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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024037273
(43)【公開日】2024-03-19
(54)【発明の名称】静止形電力変換器及び制御方法
(51)【国際特許分類】
   H02M 7/48 20070101AFI20240312BHJP
【FI】
H02M7/48 E
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022141995
(22)【出願日】2022-09-07
(71)【出願人】
【識別番号】501137636
【氏名又は名称】東芝三菱電機産業システム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100161207
【弁理士】
【氏名又は名称】西澤 和純
(74)【代理人】
【識別番号】100135301
【弁理士】
【氏名又は名称】梶井 良訓
(74)【代理人】
【識別番号】100196689
【弁理士】
【氏名又は名称】鎌田 康一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100207192
【弁理士】
【氏名又は名称】佐々木 健一
(72)【発明者】
【氏名】本間 宏輝
【テーマコード(参考)】
5H770
【Fターム(参考)】
5H770AA05
5H770DA03
5H770DA41
5H770EA01
5H770HA02Y
5H770HA02Z
5H770HA03Y
(57)【要約】
【課題】出力に含まれる低次高調波歪成分を効率よく低減させる。
【解決手段】静止形電力変換器の電力変換装置は、補正された電流指令値を用いて前記電力変換装置を制御する。第1指令値生成部は、前記出力電流指令値の補正値を用いて前記出力電流指令値を補正する。第1指令値生成部は、前記電力変換装置の出力電圧の基準値に基づいて、前記電力変換装置の出力電圧が前記基準値になるように調整した出力電流指令値を生成する。電圧偏差算出部は、前記電力変換装置の出力電圧とその基準値との偏差を求める。高調波成分検出部は、前記偏差に含まれる高調波成分の大きさを高調波の次数に対応付けて検出する。高第2指令値生成部は、当該検出された高調波成分の大きさが零になるような前記出力電流指令値の補正値を生成する。電流指令値補正部は、前記出力電流指令値の補正値を用いて前記出力電流指令値を補正する。
【選択図】図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
電力変換によって生成した交流電力を負荷側に供給可能な電力変換装置と、
補正された電流指令値を用いて前記電力変換装置を制御する制御部と、
を備え、
前記制御部は、
前記電力変換装置の出力電圧の基準値に基づいて、前記電力変換装置の出力電圧が前記基準値になるように調整した出力電流指令値を生成する第1指令値生成部と、
前記電力変換装置の出力電圧とその基準値との偏差を求める電圧偏差算出部と、
前記偏差に含まれる高調波成分の大きさを高調波の次数に対応付けて検出する高調波成分検出部と、
当該検出された高調波成分の大きさが零になるような前記出力電流指令値の補正値を生成する第2指令値生成部と、
前記出力電流指令値の補正値を用いて前記出力電流指令値を補正する電流指令値補正部と、
を備える静止形電力変換器。
【請求項2】
前記第1指令値生成部は、2次元静止座標系の成分を用いて出力電流指令値を生成し、
前記電圧偏差算出部は、3次元静止座標系の成分を用いて前記電力変換装置の出力電圧とその基準値との偏差を求め、
前記高調波成分検出部は、前記3次元静止座標系の成分を用いて前記偏差に含まれる高調波成分の大きさを高調波の次数に対応付けて検出し、
前記第2指令値生成部は、前記2次元静止座標系の成分を用いて、前記出力電流指令値を補正する、
請求項1に記載の静止形電力変換器。
【請求項3】
第1の前記2次元静止座標系の成分から前記3次元静止座標系の成分を生成する変換処理に、第1基準位相が適用され、
前記3次元静止座標系の成分から第2の2次元静止座標系の成分を生成する変換処理に、第2基準位相が適用されている、
請求項2に記載の静止形電力変換器。
【請求項4】
前記第1基準位相の位相信号と前記第2基準位相の位相信号との間に、3相交流のΔ結線に関連付けて決定された所定の位相差が設けられている、
請求項3に記載の静止形電力変換器。
【請求項5】
電力変換によって生成した交流電力を負荷側に供給可能な電力変換装置を、補正された電流指令値を用いて制御する静止形電力変換器の制御方法であって、
前記電力変換装置の出力電圧の基準値に基づいて、前記電力変換装置の出力電圧が前記基準値になるように調整した出力電流指令値を生成し、
前記電力変換装置の出力電圧とその基準値との偏差を求め、
前記偏差に含まれる高調波成分の大きさを高調波の次数に対応付けて検出し、
当該検出された高調波成分の大きさが零になるような前記出力電流指令値の補正値を生成し、
前記出力電流指令値の補正値を用いて前記出力電流指令値を補正するステップ
を含む静止形電力変換器の制御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、静止形電力変換器及び制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
系統に給電する静止形電力変換器において、静止形電力変換器と系統との間にLC型フィルタ回路を設けて、正弦波交流を負荷へ供給するように構成することがある。例えば、このLC型フィルタ回路は、PWM制御周期に対応するPWM周波数帯の歪成分を平滑するように形成されることがある。
ところで、静止形電力変換器のPWM制御に三角波比較方式を適用すると、その出力電圧に、PWM周波数帯よりも周波数が低い周波数成分の歪(低次高調波歪)が発生することがあった。この低次高調波歪は、回路定数や負荷の状態により発生量が異なるため、補償量を固定値にした補償では、その低次高調波歪成分を効率よく低減できないことがあった。静止形電力変換器の出力に含まれる低次高調波歪成分を効率よく低減させることが望まれていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2005-328608号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明が解決しようとする課題は、出力に含まれる低次高調波歪成分を効率よく低減させることが可能な静止形電力変換器及び制御方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
実施形態の一態様の静止形電力変換器は、電力変換装置と、制御部とを備える。前記電力変換装置は、電力変換によって生成した交流電力を負荷側に供給可能である。前記制御部は、補正された電流指令値を用いて前記電力変換装置を制御する。前記制御部は、第1指令値生成部と、電圧偏差算出部と、高調波成分検出部と、第2指令値生成部とを備える。前記第1指令値生成部は、前記出力電流指令値の補正値を用いて前記出力電流指令値を補正する。前記第1指令値生成部は、前記電力変換装置の出力電圧の基準値に基づいて、前記電力変換装置の出力電圧が前記基準値になるように調整した出力電流指令値を生成する。前記電圧偏差算出部は、前記電力変換装置の出力電圧とその基準値との偏差を求める。前記高調波成分検出部は、前記偏差に含まれる高調波成分の大きさを高調波の次数に対応付けて検出する。前記高第2指令値生成部は、当該検出された高調波成分の大きさが零になるような前記出力電流指令値の補正値を生成する。前記電流指令値補正部は、前記出力電流指令値の補正値を用いて前記出力電流指令値を補正する。
【図面の簡単な説明】
【0006】
図1】実施形態の静止形電力変換器の構成図。
図2】実施形態の制御部の概略構成図。
図3】実施形態の補正された電流指令値を生成する演算ブロックのブロック図。
図4】実施形態の電圧波形と、各次数の高調波の歪成分との関係を説明するための図。
【発明を実施するための形態】
【0007】
以下、実施形態の静止形電力変換器及び制御方法について説明する。なお、以下の説明では、電気的に接続されることを、単に「接続される」ということがある。実施形態における微小な固定値には、0が含まれてもよい。なお、本明細書で言う「XXに基づく」とは、「少なくともXXに基づく」ことを意味し、XXに加えて別の要素に基づく場合も含む。さらに、「XXに基づく」とは、XXを直接に用いる場合に限定されず、XXに対して演算や加工が行われたものに基づく場合も含む。「XX」は、任意の要素(例えば、任意の情報)である。
【0008】
図1は、実施形態の静止形電力変換器1の構成図である。
【0009】
静止形電力変換器1は、電力変換装置100と、制御部200とを備える。
【0010】
電力変換装置100は、交流電力を生成する電力変換器の一例である。
例えば、電力変換装置100は、直流電力と交流電力とを相互に変換可能に構成されている。電力変換装置100の直流側は直流リンクDCLに接続されていて、直流リンクDCLを介して直流電力の供給を受ける。
電力変換装置100の交流側には、例えばRST相の3相交流電力を授受する交流電力系統70に接続され、交流電力系統70を介して負荷が接続されている。電力変換装置100の交流出力に当たる接続端子TBは、主幹遮断器80を介して交流電力系統70に接続されている。交流電力系統70は、交流電力を中継する電力系統である。交流電力系統70は、系統の一例である。
【0011】
交流電力系統70には、CB91、92、93、・・・などの配電用遮断器(纏めて遮断器9と呼ぶことがある。)の1次側が接続されている。CB91、92、93、・・・などの各配電用遮断器の2次側には、それぞれ交流負荷(不図示)が接続されている。交流負荷の種類・容量は、一般的な範囲内で決定されている。平時には、各配電用遮断器が導通状態にあって、各配電用遮断器を介して各交流負荷に電力変換装置100からの交流電力が供給される。
【0012】
例えば、電力変換装置100は、電力変換装置本体101と、平滑コンデンサ102と、変成器(CT)103と、ACリアクトル104と、コンデンサ105と、変成器(CT)106と、計器用変圧器107とを備える。
【0013】
電力変換装置本体101は、回生機能付きの電力変換器として構成されている。
例えば、電力変換装置本体101は、U相V相W相の相ごとに複数の半導体スイッチング素子を備えていて、フルブリッジ型に形成されている。図に示す電力変換装置本体101の各相の半導体スイッチング素子は、例えば電力用MOSFETである。半導体スイッチング素子の種類には、制限はなくIGBT(Insulated Gate Bipolar Transistor)であってもよい。
【0014】
例えば、電力変換装置本体101の直流側は、直流リンクDCLに接続されていて、直流リンクDCLを介して直流電力が供給される。直流リンクDCLには、直流リンクDCLの直流電圧を平滑化する平滑コンデンサ102が設けられている。
【0015】
電力変換装置本体101は、交流電力を生成して、その交流側に設けられている接続端子TBと交流電力系統70とを介して、その交流電力を負荷に供給する。
【0016】
電力変換装置本体101は、例えば生成した3相交流電力を、その交流側に供給する。電力変換装置本体101の交流側は、交流電力系統111に接続され、その交流電力系統111を介してACリアクトル104の1次側に接続されている。交流電力系統111は、U相V相W相の3相で構成されている。
【0017】
ACリアクトル104の2次側は、交流電力系統112を介して接続端子TBに接続されている。交流電力系統112は、R相S相T相の3相で構成されている。接続端子TBは、R相S相T相の夫々の端子を有する。
【0018】
変成器(CT)103は、交流電力系統111に設けられ、U相V相W相の各相に夫々流れる交流電流を検出して、検出結果のI_U、I_V、I_Wを出力する。変成器(CT)106は、交流電力系統112に設けられ、R相S相T相の各相に夫々流れる電流を検出して、検出結果のI_R、I_S、I_Tを出力する。
【0019】
コンデンサ105は、交流電力系統112のR相S相T相の相間に夫々設けられ、Δ型に接続されている。ACリアクトル104とコンデンサ105との組み合わせによりLCフィルタが形成される。このLCフィルタの周波数特性は、後述するように、PWM制御の制御周期に依存する周波数帯の成分を低減するように形成されている。
【0020】
計器用変圧器107は、交流電力系統112に接続され、交流電力系統112の線間電圧のV_RS、V_ST、V_TRを検出する。
【0021】
電力変換装置100は、後述する制御部200によって制御される。
【0022】
図2を参照して、実施形態の制御部200について説明する。
図2は、実施形態の制御部200の概略構成図である。
【0023】
制御部200は、平時の制御に利用する第1制御モードと、過電流が検出された後の制御に利用する第2制御モードとを含む複数の制御モードを有する。制御部200は、検出された状態に基づいて適した制御モードを選択して、電力変換装置100を制御する。実施形態における「平時」とは、負荷短絡障害などが生じていない状況のことである。例えば「平時」であれば、電力変換装置100が流す電流値が所定の範囲内にある。これに対して、この所定の範囲を超える大きさの電流が流れている状況は、本実施形態の「異常時」に含まれる。
【0024】
制御部200は、第1制御モードを選択した場合に、電圧帰還値と第1交流電圧指令に基づいた交流電圧制御と、交流電圧制御の結果と電流帰還値を用いた電流制御とを実施して第1交流電圧基準を生成する。例えば、後述する「R軸S軸T軸を有する静止座標系の線間電圧帰還値V_RS,V_ST,V_TR」は、上記の電圧帰還値の一例である。後述する「回転座標系の電圧基準ED_REFとEQ_REF」は、上記の第1交流電圧指令の一例である。
制御部200は、第2制御モードを選択した場合に、上記の電圧帰還値と電流帰還値とを用いずに、第2交流電圧指令に基づいた第2交流電圧基準を生成する。後述する「回転座標系の電圧基準ED_REF_CLとEQ_REF_CL」は、上記の第2交流電圧指令の一例である。
【0025】
制御部200は、例えば、主制御部210と、短絡電流検出部220と、交流電圧基準生成部230と、切替部240と、PWM制御部250とを備える。
【0026】
なお、制御部200は、例えば、プロセッサを含み、そのプロセッサ(コンピュータ)がプログラムを実行することにより実現される機能部であってもよく、その一部又は全部がハードウェアであってもよい。上記の制御部200が備える各部の詳細について順に説明する。
【0027】
主制御部210は、主に第1制御モード時に利用され、電圧帰還値と電流帰還値とを用いたフィードバック制御を可能にする。
【0028】
例えば、主制御部210は、演算ブロック211から216と、演算ブロック210CMPとを備える。
【0029】
演算ブロック211は、基準位相THETA30と、R軸S軸T軸を有する静止座標系の線間電圧帰還値V_RS,V_ST,V_TRとを取得する。静止座標系の座標軸(R軸S軸T軸)は、夫々120度の位相差が設けられている。静止座標系の座標軸を基準に基準位相THETAを規定すると、基準位相THETAと基準位相THETA30との間に30度の位相差がある。演算ブロック211は、基準位相THETA30を用いて、静止座標系の電圧帰還値V_RS,V_ST,V_TRを、直交するd軸q軸を有する回転座標系の電圧帰還値VD,VQに変換して出力する。この変換は、3軸静止座標系から2軸回転座標系に変換する所謂dq変換である。
【0030】
演算ブロック212は、電圧制御のための演算処理を実施する。例えば、演算ブロック212は、回転座標系の電圧基準ED_REFとEQ_REFと、回転座標系のd軸電圧帰還値VDと、q軸電圧帰還値VQとを取得する。演算ブロック212は、電圧基準ED_REFと電圧帰還値VDとの差が0になるようなd軸電流基準ID_REFと、電圧基準EQ_REFと電圧帰還値VQとの差が0になるようなq軸電流基準IQ_REFを生成して出力する。
【0031】
演算ブロック213は、基準位相THETAと、d軸電流基準ID_REFと、q軸電流基準IQ_REFとを取得する。演算ブロック213は、基準位相THETAを用いて、d軸電流基準ID_REFと、q軸電流基準IQ_REFを、静止座標系の電流基準IU_REF,IV_REF,IW_REFに変換して出力する。この変換は、前述のdq変換の逆変換である。
なお、上記の演算ブロック211から213の説明は、主たる信号を示したものであり、本実施形態では、演算ブロック210CMPを利用して、波形歪を低減するように構成している。演算ブロック210CMPの詳細について、後述する。
【0032】
演算ブロック214は、電流制御のための演算処理を実施する。例えば、演算ブロック214は、静止座標系の電流基準IU_REF,IV_REF,IW_REFと、静止座標系の電流帰還値I_U,I_V,I_Wとを取得する。演算ブロック212は、電流基準IU_REFと電流帰還値I_Uとの差が0になるようなU相電圧指令VU_REFと、電流基準IV_REFと電流帰還値I_Vとの差が0になるようなV相電圧指令VV_REFと、電流基準IW_REFと電流帰還値I_Wとの差が0になるようなW相電圧指令VW_REFとを生成して出力する。
【0033】
演算ブロック215は、線間電圧帰還値V_RS,V_ST,V_TRと、U相電圧指令VU_REFと、V相電圧指令VV_REFと、W相電圧指令VW_REFとを取得する。まず演算ブロック215は、線間電圧帰還値V_RS,V_ST,V_TRを、相電圧帰還値V_R,V_S,V_Tに変換する。演算ブロック215は、相電圧帰還値V_R,V_S,V_Tと、U相電圧指令VU_REFと、V相電圧指令VV_REFと、W相電圧指令VW_REFとを、相ごとに加算して、相電圧指令V_R1,V_S1,V_T1を生成する。
【0034】
演算ブロック216は、相電圧指令V_R1,V_S1,V_T1と、定数KPWMとを取得する。演算ブロック216は、相電圧指令V_R1,V_S1,V_T1に、定数KPWMを夫々乗じて、第1交流電圧基準V_R11,V_S11,V_T11を生成する。
上記の各演算ブロックの処理により、主制御部210は、第1交流電圧基準V_R11,V_S11,V_T11を生成する。
【0035】
交流電圧基準生成部230は、過電流検出後の所定の期間に適用する電圧指令を生成する。例えば、交流電圧基準生成部230は、基準位相THETAと、回転座標系の電圧基準ED_REF_CLとEQ_REF_CLとを取得する。電圧基準ED_REF_CLとEQ_REF_CLは、予め定められた大きさの定数であってよい。
【0036】
交流電圧基準生成部230は、基準位相THETAを用いて、電圧基準ED_REF_CLとEQ_REF_CLを、第2交流電圧基準V_R12,V_S12,V_T12に変換して出力する。この変換は、前述のdq変換の逆変換と同様である。
【0037】
短絡電流検出部220は、静止座標系の電流帰還値I_R,I_S,I_Tを取得して、これらの値(瞬時値)に基づいて、電流の大きさを識別する。例えば、短絡電流検出部220は、電流帰還値I_R,I_S,I_Tの何れかが、予め定められた閾値ITHを超えた場合に、過電流が生じたと識別するとよい。短絡電流検出部220は、過電流が生じない状況(平時の状況)にあると識別した場合に、識別結果として0を出力し、電流が生じた状況(異常な状況)にあると識別した場合に、識別結果として1を出力する。
【0038】
切替部240は、主制御部210によって生成された第1交流電圧基準V_R11,V_S11,V_T11と、交流電圧基準生成部230によって生成された第2交流電圧基準V_R12,V_S12,V_T12とを、短絡電流検出部220の識別結果に基づいて切り替える。切替部240は、短絡電流検出部220の識別結果が0である場合に、第1交流電圧基準V_R11,V_S11,V_T11を選択して、短絡電流検出部220の識別結果が1である場合に、第1交流電圧基準V_R12,V_S12,V_T12を選択して、選択の結果を交流電圧基準V_R10,V_S10,V_T10として夫々出力する。
【0039】
PWM制御部250は、切替部240から交流電圧基準V_R10,V_S10,V_T10を取得して、これをPWM制御によって変調したパルス列を生成する。例えば、このPWM制御に、三角波のキャリア信号を用いた三角波比較方式を用いてよい。生成されたパルス列は、電力変換装置本体101を構成する半導体スイッチング素子(QU,QV,QW,QX,QY,QZ)を制御するためのゲートパルスとして電力変換装置本体101に供給される。
【0040】
上記のように構成された静止形電力変換器1には、正弦波交流を負荷へ供給するためのLCフィルタ回路を有している。このLCフィルタは、例えばPWM制御の制御周期に依存する周波数帯の成分を低減するように形成されている。このため、LCフィルタのカットオフ周波数は、PWM制御の制御周期に依存する周波数帯の成分を低減できればよく比較的高めに選定されることがあった。
【0041】
ところで、PWM制御部250に三角波比較方式を用いると、半導体スイッチング素子(QU,QV,QW,QX,QY,QZ)の導通期間の干渉を避けるためのデッドタイムや、半導体スイッチング素子(QU,QV,QW,QX,QY,QZ)を駆動させるゲートパルスの最小パルス幅などの制約の影響で、電力変換装置本体101の出力電圧に低次高調波の歪が発生してしまう。これらの低次高調波の歪は、回路定数や負荷の状態により発生状況は異なる。
【0042】
例えば、このような低次高調波は、上記のLCフィルタ回路の周波数特性における信号低減範囲外になり、つまり通過周波数帯に含まれることがある。このような低次高調波の歪が含まれる場合には、LCフィルタ回路を設けただけでは低減できないことがある。
また、フィードフォワード的に高調波を生成して補償しても、補償量が固定値であると、発生状況を特定できない低次高調波の歪を低減できないことがあった。
【0043】
そこで、本実施形態では、このような低次高調波の歪を、演算ブロック210CMPを用いたフィードバック制御によって補償するようにした。以下、これについて説明する。
【0044】
図3を参照して、実施形態の補正された電流指令値を生成する演算ブロック210CMPについて説明する。図3は、実施形態の演算ブロック210CMPのブロック図である。
【0045】
演算ブロック210CMPは、演算ブロック2115、2117、2125、2127、2130、2131、2135、2137、2170、2171、2181から2184を備える。
【0046】
演算ブロック2181は、基準位相THETA30の周波数を5倍にした信号を生成して出力する。演算ブロック2183は、基準位相THETA30の周波数を7倍にした信号を生成して出力する。
【0047】
演算ブロック2182は、基準位相THETAの周波数を5倍にした信号(基準位相THETA5)を生成して出力する。演算ブロック2184は、基準位相THETAの周波数を7倍にした信号(基準位相THETA7)を生成して出力する。
【0048】
演算ブロック2170は、基準位相THETA30と、静止座標系の電圧基準ED_REFとEQ_REFとを取得する。演算ブロック2171は、基準位相THETA30を用いて、静止座標系の電圧基準ED_REFとEQ_REFを、逆dq変換によって静止座標系の電圧基準VU_REF,VV_REF,VW_REFに変換して出力する。
【0049】
演算ブロック2171は、静止座標系の電圧基準VU_REF,VV_REF,VW_REFと、静止座標系の線間電圧帰還値V_RS,V_ST,V_TRとを取得する。演算ブロック2171は、3個の減算器を含み、静止座標系の電圧基準VU_REF,VV_REF,VW_REFから、静止座標系の線間電圧帰還値V_RS,V_ST,V_TRを夫々減算して得た差を、夫々出力する。
【0050】
演算ブロック2115は、基準位相THETA30と、演算ブロック2171が出力する上記の差とを取得する。演算ブロック2115は、基準位相THETA30の周波数を5倍にした信号を用いて、静止座標系の電圧帰還値V_RS,V_ST,V_TRを、直交するd軸q軸を有する回転座標系の電圧帰還値VD5,VQ5にdq変換して出力する。
【0051】
演算ブロック2115の出力には、演算ブロック2115D、2115Qが設けられている。演算ブロック2115D、2115Qは、所定の周波数帯域を減衰させる減衰特性を有するフィルタである。演算ブロック2115D、2115Qは、回転座標系の電圧帰還値VD5,VQ5の所定の周波数帯域を減衰させた電圧帰還値Vd5,Vq5を生成する。この所定の周波数帯域を、5次の高調波と検出される成分の帯域を透過して、それ以上の周波数成分を遮断するよう決定してよい。
なお、図の中で演算ブロック2115D、2115Qを、演算ブロック2115の外に示しているが、演算ブロック2115の内部に配置されていてもよい。
【0052】
演算ブロック2117は、基準位相THETA30と、演算ブロック2171が出力する上記の差とを取得する。演算ブロック2117は、基準位相THETA30の周波数を7倍にした信号を用いて、静止座標系の電圧帰還値V_RS,V_ST,V_TRを、直交するd軸q軸を有する回転座標系の電圧帰還値VD7,VQ7にdq変換して出力する。
【0053】
演算ブロック2117の出力には、演算ブロック2117D、2117Qが設けられている。演算ブロック2117D、2117Qは、所定の周波数帯域を減衰させる減衰特性を有するフィルタである。演算ブロック2117D、2117Qは、回転座標系の電圧帰還値VD7,VQ7の所定の周波数帯域を減衰させた電圧帰還値Vd7,Vq7を生成する。この所定の周波数帯域を、7次の高調波と検出される成分の帯域を透過して、それ以上の周波数成分を遮断するよう決定してよい。この所定の周波数帯域を、基準位相THETA30の周波数の7倍を基準に決定してよい。
なお、図の中で演算ブロック2117D、2117Qを、演算ブロック2117の外に示しているが、演算ブロック2117の内部に配置されていてもよい。
【0054】
演算ブロック2125は、基準位相THETA30の周波数を5倍の周波数成分に対して、前述の演算ブロック212と同様に、電圧制御のための演算処理を実施する。例えば、演算ブロック2125は、電圧帰還値Vd5,Vq5を取得する。演算ブロック212は、電圧帰還値Vd5が0になるようなd軸電流基準ID_REF5と、電圧帰還値Vd5が0になるようなq軸電流基準IQ_REF5とを生成して出力する。
【0055】
演算ブロック2127は、基準位相THETA30の周波数を7倍の周波数成分に対して、前述の演算ブロック212と同様に、電圧制御のための演算処理を実施する。例えば、演算ブロック2127は、電圧帰還値Vd7,Vq7を取得する。演算ブロック2127は、電圧帰還値Vd7が0になるようなd軸電流基準ID_REF7と、電圧帰還値Vd7が0になるようなq軸電流基準IQ_REF7とを生成して出力する。
【0056】
演算ブロック2130は、基準位相THETAと、d軸電流基準ID_REFと、q軸電流基準IQ_REFとを取得する。演算ブロック2130は、基準位相THETAを用いて、d軸電流基準ID_REFと、q軸電流基準IQ_REFを、静止座標系の電流基準IU*,IV*,IW*にdq変換して出力する。
【0057】
演算ブロック2135は、基準位相THETA5と、d軸電流基準ID_REF5と、q軸電流基準IQ_REF5とを取得する。演算ブロック2135は、基準位相THETA5を用いて、d軸電流基準ID_REF5と、q軸電流基準IQ_REF5を、静止座標系の電流基準IU5*,IV5*,IW5*にdq変換によって変換して出力する。
【0058】
演算ブロック2137は、基準位相THETA7と、d軸電流基準ID_REF7と、q軸電流基準IQ_REF7とを取得する。演算ブロック2137は、基準位相THETA7を用いて、d軸電流基準ID_REF7と、q軸電流基準IQ_REF7を、静止座標系の電流基準IU7*,IV7*,IW7*にdq変換によって変換して出力する。
【0059】
演算ブロック2131は、静止座標系の電流基準IU*,IV*,IW*と、静止座標系の電流基準IU5*,IV5*,IW5*と、静止座標系の電流基準IU7*,IV7*,IW7*とを夫々取得する。演算ブロック2131は、6個の加算器を含む。演算ブロック2131は、電流基準IU*と、電流基準IU5*と、電流基準IU7*とを夫々加算して、静止座標系の電流基準IU_REFを取得する。演算ブロック2131は、電流基準IV*と、電流基準IV5*と、電流基準IV7*とを夫々加算して、静止座標系の電流基準IV_REFを取得する。演算ブロック2131は、電流基準IW*と、電流基準IW5*と、電流基準IW7*とを夫々加算して、静止座標系の電流基準IW_REFを取得する。
【0060】
これにより、静止座標系の電流基準IU_REF,IV_REF,IW_REFには、電圧の検出値に基づいた5次と7次の歪成分を打ち消すための補正量が含まれている。この電流基準IU_REF,IV_REF,IW_REFを用いて、後段の電流制御を行うことで、歪成分を打ち消すことができる。
【0061】
上記を整理する。
基本波電圧のdq軸指令値を逆dq変換し,正弦波指令値を算出する。
演算ブロック2170と演算ブロック2171は、電圧フィードバックである静止座標系の電圧基準ED_REFとEQ_REFから変換した静止座標系の電圧基準VU_REF,VV_REF,VW_REFと、生成した正弦波指令値である静止座標系の線間電圧帰還値V_RS,V_ST,V_TRとの差を算出する。上記の通り、この差が、各相の高調波成分になる。
【0062】
低減させたい高調波の次数に対応する回転角(THETA30)を用いて、上記の差を、dq変換することで、低減させたい高調波の成分を、dq軸上の直流量に変換する。このような演算手法を利用することで、高調波抽出用のフィルタを用いる演算手法に比べて制御の応答性を高めることができる。
【0063】
上記の高調波の直流量を0にするために、値を0にした指令値(#0)を用いて、この指令値と、上記の差に基づく電圧フィードバック値との偏差(電圧偏差)を得る。この電圧偏差に対するPI演算を実施するPI制御を行う。
【0064】
なお、上記の通り、有意な情報は、dq軸上の直流量にあることから、所望の周波数特性を有するフィルタを用いて直流量以外の成分を除去してもよい。このフィルタの繰り返し演算は、PWM制御の制御周期に比べて、その演算周期が低速でなくともよい。換言すれば、このフィルタの繰り返し演算を、PWM制御の制御周期の中で複数回実施できるような速度に設定してよい。
【0065】
PI制御の結果は、高調波を打ち消して低減させる補償量を規定する電流指令値になる。このPI制御の結果による電流指令値を、通常の電流制御の指令値(出力電流指令値)に加算することで、新たな電流指令値を生成する。
【0066】
新たに生成した電流指令値を用いた電流制御を実施して、電力変換装置本体101を稼働させることで、低次高調波を抑制可能な電流・電圧制御が可能になる。なお、電流制御以降の処理の手法に制限はなく、一般的な手法を適用することができる。
【0067】
図4を参照して、検出された電圧の電圧波形と、その電圧波形に含まれる高調波の歪成分との関係について説明する。
図4は、実施形態の電圧波形と、各次数の高調波の歪成分との関係を説明するための図である。図4に示すグラフの横軸が時間、縦軸が電圧の振幅を示す。横軸に示す期間は、基本波の1周期分である。このグラフには、基本波の波形ほか、高調波として、5次、7次、9次、11次の奇数次の波形が夫々描かれている。振幅が適宜決定されたこれらの高調波が基本波に重畳している電圧波形があり、これを各次数の成分に分けて抽出する。
【0068】
なお、本実施形態の場合、Δ結線があり、これによって3次高調波の歪成分が抑圧されている。Δ結線がない場合には、3次高調波の歪成分も補償するとよい。
【0069】
なお、電力変換装置100の交流出力には、フィルタ回路が設けられていて、電力変換によって生成した交流電力を負荷側に供給可能である。電力変換装置100には、制御により負荷側に生じた負荷短絡事故を切り離すための遮断器9が配置されている。遮断器9が過電流に応答して回路を遮断することで、負荷短絡事故が生じた個所を交流電力系統70から切り離すことができる。
【0070】
上記の実施形態によれば、静止形電力変換器1は、電力変換装置100と、制御部200とを備える。電力変換装置100は、電力変換によって生成した交流電力を負荷側に供給するように構成されている。制御部200は、補正された電流指令値を用いて前記電力変換装置を制御する。制御部200において、演算ブロック212は、電力変換装置100の出力電圧の基準値に基づいて、電力変換装置100の出力電圧が基準値になるように調整した出力電流指令値を生成する(第1指令値生成部)。演算ブロック2171は、電力変換装置100の出力電圧とその基準値との偏差を求める(電圧偏差算出部)。演算ブロック2115、2117は、その偏差に含まれる高調波成分の大きさを高調波の次数に対応付けて検出する(高調波成分検出部)。演算ブロック2125、2127は、当該検出された高調波成分の大きさが零になるような、出力電流指令値の補正値を生成する(第2指令値生成部)。演算ブロック2131は、前記出力電流指令値の補正値を用いて前記出力電流指令値を補正する(電流指令値補正部)。このような静止形電力変換器1によれば、その出力に含まれる低次高調波歪成分を効率よく低減させることができる。
【0071】
より具体的には、第1指令値生成部として機能する演算ブロック212は、2次元静止座標系の成分を用いて出力電流指令値を生成する。電圧偏差算出部として機能する演算ブロック2171は、3次元静止座標系の成分を用いて電力変換装置100の出力電圧とその基準値との偏差を求める。高調波成分検出部として機能する演算ブロック2115、2117は、3次元静止座標系の成分を用いて、その偏差に含まれる高調波成分の大きさを高調波の次数に対応付けて検出するとよい。第2指令値生成部として機能する演算ブロック2131は、2次元静止座標系の成分を用いて、出力電流指令値を補正する。
【0072】
電力変換装置100の出力電圧の帰還値を取得するための変換処理であって、第1の2次元静止座標系の成分から3次元静止座標系の成分を生成する変換処理に、基準位相THETA30(第1基準位相)が適用されている。電力変換装置100の出力電圧の指令値を取得するための変換処理であって、3次元静止座標系の成分から第2の2次元静止座標系の成分を生成する変換処理に、基準位相THETA(第2基準位相)が適用されている。これによって、電力変換装置100の出力電圧の帰還値の取得に係る座標変換と、指令値の取得に係る座標変換に、互いに異なる基準位相を適用できる。
【0073】
基準位相THETA30(第1基準位相の位相信号)と基準位相THETA(第2基準位相の位相信号)との間に、3相交流のΔ結線に関連付けて決定された所定の位相差(30度)が設けられている。これによって、回路中で電圧を検出する位置と回路構成とに依存する位相差の影響を低減させることができる。
【0074】
以上説明した少なくとも一つの実施形態によれば、静止形電力変換器は、電力変換装置と、制御部とを備える。前記電力変換装置は、電力変換によって生成した交流電力を負荷側に供給可能である。前記制御部は、補正された電流指令値を用いて前記電力変換装置を制御する。前記制御部は、第1指令値生成部と、電圧偏差算出部と、高調波成分検出部と、第2指令値生成部とを備える。前記第1指令値生成部は、前記出力電流指令値の補正値を用いて前記出力電流指令値を補正する。前記第1指令値生成部は、前記電力変換装置の出力電圧の基準値に基づいて、前記電力変換装置の出力電圧が前記基準値になるように調整した出力電流指令値を生成する。前記電圧偏差算出部は、前記電力変換装置の出力電圧とその基準値との偏差を求める。前記高調波成分検出部は、前記偏差に含まれる高調波成分の大きさを高調波の次数に対応付けて検出する。前記高第2指令値生成部は、当該検出された高調波成分の大きさが零になるような前記出力電流指令値の補正値を生成する。前記電流指令値補正部は、前記出力電流指令値の補正値を用いて前記出力電流指令値を補正する。これにより、静止形電力変換器は、出力に含まれる低次高調波歪成分を効率よく低減させることができる。
【0075】
以上、本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他のさまざまな形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明及びその等価物の範囲に含まれる。また、前述の各実施形態は、相互に組み合わせて実施することができる。
【符号の説明】
【0076】
1 静止形電力変換器、100 電力変換装置、200 制御部、210 主制御部210、250PWM制御部、212 演算ブロック(第1指令値生成部)、2171演算ブロック(電圧偏差算出部)、2115、2117 演算ブロック(高調波成分検出部)、2125、2127 演算ブロック(第2指令値生成部)、2131 演算ブロック(電流指令値補正部)
図1
図2
図3
図4