(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024037410
(43)【公開日】2024-03-19
(54)【発明の名称】温冷覚呈示装置、二点弁別閾測定方法、呈示部間距離算出方法、及びプログラム
(51)【国際特許分類】
A61B 10/00 20060101AFI20240312BHJP
G06F 3/01 20060101ALI20240312BHJP
【FI】
A61B10/00 X
G06F3/01 560
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022142263
(22)【出願日】2022-09-07
(71)【出願人】
【識別番号】504171134
【氏名又は名称】国立大学法人 筑波大学
(74)【代理人】
【識別番号】100165179
【弁理士】
【氏名又は名称】田▲崎▼ 聡
(74)【代理人】
【識別番号】100188558
【弁理士】
【氏名又は名称】飯田 雅人
(74)【代理人】
【識別番号】100175824
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 淳一
(74)【代理人】
【識別番号】100152272
【弁理士】
【氏名又は名称】川越 雄一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100181722
【弁理士】
【氏名又は名称】春田 洋孝
(72)【発明者】
【氏名】黒田 嘉宏
(72)【発明者】
【氏名】牧野 皓陽
(72)【発明者】
【氏名】キョ カイ
(72)【発明者】
【氏名】金子 暁子
【テーマコード(参考)】
5E555
【Fターム(参考)】
5E555AA48
5E555AA76
5E555BA38
5E555BB38
5E555BC13
5E555BE17
5E555DA24
5E555DD06
5E555FA00
(57)【要約】
【課題】一体感のある温冷覚を素早く提示できること。
【解決手段】温冷覚呈示装置は、冷気または熱気である空気を生成する空気生成部と、空気生成部によって生成された空気を吐出する複数の呈示部と、を備え、隣り合う呈示部同士の距離である呈示部間距離は、皮膚上の2点における冷覚または温覚を弁別するのに必要な最小の距離以下である。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
冷気または熱気である空気を生成する空気生成部と、
前記空気生成部によって生成された前記空気を吐出する複数の呈示部と、
を備え、
隣り合う前記呈示部同士の距離である呈示部間距離は、皮膚上の2点における冷覚または温覚を弁別するのに必要な最小の距離以下である
温冷覚呈示装置。
【請求項2】
前記複数の呈示部が固定されるとともにユーザの体に装着される装着部をさらに備える
請求項1に記載の温冷覚呈示装置。
【請求項3】
前記装着部は、前記装着部において前記複数の呈示部が固定される位置を変更する可変部をさらに備える
請求項2に記載の温冷覚呈示装置。
【請求項4】
前記空気生成部によって生成された前記冷気の流量を制御する制御部をさらに備え、
前記制御部は、表示装置によって仮想現実空間において表示される映像に連動して前記冷気の流量を制御する
請求項1に記載の温冷覚呈示装置。
【請求項5】
皮膚上の2点における冷覚または温覚を弁別するのに必要な最小の距離である二点弁別閾を測定する方法であって、
被験者の身体の表面の直上に、冷気または熱気である空気を生成する空気生成部によって生成された前記空気を吐出する呈示部である第1呈示部と、前記呈示部である第2呈示部とが配置され、
前記第1呈示部と前記第2呈示部との少なくとも一方の位置を前記第1呈示部と前記第2呈示部との間の距離が増加するように変化させながら前記距離毎に被験者が冷覚または温覚を2点に感じたか否かについての回答を示す上昇系列回答情報を取得することと、
前記第1呈示部と前記第2呈示部との少なくとも一方の位置を前記第1呈示部と前記第2呈示部との間の距離が減少するように変化させながら前記距離毎に被験者が冷覚または温覚を2点に感じたか否かについての回答を示す下降系列回答情報を取得することと、
前記上昇系列回答情報と、前記下降系列回答情報とに基づいて二点弁別閾を算出することと
を有する二点弁別閾測定方法。
【請求項6】
冷気または熱気である空気を生成する空気生成部と、前記空気生成部によって生成された前記空気を吐出する複数の呈示部と、を備える温冷覚呈示装置における複数の呈示部相互間の距離である呈示部間距離を算出する方法であって、
前記呈示部から前記空気が吐出される皮膚表面と前記呈示部との間の距離の値と、前記呈示部の径の値と、単一噴流のよどみ点におけるヌセルト数と、前記よどみ点におけるヌセルト数に対する、隣り合った前記呈示部から吐出される噴流同士が衝突する位置である衝突点におけるヌセルト数の比とを取得することと、
取得した前記よどみ点におけるヌセルト数と、取得した前記比とに基づいて、前記衝突点におけるヌセルト数を算出することと、
取得した前記距離の値と、取得した前記径の値と、算出した前記衝突点におけるヌセルト数とから、前記よどみ点からの距離を前記呈示部の径によって無次元化した値が所定の値より大きい場合におけるヌセルト数と前記よどみ点からの距離との線形関係に基づいて、前記よどみ点から前記衝突点までの距離を前記呈示部間距離の最大値として算出することと
を有する呈示部間距離算出方法。
【請求項7】
皮膚上の2点における冷覚または温覚を弁別するのに必要な最小の距離である二点弁別閾を測定するためのプログラムであって、
被験者の身体の表面の直上に、冷気または熱気である空気を生成する空気生成部によって生成された前記空気を吐出する呈示部である第1呈示部と、前記呈示部である第2呈示部とが配置され、
コンピュータに、
前記第1呈示部と前記第2呈示部との少なくとも一方の位置を前記第1呈示部と前記第2呈示部との間の距離が増加するように変化させながら前記距離毎に被験者が冷覚または温覚を2点に感じたか否かについての回答を示す上昇系列回答情報を取得するステップと、
前記第1呈示部と前記第2呈示部との少なくとも一方の位置を前記第1呈示部と前記第2呈示部との間の距離が減少するように変化させながら前記距離毎に被験者が冷覚または温覚を2点に感じたか否かについての回答を示す下降系列回答情報を取得するステップと、
前記上昇系列回答情報と、前記下降系列回答情報とに基づいて二点弁別閾を算出するステップと
を実行させるためのプログラム。
【請求項8】
冷気または熱気である空気を生成する空気生成部と、前記空気生成部によって生成された前記空気を吐出する複数の呈示部と、を備える温冷覚呈示装置における複数の呈示部相互間の距離である呈示部間距離を算出するためのプログラムであって、
コンピュータに、
前記呈示部の径の値と、単一噴流のよどみ点におけるヌセルト数と、前記よどみ点におけるヌセルト数に対する、隣り合った前記呈示部から吐出される噴流同士が衝突する位置である衝突点におけるヌセルト数の比とを取得するステップと、
前記呈示部から前記空気が吐出される皮膚表面と前記呈示部との間の距離の値と、取得した前記よどみ点におけるヌセルト数と、取得した前記比とに基づいて、前記衝突点におけるヌセルト数を算出するステップと、
取得した前記距離の値と、取得した前記径の値と、算出した前記衝突点におけるヌセルト数とから、前記よどみ点からの距離を前記呈示部の径によって無次元化した値が所定の値より大きい場合におけるヌセルト数と前記よどみ点からの距離との線形関係に基づいて、前記よどみ点から前記衝突点までの距離を前記呈示部間距離の最大値として算出するステップと
を実行させるためのプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、温冷覚呈示装置、二点弁別閾測定方法、呈示部間距離算出方法、及びプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、被験者の皮膚に対して温冷覚を提示する技術が提案されている。被験者の皮膚に接触させて温度刺激を与える装置が知られている(例えば、特許文献1)。また、非接触で温冷覚を提示する技術が知られている(例えば、非特許文献1、非特許文献2)。非特許文献1に記載の技術では、ミスト、または温風を用いて非接触で温冷覚を提示する。非特許文献2に記載の技術では、冷気流を用いて非接触で温冷覚を提示する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】P. Han, C. Hsieh, Y. Chen, J. Hsiao, K. Lee, S. Ko, K.Chen, C. Chou, Y. Hung、AoEs: Enhancing Teleportation Experience in Immersive Environment with Mid-Air Haptics、「SIGGRAPH ‘17: ACM SIGGRAPH 2017 Emerging Technologies July 2017 Article No.: 3」、2017年7月30日、p.1-2
【非特許文献2】J. Xu, S. Yoshimoto, N. Ienaga, Y. Kuroda、Intensity-Adjustable Non-contact Cold Sensation Presentation Based on the Vortex Effect、「IEEE Transactions on Haptics」、2022年7月1日、p.1-11
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に記載の技術によると、被験者の皮膚に接触させて温度刺激を与えるため、自然な感覚を与えることができない場合があった。非特許文献1に記載の技術では、被験者の周辺の空気を入れ替える。非特許文献1に記載の技術によると、提示される温冷覚は部屋の温度及び大きさなどに大きく依存し、提示に要する時間が長くなるとともに使用電力が大きくなってしまう。非特許文献2に記載の技術によると、一体感のある温冷覚を提示することができなかった。
上述したように従来技術によると、一体感のある温冷覚を素早く提示できなかった。
【0006】
本発明は上記の点に鑑みてなされたものであり、一体感のある温冷覚を素早く提示できる温冷覚呈示装置、二点弁別閾測定方法、呈示部間距離算出方法、及びプログラムを提供する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は上記の課題を解決するためになされたものであり、本発明の一態様は、冷気または熱気である空気を生成する空気生成部と、前記空気生成部によって生成された前記空気を吐出する複数の呈示部と、を備え、隣り合う前記呈示部同士の距離である呈示部間距離は、皮膚上の2点における冷覚または温覚を弁別するのに必要な最小の距離以下である温冷覚呈示装置である。
【0008】
また、本発明の一態様は、上記の冷覚呈示装置において、前記複数の呈示部が固定されるとともにユーザの体に装着される装着部をさらに備える。
【0009】
また、本発明の一態様は、上記の冷覚呈示装置において、前記装着部は、前記装着部において前記複数の呈示部が固定される位置を変更する可変部をさらに備える。
【0010】
また、本発明の一態様は、上記の冷覚呈示装置において、前記空気生成部によって生成された前記冷気の流量を制御する制御部をさらに備え、前記制御部は、表示装置によって仮想現実空間において表示される映像に連動して前記冷気の流量を制御する。
【0011】
また、本発明の一態様は、皮膚上の2点における冷覚または温覚を弁別するのに必要な最小の距離である二点弁別閾を測定する方法であって、被験者の身体の表面の直上に、冷気または熱気である空気を生成する空気生成部によって生成された前記空気を吐出する呈示部である第1呈示部と、前記呈示部である第2呈示部とが配置され、前記第1呈示部と前記第2呈示部との少なくとも一方の位置を前記第1呈示部と前記第2呈示部との間の距離が増加するように変化させながら前記距離毎に被験者が冷覚または温覚を2点に感じたか否かについての回答を示す上昇系列回答情報を取得することと、前記第1呈示部と前記第2呈示部との少なくとも一方の位置を前記第1呈示部と前記第2呈示部との間の距離が減少するように変化させながら前記距離毎に被験者が冷覚または温覚を2点に感じたか否かについての回答を示す下降系列回答情報を取得することと、前記上昇系列回答情報と、前記下降系列回答情報とに基づいて二点弁別閾を算出することとを有する二点弁別閾測定方法である。
【0012】
また、本発明の一態様は、冷気または熱気である空気を生成する空気生成部と、前記空気生成部によって生成された前記空気を吐出する複数の呈示部と、を備える温冷覚呈示装置における複数の呈示部相互間の距離である呈示部間距離を算出する方法であって、前記呈示部から前記空気が吐出される皮膚表面と前記呈示部との間の距離の値と、前記呈示部の径の値と、単一噴流のよどみ点におけるヌセルト数と、前記よどみ点におけるヌセルト数に対する、隣り合った前記呈示部から吐出される噴流同士が衝突する位置である衝突点におけるヌセルト数の比とを取得することと、取得した前記よどみ点におけるヌセルト数と、取得した前記比とに基づいて、前記衝突点におけるヌセルト数を算出することと、取得した前記距離の値と、取得した前記径の値と、算出した前記衝突点におけるヌセルト数とから、前記よどみ点からの距離を前記呈示部の径によって無次元化した値が所定の値より大きい場合におけるヌセルト数と前記よどみ点からの距離との線形関係に基づいて、前記よどみ点から前記衝突点までの距離を前記呈示部間距離の最大値として算出することとを有する呈示部間距離算出方法である。
【0013】
また、本発明の一態様は、皮膚上の2点における冷覚または温覚を弁別するのに必要な最小の距離である二点弁別閾を測定するためのプログラムであって、被験者の身体の表面の直上に、冷気または熱気である空気を生成する空気生成部によって生成された前記空気を吐出する呈示部である第1呈示部と、前記呈示部である第2呈示部とが配置され、コンピュータに、前記第1呈示部と前記第2呈示部との少なくとも一方の位置を前記第1呈示部と前記第2呈示部との間の距離が増加するように変化させながら前記距離毎に被験者が冷覚または温覚を2点に感じたか否かについての回答を示す上昇系列回答情報を取得するステップと、前記第1呈示部と前記第2呈示部との少なくとも一方の位置を前記第1呈示部と前記第2呈示部との間の距離が減少するように変化させながら前記距離毎に被験者が冷覚または温覚を2点に感じたか否かについての回答を示す下降系列回答情報を取得するステップと、前記上昇系列回答情報と、前記下降系列回答情報とに基づいて二点弁別閾を算出するステップとを実行させるためのプログラムである。
【0014】
また、本発明の一態様は、冷気または熱気である空気を生成する空気生成部と、前記空気生成部によって生成された前記空気を吐出する複数の呈示部と、を備える温冷覚呈示装置における複数の呈示部相互間の距離である呈示部間距離を算出するためのプログラムであって、コンピュータに、前記呈示部の径の値と、単一噴流のよどみ点におけるヌセルト数と、前記よどみ点におけるヌセルト数に対する、隣り合った前記呈示部から吐出される噴流同士が衝突する位置である衝突点におけるヌセルト数の比とを取得するステップと、前記呈示部から前記空気が吐出される皮膚表面と前記呈示部との間の距離の値と、取得した前記よどみ点におけるヌセルト数と、取得した前記比とに基づいて、前記衝突点におけるヌセルト数を算出するステップと、取得した前記距離の値と、取得した前記径の値と、算出した前記衝突点におけるヌセルト数とから、前記よどみ点からの距離を前記呈示部の径によって無次元化した値が所定の値より大きい場合におけるヌセルト数と前記よどみ点からの距離との線形関係に基づいて、前記よどみ点から前記衝突点までの距離を前記呈示部間距離の最大値として算出するステップとを実行させるためのプログラムである。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、一体感のある温冷覚を素早く提示できる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】本発明の第1の実施形態に係る冷覚呈示装置の構成の一例を示す図である。
【
図2】本発明の第2の実施形態に係る二点弁別閾測定システムの構成の一例を示す斜視図である。
【
図3】本発明の第2の実施形態に係る二点弁別閾測定システムの構成の一例を示す上面図である。
【
図4】本発明の第2の実施形態に係る二点弁別閾測定システムによる二点弁別閾の測定方法の一例を示す図である。
【
図5】本発明の第2の実施形態に係る二点弁別閾測定システムによる二点弁別閾の測定手順の一例を示す図である。
【
図6】本発明の第2の実施形態に係る極限法に基づいて冷気流の冷覚二点弁別閾を測定した結果の一例を示す図である。
【
図7】本発明の第2の実施形態に係る二点弁別閾測定装置の機能構成の一例を示す図である。
【
図8】本発明の第2の実施形態に係る二点弁別閾算出処理の一例を示す図である。
【
図9】本発明の第2の実施形態の第1の変形例に係る一体感ある冷覚提示の条件を示す図である。
【
図10】本発明の第2の実施形態の第1の変形例に係る流量の大小による噴流の振る舞いとヌセルト数との関係を示す図である。
【
図11】本発明の第2の実施形態の第1の変形例に係る理論式から導かれた定量的なヌセルト数のグラフを流量毎に示す図である。
【
図12】本発明の第2の実施形態の第1の変形例に係る単一噴流のヌセルト数とよどみ点SP1からの距離の関係図を示す図である。
【
図13】本発明の第2の実施形態の第1の変形例に係る呈示部間距離が一体感のある冷覚を提示するための条件を満たす呈示部の配置の一例を示す図である。
【
図14】本発明の第2の実施形態の第1の変形例に係る呈示部間距離算出装置の機能構成の一例を示す図である。
【
図15】本発明の第2の実施形態の第1の変形例に係る呈示部間距離算出処理の一例を示す図である。
【
図16】本発明の第2の実施形態の第1の変形例に係る各流量における冷覚二点弁別閾のヌセルト数の比を示す図である。
【
図17】本発明の第2の実施形態の第2の変形例に係る呈示部間距離を決定する第3の方法の一例を示す図である。
【
図18】本発明の第2の実施形態の第2の変形例に係る呈示部間距離を決定する第3の方法の一例を示す図である。
【
図19】本発明の第2の実施形態の第2の変形例に係る呈示部間距離を決定する第3の方法の一例を示す図である。
【
図20】本発明の第2の実施形態に係る呈示部の1次元の配置の一例を示す図である。
【
図21】本発明の第2の実施形態の比較例に係る呈示部の2次元の配置を示す図である。
【
図22】本発明の第2の実施形態に係る呈示部の2次元の配置の一例を示す図である。
【
図23】本発明の第3の実施形態に係る装着デバイスの外観の一例を示す斜視図である。
【
図24】本発明の第3の実施形態に係る装着デバイスの外観の一例を示す上面図である。
【
図25】本発明の第3の実施形態の第1の変形例に係る装着デバイスの外観の一例を示す斜視図である。
【
図26】本発明の第3の実施形態の第2の変形例に係る装着デバイスの外観の一例を示す斜視図である。
【
図27】本発明の第3の実施形態に第2の変形例に係る装着デバイスの外観の一例を示す背面図である。
【
図28】本発明の第3の実施形態の第3の変形例に係る装着デバイスの外観の一例を示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
(第1の実施形態)
以下、図面を参照しながら本発明の実施形態について詳しく説明する。
図1は、本実施形態に係る冷覚呈示装置1の構成の一例を示す図である。なお、以下において必要な場合にはX軸Y軸Z軸の三次元直交座標系を用いて説明する。なお、各実施形態の説明において、「提示」と「呈示」とは同義である。
【0018】
冷覚呈示装置1は、冷気生成部2と、チューブ3と、複数の呈示部4と、制御部5とを備える。
図1に示す一例では、複数の呈示部4の数は2つである。
【0019】
冷気生成部2は、所定流量の冷気6を生成する。冷気生成部2では、ボルテックスチューブが冷気源として利用される。当該ボルテックスチューブは、エアコンプレッサ(不図示)から供給される圧縮空気を渦流にして暖気と冷気とに分離する。冷気生成部2は、ボルテックスチューブにおいて分離された暖気と冷気とのうち、冷気をチューブ3に出力する。
【0020】
チューブ3は、冷気生成部2に接続される。チューブ3は、複数に分岐しており、それぞれの先端にノズルを有する。
図1に示す一例では、チューブ3は2つに分岐している。チューブ3は、冷気生成部2によって生成された冷気6を複数の呈示部4それぞれに導く。
【0021】
複数の呈示部4は、冷気生成部2によって生成された冷気6を吐出する。複数の呈示部4はそれぞれ、チューブ3が分岐した先端に吐出口を有する。吐出口は、ノズルである。呈示部4は、ユーザの皮膚表面に冷気6を吐出する。ここで呈示部4は、冷気6が皮膚表面に対して略垂直な方向から吐出される向きに備えらえる。呈示部4が有する吐出口と皮膚表面とは接しておらず、複数の呈示部4は、非接触で冷覚を呈示する。なお、各ノズルの最大流量は25L/minである。
【0022】
ここで呈示部間距離D1は、隣り合う呈示部4同士の距離である。皮膚上の2点における冷覚または温覚を弁別するのに必要な最小の距離を二点弁別閾という。冷覚呈示装置1では、呈示部間距離D1は、二点弁別閾以下である。
【0023】
制御部5は、例えば、所定のプログラムによって動作するコンピュータを備えており、冷覚呈示装置1の各部を制御する。例えば、制御部5は、冷気生成部2によって生成された冷気の流量を制御する。制御部5は、冷気生成部2に備えられる電磁弁を制御することによって冷気の流量を制御する。制御部5は、電磁弁を制御において、電磁弁の開度をPWM(パルス幅変調)電流に応じた開度に変更する。なお、流量の制御には、冷気の吐出の開始、及び停止が含まれる。
【0024】
冷覚呈示装置1では呈示部間距離D1が二点弁別閾以下であるため、ユーザは、2つの呈示部4によって皮膚上の2点それぞれに冷気が吐出される場合に、当該2点における冷覚を弁別できない。そのため、ユーザには、一体感のある冷覚が提示される。
【0025】
一体感のある冷覚とは、皮膚上の2点において冷覚が弁別できない程度に1つにまとまった感覚のことをいう。例えば、人が氷や水といった冷たい物体に手を入れた時に物体と触れている部位が冷たいものに包まれた感覚を感じ、南極や雪山にいる際は、露出している皮膚のまわりが寒い空気に覆われているように感じる。このように人は冷たいまたは寒い体験をする際に、物体あるいは空気と触れている皮膚面一帯が別々ではなく1つのまとまった冷たさを感じる。
【0026】
近年、バーチャルリアリティ(Virtual Reality:VR)への関心が高まり、視覚提示及び触覚提示に加えて、温度感覚提示の研究が盛んに行われている。温度感覚は、寒いまたは暑いといった環境からある物体に触れた際の物体の特性まで表現できる。そのため、視覚提示に加えて温度感覚をユーザに提示することにより臨場感が向上し、よりVR空間へ没入可能になると期待される。
【0027】
VR体験において温度感覚によって臨場感を向上させるためには、VR体験に連動して皮膚面に一体感ある冷空間を提示する必要がある。冷覚呈示装置1は、一体感のある冷覚をユーザに提示できるため、VR体験への利用が好適である。
図1では、一例として、ヘッドマウントディスプレイを装着したユーザに、滝に手を入れた時の腕まわり一帯に感じる冷覚が提示されている。
【0028】
冷覚呈示装置1によって冷気6が提示される時期と、VR空間において表示される映像との同期は、制御部5によって制御される。つまり、制御部5は、表示装置によってVR空間において表示される映像に連動して冷気6の流量を制御する。この構成により、冷覚呈示装置1では、VR体験において温度感覚によって臨場感を向上させることができる。
【0029】
なお、冷覚呈示装置1をユーザの体に装着して用いる具体例については、後述の第3の実施形態において説明する。
【0030】
なお、本実施形態では、複数の呈示部4の数が2つである場合の一例について説明したが、これに限られない。複数の呈示部4の数は3以上であってもよい。
上述したように呈示部間距離D1は、二点弁別閾以下の距離である。呈示部間距離D1は、二点弁別閾以下であるという条件を満たせば、複数の呈示部4の数、または冷覚呈示装置1の大きさなどに応じて決定されてよい。
【0031】
なお、冷気6が吐出される皮膚表面と呈示部4との間の距離(提示距離という)は、例えば、後述するH/d0≦4の条件を満たすように決定される。ここでHは提示距離であり、d0は呈示部4のノズル直径である。
【0032】
なお、本実施形態では、複数の呈示部4によって吐出される空気が冷気である場合の一例について説明したが、これに限られない。複数の呈示部4によって、熱気が吐出されてもよい。
【0033】
以上に説明したように、本実施形態に係る温冷覚呈示装置(本実施形態において、冷覚呈示装置1)は、空気生成部(本実施形態において、冷気生成部2)と、複数の呈示部4と、を備える。
空気生成部(本実施形態において、冷気生成部2)は、冷気または熱気である空気(本実施形態において、冷気6)を生成する。
複数の呈示部4は、空気生成部(本実施形態において、冷気生成部2)によって生成された空気(本実施形態において、冷気6)を吐出する。
隣り合う呈示部4同士の距離である呈示部間距離D1は、皮膚上の2点における冷覚または温覚を弁別するのに必要な最小の距離(つまり、二点弁別閾)以下である。
【0034】
この構成により、本実施形態に係る冷覚呈示装置1では、隣り合う呈示部4同士の距離を二点弁別閾以下にして空気を吐出できるため、一体感のある温冷覚を素早く提示することができる。
なお、温冷覚を素早く提示するとは、呈示部4から空気が吐出されるのとほぼ同時に温冷覚を呈示することをいう。従来技術(例えば、非特許文献1を参照)では、ファンから出る温風または冷風を一方向から体全体に当てることで人の体まわりの空気の環境そのものを変えることで冷たさを再現しているため、環境を再現するのに時間がかかっていた。本実施形態に係る冷覚呈示装置1では、体まわりの空気の環境そのものを変えて環境を再現する従来技術に比べて短い時間で温冷覚を提示できる。
【0035】
(第2の実施形態)
本実施形態では、冷覚呈示装置1における呈示部間距離D1を決めるための方法について説明する。本実施形態では、二点弁別閾を測定し、呈示部間距離D1を測定した二点弁別閾以下の距離として決定する。
図2は、本実施形態に係る二点弁別閾測定システム10の構成の一例を示す斜視図である。
図3は、本実施形態に係る二点弁別閾測定システム10の構成の一例を示す上面図である。二点弁別閾測定システム10は、二点弁別閾を測定するためのシステムである。
【0036】
二点弁別閾測定システム10は、ボルテックスチューブ11と、電磁弁12と、分岐部13と、チューブ14と、呈示部15と、アクチュエータ16とを備える。二点弁別閾測定システム10では、冷気流を生成するボルテックスチューブ11にチューブ14を介して呈示部15が結合されている。ボルテックスチューブ11から出力される冷気流は、分岐部13において二つに分流して、2本のチューブ14を介して2つの呈示部15にそれぞれ導かれる。
アクチュエータ16は、呈示部間距離D2を変更する。呈示部間距離D2は、2つの呈示部15の間の距離である。
【0037】
図4は、本実施形態に係る二点弁別閾測定システム10による二点弁別閾の測定方法の一例を示す図である。二点弁別閾測定システム10による二点弁別閾の測定では、呈示部間距離D2を10段階で変更する条件の下で、被験者の上腕外側に冷気流を提示した際の冷覚二点弁別閾を極限法を用いて測定した。呈示部間距離D2は、アクチュエータ16によって、50,70,90,110,130,150,170,190,210,及び230mmの10段階で変更された。なお、ディスプレイ19上に冷覚提示に応じた視覚映像を表示した場合と、視覚映像を表示しない場合の2つの場合について測定を行った。
【0038】
図4(C)に示すように、被験者の上腕は、呈示部15が有する吐出口から距離H1の位置に固定された。距離H1は、30mmである。被験者の上腕を吐出口から距離H1の位置に固定するために、
図4(B)に示す固定部111と、クッション112とが設置された。被験者が中指を固定部111に入れることで腕の位置が固定される。これによって、吐出口と上腕との距離を一定にした。
【0039】
また、測定中はしきり板110を被験者と二点弁別閾測定システム10との間に設置した。さらに、ノイズキャンセリングヘッドフォン18を被験者に装着させてホワイトノイズを流すことで視覚、及び聴覚による感覚への影響を抑制した。
ホットプレート17は、測定開始時時に被験者の上腕の皮膚温度を一定にする。緊急停止ボタン113は、測定を停止するためのボタンである。
【0040】
図5は、本実施形態に係る二点弁別閾測定システム10による二点弁別閾の測定手順の一例を示す図である。33℃に設定されたホットプレート17に前腕内側を30秒間置くことで皮膚温度を一定にする(ステップS1)。次に二点弁別閾測定システム10に腕を置く(ステップS2)。被検者へのタスクとして、呈示部15それぞれからの2つの冷刺激が提示される(ステップS3)。呈示部間距離D2を段階的に広げながら2つの呈示部15それぞれからの冷刺激を二点に感じるか否かについてキーボードを用いて「はい」または「いいえ」で回答していく(ステップS4)。1回の冷覚提示時間は3秒間である。呈示部間距離D2を段階的に広げてゆく系列を上昇系列という。
【0041】
上昇系列の終了後に再度、ホットプレート17に前腕内側を30秒間置き、皮膚温度を一定にする。最後に二点弁別閾測定システム10に腕を置き、呈示部間距離D2を段階的に狭めながら2つの呈示部15それぞれからの冷刺激を二点に感じるか否かについてキーボードを用いて「はい」または「いいえ」で回答していく。呈示部間距離D2を段階的に狭めてゆく系列を下降系列という。ステップS1からステップS4までの流れを1セットとして、冷気の流量を変更しながら3セットずつ測定を行う。さらに以上の測定を、合計で15試行行う。
【0042】
冷覚二点弁別閾の測定方法として、心理物理測定法の一種である極限法が知られている。極限法では、2つの冷覚を別々に感じない状態から提示を開始し、呈示部間距離D2を段階的に広げていき、冷覚を別々に感じたところで停止する(上昇系列)。一方で、冷覚を別々に感じている状態から呈示部間距離D2を段階的に狭めていき、別々に感じなくなったところで停止する(下降系列)。上昇系列と下降系列を繰り返すことで測定を行い、冷覚二点弁別閾は式(1)から導かれる。
【0043】
【0044】
二点弁別閾測定システム10によって極限法に基づいて冷気流の冷覚二点弁別閾を測定した結果を
図6に示す。
図6では、視覚映像が表示されていない場合と、視覚映像が表示された場合との両方の測定結果が示されている。
【0045】
視覚映像が表示されていない場合の測定結果では、流量が15L/minの時、冷覚二点弁別閾は132.5mmで最大の値をとった。流量が25L/minの時、冷覚二点弁別閾は124.4mmで最小の値となった。各流量における冷覚二点弁別閾の平均値は、129.1±2.943mmとなった。
【0046】
視覚映像が表示された場合の測定結果では、流量が5L/minの時、冷覚二点弁別閾は142.2mmで最大値をとり、流量が25L/minの時、冷覚二点弁別閾は133.3mmで最小値となった。各流量における冷覚二点弁別閾の平均値は、138.0±2.730mmとなった。
最後に、二元配置分散分析を行った結果、冷覚二点弁別閾は要因が流量(p=0.11)、映像(p=0.61)、相互作用(p=0.84)のいずれにおいても統計的な有意差はなかった。
【0047】
二点弁別閾測定システム10による測定結果によれば、流量が変化することで被験者が感じる冷気流の冷覚二点弁別閾はほとんど変化しなかった。また、二点弁別閾測定システム10による測定結果によれば、視覚映像の表示の有無による冷覚二点弁別閾への影響は見られなかった。
【0048】
ここで
図7を参照し、二点弁別閾測定システム10において用いられるコンピュータである二点弁別閾測定装置20について説明する。
図7は、本実施形態に係る二点弁別閾測定装置20の機能構成の一例を示す図である。二点弁別閾測定装置20は、呈示部位置変更部21と、回答情報取得部22と、算出部23と、出力部24とを備える。
【0049】
呈示部位置変更部21は、呈示部間距離D2を変更する。呈示部位置変更部21は、第1呈示部(呈示部15のうちの一方)と第2呈示部(呈示部15のうちの他方)との少なくとも一方の位置を呈示部間距離D2が増加するように変化させる。つまり、呈示部位置変更部21は、上昇系列に基づいて呈示部間距離D2を変化させる。また、呈示部位置変更部21は、第1呈示部と第2呈示部との少なくとも一方の位置を呈示部間距離D2が減少するように変化させる。つまり、呈示部位置変更部21は、下降系列に基づいて呈示部間距離D2を変化させる。なお、呈示部位置変更部21は、アクチュエータ16(
図2を参照)を制御することによって呈示部間距離D2を変更する。
【0050】
回答情報取得部22は、上昇系列回答情報と、下降系列回答情報とを取得する。上昇系列回答情報は、上昇系列に基づいて呈示部間距離D2が増加するように変化させられた場合に、上昇系列に含まれる呈示部間距離D2毎に被験者が冷覚を2点に感じたか否かについての回答を示す。下降系列回答情報は、下降系列に基づいて呈示部間距離D2が減少するように変化させられた場合に、下降系列に含まれる呈示部間距離D2毎に被験者が冷覚を2点に感じたか否かについての回答を示す。なお、回答情報取得部22は、キーボードから被験者による回答を取得する。
【0051】
算出部23は、上昇系列回答情報と、下降系列回答情報とに基づいて二点弁別閾を算出する。算出部23は、上述した式(1)に基づいて二点弁別閾を算出する。
出力部24は、算出部23によって算出された二点弁別閾を出力する。出力部24は、二点弁別閾を測定結果として、例えば、測定者によって使用されるコンピュータ、またはディスプレイ19などに出力する。
【0052】
なお、二点弁別閾測定装置20は、CPU(Central Processing Unit)と、主記憶装置と、補助記憶装置と、インタフェースとを備えるコンピュータである。呈示部位置変更部21と、回答情報取得部22と、算出部23と、出力部24との動作は、プログラムの形式で補助記憶装置に記憶されている。CPUは、プログラムを補助記憶装置から読み出して主記憶装置に展開し、当該プログラムに従って各部の動作を実行する。
【0053】
なお、ディスプレイ19に表示される視覚映像は、二点弁別閾測定装置20によってディスプレイ19に出力されてもよいし、二点弁別閾測定装置20とは別体のコンピュータによって出力されてもよい。
【0054】
次に
図8を参照し、二点弁別閾測定装置20が二点弁別閾を算出する処理である二点弁別閾算出処理について説明する。二点弁別閾算出処理は、上述した二点弁別閾測定システム10による測定におけるコンピュータ(つまり、二点弁別閾測定装置20)の処理に相当する。
図8は、本実施形態に係る二点弁別閾算出処理の一例を示す図である。
【0055】
ステップS10:回答情報取得部22は、第1呈示部と第2呈示部との間の距離が増加するように変化させられた場合に、上昇系列回答情報を取得する。
【0056】
ステップS20:回答情報取得部22は、第1呈示部と第2呈示部との間の距離が減少するように変化させられた場合に、下降系列回答情報を取得する。
【0057】
ステップS30:算出部23は、上昇系列回答情報と、下降系列回答情報とに基づいて二点弁別閾を算出する。
以上で、二点弁別閾測定装置20は、二点弁別閾算出処理を終了する。
【0058】
本実施形態に係る二点弁別閾測定システム10によれば、上昇系列回答情報と下降系列回答情報とに基づいて二点弁別閾を算出できるため、上昇系列回答情報と下降系列回答情報とのうち一方のみに基づいて算出を行う場合に比べて精度高く点弁別閾を算出できる。
【0059】
なお、本実施形態に係る二点弁別閾測定システム10は、糖尿病などの抹消神経障害の検査に用いられてもよい。
【0060】
(第2の実施形態の第1の変形例)
本実施形態では、ヌセルト数に基づいて一体感ある冷覚提示を行う。ヌセルト数とは、対流する流体の熱伝達と熱伝導の比を表した無次元数であり、ここでは気体が対象物体から熱を奪う能力を表す指標とすることができる。本実施形態では、呈示部4から吐出される冷気6を単一噴流という場合がある。
図9に、一体感ある冷覚提示の条件を示す。
図9のように単一噴流のよどみ点SP1における最大ヌセルト数Nu
maxと、提示範囲の任意の点におけるヌセルト数Nuとの比が所定(Xパーセント)以上になる距離で噴流群を重ねることで一体感ある冷覚提示を行う。
【0061】
一体感ある冷覚提示を行うためには、最大ヌセルト数Numaxと提示範囲の任意の点におけるヌセルト数Nuとの比が所定以上となることが必要である理由として、ヒトの知覚特性として相対的な変化を感じやすいことが考えられる。そのような知覚特性は、ウェーバーの法則などとして知られている。
【0062】
図10に、流量の大小による噴流の振る舞いとヌセルト数との関係を示す。物理的には、
図10(A)に示すように噴流の流量が多いと呈示部4から吐出される噴流61は、吐出される方向に直進しやすくなる。その結果、ヌセルト数の値を示すグラフG1からわかるように、よどみ点において非常に多くの熱が奪われ、よどみ点から離れた位置では相対的に熱の奪われ方が小さくなる。一方で、
図10(B)に示すように流量が少ない場合は呈示部4から吐出される噴流62は拡散しやすくなる。その結果、ヌセルト数の値を示すグラフG2からわかるように、よどみ点から離れた位置において相対的に熱の奪われ方は大きくなる。
【0063】
図11に、理論式から導かれた定量的なヌセルト数のグラフを流量毎に示す。
図10に示した流量とヌセルト数との定性的な関係は、
図11に示す理論式に基づく定量的な関係からも確認できる。
【0064】
噴流群によって一体感のある冷覚を呈示するために、呈示部間距離を適切に設定する必要がある。呈示部間距離を決定するにあたって、第1の方法と第2の方法との2通りの方法が考えられる。第1の方法とは、ヌセルト数に基づいて噴流による対象物体の各部位の熱の奪われる程度を導出する方法である。第2の方法とは、第1の実施形態において説明したように、人を対象とした測定により一体感ある冷覚として知覚される距離に基づいて呈示部間距離を決定する方法である。なお、第1の実施形態において説明した二点弁別閾測定システム10による測定結果によると、第1の方法によって得られる呈示部間距離と、第2の方法によって得られる呈示部間距離とは矛盾しない。
【0065】
図11に示した流量毎のヌセルト数のグラフは、噴流工学における理論式の定義域を拡張することで得る。本実施形態では、理論式の拡張について説明する。
単一噴流のよどみ点からの距離をr[mm]とし,ノズルの内径をd0[mm]とする。rをd0によって無次元化して得られる無次元数は、式(2)のように示される。
【0066】
【0067】
ここでよどみ点でのヌセルト数をNu0、ヌセルト数をNuとし、プラントル数をPrとし、レイノルズ数をReとし、提示距離をHとし、ノズル直径をd0とし、よどみ点からの距離をrとすると、噴流工学において、円形衝突噴流のよどみ点のヌセルト数の理論式は、H/d0≦4の場合、式(3)のように表される。
【0068】
【0069】
一方、2.5≦r/d0≦7.5,2×103≦Re≦4×105,2<H/d0<12の場合、式(4)のように表される。
【0070】
【0071】
式(4)において、Gは式(5)のように表され、Fは式(6)のように表される。
【0072】
【0073】
【0074】
また、0≦r/d0≦2.5の場合に位置xにおけるヌセルト数Nuxを式(7)のようにxの4次式で表す。
【0075】
【0076】
式(7)において、a,b,cはそれぞれ定数である。
【0077】
x=0において、式(7)によって示されるヌセルト数と、式(2)によって示されるヌセルト数とが互いに同じ値をもつという条件からcが求まる。また、x=2.5において式(4)によって示されるヌセルト数と式(7)によって示されるヌセルト数とが互いに同じ値をもつという条件、及びx=2.5において式(4)によって示されるヌセルト数をxで微分した値と式(7)によって示されるヌセルト数xで微分した値とが互いに同じ値をもつというヌセルト数の滑らかさの条件から、式(8)に示すような連立方程式が成り立つ。
【0078】
【0079】
式(8)をx=2.5の条件において解くことで式(7)の係数a,b,cが求められる。
【0080】
第1の実施形態における二点弁別閾測定システム10による測定結果から、よどみ点から衝突点までの距離は、r/d0≧7.5によって示される範囲に含まれると考えられる。
r/d0≧7.5の場合、ヌセルト数と距離との間に線形性があると仮定し、位置xにおけるヌセルト数Nuxを式(9)のように表す。
【0081】
【0082】
式(9)において、d,eはそれぞれ定数である。x=7.5において式(4)によって示されるヌセルト数と式(9)によって示されるヌセルト数とが互いに同じ値をもつという条件、及びx=7.5において式(4)によって示されるヌセルト数をxで微分した値と式(9)によって示されるヌセルト数xで微分した値とが互いに同じ値をもつという条件から得られる連立方程式を解くことで、d,eは求められる。つまり、d,eは、x=7.5でヌセルト数が連続かつ滑らかであるという条件から得られる連立方程式を解くことで求められる。
【0083】
図12は、本変形例に係る単一噴流のヌセルト数とよどみ点SP1からの距離の関係図を示す図である。ここで、隣り合った噴流同士が衝突する位置を衝突点という。
図12に示すグラフG3において、距離DX1は、よどみ点SP1から衝突点までの距離に対応する。衝突点におけるヌセルト数を、各噴流の最大ヌセルト数のX[%]であると仮定すると、衝突点におけるヌセルト数Nu
Mは、式(10)のように表される。
【0084】
【0085】
式(9)によって示されるヌセルト数Nuxに、式(10)によって示される衝突点におけるヌセルト数NuMを代入して、xについて解くと式(11)が得られる。
【0086】
【0087】
xは、式(2)に示したようにノズルの内径をd0によって無次元化された値であるため、距離の次元をもつrに戻すと式(12)が得られる。
【0088】
【0089】
式(12)によって示されるrは、単一噴流のよどみ点から衝突点までの距離に他ならない。
したがって、ヌセルト数を用いた場合の呈示部間距離は式(13)によって示される条件に基づいて決定される。
【0090】
【0091】
式(13)において、Lは呈示部間距離D2を示し、L1はよどみ点から衝突点までの距離の2倍の距離を示す。つまり、ヌセルト数を用いた場合の呈示部間距離がよどみ点から衝突点までの距離の2倍の距離未満であるという条件が、一体感のある冷覚を提示するための条件となる。
【0092】
図13に、呈示部間距離が式(13)によって示される一体感のある冷覚を提示するための条件を満たす呈示部4の配置の一例を示す。ただし、呈示部4それぞれから吐出される噴流は同様の伝熱条件をもつ気流であると仮定する。
【0093】
ここで
図14を参照し、ヌセルト数を用いた場合の呈示部間距離を算出するコンピュータである呈示部間距離算出装置30について説明する。
図14は、本変形例に係る呈示部間距離算出装置30の機能構成の一例を示す図である。呈示部間距離算出装置30は、取得部31と、衝突点ヌセルト数算出部32と、呈示部間距離算出部33と、出力部34と、記憶部35とを備える。
【0094】
取得部31は、呈示部間距離を算出するための入力パラメータを取得する。入力パラメータは、提示距離Hと、呈示部4の径の値d0と、単一噴流のよどみ点SP1における最大ヌセルト数Numaxと、比NuM/Numaxとからなる。比NuM/Numaxは、よどみ点SP1における最大ヌセルト数Numaxに対する隣り合った呈示部4から吐出される噴流同士が衝突する位置である衝突点CP1におけるヌセルト数NuMの比である。
【0095】
衝突点ヌセルト数算出部32は、取得部31が取得したよどみ点SP1におけるヌセルト数と、取得部31が取得した比NuM/Numaxとに基づいて、衝突点CP1におけるヌセルト数NuMを算出する。ここで衝突点ヌセルト数算出部32は、式(10)に基づいてヌセルト数NuMを算出する。
【0096】
呈示部間距離算出部33は、取得部31が取得した提示距離Hと、取得部31が取得した径の値d0と、衝突点ヌセルト数算出部32が算出した衝突点CP1におけるヌセルト数NuMとから、関係式情報A1に基づいてよどみ点SP1から衝突点CP1までの距離を呈示部間距離D1の最大値として算出する。関係式情報A1は、上述した式(2)から式(12)までの式を示す情報である。
【0097】
ここで式(12)は、式(9)によって示される所定の線形関係に基づいて導出された式である。所定の線形関係は、よどみ点SP1からの距離を呈示部4の径によって無次元化した値xが所定の値(つまりx=7.5)より大きい場合におけるヌセルト数とよどみ点SP1からの距離との線形関係である。したがって、呈示部間距離算出部33は、取得部31が取得した提示距離Hと、取得部31が取得した径の値d0と、衝突点ヌセルト数算出部32が算出した衝突点CP1におけるヌセルト数NuMとから、所定の線形関係に基づいて、よどみ点SP1から衝突点CP1までの距離を呈示部間距離D1の最大値として算出する。
【0098】
出力部34は、呈示部間距離算出部33によって算出された呈示部間距離の最大値を出力する。出力部34は、呈示部間距離の最大値を、冷覚呈示装置1の製造者によって使用されるコンピュータなどに出力する。
【0099】
記憶部35は、各種の情報を記憶する。記憶部35が記憶する情報には、関係式情報A1、最大ヌセルト数Numax、比NuM/Numaxが含まれる。
【0100】
なお、呈示部間距離算出装置30は、CPU(Central Processing Unit)と、主記憶装置と、補助記憶装置と、インタフェースとを備えるコンピュータである。取得部31と、衝突点ヌセルト数算出部32と、呈示部間距離算出部33と、出力部34との動作は、プログラムの形式で補助記憶装置に記憶されている。CPUは、プログラムを補助記憶装置から読み出して主記憶装置に展開し、当該プログラムに従って各部の動作を実行する。
【0101】
次に
図15を参照し、呈示部間距離算出装置30が呈示部間距離の最大値を算出する処理である呈示部間距離算出処理について説明する。
図15は、本変形例に係る呈示部間距離算出処理の一例を示す図である。
【0102】
ステップS110:取得部31は、入力パラメータを取得する。上述したように、入力パラメータは、呈示部4の径の値d0と、単一噴流のよどみ点SP1における最大ヌセルト数Numaxと、比NuM/Numaxとからなる。
【0103】
取得部31は、提示距離Hとしてキーボードなどから入力される値を取得する。取得部31は、呈示部4の径の値d0としてキーボードなどから入力される値を取得する。なお、上述した式(3)を導く過程においてはH/d0≦4の条件が仮定されているが、入力される提示距離H、及び径の値d0は、H/d0≦4の条件を満たす値でなくてもよい。
取得部31は、最大ヌセルト数Numaxを記憶部35から取得する。最大ヌセルト数Numaxは、上述した式(2)と文献値とから得られた値が予め記憶部35に記憶されている。
【0104】
取得部31は、比NuM/Numaxは記憶部35から取得する。比NuM/Numaxは予め記憶部35に記憶されている。ここで比NuM/Numaxは、例えば、二点弁別閾の測定結果に基づいて得られる。二点弁別閾の測定結果と、式(12)とから衝突点CP1でのヌセルト数NuMが得られる。
【0105】
二点弁別閾の測定には、例えば、上述した二点弁別閾測定システム10が用いられる。二点弁別閾測定システム10による測定結果から、よどみ点SP1にから衝突点CP1までの距離は、比NuM/Numaxの値にしておよそ21パーセントである。およそ21パーセントとは、より正確には20.95±1.851パーセントである。
【0106】
図16に、各流量における冷覚二点弁別閾のヌセルト数の比を示す。
図16に示すヌセルト数の比の値は、第1の実施形態における二点弁別閾測定システム10による測定結果と、本実施形態において説明した理論式に基づいて得られた値である。
【0107】
なお、二点弁別閾の測定には、二点弁別閾測定システム10以外の測定方法が用いられてもよい。また、比NuM/Numaxは、単一噴流についてヌセルト数が測定された結果に基づいて決定されてもよい。
【0108】
ステップS120:衝突点ヌセルト数算出部32は、取得部31が取得したよどみ点SP1におけるヌセルト数と、取得部31が取得した比Xとに基づいて、衝突点CP1におけるヌセルト数NuMを算出する。
【0109】
ステップS130:呈示部間距離算出部33は、取得部31が取得した提示距離Hと、取得部31が取得した径の値d0と、衝突点ヌセルト数算出部32が算出した衝突点CP1におけるヌセルト数NuMとから、所定の線形関係(つまり、式(12))に基づいて、よどみ点SP1から衝突点CP1までの距離を呈示部間距離D1の最大値として算出する。ここで呈示部間距離算出部33は、式(12)に含まれる定数d及びeの値を、関係式情報A1に基づいて、上述したようなx=7.5でヌセルト数が連続かつ滑らかであるという条件から得られる連立方程式を解くことによって算出する。
【0110】
ステップS140:出力部34は、呈示部間距離算出部33によって算出された呈示部間距離の最大値を出力する。
以上で、呈示部間距離算出装置30は、呈示部間距離算出処理を終了する。
【0111】
本変形例に係る呈示部間距離算出装置30によれば、ヌセルト数に基づいて呈示部間距離を算出できるため、噴流工学に基づく客観性が保証された値として呈示部間距離を算出できる。
【0112】
(第2の実施形態の第2の変形例)
上述した第2の実施形態の第1の変形例において説明したヌセルト数に基づく呈示部間隔の決定方法を第1の方法と呼ぶ。上述した第2の実施形態において説明した二点弁別閾測定システム10による呈示部間隔の決定方法を第2の方法と呼ぶ。第2の実施形態の第2の変形例では、第1の方法と第2の方法からそれぞれ得られた結果に基づいて、物理的側面と心理的側面を考慮した最適な呈示部間距離を決定する第3の方法について説明する。
【0113】
第3の方法は、以下の3つ方法のいずれかである。
方法3-1では、
図17に示すように、第1の方法と第2の方法からそれぞれ得られた呈示部間距離のうち短い方を呈示部間距離の最大値とする。方法3-1では、当該最大値以下の距離から呈示部間距離を選択する。
【0114】
方法3-2では、
図18に示すように、第1の方法と第2の方法からそれぞれ得られた呈示部間距離の算術平均を最適な呈示部間距離として決定する。
【0115】
方法3-3では、
図19に示すように、まず、第1の方法と第2の方法からそれぞれ得られた呈示部間距離の差分を算出する。方法3-3では、次に、当該差分を第1の方法と第2の方法からそれぞれ得られた呈示部間距離のうち短い方の呈示部間距離から減算して得られる距離の値を最適な呈示部間距離として決定する。
【0116】
以上、本実施形態では、呈示部間距離を決定する方法について説明したが、以下では具体的な呈示部4の配置について説明する。
【0117】
図20は、本実施形態に係る呈示部4の1次元の配置の一例を示す図である。呈示部4を1次元に配置する場合は、隣り合う噴流の衝突点CP1でのヌセルト数Nu
Mが最大ヌセルト数のX[%]になればよい。そのため、
図20に示すように衝突点CP1でのヌセルト数が最大ヌセルト数Nu
maxのX[%]になるように配置する。X[%]の値は、上述した比Nu
M/Nu
maxである。
【0118】
次に
図21及び
図22を参照し、呈示部4を2次元に配置する場合について説明する。
まず比較例として、
図21に示す呈示部4の2次元の配置について説明する。
図21に示す2次元の配置では、3つの呈示部4がそれぞれ正三角形の頂点上に配置されている。隣り合う噴流の衝突点CP1が最大ヌセルト数Nu
maxのX[%]になるようにすると、正三角形の中心GP1(内接円の中心)の位置でのヌセルト数Nu
MはX[%]以下になってしまう場合がある。一体感ある冷覚を感じるためには、提示されている範囲のヌセルト数が最大ヌセルト数Nu
maxのX[%]になっていなければいけない。
【0119】
そこで
図22に示すように正三角形の中心GP2の位置で最大ヌセルト数Nu
maxのX[%]で衝突するようにノズルを配置する。すると提示範囲全体のある任意の点におけるヌセルト数は、よどみ点SP1での最大ヌセルト数Nu
maxのX[%]以上の値となる。そのため、
図22に示す呈示部4の2次元の配置では、一体感ある冷覚提示が可能である。よって、呈示部4を2次元に配置する場合は、呈示部間距離D1がすべて等しいという仮定の下で、提示範囲内の任意の点におけるヌセルト数が最大ヌセルト数Nu
maxのX[%]以上の値となるように配置すればよい。
【0120】
なお、複数の呈示部4によって、熱気が吐出される場合、第2の変形例で説明した式(3)、式(4)、及び式(5)における各定数は熱気に応じた値に変更されることが好ましい。
【0121】
(第3の実施形態)
本実施形態では、上述した第1の実施形態に係る冷覚呈示装置1のデバイスとしての応用例について説明する。
図23は、本実施形態に係る装着デバイス100の外観の一例を示す斜視図である。
図24は、本実施形態に係る装着デバイス100の外観の一例を示す上面図である。装着デバイス100は、装着部101と、複数(一例として3本)のチューブ102と、コントローラー104とを備える。
【0122】
装着部101は、ユーザの腕に装着される。装着部101には、複数のチューブ102それぞれの先端部分である複数の呈示部103が固定される。コントローラー104は、ヘッドマウントディスプレイ(Head Mounted Display:HMD)を操作するためのコントローラーである。
【0123】
ここで呈示部間距離は、ユーザ毎に異なる。第1の変形例として、複数の呈示部が固定される位置が変更可能である装着デバイス100aについて説明する。
図25は、本実施形態の第1の変形例に係る装着デバイス100aの外観の一例を示す斜視図である。装着デバイス100aでは、装着デバイス100と装着部101aが異なる。装着部101aは、複数のロック穴105aと、レーン106aと、ストッパー107aとを備える。なお、ロック穴105aは、装着部101aの上面と下面とにそれぞれ設けられる。複数のロック穴105aは、一例として、等間隔に配置されている。
【0124】
ロック穴105a、及びレーン106aは、可変部を構成する。可変部は、装着部101aにおいて複数の呈示部103aが固定される位置を変更する。複数の呈示部103aは、レーン106a上に設置される。複数の呈示部103aは、レーン106aにロックキー(不図示)が差し込まれていない状態において、レーン106a上を摺動させることによって位置を変更可能である。呈示部間距離が決定したらロック穴105aにロックキーを装着部101aの上面と下面との両側からそれぞれ差し込むことによって、呈示部103aの位置が固定される。
【0125】
また、複数の呈示部103aの数が足りない場合は装着部101aの先端に設けられたストッパー107aを外し、新たな呈示部をレーン106a上に追加することができる。
【0126】
図25では、ロック穴105aが等間隔で配置され、装着部101a上の位置が固定される場合の一例について説明したが、これに限られない。ロック穴105aを装着部101a上で移動させる機構を備え、ロック穴105aの位置が変更可能とされてもよい。
また、ロック穴以外に呈示部を移動、及び固定ができる機構が装着部に備えられてもよい。当該機構には、例えば、モータ、または電磁力等の動力が利用される。
【0127】
装着部101aは可変部を備えることによって、複数の呈示部103aが固定される位置を変更可能であるため、装着部101aが装着されるユーザに応じて呈示部間距離を変更できる。
【0128】
図26は、本実施形態の第2の変形例に係る装着デバイス100bの外観の一例を示す斜視図である。
図27は、本実施形態に係る第2の変形例に係る装着デバイス100bの外観の一例を示す背面図である。装着デバイス100bは、装着部101bと、複数のチューブ102bと、取付部108bとを備える。装着デバイス100bは、一例として、ヘッドマウントディスプレイ200に取り付けられた状態で、ユーザの首に装着される。取付部108bは、装着部101bをヘッドマウントディスプレイ200に取り付ける。
【0129】
装着デバイス100bにおいても本実施形態の第1の変形例と同様に、複数の呈示部が固定される位置が変更可能とすることができる。
【0130】
図28は、本実施形態の第3の変形例に係る装着デバイス100cの外観の一例を示す斜視図である。装着デバイス100cは、装着部101cと、複数のチューブ102cとを備える。装着部101cは、複数のロック穴105cと、レーン106cと、ストッパー107cとを備える。ロック穴105c、及びレーン106cは、可変部を構成する。なお、ロック穴105cは、装着部101cの上面と下面とにそれぞれ設けられる。複数のロック穴105cは、一例として、等間隔で配置されている。
装着部101cにおいて、複数の呈示部103cが固定される位置を変更する方法は、
図25に示した装着部101aと同様であるため説明を省略する。
【0131】
なお、本実施形態及び各変形例では、装着デバイスがユーザの腕、または首に装着される場合の一例について説明したが、これに限られない。装着デバイスがユーザの腕、または首以外の身体の部位(例えば、足、または背中など)に装着されてもよい。また、装着デバイスは、ユーザの身体の複数の部位に装着されてもよい。
【0132】
本実施形態、及びその各変形例に係る装着デバイス100、100a、100b、100cでは、複数の呈示部が固定されるとともにユーザの体に装着される装着部101、101a、101b、101cを備える。
この構成により、本実施形態、及びその各変形例に係る装着デバイス100、100a、100b、100cでは、呈示部間距離が二点弁別閾以下である冷覚呈示装置1をウェアラブルデバイスとして使用できるため、装着デバイスが装着された体の部分に対して一体感ある冷空間を提示できる。
【0133】
なお、上述した実施形態における二点弁別閾測定装置20または呈示部間距離算出装置30の一部、例えば、呈示部位置変更部21、回答情報取得部22、算出部23、出力部24、取得部31、衝突点ヌセルト数算出部32、呈示部間距離算出部33、及び出力部34をコンピュータで実現するようにしてもよい。その場合、この制御機能を実現するためのプログラムをコンピュータ読み取り可能な記録媒体に記録して、この記録媒体に記録されたプログラムをコンピュータシステムに読み込ませ、実行することによって実現してもよい。なお、ここでいう「コンピュータシステム」とは、二点弁別閾測定装置20又は呈示部間距離算出装置30に内蔵されたコンピュータシステムであって、オペレーティングシステム(Operating system:OS)や周辺機器等のハードウェアを含むものとする。また、「コンピュータ読み取り可能な記録媒体」とは、フレキシブルディスク、光磁気ディスク、ROM(Read Only Memory)、CD-ROM(Compact Disc-Read Only Memory)等の可搬媒体、コンピュータシステムに内蔵されるハードディスク等の記憶装置のことをいう。さらに「コンピュータ読み取り可能な記録媒体」とは、インターネット等のネットワークや電話回線等の通信回線を介してプログラムを送信する場合の通信線のように、短時間、動的にプログラムを保持するもの、その場合のサーバやクライアントとなるコンピュータシステム内部の揮発性メモリのように、一定時間プログラムを保持しているものも含んでもよい。また上記プログラムは、前述した機能の一部を実現するためのものであってもよく、さらに前述した機能をコンピュータシステムにすでに記録されているプログラムとの組み合わせで実現できるものであってもよい。
また、上述した実施形態における二点弁別閾測定装置20又は呈示部間距離算出装置30の一部、または全部を、LSI(Large Scale Integration)等の集積回路として実現してもよい。二点弁別閾測定装置20又は呈示部間距離算出装置30の各機能ブロックは個別にプロセッサ化してもよいし、一部、または全部を集積してプロセッサ化してもよい。また、集積回路化の手法はLSIに限らず専用回路、または汎用プロセッサで実現してもよい。また、半導体技術の進歩によりLSIに代替する集積回路化の技術が出現した場合、当該技術による集積回路を用いてもよい。
【0134】
以上、図面を参照してこの発明の一実施形態について詳しく説明してきたが、具体的な構成は上述のものに限られることはなく、この発明の要旨を逸脱しない範囲内において様々な設計変更等をすることが可能である。
【符号の説明】
【0135】
1…冷覚呈示装置、2…冷気生成部、4…呈示部、6…冷気、D1…呈示部間距離