IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 日新イオン機器株式会社の特許一覧

<>
  • 特開-薄膜トランジスタの製造方法 図1
  • 特開-薄膜トランジスタの製造方法 図2
  • 特開-薄膜トランジスタの製造方法 図3
  • 特開-薄膜トランジスタの製造方法 図4
  • 特開-薄膜トランジスタの製造方法 図5
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024037341
(43)【公開日】2024-03-19
(54)【発明の名称】薄膜トランジスタの製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01L 21/20 20060101AFI20240312BHJP
【FI】
H01L21/20
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022142126
(22)【出願日】2022-09-07
(71)【出願人】
【識別番号】302054866
【氏名又は名称】日新イオン機器株式会社
(72)【発明者】
【氏名】宇井 利昌
【テーマコード(参考)】
5F152
【Fターム(参考)】
5F152AA20
5F152BB02
5F152CC02
5F152CE05
5F152CE06
5F152CE07
5F152CE33
5F152CE36
5F152FF01
(57)【要約】      (修正有)
【課題】要求される性能に応じて非晶質シリコンを改質し、所望の薄膜トランジスタを得ることができる、新たな薄膜トランジスタの製造方法を提供する。
【解決手段】薄膜トランジスタの製造方法であって、基板に非晶質シリコン層を形成する工程と、非晶質シリコン層の少なくとも一部の領域に炭素イオンを注入することで、改質層を形成する工程と、前記基板を加熱し、前記改質層を結晶化させる第工程とを、含む。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
非晶質シリコン層が形成された基板を使用する薄膜トランジスタの製造方法であって、
前記非晶質シリコン層の少なくとも一部の領域に炭素イオンを注入することで、改質層を形成する第一の工程と、
前記基板を加熱し、前記改質層を結晶化させる第二の工程と、
を含む薄膜トランジスタの製造方法。
【請求項2】
前記第一の工程において、前記非晶質シリコン層の所定の一部の領域にのみ炭素イオンを注入する請求項1に記載の薄膜トランジスタの製造方法。
【請求項3】
非晶質シリコン層が形成された基板を使用する薄膜トランジスタの製造方法であって、
前記非晶質シリコン層の少なくとも一部の領域にゲルマニウムイオンを注入することで、改質層を形成する第一の工程と、
前記基板を加熱し、前記改質層を結晶化させる第二の工程と、
を含む薄膜トランジスタの製造方法。
【請求項4】
前記第一の工程において、前記非晶質シリコン層の所定の一部の領域にのみゲルマニウムイオンを注入する請求項3に記載の薄膜トランジスタの製造方法。
【請求項5】
非晶質シリコン層が形成された基板を使用する薄膜トランジスタの製造方法であって、
前記非晶質シリコン層の第一の領域に、炭素イオンまたはゲルマニウムイオンの一方を注入することで、第一の改質層を形成する第一の工程と、
前記非晶質シリコン層の前記第一の領域とは異なる第二の領域に、炭素イオンまたはゲルマニウムイオンの他方を注入することで、第二の改質層を形成する第二の工程と、
前記基板を加熱し、前記第一の改質層および前記第二の改質層を結晶化させる第三の工程と、
を含む薄膜トランジスタの製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、薄膜トランジスタの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、スマートフォン等に使用されるフラットパネルディスプレイの製造工程においては、一般に、ガラス基板に成膜された低温ポリシリコン(LTPS)から薄膜トランジスタが形成される。
このような低温ポリシリコンから形成される薄膜トランジスタは高集積化が求められる電子デバイスには有利であるが、一方で、高速動作が求められる電子デバイスや高耐圧性が求められる電子デバイスには不利となる場合がある。
そこで、要求される性能によって、炭化シリコン(SiC)やシリコンゲルマニウム(SiGe)から薄膜トランジスタを形成することが考えられる。
ガラス基板上に多結晶炭化シリコン膜を形成する場合、CVD法またはスパッタ法によって非晶質(アモルファス)炭化シリコン膜を成膜した後、レーザーアニールなどによる加熱によって結晶化させることで、多結晶炭化シリコン膜を得ることが考えられる。
同様に、ガラス基板上に多結晶シリコンゲルマニウム膜を形成する場合、CVD法またはスパッタ法によって非晶質(アモルファス)シリコンゲルマニウム膜を成膜した後、加熱によって結晶化させることで、多結晶シリコンゲルマニウム膜を得ることが考えられる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
本発明は、要求される性能に応じて非晶質シリコンを改質し、所望の薄膜トランジスタを得ることができる、新たな薄膜トランジスタの製造方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明の薄膜トランジスタの製造方法のひとつは、
非晶質シリコン層が形成された基板を使用する薄膜トランジスタの製造方法であって、前記非晶質シリコン層の少なくとも一部の領域に炭素イオンを注入することで、改質層を形成する第一の工程と、前記基板を加熱し、前記改質層を結晶化させる第二の工程と、を含む。
【0005】
この方法によれば、第一の工程において、前記非晶質シリコン層の少なくとも一部の領域に炭素イオンを注入することで、アモルファス炭化シリコンから成る改質層を得ることができる。そして、第二の工程において、基板が加熱されることによって、改質層が結晶化し、結晶化された炭化シリコン層が得られる。
【0006】
また、前記第一の工程において、前記非晶質シリコン層の所定の一部の領域にのみ炭素イオンを注入してもよい。
【0007】
この方法によれば、第一の工程において、炭素イオンが注入された領域は非晶質炭化シリコン層に改質され、当初の非晶質シリコン層の一部の領域のみが改質層となる。また、炭素イオンが注入されなかった領域は改質されず非晶質シリコン層のままでいることになる。したがって、第二の工程では、基板が加熱されることによって、非晶質炭化シリコンが結晶化される領域と、非晶質シリコンが結晶化される領域ができる。すなわち、この方法によれば、ひとつの基板上に結晶化された炭化シリコン層と結晶化されたシリコン層を同時に形成することができる。
【0008】
本発明の薄膜トランジスタの製造方法のひとつは、
非晶質シリコン層が形成された基板を使用する薄膜トランジスタの製造方法であって、前記非晶質シリコン層の少なくとも一部の領域にゲルマニウムイオンを注入することで、改質層を形成する第一の工程と、前記基板を加熱し、前記改質層を結晶化させる第二の工程と、を含む。
【0009】
この方法によれば、第一の工程において、前記非晶質シリコン層の少なくとも一部の領域にゲルマニウムイオンを注入することで、非晶質シリコンゲルマニウムから成る改質層を得ることができる。そして、第二の工程において、基板が加熱されることによって、改質層が結晶化し、結晶化されたシリコンゲルマニウム層が得られる。
【0010】
また、前記第一の工程において、前記非晶質シリコン層の所定の一部の領域にのみゲルマニウムイオンを注入してもよい。
【0011】
この方法によれば、第一の工程において、ゲルマニウムイオンが注入された領域は非晶質シリコンゲルマニウム層に改質され、当初の非晶質シリコン層の一部の領域のみが改質層となる。また、ゲルマニウムイオンが注入されなかった領域は改質されず非晶質シリコン層のままでいることになる。したがって、第二の工程では、基板が加熱されることによって、非晶質シリコンゲルマニウムが結晶化される領域と、非晶質シリコンが結晶化される領域ができる。すなわち、この方法によれば、ひとつの基板上に結晶化されたシリコンゲルマニウム層と結晶化されたシリコン層を同時に形成することができる。
【0012】
本発明の薄膜トランジスタの製造方法のひとつは、非晶質シリコン層が形成された基板を使用する薄膜トランジスタの製造方法であって、前記非晶質シリコン層の第一の領域に、炭素イオンまたはゲルマニウムイオンの一方を注入することで、第一の改質層を形成する第一の工程と、前記非晶質シリコン層の前記第一の領域とは異なる第二の領域に、炭素イオンまたはゲルマニウムイオンの他方を注入することで、第二の改質層を形成する第二の工程と、前記基板を加熱し、前記第一の改質層および前記第二の改質層を結晶化させる第三の工程と、を含む
【0013】
この方法によれば、第一の工程と第二の工程により、基板上に非晶質炭化シリコンから成る層と、非晶質シリコンゲルマニウムから成る層を得ることができる。第三の工程においては、基板が加熱されることによって、非晶質炭化シリコンおよび非晶質シリコンゲルマニウムが結晶化する。すなわち、この方法によれば、ひとつの基板上に結晶化された炭化シリコン層と結晶化されたシリコンゲルマニウム層を同時に形成することができる。
また、第一の工程および第二の工程において、炭素イオンおよびゲルマニウムイオンのいずれも注入されない領域がある場合、当該領域は第一の工程および第二の工程においては非晶質シリコンから改質されない。したがって、この場合、第三の工程においては、ひとつの基板上に、結晶化された炭化シリコン層と、結晶化されたシリコンゲルマニウム層と、結晶化されたシリコン層が同時に形成される。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、要求される性能に応じて非晶質シリコンを改質し、所望の薄膜トランジスタを得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】本発明の第一実施形態における薄膜トランジスタの製造方法を示すフローチャート。
図2】第一実施形態の各工程における基板Sを示す模式図。
図3】第一実施形態の変形例の各工程における基板Sを示す模式図。
図4】本発明の第二実施形態における薄膜トランジスタの製造方法を示すフローチャート。
図5】第二実施形態の各工程における基板Sを示す模式図。
【発明を実施するための形態】
【0016】
まず、本発明の第一実施形態における薄膜トランジスタの製造方法について説明する。
第一実施形態では、図1および図2(a)に示すように、準備工程P0において、ガラス基板である基板Sの基材層L0表面に非晶質(アモルファス)シリコン層L1を形成する。なお、この基材層L0表面に非晶質シリコン層L1を形成する方法は、CVD法等の既存の方法を用いて行われるものであり、その方法は限定されるものではない。また、基板Sはガラス基板に限らず、例えば、合成樹脂基板であってもよい。
【0017】
次に、第一の工程P1において、非晶質シリコン層L1の全域に炭素イオンを含むイオンビームを照射することで、非晶質シリコン層L1に炭素イオンを注入する。これにより、図2(b)に示すように、非晶質シリコン層L1は、結晶内に炭素イオンが入り込むことで、非晶質炭化シリコン(SiC)から成る改質層L2へと改質される。
【0018】
次に、第二の工程P2において、レーザーアニールによって、基板Sを加熱し、改質層L2を結晶化させる。これにより、図2(c)に示すように、改質層L2を形成する非晶質炭化シリコンは結晶化されて多結晶炭化シリコンとなり、改質層L2は、多結晶炭化シリコン層L3へと変化する。
【0019】
ここで、一般に、炭化シリコン(SiC)は高耐圧性が求められる電子デバイスに適している。このような電子デバイスにおいては、第一実施形態の方法を用いて、多結晶炭化シリコン層L3を形成し、薄膜トランジスタを製造すればよい。
【0020】
次に、第一実施形態の変形例を説明する。
変形例では、図3に示すように、第一の工程P1において、炭素イオン含むイオンビームを照射する際に、基板Sの一部をマスクするなどして、図3(b)に示すように、非晶質シリコン層L1の一部の領域A1にのみ炭素イオンを注入する。すると、非晶質シリコンが炭化シリコンへと変化することから、領域A1における非晶質シリコン層L1は、非晶質炭化シリコンから成る改質層L2に改質される。一方、炭素イオンを含むイオンビームが照射されなかった領域は炭素イオンが注入されず非晶質シリコン層L1のままとなる。
【0021】
この状態から、第二の工程P2においてレーザーアニールにより基板Sを加熱して非晶質の領域を結晶化させると、領域A1では改質層L2を形成する非晶質炭化シリコンが結晶化して多結晶炭化シリコンとなるため、改質層L2が多結晶炭化シリコン層L3へと変化する。また、領域A1以外の箇所は非晶質シリコン層L1が結晶化され多結晶シリコン層L4となる。
【0022】
このように、第一実施形態の変形例によれば、ひとつの基板S上に多結晶炭化シリコン層L3と多結晶シリコン層L4を同時に形成することができる。
【0023】
第一実施形態において、第一の工程P1において、炭素イオンを注入する代わりにゲルマニウムイオンを注入してもよい。
この場合、第一の工程P1において、非晶質シリコンゲルマニウムから成る改質層L2が形成され、第二の工程P2において基板Sが加熱された後、改質層L2を形成する非晶質シリコンゲルマニウムが多結晶シリコンゲルマニウムへとなることから、改質層L2は多結晶シリコンゲルマニウム層へと変化する。
【0024】
ここで、シリコンゲルマニウム(SiGe)は高速性が求められる電子デバイスに適していると考えられ、このような電子デバイスにおいては、第一実施形態の方法を用いて、多結晶シリコンゲルマニウム層を形成し、薄膜トランジスタを製造すればよい。
【0025】
また、上述の変形例においても、領域A1に炭素イオンに注入するのに変えて、ゲルマニウムイオンを含むイオンビームを照射し、ゲルマニウムイオンを注入するようにしてもよい。この場合、第一の工程P1において、領域A1に非晶質シリコンゲルマニウムからなる改質層L2が形成される。そして、第二の工程P2において、非晶質シリコンゲルマニウムが加熱されて結晶化することで多結晶シリコンゲルマニウムとなることから、改質層L2は多結晶シリコンゲルマニウム層となる。したがって、この場合、ひとつの基板S上に多結晶シリコンゲルマニウム層と多結晶シリコン層を同時に形成することができる。
【0026】
上述のように、本発明の第一実施形態によれば、要求される性能に応じて非晶質シリコンを改質し、所望の薄膜トランジスタを得ることができる。
【0027】
次に、本発明の第二実施形態を説明する。
第二実施形態ではまず、図4および図5(a)に示すように、第一実施形態と同様、準備工程P0において、ガラス基板である基板Sの基材層L0表面に非晶質シリコン層L1を形成する。
【0028】
次に、図4に示す第一の工程Q1において、図5(b)に示すように、非晶質シリコン層L1の一部の所定の領域である第一の領域B1に炭素イオンを含むイオンビームを照射することで、第一の領域B1に炭素イオンを注入する。これにより、第一の領域B1における非晶質シリコン層L1は、結晶内に炭素イオンが入り込むことで、非晶質炭化シリコンから成る第一の改質層L5へと改質される。
【0029】
次に、第二の工程Q2において、図5(c)に示すように、第一の領域B1とは異なる所定の第二の領域B2にゲルマニウムイオンを含むイオンビームを照射することで、第二の領域B2にゲルマニウムイオンを注入する。これにより、第二の領域B2における非晶質シリコン層L1は、結晶内にゲルマニウムイオンが入り込むことで、非晶質シリコンゲルマニウムから成る第二の改質層L6へと改質される。
なお、第一の工程Q1において、第二の領域B2にゲルマニウムイオンを注入した後、第二の工程Q2において、第一の領域B1に炭素イオンを注入してもよい。
【0030】
また、基材層L0の表面には第一の領域B1と第二の領域B2に加え、炭素イオンおよびゲルマニウムイオンのいずれも注入されない領域、つまり、非晶質シリコン層から改質されない領域である第三の領域B3が設けられている。
【0031】
次に、第三の工程Q3において、レーザーアニールにより基板Sを加熱して非晶質の領域を結晶化させる。すると、図5(d)に示すように、第一の領域B1においては、非晶質炭化シリコンにより形成された第一の改質層L5が多結晶炭化シリコンから成る多結晶炭化シリコン層L7へと変化する。同時に、第二の領域B2においては、非晶質シリコンゲルマニウムにより形成された第二の改質層L6が多結晶シリコンゲルマニウムから成る多結晶シリコンゲルマニウム層L8へと変化する。また、非晶質シリコンから成る第三の領域B3においては、非晶質シリコン層L1が多結晶シリコン層L9へと変化する。
【0032】
このように、本発明の第二実施形態においては、ひとつの基板上に、多結晶炭化シリコン層と、多結晶シリコンゲルマニウム層と、多結晶シリコン層を同時に形成することができる。なお、本実施形態においては、第二の工程Q2において、炭素イオンおよびゲルマニウムイオンがいずれも注入されない領域である第三の領域B3を設けているが、第三の領域B3は必ずしも設ける必要はない。
【0033】
本発明の第一実施形態および第二実施形態によれば、多結晶炭化シリコン層、多結晶シリコンゲルマニウム層、多結晶シリコン層の少なくとも二つをひとつの基板上に同時に作成することができる。したがって、電子デバイスに要求される特性に応じて、一つの基板上に作成された多結晶炭化シリコン層、多結晶シリコンゲルマニウム層、および多結晶シリコン層を使い分られるようになり、薄膜トランジスタおよび電子デバイスの設計の自由度が向上する。
【0034】
図3に示す、第一実施形態の変形例において、第一の領域B1は、基板Sの厚さ方向について非晶質シリコン層L1の全域に形成されている。このとき、第一の工程P1におけるイオンビームのエネルギーを調整し、例えば非晶質シリコン層L1の表面にのみ炭素イオンを注入する等、基板Sの厚さ方向について部分的に第一の領域B1を形成することも可能である。
【0035】
第二実施形態においても同様であり、炭素イオンを含むイオンビームと、ゲルマニウムイオンを含むイオンビームのエネルギーを調整することで、第一の領域B1および第二の領域B2を基板Sの厚さ方向に形成することも可能である。
【0036】
また、本発明は前記実施形態および前記変形例に限られず、その趣旨を逸脱しない範囲で種々の変形が可能であることは言うまでもない。
【符号の説明】
【0037】
S 基板
P0 準備工程
P1 第一の工程
P2 第二の工程
L0 基材層
L1 非晶質シリコン層
L2 改質層
L3 多結晶炭化シリコン層
L4 多結晶シリコン層
L5 第一の改質層
L6 第二の改質層
L7 多結晶炭化シリコン層
L8 多結晶シリコンゲルマニウム層
L9 多結晶シリコン層


図1
図2
図3
図4
図5