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特開2024-37352超音波画像形成方法および超音波診断装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024037352
(43)【公開日】2024-03-19
(54)【発明の名称】超音波画像形成方法および超音波診断装置
(51)【国際特許分類】
   A61B 8/14 20060101AFI20240312BHJP
【FI】
A61B8/14
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022142154
(22)【出願日】2022-09-07
(71)【出願人】
【識別番号】503027931
【氏名又は名称】学校法人同志社
(74)【代理人】
【識別番号】110000475
【氏名又は名称】弁理士法人みのり特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】秋山 いわき
(72)【発明者】
【氏名】高柳 真司
【テーマコード(参考)】
4C601
【Fターム(参考)】
4C601DD20
4C601EE04
4C601GA18
4C601GA21
4C601GB04
4C601JB45
4C601LL33
(57)【要約】
【課題】超音波画像の画質劣化を低減することが可能な超音波画像形成方法を提供する。
【解決手段】アレイプローブが表示された三次元画像から振動子の三次元座標を算出する第1ステップ(S1)と、超音波画像の画像空間における振動子の各座標を算出する第2ステップ(S2)と、画像空間の画素の位置から振動子の各座標までの伝搬経路を算出する第3ステップ(S3)と、伝搬経路に沿って伝搬する超音波エコーの伝搬距離および伝搬時間差を算出する第4ステップ(S4)と、画素からの反射波と想定される時間信号を伝搬時間差に応じて加算する加算処理を行って画素の画素値を算出する第5ステップ(S6)と、超音波画像を形成する第6ステップ(S6)を含み、第3ステップの前に、音速データと三次元画像に基づいて被検体の内部の音速を決定して、画像空間における音速分布を生成し、第3ステップでは音速分布に基づいて伝搬経路を算出する。
【選択図】図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
超音波診断装置を用いた超音波画像形成方法であって、
被検体と前記超音波診断装置のアレイプローブとが表示された三次元画像から、前記アレイプローブに配列された複数の振動子の三次元座標を算出する第1ステップと、
超音波画像を形成するための複数の画素で構成された画像空間を設定し、前記三次元座標から前記画像空間における前記複数の振動子の各座標を算出する第2ステップと、
前記複数の振動子を同時駆動して超音波パルスおよび超音波エコーの送受信を行った場合における、前記画素の位置から前記複数の振動子の前記各座標まで伝搬する各超音波エコーの伝搬経路を算出する第3ステップと、
前記伝搬経路に沿って伝搬する前記超音波エコーの伝搬時間または伝搬距離を算出し、前記伝搬時間または前記伝搬距離に基づいて前記各超音波エコーの伝搬時間差を算出する第4ステップと、
前記画素ごとに、前記各超音波エコーから抽出した時間信号であって前記画素からの反射波と想定される予め設定された時間幅を有する前記時間信号を、前記伝搬時間差に応じて加算する加算処理を行い、前記画素の画素値を算出する第5ステップと、
前記複数の画素の前記画素値に基づいて前記超音波画像を形成する第6ステップと、
を含み、
前記第3ステップの前に、音速データと前記三次元画像に基づいて前記被検体の内部の音速を決定し、前記音速に基づいて前記画像空間における音速分布を生成し、
前記第3ステップでは、前記音速分布に基づいて前記伝搬経路を算出する
ことを特徴とする超音波画像形成方法。
【請求項2】
前記画素ごとに、前記複数の振動子の前記各座標における法線と前記伝搬経路とのなす角度が所定の角度範囲に含まれる振動子で構成される振動子群を抽出する抽出ステップをさらに含み、
前記第5ステップでは、前記画素ごとに、前記振動子群が受信した超音波エコーについてのみ前記加算処理を行う
ことを特徴とする請求項1に記載の超音波画像形成方法。
【請求項3】
前記画素ごとに、前記伝搬時間または前記伝搬距離が所定の時間範囲または距離範囲に含まれる振動子で構成される振動子群を抽出する抽出ステップをさらに含み、
前記第5ステップでは、前記画素ごとに、前記振動子群が受信した超音波エコーについてのみ前記加算処理を行う
ことを特徴とする請求項1に記載の超音波画像形成方法。
【請求項4】
前記画素ごとに、前記伝搬時間または前記伝搬距離が所定の時間範囲または距離範囲に含まれる振動子で構成される振動子群を抽出する抽出ステップと、
前記振動子群から第1中心振動子を選択し、前記複数の振動子から前記第1中心振動子を中心としたN個(Nは2以上の整数)の振動子で構成される第1振動子群を選択し、前記振動子群から第2中心振動子を選択し、前記複数の振動子から前記第2中心振動子を中心としたM個(Mは2以上の整数)の振動子で構成される第2振動子群を選択する選択ステップと、をさらに含み、
前記第5ステップでは、前記画素ごとに、前記加算処理として、前記第1振動子群が受信した超音波エコーについて前記時間信号を加算し、かつ前記第2振動子群が受信した超音波エコーについて前記時間信号を加算する
ことを特徴とする請求項1に記載の超音波画像形成方法。
【請求項5】
前記抽出ステップでは、前記画素ごとに前記時間範囲または前記距離範囲を変更できる
ことを特徴とする請求項3または4に記載の超音波画像形成方法。
【請求項6】
前記アレイプローブは、アレイ形状が変形可能なフレキシブルアレイプローブであり、
前記超音波画像の形成後に前記アレイ形状が変化した場合、前記第1ステップから前記第6ステップまでを再度実行する一方、
前記超音波画像の形成後に前記アレイ形状が変化していない場合、前記第5ステップおよび前記第6ステップのみを再度実行する
ことを特徴とする請求項1に記載の超音波画像形成方法。
【請求項7】
超音波パルスおよび超音波エコーの送受信を行うアレイプローブと、
超音波画像を形成する制御装置と、
を備える超音波診断装置であって、
前記アレイプローブは、
被検体に沿って形状を変形できる本体部と、
前記本体部に配列された複数の振動子と、を備え、
前記制御装置は、
前記複数の振動子を駆動させる駆動部と、
前記被検体と前記アレイプローブとが表示された三次元画像から、前記複数の振動子の三次元座標を算出する第1処理、
前記超音波画像を形成するための複数の画素で構成された画像空間を設定し、前記三次元座標から前記画像空間における前記複数の振動子の各座標を算出する第2処理、
前記複数の振動子を同時駆動して超音波パルスおよび超音波エコーの送受信を行った場合における、前記画素の位置から前記複数の振動子の前記各座標まで伝搬する各超音波エコーの伝搬経路を算出する第3処理、
前記伝搬経路に沿って伝搬する前記超音波エコーの伝搬時間または伝搬距離を算出し、前記伝搬時間または前記伝搬距離に基づいて前記各超音波エコーの伝搬時間差を算出する第4処理、
前記画素ごとに、前記各超音波エコーから抽出した時間信号であって前記画素からの反射波と想定される予め設定された時間幅を有する前記時間信号を、前記伝搬時間差に応じて加算する加算処理を行い、前記画素の画素値を算出する第5処理、を実行する演算部と、
前記複数の画素の前記画素値に基づいて前記超音波画像を形成する画像形成部と、
を備え、
前記演算部は、前記第3処理の前に、音速データと前記三次元画像に基づいて前記被検体の内部の音速を決定し、前記画像空間における音速分布を生成し、前記第3処理では、前記音速分布に基づいて前記伝搬経路を算出する
ことを特徴とする超音波診断装置。
【請求項8】
前記画素ごとに、前記複数の振動子の前記各座標における法線と前記伝搬経路とのなす角度が所定の角度範囲に含まれる振動子で構成される振動子群を抽出する抽出部をさらに備え、
前記演算部は、前記第5処理において、前記画素ごとに、前記振動子群が受信した超音波エコーについてのみ前記加算処理を行う
ことを特徴とする請求項7に記載の超音波診断装置。
【請求項9】
前記画素ごとに、前記伝搬時間または前記伝搬距離が所定の時間範囲または距離範囲に含まれる振動子で構成される振動子群を抽出する抽出部をさらに備え、
前記演算部は、前記第5処理において、前記画素ごとに、前記振動子群が受信した超音波エコーについてのみ前記加算処理を行う
ことを特徴とする請求項7に記載の超音波診断装置。
【請求項10】
前記画素ごとに、前記伝搬時間または前記伝搬距離が所定の時間範囲または距離範囲に含まれる振動子で構成される振動子群を抽出する抽出部と、
前記振動子群から第1中心振動子を選択し、前記複数の振動子から前記第1中心振動子を中心としたN個(Nは2以上の整数)の振動子で構成される第1振動子群を選択し、前記振動子群から第2中心振動子を選択し、前記複数の振動子から前記第2中心振動子を中心としたM個(Mは2以上の整数)の振動子で構成される第2振動子群を選択する選択部と、をさらに備え、
前記演算部は、前記第5処理において、前記画素ごとに、前記加算処理として、前記第1振動子群が受信した超音波エコーについて前記時間信号を加算し、かつ前記第2振動子群が受信した超音波エコーについて前記時間信号を加算する
ことを特徴とする請求項7に記載の超音波診断装置。
【請求項11】
前記抽出部は、前記画素ごとに前記時間範囲または前記距離範囲を変更できる
ことを特徴とする請求項9または10に記載の超音波診断装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、超音波画像形成方法および超音波診断装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来の超音波診断装置では、複数の超音波振動子を配列したアレイプローブから出力される超音波パルスにより超音波ビームを形成し、当該超音波ビームを走査しながら被検体からの超音波エコーを取得して、被検体である生体内部の断層画像(例えば、Bモード画像)を得る手法が用いられている。
【0003】
この手法では、配列した各超音波振動子の位置座標が既知であり、かつその座標が直線、または円弧など比較的簡単な関数で表されることを前提としているため、配列した隣り合う超音波振動子を励振するパルス電圧信号を相対的に遅延させることで超音波ビームの焦点とその方向を制御することができる。また、受信した超音波エコー(エコー信号)に対して、仮想焦点から各超音波振動子までの仮想距離差を算出し、算出した距離差から音速が既知であり、かつ一定であると仮定して算出された超音波伝搬時間差だけ遅延させる。そして、遅延させた各エコー信号の瞬時値を加算し、直交検波等により必要な周波数の信号を抽出し、対数を取るなどして輝度変調を行う。
【0004】
一方、本願発明者等は、アレイ形状が変形可能なフレキシブルアレイプローブを備えた超音波診断装置を開発している(例えば、特許文献1参照)。特許文献1に記載の超音波診断装置において、アレイ形状が直線型や円弧型の場合に有効な従来手法を適用すると、変形されたアレイ形状における各振動子の座標が直線上、または円弧上にない場合は得られる超音波画像(断層画像)の画質が劣化してしまうという問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2017-18510号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであって、その課題とするところは、超音波画像の画質劣化を低減することが可能な超音波画像形成方法および超音波診断装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、本発明に係る超音波画像形成方法は、
超音波診断装置を用いた超音波画像形成方法であって、
被検体と前記超音波診断装置のアレイプローブとが表示された三次元画像から、前記アレイプローブに配列された複数の振動子の三次元座標を算出する第1ステップと、
超音波画像を形成するための複数の画素で構成された画像空間を設定し、前記三次元座標から前記画像空間における前記複数の振動子の各座標を算出する第2ステップと、
前記複数の振動子を同時駆動して超音波パルスおよび超音波エコーの送受信を行った場合における、前記画素の位置から前記複数の振動子の前記各座標まで伝搬する各超音波エコーの伝搬経路を算出する第3ステップと、
前記伝搬経路に沿って伝搬する前記超音波エコーの伝搬時間または伝搬距離を算出し、前記伝搬時間または前記伝搬距離に基づいて前記各超音波エコーの伝搬時間差を算出する第4ステップと、
前記画素ごとに、前記各超音波エコーから抽出した時間信号であって前記画素からの反射波と想定される予め設定された時間幅を有する前記時間信号を、前記伝搬時間差に応じて加算する加算処理を行い、前記画素の画素値を算出する第5ステップと、
前記複数の画素の前記画素値に基づいて前記超音波画像を形成する第6ステップと、
を含み、
前記第3ステップの前に、音速データと前記三次元画像に基づいて前記被検体の内部の音速を決定し、前記音速に基づいて前記画像空間における音速分布を生成し、
前記第3ステップでは、前記音速分布に基づいて前記伝搬経路を算出することを特徴とする。
【0008】
前記超音波画像形成方法は、
前記画素ごとに、前記複数の振動子の前記各座標における法線と前記伝搬経路とのなす角度が所定の角度範囲に含まれる振動子で構成される振動子群を抽出する抽出ステップをさらに含み、
前記第5ステップでは、前記画素ごとに、前記振動子群が受信した超音波エコーについてのみ前記加算処理を行うよう構成できる。
【0009】
前記超音波画像形成方法は、
前記画素ごとに、前記伝搬時間または前記伝搬距離が所定の時間範囲または距離範囲に含まれる振動子で構成される振動子群を抽出する抽出ステップをさらに含み、
前記第5ステップでは、前記画素ごとに、前記振動子群が受信した超音波エコーについてのみ前記加算処理を行うよう構成できる。
【0010】
前記超音波画像形成方法は、
前記画素ごとに、前記伝搬時間または前記伝搬距離が所定の時間範囲または距離範囲に含まれる振動子で構成される振動子群を抽出する抽出ステップと、
前記振動子群から第1中心振動子を選択し、前記複数の振動子から前記第1中心振動子を中心としたN個(Nは2以上の整数)の振動子で構成される第1振動子群を選択し、前記振動子群から第2中心振動子を選択し、前記複数の振動子から前記第2中心振動子を中心としたM個(Mは2以上の整数)の振動子で構成される第2振動子群を選択する選択ステップと、をさらに含み、
前記第5ステップでは、前記画素ごとに、前記加算処理として、前記第1振動子群が受信した超音波エコーについて前記時間信号を加算し、かつ前記第2振動子群が受信した超音波エコーについて前記時間信号を加算するよう構成できる。
【0011】
前記超音波画像形成方法において、
前記抽出ステップでは、前記画素ごとに前記時間範囲または前記距離範囲を変更できるよう構成できる。
【0012】
前記超音波画像形成方法において、
前記アレイプローブは、アレイ形状が変形可能なフレキシブルアレイプローブであり、
前記超音波画像の形成後に前記アレイ形状が変化した場合、前記第1ステップから前記第6ステップまでを再度実行する一方、
前記超音波画像の形成後に前記アレイ形状が変化していない場合、前記第5ステップおよび前記第6ステップのみを再度実行するよう構成できる。
【0013】
上記課題を解決するために、本発明に係る超音波診断装置は、
超音波パルスおよび超音波エコーの送受信を行うアレイプローブと、
超音波画像を形成する制御装置と、
を備える超音波診断装置であって、
前記アレイプローブは、
被検体に沿って形状を変形できる本体部と、
前記本体部に配列された複数の振動子と、を備え、
前記制御装置は、
前記複数の振動子を駆動させる駆動部と、
前記被検体と前記アレイプローブとが表示された三次元画像から、前記複数の振動子の三次元座標を算出する第1処理、
前記超音波画像を形成するための複数の画素で構成された画像空間を設定し、前記三次元座標から前記画像空間における前記複数の振動子の各座標を算出する第2処理、
前記複数の振動子を同時駆動して超音波パルスおよび超音波エコーの送受信を行った場合における、前記画素の位置から前記複数の振動子の前記各座標まで伝搬する各超音波エコーの伝搬経路を算出する第3処理、
前記伝搬経路に沿って伝搬する前記超音波エコーの伝搬時間または伝搬距離を算出し、前記伝搬時間または前記伝搬距離に基づいて前記各超音波エコーの伝搬時間差を算出する第4処理、
前記画素ごとに、前記各超音波エコーから抽出した時間信号であって前記画素からの反射波と想定される予め設定された時間幅を有する前記時間信号を、前記伝搬時間差に応じて加算する加算処理を行い、前記画素の画素値を算出する第5処理、を実行する演算部と、
前記複数の画素の前記画素値に基づいて前記超音波画像を形成する画像形成部と、
を備え、
前記演算部は、前記第3処理の前に、音速データと前記三次元画像に基づいて前記被検体の内部の音速を決定し、前記画像空間における音速分布を生成し、前記第3処理では、前記音速分布に基づいて前記伝搬経路を算出することを特徴とする。
【0014】
前記超音波診断装置は、
前記画素ごとに、前記複数の振動子の前記各座標における法線と前記伝搬経路とのなす角度が所定の角度範囲に含まれる振動子で構成される振動子群を抽出する抽出部をさらに備え、
前記演算部は、前記第5処理において、前記画素ごとに、前記振動子群が受信した超音波エコーについてのみ前記加算処理を行うよう構成できる。
【0015】
前記超音波診断装置は、
前記画素ごとに、前記伝搬時間または前記伝搬距離が所定の時間範囲または距離範囲に含まれる振動子で構成される振動子群を抽出する抽出部をさらに備え、
前記演算部は、前記第5処理において、前記画素ごとに、前記振動子群が受信した超音波エコーについてのみ前記加算処理を行うよう構成できる。
【0016】
前記超音波診断装置は、
前記画素ごとに、前記伝搬時間または前記伝搬距離が所定の時間範囲または距離範囲に含まれる振動子で構成される振動子群を抽出する抽出部と、
前記振動子群から第1中心振動子を選択し、前記複数の振動子から前記第1中心振動子を中心としたN個(Nは2以上の整数)の振動子で構成される第1振動子群を選択し、前記振動子群から第2中心振動子を選択し、前記複数の振動子から前記第2中心振動子を中心としたM個(Mは2以上の整数)の振動子で構成される第2振動子群を選択する選択部と、をさらに備え、
前記演算部は、前記第5処理において、前記画素ごとに、前記加算処理として、前記第1振動子群が受信した超音波エコーについて前記時間信号を加算し、かつ前記第2振動子群が受信した超音波エコーについて前記時間信号を加算するよう構成できる。
【0017】
前記超音波診断装置において、
前記抽出部は、前記画素ごとに前記時間範囲または前記距離範囲を変更できるよう構成できる。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、超音波画像の画質劣化を低減することが可能な超音波画像形成方法および超音波診断装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】本発明に係る超音波診断装置の構成を示す図である。
図2】本発明に係る超音波診断装置であって、(A)はアレイプローブの構成を示す図であり、(B)マーカーの構成を示す図である。
図3】本発明に係る超音波画像形成方法のフローチャートである。
図4】本発明の画像空間における超音波エコーの伝搬経路の算出方法を説明するための図である。
図5】本発明の画像空間における超音波エコーの伝搬時間差を算出する方法を説明するための図である。
図6】(A)本発明の抽出ステップ後の加算処理を説明するための図である。(B)変形例1の抽出ステップおよび選択ステップ後の加算処理を説明するための図である。
図7】変形例2の抽出ステップを説明するための図である。
図8】超音波画像の一例であって、(A)は従来手法による画像、(B)は変形例1の超音波診断装置による画像、(C)は変形例2の超音波診断装置で角度範囲を0°≦θ≦5°として得られた画像、(D)は変形例2の超音波診断装置で角度範囲を0°≦θ≦2°として得られた画像である。
図9】本発明に係る超音波診断装置の超音波画像形成後の処理を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、添付図面を参照して、本発明に係る超音波画像形成方法および超音波診断装置の実施形態について説明する。
【0021】
図1に、本発明の一実施形態に係る超音波診断装置100を示す。本発明の一実施形態に係る超音波画像形成方法は、超音波診断装置100を用いて行われる。
【0022】
超音波診断装置100は、MRI(Magnetic Resonance Imaging)装置200で撮像されたMR画像(本発明の「三次元画像」に相当)に基づいて、MR画像の断面(スライス画像)に対応する超音波画像を形成する。超音波診断装置100は、被検体300(本実施形態では、人体の腹部)に取り付けられるアレイプローブ110と、超音波画像を形成するための制御装置120とを備える。
【0023】
図2(A)に示すように、アレイプローブ110は、アレイ形状が変形可能なフレキシブルアレイプローブであり、被検体300に沿って形状を変形できる本体部111と、本体部に直線状に配列された複数の振動子112と、複数の振動子112の両側に配置された複数のマーカー113と、本体部111の裏側の振動子112の位置に配置された凹型レンズとを備える。
【0024】
振動子112は、被検体300の内部に超音波パルスを照射し、被検体300の内部から反射して戻ってくる超音波エコー(エコー信号)を受信するよう構成された超音波振動子である。複数の振動子112は、本実施形態では192個の振動子からなり、同時駆動のチャネル数は128チャネルである。なお、振動子112の数および/または同時駆動のチャネル数は、適宜変更することができる。
【0025】
図2(B)に示すように、マーカー113は、円柱形状のアクリル製のケース113aの内部にポリアセタール(POM)の球体113bを配置し、球体113bの周りに液体113c(本実施形態では、オリーブオイル)を充填したものである。マーカー113は、少なくとも球体113bがMR画像に表示されるのであれば、適宜構成を変更することができる。
【0026】
再び図1を参照して、制御装置120は、アレイプローブ110に接続されるとともに、図示しない通信部(入出力部)によりMRI装置200と通信可能に構成される。制御装置120は、駆動部121と、演算部122と、抽出部123と、画像形成部124とを備える。
【0027】
駆動部121は、ケーブル等を介してアレイプローブ110に接続される。駆動部121は、複数の振動子112を駆動させて、複数の振動子112に超音波パルスとその超音波エコーの送受信を行わせるよう構成される。
【0028】
演算部122は、マイクロコントローラ等のデジタル回路、またはアナログ回路とデジタル回路とを組み合わせた回路で構成され、以下の第1処理から第5処理を実行する。演算部122は、駆動部121、抽出部123および画像形成部124と、各種情報(演算結果等を含む)を共有する。
【0029】
詳細は後述するが、演算部122は、MR画像から振動子112の三次元座標を算出する第1処理と、超音波画像を形成するための画像空間における振動子112の座標を算出する第2処理と、画像空間の画素の位置から振動子112の座標まで伝搬する超音波エコーの伝搬経路を算出する第3処理と、伝搬経路に沿って伝搬する超音波エコーの伝搬時間または伝搬距離を算出する第4処理と、画像空間の画素の画素値を算出する第5処理を実行する。
【0030】
また、演算部122は、被検体300の生体組織情報と、当該生体組織情報に関連付けされた音速情報とを含む音速データを記憶している。演算部122は、第3処理の前までに、音速データおよびMR画像から被検体300の内部の音速を決定して、画像空間における音速分布を生成し、第3処理において音速分布に基づいて伝搬経路を算出する。
【0031】
抽出部123は、演算部122と同様にデジタル回路および/またはアナログ回路で構成される。抽出部123は、演算部122が第4処理で算出した伝搬時間または伝搬距離が予め設定された時間範囲または距離範囲に含まれる超音波パルスを受信する振動子(本発明の「振動子群」に相当)を抽出する。時間範囲または距離範囲は、画像空間の画素ごとに、または一括して設定・変更することができる。
【0032】
画像形成部124は、演算部122と同様にデジタル回路および/またはアナログ回路で構成されるとともに、図示しない表示装置に接続される。画像形成部124は、演算部122が第5処理で算出した画素値に基づいて超音波画像を形成し、当該超音波画像を上記表示装置に表示させる。
【0033】
図3に、本発明の一実施形態に係る超音波画像形成方法のフローチャートを示す。本実施形態に係る超音波画像形成方法は、上記のとおり、超音波診断装置100を用いて行われる。
【0034】
被検体300にアレイプローブ110を取り付けた状態で、MRI装置200によりMR画像を撮像すると、MR画像には、被検体300とアレイプローブ110のマーカー113が表示される。MRI装置200は、撮像したMR画像を超音波診断装置100に送信する。
【0035】
MR画像を受信した超音波診断装置100では、演算部122がMR画像から振動子112の三次元座標を算出する(S1)。ステップS1は、第1処理および本発明の「第1ステップ」に相当する。
【0036】
振動子112の三次元座標の算出には、任意の方法を採用することができる。本実施形態では、演算部122は、MR画像からマーカー113の三次元座標を算出する。三次元座標空間の座標系については、MR画像をスライスしたスライス画像の横方向をX座標、スライス画像の縦方向をY座標、スライス方向をZ座標とする。
【0037】
演算部122は、マーカー113のサイズ、マーカー113と振動子112との位置関係、振動子112間の間隔等、振動子112の三次元座標を算出するのに必要な情報を予め記憶している。このため、演算部122は、マーカー113の三次元座標を算出すると、マーカー113の三次元座標に基づいて、振動子112の三次元座標を算出することができる。
【0038】
また、演算部122は、MR画像の画像情報(例えば、輝度)を分析して、MR画像に表示されている被検体300の生体組織を特定する。演算部122は、例えば、MR画像に被検体300の脂肪組織と筋肉組織とが表示されていると特定した場合、記憶している音速データに基づいて、脂肪組織に対応する音速C1と、筋肉組織に対応する音速C2とを決定し、脂肪組織と筋肉組織の境界線(音速C1と音速C2の境界線)の三次元座標を算出する。
【0039】
次いで、演算部122は、超音波画像を形成するための画像空間における振動子112の座標を算出するとともに、当該画像空間における音速分布を生成する(S2)。ステップS2は、第2処理および本発明の「第2ステップ」に相当する。
【0040】
具体的には、演算部122は、まず超音波画像を形成するための画像空間を設定する。超音波画像は2次元の画像であるが、設定する画像空間は3次元の情報を含む。画像空間を設定した演算部122は、振動子112の三次元座標の座標変換を行い、画像空間における振動子112の座標を算出する。また、演算部122は、音速の境界線の三次元座標についても座標変換を行い、画像空間における境界線の座標を算出して、画像空間における音速分布を生成する。
【0041】
次いで、演算部122は、画像空間を構成する画素ごとに、音速分布に基づいて画素の位置から振動子112の座標まで伝搬する超音波エコーの伝搬経路を算出する(S3)。ステップS3は、第3処理および本発明の「第3ステップ」に相当する。
【0042】
図4に、超音波エコーの伝搬経路を算出する方法の一例を示す。図4では、脂肪組織に対応する音速C1と筋肉組織に対応する音速C2との境界線が画像空間の中央よりも少し上側(アレイプローブ110側)に位置する音速分布となっている。すなわち、境界線の上側が音速C1となり、境界線の下側が音速C2となる。
【0043】
上記のような音速分布において、複数の振動子112を同時駆動して画素Piとの間で超音波パルスおよび超音波エコーの送受信を行った場合、複数の振動子112は、画素Piから折れ線状の経路で戻ってくる超音波エコー(エコー信号)を受信する。演算部122は、例えば、画素Piから振動子112iの座標まで伝搬する超音波エコーの伝搬経路(L1+L2)を、音速分布およびスネルの法則に基づいて算出する。演算部122は、同様にして、画素Piから全ての振動子112に対して伝搬経路を算出し、画素Piに対して行った伝搬経路の算出を、超音波画像の画像空間を構成する全ての画素に対して行う。
【0044】
次いで、演算部122は、伝搬経路の距離(伝搬距離)を算出し、伝搬経路に沿って伝搬する超音波エコーの伝搬時間差を算出する(S4)。ステップS4は、第4処理および本発明の「第4ステップ」に相当する。
【0045】
図4の場合の伝搬距離は、伝搬経路L1に沿った距離と伝搬経路L2に沿った距離との和になる。以下では、説明を簡素化するために、画像空間における音速分布は、単一の音速であることとする。
【0046】
図5に、超音波エコーの伝搬時間差を算出する方法の一例を示す。図5では、振動子112fが基準振動子となる。基準振動子は伝搬距離が最も短い振動子であり、画素ごとに基準振動子が設定される。振動子112fの座標を(Xf,Yf,Zf)とし、画素Piの座標を(Px,Py,Pz)とすると、画素Piから振動子112fまでの伝搬距離Lfは次式で表わされる。
【数1】
【0047】
画素Piから振動子112iまでの伝搬距離Liも、振動子112iの座標および画素Piの座標から同様にして算出できる。振動子112fが受信する超音波エコーに対し、振動子112iが受信する超音波エコーの伝搬時間差Tiは、音速分布の単一の音速をCとすると、Ti=(Lf-Li)/Cとなる。
【0048】
演算部122は、同様にして、画素Piから全ての振動子112に対して伝搬距離および伝搬時間差を算出し、画素Piに対して行った伝搬距離および伝搬時間差の算出を、超音波画像の画像空間を構成する全ての画素に対して行う。
【0049】
次いで、抽出部123は、演算部122で算出した伝搬距離が予め設定された距離範囲に含まれる振動子112を抽出する(S5)。ステップS5は、本発明の「抽出ステップ」に相当する。
【0050】
本実施形態では、抽出部123は、画素から基準振動子までの伝搬距離(最短の伝搬距離)を下限値に設定し、最短の伝搬距離+1%を上限値に設定し、伝搬距離が設定した距離範囲に含まれる振動子112を抽出する。抽出部123は、上記画素に対して行った振動子112の抽出を、超音波画像の画像空間を構成する全ての画素に対して行う。すなわち、ステップS5では、画素ごとに、対応する振動子112が抽出される。
【0051】
なお、伝搬経路に沿って伝搬する超音波エコーの伝搬時間は、伝搬距離と音速により算出できることから、伝搬距離の情報を含む。このため、抽出部123は、超音波エコーの伝搬時間が予め設定された時間範囲に含まれる振動子112を抽出してもよい。
【0052】
次いで、演算部122は、各振動子112で受信された各超音波エコーから抽出された当該画素からの反射時間信号(反射波として想定される時間信号)を加算する加算処理を行い、加算した値に基づいて画素の画素値を算出する(S6)。ステップS6は、第5処理および本発明の「第5ステップ」に相当する。
【0053】
各振動子112で受信された超音波エコーから抽出された当該画素からの反射波と想定される時間信号を加算する方法としては公知の手法を採用できるが、本実施形態では、ステップS5で抽出した振動子112のみに対して加算処理を行う。すなわち、演算部122は、抽出部123で抽出した振動子112が受信する超音波エコーのみ、ステップS4で算出した伝搬時間差に応じて、当該画素からの反射波と想定される予め設定された時間幅を有する時間信号を加算する加算処理を行う。
【0054】
例えば、図6(A)に示すように、振動子112f,112iが抽出部123で抽出され、振動子112a,112b,112y,112zは抽出部123で抽出されなかった場合、演算部122は、振動子112f,112iが受信した超音波エコーの時間信号の瞬時値は加算するが、振動子112a,112b,112y,112zが受信した超音波エコーの時間信号の瞬時値は加算しない。
【0055】
時間信号は、演算部122において予め設定された時間幅を有する信号であって、当該信号の瞬時値が反射波(超音波エコー)に比例する信号である。加算処理では、各時間信号の瞬時値を加算する際に、伝搬時間差に応じて時間信号の時間をシフトさせる。例えば、超音波エコーAから抽出した時間信号Aの伝搬時間差がTAで、超音波エコーBから抽出した時間信号Bの伝搬時間差がTBの場合、加算処理では、時間(t+TA)における時間信号Aの瞬時値と時間(t+TB)における時間信号Bの瞬時値を加算する。時間(t)は、上記の時間幅に含まれる任意の時間である。
【0056】
演算部122は、上記の加算処理を行った後、直交検波により必要な周波数の信号を抽出し、対数を取って輝度変調を行って得た輝度値を、画素Piの画素値とする。演算部122は、画素Piに対して行った加算処理、直交検波および輝度変調を含む一連の処理を、超音波画像の画像空間を構成する全ての画素に対して行う。これにより、全ての画素の画素値が算出される。
【0057】
次いで、画像形成部124は、演算部122が算出した各画素の画素値に基づいて超音波画像を形成し、当該超音波画像を表示装置に表示させる(S7)。ステップS7は、本発明の「第6ステップ」に相当する。
【0058】
上記のとおり、本実施形態に係る超音波診断装置100および超音波診断装置100を用いた超音波画像形成方法によれば、制御装置120がステップS1~S6の処理を実行した後にステップS7で超音波画像を形成することにより、超音波画像の画質劣化を低減することができる。
【0059】
特に、演算部122が、第1処理において音速データおよびMR画像から被検体300の内部の音速を決定し、第2処理において画像空間における音速分布を生成し、第3処理において音速分布に基づく伝搬経路を算出するので、超音波エコーの伝搬距離および伝搬時間差をより正確に算出することができる。その結果、超音波画像の画質劣化をよりいっそう低減することができる。
【0060】
以上、本発明に係る超音波画像形成方法および超音波診断装置の実施形態について説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではない。
【0061】
[変形例1]
上記実施形態に係る超音波診断装置100では、制御装置120が選択部を備えてもよい。選択部は、抽出部123が抽出した振動子112から少なくとも2つの振動子を選択し、選択した各振動子を中心とした複数の振動子112で構成される少なくとも2つの振動子群を選択する。中心となる振動子(中心振動子)を選択した選択部は、例えば、192個の振動子112から、中心振動子を中心とした128個(例えば、中心振動子の左側から近い順に64個、中心振動子の右側から近い順に63個)選択する。
【0062】
この場合、演算部122は、選択部が選択した振動子群が受信する超音波エコーのみ、ステップS4で算出した伝搬時間差に応じて、各画素ごとに抽出された予め設定された時間幅を有する時間信号のみを加算する加算処理を行う。
【0063】
例えば、図6(B)に示すように、振動子112f,112iが抽出部123で抽出され、振動子112a,112b,112y,112zが抽出部123で抽出されなかった場合、選択部は、振動子112fを第1中心振動子として選択し、振動子112fを中心とした第1振動子群Tr1(振動子112b,112f,112i)を選択する。また、選択部は、振動子112iを第2中心振動子として選択し、振動子112iを中心とした第2振動子群Tr2(振動子112f,112i,112y)を選択する。演算部122は、第1振動子群Tr1が受信した超音波エコーの時間信号の瞬時値を加算し、さらに、第2振動子群Tr2が受信した超音波エコーの時間信号の瞬時値を加算する。抽出部123、選択部および演算部122は、画素Piに対して行った処理を、超音波画像の画像空間を構成する全ての画素に対して行う。
【0064】
本変形例に係る超音波診断装置および当該超音波診断装置を用いた超音波画像形成方法によれば、各画素の画素値を算出するために用いる超音波エコーの数が上記実施形態よりも多くなるため、上記実施形態よりも超音波画像の画質劣化を低減することができる。
【0065】
[変形例2]
上記実施形態に係る超音波診断装置100では、演算部122は、画像空間における振動子112の各座標を算出した後、第5処理の前までに、複数の振動子112の法線(変形例2では、法線ベクトル)を算出するよう構成できる。法線ベクトルの算出は、任意の方法を採用することができ、例えば、振動子112の各座標に基づいて各座標位置における接線を算出し、接線に基づいて法線ベクトルを算出してもよい。
【0066】
抽出部123は、演算部122で算出した伝搬距離が予め設定された距離範囲に含まれる振動子112を抽出する代わりに、法線ベクトルNと伝搬経路Lとのなす角度θが所定の角度範囲に含まれる振動子112を抽出してもよい。例えば、図7に示すように、振動子112bの法線ベクトルNbは、振動子112aと振動子112fを結ぶ直線に直交するものとし、法線ベクトルNbと伝搬経路Lbとのなす角度をθbとする。振動子112fの法線ベクトルNfは、振動子112bと振動子112iを結ぶ直線に直交するものとし、法線ベクトルNfと伝搬経路Lfとのなす角度をθfとする。振動子112iの法線ベクトルNiは、振動子112fと振動子112yを結ぶ直線に直交するものとし、法線ベクトルNiと伝搬経路Liとのなす角度をθiとする。振動子112yの法線ベクトルNyは、振動子112iと振動子112zを結ぶ直線に直交するものとし、法線ベクトルNyと伝搬経路Lyとのなす角度をθyとする。
【0067】
なお、法線ベクトルNは、注目している振動子112の両側の2つの振動子112の位置を結んだ直線と直交するように定義したので、振動子112a,112zはその片側に振動子112がないので法線ベクトルNが定義できない。このため、振動子112a,112zは抽出部123の抽出対象から除外することが好ましいが、端の振動子112(ここでは、振動子112a,112z)の法線ベクトルNに限り、下記のように定義してもよい。振動子112aの法線ベクトルNaは、振動子112aと振動子112bを結ぶ直線に直交するものとし、法線ベクトルNaと伝搬経路Laとのなす角度をθaとする。振動子112zの法線ベクトルNzは、振動子112yと振動子112zを結ぶ直線に直交するものとし、法線ベクトルNzと伝搬経路Lzとのなす角度をθzとする。図7の場合、角度θb,θf,θiが予め設定された角度範囲に含まれる一方、角度θa,θy,θzが当該角度範囲に含まれないため、抽出部123は、振動子112b,112f,112iで構成される振動子群を抽出する。
【0068】
演算部122は、抽出部123が抽出した振動子群が受信する超音波エコーのみ、第4処理で算出した伝搬時間差に応じて、時間信号の瞬時値を加算する加算処理を行う。図7の場合、演算部122は、振動子112b,112f,112iが受信した超音波エコーの時間信号の瞬時値は加算するが、振動子112a,112y,112zが受信した超音波エコーの時間信号の瞬時値は加算しない。演算部122および抽出部123は、画素Piに対して行う処理を、画像空間を構成する全ての画素に対して行う。
【0069】
図8(A)~(D)に、被検体300をグラファイト入り寒天ファントムとした場合の超音波画像の一例を示す。図8(A)は、特許文献1に記載の超音波診断装置に対して、アレイ形状が直線型や円弧型の場合に有効な従来手法を適用して取得した超音波画像である。図8(B)は、変形例1に係る超音波画像形成方法により取得した超音波画像である。図8(C)および(D)は、変形例2に係る超音波画像形成方法により取得した超音波画像であって、(C)は角度範囲を0°≦θ≦5°としたものであり、(D)は角度範囲を0°≦θ≦2°としたものである。θは、振動子112の法線ベクトルと伝搬経路とのなす角度である。
【0070】
図8の(A)と(B)との比較から、変形例1に係る超音波画像形成方法により取得した超音波画像は、従来手法で取得した超音波画像と比較してファントムの境界が鮮明になっており、画質の劣化が低減されていることが分かる。また、(B)と(C)、(D)との比較から、振動子112の抽出に関して距離制限するよりも角度制限した方が、超音波画像のコントラスト(ファントムとファントム以外の部分のコントラスト)が向上することが分かる。さらに、(C)と(D)の比較から、角度範囲の上限を小さくした方が、コントラストが向上することが分かる。
【0071】
なお、変形例2では、抽出部123は、伝搬距離が予め設定された距離範囲に含まれる振動子112を抽出する代わりに、法線ベクトルと伝搬経路とのなす角度θが所定の角度範囲に含まれる振動子112を抽出しているが、伝搬距離が予め設定された距離範囲に含まれ、かつ角度θが所定の角度範囲に含まれる振動子112を抽出してもよい。伝搬距離が予め設定された距離範囲に含まれるという条件は、伝搬時間が予め設定された時間範囲に含まれるという条件に置き換えることができる。さらに、上記の角度範囲は、画素ごとに変更してもよい。
【0072】
[その他の変形例]
本発明に係る超音波画像形成方法は、超音波診断装置を用いた超音波画像形成方法であって、被検体と超音波診断装置のアレイプローブとが表示された三次元画像から、アレイプローブに配列された複数の振動子の三次元座標を算出する第1ステップと、超音波画像を形成するための複数の画素で構成された画像空間を設定し、三次元座標から画像空間における複数の振動子の各座標を算出する第2ステップと、複数の振動子を同時駆動して超音波パルスおよび超音波エコーの送受信を行った場合における、画素の位置から複数の振動子の各座標まで伝搬する各超音波エコーの伝搬経路を算出する第3ステップと、伝搬経路に沿って伝搬する超音波エコーの伝搬時間または伝搬距離を算出し、伝搬時間または伝搬距離に基づいて各超音波エコーの伝搬時間差を算出する第4ステップと、画素ごとに、各超音波エコーから抽出した時間信号であって画素からの反射波と想定される予め設定された時間幅を有する時間信号を、伝搬時間差に応じて加算する加算処理を行い、画素の画素値を算出する第5ステップと、複数の画素の画素値に基づいて超音波画像を形成する第6ステップと、を含み、第3ステップの前に、音速データと三次元画像に基づいて被検体の内部の音速を決定し、音速に基づいて画像空間における音速分布を生成し、第3ステップでは、音速分布に基づいて伝搬経路を算出するのであれば、適宜構成を変更できる。
【0073】
本発明に係る超音波画像形成方法は、例えば、超音波画像の形成後に、アレイプローブの取り付け位置を変更したりしてアレイ形状が変化した場合、第1ステップから第6ステップまでを再度実行する一方、超音波画像の形成後にアレイ形状が変化していない場合、第5ステップおよび第6ステップのみを再度実行してもよい。
【0074】
図9に、超音波診断装置100による超音波画像形成後の具体的な処理フローの一例を示す。超音波診断装置100は、超音波画像の形成後(S11)、測定を継続するか否かの判定を行う(S12)。超音波診断装置100は、例えば、オペレータによって再び測定開始の操作が行われた場合、測定を継続すると判定し(S12でYES)、オペレータによって測定終了の操作が行われた場合や一定時間何も操作が行われなかった場合に、測定を継続しないと判定する(S12でNO)。
【0075】
測定を継続する場合(S12でYES)、超音波診断装置100は、アレイプローブ110のアレイ形状が前回の超音波画像形成後に変化したか否かを判定する(S13)。この判定は、アレイプローブ110にモーションセンサ等を設けて、アレイプローブ110の動きを検出することにより行ってもよいし、オペレータが判定してもよい。後者の場合、オペレータは、判定結果を超音波診断装置100に入力する。
【0076】
アレイプローブ110のアレイ形状が変化した場合(S13でYES)、超音波診断装置100は、第1ステップから第6ステップを実行する(S14)。この場合、超音波診断装置100は、第3ステップの前に、音速データと三次元画像に基づいて被検体300の内部の音速を決定し、音速に基づいて画像空間における音速分布を生成し、第3ステップでは、音速分布に基づいて伝搬経路を算出する。一方、アレイプローブ110のアレイ形状が変化していない場合(S13でNO)、超音波診断装置100は、第5ステップ、第6ステップのみ実行する(S15)。
【0077】
これにより新たな超音波画像が形成され(S11)、超音波診断装置100は、再び測定を継続するか否かの判定を行う(S12)。測定を継続しない場合(S12でNO)、超音波診断装置100は、超音波画像形成方法の処理を終了させる。
【0078】
本発明に係る超音波診断装置は、超音波パルスおよび超音波エコーの送受信を行うアレイプローブと、超音波画像を形成する制御装置と、を備える超音波診断装置であって、アレイプローブは、被検体に沿って形状を変形できる本体部と、本体部に配列された複数の振動子と、を備え、制御装置は、複数の振動子を駆動させる駆動部と、被検体とアレイプローブとが表示された三次元画像から、複数の振動子の三次元座標を算出する第1処理、超音波画像を形成するための複数の画素で構成された画像空間を設定し、三次元座標から画像空間における複数の振動子の各座標を算出する第2処理、複数の振動子を同時駆動して超音波パルスおよび超音波エコーの送受信を行った場合における、画素の位置から複数の振動子の各座標まで伝搬する各超音波エコーの伝搬経路を算出する第3処理、伝搬経路に沿って伝搬する超音波エコーの伝搬時間または伝搬距離を算出し、伝搬時間または伝搬距離に基づいて各超音波エコーの伝搬時間差を算出する第4処理、画素ごとに、各超音波エコーから抽出した時間信号であって画素からの反射波と想定される予め設定された時間幅を有する時間信号を、伝搬時間差に応じて加算する加算処理を行い、画素の画素値を算出する第5処理、を実行する演算部と、複数の画素の画素値に基づいて超音波画像を形成する画像形成部と、を備え、演算部は、第3処理の前に、音速データと三次元画像に基づいて被検体の内部の音速を決定し、画像空間における音速分布を生成し、第3処理では、音速分布に基づいて伝搬経路を算出するのであれば、適宜構成を変更できる。
【0079】
上記実施形態では、超音波診断装置100は、MRI装置200から三次元画像を取得しているが、MRI装置200以外の装置(例えば、X線CT装置、光CT装置)から三次元画像を取得してもよい。
【符号の説明】
【0080】
100 超音波診断装置
110 アレイプローブ
111 本体部
112 振動子
113 マーカー
120 制御装置
121 駆動部
122 演算部
123 抽出部
124 画像形成部
200 MRI装置
300 被検体
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9