(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024037424
(43)【公開日】2024-03-19
(54)【発明の名称】プラズマ発生装置、およびプラズマ発生方法
(51)【国際特許分類】
H05H 1/34 20060101AFI20240312BHJP
【FI】
H05H1/34
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022142288
(22)【出願日】2022-09-07
(71)【出願人】
【識別番号】000237271
【氏名又は名称】株式会社FUJI
(74)【代理人】
【識別番号】110000992
【氏名又は名称】弁理士法人ネクスト
(74)【代理人】
【識別番号】100162237
【弁理士】
【氏名又は名称】深津 泰隆
(74)【代理人】
【識別番号】100191433
【弁理士】
【氏名又は名称】片岡 友希
(72)【発明者】
【氏名】岩田 卓也
(72)【発明者】
【氏名】土田 紘佑
【テーマコード(参考)】
2G084
【Fターム(参考)】
2G084AA16
2G084BB06
2G084BB11
2G084BB35
2G084BB37
2G084CC23
2G084CC34
2G084DD12
2G084FF02
2G084FF13
2G084FF14
2G084GG02
2G084HH03
2G084HH05
2G084HH09
2G084HH22
2G084HH31
2G084HH32
2G084HH36
2G084HH56
(57)【要約】
【課題】プラズマ発生装置の実用性の向上を課題とする。
【解決手段】放電により処理ガスをプラズマ化させる電極と、電極が配設される反応室と、反応室への処理ガスの供給量を制御する制御装置と、を備え、制御装置が、電極による放電開始時に第1流量の処理ガスを反応室に供給し、電極による放電が継続して実行された後に第1流量より多い量の第2流量の処理ガスを反応室に供給するプラズマ発生装置。
【選択図】
図10
【特許請求の範囲】
【請求項1】
放電により処理ガスをプラズマ化させる電極と、
前記電極が配設される反応室と、
前記反応室への処理ガスの供給量を制御する制御装置と、
を備え、
前記制御装置が、
前記電極による放電開始時に第1流量の処理ガスを前記反応室に供給し、前記電極による放電が継続して実行された後に前記第1流量より多い量の第2流量の処理ガスを前記反応室に供給するプラズマ発生装置。
【請求項2】
前記第1流量が前記第2流量の1/2より少ない請求項1に記載のプラズマ発生装置。
【請求項3】
前記制御装置が、
前記電極による放電開始時に第1流量の処理ガスを前記反応室に供給し、放電開始時からの経過時間が設定時間以上となった場合と放電電圧が設定電圧以下となった場合との少なくとも一方の場合に前記第2流量の処理ガスを前記反応室に供給する請求項1に記載のプラズマ発生装置。
【請求項4】
前記プラズマ発生装置が、
前記反応室に処理ガスを供給する2系統のガス流路と、前記2系統のガス流路に配設される2個の開閉弁とを備え、
前記制御装置が、
前記電極による放電開始時に前記2個の開閉弁の一方のみを開弁することで前記第1流量の処理ガスを前記反応室に供給し、前記電極による放電が継続して実行された後に前記2個の開閉弁の両方を開弁することで前記第2流量の処理ガスを前記反応室に供給する請求項1ないし請求項3のいずれか1項に記載のプラズマ発生装置。
【請求項5】
前記制御装置が、
前記電極への電圧の印加を停止した後に前記2個の開閉弁の両方を閉弁することで前記反応室への処理ガスの供給を停止する請求項4に記載のプラズマ発生装置。
【請求項6】
前記2系統のガス流路と前記2個の開閉弁とにより構成されるガス供給部が、前記制御装置を含む制御ボックスに配設される請求項4に記載のプラズマ発生装置。
【請求項7】
放電により処理ガスをプラズマ化させる電極と、前記電極が配設される反応室とを備えるプラズマ発生装置において、
前記電極による放電開始時に第1流量の処理ガスを前記反応室に供給する第1供給工程と、
前記電極による放電が継続して実行された後に前記第1流量より多い量の第2流量の処理ガスを前記反応室に供給する第2供給工程と、
を含むプラズマ発生方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、供給された処理ガスをプラズマ化させるプラズマ発生装置などに関するものである。
【背景技術】
【0002】
下記特許文献には、供給された処理ガスをプラズマ化させる技術が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平11-226744号公報
【特許文献2】特開平09-192842号公報
【特許文献3】特開平07-112278号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本明細書は、プラズマ発生装置の実用性の向上を課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題を解決するために、本明細書は、放電により処理ガスをプラズマ化させる電極と、前記電極が配設される反応室と、前記反応室への処理ガスの供給量を制御する制御装置と、を備え、前記制御装置が、前記電極による放電開始時に第1流量の処理ガスを前記反応室に供給し、前記電極による放電が継続して実行された後に前記第1流量より多い量の第2流量の処理ガスを前記反応室に供給するプラズマ発生装置などを開示する。
【発明の効果】
【0006】
本開示によれば、放電安定時に供給される処理ガスのガス流量を、放電開始時に供給される処理ガスのガス流量より多くすること、つまり、放電開始時に供給される処理ガスのガス流量を、放電安定時に供給される処理ガスのガス流量より少なくすることで、放電電圧を下げることが可能となり、プラズマ発生装置の実用性が向上する。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【
図6】従来のプラズマヘッドでの放電電圧の波形を概略的に示す図である。
【
図8】単位時間当たりのガス流量とプラズマヘッドのプラズマ処理能力との関係を示す図である。
【
図9】単位時間当たりのガス流量と放電電圧との関係を示す図である。
【
図10】放電開始時におけるガス供給部の作動状態を示す図である。
【
図11】放電安定時におけるガス供給部の作動状態を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、本発明を実施するための形態として、本発明の実施例を、図を参照しつつ詳しく説明する。
【0009】
図1に示すように、プラズマ装置10は、プラズマヘッド11、ロボット13、制御ボックス15を備えている。プラズマヘッド11は、ロボット13に取り付けられている。ロボット13は、例えば、シリアルリンク型ロボット(多関節型ロボットと呼ぶこともできる)であり、プラズマヘッド11は、ブラケット12を介してロボット13の先端に取り付けられている。そして、プラズマヘッド11は、ロボット13の先端に取り付けられた状態でプラズマガスを照射可能となっている。プラズマヘッド11は、ロボット13の駆動に応じて3次元的に移動可能となっている。
【0010】
制御ボックス15は、コンピュータを主体として構成され、プラズマ装置10を統括的に制御する。制御ボックス15は、プラズマヘッド11に電力を供給する電源部15A及びプラズマヘッド11へガスを供給するガス供給部15Bを有している。電源部15Aは、電源ケーブル(図示省略)を介してプラズマヘッド11と接続されている。電源部15Aは、制御ボックス15の制御に基づいて、プラズマヘッド11の電極30(
図3乃至
図5参照)に印加する電圧を変更する。
【0011】
また、ガス供給部15Bは、ガスチューブ19を介してプラズマヘッド11と接続されている。ガス供給部15Bは、制御ボックス15の制御に基づいて、後述する反応ガスをプラズマヘッド11へ供給する。制御ボックス15は、ガス供給部15Bを制御し、ガス供給部15Bからプラズマヘッド11へ供給するガスの量などを制御する。これにより、ロボット13は、制御ボックス15の制御に基づいて動作し、テーブル17の上に載置された被処理物Wに対してプラズマヘッド11からプラズマガスを照射する。
【0012】
また、制御ボックス15は、タッチパネルや各種スイッチを有する操作部15Cを備えている。制御ボックス15は、各種の設定画面や動作状態(例えば、ガス供給状態など)等を操作部15Cのタッチパネルに表示する。また、制御ボックス15は、操作部15Cに対する操作入力により各種の情報を受け付ける。
【0013】
図2及び
図3に示すように、プラズマヘッド11は、筐体20、内部ケーブル22,ケーブルホルダ24,ホルダ装着具26、電極ホルダ28、電極30等を備えている。筐体20は、金属製の素材により形成されており、概して円筒形状である。ただし、筐体20は、下方に向うほど先細る形状であり、筐体20の下端部は円錐形状である。このため、筐体20の下端部はプラズマヘッド11のノズル32として機能する。
【0014】
図4及び
図5に示すように、内部ケーブル22は、筐体20の内部において筐体20の軸線方向に延びるように配設されており、ケーブルホルダ24により筐体20の内部に固定されている。ケーブルホルダ24は概して円筒形であり、筐体20の内部に固定的に嵌合されている。そして、内部ケーブル22が、ケーブルホルダ24の内部の上端部に固定的に嵌合されている。これにより、内部ケーブル22がケーブルホルダ24により筐体20の内部に固定されている。なお、ケーブルホルダ24の下端部では、ケーブルホルダ24の内周面と内部ケーブル22の外周面との間に隙間36が形成されている。
【0015】
また、ホルダ装着具26は円環形状であり、内部ケーブル22の下方において筐体20の内部に固定的に嵌合されている。円環形状のホルダ装着具26の内周面には、ネジ溝が形成されており、ホルダ装着具26の内周面がネジ穴として機能している。また、ホルダ装着具26の外縁部には、上下方向に貫通する複数の貫通穴38が形成されている。
【0016】
また、電極ホルダ28は、金属製の素材により形成されており、概して円筒形状である。ただし、電極ホルダ28は下方に向うほど先細る形状であり、電極ホルダ28の上端面の中央には、凸部40が形成されている。そして、その凸部40の外周面にネジ山が形成
されている。このため、電極ホルダ28の凸部40がホルダ装着具26のネジ穴として機能する内周面に挿入されて捩じ込まれることで、電極ホルダ28がホルダ装着具26に着脱可能に装着される。
【0017】
また、電極ホルダ28の内周面は段付き形状である。電極ホルダ28の内周面の上方の部分は小径の第1内周面50であり、その第1内周面50から連続する電極ホルダ28の内周面の下方の部分は第1内周面50より大径の第2内周面52である。その第1内周面50には圧着端子56の下端部が挿入されている。圧着端子56の下端部の外径は電極ホルダ28の第1内周面50の内径より僅かに小さい。このため、圧着端子56はホーローボルト58により電極ホルダ28の第1内周面50において固定されている。詳しくは、電極ホルダ28の上端部側には径方向に延びる横穴60が形成されており、その横穴60は第1内周面50に連通している。そして、その横穴60にホーローボルト58が捩じ込まれることで、圧着端子56が電極ホルダ28の第1内周面50において固定される。なお、横穴60の深さ寸法は、ホーローボルト58の長さ寸法より長い。このため、ホーローボルト58は横穴60に捩じ込まれた状態において横穴60に埋没しており、電極ホルダ28の表面から外部に露出していない。また、圧着端子56は、電極ホルダ28の第1内周面50の上端から上方に向って延び出している。そして、電極ホルダ28の第1内周面50から上方に向って延び出す圧着端子56と、内部ケーブル22とが導体62により接続されている。
【0018】
また、電極30は丸棒形状であり、電極30の外径は電極ホルダ28の第2内周面52の内径より僅かに小さい。そして、電極ホルダ28の第2内周面52に電極30が挿入されており、電極30はホーローボルト66により電極ホルダ28の第2内周面52において固定されている。詳しくは、電極ホルダ28の下端部側には径方向に延びる横穴68が形成されており、その横穴68は第2内周面52に連通している。そして、その横穴68にホーローボルト66が捩じ込まれることで、電極30が電極ホルダ28の第2内周面52において固定される。なお、横穴68の深さ寸法は、ホーローボルト66の長さ寸法より長い。このため、ホーローボルト66は横穴68に捩じ込まれた状態において横穴68に埋没しており、電極ホルダ28の表面から外部に露出ていない。また、電極30は、電極ホルダ28の下端から電極30の下端、つまり先端を所定量(例えば、3~5mm)延び出させた状態で第2内周面52において固定される。
【0019】
また、ケーブルホルダ24の内周面と内部ケーブル22の外周面との隙間36にガスチューブ19(
図1参照)を介してガス供給部15Bが接続されており、ガス供給部15Bから供給される反応ガスがケーブルホルダ24の内周面と内部ケーブル22の外周面との隙間36に流入する。そして、反応ガスは下方に向って流れて、ホルダ装着具26の複数の貫通穴38を介して電極ホルダ28の周囲に流入する。さらに、反応ガスは下方に向って流れて、電極ホルダ28の下端から延び出す電極30の周囲にも流入して、筐体20のノズル32まで至る。つまり、反応ガスは、筐体20の内部においてケーブルホルダ24の内周面と内部ケーブル22の外周面との隙間36からホルダ装着具26の複数の貫通穴38を介して、電極ホルダ28及び電極ホルダ28の下端から延び出す電極30の周囲に流入し、筐体20のノズル32まで至る。
【0020】
反応ガス(種ガス)としては、酸素(O2)を採用できる。ガス供給部15Bは、例えば、ガスチューブ19(
図1参照)を介して、酸素と窒素(N2)との混合気体(例えば、乾燥空気(Air))を、ケーブルホルダ24の内周面と内部ケーブル22の外周面との隙間36に流入させる。以下、この混合気体を、便宜的に反応ガスと呼び、酸素を種ガスと呼ぶ場合がある。
【0021】
また、電極ホルダ28の下端から延び出す電極30には、制御ボックス15の電源部1
5Aから電圧が印加される。詳しくは、制御ボックス15の電源部15Aから電源ケーブルを介してプラズマヘッド11の内部ケーブル22に電力が供給され、導体62及び圧着端子56に電力が供給される。そして、圧着端子56に供給された電力が電極ホルダ28を介して電極30に流れる。このように、電極30に電力が供給されることで、電極30に電圧が印される。この際、電極30への電圧の印加によって、
図5に示すように、電極30の先端から電流を制限することにより疑似アークAが発生する。疑似アークAは、反応ガスの流れに沿って発生するため、電極30の先端から下方に向って発生し、ノズル32の先端に至る。このため、電極30の先端とノズル32の先端との間で疑似アークAが発生する。そして、電極30の先端とノズル32の先端との間で発生した疑似アークAを反応ガスが通過する際に、反応ガスは、プラズマ化される。つまり、筐体20の内部のホルダ装着具26とノズル32とにより区画される反応室70において、電極30の先端とノズル32の先端との間で疑似アークAの放電が発生し、反応ガスをプラズマ化し、プラズマガスを発生させる。
【0022】
このような構造により、プラズマヘッド11では、電極30に電圧が印加されて電極30の先端とノズル32の先端との間で発生する放電によりプラズマガスが発生し、ノズル32の先端に形成された開口32Aから噴出される。そして、プラズマガスがノズル32の開口32Aから噴出されることで、被処理物Wに対してプラズマ処理が施される。このように電極30に電圧が印加されて電極30の先端とノズル32の先端との間で発生する放電によりプラズマガスが発生するが、放電開始時における放電電圧は放電安定時における放電電圧より高いため、プラズマヘッド11の小型化,コストダウン等を図ることが困難である。なお、放電電圧は電極30に放電を生じさせるための電圧であり、電極30の先端とノズル32の先端との間で生じる放電の電圧である。
【0023】
詳しくは、
図6に、放電開始時から放電安定時以降の放電電圧の波形を概略的に示す。
図6から分かるように、電極30に電力が供給されたタイミング(t0)から放電電圧が徐々に高くなり、t1において最大の電圧(V1)となる。そして、t1以降に放電電圧は低くなり、安定し殆ど増減しない。このように、放電開始時(t0~t1)における放電電圧は放電安定時(t1以降)における放電電圧より高い。このような現象は、放電安定時では連続的に放電が生じるため低い電圧でも放電が生じるが、放電開始時では最初の放電を発生させる際に、ある程度高い電圧でなければ放電を生じさせることができないため発生すると考えられる。そして、プラズマヘッド11を設計する際に、放電開始時の最大放電電圧V1に耐えうるプラズマヘッド11を設計する必要がある。このため、例えば、筐体20,電極30等の強度を増大させることが必要となり、プラズマヘッド11の小型化,コストダウン等を図ることが困難となる。
【0024】
そこで、プラズマ装置10では、放電開始時に反応室70に供給される反応ガスの供給流量を、放電安定時に反応室70に供給される反応ガスの供給流量より少なくしている。具体的には、プラズマヘッド11に反応ガスを供給するガス供給部15Bは、
図7に示すように、供給装置80とガス流路82とレギュレータ84と2個の固定絞り86,88と2個の開閉弁90,92とを備えている。供給装置80は、反応ガスを供給する装置である。また、ガス流路82は、2系統の流路であり、第1メイン配管100と2本の分岐配管102,104と第2メイン配管106とにより構成されている。第1メイン配管100は一端において供給装置80に連結されており、他端において2本の分岐配管102,104に分岐している。なお、第1メイン配管100にはレギュレータ84が配設されている。そして、2本の分岐配管102,104は第2メイン配管106の一端に連結され、第2メイン配管106の他端が、ガスチューブ19を介してプラズマヘッド11に連結されている。また、分岐配管102には、固定絞り86が配設され、その固定絞り86の下流側に開閉弁90が配設されている。一方、分岐配管104には、固定絞り88が配設され、その固定絞り88の下流側に開閉弁92が配設されている。なお、開閉弁90,9
2の作動は制御装置108により制御される。また、制御装置108は、制御ボックス15の内部に配設されている。
【0025】
このような構造のガス供給部15Bにおいて、放電開始時に反応室70に供給される反応ガスの供給流量が、放電安定時に反応室70に供給される反応ガスの供給流量より少なくされている。詳しくは、
図8に示すように、プラズマヘッド11に供給される反応ガスのガス流量が多くなるほど、多くのプラズマガスを発生させることができるため、プラズマヘッド11によるプラズマ処理能力は高くなる。ただし、プラズマ処理能力にはプラズマ条件に応じた極大値があり、ガス流量が多くなり過ぎるとプラズマ処理能力は僅かであるが低下する。このため、プラズマ処理能力を向上させるべく、例えば、単位時間当たりのガス流量がMとなるようにプラズマヘッド11に反応ガスを供給することが望まれている。
【0026】
一方で、単位時間当たりのガス流量が多くなるほど、単位時間あたりにプラズマ化される反応ガスの分子数が多くなり、高い電圧が必要となる。このため、放電電圧は、単位時間当たりのガス流量に比例して高くなる。また、上述したように、放電開始時における放電電圧は放電安定時における放電電圧より高い。そして、放電電圧が単位時間当たりのガス流量に比例して高くなる際の比例定数に関して言えば、放電開始時の比例定数は放電安定時の比例定数より大きい。このため、放電開始時における放電電圧と単位時間当たりのガス流量との関係および、放電安定時における放電電圧と単位時間当たりのガス流量との関係は
図9に示すように変化する。
【0027】
ここで、放電開始時においてガス流量Mの反応ガスがプラズマヘッドに供給されると、放電開始時に生じる放電電圧はV1となり、比較的高い電圧の放電が生じる。このように放電開始時に比較的高い電圧の放電が生じる場合には、上述したように、高い電圧の放電に耐えうるプラズマヘッドを設計する必要があるため、プラズマヘッドの小型化,コストダウン等を図ることが困難となる。そこで、Mより少ない流量、さらに言えば、Mの半分より少ない流量のガス流量m1の反応ガスが放電開始時においてプラズマヘッドに供給される。このように、放電開始時においてガス流量m1の反応ガスがプラズマヘッドに供給されると、放電開始時に生じる放電電圧はV2となり、放電開始時においてガス流量Mの反応ガスがプラズマヘッドに供給された場合に生じる放電電圧V1より低い。このため、V1より低い放電電圧V2に耐えうるプラズマヘッドを設計すればよいため、プラズマヘッドの小型化,コストダウン等を図ることが可能となる。
【0028】
しかしながら、
図8に示すように、ガス流量がm1である場合のプラズマ処理能力は、ガス流量がMである場合のプラズマ処理能力より低くなってしまう。そこで、放電開始時にプラズマヘッドに供給されるガス流量はm1であるが、放電が安定した後に、プラズマヘッドに供給されるガス流量がMに増やされる。このように、放電安定時においてガス流量Mの反応ガスがプラズマヘッドに供給されても、
図9に示すように、放電安定時に生じる放電電圧はV3となり、放電開始時においてガス流量m1の反応ガスがプラズマヘッドに供給された場合に生じる放電電圧V2より低い。このため、放電電圧V2の放電に耐えうるプラズマヘッドであれば、放電安定時においてガス流量Mの反応ガスがプラズマヘッドに供給されても、プラズマヘッドは充分に耐えうる。また、放電安定時にガス流量Mの反応ガスがプラズマヘッドに供給されるため、
図8に示すように、プラズマ処理能力の低下を防止することが可能となる。
【0029】
このように、放電開始時にプラズマヘッドにガス流量m1の反応ガスを供給し、放電安定時にプラズマヘッドにガス流量Mの反応ガスを供給するために、ガス供給部15Bの固定絞り86が分岐配管102を流れる反応ガスの単位時間当たりのガス流量がm1となるように調整されている。また、固定絞り88は分岐配管104を流れる反応ガスの単位時
間当たりのガス流量がm2となるように調整されている。そして、ガス流量m1とガス流量m2との合計したガス流量がMとなるように、固定絞り86,88が調整されている。
【0030】
このように調整された固定絞り86,88を備えるガス供給部15Bでは、まず、待機状態において、
図7に示すように、2個の開閉弁90,92は閉弁されており、プラズマヘッド11に反応ガスは供給されていない。また、待機状態において電極30に電圧は印加されていない。そして、プラズマヘッド11によるプラズマ処理を開始するべく、
図10に示すように、2個の開閉弁90,92のうちの分岐配管102に配設された開閉弁90のみが開弁される。これにより、分岐配管102にガス流量m1の反応ガスが流れ、プラズマヘッド11に供給される。そして、開閉弁90が開弁されたタイミングから僅かな時間、例えば、500msecが経過した後に、電極30に電圧が印加される。これにより、プラズマヘッド11の反応室70において、電極30の先端とノズル32の先端との間で放電が生じ、反応ガスがプラズマ化される。この際、反応室70にはガス流量m1の反応ガスが供給されているため、放電電圧はV2となる(
図9参照)。つまり、放電開始時にプラズマヘッド11にガス流量m1の反応ガスが供給され、放電電圧はV2となる。
【0031】
そして、電極30による放電が継続して実行され、放電が安定した後、つまり、放電安定時にプラズマヘッド11にガス流量Mの反応ガスが供給される。具体的には、放電が開始してから継続して実行されることで、放電は安定する。また、
図9に示すように、ガス流量m1の反応ガスが供給される際の放電開始時の放電電圧はV2であるが、ガス流量m1の反応ガスが供給される際の放電安定時の放電電圧はV4である。つまり、ガス流量m1の反応ガスが供給されている際に、放電開始時に放電電圧はV2であるが、放電が安定してくると放電電圧がV4に低下する。このため、放電が開始してからの経過時間が設定時間以上となり、放電電圧がV4より僅かに大きな値に設定された設定電圧以下となった場合に、放電が安定すると想定できる。
【0032】
そこで、放電が開始してからの経過時間が設定時間以上、かつ、放電電圧が設定電圧以下となった場合に、
図11に示すように、分岐配管104に配設された開閉弁92も開弁される。つまり、2個の開閉弁90,92の両方が開弁される。これにより、分岐配管102にガス流量m1の反応ガスが流れ、分岐配管104にガス流量m2の反応ガスが流れることで、プラズマヘッド11にガス流量M(=m1+m2)の反応ガスが供給される。なお、電極には継続して電圧が印加されている。このため、ガス流量Mの反応ガスが供給されるプラズマヘッド11の反応室70において、電極30の先端とノズル32の先端との間で放電が生じ、反応ガスがプラズマ化される。このように、反応室70にはガス流量Mの反応ガスが供給されるが、放電が安定しているため、放電電圧はV3となる(
図9参照)。これにより、放電電圧がV2より低い状態において高いプラズマ処理能力を発揮することが可能となる。
【0033】
このように、放電開始時にプラズマヘッドにガス流量m1の反応ガスを供給し、放電安定時にプラズマヘッドにガス流量Mの反応ガスを供給することで、最大放電電圧をV2とすることが可能となる。これにより、プラズマヘッドの小型化,コストダウン等を図るとともに、放電安定時の高いプラズマ処理能力を担保することが可能となる。
【0034】
なお、プラズマヘッド11によるプラズマ処理が完了すると、電極30への電圧の印加が止められた後に、2個の開閉弁90,92の両方が閉弁される。これにより、反応室70での放電の発生が停止した後に、反応室70への反応ガスの供給も停止することで、プラズマガスの発生が停止する。
【0035】
因みに、プラズマ装置10は、プラズマ発生装置の一例である。制御ボックス15は、制御ボックスの一例である。ガス供給部15Bは、ガス供給部の一例である。電極30は
、電極の一例である。反応室70は、反応室の一例である。開閉弁90,92は開閉弁の一例である。分岐配管102,104は、2系統のガス流路の一例である。制御装置108は、制御装置の一例である。また、ガス流量m1は第1流量の一例であり、ガス流量Mは第2流量の一例である。
【0036】
以上、上記した本実施形態では、以下の効果を奏する。
【0037】
プラズマ装置10では、放電開始時にプラズマヘッド11の反応室70にガス流量m1の反応ガスが供給され、放電安定時にプラズマヘッド11の反応室70にガス流量Mの反応ガスが供給される。これにより、最大放電電圧を低くすることで、プラズマヘッドの小型化,コストダウン等を図るとともに、放電安定時の高いプラズマ処理能力を担保することが可能となる。
【0038】
また、放電開始時に反応室70に供給される反応ガスのガス流量m1は、放電安定時に反応室70に供給される反応ガスのガス流量Mの1/2より少ない。これにより、放電開始時の放電電圧を効果的に低くすることが可能となる。
【0039】
また、放電が開始してからの経過時間が設定時間以上、かつ、放電電圧が設定電圧以下となった場合に、プラズマヘッド11の反応室70にガス流量Mの反応ガスが供給される。これにより、放電が安定している場合に、反応室70にガス流量Mの反応ガスを供給することが可能となる。
【0040】
また、プラズマ装置10では、2系統のガス流路82が配設されており、それら2系統のガス流路82に2個の開閉弁90,92が配設されている。そして、放電開始時に2個の開閉弁90,92のうちの一方の開閉弁90のみが開弁され、放電安定時に2個の開閉弁90,92の量が開弁される。これにより、高い反応性で反応ガスのガス流量を切り替えるとともに、安価な開閉弁を用いることでコスト削減を図ることが可能となる。
【0041】
また、プラズマ処理完了時において、電極30への電圧の印加が止められた後に、2個の開閉弁90,92の両方が閉弁される。これにより、反応室70での放電の発生が停止した後に、反応室70への反応ガスの供給も停止することで、適切にプラズマガスの発生を停止することが可能となる。
【0042】
また、2本の分岐流路102,104と2個の開閉弁90,92とにより構成されるガス供給部15Bは、制御装置108を含む制御ボックス15に配設されている。これにより、分岐流路102,104と開閉弁90,92とにより構成されるガス供給部15Bの露出を防止することが可能となる。
【0043】
また、プラズマ装置10では、放電開始時にプラズマヘッド11の反応室70にガス流量m1の反応ガスが供給される第1供給工程と、放電安定時にプラズマヘッド11の反応室70にガス流量Mの反応ガスが供給される第2供給工程とが実行される。これにより、最大放電電圧を低くすることで、プラズマヘッドの小型化,コストダウン等を図るとともに、放電安定時の高いプラズマ処理能力を担保することが可能となる。
【0044】
尚、本開示は、上記実施形態に限定されるものではなく、当業者の知識に基づいて種々の変更、改良を施した種々の態様で実施することが可能である。具体的には、例えば、上記実施例では、2系統のガス流路82が採用されているが、1系統のガス流路が採用されてもよい。ただし、1系統のガス流路が採用される場合には、ガス流路に開閉弁でなく、ガス流量を調整することが可能なマスフロメータが配設される。これにより、1系統のガス流路であっても、放電開始時にプラズマヘッド11にガス流量m1の反応ガスを供給
し、放電安定時にプラズマヘッド11にガス流量Mの反応ガスを供給することが可能となる。
【0045】
また、上記実施例では、放電が開始してからの経過時間が設定時間以上、かつ、放電電圧が設定電圧以下となった場合に、プラズマヘッド11にガス流量Mの反応ガスが供給される。一方で、放電が開始してからの経過時間が設定時間以上となった場合と、放電電圧が設定電圧以下となった場合との一方の場合に、プラズマヘッド11にガス流量Mの反応ガスが供給されてもよい。つまり、放電が開始してからの経過時間が設定時間以上となった場合と、放電電圧が設定電圧以下となった場合との少なくとも一方の場合に、プラズマヘッド11にガス流量Mの反応ガスが供給されればよい。
【0046】
また、上記実施例では、放電開始時にプラズマヘッド11に供給される反応ガスのガス流量m1が、放電安定時にプラズマヘッド11に供給される反応ガスのガス流量Mの1/2未満とされている。一方で、放電開始時にプラズマヘッド11に供給される反応ガスのガス流量m1は、放電安定時にプラズマヘッド11に供給される反応ガスのガス流量Mより少なければ、ガス流量Mの1/2以上であってもよい。
【0047】
また、上記実施例では、電極30の先端と筐体20の先端との間で放電を発生させて処理ガスをプラズマ化させている。つまり、1本の電極30により放電を発生させている。一方で、複数本の電極間で放電を発生させてもよい。
【0048】
尚、本開示の内容は、請求項に記載の従属関係に限定されない。例えば、請求項3において「請求項1に記載のプラズマ発生装置」を「請求項1または請求項2に記載のプラズマ発生装置」に変更した技術思想についても、本明細書は開示している。また、例えば、請求項6において「請求項4に記載のプラズマ発生装置」を「請求項4または請求項5に記載のプラズマ発生装置」に変更した技術思想についても、本明細書は開示している。
【符号の説明】
【0049】
11:プラズマヘッド(プラズマ発生装置) 30:電極 70:反応室 90:開閉弁 92:開閉弁 102:分岐配管(2系統のガス流路) 104:分岐配管(2系統のガス流路) 108:制御装置