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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024037312
(43)【公開日】2024-03-19
(54)【発明の名称】位置推定システム及び位置推定方法
(51)【国際特許分類】
   G01S 5/14 20060101AFI20240312BHJP
   H04W 64/00 20090101ALI20240312BHJP
【FI】
G01S5/14
H04W64/00 110
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022142060
(22)【出願日】2022-09-07
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り 令和 4年8月23日 一般社団法人電子情報通信学会主催、2022年電子情報通信学会ソサイエティ大会のダウンロードサイト(http://www.ieice-taikai.jp/2022society/jpn/pdfdownload.html)にて公開
(71)【出願人】
【識別番号】303056368
【氏名又は名称】東急建設株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】504145342
【氏名又は名称】国立大学法人九州大学
(74)【代理人】
【識別番号】240000327
【弁護士】
【氏名又は名称】弁護士法人クレオ国際法律特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】渡辺 拓人
(72)【発明者】
【氏名】池田 直広
(72)【発明者】
【氏名】牟田 修
【テーマコード(参考)】
5J062
5K067
【Fターム(参考)】
5J062BB01
5J062BB03
5J062BB05
5J062CC18
5J062EE01
5K067AA21
5K067DD11
5K067DD44
5K067EE02
5K067EE10
5K067EE16
5K067JJ51
(57)【要約】
【課題】電波の伝搬を遮る障害物が変化する環境においても位置推定結果の誤差が生じにくい位置推定システム及び位置推定方法を提供する。
【解決手段】位置推定システム1は、計測対象エリアARの所定の位置座標に配置され、相互に電波を送受信可能な4個以上の固定局3と、固定局3に到達する電波を発信可能な移動局5と、固定局3から、基準電波強度、及び、移動局電波強度を取得する電波強度取得部7と、基準電波強度及び移動局電波強度に基づいて、移動局5のフロア内の位置座標を推定する移動局位置推定部(制御部)17とを備えている。移動局位置推定部17は、基準電波強度を基準にして補正した移動局電波強度に基づいて、4個以上の固定局のそれぞれと移動局5の間の固定局・移動局間距離を算出する距離算出部17Aと、4つ以上の固定局・移動局間距離に基づいて、移動局5の領域内の位置座標を算出する位置算出部17Bを有する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
建物内のフロアの計測対象エリアの所定の位置座標に配置され、相互に電波を送受信可能な4個以上の固定局と、
前記4個以上の固定局に到達する電波を発信可能な移動局と、
前記4個以上の固定局から、前記固定局のそれぞれが他の前記固定局から受信した電波の電波強度である基準電波強度、及び、前記固定局のそれぞれが前記移動局から受信した電波の電波強度である移動局電波強度を取得する電波強度取得部と、
前記電波強度取得部から取得した前記基準電波強度及び前記移動局電波強度に基づいて、前記移動局の前記フロア内の位置座標を推定する移動局位置推定部とを備え、
前記移動局位置推定部は、
前記基準電波強度を基準にして補正した前記移動局電波強度に基づいて、前記4個以上の固定局のそれぞれと前記移動局の間の固定局・移動局間距離を算出する距離算出部と、
4つ以上の前記固定局・移動局間距離に基づいて、前記移動局の領域内の位置座標を算出する位置算出部と、
を有することを特徴とする位置推定システム。
【請求項2】
前記距離算出部は、
前記4個以上の固定局のうちの1つを主固定局とし、他の固定局のうちの1つを従固定局とし、前記移動局が、前記主固定局と前記従固定局を結ぶ直線上に存在すると仮定して、前記主固定局が前記従固定局から受信した電波の電波強度に基づく前記基準電波強度と、前記主固定局が前記移動局から受信した電波の電波強度に基づく前記移動局電波強度の比から、前記主固定局と前記移動局の間の距離を算出し、
前記主固定局と残りの固定局との間でも、同様にして、前記主固定局と前記移動局の間の距離を算出し、
前記算出した前記主固定局と前記移動局の間の3つ以上の距離の平均値を、前記主固定局と前記移動局の間の固定局・移動局間距離とする
ことを特徴とする請求項1に記載の位置推定システム。
【請求項3】
前記距離算出部は、前記4個以上の固定局のそれぞれについて、前記固定局・移動局間距離を算出し、
前記位置算出部は、4つ以上の前記固定局・移動局間距離の中から最小の距離と、2番目及び3番目に小さい距離の3つの距離を選択し、
前記固定局・移動局間距離が最小である第1の固定局を中心にした該固定局・移動局間距離を半径とする第1の円を描き、前記固定局・移動局間距離が2番目に小さい第2の固定局を中心にした該固定局・移動局間距離を半径とする第2の円を描き、前記第1の円と前記第2の円の交点である2点の位置座標を求め、
前記2点の位置座標のうち、前記固定局・移動局間距離が3番目に小さい第3の固定局を中心にした該固定局・移動局間距離を半径とする第3の円に近い方の点の位置座標を前記移動局の位置座標として算出する
ことを特徴とする請求項2に記載の位置推定システム。
【請求項4】
前記位置算出部は、前記第1の円と前記第2の円の交点が無いまたは1点の場合には、
前記第1の固定局と前記第2の固定局を結ぶ線分を、最小の前記固定局・移動局間距離と2番目に小さい前記固定局・移動局間距離の比で内分する第1の内分点の位置座標を求め、
前記第1の固定局と前記第3の固定局を結ぶ線分を、最小の前記固定局・移動局間距離と3番目に小さい前記固定局・移動局間距離の比で内分する第2の内分点の位置座標を求め、
前記第1の内分点及び前記第2の内分点を結ぶ線分の中点の位置座標を前記移動局の位置座標として算出する
ことを特徴とする請求項3に記載の位置推定システム。
【請求項5】
前記フロアを中層フロアとして、
前記中層フロアの上の階の上層フロアの所定の位置座標に配置された4個以上の上層固定局と、
前記中層フロアの下の階の下層フロアの所定の位置座標に配置された4個以上の下層固定局と、をさらに備え、
前記電波強度取得部は、前記4個以上の上層固定局及び前記4個以上の下層固定局からも前記基準電波強度及び前記移動局電波強度を取得可能であり、
前記移動局位置推定部は、
前記上層固定局の前記移動局電波強度と前記下層固定局の前記移動局電波強度の差に基づいて、前記移動局が存在している階層を判定する階層判定部をさらに備えている
ことを特徴とする請求項3または4に記載の位置推定システム。
【請求項6】
前記階層判定部は、
前記4個以上の上層固定局の前記移動局電波強度の平均値、及び、前記4個以上の下層固定局の前記移動局電波強度の平均値を算出し、
前記4個以上の上層固定局の前記移動局電波強度の平均値と前記4個以上の下層固定局の前記移動局電波強度の平均値の差が、所定の数値範囲内であった場合には、前記移動局は前記中層フロアに存在していると判定し、
前記4個以上の上層固定局の前記移動局電波強度の平均値と前記4個以上の下層固定局の前記移動局電波強度の平均値の差が前記所定の数値範囲より大きい場合、前記4個以上の上層固定局の前記移動局電波強度の平均値の方が大きい場合には、前記移動局は前記上層フロアに存在していると判定し、前記4個以上の下層固定局の前記移動局電波強度の平均値の方が大きい場合には、前記移動局は前記下層フロアに存在していると判定する
ことを特徴とする請求項5に記載の位置推定システム。
【請求項7】
前記階層判定部は、
前記4個以上の上層固定局の前記移動局電波強度の最大値、及び、前記4個以上の下層固定局の前記移動局電波強度の最大値を選択し、
前記4個以上の上層固定局の前記移動局電波強度の最大値と前記4個以上の下層固定局の前記移動局電波強度の最大値の差が、所定の数値範囲内であった場合には、前記移動局は前記中層フロアに存在していると判定し、
前記4個以上の上層固定局の前記移動局電波強度の最大値と前記4個以上の下層固定局の前記移動局電波強度の最大値の差が前記所定の数値範囲より大きい場合、前記4個以上の上層固定局の前記移動局電波強度の最大値の方が大きい場合には、前記移動局は前記上層フロアに存在していると判定し、前記4個以上の下層固定局の前記移動局電波強度の最大値の方が大きい場合には、前記移動局は前記下層フロアに存在していると判定する
ことを特徴とする請求項5に記載の位置推定システム。
【請求項8】
建物内のフロアの計測対象エリアの所定の位置座標に配置され、相互に電波を送受信可能な4個以上の固定局から前記固定局のそれぞれが他の前記固定局から受信した電波の電波強度である基準電波強度、及び、前記固定局のそれぞれが移動局から受信した電波の電波強度である移動局電波強度を取得する電波強度取得ステップと、
前記基準電波強度を基準にして補正した前記移動局電波強度に基づいて、前記4個以上の固定局のそれぞれと前記移動局の間の固定局・移動局間距離を算出する距離算出ステップと、
4つ以上の前記固定局・移動局間距離に基づいて、前記移動局の領域内の位置座標を算出する位置算出ステップと、
を含むことを特徴とする位置推定方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、位置推定システム及び位置推定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
領域内に複数の固定局を配置し、移動体に電波を発信する移動局を保持させ、領域内に存在する移動体の位置を推定する位置推定システムが知られている。
【0003】
例えば、特許文献1に記載の発明では、領域内に、所定の間隔をあけて複数の固定局を設置して、移動局を保持する対象物の位置を特定している。
【0004】
特許文献2に記載の発明では、電波の到達距離が長いサブギガヘルツ帯の電波を利用している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2019-2850号公報
【特許文献2】特開2019-138785号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1に記載の発明が利用している固定局及び移動局は、電波の到達距離が短いものが想定されている。そのため、領域が広くなると、設置しなければならない固定局の数が多くなり、設置コストの増加が課題となる。
【0007】
特許文献2に記載の発明のように、サブギガヘルツ帯の電波を利用すれば、設置しなければならない固定局の数を少なくすることができる。しかしながら、利用する電波を単にサブギガヘルツ帯の電波に置き換えただけでは、様々な障害物の状態が日々変化する環境では、移動体の位置推定誤差が大きくなりやすいという課題がある。
【0008】
特に、建物の建設現場では、足場や資材の置き場の変化、大型車両の移動・停車、工程の進展による建物の変化等、電波の伝搬を遮る障害物の変化が大きい。また、大型車両等の大きな障害物等によって電波が遮られ、受信する電波の電波強度が極端に低くなり、位置の誤差が大きくなる、という課題もある。
【0009】
本発明の目的は、建物の建設現場のように、電波の伝搬を遮る障害物存在し、その位置や状態が時間的に変化する環境においても位置推定誤差を低減可能な位置推定システム及び位置推定方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
前記目的を達成するために、本発明の位置推定システムは、建物内のフロアの計測対象エリアの所定の位置座標に配置され、相互に電波を送受信可能な4個以上の固定局と、前記4個以上の固定局に到達する電波を発信可能な移動局と、前記4個以上の固定局から、前記固定局のそれぞれが他の前記固定局から受信した電波の電波強度である基準電波強度、及び、前記固定局のそれぞれが前記移動局から受信した電波の電波強度である移動局電波強度を取得する電波強度取得部と、前記電波強度取得部から取得した前記基準電波強度及び前記移動局電波強度に基づいて、前記移動局の前記フロア内の位置座標を推定する移動局位置推定部とを備えている。
【0011】
そして、前記移動局位置推定部は、前記基準電波強度を基準にして補正した前記移動局電波強度に基づいて、前記4個以上の固定局のそれぞれと前記移動局の間の固定局・移動局間距離を算出する距離算出部と、4つ以上の前記固定局・移動局間距離に基づいて、前記移動局の領域内の位置座標を算出する位置算出部と、を有する。
【発明の効果】
【0012】
本発明の位置推定システムは、前記基準電波強度を基準にして補正した前記移動局電波強度に基づいて、前記4個以上の固定局のそれぞれと前記移動局の間の固定局・移動局間距離を算出するため、電波の伝搬を遮る障害物の影響を補正した固定局・移動局間距離を利用して移動局の位置座標を算出することができる。そのため、電波の伝搬を遮る障害物が変化する環境においても位置推定誤差が低減でき、移動局の位置座標の推定精度が向上する。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】位置推定システムの実施の形態の構成を示すブロック図である。
図2】位置推定システムの処理を示すフローチャートである。
図3】基準電波強度を説明する概念図である。
図4】移動局電波強度を説明する概念図である。
図5】固定局・移動局間距離の算出を説明する概念図である。
図6】位置算出ステップの詳細を示すフローチャートである。
図7A】第1の円及び第2の円の交点が2点存在する場合の位置座標の算出手法を示す概要図である。
図7B】第1の円及び第2の円の交点が無いまたは1点の場合の位置座標の算出手法を示す概要図である。
図8】ビルの4階を中層フロアとして、上の階である5階を上層フロア、下の階である3階を下層フロアとし、複数の階に固定局を設置した状態を示す概略図である。
図9】階層推定のフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明に係る位置推定システム及び位置推定方法の実施形態について図面を参照して説明する。
【0015】
図1は、位置推定システムの実施の形態の構成を示すブロック図である。図1に示すように、位置推定システム1は、固定局3と、移動局5と、電波強度取得部7と、情報端末9とから構成されている。
【0016】
固定局3は、領域(建物内のフロアの計測対象エリア)AR内の所定の位置座標に配置されている。固定局3は、4個以上配置する必要があり、本実施の形態では、固定局3は、識別符号ID1乃至ID4を有する計4個を配置している(以下及び図では、固定局3の符号の後に括弧書きで識別符号を付して、固定局3を区別することがある)。固定局3は、サブギガヘルツ帯の電波を用い、長距離通信に適した、LPWA(Low-Power Wide Area)モジュールである。本実施の形態では、より具体的には、920MHz帯の電波を用いている。920MHz帯において距離が25km離れると120dB程度の自由空間伝搬損失が発生する。例えば、LPWAの中でもLoRa変調方式を採用したモジュールでは、拡散率を増加することで所要SNRを低減することができ、その受信感度は-120dBm程度である。したがって、理論的には25km以上の通信距離(見通し内での実際の通信範囲は500m~3km程度)が得られる。このようにして、LPWAモジュールは、サブギガヘルツ帯の電波を用いて、通信範囲が広いため、少ない固定局の数で、広範囲の領域ARをカバーすることが可能である。固定局3のそれぞれは、広い通信範囲により、相互に電波を送受信可能である。固定局3のそれぞれは、所定の位置座標に配置されているため、固定局3同士の距離[m]は既知である。
【0017】
移動局5は、移動体に保持させたり移動体に取り付けたりするビーコン端末であり、固定局3と同じサブギガヘルツ帯の電波を用いて固定局3に到達する電波を発信可能なものである。移動体は、人や動物等の生き物、車両やドローンのような移動可能な機器等でもよく、資材や機材のような移動しない動産であってもよい。移動局5の位置を推定することにより、移動局5とともに存在する移動体の位置を推定することになる。
【0018】
電波強度取得部7は、固定局3及び移動局5と情報端末9をつなぐゲートウェイであり、固定局3から、基準電波強度及び移動局電波強度を取得して、記憶する。基準電波強度は、固定局3のそれぞれが他の固定局3から受信した電波の電波強度である。移動局電波強度は、固定局3のそれぞれが移動局5から受信した電波の電波強度である。
【0019】
情報端末9は、ユーザが使用するコンピュータ端末である。具体的には、携帯電話、スマートフォン、タブレット端末、パーソナルコンピュータ(ノートPC,デスクトップPC)等が想定されるが、これらに限られるものではない。本実施の形態では、情報端末9に、位置推定システム1を利用するためのコンピュータプログラムをインストールしてある。コンピュータプログラムを起動することで、情報端末9で位置推定システム1が利用可能になっている。情報端末9は、通信部11、入力部13、データ記憶部15、制御部17、表示部19を有している。
【0020】
通信部25は、電波強度取得部7と通信するためのものである。入力部13は、データを入力したり、操作するためのものであり、ユーザ端末に応じて、キーボード、マウス、表示部19を利用したタッチパネル等、種々のものを利用可能である。
【0021】
データ記憶部15は、電波強度取得部7から取得した基準電波強度及び移動局電波強度等を記憶する。
【0022】
制御部17は、インストールされたコンピュータプログラムにより、移動局位置推定部として機能し、基準電波強度及び移動局電波強度に基づいて、移動局5の領域AR内の位置座標を推定する。制御部17は、距離算出部17A、位置算出部17B及び階層判定部17Cを有している。
【0023】
距離算出部17Aは、基準電波強度を基準にして補正した移動局電波強度に基づいて、固定局3のそれぞれと移動局5の間の固定局・移動局間距離を算出する。
【0024】
位置算出部17Bは、距離算出部17Aが算出した3つ以上の固定局・移動局間距離に基づいて、移動局5の領域AR内の位置座標を算出する。
【0025】
階層判定部17Cは、本実施の形態の位置推定システム1が、階層構造を有する建造物に適用されている場合で、固定局3が複数のフロアに配置されている場合に使用されるものである。階層判定部17Cは、基準電波強度及び移動局電波強度に基づいて、移動局5が存在している階層を判定する。
【0026】
<位置推定のフローチャート>
図2は、位置推定システムの処理を示すフローチャートである。
【0027】
[電波強度取得ステップ]
ユーザは、情報端末9の入力部13を操作して、電波強度取得部7に、基準電波強度及び移動局電波強度を取得するように指令を出す(電波強度取得ステップST1)。
【0028】
基準電波強度は、図3に示すように、固定局3のそれぞれが、他の固定局3から受信した電波の電波強度である。本実施の形態では、例えば、固定局3(ID1)が固定局3(ID2)から受信した電波の電波強度は、
ref_RSSI(1-2)
と表現する。固定局3(ID2)が固定局3(ID1)から受信した電波の電波強度は、固定局3(ID1)が固定局3(ID2)から受信した電波の電波強度と同一になるため、本実施の形態では、省略する。同様にして、図3に示すように、固定局3のそれぞれが、他の固定局3から受信した電波の電波強度を6通り取得する。
【0029】
移動局電波強度は、図4に示すように、固定局3のそれぞれが移動局5から受信した電波の電波強度である。本実施の形態では、例えば、固定局3(ID1)が移動局5から受信した電波の電波強度は、
meas_RSSI(1)
と表現する。同様にして、図4に示すように、固定局3のそれぞれが、移動局5から受信した電波の電波強度を4通り取得する。情報端末9は、取得した基準電波強度及び移動局電波強度をデータ記憶部15に記憶する。
【0030】
[距離算出ステップ]
次に、距離算出部17Aは、4個の固定局3のそれぞれと移動局5の間の固定局・移動局間距離[m]を算出する(距離算出ステップST2)。固定局3(ID1)~固定局3(ID4)と移動局5の間の固定局・移動局間距離をそれぞれ、L1~L4とする。
【0031】
本実施の形態では、例えば、固定局3(ID1)と移動局5の間の固定局・移動局間距離L1は、次の(a)~(d)により算出する。
【0032】
(a)図5に示すように、固定局3(ID1)を主固定局とし、他の固定局のうちの1つである固定局3(ID2)を従固定局とし、移動局5が、主固定局と従固定局を結ぶ直線上に存在すると仮定して、主固定局が従固定局から受信した電波の電波強度に基づく基準電波強度(ref_RSSI(1-2))と、主固定局が移動局から受信した電波の電波強度に基づく移動局電波強度(meas_RSSI(1))の比から、主固定局と移動局の間の距離を算出する。
【0033】
距離をr[m]としたとき、電波強度RSSI[W]は、[数1]から求まる。
【数1】

ただし、
Pt=送信アンテナの送信電力[W]
Gt=送信アンテナの利得[dBi]
Gr=受信アンテナの利得[dBi]
λ[m]=c(光の速度=3・10[m/sec])/f[Hz](周波数=920・10
【0034】
[数1]を変形すると、[数2]が得られる。
【数2】
【0035】
ここで、固定局3(ID1)と固定局3(ID2)の間の距離をa[m]、固定局3(ID1)と移動局5の間の距離をa´[m]とすると、[数2]から、[数3]及び[数4]が得られる。
【数3】

【数4】
【0036】
[数3]及び[数4]より、[数5]が得られる。
【数5】
【0037】
[数5]をdBm表示に変換すると、[数6]が得られる。
【数6】
【0038】
したがって、固定局3(ID1)と固定局3(ID2)の間の距離a[m]は既知であることから、[数6]から、固定局3(ID1)と移動局5の間の距離a´[m]を算出することができる。
【0039】
(b)上記(a)と同様にして、固定局3(ID1)と固定局3(ID3)の間の距離をb[m]、固定局3(ID1)と移動局5の間の距離をb´[m]とすると、[数7]が得られる。
【数7】

固定局3(ID1)と固定局3(ID3)の間の距離b[m]は既知であることから、[数7]から、固定局3(ID1)と移動局5の間の距離b´[m]を算出することができる。
【0040】
(c)また、上記(a)と同様にして、固定局3(ID1)と固定局3(ID4)の間の距離をc[m]、固定局3(ID1)と移動局5の間の距離をc´[m]とすると、[数8]が得られる。
【数8】

固定局3(ID1)と固定局3(ID4)の間の距離c[m]は既知であることから、[数8]から、固定局3(ID1)と移動局5の間の距離c´[m]を算出することができる。
【0041】
(d)上記で得られた固定局3(ID1)と移動局5の間の距離a´[m]、b´[m]、c´[m]は、理論上は同値であるが、多少の誤差を含むことから、本実施の形態では、これらの平均値(=(a´+b´+c´)/3)を固定局3(ID1)と移動局5の間の固定局・移動局間距離L1とする。
【0042】
固定局3(ID2)、固定局3(ID3)、及び固定局3(ID4)についても上記(a)~(d)と同様にして、固定局・移動局間距離L2~L4を得る。
【0043】
[位置算出ステップ]
次に、位置算出部17Bは、算出された固定局・移動局間距離L1~L4から、移動局5の領域内の位置座標を算出する(位置算出ステップST3)。
【0044】
図6は、位置算出ステップST3の詳細を示すフローチャートである。図7Aは、第1の円及び第2の円の交点が2点存在する場合の位置座標の算出手法を示す概要図であり、図7Bは、第1の円及び第2の円の交点が無いまたは1点の場合の位置座標の算出手法を示す概要図である。
【0045】
なお、図7A及び図7Bに示した固定局3の配置位置は、図3乃至図5に示した固定局3の配置位置とは異なる。また、図7A及び図7B上の寸法や比は、図示する際の便宜上、必ずしも正確でないことがある。
【0046】
位置算出部17Bは、固定局・移動局間距離L1~L4から、最小の距離と、2番目及び3番目に小さい距離の3つの距離を選択し(ステップST31)、固定局・移動局間距離が最小である第1の固定局を中心にした該固定局・移動局間距離を半径とする第1の円を描き、固定局・移動局間距離が2番目に小さい第2の固定局を中心にした該固定局・移動局間距離を半径とする第2の円を描く(ステップST32)。なお、本明細書において、円等の図を「描く」とは、情報端末9の表示部19等に図を表示させることだけでなく、位置算出部17Bの演算において内部処理として仮想的に図を取り扱うことも含むものである。
【0047】
図7Aに示した例は、第1の円と第2の円の交点が2点の場合である。この例では、固定局・移動局間距離L1~L4から、固定局・移動局間距離L1、L2及びL3を選択し、固定局3(ID1)(第1の固定局)を中心に第1の円を描き、固定局3(ID2)(第2の固定局)を中心に第2の円を描き、交点IPの有無を判断している(ステップST33)。図7Aに示した例では、交点は、交点IP1及び交点IP2の2点存在する。この場合には、交点IP1及び交点IP2のうち、固定局3(ID3)(第3の固定局)を中心にした該固定局・移動局間距離を半径とする第3の円に近い方の点の位置座標を移動局5の位置座標として算出する(ステップST34)。すなわち、本例では、交点IP1が移動局5の位置座標として算出される。
【0048】
図7Bに示した例は、第1の円と第2の円の交点が無い場合(交点が1点の場合も含む)である。この例では、固定局・移動局間距離L1~L4から、固定局・移動局間距離L1、L2及びL3を選択し、固定局3(ID1)(第1の固定局)を中心に第1の円を描き、固定局3(ID2)(第2の固定局)を中心に第2の円を描き、交点IPの有無を判断している(ステップST33)。図7Bに示した例では、交点は存在しない。この場合には、位置算出部17Bは、固定局3(ID1)(第1の固定局)と固定局3(ID2)(第2の固定局)を結ぶ線分を、固定局・移動局間距離L1及びL2の比で内分する第1の内分点DP1の位置座標を求め(ステップST35)、固定局3(ID1)(第1の固定局)と固定局3(ID3)(第3の固定局)を結ぶ線分を、固定局・移動局間距離L1及びL3の比で内分する第2の内分点DP2の位置座標を求め(ステップST36)、第1の内分点DP1及び第2の内分点DP2を結ぶ線分の中点MPの位置座標を移動局5の位置座標として算出する(ステップST37)。
【0049】
本実施の形態の手法により電波の伝搬を遮る障害物の状態が変化する環境においても位置推定誤差を低減でき、移動局5の位置座標の推定精度が向上する。
【0050】
<階層推定>
本実施の形態の位置推定システム1は、階層構造を有する建物に適用した場合に、移動局5が存在している階層を判定する階層判定部17Cを備えている。例えば、機材に移動局5を取り付けておき、建設中のビル内のどの階層に該機材が存在するかを判定するような使い方が想定される。
【0051】
図8は、ビルの4階を中層フロアMFとして、上の階である5階を上層フロアUF、下の階である3階を下層フロアLFとし、複数の階に固定局3を設置した状態を示す概略図である。この実施の形態では、上層フロアUFには、固定局3(ID1)~固定局3(ID4)(以下、「上層固定局」とも言う)が設置されており、下層フロアLFには、固定局3(ID5)~固定局3(ID8)(以下、「下層固定局」とも言う)が設置されている。階層判定部17Cは、上層固定局の移動局電波強度と下層固定局の移動局電波強度の差に基づいて、移動局5が存在している階層を判定する。
【0052】
なお、階層推定には中層フロアMFの固定局は用いる必要がないため、中層フロアMFの固定局は省略している。
【0053】
図9は、階層推定のフローチャートである。階層判定部17Cは、データ記憶部15から上層固定局の移動局電波強度と下層固定局の移動局電波強度を取得し(ステップST41)、上層固定局の移動局電波強度の平均値R1、及び、下層固定局の移動局電波強度の平均値R2を算出して(ステップST42)、R1とR2の差が、所定の数値範囲(例えば、-20dB<(R1-R2)<+20dB)内であるか判定を行う(ステップST43)。本実施の形態では、より具体的には、R1とR2の差の絶対値と所定値Δ(例えば、Δ=20dB)を比較する。階層判定部17Cは、R1とR2の差が、所定の数値範囲内(すなわち、R1とR2の差の絶対値が所定値Δ以下の場合)、移動局5は中層フロアMF(4階)に存在すると判定する(ステップST44)。なお、上記所定の数値範囲(所定値Δ)は一例であり、上記例に限られず、建物や障害物の状況等を踏まえて、適宜調整が可能である。
【0054】
階層判定部17Cは、R1とR2の差が、所定の数値範囲より大きい場合(すなわち、R1とR2の差の絶対値が所定値Δより大きい場合)、上層固定局の移動局電波強度の平均値R1の方が大きい場合には、移動局5は上層フロアUF(5階)に存在していると判定する(ステップST45→ステップST46)。階層判定部17Cは、下層固定局の移動局電波強度の平均値R2の方が大きい場合には、移動局5は下層フロアLF(3階)に存在していると判定する(ステップST45→ステップST47)。
【0055】
なお、上記例では、上層固定局の移動局電波強度の平均値及び下層固定局の移動局電波強度の平均値を用いたが、その代わりに、上層固定局の移動局電波強度の最大値及び下層固定局の移動局電波強度の最大値を用いることも可能である。また、R1、R2がそれぞれ上層フロアUF(5階)または下層フロアLF(3階)以外から到来する場合、信頼性の低い外れ値として除去することで階高推定の精度を高めることが可能である。
【0056】
<位置推定システム及び位置推定方法の作用>
以下、本実施の形態の位置推定システム及び位置推定方法の作用を説明する。
本実施の形態の位置推定システム1は、建物内のフロアの計測対象エリアの所定の位置座標に配置され、相互に電波を送受信可能な4個以上の固定局3と、4個以上の固定局3に到達する電波を発信可能な移動局5と、4個以上の固定局3から、固定局3のそれぞれが他の固定局3から受信した電波の電波強度である基準電波強度、及び、固定局3のそれぞれが移動局5から受信した電波の電波強度である移動局電波強度を取得する電波強度取得部7と、電波強度取得部7から取得した基準電波強度及び移動局電波強度に基づいて、移動局5のフロア内の位置座標を推定する移動局位置推定部(制御部)17とを備え、移動局位置推定部17は、基準電波強度を基準にして補正した移動局電波強度に基づいて、4個以上の固定局3のそれぞれと移動局5の間の固定局・移動局間距離を算出する距離算出部17Aと、4つ以上の固定局・移動局間距離に基づいて、移動局5の領域内の位置座標を算出する位置算出部17Bと、を有する。
【0057】
位置推定システム1は、基準電波強度を基準にして補正した移動局電波強度に基づいて、4個以上の固定局3のそれぞれと移動局5の間の固定局・移動局間距離を算出するため、電波の伝搬を遮る障害物の影響を補正した固定局・移動局間距離を利用して移動局5の位置座標を算出することができる。そのため、電波の伝搬を遮る障害物が変化する環境においても位置推定誤差を低減でき、移動局5の位置座標の推定精度が向上する。
【0058】
距離算出部17Aは、4個以上の固定局3のうちの1つを主固定局とし、他の固定局3のうちの1つを従固定局とし、移動局5が、主固定局と従固定局を結ぶ直線上に存在すると仮定して、主固定局が従固定局から受信した電波の電波強度に基づく基準電波強度と、主固定局が移動局から受信した電波の電波強度に基づく移動局電波強度の比から、主固定局と移動局5の間の距離を算出し、主固定局と残りの固定局との間でも、同様にして、主固定局と移動局5の間の距離を算出し、算出した主固定局と移動局5の間の3つ以上の距離の平均値を、主固定局と移動局の間の固定局・移動局間距離とすることができる。
【0059】
このようにすることで、障害物が電波の伝搬状態に与える影響を補正し、また、位置推定誤差も考慮した固定局・移動局間距離を得ることができる。
【0060】
距離算出部17Aは、4個以上の固定局3のそれぞれについて、固定局・移動局間距離を算出し、位置算出部17Bは、4つ以上の固定局・移動局間距離の中から最小の距離と、2番目及び3番目に小さい距離の3つの距離を選択し、固定局・移動局間距離が最小である第1の固定局を中心にした該固定局・移動局間距離を半径とする第1の円を描き、固定局・移動局間距離が2番目に小さい第2の固定局を中心にした該固定局・移動局間距離を半径とする第2の円を描き、第1の円と第2の円の交点である2点(交点IP1,IP2)の位置座標を求め、2点の位置座標のうち、固定局・移動局間距離が3番目に小さい第3の固定局を中心にした該固定局・移動局間距離を半径とする第3の円に近い方の点の位置座標を移動局の位置座標として算出することができる。
【0061】
また、位置算出部17Bは、第1の円と第2の円の交点が無いまたは1点の場合には、第1の固定局と第2の固定局を結ぶ線分を、最小の固定局・移動局間距離と2番目に小さい固定局・移動局間距離の比で内分する第1の内分点DP1の位置座標を求め、第1の固定局と第3の固定局を結ぶ線分を、最小の固定局・移動局間距離と3番目に小さい固定局・移動局間距離の比で内分する第2の内分点DP2の位置座標を求め、第1の内分点及び第2の内分点を結ぶ線分の中点MPの位置座標を移動局5の位置座標として算出することができる。
【0062】
これにより、電波伝搬の障害となり得る障害物の状態が変化する環境においても位置推定誤差を低減でき、移動局5の位置座標の推定精度が向上する。
【0063】
上記フロアを中層フロアとして、位置推定システム1は、中層フロアの上の階の上層フロアの所定の位置座標に配置された4個以上の上層固定局と、中層フロアの下の階の下層フロアの所定の位置座標に配置された4個以上の下層固定局と、をさらに備え、電波強度取得部は、4個以上の上層固定局及び4個以上の下層固定局からも基準電波強度及び移動局電波強度を取得可能であり、移動局位置推定部は、上層固定局の移動局電波強度と下層固定局の移動局電波強度の差に基づいて、移動局が存在している階層を判定する階層判定部をさらに備えていてもよい。このようにすれば、移動局が存在している階層も判定することができる。
【0064】
階層判定部17Cは、4個以上の上層固定局の移動局電波強度の平均値R1、及び、4個以上の下層固定局の移動局電波強度の平均値R2を算出し、4個以上の上層固定局の移動局電波強度の平均値R1と4個以上の下層固定局の移動局電波強度の平均値R2の差が、所定の数値範囲内であった場合には、移動局5は中層フロアに存在していると判定し、4個以上の上層固定局の移動局電波強度の平均値R1と4個以上の下層固定局の移動局電波強度の平均値R2の差が所定の数値範囲より大きい場合、4個以上の上層固定局の移動局電波強度の平均値R1の方が大きい場合には、移動局5は上層フロアに存在していると判定し、4個以上の下層固定局の移動局電波強度の平均値R2の方が大きい場合には、移動局5は下層フロアに存在していると判定することもできる。
【0065】
なお、平均値R1及び平均値R2の代わりに、上層固定局の移動局電波強度の最大値及び下層固定局の移動局電波強度の最大値を用いることも可能である。
【0066】
本実施の形態の位置推定方法は、建物内のフロアの計測対象エリアの所定の位置座標に配置され、相互に電波を送受信可能な4個以上の固定局3から固定局3のそれぞれが他の固定局3から受信した電波の電波強度である基準電波強度、及び、固定局3のそれぞれが移動局5から受信した電波の電波強度である移動局電波強度を取得する電波強度取得ステップST1と、基準電波強度を基準にして補正した移動局電波強度に基づいて、4個以上の固定局3のそれぞれと移動局5の間の固定局・移動局間距離を算出する距離算出ステップST2と、4つ以上の固定局・移動局間距離に基づいて、移動局5の領域内の位置座標を算出する位置算出ステップST3と、を含む。
【0067】
以上、本発明の実施の形態について具体的に説明したが、本発明はこれらの実施の形態に限定されるものではなく、本発明の技術的思想の範囲内で変更が可能であるのは勿論である。
【0068】
例えば、上記例では、電波強度取得ステップST1において、基準電波強度及び移動局電波強度を取得するようにしたが、基準電波強度については、定時で取得したり、所定の時間間隔(例えば、1日1回や、1時間に1回)で取得するようにしてもよい。
【0069】
また、上記例では、移動局から送信された電波を固定局が受信し、電波強度取得部は、固定局から移動局電波強度を取得したが、これとは逆に、固定局から送信された電波を移動局が受信し、電波強度取得部は、移動局から移動局電波強度を取得するようにしてもよい。
【符号の説明】
【0070】
1 位置推定システム
3 固定局
5 移動局
7 電波強度取得部
9 情報端末
11 通信部
13 入力部
15 データ記憶部
17 制御部(移動局位置推定部)
17A 距離算出部
17B 位置算出部
17C 階層判定部
19 表示部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7A
図7B
図8
図9