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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024037372
(43)【公開日】2024-03-19
(54)【発明の名称】シャープペンシル
(51)【国際特許分類】
   B43K 21/00 20060101AFI20240312BHJP
   B43K 21/16 20060101ALI20240312BHJP
   B43K 21/027 20060101ALI20240312BHJP
【FI】
B43K21/00 M
B43K21/16 Z
B43K21/16 W
B43K21/027 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022142179
(22)【出願日】2022-09-07
(71)【出願人】
【識別番号】000005957
【氏名又は名称】三菱鉛筆株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100101878
【弁理士】
【氏名又は名称】木下 茂
(74)【代理人】
【識別番号】100187506
【弁理士】
【氏名又は名称】澤田 優子
(72)【発明者】
【氏名】近藤 容章
(72)【発明者】
【氏名】牧 貴之
【テーマコード(参考)】
2C353
【Fターム(参考)】
2C353FE03
2C353FE05
2C353FE15
2C353FG01
(57)【要約】
【課題】筆記圧を利用して筆記芯を除々に回転させる機構と、筆記芯の芯折れを阻止する機構を備え、構成を簡素化させて機能をより進化させたシャープペンシルを提供する。
【解決手段】筆記芯Lの把持と解除を行うチャック12が、筆記芯を把持した状態で回転可能となるように軸筒1,2内に配置されると共に、筆記芯に加わる筆記圧によるチャックの後退動作に伴い回転子26を回転駆動させる回転駆動機構25が備えられ、回転子の回転運動をチャックを介して、筆記芯に伝達させるように構成される。加えて、筆記芯Lの軸方向に対して筆記圧以上の荷重が加わった際に、筆記芯と共にチャック12が後退することで、筆記芯の先端部が軸筒1,2の前端部に配置された口先部材4内に向かって移動可能に構成される。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
筆記芯の把持と解除を行うチャックが、筆記芯を把持した状態で回転可能となるように軸筒内に配置されると共に、前記筆記芯に加わる筆記圧による前記チャックの後退動作に伴い回転子を回転駆動させる回転駆動機構が備えられ、前記回転子の回転運動を前記チャックを介して、前記筆記芯に伝達させるシャープペンシルであって、
前記筆記芯の軸方向に対して前記筆記圧以上の荷重が加わった際に、筆記芯と共に前記チャックが後退することで、筆記芯の先端部が前記軸筒の前端部に配置された口先部材内に向かって、移動可能に構成したことを特徴とするシャープペンシル。
【請求項2】
前記チャックと前記回転駆動機構の回転子を回転可能に連結する中継パイプには、軸方向に収縮するコイル状のスプリング体が、一体に成形されていることを特徴とする請求項1に記載のシャープペンシル。
【請求項3】
前記軸筒と口先部材との間に、前記口先部材に加わる軸筒径外方向の力により、前記口先部材を軸筒及び前記筆記芯に対して前進させる運動方向変換機構が備えられ、当該運動方向変換機構による口先部材の前進運動によって、口先部材からの筆記芯の突出量を少なく制御することを特徴とする請求項1又は2に記載のシャープペンシル。
【請求項4】
前記回転子を比重2以上の素材により形成することで、筆記圧が解かれた状態において、前記回転子が重力により前進移動が可能に構成したことを特徴とする請求項1又は2に記載のシャープペンシル。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、筆記圧を利用して筆記芯を回転させることができると共に、軸筒の前端部に突出する筆記芯の芯折れを防止することができるシャープペンシルに関する。
【背景技術】
【0002】
シャープペンシルは、筆記の進行と共に筆記芯が偏減りするために、描線の太さが変化するという問題を抱えている。
そこで、本出願人は筆記芯に加わる筆記圧を利用して、筆記芯(替え芯)を除々に一方向に回転させることができる回転駆動機構を備えたシャープペンシルについて先に提案をしており、これは特許文献1などに開示されている。
【0003】
この特許文献1に開示されたシャープペンシルによると、軸筒を筆記面(紙面)に対して例えば40~80度程度傾けた状態で筆記した場合、一画文字を書くたびごとに筆記芯が僅かに一方向に回転駆動されるので、筆記芯の先端部は常に円錐形状にとがった状態に保たれる。これにより、常にほぼ同一の線幅をもって筆記をすることが可能となる。
【0004】
一方、前記したシャープペンシルにおいては、軸筒を筆記面に対して傾けた状態で筆記をした場合、軸筒の前端部に突出する筆記芯に対して、斜めに荷重が加わることになり、これにより芯折れが発生し易いという問題を有している。
そこで、軸筒の前端部に筆記芯の先端部を挿通させるホルダーを備え、ホルダーに加わる軸筒径外方向(軸筒中心から離れる方向)の力を利用して、前記ホルダーを軸筒及び筆記芯に相対し前進させるように動作させる運動方向変換機構を備えたシャープペンシルが提案されており、これは特許文献2などに開示されている。
【0005】
この特許文献2に開示されたシャープペンシルによると、筆記芯を介して前記ホルダーに軸筒径外方向の力が加わると、筆記芯の先端部に向かって前記ホルダーが筆記芯に相対して前進移動するので、ホルダー先端部からの筆記芯の突出量を相対的に減少させることができる。これにより、筆記芯に加わる斜めの荷重による芯折れの発生度合いを抑制させることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2014-30916号公報
【特許文献2】特開2015-123689号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
この発明は、特許文献1に開示された筆記芯に加わる筆記圧を利用して、筆記芯を除々に一方向に回転させることができる回転駆動機構と、特許文献2に開示されたホルダーに加わる軸筒径外方向の力により、ホルダーを軸筒及び筆記芯に相対し前進移動させるように動作させる運動方向変換機構の機能をそれぞれ具備すると共に、筆記芯の軸方向に過度に加わる荷重による筆記芯の損傷を軽減させることを可能にし、さらに前記回転駆動機構にも改良を加えることで、その機能をより進化させたシャープペンシルを提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記した課題を解決するためになされたこの発明にかかるシャープペンシルは、筆記芯の把持と解除を行うチャックが、筆記芯を把持した状態で回転可能となるように軸筒内に配置されると共に、前記筆記芯に加わる筆記圧による前記チャックの後退動作に伴い回転子を回転駆動させる回転駆動機構が備えられ、前記回転子の回転運動を前記チャックを介して、前記筆記芯に伝達させるシャープペンシルであって、前記筆記芯の軸方向に対して前記筆記圧以上の荷重が加わった際に、筆記芯と共に前記チャックが後退することで、筆記芯の先端部が前記軸筒の前端部に配置された口先部材内に向かって、移動可能に構成したことを特徴とする。
【0009】
この場合、前記チャックと前記回転駆動機構の回転子を回転可能に連結する中継パイプには、軸方向に収縮するコイル状のスプリング体が、一体に成形されていることが望ましい。
そして、好ましい実施の形態においては、前記軸筒と口先部材との間に、前記口先部材に加わる軸筒径外方向の力により、前記口先部材を軸筒及び前記筆記芯に対して前進させる運動方向変換機構が備えられ、当該運動方向変換機構による口先部材の前進運動によって、口先部材からの筆記芯の突出量を少なく制御するように構成される。
加えて、前記回転子を比重2以上の素材により形成することで、筆記圧が解かれた状態において、前記回転子が重力により前進移動が可能に構成することが望ましい。
【発明の効果】
【0010】
前記したこの発明に係るシャープペンシルによると、筆記圧を受けることによる軸方向の往復運動を回転運動に変換することができる回転駆動機構が備えられ、この回転運動はチャックを介して筆記芯に伝達される。したがって、筆記動作に伴って筆記芯は除々に一方向に回転駆動を受けるので、書き進むにしたがって筆記芯が偏摩耗するのを防止することができ、常にほぼ同一の線幅をもって筆記をすることが可能となる。
【0011】
また、筆記芯の軸方向に対して筆記圧以上の荷重が加わった際には、筆記芯と共に前記チャックが後退する。これにより、軸筒の前端部に配置された口先部材内に向かって、筆記芯の先端部が移動可能になされるので、前記口先部材からの筆記芯の突出量が減少し、筆記芯に座屈折れを与える度合いを低くすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】この発明にかかるシャープペンシルの外観構成を示し、(A)は上面図、(B)は正面図である。
図2】同じく軸方向の断面図であり、(A)は全体断面図、(B)は口先部材付近の拡大断面図である。
図3】筆記芯に筆記圧以上の荷重が加わった場合の断面図であり、(A)は全体断面図、(B)は口先部材付近の拡大断面図である。
図4】口先部材に曲げ作用を与えた状態を示し、(A)は外観構成を示した正面図、(B)は軸方向の全体断面図である。
図5図4に示した状態の口先部材付近の拡大断面図である。
図6】筆記芯の繰り出しユニットと筆記芯の回転駆動機構を示す外観構成を示し、(A)は上面図、(B)は正面図である。
図7】同じく軸方向の断面図であり、(A)は全体断面図、(B)は口先部材付近の拡大断面図である。
図8】筆記芯の回転駆動機構の第1の例を示した拡大断面図である。
図9】口先部材の部品図であり、(A)は先端部側から見た斜視図、(B)は後端部側から見た斜視図、(C)は正面図、(D)は軸方向の断面図である。
図10】筆記芯を把持するチャックを示し、(A)は開き加工後の外観を示す斜視図、(B)は先端部分の分解斜視図、(C)は別の例における先端部分の分解斜視図、(D)は(C)に示した先端部分を軸心側から示した正面図である。
図11】筆記芯の回転駆動機構の第2の例を示した拡大断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
この発明に係るシャープペンシルについて、図に示す実施の形態に基づいて説明する。
なお、以下に示す各図においては同一部分を同一符号で示しているが、紙面の都合により、一部の図面においては代表的な部分に符号を付けて、その詳細な構成は要部の拡大断面図もしくは単品構成で示した部品図に付けた符号を引用して説明する場合もある。
【0014】
図1に示されているように、このシャープペンシルの外郭を構成する軸筒は、それぞれ円筒状に成形された先軸1と後軸2により構成されており、前記先軸1と後軸2は中央の連結パイプ3を介して直線状に連結されている。
先軸1の前端部には口先部材4が配置されており、口先部材4の先端部に取り付けられた先端パイプ5によって筆記芯Lの先端部が支持されている。
【0015】
また、後軸2の後端部にはノックカバー6が配置され、このノックカバー6の側壁面には円盤状の突起部6aが一体に形成されている。この円盤状突起部6aは、飾りの機能を果たすと共にシャープペンシルの転がり止めとしての機能も果たすものとなる。
なお、前記後軸2の後端部には軸方向に切欠き溝2aが形成されており、前記円盤状突起部6aが前記切欠き溝2aに沿って配置されることで、前記ノックカバー6のノック操作が可能となるように構成されている。
【0016】
図2に示すように、先軸1の前端部に配置された口先部材4は、前記した先端パイプ5を取り付けた摺動コマ4Aと、この摺動コマ4Aを先軸1側に引き込む方向に作用させる圧縮コイルばね7を受けるばね受け部材4Bとにより構成されている。
そして、摺動コマ4Aは先軸1の前端部に突出して配置され、摺動コマ4Aに連結したばね受け部材4Bと圧縮コイルばね7は、先軸1の前端部内に収容されている。
【0017】
図9に口先部材4を単品構成で示したように、口先部材4の摺動コマ4Aには、その中央部に軸方向の断面形状が菱形の大径部4aが形成され、この大径部4aの背面側には環状のカム斜面8が形成されている。この環状のカム斜面8が、図2に示す先軸1の前側開口部1aに全周にわたって接触することで、摺動コマ4Aは先軸1の前側開口部1aに、嵌まり込んだ状態で装着されている。
【0018】
図9に示すように、口先部材4を構成するばね受け部材4Bは、円筒状に形成されてその後端部には円筒の外側に広がる鍔部4bが形成されている。この鍔部4bと先軸1の前側開口部1aの背面側との間に、前記した圧縮コイルばね7が装着されおり、これにより摺動コマ4Aに対して先軸1側に引き込む作用を与え、摺動コマ4Aのカム斜面8を、先軸1の前側開口部1aに接触させる付勢力を与えている。
【0019】
なお、この実施の形態においては、摺動コマ4Aの環状のカム斜面8と、先軸1の前側開口部1aとの間で、口先部材4に加わる軸筒径外方向(軸筒中心から離れる方向)の力を利用して、口先部材4の摺動コマ4Aを、軸筒(先軸1)及び筆記芯Lに対して前進させる運動方向変換機構9を構成している。この運動方向変換機構9の作用については、図4及び図5に基づいて後で説明する。
【0020】
図2に示すように、前記先軸1及び後軸2の軸心に沿って筒状の芯ケース11が収容されており、この芯ケース11の先端部には、例えば真ちゅう製のチャック12が連結されている。このチャック12内には、その軸心に沿って筆記芯Lの芯挿通孔が形成され、また先端部が軸回りに複数(例えば3つ)に分割されて、分割された先端部が真ちゅうによりリング状に形成された締め具13内に遊嵌されている。またリング状の前記締め具13は、前記チャック12の周囲を覆うようにして配置された中継パイプ14の先端部内面に装着されている。なお、この中継パイプ14の後端部は、筆記圧を利用して筆記芯(替え芯)Lを回転させる後述する回転駆動機構25に連結されている。
【0021】
前記中継パイプ14の前端部には、前記した口先部材4内に収容された円筒状のスライダー15が、中継パイプ14に対して嵌合により取り付けられている。さらにスライダー15の内周面における前記した先端パイプ5の直後には、軸心部分に通孔を形成したゴム製の保持チャック16が収容されている。
この構成により、芯ケース11に続くチャック12内に形成された芯挿通孔、及び前記保持チャック16の軸心に形成された通孔を介して、先端パイプ5に至る芯挿通孔が形成されており、この芯挿通孔内に筆記芯Lが挿通される。そして、前記した中継パイプ14と芯ケース11との間には、コイル状のチャックスプリング17が配置されている。
【0022】
前記チャックスプリング17は、その前端部が中継パイプ14の内周面に形成された環状の段部に当接し、チャックスプリング17の後端部は、芯ケース11の前端面に当接した状態で収容されている。したがって、前記チャックスプリング17の作用により、前記チャック12は中継パイプ7内を後退して、その先端部がリング状の締め具13内に収容される方向に付勢され、これによりチャック12は筆記芯Lを把持するように作用する。
【0023】
図2(A)に示す後軸2の前半部分には、ユニット化された筆記芯の回転駆動機構25が収容されている。
この回転駆動機構25には前記したとおり中継パイプ14の後端部が接続されており、この中継パイプ14は筆記動作に基づく筆記芯の僅かな後退動作及び筆記圧が解かれた状態において回転駆動機構25に収容された後述する回転子26の前進動作(これを、クッション動作ともいう。)によって生ずる前記回転駆動機構25による回転運動を、前記中継パイプ14を介して前記チャック12に伝達させるように作用する。
これにより、チャック12に把持された筆記芯Lは、筆記動作に伴い前記回転駆動機構25による回転運動を受けることになる。
【0024】
図2に示すようにユニット化された前記回転駆動機構25は、その前端部において前記連結パイプ3との間に介在された軸スプリング19によって後方に付勢されている。また回転駆動機構25の後端部は、後軸2内の縮径により形成された段部2bに、前記軸スプリング19の付勢力により当接している。
【0025】
すなわち、この実施の形態においては、前記回転駆動機構25は後軸2内の段部2bに当接することにより、後軸2内において摩擦により支持され、前記したクッション動作によって生ずる前記回転駆動機構25による回転運動を、前記中継パイプ14を介して前記チャック12側に伝達させるように作用する。
【0026】
図8は、ユニット化された前記回転駆動機構25の第1の例を、拡大断面図で示している。
この回転駆動機構25には円筒状に形成された回転子26が具備されており、前記した中継パイプ14は、回転駆動機構25の前端部において、前記回転子26の軸心に形成された軸孔内に接合することで連結されている。
前記回転子26は、その前端部付近が若干径を太くした太径部になされ、その太径部の一端面(後端面)には第1のカム面26aが形成されており、太径部の他端面(前端面)には第2のカム面26bが形成されている。
一方、前記回転子26の後端部側を覆うようにして円筒状の上カム形成部材27が、前記回転子26を軸支するように配置されており、前記上カム形成部材27の前端部外周には、円筒状の下カム形成部材28が嵌合されて取り付けられている。
【0027】
そして、前記回転子26における第1のカム面26aに対峙する上カム形成部材27の前端面に、第1の固定カム面27aが形成されている。また、前記回転子26における第2のカム面26bに対峙する下カム形成部材28の前端部内面に、第2の固定カム面28aが形成されている。
【0028】
前記した上カム形成部材27の後端部側には、シリンダー部材29が嵌め込まれており、このシリンダー部材29の後端部には芯ケース11が挿通できる挿通孔29aが形成されている。そして、この実施の形態においては前記シリンダー部材29内には円筒状に形成され、芯ケース11の軸方向に沿って移動可能な重り30と、重り30を回転子26に当接させる弾発部材32が配置されている。
【0029】
この構成によると、筆記圧が加わった状態においては、弾発部材32が撓み、重り30と共に回転子26に後方に向かわせる付勢力が働く。そして、筆記圧が解かれた状態においては、前記した重り30による荷重と弾発部材32による押圧力に、回転子26の自重も加わって、前記回転子26に前方に向かわせる付勢力が与えられる。
【0030】
以上のとおり前記した回転駆動機構25は、その中央部が芯ケース11を通す空間部になされて芯ケース11とは隔離されており、回転駆動機構25は前記した符号26~32で示す各部材により形成されてユニット化されている。
【0031】
なお、前記した第1のカム面26a及び第1の固定カム面27aは、軸方向に対峙してそれぞれ周方向に沿って連続的に鋸歯状に配列されており、鋸歯状に配列された各カム面は、そのピッチが互いにほぼ同一となるように形成されている。
また、前記した第2のカム面26b及び第2の固定カム面28aは、軸方向に対峙してそれぞれ周方向に沿って連続的に鋸歯状に配列されており、鋸歯状に配列された各カム面は、そのピッチが互いにほぼ同一となるように形成されている。
【0032】
前記した回転駆動機構25の構成によると、チャック12が筆記芯Lを把持した状態で、前記回転子26は中継パイプ14を介してチャック12と共に軸心を中心にして回転可能になされている。そして、シャープペンシルを把持して筆記をしようとした場合には、前記した回転子26は、重り30と弾発部材32の押圧力に、回転子26の重力(自重)が加わって前方に向かって位置している。
【0033】
このシャープペンシルによって筆記をした場合、すなわち先端パイプ5から突出している筆記芯Lに筆記圧が加わった場合には、前記チャック12は前記回転子26の前方に向かう付勢力に抗して軸方向に僅かに後退する。したがって、図8に示す回転子26に形成された第1のカム面26aは前記第1の固定カム面27aに接合して噛み合い状態になされる。
【0034】
この場合、対峙した状態の上側の第1カム面26aと第1固定カム27aは、軸方向においてカムの一歯に対して半位相(半ピッチ)ずれた関係となるように設定されており、前記したように上側の第1カム面26aが第1固定カム27aに接合して噛み合い状態になされることによって、回転カム26は上側カム27aの一歯の半位相(半ピッチ)に相当する回転駆動を受ける。
【0035】
そして、前記したように上側の第1カム面26aが第1固定カム27aに接合して噛み合い状態になされた状態においては、対峙した状態の下側の第2カム26bと第2固定カム28aは、軸方向においてカムの一歯に対して半位相(半ピッチ)ずれた関係となるように設定されている。
【0036】
したがって、一画の筆記が終わり筆記芯Lに対する筆記圧が解かれた場合には、前記回転カム23は、重り30と弾発部材32の押圧力に、回転子26の自重が加わって前進し、回転カム26に形成された下側の第2カム面26bが、第2固定カム28aに噛み合う。これにより回転カム26は下側カム26bの一歯の半位相(半ピッチ)に相当する同方向の回転駆動を再び受ける。
【0037】
以上のとおり、この実施の形態に係るシャープペンシルによると、筆記圧を受けることによる回転カム26の軸方向への往復運動(クッション動作)に伴って、回転カム26は上側カム27a及び下側カム28aの一歯(1ピッチ)に相当する回転駆動を受け、前記した中継パイプ14及びチャック12を介して、これに把持された筆記芯Lも同様に一方向に回転駆動される。
したがって、筆記芯Lは自身が受ける回転運動と筆記による摩耗とにより、先端部が常に円錐形状になされる。それ故、書き進むにしたがって筆記芯Lが偏摩耗するのを防止させることができ、安定した線幅による筆記が可能となる。
【0038】
また、図11に第2の例として示す回転駆動機構25は、図8に第1の例として示した回転駆動機構25に比べて、重り30と弾発部材32が配置されていない。ただし、図11に示す回転駆動機構25に用いられる回転子26は、比重2以上に形成されている。
これにより、回転子26は筆記圧が解かれた状態においては、回転子26の重力(自重)により前進移動が可能に構成されている。回転子26は、比重2未満とした場合は、低荷重で筆記芯を押圧して筆記した場合に回転子がうまく回転せず、筆記芯が筆記圧に応じて回転しないことが起こりうる。しかし、重り30と弾発部材32を除き、回転子26の比重を前記したとおり高くすることで、20g程度の低い荷重でも筆記芯を回転可能とすることができる。
【0039】
この場合、回転子26は、樹脂素材が少なくとも50重量%以上含み、金属粉等の高比重材料とを混練して射出成形により成形することで、軸筒等の他の樹脂部品との分別廃棄を必要とせずに焼却等の処分が可能となるので好ましい。具体的な成分の配合例を以下に記載する。なお、比重7.5より大きくする回転子26は射出成形による形成が困難であった。
実施例1
ポリプロピレン(比重0.9~1.0):80重量%
鉄(比重7.9)粉末:20重量%
上記成分を配合し、射出成形法により比重が2.4の回転子26を得た。
実施例2
ポリブチレンテレフタレート(比重1.2~1.4):70重量%
銅(比重8.9)粉末:30重量%
上記成分を配合し、射出成形法により比重が3.7の回転子26を得た。
実施例3
6ナイロン(比重1.0~1.2):65重量%
タングステン(比重19)粉末:35重量%
上記成分を配合し、射出成形法により比重が7.4の回転子26を得た。
比較例1
ポリアセタール:100重量%
上記成分で形成することにより比重1.5の回転子26を得た。
【0040】
図11の回転駆動機構25の上記実施例1~3、比較例1での回転子26において、筆記芯Lに20gの低筆記荷重を約2秒毎に定期的に後方側に掛けた場合の回転子26及び筆記芯Lの回転有無を確認したところ、実施例1~3では筆記芯Lが荷重の有り無しに伴い回転したが、比較例1では筆記荷重を掛けない際に下限まで回転子26が落ちきらないことがあり、筆記芯Lが回転しないことが起こりえた。
【0041】
図2に戻り、前記した回転駆動機構25の後部側にはノック棒21が、後軸2の軸方向に摺動可能に装着されている。このノック棒21の前端部は円環状の楔形突出部21aになされており、この楔形突出部21aが後軸2内に形成された環状突起2cを乗り越えて取り付けられている。
そして、環状突起2cとノック棒21との間にはコイル状のノック棒スプリング22が配置され、このスプリング22によって、前記ノック棒21を後軸2の後端部側に向けて付勢するように構成されている。
【0042】
また、ノック棒21の中央よりも若干後端部寄りには、筆記芯の補給孔21cを備えた当接部21bが形成されており、さらにこのノック棒21の後端部には、消しゴム23が着脱可能に装着されると共に、消しゴム23を覆うように前記したノック部材としてのノックカバー6が、ノック棒21の後端部の周面に着脱可能に取り付けられている。
【0043】
なお、前記ノック棒21の当接部21bと、前記した芯ケース11の後端部とは所定の間隔をもって対峙した構成にされている。この構成によると、筆記による前記チャック12及び芯ケース11が若干後退しても、芯ケース11の後端部が前記ノック棒21の当接部21bに衝突することはなく、前記回転駆動機構25による回転動作に障害を与えるのを防止することができる。
【0044】
以上の構成において、前記ノックカバー6をノック操作することで、ノック棒21の当接部21bが芯ケース11を前方に押し出し、中継パイプ14に取り付けられたスライダー15の一部が口先部材4の摺動コマ4A内に当接して、その前進が阻まれる。このために、チャック12の先端部が締め具13から相対的に突出して、チャック12による筆記芯Lの把持状態が解除される。そして、前記ノック操作の解除により、チャックスプリング17の作用により芯ケース11及びチャック12は軸筒内において後退する。
【0045】
この時、筆記芯Lは保持チャック16に形成された通孔内において摩擦により一時的に保持され、この状態でチャック12が後退してその先端部が前記締め具13内に収容されることで、筆記芯Lを再び把持状態にする。すなわち、ノックカバー6のノック操作の繰り返しによりチャック12が前後に移動し、これにより筆記芯Lの解除と把持が行われ、筆記芯Lはチャック12から順次前方に繰り出されるように作用する。
【0046】
次に図3は、筆記芯Lの軸方向に筆記圧以上の荷重が加わった場合において、筆記芯Lの第1の芯折れ対策について示している。
このシャープペンシルにおいては、前記したチャック12と回転駆動機構25とを連結する中継パイプ14は、樹脂素材により成形されており、この中継パイプ14の略中央部には、図6及び図7に示すように、軸方向に収縮するコイル状のスプリング体14aが、中継パイプ14と一体に成形されている。
【0047】
中継パイプ14は、前記したとおり筆記動作に基づく筆記芯Lの僅かな後退動作と、筆記圧が解かれた状態において回転子26の自重等による前進動作によって、軸方向に前後動する。しかし、この時の筆記圧程度の荷重(第1の荷重)においては、コイル状のスプリング体14aは軸方向に収縮することなく、中継パイプ14の両端部の距離は略一定に保たれる。
一方、筆記芯Lの軸方向に筆記圧以上の荷重(第2の荷重)が加わった場合においては、この荷重を受けてコイル状のスプリング体14aは、軸方向に収縮する。
【0048】
図3は、前記第2の荷重を受けてスプリング体14aが軸方向に収縮した状態を示しており、チャック12と共に先端パイプ5から突出する筆記芯Lが後退する。これにより、口先部材4の先端パイプ5内に向かって、筆記芯Lの先端部が移動して、先端パイプ5からの筆記芯の突出量が減少する。
したがって、筆記芯Lの先端部は先端パイプ5によってガードされ、筆記芯Lに対して、例えば座屈折れを与える度合いを低くすることができる。なお、筆記芯Lに対する前記した第2の荷重が解かれれば、スプリング体14aの復帰作用により、筆記芯Lは図2に示す状態に戻される。
【0049】
次に図4及び図5は、筆記芯Lに対して斜めに荷重が加わった場合における筆記芯Lの第2の芯折れ対策について示している。
すでに説明したとおり、口先部材4を構成する摺動コマ4Aのカム斜面8は、先軸1の前側開口部1aに対して、嵌まり込んだ状態で装着されている。すなわち、先軸1の前側開口部1aは、前方に向かって内径を拡大するテーパー状に形成されており、このテーパー状の開口部1aに、口先部材4を構成する摺動コマ4Aの環状のカム斜面8が当接して運動方向変換機構9が形成されている。
【0050】
この運動方向変換機構9によると、筆記芯Lに対して斜めに荷重が加わった場合において、筆記芯Lの先端部を支持する口先部材4の摺動コマ4Aには、軸筒径外方向(軸筒中心から離れる方向)の力が加わる。これにより、先軸1の軸心と口先部材4を構成する摺動コマ4Aの軸心との間で軸ズレが生じ、摺動コマ4Aのカム斜面8が、先軸1のテーパー状の開口部1aに沿って移動することで、摺動コマ4Aは先軸1に対して前進する(押し出される)ことになる。
したがって、摺動コマ4Aの前進運動によって、摺動コマ4Aに取り付けられた先端パイプ5からの筆記芯Lの突出量は少なくなり、筆記芯Lの芯折れを防止することが可能となる。
【0051】
この場合、図4(B)及び図5に示すように中継パイプ14と芯ケース11は、可撓性の樹脂素材により成形されて、先軸1内において大きく湾曲する。これにより、運動方向変換機構9の動作に障害を与えないように構成されている。
なお、図4及び図5においては、先軸1の前側開口部1aに対して、摺動コマ4Aが離れて示されているが、現実には口先部材4を構成するばね受け部材4Bに装着された圧縮コイルばね7の作用によって、摺動コマ4Aのカム斜面8は先軸1の前側開口部1aに当接した状態を保つことになる。
【0052】
図10は、以上説明した芯折れ対策を施したシャープペンシルに好適に採用し得るチャック12の形態を示しており、これは筆記芯Lの把持力を確保することができると共に、筆記芯Lを把持することによって筆記芯Lに与える傷を少なくして、チャックによる芯折れの発生を防止させようとするものである。
【0053】
筆記芯Lを把持する前記チャック12は、すでに説明したとおり真ちゅう等の金属素材により構成されており、チャック12の軸心部分には芯挿通孔41が形成され、チャック12の先端部には、芯把持部42となる貫通孔43に向かって、スリ割り44が施されている。これによりチャック12の先端部は、例えば三分割されている。
そして円錐状の開きツール(図示せず)を用いて、ツール先端を貫通孔43に挿入してから、周方向に回転させつつチャック12の後方に向かってチャック12の先端部を三方に広げる開き加工が行われる。この開き加工によって、図10(A)に示すようにチャック12の先端部分を塑性変形させる。なお、図10(A)に示す符号45はスリ割り44によって形成されたスリ割り面を示す。
【0054】
この場合、前記開き加工の際に、開きツールの回転により、スリ割り面45と貫通孔43との間に形成される稜線部分が削られて、所謂「面ダラシ」されることで、図10(B)に示すようにダラシ面46が形成される。
また、開き加工に先立ち、貫通孔43の芯把持部42を荒らす、荒らし加工を施してもよい。この荒らし加工を施した場合には、図10(C)に示すように、芯把持部42が荒らされた状態、すなわち微細な凹凸が形成されたものとなる。
【0055】
図10(D)は、図10(C)に示すチャック先端部を、軸心側から示した正面図であり、図10(D)に示すようにダラシ面46の幅は、中間部分47よりも先端部分48及び後端部分49の方が大きくなっている。
これは、開きツールが貫通孔43に挿入される際、先端部分48が形成される最初の段階では押し広げる力により接触度合いが比較的大きく、中間部分47が形成される途中の段階では、先端部分48に近い方が外方へ逃げていくため、抵抗が小さくなり接触度合いは比較的小さく、そして、後端部分49が形成される最後の段階では、外方への逃げがほとんどないために接触度合いが再び大きくなるためである。
【0056】
図10に示したチャック12によると、芯把持部42に荒らし加工による微細な凹凸が形成されることで、筆記芯Lの十分な把持力を確保することができる。
また、チャック12の先端部にスリ割り44が施されることにより、スリ割り面45と貫通孔43との間に形成される稜線部分は、所謂「面ダラシ」によってダラシ面46として加工される。したがって、筆記芯Lを把持することによって筆記芯Lに与える傷を少なくすることができるので、チャック12による芯折れの発生度合いを減少させることができる。
【0057】
なお、前記したシャープペンシルの実施の形態においては、筆記圧によって筆記芯Lを回転駆動させる回転駆動機構25において、筆記圧が解かれた状態において回転子26を前進運動させるために、重り30による荷重も回転子26の自重に加わるように構成されている。
しかし、前記重り30は必ずしも必要ではなく、回転子26を構成する素材を比重2以上に調整することで、回転子26を前進運動させることが可能であることが検証されている。これによると、前記した重り30以外に、回転子26を前進運動させるためのスプリングなどの付勢手段も不要となり、この種のシャープペンシルの製造コストの低減に寄与することができる。
【符号の説明】
【0058】
1 先軸(軸筒)
1a 前側開口部
2 後軸(軸筒)
3 連結パイプ
4 口先部材
4A 摺動コマ
4B ばね受け部材
4a 菱形大径部
5 先端パイプ
6 ノックカバー
7 圧縮コイルばね
8 カム斜面
9 運動方向変換機構
11 芯ケース
12 チャック
14 中継パイプ
14a スプリング体
21 ノック棒
22 ノック棒スプリング
25 回転駆動機構
26 回転子
30 重り
L 筆記芯
図1
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図3
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図11