(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024037263
(43)【公開日】2024-03-19
(54)【発明の名称】浸透圧発電システムおよび浸透圧発電方法
(51)【国際特許分類】
F03G 7/00 20060101AFI20240312BHJP
F03B 17/06 20060101ALI20240312BHJP
B01D 61/00 20060101ALI20240312BHJP
C02F 1/44 20230101ALI20240312BHJP
B01D 1/14 20060101ALI20240312BHJP
【FI】
F03G7/00 B
F03B17/06
B01D61/00 500
C02F1/44 G
B01D1/14 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022141972
(22)【出願日】2022-09-07
(71)【出願人】
【識別番号】521410810
【氏名又は名称】何乃繊維株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100085257
【弁理士】
【氏名又は名称】小山 有
(72)【発明者】
【氏名】高橋光弘
【テーマコード(参考)】
3H074
4D006
4D076
【Fターム(参考)】
3H074AA12
3H074BB10
3H074CC11
4D006GA14
4D006KA01
4D006KA14
4D006KB12
4D006KB13
4D006KB14
4D006KB15
4D006KB18
4D006KB30
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4D006MB10
4D006MB16
4D006MB19
4D006MC30
4D006MC53
4D006PA01
4D006PB03
4D006PB05
4D006PC80
4D076BA30
4D076CD22
4D076DA14
4D076DA26
4D076FA11
4D076FA19
4D076HA01
4D076HA02
4D076JA03
(57)【要約】 (修正有)
【課題】より幅広い材質を適用可能で、かつ、簡易な構成でありながら、形成されたナノファイバー部材を利用して、実用可能な発電を得ることを可能とする、新規な浸透圧発電システムおよび浸透圧発電方法を提供する。
【解決手段】塩水に含まれる水分を保持し、水分を表面から蒸発させることができるナノファイバー部材を有し、蒸発した水分を凝縮させて淡水を得るとともに、塩水から塩分濃度の高い高濃度塩水を得ることができる淡水化装置10と、半透膜21を有し、高濃度塩水とそれより塩分濃度の低い水とを半透膜を介して接触させ、それらの浸透圧差により生じる正浸透現象を利用して高濃度塩水にそれよりも塩分濃度の低い塩水または水を浸透させて低濃度塩水とする浸透膜装置20と、浸透膜装置により搬送された低濃度塩水の水流を利用して発電可能な発電装置30と、を有する浸透圧発電システムおよびそれを用いた浸透圧発電方法。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
塩水に含まれる水分を保持し、前記水分を表面から蒸発させることができるナノファイバー部材を有し、蒸発した前記水分を凝縮させて淡水を得るとともに、前記塩水から塩分濃度の高い高濃度塩水を得ることができる淡水化装置と、
半透膜を有し、前記高濃度塩水とそれより塩分濃度の低い塩水または水とを前記半透膜を介して接触させ、それらの浸透圧差により生じる正浸透現象を利用して前記塩分濃度の低い塩水または水を前記高濃度塩水側に浸透させて低濃度塩水とする浸透膜装置と、
前記浸透膜装置で前記高濃度塩水が低濃度塩水になるときに生じる増水圧を利用して発電可能な発電装置と、を有する、浸透圧発電システム。
【請求項2】
請求項1に記載の浸透圧発電システムにおいて、
前記ナノファイバー部材は、その半円部が前記塩水に浸漬し、残部が前記塩水から大気中に露出するように配置されている、浸透圧発電システム。
【請求項3】
請求項2に記載の浸透圧発電システムにおいて、
前記ナノファイバー部材は、複数枚のディスクを有して形成され、
前記ディスクは、その隣接するディスクと所定の間隔を有するように整列して配置されている、浸透圧発電システム。
【請求項4】
請求項3に記載の浸透圧発電システムにおいて、
前記ナノファイバー部材は、前記複数枚のディスクの中心を保持軸で保持され、前記保持軸が回転可能に形成されている、浸透圧発電システム。
【請求項5】
請求項4に記載の浸透圧発電システムにおいて、
前記保持軸の回転によって、前記ナノファイバー部材の前記塩水に対する浸漬部分と露出部分とが経時的に変動できる、浸透圧発電システム。
【請求項6】
請求項2に記載の浸透圧発電システムにおいて、
前記ナノファイバー部材の表面積における前記塩水の浸漬部分と露出部分の割合が、20:80~80:20である、浸透圧発電システム。
【請求項7】
請求項1に記載の浸透圧発電システムにおいて、
前記ナノファイバー部材の大気への露出部分に風を送る送風装置を有する、浸透圧発電システム。
【請求項8】
請求項1に記載の浸透圧発電システムにおいて、
前記淡水化装置が、ペルチェ素子を有し、
前記ペルチェ素子が、前記塩水を加熱できるように、かつ、前記蒸発した水分を凝縮できるように配置されている、浸透圧発電システム。
【請求項9】
請求項1に記載の浸透圧発電システムにおいて、
前記塩水が海水であり、かつ、前記塩分濃度の低い水が、海水および汚水から選ばれる少なくとも1種を含む水である、浸透圧発電システム。
【請求項10】
塩水に含まれる水分を保持し、前記水分を表面から蒸発させることができるナノファイバー部材を用い、前記水分を蒸発させた後、凝縮させて淡水を得るとともに、前記塩水から塩分濃度の高い高濃度塩水を得る淡水化工程と、
前記高濃度塩水とそれよりも塩分濃度の低い塩水または水とを半透膜を介して接触させ、それらの浸透圧差により生じる正浸透現象を利用して前記塩分濃度の低い塩水または水を前記高濃度塩水側に浸透させて低濃度塩水とする浸透膜工程と、
前記浸透膜工程で前記高濃度塩水が低濃度塩水になるときに生じる増水圧を利用して発電する発電工程と、を有する、浸透圧発電方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、所定のナノファイバー部材を用いた淡水化装置を有する浸透圧発電システムおよび浸透圧発電方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、海水の淡水化法としては、従来から逆浸透膜法、多段フラッシュ法が実施されている。これら淡水化法は、塩水(塩分濃度:3.5%程度)から淡水を抽出し、他方で濃度が高められた塩水(塩分濃度:7~20%)が生成される。このような濃度の高められた塩水は、海に排出されると、周辺の生態系に大きなダメージを与えてしまう。そのため、下水処理などから排出される水を利用して海水と同程度まで薄めてから海に排出するなどの手法が実施されている。そころが、このような手法を行うことで、そのための設備が必要になるなど、余計なコストがかかったりするため、現実的に実施するにはさらに解決すべき課題が多い。
【0003】
一方、半透膜を利用した発電方法が研究されており、河川から淡水を取水するとともに、海から海水を取水し、これら淡水と海水とを半透膜を介して接触させることで、淡水を海水に浸透させ、その過程で生じる浸透圧を利用することが検討されている。この手法は、上記浸透圧を利用して生じる、海水と淡水の混合水の水流によってタービン発電機を回転させて発電する方法である。
【0004】
しかしながら、海水の塩水濃度(3.5%)が低いため、半透膜により得られる浸透圧が低く、実用できる程度の発電を得ることが困難であった。
【0005】
これに対して、ナノファイバー膜を利用した膜蒸留による淡水化装置と、その淡水化装置により得られた高濃度塩水を、上記の浸透膜装置に適用し、半透膜により得られる浸透圧を高め、実用可能な発電を得ることを可能とする、発電システムが開発されている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、特許文献1に記載のように膜蒸留を利用する場合には、海水中の水分(液体)は透過させずに、蒸気(気体)のみを通過させようとするため、撥水性または疎水性のナノファイバー膜を使用し、所定の機能を有する材質、構造に限定されてしまう。
【0008】
本発明は、上記のような材質の限定をせずに、より幅広い材質を適用可能で、かつ、簡易な構造でありながら、形成されたナノファイバー部材を利用して、実用可能な発電を得ることを可能とする、新規な浸透圧発電システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の浸透圧発電システムは、塩水に含まれる水分を保持し、前記水分を表面から蒸発させることができる比表面積が大きいナノファイバー部材を有し、蒸発した前記水分を凝縮させて淡水化を得るとともに、前記塩水から塩分濃度の高い高濃度塩水を得ることができる淡水化装置と、半透膜を有し、前記高濃度塩水とそれよりも塩分濃度の低い塩水または水とを前記半透膜を介して接触させ、それらの浸透圧差により生じる正浸透現象を利用して塩分濃度の低い塩水または汚水から淡水を吸い上げて、前記浸透膜装置により搬送された前記高濃度塩水が吸い上げた淡水により希釈された低濃度塩水になるときの増水圧を利用して発電可能な圧電装置と、を有する。
【0010】
本発明の浸透圧発電方法は、塩水に含まれる水分を保持し、前記水分を表面から蒸発させることができる比表面積が大きいナノファイバー部材を用い、前記水分を蒸発させた後、凝縮させて淡水を得るとともに、前記塩水から塩分濃度の高い高濃度塩水を得る淡水化工程と、前記高濃度塩水とそれよりも塩分濃度の低い水とを半透膜を介して接触させ、それらの浸透圧差により生じる正浸透現象を利用して生じた低濃度塩水を搬送させる浸透工程と、前記浸透工程により搬送された前記高濃度塩水の水流を利用して発電する発電工程と、を有する。
【発明の効果】
【0011】
本発明の浸透圧発電システムおよび浸透圧発電方法によれば、材質に関し幅広く適用可能で、かつ、簡易な構成であるナノファイバー部材を利用して、効率的に高濃度塩水を取得し、これを用いて浸透圧発電を可能とできる。この浸透圧発電システムによれば、海水等の塩水を利用することにより実用的な発電を可能とし、天候や時間帯等に左右されることなく安定して電力を得ることができる。また、これと同時に淡水を取得することもできる。
【0012】
ここで得られる電力は、再生可能エネルギーを利用して得られるもので、本発明の浸透圧発電システムは、地球環境への負荷を抑制したサステナブルな社会を実現するのに貢献し得るものである。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】本発明の一実施形態である浸透圧発電システムの概略構成を示した図である。
【
図2】
図1に示した淡水化装置の一構成例を示す概略構成図である。
【
図3】
図2に示したナノファイバー部材の具体的な構成を示した図である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、本発明の一実施形態である浸透圧発電システムおよび浸透圧発電方法について図面を参照しながら詳細に説明する。
【0015】
[浸透圧発電システム]
図1は、本実施形態の浸透圧発電システムの概略構成を示した図である。ここで示した浸透圧発電システム1は、淡水化装置10と、浸透膜装置20と、水流発電装置30と、を有して構成されている。
【0016】
ここで用いられる淡水化装置10は、塩水に含まれる水分を保持し、この水分を表面から蒸発させることができるナノファイバー部材を有し、蒸発して得られる水分を凝縮させて淡水を得ることができる装置である。この淡水化装置10は、蒸気淡水を得るとともに、塩水はその水分が蒸発して濃縮されるため、淡水化装置10に導入された塩水よりも塩分濃度の高い高濃度塩水を得ることができる。
【0017】
この淡水化装置10は、その有するナノファイバー部材に特徴を有する。すなわち、ここで用いられるナノファイバー部材は、塩水に含まれる水分を保持可能であり、その保持された水分を、ナノファイバー部材の表面から蒸発させることができる構造を有するナノファイバー繊維から形成される部材である。
【0018】
ここで、ナノファイバー部材を形成するナノファイバー繊維は、その繊維径が30~2000nmであり、30~1000nmが好ましく、100~400nmがさらに好ましい。このナノファイバー繊維の繊維径が30nmより細いと、ナノファイバー部材の形状保持が十分でなくなりシステムの運転により十分な水分の蒸発性能を発揮し得なくなるおそれがあり、また、2000nmより太いと、ナノファイバー部材の比表面積を所定の範囲に維持しにくくなり、水分の保持機能が低下し、ひいては水分の蒸発効率も悪化してしまう。
【0019】
また、このナノファイバー部材は、上記ナノファイバー繊維を用いて所定の形状に成形して構成される。このようにして得られるナノファイバー部材は、ナノファイバー繊維間に所定の空間を有しており、蒸気が抜けるためには、1気圧20℃の空気の平均自由行程は、約65nmであるため、ナノファイバー部材が作る空間は70nm~1000nmが好ましい。上記構成とすることで、塩水中の水分を繊維間に十分に保持し、かつ、その保持した水分を大気の熱エネルギー等の潜熱により蒸発させることができ、簡易な構成でありながら、塩水の濃縮を効率的に行うことができる。
【0020】
このナノファイバー部材について、目付は上記比表面積の逆数であるが、その目付で表せば、40~150g/m2が好ましい。
【0021】
また、ここで用いるナノファーバー繊維の材質は、ポリプロピレン(PP)、ナイロン、ポリエチレンテレフタレート(PET)、PLA(ポリ乳酸)、ポリエチレン(PE)等が挙げられる。ここで用いることができる材質は特許文献1で記載されているような膜蒸留で必須となる疎水性、撥水性等の特性を有していなくともよく、その点で、本実施の形態におけるナノファイバー部材と、膜蒸留で公知のナノファイバー膜とは異なる部材から形成されたものである。
【0022】
上記のような構成のナノファイバー部材を有することで、塩水との接触によりそのナノファイバー繊維間に水分を保持可能となり、また、このように保持された水分は、その後、大気と接触させることにより、大気から熱エネルギーを奪い蒸発(気化)させることができる。本実施の形態におけるナノファイバー部材として、上記の特性を有するナノファイバー繊維を用いて形成することで、その広大な表面積を有効に利用して、簡易な構造でありながら、この蒸発(気化)を効率的に行うことができる。
【0023】
このように大気中の熱エネルギーを利用するため、本実施の形態の浸透圧発電システムは、蒸発(気化)させるのにエネルギーを特別に加えることなく動作させることができる点で優れたものである。
更に
図2にて熱交換器は、太陽光ソーラーヒーターで太陽光から熱エネルギーを塩水に顕熱として与え、それによって塩水を効果的に加熱してより多くの蒸気を発生するようにする。
【0024】
また、このナノファイバー繊維としては、その形成方法は特に限定されず、例えば、溶融電界紡糸法やゼタ・スピニング(Zetta-Spinning)方式等の公知の手法により得ることができる。ポリマーを膨潤するのに溶融させて行うようにすると、有機溶媒等の残留溶媒による不具合が生じることがなくなる。中でも、ゼタ・スピニング(Zetta-Spinning)方式がナノファイバー繊維を効率的に製造できる点で好ましい。
また、このナノファイバー繊維としては、広大な面積と厚みを必要とする。ゼタ・スピニング(Zetta-Spinning)方式で形成されたナノファイバー繊維は、大量に立体的な構造にできるため、効率的に製造できる点で好ましい。
【0025】
なお、より蒸発(気化)を促進させるために、送風機等を用いてナノファイバー部材に向かって風を送ったり、ヒーター等の加熱手段により海水を温めたり、それらを組み合わせたり、することもできる。
【0026】
なお、淡水化装置10における淡水を得るための構成は、公知の淡水化装置と同様に、蒸発(気化)した水分を、冷却した部材と接触させることにより凝縮させることができればよく、特に限定されるものではない。
【0027】
そして、上記説明した、塩水中の水分の蒸発(気化)により淡水を生成するのと同時に、淡水化装置10に導入された塩水は、その分だけ塩分濃度が高くなり、高濃度塩水として得ることができる。本実施の形態においては、この高濃度塩水を利用して、後述するように浸透圧発電を行うことができる。
【0028】
ここで用いられる浸透膜装置20は、高濃度塩水とそれよりも塩分濃度の低い供給水とを半透膜21を介して接触させ、供給水中の水を、半透膜21を介して高濃度塩水側に浸透させる現象を利用する正浸透膜装置である。
【0029】
ここで、供給される高濃度塩水は、上記淡水化装置10で得られた高濃度塩水であり、供給水は、上記高濃度塩水よりも塩分濃度が低い水である。高濃度塩水よりも塩分濃度の低い水としては、特に制限されるものではなく、例えば、海水や汚水が挙げられる。この供給水として使用される汚水としては、特に制限されるものではなく、例えば、市水、工業廃液、鉱山の廃液が挙げられる。
【0030】
このように、塩分濃度の高い高濃度塩水と塩分濃度の低い供給水とを半透膜21を介して接触させることで、供給水側の水が高濃度塩水側に移動し、高濃度塩水と浸透水で希釈された低濃度塩水が得られる。このとき、高濃度塩水側は、その移動した水分量だけ圧力が高くなり、低濃度塩水を発電装置30へ移動するための駆動力となり得る。より具体的には、低濃度塩水を該駆動力により、高所の貯水タンクに移送し、この貯水タンクから低所に設けられた発電装置30へと供給するようにできる。
【0031】
浸透膜装置20に用いられる半透膜21としては、上記作用を奏するものであれば公知の半透膜を使用することができ、例えば、疎水性多孔質膜であるポリテトラフルオロエチレン(PTFE)を延伸加工したフィルムとポリウレタンポリマーを複合化したものが挙げられ、上記疎水性多孔質膜には、疎水性、撥水性、透湿性、耐久性等の機能を有するようにすることが好ましい。
【0032】
前処理装置40は、上記浸透膜装置20に供給する供給水の前処理を行う装置である。この供給水として、海水、工業廃水、汚水等を用いる場合、その中に比較的大きな粒子等の異物が混入している場合がある。そのような異物が混入している供給水をそのまま浸透膜装置20に供給すると、半透膜21が目詰まりするなどにより使用寿命が極端に短くなるばあいがある。そのため、この前処理装置40により、そのような異物を事前に除去しておき、浸透膜装置20の使用寿命を長く、安定して浸透現象を利用することができる。
【0033】
この前処理装置40としては、例えば、膜ろ過装置、砂ろ過装置、繊維ろ過装置、活性炭吸着装置、凝集沈殿装置、加圧浮上装置など水処理において用いられる公知の前処理装置が挙げられる。
ここで用いられる発電装置30は、水流により発電することができる発電装置である。
【0034】
この発電装置30としては、水流または水圧を利用して発電できる装置であれば、公知の発電装置を特に限定せずに使用できる。上記したように、浸透膜装置20により、低濃度塩水を例えば高所に移送させることができ、その高所からの位置エネルギーを利用した水流により発電することができる。
さらに、塩分濃度差が20%程度ある場合、400気圧の圧力を発生するため、圧力を利用したエンジンを駆動して効率よく発電させることが可能である。
【0035】
[浸透圧発電方法]
次に、上記した浸透圧発電システム1を用いた浸透圧発電方法について説明する。
【0036】
先ず、淡水化装置10に、海水などの塩水を、配管L1を介し供給する。供給された海水は、淡水化装置10により、淡水と高濃度塩水を生成し、淡水は配管L2により淡水化装置外へ送液される。得られた淡水は、ミネラルを加えることで飲料用などの生活用水として用いることができる。
【0037】
淡水化装置10は、上記淡水化と同時に、供給された塩水は淡水化された水の分だけ水分量が減るため濃縮され高濃度塩水が得られる。この高濃度塩水は配管L3により浸透膜装置20へ供給される。
【0038】
このとき、淡水化装置10へ導入する塩水として海水を用いる場合、海水より塩分濃度の高い高濃度塩水が得られ、例えば、4~25%程度の塩分濃度の高濃度塩水とすることができ、このときの塩分濃度は、7~20%が好ましく、15~20%がより好ましい。
【0039】
得られる高濃度塩水は、その濃縮度合いにもよるが、例えば、その高濃度側では25%程度という非常に高い水準にまで塩分を濃縮することができる。ここで得られる塩分濃度は、次に説明する浸透膜装置20で得られる浸透圧に影響を与え、この濃度が高いほど大きな圧力を得ることができる。
【0040】
ただし、塩分濃度を高めるためには濃縮度合いを高めるための時間がかかり、求める発電能力と、時間やコスト等とのバランスを考慮して、その塩分濃度を決定することが好ましい。
ただし、塩分濃度は23%を超えるとなると塩が析出するため、塩分濃度は、20%程度が好ましい。そのため、発電効率のよい塩分濃度を得るために、蒸発工程では、太陽光を使用するヒートパイプやボイラーを併用して使用することも有効である。
【0041】
浸透膜装置20は、上記説明の通り、半透膜21を有しており、高濃度塩水は、半透膜21で仕切られた一方の流路に導入される。また、浸透膜装置20において、半透膜21で仕切られた他方の流路には、配管L4を介して、海水や汚水などの上記高濃度塩水よりも塩分濃度の低い供給水が供給される。この供給水における塩分濃度は、例えば、0~3.5%程度である。
【0042】
このように、一方の流路に高濃度塩水、他方の流路に供給水が、それぞれの流路に供給されることで、これらが半透膜21を介して接触する。このとき、浸透膜装置20においては、半透膜21の作用により、供給水の水が半透膜21を介して高濃度塩水側へ透過して、高濃度塩水と透過水が希釈して、塩分濃度が低減された低濃度塩水となる。
【0043】
このように混合水となることで、高濃度塩水側は圧力が高まり(正浸透現象)、混合水を、配管L5を介して発電装置30へと供給する駆動力を得ることができる。本実施の形態においては、上記説明の通り、高濃度塩水と供給水との塩分濃度差を大きくすることができ、ここで得られる浸透圧も大きなものとできる。このとき、塩分濃度差は7%~20%とすることがより好ましい。
【0044】
なお、配管L4から供給された供給水は塩分や不純物が濃縮された排水となり、配管L6から外部に排出される。なお、供給水は、間処理装置40により、粒子等の異物を除去することが好ましい。
なお、配管L4から供給された供給水は不純物が除去され、浸透膜で淡水と奪われた塩分濃度が上昇するが、その濃度は4%以下となることが望ましい。この排水は配管L6から海に排出される。これによって海の環境を守ることができる。
【0045】
低濃度塩水は、配管L5により発電装置30に供給される。このとき、低濃度塩水の水流により発電装置30は発電し、外部へ電力を供給することができるようになる。この発電装置30としては、水流により発電可能な装置であれば、公知の発電装置を特に制限されずに使用することができる。この発電装置30としては、例えば、水力発電等に使用されているタービン等が挙げられる。
【0046】
発電装置30での発電に使用された低濃度塩水は、配管L7により、配管L1に設けられた三方弁により配管L1に供給され、再度、淡水化装置10へ供給されるように循環できる。ここで、配管L7により低濃度塩水を外部へ排水として排出することもできるが、そのときは、塩水として排水処理等を行う必要がある。
【0047】
上記のように循環させることにより、高濃度塩水側では、最初に海水等の塩水を導入するだけでなく、その後の浸透圧発電システム1の動作を継続して行うことができ好ましい。この循環により、排水量を低減でき、地球環境への負荷を抑制することもできる。
また、高濃度にすることで、供給水を淡水だけでなく海水や汚水などを使用することが可能となる。
【0048】
[淡水化装置の構成例]
上記した淡水化装置10において、一般的な構成の説明をしたが、さらに具体的には、次に述べるような構成とした淡水化装置が例示できる。
【0049】
ここで説明する淡水化装置10は、
図2に示したように、導入される塩水Bを貯留する塩水タンク11と、タンク11内に配置され、塩水Bに一部が浸漬し、一部が大気中に露出するように配置されたナノファイバー部材12と、ナノファイバー部材12により得られた蒸気の流路13と、ペルチェ素子14と、ペルチェ素子14の高温側の熱を塩水Bに伝えるラジエータ15と、ペルチェ素子14の低温側に設けられ蒸気の熱を奪うラジエータ16と、ラジエータ16に設けられ、水分が除去された蒸気を装置外へ排出するためのファン17と、淡水Wを貯留する淡水タンク18と、を有して構成される。
【0050】
塩水タンク11は、配管L1から導入される塩水を貯留するタンクであり、後述するように、ナノファイバー部材12により濃縮された高濃度塩水は、配管L3によりこの塩水タンク11から浸透膜装置20へ送液される。
【0051】
図2では、塩水タンク11を単なる容器形状としているが、配管L1付近の低濃度の塩水と配管L3付近の高濃度の塩水との拡散による濃度の希釈化が生じにくいように、配管L1と接続された領域と配管L3と接続された領域とを分け、各領域を接続する塩水の流路を狭くした構成の塩水タンク11とすることも好ましい。
【0052】
ナノファイバー部材12は、その一部が塩水Bに浸漬し、一部が大気中に露出するように配置して設けられた部材を例示している。より詳細には、このナノファイバー部材12は、
図3に示したような構成とすることができる。すなわち、ナノファイバー部材12は、
図3(a)正面図および
図3(b)側面図に示したように、円板状(ディスク)に構成された部材であり、その中心に保持軸12aが設けられている構成とでき、そのナノファイバー部材12の複数枚を、所定の間隔を空けて整列して設け、各ナノファイバー部材12の中心が保持軸12aにより保持される構成とすることができる。
【0053】
このナノファイバー部材12は、
図2に示したように、例えば、その下半分が塩水Bに浸漬するように、その上半分が大気に露出するように配置される。そのようにすることで、塩水Bに浸漬されたナノファイバー部材12は、塩水Bと接触し、その塩水B中の水分がナノファイバー部材12を構成するナノファイバー繊維間に保持される。このとき、ナノファイバー部材12は、上記説明したような比表面積(目付)となるように形成されており、毛細管現象により大気に露出した上半分側にも吸い上げられるようにすることもできる。
【0054】
そして、このようにナノファイバー部材12に保持された水分は、大気との接触により、その大気の有する熱エネルギーにより蒸発(気化)し、これが繰り返されることにより、ナノファイバー部材12により塩水中の水分を蒸発(気化)させ、塩水を濃縮して高濃度化できる。
【0055】
尚、
図2において、ナノファイバー部材12は、その下半分が塩水に浸漬し、上半分が大気中に露出した状態を例示しているが、この浸漬部分と露出部分の割合は適宜変更でき、例えば、ナノファイバー部材12の表面積における浸漬部分と露出部分の割合は、20:80~80:20の範囲で調整することができることが好ましい。
【0056】
また、上記のナノファイバー部材12は、これを、保持軸12aを中心として回転させることで、ナノファイバー部材12自身を回転させ、より効率的に塩水Bを濃縮させるようにすることもできる。すなわち、この場合、塩水Bに浸漬され、水分を保持したナノファイバー部材12の下半分は、回転により、大気に露出する上半分に移動されることになる。このように回転することで、水分を保持するナノファイバー部材12が、大気側に移動し、大気との接触をより効率的に行うことができ、その保持された水分の蒸発(気化)をより効率的に行うことができる。
【0057】
このとき、例えば、ナノファイバー部材12の露出部分に向かって、大気を送風したり、大気を加熱しておき、その加熱大気を送風したり、ナノファイバー部材12を直接加熱したり、することで、水分の蒸発(気化)をより促進させることもできる。送風する場合、例えば、
図2の白抜き矢印F1で示したように、装置外部からナノファイバー部材12の上半分に向かって、大気を送風すればよい。
【0058】
流路13は、ナノファイバー部材12により蒸発(気化)した水分を、凝縮機構へと導く流路であり、例えば、矢印F1方向の送風の流れに沿って、順番に、蒸発(気化)した水分は白抜き矢印に沿って移動し、ペルチェ素子14側へと導かれる。
【0059】
ペルチェ素子14は、直流電流を流すことにより、その素子の両面温度差が生じる素子である。本実施の形態においては、このペルチェ素子14の高温側となる面を塩水タンク11側へ、低温側となる面を淡水タンク18側へ、と配置する。このとき、高温側には、ラジエータ15を、低温側にはラジエータ16を、それぞれ設けるようにして、ラジエータ15により塩水Bを加温できるように、かつ、ラジエータ16により流路13を移動してきた蒸発(気化)した水分を冷却できるように、構成する。
【0060】
ラジエータ15により加温された塩水Bは上昇流により、ナノファイバー部材12側へ移動する。また、塩水Bが加温されることにより、ナノファイバー部材12における水分の蒸発(気化)の促進もできる。
【0061】
ラジエータ16により冷却された蒸発(気化)した水分は、ここで凝縮(液化)され、淡水Wとして、淡水タンク18内に滴下し、貯留される。このとき、残りの気体はラジエータ16の側面に配置されたファン17により、淡水化装置10の外部へ排出される。ファン17は、気体を圧送できる公知のものであればよい。
【0062】
淡水タンク18は、上記したように、一旦蒸発(気化)した水分が凝縮(液化)して得られる淡水を貯留するタンクである。淡水を貯留できるものであれば特に限定されるものではない。淡水タンク18には、配管L2が接続されており、得られた淡水を使用場所や保管場所にまで移送できるようになっている。
【0063】
以上、本実施の形態における浸透圧発電システムおよび浸透圧発電方法について説明したが、この浸透圧発電システムおよび浸透圧発電方法によれば、以下のような利点を得ることができる。
【0064】
(1)淡水化装置で生じた高濃度塩水を、浸透膜装置での正浸透現象を利用するため、海などへ直接的にすることがなく、環境への負荷を抑制できる。
(2)浸透膜装置において、海水または汚水等の淡水により、高濃度塩水を低濃度化しつつ、その際に得られる浸透圧により発電装置を稼働させるための発電用水(混合水)が得られる。
(3)発電に利用した低濃度塩水は、再度、淡水化装置に循環され、淡水化装置での濃縮、浸透膜装置での希釈が行われるが、循環使用により、不純物等(コンタミ)の混入がないためメンテナンスフリーの構造とすることができる。
(4)上記のように、塩水の循環使用、また浸透膜装置への供給水として海水や汚水等の資源を有効利用できる。また、淡水化装置において、塩水の淡水化において大気の熱エネルギーを効率的に利用できる。そのため、この浸透圧発電システムのランニングコストを極めて小さくできる。
【0065】
(5)上記のように海水や汚水等の水があれば、上記の浸透圧発電システムを稼働することができ、世界のあらゆる場所で発電を行うことが可能で、設置場所に関する制約が少ない。
(6)浸透圧発電システムの設備が比較的簡素な構造であり、初期投資金額を抑制できる。
(7)そして、上記したように、海水等の塩水を、塩分濃度が20%以上となるような高濃度塩水とし、浸透圧を得るために利用することができるため、高いエネルギー出力を得ることができる。
【0066】
なお、本発明は上記実施形態の記載に限定されるものでなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲で構成要素を変形して具体化でき、また実施形態に開示されている複数の構成要素の適宜な組み合わせや、その他公知の装置を追加するなどにより種々の変更が可能である。
【産業上の利用可能性】
【0067】
本発明の浸透圧発電システムおよび浸透圧発電方法は、特定のナノファイバー部材を用いた淡水化装置、浸透膜装置および発電装置を組み合わせて、簡易な構成で淡水の取得と発電を低コストで効率的に行うことができる、産業上極めて利用価値の高い発明である。
【0068】
上記説明したように、本発明の浸透圧発電システムにおいて、淡水化装置へ導入する塩水、浸透膜装置に供給する供給水をともに海水とすることができ、特に、沿岸部等の海岸に近い地域において、有用である。さらに、開発途上国においても、海岸線に近い地域では、その導入コストやランニングコストが低く、淡水と電気を得られることから、非常に有用な技術となる。
【0069】
さらに、この浸透圧発電システムを、船舶や潜水艦等に搭載することにより、浸透圧発電システムの稼働に必要な塩水、供給水が周囲に豊富にあり、また、船員等の飲料水等の生活用水やエンジン駆動等の航行に必要な電気などの一部を賄うこともできるため、このような用途への適用も効果的であると考えられる。
【符号の説明】
【0070】
1…浸透圧発電システム
10…淡水化装置
11…淡水タンク
12…ナノファイバー部材
13…蒸気の流路
14…ペルチェ素子
15、16…ラジエータ
17…ファン
18…淡水タンク
20…浸透膜装置
21…半透膜
30…発電装置
40…前処理装置
L1~L7…配管