(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024037396
(43)【公開日】2024-03-19
(54)【発明の名称】ガスバリアフィルム
(51)【国際特許分類】
B32B 27/32 20060101AFI20240312BHJP
B65D 65/40 20060101ALN20240312BHJP
【FI】
B32B27/32 102
B65D65/40 D
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022142239
(22)【出願日】2022-09-07
(71)【出願人】
【識別番号】000003193
【氏名又は名称】TOPPANホールディングス株式会社
(72)【発明者】
【氏名】岡重 柊汰
【テーマコード(参考)】
3E086
4F100
【Fターム(参考)】
3E086AB01
3E086BA04
3E086BA15
3E086BA24
3E086BB02
3E086BB05
4F100AA19B
4F100AK07A
4F100AK24C
4F100AT00
4F100BA03
4F100EH662
4F100EH66B
4F100EJ522
4F100EJ52B
4F100EJ58B
4F100EJ642
4F100EJ64B
4F100GB15
4F100JD02
(57)【要約】
【課題】高いバリア性を有する、酸化アルミニウム蒸着膜を備えるバリアフィルムを提供する。
【解決手段】ポリプロピレンを主成分とする基材と、前記基材の第一面上に前処理層を有し、前記前処理層において、表面自由エネルギーの極性成分が2.0mJ/mm
2以上であり、前記前処理層に形成された酸化アルミニウム蒸着膜を備え、前記酸化アルミニウム蒸着膜は蒸着膜表面からの赤外吸収スペクトルにおいて、Al-O結合に由来する960cm
-1以上990cm
-1以下の吸収ピークのピーク面積に対する、OH結合に由来する3100cm
-1以上3700cm
-1以下の吸収ピークのピーク面積の比を蒸着膜厚で割った値が3.0以下であることを特徴とする、ガスバリアフィルム。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材と前処理層と蒸着層をこの順で備え、
前記基材はポリプロピレンを含み、
前記前処理層は、表面自由エネルギーの極性成分が2.0mJ/mm2以上であり、
前記蒸着層は酸化アルミニウム蒸着膜であり、蒸着膜表面からの赤外吸収スペクトルにおいて、Al-O結合に由来する960cm-1以上990cm-1以下の吸収ピークのピーク面積に対する、OH結合に由来する3100cm-1以上3700cm-1以下の吸収ピークのピーク面積の比を蒸着膜厚で割った値が3.0以下である、ことを特徴とするガスバリアフィルム。
【請求項2】
前記酸化アルミニウム蒸着膜の膜厚が3nm以上20nm以下である、請求項1に記載のガスバリアフィルム。
【請求項3】
前記酸化アルミニウム蒸着膜の膜厚が8nm以上20nm以下であり、40℃-90%RHの測定条件において、前記ガスバリア層形成後の水蒸気透過度が1.0g/m2・day以下である、請求項1に記載のガスバリアフィルム。
【請求項4】
前記蒸着層上にオーバーコート層を備える請求項1~3いずれか一項に記載のガスバリアフィルム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、食品、医薬品、精密電子部品等の包装に適しているガスバリアフィルムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
食品や医薬品に用いられる包装材料において、内容物の変質を抑制し、それらの機能や性質を保持する観点から、内容物を変質させ、包装材料を透過する酸素や水蒸気、その他の気体を遮断するガスバリア性が求められることがある。また、ガスバリア性を有する包装材料として、温度、湿度などの影響が少ないアルミ等の金属箔をガスバリア層として用いたガスバリアフィルムが知られている。
【0003】
ガスバリアフィルムの他の構成として、高分子材料で形成された基材フィルム上に、酸化珪素、酸化アルミニウム等の無機酸化物の蒸着膜を真空蒸着やスパッタ等により形成したフィルムが知られている(例えば特許文献1参照。)。これらのガスバリアフィルムは、透明性及び酸素、水蒸気等のガス遮断性を有する。また、基材フィルムとしては、ポリエチレンテレフタレート(PET)製のものがよく用いられている。
【0004】
蒸着膜として酸化アルミニウムを用いたバリアフィルムのバリア性を更に高める方法として、酸化アルミニウムとアルミ水酸化物との分布に着目し、アルミ水酸化物の面上に酸化アルミニウム膜を堆積させる方法が知られている。(例えば特許文献2および特許文献3参照)
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開昭60-49934号公報
【特許文献2】特開2021-41697号公報
【特許文献3】特開2021-45929号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献2の方法では、アルミ水酸化物の面上に酸化アルミニウム蒸着膜を形成することで、より緻密な酸化アルミニウムが形成され、プラスチックフィルムの面上に直接堆積する酸化アルミニウムよりも、優れたバリア性を備えることが可能になる。しかしながら、蒸着膜形成時にプラズマアシスト法による蒸着を併用する必要があり、プラズマアシスト法なしでは十分なバリア性を得ることが出来ていない。、
【0007】
特許文献3の方法では、アルミ水酸化物の面上に酸化アルミニウム蒸着膜を形成することで、より緻密な酸化アルミニウムが形成され、プラスチックフィルムの面上に直接堆積する酸化アルミニウムよりも、優れたバリア性を備えることが可能になる。しかしながら、15nm以上の蒸着膜を形成する必要があり、蒸着膜厚が15nm未満の場合、蒸着時のプラズマアシストを併用しても十分なバリア性を得ることが出来ていない。
【0008】
そこで本開示は、プラズマアシストを併用せずに、薄膜でも水蒸気に対して十分なガスバリア性能を有する酸化アルミニウム蒸着層を備えたガスバリアフィルムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の第一の態様は、基材と前処理層と蒸着層をこの順で備え、前記基材はポリオレフィンを含み、前記前処理層は、表面自由エネルギーの極性成分が2.0mJ/mm2以上であり、前記蒸着層は酸化アルミニウム蒸着膜であり、蒸着膜表面からの赤外吸収スペクトルにおいて、Al-O結合に由来する960cm-1以上990cm-1以下の吸収ピークのピーク面積に対する、OH結合に由来する3100cm-1以上3700cm-1以下の吸収ピークのピーク面積の比を蒸着膜厚で割った値が3.0以下であることを特徴とする、ガスバリアフィルム。
【0010】
本発明の第二の態様は、前記蒸着層上にさらにオーバーコート層を備えるガスバリアフィルム。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、プラズマアシストを併用せずに、薄膜でも水蒸気に対して十分なガスバリア性能を有する酸化アルミニウム蒸着層を備えたガスバリアフィルムを提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】本発明の一実施形態に係るガスバリアフィルムの模式断面図である。
【
図2】実施例1と比較例1における、750cm
-1から1000cm
-1の赤外吸収スペクトルを示すグラフである。
【
図3】実施例1と比較例1における、3000cm
-1から4000cm
-1の赤外吸収スペクトルを示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本開示において、水蒸気バリア性は水蒸気透過度(WVTR)で評価し、値が小さいほどバリア性が良好であることを意味する。本開示ではWVTRは3.0[g/(m2・day)]以下のときバリア性が良好であるとし、1.0[g/(m2・day)]以下であることがより好ましい。
【0014】
以下、本発明の一実施形態について、
図1を参照して説明する。
【0015】
図1は本実施形態に係るガスバリアフィルム1の模式断面図である。ガスバリアフィルム1は基材10と、前処理層20と、蒸着層30を備えている。
【0016】
[基材]
本発明で用いられる基材10は、ポリプロピレンを主成分とする2以上の樹脂層を有する。本実施形態の基材10は、基層11と、基層に積層された表層12との2つの樹脂層を有し、未延伸フィルム、延伸フィルムのいずれでもよい。延伸フィルムを用いる場合、延伸倍率に特に制限はない。
【0017】
2以上の樹脂層を有する基材10は、例えば、共押出により形成できる。基層11および表層12の合計である基材10の総厚は、例えば3~200μmとでき、15~60μmが好ましい。
【0018】
基材10の各層の原料となる樹脂としては、入手の平易さ、水蒸気バリア性、および環境への付加を抑制する観点から、ポリプロピレンを主成分とする。ポリプロピレンは、ホモポリマー、ランダムコポリマー、ブロックコポリマー、ターポリマーのいずれであってもよい。ホモポリマーはプロピレン単体のみからなるポリプロピレンである。ランダムコポリマーは、主モノマーであるプロピレンと、プロピレンとは異なる種類のコモノマーがランダムに共重合し均質的な相をなすポリプロピレンである。ブロックコポリマーは、主モノマーであるプロピレンと上記コモノマーがブロック的に共重合したり、ゴム状に重合
したりすることによって不均質な相をなすポリプロピレンである。ターポリマーは、主モノマーであるプロピレンと、プロピレンとは異なる2種類のコモノマーが共重合したポリプロピレンである。これらのポリオレフィン系樹脂は、いずれか1種を単独で用いてもよく、2種以上をブレンドして用いてもよい。基層11は、ホモポリマー、ランダムコポリマー、ブロックコポリマーのいずれでもよい。表層12は、ランダムコポリマー、ブロックコポリマー、ターポリマーのうち少なくとも1つを含むことが好ましい。また、基材10の各層の原料となる樹脂は、例えばポリプロピレンを主成分とする限り、ポリプロピレンを含む樹脂と、ポリプロピレン以外のポリマーを含む樹脂とをブレンドしたものでも良い。混錬したものでも良い。
【0019】
基材10上に形成される各層は、基材10の両面に形成されてもよい。基材10の片面もしくは両面に周知の種々の添加剤や安定剤、例えば帯電防止剤、紫外線防止剤、酸化防止剤、可塑剤、滑剤などがあってもよい。
【0020】
[前処理層]
蒸着層30を形成する前に、基材10に前処理層20を形成する。コロナ処理では上記極性成分が高くなりにくく、バリア性や密着性の向上が不十分となる可能性がある。前処理層20は、上記極性成分が高くなりやすいプラズマ処理が好ましい。生産性の観点からインラインで行うことが可能なプラズマ処理が好ましい。プラズマ処理の方法としてはグロー放電など特に限定されず、プラズマ密度を高めるために磁石を用いても良い。単位面積当たりのプラズマ処理強度において、プラズマ処理強度が高すぎる場合、基材がダメージを受けてバリア性が低下する可能性があるため、1000W・sec/m2以下であることが好ましい。またプラズマ処理を行う際に使用するガスは酸素、窒素、アルゴンのいずれかもしくは複数から選択することができる。酸素ガスを用いた場合、基材に多くの酸素元素を多く取り込める分、基材表面の活性基を効率よく増やすことが出来、表面自由エネルギーの極性成分が上がりやすくなるため、プラズマ処理を行う際に使用するガスは酸素が好ましい。
【0021】
前処理層の表面自由エネルギーの極性成分は、各成分が既知の2~3種類の液体を用いて、表面自由エネルギーが未知の個体との接触角を求めれば、理論計算により算出することが出来る。本発明者らは、Owens-Wendt-Rabel-Kaelble法を用いて前処理層の表面自由エネルギーの極性成分が2.0mJ/mm2以上5.0mJ/mm2以下であると、良好なガスバリア性が得られることを見出した。この良好なガスバリア性を得られるメカニズムについては成膜の緻密性に関すると考えられる。極性成分が2.0mJ/mm2以上であると酸化アルミニウムが堆積しやすく、緻密な膜になると考えられる。一方で極性成分が5.0mJ/mm2以上であると基材が劣化しバリア性が低下する。前処理層表面の表面自由エネルギーの極性成分は2.0mJ/mm2以上5.0mJ/mm2以下の範囲が好ましく、2.5mJ/mm2以上4.0mJ/mm2以下がより好ましい。
【0022】
[蒸着層]
本実施形態のガスバリアフィルム1は、良好なガスバリア性能を発揮するガスバリア層(蒸着層30)を有する。
【0023】
蒸着層30は、酸化アルミニウムを主成分としており、酸素、水蒸気等の所定の気体に対してバリア性を発揮する層である。蒸着層30は、透明でも、不透明でもいずれでもよい。
【0024】
前処理層表面の極性成分を上述の範囲に収めることで欠陥の比較的少なく結晶性の高い緻密な酸化アルミニウム蒸着層を形成できると考えられる。酸化物表面の結合末端はOH
基で収束する。そのため欠陥の少ない酸化アルミニウム蒸着膜は膜中のOH基量も少なくなる。結晶性が比較的高く緻密に成膜することで膜中のOH基量を少なくすることができる。従ってOH基量を一定以下にすることで良好なバリア性を得ることができる。
【0025】
上記のように好ましい膜質の酸化アルミニウム蒸着層は、膜厚に対するOH基の量が一定以下となる。蒸着層30は、蒸着膜表面からの赤外吸収スペクトルにおいて、Al-O結合に由来する960cm-1以上990cm-1以下の吸収ピークのピーク面積に対する、OH結合に由来する3100cm-1以上3700cm-1以下の吸収ピークのピーク面積の比を蒸着膜厚で割った値が3.0以下である。この時、今回定義の好ましい水蒸気バリア性を持つガスバリアフィルムを得ることができることを見出した。
【0026】
蒸着層30の厚さは、用いられる無機化合物の種類・構成・成膜方法により異なるが、一般的には3~300nmの範囲内で適宜設定できる。蒸着層30の厚さが3nm未満であると、均一な膜が得られないことや膜厚が十分ではないことがあり、ガスバリア層としての性能が不十分になる可能性がある。蒸着層30の厚さが300nmを越えると、蒸着層30が硬くなり、成膜後に折り曲げ、引っ張りなどの外的要因により、蒸着層30に亀裂を生じてバリア性を失う可能性がある。また、特に包装材として用いた際、ガスバリアフィルムの光透過性は高いことが望ましく、蒸着層は薄膜であることが好ましい。従って、蒸着層30の厚さは、3~300nmの範囲内が好ましく、8~20nmの範囲内がより好ましい。
【0027】
蒸着層30の形成方法に制限はなく、例えば真空蒸着法、スパッタリング法、イオンプレーティング法、プラズマ気相成長法(CVD)などを使用できる。
【0028】
本開示の第二の態様において、蒸着層30上に任意のオーバーコート層を備えていてもよい。オーバーコート層が酸素バリア性を有すれば、酸素バリア性と水蒸気バリア性の両方を有するガスバリアフィルムになる。
【0029】
オーバーコート層は特に限定はしないが好ましい例として、ポリカルボン酸系重合体(A)のカルボキシ基と多価金属化合物(B)との反応生成物であるカルボン酸の多価金属塩を含む皮膜(ポリカルボン酸の多価金属塩皮膜)が挙げられる。この場合、ポリカルボン酸系重合体(A)と多価金属化合物(B)を混合したコーティング剤を塗布、加熱乾燥することで形成されるポリカルボン酸の多価金属塩皮膜であっても、ポリカルボン酸系重合体(A)を主成分とするコーティング剤を塗布、乾燥してA皮膜を形成した上に、多価金属化合物(B)を主成分とするコーティング剤を塗布、乾燥してB皮膜を形成し、A/B層間で架橋反応させて形成されるポリカルボン酸の多価金属塩皮膜であっても構わない。
【0030】
[ポリカルボン酸系重合体(A)]
ポリカルボン酸系重合体とは、分子内に2個以上のカルボキシ基を有する重合体である。ポリカルボン酸系重合体としては、たとえば、エチレン性不飽和カルボン酸の(共)重合体;エチレン性不飽和カルボン酸と他のエチレン性不飽和単量体との共重合体;アルギン酸、カルボキシメチルセルロース、ペクチン等の分子内にカルボキシル基を有する酸性多糖類が挙げられる。エチレン性不飽和カルボン酸としては、例えば、アクリル酸、メタクリル酸、イタコン酸、マレイン酸、フマル酸、クロトン酸等が挙げられる。エチレン性不飽和カルボン酸と共重合可能なエチレン性不飽和単量体としては、例えば、エチレン、プロピレン、酢酸ビニル等の飽和カルボン酸ビニルエステル類、アルキルアクリレート類、アルキルメタクリレート類、アルキルイタコネート類、塩化ビニル、塩化ビニリデン、スチレン、アクリルアミド、アクリロニトリル等が挙げられる。これらのポリカルボン酸系重合体は1種を単独で用いても、2種以上を混合して用いてもよい。
【0031】
ポリカルボン酸系重合体(A)を主成分とするコーティング剤を塗布、乾燥してA皮膜を形成した後にB皮膜を形成する場合には、ポリカルボン酸系重合体は、カルボキシ基の一部が予め塩基性化合物で中和されていてもよい。ポリカルボン酸系重合体の有するカルボキシ基の一部を予め中和することにより、A皮膜の耐水性や耐熱性をさらに向上させることができる。塩基性化合物としては、多価金属化合物、一価金属化合物およびアンモニアからなる群から選択される少なくとも1種の塩基性化合物が好ましい。多価金属化合物としては、後述する多価金属化合物(B)の説明で例示する化合物を用いることができる。一価金属化合物としては、例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等が挙げられる。
【0032】
ポリカルボン酸系重合体(A)を主成分とするコーティング剤に用いる溶媒は水性媒体が好ましい。水性媒体としては、水、水溶性または親水性有機溶剤、またはこれらの混合物が挙げられる。水性媒体は通常、水または水を主成分として含むものである。水性媒体中の水の含有量は、70質量%以上が好ましく、80質量%以上がより好ましい。水溶性または親水性有機溶剤としては、例えば、メタノール、エタノール、イソプロパノール等のアルコール類、アセトン、メチルエチルケトン等のケトン類、テトラヒドロフラン等のエーテル類、セロソルブ類、カルビトール類、アセトニトリル類のニトリル類等が挙げられる。
【0033】
[多価金属化合物(B)]
多価金属化合物は、ポリカルボン酸系重合体のカルボキシル基と反応してポリカルボン酸の多価金属塩を形成する化合物であれば特に限定されず、酸化亜鉛粒子、酸化マグネシウム粒子、マグネシウムメトキシド、酸化銅、炭酸カルシウム等が挙げられる。これらを単独或いは複数を混合して用いてもよい。酸素バリア性皮膜の酸素バリア性の観点から酸化亜鉛が好ましい。
【0034】
酸化亜鉛は紫外線吸収能を有す無機材料であり、酸化亜鉛粒子の平均粒子径は特に限定されないが、ガスバリア性、透明性、コーティング適性の観点から、平均粒子径が5μm以下であることが好ましく、1μm以下であることがより好ましく、0.1μm以下であることが特に好ましい。
【0035】
コーティング剤に用いる溶媒は、溶媒に可溶または分散可能な樹脂を含有することが好ましい。これにより、コーティング剤の塗工性、製膜性が向上する。このような樹脂としては、例えば、アルキッド樹脂、メラミン樹脂、アクリル樹脂、ウレタン樹脂、ポリエステル樹脂、フェノール樹脂、アミノ樹脂、フッ素樹脂、エポキシ樹脂、イソシアネート樹脂等が挙げられる。
【0036】
また、コーティング剤に用いる溶媒に可溶又は分散可能な分散剤を含有することが好ましい。これにより、多価金属化合物の分散性が向上する。該分散剤としては、アニオン系界面活性剤や、ノニオン系界面活性剤を用いることができる。該界面活性剤としては、(ポリ)カルボン酸塩、アルキル硫酸エステル塩、アルキルベンゼンスルホン酸塩、アルキルナフタレンスルホン酸塩、アルキルスルフォコハク酸塩、アルキルジフェニルエーテルジスルホン酸塩、アルキルリン酸塩、芳香族リン酸エステル、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルフェノールエーテル、ポリオキシエチレンアルキルエステル、アルキルアリル硫酸エステル塩、ポリオキシエチレンアルキルリン酸エステル、ソルビタンアルキルエステル、グリセリン脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、蔗糖脂肪酸エステル、ポリエチレングリコール脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビタンアルキルエステル、ポリオキシエチレンアルキルアリルエーテル、ポリオキシエチレン誘導体、ポリオキシエチレンソルビトール脂肪酸エステル、ポリオキシ脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンアルキルアミン等の各種界面活性剤が挙げられる。これらの界面活性剤は単独で用いても、2種以上を混合して用いてもよい。
【0037】
ポリカルボン酸系重合体(A)と多価金属化合物(B)を混合したコーティング剤を塗布、乾燥してポリカルボン酸の多価金属塩皮膜を形成する場合には、前記したポリカルボン酸系重合体(A)と前記した多価金属化合物(B)と、水またはアルコール類を溶媒として、該溶媒に溶解或いは分散可能な樹脂や分散剤、および必要に応じて添加剤を混合して、コーティング剤として、公知のコーティング方法にて塗布、乾燥することで、ポリカルボン酸の多価金属塩皮膜を形成することができる。コート法として、例えばキャスト法、ディッピング法、ロールコート法、グラビアコート法、スクリーン印刷法、リバースコート法、スプレーコート法、キットコート法、ダイコート法、メタリングバーコート法、チャンバードクター併用コート法、カーテンコート法等が挙げられる。
【実施例0038】
本実施形態のガスバリアフィルムについて、実施例および比較例を用いてさらに説明する。本発明は実施例および比較例の具体的内容により、何ら限定されない。
【0039】
(実施例1)
基材10として、厚み20μmの二軸延伸ポリプロピレンフィルムを用い、前処理層20として、O2ガスでのプラズマ処理層を500W・sec/m2の処理強度で形成した。処理強度の算出は以下の通りである。
電力密度[W/m2]= 投入電力[W]/カソード面積[m2]
処理時間[sec]= 電極MD幅[m]/処理速度[m/sec]
処理強度= 電力密度[W/m2]・処理時間[sec]
【0040】
以上の条件でプラズマ処理を施した後、連続で真空装置内において、電子ビームによりアルミニウムを蒸発させるとともに、酸素を供給しながら酸化アルミニウムからなる、厚み13.5nmの蒸着層30を形成した。
【0041】
(実施例2)
蒸着層30として、厚み9.5nmで形成した点を除き、実施例1と同様にして、実施例2のガスバリアフィルムを作成した。
【0042】
(実施例3)
蒸着層30として、厚み19.1nmで形成した点を除き、実施例1と同様にして、実施例3のガスバリアフィルムを作成した。
【0043】
(実施例4)
蒸着層30として、酸素流量を少なくして、厚み12.4nmで形成した点を除き、実施例1と同様にして、実施例4のガスバリアフィルムを作成した。
【0044】
(実施例5)
蒸着層30として、厚み7.0nmで形成した点を除き、実施例1と同様にして、実施例5のガスバリアフィルムを作成した。
【0045】
(比較例1)
前処理層20をコロナ処理で形成し、厚み9.4nmで蒸着層30を形成した点を除き、実施例1と同様にして、比較例1のガスバリアフィルムを作成した。
【0046】
各実施例、比較例における評価項目および測定方法を以下に示す。
【0047】
(基材表面の表面自由エネルギー測定)
基材表面の表面自由エネルギーは、各成分が既知の2~3種類の液体を用いて、表面自由エネルギーが未知の個体との接触角を求めることで、理論計算によって表面自由エネルギー(極性成分p+分散成分d)算出することが可能である。
【0048】
極性成分pとは極性分子による電荷の偏りによる成分であり、互いの分子同士で生ずる相互作用は、水素結合の場合は距離の1乗に逆比例して作用し、その他の分子間力の場合では距離の3~5乗に逆比例して作用する。一方、分散成分dは無極性分子同士の電荷の偏りによる成分であり、互いの分子同士で生ずる相互作用は距離の7乗に逆比例して作用する。したがって、分散成分dは極性成分pに比べて相互作用への寄与が極めて小さく、密着性とブロッキング性への寄与を無視することができる。
【0049】
本発明では、協和界面化学社製の接触角計(DMs-401)付随のソフトウェアを使用して、Owens-Wendt-Rabel-Kaelble(WORK、Kaelble-Uy)法による表面自由エネルギーの算出を行った。なお、算出する際に用いる各成分が既知の液体として、水・ジョードメタン・n-ヘキサデカンを用いた。
【0050】
(FT-IR分析)
FT-IR分析は、日本分光社製のフーリエ変換赤外分光光度計(FT/IR-4600)を用いて、下記測定条件で行った。
・測定方法:反射ATR法(バリアフィルムの蒸着膜表面側から)
・測定雰囲気:大気
・測定温度:室温
・ATR結晶:ゲルマニウム(波数範囲600-5500cm-1)
・分解能:4.0cm-1
・積算回数:64回
【0051】
図2と
図3のように得られた赤外吸収スペクトルにおいて、装置付属のソフトウェアを用いて、Al-O結合に由来するピーク面積(960-990cm
-1)とOH結合に由来するピーク面積(3100-3700cm
-1)それぞれでプロットを結ぶベースラインを引き、スペクトルおよびベースラインに囲まれた部分の面積を算出した。
【0052】
(ガスバリア性能評価)
上記手順で作製した実施例1~5、比較例1のそれぞれのガスバリアフィルムについて、モコン社製の水蒸気透過率測定装置(製品名:PERMATRAN3/34G、測定条件:40℃-90%RH、単位:g/m2・day)を用いて、水蒸気透過度(WVTR)を評価した。
【0053】
結果を表1に示す。
【0054】
【0055】
実施例1~5に係るガスバリアフィルムは、プラズマ処理によって基材表面の表面自由エネルギーの極性成分が2.0mJ/mm2以上かつ、その上に形成された酸化アルミニウム蒸着膜表面からの赤外吸収スペクトルにおいて、Al-O結合に由来する960cm-1以上990cm-1以下の吸収ピークのピーク面積に対する、OH結合に由来する3100cm-1以上3700cm-1以下の吸収ピークのピーク面積の比を蒸着膜厚で割った値が3.0以下であったため、水蒸気バリア性に優れていた。
【0056】
比較例1に係るガスバリアフィルムは、プラズマ処理を行わず、基材表面の表面自由エネルギーの極性成分が2.0mJ/mm2以上でなかったため、実施例1~5と比べて、水蒸気バリア性が劣っていた。