表面改質処理される。表面改質処理としては、例えば、プラズマ処理、コロナ処理、およびオゾン処理が挙げられる。硬化樹脂層120と無機物層130との間において高い密着力を確保する観点からは、表面121は、好ましくはプラズマ処理される。表面121をプラズマ処理する場合、当該プラズマ処理では、不活性ガスとして例えばアルゴンガスを用いる。また、プラズマ処理における放電電力は、例えば10W以上であり、また、例えば10000W以下である。
【0041】
次に、
図3Bに示すように、硬化樹脂層120上に無機物層130を形成する。具体的には、例えばスパッタリング法により、硬化樹脂層120付き仮支持フィルム110(ワークフィルム)における硬化樹脂層120上に材料を成膜して、無機物層130を形成する。こうして形成される無機物層130は、スパッタ膜である。
【0042】
本工程のスパッタリング法では、例えば、ロールトゥロール方式で成膜プロセスを実施できるスパッタ成膜装置を使用する。スパッタリング法では、具体的には、スパッタ成膜装置が備える成膜室内に真空条件下でスパッタリングガス(不活性ガス)を導入しつつ、成膜室内のカソード上に配置されたターゲットにマイナスの電圧を印加する。これにより、グロー放電を発生させてガス原子をイオン化し、当該ガスイオンを高速でターゲット表面に衝突させ、ターゲット表面からターゲット材料を弾き出し、弾き出されたターゲット材料を、硬化樹脂層120付き仮支持フィルム110における硬化樹脂層120上に堆積させる。
【0043】
成膜室内のカソード上に配置されるターゲットの材料(即ち、無機物層130の材料)としては、例えば、金属、および導電性酸化物が挙げられる。金属としては、例えば、銅、銀、およびこれらの合金が挙げられる。導電性酸化物としては、例えば、In、Sn、Zn、Ga、Sb、Ti、Si、Zr、Mg、Al、Au、Ag、Cu、Pd、Wからなる群より選択される少なくとも一種類の金属または半金属を含有する金属酸化物が挙げられる。具体的には、導電性酸化物としては、インジウム含有導電性酸化物およびアンチモン含有導電性酸化物が挙げられる。インジウム含有導電性酸化物としては、例えば、インジウムスズ複合酸化物(ITO)、インジウム亜鉛複合酸化物(IZO)、インジウムガリウム複合酸化物(IGO)、およびインジウムガリウム亜鉛複合酸化物(IGZO)が挙げられる。
【0044】
スパッタリング法による成膜(スパッタ成膜)中の成膜室内の気圧は、例えば0.02Pa以上であり、また、例えば1Pa以下である。
【0045】
ターゲットに対する電圧印加のための電源としては、例えば、DC電源、AC電源、MF電源、およびRF電源が挙げられる。電源としては、DC電源とRF電源とを併用してもよい。スパッタ成膜中の放電電圧の絶対値は、例えば50V以上であり、また、例えば500V以下である。
【0046】
以上のようにして、積層フィルム原反Fを製造できる。積層フィルム原反Fは、仮支持フィルム110と、硬化樹脂層120と、無機物層130とを厚さ方向Hにこの順で備える。硬化樹脂層120および無機物層130は、基材レスの透明導電性フィルム100を形成する。すなわち、積層フィルム原反Fでは、基材レスの透明導電性フィルム100が仮支持フィルム110によって仮に支持されている。
【0047】
積層フィルム原反Fの仮支持フィルム110の第2面112には、
図3Cに示すように、積層フィルム原反Fを保護する保護フィルム140が貼り合わされていてもよい。保護フィルム140は、例えば、基材フィルムと、基材フィルム上の粘着剤層(図示略)とを備える片面粘着剤層付きフィルムであり、粘着剤層側で第2面112に貼り合わされている。基材フィルムは、例えば、可撓性を有する樹脂フィルムである。基材フィルムの材料としては、例えば、仮支持フィルム110の材料として上記した材料が挙げられる。基材フィルムの厚さは、例えば10μm以上、好ましくは25μm以上であり、また、例えば200μm以下、好ましくは150μm以下である。粘着剤層は、粘着性を発現させるベースポリマーを含有する。ベースポリマーとしては、例えば、アクリルポリマー、ゴム系ポリマー、ポリエステル系ポリマー、ウレタン系ポリマー、ポリエーテル系ポリマー、シリコーン系ポリマー、ポリアミド系ポリマー、およびフッ素系ポリマーが挙げられる。粘着剤層の厚さは、例えば5μm以上、好ましくは10μm以上であり、また、例えば100μm以下、好ましくは75μm以下である。
【0048】
スリッター装置Xは、
図4に示すように、支持ローラー10(刃付支持ローラー)と、2枚刃ユニット20とを備える。スリッター装置Xは、本実施形態では二つの2枚刃ユニット20A,20Bを備える。
【0049】
支持ローラー10は、本実施形態では、ローラー部11(11A)と、円形刃12(12A)と、スペーサー13(13A)と、円形刃14(14A)と、ローラー部11(11B)と、円形刃12(12B)と、スペーサー13(13B)と、円形刃14(14B)と、ローラー部11(11C)とを、第1方向D1にこの順で備える。ローラー部11(11A,11B,11C)、円形刃12(12A,12B)、スペーサー13(13A,13B)および円形刃14(14A,14B)は、スリッター装置Xが更に備える回転軸芯15に取り付けられている。回転軸芯15は、第1方向D1に延びる第1回転軸心A1まわりに回転可能である。回転軸芯15が第1回転軸心A1まわりに回転することにより、ローラー部11、円形刃12、スペーサー13および円形刃14は、第1回転軸心A1まわりに一体的に回転する。すなわち、支持ローラー10(ローラー部11と円形刃12,14とスペーサー13)は、第1方向D1に延びる第1回転軸心A1まわりに回転可能である。また、第1方向D1において隣り合って並ぶローラー部11、円形刃12、スペーサー13、円形刃14、およびローラー部11は、本発明における第1ローラー部、第1円形刃、スペーサー、第2円形刃および第2ローラー部に相当する。
【0050】
ローラー部11(11A,11B,11C)は、円柱形状を有する。ローラー部11の外径は、例えば50~100mmである。各ローラー部11の第1方向D1の長さは、スリット工程S2によって得られる積層フィルム100(
図7に示す)の設計寸法に応じて、例えば200~500mmである。ローラー部11は、外周面11aを有する。外周面11aは、互いに面一である。また、ローラー部11は金属製である。ローラー部11の材料としては、例えばSKD11(ダイス鋼)が挙げられる。
【0051】
円形刃12Aは、ローラー部11Aとスペーサー13Aとの間に配置されている。円形刃12Bは、ローラー部11Bとスペーサー13Bとの間に配置されている。各円形刃12(12A,12B)は、ディスク形状の片刃であり、刃裏面12aと外周面12bとを有する。円形刃12の外径は、ローラー部11の外径と実質的に同じであり、例えば50~100mmである。刃裏面12aは、空隙G1を介して隣のスペーサー13に対向する。第1方向D1における空隙G1の長さは、切断加工物の耳立ちを抑制して外観品位を確保する観点から、好ましくは1.3mm以上、より好ましくは1.5mm以上である(後述の空隙G2についても同様である)。第1方向D1における空隙G1の長さは、原反における製品有効幅を確保する観点から、好ましくは10mm以下、より好ましくは5mm以下である(後述の空隙G2についても同様である)。円形刃12は、刃裏面12aとは反対側で隣のローラー部11に接する。刃裏面12aと外周面12bとは、鋭角または直角を形成する。刃裏面12aと外周面12bとは、積層フィルム原反F(スリット対象物)を支持ローラー10によって適切に案内する観点から、好ましくは直角を形成する(直角を形成する場合を図示する)。すなわち、円形刃12の外周面12bは、好ましくは、ローラー部11の外周面11aと面一である。刃裏面12aと外周面12bとが鋭角を形成する場合、当該鋭角の角度は、好ましくは45°以上、より好ましくは60°以上、更に好ましくは75°以上、特に好ましくは80°以上であり、また、例えば90°未満である。円形刃12は、刃裏面12aと外周面12bとの境界にエッジ(刃先)を有する。また、円形刃12は金属製である。円形刃12の材料としては、例えばSKD11(ダイス鋼)が挙げられる。
【0052】
スペーサー13Aは、円形刃12Aと円形刃14Aとの間に配置されている。スペーサー13Bは、円形刃12Bと円形刃14Bとの間に配置されている。各スペーサー13(13A,13B)は、ディスク形状を有する。スペーサー13は外周面13aを有する。積層フィルム原反F(スリット対象物)を支持ローラー10によって適切に案内する観点から、好ましくは、スペーサー13の外径はローラー部11の外径と実質的に同じであり、ローラー部11の外周面11aとスペーサー13の外周面13aとは、面一である。各スペーサー13の第1方向D1の長さは、隣り合う後記の円形刃21,22間の離隔距離より小さく、例えば1~10mmである。また、スペーサー13は金属製である。スペーサー13の材料としては、例えばSKD11(ダイス鋼)が挙げられる。
【0053】
円形刃14Aは、スペーサー13Aとローラー部11Bとの間に配置されている。円形刃14Bは、ローラー部11Bとスペーサー13Bとの間に配置されている。各円形刃14(14A,14B)は、ディスク形状の片刃であり、刃裏面14aと外周面14bとを有する。円形刃14の外径は、ローラー部11の外径と実質的に同じであり、例えば50~100mmである。刃裏面14aは、空隙G2を介して隣のスペーサー13に対向する。円形刃14は、刃裏面14aとは反対側で隣のローラー部11に接する。刃裏面14aと外周面14bとは、鋭角または直角を形成する。刃裏面14aと外周面14bとは、積層フィルム原反F(スリット対象物)を支持ローラー10によって適切に案内する観点から、好ましくは直角を形成する(直角を形成する場合を図示する)。すなわち、円形刃14の外周面14bは、好ましくは、ローラー部11の外周面11aと面一である。刃裏面14aと外周面14bとが鋭角を形成する場合、当該鋭角の角度は、好ましくは45°以上、より好ましくは60°以上、更に好ましくは75°以上、特に好ましくは80°以上であり、また、例えば90°未満である。円形刃14は、刃裏面14aと外周面14bとの境界にエッジ(刃先)を有する。また、円形刃14は金属製である。円形刃14の材料としては、例えばSKD11(ダイス鋼)が挙げられる。
【0054】
支持ローラー10においては、積層フィルム原反F(スリット対象物)を支持ローラー10によって適切に案内する観点から、上述の外周面11a,12b,13a,14bは面一である。
【0055】
各2枚刃ユニット20(20A,20B)は、円形刃21(第3円形刃)と、円形刃22(第4円形刃)とを備える。円形刃21,22は、第1方向D1に離隔している。2枚刃ユニット20Aは、支持ローラー10における円形刃12A,14Aに対応して配置されている。具体的には、円形刃12A,21が互いの刃先の干渉によって協働してフィルムをスリットでき、且つ、円形刃14A,22が互いの刃先の干渉によって協働してフィルムをスリットできるように、支持ローラー10に対して2枚刃ユニット20Aは配置されている。2枚刃ユニット20Bは、支持ローラー10における円形刃12B,14Bに対応して配置されている。具体的には、円形刃12B,21が互いの刃先の干渉によって協働してフィルムをスリットでき、且つ、円形刃14B,22が互いの刃先の干渉によって協働してフィルムをスリットできるように、支持ローラー10に対して2枚刃ユニット20Bは配置されている。このような2枚刃ユニット20A,20Bは、第1方向D1に互いに離れている。各2枚刃ユニット20は、スリッター装置Xが更に備える回転軸芯25に取り付けられている。回転軸芯25は、第1方向D1に延びる第2回転軸心A2まわりに回転可能である。第2回転軸心A2と上述の第1回転軸心A1とは、平行であり、且つ、第1方向D1と直交する第2方向D2に離れている。このような第2回転軸心A2まわりに回転軸芯25が回転することにより、2枚刃ユニット20A,20Bは、第2回転軸心A2まわりに一体的に回転する。すなわち、2枚刃ユニット20A,20Bは、第1方向D1に延びる第2回転軸心A2まわりに回転可能である。
【0056】
円形刃21は、ディスク形状の片刃であり、刃裏面21aと、先端傾斜面21bと、刃先21eとを有する。刃裏面21aは、第1方向D1において円形刃12側を向く。刃裏面21aと先端傾斜面21bとは、鋭角を形成する。当該鋭角の角度は、積層フィルム原反Fにおける切断箇所において良好な切断端部を形成する観点から、好ましくは30°以上、より好ましくは45°以上、更に好ましくは50°以上であり、また、好ましくは80°以下、より好ましくは70°以下、更に好ましくは60°以下である。刃先21eは、刃裏面21aおよび先端傾斜面21bの境界に形成されたエッジである。刃先21eは、空隙G1(円形刃12とスペーサー13との間)に入る。このような円形刃21の外径は、例えば50~150mmである。円形刃21の第1方向D1の長さ(円形刃21の厚さ)は、例えば1~3mmである。円形刃21の厚さは、空隙G1の第1方向D1の長さより小さいのが好ましい。また、円形刃21は、金属製であり、円形刃21の材料としては、例えばSKH2(ハイスピードスチール)が挙げられる(後記の円形刃22についても同様である)。
【0057】
円形刃22は、ディスク形状の片刃であり、刃裏面22aと、先端傾斜面22bと、刃先22eとを有する。刃裏面22aは、第1方向D1において円形刃14側を向く。すなわち、円形刃21,22の刃裏面21a,22aは、第1方向D1において互いに反対側を向く。刃裏面22aと先端傾斜面22bとは、鋭角を形成する。当該鋭角の角度は、積層フィルム原反Fにおける切断箇所において良好な切断端部を形成する観点から、好ましくは30°以上、より好ましくは45°以上、更に好ましくは50°以上であり、また、好ましくは80°以下、より好ましくは70°以下、更に好ましくは60°以下である。刃先22eは、刃裏面22aおよび先端傾斜面22bの境界に形成されたエッジである。刃先22eは、空隙G2(スペーサー13と円形刃14との間)に入る。このような円形刃22の外径は、円形刃21の外径と実質的に同じであり、例えば50~150mmである。円形刃22の第1方向D1の長さ(円形刃22の厚さ)は、例えば1~3mmである。円形刃22の厚さは、空隙G2の第1方向D1の長さより小さいのが好ましい。
【0058】
2枚刃ユニット20において、円形刃21の刃先21eと円形刃22の刃先22eとの間の第1方向D1における離隔距離dは、後記のストリップ100’に対して面方向に作用する応力を軽減する観点から、5mm以上であり、好ましくは7mm以上、より好ましくは9mm以上である。離隔距離dは、原反における製品有効幅を確保する観点から、20mm以下であり、好ましくは15mm以下、より好ましくは12mm以下である。
【0059】
スリット工程S2では、以上のようなスリッター装置Xにより、積層フィルム原反Fをスリットする。具体的には、次のとおりである。
【0060】
長尺でロール状の積層フィルム原反Fを、予め、繰出しローラー(図示略)に取り付ける。当該積層フィルム原反Fのロールから、スリッター装置Xにおける支持ローラー10と2枚刃ユニット20との間に向けて、積層フィルム原反Fを繰り出す。積層フィルム原反Fの繰り出し張力(フィルム幅方向の単位長さあたりの張力)は、例えば40~200N/mである。
【0061】
スリッター装置Xでは、
図5に示すように、積層フィルム原反Fの仮支持フィルム110側(無機物層130とは反対側)がローラー部11およびスペーサー13に接する状態で、支持ローラー10を回転駆動して積層フィルム原反Fを長さ方向に送る。回転軸芯15に対して外部から駆動力を与えることによって支持ローラー10を回転駆動できる。2枚刃ユニット20A,20Bは、支持ローラー10の回転駆動に追従して回転する。これにより、当該積層フィルム原反Fを、円形刃12,21間でスリットしつつ、円形刃14,22間でスリットする。積層フィルム原反Fは、具体的には、円形刃12Aと2枚刃ユニット20Aの円形刃21との間でスリットされ、円形刃14Aと2枚刃ユニット20Aの円形刃22との間でスリットされ、円形刃12Bと2枚刃ユニット20Bの円形刃21との間でスリットされ、円形刃14Bと2枚刃ユニット20Bの円形刃22との間でスリットされる。
【0062】
スリット工程S2での積層フィルム原反Fに対するスリットにより、
図7に示すように、所定幅の製品フィルムとしての積層フィルム100が得られる。また、積層フィルム100(製品フィルム)間にはストリップ100’(中抜き部)が生じる。ストリップ100’は、スリット工程S2において、円形刃12A,21と円形刃14A,22との間、および、円形刃12B,21と円形刃14B,22との間に生じる。積層フィルム100およびストリップ100’は、巻取りローラー(図示略)に巻き取られる。巻取りローラーによるフィルムの巻き取り張力(フィルム幅方向の単位長さあたりの張力)は、例えば20~320N/mである。
【0063】
本工程での積層フィルム原反Fの走行速度は、製造効率の観点から、好ましくは7m/分以上、より好ましくは10m/分以上である。積層フィルム原反Fの走行速度は、切断加工物の外観品位の確保の観点から、好ましくは15m/分以下、より好ましくは12m/分以下である。
【0064】
以上のようにして、積層フィルム100を製造できる。積層フィルム100は、仮支持フィルム110と、硬化樹脂層120と、無機物層130とを、厚さ方向Hにこの順で備える。仮支持フィルム110の第2面112に保護フィルム140が貼り合わされた積層フィルム原反F(
図1C)が用いられる場合、製造される積層フィルム100は、保護フィルム140と、仮支持フィルム110と、硬化樹脂層120と、無機物層130とを、厚さ方向Hにこの順で備える。積層フィルム100は、厚さ方向Hに直交する方向(面方向)に広がる形状を有する。
【0065】
スリット工程S2では、上述のように、2枚の円形刃21,22(片刃)を有する2枚刃ユニット20によって積層フィルム原反F(仮支持フィルム110と硬化樹脂層120と無機物層130とを含む)をスリットする。そのため、本製造方法は、スリット後の積層フィルム100において、耳立ちを抑制しつつ、硬化樹脂層120および無機物層130の良好な切断端部を確保するのに適する。
【0066】
加えて、スリット工程S2では、上述のように、積層フィルム原反Fの無機物層130とは反対側がローラー部11(11A,11B,11C)に接する状態で、当該積層フィルム原反Fを、長さ方向に送って円形刃12,21間でスリットしつつ円形刃14,22間でスリットする。このようなスリット工程S2では、上述の従来のスリット工程よりも、2枚刃ユニット20における円形刃21,22の刃先21e,22e間の離隔距離dが5mm以上であって長いスリッター装置Xにより、積層フィルム原反Fをスリットする。このようなスリット工程S2は、ストリップ100’における硬化樹脂層120および無機物層130に対して面方向に作用する応力を軽減するのに適し、従って、両層の切断端部に欠けが発生するのを抑制するのに適する。切断端部における欠けの抑制によって切り屑は低減される。
【0067】
以上のように、積層フィルムの製造方法は、仮支持フィルム110と硬化樹脂層120と無機物層130とをこの順で有する積層フィルム原反Fのスリットにおいて、切り屑を低減しつつ硬化樹脂層120および無機物層130の良好な切断端部を確保するのに適する。
【実施例0068】
本発明について、以下に実施例を示して具体的に説明する。ただし、本発明は、実施例に限定されない。また、以下に記載されている配合量(含有量)、物性値、パラメータなどの具体的数値は、上述の「発明を実施するための形態」において記載されている、それらに対応する配合量(含有量)、物性値、パラメータなどの上限(「以下」または「未満」として定義されている数値)または下限(「以上」または「超える」として定義されている数値)に代替できる。
【0069】
〔実施例1〕
以下のように、積層フィルム原反の用意工程とスリット工程とを実施して、積層フィルムを製造した。
【0070】
〈積層フィルム原反の用意工程〉
まず、表面が剥離処理された長尺のポリエチレンテレフタレート(PET)フィルム(品名「パナピール TP-01」,厚さ50μm,パナック社製)を、仮支持フィルムとして用意した(第1ステップ)。
【0071】
次に、仮支持フィルム上に硬化樹脂層を形成した(第2ステップ)。具体的には、まず、仮支持フィルムの一方面(第1面)上に、グラビアコーターによって硬化性樹脂組成物としての樹脂組成物を塗布して塗膜を形成した。樹脂組成物は、紫外線硬化性樹脂組成物(品名「TYZ72-A12」,東洋ケム社製)100質量部と、レベリング剤(品名「グランディックPC4100」,DIC社製)3質量部との、混合物である。次に、仮支持フィルム上の塗膜を、加熱により乾燥させた後、紫外線照射により硬化させた。加熱温度は80℃とし、加熱時間は60秒間とした。紫外線照射では、光源として高圧水銀ランプを使用し、波長365nmの紫外線を用い、積算照射光量を230mJ/cm2とした。以上のようにして、仮支持フィルム上に厚さ1μmの硬化樹脂層を形成した。
【0072】
次に、硬化樹脂層上に、無機物層としてのCu層を形成した(第3ステップ)。具体的には、スパッタリング法により、硬化樹脂層付き仮支持フィルムの硬化樹脂層上に、厚さ200nmのCu層を形成した。スパッタリング法では、ロールトゥロール方式のスパッタ成膜装置(巻取式のDCマグネトロンスパッタリング装置)を使用した。スパッタ成膜装置は、ロールトゥロール方式で硬化樹脂層付き仮支持フィルムを走行させつつ成膜プロセスを実施できる成膜室を備える。スパッタ成膜の条件は、次のとおりである。
【0073】
スパッタ成膜装置の成膜室内を真空排気した後、成膜室内にスパッタリングガスとしてのArを導入し、成膜室内の気圧を0.4Paとした。アルゴンガスの流量は300sccmとした。ターゲットとしては、銅ターゲットを用いた。ターゲットに対する電圧印加のための電源としては、DC電源を用いた。放電電圧は250Vとした。
【0074】
次に、仮支持フィルムの他方面(第2面)に、ロールトゥロール方式の貼合せ機によって、保護フィルムを貼り合わせた(第4ステップ)。保護フィルムは、基材フィルム(品名「ダイアホイルT100C38」,厚さ38μm,三菱ケミカル社製)とアクリル粘着剤層(厚さ23μm)とを備える。アクリル粘着剤層は、基材フィルムの片面上に形成されている。本工程では、保護フィルムのアクリル粘着剤層側を、仮支持フィルムの第2面面に貼り合わせた。これにより、長尺の積層フィルム原反を得た。積層フィルム原反は、保護フィルムと、仮支持フィルムと、硬化樹脂層と、無機物層としてのCu層とを、厚さ方向にこの順で備える。
【0075】
〈積層フィルム原反のスリット工程〉
上述の積層フィルム原反を、スリッター装置によってスリットした。スリッター装置としては、
図4に示すスリッター装置X(支持ローラー10と2枚刃ユニット20とを備える)を用いた。スリッター装置Xにおける2枚刃ユニット20の円形刃21,22の各刃物角(刃裏面と先端傾斜面とが形成する鋭角の角度)は60°とした。円形刃21の刃先21eと円形刃22の刃先22eとの間の第1方向D1における離隔距離dは、10mmとした。本工程では、長尺でロール状の積層フィルム原反を、予め、繰出しローラーに取り付けた。そして、積層フィルム原反のロールから、スリッター装置Xにおける支持ローラー10と2枚刃ユニット20との間に向けて、積層フィルム原反を繰り出した。積層フィルム原反の繰り出し張力は、80N/mとした。スリッター装置Xでは、積層フィルム原反のCu層とは反対側が支持ローラー10のローラー部11およびスペーサー13に接する状態で、支持ローラー10を回転駆動して積層フィルム原反を長さ方向に送った。積層フィルム原反の走行速度は、15m/分とした。これにより、当該積層フィルム原反を、支持ローラー10および2枚刃ユニット20における円形刃12,21間でスリットしつつ、円形刃14,22間でスリットした。これにより、実施例1の積層フィルムを製造した。積層フィルムは、巻取りローラーによって巻き取った。巻取りローラーによるフィルムの巻き取り張力は、160N/mとした。
【0076】
〔比較例1〕
次のこと以外は実施例1と同様にして用意工程とスリット工程とを実施し、比較例1の積層フィルムを製造した。スリット工程において、2枚刃ユニットの2枚の円形刃の刃先間距離が4mmであること以外は、実施例1で用いたスリッター装置Xと同じスリッター装置を用いた。
【0077】
〈切断端部の観察〉
実施例1および比較例1の各スリット工程において生じたストリップ(中抜き部)の切断端部を観察した。具体的には、レーザー顕微鏡(品名「VK-X1000」,キーエンス製)により、そのカメラモードで、ストリップの切断端部を同ストリップの無機物層(Cu層)側から観察した。観察画像を
図12(実施例1)および
図13(比較例1)に示す。
図12の観察画像は、
図6に示されるストリップ100’(中抜き部)においては、スリット工程後に図中上方から観察して得られる画像である。
図12において、無機物層の平面視像(明るい部分)は観察画像の右側に位置する。
図13の観察画像は、
図11に示されるストリップ200b(中抜き部)においては、スリット工程後に図中上方から観察して得られる画像である。
図13において、無機物層の平面視像(明るい部分)は観察画像の右側に位置する。
【0078】
図12の観察画像に示されているように、実施例1におけるストリップの切断端部においては、硬化樹脂層および無機物層(Cu層)において欠けが発生していない。そのため、実施例1におけるスリット工程では、切り屑の発生が抑制された。一方、
図13の観察画像に示されているように、比較例1におけるストリップの切断端部においては、硬化樹脂層および無機物層(Cu層)において欠けが発生している。そのため、比較例1におけるスリット工程では、多量の切り屑が発生した。
【0079】
〈硬化樹脂層の硬さ〉
実施例1および比較例1の積層フィルムにおける硬化樹脂層の表面(Cu側の表面)について、ナノインデンテーション法による荷重-変位測定を行った。具体的には、まず、積層フィルムの作製過程で得られる硬化樹脂層付き仮支持フィルムから、測定試料(10mm×10mm)を切り出した。次に、ナノインデンター(商品名「Triboindenter」,Hysitron社製)を使用して、測定試料における硬化樹脂層表面の荷重-変位測定をISO14577に準拠して行い、荷重-変位曲線を得た。本測定では、測定モードは単一押込み測定とし、測定温度は25℃とし、使用圧子はBerkovich(三角錐)型のダイヤモンド圧子とし、荷重印加過程での測定試料に対する圧子の最大押込み深さ(最大変位H1)は20nmとし、その圧子の押込み速度は2nm/秒とし、除荷過程での測定試料からの圧子の引抜き速度は2nm/秒とした。得られた荷重-変位曲線に基づき、最大荷重Pmax(最大変位H1にて圧子に作用する荷重)、接触投影面積Ap(最大荷重時における圧子と試料との間の接触領域の投影面積)、接触剛性S(除荷過程開始時における荷重-変位曲線(除荷曲線)の接線の傾き)、および、除荷過程後の試料表面における塑性変形量H2(試料表面から圧子を離した後に当該試料表面に維持される凹部の深さ)を得た。そして、最大荷重Pmaxと接触投影面積Apから、硬化樹脂層表面の硬さ(=Pmax/Ap)を算出した。その硬さは、0.77GPaであった。
【0080】
〈仮支持フィルム表面の表面自由エネルギー〉
実施例1および比較例1の積層フィルムにおける仮支持フィルムの表面(硬化樹脂層側の表面)の表面自由エネルギーを、次のようにして求めた。
【0081】
まず、23℃および相対湿度55%の条件下、水平に載置された仮支持フィルムの表面自由エネルギー同定対象面に接する水(H2O)、ヨウ化メチレン(CH2I2)および1-ブロモナフタレンの各液滴(約1μL)について、接触角計を使用して接触角を測定した。この測定には、接触角計(品名「CA-X型 接触角計」,共和界面科学社製)を使用した。次に、測定された水の接触角θw、ヨウ化メチレンの接触角θi、および1-ブロモナフタレンの接触角θbの値を用い、日本接着協会誌のVol.8, No.3, p.131-141(1972)に記載の方法(北崎-畑の理論)に従って3元連立方程式を解くことにより、γ=γd+γp+γhの式におけるγd,γp,γhを求めた。式中のγdは、表面自由エネルギーの分散成分であり、γpは、表面自由エネルギーの極性成分であり、γhは、表面自由エネルギーの水素結合成分である。そして、γd,γp,γhを和して得られる値(γ)を、表面自由エネルギー同定対象面の表面自由エネルギーとして求めた。その表面自由エネルギーは、29.6mN/mであった。
【0082】
〈剥離性〉
実施例1および比較例1の積層フィルムについて、次のようにして仮支持フィルムと硬化樹脂層との間の剥離強度を調べた。具体的には、
【0083】
まず、剥離試験用のサンプルフィルムを作成した。具体的には、まず、上述の第1~第3ステップを実施して、仮支持フィルムと、硬化樹脂層と、無機物層(Cu層)とを厚み方向にこの順で備える積層フィルムを作成した。次に、当該積層フィルムから、サンプルフィルム(24mm×100mm)を切り出した。
【0084】
次に、サンプルフィルムの無機物層側に、強粘着剤を介してガラス板を貼り合わせた。貼り合わせでは、2kgのローラーを1往復させる作業により、ガラス板にサンプルフィルムを圧着させた(後記の貼り合わせにおいても同様である)。次に、ガラス板上のサンプルフィルムの仮支持フィルム側に、24mm×150mmの粘着テープを、サンプルフィルムに対して位置合わせして貼り合せた。この貼り合わせ後の粘着テープ(24mm×150mm)は、未貼り合わせ部分(24mm×50mm)を有する。そして、ガラス板上の硬化樹脂層から仮支持フィルムを剥離する試験を実施して、仮支持フィルムと硬化樹脂層との間の剥離強度を測定した。本測定には、引張試験機(品名「剥離解析装置VPA-2」,協和界面化学社製)を使用した。本測定では、剥離角度を90°とし、引張速度を100mm/分とし、剥離長さ(界面開裂が生じた長さ)20mm~80mm間の剥離に要した剥離力を、剥離強度として測定した。その結果、剥離強度は0.05N/24mmであった。