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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024037342
(43)【公開日】2024-03-19
(54)【発明の名称】樹脂製の構造体
(51)【国際特許分類】
   B29C 59/02 20060101AFI20240312BHJP
   B29C 48/08 20190101ALI20240312BHJP
   B29C 48/21 20190101ALI20240312BHJP
   B29C 59/04 20060101ALI20240312BHJP
   B29C 33/42 20060101ALI20240312BHJP
   B29C 45/00 20060101ALI20240312BHJP
【FI】
B29C59/02 Z
B29C48/08
B29C48/21
B29C59/04 Z
B29C33/42
B29C45/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】13
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022142127
(22)【出願日】2022-09-07
(71)【出願人】
【識別番号】591016334
【氏名又は名称】大塚テクノ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100124039
【弁理士】
【氏名又は名称】立花 顕治
(72)【発明者】
【氏名】上門 洋祐
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 英秋
(72)【発明者】
【氏名】井村 智夫
【テーマコード(参考)】
4F202
4F206
4F207
4F209
【Fターム(参考)】
4F202AB05
4F202AB06
4F202AB11
4F202AB16
4F202AB17
4F202AB18
4F202AB25
4F202AR07
4F202AR12
4F202CA11
4F202CA27
4F202CB01
4F202CK12
4F206AB05
4F206AB06
4F206AB11
4F206AB16
4F206AB17
4F206AB18
4F206AB25
4F206AR07
4F206AR12
4F206JA07
4F206JF01
4F206JL02
4F206JQ81
4F207AB12
4F207AF01
4F207AG01
4F207AG05
4F207AH26
4F207KA01
4F207KA17
4F207KB26
4F209AF01
4F209AG05
4F209PA02
4F209PA03
4F209PB01
4F209PB02
4F209PC05
4F209PJ09
4F209PN06
4F209PQ01
4F209PQ11
(57)【要約】
【課題】樹脂製の一体成形品でありながら、布により近い質感を備える構造体を提供する。
【解決手段】構造体は、一体的に成形された樹脂製の構造体であって、外表面と、複数の底部と、複数の側壁部とを備える。外表面は、規則的に配列された複数の開口を規定する複数の周縁部を含む。複数の底部は、前記外表面に対して窪んだ位置に形成され、前記複数の開口の各々に対応して、前記複数の開口を閉塞する。複数の側壁部は、前記複数の周縁部の各々から前記複数の底部の各々に連続する複数の側壁部であって、前記周縁部から前記底部へと向かうにつれて断面積が縮小する空間を規定する。隣接する前記底部のピッチは、0.01mm以上、1mm以下であり、前記外表面側における可視光波長における反射率は、5%以上である。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
一体的に成形された樹脂製の構造体であって、
規則的に配列された複数の開口を規定する複数の周縁部を含む外表面と、
前記外表面に対して窪んだ位置に形成され、前記複数の開口の各々に対応して、前記複数の開口を閉塞する複数の底部と、
前記複数の周縁部の各々から前記複数の底部の各々に連続する複数の側壁部であって、前記周縁部から前記底部へと向かうにつれて断面積が縮小する空間を規定する複数の側壁部と
を備え、
隣接する前記底部のピッチは、0.01mm以上、1mm以下であり、
前記外表面側の可視光線の波長の範囲における光の反射率は、5%以上である、
構造体。
【請求項2】
前記外表面側の平均摩擦係数(MIU)は、1.0以下である、
請求項1に記載の構造体。
【請求項3】
前記外表面側の平均摩擦係数の変動(MMD)は、0.04以下である、
請求項1または2に記載の構造体。
【請求項4】
前記構造体は、前記構造体を構成する樹脂100質量部に対し、黒色の色料を0.5質量部未満含有する、
請求項1または2に記載の構造体。
【請求項5】
前記構造体は、前記構造体を構成する樹脂100質量部に対し、黒色の色料を0.1質量部未満含有する、
請求項1または2に記載の構造体。
【請求項6】
前記外表面において、隣接する前記開口を規定する前記周縁部の最短距離は、0.001mm以上、0.1mm以下である、
請求項1または2に記載の構造体。
【請求項7】
前記周縁部を基準とする前記底部の深さは、0.005mm以上、2.5mm以下である、
請求項1または2に記載の構造体。
【請求項8】
前記複数の周縁部の各々は、多角形状の開口を規定する、
請求項1または2に記載の構造体。
【請求項9】
前記複数の周縁部の少なくとも一部は、隣接する2つの前記開口の周縁が、互いに隣接し、かつ平行である周縁または同一の周縁を含むように前記隣接する2つの開口を規定する、
請求項8に記載の構造体。
【請求項10】
前記複数の周縁部と、前記複数の底部と、前記複数の側壁部とは、複数の錐体形の空間を規定し、
前記互いに隣接し、かつ平行である周縁または前記同一の周縁から連続する一対の前記側壁部は、当該周縁に直交する断面において、20°以上、90°以下の角度をなす、
請求項9に記載の構造体。
【請求項11】
前記複数の周縁部と、前記複数の底部と、前記複数の側壁部とは、複数の錐台形の空間を規定し、
前記互いに隣接し、かつ平行である周縁または前記同一の周縁から連続する一対の前記側壁部は、当該周縁に直交する断面において、20°以上、90°以下の角度をなす、
請求項9に記載の構造体。
【請求項12】
前記複数の周縁部と、前記複数の底部と、前記複数の側壁部とは、複数の円錐体形の空間を規定し、
前記側壁部のうち、互いに対向する部位は、20°以上、90°以下の角度をなす、
請求項1または2に記載の構造体。
【請求項13】
前記複数の周縁部と、前記複数の底部と、前記複数の側壁部とは、複数の円錐台形の空間を規定し、
前記側壁部のうち、互いに対向する部位は、20°以上、90°以下の角度をなす、
請求項1または2に記載の構造体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、一体的に成形された樹脂製の構造体に関する。
【背景技術】
【0002】
樹脂製の成形品は、自動車の内装品、建材、デジタル機器、家電製品及び雑貨等、幅広い分野で利用されている。このような成形品は、モノとして必要な剛性を維持するだけではなく、人が見たり触れたりすることを考慮して、外観及び触感に関する性能を求められる場合がある。例えば、特許文献1は、機械的強度及び表面光沢等の成形品外観に優れ、かつ、滑り難く、グリップ感に優れた触感を備えた熱可塑性樹脂成形品を開示する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2019-073645号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に開示される熱可塑性樹脂成形品は、光沢性に加え、例えばドアノブ等といった人体接触用の部品に適用されることを想定し、グリップ性(滑りにくさ)を向上させている。しかし、こうした樹脂製の成形品の質感に対しては、未だに新たな要求も生じ続けている。例えば、樹脂製でありながら布のような外観及び感触を備える一体成形品は、これまで提供されていなかった。
【0005】
本開示は、樹脂製の一体成形品でありながら、布により近い質感を備える構造体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示の第1観点に係る構造体は、一体的に成形された樹脂製の構造体であって、外表面と、複数の底部と、複数の側壁部とを備える。外表面は、規則的に配列された複数の開口を規定する複数の周縁部を含む。複数の底部は、前記外表面に対して窪んだ位置に形成され、前記複数の開口の各々に対応して、前記複数の開口を閉塞する。複数の側壁部は、前記複数の周縁部の各々から前記複数の底部の各々に連続する複数の側壁部であって、前記周縁部から前記底部へと向かうにつれて断面積が縮小する空間を規定する。隣接する前記底部のピッチは、0.01mm以上、1mm以下であり、前記外表面側の可視光線の波長の範囲における光の反射率は、5%以上である。
【0007】
本開示の第2観点に係る構造体は、第1観点に係る構造体であって、前記外表面側の平均摩擦係数(MIU)は、1.0以下である。
【0008】
本開示の第3観点に係る構造体は、第1観点または第2観点に係る構造体であって、前記外表面側の平均摩擦係数の変動(MMD)は、0.04以下である。
【0009】
本開示の第4観点に係る構造体は、第1観点から第3観点のいずれかに係る構造体であって、前記構造体は、前記構造体を構成する樹脂100質量部に対し、黒色の色料を0.5質量部未満含有する。
【0010】
本開示の第5観点に係る構造体は、第1観点から第4観点のいずれかに係る構造体であって、前記構造体は、前記構造体を構成する樹脂100質量部に対し、黒色の色料を0.1質量部未満含有する。
【0011】
本開示の第6観点に係る構造体は、第1観点から第5観点のいずれかに係る構造体であって、前記外表面において、隣接する前記開口を規定する前記周縁部の最短距離は、0.001mm以上、0.1mm以下である。
【0012】
本開示の第7観点に係る構造体は、第1観点から第6観点のいずれかに係る構造体であって、前記周縁部を基準とする前記底部の深さは、0.005mm以上、2.5mm以下である。
【0013】
本開示の第8観点に係る構造体は、第1観点から第7観点のいずれかに係る構造体であって、前記複数の周縁部の各々は、多角形状の開口を規定する。
【0014】
本開示の第9観点に係る構造体は、第1観点から第8観点のいずれかに係る構造体であって、前記複数の周縁部の少なくとも一部は、隣接する2つの前記開口の周縁が、互いに隣接し、かつ平行である周縁または同一の周縁を含むように前記隣接する2つの開口を規定する。
【0015】
本開示の第10観点に係る構造体は、第1観点から第9観点のいずれかに係る構造体であって、前記複数の周縁部と、前記複数の底部と、前記複数の側壁部とは、複数の錐体形の空間を規定し、前記互いに隣接し、かつ平行である周縁または前記同一の周縁から連続する一対の前記側壁部は、当該周縁に直交する断面において、20°以上、90°以下の角度をなす。
【0016】
本開示の第11観点に係る構造体は、第1観点から第10観点のいずれかに係る構造体であって、前記複数の周縁部と、前記複数の底部と、前記複数の側壁部とは、複数の錐台形の空間を規定し、前記互いに隣接し、かつ平行である周縁または前記同一の周縁から連続する一対の前記側壁部は、当該周縁に直交する断面において、20°以上、90°以下の角度をなす。
【0017】
本開示の第12観点に係る構造体は、第1観点から第11観点のいずれかに係る構造体であって、前記複数の周縁部と、前記複数の底部と、前記複数の側壁部とは、複数の円錐体形の空間を規定し、前記側壁部のうち、互いに対向する部位は、20°以上、90°以下の角度をなす。
【0018】
本開示の第13観点に係る構造体は、第1観点から第12観点のいずれかに係る構造体であって、前記複数の周縁部と、前記複数の底部と、前記複数の側壁部とは、複数の円錐台形の空間を規定し、前記側壁部のうち、互いに対向する部位は、20°以上、90°以下の角度をなす。
【発明の効果】
【0019】
本開示によれば、樹脂製の一体成形品でありながら、その表面構造によって、布により近い質感を備える構造体が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】構造体の一部の斜視図。
図2図1のii-ii断面図。
図3】シート状の構造体の製造方法の一例を説明する図。
図4図3の要部拡大図。
図5】構造体の製造方法の一例を説明する図。
図6】変形例に係る構造体の一部の斜視図。
図7図6のvii-vii断面図。
図8】別の変形例に係る構造体の一部の斜視図。
図9】さらに別の変形例に係る構造体の一部の斜視図。
図10】反射率の測定結果のグラフ。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、図面を参照しつつ、本開示の一実施形態に係る構造体について説明する。なお、以下で示す図面は、説明の便宜上適宜デフォルメされており、必ずしも実際の寸法及び比率を示すものではない。
【0022】
<1.構造体の構成>
図1は、本実施形態に係る構造体1の一部の斜視図であり、図2は、図1のii―ii断面図である。構造体1は、樹脂製の一体成形品であり、その立体形状は特に限定されない。構造体1は、例えばシート状に成形され、物体表面に固着することにより、被固着物体に布のような表面性状を付与するためのシートとして構成されてもよい。しかしながら、構造体1はこれに限られず、以下で説明する表面構造を有するものであれば、どのような形状を有してもよい。
【0023】
図1には、構造体1の外表面2の微細な構造が現れている。外表面2は、規則的に配列された複数の開口S1を規定する複数の周縁部20を含む。複数の周縁部20は、構造体1の最も外側に位置し、人が構造体1に触れる際に接触する部位である。このため、複数の周縁部20は、構造体1の外表面2の少なくとも一部を構成しているとも言うことができる。
【0024】
なお、複数の周縁部20は外表面2全体として一体的に形成されているが、説明の便宜上、1つの開口S1を規定する周縁部を1つの周縁部20とする。本実施形態では、周縁部20は、各々平面視正方形の開口S1を規定しつつ、平面視において格子状となるように互いに連続している。ただし、各符号は代表的なものにのみ付している。
【0025】
図2に示すように、周縁部20の各々は、断面視において円弧状に形成されていてもよい。この円弧を含む仮想円C1の直径は、50μm以下であることが好ましく、1.0μm以上、50μm以下であることがより好ましく、1.0μm以上、20μm以下であることがさらに好ましい。仮想円C1の直径を上記範囲とすることで、外表面2における接触面積が微小となり、従来の樹脂成形品と比較して滑りやすく、滑らかで摩擦感の少ない触感を人に与えることができる。
【0026】
構造体1は、複数の開口S1の各々に対応する複数の底部22をさらに含む。底部22は、外表面2(あるいは、周縁部20)に対して窪んだ位置に形成され、複数の開口S1の各々を閉塞する部位である。底部22は、断面視において円弧状に形成されていてもよい。この円弧を含む仮想円C2の直径は、50μm以下であることが好ましく、1.0μm以上、50μm以下であることがより好ましく、1.0μm以上、20μm以下であることがさらに好ましい。
【0027】
互いに隣接する底部22のピッチ(間隔)Pは、0.01mm以上、1mm以下である。底部22のピッチPを上記範囲とすることで、布の繊維により近い質感を実現することができる。また、周縁部20を基準とする底部22の最下の部分の深さDは、0.005mm以上、2.5mm以下であることが好ましい。構造体1が厚さTのシート状に成形される場合は、D≦0.5Tであることが好ましい。深さDを上記上限以下とすることで、構造体1の強度を維持することができる。
【0028】
構造体1は、複数の側壁部21をさらに含む。側壁部21は、周縁部20の各々から底部22の各々に連続する部位である。側壁部21は、周縁部20及び底部22とともに、周縁部20の各々から底部22の各々に向かうにつれて断面積が縮小する、略四角錐体形の空間を規定する。
【0029】
ここで、周縁部20の各々が、上述したように断面視において円弧状に形成される場合、連続する円弧状の頂点が、各開口S1の周縁を構成する。この場合、周縁部20は、隣接する2つの開口S1の周縁が、同一の周縁200を含むように隣接する2つの開口S1を規定する(図2参照)。1つの周縁200からは、隣接する2つの略四角錐体形の空間の一部を規定する一対の側壁部21a、21bが連続する。周縁200に直交する断面視において、一対の側壁部21a、21bがなす角αは、20°以上、90°以下であることが好ましい。以上のことは、図2において、紙面の奥から手前へと向かう方向に延びる周縁200についてのみならず、図2の左右方向に延びる周縁200についても同様に当てはまる。
【0030】
<2.原料>
構造体1は、主として樹脂から構成される。構造体1の主原料となる樹脂としては、熱可塑性樹脂及び熱硬化性樹脂が好ましい。熱可塑性樹脂としては、熱可塑性ポリウレタン(TPU)、ポリスチレン(PS)、ポリプロピレン(PP)、ポリエチレン(PE)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリ塩化ビニル(PVC)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、ポリフェニレンサルファイド(PPS)、シクロオレフィンポリマー(COP)、液晶ポリマー(LCP)、ポリアミド(PA)、アクリル系樹脂、ポリカーボネート(PC)、熱可塑性エラストマー(TPO)等が挙げられる。中でも、手触りを良好にする観点からは、TPOが好ましい。熱硬化性樹脂としては、フェノール樹脂、エポキシ樹脂、メラミン樹脂等が挙げられる。上記原料は、単独で用いられてもよいし、2種類以上が用いられてもよい。なお、構造体1が、ある材料から「主として構成される」、及びある材料を「主原料とする」とは、構造体1を構成する原料全体を100質量部としたときに、当該材料が50質量部超を占めることをいうものとする。
【0031】
加えて、構造体1は、着色のための色料を含有してもよい。着色の色は特に限定されないが、構造体1は、構造体1を構成する樹脂全体を100質量部としたときに、黒色の色料を0.5質量部未満含有することが好ましく、0.1質量部未満含有することがより好ましい。これにより、構造体1の外観をより多様な色の布の外観に近付けることができる。また、構造体1は、必要に応じて、ガラス繊維、炭素繊維、マイクロファイバー、カーボンナノチューブ、及びセルロースナノファイバー等のフィラーを含有してもよい。さらに、構造体1は、必要に応じて、酸化防止剤、熱安定剤、紫外線吸収剤、光安定剤、滑剤、帯電防止剤、難燃剤、抗菌剤、蛍光増白剤等の添加剤を含有してもよい。
【0032】
<3.反射率>
構造体1の外表面2側における可視光線の波長の範囲(400nm以上、800nm以下)における光の反射率は、5%以上であり、好ましくは10%以上である。さらに、上記反射率は、好ましくは435nm以上、700nm以下の波長の範囲において、5%以上である。反射率は、マルチチャンネル分光検出器(マルチ測光システムMCPD-7700、大塚電子社製)により測定することができる。構造体1がシート状以外の立体形状を有する場合、上記測定は、構造体1の少なくとも一部を平面状に展開したサンプルについて行うことができる。
【0033】
構造体1の反射率を上記範囲とすることで、構造体1の外観を、より多様な布の外観に近いものとすることができる。
【0034】
<4.平均摩擦係数>
構造体1の外表面2側における平均摩擦係数(MIU)は、1.000以下であることが好ましく、0.700以下であることがより好ましく、0.300以下であることがさらに好ましい。MIUは、滑り易さ、または摩擦感を表す指標である。MIUは、値が大きいほど滑りにくく、触れた人に摩擦感を与え、値が小さいほど滑りやすく、触れた人に与える摩擦感が少ない。例えば、複数の周縁部20、側壁部21及び底部22が形成されないTPU製の成形シートのMIUは2.900超であり、ベロア、別珍、及びフリース等の起毛を有する布のMIUは0.200~0.400程度であり、キュプラのMIUは0.100~0.200等である。すなわち、構造体1のMIUを上記範囲とすることで、摩擦感が少ない、滑らかな布の感触を実現することができる。MIUは、表面試験機(KES-FB4-A、カトーテック社製)により測定することができる。
【0035】
<5.平均摩擦係数の変動>
構造体1の外表面2側における平均摩擦係数の変動(MMD)は、0.0400以下であることが好ましく、0.0100以下であることが好ましく、0.0080以下であることがさらに好ましい。MMDは、ざらつき、または滑らかさを表す指標である。MMDは、値が大きいほどざらつきが多く滑らかさが低下し、値が小さいほどざらつきが少なく滑らかさが向上する。例えば、複数の周縁部20、側壁部21及び底部22が形成されないTPU製の成形シートのMMDは0.0400超であり、キュプラ等のMMDは0.0100~0.0200程度であり、ベロア、別珍、及びフリース等の起毛を有する布のMMDは0.0080未満である。すなわち、構造体1のMMDを上記範囲とすることで、ざらつき感が少ない、滑らかな布の感触を実現することができる。MMDは、上記表面試験機により測定することができる。
【0036】
<6.構造体の製造方法>
構造体1は、複数の周縁部20、複数の側壁部21及び複数の底部22が同じ材料で一体的に成形される限り、どのような方法でも製造することができる。例えば、構造体1が一定の厚みを有するシート状である場合、まず構造体1の原料となる上記樹脂、添加剤、及び色料等を押出機に投入して溶融し、続いてTダイ等により押出成形し、冷却ロールにて冷却することで、未延伸のシート状物を作製することができる。その後、必要に応じて未延伸のシート状物を一軸延伸または二軸延伸し、延伸シート10を得る。得られた延伸シート10を、図3のように一方向に搬送しながら、ピンチロール3により挟み込む。
【0037】
ピンチロール3は、それぞれ延伸シート10の搬送速度に合わせて一方向に回転する第1ロール30と、第2ロール31とを含む。第2ロール31は、第1ロール30とは異なり、凹凸のない外周面を有する。一方、第1ロール30は、図4に示すように、複数の凸部300と、凸部300の各々を取り囲む凹部301とが形成された外周面30aを有する(符号は、代表的なものにのみ付している)。凸部300の各々は、平面視正方形の略四角錐形状を有し、その先端部300aは、断面視において円弧状に形成される。先端部300aの円弧を含む仮想円C3の半径は、仮想円C2の半径と一致する。また、凹部301は、断面視において円弧状の底部301aを有し、底部301aの円弧を含む仮想円C4の半径は、仮想円C1の半径と一致する。すなわち、凸部300は、構造体1の複数の周縁部20、側壁部21及び底部22により規定される略四角錐形の空間に対応し、凹部301は、構造体1の周縁部20に対応する。
【0038】
ピンチロール3による挟み込みにより、延伸シート10の片面側に、複数の周縁部20、複数の側壁部21及び複数の底部22が形成される。このシートを巻き取りロール等によって巻き取ると、シート状の構造体1が得られる。なお、シート状の構造体1の厚さTは、0.01mm以上、5mm以下であることが好ましい。また、シート状の構造体1は、Tダイ等により共押出され、他の1または複数の層と積層された多層構造を有していてもよい。
【0039】
また、構造体1は、図5に示すように、キャビティ内壁面に複数の凸部400と、凸部400の各々を取り囲む凹部401とが形成された第1金型40、及び第1金型40と組み合わせられる第2金型41とを少なくとも含む金型4により成形されてもよい(符号は、代表的なものにのみ付している)。この場合、凸部400が構造体1の周縁部20、側壁部21及び底部22により規定される略四角錐形の空間に対応し、凹部401が、構造体1の周縁部20に対応する。このような金型4と、構造体1の原料11となる上記樹脂、添加剤、及び色料等とをまず準備する。続いて、第1金型40と第2金型41とを閉じた状態で、加熱溶融された上記原料11を、ノズル42を介して金型4内に射出し、金型4のキャビティを原料11で満たす。そして、所定の時間だけ第1金型40と第2金型41とを閉じた状態を保持し、原料11を成形する。その後、金型4を開いて成形物を取り出すと、金型4のキャビティの形状に対応した形状の成形物であって、構造体1を含む成形物が得られる。必要に応じて、この成形物から不要な部分を分離することにより、構造体1が得られる。
【0040】
<7.特徴>
上記実施形態によれば、製造が容易であるとともに、形状保持性に優れ、外観が良く、触感が滑らかな構造体1が提供される。構造体1の用途は特に限定されない。構造体1は、形状保持性が要求されるとともに、人が触れることの多い物体、例えば、電子機器の筐体、屋内の内装品、車内の内装品、スポーツ用品、各種容器等に特に好適に用いることができる。加えて、構造体1は、任意の物体に布のような表面性状を付与するためのシートとして構成することもできる。
【0041】
<8.変形例>
以上、本発明の一実施形態について説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、その趣旨を逸脱しない限りにおいて、種々の変更が可能である。例えば、以下の変更が可能である。また、以下の変形例の要旨は、適宜組み合わせることができる。
【0042】
シート状の構造体1の製造方法は、ピンチロール3によるものに限定されない。例えば、上記延伸シート10の表面に、周縁部20に対応する凹部と、周縁部20、側壁部21及び底部22が規定する空間に対応する複数の凸部とが形成されたプレス金型を押し付けることにより、周縁部20、側壁部21及び底部22を形成し、構造体1を製造することもできる。
【0043】
周縁部20、側壁部21及び底部22の形状は、上記実施形態のものに限られない。例えば、図6に示すように、複数の周縁部20は規則的に配列された複数の円形の開口S1を規定し、周縁部20、側壁部21及び底部22の各々は、略円錐体形の空間を規定してもよい。この場合、周縁部20、側壁部21及び底部22の各々は、底部22の中心から下ろした垂線が、開口S1の幾何中心を通過する、直円錐体形または略直円錐体形の空間を規定してもよいし、垂線が開口S1の幾何中心を通過しない、斜円錐体形または略斜円錐体形の空間を規定してもよい。
【0044】
図7は、図6のvii-vii断面図である。図7に示すように、側壁部21のうち、互いに対向する部位のなす角βは、20°以上、90°以下であることが好ましい。側壁部21のうち、互いに対向する部位とは、開口S1の円形の周縁上における任意の点Q1と底部22とを結ぶ線分L1、及び同じ開口S1の周縁上で点Q1から180°離れた点Q2と底部22とを結ぶ線分L2とをいうものとする。
【0045】
周縁部20は、断面視において円弧状であってもよいし、直線状(平坦)であってもよい。周縁部20が断面視において平坦である場合、隣接する開口S1を規定する周縁部20同士の最短距離Kは、0.001mm以上、0.1mm以下であることが好ましい。さらに、底部22は、断面視において円弧状であってもよいし、点状であってもよいし、直線状(平坦)であってもよい。これらのことは、他の実施形態についても該当する。
【0046】
また、周縁部20、側壁部21及び底部22の各々は、円錐台形(斜錐台形を含む)の空間を規定してもよい。この場合、底部22は断面視において直線状(平坦)となる。このような円錐台形の空間が規定される場合においても、当該円錐台形を含む仮想的な錐体形について、上記と同様の定義を適用することで、「側壁部21のうち、互いに対向する部位」を定義することができる。さらに、開口S1は、楕円形であってもよい。
【0047】
また、例えば図8及び図9に示すように、複数の周縁部20は規則的に配列された複数の三角形の開口S1を規定し、周縁部20、側壁部21及び底部22の各々は、略三角錐体形の空間を規定してもよい。他の実施形態と同様に、周縁部20は、断面視において円弧状であってもよいし、直線状(平坦)であってもよい。図8は、周縁部20が断面視において直線状である例である。このとき、周縁部20は、隣接する2つの開口S1の周縁が、互いに隣接し、かつ平行である周縁200a、200bを含むように隣接する2つの開口S1を規定する。周縁200a及び周縁200bからそれぞれ連続する、一対の側壁部21a及び側壁部21bは、周縁200a及び周縁200bに直交する断面において、20°以上、90°以下の角度をなすことが好ましい。なお、1つの開口S1とこれに隣接する開口S1について、互いに隣接し、かつ平行である周縁200a、200bの組み合わせが2通り以上考えられる場合は、全ての組み合わせにおいて、一対の側壁部21a及び側壁部21bのなす角度が上記範囲となることが好ましい。一方、周縁部20が断面視において円弧状である場合、周縁部20は、隣接する2つの開口S1の周縁が、同一の周縁を含むように隣接する2つの開口S1を規定する。この場合も、同一の周縁から連続する一対の側壁部は、当該周縁に直交する断面において、20°以上、90°以下の角度をなすことが好ましく、一対の側壁部の組み合わせが2通り以上考えられる場合は、全ての組み合わせにおいて、一対の側壁部のなす角度が上記範囲となることが好ましい。また、底部22は、断面視において円弧状であってもよいし、点状であってもよいし、直線状(平坦)であってもよい。以上のことは、複数の三角形の開口S1が、図9に示すように配置される場合にも該当する。
【0048】
さらに、複数の周縁部20は、規則的に配列された複数の多角形状の開口S1を規定してもよく、周縁部20、側壁部21及び底部22の各々は、略多角錐体形の空間を規定してもよい。この場合、上記空間は、直錐体形または略直錐体形であってもよいし、斜錐体形または略斜錐体形であってもよい。また、周縁部20、側壁部21及び底部22の各々は、多角錐台形(斜錐台形を含む)の空間を規定してもよい。この場合、底部22は断面視において直線状(平坦)となる。加えて、周縁部20が、隣接する2つの開口S1であって、その周縁が互いに隣接し、かつ平行である周縁または同一の周縁を含むように隣接する2つの開口S1を規定する場合、互いに隣接し、かつ平行である周縁または同一の周縁から連続する一対の側壁部は、当該周縁に直交する断面において、20°以上、90°以下の角度をなすことが好ましい。1つの開口S1と、これに隣接する開口S1について、互いに隣接し、かつ平行である周縁または同一の周縁から連続する一対の側壁部の組が2通り以上考えられる場合は、全ての組み合わせにおいて、一対の側壁部のなす角度が上記範囲となることが好ましい。
【0049】
なお、周縁部20、側壁部21及び底部22の各々が規定する空間は上記形状に限られず、側壁部21が、周縁部20から底部22へと向かうにつれて、断面積が縮小する空間を規定していればよい。さらに、多角形状の開口S1は、正多角形状であってもよいし、それ以外の多角形状であってもよい。
【0050】
なお、複数の周縁部20が規定する開口S1の形状は、構造体1の中で異なっていてもよく、例えば三角形の開口と四角形の開口とが複数の周縁部20によって規定されてもよいし、多角形の開口と円形の開口とが複数の周縁部20によって規定されてもよい。この場合、複数の周縁部20の少なくとも一部は、隣接する2つの同一形状の開口S1の周縁が、互いに隣接し、かつ平行である周縁または同一の周縁を含むように、隣接する2つの同一形状の開口S1を規定することができる。そして、互いに隣接し、かつ平行である周縁または同一の周縁から連続する一対の側壁部は、当該周縁に直交する断面において、20°以上、90°以下の角度をなすことが好ましい。
【実施例0051】
以下、実施例について説明する。以下の実施例はあくまでも例示であり、本開示は以下の実施例に限定されない。
【0052】
<1.実施例等の準備>
片面側に、図1及び図2のような表面構造(周縁部、側壁部及び底部)を有する平面視長方形のシート状の構造体であって、それぞれ白、銀、ベージュの色を有する構造体を作製し、実施例1~3に係る構造体とした。さらに、寸法及び形状が実施例1~3と共通で、黒色を有する構造体を作製し、参考例1に係る構造体とした。これらの構造体は、熱可塑性ウレタン樹脂製であり、寸法148mm×210mm(A5サイズ)、厚さ0.2mm、ピッチPは35μm、底部の深さDは50μm、αは21°、仮想円C1及びC2の直径は、それぞれ1.0μmであった。さらに、比較例1に係るシートとして、参考例1に係る構造体と同じ原料からなり、寸法及び厚さが実施例1~3及び参考例1と共通で、図1及び図2のような表面構造を有さない黒色のシートを作製した。
【0053】
<2-1.反射率>
実施例1~3及び参考例1に係る構造体について、400μm~800μmまでの波長の範囲における光の反射率を、マルチチャンネル分光検出器(マルチ測光システムMCPD-7700、大塚電子社製)を用いて測定した。また、寸法148mm×210mmの市販の布サンプルについて、上記マルチチャンネル分光検出器を用いて、546nmの波長における光の反射率を測定した。布サンプルは、ベロア(同じ素材のエンジ色、黒色)、フリース(同じ素材の緑色、黒色)、キュプラ(同じ素材の黒色、紺色)、別珍(白色)、機能性布地(黒色、エアリズム男性用、ユニクロ社製)とした。
【0054】
<2-2.平均摩擦係数>
参考例1に係る構造体について、表面構造の平均摩擦係数(MIU)を、表面試験機(KES-FB4-A、カトーテック社製)を用いて測定し、同じ表面構造を有する実施例1~3に係る構造体共通の測定結果とした。比較のため、比較例1に係るシート及び上記5種類の布サンプルについても同様にMIUを測定した。なお、色違いが存在する布サンプルについては、1種類の色のサンプルについて測定を行い、その結果を素材共通の測定結果とした。
【0055】
<2-3.平均摩擦係数の変動>
参考例1に係る構造体について、表面構造の平均摩擦係数の変動(MMD)を、上記表面試験機を用いて測定し、同じ表面構造を有する実施例1~3に係る構造体共通の測定結果とした。比較のため、比較例1に係るシート及び上記布サンプルについても同様にMMDを測定した。なお、色違いが存在する布サンプルについては、1種類の色のサンプルについて測定を行い、その結果を素材共通の測定結果とした。
【0056】
<3.結果>
実施例1~3及び参考例1に係る構造体について測定された、400μm~800μmまでの波長の範囲における光の反射率(%)は、図7のグラフのようになった。このグラフより、実施例1~3では、可視光線の波長範囲における反射率が5%以上となることが確認された。また、546nmの光の波長における反射率を、各布サンプルの反射率と比較する表を表1に示す。表1に示すように、実施例1~3に係る構造体の反射率は幅広い範囲に分布し、中にはエンジ色のベロアの反射率や、白色の別珍の反射率に近いものがあった。これにより、上記実施形態に係る構造体では、反射率の観点から、外観を様々な色の布の外観に近づけ得ることが確認された。
【表1】
【0057】
また、実施例1~3及び参考例1に係る構造体、比較例1に係るシート、及び布サンプルについて測定された平均摩擦係数(MIU)及び平均摩擦係数の変動(MMD)の結果を以下の表2に示す。表2に示すように、実施例1~3及び参考例1に係る構造体では、MIU及びMMDがともに比較例1に係るシートと比較して1桁小さく、両者の触感が大幅に異なることが確認された。そして、実施例1~3及び参考例1に係る構造体のMIUはキュプラに比較的近く、MMDはフリースに比較的近くなった。これにより、上記実施形態に係る構造体では、従来の樹脂成形品とは異なり、滑りが良く、滑らかでざらつき感の少ない布のような触感が実現できることが確認された。
【表2】
【符号の説明】
【0058】
1 構造体
2 外表面
20 周縁部
21 側壁部
22 底部
D 深さ
K 周縁部同士の最短距離
P ピッチ
S1 開口


図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10