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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024037230
(43)【公開日】2024-03-19
(54)【発明の名称】締固め不要コンクリートの製造方法
(51)【国際特許分類】
   B28C 7/04 20060101AFI20240312BHJP
   B28C 5/42 20060101ALI20240312BHJP
【FI】
B28C7/04
B28C5/42
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022141914
(22)【出願日】2022-09-07
(71)【出願人】
【識別番号】000183484
【氏名又は名称】日本製紙株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】000001373
【氏名又は名称】鹿島建設株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002147
【氏名又は名称】弁理士法人酒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】中村 明彦
(72)【発明者】
【氏名】兼中 翼
(72)【発明者】
【氏名】松本 修治
(72)【発明者】
【氏名】渡邉 賢三
(72)【発明者】
【氏名】柳井 修司
(72)【発明者】
【氏名】荒川 遥
【テーマコード(参考)】
4G056
【Fターム(参考)】
4G056AA06
4G056CB32
4G056CD64
(57)【要約】
【課題】錠剤型分散剤の添加によって簡便に、普通コンクリートを締固め不要なコンクリートへ調製できるコンクリート製造方法を提供すること。
【解決手段】本発明は、セメントを含むコンクリート材料に対し、融点が90℃~110℃の分散成分を含む 密度0.45~0.55g/cmの錠剤型分散剤を、前記セメント重量に対し0.15~0.30重量%後添加して混練することを含む、締固め不要コンクリートの製造方法を提供する。締固め不要コンクリートのスランプフローは、500mm~650mmであることが好ましい。また、コンクリート材料の体積当りセメント量は、300kg/m~350kg/mであることが好ましい。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
セメントを含むコンクリート材料に対し、融点が90℃~110℃の分散成分を含む密度0.45~0.55g/cmの錠剤型分散剤を、前記セメント重量に対し0.15~0.30重量%後添加して混練することを含む、締固め不要コンクリートの製造方法。
【請求項2】
前記締固め不要コンクリートのスランプフローが500mm~650mmである、請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
前記コンクリート材料の体積当りセメント量が、300kg/m~350kg/mである請求項1に記載の製造方法。
【請求項4】
前記コンクリート材料と前記錠剤型分散剤との混練を、アジテータ車のミキシング・ドラム内で行う請求項1~3のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項5】
前記分散成分が、リグニン系分散剤を含む請求項1~3のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項6】
請求項1~3のいずれか1項に記載の製造方法により締固め不要コンクリートを製造し、得られる締固め不要コンクリートを用いてコンクリート構造物を施工する、コンクリート構造物の施工方法。
【請求項7】
融点が90~110℃の分散成分を含み、密度0.45~0.55g/cmである、締固め不要コンクリート用の錠剤型分散剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、締固め不要コンクリートの製造方法に関し、詳しくは、打設後の締固め作業を省略可能な高流動性を示し得るコンクリートの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、建設現場における労働力の不足が深刻化しつつある。これを打破する省力化のための選択肢の一つとして、「締固め不要コンクリート」の採用が検討されている。
【0003】
上述の「締固め不要コンクリート」とは、流動性及び材料分離抵抗性を併せて高水準で備えさせることによって、型枠への打設後に締固め作業を行わずにコンクリートを自己充填させることが可能なコンクリート材料のことを言う(特許文献1及び2参照)。
【0004】
ここで、コンクリート建造物の建設において、「締固め不要コンクリート」以外の「他のコンクリート」を用いる場合においては、例えば、打設するコンクリートの流動性について、ある程度の範囲内での不足があったとしても、それに伴う不具合を、打設後に行う締固め工程の中で解消することができる。
【0005】
しかしながら、「締固め不要コンクリート」を選択した場合には、打設するコンクリートの品質のばらつきによって不具合が生じた場合に、これを打設後に解消することはできない。このため、普通コンクリート等の「他のコンクリート」においては通常問題とならない程度の範囲内である僅かな品質のばらつきであっても、「締固め不要コンクリート」においては、建造物の致命的な欠陥の原因となってしまうことがある。
【0006】
よって、「締固め不要コンクリート」を用いることによる省力化と、コンクリート建造物の品質の保持とを両立させるためには、「締固め不要コンクリート」以外のその他の一般的なコンクリートを用いる場合よりも、打設用のコンクリートの品質をより厳密に管理する必要があった。
【0007】
特許文献3には、上記課題に対する解決策として、普通コンクリートをアジテータ車で搬入し、打設直前に建設現場内で、アジテータ車のミキシング・ドラム内に、分散剤及び増粘剤を内包した水溶性袋体を投入して混練することによる「締固め不要なコンクリート」の製造方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開平3-237049号公報
【特許文献2】特開平10-146822号公報
【特許文献3】特開2021-110163号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、特許文献3に記載の方法では、分散剤を内包した水溶性袋体がコンクリート中で溶解するまで長時間を要し生産性が低下するおそれがある。また、場合によっては水溶性袋体が溶解しきらずにコンクリートに残存し、打設後のコンクリートにクラックなどが生じ得ることも課題である。
【0010】
本発明は、錠剤型分散剤の添加により簡便に、普通コンクリート等のコンクリート材料を締固め不要なコンクリートへ調製できるコンクリート製造方法の提供を課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は具体的には、以下の〔1〕~〔7〕を提供する。
〔1〕セメントを含むコンクリート材料に対し、融点が90℃~110℃の分散成分を含む密度0.45~0.55g/cmの錠剤型分散剤を、前記セメント重量に対し0.15~0.30重量%後添加して混練することを含む、締固め不要コンクリートの製造方法。
〔2〕前記締固め不要コンクリートのスランプフローが500mm~650mmである、〔1〕に記載の製造方法。
〔3〕前記コンクリート材料の体積当りセメント量が、300kg/m~350kg/mである〔1〕に記載の製造方法。
〔4〕前記コンクリート材料と前記錠剤型分散剤との混練を、アジテータ車のミキシング・ドラム内で行う〔1〕~〔3〕のいずれか1項に記載の製造方法。
〔5〕前記分散成分が、リグニン系分散剤を含む〔1〕~〔4〕のいずれか1項に記載の製造方法。
〔6〕〔1〕~〔5〕のいずれか1項に記載の製造方法により締固め不要コンクリートを製造し、得られる締固め不要コンクリートを用いてコンクリート構造物を施工する、コンクリート構造物の施工方法。
〔7〕融点が90~110℃の分散成分を含み、密度0.45~0.55g/cmである、締固め不要コンクリート用の錠剤型分散剤。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、普通コンクリート等のコンクリート材料を、生コン工場や打設現場等の任意の場所、タイミングにおいて、錠剤型分散剤の添加によって簡便に、求められる品質に応じて、締固め不要なコンクリートへ調製できるコンクリート製造方法を提供できる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施形態に即して詳細に説明する。尚、本発明は以下の実施形態に限定されない。また、本明細書中、「AA~BB」という表記はAA以上BB以下を意味し、示差走査熱量計を「DSC」とも記載する。
【0014】
[コンクリート材料]
コンクリート材料は、締固め不要コンクリートの原料である、セメントを少なくとも含む材料であり、通常は生コンクリートである。コンクリート材料は、普通コンクリートであることが好ましい。従来、コンクリート建造物の建設において、締め固め工程を省略しようという場合には、締固め不要とすることができる高い流動性と材料分離抵抗性とを両立させるために予めコンクリート工場等で特定の配合で調合されているプレミックスタイプの高価な「締固め不要コンクリート」が用いられていた。これに対し、普通コンクリートは、汎用性が高く流通量が多いことから、市場からの入手が容易であって、価格も上述のプレミックスタイプの「締固め不要コンクリート」よりも安価である。そのため、コンクリート材料として普通コンクリートを用いることにより、汎用的な材料から任意のタイミングで「締固め不要コンクリート」を製造できる。
【0015】
<セメント>
セメントとしては、例えば、ポルトランドセメント(例えば、普通、早強、超早強、中庸熱、耐硫酸塩およびそれぞれの低アルカリ形)、各種混合セメント(例えば、高炉セメント、シリカセメント、フライアッシュセメント)、白色ポルトランドセメント、アルミナセメント、超速硬セメント(例えば、1クリンカー速硬性セメント、2クリンカー速硬性セメント、リン酸マグネシウムセメント)、グラウト用セメント、油井セメント、低発熱セメント(例えば、高炉セメント(例、低発熱型高炉セメント、フライアッシュ混合低発熱型高炉セメント)、ビーライト高含有セメント)、超高強度セメント、セメント系固化材、エコセメント(例えば、都市ごみ焼却灰、下水汚泥焼却灰の1種以上を原料として製造されたセメント)、他の公知のセメントが挙げられる。これらのうち、安価で入手容易である点で、普通ポルトランドセメントを含むか、または、普通ポルトランドセメントと他のセメント(例えば、高炉セメント、シリカセメント、フライアッシュセメント)との組み合わせが好ましい。セメントには、高炉スラグ、フライアッシュ、シンダーアッシュ、クリンカーアッシュ、ハスクアッシュ、シリカヒューム、シリカ粉末、石灰石粉末等の微粉体、石膏などのセメント以外の成分が含まれていてもよい。
【0016】
<骨材>
コンクリート材料は、通常、骨材として粗骨材及び細骨材をさらに含む。骨材は、従来公知の一般的な骨材を適宜使い分けることができるが、一例をあげると以下のとおりである。
【0017】
-細骨材-
細骨材としては、例えば、砂、砂利、砕石;水砕スラグ;再生骨材等;珪石質、粘土質、ジルコン質、ハイアルミナ質、炭化珪素質、黒鉛質、クロム質、クロマグ質、マグネシア質等の、粒径の比較的小さい骨材が挙げられる。
【0018】
-粗骨材-
粗骨材としては、例えば、砂、砂利、砕石;水砕スラグ;再生骨材等;珪石質、粘土質、ジルコン質、ハイアルミナ質、炭化珪素質、黒鉛質、クロム質、クロマグ質、マグネシア質等の耐火骨材が挙げられる。
【0019】
<水>
コンクリート材料に含まれる水としては、例えば、上水道水、上水道水以外の水(河川水、湖沼水、井戸水、地下水、工業用水等)、回収水(上澄水、スラッジ水)が挙げられる。
【0020】
<任意成分>
コンクリート材料は、上記以外の任意成分を含んでもよい。任意材料としては、例えば、フライアッシュ、シンダーアッシュ、クリンカーアッシュ、ハスクアッシュ、シリカヒューム、シリカ粉末、火山灰、珪酸白土、高炉スラグ微粉末、膨張材、珪酸質微粉末、石灰石微粉末、後述する錠剤型分散剤以外の化学混和剤(例、減水剤、高性能AE減水剤、AE減水剤、高性能減水剤、水溶性高分子、高分子エマルジョン、空気連行剤、セメント湿潤剤、膨張剤、防水剤、遅延剤、増粘剤、凝集剤、乾燥収縮低減剤、強度増進剤、効果促進剤、消泡剤、その他の界面活性剤、コンクリートの機能改善を目的とする、ポリカルボン酸、ポリアクリル酸、グルコン酸、リグニンスルホン酸、ナフタレンスルホン酸、またはそれらの塩)、セメント以外の水硬性材料(例、石膏(半水石膏、二水石膏など)、ドロマイト)が挙げられる。
【0021】
[コンクリート材料の組成]
<体積当りセメント量>
コンクリート材料の単位体積当りセメント量は、好ましくは300kg/m以上である。上限は、好ましくは400kg/m以下、より好ましくは350kg/m以下である。従って、300kg/m以上400kg/m以下が好ましく、300kg/m以上350kg/m以下がより好ましい。これにより、締固め不要コンクリートとした後の高流動性(スランプフロー)に見合った材料分離抵抗性を保持できる。
【0022】
<水セメント比>
コンクリート材料の水セメント比は、好ましくは45%以上、より好ましくは50%以上である。上限は、好ましくは60%以下、より好ましくは55%以下である。従って、45%以上60%以下が好ましく、50%以上55%以下がより好ましい。
【0023】
<骨材の含有量>
細骨材については、骨材中における細骨材の比率(容積比)が40%以上55%以下程度であることが好ましい。粗骨材については、コンクリート材料の単位体積当りの粗骨材量が、250L/m以上350L/m以下が好ましい。
【0024】
[コンクリート材料の調製方法]
コンクリート材料の調製は、例えば、セメントを含む各種材料を一括又は順次添加し、混練(例えば、強制二軸ミキサーなどのコンクリートミキサー、アジテータ車のミキシング・ドラム内での混練)して行うことができる。混練時間、温度は通常の条件に従えばよく、特に限定されない。
【0025】
[コンクリート材料の物性]
コンクリート材料は、以下の物性を有することが好ましい。これにより、締固め不要コンクリートとした後の高流動性(スランプフロー)に見合った材料分離抵抗性を保持できる。中でも、スランプ値、呼び強度が下記の値を満たすことが好ましい。
【0026】
<スランプ値>
コンクリート材料のスランプ値は、5.5cm以上が好ましい。上限は、24.0cm以下が好ましい。従って、5.5cm以上24.0cm以下がより好ましい。本明細書における「スランプ値」とは、JIS A 1101:2020によるスランプ値(cm)のことを言う。
【0027】
<呼び強度>
コンクリート材料は、呼び強度(材齢28日又は7日)が、18N/mm以上45N/mm以下であることが好ましい。呼び強度は、JIS A5308:2019に従って測定できる。
【0028】
[錠剤型分散剤]
コンクリート材料からの締固め不要コンクリートの製造にあたり用いられる分散剤は、錠剤型であることが好ましい。これにより、コンクリートに後添加しても、液剤と比較してコンクリートへ加水されないか又は加水量を微量に抑えることができるため、水セメント比の変化を抑制できる。
【0029】
分散成分は、DSCにより測定される融点が通常90℃以上、好ましくは91℃以上である。これにより、融解し塊状の固体になることを抑制でき、コンクリート材料への溶解性の良好な錠剤型分散剤を得ることができる。上限は、通常110℃以下、好ましくは109℃以下、より好ましくは108℃以下である。これにより、低温、短時間の低エネルギー条件下で錠剤化(例えば、圧縮成型)でき、量産性及びエネルギー効率を高めることができる。従って、通常、90~110℃、好ましくは90~109℃、より好ましくは91~108℃である。
【0030】
DSCにより測定される分散剤の融点は、示差走査熱量計(DSC)(例えば、商品名「DSC2500」、TA Instruments社製)を用いて以下の手順で測定できる。固形粉末化された試料約10mgを、窒素雰囲気下において、-50℃から昇温速度10℃/分で200℃まで昇温する。1回目の昇温プロセスにおける最大の吸熱ピーク温度を融点とする。
【0031】
<分散成分の種類>
分散成分の種類は、融点が上記の範囲であれば特に限定されず、例えば、ポリカルボン酸、オキシカルボン酸、ナフタレンスルホン酸、メラミンスルホン酸、リグニン系等公知の分散剤が挙げられる。中でもリグニン系分散剤が好ましい。
【0032】
-リグニン系分散剤-
本明細書において、リグニン系分散剤は、リグノセルロース原料(例えば、木材、非木材等のパルプ原料)から単離されたリグニン(いわゆる工業リグニン)を主成分とする分散剤を意味する。リグニン系分散剤は、リグノセルロース原料から単離する際の処理方法に応じて構造及び物性が異なるが、これらのいずれでもよく、例えば、リグニンスルホン酸、クラフトリグニン、ソーダリグニン、ソーダ-アントラキノンリグニン、オルガノソルブリグニン、爆砕リグニン、硫酸リグニン、それらの分解物が挙げられ、リグニンスルホン酸が好ましい。リグニンは、1種でも2種以上の組み合わせでもよい。
錠剤型分散剤は、分散成分以外の任意成分(例えば、保存剤など)を含んでいてもよい。
【0033】
<錠剤型分散剤の密度>
錠剤型分散剤の密度は、通常、0.45g/cm以上であり、0.46g/cm以上がより好ましく、0.47g/cm以上がより好ましい。これにより、保形性が良好となり、コンクリート材料がコンクリートミキサー、アジテータ車のミキシング・ドラムに入っている場合に、ドラムの上から分散剤を容易に投入できる。上限は、通常、0.55g/cm以下であり、0.54g/cm以下がより好ましく、0.53g/cm以下が更に好ましい。これにより、コンクリート材料への溶解性が良好となり、コンクリート材料の分散性を向上させ、締固め不要コンクリートを製造できる。従って、錠剤型分散剤の密度は、通常、0.45~0.55g/cm、好ましくは、0.46~0.54g/cm、更に好ましくは0.47~0.53g/cmである。
【0034】
錠剤型分散剤の密度は、汎用電子天秤(例えば、商品名「GX-6002A」、A&D社製)を用いて測定された重量を、錠剤型分散剤の体積(cm:底面積×高さ)で割ることで算出できる。錠剤型分散剤の体積は、定規で測定してもよいし、錠剤成形機の体積が予め固定されている場合には、錠剤成形機の1個あたりの体積を錠剤型分散剤の体積としてもよい。
【0035】
<錠剤型分散剤の形状、サイズ>
錠剤型分散剤の形状は特に限定されないが、例えば、球状、楕円状、円筒状が挙げられる。サイズは、特に限定されないが、通常は直径1~5cm、厚さ0.1~0.8cm程度である。また、錠剤型分散剤の1錠あたりの重量は、通常は7~12g、好ましくは8~11g、より好ましくは9~10gである。
【0036】
[錠剤型分散剤の製造方法]
錠剤型分散剤は、分散成分を加圧成形して製造できる。加圧成形する際の条件は、特に限定されないが、一例をあげると以下のとおりである。加圧時の温度は室温程度が好ましく、10℃~40℃がより好ましく、15~30℃又は15~25℃がさらに好ましい。加圧時間は、30分以内が好ましく、10~30分がより好ましく、15~25分が更に好ましい。上記条件で加圧成形を行うことにより、量産性、エネルギー効率、溶解性を向上させることができる。
【0037】
[締固め不要コンクリートの製造方法]
締固め不要コンクリートは、コンクリート材料に上記の錠剤型分散剤を添加して製造できる。例えば、コンクリートミキサー又はアジテータ車のミキシング・ドラム内にあらかじめ積載された普通コンクリート等のコンクリート材料に対し、上記の錠剤型分散剤を投入して混練することによって製造される。
【0038】
<錠剤型分散剤の使用量>
錠剤型分散剤の使用量(コンクリート材料に対する重量比)は、0.15%以上0.30%以下が好ましく、0.18%以上0.25%以下がより好ましい。
【0039】
<錠剤型分散剤の添加方法>
締固め不要コンクリート製造においては、強制二軸ミキサーなどのコンクリートミキサーに直接投入する方法や、普通コンクリートが積載されているアジテータ車のミキシング・ドラム内に、上記錠剤型分散剤を投入して混練する方法により行う。投入後の混練時間は特に限定されないが、作業効率上、短ければ短いほどよく、好ましくは5分以内である。下限は、通常10秒以上、好ましくは20秒以上である。
【0040】
例えば、生コン工場や打設現場にそれぞれ規定重量の錠剤型分散剤を十分に用意しておき、適宜、必要な個数の錠剤型分散剤をミキシング・ドラム内に投入することによって、錠剤型分散剤について厳密な配合比の管理が必要な締固め不要コンクリートの材料の配合比を、打設現場においても容易且つ正確に最適比に調整することができる。
【0041】
[締固め不要コンクリート]
締固め不要コンクリートは、上述のとおり、流動性及び材料分離抵抗性を併せて高水準で備えさせることによって、型枠への打設後に締固め作業を行わずにコンクリートを自己充填させることが可能なコンクリート材料である。締固め不要コンクリートの生コンクリートのスランプフローは、通常は500mm以上、好ましくは、500mm以上650mm以下である。これにより、流動性及び材料分離抵抗性を有し、型枠への打設後に締固め作業を省略できる。ここで、スランプフローとは、JIS A 1150によるスランプフロー値(mm)である。
【実施例0042】
以下、本発明を実施例により詳細に説明する。以下の実施例は、本発明を好適に説明するためのものであって、本発明を限定するものではない。なお、物性値等の測定方法は、別途記載がない限り、上記に記載した測定方法である。実施例中、特に断りの無い限り、「%」は、重量%を示し、「部」は、重量部を示す。
【0043】
[融点(℃)]:粉末分散剤の融点は、示差走査熱量計(DSC)(商品名「DSC2500」、TA Instruments社製)を用いて、下記の手順で測定した。
固形粉末化された試料約10mgを、窒素雰囲気下において、-50℃から昇温速度10℃/分で200℃まで昇温し、1回目の昇温プロセスにおける最大の吸熱ピーク温度を融点とした。
【0044】
[密度(g/cm)]:円筒状に圧縮成形された錠剤型分散剤の密度は、汎用電子天秤(商品名「GX-6002A」、A&D社製)を用いて測定された重量を、定規で測定された錠剤型分散剤の体積(cm)で割ることで算出した。
【0045】
[粉末分散剤]
P1:粉末ポリカルボン酸系(融点53℃、日本シーカ社製G20S)
P2:粉末ポリカルボン酸系(融点16℃、日油社製シュドックス)
L1:粉末リグニン誘導体系(融点132℃、日本製紙社製サンエキスSCP)
L2:粉末リグニン誘導体系(融点106℃、日本製紙社製SL-P)
L3:粉末リグニン誘導体系(融点92℃、日本製紙社製SL-PT)
【0046】
[コンクリート試験]
<錠剤型分散剤の製造方法>
コンクリート試験用の錠剤型分散剤は、直径3.5cmのSUS製円筒状型枠に、各9.6gの粉末分散剤を投入し、所定重量のSUS製棒と分銅により加圧し、20℃の恒温乾燥機に10分間、入れた後、脱型することにより作製した。得られた錠剤型分散剤は、上記の方法で密度を測定した上で、コンクリート試験に使用した。
【0047】
<錠剤型分散剤の評価方法>
成型後の錠剤型分散剤の性状については、コンクリートミキサーやアジテータ車への投入性の観点から、錠剤成形度合いおよび保形性を評価した。評価基準は、下記のとおりである。保形性が良好なほど、コンクリートミキサーやアジテータ車への投入が容易であることを示す。結果を表2に示す。
◎:錠剤として成形可能で、20cmの高さから落としても崩れない。
○:錠剤として成形可能で、20cmの高さから落とすと崩れる。
△:錠剤として成形可能だが、持ち上げるとすぐに崩れる。
×:錠剤として成形が不可能で、粉末のままになっている。
【0048】
<水溶性袋体型分散剤の製造方法>
比較サンプルとして、一辺10cmの正方形状に加工した水溶性紙(日本製紙パピリア製A3015)2枚を用いて成型した水溶性袋に、粉末分散剤L2を9.6g投入し、ラミネートにより密封することで水溶性袋体型分散剤L2を得た。
【0049】
<コンクリート試験条件>
上記の方法で作製した分散剤を添加したコンクリート(セメント組成物、水硬性組成物)を下記手順により調製し、得られたコンクリートについて、スランプ試験を行った。
【0050】
<コンクリート試験の手順及び評価法:実施例1~6、比較例1~10>
環境温度(20℃)において、表1の配合比率で設計した30Lの粗骨材(G)、細骨材(S)、セメント(C)を投入して強制二軸ミキサーによる機械練りにより10秒間練混ぜた。次に、セメント重量に対し0.75重量%の混和剤(フローリック社製SV10L)を、表1に記載の配合比で調製した水に混合し、それらを表2記載の分量にて添加し、90秒間練混ぜることで普通コンクリートを得た。本コンクリート中の、一部のコンクリートを排出し、フレッシュコンクリート試験(スランプ試験JIS A 1101(フレッシュコンクリートの広がりをフロー値として測定)を行い、初期コンクリート評価を行った。さらに、この調製したコンクリートを5分間静置後、各分散剤(錠剤型分散剤、水溶性袋体分散剤)を表2に記載の重量で添加し30秒混練後、上記フレッシュコンクリート試験を実施した。結果を表2に示す。
【0051】
【表1】
【0052】
表1中の記号の詳細を下記に示す。
C:以下のセメント3種を等重量混合
普通ポルトランドセメント(宇部三菱セメント社製、比重3.16)
普通ポルトランドセメント(太平洋セメント社製、比重3.16)
普通ポルトランドセメント(トクヤマ製、比重3.16)
W:水道水
S1:大分県津久見産石灰砕砂(細骨材、比重2.67g/cm
S2:静岡県掛川産陸砂(細骨材、比重2.56g/cm
G1、G2:山口県周南産砕石(粗骨材、比重2.77g/cm(G1)、2.72g/cm(G2))
【0053】
【表2】
【0054】
表2中、添加量の数値は、セメント重量に対する各対象サンプルの固形分重量(%)である。またフローは、スランプ試験JIS A 1101:2020(フレッシュコンクリートの広がりをフロー値として測定)で規定されるスランプフローである。また、矢印は、すぐ上の記述と同じであることを示す。
【0055】
なお、比較例1(無添加の普通セメント)の呼び強度(JIS A5308に準拠して測定)は、40N/mm(材齢28日)、32N/mm(材齢7日)、スランプ値(JIS A1101に準拠して測定)は17.9cmであった。
【0056】
表2から以下のことがいえる。実施例1~6によれば、錠剤型分散剤の保形性が良好で、かつコンクリートに添加してわずか30秒混練したにすぎないにもかかわらず、無添加の比較例1(分散剤無添加の普通コンクリート)と比較して、流動性が高く、500mm以上のスランプフローを発現した。また比較例2では、粉末リグニン系分散剤を水溶性袋体に梱包してコンクリート材料に添加しても、短時間のミキシングであると、水溶性袋体の外装部である水溶性紙の一部溶け残りが認められたが、実施例1~6ではいずれも、錠剤型分散剤の溶け残りが無かった。また、比較例2では、水溶性袋体添加後のコンクリートのスランプフローが500mmに到達しなかった。
【0057】
比較例2~8によれば、融点70℃未満又は120℃を超える分散剤の粉末を用いたところ、コンクリートに添加可能な錠剤型分散剤が得られなかったか、又は、錠剤型分散剤は得られたが、コンクリート材料に添加したところ流動性を発現できなかった。また比較例9~10によれば、融点が90℃~110℃の粉末リグニン系分散剤を用いたものの、比較例9では得られる錠剤の密度が0.45g/cm未満であり、保形性が悪く、錠剤としてコンクリートに投入できなかった。比較例10では、圧縮成形後の密度が0.55g/cmより大きく、錠剤成形性は良好なものの、コンクリート材料に投入後の溶解性が悪く、分散性を発現しなかった。