(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024037285
(43)【公開日】2024-03-19
(54)【発明の名称】合成床版の接合構造
(51)【国際特許分類】
E01D 19/12 20060101AFI20240312BHJP
【FI】
E01D19/12
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022142011
(22)【出願日】2022-09-07
(71)【出願人】
【識別番号】509338994
【氏名又は名称】株式会社IHIインフラシステム
(71)【出願人】
【識別番号】000000099
【氏名又は名称】株式会社IHI
(74)【代理人】
【識別番号】110001863
【氏名又は名称】弁理士法人アテンダ国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 統
(72)【発明者】
【氏名】末次 剛
(72)【発明者】
【氏名】福井 敦史
(72)【発明者】
【氏名】高井 祐輔
(72)【発明者】
【氏名】吉田 有希
(72)【発明者】
【氏名】聶 菁
(72)【発明者】
【氏名】木作 友亮
【テーマコード(参考)】
2D059
【Fターム(参考)】
2D059AA17
2D059GG55
(57)【要約】
【課題】合成床版のコンクリートと間詰め材との境界面の剥離や亀裂の発生を抑制することのできる合成床版の接合構造を提供する。
【解決手段】各合成床版10のコンクリート部15の端面15aから延出し、コンクリート部15間の間詰めコンクリート19内に埋設される第1の鉄筋12が先端部に拡径した定着部12aを有するとともに、先端側を橋軸方向に対して斜め下方に向かって屈曲するように形成されているので、間詰めコンクリート19の上面側よりも引張応力の小さい上下方向中央側に定着部12aを位置させることができ、定着部12aへの応力集中によるコンクリート部15と間詰めコンクリート19との境界面の剥離や亀裂の発生を抑制することができ、合成床版10の接合部の耐久性を向上させることができる。
【選択図】
図8
【特許請求の範囲】
【請求項1】
鋼製の底板上に所定方向に延びる鉄筋を配置してコンクリートを打設することにより形成される合成床版の底板の端部同士を連結するとともに、互いに隣り合う合成床版のコンクリートの端面間に前記鉄筋の端部側を配置し、前記コンクリートの端面間に間詰め材を充填することにより、合成床版同士を所定方向に接合する合成床版の接合構造において、
前記コンクリートの端面間に配置される鉄筋は、先端部に径方向に拡大した定着部を有するとともに、先端側を前記所定方向に対して斜め下方に向かって屈曲するように形成されている
ことを特徴とする合成床版の接合構造。
【請求項2】
前記コンクリートの端面における少なくとも前記鉄筋の上方部分が凹凸状をなすように形成されている
ことを特徴とする請求項1記載の合成床版の接合構造。
【請求項3】
前記コンクリートの端面における少なくとも前記鉄筋の上方部分と前記間詰め材との間が接着剤によって接着されている
ことを特徴とする請求項1または2記載の合成床版の接合構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば一般道や高速道路等の橋梁に用いられる合成床版の接合構造に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、例えば橋梁の架設に用いられる合成床版として、工場で製作した鋼製の底板を現場で主桁上に固定し、底板上に鉄筋を配置してコンクリートを打設することにより床版を構築するようにしたものが知られている(例えば、特許文献1参照)。このような合成床版を用いた施工では、底板上に直接コンクリートを打設することができるので、型枠を用いる必要がなく、現場作業の効率化を図ることができる。しかしながら、現場で床版全体のコンクリートを打設する工法では、現場でのコンクリートの打設及び長い養生期間を必要とするため、工期の短縮を十分に図ることができなかった。
【0003】
また、予め工場でコンクリートと一体に製作したプレキャスト合成床版を用いることにより、現場施工の効率化及び工期の短縮化を図るようにしたものが知られている(例えば、特許文献2参照)。この工法では、主桁上に合成床版を設置するとともに、互いに隣り合う合成床版の端面間に間詰めコンクリートを打設するようにしているが、合成床版間における荷重の伝達力を確保するために、合成床版の端面から間詰め部内に複数の鉄筋を延出させ、各鉄筋により合成床版と間詰めコンクリートとの結合強度を高めるようにしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第4106317号公報
【特許文献2】特開2020-63617号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、前記プレキャスト合成床版の接合構造においては、コンクリートの端面から延出する鉄筋の先端部に径方向に拡大した定着部を形成し、定着部によって間詰めコンクリートに対する鉄筋の引張方向の支圧力を高めるようにしている。しかしながら、各合成床版に曲げ応力が生じ、間詰めコンクリート内の鉄筋に引張力が加わると、鉄筋の定着部に応力が集中し、合成床版のコンクリートと間詰めコンクリートとの境界部の剥離や、鉄筋の定着部を起点とする間詰めコンクリートの亀裂が発生するおそれがあった。
【0006】
本発明は前記問題点に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、合成床版のコンクリートと間詰め材との境界面の剥離や亀裂の発生を抑制することのできる合成床版の接合構造を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は前記目的を達成するために、鋼製の底板上に所定方向に延びる鉄筋を配置してコンクリートを打設することにより形成される合成床版の底板の端部同士を連結するとともに、互いに隣り合う合成床版のコンクリートの端面間に前記鉄筋の端部側を配置し、前記コンクリートの端面間に間詰め材を充填することにより、合成床版同士を所定方向に接合する合成床版の接合構造において、前記コンクリートの端面間に配置される鉄筋は、先端部に径方向に拡大した定着部を有するとともに、先端側を前記所定方向に対して斜め下方に向かって屈曲するように形成されている。
【0008】
これにより、各合成床版のコンクリートの端面間に配置される鉄筋の端部側が先端側を橋軸方向に対して斜め下方に向かって屈曲するように形成されていることから、間詰め材の上面側よりも引張応力の小さい上下方向中央側に定着部が位置し、定着部への応力集中による合成床版のコンクリートと間詰め材との境界面の剥離や亀裂の発生が抑制される。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、合成床版のコンクリートと間詰め材との境界面の剥離や亀裂の発生を抑制することができるので、合成床版の接合部の耐久性を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】本発明の第1の実施形態を示す合成床版の平面図
【
図10】合成床版の接合部の比較例を示す概略側面断面図
【
図11】本発明の第2の実施形態を示す合成床版の接合部の側面断面図
【
図12】本発明の第3の実施形態を示す合成床版の接合部の側面断面図
【発明を実施するための形態】
【0011】
図1乃至
図9は本発明の第1の実施形態を示すもので、例えば一般道や高速道路等の橋梁に用いられる合成床版を示すものである。
【0012】
同図に示す合成床版10は、主桁20上に設置されるとともに、他の合成床版10と橋軸方向に接合されることにより架設される。
【0013】
合成床版10は、床版本体の底面をなす鋼製の底板11と、橋軸方向に延びる配力筋としての複数の第1の鉄筋12と、橋軸直角方向に延びる主鉄筋としての複数の第2の鉄筋13と、底板11上に固定された複数の補剛材14と、底板11上に打設されたコンクリート部15とから構成され、底板11は他の合成床版10の底板11とボルト16及び添接板17によって連結される。
【0014】
底板11は、平板状の鋼板からなり、その橋軸方向両端側にはボルト16を挿通する複数のボルト挿通孔11aが設けられている。各ボルト挿通孔11aは互いに橋軸直角方向に間隔をおいて配置され、それぞれ底板11を厚さ方向に貫通するように設けられている。また、底板11上には、コンクリート部15内または後述する間詰めコンクリート19内に埋設される複数のスタッド11bが設けられている。
【0015】
各第1の鉄筋12は、底板11の上方に位置するように橋軸直角方向に配列され、その両端側はコンクリート部15の外部に延出している。各第1の鉄筋12の端部には、後述する間詰めコンクリートに定着させるための定着部12aが設けられ、定着部12aは第1の鉄筋12の径方向に拡大するように形成されている。また、各第1の鉄筋12の先端側は、橋軸方向に対して斜め下方に向かって屈曲するように形成されている。各第1の鉄筋12は、
図2に示すように隣り合う他の合成床版10の各第1の鉄筋12と橋軸直角方向に一本ずつ交互に配列されるように設けられている。この場合、各第1の鉄筋12は、一方の合成床版10の第1の鉄筋12と他方の合成床版10の第1の鉄筋12が互いに一つおきに広い間隔A1 と狭い間隔A2 になるように配置されるとともに、広い間隔A1 の下方にボルト16が位置するように配置されている。
【0016】
各第2の鉄筋13は、底板11の上方に位置するように橋軸方向に配列され、各第1の鉄筋12の上方に配置されている。
【0017】
各補剛材14は、橋軸直角方向に延びる鋼材(例えば、溝形鋼)からなり、互いに橋軸方向に間隔をおいて配置されている。
【0018】
コンクリート部15は、工場等で型枠を用いて底板11に打設され、底板11上に底板11の全幅に亘る床版部分を形成している。コンクリート部15には、第1の鉄筋12、第2の鉄筋13、補剛材14及びスタッド11bが埋設され、底板11の端部側及び第1の鉄筋12の端部側はコンクリート部15の端面15aから外部に水平方向に延出している。この場合、各第1の鉄筋12は、コンクリート部15の上下方向中央よりも上方に配置されている。また、コンクリート部15には、主桁20のずれ止め部材を挿通する複数の孔15bが設けられている。
【0019】
ボルト16は、高力ボルトからなり、合成床版10を施工現場に搬入する前に予め底板11に仮固定される。その際、ボルト16は、
図3に示すように底板11のボルト挿通孔11aに下方から挿入されるとともに、底板11の上方から仮固定ナット16aを螺着することにより底板11に仮固定される。仮固定ナット16aには、例えば添接板17よりも厚さ寸法の小さい合成樹脂製のリング状部材が用いられる。
【0020】
添接板17は、橋軸直角方向に延びる鋼板からなり、互いに隣り合う合成床版10の底板11に亘って各底板11の端部側の上面に載置されるように形成されている。添接板17にはボルト16を挿通する複数のボルト挿通孔17aが設けられ、ボルト挿通孔17aは仮固定ナット16aの外径よりも大きい内径に形成されている。
【0021】
以上のように構成された合成床版10は、工場等で製作された後、施工現場に搬送される。その際、合成床版10の底板11には予め高力ボルト16が仮固定されている。
【0022】
以下、
図4乃至
図8を参照して合成床版10の接合工程を説明する。
【0023】
まず、現場に搬入された合成床版10は、
図4に示すように主桁20上に先行して設置されている合成床版10に対し、
図5に示すように橋軸方向一方に位置するように主桁20上に設置される。その際、合成床版10の底板11同士が僅かな間隔をおいて橋軸方向に突き合わされるとともに、各合成床版10のコンクリート部15の間に間詰め領域が形成される。また、コンクリート部15の孔15b内には主桁20のずれ止め部材(図示せず)が配置される。
【0024】
次に、
図6に示すように各合成床版10の底板11の端部上面に添接板17を配置し、底板11に予め仮固定されているボルト16にナット16bを螺合して仮締めする。その際、仮固定ナット16aは添接板17のボルト挿通孔17a内に配置されることから、仮固定ナット16aがナット16bに干渉することがない。
【0025】
ここで、互いに隣り合う合成床版10においては、
図2に示すように各第1の鉄筋12の広い間隔A1 の下方にボルト16が位置しているので、
図7に示すように各第1の鉄筋12の上方から広い間隔A1 を挿通可能な締め付け工具30(例えば、ロングソケット付きシャーレンチ)を用いてナット16bをボルト16に本締めする。
【0026】
この後、
図8に示すように、各コンクリート部15間の間詰め領域に位置する第1の鉄筋12上に橋軸直角方向に延びる複数の補強鉄筋18を互いに橋軸方向に間隔をおいて配置し、各コンクリート部15間の間詰め領域に間詰め材としての間詰めコンクリート19を打設する。間詰めコンクリート19には、例えば速硬性コンクリートが用いられる。これにより、間詰め領域の各第1の鉄筋12が間詰めコンクリート19と一体化し、各第1の鉄筋12と間詰めコンクリート19との間に生ずる付着力と支圧力(水平方向のせん断力に抗する力)によって各合成床版10同士の結合強度が高められる。その際、各第1の鉄筋12の端部に設けられた定着部12aによって付着力と支圧力が更に高められることから、
図3に示すように、各合成床版10の第1の鉄筋12同士の橋軸方向における重なり部分の長さLは、定着部12aを有しない鉄筋を用いた場合よりも短くすることができる。
【0027】
また、コンクリート部15の孔15b内に無収縮モルタルを充填することにより、主桁20のずれ止め部材(図示せず)とコンクリート部15が一体化される。
【0028】
ここで、
図9に示すように、各合成床版10にそれぞれ荷重Fが加わり、間詰めコンクリート19に曲げ応力が生ずると、間詰めコンクリート19内の第1の鉄筋12に引張力Pが加わる。その際、第1の鉄筋12の先端側は橋軸方向に対して斜め下方に向かって屈曲しているので、
図10の比較例に示すように第1の鉄筋12の先端側が屈曲していない場合に比べ、先端の定着部12aから間詰めコンクリート19の上面までの高さ距離Dが長くなる。これにより、間詰めコンクリート19の上面側よりも引張応力の小さい上下方向中央側に定着部12aが位置することから、定着部12aへの応力集中による合成床版10のコンクリート部15の端面15aと間詰めコンクリート19との境界面(特に第1の鉄筋12の上方部分)の剥離や定着部12aを起点とする亀裂の発生が抑制される。この場合、境界部から定着部12aまでの間には、例えば10mm~60mm程度の水平方向の距離Cが確保されることが剥離防止の上で好ましい。
【0029】
このように、本実施形態によれば、各合成床版10のコンクリート部15の端面15aから延出し、コンクリート部15間の間詰めコンクリート19内に埋設される第1の鉄筋12が先端部に拡径した定着部12aを有するとともに、先端側を橋軸方向に対して斜め下方に向かって屈曲するように形成されているので、間詰めコンクリート19の上面側よりも引張応力の小さい上下方向中央側に定着部12aを位置させることができ、定着部12aへの応力集中によるコンクリート部15と間詰めコンクリート19との境界面の剥離や亀裂の発生を抑制することができ、合成床版10の接合部の耐久性を向上させることができる。
【0030】
尚、前記実施形態では、一方の合成床版10の第1の鉄筋12と他方の合成床版10の第1の鉄筋12が互いに一つおきに広い間隔と狭い間隔になるように配置したものを示したが、各合成床版10の第1の鉄筋12を等間隔で配置するようにしたものであってもよい。
【0031】
また、前記実施形態では、合成床版10同士を橋軸方向に接合するようにしたものを示したが、橋軸直角方向に接合する場合にも適用することができる。
【0032】
図11は本発明の第2の実施形態を示すもので、前記第1の実施形態と同等の構成部分には同一の符号を付して示す。
【0033】
本実施形態では、各合成床版10のコンクリート部15の端面15cが凹凸状をなすように形成されている。これにより、コンクリート部15の端面15c間に充填された間詰めコンクリート19とコンクリート部15との境界面が凹凸状になり、境界面の付着力が高められる。
【0034】
本実施形態によれば、コンクリート部15と間詰めコンクリート19との境界面の付着力を高めることができるので、定着部12aへの応力集中による合成床版10のコンクリート部15と間詰めコンクリート19との境界面(特に第1の鉄筋12の上方部分)の剥離や定着部12aを起点とする亀裂の発生を抑制することができ、合成床版10の接合部の耐久性を向上させることができる。
【0035】
尚、前記第2の実施形態では、コンクリート部15の端面全体を凹凸状に形成したものを示したが、コンクリート15の端面における第1の鉄筋12の上方部分をのみを凹凸状に形成するようにしてもよい。
【0036】
図12は本発明の第3の実施形態を示すもので、前記第1の実施形態と同等の構成部分には同一の符号を付して示す。
【0037】
本実施形態では、各合成床版10のコンクリート部15の端面に接着剤15dを塗布するようにしている。これにより、コンクリート部15の端面間に充填された間詰めコンクリート19がコンクリート部15の端面に接着剤15dによって接着され、コンクリート部15と間詰めコンクリート19との境界面の付着力が高められる。
【0038】
本実施形態によれば、コンクリート部15と間詰めコンクリート19との境界面の付着力を高めることができるので、定着部12aへの応力集中による合成床版10のコンクリート部15と間詰めコンクリート19との境界面(特に第1の鉄筋12の上方部分)の剥離や定着部12aを起点とする亀裂の発生を抑制することができ、合成床版10の接合部の耐久性を向上させることができる。
【0039】
尚、前記第2の実施形態では、コンクリート部15の端面全体に接着剤15dを塗布するようにしたものを示したが、コンクリート15の端面における第1の鉄筋12の上方部分をのみに接着剤を塗布するようにしてもよい。
【0040】
また、前記第2及び第3の実施形態では、前記第1の実施形態と同様、第1の鉄筋12の先端側を橋軸方向に対して斜め下方に向かって屈曲するように形成したものを示したが、第1の鉄筋12の先端側が屈曲していないものにも第2及び第3の実施形態の少なくとも一方の発明を適用することができる。
【0041】
尚、前記各実施形態は本発明の一実施例であり、本発明は前記実施形態に記載されたものに限定されない。
【符号の説明】
【0042】
10…合成床版、11…底板、12…第1の鉄筋、12a…定着部、15…コンクリート部、15a,15c…端面、15d…接着剤、19…間詰めコンクリート。