(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024037233
(43)【公開日】2024-03-19
(54)【発明の名称】金属表面の手入れ方法および鋼片の製造方法
(51)【国際特許分類】
B21C 51/00 20060101AFI20240312BHJP
【FI】
B21C51/00 Q
B21C51/00 R
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022141917
(22)【出願日】2022-09-07
(71)【出願人】
【識別番号】000001258
【氏名又は名称】JFEスチール株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001542
【氏名又は名称】弁理士法人銀座マロニエ特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】島田 祐輔
(72)【発明者】
【氏名】千代原 亮祐
(72)【発明者】
【氏名】阿川 真吾
(72)【発明者】
【氏名】松葉 透
(57)【要約】 (修正有)
【課題】処理で発生する異常を早期に検知し対応をとることが可能な金属表面の手入れ方法および鋼片の製造方法を提供する。
【解決手段】金属表面の厚みを削る作業であって、処理で発生する音圧レベルを計測し、音圧レベルに応じて溶削代または研削代を調整する、金属表面の手入れ方法である。マシンスカーフに鋼片を運搬する搬入工程と、マシンスカーフ内の処理位置まで鋼片を装入する装入工程と、鋼片の表面を溶削する溶削工程と、を含み、任意選択的に、鋼片の溶削した表面を撮影する撮影工程と、必要に応じて、研削台車および反転トラバーサを用いて、撮影した表面写真から得られた、鋼片表面の手入れ必要箇所に対し自動研削を行う研削工程と、を含む溶削作業を実施し、鋼片の処理終了後次の鋼片に対し搬入工程から繰り返し溶削作業を実施する際に、溶削工程における鋼片表面の溶削時に、金属表面の手入れ方法に従い溶削代を調整する、鋼片の製造方法である。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属表面の厚みを削る作業であって、処理で発生する音圧レベルを計測し、前記音圧レベルに応じて溶削代または研削代を調整する、金属表面の手入れ方法。
【請求項2】
前記音圧レベルがA特性音圧レベルである、請求項1に記載の金属表面の手入れ方法。
【請求項3】
前記作業が金属の溶削である、請求項2に記載の金属表面の手入れ方法。
【請求項4】
前記金属の溶削にマシンスカーフを用いる、請求項3に記載の金属表面の手入れ方法。
【請求項5】
予熱時のA特性音圧レベルの平均値から所定値以上A特性音圧レベルが上昇した場合に溶削代を減少させる、請求項4に記載の金属表面の手入れ方法。
【請求項6】
溶削開始から2~5sの範囲における、異常値を除くA特性音圧レベルの最大値から所定値以上A特性音圧レベルが上昇した場合に溶削代を減少させる、請求項4に記載の金属表面の手入れ方法。
【請求項7】
マシンスカーフに鋼片を運搬する搬入工程と、
前記マシンスカーフ内の処理位置まで前記鋼片を装入する装入工程と、
前記装入工程で装入した前記鋼片の表面を溶削する第1溶削工程と、
を含み、
さらに、任意選択的に、前記鋼片の溶削した表面を撮影する撮影工程と、
必要に応じて、研削台車および反転トラバーサを用いて前記撮影工程にて撮影した表面写真から得られた、前記鋼片表面の手入れ必要箇所に対し自動研削を行う研削工程と、
を含む溶削作業を実施し、前記鋼片の処理終了後次の処理対象鋼片に対し搬入工程から繰り返し溶削作業を実施する際に、
前記第1溶削工程における鋼片表面の溶削時に、請求項4~6のいずれか1項に記載の金属表面の手入れ方法に従い溶削代を調整する、鋼片の製造方法。
【請求項8】
前記溶削作業が、さらに、
必要に応じて、反転機を用いて前記鋼片を自動反転または横転し、再度前記鋼片を前記処理位置まで自動で引き戻す再装入工程と、
前記鋼片の未溶削の表面を溶削する第2溶削工程と、
を含み、
さらに、任意選択的に、前記鋼片の未撮影の溶削した表面に前記撮影工程および必要に応じて前記研削工程を適用し、
必要に応じて前記鋼片を自動反転または横転し、溶削する必要のある表面がなくなるまで再装入工程~研削工程を繰り返すにあたり、
前記第2溶削工程における鋼片表面の溶削時に、請求項4~6のいずれか1項に記載の金属表面の手入れ方法に従い溶削代を調整する、請求項7に記載の鋼片の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属表面の厚みを削って金属表面の手入れをする方法に関し、その方法を適用した鋼片の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
金属表面、とくに、鋼片の表面を手入れする方法として、表面を高温の燃焼ガスや酸化熱で溶削したり、砥石等で研削したりすることが行われる。溶削にはマシンスカーフによる自動溶削が用いられる。
【0003】
連続鋳造によって製造される鋼片、たとえば、鋼スラブの表面には、介在物の巻き込みや表面疵などの表面欠陥が発生することがある。
【0004】
この鋼片の表面欠陥をマシンスカーフで除去するために、まず、スカーファーユニットに可燃性ガスを供給し、この可燃性ガスに点火する(点火ステップ)。次に、燃焼する可燃性ガスの熱により、鋼片表面の一部を溶融して湯溜まりを形成して熱源とする(予熱ステップ)。次に、この湯溜まりに向けて酸素ガスを供給し、酸素ガスと鉄との酸化反応熱によってスラブ表面を深さ1~3mm程度溶融させ、表面欠陥を除去する(溶削ステップ)。発生する溶削滓を高圧の噴流水で除去する。
【0005】
マシンスカーフに関する技術として、たとえば、特許文献1には、スカーファーユニットから供給される可燃性ガスの点火時における騒音及び振動の発生を抑制することが可能なスカーファー設備の点火方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、上記従来技術には、以下のような課題があった。
すなわち、特許文献1に開示の技術では、仮に想定外の事象が起きて異常燃焼が発生した場合には歯止めを掛けられない、つまり、それを判断する基準がないという課題があった。
【0008】
これまでにも、溶削中に溶削滓が高圧の噴流水を乗り越えることで異常反応が発生することがあった。そして、周辺設備へ高温の溶削滓が飛散して、ホースへの引火等の防災トラブルが発生したことがあった。その対策として、1回あたりの溶削代を低減し、発生する溶削滓を減らすことが考えられる。しかし、異常評価の基準があいまいで、溶削代の低減が過剰となり、作業能率の低下が懸念された。
【0009】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたもので、その目的とするところは、金属表面の厚みを削る作業中に、処理で発生する異常を早期に検知し対応をとることが可能な金属表面の手入れ方法を提案することにある。加えて、その方法を適用したマシンスカーフによる鋼片の製造方法を提案する。
【課題を解決するための手段】
【0010】
発明者らは、マシンスカーフによる鋼片の溶削時に、異常反応と騒音レベルに相関があることを見出し、定量的に評価して、本発明を完成させた。
【0011】
上記課題を有利に解決する本発明にかかる金属表面の手入れ方法は、金属表面の厚みを削る作業であって、処理で発生する音圧レベルを計測し、前記音圧レベルに応じて溶削代または研削代を調整することを特徴とする。
【0012】
なお、本発明にかかる金属表面の手入れ方法は、
(a)前記音圧レベルがA特性音圧レベルであること、
(b)前記作業が金属の溶削であること、
(c)前記金属の溶削にマシンスカーフを用いること、
(d)予熱時のA特性音圧レベルの平均値から所定値以上A特性音圧レベルが上昇した場合に溶削代を減少させること、
(e)溶削開始から2~5sの範囲における、異常値を除くA特性音圧レベルの最大値から所定値以上A特性音圧レベルが上昇した場合に溶削代を減少させること、
などがより好ましい解決手段になり得る。
【0013】
上記課題を有利に解決する本発明にかかる鋼片の製造方法は、マシンスカーフに鋼片を運搬する搬入工程と、前記マシンスカーフ内の処理位置まで前記鋼片を装入する装入工程と、前記装入工程で装入した前記鋼片の表面を溶削する第1溶削工程と、を含み、さらに、任意選択的に、前記鋼片の溶削した表面を撮影する撮影工程と、必要に応じて、研削台車および反転トラバーサを用いて前記撮影工程にて撮影した表面写真から得られた、前記鋼片表面の手入れ必要箇所に対し自動研削を行う研削工程と、を含む溶削作業を実施し、前記鋼片の処理終了後次の処理対象鋼片に対し搬入工程から繰り返し溶削作業を実施する際に、前記第1溶削工程における鋼片表面の溶削時に、上記いずれかにかかる金属表面の手入れ方法に従い溶削代を調整することを特徴とする。
【0014】
なお、本発明にかかる鋼片の製造方法は、前記溶削作業が、さらに、必要に応じて反転機を用いて前記鋼片を自動反転または横転し、再度前記鋼片を前記処理位置まで自動で引き戻す再装入工程と、前記鋼片の未溶削の表面を溶削する第2溶削工程と、を含み、さらに、任意選択的に、前記鋼片の未撮影の溶削した表面に前記撮影工程および必要に応じて前記研削工程を適用し、必要に応じて前記鋼片を自動反転または横転し、溶削する必要のある表面がなくなるまで再装入工程~研削工程を繰り返すにあたり、前記第2溶削工程における鋼片表面の溶削時に、上記いずれかにかかる金属表面の手入れ方法に従い溶削代を調整すること、などがより好ましい解決手段になり得る。
【発明の効果】
【0015】
本発明にかかる金属表面の手入れ方法によれば、A特性音圧レベルにより作業中の異常反応を定量評価できるようになった。そのため、異常反応のレベル、発生頻度を、たとえば、スラブの処理条件と対応付けることができる。そして、異常反応が発生しにくい、または、異常反応のレベルの低いスラブの処理条件では、溶削代を増加させるなど作業能率の向上を図ることができる。高レベルの異常反応が頻発する場合には設備点検により原因を究明するなど防災トラブルを未然に防ぐことができるようになった。このような金属表面の手入れ方法を鋼片の製造方法に適用することにより、作業能率が向上するとともに、作業の安全性も向上し、相乗効果で生産性が増大した。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】(a)は鋼片の溶削作業時の騒音レベルの推移の一例を示すグラフであり、(b)は正常な鋼片の溶削状態を示す模式断面図であり、(c)は鋼片の溶削が異常反応の状態を示す模式断面図である。
【
図2】鋼スラブの溶削作業におけるスラブ幅とスラブ温度の関係が異常反応の発生頻度に与える影響を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の実施の形態について具体的に説明する。また、以下の実施形態は、本発明の技術的思想を具体化するための設備や方法を例示するものであり、構成を下記のものに特定するものでない。すなわち、本発明の技術的思想は、特許請求の範囲に記載された技術的範囲内において、種々の変更を加えることができる。
【0018】
まず、本発明の一実施形態にかかる金属表面の手入れ方法について、金属表面の厚みを削る作業として、鋼片の溶削作業を例に説明する。
図1(a)は、鋼片として鋼スラブの溶削作業時の騒音レベルの推移の一例を示すグラフである。
図1(b)は、正常な鋼片の溶削状態を示す模式断面図である。
図1(c)は、鋼片の溶削が異常反応の状態を示す模式断面図である。
【0019】
騒音レベルは、マシンスカーフから8m離れた位置の屋内に設置した騒音計によって測定した。騒音計は、測定した音圧をJIS Z 8731:2019に規定するA特性音圧レベル(dB)に変換して騒音レベル(dB)として出力する。A特性音圧(Pa)とは、JIS C 1509-1に規定する周波数重み付け特性A(附属書JA参照)を掛けて測定する音圧(Pa)のことをいう。音圧レベル(dB)は、音圧の実効値の2乗を基準の音圧の2乗で除した値の常用対数の10倍で計算される。Z特性音圧レベルを用いることもできるが、作業者の聴覚に近いA特性音圧レベルを評価指標とすることが好ましい。
【0020】
図1(a)の例では、非処理期間t0の騒音レベルの平均値N0が約64dBである。ここで、騒音レベルの平均値は、変動する騒音レベルのエネルギー的な平均値とし、音響エネルギーの総暴露量を時間平均した物理的な指標として、等価騒音レベルを用いる。予熱期間tPの騒音レベルの平均値NPは約68dBである。正常な鋼片の溶削時には、溶削処理期間tSの開始から2~5sの範囲に現れる騒音レベルの最大値NSmaxは約80dBである。
図1(b)に示すように、正常な鋼片1の溶削時には、スカーファーユニット2から供給された酸素と鉄の酸化熱で溶削された溶削滓3は高圧の噴流水4によって押し流され、除去される。
【0021】
図1(a)の例では、鋼片の溶削の異常反応にかかる騒音レベルNAとして、90dB以上のピークが観察される。この異常反応は、
図1(c)に示すように溶削滓3を高圧噴流水4で除去できなかった時に、たとえば、溶削滓3の越流5が生じることが原因と考えている。水滴上に高温の溶削滓3がかぶさると、爆発的な水蒸気の膨張により溶削滓3が周辺に吹き飛ばされる。溶削滓3は高温のままであるので、周辺設備の油圧ホースなどに付着すると防災上のトラブルになりかねない。たとえば、異常反応にかかる騒音レベルNAのピーク値で場合分けし、80dB以上90dB未満を小反応、90dB以上95dB未満を中反応、95dB以上を大反応と定義する。なお、この判定基準は、上記したように、マシンスカーフから8m離れた位置の屋内に設置した騒音計により決定されたものである。異常反応にかかる騒音レベルNAは騒音計の設置位置等の個別の事情により異なり実施前に試験等で決定する必要がある。
【0022】
鋼片の溶削の異常反応のメカニズムから、異常反応が頻発する条件は、以下のように考えられる。
(A)高圧噴流水の圧力不足
(B)溶削滓の発生量増加
【0023】
異常反応が高圧噴流水の圧力不足と判断された場合には、コンプレッサーの交換、高圧配管系統の点検、ノズルの点検・交換など機器点検の頻度を調整することが考えられる。
【0024】
高圧噴流水の圧力が適正にもかかわらず発生する溶削の異常反応は、溶削滓の発生量増加によるものと考えられる。たとえば、鋼片の溶削代は、鋼種や向け先、鋼片の連続鋳造条件によって異なる。厳格な表面品質が求められる場合には、4mm以上溶削する場合もある。また、溶削滓3の発生量は、溶削代、スラブ幅、スラブ温度や溶削速度に依存する。
【0025】
図2に鋼スラブの溶削作業におけるスラブ幅とスラブ温度の関係が異常反応の発生頻度に与える影響を示す。異常反応は、騒音レベルによって上記評価基準とした。また、
図2の例では、溶削代を3mmとした。
図2には、異常反応にかかる騒音レベルNAが90dB未満の小反応あるいは異常反応が観察されない場合に記号〇で示す。また、異常反応にかかる騒音レベルNAが90dB以上の中反応および大反応の場合に記号▲で示す。
図2の条件では、スラブ幅が1100mm以上やスラブ温度が200℃以上で中反応以上の異常反応が頻発している。
【0026】
そこで、
図2に示す境界線(二点鎖線)より下方、つまり、スラブ幅が狭いか、または、スラブ温度が低い条件では、溶削代を4mmに増加させた。その結果、騒音レベルの著しい増加や異常反応評価の悪化は見られなかった。したがって、異常反応を引き起こすことなく、生産性が向上した。一方、境界線(二点鎖線)より上方、つまり、スラブ幅が広く、スラブ温度が高い条件では、溶削代を2mmに減少させた。その結果、異常反応の評価で中反応や大反応が発生することなく鋼スラブの溶削作業が実施できた。したがって、防災トラブルが低減した。
【0027】
さらに、溶削滓3の発生量が増加していない条件であるにもかかわらず、異常反応が頻発する場合に、設備点検を行ったところ、高圧噴流水のノズルの向きにずれを発見し、修正することができた。この様に騒音レベルの測定は設備異常の早期発見、対処にも役立ち、操業の高生産性の維持につながる。
【0028】
以上、金属表面の手入れ方法として、鋼片、たとえば、鋼スラブの溶削作業時に騒音レベルの測定を利用することを説明した。鋼片としては、鋼スラブだけでなく、鋼ブルームや鋼ビレット、丸ビレットなどへも適用できる。また、鋼片だけでなく、銅塊やアルミ合金などの金属表面の厚みを削る作業に適用できる。さらに、その作業は、溶削に限られず、砥石などによる研削作業にも適用できる。砥石による研削作業では、研削代と研削速度に騒音レベルが依存する。異常反応として、砥石の欠けや、加工抵抗の上昇、研削液切れなどが考えられる。上記で説明したように、JIS Z 8731:2019に規定する、音を物理量として測定する音圧レベルを用いる。音圧レベルとして、A特性音圧レベルを用いることで、作業者の感覚と近い判断とすることができ、好ましい。金属の溶削、特に、マシンスカーフを用いる金属の溶削に用いることで、高温飛散物の低減につながり、また、自動化によって生産性の向上につながり好ましい。
【0029】
上記では、絶対的な騒音レベルを指標に異常反応を評価した。他の評価法として、予熱期間tPの騒音レベルの平均値NPから所定値以上騒音レベルが上昇したときに異常反応と評価することもできる。また、溶削ステップ時の正常な鋼片の溶削時には、最大騒音レベルNSmaxは、溶削開始後2~5sの範囲に現れる。そこで、溶削開始から2~5sの範囲における、異常値を除く騒音レベルの最大値から所定値以上騒音レベルが上昇した場合に異常反応と評価することもできる。好ましくは、溶削開始から3~4sの範囲における、異常値を除く騒音レベルの最大値を用いる。ここで、異常値とは、異常反応によって発生し突発的に変動する、前後の騒音レベル値に比べて高い騒音レベル値をいう。また、異常反応の程度を分類し、その程度に応じて、上記のような溶削代の調整や設備点検を実施してもよい。たとえば、
図1の例では、予熱期間tPの騒音レベルの平均値NPは約68dBであり、溶削処理期間tSの開始から2~5sの範囲に現れる騒音レベルの最大値NSmaxは約80dBである。したがって、NPから13dB以上騒音レベルが上昇した場合やNSmaxを超えて騒音レベルが上昇した場合に異常反応と評価することができる。それらの値に5dB加算した騒音レベル値を判断基準とすることがより好ましい。
【0030】
次に、本発明の他の実施形態にかかる鋼片の製造方法について説明する。本実施形態にかかる鋼片の製造方法は、マシンスカーフを用いた溶削作業を含み、搬入工程と装入工程と第1溶削工程とを含み、さらに、任意選択的に、撮影工程と、必要に応じて行う研削工程とを含む。先の鋼片の溶削作業の処理終了後次の処理対象鋼片に対し搬入工程から繰り返し溶削作業を実施する。さらに、溶削作業は、必要に応じて、再装入工程と、第2溶削工程とを含む。
【0031】
搬入工程では、連続鋳造などによって鋳造された鋼片をマシンスカーフに運搬する。たとえば、鋼片をマシンスカーフのターンテーブル上に運搬する。
【0032】
装入工程では、たとえば、ターンテーブル上の鋼片をマシンスカーフ内の処理位置まで装入する。
【0033】
溶削工程は、点火ステップと予熱ステップと溶削ステップとを含む。点火ステップでは、たとえば、スカーファーユニット2から可燃性ガスを供給し、点火装置によって可燃性ガスに点火する。
図1(a)に示す予熱期間tPの初期に現れる騒音レベルのピークが該当する。次に、予熱ステップでは、燃焼する可燃性ガスの熱により、鋼片1表面の一部を溶融して湯溜まりを形成して熱源とする。次に、溶削ステップでは、この湯溜まりに向けて酸素ガスを供給し、酸素ガスと鉄との酸化反応熱によって鋼片1の表面を深さ1~4mm程度溶融させ、鋼片1の表面欠陥を除去する。
【0034】
この、溶削工程では、騒音レベルの測定を行い、上記金属表面の手入れ方法に従い、溶削代を調整する。可能な限り1回の溶削で表面品質の保証のための必要溶削量を溶削することが好ましい。溶削の異常反応が予測されたり、測定されたりする場合には、溶削代を減少させたり、設備点検を行うことが好ましい。
【0035】
撮影工程は、鋼片の溶削した表面を撮影する。そして、表面欠陥の有無を判定し、さらなる溶削や次の研削工程への処理を決定する。この撮影工程は、厳格な表面品質が要求される鋼種に適用することが好ましい。
【0036】
研削工程は、撮影工程での判定に基づき、研削台車および反転トラバーサを用いて前記撮影工程にて撮影した表面写真から得られた、前記鋼片表面の手入れ必要箇所に対し自動研削を行う。もって、表面欠陥を除去する。
【0037】
溶削ステップでは、鋼片の全周に亘り、1回の溶削を行うこともできる。また、鋼片の1面ずつ、または、複数面を同時に溶削することもできる。再装入工程は、第1溶削工程で未処理の鋼片の面を溶削するために、反転機を用いて前記鋼片を自動反転または横転し、再度鋼片を前記処理位置まで自動で引き戻す。
【0038】
第2溶削工程は、鋼片の未溶削の表面を溶削する。各処理ステップは第1溶削工程と同様である。その後、さらに、任意選択的に、撮影工程および必要に応じて前記研削工程を適用する。
【0039】
さらに、溶削する必要のある鋼片の面がなくなるまで再装入工程~研削工程を繰り返し実施する。
【0040】
本実施形態を鋼片の製造方法に適用し、従来の作業者の感覚に頼った溶削条件の変更から、騒音レベルの測定による評価に変更し、約3000t/月の生産性向上が図れた。質量の単位を表す「t」は、1000kgに相当する。
【産業上の利用可能性】
【0041】
本発明の金属表面の手入れ方法および鋼片の製造方法によれば、作業能率が向上するとともに、作業の安全性も向上し、相乗効果で生産性が増大し、産業上有用である。
【符号の説明】
【0042】
1 鋼片(鋼スラブ)
2 スカーファーユニット
3 溶削滓
4 高圧噴流水
5 越流
t0 非処理期間
tP 予熱期間
tS 溶削処理期間
N0 (非処理期間の)騒音レベルの平均値
NP (予熱期間の)騒音レベルの平均値
NSmax (溶削処理時の)最大騒音レベル
NA 異常反応にかかる騒音レベル