(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024003738
(43)【公開日】2024-01-15
(54)【発明の名称】シミュレーションと試験を組み合わせた燃料電池の性能最適化方法、装置及び電子機器
(51)【国際特許分類】
H01M 8/04537 20160101AFI20240105BHJP
H01M 8/04992 20160101ALI20240105BHJP
H01M 8/04313 20160101ALI20240105BHJP
H01M 8/0432 20160101ALI20240105BHJP
H01M 8/0438 20160101ALI20240105BHJP
H01M 8/0444 20160101ALI20240105BHJP
H01M 8/04492 20160101ALI20240105BHJP
【FI】
H01M8/04537
H01M8/04992
H01M8/04313
H01M8/0432
H01M8/0438
H01M8/0444
H01M8/04492
【審査請求】有
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022164530
(22)【出願日】2022-10-13
(11)【特許番号】
(45)【特許公報発行日】2023-04-12
(31)【優先権主張番号】202210732824.2
(32)【優先日】2022-06-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(71)【出願人】
【識別番号】522401992
【氏名又は名称】中汽研新能源汽車検験中心(天津)有限公司
【氏名又は名称原語表記】CATARC New Energy Vehicle Test Center (Tianjin) Co.,Ltd.
【住所又は居所原語表記】No.88 Xiongzi Road,Dongli District,Tianjin 300300,China
(74)【代理人】
【識別番号】110000291
【氏名又は名称】弁理士法人コスモス国際特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】楊 子栄
(72)【発明者】
【氏名】▲ハオ▼ 冬
(72)【発明者】
【氏名】張 妍懿
(72)【発明者】
【氏名】▲蘭▼ 昊
(72)【発明者】
【氏名】王 佳
(72)【発明者】
【氏名】焦 道▲クワン▼
(72)【発明者】
【氏名】趙 ▲シン▼
(72)【発明者】
【氏名】馬 明輝
(72)【発明者】
【氏名】冀 雪峰
【テーマコード(参考)】
5H127
【Fターム(参考)】
5H127AC13
5H127BA02
5H127BB02
5H127DB02
5H127DB03
5H127DB06
5H127DB07
5H127DB22
5H127DB23
5H127DB26
5H127DB27
5H127DB53
(57)【要約】 (修正有)
【課題】本発明の目的は燃料電池の運転状態の最適化過程における試験数量と試験周期を低下させ、シミュレーション結果の信頼性と正確率を向上させ、シミュレーションの最適化における役割をより良く発揮させる。
【解決手段】本願で提供したシミュレーションと試験を組み合わせた燃料電池の性能最適化方法は、シミュレーション手段と試験手段の組み合わせにより、燃料電池シミュレーションモデルを作成し、ベンチテストを行い、モデルを較正し、運転状態を細分化処理した後、シミュレーション分析を行い、かつ最適運転状態を得てベンチテストを行い、燃料電池の最適実際の出力電圧を得て、燃料電池の出力電圧の最適化結果を検証して出力する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
シミュレーションと試験を組み合わせた燃料電池の性能最適化方法であって、
初期燃料電池シミュレーションモデルを作成し、前記初期燃料電池シミュレーションモデルによって初期出力電圧を得るステップと、
前記燃料電池に対してベンチテストを行い、複数の基礎運転状態での前記燃料電池の複数の実際の出力電圧を得るステップと、
複数の前記実際の出力電圧に基づいて前記初期燃料電池シミュレーションモデルを較正し、較正燃料電池シミュレーションモデルを得るステップと、
複数の前記基礎運転状態に対して細分化処理を行い、複数の標準運転状態を得て、前記較正燃料電池シミュレーションモデルに基づき、複数の前記標準運転状態に対して燃料電池シミュレーション分析を行い、複数の標準出力電圧を得るステップと、
燃料電池の性能評価関数を作成し、複数の前記標準出力電圧をそれぞれ前記燃料電池の性能評価関数に入力し、最適標準出力電圧を得るステップであって、前記最適標準出力電圧に対応する前記標準運転状態を最適運転状態とするステップと、
前記最適運転状態に基づいて、前記ベンチテストを行い、燃料電池の最適実際の出力電圧を得て、前記最適実際の出力電圧と前記最適標準出力電圧を比較して、前記燃料電池の出力電圧の最適化結果を得るステップと、を含むことを特徴とするシミュレーションと試験を組み合わせた燃料電池の性能最適化方法。
【請求項2】
前記初期燃料電池シミュレーションモデルは、ガス輸送シミュレーション、水輸送シミュレーションおよび温度輸送シミュレーションを含み、前記初期出力電圧を、前記ガス輸送シミュレーション、前記水輸送シミュレーションおよび前記温度輸送シミュレーションに基づいて求めることを特徴とする請求項1に記載のシミュレーションと試験を組み合わせた燃料電池の性能最適化方法。
【請求項3】
前記燃料電池に対してベンチテストを行い、複数の基礎運転状態での前記燃料電池の複数の実際の出力電圧を得るステップにおいて、
前記燃料電池の第1の基礎運転状態と第2の基礎運転状態を設置することと、
それぞれ前記第1の基礎運転状態と前記第2の基礎運転状態に基づいて前記燃料電池に対してベンチテストを行い、第1の実際の出力電圧と第2の実際の出力電圧を得ることとを含むことを特徴とする請求項1に記載のシミュレーションと試験を組み合わせた燃料電池の性能最適化方法。
【請求項4】
複数の前記実際の出力電圧に基づいて前記初期燃料電池シミュレーションモデルを較正し、較正燃料電池シミュレーションモデルを得るステップにおいて、
前記第1の基礎運転状態に基づいて、前記初期燃料電池シミュレーションモデルに較正する必要がある初期パラメータを設定することと、
前記第1の基礎運転状態で、前記初期燃料電池シミュレーションモデルの処理を経て、第1のシミュレーション出力電圧を得ることと、
前記第1の実際の出力電圧と前記第1のシミュレーション出力電圧とを比較し、前記第1のシミュレーション出力電圧と前記第1の実際の出力電圧との間の最大相対偏差の絶対値RD1が10%より大きい場合、前記初期パラメータを較正し、第1のパラメータを得ることと、
前記第2の基礎運転状態に基づいて、前記第1のパラメータを調整し、第2のパラメータを得ることと、
前記第2の基礎運転状態で、前記初期燃料電池シミュレーションモデルの処理を経て、第2のシミュレーション出力電圧を得ることと、
前記第2の実際の出力電圧と前記第2のシミュレーション出力電圧とを比較し、前記第2のシミュレーション出力電圧と前記第2の実際の出力電圧との間の最大相対偏差の絶対値RD2が10%より大きい場合、前記初期燃料電池シミュレーションモデルに較正する必要があるパラメータを前記第2のパラメータとして設定し、前記第1の基礎運転状態に基づいて前記第2のパラメータを前記RD1が10%以下かつ前記RD2が10%以下になるまで再度較正し、そして較正を完了し、前記較正燃料電池シミュレーションモデルを得ることと、を含むことを特徴とする請求項3に記載のシミュレーションと試験を組み合わせた燃料電池の性能最適化方法。
【請求項5】
複数の前記基礎運転状態に対して細分化処理を行い、複数の標準運転状態を得て、前記較正燃料電池シミュレーションモデルに基づき、複数の前記標準運転状態に対して燃料電池シミュレーション分析を行い、複数の標準出力電圧を得るステップにおいて、
化学量論比の値の範囲[STmin,STmax]、相対湿度の値の範囲[RHmin,RHmax]、温度の値の範囲[Tmin,Tmax]、圧力の値の範囲[Pmin,Pmax]に基づいて、前記基礎運転状態の値の範囲を設定することと、
前記基礎運転状態の値の範囲に基づいて、線形補間の方式により、a個の前記化学量論比の値、b個の前記相対湿度の値、c個の前記温度の値、q個の前記圧力の値を選択して、G個の前記標準運転状態を得ることであって、a、b、c、qはすべて正の整数であることと、
前記較正燃料電池シミュレーションモデルに基づき、G個の前記標準運転状態でそれぞれ燃料電池シミュレーション分析を行い、G個の前記標準出力電圧を得ることと、を含むことを特徴とする請求項1に記載のシミュレーションと試験を組み合わせた燃料電池の性能最適化方法。
【請求項6】
燃料電池の性能評価関数を作成し、複数の前記標準出力電圧をそれぞれ前記燃料電池の性能評価関数に入力し、最適標準出力電圧を得るステップであって、前記最適標準出力電圧に対応する前記標準運転状態を最適運転状態とするステップにおいて、
燃料電池の性能評価関数を作成し、G個の前記標準出力電圧に基づいて、G個の標準出力電圧の評価値を得ることと、
G個の前記標準出力電圧の評価値の中で最も高い評価値に対応する前記標準出力電圧を前記最適標準出力電圧とし、かつ前記最適標準出力電圧に対応する前記標準運転状態を最適運転状態とすることであって、前記最適運転状態の化学量論比はMx1、相対湿度はRHx2、温度はTx3、圧力はPx4であることと、を含み、
前記燃料電池の性能評価関数Funの式は、
【数9】
式(1)において、V
outは出力電圧であり、I
low,I
mid,I
highはそれぞれ低電流密度、中電流密度、高電流密度であり、その数値はG個の前記標準出力電圧から決定され、h、e、fはそれぞれ性能評価の重み係数であり、その数値は範囲[0,1]の中の正の実数であり、
前記最適運転状態は、
【数10】
という条件を満たすことを特徴とする請求項5に記載のシミュレーションと試験を組み合わせた燃料電池の性能最適化方法。
【請求項7】
前記出力電圧の最適化結果は、前記出力電圧と電流密度との関係図であることを特徴とする請求項1に記載のシミュレーションと試験を組み合わせた燃料電池の性能最適化方法。
【請求項8】
シミュレーションと試験を組み合わせた燃料電池の性能最適化装置であって、
初期燃料電池シミュレーションモデルを作成し、前記初期燃料電池シミュレーションモデルによって初期出力電圧を得る初期シミュレーションモデル作成モジュールと、
前記燃料電池に対してベンチテストを行い、前記複数の基礎運転状態での燃料電池の複数の実際の出力電圧を得る基礎実測モジュールと、
複数の前記実際の出力電圧に基づいて前記燃料電池シミュレーションモデルを較正し、較正燃料電池シミュレーションモデルを得る較正モジュールと、
複数の前記基礎運転状態に対して細分化処理を行い、複数の標準運転状態を得て、前記較正燃料電池シミュレーションモデルに基づき、複数の前記標準運転状態に対して燃料電池シミュレーション分析を行い、複数の標準出力電圧を得るシミュレーション細分化モジュールと、
燃料電池の性能評価関数を作成し、複数の前記標準出力電圧をそれぞれ前記燃料電池の性能評価関数に入力し、最適標準出力電圧を得るモジュールであって、前記最適標準出力電圧に対応する前記標準運転状態を最適運転状態とする最適評価モジュールと、
前記最適運転状態に基づいて、前記ベンチテストを行い、燃料電池の最適実際の出力電圧を得て、前記最適実際の出力電圧と前記最適標準出力電圧を比較して、燃料電池の出力電圧の最適化結果を得る最適化検証モジュールと、を含むことを特徴とする。
【請求項9】
電子機器であって、
システムの1つ以上のプロセッサによって実行される命令を記憶するメモリと、システムのプロセッサの1つであって、請求項1から7のいずれか一項に記載の方法を実行するためのプロセッサと、を備えることを特徴とする電子機器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本出願はプロトン交換膜燃料電池の分野に属し、特にシミュレーションと試験を組み合わせた燃料電池の性能最適化方法、装置及び電子機器に関する。
【背景技術】
【0002】
プロトン交換膜燃料電池は高エネルギー変換効率、低運転温度、ゼロノイズなどの優位性を有し、将来の新エネルギー自動車分野で広く利用されると見込まれる。
【0003】
燃料電池の内部では、ガス輸送(水素、酸素、水蒸気、窒素など)、水輸送(膜水(membrane water)、液状水など)、及び温度輸送などの複雑な輸送プロセスが発生し、これらのプロセスが相互に影響し、燃料電池の出力電圧が実際の運転状態(ガス流量、相対湿度、温度、圧力など)に依存する。例えば、ガスの相対湿度が低い場合には、燃料電池の内部でドライアウト現象が発生し、プロトン伝導度が低下してオーム損が上昇する。ガスの相対湿度が高すぎると、燃料電池の内部に多量の液状水が発生してガス輸送が阻害されたり、有効な電気化学反応面積が低下して出力電圧が低下したりするおそれがある。このことから、不合理な運転状態は燃料電池の性能を低下させ、良好な運転状態の設定は燃料電池に最適な性能を発揮させることができる。そのため、燃料電池の運転状態の最適化は製品の性能向上に非常に重要である。燃料電池の性能最適化手法を検討するために、試験手段とシミュレーション手段を用いていた。試験手段は、燃料電池製品に対してベンチテストを行うことにより、製品の性能表現を得る。試験データの信頼性は高いが、試験コストが高く、試験期間が長いことに加えて、ベンチテストでは燃料電池内部の水・熱輸送プロセスを直観的に表現することが困難である。シミュレーション手段は、燃料電池モデルを作成してその内部の輸送過程をシミュレーションすることにより、全体の出力電圧を得る。シミュレーションモデルは詳細な輸送過程を示すことができ、シミュレーションコストは低いが、シミュレーション結果の信頼性と精度はベンチテストデータの較正(calibration/verification)に大きく依存する。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
そこで、本願出願人は、シミュレーションと試験を組み合わせた燃料電池の性能最適化方法、装置及び電子機器を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
第1の態様は、シミュレーションと試験を組み合わせた燃料電池の性能最適化方法であって、
初期燃料電池シミュレーションモデルを作成し、初期燃料電池シミュレーションモデルによって初期出力電圧を得るステップと、
燃料電池に対してベンチテストを行い、複数の基礎運転状態での燃料電池の複数の実際の出力電圧を得るステップと、
複数の実際の出力電圧に基づいて初期燃料電池シミュレーションモデルを較正し、較正燃料電池シミュレーションモデルを得るステップと、
複数の基礎運転状態に対して細分化処理を行い、複数の標準運転状態を得て、較正燃料電池シミュレーションモデルに基づき、複数の標準運転状態に対して燃料電池シミュレーション分析を行い、複数の標準出力電圧を得るステップと、
燃料電池の性能評価関数を作成し、複数の標準出力電圧をそれぞれ燃料電池の性能評価関数に入力し、最適標準出力電圧を得るステップであって、最適標準出力電圧に対応する標準運転状態を最適運転状態とするステップと、
最適運転状態に基づいて、ベンチテストを行い、燃料電池の最適実際の出力電圧を得て、最適実際の出力電圧と最適標準出力電圧を比較して、燃料電池の出力電圧の最適化結果を得るステップと、を含む。
【0006】
上記第1の態様の可能な実施形態の1つでは、初期燃料電池シミュレーションモデルは、ガス輸送シミュレーション、水輸送シミュレーションおよび温度輸送シミュレーションをさらに含む。
【0007】
上記第1の態様の可能な実施形態の1つでは、初期燃料電池シミュレーションモデルにおける初期出力電圧を、ガス輸送シミュレーション、水輸送シミュレーションおよび温度輸送シミュレーションに基づいて求める。
【0008】
上記第1の態様の可能な実施形態の1つでは、方法は、
燃料電池の第1の基礎運転状態と第2の基礎運転状態を設置するステップと、
それぞれ第1の基礎運転状態と第2の基礎運転状態に基づいて燃料電池に対してベンチテストを行い、第1の実際の出力電圧と第2の実際の出力電圧を得るステップと、をさらに含む。
【0009】
上記第1の態様の可能な実施形態の1つでは、方法は、
第1の基礎運転状態に基づいて、初期燃料電池シミュレーションモデルに較正する必要がある初期パラメータを設定するステップと、
第1の基礎運転状態で、初期燃料電池シミュレーションモデルの処理を経て、第1のシミュレーション出力電圧を得るステップと、
第1の実際の出力電圧と第1のシミュレーション出力電圧とを比較し、第1のシミュレーション出力電圧と第1の実際の出力電圧との間の最大相対偏差の絶対値RD1が10%より大きい場合、初期パラメータを較正し、第1のパラメータを得るステップと、
第2の基礎運転状態に基づいて、第1のパラメータを調整し、第2のパラメータを得るステップと、
第2の基礎運転状態で、初期燃料電池シミュレーションモデルの処理を経て、第2のシミュレーション出力電圧を得るステップと、
第2の実際の出力電圧と第2のシミュレーション出力電圧とを比較し、第2のシミュレーション出力電圧と第2の実際の出力電圧との間の最大相対偏差の絶対値RD2が10%より大きい場合、初期燃料電池シミュレーションモデルに較正する必要があるパラメータを第2のパラメータとして設定し、第1の基礎運転状態に基づいて第2のパラメータをRD1が10%以下かつRD2が10%以下になるまで再度較正し、そして較正を完了し、較正燃料電池シミュレーションモデルを得るステップと、をさらに含む。
【0010】
上記第1の態様の可能な実施形態の1つでは、方法は、
化学量論比の値の範囲[STmin,STmax]、相対湿度の値の範囲[RHmin,RHmax]、温度の値の範囲[Tmin,Tmax]、圧力の値の範囲[Pmin,Pmax]に基づいて、基礎運転状態の値の範囲を設定するステップと、
基礎運転状態の値の範囲に基づいて、線形補間の方式により、a個の化学量論比の値、b個の相対湿度の値、c個の温度の値、q個の圧力の値を選択して、G個の標準運転状態を得るステップであって、a、b、c、qはすべて正の整数であるステップと、
較正燃料電池シミュレーションモデルに基づき、G個の標準運転状態でそれぞれ燃料電池シミュレーション分析を行い、G個の標準出力電圧を得るステップと、をさらに含む。
【0011】
上記第1の態様の可能な実施形態の1つでは、方法は、
燃料電池の性能評価関数を作成し、G個の標準出力電圧に基づいて、G個の標準出力電圧の評価値を得るステップと、
G個の標準出力電圧の評価値の中で最も高い評価値に対応する標準出力電圧を最適標準出力電圧とし、かつ最適標準出力電圧に対応する標準運転状態を最適運転状態とするステップであって、最適運転状態の化学量論比はMx1、相対湿度はRHx2、温度はTx3、圧力はPx4であるステップと、をさらに含み、
燃料電池の性能評価関数Funの式は、
【数1】
式(1)において、V
outは出力電圧であり、I
low,I
mid,I
highはそれぞれ低電流密度、中電流密度、高電流密度であり、その数値はステップS4のシミュレーション結果から決定され、h、e、fはそれぞれ性能評価の重み係数であり、その数値は範囲[0,1]の中の正の実数であり、
最適運転状態は以下の条件を満たす。
【数2】
【0012】
上記第1の態様の可能な実施形態の1つでは、方法は、
最適実際の出力電圧と最適標準出力電圧とを比較して、出力電圧と電流密度との関係を求めるステップをさらに含む。
【0013】
第2の態様は、シミュレーションと試験を組み合わせた燃料電池の性能最適化装置であって、
初期燃料電池シミュレーションモデルを作成し、初期燃料電池シミュレーションモデルによって初期出力電圧を得る初期シミュレーションモデル作成モジュールと、
燃料電池に対してベンチテストを行い、複数の基礎運転状態での燃料電池の複数の実際の出力電圧を得る基礎実測モジュールと、
複数の実際の出力電圧に基づいて燃料電池シミュレーションモデルを較正し、較正燃料電池シミュレーションモデルを得る較正モジュールと、
複数の基礎運転状態に対して細分化処理を行い、複数の標準運転状態を得て、較正燃料電池シミュレーションモデルに基づき、複数の標準運転状態に対して燃料電池シミュレーション分析を行い、複数の標準出力電圧を得るシミュレーション細分化モジュールと、
燃料電池の性能評価関数を作成し、複数の標準出力電圧をそれぞれ燃料電池の性能評価関数に入力し、最適標準出力電圧を得て、最適標準出力電圧に対応する標準運転状態を最適運転状態とする最適評価モジュールと、
最適運転状態に基づいて、ベンチテストを行い、燃料電池の最適実際の出力電圧を得て、最適実際の出力電圧と最適標準出力電圧を比較して、燃料電池の出力電圧の最適化結果を得る最適化検証モジュールと、を含むことを特徴とする。
【0014】
第3の態様は、システムの1つ以上のプロセッサによって実行される命令を記憶するメモリと、シミュレーションと試験を組み合わせた燃料電池の性能最適化方法を実行するための、システムのプロセッサの1つであるプロセッサと、を備える電子機器である。
【0015】
従来の技術に対して、本願のシミュレーションと試験を組み合わせた燃料電池の性能の最適化方法、装置と電子設備は、シミュレーション手段と試験手段の組み合わせによって、燃料電池の運転状態の最適化過程に必要な試験数量と試験周期を低下させることができるだけでなく、シミュレーション結果の信頼性と精度を向上させることができ、シミュレーション手段の最適化過程における作用をより良く発揮し、最終的には、より低い試験コストとより短い開発周期で燃料電池製品の性能の向上を実現し、燃料電池の開発能力の向上を促進する。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】
図1は、本願の実施例に係るシミュレーションと試験を組み合わせた燃料電池の性能最適化方法の全体の流れを示す図である。
【
図2】
図2は、本願の実施例に係るシミュレーションと試験を組み合わせた燃料電池の性能最適化方法のシミュレーションモデルと実際の出力電圧との間の検証と較正の流れを示す図である。
【
図3】
図3は、本願の実施例に係るシミュレーションと試験を組み合わせた燃料電池の性能最適化方法のシミュレーションモデルと、基礎運転状態における実際の出力電圧との間の第1回目の較正状況を示す図である。
【
図4】
図4は、本願の実施例に係るシミュレーションと試験を組み合わせた燃料電池の性能最適化方法のシミュレーションモデルと、基礎運転状態における実際の出力電圧との間の第5回目の較正状況を示す図である。
【
図5】
図5は、本願の実施例に係るシミュレーションと試験を組み合わせた燃料電池の性能最適化方法の全ての運転状態における相対湿度、化学量論比、温度の値の範囲を示す図である。
【
図6】
図6は、本願の実施例に係るシミュレーションと試験を組み合わせた燃料電池の性能最適化方法の全ての運転状態における燃料電池モデルの出力電圧を示す図である。
【
図7】
図7は、本願の実施例に係るシミュレーションと試験を組み合わせた燃料電池の性能最適化方法の全ての運転状態における燃料電池の性能評価関数の数値図である。
【
図8】
図8は、本願の実施例に係るシミュレーションと試験を組み合わせた燃料電池の性能最適化方法の最適運転状態と基礎運転状態での燃料電池の分極曲線の性能を示す図である。
【
図9】
図9は、本願の実施例に係るシミュレーションと試験を組み合わせた燃料電池の性能最適化方法の最適運転状態でのシミュレーションモデルの結果と実際の出力電圧との比較を示す図である。
【
図10】
図10は、本願の実施例に係るシミュレーションと試験を組み合わせた燃料電池の性能最適化装置の構成を示す図である。
【
図11】
図11は、本願の実施例に係る電子機器の構成を示すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の実施例について、図面を参照して詳細に説明する。本出願で使用される「第1」、「第2」などの用語は、様々な要素を説明するために本明細書で使用されているが、特に明記されない限り、これらの要素はこれらの用語によって限定されないことを理解されたい。これらの用語は、第1の要素を他の要素と区別するためにのみ使用される。本開示の例示的な実施例を図面に示したが、本開示は、本明細書に記載された実施例に限定されることなく、様々な形態で実施され得ることを理解されたい。むしろ、これらの実施例は、本開示をより完全に理解し、本開示の範囲を当業者に完全に伝えるために提供される。
【0018】
以下、本発明の実施例を図面に基づいて詳細に説明する。
図1は、本願の実施例に係るシミュレーションと試験を組み合わせた燃料電池の性能最適化方法の全体の流れを示す図である。以下、本発明の方法の具体的なステップを、具体的な計算の実施例を用いて、添付図面を参照しながら、説明する。
【0019】
図1に示すシミュレーションと試験を組み合わせた燃料電池の性能最適化方法であって、
初期燃料電池シミュレーションモデルを作成し、初期燃料電池シミュレーションモデルによって初期出力電圧を得るステップ(1)と、
燃料電池に対してベンチテストを行い、複数の基礎運転状態での燃料電池の複数の実際の出力電圧を得るステップ(2)と、
複数の実際の出力電圧に基づいて初期燃料電池シミュレーションモデルを較正し、較正燃料電池シミュレーションモデルを得るステップ(3)と、
複数の基礎運転状態に対して細分化処理を行い、複数の標準運転状態を得て、較正燃料電池シミュレーションモデルに基づき、複数の標準運転状態に対して燃料電池シミュレーション分析を行い、複数の標準出力電圧を得るステップ(4)と、
燃料電池の性能評価関数を作成し、複数の標準出力電圧をそれぞれ燃料電池の性能評価関数に入力し、最適標準出力電圧を得て、最適標準出力電圧に対応する標準運転状態を最適運転状態とするステップ(5)と、
最適運転状態に基づいて、ベンチテストを行い、燃料電池の最適実際の出力電圧を得て、最適実際の出力電圧と最適標準出力電圧を比較して、燃料電池の出力電圧の最適化結果を得るステップ(6)と、を含むことを特徴とする。
【0020】
具体的には、ステップ(1)において、
ガス輸送シミュレーションの式は、以下の通りであり、
【数3】
式(2)において、iは水素、酸素、窒素及び水蒸気、εは空孔率、s
lqは液状水の体積分率、ρ
gはガス密度、Y
iはガスの質量分率、D
i
effはガスの有効拡散係数、tは時間、u
gはガスの流速、S
iはガスのソース項(source term)であり、式(2)は、触媒層、微多孔層、ガス拡散層、流路に適用でき、
水輸送シミュレーションの式は、以下の通りであり、
【数4】
式(3)および(4)において、ρ
MEMはプロトン交換膜の密度、EWはプロトン交換膜の等価質量、ωはポリマーの体積分率、λは膜水の含有量、tは時間、D
mwは膜水の拡散係数、S
mwは膜水のソース項、εは空孔率、ρ
lqは液状水の密度、s
lqは液状水の体積分率、tは時間、K
lqは液状水の透過率、μ
lqは動的粘度、p
1は液圧、S
lqは液状水のソース項である。
【0021】
温度輸送シミュレーションの式は、以下の通りであり、
【数5】
は有効熱伝導率、S
Tは熱のソース項である。
【0022】
燃料電池シミュレーションモデルにおける初期出力電圧は、以下の通りであり、
【数6】
ここで、V
outは出力電圧、V
Nernstはネルンスト電圧、V
actは活性化損失電圧、V
ohmicはオーム損失電圧、V
concは濃度損失電圧であり、
式(6)における初期出力電圧、ネルンスト電圧、活性化損失電圧、オーム損失電圧、濃度損失電圧は、式(2)、(3)、(4)、(5)に基づいて得られる。
【0023】
本実施例では、燃料電池製品の性能向上を実現しつつ、燃料電池内部の水熱輸送過程(膜水、液状水、温度等の物理量の燃料電池内部での分布)をシミュレーション手段により表現することができ、性能向上のメカニズム及び原因を解明し、燃料電池の開発能力の向上を促進する。
図2は、本願の実施例のシミュレーションと試験を組み合わせた燃料電池の性能最適化方法のシミュレーションモデルと実際の出力電圧との間の検証と較正の流れを示す図である。
【0024】
具体的には、ステップ(2)は、下記のことを含む。
燃料電池製品を燃料電池の試験台に設置し、ガス供給配管、電子負荷等を接続する。燃料電池製品の気密性検査が合格した後、製品の説明書に規定された活性化運転状態に従って、活性化過程が完了するまで活性化を行う。
燃料電池のテストとシミュレーションの需要に基づいて、燃料電池の第1の基礎運転状態を設置し、この第1の基礎運転状態の化学量論比はST1、相対湿度はRH1、温度はT1、圧力はP1であり、
燃料電池のテストとシミュレーションの需要に基づいて、燃料電池の第2基礎運転状態を設置し、この第2基礎運転状態の化学量論比はST2、相対湿度はRH2、温度はT2、圧力はP2であり、
第1の基礎運転状態と第2の基礎運転状態に基づいて燃料電池にベンチテストを行い、第1の実際の出力電圧と第2の実際の出力電圧を得る。
【0025】
いくつかの実施例では、燃料電池のテストとシミュレーションの需要は、通常、燃料電池サンプルのガイドラインに基づいて選択され、すなわち、顧客のニーズに応じてカスタマイズすることができ、サンプルが動作する運転状態の範囲、例えば、温度60~90、相対湿度40%~100%内などであれば、その中から状態を組み合わせることができ(例えば、温度60、相対湿度40%を取る)、すべての状態に対して普遍的である。
【0026】
第1の基礎運転状態のパラメータに基づき、試験台のテスト運転状態を設置し、燃料電池製品をテストして、その出力電圧と電流密度との関係図、すなわち第1の基礎運転状態における燃料電池の分極曲線性能を得る。
【0027】
第2の基礎運転状態のパラメータに基づき、試験台のテスト運転状態を設置し、燃料電池製品をテストして、その出力電圧と電流密度との関係図、すなわち第2の基礎運転状態における燃料電池の分極曲線性能を得る。
【0028】
具体的には、ステップ(3)は、
実測された燃料電池製品の構造と設計パラメータに基づいて、シミュレーションモデルに対応する下記のようなパラメータを設定することと、
いくつかの実施例では、有効反応面積は25cm2、極板の厚さは2mm、流路の厚さは1mm、ガス拡散層の厚さは0.2mm、微多孔層の厚さは0.02mm、触媒層の厚さは0.01mm、プロトン交換膜の厚さは0.025mmである。
【0029】
極板の密度は1000kgm-3、ガス拡散層の密度は1000kgm-3、微多孔層の密度は1000kgm-3、触媒層の密度は1000kgm-3、プロトン交換膜の密度は1980kgm-3である。
極板の比熱容量は1580Jkg-1K-1、ガス拡散層の比熱容量は2000Jkg-1K-1、微多孔層の比熱容量は568Jkg-1K-1、触媒層の比熱容量は3300Jkg-1K-1、プロトン交換膜の比熱容量は833Jkg-1K-1である。
極板の熱伝導率は20Wm-1K-1、ガス拡散層の熱伝導率は1.0Wm-1K-1、微多孔層の熱伝導率は1.0Wm-1K-1、触媒層の熱伝導率は1.0Wm-1K-1、プロトン交換膜の熱伝導率は0.95Wm-1K-1である。
極板の導電率は20000Sm-1、ガス拡散層の導電率は300Sm-1、微多孔層の導電率は300Sm-1、触媒層の導電率は300Sm-1、プロトン交換膜の導電率は300Sm-1である。
触媒層の空孔率は0.3、微多孔層の空孔率は0.4、ガス拡散層の空孔率は0.6である。
【0030】
実際の出力電圧における運転状態1のパラメータに基づいて、下記のようなシミュレーションモデルの初期パラメータを設定することと、
カソード、アノードの化学量論比はそれぞれ2.0、2.0である。
カソード、アノードの入口のガス圧力はそれぞれ、1.5atm、1.3atmである。
カソード、アノードの入口の相対湿度はそれぞれ60%、60%である。
カソード、アノードの入口のガス温度はそれぞれ80℃、80℃、燃料電池の運転温度は80℃である。
【0031】
いくつかの実施例では、第1の基礎運転状態が初期燃料電池シミュレーションモデルによって処理された後、第1のシミュレーション出力電圧を得る。シミュレーションモデルは、第1のシミュレーション出力電圧と第1の実際の出力電圧との間の最大相対偏差の絶対値RD1が10%より大きい場合、初期パラメータを較正して第1のパラメータを得るように、第1のシミュレーション実際の出力電圧における第1の基礎運転状態の分極曲線性能によって較正される。
【0032】
計算の結果、第1回目のモデルの較正過程において、第1の基礎運転状態のシミュレーション結果と実際の出力電圧との間の最大相対偏差の絶対値は7.3%であり、この時の対応する電流密度は約0.3Acm-2であった。
【0033】
実際の出力電圧における第2の基礎運転状態のパラメータに基づいて、第1のパラメータを調整し、第2のパラメータを得ることと、
カソード、アノードの化学量論比はそれぞれ2.0、2.0である。
カソード、アノードの入口のガス圧力はそれぞれ、1.5atm、1.3atmである。
カソード、アノードの入口の相対湿度はそれぞれ40%、40%である。
カソード、アノードの入口のガス温度はそれぞれ80℃、80℃、燃料電池の運転温度は80℃である。
【0034】
シミュレーションモデルが第2の基礎運転状態での第2のシミュレーション出力電圧に基づいて較正を行い、モデルシミュレーション結果を得て、第2の実際の出力電圧と比較して、第2のシミュレーション出力電圧と第2の実際の出力電圧の間の最大相対偏差の絶対値を得ることと、を含む。
【0035】
図3は、本願の実施例のシミュレーションと試験を組み合わせた燃料電池の性能最適化方法のシミュレーションモデルと基礎運転状態での実際の出力電圧との間の第1回目の較正状況を示す図である。
【0036】
いくつかの実施例では、計算の結果、第1回目のモデルの較正過程において、第2のシミュレーション出力電圧と第2のシミュレーション実際の出力電圧との間の最大相対偏差の絶対値は、22.7%であり、このとき、対応する電流密度は約1.7Acm-2であった。
【0037】
第2の基礎運転状態における第2シミュレーション出力電圧と第2の実際の出力電圧との間の最大相対偏差の絶対値が10%を超えたため、第1の基礎運転状態及び第2の基礎運転状態に対して再度検証と較正を行う必要がある。
【0038】
計算の結果、第2回目のモデルの較正過程において、第1のシミュレーション出力電圧と第1の実際の出力電圧との間の最大相対偏差の絶対値は3.3%であり、第2のシミュレーション出力電圧と第2の実際の出力電圧との間の最大相対偏差の絶対値は16.2%であったため、第1の基礎運転状態及び第2の基礎運転状態に対して再度検証と較正を行う必要がある。
【0039】
計算の結果、第3回目のモデルの較正過程において、第1のシミュレーション出力電圧と第1の実際の出力電圧との間の最大相対偏差の絶対値は3.9%であり、第2のシミュレーション出力電圧と第2の実際の出力電圧との間の最大相対偏差の絶対値は10.4%であったため、第1の基礎運転状態及び第2の基礎運転状態に対して再度検証と較正を行う必要がある。
【0040】
計算の結果、第4回目のモデルの較正過程において、第1のシミュレーション出力電圧と第1の実際の出力電圧との間の最大相対偏差の絶対値は2.9%であり、第2のシミュレーション出力電圧と第2の実際の出力電圧との間の最大相対偏差の絶対値は13.1%であったため、第1の基礎運転状態及び第2の基礎運転状態に対して再度検証と較正を行う必要がある。
【0041】
第2の実際の出力電圧と第2のシミュレーション出力電圧とを比較することにより、第2のシミュレーション出力電圧と第2の実際の出力電圧との間の最大相対偏差の絶対値RD2が10%より大きい場合、初期燃料電池シミュレーションモデルに較正する必要があるパラメータを第2のパラメータに設定し、第1の基礎運転状態に基づいて第2のパラメータをRD1が10%以下かつRD2が10%以下になるまで再度較正し、そして較正を完了し、較正燃料電池シミュレーションモデルを得る。
【0042】
第2の基礎運転状態RD
1とRD
2の計算式は以下の通りである。
【数7】
【0043】
図4は、本願の実施例のシミュレーションと試験を組み合わせた燃料電池の性能最適化方法のシミュレーションモデルと、基礎運転状態における実際の出力電圧との間の第5回目の較正状況を示す図である。
【0044】
いくつかの実施例では、計算の結果、第5回目のモデルの較正過程において、第1のシミュレーション出力電圧と第1の実際の出力電圧との間の最大相対偏差の絶対値が5.6%であり、このとき、対応する電流密度は約0.4Acm-2であった。第2のシミュレーション出力電圧と第2の実際の出力電圧との最大相対偏差の絶対値は6.8%であり、このときの対応する電流密度は約1.2Acm-2であった。
【0045】
図5は、本出願の実施例のシミュレーションと試験を組み合わせた燃料電池の性能最適化方法の全ての運転状態における相対湿度、化学量論比、温度の値の範囲を示す図である。
【0046】
具体的には、ステップ(4)は較正燃料電池シミュレーションモデルに基づき、G個の運転状態でそれぞれ燃料電池シミュレーション分析を行い、複数の標準出力電圧を得る。
Gの数はa×b×c×qである。
選択した化学量論比、相対湿度、温度、圧力の値は、以下の通りである。
【数8】
【0047】
いくつかの実施例では、燃料電池の運転状態に対して細分化処理を行い、複数の標準運転状態を取得し、較正燃料電池シミュレーションモデルに基づいて、複数の標準運転状態に対して燃料電池シミュレーション分析を行い、複数の標準出力電圧を取得する。燃料電池のテストとシミュレーション需要に基づいて、シミュレーション分析中の運転状態の値の範囲を設定し、その中、相対湿度の値の範囲は[50%、90%]、化学量論比の値の範囲は[1.5、2.5]、温度の値の範囲は[70、80]、アノード、カソード圧力の値の範囲は1.5atm、1.3atmとする。
【0048】
線形補間により、5つの相対湿度の値を選択し、それぞれ50%、60%、70%、80%、90%とした。
相対湿度={50%,60%,70%,80%,90%}
線形補間により、4つの化学量論比の値を選択し、それぞれ1.5、1.8、2.0、2.5とした。
化学量論比={1.5,1.8,2.0,2.5}
線形補間により、2つの温度の値を選択し、それぞれ70℃、80℃とした。
温度={70,80}
上記の運転状態は、順列と組み合わせの計算をすると、40組になる。
上記40組の運転状態で燃料電池シミュレーション分析を行い、モデル出力結果を得る。
【0049】
図6は、本願の実施例のシミュレーションと試験を組み合わせた燃料電池の性能最適化方法の全ての運転状態における燃料電池モデルの出力電圧を示す図である。
【0050】
いくつかの実施例では、ステップ(5)の燃料電池の性能評価関数式において、h、e、fはそれぞれ性能評価の重み係数であり、その数値はそれぞれ1/3、1/3、1/3である。
【0051】
上記の40組の運転状態でのモデル出力結果に基づいて、性能評価関数の数値を算出する。
【0052】
上記燃料電池の性能評価関数の計算結果に基づいて、標準出力電圧の評価値が最大となる対応する運転状態を選択し、これを最適運転状態と定義する。
いくつかの実施例では、最適運転状態は、相対湿度90%、化学量論比2.5、温度70℃である第1のグループと、相対湿度80%、化学量論比2.5、温度80℃である第2のグループとの2つのグループが計算される。
【0053】
最適運転状態での燃料電池の性能を分析したところ、性能向上の理由は、相対湿度の上昇により燃料電池内部の水輸送が改善され、プロトン伝導性が向上し、オーム損失が低減されること、化学量論比の増加により燃料電池内部により多くの反応ガスが供給され、活性化損失も低減されることによると考えられる。
【0054】
図7は、本願の実施例のシミュレーションと試験を組み合わせた燃料電池の性能最適化方法の全ての運転状態における燃料電池の性能評価関数の数値図である。
【0055】
具体的には、いくつかの実施例では、ステップ(6)において、燃料電池製品を燃料電池の試験台に設置し、ガス供給配管、電子負荷等を接続する。
【0056】
燃料電池製品の気密性検査が合格した後、最適運転状態のパラメータに基づいて、試験台のテスト運転状態を設定して燃料電池製品をテストし、その出力電圧と電流密度との関係図を得る。
【0057】
この実施例では、シミュレーション手段と試験手段の組み合わせにより、燃料電池の運転状態の最適化に必要な試験数と試験周期を低減することができ、かつ、シミュレーション結果の信頼性と正確率を向上させることができ、シミュレーション手段の最適化における役割をより良く発揮し、最終的に低い試験コストと短い開発周期で燃料電池製品の性能向上を実現する。
【0058】
図8は、本出願の実施例のシミュレーションと試験を組み合わせた燃料電池の性能最適化方法の最適運転状態と基礎運転状態での燃料電池の分極曲線の性能を示す図である。
【0059】
計算の結果、燃料電池の性能評価関数の数値で、最適運転状態での性能は、基礎運転状態での性能よりそれぞれ8.4%、9.7%向上した。
【0060】
計算の結果、最適運転状態での燃料電池のシミュレーション結果と実際の出力電圧との最大相対偏差の絶対値はそれぞれ6.1%、6.9%であった。
【0061】
図9は、本願の実施例のシミュレーションと試験を組み合わせた燃料電池の性能最適化方法の最適運転状態でのシミュレーションモデルの結果と実際の出力電圧との比較を示す図である。
【0062】
なお、
図10には、上記性能最適化方法に対応して、シミュレーションと試験を組み合わせた燃料電池の性能最適化装置が示されているが、上記性能最適化方法における具体的な技術内容は、この装置にも適用可能であり、重複を避けるため、ここでは説明を省略する。
【0063】
シミュレーションと試験を組み合わせた燃料電池の性能最適化装置であって、
初期燃料電池シミュレーションモデルを作成し、初期燃料電池シミュレーションモデルによって初期出力電圧を得る初期シミュレーションモデル作成モジュールと、
燃料電池に対してベンチテストを行い、複数の基礎運転状態での燃料電池の複数の実際の出力電圧を得る基礎実測モジュールと、
複数の実際の出力電圧に基づいて燃料電池シミュレーションモデルを較正し、較正燃料電池シミュレーションモデルを得る較正モジュールと、
複数の基礎運転状態に対して細分化処理を行い、複数の標準運転状態を得て、較正燃料電池シミュレーションモデルに基づき、複数の標準運転状態に対して燃料電池シミュレーション分析を行い、複数の標準出力電圧を得るシミュレーション細分化モジュールと、
燃料電池の性能評価関数を作成し、複数の標準出力電圧をそれぞれ燃料電池の性能評価関数に入力し、最適標準出力電圧を得て、最適標準出力電圧に対応する標準運転状態を最適運転状態とする最適評価モジュールと、
最適運転状態に基づいて、ベンチテストを行い、燃料電池の最適実際の出力電圧を得て、最適実際の出力電圧と最適標準出力電圧を比較して、燃料電池の出力電圧の最適化結果を得る最適化検証モジュールと、を含むことを特徴とする。
【0064】
本出願は、電子機器を更に開示した。
図11は、本発明の一実施例に係る電子機器の構成を示すブロック図である。電子機器100は、
図11に示すように、システムの1つ以上のプロセッサにより実行される命令を記憶するメモリ101と、システムのプロセッサの1つであって、シミュレーションと試験を組み合わせた燃料電池の性能最適化方法を実行するプロセッサ102とを備える。
【0065】
本発明のフローチャートは、本発明の実施例に係る方法のステップを説明するために用いられる。なお、前後のステップは必ずしも順序通りに正確に行われるとは限らない。逆に、種々のステップを逆順に処理してもよいし、同時に処理してもよい。また、これらのプロセスに他の操作を追加することも可能である。
【0066】
当業者であれば、上述した方法のステップの全部または一部が、コンピュータプログラムによって関連するハードウェアに命令して完了させてもよく、プログラムは、読み出し専用メモリ、磁気ディスク、または光ディスクなどのコンピュータ可読記憶媒体に格納されてもよいことを理解するであろう。あるいは、上述の実施例のステップの全部または一部は、1つまたは複数の集積回路を使用して実現されてもよい。また、上記実施例における各モジュール/ユニットは、ハードウェアにより実現されてもよいし、ソフトウェア機能モジュールにより実現されてもよい。本開示は、ハードウェアおよびソフトウェアの特定の形態の組み合わせに限定されない。
【0067】
本明細書において使用される全ての用語は、特に断らない限り、本開示が属する技術分野における通常の知識を有する者によって共通に理解されるのと同じ意味を有する。また、通常の辞書に定義されているような用語は、本明細書で明示的に定義されていない限り、理想化された、または極端に形式的な意味を適用して解釈されるべきではなく、関連技術の文脈における意味と一致する意味を有するものとして解釈されるべきであることも理解されたい。
【0068】
以上が本発明の説明であり、これに限定されるものではない。本開示のいくつかの例示的な実施例を説明したが、当業者であれば、本開示の新規の教示および利点から逸脱することなく、例示的な実施例に多くの変更を加えることができることを容易に理解するであろう。したがって、このような修正は、特許請求の範囲に記載された本発明の範囲に含まれるものである。以上が本発明の説明であり、開示された特定の実施例に限定されると考えられるべきではなく、開示された実施形態および他の実施形態に対する変更は、添付の特許請求の範囲の範囲内に含まれることを理解されたい。本開示は、特許請求の範囲及びその等価物によって規定される。
【0069】
本明細書の説明において、用語「1つの実施例」、「いくつかの実施例」、「例示的な実施例」、「例」、「特定の例」、または「いくつかの例」などの記載は、その実施例または例に関連して説明される特定の特徴、構造、材料、または特性が、本願の少なくとも1つの実施例または例に含まれることを意味する。なお、本明細書において、上記の用語の概略表現は、必ずしも同一の実施例又は例を示すものではない。さらに、記載された特定の特徴、構造、材料、または特性は、任意の1つまたは複数の実施例または例において、適切な方法で組み合わせることができる。
【0070】
上記の説明は単に本出願の好ましい実施例であり、本出願を制限することを意図するものではなく、本出願の精神及び原則の範囲内で、いかなる修正、均等物の置換、改良などを行っても、本出願の保護範囲に含まれるものとする。
【手続補正書】
【提出日】2023-01-24
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
シミュレーションと試験を組み合わせた燃料電池の性能最適化方法であって、
初期燃料電池シミュレーションモデルを作成し、前記初期燃料電池シミュレーションモデルによって初期出力電圧を得るステップと、
前記燃料電池に対してベンチテストを行い、複数の基礎運転状態での前記燃料電池の複数の実際の出力電圧を得るステップと、
複数の前記実際の出力電圧に基づいて前記初期燃料電池シミュレーションモデルを較正し、較正燃料電池シミュレーションモデルを得るステップと、
複数の前記基礎運転状態に対して細分化処理を行い、複数の標準運転状態を得て、前記較正燃料電池シミュレーションモデルに基づき、複数の前記標準運転状態に対して燃料電池シミュレーション分析を行い、複数の標準出力電圧を得るステップと、
燃料電池の性能評価関数を作成し、複数の前記標準出力電圧をそれぞれ前記燃料電池の性能評価関数に入力し、最適標準出力電圧を得るステップであって、前記最適標準出力電圧に対応する前記標準運転状態を最適運転状態とするステップと、
前記最適運転状態に基づいて、前記ベンチテストを行い、燃料電池の最適実際の出力電圧を得て、前記最適実際の出力電圧と前記最適標準出力電圧を比較して、前記燃料電池の出力電圧の最適化結果を得るステップと、を含むこと
、
前記燃料電池に対してベンチテストを行い、複数の基礎運転状態での前記燃料電池の複数の実際の出力電圧を得るステップにおいて、
前記燃料電池の第1の基礎運転状態と第2の基礎運転状態を設置することと、
それぞれ前記第1の基礎運転状態と前記第2の基礎運転状態に基づいて前記燃料電池に対してベンチテストを行い、第1の実際の出力電圧と第2の実際の出力電圧を得ることとを含むこと
複数の前記基礎運転状態に対して細分化処理を行い、複数の標準運転状態を得て、前記較正燃料電池シミュレーションモデルに基づき、複数の前記標準運転状態に対して燃料電池シミュレーション分析を行い、複数の標準出力電圧を得るステップにおいて、
化学量論比の値の範囲[STmin,STmax]、相対湿度の値の範囲[RHmin,RHmax]、温度の値の範囲[Tmin,Tmax]、圧力の値の範囲[Pmin,Pmax]に基づいて、前記基礎運転状態の値の範囲を設定することと、
前記基礎運転状態の値の範囲に基づいて、線形補間の方式により、a個の前記化学量論比の値、b個の前記相対湿度の値、c個の前記温度の値、q個の前記圧力の値を選択して、G個の前記標準運転状態を得ることであって、a、b、c、qはすべて正の整数であることと、
前記較正燃料電池シミュレーションモデルに基づき、G個の前記標準運転状態でそれぞれ燃料電池シミュレーション分析を行い、G個の前記標準出力電圧を得ることと、を含むこと
燃料電池の性能評価関数を作成し、複数の前記標準出力電圧をそれぞれ前記燃料電池の性能評価関数に入力し、最適標準出力電圧を得るステップであって、前記最適標準出力電圧に対応する前記標準運転状態を最適運転状態とするステップにおいて、
燃料電池の性能評価関数を作成し、G個の前記標準出力電圧に基づいて、G個の標準出力電圧の評価値を得ることと、
G個の前記標準出力電圧の評価値の中で最も高い評価値に対応する前記標準出力電圧を前記最適標準出力電圧とし、かつ前記最適標準出力電圧に対応する前記標準運転状態を最適運転状態とすることであって、前記最適運転状態の化学量論比はMx1、相対湿度はRHx2、温度はTx3、圧力はPx4であることと、を含み、
前記燃料電池の性能評価関数Funの式は、
【数9】
式(1)において、V
out
は出力電圧であり、I
low
,I
mid
,I
high
はそれぞれ低電流密度、中電流密度、高電流密度であり、その数値はG個の前記標準出力電圧から決定され、h、e、fはそれぞれ性能評価の重み係数であり、その数値は範囲[0,1]の中の正の実数であり、
前記最適運転状態は、
【数10】
という条件を満たすことを特徴とするシミュレーションと試験を組み合わせた燃料電池の性能最適化方法。
【請求項2】
前記初期燃料電池シミュレーションモデルは、ガス輸送シミュレーション、水輸送シミュレーションおよび温度輸送シミュレーションを含み、前記初期出力電圧を、前記ガス輸送シミュレーション、前記水輸送シミュレーションおよび前記温度輸送シミュレーションに基づいて求めることを特徴とする請求項1に記載のシミュレーションと試験を組み合わせた燃料電池の性能最適化方法。
【請求項3】
前記出力電圧の最適化結果は、前記出力電圧と電流密度との関係図であることを特徴とする請求項1に記載のシミュレーションと試験を組み合わせた燃料電池の性能最適化方法。
【請求項4】
シミュレーションと試験を組み合わせた燃料電池の性能最適化装置であって、
初期燃料電池シミュレーションモデルを作成し、前記初期燃料電池シミュレーションモデルによって初期出力電圧を得る初期シミュレーションモデル作成モジュールと、
前記燃料電池に対してベンチテストを行い、前記複数の基礎運転状態での燃料電池の複数の実際の出力電圧を得る基礎実測モジュールと、
複数の前記実際の出力電圧に基づいて前記燃料電池シミュレーションモデルを較正し、較正燃料電池シミュレーションモデルを得る較正モジュールと、
複数の前記基礎運転状態に対して細分化処理を行い、複数の標準運転状態を得て、前記較正燃料電池シミュレーションモデルに基づき、複数の前記標準運転状態に対して燃料電池シミュレーション分析を行い、複数の標準出力電圧を得るシミュレーション細分化モジュールと、
燃料電池の性能評価関数を作成し、複数の前記標準出力電圧をそれぞれ前記燃料電池の性能評価関数に入力し、最適標準出力電圧を得るモジュールであって、前記最適標準出力電圧に対応する前記標準運転状態を最適運転状態とする最適評価モジュールと、
前記最適運転状態に基づいて、前記ベンチテストを行い、燃料電池の最適実際の出力電圧を得て、前記最適実際の出力電圧と前記最適標準出力電圧を比較して、燃料電池の出力電圧の最適化結果を得る最適化検証モジュールと、を含むこと
請求項1乃至請求項3のいずれか1つの燃料電池の性能最適化方法を実行すること
を特徴とする燃料電池の性能最適化装置。
【請求項5】
電子機器であって、
システムの1つ以上のプロセッサによって実行される命令を記憶するメモリと、システムのプロセッサの1つであって、請求項1乃至請求項3のいずれか1つの燃料電池の性能最適化方法を実行するためのプロセッサと、を備えることを特徴とする電子機器。