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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024037359
(43)【公開日】2024-03-19
(54)【発明の名称】加熱井戸
(51)【国際特許分類】
   H05B 3/48 20060101AFI20240312BHJP
   B09C 1/06 20060101ALI20240312BHJP
【FI】
H05B3/48
B09C1/06 ZAB
【審査請求】未請求
【請求項の数】2
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022142163
(22)【出願日】2022-09-07
(71)【出願人】
【識別番号】000002299
【氏名又は名称】清水建設株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100149548
【弁理士】
【氏名又は名称】松沼 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100161506
【弁理士】
【氏名又は名称】川渕 健一
(74)【代理人】
【識別番号】100161207
【弁理士】
【氏名又は名称】西澤 和純
(72)【発明者】
【氏名】土田 充
(72)【発明者】
【氏名】小松 大祐
(72)【発明者】
【氏名】保坂 幸一
(72)【発明者】
【氏名】中島 邦将
(72)【発明者】
【氏名】平澤 卓也
(72)【発明者】
【氏名】白石 知成
(72)【発明者】
【氏名】中島 均
(72)【発明者】
【氏名】穂刈 利之
【テーマコード(参考)】
3K092
4D004
【Fターム(参考)】
3K092PP20
3K092QA01
3K092QB02
3K092QB15
3K092QB16
3K092QB24
3K092RA01
3K092RD03
3K092RD04
3K092RD05
3K092RD08
3K092TT38
3K092VV15
3K092VV40
4D004AA41
4D004AB02
4D004AB03
4D004AB06
4D004AB07
4D004AC07
4D004CA22
4D004CB32
(57)【要約】
【課題】従来の加熱井戸において、熱は、輻射により処理対象領域に伝達される。輻射による熱伝達は、伝導による熱伝達に比べて熱伝達の効率(加熱効率)が劣る。そこで、本発明は、加熱効率をより高められる加熱井戸を目的とする。
【解決手段】汚染土壌の原位置浄化に用いられる加熱井戸であって、閉空間を形成する外管10と、外管10の内部に充填された流動性を有する熱媒体30と、外管10内に収容され、上部及び下部に開口を有する内管12と、内管12の内部の熱媒体30を加熱するヒーター20とを有する、加熱井戸。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
汚染土壌の原位置浄化に用いられる加熱井戸であって、
閉空間を形成する外管と、
前記外管の内部に充填された流動性を有する熱媒体と、
前記外管内に収容され、上部及び下部に開口を有する内管と、
前記内管の内部の熱媒体を加熱するヒーターとを有する、加熱井戸。
【請求項2】
前記内管は、上端及び下端が開口しており、前記内管の下端は、前記熱媒体が通過可能なスリットを有する固定部材を介して前記外管の底部に固定されている、請求項1に記載の加熱井戸。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、加熱井戸、より具体的には、汚染土壌の原位置浄化に用いられる加熱井戸に関する。
【背景技術】
【0002】
揮発性有機化合物(VOC)等で汚染された汚染土壌を浄化する方法としては、掘削して除去する方法(掘削除去法)が知られている。
しかし、掘削除去法では、汚染土壌を大量に搬出、運搬しなければならず、膨大なコストを要していた。
【0003】
こうした問題に対し、例えば、特許文献1には、汚染物質を含む処理対象領域に熱を加え、汚染物質の一部を気化させてこれを吸引し、処理対象領域から除去する、汚染土壌の原位置浄化方法が提案されている。特許文献1の発明によれば、原位置の加熱及び蒸気抽出により汚染物質の除去効率を高めることが図られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第4509558号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1の加熱用井戸(加熱井戸)は、スリーブ管(外管)の内部にヒーターとして電熱線が配置され、外管と電熱線とは、空気によって絶縁されている。高温(例えば、100℃以上)に加熱した電熱線の熱は、放射(輻射)により処理対象領域に伝達される。輻射による熱伝達は、伝導による熱伝達に比べて熱伝達の効率(加熱効率)が劣る。
【0006】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであって、加熱効率をより高められる加熱井戸を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、本発明は以下の態様を有する。
[1] 汚染土壌の原位置浄化に用いられる加熱井戸であって、閉空間を形成する外管と、前記外管の内部に充填された流動性を有する熱媒体と、前記外管内に収容され、上部及び下部に開口を有する内管と、前記内管の内部の熱媒体を加熱するヒーターとを有する、加熱井戸。
[2] 前記内管は、上端及び下端が開口しており、前記内管の下端は、前記熱媒体が通過可能なスリットを有する固定部材を介して前記外管の底部に固定されている、[1]の加熱井戸。
【発明の効果】
【0008】
本発明の加熱井戸によれば、加熱効率をより高められる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】本発明の一実施形態に係る加熱井戸の構成を概略的に示す断面図である。
図2】本発明の一実施形態に係る絶縁性ヒーターの構成を概略的に示す断面図である。
図3図2のC-C線の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明の加熱井戸は、汚染物質で汚染された汚染土壌が存在する処理対象領域を加熱して汚染物質を揮発あるいは昇温により汚染物質の粘性を低減させることで流動性を大きくし、吸引処理を容易にさせ(以下、「揮発等」ともいう。)、土壌を浄化する原位置浄化に用いられる。
本発明の加熱井戸は、外管と、内管と、熱媒体と、ヒーターと、を有する。外管は閉空間を形成するように設けられる。内管は外管内に収容されている。内管は上部及び下部に開口を有する。熱媒体は流動性を有する。熱媒体は、外管の内部に充填されている。外管の内部には内管の内部が含まれている。すなわち、熱媒体は、内管の内部にも充填されている。ヒーターは内管の内部の熱媒体を加熱するように設けられる。
内管内の熱媒体は、内管の上部の開口を通って、外管と内管との間へ移動可能である。外管と内管との間の熱媒体は、内管の下部の開口を通って、内管内へ移動可能である。
以下、本発明の加熱井戸の一実施形態について、図面を参照して説明する。
【0011】
≪加熱井戸≫
図1の加熱井戸は、外管10と、内管12と、ヒーター20と、熱媒体30と、を有する。
外管10及び内管12は筒状であり、地表面Gから下方の深さ方向に延びるように配置されている。内管12は外管10内に収容されている。熱媒体30は、内管12の内部を含む外管10の内部全体に充填されている。ヒーター20は内管12内に配置されている。
加熱井戸は、汚染土壌が存在する処理対象領域Aに設置される。加熱井戸は、地表面Gから下方の深さ方向に延びるように配置される。加熱井戸の上面はコンクリート層40で覆われている。コンクリート層40は、好ましくはエネルギー効率の観点から断熱性の高いエアモルタルで形成される。ヒーター20は、地表に設置された電源50と電気的に接続されている。
図中の矢印Fは、熱媒体30の流動方向を示し、矢印Qは、熱エネルギーの移動方向を示す。
図示していないが、加熱井戸とは別に、地中の汚染物を吸引する吸引井戸が設けられている。
【0012】
外管10は、加熱井戸のケーシングである。外管10としては、例えば、配管用炭素鋼鋼管(SGP管)、ステンレス鋼管等が挙げられる。
外管10は、熱媒体30が加熱井戸の外部に漏出しないように閉空間を形成する。熱媒体が液体であるとき外管10は液密である。熱媒体が気体であるとき、外管は気密である。
本実施形態において、外管10の底部は閉形式であり、底面10bで閉じられている。外管10の上端10aは蓋部材11で閉じられ、さらにコンクリート層40で覆われている。
蓋部材11の材質は、外管10と同じであってもよい。
外管10は、例えば円筒状でもよいし、多角筒状でもよい。円筒状が好ましい。
【0013】
内管12は外管10の内部に収容されている。外管10と内管12とは同軸であることが好ましい。
内管12の材質は熱媒体30を透過せず、熱媒体30の加熱温度において耐熱性を有するものであればよい。例えば、配管用炭素鋼鋼管(SGP管)、ステンレス鋼管等が挙げられる。
内管12の長さ方向に垂直な径方向において、内管12の外径は外管10の内径より小さく、外管10と内管12の間を熱媒体30が流動できるようになっている。
内管12の長さは外管10の長さより短い。内管12の上端12a及び下端12bは開口している。
内管12は、例えば円筒状でもよいし、多角筒状でもよい。円筒状が好ましい。
【0014】
内管12内の熱媒体30は、内管12の上端12aの開口を通って、外管10と内管12との間へ移動可能である。外管10と内管12との間の熱媒体は、内管12の下端12bの開口を通って、内管12内へ移動可能である。
本実施形態において、内管12の上端12aと外管10の上端10aとは離間しており、両者の間の空間が、内管12内の熱媒体30が内管12と外管10との間へ流出するための流路(流出部13)となっている。
本実施形態において、内管12の下端12bは、スリット14aを有する固定部材14を介して外管10の底面10bに固定されている。スリット14aは、外管10と内管12との間の熱媒体30が内管12内へ流入するための流路(流入部)となっている。
【0015】
固定部材14は、熱媒体30が通過できる形状のスリット14a(流入部)を有し、内管12を外管10に固定できるものであればよい。本実施形態における固定部材14は、内径及び外径が内管12と同じである筒状部材の側面に、スリット14aが設けられている。
固定部材14の材質は、内管12と同じであってもよい。固定部材14と内管12とが一体であってもよい。
スリット14aの開口面積は、大きすぎると固定部材14の強度が不充分となるおそれがあり、小さすぎると熱媒体30が流入しにくくなる。これらの不都合が生じない範囲に設定することが好ましい。
【0016】
熱媒体30は、常温(5℃~30℃)において、液体でもよく、気体でもよい。
熱媒体30としては、例えば、水(沸点100℃)、1-オクタノール(沸点194.5℃)、エチレングリコール(沸点197℃)、ジエチレングリコール(沸点245℃)、プロピレングリコール(沸点187℃)、熱媒体油(使用可能温度370℃以下)、シリコーンオイル(使用可能温度400℃以下)等が挙げられる。ここで、「沸点」は、1気圧(0.1MPa)における沸点を表す。
熱媒体油としては、例えば、松村石油株式会社製のバーレル(登録商標)サームシリーズ等が挙げられる。
シリコーンオイルとしては、例えば、松村石油株式会社製のバーレル(登録商標)シリコーンフルード等が挙げられる。
熱媒体30は、空気、窒素、アルゴン等の気体であってもよい。
【0017】
熱媒体30としては、加熱井戸内の蒸気、湯気の処理が不要なことから、沸点が100℃よりも高い物質が好ましい。このような物質としては、上述した、1-オクタノール、エチレングリコール、ジエチレングリコール、プロピレングリコール、熱媒体油、シリコーンオイル等が挙げられる。
【0018】
ヒーター20は、内管12内の熱媒体30を加熱して、熱媒体30の温度変化による密度変化に起因する流動(流動方向F)を生じさせるものであればよい。ヒーター20の大きさや形状は特に限定されない。コスト低減の点からはコンパクトなものが好ましい。
ヒーター20は、内管12の内部に配置されていればよい。ヒーター20の一部が内管12内に存在してもよく、ヒーター20の全部が内管12内に存在してもよい。
コスト低減の点からは、ヒーター20を内管12内の上部に配置することが好ましいが、上端12aに近すぎると、内管12内での上昇流の強さが減じやすい。内管12の長さ方向におけるヒーター20の位置は、ヒーターの大きさも考慮して、内管12内での上昇流の確保とコストとの兼ね合いで設計することが好ましい。
ヒーター20は、内管12との接触による漏電を防止できる点で、絶縁性ヒーターが好ましい。図2に、ヒーター20の一例を示す。ただし、熱媒体30が絶縁性である場合については、この限りではない。
【0019】
図2に示すように、ヒーター20は、ヒーターシース22と、電熱線24と、絶縁体26とを有する。
ヒーターシース22は、管軸方向に延びる筒状の形状をしている。本実施形態において、内管12とヒーターシース22は同軸である。ヒーター20は、ヒーターシース22の管軸方向を長手とする。ヒーターシース22の内部には、発熱体となるコイル状の電熱線24又は直線状の電熱線(不図示)が配置され、絶縁体26が充填されている。
【0020】
図3に示すように、ヒーター20の管軸方向に垂直な断面の形状は円形である。
ヒーター20のヒーターシース22は、管軸方向に垂直な断面の形状が円形である。ヒーターシース22の内部には、コイル状に形成された電熱線24が配置されている。
電熱線24の断面形状は湾曲した楕円形である。ヒーターシース22と、電熱線24とは、絶縁体26によって絶縁されている。コイル状の電熱線24に代えて直線状の電熱線(不図示)を用いることもできる。
【0021】
ヒーターシース22は、ヒーター20のケーシングである。ヒーターシース22としては、例えば、ステンレス鋼、インコネル(登録商標)鋼、チタン、アルミニウム等の高温耐熱性を有する金属管等が挙げられる。
ヒーターシース22の外径L22は特に限定されないが、例えば、5~20mmが好ましい。ヒーターシース22の外径L22が上記下限値以上であると、加熱井戸の加熱効率をより高められる。ヒーターシース22の外径L22が上記上限値以下であると、絶縁体26の使用量を低減でき、コスト面で有利である。
【0022】
電熱線24は、熱源である。電熱線24の材質は特に限定されないが、例えば、ニクロム、タングステン、黒鉛、白金等の金属;セラミック;炭素繊維等が挙げられる。電熱線24の材質としては、例えば、炭化ケイ素等の非金属化合物であってもよい。
【0023】
絶縁体26は、絶縁性を有していればよく、例えば、酸化マグネシウム、マイカ、磁器、ガラス等の粉末等が挙げられる。
【0024】
電源50としては、特に限定されず、例えば、加熱用電源装置等が挙げられる。
電源50は、ヒーター20と電気的に接続されている。電源50がヒーター20と電気的に接続されていることで、ヒーター20の電熱線24に電圧を印加でき、電熱線24を加温できる。電源50は、自身で電力を供給できるものであってもよく、配線等を介して外部の電源設備等から電力を供給されるものであってもよい。
【0025】
≪加熱井戸の使用方法≫
本実施形態の加熱井戸は、汚染土壌が存在する処理対象領域Aを加熱して汚染物質を揮発等させ、土壌を浄化する原位置浄化に用いられる。
本実施形態の原位置浄化方法は、いわゆる原位置熱脱着法である。原位置熱脱着法の加熱方式としては、例えば、電気加熱ヒーター式、電気抵抗式、スチーム式等の方式が挙げられる。原位置熱脱着法の加熱方式としては、加熱温度が高く、土壌を均一に加熱しやすいことから電気加熱ヒーター式が好ましい。本実施形態の加熱井戸は、ヒーター20を用いているため、電気加熱ヒーター式の加熱方式に分類される。
【0026】
本実施形態の加熱井戸を使用する際は、電源50からヒーター20へ電力を供給し、ヒーター20の周辺の熱媒体30を温める。温められた熱媒体30に浮力が働き、内管12の内部に上昇流が生じる。内管12の内部を上方(地表面側)へ上昇した熱媒体30は流出部13から外管10側へ流出する。これに伴い、外管10側への流出分を補完する形で、ヒーター20より下方にある熱媒体30が内管12内を上昇する(補償流)。同時に、外管10と内管12との間の熱媒体30が、内管12の下部の流入部(スリット14a)から内管12内へ流入し、外管10と内管12との間に下降流が生じる。
つまり、内管12と外管10を熱媒体30が循環して、外管10の全体が温められ、その熱が処理対象領域Aへ伝達される(加熱処理)。したがって、電熱線24で生じた熱を効率良く処理対象領域Aに伝達できる。また、内管12の長さ方向におけるヒーター20の長さが短くても、地表面から下方の深い位置の処理対象領域Aを加熱処理することができる。
【0027】
内管12の内径、及び内管12と外管10との間の距離は、内管12の内部に上昇流が生じ、外管10と内管12との間に下降流が生じ、内管12と外管10を熱媒体30が循環できる大きさであればよく、適宜設定できる。
内管12の径方向におけるヒーターシース22の外面と内管12の内面との距離、及びヒーターシース22の長手方向の長さは、熱媒体30の流れを妨げない範囲で適宜設定できる。
【0028】
加熱処理を施す際の処理対象領域Aの加熱温度は、例えば、60℃以上が好ましく、80℃以上がより好ましく、地下水の沸点以上がさらに好ましい。加熱温度が上記下限値以上であると、汚染物質の気化、分解が促進され、より多くの汚染物質を除去できる。特に、加熱温度を地下水の沸点以上とした場合、土壌の間隙に含まれる水分を蒸発させ、土壌の粒子間の間隙を拡張し、かつ、脱着した汚染物質を水蒸気で連行できるため、汚染物質を土壌からより効率よく除去できる。加熱温度の上限値は400℃程度までである。
加熱処理を施す際の加熱温度は、熱電対や温度センサ等を取り付けたモニタリング井戸(不図示)等により測定できる。
【0029】
汚染物質としては、例えば、揮発性有機化合物(VOC)、油分、水銀、ポリ塩化ビフェニル(PCB)、ダイオキシン類等が挙げられる。
VOCとしては、例えば、ベンゼン、トルエン、ハロゲン化炭化水素(例えば、トリクロロエチレン等)等が挙げられる。
油分としては、例えば、炭素数5~44の炭化水素等が挙げられる。炭素数5~18の炭化水素は、主に気体として回収できる。炭素数19以上の炭化水素であっても、粘度を低下させることで液体として回収可能である。これらの炭化水素は飽和炭化水素でもよく、不飽和炭化水素でもよい。これらの炭化水素は、直鎖状でもよく、分岐鎖状でもよく、環状でもよい。これらの炭化水素の具体例としては、例えば、n-ペンタン、イソペンタン、n-ヘキサン、シクロヘキサン等が挙げられる。
水銀としては、例えば、金属水銀、無機水銀、有機水銀が挙げられる。無機水銀としては、例えば、酸化水銀、硫化水銀、塩化水銀(HgCl、HgCl)、硝酸水銀等が挙げられる。有機水銀としては、例えば、アルキル水銀(例えば、メチル水銀、エチル水銀)、フェニル水銀(例えば、酢酸フェニル水銀)等が挙げられる。
【0030】
PCBとしては、例えば、3,3’,4,4’-テトラクロロビフェニル、3,4,4’,5-テトラクロロビフェニル、3,3’,4,4’,5-ペンタクロロビフェニル、3,3’,4,4’,5,5’-ヘキサクロロビフェニル、2,3,3’,4,4’-ペンタクロロビフェニル、2,3,3’,4,4’,5-ヘキサクロロビフェニル、2,3,3’,4,4’,5,5’-ヘプタクロロビフェニル等が挙げられる。
ダイオキシン類としては、例えば、2,3,7,8-テトラクロロパラジオキシン、2,3,4,7,8-ペンタクロロジベンゾフラン等が挙げられる。
【0031】
汚染物質の除去は、例えば、吸引井戸(不図示)を用いて、加熱によって土壌から脱着した汚染物質を含む流体を吸引することにより行うことができる。
【0032】
本実施形態の加熱井戸は、ヒーター20で発生した熱が熱媒体30によって伝達されるため、従来の加熱井戸に比べて処理対象領域Aの加熱効率をより高められる。
本実施形態の加熱井戸は、温められた熱媒体30が外管10と内管12との間を下降する流れを生じて循環するため、深度方向に熱を効率良く伝達できる。したがって、深度方向におけるヒーター20の長さが短くても、深度方向に熱を効率良く伝達できる。また、ヒーター20を地中の浅部付近に設置しても深度方向に熱を効率良く伝達できる。
【0033】
ヒーター20の長さを短くすると、ヒーター単位表面積当たりの出力は大きくなるが、ヒーター20の表面から発生する熱が、流動する熱媒体30によって伝達されるため、ヒーター20周囲に熱が滞留しない。したがって、ヒーター20自身の温度が上昇し難く、ヒーター20の内部の電熱線の耐熱限界(例えば、1000℃程度)に対して十分に低く抑えることができる。その結果、電熱線の断線等のトラブルのリスクを低減できる
また、ヒーター20を短小化できるため、例えば既存のヒーターを用いることができ、ヒーター調達の費用削減を図ることができる。
また、ヒーターを短小化でき、かつ地下浅部に設置できることで、ヒーター調達費の削減、ヒーター設置工事時の費用削減・工期の短縮が可能となる。また、ヒーター故障時の対応の簡素化・費用の削減が図れる。
【0034】
以上、本発明の加熱井戸及び加熱井戸の使用方法について説明したが、本発明は上記の実施形態に限定されるものではなく、その趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。
例えば、加熱井戸は、地表面から下方の深さ方向に延びるように配置されているが、加熱井戸は、地中において水平方向や斜め下方に延びるように配置されていてもよい。
加熱井戸は、一つのみを設置してもよく、二つ以上を設置してもよい。
【0035】
また、本実施形態では、ヒーター20を、地下浅部である内管12の上部近傍に配置したが、これに限らない。深度方向におけるヒーター20の位置は、内管12内の熱媒体30を加熱することにより、熱媒体30の流動が生じる位置であれはよい。
【0036】
また、本実施形態では、内管12として、上端12a及び下端12bが開口している筒状の管を用いたが、開口の位置及び形状は限定されない。内管12の上部に、内管12内を上昇した熱媒体30が流出する開口が存在し、内管12の下部に、内管12と外管10との間を下降した熱媒体30が、内管12内へ流入する開口が存在すればよい。
また、本実施形態では、内管12の下端12bと外管10の底面との間に、スリット14aを有する固定部材14を設けたが、外管10の内部に内管12を支持することができ、かつ内管12と外管10との間を下降した熱媒体30が内管12内へ流入できる構造であればよい。例えば、外管10の底面を内方に凸の円錐状とし、内管12の下端12bを外管10の底面に直接固定し、内管12の円周方向の一部に切り込みを設けた構造としてもよい。
【0037】
<変形例>
本実施形態において、熱媒体30の地中への漏洩をより確実に防止するために、外管10の外部に、外管10を収容する保護管(不図示)を設置してもよい。その場合、熱伝達の効率性を考えて、外管10と保護管との間隙に、空気より熱伝導率が高い物質(以下、熱伝導性物質という。)を充填することが好ましい。
【0038】
加熱井戸において、外管10と保護管との間に熱伝導性物質が充填されていると、外管10の熱を放射ではなく、伝導によって処理対象領域Aに伝達できる。このため、加熱井戸の加熱効率をより高められる。
【0039】
空気の熱伝導率は、20℃で0.0257W/m・Kである。熱伝導性物質は、20℃における熱伝導率が0.0257W/m・Kよりも高ければよい。熱伝導性物質としては、例えば、砂(0.3W/m・K)、土(0.14W/m・K)、ガラス粒(0.2~0.8W/m・K)、アルミナ粒(5~30W/m・K)、鉄系材料(砂鉄、鉄粉、鉄粒、鉄切崩し屑、酸化鉄、10~80W/m・K)、コンクリート(1.5W/m・K)等のセメント系材料、非鉄金属粉、非鉄金属粒等の無機粒状物が挙げられる。カッコ内は、20℃又は常温(5~30℃)における熱伝導率を示す。ここで示した熱伝導率は、一例であり、熱伝導性物質の形状、熱伝導性物質の充填状態等によって変化する。例えば、同じ材質であっても、粒状の物質の熱伝導率は、密な固体の熱伝導率の数分の1程度になると考えられる。このように、熱伝導率は、熱伝導性物質の測定時の形状、充填状態等によって変化するため、実験によって実測して求めることが好ましい。熱伝導率を実測する方法としては、例えば、熱線法が挙げられる。
なお、本明細書において、平均粒子径が1mm未満のものを「粉体」(鉄粉、非鉄金属粉)といい、平均粒子径が1mm以上のものを「粒体」(鉄粒、非鉄金属粒)というものとする。
【0040】
熱伝導性物質の熱伝導率は、例えば、0.1W/m・K以上が好ましく、1W/m・K以上がより好ましく、20W/m・K以上がさらに好ましい。熱伝導性物質の熱伝導率が上記下限値以上であると、加熱井戸の加熱効率をより高められる。熱伝導性物質の熱伝導率の上限値は高いほど好ましいが、本実施形態においては、実質的には、80W/m・Kほどである。
【0041】
熱伝導性物質としては、安価なことから砂、土が好ましい。
また、熱伝導性物質としては、熱伝導率が高いことから、鉄系材料、非鉄金属粉、非鉄金属粒等が好ましく、鉄系材料がより好ましく、砂鉄がさらに好ましい。非鉄金属粉としては、アルミ粉(10~40W/m・K)、銅粉(20~80W/m・K)等が挙げられる。非鉄金属粒としては、アルミ粒状物(5~30W/m・K)、銅粒状物(10~60W/m・K)等が挙げられる。
熱伝導性物質として、非鉄金属粉、非鉄金属粒を用いた場合、加熱井戸を解体、撤去する際に磁石で容易に回収できることから、非鉄金属としては、磁性体金属であることが好ましい。
熱伝導性物質は、1種類の物質を用いてもよく、2種類以上の物質を組み合わせて用いてもよい。
【符号の説明】
【0042】
10…外管、12…内管、14…固定部材、20…ヒーター、22…ヒーターシース、24…電熱線、26…絶縁体、30…熱媒体、40…コンクリート層、50…電源。
図1
図2
図3