(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024037443
(43)【公開日】2024-03-19
(54)【発明の名称】疲労度推定方法
(51)【国際特許分類】
G01N 23/2055 20180101AFI20240312BHJP
G01M 13/04 20190101ALI20240312BHJP
【FI】
G01N23/2055 310
G01M13/04
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022142316
(22)【出願日】2022-09-07
(71)【出願人】
【識別番号】000102692
【氏名又は名称】NTN株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001195
【氏名又は名称】弁理士法人深見特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】嘉村 直哉
(72)【発明者】
【氏名】長谷川 直哉
【テーマコード(参考)】
2G001
2G024
【Fターム(参考)】
2G001AA01
2G001BA18
2G001CA01
2G001DA09
2G001GA13
2G001KA07
2G001LA02
2G024AC07
2G024BA12
2G024CA23
2G024CA30
2G024DA09
(57)【要約】
【課題】転動部品の疲労度を高い精度で推定する。
【解決手段】疲労度推定方法では、以下の工程を実施する。すなわち、転動部品の疲労部にX線を照射することで得られるX線分析値と転動部品の疲労度との関係を示す第1関係を入手する工程(S10)を実施する。第1関係は、転動部品の硬度に応じて変化する係数を含む。当該係数と、転動部品の硬度に対応する指標との関係を示す第2関係を入手する工程(S20)を実施する。疲労度を推定する対象である被推定転動部品から、上記指標の第1測定データを得る工程(S30)を実施する。第1測定データと第2関係とに基づき係数を決定し、決定された当該係数に基づき、被推定転動部品の疲労度を得るための特定第1関係を決定する工程(S40)を実施する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
転動部品の疲労部にX線を照射することで得られるX線分析値と前記転動部品の疲労度との関係を示し、前記転動部品の硬度に応じて変化する係数を含む第1関係を入手する工程と、
前記係数と、前記転動部品の硬度に対応する指標との関係を示す第2関係を入手する工程と、
疲労度を推定する対象である被推定転動部品から、前記指標の第1測定データを得る工程と、
前記第1測定データと前記第2関係とに基づき前記係数を決定し、決定された前記係数に基づき、前記被推定転動部品の疲労度を得るための特定第1関係を決定する工程と、を備える、疲労度推定方法。
【請求項2】
前記指標は前記転動部品の硬度データであり、
前記第1測定データを得る工程では、前記第1測定データとして前記被推定転動部品の硬度データを測定する、請求項1に記載の疲労度推定方法。
【請求項3】
前記指標は前記転動部品のX線測定で得られる半価幅データであり、
前記第1測定データを得る工程では、前記第1測定データとして前記被推定転動部品の半価幅データを測定する、請求項1に記載の疲労度推定方法。
【請求項4】
前記第2関係を入手する工程は、
互いに異なる硬度を有する複数の前記転動部品のそれぞれについて、前記第1関係を求める工程と、
複数の前記転動部品のそれぞれに関する前記第1関係における前記係数と、複数の前記転動部品の前記硬度とに基づき前記第2関係を決定する工程とを含む、請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の疲労度推定方法。
【請求項5】
前記被推定転動部品について、前記X線分析値に対応する第2測定データを得る工程と、
前記第2測定データと、前記特定第1関係とに基づき、前記被推定転動部品の疲労度を決定する工程と、を備える、請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の疲労度推定方法。
【請求項6】
前記X線分析値は、前記転動部品の疲労部にX線を照射することで得られる環状の回折X線の中心角に対する回折強度のばらつきデータと、前記ばらつきデータの初期値との比、前記ばらつきデータと前記ばらつきデータの前記初期値との差、前記ばらつきデータと、前記転動部品の前記疲労部とは異なる部分である非疲労部にX線を照射することで得られる環状の回折X線の中心角に対する回折強度の第1比較用ばらつきデータとの比、前記ばらつきデータと前記第1比較用ばらつきデータとの差、前記ばらつきデータと、前記転動部品の前記疲労部において疲労が生じていない深さの領域にX線を照射することで得られる環状の回折X線の中心角に対する回折強度の第2比較用ばらつきデータとの比、前記ばらつきデータと前記第2比較用ばらつきデータとの差、前記ばらつきデータの標準偏差、前記転動部品の前記疲労部にX線を照射することで得られる環状の回折X線の中心角に対する回折強度の最大値と最小値との差、前記転動部品の前記疲労部にX線を照射することで得られる環状の回折X線の中心角に対する回折強度の最大値と平均値との差、前記転動部品の前記疲労部にX線を照射することで得られる環状の回折X線の中心角に対する回折強度の最小値と平均値との差、からなる群から選択される1つのデータである、請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の疲労度推定方法。
【請求項7】
前記X線分析値は、前記転動部品の疲労部にX線を照射することで得られる環状の回折X線の中心角に対する回折強度のばらつきデータと、前記ばらつきデータの初期値との比、前記ばらつきデータと前記ばらつきデータの前記初期値との差、前記ばらつきデータと、前記転動部品の前記疲労部とは異なる部分である非疲労部にX線を照射することで得られる環状の回折X線の中心角に対する回折強度の第1比較用ばらつきデータとの比、前記ばらつきデータと前記第1比較用ばらつきデータとの差、前記ばらつきデータと、前記転動部品の前記疲労部において疲労が生じていない深さの領域にX線を照射することで得られる環状の回折X線の中心角に対する回折強度の第2比較用ばらつきデータとの比、前記ばらつきデータと前記第2比較用ばらつきデータとの差、前記ばらつきデータの標準偏差、前記転動部品の前記疲労部にX線を照射することで得られる環状の回折X線の中心角に対する回折強度の最大値と最小値との差、前記転動部品の前記疲労部にX線を照射することで得られる環状の回折X線の中心角に対する回折強度の最大値と平均値との差、前記転動部品の前記疲労部にX線を照射することで得られる環状の回折X線の中心角に対する回折強度の最小値と平均値との差、からなる群から選択される2以上のデータから求められる評価値である、請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の疲労度推定方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、疲労度推定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、転動部品の疲労度を推定する方法が提案されている。たとえば、特開2019-207157号公報では、転動部品に関するX線分析値と転動部品の疲労度との相関関係に基づき、当該X線分析値の測定データから転動部品の疲労度を推定している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上述した疲労度の推定方法では、予めX線分析値と疲労度との相関関係を求めたときに用いた試験片の材質と、疲労度を推定する対象である転動部品の材質とが同等では無い場合に、疲労度の推定精度が低くなる恐れがある。
【0005】
本開示は、上記のような課題を解決するために成されたものであり、本開示の目的は、転動部品の疲労度を高い精度で推定することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示に従った疲労度推定方法では、以下の工程を実施する。すなわち、転動部品の疲労部にX線を照射することで得られるX線分析値と転動部品の疲労度との関係を示す第1関係を入手する工程を実施する。第1関係は、転動部品の硬度に応じて変化する係数を含む。当該係数と、転動部品の硬度に対応する指標との関係を示す第2関係を入手する工程を実施する。疲労度を推定する対象である被推定転動部品から、上記指標の第1測定データを得る工程を実施する。第1測定データと第2関係とに基づき、被推定転動部品の疲労度を推定するための第1関係である特定第1関係に含まれる係数を決定することで、被推定転動部品の疲労度を得るための特定第1関係を決定する工程を実施する。
【発明の効果】
【0007】
上記によれば、転動部品の疲労度を高い精度で推定できる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】本実施の形態に係る疲労度推定方法を説明するためのフローチャートである。
【
図2】本実施の形態に係る疲労度推定方法を説明するためのフローチャートである。
【
図3】本実施の形態に係る疲労度推定方法の具体例を説明するためのフローチャートである。
【
図4】X線分析値と疲労度との関係を示すグラフである。
【
図5】
図4に示したX線分析値と疲労度との関係を示すグラフの傾きと硬さとの関係を示すグラフである。
【
図6】X線分析値と疲労度との関係を示すグラフである。
【
図7】
図4に示したX線分析値と疲労度との関係を示すグラフの傾きと半価幅との関係を示すグラフである。
【
図8】本実施の形態に係る疲労度推定方法の具体例を説明するためのフローチャートである。
【
図10】X線分析値と疲労度との関係を示す近似線の傾きと硬さとの関係を示すグラフである。
【
図11】X線分析値と疲労度との関係を示す近似線の傾きと半価幅との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本開示の実施の形態を説明する。なお、同一の構成には同一の参照番号を付し、その説明は繰り返さない。
【0010】
<疲労度推定方法の概略構成>
図1および
図2は、本実施の形態に係る疲労度推定方法を説明するためのフローチャートである。
図1および
図2に示されるように、本実施の形態に係る疲労度推定方法は、使用中の転動部品におけるX線回折環の分析結果から軌道面での疲労度を推定する。疲労度の推定には,予め複数の異なる材質の試験片を用いて転動疲労試験を実施して得られたX線分析値と疲労度との関係を用いる。本実施の形態では、転動部品の疲労度を推定する際には、疲労進行速度への影響が大きい硬さの影響を補正する。この結果、例えば高温焼き戻しなどの耐熱処理を行った影響で、通常の転動部品よりも硬さが低い転動部品に対する疲労度推定を高い精度で実施できる。以下、
図1および
図2を用いて、本実施の敬愛に係る疲労度推定方法の基本的な構成を説明する。
【0011】
図1および
図2に示されるように、本開示に従った疲労度推定方法では、まず、転動部品の疲労部にX線を照射することで得られるX線分析値と転動部品の疲労度との関係を示す第1関係を入手する工程(S10)を実施する。第1関係は、転動部品の硬度に応じて変化する係数を含む。この工程(S10)では、任意の方法により第1関係を入手できるが、たとえば後述するように異なる硬さの試験片を用いた転動疲労試験を行って得たデータに基づき第1関係を特定する。あるいは、第1関係として、文献などに開示された関係を用いてもよい。
【0012】
次に、上記係数と、転動部品の硬度に対応する指標との関係を示す第2関係を入手する工程(S20)を実施する。この工程(S20)では、任意の方法により第2関係を入手できるが、たとえば複数の転動疲労試験により得たデータを用い、後述するように上記係数と転動部品の硬度に対応する指標との相関関係を示す数式を特定してもよい。たとえば、工程(S20)は、互いに異なる硬度を有する複数の転動部品のそれぞれについて、第1関係を求める工程を含む。さらに、工程(S20)は、複数の転動部品のそれぞれに関する第1関係における係数と、複数の転動部品の硬度とに基づき第2関係を決定する。あるいは、第2関係として、文献などに開示された関係を用いてもよい。
【0013】
次に、疲労度を推定する対象である被推定転動部品から、上記転動部品の硬度に対応する指標の第1測定データを得る工程(S30)を実施する。当該指標は、たとえば転動部品の硬度データである。この場合、工程(S30)では、第1測定データとして被推定転動部品の硬度データを測定する。あるいは、当該指標は、X線測定で得られる半価幅データであってもよい。この場合、工程(S30)では、第1測定データとして被推定転動部品の半価幅データを測定する。
【0014】
次に、被推定転動部品の疲労度を得るための特定第1関係を決定する工程(S40)を実施する。この工程(S40)では、第1測定データと第2関係とに基づき、被推定転動部品の疲労度を推定するための第1関係である特定第1関係に含まれる係数を決定する。この結果、特定第1関係が決定される。
【0015】
次に、
図2に示されるように、被推定転動部品について、X線分析値に対応する第2測定データを得る工程(S110)を実施する。この工程(S110)では、工程(S10)で用いたX線分析値に対応する第2測定データを計測する。
【0016】
次に、疲労度を決定する工程(S120)を実施する。この工程(S120)では、上記工程(S110)で求めた第2測定データと、工程(S40)で求めた特定第1関係とに基づき、被推定転動部品の疲労度を決定できる。
【0017】
<疲労度推定方法の具体的な構成>
上述した疲労度推定方法のより具体的な構成を、以下説明する。
図3および
図8は、本実施の形態に係る疲労度推定方法の具体例を説明するためのフローチャートである。
図4は、X線分析値と疲労度との関係を示すグラフである。
図5は、
図4に示したX線分析値と疲労度との関係を示すグラフの傾きと硬さとの関係を示すグラフである。
図6は、X線分析値と疲労度との関係を示すグラフである。
図7は、
図4に示したX線分析値と疲労度との関係を示すグラフの傾きと半価幅との関係を示すグラフである。
【0018】
図3に示されるように、本実施の形態に係る疲労度推定方法では、まず初めに2水準以上の硬さの試験片を用いて、表面起点疲労(ピーリング)が起こる条件で転動疲労試験を実施する(S11)。当該試験では、複数のタイミングでX線分析値を測定する。当該試験結果から、それぞれの試験片についてX線分析値と疲労度との関係曲線を作成する(S12)。なお、X線分析値としては、環状の回折X線の中心角に対する回折強度のばらつき、当該中心角に対する半価幅、回折強度の平均値・最小値・最大値の差、あるいはこれらのデータに基づき算出される評価値などを利用できる。
【0019】
上述した関係曲線としては、
図4に示されるような硬さの異なる試験片ごとの曲線が得られる。ここで、
図4の横軸は疲労度(%)を示し、縦軸はX線分析値を示す。横軸は対数表示とされている。
図4では、4水準の硬さの試験片に関する関係曲線が示されている。
【0020】
たとえば、
図4における縦軸のX線分析値を「環状の回折X線の中心角に対する回折強度のばらつきデータ(S)と、当該ばらつきデータの初期値(S
0)との比」(以下、S/S
0)とする。
図4に示されるように、疲労度が1%以上の範囲において、X線分析値(S/S
0)は疲労度の増加に対応してほぼ直線的に増加している。疲労度が1%未満の範囲において、X線分析値(S/S
0)はほとんど変化しない。疲労度が1%未満の領域では、X線分析値(S/S
0)はほぼ1となる。したがって、X線分析値(S/S
0)と疲労度Dとの関係を表す近似線は、疲労度が1%のときにX線分析値(S/S
0)=1となる、下記の式(1)で示される対数関数により表される。
【0021】
【0022】
上記式(1)を変形すると、測定したX線分析値(S/S0)から疲労度Dを計算できる式(2)が得られる。
【0023】
【0024】
なお、上記式(2)が第1関係に対応する。このようにして、
図1の第1関係を入手する工程(S10)が実施される。
【0025】
上記式(1)および式(2)において、係数Aは、試験片の硬さごとに決まる定数であって、
図4に示された近似線の傾きに相当する。
図4に示されるように、それぞれ異なる硬さを示す4種類の試験片に対応した上記式(2)に示される式(第1関係を示す式)では、それぞれの係数A(傾き)が互いに異なる値A
1、A2、A3、A4となる。このように、係数Aは試験片の硬さに応じて変化する。つまり、係数Aは、第1関係に含まれる、転動部品の硬度に応じて変化する係数に該当する。
【0026】
上記第1関係に対応する式(2)の係数A(X線分析値と疲労度との関係を示す近似線の傾き)と、試験片の硬さとの関係を
図5に示す。
図5では、横軸が硬さ(HRC)を示し、縦軸が上記係数A、すなわち上記近似線の傾きを示している。
図5に示されるように、試験片の硬さと近似線の傾きとの間には相関がある。そのため、
図5の点線で示されるように、試験片の任意の硬さと、上記係数A(X線分析値と疲労度との関係を示す近似線の傾き)との関係を表す近似線を作成できる。
図5の近似線が第2関係に相当する。
図5の近似線は、たとえば最小二乗法など従来周知の任意の方法により決定できる。このようにして、
図3に示された硬さ補正係数(係数A)を取得するための関係を特定する工程(S21)が実施される。当該工程(S21)は
図1の工程(S20)に対応する。
【0027】
当該近似線を用いて、試験片の任意の硬さに対応する係数Aを決定できる。たとえば、
図5に示されるように、試験片である転動部品の硬さが58HRCである場合、
図5の近似線に基づき係数Aは11.6になることが分かる。ここで、係数AはX線分析値と疲労度との関係を示す近似線(第1関係)の硬さ補正係数に対応する。
【0028】
上記工程(S23)で得られた係数A(11.6)を用いて、硬度が58HRCである試験片(転動部品)に関する疲労度を推定するための特定第1関係を示す式(3)は下記のように特定される。
【0029】
【0030】
式(3)により特定される、硬度が58HRCである試験片に関する第1特定関係を
図6に示す。
図6において、横軸は疲労度(%)を示し、縦軸はX線分析値を示す。
図6では、硬度が58HRCである試験片に関する第1特定関係を示すグラフ(硬さ5のグラフ)が実線で示されている。式(3)を用いて、硬さが58HRCである試験片(転動部品)について、任意のX線分析値である場合の疲労度Dを算出できる。
【0031】
なお、上述した方法では、試験片(転動部品)の硬度に対応する指標として硬さのデータ(硬度データ)を用いたが、硬度データと相関のある他のデータを硬度に対応する指標として用いてもよい。たとえば、X線分析により得られる分析値の一つである半価幅は、硬さと相関があることが知られている。そのため、上述した
図3の工程(S11)において、硬さの異なる試験片についてX線分析を行い半価幅のデータを取得して、
図7に示されるような半価幅と係数Aとの関係を得てもよい。
図7は
図5に対応する。
図7において、横軸は半価幅(deg)を示し、縦軸が上記係数Aを示している。
【0032】
図7に示されるように、試験片の半価幅と
図4に示された近似線の傾き(係数A)との間には相関がある。そのため、
図7の点線で示されるように、試験片の任意の半価幅と、上記係数Aとの関係を表す近似線を作成できる。
図7の近似線は、
図5の近似線と同様に第2関係に相当する。このようにして、
図3に示された硬さ補正係数(係数A)を取得するための関係を特定する工程(S21)を実施してもよい。
【0033】
図7に示された近似線を用いて、試験片の任意の半価幅に対応する係数Aを決定できる。たとえば、
図7に示されるように、試験片である転動部品の半価幅が6.6degである場合、
図7の近似線に基づき係数Aは11.6になることが分かる。
【0034】
なお、半価幅から係数Aを決定する場合、試験片としての転動部品において転動疲労していない箇所での半価幅を測定する必要がある。例えば,転がり軸受の内輪または外輪における端面であって、電解研磨により加工影響層を取り除いた部分は転動疲労の影響を受けていない。そのため、上述した半価幅として当該部分で測定した半価幅のデータを利用できる。あるいは、転動疲労前の軸受(新品の軸受)において、軌道面のX線分析により得られる半価幅のデータを利用してもよい。半価幅を取得する際のX線分析におけるX線入射方向は任意である。
【0035】
上述のように、試験片としての転動部品の硬度に応じてX線分析値と疲労度との関係曲線の傾き(硬さ補正係数)を調整することで、転動部品の疲労度を正確に推定できる。具体的には、
図8に示されるように、疲労度を推定する対象である被推定転動部品の転動疲労部についてX線回折環分析を行う工程(S111)を実施する。この工程(S111)では、被推定転動部品の転動疲労部にX線を照射して得られる、環状の回折X線を測定する。次に、X線分析値を取得する工程(S112)を実施する。この工程(S112)では、上記工程(S111)で得られたデータに基づき、
図3におけるX線分析値と同様のX線分析値を得る。具体的には、被推定転動部品の転動疲労部について、「環状の回折X線の中心角に対する回折強度のばらつきデータ(S)と、当該ばらつきデータの初期値(S
0)との比」(以下、S/S
0)をX線分析値として取得する。工程(S111)および工程(S112)が
図2の工程(S110)に対応する。上記被推定転動部品のX線分析値(S/S
0)が第2測定データに対応する。
【0036】
次に、転動部品の非転動疲労部についてX線回折環分析を行う工程(S31)を実施する。この工程(S31)では、被推定転動部品の被転動疲労部にX線を照射して得られる、環状の回折X線を測定する。次に、半価幅を取得する工程(S32)を実施する。この工程は、被推定転動部品の硬さと相関を有するデータとして半価幅のデータを、上記工程(S31)で測定されたデータに基づき特定する。なお、上記工程(S31)および工程(S32)に代えて、被推定転動部品の硬さを測定する工程(S33)を実施してもよい。上記工程(S31)、工程(S32)、工程(S33)が
図1の第1測定データを得る工程(S30)に対応する。
【0037】
次に、X線分析値と疲労度の関係曲線の硬さ補正係数(傾き)を算出する工程(S41)を実施する。この工程では、上記式(2)の傾きである係数Aを、上記工程(S32)で得た半価幅のデータ、または工程(S33)で得た硬さのデータと、
図5または
図7に示された第2関係とから決定する。決定された係数Aの値を式(2)に代入することで、被推定転動部品の疲労度を推定するための第1関係である特定第1関係が決定される。上記工程(S41)が
図1の工程(S40)に対応する。
【0038】
次に、補正した疲労度Dを得る工程(S121)が実施される。この工程(S121)では、工程(S112)で得たX線分析値と、上記工程(S41)で得た特定第1関係とから、被推定転動部品の疲労度Dが算出される。当該疲労度Dは、被推定転動部品の硬さを考慮して決定された特定第1関係を用いて算出されるため、硬さを考慮しない場合よりも正確な値となっている。
【0039】
なお、上述した疲労度推定方法において用いるX線評価値としては、上記のような転動部品の疲労部にX線を照射することで得られる環状の回折X線の中心角に対する回折強度のばらつきデータSと、ばらつきデータの初期値S0との比を用いてもよいが、当該ばらつきデータとばらつきデータの初期値との差を用いてもよい。X線評価値は、上記ばらつきデータと、転動部品の疲労部とは異なる部分である非疲労部にX線を照射することで得られる環状の回折X線の中心角に対する回折強度の第1比較用ばらつきデータとの比であってもよい。X線評価値は、上記ばらつきデータと第1比較用ばらつきデータとの差であってもよい。X線評価値は、ばらつきデータと、転動部品の疲労部において疲労が生じていない深さの領域にX線を照射することで得られる環状の回折X線の中心角に対する回折強度の第2比較用ばらつきデータとの比であってもよい。X線評価値は、上記ばらつきデータと第2比較用ばらつきデータとの差であってもよい。X線評価値は、上記ばらつきデータの標準偏差であってもよい。X線評価値は、転動部品の疲労部にX線を照射することで得られる環状の回折X線の中心角に対する回折強度の最大値と最小値との差であってもよい。X線評価値は、転動部品の疲労部にX線を照射することで得られる環状の回折X線の中心角に対する回折強度の最大値と平均値との差であってもよい。X線評価値は、転動部品の疲労部にX線を照射することで得られる環状の回折X線の中心角に対する回折強度の最小値と平均値との差であってもよい。X線評価値は、上述したデータのうちの2以上のデータに基づき求められる評価値であってもよい。
【0040】
<作用>
本開示に従った疲労度推定方法では、以下の工程を実施する。すなわち、転動部品の疲労部にX線を照射することで得られるX線分析値と転動部品の疲労度との関係を示す第1関係を入手する工程(S10)を実施する。第1関係は、転動部品の硬度に応じて変化する係数を含む。当該係数と、転動部品の硬度に対応する指標との関係を示す第2関係を入手する工程(S20)を実施する。疲労度を推定する対象である被推定転動部品から、上記指標の第1測定データを得る工程(S30)を実施する。第1測定データと第2関係とに基づき上記係数を決定し、決定された係数に基づき、被推定転動部品の疲労度を得るための特定第1関係を決定する工程(S40)を実施する。異なる観点から言えば、この工程(S40)では、上記被推定転動部品の疲労度を推定するための第1関係である特定第1関係に含まれる係数を、第1測定データと第2関係とに基づき決定することで、被推定転動部品の疲労度を得るための特定第1関係を決定する。また異なる観点から言えば、上記疲労度推定方法は、第1測定データと第2関係とに基づき上記係数を決定し、決定された係数に基づく特定第1関係によって疲労度を推定する工程(S40、S110、S120)を備える。
【0041】
この場合、特定第1関係では、被推定転動部品の硬度に対応する指標の第1測定データを用いて係数が決定されている。このため、当該特定第1関係は被推定転動部品の硬度を反映している。したがって、硬度を考慮しない場合より、被推定転動部品の疲労度を正確に推定できる。
【0042】
上記疲労度推定方法において、転動部品の硬度に対応する指標は、転動部品の硬度データであってもよい。第1測定データを得る工程(S30)では、第1測定データとして被推定転動部品の硬度データを測定してもよい。この場合、転動部品の硬度データを直接的に利用して、転動部品の疲労度の推定精度を向上させることができる。
【0043】
上記疲労度推定方法において、指標は転動部品のX線測定で得られる半価幅データであってもよい。第1測定データを得る工程(S30)では、第1測定データとして被推定転動部品の半価幅データを測定してもよい。この場合、硬さと相関のある半価幅データを利用して、転動部品の疲労度の推定精度を向上させることができる。
【0044】
ここで、転動部品を構成する鉄鋼材料(たとえばJIS規格に規定する高炭素クロム軸受鋼など)に関して、硬さと半価幅データとの相関関係がロックウェル硬さ50程度を境に変化することが知られている。そのため、本開示に係る疲労度推定方法は、特にロックウェル硬さが50以上の材料からなる転動部品に適用することが好ましい。また、ロックウェル硬さが53以上68以下の範囲において、上述した材料におけるロックウェル硬さと半価幅データとの相関関係はほぼ線形であって安定している。そのため、ロックウェル硬さが53以上68以下である材料からなる転動部品に対して、本開示に係る疲労度推定方法を適用することが特に好ましい。
【0045】
上記疲労度推定方法において、第2関係を入手する工程(S20)は、互いに異なる硬度を有する複数の転動部品のそれぞれについて、第1関係を求める工程(S21、S22)を含んでもよい。第2関係を入手する工程(S20)は、複数の転動部品のそれぞれに関する第1関係における係数と、複数の転動部品の硬度とに基づき前記第2関係を決定する工程(S21)を含んでもよい。
【0046】
上記疲労度推定方法では、被推定転動部品について、X線分析値に対応する第2測定データを得る工程(S110)を実施してもよい。上記疲労度推定方法では、第2測定データと、特定第1関係とに基づき、被推定転動部品の疲労度を決定する工程(S120)を実施してもよい。この場合、被推定転動部品の疲労度を高い精度で推定できる。
【0047】
上記疲労度推定方法において、X線分析値は、下記(1)から(10)からなる群から選択される1つのデータであってもよい。または、X線分析値は、下記(1)から(10)からなる群から選択される2以上のデータから求められる評価値でもよい。
(1)転動部品の疲労部にX線を照射することで得られる環状の回折X線の中心角に対する回折強度のばらつきデータと、ばらつきデータの初期値との比。
(2)ばらつきデータとばらつきデータの初期値との差。
(3)ばらつきデータと、転動部品の疲労部とは異なる部分である非疲労部にX線を照射することで得られる環状の回折X線の中心角に対する回折強度の第1比較用ばらつきデータとの比。
(4)ばらつきデータと第1比較用ばらつきデータとの差。
(5)ばらつきデータと、転動部品の疲労部において疲労が生じていない深さの領域にX線を照射することで得られる環状の回折X線の中心角に対する回折強度の第2比較用ばらつきデータとの比。
(6)ばらつきデータと第2比較用ばらつきデータとの差。
(7)ばらつきデータの標準偏差。
(8)転動部品の疲労部にX線を照射することで得られる環状の回折X線の中心角に対する回折強度の最大値と最小値との差。
(9)転動部品の疲労部にX線を照射することで得られる環状の回折X線の中心角に対する回折強度の最大値と平均値との差。
(10)転動部品の疲労部にX線を照射することで得られる環状の回折X線の中心角に対する回折強度の最小値と平均値との差。
【0048】
この場合、転動部品の状態などに応じてX線評価値を適宜選択できるので、疲労度推定方法の自由度を向上させることができる。
【0049】
<実施例>
二円筒試験機を用いた転動疲労試験を実施し、試験片としての転動部品について疲労度推定を行った例を以下に説明する。
【0050】
(試験装置)
図9は、二円筒試験機の構成を示す概略図である。
図9に示した二円筒試験機2は、駆動側回転軸D1と、従動側回転軸F1とを有している。駆動側回転軸D1は、
図9の左右方向に延びる部材であり、
図9における左側の末端部にモータMが接続されている。このモータMにより駆動側回転軸D1は、
図9の左右方向に延びる中心軸C1を中心にして回転可能となっている。
図9における駆動側回転軸D1の右側の先端部には駆動側試験片D2が取り付けられている。駆動側試験片D2は、駆動側回転軸D1の回転に伴い中心軸C1の周りに回転可能となるように、駆動側回転軸D1の右側の先端部に固定された。
【0051】
一方、従動側回転軸F1は、
図9の左右方向に延びる部材であり、
図9の左右方向に延びる中心軸C2を中心にして回転可能となっている。
図9において従動側回転軸F1は、駆動側回転軸D1とは逆に、左側が先端部に、右側が末端部になっている。
図9における従動側回転軸F1の左側の先端部には従動側試験片F2が取り付けられている。
【0052】
駆動側回転軸D1の中心軸C1と従動側回転軸F1の中心軸C2とは一致しておらず、両者は
図9の上下方向に間隔を有している。このため駆動側回転軸D1の先端部に固定された駆動側試験片D2と、従動側回転軸F1の先端部に固定された従動側試験片F2とは、それぞれの外径面同士が、これらの回転していない状態において外径面接触部DFにて互いに接触するように配置されている。駆動側試験片D2により、従動側試験片F2は摩擦駆動で回転される。なお互いに接触するように配置される駆動側試験片D2および従動側試験片F2は、これらの下に敷いている、給油用フェルトパッド3と接触している。
【0053】
(試験片)
駆動側試験片D2および従動側試験片F2はJIS規格SUJ2製であり、外径40mm、幅12mmの円筒形状である。各試験片の表面仕上げは超仕上げ(表面粗さRa0.01μm程度)および研削仕上げ(表面粗さRa0.16μm~0.4μm程度)を5種類用意した。各試験片の軸方向曲率半径は、表面仕上げが超仕上げの試験片で∞(ストレート)、表面仕上げが研削仕上げの試験片で60mm(曲面)となっている。
【0054】
(試験方法)
試験開始前に各試験片の端面硬さ測定と外径面のX線測定とを実施し、試験を開始する。X線測定の条件を表1に示す。
【0055】
【0056】
X線測定は、パルステック工業製のX線測定装置μ-X360で実施した。次に、試験条件を表2に示す。
【0057】
【0058】
表2において、Pmaxとは試験片における最大接触圧力(単位:GPa)である。また、表2において、試験片硬さとは試験開始前に測定された試験片硬さ(HRC)である。また、表2において、非転動疲労部の半価幅(単位:deg)とは、試験開始前に試験片の外径面など、非転動疲労部にてX線測定により得られた半価幅である。接触部の半価幅試験は条件Aから条件Gの7種類の条件で実施した。なお、半価幅を測定する箇所では、電解研磨等を行うことで加工影響層を除去しておくことが好ましい。試験中は一定時間経過ごとに試験を中断し、X線測定を実施した。
【0059】
(試験結果)
上述した条件Aから条件Gの7種類の条件について、X線分析値と疲労度との関係を得た。具体的には、各条件について疲労度(%)とX線評価値(S/S0)との関係を得た。なお、疲労度100%は転動接触面に観察される剥離面積率が閾値を超えた時点と定義した。また、条件Aから条件Gについて、第1条件としての上記式(2)に対応する近似線の傾き(式(2)の係数A)を算出した。近似線の傾きは、疲労度1%でX線評価値(S/S0)が1となるように,表計算ソフトの収束計算機能を用いて決定した。
【0060】
上記の様に求めた各条件での係数Aと、各条件における試験片の硬さとの関係(第2関係)を
図10に示す。
図10は、X線分析値と疲労度との関係を示す近似線の傾きと硬さとの関係を示すグラフである。
図10の横軸は試験片の硬さ(HRC)を示し、縦軸は上記近似線(S/S
0-疲労度線図)の傾き(係数A)を示している。
図10では、各条件での値が実験値として示されている。これらの実験値から、従来周知の方法により、試験片の硬さと係数Aとの関係を表す近似線を作成できる。
図10では当該近似線が点線で示されている。
図10の近似線が第2関係に相当する。このようにして、疲労度推定に用いる第2関係を特定することができる。
【0061】
この後、
図8に示された工程を実施することにより、疲労度を推定する対象である被推定転動部品の疲労度を精度良く推定できる。つまり、被推定転動部品の硬さを測定し(
図8の工程(S33))、
図10に示された近似線と当該測定した硬さのデータとに基づき、被推定転動部品の疲労度の推定に用いる上記式(2)の傾きである係数Aの値を決定する。当該係数Aの値を用いた式(2)は、被推定転動部品の疲労度を推定するための第1関係である特定第1関係である。そして、被推定転動部品の転動疲労部においてX線分析を行い、X線分析値(S/S
0)を取得する(
図8の工程(S111)および工程(S112))。その後、当該X線分析値と上記特定第1関係とから、被推定転動部品の疲労度を算出することができる。
【0062】
なお、
図10の近似線に代えて、
図11に示されるように第2関係としてX線分析により得られる半価幅のデータ(表2参照)と係数Aとの関係を示す近似線を用いてもよい。
図11は、X線分析値と疲労度との関係を示す近似線の傾き(係数A)と半価幅との関係を示すグラフである。
図11において、横軸は半価幅(deg)を示し、縦軸が上記係数Aを示している。
図11に示される第2関係を用いても、疲労度を推定する対象である被推定転動部品の疲労度を精度良く推定できる。つまり、被推定転動部品の半価幅を測定し(
図8の工程(S31)および工程(S32))、
図11に示された近似線と当該測定した半価幅のデータとに基づき、被推定転動部品の疲労度の推定に用いる上記式(2)の傾きである係数Aの値を決定する。当該係数Aの値を用いた式(2)は、被推定転動部品の疲労度を推定するための第1関係である特定第1関係である。そして、被推定転動部品の転動疲労部においてX線分析を行い、X線分析値(S/S
0)を取得する。その後、当該X線分析値と上記特定第1関係とから、被推定転動部品の疲労度を算出することができる。
【0063】
なお、高硬度の軸受鋼(たとえば焼入焼戻材、硬度がHRC53程度以上)の場合、研削加工により加工影響層の半価幅は低下する傾向がある。そのため、加工影響層を取り除かずに測定した半価幅を用いる場合、X線分析値(S/S0)と疲労度との関係線図(近似線)の傾き(係数A)は、加工影響層を取り除いた場合と比較して小さくなると考えられる。真値より小さい上記傾き(係数A)を使用して疲労度推定を行った場合、推定された疲労度は実際の疲労度より大きくなるため、安全側の推定になると言える。したがって、試験片において半価幅を測定する部分の加工影響層を取り除いた方が、正確な疲労度推定が可能となるが、当該部分の電解研磨が不可能な場合(たとえば試験片を非破壊で半価幅を測定しなければならない場合)、当該部分に対して電解研磨をせずに測定した半価幅を用いてもよい。
【0064】
上述したいずれかの方法で求めた疲労度と計算寿命との差を余寿命(残存寿命)とすれば、転動部品の使用継続判断の目安とすることができる。なお、疲労度を推定した時点以降で、転動部品の使用条件(たとえば潤滑条件、荷重、回転数等)が変化する場合は、余寿命も変化することに留意する必要がある。たとえば、潤滑条件が悪化すれば余寿命が短くなり、潤滑条件が良好になれば余寿命が長くなる可能性がある。
【0065】
以上の方法により,X線分析の結果(たとえばX線回折環の測定結果)から疲労度Dを求めることができる。また、疲労度Dと計算寿命とから簡易的に余寿命の目安を推定することができる。なお、回折環を測定できないX線応力測定装置で得られる分析値と疲労度との関係があれば,回折環を測定できないX線応力測定装置でも本開示に係る疲労度推定方法および余寿命推定方法を実施することは可能である。
【0066】
今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。矛盾のない限り、今回開示された実施の形態の少なくとも2つを組み合わせてもよい。本開示の基本的な範囲は、上記した説明ではなく特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることを意図される。
【0067】
以下、本開示の諸態様を付記としてまとめて記載する。
(付記1)
転動部品の疲労部にX線を照射することで得られるX線分析値と前記転動部品の疲労度との関係を示し、前記転動部品の硬度に応じて変化する係数を含む第1関係を入手する工程と、
前記係数と、前記転動部品の硬度に対応する指標との関係を示す第2関係を入手する工程と、
疲労度を推定する対象である被推定転動部品から、前記指標の第1測定データを得る工程と、
前記第1測定データと前記第2関係とに基づき前記係数を決定し、決定された前記係数に基づき、前記被推定転動部品の疲労度を得るための特定第1関係を決定する工程と、を備える、疲労度推定方法。
(付記2)
前記指標は前記転動部品の硬度データであり、
前記第1測定データを得る工程では、前記第1測定データとして前記被推定転動部品の硬度データを測定する、付記1に記載の疲労度推定方法。
(付記3)
前記指標は前記転動部品のX線測定で得られる半価幅データであり、
前記第1測定データを得る工程では、前記第1測定データとして前記被推定転動部品の半価幅データを測定する、付記1に記載の疲労度推定方法。
(付記4)
前記第2関係を入手する工程は、
互いに異なる硬度を有する複数の前記転動部品のそれぞれについて、前記第1関係を求める工程と、
複数の前記転動部品のそれぞれに関する前記第1関係における前記係数と、複数の前記転動部品の前記硬度とに基づき前記第2関係を決定する工程とを含む、付記1から付記3のいずれか1項に記載の疲労度推定方法。
(付記5)
前記被推定転動部品について、前記X線分析値に対応する第2測定データを得る工程と、
前記第2測定データと、前記特定第1関係とに基づき、前記被推定転動部品の疲労度を決定する工程と、を備える、付記1から付記4のいずれか1項に記載の疲労度推定方法。
(付記6)
前記X線分析値は、前記転動部品の疲労部にX線を照射することで得られる環状の回折X線の中心角に対する回折強度のばらつきデータと、前記ばらつきデータの初期値との比、前記ばらつきデータと前記ばらつきデータの前記初期値との差、前記ばらつきデータと、前記転動部品の前記疲労部とは異なる部分である非疲労部にX線を照射することで得られる環状の回折X線の中心角に対する回折強度の第1比較用ばらつきデータとの比、前記ばらつきデータと前記第1比較用ばらつきデータとの差、前記ばらつきデータと、前記転動部品の前記疲労部において疲労が生じていない深さの領域にX線を照射することで得られる環状の回折X線の中心角に対する回折強度の第2比較用ばらつきデータとの比、前記ばらつきデータと前記第2比較用ばらつきデータとの差、前記ばらつきデータの標準偏差、前記転動部品の前記疲労部にX線を照射することで得られる環状の回折X線の中心角に対する回折強度の最大値と最小値との差、前記転動部品の前記疲労部にX線を照射することで得られる環状の回折X線の中心角に対する回折強度の最大値と平均値との差、前記転動部品の前記疲労部にX線を照射することで得られる環状の回折X線の中心角に対する回折強度の最小値と平均値との差、からなる群から選択される1つのデータである、付記1から付記5のいずれか1項に記載の疲労度推定方法。
(付記7)
前記X線分析値は、前記転動部品の疲労部にX線を照射することで得られる環状の回折X線の中心角に対する回折強度のばらつきデータと、前記ばらつきデータの初期値との比、前記ばらつきデータと前記ばらつきデータの前記初期値との差、前記ばらつきデータと、前記転動部品の前記疲労部とは異なる部分である非疲労部にX線を照射することで得られる環状の回折X線の中心角に対する回折強度の第1比較用ばらつきデータとの比、前記ばらつきデータと前記第1比較用ばらつきデータとの差、前記ばらつきデータと、前記転動部品の前記疲労部において疲労が生じていない深さの領域にX線を照射することで得られる環状の回折X線の中心角に対する回折強度の第2比較用ばらつきデータとの比、前記ばらつきデータと前記第2比較用ばらつきデータとの差、前記ばらつきデータの標準偏差、前記転動部品の前記疲労部にX線を照射することで得られる環状の回折X線の中心角に対する回折強度の最大値と最小値との差、前記転動部品の前記疲労部にX線を照射することで得られる環状の回折X線の中心角に対する回折強度の最大値と平均値との差、前記転動部品の前記疲労部にX線を照射することで得られる環状の回折X線の中心角に対する回折強度の最小値と平均値との差、からなる群から選択される2以上のデータから求められる評価値である、付記1から付記5のいずれか1項に記載の疲労度推定方法。
【符号の説明】
【0068】
2 二円筒試験機、3 給油用フェルトパッド、C1,C2 中心軸、D1 駆動側回転軸、D2 駆動側試験片、DF 外径面接触部、F1 従動側回転軸、F2 従動側試験片、M モータ。