(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024037252
(43)【公開日】2024-03-19
(54)【発明の名称】織物
(51)【国際特許分類】
A01G 13/02 20060101AFI20240312BHJP
D01F 8/06 20060101ALI20240312BHJP
【FI】
A01G13/02 E
A01G13/02 D
A01G13/02 F
D01F8/06
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022141949
(22)【出願日】2022-09-07
(71)【出願人】
【識別番号】000003159
【氏名又は名称】東レ株式会社
(72)【発明者】
【氏名】柴田 和則
(72)【発明者】
【氏名】花之内 裕隆
【テーマコード(参考)】
2B024
4L041
【Fターム(参考)】
2B024DA04
2B024DB04
4L041BA02
4L041BA05
4L041BA21
4L041BA46
4L041CA36
(57)【要約】
【課題】
波長選択透過機能を更に向上した織物を提供することを目的とする。
【解決手段】
熱可塑性樹脂を主成分として、可視光透過率から赤外線透過率を減じた値が35%以上であるテープ状ヤーンと、熱可塑性樹脂を主成分として、波長400~2500nmの平均透過率が70%以上であるモノフィラメントから構成され、前記テープ状ヤーンと、前記モノフィラメントの交点が固定されていることを特徴とする織物である。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱可塑性樹脂を主成分として、
可視光透過率から赤外線透過率を減じた値が35%以上であるテープ状ヤーンと、
熱可塑性樹脂を主成分として、
波長400~2500nmの平均透過率が70%以上であるモノフィラメントから構成され、
前記テープ状ヤーンと、前記モノフィラメントの交点が固定されていることを特徴とする織物。
【請求項2】
織物が複数の貫通孔を備え、
その貫通孔の面積値とテープ状ヤーンと交点をなしていないモノフィラメントの面積値との合計値を織物の面積値で除した数値を光学開口率と定義したとき、
前記光学開口率が1~15%であることを特徴とする請求項1に記載の織物。
【請求項3】
織物が複数の貫通孔を備え、
その貫通孔の面積値を織物の面積値で除した数値(百分率)を通気開口率と定義したとき、
前記通気開口率を前記光学開口率で除した数値(百分率)が75~95%であることを特徴とする
請求項1または2に記載の織物。
【請求項4】
前記モノフィラメントの織物の第1の面に露出している部分であり、かつ、
前記テープ状ヤーンと固定されている部分における第1の扁平度と、
前記モノフィラメントの織物の第2の面に露出している部分であり、かつ、
前記テープ状ヤーンと固定されている部分における第2の扁平度のうち、
より大きい扁平度の値を、より小さい扁平度の値で除した値が1.5~5.0で
あることを特徴とする請求項1~3のいずれかに記載の織物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、織物に関する。
【背景技術】
【0002】
農業において、夏場の高温障害に起因する農作物の生育不良や品質低下による生産性低下の問題がある。園芸作物ハウス(以下、ハウスと称することがある)においてはハウス内の温度が高くなり作業者の日射病や熱中症となるリスクが、昨今の気候変動の影響による気温上昇により年々増加している。これら課題に対しては、日よけシートをハウスの外側に被覆して太陽光によるハウス内の温度の上昇を抑制することが従来から行われてきた。
【0003】
しかしながら、日よけシートをハウスに被覆した場合、熱線となる赤外線が遮断されると同時に、農作物の成長に必要な可視光も遮断されてしまうトレードオフの課題があった。
【0004】
そこで、上記の課題に対応して、日よけシートとして、赤外線遮蔽機能を有するタングステン酸化物微粒子を含有するテープ状ヤーンを経糸もくしは緯糸の少なくとも一方に用い、テープ状ヤーンの総露出面積が織物の単位面積に占める割合が50%以上となる織物が知られている(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、赤外線遮蔽機能を有するタングステン酸化物微粒子を含有するテープ状ヤーンと、モノフィラメントとがからみ織りされている特許文献1に記載の織物は、上記のテープ状ヤーンと上記のモノフィラメントとの交点が存在するが、この交点では上記のテープ状ヤーンと上記のモノフィラメントとが固定されていない。このことにより、この交点では上記のテープ状ヤーンと上記のモノフィラメントとの間に空間(すなわち、空気層)が存在することになり、テープ状ヤーンと空気層の界面で反射が起こるため、赤外線の透過率のみならず、可視光の透過率も低下して、結果として、波長選択透過機能がハウス内で育成する農作物の種類によっては不十分であるという課題がある。
【0007】
なお、ここで、波長選択透過機能とは、多くの可視光線を透過し、かつ、多くの赤外線を遮蔽する能力のことを意味し、波長選択透過機能は、可視光線透過率(波長400~780nmの光線の透過率の算術平均値)から赤外線透過率(波長781~2500nmの光線の透過率の算術平均値)を引いた値であり、大きいほど優れる。よって、その値が大きいほど農業用日よけシートとしては好ましい。
【0008】
また、特許文献1に記載の織物においては、織物に波長選択透過機能に優れた糸を利用したとしても、上記の織物の波長選択透過機能が低下するという課題もある。
【0009】
そこで、本発明は上記の課題に鑑み、波長選択透過機能を更に向上した織物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
前記課題を解決するための、本発明の織物は次のようなものである。
すなわち、
(1)熱可塑性樹脂を主成分として、
可視光透過率から赤外線透過率を減じた値が35%以上であるテープ状ヤーンと、
熱可塑性樹脂を主成分として、
波長400~2500nmの平均透過率が70%以上であるモノフィラメントから構成され、
前記テープ状ヤーンと、前記モノフィラメントの交点が固定されていることを特徴とする織物であり、
また、(2)織物が複数の貫通孔を備え、
その貫通孔の面積値とテープ状ヤーンと交点をなしていないモノフィラメントの面積値との合計値を織物の面積値で除した数値を光学開口率と定義したとき、
前記光学開口率が1~15%であることを特徴とする(1)の織物であることが好ましい。
また、(3)織物が複数の貫通孔を備え、
その貫通孔の面積値を織物の面積値で除した数値(百分率)を通気開口率と定義したとき、
前記通気開口率を前記光学開口率で除した数値(百分率)が75~95%であることを特徴とする
(1)または(2)に記載の織物であることが好ましい。
また、(4)前記モノフィラメントの織物の第1の面に露出している部分であり、かつ、
前記テープ状ヤーンと固定されている部分における第1の扁平度と、
前記モノフィラメントの織物の第2の面に露出している部分であり、かつ、
前記テープ状ヤーンと固定されている部分における第2の扁平度のうち、
より大きい扁平度の値を、より小さい扁平度の値で除した値が1.5~5.0で
あることを特徴とする(1)~(3)のいずれかに記載の織物であることが好ましい。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、波長選択透過機能を更に向上した織物を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】本発明に係る織物の一例を示す模式図である。
【
図2】
図1で示す織物以外の第2の織物の、
図1で示す織物のAおよびA’と同様の部位における断面の概念図である。
【
図3】
図1で示す織物のAおよびA’における断面の概念図である。
【
図4】
図1で示す織物以外の第3の織物の、
図1で示す織物のAおよびA’と同様の部位における断面の概念図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実態の形態について
図1を用いて詳細に説明する。なお、
図1は、本発明に係る織物の一例を示す模式図である。
【0014】
本発明の織物1は、テープ状ヤーン2およびモノフィラメント3から構成される。また、このテープ状ヤーン2は熱可塑性樹脂を主成分として含有し、さらに、テープ状ヤーンの可視光透過率から赤外線透過率を減じた値は35%以上である。また、このモノフィラメント3は熱可塑性樹脂を主成分として含有し、さらに、モノフィラメントの波長400~2500nmの平均透過率は70%以上である。そして、このテープ状ヤーン2と、このモノフィラメント3の交点は固定されている。
【0015】
これらの特徴の全てを具備する本発明の織物は、波長選択透過機能に優れたものとなる。次に、本発明の織物が波長選択透過機能に優れるメカニズムは以下の通りと推測する。すなわち、本発明の織物は、可視光透過率から赤外線透過率を減じた値が35%以上であるとの特徴(以下、特徴1)を備えるテープ状ヤーン1と、波長400~2500nmの平均透過率が70%以上であるとの特徴(以下、特徴2)を備えるモノフィラメント2との交点を備え、この交点では上記のテープ状ヤーンと上記のモノフィラメントとが固定されているとの特徴(以下、特徴3)も備える。詳細は後述するが、この交点では、テープ状ヤーンとモノフィラメントとが重なっているが、特徴1および特徴2により、上記の交点部分を透過することになる可視光線の多くは上記の交点部分を通過し、上記の交点部分を通過することになる赤外線の多くは上記の交点部分で遮蔽される。さらに、上記の交点部分では、上記のテープ状ヤーンと上記のモノフィラメントとが固定されており、上記のテープ状ヤーンと上記のモノフィラメントとの間に空間が存在しないことで、上記の交点における波長選択透過機能が良好なものとなり、結果として、本発明の織物の波長選択透過機能も良好なものとなる。
【0016】
より具体的には、本発明の織物1はテープ状ヤーン2とモノフィラメント3とで構成されており、この織物1においては、テープ状ヤーン2とモノフィラメント3とが重なっている部分と、テープ状ヤーン2とモノフィラメント3とが重なっていない部分とが存在する。また、本発明の織物には、テープ状ヤーン2とモノフィラメント3のいずれも存在しない部分、すなわち、開口部も存在する。ここで、テープ状ヤーン2とモノフィラメント3とが重なっている部分は、テープ状ヤーン2とモノフィラメント3の交点である。この交点では、テープ状ヤーンとモノフィラメントが固定されているため目ズレを起こしにくく、また、テープ状ヤーンやモノフィラメントと、織物がなす隙間が小さくなる。そうすると本発明の織物をハウスに被覆する際に、ハウス表面のバリや突起が、上記隙間に入って引っ掛かりにくくなり、動摩擦係数が小さくなる。動摩擦係数が小さいと、ハウスへの被覆時の小さな力でスライドさせることができ、位置の微調整が容易となるため好ましい。また、上記の開口部は貫通孔であり、この開口部の存在により本発明の織物の通気性は優れたものとなる。織物の通気性が優れていると、本発明の織物を日よけシートとして用い、この織物でハウスを被覆した際に、ハウスと織物の間に日射により高温となった空気が留まることを抑制することができ、結果として、ハウスの温度上昇を抑制できるため好ましい。
【0017】
本発明の織物を光線が略垂直に通過する場合、光線が、通過する領域は以下の4つのいずれかである。まず、第1に、領域(I)テープ状ヤーンのみの領域4であり、第2に、領域(II)モノフィラメントのみの領域5であり、第3に、領域(III)テープ状ヤーンとモノフィラメントの交点の領域6であり第4に、領域(IV)テープ状ヤーンもモノフィラメントも存在しない、すなわち開口部の領域7である。これらの領域のうち、波長選択透過機能を発現するのは、領域(I)、および、領域(III)の2つであり、領域(I)の面積と領域(III)の面積の合計が、織物の全面積に占める割合が高いほど、織物の波長選択透過機能が向上するため好ましい。
【0018】
ここで、テープ状ヤーンとモノフィラメントを、これらの交点において、融着や接着等の方法で固定すると、前記テープ状ヤーンと前記モノフィラメントの中間に存在する空間、すなわち空気層をなくし、一体化することができる。空気層が存在していた場合、前記テープ状ヤーンと空気層の界面、前記モノフィラメントと空気層の界面で生じる反射には波長選択透過機能が発現しないため、織物としての波長選択透過機能が低下する。
【0019】
前記テープ状ヤーンと前記モノフィラメントとの間に空気層が存在することで、織物の波長選択透過機能が低下するメカニズムとして以下のとおり推測する。光源、テープ状ヤーン、空気層、モノフィラメント、観測者がこの順に位置する場合、光源からの光線(この光線は、少なくとも赤外線と可視光線を含む太陽光などが想定される)がテープ状ヤーン通過した時点では、テープ状ヤーンが有する波長選択透過機能により可視光線は大部分が通過し、赤外線は大部分が遮蔽される。次に、テープ状ヤーンを透過した光線の一部は、空気層とモノフィラメントとの界面で波長に関係なく一定の比率の光線が反射される。次に、空気層とモノフィラメントとの界面を透過した光線はモノフィラメントに到達するが、このモノフィラメントでは可視光および赤外線の何れとも吸収されないか、吸収されたとしても極少量である。そして、モノフィラメントを透過した光線は観測者に届く。
【0020】
上記のことについて、以下のとおり具体例を示す。光源、テープ状ヤーン、空気層、モノフィラメントおよび観測者がこの順に配置されてなる織物の上記領域(III)の場合、このテープ状ヤーンを透過後の可視光線の量の、テープ状ヤーン透過前の可視光線の全量を100%としたときの比率(以降、可視光線の比率と略する)は64%であり、このテープ状ヤーンを透過後の赤外線の量の、テープ状ヤーン透過前の赤外線の全量を100%としたときの比率(以降、赤外線の比率と略する)は18%であり、テープ状ヤーンの波長選択透過機能は46%である。次に、空気層とモノフィラメントとの界面で可視光線および赤外線は何れも各々10%が反射される場合には、上記の界面を透過する可視光線の比率は57.6%となり、上記の界面を透過する赤外線の比率は16.2%となる。さらに、モノフィラメントでは可視光線および赤外線の何れも吸収されない場合、観測者に届く(すなわち、織物の上記領域(III)を透過する)可視光線の比率は57.6%となり、赤外線の比率は16.2%となる。この場合の、織物の上記領域(III)の波長選択透過機能は41.4%となる。
【0021】
一方で、テープ状ヤーンとモノフィラメントとの間に空気層が存在しない織物の上記領域(III)、すなわち、光源、テープ状ヤーン、モノフィラメントおよび観測者がこの順に配置されてなる織物の上記領域(III)の場合では、このテープ状ヤーンを透過する可視光線の比率は64%とし、このテープ状ヤーンを透過する赤外線の比率は18%としたとき、テープ状ヤーンの波長選択透過機能は46%となる。次に、透過した可視光線と赤外線とはテープ状ヤーンとモノフィラメントとの固定部(すなわち、界面)を透過するが、ここでは可視光線および赤外線は何れも反射されないか、反射されたとしても極少量である。上記の固定部での可視光線および赤外線の反射が起こらない場合、モノフィラメントに到達する可視光線と赤外線の比率は各々、64%および18%であり、モノフィラメントでの可視光線および赤外線の吸収がない場合には、観測者に届く(すなわち、織物の上記領域(III)を透過する)可視光線の比率は64%であり、赤外線の比率は18%となる。この場合の、織物の上記領域(III)の波長選択透過機能は46%となる。
【0022】
よって、空気層が存在しない織物の上記領域(III)の波長選択透過機能は46%と、空気層が存在する織物の上記領域(III)の波長選択透過機能である41.4%よりも高く、空気層が存在しない織物の上記領域(III)の波長選択透過機能は優れていることがわかる。織物を構成する複数の領域の一部である上記領域(III)の波長選択透過機能が優れていることにより、織物全体としても波長選択透過機能が優れることになる。
【0023】
なお、厳密には、前記テープ状ヤーンと前記モノフィラメントとが固定されている場合であっても、前記テープ状ヤーンと前記モノフィラメントとの融着面や、固定に接着剤および粘着剤が用いられている場合、テープ状ヤーン等と接着材等の界面が存在するが、いずれの場合も樹脂を主成分とする物質同士の界面であり、それぞれの屈折率差は、樹脂と空気層の屈折率差よりは大幅に小さく、界面での反射は大幅に低減される。
【0024】
次に、本発明の織物が有するテープ状ヤーンについて説明する。このテープ状ヤーンは、熱可塑性樹脂を主成分として含有する。
【0025】
ここで、熱可塑性樹脂を主成分として含有するとは、テープ状ヤーンの全体に対し50質量%を超えて熱可塑性樹脂を含んでいることを意味する。この熱可塑性樹脂は、具体的には、ポリオレフィン、ポリエステル、メタクリル酸エステル、ポリカーボネート、および。それらの混合物などあらゆる熱可塑性樹脂を採用することができる。生産性の観点より、好ましくはポリエチレン、ポリプロピレン、およびポリエチレンテレフタレートである。
【0026】
このテープ状ヤーンは、可視光透過率から赤外線透過率を減じた値が35%以上である。ここで、可視光透過率から赤外線透過率を減じた値が高いほど、テープ状ヤーンは、より多くの可視光線を透過し、より多くの赤外線を遮断するものであることを意味する。よって、可視光透過率から赤外線透過率を減じた値がより高いテープ状ヤーンほど、日よけシートに用いる織物に好適であるといえる。テープ状ヤーンの可視光透過率から赤外線透過率を減じた値が35%以上とする方法としては、テープ状ヤーンに赤外線遮蔽剤を添加する方法が挙げられる。
【0027】
赤外線遮蔽剤としては、無機化合物ではタングステン酸化物、アンチモン酸化物、インジウム酸化物が挙げられ、有機化合物ではシアニン色素、フタロシアニン色素、ナフタロシアニン化合物、ニッケルジチオレイン錯体、アゾ化合物等が挙げられる。これらの赤外線遮蔽剤を熱可塑性樹脂に分散させたものは、可視光透過率が赤外線透過率よりも高い特徴がある。耐候性の観点から赤外線遮蔽剤は、無機化合物であることが好ましく、さらには、太陽光線に多く含まれる800~1200nmの赤外線を遮蔽する能力に優れるという理由からタングステン酸化物であることが好ましく、さらに、上記の観点からタングステン酸化物の中でもセシウム酸化タングステンであることがより好ましい。
【0028】
テープ状ヤーンに赤外線遮蔽剤が含まれているとき、前記テープ状ヤーンにおける赤外線遮蔽剤の目付は、目的とする可視光透過率や赤外線透過率により決定されるが、波長選択透過機能が優れるという観点から0.5~2.5g/m2の範囲内であることが好ましい。より好ましくは1.0~2.0g/m2であり、さらに好ましくは、1.3~1.8g/m2である。
【0029】
テープ状ヤーンの厚みは20~100μmであることが好ましく、より好ましくは25~80μmさらにより好ましくは30~60μmである。20μm以上とすることで、テープ状ヤーンの長手方向と平行方向の引っ張り強度を強くすることができる。100μm以下とすることで、織物を軽量とすることができる。
【0030】
テープ状ヤーンの幅は、1.0~20.0mmであることが好ましい。より好ましくは2.0~10.0mmであり、さらにより好ましくは2.5~8.0mmである。テープ状ヤーンの幅を1.0mm以上とすることで、糸数を減らし、生産性を高くすることができ、また、テープ状ヤーンが扁平となり、製織時の糸の捻れが生じにくくできる。テープ状ヤーンの幅を20.0mm以下とすることで、テープ状ヤーンを、特殊な織機ではなく、汎用的な織機に適用しやすくなる。
【0031】
テープ状ヤーンは、固定層、基材層および固定層をこの順に積層してなる三層積層であることがテープ状ヤーンとモノフィラメントの交点の固定がより強固となり、浮きやボイド噛み込みの発生を抑制することができる点において好ましい。浮きやボイド噛み込みがあると織物を略垂直方向に透過する光線にとって空気層が存在することになり、織物の波長選択透過機能を低下させてしまうことがある。固定層とは、テープ状ヤーンとモノフィラメントとの接触部(交点)を固定する機能を有する層であり、その材料としては低密度ポリエチレン(LDPE)や直鎖状低密度ポリエチレン(LLDPE)などの低融点熱可塑性樹脂やアクリル系やシリコーン系、エポキシ系などの各種接着剤、アクリル系やシリコーン系、ウレタン系、ゴム系などの各種粘着剤などを用いることができる。これらの中でも、共押出により固定層と基材層の同時生産が可能であり、かつ常温タック性がなく保護フィルムが不要という観点から、テープ状ヤーンの固定層は低密度ポリエチレン(LDPE)または直鎖状低密度ポリエチレン(LLDPE)または、それらの混合物を用いることがより好ましい。
【0032】
また、基材層とは、赤外線遮蔽剤を含有する場合の母材となる機能、テープ状ヤーンの機械的強度を得る機能を有する層で、その材料としては高密度ポリエチレンやポリプロピレン、および、ポリ塩化ビニルなどを用いることができる。
【0033】
固定層、基材層および固定層の各々の厚みの比は、一方の面の側の固定層の厚みと基材層の厚みの比が1:98~25:50であることが好ましく、より好ましくは5:90~15:70である。固定層を5%以上とすることで前記テープ状ヤーンと前記モノフィラメントの固定を強固とし、浮きやボイド噛み込みを低減することができる。また、固定層よりも剛直な基材層を40%以上とすることで、テープ状ヤーンの変形を抑制することができる。なお、他方の面の側の固定層の厚みと基材層の厚みの比も上記の範囲内であることが好ましい。また、一方の面の側の固定層の厚みと基材層の厚みの比と他方の面の側の固定層の厚みと基材層の厚みの比とは、同じであってもよいし、異なっていてもよい。
【0034】
本発明の織物が有するモノフィラメントについて説明する。このモノフィラメントは、熱可塑性樹脂を主成分として含有する。
【0035】
ここで、主成分として含有するとは、モノフィラメントの全体に対し50質量%を超えて熱可塑性樹脂を含んでいることを意味する。この熱可塑性樹脂は、具体的には、ポリオレフィン、ポリエステル、メタクリル酸エステルおよびポリカーボネートやそれらの混合物などあらゆる熱可塑性樹脂を採用することができる。生産性の観点より、好ましくはポリエチレン、ポリプロピレン、およびポリエチレンテレフタレートである。
【0036】
モノフィラメントの直径は、0.1~1.0mmであることが好ましい。0.1mm以上の直径とすることで、モノフィラメントと平行方向の引っ張り強度を強くすることができるとともに、モノフィラメント糸の厚み(直径)を利用して、織物に立体的な隙間と表面の凹凸を発生させることができる。織物に立体的な隙間があることで、日射により高温になった空気の通り道となりハウスを冷却させたり、環境変化により結露が生じた際の湿気を排出させたりする効果が期待できる。また、織物の凹凸によりハウス被覆するにハウス天井や壁面と織物の接触面積を限定的とすることができ、汚れによる固着を抑制することができ好ましい。モノフィラメントの直径を1.0mm以下とするとフィラメントのコシ(折り曲げ耐性)を限定的なものとし、織物の折り畳みが容易とすることができる。
【0037】
また、モノフィラメントは、固定層を鞘とし、基材層を芯とする芯鞘構造であることが、テープ状ヤーンとモノフィラメントの交点の固定がより強固となり、浮きやボイド噛み込みの発生を抑制することができる点において好ましい。浮きやボイド噛み込みがあると織物を略垂直方向に透過する光線にとって空気層が存在することになり、織物の波長選択透過機能を低下させてしまうことがある。固定層とは、テープ状ヤーンとモノフィラメントとの接触部(交点)を固定する機能を有する層であり固定層には、その材料としては低密度ポリエチレン(LDPE)や直鎖状低密度ポリエチレン(LLDPE)などの低融点熱可塑性樹脂やアクリル系やシリコーン系、エポキシ系などの各種接着剤、アクリル系やシリコーン系、ウレタン系、ゴム系などの各種粘着剤などを用いることができる。これらの中でも、共押出により固定層と基材層の同時生産が可能であり、かつ常温タック性がなく取扱容易という観点から、モノフィラメントの固定層は低密度ポリエチレン(LDPE)または直鎖状低密度ポリエチレン(LLDPE)または、それらの混合物として熱融着により固定することを用いることがより好ましい。
【0038】
また、基材層とは、赤外線遮蔽剤を含有する場合の母材となる機能、モノフィラメントの機械的強度を得る機能を有する層で、その材料としては高密度ポリエチレンやポリプロピレン、および、ポリ塩化ビニルなどを用いることができる。
モノフィラメントは、固定層を鞘とし、基材層を芯とする芯鞘構造とする場合、モノフィラメントの横断面に占める固定層の断面積の比率は、1~50%であることが好ましく、より好ましくは5~15%である。この比率が1%以上であることで、テープ状ヤーンとモノフィラメントの固定が強固となり、浮きやボイド噛み込みを低減することができる。また、この比率が50%以下であることで、モノフィラメントにおける基材層の含有量が相対的に多くなり、この基材層は剛直であるため、モノフィラメントの長手方向に平行方向の引っ張り強度が強くなり、結果、本発明の織物の強度がより優れたものとなる。モノフィラメントの横断面形状は円形、楕円形、矩形、星形、Y型など特に限定されないが、口金の製造やメンテナンスが容易な円形が好ましい。
【0039】
本発明の織物は、テープ状ヤーンを経糸とし、モノフィラメントを緯糸とすることも、テープ状ヤーンを緯糸とし、モノフィラメントを緯糸とすることもどちらも可能である。テープ状ヤーンを経糸に用いる方が、テープ状ヤーンに捻れや折れが生じにくいため好ましい。
【0040】
本発明の織物の織り方は、平織り、綾織り、繻子織り、からみ織り等の公知の方法を利用することができるが、モノフィラメントの厚みで表面凹凸を効果的に発生させる観点から平織りが好ましい。
【0041】
本発明の織物は、織物が複数の貫通孔を備え、その貫通孔の面積値とテープ状ヤーンと交点をなしていないモノフィラメントの面積値との合計値を織物の面積値で除した数値を光学開口率と定義したとき、前記光学開口率が1~15%であることが好ましい。
図1を用いて具体的に説明すると、光学開口率は、
図1の符号5で示す領域(II)と
図1の符号7で示す領域(IV)の合計面積を、
図1の符号4で示す領域(I)と
図1の符号5で示す領域(II)と
図1の符号6で示す領域(III)と
図1の符号7で示す領域(IV)の合計面積で除して得られる値に100を乗じることで求めることができる。光学開口率は、より好ましくは2~13%、さらにより好ましくは3~10%である。光学開口率の値が小さいほど、領域(II)および領域(IV)の合計面積の織物の全面積に占める比率が小さくなる。一方で、領域(I)および領域(III)の合計面積の織物の全面積に占める比率が大きくなる。ここで、領域(II)および領域(IV)は波長選択透過機能を有しないが、領域(I)および領域(III)は波長選択透過機能を有するため、光学開口率の値が小さいほど、織物全体の波長選択透過機能が優れることとなる。以上のことから、光学開口率を15%以下とすることで、織物の波長選択透過機能は優れたものとなる。この効果が得られるのは、波長選択透過機能を有するテープ状ヤーンが織物の多くの面積を占めることで、織物が赤外線を多く遮蔽できるためであると推測する。光学開口率が1%未満となると貫通孔の面積が小さくなり、ハウスと日よけシートの間の熱せられた空気や湿気が排出されにくくなることがある。前記光学開口率を1~15%とする手段としては、テープ状ヤーンおよびモノフィラメントの幅および打込本数を適切な範囲とすることや、織物の織り方を平織りとし、かつテープ状ヤーンとモノフィラメントの交点を熱融着することが挙げられる。
【0042】
本発明の織物は、織物が複数の開口部、すなわち、貫通孔を備え、その貫通孔の面積値を織物の面積値で除した数値(百分率)を通気開口率と定義したとき、通気開口率を光学開口率で除した数値が75~95%であることが好ましい。
図1を用いて具体的に説明すると、通気開口率は、
図1の符号7で示す領域(IV)の面積を、
図1の符号4で示す領域(I)と
図1の符号5で示す領域(II)と
図1の符号6で示す領域(III)と
図1の符号7で示す領域(IV)の合計面積で除して得られる値に100を乗じることで求めることができる。
【0043】
ここで、通気開口率を光学開口率で除した数値(百分率)が75%以上であることで、本発明の織物の通気度はより優れたものとなる。一方で、通気開口率を光学開口率で除した数値(百分率)が95%以下であることで、本発明の織物の強度がより優れたものとなる。
【0044】
通気開口率を光学開口率で除した数値(百分率)を75~95%とする方法としては、織物としての必要な強度が維持できる範囲で、モノフィラメントに幅の狭いものを用いることや、前記モノフィラメントの打込本数を少なくすることが挙げられる。
【0045】
本発明の織物は、必要最小限の通気性を有しつつ、波長選択透過機能が高いことが特徴である。これらのいずれにも寄与しない、テープ状ヤーンと交点をなしていないモノフィラメントの織物における露出面積は小さい方が好ましい。通気開口率を光学開口率で除した数値(百分率)が75~95%の範囲であると必要最小限の通気性を有しつつ、波長選択透過機能を高めることができ好ましい。前記モノフィラメントの長手方向と平行方向の織物の強度を十分とするためには、前記モノフィラメントが一定以上の太さで、一定以上の打込本数で存在している必要があり、その結果としてモノフィラメントが一定の面積を占めることになる。そのため、前記モノフィラメント前記通気開口率を前記光学開口率で除した数値(百分率)が95%以下であることが好ましい。
【0046】
本発明の織物は、本発明の効果を阻害しない範囲内において、防曇剤、防汚剤、忌避剤、防虫剤、抗菌剤などの機能を後加工で付与することができる。機能付与の方法としては例えば、ディップ-ニップ方式、スプレー方式等を挙げることができる。
【0047】
本発明の織物は、農業用シートなどの屋外での使用など太陽光を浴びる環境下での使用が想定される場合には、耐候性を向上させるために、紫外線遮蔽剤や光安定剤を機能付与することが好ましい。紫外線遮蔽剤としては、トリアジン誘導体やベンゾトリアゾール誘導体などがある。光安定剤としては、ヒンダードアミン誘導体などがある。紫外線遮蔽剤や光安定剤を機能付与する方法としては、テープ状ヤーン内部やモノフィラメント内部へ配合してもよいし、後加工で付与してもよい。
【0048】
本発明の織物は、前記モノフィラメントの織物の第1の面に露出している部分であり、かつ、
前記テープ状ヤーンと固定されている部分における第1の扁平度と、前記モノフィラメントの織物の第2の面に露出している部分であり、かつ、前記テープ状ヤーンと固定されている部分における第2の扁平度のうち、より大きい扁平度の値を、より小さい扁平度の値で除した値が1.5~5.0で
あることが好ましい。
【0049】
上記の値が1.5~5.0となる織物の構成は、例えば、以下のようなものであることを意味する。すなわち、織物の第1面側に露出しているモノフィラメントのテープ状ヤーンと固定されている部分の第1の扁平度と、織物の第2面側に露出しているモノフィラメントのテープ状ヤーンと固定されている部分の第2の扁平度とを比較すると、第1の扁平度が第2の扁平度の1.5~5.0倍である織物を意味する。ここで、モノフィラメントの扁平度が大きいほど、その断面の形状は矩形状により近くなり、扁平度のより大きいモノフィラメントが露出している織物の面の他の部材との動摩擦係数はより大きくなる。上記の他の部材とは、本発明の織物を日よけシートに用いる場合には、ハウスの天井や壁を構成する材料が想定される。
【0050】
そうすると、上記の値が1.5~5.0となる織物では、織物の第1の面および織物の第2の面の何れか一方の動摩擦係数が大きく、他方の面の動摩擦係数は上記の一方の面の動摩擦係数よりも小さい。このような織物を日よけシートとして使用した場合には、以下の効果が期待できる。織物の動摩擦係数が大きい面がハウスと接触するように日よけシートをハウスに設置した場合には、日よけシートがハウスからずり落ちることを抑制できる。また、逆に、織物の動摩擦係数が小さい面がハウスと接触するように日よけシートをハウスに設置した場合には、日よけシートをハウスの上に載せた後に日よけシートの設置位置を調整し易くなる。すなわち、日よけシートの使用者は、織物のどちらの面をハウスと接触させるかで、「上記のずり落ちの抑制」および「上記の設置位置の調整の容易さ」のうち、所望の効果を選択して得ることができる。
【0051】
また、上記の値が1.5~5.0となる織物を得る方法としては、特に限定はされないが、以下のものを挙げることができる。すなわち、本発明の織物は、テープ状ヤーンとモノフィラメントの交点を固定する方法によってモノフィラメントの扁平度を制御することができる。テープ状ヤーンと、モノフィラメントを平織りし、熱ロールで第1の面と第2の面の両方から加圧加熱し融着した場合、熱ロールに接触したモノフィラメントは平たく変形する(
図4のモノフィラメント3Aおよび3B)。すなわちモノフィラメントの扁平度を上げることができる。また、テープ状ヤーンとモノフィラメントを平織りし、熱風オーブンやIRヒーターで加熱することで融着した場合は、モノフィラメントはあまり変形しない(
図2のモノフィラメント3Aおよび3B)。テープ状ヤーンとモノフィラメントを平織りし、第2の面だけ熱ロールで加圧加熱し融着した場合は、熱ロールに接触した第2の面のモノフィラメントのみ平たく変形する(
図3のモノフィラメント3B)。すなわちモノフィラメントの扁平度を上げることがでる。また、熱ロールに接触しない第1の面のモノフィラメントは、あまり変形させないままとすることができる(
図3のモノフィラメント3A)。第2の面だけ熱ロールで加圧加熱させる方法としては、織物を熱ロールに第2の面が接するように大きな抱き角で抱かせて織物に張力を掛ける方法が挙げられる。
【0052】
また、
図2は、
図1で示す織物以外の第2の織物の、
図1で示す織物のAおよびA’と同様の部位における断面の概念図である。この断面では、織物の第1の面側8Aに露出しているモノフィラメント3Aの、モノフィラメントとテープ状ヤーン2との交点における扁平度は低い。また、この断面では、織物の第2の面側8Bに露出しているモノフィラメント3Bの、モノフィラメントとテープ状ヤーン2との交点における扁平度も低い。よって、この織物の両面の他の部材との間の動摩擦係数は低くなる。また、このタイプの織物は、上記の値が1.5~5.0の範囲外となる傾向がある。
【0053】
次に、
図3は、
図1で示す織物のAおよびA’における断面の概念図である。この断面では、織物の第1の面側8Aに露出しているモノフィラメント3Aの、モノフィラメントとテープ状ヤーン2との交点における扁平度は低い。一方で、この断面では、織物の第2の面側8Bに露出しているモノフィラメント3Bの、モノフィラメントとテープ状ヤーン2との交点における扁平度は高い。よって、この織物の第1の面の他の部材との間の動摩擦係数は低く、この織物の第2の面の他の部材との間の動摩擦係数は高い。また、このタイプの織物は、上記の値が1.5~5.0の範囲内となる傾向がある。
【0054】
最後に、
図4は、
図1で示す織物以外の第3の織物の、
図1で示す織物のAおよびA’と同様の部位における断面の概念図である。この断面では、織物の第1の面側8Aに露出しているモノフィラメント3Aの、モノフィラメントとテープ状ヤーン2との交点における扁平度は高い。また、この断面では、織物の第2の面側8Bに露出しているモノフィラメント3Bの、モノフィラメントとテープ状ヤーン2との交点における扁平度も高い。よって、この織物の両面の他の部材との間の動摩擦係数は高くなる。また、このタイプの織物は、上記の値が1.5~5.0の範囲外となる傾向がある。
【0055】
波長選択透過機能に優れる本発明の織物は、さらに必要十分な通気性を有する方が好ましい。また、本発明の織物は、さらに一方の面の動摩擦係数が高く、他方の面の動摩擦係数が低いことで上記「ずり落ちの抑制」および、上記「設置位置の調整の容易さ」の効果を選択できる機能を有する方が好ましい。
【0056】
波長選択透過機能に優れる本発明の織物は、さらに必要十分な通気性を有し、さらに上記「ずり落ちの抑制」および、上記「設置位置の調整の容易さ」の効果を選択できる機能を有することが、より好ましい。
【0057】
また、本発明の織物は、日よけシート、オーニング、シェード、インテリアカーテン、およびブラインドなどに好適に用いられる。ここで、本発明の織物の効果を阻害しない範囲において、これらは、本発明の織物以外のシート状物などを含んでいてもよい。具体的には、本発明の織物を農業用ハウスなどの施工対象物に施工する際に、織物の幅や長さが足りない場合などには、上記の織物以外のシート状物を縫製により一体化したものであってもよい。
【実施例0058】
以下、実施例に基づいて本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。また、実施例中の性能は次の方法で測定した。
【0059】
[測定方法]
(1)テープ状ヤーンの可視光透過率と赤外線透過率
織物からモノフィラメントとの交点を成さない部分を含むテープ状ヤーン試験片を無作為に5か所採取した。顕微紫外可視近赤外分光光度計「MSV-5200DGK(日本分光株式会社製)」を用い、試験片の一方の面と他方の面とにおいて、テープ状ヤーンのモノフィラメントとの交点を成さない部分を、波長範囲400~2500nmの光線の透過率を測定した。一方の面と他方の面とにおいて、得られた10個の波長400~780nmの範囲の透過率の平均値を可視光透過率(%)とし、波長781~2500nmの範囲の透過率の平均値を赤外線透過率(%)とした。測定アパーチャ径は100μmとし、サンプリング間隔は1nmとした。
【0060】
(2)モノフィラメントの波長400~2500nmの平均透過率
織物からテープ状ヤーンとの交点を成さない部分を含むモノフィラメント試験片を無作為に5か所採取した。顕微紫外可視近赤外分光光度計「MSV-5200DGK(日本分光株式会社製)」を用い、試験片の一方の面と他方の面とにおいて、モノフィラメントのテープ状ヤーンと交点を成さない部分を、波長範囲400~2500nmの光線の透過率を測定した。一方の面と他方の面とにおいて、得られた10個の波長400~2500nmの範囲の透過率の平均値をモノフィラメントの波長400~2500nmの平均透過率とした。測定アパーチャ径は100μmとし、サンプリング間隔は1nmとした。
【0061】
(3)光学開口率
光学開口率は、織物をキーエンス株式会社製マイクロスコープVHX8000にて織物の平面に対して垂直方向から対物レンズ倍率25倍で観察し、付属ソフトウェアの面積測定機能を利用し、
図1の符号5で示す領域(II)と
図1の符号7で示す領域(IV)の合計面積を、
図1の符号4で示す領域(I)と
図1の符号5で示す領域(II)と
図1の符号6で示す領域(III)と
図1の符号7で示す領域(IV)の合計面積で除して得られる値に100を乗じることで求めた。織物から無作為に10カ所採取して上記測定を行いその平均値を光学開口率とした。
【0062】
(4)通気開口率
光学開口率は、織物をキーエンス株式会社製マイクロスコープVHX8000にて織物の平面に対して垂直方向から対物レンズ倍率25倍で観察し、付属ソフトウェアの面積測定機能を利用し、
図1の符号7で示す領域(IV)の面積を、
図1の符号4で示す領域(I)と
図1の符号5で示す領域(II)と
図1の符号6で示す領域(III)と
図1の符号7で示す領域(IV)の合計面積で除して得られる値に100を乗じることで求めることができる。織物から無作為に10カ所採取して上記測定を行いその平均値を光学開口率とした。
【0063】
(5)テープ状ヤーンおよびモノフィラメントの幅および、厚み
テープ状ヤーンおよびモノフィラメントの交点を成していない位置を、長手方向に対して垂直に片刃のカミソリで切断し、断面をキーエンス株式会社製マイクロスコープVHX8000にて、断面に対して垂直方向から対物レンズ倍率25倍で観察して求めた。無作為に10箇所、付属ソフトウェアにて長さを測定しその平均値をテープ状ヤーンまたはモノフィラメントの幅、厚みとした。
【0064】
(6)テープ状ヤーンとモノフィラメントの交点におけるモノフィラメントの扁平度
キーエンス株式会社製マイクロスコープVHX8000にて観察し、テープ状ヤーンとモノフィラメントの交点における、モノフィラメントの横断面を対物レンズ倍率25倍で観察し、長軸方向の長さD/短軸方向の長さdから下記の式により求めた。上記の操作を織物から無作為に選定した10箇所で実施し、得られた10個の値の平均値をテープ状ヤーンとモノフィラメントの交点におけるモノフィラメントの扁平度とした。
扁平度=D/d
(7)動摩擦係数
織物から幅70mm、長さ150mmの短冊状のサンプルを無作為な位置、角度で10本切り出した。農業用ポリオレフィンフィルム(サンテーラ株式会社製クリンテートEX)のハウス展張時に外面とするように指示されている面を相手材とし、滑り片の全質量を500gとした以外はJIS K7125(1999)の方法で測定した。10本測定した平均値を動摩擦係数とした。
【0065】
[実施例1]
(テープ状ヤーン)
高密度ポリエチレン樹脂チップ(京葉ポリエチレン株式会社製E8040)とタングステン酸化物微粒子としてセシウム酸化タングステンが分散された粉体(住友金属鉱山株式会社製YMDS-874、セシウム酸化タングステンの濃度23質量%)を配合比43.5:56.5となるように混錬・チップ化しマスターチップを作製した。
【0066】
三層積層の共押出にて、前記セシウム酸化タングステンが2.9質量%となるように、前記マスターチップを高密度ポリエチレン樹脂チップ(京葉ポリエチレン株式会社製E8040)で希釈して基材層とし、基材層の両面に低密度ポリエチレン(住友化学株式会社製スミカセンF200)を固定層として配したフィルムを作製した。このとき、固定層/基材層/固定層の厚み比は1/8/1とした。
【0067】
その後、フィルムを所定の幅にスリットし、110℃熱板にて7倍に延伸し、120℃にて熱固定することで、幅3mm、厚み(固定層/基材層/固定層の総厚み)44μmのテープ状ヤーンを得た。
【0068】
テープ状ヤーンの波長選択透過機能は48.4%であった。
【0069】
(モノフィラメント)
同心円状の芯鞘構造の口金を有する紡糸機にて、芯部すなわち基材層として高密度ポリエチレン樹脂(京葉ポリエチレン株式会社製E8040)を、鞘部すなわち固定層として低密度ポリエチレン樹脂(住友化学株式会社製スミカセンF200)を使用し、押出温度190℃、延伸水槽温度100℃、熱固定温度120℃、延伸倍率15倍にて芯鞘構造のモノフィラメントを得た。モノフィラメントの長手方向と垂直に切断したときの断面における芯部が占める面積割合を80%、鞘部が占める面積割合を20%となるように押出量を調整した。前記モノフィラメントの波長400~2500nmの平均透過率は89.9%、幅および厚みは0.29mmであった。
【0070】
(織物)
レピア織機を用いて、経糸に前記テープ状ヤーンを8.0本/25.4mm間隔となるように、緯糸に前記モノフィラメントを16.0本/25.4mm間隔となるように、平織りし、さらに一方の面のみを表面温度125℃の加熱ロールに接触させることで、テープ状ヤーンとモノフィラメントの交点を熱融着により固定し実施例1の織物を得た。
【0071】
得られた織物の波長選択透過機能は47.0%、第1の糸の波長選択透過機能を織物の波長選択透過機能で減じた値は1.4%、通気度は41cc/cm2/s、通気開口率は4.5%、光学開口率は5.5%、通気開口率を光学開口率で除した値は82%であった。また、織物の第1の面のモノフィラメントの扁平度は2.2、第2の面のモノフィラメントの扁平度は1.2であり、扁平度比は1.9であった。また第1の面の動摩擦係数と第2の面の動摩擦係数の比は1.21であった。
【0072】
[実施例2]
テープ状ヤーン作製において、セシウム酸化タングステンが0.9質量%となるように、マスターチップを高密度ポリエチレン樹脂チップで希釈して基材層とした以外は実施例1と同様の方法で実施例2の織物を得た。
【0073】
得られたテープ状ヤーン、モノフィラメント、織物の構成および物性は表1の通りであった。
【0074】
[実施例3]
高密度ポリエチレン樹脂チップ(京葉ポリエチレン株式会社製E8040)と酸化チタン微粒子(石原産業株式会社製R-390)を配合比90:10となるように混錬・チップ化しマスターチップを作製した。
【0075】
モノフィラメント製作工程において、前記酸化チタン微粒子が1.0質量%となるように、前記マスターチップを高密度ポリエチレン樹脂チップ(京葉ポリエチレン株式会社製E8040)で希釈して芯部とした以外は、実施例1と同様の方法で実施例3の織物を得た。
【0076】
得られたテープ状ヤーン、モノフィラメント、織物の構成および物性は表1の通りであった。
【0077】
[実施例4]
製織工程において、経糸の前記テープ状ヤーンの打込本数を8.2本/25.4mm間隔とした以外は実施例1と同様の方法で実施例4の織物を得た。
得られたテープ状ヤーン、モノフィラメント、織物の構成および物性は表1の通りであった。
【0078】
[実施例5]
製織工程において、経糸の前記テープ状ヤーンの打込本数を7.5本/25.4mm間隔とした以外は実施例1と同様の方法で実施例5の織物を得た。
【0079】
得られたテープ状ヤーン、モノフィラメント、織物の構成および物性は表1の通りであった。
【0080】
[実施例6]
テープ状ヤーンの作製工程において、三層共押出後のフィルムを実施例1のときよりも狭くスリットした後に、110℃熱板にて7倍に延伸し、120℃にて熱固定することで、幅2.8mm、厚み(固定層/基材層/固定層の総厚み)44μmのテープ状ヤーンを得た以外は、実施例1と同様の方法で実施例6の織物を得た。
【0081】
得られたテープ状ヤーン、モノフィラメント、織物の構成および物性は表1の通りであった。
【0082】
[実施例7]
テープ状ヤーンの作製工程において、三層共押出後のフィルムを実施例1のときよりも狭くスリットした後に、110℃熱板にて7倍に延伸し、120℃にて熱固定することで、幅2.7mm、厚み(固定層/基材層/固定層の総厚み)44μmのテープ状ヤーンを得た以外は、実施例1と同様の方法で実施例7の織物を得た。
【0083】
得られたテープ状ヤーン、モノフィラメント、織物の構成および物性は表2の通りであった。
【0084】
[実施例8]
モノフィラメント製作工程において、紡糸機の口金を細径化し、延伸倍率を20倍とした以外は実施例1と同様の方法で幅および厚み0.20mmのモノフィラメントを得た。その後製織工程にて、緯糸の打込本数を8本/25.4mm間隔とした以外は実施例1と同様の方法で実施例8の織物を得た。
【0085】
得られたテープ状ヤーン、モノフィラメント、織物の構成および物性は表2の通りであった。
【0086】
[実施例9]
モノフィラメント製作工程において、紡糸機の口金を太径化し、延伸倍率を10倍とした以外は実施例1と同様の方法で幅および厚み0.50mmのモノフィラメントを得た。その後製織工程にて、緯糸の打込本数を12本/25.4mm間隔とした以外は実施例1と同様の方法で実施例9の織物を得た。
【0087】
得られたテープ状ヤーン、モノフィラメント、織物の構成および物性は表2の通りであった
[実施例10]
製織工程において、経糸の前記テープ状ヤーンの打込本数を22本/25.4mm間隔とした以外は実施例1と同様の方法で実施例10の織物を得た。
【0088】
得られたテープ状ヤーン、モノフィラメント、織物の構成および物性は表2の通りであった。
【0089】
[実施例11]
製織工程において、経糸の前記テープ状ヤーンの打込本数を40本/25.4mm間隔とした以外は実施例9と同様の方法で実施例11の織物を得た。
【0090】
得られたテープ状ヤーン、モノフィラメント、織物の構成および物性は表2の通りであった。
【0091】
[実施例12]
製織工程において、第1の面と第2の面の両側から表面温度125℃の加熱ロールに接触させることで交点を熱融着した以外は実施例1と同様の方法で実施例12の織物を得た。
【0092】
得られたテープ状ヤーン、モノフィラメント、織物の構成および物性は表3の通りであった。
【0093】
[実施例13]
製織工程において、第1の面と第2の面の両側とも加熱ロールには接触させず、温度130℃の熱風オーブンにて交点を熱融着した以外は実施例1と同様の方法で実施例13の織物を得た。
【0094】
得られたテープ状ヤーン、モノフィラメント、織物の構成および物性は表3の通りであった。
【0095】
[比較例1]
(第1のテープ状ヤーン)
テープ状ヤーンの作製工程において、三層共押出後のフィルムを実施例1のときよりも狭くスリットした後に、110℃熱板にて7倍に延伸し、120℃にて熱固定することで、幅2.4mm、厚み(固定層/基材層/固定層の総厚み)44μmのテープ状ヤーンを得た。
【0096】
(第2のテープ状ヤーン)
三層積層の共押出にて、高密度ポリエチレン樹脂チップ(京葉ポリエチレン株式会社製E8040)を基材層とし、基材層の両面に低密度ポリエチレン(住友化学株式会社製スミカセンF200)を固定層として配したフィルムを作製した。このとき、固定層/基材層/固定層の厚み比は1/8/1とした。
【0097】
その後、フィルムを所定の幅にスリットし、110℃熱板にて7倍に延伸し、120℃にて熱固定することで、幅2.4mm、厚み(固定層/基材層/固定層の総厚み)44μmのテープ状ヤーンを得た。
【0098】
(織物)
レピア織機を用いて、経糸に第1のテープ状ヤーンを8.0本/25.4mm間隔となるように、緯糸に第2のテープ状ヤーンを8.0本/25.4mm間隔となるように、平織りし、さらに一方の面のみを表面温度125℃の加熱ロールに接触させることで交点を熱融着し比較例1の織物を得た。
【0099】
得られた2種類のテープ状ヤーン、織物の構成および物性は表3の通りであった
[比較例2]
高密度ポリエチレン樹脂チップ(京葉ポリエチレン株式会社製E8040)と酸化チタン微粒子(石原産業株式会社製R-390)を配合比90:10となるように混錬・チップ化しマスターチップを作製した。
【0100】
モノフィラメント製作工程において、前記酸化チタン微粒子が4.2質量%となるように、前記マスターチップを高密度ポリエチレン樹脂チップ(京葉ポリエチレン株式会社製E8040)で希釈して芯部とした以外は、実施例1と同様の方法で比較例2の織物を得た。
【0101】
得られたテープ状ヤーン、モノフィラメント、織物の構成および物性は表3の通りであった。
【0102】
[比較例3]
テープ状ヤーンおよびモノフィラメントは実施例1と同様の方法で作製した。製織工程において、経糸にテープ状ヤーンを6.5本/25.4mm間隔となるように、緯糸に前記モノフィラメントを16.0本/25.4mm間隔となるようにからみ織りすることにより比較例3のテープ状ヤーンを得た。
【0103】
得られたテープ状ヤーン、モノフィラメント、織物の構成および物性は表3の通りであった。
【0104】
実施例1と、緯糸にモノフィラメントではなくテープ状ヤーンを用いた比較例1を比較すると、実施例1の方が織物としての波長選択透過機能が優れている。特に、実施例1と比較例1は同じ経糸を使いながら、出来上がった織物の、経糸の波長選択透過機能を織物の波長選択透過機能で減じた値は実施例1の方が良くなっており、織物化する際の波長選択透過機能の低下が緩和されていることが分かる。
【0105】
実施例1と、緯糸に波長400~2500nmの平均透過率が10%であるモノフィラメントを使用した比較例2を比較すると、実施例1の方が波長選択透過機能や、織物化する際の波長選択透過機能の低下において優れていることが分かる。
【0106】
実施例1と、織物の光学開口率が23.2%である比較例3を比較すると、実施例1の方が波長選択透過機能や、織物化する際の波長選択透過機能の低下において優れていることが分かる。
【0107】
テープ状ヤーンとモノフィラメントの交点を固定する際に、上記の交点を固定する前の織物の一方の面のみを加熱ロールに接触させた実施例1と、テープ状ヤーンとモノフィラメントの交点を固定する際に、上記の交点を固定する前の織物の両方の面を加熱ロールに接触させた実施例12を比較する。モノフィラメントの織物の第1の面に露出している部分であり、かつ、テープ状ヤーンと固定されている部分における第1の扁平度と、モノフィラメントの織物の第2の面に露出している部分であり、かつ、テープ状ヤーンと固定されている部分における第2の扁平度のうち、より大きい扁平度の値を、より小さい扁平度の値で除した値の点において、実施例1の織物の上記の値は、実施例12の上記の値よりも大きい。その結果、実施例1の織物ではハウス被覆時にハウスに接触する面を選択することで「ずり落ちの抑制」と「設置位置の調整の容易さ」のうち、所望の効果を選択して得ることができた。一方で、実施例12の織物では、実施例1の織物で得られた上記の効果は得られなかった。
【0108】
テープ状ヤーンとモノフィラメントの交点を固定する際に、上記の交点を固定する前の織物の一方の面のみを加熱ロールに接触させた実施例1と、テープ状ヤーンとモノフィラメントの交点を固定する際に、上記の交点を固定する前の織物の両方の面共に加熱ロールには接触させず、代わりに温度130℃の熱風オーブンにて交点を熱融着させた実施例13を比較する。モノフィラメントの織物の第1の面に露出している部分であり、かつ、テープ状ヤーンと固定されている部分における第1の扁平度と、モノフィラメントの織物の第2の面に露出している部分であり、かつ、テープ状ヤーンと固定されている部分における第2の扁平度のうち、より大きい扁平度の値を、より小さい扁平度の値で除した値の点において、実施例1の織物の上記の値は、実施例13の上記の値よりも大きい。その結果、実施例1の織物ではハウス被覆時にハウスに接触する面を選択することで「ずり落ちの抑制」と「設置位置の調整の容易さ」のうち、所望の効果を選択して得ることができた。一方で、実施例13の織物では、実施例1の織物で得られた上記の効果は得られなかった。
【0109】
【0110】
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