(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024037445
(43)【公開日】2024-03-19
(54)【発明の名称】レール破断検知装置及びレール破断検知方法
(51)【国際特許分類】
B61L 23/00 20060101AFI20240312BHJP
B61L 1/18 20060101ALI20240312BHJP
【FI】
B61L23/00 Z
B61L1/18 Z
【審査請求】有
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022142322
(22)【出願日】2022-09-07
(11)【特許番号】
(45)【特許公報発行日】2023-06-27
(71)【出願人】
【識別番号】000207470
【氏名又は名称】大同信号株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001999
【氏名又は名称】弁理士法人はなぶさ特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】松脇 康之
【テーマコード(参考)】
5H161
【Fターム(参考)】
5H161AA01
5H161BB01
5H161BB17
5H161BB20
5H161CC20
5H161DD02
5H161DD33
5H161FF02
5H161FF05
5H161FF07
(57)【要約】
【課題】破断検知の情報取得のためにレールに接続するケーブルの本数を抑制する。
【解決手段】レール破断検知装置10は、一対のレール70、72間を短絡する短絡部12と、一対のレール70、72で短絡部12を挟むレール延在方向の両側に設定された4箇所の電圧測定点16A~16Dに対して、各々の一端が接続される4本のケーブル20と、4本のケーブル20の他端が接続され、4箇所の電圧測定点16A~16Dの電位を測定する測定部30と、測定部30の測定結果に基づいて、一対のレール70、72の破断の有無を判定し、更にレール70、72の破断が発生したエリアを、4箇所の電圧測定点16A~16Dが設定された4つのエリアの中から特定する判定部50とを含む。これにより、レール70、72の破断を検知しながらも、ケーブル20の本数を抑制することができる。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
鉄道に利用されている一対のレールの破断を検知する装置であって、
前記一対のレール間を短絡する短絡部と、
前記一対のレールの各々で前記短絡部を挟むレール延在方向の両側に設定された、合計で4箇所の電圧測定点に対して、各々の一端が接続される4本のケーブルと、
該4本のケーブルの他端が接続され、前記4箇所の電圧測定点の電位を測定する測定部と、
該測定部の測定結果に基づいて、前記一対のレールの破断の有無を判定すると共に、レールの破断が発生したエリアを、前記4箇所の電圧測定点が設定された4つのエリアの中から特定する判定部と、を含むことを特徴とするレール破断検知装置。
【請求項2】
前記4箇所の電圧測定点の中で、前記一対のレールのうち一方のレールの、前記両側のうち一方側に設定された電圧測定点を第1電圧測定点とし、前記一対のレールのうち他方のレールの、前記一方側に設定された電圧測定点を第2電圧測定点とし、前記他方のレールの、前記両側のうち他方側に設定された電圧測定点を第3電圧測定点とし、前記一方のレールの前記他方側に設定された電圧測定点を第4電圧測定点としたとき、
前記判定部は、前記第1電圧測定点の電位と前記第2電圧測定点の電位とが平衡であるか否か、及び前記第3電圧測定点の電位と前記第4電圧測定点の電位とが平衡であるか否かに応じて、前記一対のレールの破断の有無を判定することを特徴とする請求項1記載のレール破断検知装置。
【請求項3】
前記判定部は、前記第1電圧測定点の電位、前記第2電圧測定点の電位、前記第3電圧測定点の電位、及び前記第4電圧測定点の電位の間の不平衡率を利用して、レールの破断箇所が前記4箇所の電圧測定点と前記短絡部との間であるか否かを判定することを特徴とする請求項2記載のレール破断検知装置。
【請求項4】
前記判定部は、前記第1電圧測定点の電位の絶対値、前記第2電圧測定点の電位の絶対値、前記第3電圧測定点の電位の絶対値、及び前記第4電圧測定点の電位の絶対値の中で、最大値を特定することで、前記4つのエリアの中からレールの破断が発生したエリアを特定することを特徴とする請求項3記載のレール破断検知装置。
【請求項5】
前記短絡部が、前記一対のレールの所定距離毎に設置されると共に、前記4本のケーブル及び前記測定部が、一つ置きの前記短絡部毎に設置されることを特徴とする請求項1から4のいずれか1項記載のレール破断検知装置。
【請求項6】
鉄道に利用されている一対のレールの破断を検知する方法であって、
前記一対のレール間を短絡した短絡部を設置し、
前記一対のレールの各々で前記短絡部を挟むレール延在方向の両側に設定した、合計で4箇所の電圧測定点の電位を測定し、
該測定結果に基づいて、前記一対のレールの破断の有無を判定すると共に、レールの破断が発生したエリアを、前記4箇所の電圧測定点を設定した4つのエリアの中から特定することを特徴とするレール破断検知方法。
【請求項7】
前記4箇所の電圧測定点の中で、前記一対のレールのうち一方のレールの、前記両側のうち一方側に設定された電圧測定点を第1電圧測定点とし、前記一対のレールのうち他方のレールの、前記一方側に設定された電圧測定点を第2電圧測定点とし、前記他方のレールの、前記両側のうち他方側に設定された電圧測定点を第3電圧測定点とし、前記一方のレールの前記他方側に設定された電圧測定点を第4電圧測定点としたとき、
前記第1電圧測定点の電位と前記第2電圧測定点の電位とが平衡であるか否か、及び前記第3電圧測定点の電位と前記第4電圧測定点の電位とが平衡であるか否かに応じて、前記一対のレールの破断の有無を判定することを特徴とする請求項6記載のレール破断検知方法。
【請求項8】
前記第1電圧測定点の電位、前記第2電圧測定点の電位、前記第3電圧測定点の電位、及び前記第4電圧測定点の電位の間の不平衡率を利用して、レールの破断箇所が前記4箇所の電圧測定点と前記短絡部との間であるか否かを判定することを特徴とする請求項7記載のレール破断検知方法。
【請求項9】
前記第1電圧測定点の電位の絶対値、前記第2電圧測定点の電位の絶対値、前記第3電圧測定点の電位の絶対値、及び前記第4電圧測定点の電位の絶対値の中で、最大値を特定することで、前記4つのエリアの中からレールの破断が発生したエリアを特定することを特徴とする請求項8記載のレール破断検知方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鉄道に利用されている一対のレールの破断を検知するレール破断検知装置及びレール破断検知方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
鉄道の運用において、大きなトラブルの発生を未然に防止するために、レールの破断を事前に検知することは必須である。従来、レールの破断検知は、列車の在線検知のために設置された軌道回路を利用したものが主流であったが、近年では、列車の在線検知方法の変更に伴い、軌道回路を利用せずにレールの破断を検知する方法が発案されている(例えば特許文献1、2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平06-321110号公報
【特許文献2】特開2012-091671号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ここで、軌道回路を利用したレールの破断検知方法は、上述したように列車の在線検知方法の変更に伴って利用頻度が少なくなってはいるが、一対のレールの双方に送信器から流した信号を受信器により受信するため、軌道回路毎に各レールに送受信のための2本のケーブルを接続する必要がある(
図5(b)のケーブル120参照)。一方、特許文献1、2の方法は、軌道回路を利用しないものの、一対のレールの双方で帰線電流の電圧降下を測定するため、各レールの破断検知エリア毎に2本のケーブルを接続する必要がある(
図5(c)のケーブル120参照)。これらのケーブルは、それ自体の破損なども考えられることから、レールの破断検知の信頼性を高めるために、また、施工性の観点からも、使用本数が少ない方が好ましい。
【0005】
本発明は上記課題に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、破断検知の情報取得のためにレールに接続するケーブルの本数を抑制することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
(発明の態様)
以下の発明の態様は、本発明の構成を例示するものであり、本発明の多様な構成の理解を容易にするために、項別けして説明するものである。各項は、本発明の技術的範囲を限定するものではなく、発明を実施するための最良の形態を参酌しつつ、各項の構成要素の一部を置換し、削除し、又は、更に他の構成要素を付加したものについても、本発明の技術的範囲に含まれ得るものである。
【0007】
(1)鉄道に利用されている一対のレールの破断を検知する装置であって、前記一対のレール間を短絡する短絡部と、前記一対のレールの各々で前記短絡部を挟むレール延在方向の両側に設定された、合計で4箇所の電圧測定点に対して、各々の一端が接続される4本のケーブルと、該4本のケーブルの他端が接続され、前記4箇所の電圧測定点の電位を測定する測定部と、該測定部の測定結果に基づいて、前記一対のレールの破断の有無を判定すると共に、レールの破断が発生したエリアを、前記4箇所の電圧測定点が設定された4つのエリアの中から特定する判定部と、を含むレール破断検知装置。
【0008】
本項に記載のレール破断検知装置は、短絡部、4本のケーブル、測定部、及び判定部を含み、短絡部は、一対のレール間を接続して短絡するものである。そして、一対のレールの各々に、短絡部を挟むような位置関係でレール延在方向の両側の2箇所に電圧測定点が設定され、一対のレールでは合計で4箇所の電圧測定点が設定される。4本のケーブルは、そのように設定されたレールの4箇所の電圧測定点に対して各々の一端が接続され、各々の他端が測定部に対して接続される。そして、測定部は、接続された4本のケーブルを介して、4箇所の電圧測定点の電位を測定する。すなわち、一対のレールには、変電所から架線を介して列車へ供給され、列車のモータなどで使用された後に変電所へ戻る帰線電流が流れているため、そのような帰線電流による電位を、4箇所の電圧測定点において測定部により測定するものである。
【0009】
判定部は、測定部により測定された4箇所の電圧測定点における電位に基づいて、一対のレールで破断が発生しているか否かを判定すると共に、破断が発生していた場合にその発生したエリアを特定する。すなわち、短絡部を挟む位置関係で一対のレールに設定された4箇所の電圧測定点の電位は、一対のレールに同じ乃至略同じ大きさの帰線電流が流れる通常時は平衡関係にある。しかしながら、レールの何れかの部分で破断が発生した場合は、破断箇所に帰線電流が略流れなくなり、上記の平衡関係が崩れてアンバランスになるため、それを検知してレールで破断が発生したと判定する。更に、4箇所の電圧測定点における電位のバランスと、破断が発生したエリアとの関係性などが、シミュレーション結果などに基づいて予め設定されていることで、それに基づいて、4箇所の電圧測定点における電位から、破断が発生したエリアを特定する。ここでのエリアとは、4箇所の電圧測定点が設定された4つのエリアであり、一対のレールの各々を短絡部を境界として2つのエリアに分けた合計で4つのエリアである。
【0010】
このようにして、列車検知信号やレール破断検知専用の信号が使用されることなく、レールの破断の検知に加えて、破断が発生したエリアが特定されるものである。しかも、情報取得のためにレールに接続されるケーブルは4本であり、それによって4つのエリアでのレールの破断が検知されることを加味すると、エリア毎に1本のケーブルのみが使用されている。このため、従来と比較してケーブルの本数が半減しており、ケーブルの本数が抑制されるものである。更に、4箇所の電圧測定点が短絡部の近傍に設定されていれば、4本のケーブルが短絡部の近傍に接続される構成となるため、短絡部と4本のケーブルと測定部とが地上設備としてコンパクトに設置されながらも、そこから延びる長いレールの破断が検知されるものである。
【0011】
(2)上記(1)項において、前記4箇所の電圧測定点の中で、前記一対のレールのうち一方のレールの、前記両側のうち一方側に設定された電圧測定点を第1電圧測定点とし、前記一対のレールのうち他方のレールの、前記一方側に設定された電圧測定点を第2電圧測定点とし、前記他方のレールの、前記両側のうち他方側に設定された電圧測定点を第3電圧測定点とし、前記一方のレールの前記他方側に設定された電圧測定点を第4電圧測定点としたとき、前記判定部は、前記第1電圧測定点の電位と前記第2電圧測定点の電位とが平衡であるか否か、及び前記第3電圧測定点の電位と前記第4電圧測定点の電位とが平衡であるか否かに応じて、前記一対のレールの破断の有無を判定するレール破断検知装置。
【0012】
本項に記載のレール破断検知装置は、一対のレールの各々で短絡部を挟むレール延在方向の両側に設定された4箇所の電圧測定点を、上記のようにレール及び短絡部を挟んだ位置関係で識別して、第1電圧測定点~第4電圧測定点と呼称する。そして、判定部は、測定部により測定される第1電圧測定点の電位と第2電圧測定点の電位とを比較し、また、第3電圧測定点の電位と第4電圧測定点の電位とを比較する。ここで、第1電圧測定点と第2電圧測定点とは、レールは異なるものの短絡部に対して同じ側(一方側)にあり、第3電圧測定点と第4電圧測定点についても、レールは異なるものの短絡部に対して同じ側(他方側)にある。従って、このような位置関係にある電圧測定点同士を比較することで、短絡部を挟んだレール延在方向の両側の各々について、帰線電流による電位が一対のレール間で比較されることになる。
【0013】
このため、レールの破断が発生していない状態では、一対のレールに同じ乃至略同じ大きさの帰線電流が流れることから、第1電圧測定点の電位と第2電圧測定点の電位とは平衡関係にあり、第3電圧測定点の電位と第4電圧測定点の電位も平衡関係にある。これに対し、一対のレールの何れかで破断が発生すると、一対のレールを流れる帰線電流間の平衡関係が崩れるため、第1電圧測定点の電位と第2電圧測定点の電位との平衡関係や、第3電圧測定点の電位と第4電圧測定点の電位との平衡関係も崩れる。これを利用して、判定部は、第1電圧測定点の電位と第2電圧測定点の電位とが平衡であるか否か、及び第3電圧測定点の電位と第4電圧測定点の電位とが平衡であるか否かに応じて、一対のレールの破断の有無を判定するものである。これにより、レールの破断の有無が、より正確に判定されるものとなる。
【0014】
(3)上記(2)項において、前記判定部は、前記第1電圧測定点の電位、前記第2電圧測定点の電位、前記第3電圧測定点の電位、及び前記第4電圧測定点の電位の間の不平衡率を利用して、レールの破断箇所が前記4箇所の電圧測定点と前記短絡部との間であるか否かを判定するレール破断検知装置。
本項に記載のレール破断検知装置は、判定部が、レールの破断が発生した場合の、破断箇所の絞り込みを行うものである。具体的に、判定部は、第1電圧測定点の電位、第2電圧測定点の電位、第3電圧測定点の電位、及び第4電圧測定点の電位の間の不平衡率を利用して、レールの破断箇所を絞り込む。
【0015】
すなわち、第1電圧測定点~第4電圧測定点の電位間の不平衡率は、短絡部が含まれた回路の帰線電流バランスを表すものであるため、そのような不平衡率の大きさには、レールの破断箇所に応じた特性が現れる。そこで、レールの破断箇所が4箇所の電圧測定点と短絡部との間である場合と、そうではなく短絡部を中心として4箇所の電圧測定点よりも外側の場合との、不平衡率の大きさの傾向を、シミュレーション結果などに基づいて予め把握する。そして、そのような不平衡率の大きさの傾向に対して、測定された第1電圧測定点~第4電圧測定点の電位から算出した不平衡率を適用することで、レールの破断箇所が4箇所の電圧測定点と短絡部との間であるか否かを判定するものである。これにより、レールの破断箇所が精度よく絞り込まれるものとなる。
【0016】
(4)上記(3)項において、前記判定部は、前記第1電圧測定点の電位の絶対値、前記第2電圧測定点の電位の絶対値、前記第3電圧測定点の電位の絶対値、及び前記第4電圧測定点の電位の絶対値の中で、最大値を特定することで、前記4つのエリアの中からレールの破断が発生したエリアを特定するレール破断検知装置。
本項に記載のレール破断検知装置は、上記(1)項で言及したように判定部が4つのエリアの中からレールの破断が発生したエリアを特定する際に、第1電圧測定点~第4電圧測定点における電位の絶対値の中から最大値を特定するものである。すなわち、レールの破断箇所が短絡部を中心として4箇所の電圧測定点よりも外側の場合には、破断が発生したエリアにあるレールに帰線電流が略流れず、そのエリアに対してレール幅方向について対向する位置のエリアにある反対のレールに、通常時の2倍程度の帰線電流が流れる。従って、レールが破断したエリアに対向する位置のエリアに設定された電圧測定点での電位が、他の電圧測定点での電位と比較して明らかに大きくなり、その電位が最大値として特定される。このため、最大値の電位が測定されたエリアに対向する位置のエリアにおいて、レールの破断が発生したと特定されることになる。
【0017】
これに対し、レールの破断箇所が4箇所の電圧測定点と短絡部との間である場合には、破断箇所に帰線電流が略流れないため、その破断が発生したエリアに設定された電圧測定点において、電圧が殆ど降下していない状態の電位が測定される。従って、レールが破断したエリアに設定された電圧測定点での電位が、他の電圧測定点での電位と比較して明らかに大きくなり、その電位が最大値として特定される。このため、最大値の電位が測定されたエリアにおいて、レールの破断が発生したと特定されることになる。このように、上記(3)項で言及したレールの破断箇所が4箇所の電圧測定点と短絡部との間であるか否かに応じて、特定した電位の最大値からのエリアの特定方法を使い分ける。そして、レールの破断箇所が4箇所の電圧測定点と短絡部との間であるか否の判定結果と、4つのエリアの中から特定された破断が発生したエリアとが組み合わされて、合計で8パターンの破断箇所からレールの破断箇所が特定されるものである。これにより、使用するケーブルの本数が抑制されながらも、レールの破断箇所がより詳細に特定されるものとなる。
【0018】
(5)上記(1)から(4)項において、前記短絡部が、前記一対のレールの所定距離毎に設置されると共に、前記4本のケーブル及び前記測定部が、一つ置きの前記短絡部毎に設置されるレール破断検知装置。
本項に記載のレール破断検知装置は、長距離のレールにわたってレールの破断を検知する場合の構成について言及するものであって、まず、短絡部が一対のレールの所定距離毎に設置され、これにより短絡部がレール延在方向に沿って複数設置されることになる。そして、4本のケーブル及び測定部が、複数設置された短絡部のうち、レール延在方向に沿って一つ置きの短絡部毎に設置される。すなわち、4箇所の電圧測定点が設定される4つのエリアは、4箇所の電圧測定点に挟まれた短絡部から、それに隣接する短絡部までの範囲をカバーするため、短絡部毎に4本のケーブルや測定部を設置する必要はなく、一つ置きの短絡部毎に設置すればよい。従って、長距離にわたってレールの破断を検知する場合であっても、接続するケーブルの本数が抑制されるものであり、それに伴って測定部の数量も抑制されるものである。
【0019】
(6)鉄道に利用されている一対のレールの破断を検知する方法であって、前記一対のレール間を短絡した短絡部を設置し、前記一対のレールの各々で前記短絡部を挟むレール延在方向の両側に設定した、合計で4箇所の電圧測定点の電位を測定し、該測定結果に基づいて、前記一対のレールの破断の有無を判定すると共に、レールの破断が発生したエリアを、前記4箇所の電圧測定点を設定した4つのエリアの中から特定するレール破断検知方法。
【0020】
(7)上記(6)項において、前記4箇所の電圧測定点の中で、前記一対のレールのうち一方のレールの、前記両側のうち一方側に設定された電圧測定点を第1電圧測定点とし、前記一対のレールのうち他方のレールの、前記一方側に設定された電圧測定点を第2電圧測定点とし、前記他方のレールの、前記両側のうち他方側に設定された電圧測定点を第3電圧測定点とし、前記一方のレールの前記他方側に設定された電圧測定点を第4電圧測定点としたとき、前記第1電圧測定点の電位と前記第2電圧測定点の電位とが平衡であるか否か、及び前記第3電圧測定点の電位と前記第4電圧測定点の電位とが平衡であるか否かに応じて、前記一対のレールの破断の有無を判定するレール破断検知方法。
【0021】
(8)上記(7)項において、前記第1電圧測定点の電位、前記第2電圧測定点の電位、前記第3電圧測定点の電位、及び前記第4電圧測定点の電位の間の不平衡率を利用して、レールの破断箇所が前記4箇所の電圧測定点と前記短絡部との間であるか否かを判定するレール破断検知方法。
(9)上記(8)項において、前記第1電圧測定点の電位の絶対値、前記第2電圧測定点の電位の絶対値、前記第3電圧測定点の電位の絶対値、及び前記第4電圧測定点の電位の絶対値の中で、最大値を特定することで、前記4つのエリアの中からレールの破断が発生したエリアを特定するレール破断検知方法。
そして、(6)~(9)項に記載のレール破断検知方法は、各々、上記(1)~(4)項のレール破断検知装置により実行されることで、上記(1)~(4)項のレール破断検知装置と同様の作用を奏するものである。
【発明の効果】
【0022】
本発明は上記のような構成であるため、破断検知の情報取得のためにレールに接続するケーブルの本数を抑制することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【
図1】本発明の実施の形態に係るレール破断検知装置の構成を概略的に示すイメージ図であり、(a)が基本概念イメージ図、(b)が配置イメージ図である。
【
図2】本発明の実施の形態に係るレール破断検知装置の構成を概略的に示すブロックイメージ図である。
【
図3】本発明の実施の形態に係るレール破断検知方法の手順の一例を示すフロー図である。
【
図4】本発明の実施の形態に係るレール破断検知方法で利用されるシミュレーション結果の一例を示している。
【
図5】使用するケーブル本数を比較するための配置イメージ図であり、(a)が本発明の実施の形態に係るレール破断検知装置のもの、(b)及び(c)が従来技術のものである。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明を実施するための形態を、添付図面に基づいて説明する。ここで、従来技術と同一部分、若しくは相当する部分については、詳しい説明を省略することとし、また、図面の全体にわたって、同一部分又は対応する部分は、同一符号で示している。
図1及び
図2は、本発明の実施の形態に係るレール破断検知装置10の構成の一例を概略的に示している。まず、
図1(a)を参照して、本発明の実施の形態に係るレール破断検知装置10や、これを利用したレール破断検知方法の基本概念について説明する。図示のように、鉄道で利用されている一対のレール70、72の各々には、帰線電流が流れている。すなわち、変電所82から架線76を介して列車80へ供給される電力は、列車80でモータなどの様々な用途に使用された後、列車80の車軸を介して一対のレール70、72へと流れる。それが変電所82へ戻るために一対のレール70、72を流れている状態のものが帰線電流である。本発明の実施の形態に係るレール破断検知装置10及びレール破断検知方法では、そのような帰線電流を利用して一対のレール70、72の破断を検知する。
【0025】
図1(b)及び
図2を参照して、本発明の実施の形態に係るレール破断検知装置10は、短絡部12、4本のケーブル20、測定部30、及び判定部50を含んでいる。短絡部12は、一対のレール70、72間を接続して短絡するものであって、任意の線材により構成される。この短絡部12は、長距離にわたってレール70、72の破断を検知する場合は、レール70、72の所定距離毎に設置される(
図5(a)参照)。その所定距離は、これに限定されるものではないが、例えば10kmである。そして、隣接する短絡部12間は、レール70、72の破断が発生した位置を絞り込むための、仮想的なエリアとして見なすことができる。
図1(b)には、そのような仮想的なエリアとして、一対のレール70、72の各々が短絡部12を挟んで左右両側に分けられた、エリア1~エリア4が破線で図示されている。
【0026】
4本のケーブル20は、レール70、72に設定された4箇所の電圧測定点16(16A~16D)の各々に接続されている。4箇所の電圧測定点16A~16Dは、一対のレール70、72の各々の、短絡部12を挟む位置関係でレール延在方向の両側に設定されている。すなわち、第1電圧測定点16Aは、レール70の短絡部12よりも図中左側の位置に設定されており、これはエリア1内に相当する。また、第2電圧測定点16Bは、レール72の短絡部12よりも図中左側の位置に設定されており、これはエリア2内に相当する。更に、第3電圧測定点16Cは、レール72の短絡部12よりも図中右側の位置に設定され、これはエリア4内に相当し、第4電圧測定点16Dは、レール70の短絡部12よりも図中右側の位置に設定され、これはエリア3内に相当する。
【0027】
短絡部12から4箇所の電圧測定点16A~16Dの各々までの距離は、例えば3~20m程度であるが、これに限定されることはなく、もっと長い距離や短い距離であってもよい。このような4箇所の電圧測定点16A~16Dに接続された4本のケーブル20は、レール70、72の近傍に設置された測定部30まで延びている。なお、レール70、72から測定部30までの距離は、列車80の走行の影響による飛来物の衝突を避けるために、例えば10m程度であることが好ましく、4本のケーブル20の長さもそれに応じて設定される。4本のケーブル20には、任意の線材を利用してよい。
【0028】
測定部30は、4本のケーブル20を介して接続された4箇所の電圧測定点16A~16Dにおける、帰線電流の影響による電位を測定するものである。例えば測定部30は、
図2において4本のケーブル20に接続されたような5つの抵抗成分R1~R5を利用して、4箇所の電圧測定点16A~16Dの電位を測定する。抵抗成分R1及びR2は、第1電圧測定点16Aに接続されたケーブル20と、第2電圧測定点16Bに接続されたケーブル20との間で直列に接続されている。抵抗成分R3及びR4は、第3電圧測定点16Cに接続されたケーブル20と、第4電圧測定点16Dに接続されたケーブル20との間で直列に接続されている。抵抗成分R5は、直列に接続された抵抗成分R1及びR2の間と、直列に接続された抵抗成分R3及びR4の間とに接続されている。
【0029】
そして、第1電圧測定点16Aの電位は、抵抗成分R1の両端間の電位差V1として測定され、第2電圧測定点16Bの電位は、抵抗成分R2の両端間の電位差V2として測定される。また、第3電圧測定点16Cの電位は、抵抗成分R3の両端間の電位差V3として測定され、第4電圧測定点16Dの電位は、抵抗成分R4の両端間の電位差V4として測定される。更に、抵抗成分R5の両端間の電位差V5が、中点電位として測定される。なお、
図2に示された抵抗成分R1~R5の構成は一例であって、4箇所の電圧測定点16A~16Dの電位を測定するものであれば、任意の数量及び任意の接続配置の抵抗成分を利用してよい。
【0030】
また、測定部30は、測定した電位V1~V5の信号処理を行う信号処理部32、測定部30全体の制御を担うCPU42、及びデータ通信を行うための通信部44などを備えている。信号処理部32は、電位V1~V5の各々を、ATTにより減衰させ、LPFによりフィルタ処理し、バッファにより処理速度を調整した後、A/D変換によりデジタル信号へと変換する。そして、CPU42は、信号処理部32により処理された電位V1~V5のデータを、通信に適したデータ単位に取り纏めたりする。通信部44は、CPU42から受けたデータを、アンテナ46を介した無線通信(公衆回線又は専用回線)やメタル回線などで、判定部50に対して伝送する。このような測定部30は、上述した機能を実現可能な任意の部材、機器、及びソフトウェアを利用して構成される。なお、4本のケーブル20及び測定部30は、長距離にわたってレール70、72の破断を検知する場合は、複数設置された短絡部12のうち、レール延在方向に沿って一つ置きの短絡部12毎に設置される(
図5(a)参照)。
【0031】
判定部50は、測定部30から取得したデータに基づいて、一対のレール70、72における破断の有無の判定や、破断箇所の特定などを行うものであり、通信部54、データ処理部56、データ表示部58、及びデータ蓄積部60などを備えている。通信部54は、測定部30などと通信を行うためのものであり、アンテナ52を介した無線通信やメタル回線などで、測定部30から伝送された電位V1~V5に係る処理データを受信する。データ処理部56は、通信部54を介して受信したデータを解析して、レール70、72の破断検知を実質的に行う部位であるが、その詳しい説明は後述する。通信部54及びデータ処理部56は、任意のハードウェアやソフトウェアで構成される。
【0032】
データ表示部58は、データ処理部56での処理結果を表示するためのものであり、データ表示部58により表示されたデータは、作業員などによって確認される。データ蓄積部60は、データ処理部56での処理結果などを蓄積するものであって、データ蓄積部60により蓄積されたデータは、レール70、72の破断検知の精度向上などのために利用される。データ表示部58は、任意のディスプレイ装置で構成され、データ蓄積部60は、任意の記憶装置で構成される。上記のような構成の判定部50は、機器室や指令所といった、レール70、72の破断検知の結果をいち早く知る必要がある人員の配置場所に設置される。また、長距離にわたってレール70、72の破断を検知する場合において、短絡部12、4本のケーブル20、及び測定部30は、上述したように複数設置されるが、判定部50は、複数の測定部30からのデータを処理できれば1つのみであってもよく、データを複数の判定部50で分担して処理してもよい。なお、
図1(b)での判定部50の図示は省略しており、また、
図1(b)に示されている破断A~破断Hについては後述する。
【0033】
ここで、本発明の実施の形態に係るレール破断検知装置10は、
図1及び
図2に示された構成に限定されるものではなく、別の構成であってもよい。例えば、測定部30は、4箇所の電圧測定点16A~16Dの電位を測定し、その結果を判定部50へ伝送するものであれば、
図2の構成要素の一部が削除、変更、ないし適宜追加された任意の構成であってよい。同様に、判定部50も、測定部30の測定結果に基づいて、一対のレール70、72の破断の有無の判定や破断エリアの特定を行うものであれば、
図2の構成要素の一部が削除、変更、ないし適宜追加された任意の構成であってよい。
【0034】
続いて、
図3に示すフロー図を参照しながら、上述したレール破断検知装置10を用いて実行される、本発明の実施の形態に係るレール破断検知方法の具体的な手順について説明する。レール破断検知装置10の構成については、適宜、
図1及び
図2を参照のこと。なお、
図3に示すフロー図は、具体的な手順を説明するための一例を示したものである。従って、本発明の実施の形態に係るレール破断検知方法の手順は、
図3のフロー図に限定されるものではなく、例えばレール破断検知装置10の構成や状況などに応じて、
図3に示したステップの一部が削除、変更、ないし適宜追加されたフローであってもよいものである。
【0035】
S10(電位測定):
図1及び
図2のように設置した測定部30により、4箇所の電圧測定点16A~16Dの現在の電位を測定する。すなわち、本実施形態では、第1電圧測定点16Aの電位V1、第2電圧測定点16Bの電位V2、第3電圧測定点16Cの電位V3、第4電圧測定点16Dの電位V4、及び中点電位V5を測定する。そして、測定した電位V1~V5を信号処理した後、測定部30から判定部50へと伝送する。
S20(絶対値算出):判定部50のデータ処理部56により、測定部30から受信した電位V1~V5のうち、電位V1~V4の絶対値を算出する。すなわち、第1電圧測定点16Aの電位V1、第2電圧測定点16Bの電位V2、第3電圧測定点16Cの電位V3、及び第4電圧測定点16Dの電位V4の各々の絶対値を算出する。このとき、算出した絶対値が軌道調整時に測定された電位V1~V4のものである場合は、初期値として記憶してもよい。
【0036】
S30(最大値特定):データ処理部56により、上記S20で算出した電位V1~V4の絶対値の中から、最も値が大きい最大値を特定する。そして、最大値として特定された電位が測定された電圧測定点16を、4箇所の電圧測定点16A~16Dの中から特定して把握する。
S40(不平衡率算出):データ処理部56により、電位V1~V4の間の不平衡率を算出する。本実施形態では、短絡部12が含まれた回路の帰線電流バランスが加味されるように、不平衡率を以下の式によって算出する。
【0037】
UB=(Abs(1-Abs((V1+V3+V5)/(V2+V4+V5))))/(Abs(1+Abs((V1+V3+V5)/(V2+V4+V5))))×100
上記の式のうち、「UB」は不平衡率、「Abs」は絶対値、「V1」~「V5」は電位V1~V5を示している。なお、不平衡率を求める上記の式は一例であって、測定部30の構成や後述するシミュレーション結果などに応じて、任意の式で不平衡率を算出してよい。また、軌道調整時に測定された電位V1~V5から算出された不平衡率は、初期不平衡率として記憶してもよい。
【0038】
S50(平衡関係判定):データ処理部56により、第1電圧測定点16Aの電位V1と第2電圧測定点16Bの電位V2とが平衡であるか否か、及び第3電圧測定点16Cの電位V3と第4電圧測定点16Dの電位V4とが平衡であるか否かを判定する。本実施形態では、上記S20において算出した、第1電圧測定点16Aの電位V1の絶対値と、第2電圧測定点16Bの電位V2の絶対値とを比較して、±5%以内の差分で等しいか否かを判定する。同様に、上記S20において算出した、第3電圧測定点16Cの電位V3の絶対値と、第4電圧測定点16Dの電位V4の絶対値とを比較して、±5%以内の差分で等しいか否かを判定する。このとき、上記S20で言及した初期値を比較対象としてもよい。
【0039】
そして、電位V1と電位V2とが等しいと判定し、且つ、電位V3と電位V4とが等しいと判定した場合(YES)は、それらが平衡関係にあるものとして、S60へ移行する。これに対し、電位V1と電位V2とが等しくないと判定し、及び/又は、電位V3と電位V4とが等しくないと判定した場合(NO)は、それらの少なくとも何れか一方が平衡関係にないものとして、S70へ移行する。なお、電位V1と電位V2とが平衡であるか否かの判定方法、及び電位V3と電位V4とが平衡であるか否かの判定方法は、上記の方法に限定されるものではなく、後述するシミュレーション結果などに応じて任意の方法を採用してよい。
【0040】
ここで、
図4には、
図1及び
図2のような構成において、レール70、72の破断が発生した場合と破断が発生していない場合との、電位V1~V5及び不平衡率UBのシミュレーション結果が表形式で示されている。
図4において、状態が「正常」は、レール70、72の何れの箇所でも破断が発生していない正常状態のものを示し、状態が「破断A」~「破断H」は、それぞれ
図1(b)に示された破断A~破断Hの箇所で破断が発生したものを示している。
図4における「正常」のシミュレーション結果を確認すると、電位V1~V4は、それらの絶対値を比較すれば全て値が等しくなっており、不平衡率UBは「0%」である。従って、S50の処理ステップにおいて、
図4における「正常」のシミュレーション結果は、電位V1と電位V2とが平衡であると判定され、且つ、電位V3と電位V4とが平衡であると判定されるため、S60へ移行することが分かる。
【0041】
一方、
図4における「破断A」のシミュレーション結果を確認すると、電位V1と電位V2とは、それらの絶対値同士が±5%以内の差分に収まっておらず、電位V3と電位V4も、それらの絶対値同士が±5%以内の差分に収まっていない。従って、S50の処理ステップにおいて、
図4における「破断A」のシミュレーション結果は、電位V1と電位V2とが平衡ではないと判定され、更に、電位V3と電位V4とが平衡ではないと判定されるため、S70へ移行することが分かる。同様に、
図4における「破断B」~「破断D」のシミュレーション結果は、何れも、電位V1と電位V2との絶対値同士が±5%以内の差分に収まっておらず、電位V3と電位V4との絶対値同士も±5%以内の差分に収まっていないため、S50の処理ステップにおいて、S70へ移行することになる。
【0042】
他方、
図4における「破断E」のシミュレーション結果を確認すると、電位V3と電位V4とは、それらの絶対値同士が±5%以内の差分に収まっているが、電位V1と電位V2とは、それらの絶対値同士が±5%以内の差分に収まっていない。従って、S50の処理ステップにおいて、
図4における「破断E」のシミュレーション結果は、電位V1と電位V2とが平衡ではないと判定されるため、S70へ移行することが分かる。同様に、
図4における「破断F」~「破断H」のシミュレーション結果は、電位V1と電位V2との絶対値同士が±5%以内の差分に収まっていない、或いは電位V3と電位V4との絶対値同士が±5%以内の差分に収まっていないため、S50の処理ステップにおいて、S70へ移行することになる。すなわち、上記S50では、実質的に、一対のレール70、72で破断が発生しているか否かの判定が行われることになる。
【0043】
S60(レール正常判定):データ処理部56により、上記S10で測定された最新の電位V1~V5からは、レール70、72の破断が発生しているような傾向が見られないため、レール70、72は正常な状態にあると判定する。なお、
図4に示された「正常」のシミュレーション結果のような電位V1~V5が測定された場合は、上述したように本ステップS60へ移行するため、シミュレーション結果の通りにレール70、72が正常であると判定されることが確認できる。
【0044】
S70(不平衡率判定):データ処理部56により、上記S40で算出した不平衡率UBが所定の割合以上であるか否かを判定する。本実施形態では、不平衡率UBが80%以上であるか否かを判定する。その結果、不平衡率UBが80%以上であると判定した場合(YES)はS80へ移行し、不平衡率UBが80%以上ではないと判定した場合(NO)はS100へ移行する。なお、80%という閾値は一例であって、これに限定されるものではなく、シミュレーション結果などに応じて任意の閾値を採用してよい。また、ここでの不平衡率UBの判定において、上記S40で言及した初期不平衡率を利用してもよい。
【0045】
ここで、
図4における「破断A」~「破断D」のシミュレーション結果を確認すると、不平衡率UBが軒並み大きくなっており、何れも80%以上になっていることが確認できる。このため、S70の処理ステップにおいて、
図4における「破断A」~「破断D」のシミュレーション結果は、不平衡率UBが80%以上であると判定されるため、S80へ移行することが分かる。これに対し、
図4における「破断E」~「破断H」のシミュレーション結果を確認すると、不平衡率UBはそれ程大きくなく、何れも79%以下になっていることが確認できる。このため、S70の処理ステップにおいて、
図4における「破断E」~「破断H」のシミュレーション結果は、不平衡率UBが80%以上ではないと判定されるため、S100へ移行することが分かる。すなわち、上記S70では、実質的に、レール70、72の破断箇所が「破断A」~「破断D」であるか、或いは「破断E」~「破断H」であるかの切り分けが行われることになる。換言すれば、レール70、72の破断箇所が、4箇所の電圧測定点16A~16Dと短絡部12との間であるか否かを切り分けている。
【0046】
S80(破断箇所候補特定):データ処理部56により、レール70、72の破断が発生した箇所が、
図1(b)に示されたような破断A~破断Dの何れかであると特定する。すなわち、レール70、72の破断箇所が、4箇所の電圧測定点16A~16Dと短絡部12との間ではなく、短絡部12を中心として4箇所の電圧測定点16A~16Dよりも外側にあると特定する。
S90(破断エリア特定):データ処理部56により、
図1(b)に示されたような4つのエリア(エリア1~エリア4)の中から、破断が発生したエリアを特定する。本ステップに至る前に、上記S80で破断箇所が短絡部12を中心として4箇所の電圧測定点16A~16Dよりも外側にあると絞り込まれている。このため、上記S30で最大値と特定された電位を有する電圧測定点16が設定されたエリアに対して、レール幅方向に対向する位置にあるエリアにおいて、破断が発生したと特定する。破断が発生したエリアが特定されることで、既に絞り込まれている4つの破断箇所候補である破断A~破断Dの中から、1つの破断箇所が特定されることになり、そこでレール70又は72の破断が発生したことが最終的に特定される。
【0047】
なお、
図4に示された「破断A」~「破断D」のシミュレーション結果のような電位V1~V5が測定された場合は、上述したようにS80を経由して本ステップS90へ至る。そこで、例えば「破断D」のシミュレーション結果を確認すると、電位V1~V4の中で、上記S30において最大値と特定される電位は電位V4であり、この電位V4は、
図1(b)のエリア3に設定された第4電圧測定点16Dのものである。そして、エリア3に対してレール幅方向に対向する位置にあるのはエリア4であるため、既に絞り込まれている4つの破断箇所候補である破断A~破断Dの中から、エリア4にある破断Dが発生したと特定され、これはシミュレーション結果の通りであることが確認できる。同様に、「破断A」~「破断C」のシミュレーション結果からも、破断A~破断Cが発生したと特定されるような電位が記載されていることが分かる。
【0048】
S100(破断箇所候補特定):データ処理部56により、レール70、72の破断が発生した箇所が、
図1(b)に示されたような破断E~破断Hの何れかであると特定する。すなわち、レール70、72の破断箇所が、短絡部12を中心として4箇所の電圧測定点16A~16Dよりも外側ではなく、4箇所の電圧測定点16A~16Dと短絡部12との間にあると特定する。
S110(破断エリア特定):データ処理部56により、
図1(b)に示されたような4つのエリア(エリア1~エリア4)の中から、破断が発生したエリアを特定する。本ステップに至る前に、上記S100で破断箇所が4箇所の電圧測定点16A~16Dと短絡部12との間にあると絞り込まれている。このため、上記S30で最大値と特定された電位を有する電圧測定点16が設定されたエリアにおいて、破断が発生したと特定する。破断が発生したエリアが特定されることで、既に絞り込まれている4つの破断箇所候補である破断E~破断Hの中から、1つの破断箇所が特定されることになり、そこでレール70又は72の破断が発生したことが最終的に特定される。
【0049】
なお、
図4に示された「破断E」~「破断H」のシミュレーション結果のような電位V1~V5が測定された場合は、上述したようにS100を経由して本ステップS110へ至る。そこで、例えば「破断H」のシミュレーション結果を確認すると、電位V1~V4の中で、上記S30において最大値と特定される電位は電位V3であり、この電位V3は、
図1(b)のエリア4に設定された第3電圧測定点16Cのものである。このため、既に絞り込まれている4つの破断箇所候補である破断E~破断Hの中から、エリア4にある破断Hが発生したと特定され、これはシミュレーション結果の通りであることが確認できる。同様に、「破断E」~「破断G」のシミュレーション結果からも、破断E~破断Gが発生したと特定されるような電位が記載されていることが分かる。
【0050】
さて、上記構成をなす本発明の実施の形態によれば、次のような作用効果を得ることが可能である。すなわち、本発明の実施の形態に係るレール破断検知装置10は、
図1及び
図2に示すように、短絡部12、4本のケーブル20、測定部30、及び判定部50を含み、短絡部12は、一対のレール70、72間を接続して短絡するものである。そして、一対のレール70、72の各々に、短絡部12を挟むような位置関係でレール延在方向の両側の2箇所に電圧測定点16が設定され、一対のレール70、72では合計で4箇所の電圧測定点16A~16Dが設定される。4本のケーブル20は、そのように設定されたレール70、72の4箇所の電圧測定点16A~16Dに対して各々の一端が接続され、各々の他端が測定部30に対して接続される。そして、測定部30は、接続された4本のケーブル20を介して、4箇所の電圧測定点16A~16Dの電位を測定し、図示の実施形態では電位V1~V5を測定する(
図3のS10参照)。すなわち、一対のレール70、72には、変電所82から架線76を介して列車80へ供給され、列車80のモータなどで使用された後に変電所82へ戻る帰線電流が流れているため、そのような帰線電流による電位を、4箇所の電圧測定点16A~16Dにおいて測定部30により測定するものである。
【0051】
判定部50は、測定部30により測定された4箇所の電圧測定点16A~16Dについての電位V1~V5に基づいて、一対のレール70、72で破断が発生しているか否かを判定すると共に、破断が発生していた場合にその発生したエリア(エリア1~エリア4)を特定する。すなわち、短絡部12を挟む位置関係で一対のレール70、72に設定された4箇所の電圧測定点16A~16Dの電位V1~V4は、一対のレール70、72に同じ乃至略同じ大きさの帰線電流が流れる通常時は平衡関係にある。しかしながら、レール70、72の何れかの部分で破断が発生した場合は、破断箇所に帰線電流が略流れなくなり、上記の平衡関係が崩れてアンバランスになるため、それを検知してレール70、72で破断が発生したと判定する。更に、4箇所の電圧測定点16A~16Dについての電位V1~V5のバランスと、破断が発生したエリアとの関係性などが、例えば
図4に示されたようなシミュレーション結果などに基づいて予め設定されていることで、それに基づいて、4箇所の電圧測定点16A~16Dについての電位V1~V5から、破断が発生したエリアを特定する。
【0052】
このようにして、列車検知信号やレール破断検知専用の信号を使用することなく、レール70、72の破断の検知に加えて、破断が発生したエリアを特定することができる。しかも、情報取得のためにレール70、72に接続するケーブル20は4本であり、それによって4つのエリア1~エリア4でのレール70、72の破断を検知できることを加味すると、エリア毎に1本のケーブル20のみを使用している。このため、従来と比較してケーブル20の本数を半減することができ、ケーブル20の本数を抑制することが可能となる。更に、4箇所の電圧測定点16A~16Dを短絡部12の近傍に設定することとすれば、4本のケーブル20が短絡部12の近傍に接続される構成となるため、短絡部12と4本のケーブル20と測定部30とを地上設備としてコンパクトに設置することができ、しかもそこから延びる長いレール70、72の破断を検知することができる。
【0053】
また、本発明の実施の形態に係るレール破断検知装置10は、一対のレール70、72の各々で短絡部12を挟むレール延在方向の両側に設定された4箇所の電圧測定点16A~16Dを、レール70、72及び短絡部12を挟んだ位置関係で識別して、第1電圧測定点16A~第4電圧測定点16Dと呼称する。そして、判定部50は、測定部30により測定される第1電圧測定点16Aの電位V1と第2電圧測定点16Bの電位V2とを比較し、また、第3電圧測定点16Cの電位V3と第4電圧測定点16Dの電位V4とを比較する。ここで、第1電圧測定点16Aと第2電圧測定点16Bとは、レール70上とレール72上とで異なるものの短絡部12に対して同じ側(図中左側)にあり、第3電圧測定点16Cと第4電圧測定点16Dについても、レール70上とレール72上とで異なるものの短絡部12に対して同じ側(図中右側)にある。従って、このような位置関係にある電圧測定点16同士を比較することで、短絡部12を挟んだレール延在方向の両側の各々について、帰線電流による電位が一対のレール70、72間で比較されることになる。
【0054】
このため、レール70、72の破断が発生していない状態では、一対のレール70、72に同じ乃至略同じ大きさの帰線電流が流れることから、第1電圧測定点16Aの電位V1と第2電圧測定点16Bの電位V2とは平衡関係にあり、第3電圧測定点16Cの電位V3と第4電圧測定点16Dの電位V4も平衡関係にある。これに対し、一対のレール70、72の何れかで破断が発生すると、一対のレール70、72を流れる帰線電流間の平衡関係が崩れるため、第1電圧測定点16Aの電位V1と第2電圧測定点16Bの電位V2との平衡関係や、第3電圧測定点16Cの電位V3と第4電圧測定点16Dの電位V4との平衡関係も崩れる。これを利用して、判定部50は、第1電圧測定点16Aの電位V1と第2電圧測定点16Bの電位V2とが平衡であるか否か、及び第3電圧測定点16Cの電位V3と第4電圧測定点16Dの電位V4とが平衡であるか否かに応じて、一対のレール70、72の破断の有無を判定するものである(
図3のS50参照)。これにより、レール70、72の破断の有無を、より正確に判定することが可能となる。
【0055】
更に、本発明の実施の形態に係るレール破断検知装置10は、判定部50が、レール70、72の破断が発生した場合の、破断箇所の絞り込みを行うものである。具体的に、判定部50は、第1電圧測定点16Aの電位V1、第2電圧測定点16Bの電位V2、第3電圧測定点16Cの電位V3、及び第4電圧測定点16Dの電位V4の間の、本実施形態では中点電位V5も加味した不平衡率を利用して、レール70、72の破断箇所を絞り込む(
図3のS40及びS70参照)。すなわち、第1電圧測定点16A~第4電圧測定点16Dについての電位V1~V5間の不平衡率は、短絡部12が含まれた回路の帰線電流バランスを表すものであるため、そのような不平衡率の大きさには、レール70、72の破断箇所に応じた特性が現れる。
【0056】
そこで、レール70、72の破断箇所が4箇所の電圧測定点16A~16Dと短絡部12との間である場合と、そうではなく短絡部12を中心として4箇所の電圧測定点16A~16Dよりも外側の場合との、不平衡率の大きさの傾向を、例えば
図4のようなシミュレーション結果などに基づいて予め把握する。そして、そのような不平衡率の大きさの傾向に対して、測定された第1電圧測定点16A~第4電圧測定点16Dについての電位V1~V5から算出した不平衡率を適用することで、レール70、72の破断箇所が4箇所の電圧測定点16A~16Dと短絡部12との間であるか否かを判定することができる(
図3のS80及びS100参照)。これにより、レール70、72の破断箇所を精度よく絞り込むことが可能となる。
【0057】
また、本発明の実施の形態に係るレール破断検知装置10は、上述したように判定部50が4つのエリア1~エリア4の中からレール70、72の破断が発生したエリアを特定する際に、第1電圧測定点16A~第4電圧測定点16Dにおける電位V1~V4の絶対値の中から最大値を特定するものである(
図3のS20及びS30参照)。すなわち、レール70、72の破断箇所が短絡部12を中心として4箇所の電圧測定点16A~16Dよりも外側の場合には、破断が発生したエリアにあるレール70又は72に帰線電流が略流れず、そのエリアに対してレール幅方向について対向する位置のエリアにある反対のレール70又は72に、通常時の2倍程度の帰線電流が流れる。従って、レール70又は72が破断したエリアに対向する位置のエリアに設定された電圧測定点16での電位が、他の電圧測定点16での電位と比較して明らかに大きくなり、その電位が最大値として特定される。このため、最大値の電位が測定されたエリアに対向する位置のエリアにおいて、レール70又は72の破断が発生したと特定することができる。
【0058】
これに対し、レール70、72の破断箇所が4箇所の電圧測定点16A~16Dと短絡部12との間である場合には、破断箇所に帰線電流が略流れないため、その破断が発生したエリアに設定された電圧測定点16において、電圧が殆ど降下していない状態の電位が測定される。従って、レール70又は72が破断したエリアに設定された電圧測定点16での電位が、他の電圧測定点16での電位と比較して明らかに大きくなり、その電位が最大値として特定される。このため、最大値の電位が測定されたエリアにおいて、レール70又は72の破断が発生したと特定することができる。
【0059】
このように、レール70、72の破断箇所が4箇所の電圧測定点16A~16Dと短絡部12との間であるか否かに応じて、特定した電位の最大値からのエリアの特定方法を使い分ける。そして、レール70、72の破断箇所が4箇所の電圧測定点16A~16Dと短絡部12との間であるか否の判定結果と、4つのエリア1~エリア4の中から特定された破断が発生したエリアとが組み合わされて、合計で8パターンの破断箇所(破断A~破断H)からレール70又は72の破断箇所を特定することができる(
図3のS90及びS110参照)。これにより、使用するケーブル20の本数を抑制しながらも、レール70、72の破断箇所をより詳細に特定することが可能となる。
【0060】
また、本発明の実施の形態に係るレール破断検知装置10は、長距離のレール70、72にわたってレール70、72の破断を検知する場合には、
図5(a)に示すように、短絡部12が一対のレール70、72の所定距離毎に設置され、これにより短絡部12がレール延在方向に沿って複数設置されることになる。そして、4本のケーブル20及び測定部30が、複数設置された短絡部12のうち、レール延在方向に沿って一つ置きの短絡部12毎に設置される。すなわち、4箇所の電圧測定点16A~16Dが設定される4つのエリアは、4箇所の電圧測定点16A~16Dに挟まれた短絡部12から、それに隣接する短絡部12までの範囲をカバーするため、短絡部12毎に4本のケーブル20や測定部30を設置する必要はなく、一つ置きの短絡部12毎に設置すればよい。
【0061】
従って、長距離にわたってレール70、72の破断を検知する場合であっても、接続するケーブル20の本数を抑制することができ、それに伴って測定部30の数量も抑制することができる。ケーブル20の本数や測定部30の数量が抑制されることは、上述した
図5(a)の構成と、従来技術の構成である
図5(b)及び(c)との比較からも明らかである。
なお、本発明の実施の形態に係るレール破断検知方法は、本発明の実施の形態に係るレール破断検知装置10により実行されることで、本発明の実施の形態に係るレール破断検知装置10と同様の作用効果を奏することができる。
【符号の説明】
【0062】
10:レール破断検知装置、12:短絡部、16:電圧測定点、16A:第1電圧測定点、16B:第2電圧測定点、16C:第3電圧測定点、16D:第4電圧測定点、20:ケーブル、30:測定部、50:判定部、70、72:一対のレール