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特開2024-37340過電流状態判定装置、過電流状態判定方法および電力変換システム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024037340
(43)【公開日】2024-03-19
(54)【発明の名称】過電流状態判定装置、過電流状態判定方法および電力変換システム
(51)【国際特許分類】
   H02M 7/48 20070101AFI20240312BHJP
   H02M 1/00 20070101ALI20240312BHJP
【FI】
H02M7/48 M
H02M1/00 H
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022142124
(22)【出願日】2022-09-07
(71)【出願人】
【識別番号】000233273
【氏名又は名称】株式会社 日立パワーデバイス
(74)【代理人】
【識別番号】110001807
【氏名又は名称】弁理士法人磯野国際特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】三間 彬
(72)【発明者】
【氏名】松元 大輔
(72)【発明者】
【氏名】紺野 哲豊
(72)【発明者】
【氏名】新井 大夏
【テーマコード(参考)】
5H740
5H770
【Fターム(参考)】
5H740AA10
5H740BA12
5H740BB09
5H740BB10
5H740BC01
5H740BC02
5H740JA01
5H740JB01
5H740KK01
5H740MM11
5H770BA01
5H770DA03
5H770DA41
5H770GA19
5H770HA02X
5H770LA02X
5H770LA05X
5H770LA05Z
(57)【要約】
【課題】電力変換装置における過電流の発生原因を適切に推定できるようにする。
【解決手段】電力変換装置1から取得した、過電流検出回路20における検出結果を記憶する検出結果記憶部51と、前記検出結果記憶部51に記憶された前記検出結果に基づいて、前記電力変換装置1に生じた過電流が、何れかの上アーム部HA1~HAnと何れかの下アーム部LA1~LAnとの間に流れる第1の過電流状態(アーム短絡)、または、出力端子ACから過電流が流出する第2の過電流状態(負荷短絡)のうち何れであるかを判定する種別判定部52と、を判定装置50に設けた。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
正極端子と出力端子との間に並列接続され各々がスイッチング素子を含む複数の上アーム部と、負極端子と前記出力端子との間に並列接続され各々がスイッチング素子を含む複数の下アーム部と、各々の前記上アーム部および前記下アーム部における過電流を検出する過電流検出回路と、を備える電力変換装置から取得した、前記過電流検出回路における検出結果を記憶する検出結果記憶部と、
前記検出結果記憶部に記憶された前記検出結果に基づいて、前記電力変換装置に生じた過電流が、何れかの前記上アーム部と何れかの前記下アーム部との間に流れる第1の過電流状態、または、前記出力端子から過電流が流出する第2の過電流状態のうち何れであるかを判定する種別判定部と、を備える
ことを特徴とする過電流状態判定装置。
【請求項2】
前記種別判定部は、
前記過電流検出回路が複数の前記上アーム部のうち少なくとも一つにおいて過電流を検出し、かつ、前記下アーム部のうち少なくとも一つにおいて過電流を検出した場合に前記第1の過電流状態が発生した旨を判定する機能と、
前記過電流検出回路が複数の前記上アーム部のうち少なくとも一つにおいて過電流を検出し、かつ、何れの前記下アーム部においても過電流を検出しなかった場合に前記第2の過電流状態が発生した旨を判定する機能と、を備える
ことを特徴とする請求項1に記載の過電流状態判定装置。
【請求項3】
前記上アーム部および前記下アーム部の数はそれぞれ3台以上であり、
複数の前記上アーム部のうち1台のみにおいて過電流が発生した場合は1台の前記上アーム部において素子破壊が発生した旨を判定し、複数の前記下アーム部のうち1台のみにおいて過電流が発生した場合は1台の前記下アーム部において素子破壊が発生した旨を判定する素子状態判定部をさらに備える
ことを特徴とする請求項2に記載の過電流状態判定装置。
【請求項4】
前記過電流検出回路における検出結果に基づいて、前記電力変換装置内の素子に素子破壊が生じたか否かを判定する素子状態判定部をさらに備える
ことを特徴とする請求項1に記載の過電流状態判定装置。
【請求項5】
正極端子と出力端子との間に並列接続され各々がスイッチング素子を含む複数の上アーム部と、負極端子と前記出力端子との間に並列接続され各々がスイッチング素子を含む複数の下アーム部と、各々の前記上アーム部および前記下アーム部における過電流を検出する過電流検出回路と、を備える電力変換装置から取得した、前記過電流検出回路における検出結果を記憶する過程と、
前記検出結果に基づいて、前記電力変換装置に生じた過電流が、何れかの前記上アーム部と何れかの前記下アーム部との間に流れる第1の過電流状態、または、前記出力端子から過電流が流出する第2の過電流状態のうち何れであるかを判定する過程と、を備える
ことを特徴とする過電流状態判定方法。
【請求項6】
正極端子と出力端子との間に並列接続され各々がスイッチング素子を含む複数の上アーム部と、負極端子と前記出力端子との間に並列接続され各々がスイッチング素子を含む複数の下アーム部と、各々の前記上アーム部および前記下アーム部における過電流を検出する過電流検出回路と、を備える電力変換装置と、
前記電力変換装置から取得した、前記過電流検出回路における検出結果を記憶する検出結果記憶部と、
前記検出結果記憶部に記憶された前記検出結果に基づいて、前記電力変換装置に生じた過電流が、何れかの前記上アーム部と何れかの前記下アーム部との間に流れる第1の過電流状態、または、前記出力端子から過電流が流出する第2の過電流状態のうち何れであるかを判定する種別判定部と、を備える
ことを特徴とする電力変換システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、過電流状態判定装置、過電流状態判定方法および電力変換システムに関する。
【背景技術】
【0002】
本技術分野の背景技術として、下記特許文献1の要約には、「…複数の(例えば2つのIGBT2,3)を並列にしてこれらに共通の駆動信号をゲート駆動回路11が与える際に、ゲート駆動回路11と各IGBTとの間の各配線にゲート電流検出器12と13を挿入する。いずれかのIGBTに過電流が流れるとゲート電流検出器12と13とで検出電流の極性が異なることを極性検出器21と22及び排他的論理和素子23で検出してアーム短絡電流発生を検知する。…」と記載されている。
また、下記特許文献2の要約には、「過電流検出回路(50)は、IGBT(121)のエミッタに流れる電流Ieのdi/dtを検出するdi/dt検出回路(10)、di/dtに基づいて電流Ieが過電流であるか否かを検出し、検出結果を駆動回路(16)に出力する制御回路(14)、及び制御回路(14)における過電流判定の動作をマスクするマスク期間を設定するマスク回路(12)を備える。」と記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平10-42546号公報
【特許文献2】国際公開第2018/193527号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、上述した技術において、過電流の発生原因をより適切に推定したいという要望がある。
この発明は上述した事情に鑑みてなされたものであり、過電流の発生原因を適切に推定できる過電流状態判定装置、過電流状態判定方法および電力変換システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題を解決するため本発明の過電流状態判定装置は、正極端子と出力端子との間に並列接続され各々がスイッチング素子を含む複数の上アーム部と、負極端子と前記出力端子との間に並列接続され各々がスイッチング素子を含む複数の下アーム部と、各々の前記上アーム部および前記下アーム部における過電流を検出する過電流検出回路と、を備える電力変換装置から取得した、前記過電流検出回路における検出結果を記憶する検出結果記憶部と、前記検出結果記憶部に記憶された前記検出結果に基づいて、前記電力変換装置に生じた過電流が、何れかの前記上アーム部と何れかの前記下アーム部との間に流れる第1の過電流状態、または、前記出力端子から過電流が流出する第2の過電流状態のうち何れであるかを判定する種別判定部と、を備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、過電流の発生原因を適切に推定できる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
図1】第1実施形態による電力変換システムのブロック図である。
図2】コンピュータのブロック図である。
図3】種別判定部による短絡種別の判定方法の一例を示す図である。
図4】電力変換システムに生じる過電流の一例を示す図である。
図5図4の例に対する短絡種別の判定方法を示す図である。
図6】電力変換システムに生じる過電流の他の例を示す図である。
図7図6の例に対する短絡種別の判定方法を示す図である。
図8】電力変換システムに生じる過電流の他の例を示す図である。
図9図8の例に対する短絡種別の判定方法を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
[実施形態の概要]
近年、電力変換装置としてのインバータ装置の高出力化が求められている。高出力化の手段としては複数個のパワー半導体を並列接続して動作させ、大電流を出力することが考えられる。これら電力変換装置は、直流電源から供給された直流電力を回転電機などの交流電気負荷に供給するための交流電力に変換する機能、あるいは回転電機により発電された交流電力を直流電源に供給するための直流電力に変換する機能を備えている。この変換機能を果すため、電力変換装置は、並列接続された複数個のパワー半導体を有するインバータ回路を有しており、パワー半導体が導通動作や遮断動作を繰り返すことにより直流電力から交流電力へ、あるいは交流電力から直流電力への電力変換を行う。パワー半導体モジュールは高出力化を得るために、搭載するパワー半導体素子を複数個並列接続して構成される。例えば、複数個のパワー半導体素子を共通バスバー配線で接続して構成する。
【0009】
パワー半導体素子の一例としてIGBT(Insulated Gate Bipolar Transistor:絶縁ゲート型バイポーラトランジスタ)が挙げられる。一般的に、インバータ回路では、パワー半導体素子としてのIGBTを2つ直列接続して、直流電源に接続する。直流電源の正極側に接続されたIGBTを上アーム、直流電源の負極側に接続されたIGBTを下アームと称す。また、上アームIGBTと下アームIGBTの接続端子を出力端子と称す。上アームおよび下アームのIGBTが交互にON/OFFを繰り返すことにより、出力端子から交流電力を取り出すことが可能である。このような上下アームにIGBTを搭載したインバータ回路を複数個並列接続することにより、より大きい出力パワーで直流電力から交流電力へ、あるいは交流電力から直流電力へ電力変換を行うことが可能である。並列接続されたパワー半導体素子によって構成されたインバータ回路において、並列接続された1個のパワー半導体素子が運転動作中にゲートノイズもしくは素子寿命で破壊された場合では、直流電源の正極から破壊した素子に向かって過大な短絡電流が流れる。
【0010】
この短絡電流が流れることにより、正常なパワー半導体素子までも破壊に至たり、インバータ回路システム全体が破壊されることを防ぐために、この短絡電流を検出し、正常なパワー半導体素子をオフ動作とする保護信号を生成する短絡検知回路を設けることが一般的である。この短絡検知回路による検知方法の一つとして、パワー半導体素子としてのIGBTのゲート信号とIGBTのコレクタ電圧を比較して検知する方法がある。IGBTのゲート電圧がオン状態であるとき、通常動作ではコレクタ電圧がIGBTのオン電圧まで低下するが、短絡時ではコレクタ電圧が電源電圧まで上昇する。このコレクタ電圧を監視する方法では、このコレクタ電圧が所定電圧まで上昇したことを検知して、IGBTが短絡したと判断して、保護信号を出力する。
【0011】
しかしながら、並列接続されたIGBTにおいて、1個のIGBTが破壊された場合に、その対アーム側の並列接続されたIGBTによって短絡電流が分担される。これにより、コレクタ電圧がすぐに上昇せず、短絡検知に失敗することがある。また、他の短絡検知方法として、並列接続されたIGBTのそれぞれに対して、シャント抵抗器もしくは寄生インダクタンスの両端電圧を検出し、その電圧値が所定電圧以上になったことを条件として短絡が発生したと判断して保護信号を生成する方法がある。しかしながら、並列接続されたIGBTのうち1つのみが短絡した場合、対アームの並列接続されたIGBTの電流が分散して流れる。これにより、それぞれのIGBTの検知信号レベルが小さくなり、検知閾値に達しない場合がある。
【0012】
上述した特許文献1の技術を応用し、駆動回路と各半導体スイッチ素子との間に駆動信号を流す各配線に個別の電流検出回路を設置することが考えられる。そして、これら電流検出回路が検出する各電流の極性を極性検出回路で別個に検出し、この検出電流極性が不一致のときに、並列接続された半導体スイッチ素子の何れかに過電流が生じたと判定できると考えられる。しかしながら、この検出方法では、検出電流は駆動信号の配線インピーダンスに依存する。従って、駆動信号の配線インピーダンスが大きい場合では、検出電流が小さくなり、検出信号が微弱となり、検出されない可能性がある。
【0013】
ところで、IGBTの短絡発生モードとして、アーム短絡と負荷短絡とが考えられる。ここでアーム短絡とは、例えば、IGBTを2直列接続することによる構成されたハーフブリッジ回路において、ハーフブリッジ回路の上アームが短絡した時、対アームである下アームも短絡した状態をいう。一方、ハーフブリッジ回路の上アームのみが短絡し、下アームは短絡せず、上アームと下アームの接続部にある出力端子に過電流が流れ短絡した場合を負荷短絡と呼ぶ。アーム短絡は、主としてIGBTの破壊によって生じるものである。一方、負荷短絡は、主として、IGBTがまだ健常であり電力変換装置に接続された負荷の破壊で生じる。このように、過電流が生じた場合に、その原因がアーム短絡であるか、あるいは負荷短絡であるかを弁別することは、電力変換装置のどの部位が破壊されているかを知るために重要である。
【0014】
また、上述した特許文献2の技術を応用すると、過電流の電流値に応じて、アーム短絡が生じたのか負荷短絡が生じたのかを判別できると考えられる。すなわち、検出される電流の閾値として、第1および第2の閾値を設け、電流値が第1の閾値を超えていれば、アーム短絡が発生したと判定することができる。一方、電流値が第1の閾値を超えず、第2の閾値を超えた場合に負荷短絡が発生したと判定することができる。しかしながら、並列接続されたIGBTの場合、上述したようにIGBTの短絡電流が分散して流れ、アーム短絡が生じた場合であっても、検知信号のレベルが低くなる可能性がある。この場合、電流値が第1の閾値を超えず、第2の閾値を超えると、負荷短絡が発生したと間違って判別されてしまう可能性がある。
【0015】
そこで、後述する実施形態は、並列接続されたパワー半導体素子で構成するインバータ回路システムにおいて、よりシンプルな回路構成で、過電流の原因がアーム短絡であるか負荷短絡であるかを高精度に弁別しようとするものである。
【0016】
[第1実施形態]
〈第1実施形態の構成〉
図1は、第1実施形態による電力変換システム100のブロック図である。
電力変換システム100は、電力変換装置1と、過電流状態判定装置50と、を備えている。電力変換装置1は、正極端子Pおよび負極端子Nから入力された直流電力を交流電力に変換し、出力端子ACから出力するものである。出力端子ACには、出力配線70を介して負荷装置80が接続されている。負荷装置80は、例えばモータである。また、出力配線70には、寄生インダクタンス71が含まれている。過電流状態判定装置50は、電力変換装置1に過電流が発生した場合、その原因がアーム短絡であるのか負荷短絡であるのかを判定する装置である。
【0017】
電力変換装置1は、コンデンサ60と、ドライブ回路40と、n個の半導体モジュールM1~Mnと、2×n個の過電流検出回路20と、を備えている。ここでnは複数であり、より好ましくは「3」以上の数である。コンデンサ60は、正極端子Pと負極端子Nとの間に接続され、両端子間の電圧を平滑化する。半導体モジュールM1~Mnは、それぞれ上アーム部HA1~HAnと、下アーム部LA1~LAnと、を備えている。
【0018】
なお、上アーム部HA1~HAnおよび下アーム部LA1~LAnを総称して単に「アーム部」と呼ぶことがある。半導体モジュールM1~Mnは、それぞれ、正極端子P、負極端子Nおよび出力端子ACに対して並列接続されている。すなわち、上アーム部HA1~HAnは正極端子Pと出力端子ACとの間に接続され、下アーム部LA1~LAnは負極端子Nと出力端子ACとの間に接続されている。
【0019】
これらアーム部は、それぞれスイッチング素子30と、過電流検知素子10と、還流ダイオード(符号なし)と、を備えている。図示の例においてスイッチング素子30はIGBTである。また、過電流検知素子10は、シャント抵抗器または寄生インダクタンス等である。上述した過電流検出回路20は、各々、対応する過電流検知素子10の端子電圧を計測することにより、対応するアーム部に過電流が流れたか否かを検出する。これら過電流検出回路20は、各々の検出結果を過電流状態判定装置50に送信する。
【0020】
ドライブ回路40は、上アーム制御信号SHと、下アーム制御信号SLと、を出力する。上アーム制御信号SHは、上アーム部HA1~HAnのオン/オフ状態を制御する信号であり、下アーム制御信号SLは、下アーム部LA1~LAnのオン/オフ状態を制御する信号である。ドライブ回路40は、上アーム制御信号SHをオン状態にする期間と、下アーム制御信号SLをオン状態にする期間と、を交互に繰り返す。
【0021】
これにより、電力変換装置1は、正極端子Pおよび負極端子Nから入力された直流電力を交流電力に変換して出力端子ACから出力することができる。また、逆に、電力変換装置1は、出力端子ACから入力された交流電力を直流電力に変換して、正極端子Pおよび負極端子Nから出力することができる。ここで、上アーム制御信号SHがオン状態になる期間と、下アーム制御信号SLがオン状態になる期間との間には、両者がオフ状態になるデッドタイムが設けられる。これは、上下のアーム部が同時にオン状態になることを防止するためである。
【0022】
しかし、上アーム制御信号SHまたは下アーム制御信号SLにノイズが重畳すると、上下のアーム部が同時にオン状態になることがまれに生じる。また、素子寿命等の要因で、例えば上アーム部の素子が破壊され常時導通状態になることがある。この場合に下アーム部がオン状態になることも考えられる。これらの場合においては、上下アーム間で大電流が流れる短絡状態、すなわち過電流状態が生じ、破壊が拡大することがある。
【0023】
何れかのアーム部において過電流が発生すると、対応する過電流検知素子10の端子電圧が大きくなるため、対応する過電流検出回路20は当該アーム部の過電流を検出し、その結果をドライブ回路40および過電流状態判定装置50に通知する。ドライブ回路40は、何れかのアーム部において過電流が発生すると、電力変換装置1を保護するために、全ての上アーム制御信号SHおよび下アーム制御信号SLをオフ状態にする。これにより、電力変換装置1は、電力変換動作を停止する。
【0024】
過電流状態判定装置50は、検出結果記憶部51と、種別判定部52と、素子状態判定部53と、を備えている。検出結果記憶部51は、各々の過電流検出回路20の検出結果を記憶する。種別判定部52は、これら検出結果に基づいて、電力変換装置1に生じた過電流状態が「アーム短絡」(第1の過電流状態)であるのか「負荷短絡」(第2の過電流状態)であるのかを判定する。
【0025】
上下アーム間で発生する過電流状態の短絡はアーム短絡であり、これは電力変換装置1の内部で発生する過電流状態である。また、負荷短絡は、例えば上アーム部HA1~HA4がオン状態である場合に、出力端子ACが地絡し、または負極端子Nとショートした場合に生じる過電流状態である。発生した過電流の原因が、アーム短絡であるか、あるいは負荷短絡であるかを特定することはインバータ回路である電力変換装置1において、破壊箇所を特定するための重要な情報である。
【0026】
上述したように、複数の上アーム部HA1~HAnは、正常状態においては、上アーム制御信号SHに基づいて同時にオン/オフ状態が設定される。従って、ある一つの上アーム部のみに過電流が発生していると、当該上アーム部には素子破壊が起こっていると考えられる。同様に、複数の下アーム部LA1~LAnのうち、ある一つの下アーム部のみに過電流が発生していると、当該下アーム部には素子破壊が起こっていると考えられる。素子状態判定部53は、このような原理に基づいて、上アーム部HA1~HAnおよび下アーム部LA1~LAnにおいて生じた素子破壊を検出する。換言すれば、過電流状態判定装置50は、素子状態判定部53の判定結果に基づいて、電力変換装置1が正常であるか否かを判定することができる。
【0027】
図2はコンピュータ980のブロック図である。
図1に示した過電流状態判定装置50は、図2に示すコンピュータ980を、1台または複数台備えている。図2において、コンピュータ980は、CPU981と、記憶部982と、通信I/F(インタフェース)983と、入出力I/F984と、メディアI/F985と、を備える。ここで、記憶部982は、RAM982aと、ROM982bと、HDD982cと、を備える。通信I/F983は、通信回路986に接続される。入出力I/F984は、入出力装置987に接続される。
【0028】
メディアI/F985は、記録媒体988からデータを読み書きする。ROM982bには、CPUによって実行されるIPL(Initial Program Loader)等が格納されている。HDD982cには、制御プログラムや各種データ等が記憶されている。CPU981は、HDD982cからRAM982aに読み込んだ制御プログラム等を実行することにより、各種機能を実現する。先に図1に示した、過電流状態判定装置50の内部は、制御プログラム等によって実現される機能をブロックとして示したものである。
【0029】
図3は、種別判定部52による短絡種別の判定方法の一例を示す図である。
図3において「上アーム」および「下アーム」欄は、検出結果記憶部51に記憶された内容を示すものである。すなわち、これらの欄は、半導体モジュールM1~Mnに対応する過電流検出回路20が過電流状態を検出したか否かを示す。ここで、「○」は、過電流状態を検出したことを示し、「-」は過電流状態を検出しなかったことを示す。
【0030】
上述したように、アーム短絡とは、電力変換装置1の上下アーム間で発生する短絡状態である。そのため、図3の左欄に示すように、上アーム部HA1~HAnに対応する少なくとも一つの過電流検出回路20において過電流を検出し、かつ、下アーム部LA1~LAnに対応する少なくとも一つの過電流検出回路20において過電流を検出した場合、種別判定部52は、アーム短絡が発生したと判定する。
【0031】
一方、図3の右欄に示すように、上アーム部HA1~HAnに対応する少なくとも一つの過電流検出回路20において過電流を検出し、かつ、下アーム部LA1~LAnに対応する全ての過電流検出回路20において過電流を検出なかった場合、種別判定部52は、負荷短絡が発生したと判定する。すなわち、種別判定部52は、図1に示す出力端子ACを介して、電力変換装置1の外部に向かって過電流が流れたものと判定する。
【0032】
〈第1実施形態の動作〉
(動作例#1)
次に、本実施形態の各種動作例について説明する。
図4は、電力変換システム100に生じる過電流の一例を示す図である。
図4においては、図1に示した半導体モジュールM1~Mnの並列接続数nが「4」であることとする。図4において、半導体モジュールM3の上アーム部HA3内において素子破壊が発生し、上アーム部HA3が常時導通状態になったとする。その状態で、下アーム部LA1~LA4がオン状態になると、ハッチを付した矢印に沿って過電流が流れる。特に、破損した上アーム部HA3には、大きな短絡電流IH3が流れる。一方、下アーム部LA1~LA4には、短絡電流IL1~IL4が分散して流れる。
【0033】
図5は、図4の例に対する短絡種別の判定方法を示す図である。
半導体モジュールM3の上アーム部HA3および半導体モジュールM1~M4の下アーム部LA1~LA4に対応する過電流検出回路20(図1参照)は、図5に示すように、過電流を検出する。すなわち、この例においては、上アーム部HA1~HA4のうちHA3のみにおいて過電流が検出され、かつ、全ての下アーム部LA1~LA4において過電流が検出されたことになる。これにより、過電流状態判定装置50(図1参照)の種別判定部52は、アーム短絡が発生した旨を検出する。また、素子状態判定部53は、上アーム部HA1,HA2,HA4がオフ状態である時に上アーム部HA3に過電流が発生したことにより、上アーム部HA3に素子破壊が生じたと判定する。
【0034】
なお、図4において、負荷装置80に流れる電流は極めて小さく、無視できるため、IH3=IL1+IL2+IL3+IL4と考えることができる。また、下アーム部LA1は、上アーム部HA3から最も離れている。従って、電力変換装置1に存在する配線インピーダンスにより、短絡電流IL1は、一般的には、他の短絡電流IL2,IL3,IL4よりも小さくなる。
【0035】
(動作例#2)
図6は、電力変換システム100に生じる過電流の他の例を示す図である。
図6においても、半導体モジュールの並列接続数nが「4」であることとする。図6においては、出力配線70に地絡が発生し、かつ、半導体モジュールM3の上アーム部HA3が破損したとする。この場合、上アーム部HA3および出力配線70には、ハッチを付した矢印に沿って過電流が流れる。一方、半導体モジュールM1~M4の下アーム部LA1~LA4には過電流は流れない。このため、上アーム部HA3に流れる短絡電流IH3は、出力配線70に流れる地絡電流Ieに等しくなる。
【0036】
図7は、図6の例に対する短絡種別の判定方法を示す図である。
半導体モジュールM3の上アーム部HA3および半導体モジュールM1~M4の下アーム部LA1~LA4に対応する過電流検出回路20(図1参照)は、図7に示すように、過電流を検出する。すなわち、この例においては、上アーム部HA1~HA4のうちHA3のみにおいて過電流が検出され、かつ、何れの下アーム部LA1~LA4においても過電流は検出されていない。これにより、過電流状態判定装置50(図1参照)の種別判定部52は、負荷短絡が発生した旨を検出する。
【0037】
また、素子状態判定部53は、上アーム部HA1,HA2,HA4がオフ状態である時に上アーム部HA3に過電流が発生したことにより、上アーム部HA3に素子破壊が生じたと判定する。すなわち、過電流状態判定装置50は、種別判定部52と素子状態判定部53とによって、上アーム部HA3の素子破壊と負荷短絡とが同時に発生した旨を検出する。
【0038】
(動作例#3)
図8は、電力変換システム100に生じる過電流の他の例を示す図である。
図8においても、半導体モジュールの並列接続数nが「4」であることとする。図8において、出力配線70に地絡が発生し、かつ、半導体モジュールM1~M4の上アーム部HA1~HA4がオン状態になったとする。この場合、半導体モジュールM1~M4の上アーム部HA1~HA4および出力配線70には、ハッチを付した矢印に沿って過電流が流れる。
【0039】
また、出力配線70においては、寄生インダクタンス71を介して地絡電流Ieが流れる。一方、半導体モジュールM1~M4の下アーム部LA1~LA4には過電流は流れない。このため、出力配線70に流れる地絡電流Ieは、上アーム部HA1~HA4に流れる短絡電流IH1~IH4の合計に等しくなる。
【0040】
図9は、図8の例に対する短絡種別の判定方法を示す図である。
半導体モジュールM1~M4の上アーム部HA1~HA4に対応する過電流検出回路20(図1参照)は、図9に示すように、過電流を検出する。また、何れの下アーム部LA1~LA4においても過電流は検出されていない。これにより、過電流状態判定装置50(図1参照)の種別判定部52は、負荷短絡が発生した旨を検出する。また、この例においては、上アーム制御信号SH(図1参照)がオン状態である場合に上アーム部HA1~HA4に短絡電流IH1~IH4が発生し、上アーム制御信号SHがオフ状態である場合には短絡電流IH1~IH4は何れも発生していない。すなわち、上アーム部HA1~HA4において同時に過電流が発生しているため、素子状態判定部53は、上アーム部HA1~HA4内で素子破壊は発生していないと判定する。すなわち、過電流状態判定装置50は、電力変換装置1は正常であって、出力配線70から負荷装置80に至る経路中における何らかの原因で負荷短絡が発生したと判定する。
【0041】
[実施形態の効果]
以上のように上述した実施形態によれば、過電流状態判定装置50は、電力変換装置1から取得した、過電流検出回路20における検出結果を記憶する検出結果記憶部51と、検出結果記憶部51に記憶された検出結果に基づいて、電力変換装置1に生じた過電流が、何れかの上アーム部HA1~HAnと何れかの下アーム部LA1~LAnとの間に流れる第1の過電流状態(アーム短絡)、または、出力端子ACから過電流が流出する第2の過電流状態(負荷短絡)のうち何れであるかを判定する種別判定部52と、を備える。電力変換装置1における過電流の発生原因を適切に推定できる。
【0042】
また、種別判定部52は、過電流検出回路20が複数の上アーム部HA1~HAnのうち少なくとも一つにおいて過電流を検出し、かつ、下アーム部LA1~LAnのうち少なくとも一つにおいて過電流を検出した場合に第1の過電流状態(アーム短絡)が発生した旨を判定する機能と、過電流検出回路20が複数の上アーム部HA1~HAnのうち少なくとも一つにおいて過電流を検出し、かつ、何れの下アーム部LA1~LAnにおいても過電流を検出しなかった場合に第2の過電流状態(負荷短絡)が発生した旨を判定する機能と、を備えると一層好ましい。これにより、上アーム部HA1~HAnにおける過電流の検出結果と、下アーム部LA1~LAnにおける過電流の検出結果と、に基づいて、電力変換装置1における過電流の発生原因を一層適切に推定できる。
【0043】
また、上アーム部HA1~HAnおよび下アーム部LA1~LAnの数はそれぞれ3台以上であり、複数の上アーム部HA1~HAnのうち1台のみにおいて過電流が発生した場合は1台の上アーム部において素子破壊が発生した旨を判定し、複数の下アーム部LA1~LAnのうち1台のみにおいて過電流が発生した場合は1台の下アーム部において素子破壊が発生した旨を判定する素子状態判定部53をさらに備えると一層好ましい。換言すれば、過電流検出回路20における検出結果に基づいて、電力変換装置1内の素子に素子破壊が生じたか否かを判定する素子状態判定部53をさらに備えると一層好ましい。これにより、電力変換装置1内の素子に素子破壊が生じた場合に、その旨を検出できる。
【0044】
[変形例]
本発明は上述した実施形態に限定されるものではなく、種々の変形が可能である。上述した実施形態は本発明を理解しやすく説明するために例示したものであり、必ずしも説明した全ての構成を備えるものに限定されるものではない。また、上記実施形態の構成に他の構成を追加してもよく、構成の一部について他の構成に置換をすることも可能である。また、図中に示した制御線や情報線は説明上必要と考えられるものを示しており、製品上で必要な全ての制御線や情報線を示しているとは限らない。実際には殆ど全ての構成が相互に接続されていると考えてもよい。上記実施形態に対して可能な変形は、例えば以下のようなものである。
【0045】
(1)上記実施形態における過電流状態判定装置50のハードウエアは一般的なコンピュータによって実現できるため、上述した各種処理を実行するプログラム等を記憶媒体(プログラムを記録したコンピュータ読み取り可能な記録媒体)に格納し、または伝送路を介して頒布してもよい。
【0046】
(2)過電流状態判定装置50における上述した各処理は、上記実施形態ではプログラムを用いたソフトウエア的な処理として説明したが、その一部または全部をASIC(Application Specific Integrated Circuit;特定用途向けIC)、あるいはFPGA(Field Programmable Gate Array)等を用いたハードウエア的な処理に置き換えてもよい。
【0047】
(3)上記実施形態において実行される各種処理は、図示せぬネットワーク経由でサーバコンピュータが実行してもよく、上記実施形態において記憶される各種データも該サーバコンピュータに記憶させるようにしてもよい。
【符号の説明】
【0048】
1 電力変換装置
20 過電流検出回路
30 スイッチング素子
50 過電流状態判定装置
51 検出結果記憶部
52 種別判定部
53 素子状態判定部
100 電力変換システム
N 負極端子
P 正極端子
AC 出力端子
HA1~HAn 上アーム部
LA1~LAn 下アーム部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9