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特開2024-37234ポリエチレン樹脂組成物およびポリエチレン樹脂組成物の製造方法
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  • 特開-ポリエチレン樹脂組成物およびポリエチレン樹脂組成物の製造方法 図1
  • 特開-ポリエチレン樹脂組成物およびポリエチレン樹脂組成物の製造方法 図2
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024037234
(43)【公開日】2024-03-19
(54)【発明の名称】ポリエチレン樹脂組成物およびポリエチレン樹脂組成物の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C08L 23/04 20060101AFI20240312BHJP
   C08F 10/02 20060101ALI20240312BHJP
【FI】
C08L23/04
C08F10/02
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022141918
(22)【出願日】2022-09-07
(71)【出願人】
【識別番号】000005887
【氏名又は名称】三井化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001070
【氏名又は名称】弁理士法人エスエス国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】三島 康太
(72)【発明者】
【氏名】柳本 泰
(72)【発明者】
【氏名】遠藤 啓輔
(72)【発明者】
【氏名】甲斐 康寛
(72)【発明者】
【氏名】岡村 健一郎
【テーマコード(参考)】
4J002
4J100
【Fターム(参考)】
4J002BB03W
4J002BB03X
4J002GJ02
4J002GN00
4J002GQ01
4J100AA02P
4J100CA01
4J100DA03
4J100DA06
4J100DA09
4J100DA15
4J100DA42
4J100FA08
4J100FA19
4J100FA34
(57)【要約】
【課題】成形加工が容易になる程度の高い溶融流動性と、高荷重条件下での耐摩耗性とを、バランスよく兼ね備えたポリエチレン樹脂組成物を提供する。
【解決手段】要件(a-1)を満たす超高分子量ポリエチレン(A)5~35質量部と、要件(b-1)および(b-2)を満たすポリエチレン(B)95~65質量部(ただし、超高分子量ポリエチレン(A)とポリエチレン(B)の合計量を100質量部とする)とを含み、要件(x-1)および(x-2)を満たす、ポリエチレン樹脂組成物(X)。
(a-1)135℃のデカリン溶媒中で測定した極限粘度[η]が33~50dl/gである;
(b-1)135℃のデカリン溶媒中で測定した極限粘度[η]が0.1~5.0dl/gである;
(b-2)密度が950~985kg/m3である;
(x-1)ポリエチレン樹脂組成物(X)の135℃のデカリン溶媒中で測定した極限粘度[η]が1.5~15dl/gの範囲である;
(x-2)135℃のデカリン溶媒中で測定した、超高分子量ポリエチレン(A)の極限粘度[η]とポリエチレン(B)の極限粘度[η]の差が32~49dl/gの範囲である。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記要件(a-1)を満たす超高分子量ポリエチレン(A)5~35質量部と、
下記要件(b-1)および(b-2)を満たす低分子量ないし高分子量ポリエチレン(B)95~65質量部(ただし、超高分子量ポリエチレン(A)と低分子量ないし高分子量ポリエチレン(B)の合計量を100質量部とする)とを含み、
下記要件(x-1)および(x-2)を満たす、ポリエチレン樹脂組成物(X)。
(a-1)135℃のデカリン溶媒中で測定した極限粘度[η]が33~50dl/gである;
(b-1)135℃のデカリン溶媒中で測定した極限粘度[η]が0.1~5.0dl/gである;
(b-2)密度が950~985kg/m3である;
(x-1)前記ポリエチレン樹脂組成物(X)の135℃のデカリン溶媒中で測定した極限粘度[η]が1.5~15dl/gの範囲である;
(x-2)135℃のデカリン溶媒中で測定した、前記超高分子量ポリエチレン(A)の極限粘度[η]と前記低分子量ないし高分子量ポリエチレン(B)の極限粘度[η]の差が32~49dl/gの範囲である。
【請求項2】
ASTM D1238Eに準拠して190℃、10kg荷重で測定したメルトフローレートが、3~50g/10分である、請求項1に記載のポリエチレン樹脂組成物(X)。
【請求項3】
請求項1または2に記載のポリエチレン樹脂組成物(X)を含む成形体。
【請求項4】
135℃のデカリン溶媒中で測定した極限粘度[η]が33~50dl/gである超高分子量ポリエチレン(A)を生成させる第1工程、および、
135℃のデカリン溶媒中で測定した極限粘度[η]が0.1~5.0dl/gの範囲、かつ前記超高分子量ポリエチレン(A)の135℃のデカリン溶媒中で測定した極限粘度[η]との差が32~49dl/gの範囲であり、密度が950~985kg/m3である、低分子量ないし高分子量ポリエチレン(B)を生成させる第2工程、
の少なくとも2段階の工程を含む多段重合法により、
135℃のデカリン溶媒中で測定した極限粘度[η]が1.5~15dl/gの範囲であるポリエチレン樹脂組成物(X)を生成する、ポリエチレン樹脂組成物(X)の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリエチレン樹脂組成物、および該組成物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
超高分子量ポリエチレンは、一般的なポリエチレンのような汎用樹脂に比べて、分子間凝集力が弱く、分子構造が対称的であり、結晶化度が高いので摺動性に優れ、かつ、耐衝撃性、耐摩耗性、引張強度などにも優れているため、摺動材などとして好適に用いることができる。しかしながら、超高分子量ポリエチレンは、分子量が高いため成形体を製造しにくく、汎用のポリエチレンの成形に採用されている方法をそのまま利用することは困難であることが多い。
【0003】
そこで、超高分子量ポリエチレンの優れた特性を損なうことなく、超高分子量ポリエチレンの成形性を改良する方法として、超高分子量ポリエチレンと極限粘度[η]の低いポリエチレンとをブレンドするなど、種々の方法が提案されている。
【0004】
例えば、特許文献1には、極限粘度[η]が10~40dl/gの超高分子量ポリオレフィン15~40重量%と、極限粘度[η]が0.1~5dl/gの低分子量ないし高分子量ポリオレフィン85~60重量%とからなる射出成形用ポリオレフィン組成物が開示されている。この組成物は、超高分子量ポリオレフィンを含有しているにもかかわらず、射出成形できるという利点を有しており、さらに射出成形で得られる成形体は超高分子量ポリオレフィンの優れた摺動性および耐摩耗性を有する点において優れている。
【0005】
特許文献2には、極限粘度[η]が10~40dl/gの超高分子量ポリエチレン35重量%を超えて90重量%以下と、極限粘度[η]が0.1~5dl/gの低分子量ないし高分子量ポリエチレン10重量%以上65重量%未満とを含むポリエチレン樹脂組成物に、特定のポリオレフィン系樹脂組成物をブレンドした組成物が開示されている。この組成物からは、耐摩耗性、外観および成形性のバランスに優れた成形体が得られる。
【0006】
また、特許文献3には、極限粘度[η]が10~40dl/gの超高分子量ポリエチレン5~18重量%と、極限粘度[η]が0.1~5dl/gの低分子量ないし高分子量ポリエチレン82~95重量%とを含み、密度が955~970kg/m3であるポリエチレン樹脂組成物が開示されている。
【0007】
さらに、特許文献4には、極限粘度[η]が10~40dl/gの超高分子量ポリエチレン5~25質量%と、極限粘度[η]が0.1~5dl/gの低分子量ないし高分子量ポリエチレン75~95質量%とを含むポリエチレン樹脂100質量部に、極限粘度[η]が0.1~10dl/gのポリオルガノシロキサン0.1~10質量部を配合した組成物が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開昭63-12606号公報
【特許文献2】国際公開第2003/022920号
【特許文献3】特開2012-25904号公報
【特許文献4】特開2016-204405号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
特許文献1~4に開示されている組成物は、いずれも成形性と耐摩耗性とに優れているものの、近年では、これらの組成物よりもさらに高い耐摩耗特性を有するポリエチレン樹脂が求められており、特に高荷重条件下(例えば、25kg荷重)でも耐摩耗性を有する樹脂が求められている。しかしながら、ポリエチレン樹脂組成物は耐摩耗性を向上させると、溶融流動性が失われて成形性が悪くなる傾向があるため、高荷重条件下での耐摩耗性と成形性とを両立した樹脂組成物は知られていない。
【0010】
本発明は、成形加工が容易になる程度の高い溶融流動性と、高荷重条件下での耐摩耗性とを、バランスよく兼ね備えたポリエチレン樹脂組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者が研究を進めた結果、下記構成例によれば、前記課題を解決できることを見出した。本発明の構成例は、以下の通りである。
なお、本明細書では、数値範囲を示す「A~B」は、A以上B以下を示す。
【0012】
すなわち本発明は、例えば以下[1]~[4]の事項を有する。
【0013】
[1] 下記要件(a-1)を満たす超高分子量ポリエチレン(A)5~35質量部と、
下記要件(b-1)および(b-2)を満たす低分子量ないし高分子量ポリエチレン(B)95~65質量部(ただし、超高分子量ポリエチレン(A)と低分子量ないし高分子量ポリエチレン(B)の合計量を100質量部とする)とを含み、
下記要件(x-1)および(x-2)を満たす、ポリエチレン樹脂組成物(X)。
(a-1)135℃のデカリン溶媒中で測定した極限粘度[η]が33~50dl/gである;
(b-1)135℃のデカリン溶媒中で測定した極限粘度[η]が0.1~5.0dl/gである;
(b-2)密度が950~985kg/m3である;
(x-1)前記ポリエチレン樹脂組成物(X)の135℃のデカリン溶媒中で測定した極限粘度[η]が1.5~15dl/gの範囲である;
(x-2)135℃のデカリン溶媒中で測定した、前記超高分子量ポリエチレン(A)の極限粘度[η]と前記低分子量ないし高分子量ポリエチレン(B)の極限粘度[η]の差が32~49dl/gの範囲である。
【0014】
[2] ASTM D1238Eに準拠して190℃、10kg荷重で測定したメルトフローレートが、3~50g/10分である、[1]に記載のポリエチレン樹脂組成物(X)。
【0015】
[3] [1]または[2]に記載のポリエチレン樹脂組成物(X)を含む成形体。
【0016】
[4] 135℃のデカリン溶媒中で測定した極限粘度[η]が33~50dl/gである超高分子量ポリエチレン(A)を生成させる第1工程、および、
135℃のデカリン溶媒中で測定した極限粘度[η]が0.1~5.0dl/gの範囲、かつ前記超高分子量ポリエチレン(A)の135℃のデカリン溶媒中で測定した極限粘度[η]との差が32~49dl/gの範囲であり、密度が950~985kg/m3である、低分子量ないし高分子量ポリエチレン(B)を生成させる第2工程、
の少なくとも2段階の工程を含む多段重合法により、
135℃のデカリン溶媒中で測定した極限粘度[η]が1.5~15dl/gの範囲であるポリエチレン樹脂組成物(X)を生成する、ポリエチレン樹脂組成物(X)の製造方法。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、成形加工が容易になる程度の高い溶融流動性と、高荷重条件下での耐摩耗性とを、バランスよく兼ね備えたポリエチレン樹脂組成物が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】実施例3で得られたポリエチレン樹脂組成物(X3)から形成された試験片に、高荷重(25kg)条件下で滑り摩耗試験を行った後の写真である。
図2】比較例1で得られたポリエチレン樹脂組成物(CX1)から形成された試験片に、高荷重(25kg)条件下で滑り摩耗試験を行った後の写真である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
≪ポリエチレン樹脂組成物≫
本発明に係るポリエチレン樹脂組成物(X)(以下「樹脂組成物(X)」ともいう。)は、特定の超高分子量ポリエチレン(A)および特定の低分子量ないし高分子量ポリエチレン(B)(以下「ポリエチレン(B)」ともいう)を含む。
【0020】
<超高分子量ポリエチレン(A)>
超高分子量ポリエチレン(A)は、下記要件(a-1)を満たす。
【0021】
〔要件(a-1)〕
超高分子量ポリエチレン(A)は、135℃のデカリン溶媒中で測定した極限粘度[η]が33~50dl/g、好ましくは35~45dl/g、より好ましくは38~45dl/g、さらに好ましくは38~42dl/gである。
【0022】
超高分子量ポリエチレン(A)の135℃のデカリン溶媒中で測定した極限粘度[η]が33dl/g以上である場合、樹脂組成物(X)の耐摩耗性が良好になりやすく、その結果、樹脂組成物(X)から得られる成形体の耐摩耗性が良好になりやすい。また、超高分子量ポリエチレン(A)の135℃のデカリン溶媒中で測定した極限粘度[η]が50dl/g以下である場合、超高分子量ポリエチレン(A)を配合した樹脂組成物(X)の溶融流動性が高くなりやすい。すなわち、超高分子量ポリエチレン(A)の極限粘度[η]が上記範囲にあると、樹脂組成物(X)は高荷重条件下での耐摩耗性と成形性とを両立できる。
【0023】
超高分子量ポリエチレン(A)は、エチレンの単独重合体、または、エチレンとプロピレン、1-ブテン、1-ペンテン、1-ヘキセン、1-オクテン、1-デセン、1-ドデセン、4-メチル-1-ペンテンもしくは3-メチル-1-ペンテンなどのα-オレフィンとの共重合体である。超高分子量ポリエチレン(A)は、好ましくは、エチレンの単独重合体、またはエチレンと上記のα-オレフィンとの共重合体であって、エチレンを主成分として構成される共重合体であり、より好ましくはエチレンの単独重合体である。ここで、主成分とは、重合体に含まれる構成単位のうち、最も含有比率(モル%)の多い成分のことを意味する。
【0024】
<低分子量ないし高分子量ポリエチレン(B)>
ポリエチレン(B)は、下記要件(b-1)および(b-2)を満たす。
【0025】
〔要件(b-1)〕
ポリエチレン(B)の135℃のデカリン溶媒中で測定した極限粘度[η]は、0.1~5.0dl/gであり、好ましくは0.5~3.0dl/gであり、より好ましくは0.7~2.0dl/gであり、さらに好ましくは0.8~1.5dl/gである。
【0026】
ポリエチレン(B)の135℃のデカリン溶媒中で測定した極限粘度[η]が0.1dl/g以上である場合、樹脂組成物(X)の耐摩耗性が良好になりやすく、その結果、樹脂組成物(X)から得られる成形体の耐摩耗性が良好になりやすい。また、ポリエチレン(B)の135℃のデカリン溶媒中で測定した極限粘度[η]が5.0dl/g以下である場合、樹脂組成物(X)の溶融流動性が高くなりやすい。すなわち、ポリエチレン(B)の135℃のデカリン溶媒中で測定した極限粘度[η]が0.1~5.0dl/gにあると、高荷重条件下での耐摩耗性と成形性との両方に優れた樹脂組成物(X)を得やすい。
【0027】
〔要件(b-2)〕
ポリエチレン(B)は、密度が950~985kg/m3であり、好ましくは960~980kg/m3であり、より好ましくは960~975kg/m3であり、さらに好ましくは965~975kg/m3である。ポリエチレン(B)の密度が950kg/m3以上であると、ポリエチレン(B)の結晶化度はポリエチレン(B)が削れやすくならない程度に高くなる傾向があるため、結果として、得られる樹脂組成物(X)は高荷重条件下での耐摩耗性に優れる傾向がある。また、ポリエチレンの密度は通常985kg/m3以下であるので、密度が985kg/m3以下のポリエチレンがポリエチレン(B)として用いられる。
【0028】
ポリエチレン(B)は、エチレンの単独重合体、または、エチレンとα-オレフィンの共重合体である。好ましくはエチレンの単独重合体である。
前記共重合体を構成するα-オレフィンとしては、炭素原子数3~20の直鎖状または分岐状のα-オレフィンが挙げられ、具体的にはプロピレン、1-ブテン、1-ペンテン、3-メチル-1-ブテン、1-ヘキセン、4-メチル-1-ペンテン、3-メチル-1-ペンテン、3,4-ジメチル-1-ペンテン、4-メチル-1-ヘキセン、3-エチル-1-ペンテン、3-エチル-4-メチル-1-ペンテン、3,4-ジメチル-1-ヘキセン、4-メチル-1-ヘプテン、3,4-ジメチル-1-ヘプテン、1-オクテン、1-デセン、1-ドデセン、1-テトラデセン、1-ヘキサデセン、1-オクタデセン、もしくは、1-エイコセンなどが挙げられる。これらのうち、プロピレンおよび1-ブテンが、ポリエチレン(B)の密度範囲との関係から好ましく用いられる。
【0029】
なお、前記エチレンとα-オレフィンの共重合体は、エチレンから導かれる構成単位の量が90mol%以上であることがより好ましく、エチレンから導かれる構成単位の量が95mol%以上であることがさらに好ましい。また、前記エチレンとα-オレフィンの共重合体は、α-オレフィンから導かれる構成単位の量が10mol%以下であることがより好ましく、α-オレフィンから導かれる構成単位の量が5mol%以下であることがさらに好ましい。ポリエチレン(B)がエチレンとα-オレフィンの共重合体である場合、エチレンから導かれる構成単位の量が多いほど好ましい。
【0030】
<その他の成分>
樹脂組成物(X)は、本発明の目的を損ねない範囲であれば、他のポリオレフィン系樹脂などの熱可塑性樹脂や、樹脂用添加剤(例えば、耐熱安定剤、耐候安定剤などの安定剤、架橋剤、架橋助剤、帯電防止剤、スリップ剤、アンチブロッキング剤、防曇剤、滑剤、染料、顔料、フィラー、鉱物油系軟化剤、石油樹脂、ワックスなど)を含有してもよい。
上記その他の成分が含まれる場合、樹脂組成物(X)中の上記その他の成分の合計量は、通常5質量%以下であり、好ましくは2質量%以下であり、より好ましくは1質量%以下である。換言すると、樹脂組成物(X)中の超高分子量ポリエチレン(A)の質量とポリエチレン(B)の質量との合計が樹脂組成物(X)の質量に占める割合は、通常95質量%以上であり、好ましくは98質量%以上であり、より好ましくは99質量%以上である。
【0031】
<樹脂組成物(X)>
樹脂組成物(X)中の超高分子量ポリエチレン(A)の含有量は5~35質量部であり、好ましくは8~30質量部、より好ましくは8~25質量部である(ただし、超高分子量ポリエチレン(A)とポリエチレン(B)の合計量を100質量部とする)。
樹脂組成物(X)中のポリエチレン(B)の含有量は65~95質量部であり、好ましくは70~92質量部、より好ましくは75~92質量部である(ただし、超高分子量ポリエチレン(A)とポリエチレン(B)の合計量を100質量部とする)。
【0032】
樹脂組成物(X)中の超高分子量ポリエチレン(A)の含有量が35質量部以下で、ポリエチレン(B)の含有量が65質量部以上であると、樹脂組成物(X)の溶融流動性を比較的高くすることができるので、樹脂組成物(X)の成形性が良好になりやすい。一方、超高分子量ポリエチレン(A)の含有量が5質量部以上で、ポリエチレン(B)の含有量が95質量部以下であると、樹脂組成物(X)は超高分子量ポリエチレン(A)に由来する耐摩耗性が充分に得られるので、樹脂組成物(X)の耐摩耗性が良好になり、高荷重条件下での耐摩耗性に優れる傾向がある。
【0033】
樹脂組成物(X)は、以下の要件(x-1)および(x-2)を満たす。樹脂組成物(X)は、好ましくは、要件(x-1)および(x-2)の他に、要件(x-3)も満たす。
【0034】
〔要件(x-1)〕
樹脂組成物(X)の135℃のデカリン溶媒中で測定した極限粘度[η]は、1.5~15dl/gの範囲であり、好ましくは1.5~10dl/gの範囲、より好ましくは2.0~8.0dl/gの範囲、さらに好ましくは2.0~7.0dl/gの範囲である。
135℃のデカリン溶媒中での極限粘度[η]が1.5dl/g以上である場合には、樹脂組成物(X)の耐摩耗性が良好になり、高荷重条件下での耐摩耗性に優れる傾向がある。一方、135℃のデカリン溶媒中での極限粘度[η]が15dl/g以下であると、樹脂組成物(X)の流動性が低下しないので、樹脂組成物(X)の成形性が良好になりやすい。すなわち、樹脂組成物(X)の135℃のデカリン溶媒中での極限粘度[η]が上記範囲を満たすと、樹脂組成物(X)は、成形加工が容易になる程度の高い溶融流動性を有しながら、高荷重条件下での耐摩耗性も良好であるので、耐摩耗性と成形性とを両立できる。
【0035】
〔要件(x-2)〕
135℃のデカリン溶媒中で、前記超高分子量ポリエチレン(A)の極限粘度[η]と前記ポリエチレン(B)の極限粘度[η]の差が32~49dl/gの範囲であり、好ましくは34~44dl/gの範囲、より好ましくは37~44dl/gの範囲、さらに好ましくは37~41dl/gの範囲である。超高分子量ポリエチレン(A)とポリエチレン(B)との極限粘度[η]の差が49dl/g以下であると、得られる樹脂組成物(X)は耐摩耗性が良好になり、高荷重条件下での耐摩耗性にも優れる傾向がある。
これは、超高分子量ポリエチレン(A)の分子鎖が長くなることで、樹脂組成物(X)から得られた成形体と相手材との間で摩擦が起きても、樹脂組成物(X)の成形体に含まれる超高分子量ポリエチレン(A)が破断しにくくなることによる、と推測される。さらに、超高分子量ポリエチレン(A)とポリエチレン(B)との極限粘度[η]の差が32dl/g以上であると、超高分子量ポリエチレン(A)に由来する耐摩耗性を確保しつつ、ポリエチレン(B)に由来する溶融流動性を発現させることができるため、樹脂組成物(X)の成形性が良好になる、と推察される。
【0036】
〔要件(x-3)〕
樹脂組成物(X)は、ASTM D1238Eの測定方法に準拠して、190℃、10kg荷重で測定したメルトフローレート(以下「MFR」ともいう。)が、好ましくは3~50g/10分であり、より好ましくは5~40g/10分であり、さらに好ましくは5~35g/10分である。組成物のMFRが上記範囲であると、成形性が良好であるため好ましい。
【0037】
<ポリエチレン樹脂組成物(X)の製造方法>
樹脂組成物(X)の製造方法は、超高分子量ポリエチレン(A)とポリエチレン(B)とを所定の割合で含有させることができる製造方法であれば特に制限はないが、好ましい方法として、以下の方法(M-1)~(M-3)が挙げられる。
【0038】
方法(M-1):超高分子量ポリエチレン(A)およびポリエチレン(B)を、それぞれ予めオレフィン重合用触媒の存在下で製造した後、前記(x-1)および(x-2)など樹脂組成物(X)が満たすべき条件となるように、これら超高分子量ポリエチレン(A)およびポリエチレン(B)をブレンドすることにより製造する方法。
方法(M-2):オレフィン重合用触媒の存在下、第1工程として超高分子量ポリエチレン(A)を生成させる工程と、第2工程としてポリエチレン(B)を生成させる工程との少なくとも2段階の工程を含む多段重合法により製造する方法。なお、第2工程は、第1工程で生成された超高分子量ポリエチレン(A)の存在下で行われる。また、第1工程および第2工程の重合条件は、前記(x-1)および(x-2)など樹脂組成物(X)が満たすべき条件となるように選択される。
方法(M-3):オレフィン重合用触媒の存在下、第1工程としてポリエチレン(B)を生成させる工程と、第2工程として超高分子量ポリエチレン(A)を生成させる工程との少なくとも2段階の工程を含む多段重合法により製造する方法。なお、第2工程は、第1工程で生成されたポリエチレン(B)の存在下で行われる。また、第1工程および第2工程の重合条件は、前記(x-1)および(x-2)など樹脂組成物(X)が満たすべき条件となるように選択される。
また、超高分子量ポリエチレン(A)およびポリエチレン(B)は、例えば、WO2008/013144,WO2010/074073に記載の公知のオレフィン重合用触媒の存在下、樹脂組成物(X)が所望の物性となるような重合条件(温度70℃~85℃、重合時間45分~300分)とし、エチレンを含む単量体を重合することにより製造できる。
【0039】
方法(M-1)~(M-3)のうち、多段重合法を用いる方法(M-2)および(M-3)がより好ましく、第1工程で超高分子量ポリエチレン(A)を生成させる方法(M-2)がさらに好ましい。多段重合法を用いると、樹脂組成物(X)に含まれる超高分子量ポリエチレン(A)とポリエチレン(B)とが相容し、分散性が向上することから、耐摩耗性と成形性を両立させやすいため、好ましい。また、方法(M-2)を用いて本組成物を製造すると、連鎖移動反応を生じさせる連鎖移動剤の添加、重合温度の上昇などを第2工程において行うことにより、第2工程で得られるポリエチレン(ポリエチレン(B))の分子量を、第1工程で得られるポリエチレン(超高分子量ポリエチレン(A))の分子量よりも低く調整しやすいことから、製造効率に優れる点で好ましい。
【0040】
なお、この際、重合に用いるエチレンなどのオレフィンは、超高分子量ポリエチレン(A)およびポリエチレン(B)の項目において記載した各種オレフィンを制限無く用いることができる。
【0041】
≪成形体≫
樹脂組成物(X)は、従来公知の方法、具体的には、例えば、射出成形法、異形押出成形法、パイプ成形法、チューブ成形法、異種成形体の被覆成形法、インジェクションブロー成形法、ダイレクトブロー成形法、Tダイシートまたはフィルム成形法、インフレーションフィルム成形法、プレス成形法などの成形方法により、容器状、トレー状、シート状、棒状、フィルム状または各種成形体の被覆などに成形することができる。
【0042】
上記成形方法で得られた成形体は、従来公知のポリエチレン用途に広く使用できるが、特に耐摩耗性に優れているので、これらが要求される用途として、例えば、鋼管、電線、自動車スライドレールなどの金属の被覆、耐圧ゴムホース、自動車ドア用ガスケット、クリーンルームドア用ガスケット、自動車グラスランチャンネル、自動車ウエザストリップなどの各種ゴムのリール、各種ガイドレールやエレベーターレールガイド、各種保護ライナー材などの摺動材などに使用される。
【0043】
樹脂組成物(X)から得られる成形体に対して高荷重での摩耗試験(試験温度23℃、相手材S45、荷重25kg、速度30m/分、摺動距離3km)を行った場合、摩耗量は、好ましくは1000mg以下、より好ましくは500mg以下である。摩耗量は小さいほど好ましいが、下限は通常0.1mg以上である。前記条件下での摩耗試験による摩耗量が前記範囲であると、樹脂組成物(X)から得られる成形体の使用環境下において、耐摩耗性が充分であるため、好ましい。
【実施例0044】
以下、本発明を実施例に基づいて更に具体的に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されない。
【0045】
[測定条件等]
各物性の測定条件等は、以下のとおりである。
【0046】
〔極限粘度[η]〕
実施例および比較例で得られた各種ポリマーおよび樹脂組成物の極限粘度[η]は、135℃、デカリン溶媒中で測定した。なお、以下では、超高分子量ポリエチレン(A)の極限粘度を「極限粘度[η]u」と記載することがある。同様に、ポリエチレン(B)の極限粘度を「極限粘度[η]h」と記載することがある。また、比較例で使用した超高分子量ポリエチレン(CA)の極限粘度についても、「極限粘度[η]u」と記載することがある。
【0047】
〔密度〕
ポリエチレン(B)の密度は、ASTM D1505に準拠して測定した。
【0048】
〔MFR〕
実施例または比較例で得られた樹脂組成物のMFRを、ASTM D1238Eに準拠して、10kg荷重で測定した。測定温度は190℃とした。
【0049】
[実施例1]
〔固体状チタン触媒成分[C1]の調製〕
無水塩化マグネシウム75.0g、デカン280.3gおよび2-エチルヘキシルアルコール308.3gを反応容器に仕込み、130℃で3時間加熱した後、2-イソブチル-2-イソプロピル-1,3-ジメトキシプロパン19.9gを添加し、さらに100℃にて1時間攪拌混合を行なった。
このようにして得られた均一溶液を室温まで冷却した後、均一溶液30mlの全量を、0℃に保持した四塩化チタン80ml中に、攪拌しながら45分間かけて滴下し、混合液とした。滴下終了後、得られた混合液を6時間かけて110℃に昇温し、2-イソブチル-2-イソプロピル-1,3-ジメトキシプロパン0.55gを添加し、2時間にわたって、110℃にて攪拌下保持した。2時間の反応終了後、熱濾過にて固体部を採取し、洗液中に遊離のチタン化合物が検出されなくなるまで、90℃デカンで洗浄後、室温のヘキサンで充分洗浄した。
【0050】
以上の操作によって調製した固体状チタン触媒成分はデカンスラリーとして保存したが、触媒組成を調べる目的でこの内の一部を乾燥した。乾燥後の固体状チタン触媒成分[C1]の組成は、チタン2.8質量%、マグネシウム18.1質量%、塩素58.2質量%、2-イソブチル-2-イソプロピル-1,3-ジメトキシプロパン19.6質量%および2-エチルヘキシルアルコール残基1.4質量%であった。
【0051】
〔ポリエチレン樹脂組成物(X1)の製造〕
充分に窒素置換した内容積1リットルの重合器に、室温で500mlの精製デカンを装入し、温度65℃で、トリイソブチルアルミニウム0.5ミリモルと、固体状チタン触媒成分[C1](チタン原子換算で0.01ミリモル)とを加えた。次いで、重合器内の圧力がゲージ圧で0.40MPaGになるまでエチレンをフィードし、温度70℃で第1段目のエチレン重合を行った。エチレンを14リットルフィードした時点でエチレンのフィードを止め、温度を45℃まで急冷したのちに脱圧、窒素パージを行った。
以上の条件で第1段目のエチレン重合を行うことにより、第1段目のポリエチレンとしての超高分子量ポリエチレン(A1)が得られる。
【0052】
次いで、重合器に、重合器内の圧力がゲージ圧で0.40MPaGになるまで水素をフィードし、さらに重合器内の圧力がゲージ圧で0.60MPaGになるまでエチレンをフィードし、温度85℃で第2段目のエチレン重合を行った。エチレンを128リットルフィードした時点でエチレンのフィードを止め、温度を40℃まで急冷したのちに脱圧、パージを行った。
以上の条件で第2段目のエチレン重合を行うことにより、第2段目のポリエチレンとしての低分子量ないし高分子量ポリエチレン(B1)が得られる。
【0053】
上記で製造した固体を含むスラリーを濾過し、温度80℃で一晩減圧乾燥した。得られたポリエチレン樹脂組成物(X1)は178g、極限粘度[η]は3.2dl/gであった。上記重合は評価に必要な量を得るため複数回行った。
【0054】
〔ポリエチレン樹脂組成物(X1)中の各成分の分析〕
・超高分子量ポリエチレン(A1)の含有量および極限粘度[η]
ポリエチレン樹脂組成物(X1)を製造した際に行った第1段目の重合のみを、ポリエチレン樹脂組成物の製造時と同一の条件で別途行ったところ、得られたエチレン重合体の収量は17.8gであった。この重合により、超高分子量ポリエチレン(A1)が製造されているので、ポリエチレン樹脂組成物(収量178g)に占める超高分子量ポリエチレン(A1)の含有量は10.0質量%であると計算した。さらに、ポリエチレン樹脂組成物(X1)に含まれている超高分子量ポリエチレン(A1)の極限粘度[η]を測定したところ、39.0dl/gであった。
【0055】
・ポリエチレン(B1)の含有量および物性
ポリエチレン樹脂組成物(X1)を製造した際に行った重合のうちの第1段目の重合を省略し、第2段目の重合のみをポリエチレン樹脂組成物(X1)の製造時と同一の条件で別途行うことにより、ポリエチレン(B2)を製造した。ポリエチレン(B2)の極限粘度[η]は1.0dl/gであり、密度は971kg/m3であった。
次に、ポリエチレン(B2)について、ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)による分子量分布の測定を行い、ポリエチレン樹脂組成物(X1)についてのGPCによる分子量分布の測定結果と比較したところ、クロマトグラムのピーク位置と形状は、ポリエチレン樹脂組成物(X1)に含まれる低分子量側の成分(ポリエチレン(B1))と一致していた。なお、GPCによる分析の条件は、ポリエチレン(B2)の分析の際と、ポリエチレン樹脂組成物(X1)の分析の際で同じ条件とした。この結果に基づき、ポリエチレン(B1)の物性を、ポリエチレン(B2)の物性と同じとみなした。すなわち、ポリエチレン(B1)の極限粘度[η]を1.0dl/gとし、ポリエチレン(B1)の密度を971kg/m3とした。
【0056】
〔ポリエチレン樹脂組成物(X1)の造粒〕
上記で得られたポリエチレン樹脂組成物(X1)に、イルガノックス1010(BASF社製)、イルガフォス168(BASF社製)、およびステアリン酸カルシウム(日油社製)をドライブレンドした。各物質のブレンド量は、ドライブレンド後の組成物を100質量%とすると、イルガノックス1010が0.1質量%、イルガフォス168が0.2質量%、ステアリン酸カルシウムが0.12質量%であった。ドライブレンド後の組成物を、2軸押出機(テクノベル社製、φ=15mm、L/D=30、シリンダ温度:200℃)を用いて溶融混練し、その後、ペレット状に造粒にした。得られたペレットを用いて、ポリエチレン樹脂組成物(X1)の各物性を測定した。結果を表1に示す。
【0057】
〔成形体の成形〕
上記で得られたペレットを、射出成形機(NEX30-3E、日精樹脂工業株式会社製)を用いて射出成形することで、縦30cm×横30cm×厚さ2mmの試験片を作製した。
【0058】
〔耐滑り摩耗性の評価(リング摩耗試験)〕
上記で得られた試験片を用い、JIS K 7218「プラスチックの滑り摩耗試験法」に準拠し、鈴木式摩擦摩耗試験機を使用して比摩耗量を測定した。試験条件は、相手材:S45C、速度:30m/分、摺動距離:3km、荷重:25kg、測定環境温度:23℃とした。
【0059】
[実施例2]
第1段目の重合におけるエチレンのフィード量を14リットルから18リットル、第2段目の重合におけるエチレンのフィード量を128リットルから120リットルに変更した以外は、実施例1と同様に、ポリエチレン樹脂組成物(X2)の製造、分析、造粒、成形体の成形、および各物性評価を行った。結果を表1に示す。
【0060】
[実施例3]
第1段目の重合におけるエチレンのフィード量を14リットルから26リットル、第2段目の重合におけるエチレンのフィード量を128リットルから112リットルに変更した以外は、実施例1と同様に、ポリエチレン樹脂組成物(X3)の製造、分析、造粒、成形体の成形、および各物性評価を行った。結果を表1に示す。
また、ポリエチレン樹脂組成物(X3)の成形体に対して、25kg荷重下で行った滑り摩耗試験後の試験片の写真を図1に示す。図1に示す試験片では、相手材との摩擦箇所にリング状に削れた部分ができたものの、摩擦箇所は浅く削られただけであった。
【0061】
[比較例1]
〔固体状チタン触媒成分[C2]の調製〕
無水塩化マグネシウム95.2g、デカン398.1gおよび2-エチルヘキシルアルコール306gを反応容器に仕込み、140℃で6時間加熱した。反応容器中の溶液を50℃まで冷却してから安息香酸エチル17.6gを添加し、130℃にて1時間攪拌混合を行なって均一溶液とした。
このようにして得られた均一溶液を室温まで冷却した後、均一溶液50mlの全量を、0℃に保持した四塩化チタン200ml中に、攪拌しながら60分間かけて滴下し、混合液とした。滴下終了後、得られた混合液を1時間にわたって0℃で保持した後に、この混合液の温度を1時間かけて20℃に昇温し、さらに30分かけて80℃まで昇温したが、混合液の温度が78℃になったときに、混合液中に安息香酸エチル2.35gを添加し、温度を80℃に保ったまま2時間の反応を行った。2時間の反応終了後、熱濾過にて固体部を採取し、この固体部を200mlの四塩化チタンにて再懸濁させた後、90℃で2時間にわたって、再度の加熱反応を行った。再度の加熱反応終了後、再び熱濾過にて固体部を採取し、洗液中に遊離のチタン化合物が検出されなくなるまで、90℃のデカンで洗浄後、室温のヘキサンで充分洗浄した。
【0062】
以上の操作によって調製した固体状チタン触媒成分はデカンスラリーとして保存したが、触媒組成を調べる目的でこの内の一部を乾燥した。乾燥後の固体状チタン触媒成分[C2]の組成は、チタン3.1質量%、マグネシウム18質量%、塩素60質量%、安息香酸エチル15.4質量%および2-エチルヘキシルアルコール残基1.5質量%であった。
【0063】
〔ポリエチレン樹脂組成物(CX1)の製造〕
触媒成分を[C1]から[C2]へ変更し、触媒成分投入温度を65℃から48℃に変更し、第1段目の重合におけるエチレン重合温度を70℃から53℃に変更し、第1段目のエチレンのフィード量を14リットルから21リットルに変更し、第2段目のエチレンのフィード量を128リットルから119リットルに変更した以外は実施例1と同様に、ポリエチレン樹脂組成物(CX1)を製造した。なお、実施例1と同様にポリエチレン樹脂組成物(CX1)中の各成分の分析を行ったところ、ポリエチレン樹脂組成物(CX1)100質量%に対して、超高分子量ポリエチレン(CA1)(135℃デカリン中での極限粘度[η]=30dl/g)が15質量%、およびポリエチレン(B)(135℃デカリン中での極限粘度[η]=1.0dl/g)が85質量%含まれていた。
得られたポリエチレン樹脂組成物(CX1)の造粒、成形体の成形、および各物性評価を実施例1と同様に行った。さらに、ポリエチレン樹脂組成物(CX1)の成形体に対して、25kg荷重下で行った滑り摩耗試験後の試験片の写真を図2に示す。図2から、相手材との摩擦箇所にできたリングが試験片を貫通していることがわかる。
【0064】
[比較例2]
第1段目の重合におけるエチレンのフィード量を21リットルから28リットルに、第2段目の重合におけるエチレンのフィード量を119リットルから112リットルに変更した以外は、比較例1と同様にポリエチレン樹脂組成物(CX2)の製造、分析、造粒、成形体の成形、および各物性評価を行った。結果を表1に示す。
【0065】
[比較例3]
第1段目の重合におけるエチレンのフィード量を21リットルから33.6リットルに、第2段目の重合におけるエチレンのフィード量を119リットルから106.4リットルに変更した以外は、比較例1と同様に、ポリエチレン樹脂組成物(CX3)の製造、分析、造粒、成形体の成形、および各物性評価を行った。結果を表1に示す。
【0066】
【表1】
【0067】
ポリエチレン樹脂組成物から得られた成形体の滑り摩耗試験(25kg荷重)での摩耗量は、実施例1~3のいずれでも比較例1~3よりも小さく、実施例1~3のポリエチレン樹脂組成物が高荷重下において高い耐摩耗性を有することが示された。
図1
図2