IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 清水建設株式会社の特許一覧

<>
  • 特開-汚染土壌の原位置浄化方法 図1
  • 特開-汚染土壌の原位置浄化方法 図2
  • 特開-汚染土壌の原位置浄化方法 図3
  • 特開-汚染土壌の原位置浄化方法 図4
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024037358
(43)【公開日】2024-03-19
(54)【発明の名称】汚染土壌の原位置浄化方法
(51)【国際特許分類】
   B09C 1/06 20060101AFI20240312BHJP
【FI】
B09C1/06 ZAB
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022142162
(22)【出願日】2022-09-07
(71)【出願人】
【識別番号】000002299
【氏名又は名称】清水建設株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100149548
【弁理士】
【氏名又は名称】松沼 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100161506
【弁理士】
【氏名又は名称】川渕 健一
(74)【代理人】
【識別番号】100161207
【弁理士】
【氏名又は名称】西澤 和純
(72)【発明者】
【氏名】土田 充
(72)【発明者】
【氏名】小松 大祐
(72)【発明者】
【氏名】保坂 幸一
(72)【発明者】
【氏名】中島 邦将
(72)【発明者】
【氏名】平澤 卓也
(72)【発明者】
【氏名】白石 知成
(72)【発明者】
【氏名】中島 均
(72)【発明者】
【氏名】穂刈 利之
【テーマコード(参考)】
4D004
【Fターム(参考)】
4D004AA41
4D004AB02
4D004AB03
4D004AB06
4D004AB07
4D004AC07
4D004CA22
4D004CB31
4D004CB32
4D004DA03
4D004DA06
(57)【要約】
【課題】本発明は、加熱処理における加熱効率をより高められる汚染土壌の原位置浄化方法を目的とする。
【解決手段】汚染物質で汚染された汚染土壌が存在する処理対象領域A1よりも浅い位置に存在する地下水を揚水井戸10で揚水する揚水工程と、前記揚水工程の後に処理対象領域A1の少なくとも一部に加熱井戸で加熱処理を施す加熱工程と、前記加熱処理により生じた前記汚染物質を含む流体の少なくとも一部を吸引井戸20で吸引する吸引工程と、を有する、汚染土壌の原位置浄化方法。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
汚染物質で汚染された汚染土壌が存在する処理対象領域よりも浅い位置に存在する地下水を揚水井戸で揚水する揚水工程と、
前記揚水工程の後に前記処理対象領域の少なくとも一部に加熱井戸で加熱処理を施す加熱工程と、
前記加熱処理により生じた前記汚染物質を含む流体の少なくとも一部を吸引井戸で吸引する吸引工程と、を有する、汚染土壌の原位置浄化方法。
【請求項2】
前記揚水井戸の掘削孔と、前記加熱井戸の掘削孔とが同じである、請求項1に記載の汚染土壌の原位置浄化方法。
【請求項3】
前記加熱工程における加熱温度が60℃以上である、請求項1又は2に記載の汚染土壌の原位置浄化方法。
【請求項4】
前記汚染物質が揮発性有機化合物、油分、水銀、ポリ塩化ビフェニル及びダイオキシン類から選択される1種以上である、請求項1又は2に記載の汚染土壌の原位置浄化方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、汚染土壌の原位置浄化方法に関する。
【背景技術】
【0002】
揮発性有機化合物(VOC)等で汚染された汚染土壌を浄化する方法としては、掘削して除去する方法(掘削除去法)が知られている。
しかし、掘削除去法では、汚染土壌を大量に搬出、運搬しなければならず、膨大なコストを要していた。
【0003】
こうした問題に対し、例えば、特許文献1には、汚染物質を含む処理対象領域に吸引井戸と加熱井戸とを設置し、加熱井戸内に熱源を設置して井戸内の地下水を加熱した後、汚染物質を吸引除去する原位置浄化方法が提案されている。特許文献2には、処理対象領域に設けた回収井戸に漏れ出す汚染物質が気化した気体及び回収井戸に浸出する汚染物質を含む地下水を回収して浄化する原位置浄化方法が提案されている。特許文献1~2の発明によれば、原位置の加熱により汚染物質の除去効率を高めることが図られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平11-57865号公報
【特許文献2】特開2006-272273号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1~2の技術では、汚染土壌に加熱処理を施す際、処理対象領域よりも浅い位置に地下水位が存在するため、加熱による熱エネルギーの多くが、汚染物質が存在しない深度の地下水の気化に消費され、加熱処理における加熱効率が低下する。
【0006】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであって、加熱処理における加熱効率をより高められる汚染土壌の原位置浄化方法を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、本発明は以下の態様を有する。
[1]汚染物質で汚染された汚染土壌が存在する処理対象領域よりも浅い位置に存在する地下水を揚水井戸で揚水する揚水工程と、
前記揚水工程の後に前記処理対象領域の少なくとも一部に加熱井戸で加熱処理を施す加熱工程と、
前記加熱処理により生じた前記汚染物質を含む流体の少なくとも一部を吸引井戸で吸引する吸引工程と、を有する、汚染土壌の原位置浄化方法。
[2]前記揚水井戸の掘削孔と、前記加熱井戸の掘削孔とが同じである、[1]に記載の汚染土壌の原位置浄化方法。
[3]前記加熱工程における加熱温度が60℃以上である、[1]又は[2]に記載の汚染土壌の原位置浄化方法。
[4]前記汚染物質が揮発性有機化合物、油分、水銀、ポリ塩化ビフェニル及びダイオキシン類から選択される1種以上である、[1]~[3]のいずれかに記載の汚染土壌の原位置浄化方法。
【発明の効果】
【0008】
本発明の汚染土壌の原位置浄化方法によれば、加熱処理における加熱効率をより高められる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】本発明の汚染土壌の原位置浄化方法に係る原位置浄化システムの一実施形態を模式的に示す断面図である。
図2】本発明の汚染土壌の原位置浄化方法に係る原位置浄化システムの一実施形態を模式的に示す断面図である。
図3】本発明の一実施形態に係る揚水井戸を模式的に示す断面図である。
図4】本発明の一実施形態に係る加熱井戸を模式的に示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
≪原位置浄化システム≫
本発明の汚染土壌の原位置浄化方法に係る原位置浄化システムは、揚水井戸と、加熱井戸と、吸引井戸とを有する。原位置浄化システムは、汚染土壌が存在する処理対象領域を加熱して汚染物質を揮発させ、あるいは、汚染物質を水蒸気により連行し除去せしめ、土壌を浄化するシステムである。加熱井戸で処理対象領域を加熱するとき、処理対象領域よりも浅い位置に地下水位が存在すると、加熱による熱エネルギーの多くが、汚染物質が存在しない深度の地下水の気化に消費され、加熱処理における加熱効率が低下する。本発明に係る原位置浄化システムは、処理対象領域よりも浅い位置に存在する地下水を予め揚水してから加熱することで、加熱処理における加熱効率を高め、加熱による熱エネルギーを大幅に削減するものである。
以下、原位置浄化システムの一実施形態について、図面を参照して説明する。
【0011】
図1に示すように、本実施形態の原位置浄化方法に係る原位置浄化システム1は、揚水井戸10と、吸引井戸20とを有する。
原位置浄化システム1では、揚水井戸10及び吸引井戸20は、地表面Gから下方の深さ方向に延びるように配置されている。
揚水井戸10及び吸引井戸20は、処理対象領域A1に達する深度まで設けられている。原位置浄化システム1においては、地下水が処理対象領域A1よりも浅い水位W1の位置まで存在している。この地下水を、揚水井戸10で揚水することにより、地下水の水位を水位W2の位置まで低下できる。
【0012】
地下水を水位W2まで揚水した後は、揚水井戸10に代えて、加熱井戸30を設置する。
図2に示すように、本実施形態の原位置浄化システム2は、加熱井戸30と、吸引井戸20とを有する。
原位置浄化システム2では、加熱井戸30は、地表面Gから下方の深さ方向に延びるように配置されている。加熱井戸30は、処理対象領域A1に達する深度まで設けられている。原位置浄化システム2においては、加熱井戸30を稼働して熱エネルギーQを処理対象領域A1に供給することで、汚染物質を揮発させ、あるいは、汚染物質を水蒸気により連行し除去せしめ、土壌を浄化する。このとき、地下水の水位が水位W2まで低下しているので、地下水の気化に消費される熱エネルギーを大幅に削減できる。その結果、加熱井戸30による加熱処理における加熱効率をより高められる。
【0013】
<揚水井戸>
図3に示すように、揚水井戸10は、掘削孔12に底部16を有する筒状の外管14が設置されたものである。揚水井戸10の内部には、配管L1が設置され、地下水を揚水できるようになっている。
【0014】
筒状の外管14は、地表面Gから下方の深さ方向に延びるように配置されている。外管14は、揚水井戸10のケーシングである。
外管14の胴体部は、通水部(スクリーン)を有する。スクリーンとしては、例えば、メッシュスクリーン等の通水性を有する網目状の部材等が挙げられる。スクリーンには、水が透過できる複数の小穴が設けられていてもよい。
外管14の素材は特に限定されず、地下水用の任意の配管材料等で形成されている。外管14としては、例えば、配管用炭素鋼鋼管(SGP管)、ステンレス鋼管等が挙げられる。外管14は、円筒状でもよく、多角筒状でもよい。
【0015】
外管14の周囲の掘削孔12には、フィルター材18が充填されている。フィルター材18としては、例えば、砂利や砕石等の透水性を有する部材が挙げられる。
【0016】
配管L1は外管14の管軸方向に延びている。配管L1の上端側には、ポンプPが設けられている。ポンプPとしては、特に限定されず、例えば、圧縮空気で駆動するポンプ、ダイヤフラムポンプ、投げ込み式のポンプ等が挙げられ、エアリフト等を用いてもよい。
配管L1の素材は特に限定されず、水道用の任意の配管材料で形成されている。配管L1としては、例えば、金属製の配管、樹脂製の配管、これらの複合配管等が挙げられる。
【0017】
<吸引井戸>
吸引井戸20は、後述する加熱井戸30による加熱処理によって生じた汚染物質を含む流体の少なくとも一部を吸引して、土壌から汚染物質を除去するためのものである。吸引井戸20としては、例えば、揚水井戸10と同様の外管と、配管と、ポンプとを有する筒状体が挙げられる。ポンプとしては、例えば、真空ポンプ等、陰圧を可能にする器具等が挙げられる。真空ポンプとブロワーと水中ポンプとを組み合わせて陰圧を作り、ポンプとしてもよい。
【0018】
<加熱井戸>
加熱井戸30は、汚染物質で汚染された汚染土壌に加熱処理を施すためのものである。加熱井戸30は、処理対象領域A1内において複数設けられている。
図4に示すように、加熱井戸30は、掘削孔12に底部36を有する筒状の外管34が設置されたものである。加熱井戸30は、外管34と、内管44と、熱源Hと、熱伝達体Bと、を有する。加熱井戸30は、地表面Gから下方の深さ方向に延びるように配置されている。
【0019】
筒状の外管34は、地表面Gから下方の深さ方向に延びるように配置されている。外管34の内部には、底部46を有する筒状の内管44が配置されている。内管44は、外管34の管軸方向に延びている。内管44の内部には、熱伝導性物質が充填され、熱伝導層Fを形成している。熱源Hは、熱伝導層Fに挿入され、地表面G、あるいは地表面Gより深度の深い地中から内管44の内部を内管44の管軸方向(深さ方向)に延びている。熱伝達体Bは、熱伝導層Fに挿入され、熱源Hの下部から内管44の内部を深さ方向に延びている。熱伝達体Bの下端は、内管44の底部46付近に至っている。電源50は、地表面G上に位置し、熱源Hと配線L2を介して電気的に接続されている。
【0020】
外管34は、外管14と同様である。
本実施形態では、外管14を外管34に流用している。すなわち、外管34は、外管14と同じである。外管14を外管34に流用することで、新たな加熱井戸の外管を設ける必要がなく、効率的である。
【0021】
内管44は、熱源Hと熱伝達体Bとのケーシングである。内管44としては、例えば、SGP管、ステンレス鋼管、チタン管、アルミニウム管等、高温耐熱性を有する鋼管等が挙げられる。
内管44としては、熱伝導率が高いことから、SGP管、ステンレス鋼管が好ましい。
【0022】
熱伝導性物質は、空気よりも熱伝導率が高い物質である。加熱井戸30は、内管44の内部に熱伝導性物質が充填されていることにより、熱源Hで発生した熱を放射ではなく、伝導によって処理対象領域A1に伝達できる。このため、加熱井戸30の加熱効率をより高められる。
【0023】
空気の熱伝導率は、20℃で0.0257W/m・Kである。熱伝導性物質は、20℃における熱伝導率が0.0257W/m・Kよりも高ければよい。熱伝導性物質としては、例えば、砂(0.3W/m・K)、土(0.14W/m・K)、ガラス粒(0.2~0.8W/m・K)、アルミナ粒(5~30W/m・K)、鉄系材料(砂鉄、鉄粉、鉄粒、鉄切崩し屑、酸化鉄、10~80W/m・K)、コンクリート(1.5W/m・K)等のセメント系材料、非鉄金属粉、非鉄金属粒等の無機粒状物が挙げられる。カッコ内は、20℃又は常温(5~30℃)における熱伝導率を示す。以下、本明細書における熱伝導率は、20℃又は常温における熱伝導率を示す。ここで示した熱伝導率は、一例であり、熱伝導性物質の形状、熱伝導性物質の充填状態等によって変化する。例えば、同じ材質であっても、粒状の物質の熱伝導率は、密な固体の熱伝導率の数分の1程度になると考えられる。このように、熱伝導率は、熱伝導性物質の測定時の形状、充填状態等によって変化するため、実験によって実測して求めることが好ましい。熱伝導率を実測する方法としては、例えば、熱線法が挙げられる。
なお、本明細書において、平均粒子径が1mm未満のものを「粉体」(鉄粉、非鉄金属粉)といい、平均粒子径が1mm以上のものを「粒体」(鉄粒、非鉄金属粒)というものとする。
【0024】
熱伝導性物質の熱伝導率は、例えば、0.1W/m・K以上が好ましく、1W/m・K以上がより好ましく、20W/m・K以上がさらに好ましい。熱伝導性物質の熱伝導率が上記下限値以上であると、加熱井戸30の加熱効率をより高められる。熱伝導性物質の熱伝導率の上限値は高いほど好ましいが、本実施形態においては、実質的には、80W/m・Kほどである。
【0025】
熱伝導性物質としては、安価なことから砂、土が好ましい。
また、熱伝導性物質としては、熱伝導率が高いことから、鉄系材料、非鉄金属粉、非鉄金属粒等が好ましく、鉄系材料がより好ましく、砂鉄がさらに好ましい。非鉄金属粉としては、アルミ粉(10~40W/m・K)、銅粉(20~80W/m・K)等が挙げられる。非鉄金属粒としては、アルミ粒状物(5~30W/m・K)、銅粒状物(10~60W/m・K)等が挙げられる。
熱伝導性物質としては、加熱井戸30を解体、撤去する際に磁石で容易に回収できることから、鉄系材料が好ましい。鉄系材料の中でも、安価なことから、砂鉄が好ましい。
熱伝導性物質として、非鉄金属粉、非鉄金属粒を用いた場合、加熱井戸30を解体、撤去する際に磁石で容易に回収できることから、非鉄金属としては、磁性体金属であることが好ましい。
熱伝導性物質は、1種類の物質を用いてもよく、2種類以上の物質を組み合わせて用いてもよい。
【0026】
熱伝導層Fは、熱伝導性物質が内管44の内部に充填されてなる。本実施形態において、熱伝導層Fは、内管44の底部46から、内管44内の地表面Gの高さまで積層されている。熱伝導層Fの熱伝導率は、実測によって求めることができ、熱伝導性物質の種類、形状、充填状態等によって調整できる。熱伝導層Fを構成する熱伝導性物質は、1種類であってもよく、2種類以上であってもよい。
【0027】
熱源Hとしては、例えば、発熱体となる電熱線を有する電気加熱ヒーター等が挙げられる。電熱線の材質は特に限定されず、例えば、ニクロム、タングステン、白金等の金属が挙げられる。電熱線の材質としては、例えば、炭化ケイ素等の非金属化合物であってもよい。
【0028】
熱伝達体Bは、熱伝導層Fの内部に位置し、熱源Hで発生した熱を、内管44の管軸方向(深さ方向)に伝達するものである。熱伝達体Bの形状は、深さ方向に延びる棒状の形状が挙げられる。熱伝達体Bの形状としては、棒状の形状に限られず、波線状の形状や螺旋状の形状であってもよい。
【0029】
熱伝達体Bとしては、熱伝達体Bの熱伝導率が、熱伝導層Fの熱伝導率よりも高いことが好ましい。
例えば、熱伝導性物質が砂、土の場合、熱伝達体Bとしては、ガラス、アスファルト、コンクリート、アルミナ、鉄系材料、非鉄金属等が挙げられる。
例えば、熱伝導性物質が鉄系材料の場合、熱伝達体Bとしては、鉄よりも熱伝導率が高い非鉄金属等が挙げられる。鉄よりも熱伝導率が高い非鉄金属としては、例えば、アルミニウム、銅、銀等が挙げられる。
これらの熱伝達体Bとしては、熱伝導率が高く、軽量で施工性に優れることから、棒状のアルミニウム(アルミニウム製の鋼棒)が好ましい。
【0030】
熱伝達体Bの熱伝導率と、熱伝導層Fの熱伝導率との差((熱伝達体Bの熱伝導率)-(熱伝導層Fの熱伝導率)、「熱伝導率差」ともいう。)は、可能な限り大きいことが好ましい。熱伝導率差が大きいと、熱源Hの管軸方向の長さ(熱源深度)に対して、加熱処理に必要となる温度上昇をカバーできる深度が深くなる。このため、熱伝導率差が大きいと、処理対象領域A1の深さ方向に対する加熱効率をより高められる。熱伝導率差は、熱伝達体Bの熱伝導率と、熱伝導層Fの熱伝導率とを、それぞれ実測することにより求められる。
【0031】
熱伝達体Bは、熱源Hと熱伝達体Bとが可能な限り広い接触面積で物理的に接触していることが好ましい。熱源Hと熱伝達体Bとの接触面積が広いほど、熱源Hで発生した熱を熱伝達体Bに伝導できる。このため、加熱効率をより高められる。
【0032】
電源50としては、特に限定されず、例えば、加熱用電源装置等が挙げられる。
電源50は、自身で電力を供給できるものであってもよく、配線等を介して外部の電源設備等から電力を供給されるものであってもよい。
【0033】
配線L2は、熱源Hと電源50とを接続する。配線L2としては、導電性を有する金属の配線が挙げられる。配線L2の材質としては、例えば、銅、銅合金、アルミニウム等が挙げられる。
【0034】
内管44と外管34との間の空間には、充填材Cが充填されている。内管44と外管34との間の空間に充填材Cが充填されていることで、空気よりも熱伝導率を高めることができ、加熱井戸30の加熱効率をより高められる。
充填材Cとしては、上述した熱伝導性物質のほか、ベントナイト(0.5~1.5W/m・K)、耐熱性グラウト(約1.5W/m・K)等が挙げられる。充填材Cとしては、施工のしやすさから、ベントナイト、耐熱性グラウト、鉄系材料が好ましく、耐熱性グラウトがより好ましい。
【0035】
≪加熱井戸の製造方法≫
本実施形態の加熱井戸30は、以下の方法で製造できる。
まず、掘削を行い、地表面Gを有する地盤に掘削孔12を形成する(掘削工程)。
次に、掘削孔12に外管14を挿入し、建込む(外管建込工程)。
【0036】
次に、掘削孔12と外管14との間隙にフィルター材18を充填する(フィルター材充填工程)。フィルター材18を充填する際は、外管14に振動を与えるとフィルター材18の充填率を高められるため、好ましい。
次に、外管14の内部に配管L1を配置することで、揚水井戸10が得られる(配管配置工程)。
【0037】
揚水井戸10を用いて、地下水の揚水を行った後は、配管L1を取り除く(配管除去工程)。なお、配管除去工程以降、外管14を外管34と表記し、外管14の底部16を外管34の底部36と表記する。
充填材Cが液体の場合、外管34の内部に充填材Cを注入する(充填材注入工程)。充填材Cは、後述する内管挿入工程の後に、外管34と内管44との間隙に注入されてもよい。特に、充填材Cが粉体や粒体の場合、先に充填材Cを外管34の内部に注入してしまうと、内管44を外管34の内部に挿入できなくなる。このため、充填材Cが粉体や粒体の場合は、内管挿入工程の後に、外管34と内管44との間隙に充填材Cを注入する。
なお、充填材Cが液体であっても、粘性が高い場合は、外管34と内管44との間隙に充填材Cを注入しにくい。この場合は、充填材Cに圧力を加えながら外管34と内管44との間隙に注入する(圧入する)。
【0038】
充填材注入工程の後に内管44を外管34の内部に挿入する場合、充填材Cの浮力により内管44の挿入が困難になる。このため、内管44の内部にあらかじめ熱源H、熱伝達体B、配線L2、熱伝導層Fを充填した状態で、内管44を外管34の内部に挿入する(内管挿入工程)。内管44の内部にあらかじめ熱伝導層F等を充填しておくことで、充填材Cの浮力による影響を低減でき、スムーズに内管44を挿入できる。
内管挿入工程は、内管44のみを外管34の内部に挿入する態様であってもよい。この場合、内管44を外管34の内部に挿入した後で、内管44の内部に熱源H、熱伝達体B、配線L2を配置し、熱伝導性物質を充填して熱伝導層Fを形成する。
【0039】
充填材注入工程及び内管挿入工程を経ることにより、加熱井戸30が得られる。
配線L2を電源50に接続し、電源50をオンにすることで、加熱井戸30を稼働できる。
【0040】
≪汚染土壌の原位置浄化方法≫
本発明の汚染土壌の原位置浄化方法(以下、単に「原位置浄化方法」ともいう。)は、揚水工程と、加熱工程と、吸引工程とを有する。原位置浄化方法は、地下水を揚水した後に、汚染土壌が存在する処理対象領域を加熱して汚染物質を揮発させ、あるいは、汚染物質を水蒸気により連行し除去せしめ、土壌を浄化する方法である。揮発した、あるいは、水蒸気により連行された汚染物質は、吸引井戸によって吸引される。処理対象領域に加熱処理を施す際に、処理対象領域よりも浅い位置に地下水位が存在すると、加熱による熱エネルギーが、汚染物質が存在しない深度の地下水の気化にも消費され、加熱処理における加熱効率が低下する。原位置浄化方法は、処理対象領域よりも浅い位置に存在する地下水を揚水した後に加熱処理を施して、加熱井戸による加熱効率を高めるものである。
以下、本発明の原位置浄化方法について、本実施形態の原位置浄化システム1及び2を用いた原位置浄化方法を例にして説明する。
【0041】
<揚水工程>
揚水工程は、汚染物質で汚染された汚染土壌が存在する処理対象領域よりも浅い位置に存在する地下水を揚水井戸で揚水する工程である。
図1に示すように、本実施形態では、地下水の水位W1は、処理対象領域A1よりも地表面Gに近い。すなわち、地下水位は、処理対象領域A1よりも浅い位置に存在する。
【0042】
揚水工程では、揚水井戸10の外管14の内部に流入した地下水を、ポンプPを用いて揚水する。外管14の内部に流入した地下水は、配管L1を通流して、地表に揚水される。
地表に揚水された地下水は、適宜、排水基準以下(あるいは、環境基準以下)にまで浄化処理され、排水される。
【0043】
地下水の水位W1は、揚水によって低下する。地下水の揚水は、地下水が処理対象領域A1の最も浅い位置の近傍になるまで行われる。すなわち、揚水工程によって、地下水の水位W1は、水位W2になる。
なお、処理対象領域A1の深度、地下水の水位W1の位置は、事前の土質調査により求められる。
【0044】
揚水工程によって、地下水の水位が低下した後は、揚水井戸10を加熱井戸として利用する。加熱井戸としては、例えば、図4に示す加熱井戸30が挙げられる。
【0045】
<加熱工程>
加熱工程は、処理対象領域A1の少なくとも一部に加熱井戸30で加熱処理を施す工程である。
原位置浄化方法は、加熱工程を有することで、処理対象領域A1内の汚染物質を汚染土壌から脱着、又は汚染地下水から汚染物質を気化回収できる。
加熱工程では、処理対象領域A1の少なくとも一部に加熱処理を施せばよいが、汚染物質の除去効率を高める観点から、処理対象領域A1及び処理対象領域A1以浅の出来るだけ広範囲に加熱処理を施すことが好ましく、処理対象領域A1の全体に加熱処理を施すことがより好ましい。
【0046】
加熱工程では、まず、電源50をオンにし、熱源Hを加温する。熱源Hで発生した熱は、熱伝達体B、熱伝導層F、内管44、充填材C、外管34の順に伝播し、処理対象領域A1に存在する土壌に伝達される。この際、加熱井戸30は、内管44の内部に熱伝達体B及び熱伝導層Fを有し、外管34の内部に充填材Cを有するため、熱源Hで生じた熱を速やかに処理対象領域A1に伝達できる。
【0047】
本実施形態の原位置浄化方法は、いわゆる原位置熱脱着法である。原位置熱脱着法の加熱方式としては、例えば、電気加熱ヒーター式、電気抵抗式、スチーム式等の方式が挙げられる。原位置熱脱着法の加熱方式としては、加熱温度が高く、土壌を均一に加熱しやすいこと、処理可能な汚染物質の種類が多いことから、電気加熱ヒーター式が好ましい。
【0048】
加熱処理を施す際の加熱温度は、例えば、60℃以上が好ましく、80℃以上がより好ましく、地下水の沸点以上がさらに好ましい。加熱温度が上記下限値以上であると、汚染物質の気化、分解が促進され、より多くの汚染物質を除去できる。特に、加熱温度を地下水の沸点以上とした場合、土壌の間隙に含まれる水分を蒸発させ、土壌の粒子間の間隙を拡張し、かつ、脱着した汚染物質を水蒸気で連行できるため、汚染物質を土壌からより効率よく除去できる。地下水の沸点は、処理対象領域A1における圧力から求めることができる。加熱温度の上限値は不飽和帯やオンサイトを対象とする場合で350℃程度までである。
加熱処理を施す際の加熱温度は、熱電対や温度センサ等を取り付けたモニタリング井戸(不図示)等により測定できる。処理対象領域A1における圧力は、圧力計等を取り付けたモニタリング井戸(不図示)等により測定できる。
【0049】
汚染物質としては、例えば、揮発性有機化合物(VOC)、油分、水銀、ポリ塩化ビフェニル(PCB)、ダイオキシン類等が挙げられる。
VOCとしては、例えば、ベンゼン、トルエン、ハロゲン化炭化水素(例えば、トリクロロエチレン等)等が挙げられる。
油分としては、例えば、炭素数5~44の炭化水素等が挙げられる。炭素数5~18の炭化水素は、主に気体として回収できる。炭素数19以上の炭化水素であっても、粘度を低下させることで液体として回収可能である。これらの炭化水素は飽和炭化水素でもよく、不飽和炭化水素でもよい。これらの炭化水素は、直鎖状でもよく、分岐鎖状でもよく、環状でもよい。これらの炭化水素の具体例としては、例えば、n-ペンタン、イソペンタン、n-ヘキサン、シクロヘキサン等が挙げられる。
水銀としては、例えば、金属水銀、無機水銀、有機水銀が挙げられる。無機水銀としては、例えば、酸化水銀、硫化水銀、塩化水銀(HgCl、HgCl)、硝酸水銀等が挙げられる。有機水銀としては、例えば、アルキル水銀(例えば、メチル水銀、エチル水銀)、フェニル水銀(例えば、酢酸フェニル水銀)等が挙げられる。
【0050】
PCBとしては、例えば、3,3’,4,4’-テトラクロロビフェニル、3,4,4’,5-テトラクロロビフェニル、3,3’,4,4’,5-ペンタクロロビフェニル、3,3’,4,4’,5,5’-ヘキサクロロビフェニル、2,3,3’,4,4’-ペンタクロロビフェニル、2,3,3’,4,4’,5-ヘキサクロロビフェニル、2,3,3’,4,4’,5,5’-ヘプタクロロビフェニル等が挙げられる。
ダイオキシン類としては、例えば、2,3,7,8-テトラクロロパラジオキシン、2,3,4,7,8-ペンタクロロジベンゾフラン等が挙げられる。
【0051】
<吸引工程>
吸引工程は、加熱工程における加熱処理により生じた汚染物質を含む流体の少なくとも一部を吸引井戸20で吸引する工程である。
吸引工程では、吸引井戸20を起動する。例えば、吸引井戸20に接続された真空ポンプ(不図示)を作動させて吸引井戸20の内部圧力を陰圧にする。次いで、ブロワー(不図示)と水中ポンプ(不図示)とを起動することで、汚染物質を含む流体が吸引井戸20に吸引される。
原位置浄化方法は、吸引工程を有することで、処理対象領域A1で脱着された汚染物質を土壌から除去できる。
【0052】
吸引工程における吸引井戸20の内部圧力は、特に限定されず、例えば、100kPa以下(大気圧以下)であればよい。吸引工程における吸引井戸20の内部圧力が上記上限値以下であると、土壌に付着した汚染物質の脱着が促進され、より効率よく汚染物質を除去できる。吸引工程における吸引井戸20の内部圧力の下限値は特に限定されず、例えば、0.1Paとされる。
【0053】
吸引工程で吸引された汚染物質を含む流体は、吸引井戸20に接続された配管(不図示)を通流して、地上外部の処理施設(不図示)へと供給される。地上外部の処理施設としては、例えば、汚染物質を処理可能な排ガス処理装置や排液処理装置を有する処理施設等が挙げられる。
【0054】
汚染物質を含む流体のうち、汚染物質を含む気体は、排ガス処理装置で汚染物質を無害な物質に分解して、浄化される(排ガス処理工程)。
汚染物質を含む流体のうち、汚染物質を含む液体は、排液処理装置で汚染物質を除去して、浄化される(排液処理工程)。浄化された液体は、生活用水として利用可能である。
【0055】
本実施形態の原位置浄化システム1によれば、揚水井戸10を有することで、処理対象領域A1よりも浅い位置に存在する地下水を揚水できる。このため、原位置浄化システム2において、加熱処理が施される地下水の量を低減でき、地下水の気化に消費される熱エネルギーを大幅に削減できる。その結果、加熱処理における加熱効率をより高められ、加熱井戸30による加熱効率をさらに高められる。
本実施形態の原位置浄化システム1及び2によれば、揚水井戸10の掘削孔12と、加熱井戸30の掘削孔12とが同じである。このため、加熱井戸30を設置する新たな掘削孔を掘削する必要が無く、掘削孔を掘削するためのエネルギーを節約でき、環境負荷を低減できる。
【0056】
以上、本発明の原位置浄化システム及び原位置浄化方法について説明したが、本発明は上記の実施形態に限定されるものではなく、その趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。
例えば、原位置浄化システム1は、吸引井戸20を1つ有するが、原位置浄化システムは、吸引井戸を2つ以上有していてもよい。吸引井戸の数を増やすことで、処理できる汚染物質の量をより増やすことができる。
例えば、原位置浄化システム1は、1つの吸引井戸20に対して2つの揚水井戸10を有するが、原位置浄化システムは、1つの吸引井戸に対する揚水井戸の数を3つ以上にしてもよい。1つの吸引井戸に対する揚水井戸の数を増やすことで、地下水の水位をより確実に低下できる。
例えば、原位置浄化システム1及び2は、揚水井戸10の掘削孔12と、加熱井戸30の掘削孔12とが同じであるが、加熱井戸を設ける際に新たな掘削孔を掘削してもよい。しかし、新たな掘削孔を掘削するためのエネルギーを節約でき、環境負荷を低減できることから、揚水井戸の掘削孔と加熱井戸の掘削孔とは、同じであることが好ましい。
例えば、原位置浄化システム1及び2は、揚水井戸10の位置と加熱井戸30の位置とが同じであるが、揚水井戸と異なる位置に加熱井戸を設けてもよい。しかし、新たに加熱井戸を設ける掘削孔を掘削する必要がないことから、揚水井戸の位置と加熱井戸の位置とは、同じであることが好ましい。
【0057】
例えば、原位置浄化システム1は、加熱井戸30を有するが、原位置浄化システムは、加熱井戸30に代えて、被覆されていないニクロム線を碍子で絶縁した態様のヒーターを利用した従来の加熱井戸を適用してもよい。
例えば、加熱井戸30は、熱伝達体Bを有するが、加熱井戸は、熱伝達体を有していなくてもよい。しかし、処理対象領域のより深い深度まで効率よく加熱できることから、加熱井戸は、熱伝達体を有することが好ましい。
例えば、加熱井戸30は、充填材Cを有するが、加熱井戸は、充填材を有していなくてもよい。しかし、処理対象領域の加熱効率をより高められることから、加熱井戸は、充填材を有することが好ましい。
例えば、原位置浄化システム1は、吸引井戸20が地表面から下方の深さ方向に延びるように配置されている。
しかし、吸引井戸は、地中において、水平方向に延びるように配置されていてもよい。
例えば、原位置浄化システム1は、加熱井戸30が地表面から下方の深さ方向に延びるように配置されている。
しかし、加熱井戸は、地中において、水平方向に延びるように配置されていてもよい。
例えば、原位置浄化システムは、処理対象領域への地下水の流入を防ぐための遮水壁を有していてもよい。
【0058】
2015年9月の国連サミットにおいて採択された17の国際目標として、「持続可能な開発目標(Sustainable Development Goals:SDGs)」がある。一実施形態に係る汚染土壌の原位置浄化方法は、このSDGsの17の目標のうち、例えば、「3.すべての人に健康と福祉を」、「12.つくる責任・つかう責任」、「14.海の豊かさを守ろう」及び「15.陸の豊かさも守ろう」の目標などの達成に貢献し得る。
【符号の説明】
【0059】
1,2…原位置浄化システム、10…揚水井戸、12…掘削孔、14,34…外管、16,36…外管の底部、18…フィルター材、20…吸引井戸、30…加熱井戸、44…内管、46…内管の底部、50…電源、L1…配管、L2…配線、H…熱源、B…熱伝達体、C…充填材、F…熱伝導層、A1…処理対象領域、W1,W2…水位、G…地表面
図1
図2
図3
図4