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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024037446
(43)【公開日】2024-03-19
(54)【発明の名称】亀裂進展抑制方法
(51)【国際特許分類】
   E01D 22/00 20060101AFI20240312BHJP
   E04G 23/02 20060101ALI20240312BHJP
   E01D 19/12 20060101ALI20240312BHJP
【FI】
E01D22/00 B
E04G23/02 A
E01D19/12
E01D22/00 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022142324
(22)【出願日】2022-09-07
(71)【出願人】
【識別番号】000000099
【氏名又は名称】株式会社IHI
(74)【代理人】
【識別番号】100083806
【弁理士】
【氏名又は名称】三好 秀和
(74)【代理人】
【識別番号】100101247
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 俊一
(74)【代理人】
【識別番号】100095500
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 正和
(74)【代理人】
【識別番号】100098327
【弁理士】
【氏名又は名称】高松 俊雄
(72)【発明者】
【氏名】村上 岳央
(72)【発明者】
【氏名】山下 洋一
【テーマコード(参考)】
2D059
2E176
【Fターム(参考)】
2D059AA16
2D059GG40
2E176AA01
2E176AA07
2E176BB11
2E176BB14
2E176BB15
(57)【要約】
【課題】挿入部材の形状と孔部の形状とがより一致する亀裂進展抑制方法を提供する。
【解決手段】亀裂進展抑制方法は、構造物1に生じた亀裂2の進展を抑制する方法である。当該方法は、亀裂2と交差するように延在すると共に、交差領域11よりも延在方向における両端側の領域に、拡幅された領域12a,12bを有する第1孔部10,10Aを構造物1に形成する孔部形成工程を備える。また当該方法は、第1孔部10,10Aの型を取ることによって、原型16を成形する第1成形工程を備える。また当該方法は、原型16の型を取ることによって、第2孔部21を備えた成形型22を作成する成形型作成工程を備える。また当該方法は、第2孔部21の型を取ることによって、挿入部材35を成形する第2成形工程を備える。また当該方法は、挿入部材35を構造物1の第1孔部10,10Aに挿入し接合する接合工程を備える。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
構造物に生じた亀裂の進展を抑制する亀裂進展抑制方法であって、
前記亀裂と交差するように延在すると共に、前記亀裂と交差する交差領域よりも延在方向における両端側の領域に、前記交差領域の幅よりも拡幅された領域を有する第1孔部を前記構造物に形成する孔部形成工程と、
前記第1孔部の型を取ることによって、前記第1孔部の内部形状が転写された原型を成形する第1成形工程と、
前記原型の型を取ることによって、前記原型の外形が転写された第2孔部を備えた成形型を作成する成形型作成工程と、
前記第2孔部の型を取ることによって、前記第2孔部の内部形状が転写された挿入部材を成形する第2成形工程と、
前記挿入部材を前記構造物の前記第1孔部に挿入し接合する接合工程と、
を備える、亀裂進展抑制方法。
【請求項2】
前記第2成形工程では、前記第2孔部に充填材を充填し硬化させることによって前記挿入部材を成形する、請求項1に記載の亀裂進展抑制方法。
【請求項3】
前記充填材は強化繊維を含有する熱硬化性樹脂である、請求項2に記載の亀裂進展抑制方法。
【請求項4】
前記充填材が含有する前記強化繊維はミルドファイバである、請求項3に記載の亀裂進展抑制方法。
【請求項5】
前記ミルドファイバは、前記充填材に5質量%~20質量%含有されている、請求項4に記載の亀裂進展抑制方法。
【請求項6】
前記ミルドファイバは直径が200nm~800nmであり、かつ繊維長が2μm~8μmである、請求項4~5のいずれか一項に記載の亀裂進展抑制方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は亀裂進展抑制方法に関する。
【背景技術】
【0002】
下記特許文献1が開示するモルタルの浮きを確認する方法では、モルタルを通してコンクリート躯体にあけられた穴に粘性を備えた液体樹脂、又は棒材と共に液体樹脂を注入し、液体樹脂をゴム状に硬化させたのち引き出して穴の内部を型取る。又は、コンクリート躯体にあけられた穴に筒状の紙を挿入し、紙を摩擦又は圧迫して穴の内部を写し取る。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許第2756496号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、例えばデッキプレート、Uリブ等を備える橋梁等の構造物には亀裂が生じるおそれが有る。そして、亀裂が生じた場合には、当該亀裂が生じた部分に孔部を形成し、当該孔部の内側に予め作製された挿入部材を挿入し固定することによって、亀裂の進展を抑制することができる。ここで、当該孔部は挿入部材の形状に合った形状となるように構造物に形成されるが、例えば加工の際の誤差に起因して、挿入部材の形状と孔部の形状とが十分に一致しないおそれが有った。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本開示に係る亀裂進展抑制方法は、構造物に生じた亀裂の進展を抑制する亀裂進展抑制方法であって、前記亀裂と交差するように延在すると共に、前記亀裂と交差する交差領域よりも延在方向における両端側の領域に、前記交差領域の幅よりも拡幅された領域を有する第1孔部を前記構造物に形成する孔部形成工程と、前記第1孔部の型を取ることによって、前記第1孔部の内部形状が転写された原型を成形する第1成形工程と、前記原型の型を取ることによって、前記原型の外形が転写された第2孔部を備えた成形型を作成する成形型作成工程と、前記第2孔部の型を取ることによって、前記第2孔部の内部形状が転写された挿入部材を成形する第2成形工程と、前記挿入部材を前記構造物の前記第1孔部に挿入し接合する接合工程と、を備える。
【0006】
上記亀裂進展抑制方法では、前記第2成形工程で、前記第2孔部に充填材を充填し硬化させることによって前記挿入部材を成形してもよい。
【0007】
上記亀裂進展抑制方法では、前記充填材は強化繊維を含有する熱硬化性樹脂であってもよい。
【0008】
上記亀裂進展抑制方法では、前記充填材が含有する前記強化繊維はミルドファイバであってもよい。
【0009】
上記亀裂進展抑制方法では、前記ミルドファイバは、前記充填材に5質量%~20質量%含有されていてもよい。
【0010】
上記亀裂進展抑制方法では、前記ミルドファイバは直径が200nm~800nmであり、かつ繊維長が2μm~8μmであってもよい。
【発明の効果】
【0011】
本開示によれば、挿入部材の形状と孔部の形状とがより一致する亀裂進展抑制方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】実施形態に係る亀裂進展抑制方法の適用例について説明するための図であって、亀裂の進展を抑制するための補修が施された構造物を示す概略斜視図である。
図2】第1実施形態に係る亀裂進展抑制方法の適用例を説明するための、構造物の亀裂発生部を示す概略斜視図である。
図3】第1実施形態に係る孔部形成工程について説明するための、構造物に第1孔部を設けた状態を示す概略斜視図である。
図4】第1実施形態に係る孔部形成工程について説明するための、図3に示された第1孔部をZ軸方向から見た説明図である。
図5】第1実施形態に係る第1成形工程について説明するための、第1型取り材が第1孔部に充填された状態を示す概略斜視図である。
図6】第1実施形態に係る第1成形工程について説明するための、第1孔部から原型を取り出した状態を示す概略斜視図である。
図7】第1実施形態に係る成形型作成工程について説明するため、原型の周囲を第2型取り材で囲んだ状態を示す概略斜視図である。
図8】第1実施形態に係る成形型作成工程について説明するための、第2孔部が形成された成形型を示す概略斜視図である。
図9】第1実施形態に係る第2成形工程について説明するための、第2孔部に充填材が充填された状態と、第2孔部から挿入部材が取り出された状態と、を示す概略斜視図である。
図10】第1実施形態に係る接合工程について説明するための、第1孔部に挿入部材が挿入される前の状態を示す概略斜視図である。
図11】第1実施形態に係る接合工程について説明するための、第1孔部に挿入部材が挿入され接合された状態をZ軸方向から見た説明図である。
図12】第2実施形態に係る亀裂進展抑制方法の適用例を説明するための、構造物の亀裂発生部を示す概略断面図である。
図13】第2実施形態に係る孔部形成工程及び第1成形工程について説明するための、構造物に第1孔部を設けた状態と、第1孔部に第1型取り材が充填された状態と、第1孔部から原型を取り出した状態と、を示す概略断面図である。
図14】第2実施形態に係る接合工程について説明するための、第1孔部に挿入部材が挿入される前の状態と、第1孔部に挿入部材が挿入され接合された状態と、を示す概略断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、図面を参照しながら、いくつかの例示的な実施形態について説明する。なお、同一の機能を有する要素については同一の符号を付し、重複する説明を省略する。
【0014】
実施形態に係る亀裂進展抑制方法は、構造物1に発生した亀裂2の進展を抑制するための補修に用いることができる。構造物1は例えばコンクリート構造物、鋼構造物等であってもよく、道路施設、橋梁、海洋施設等であってもよい。図1に例示された構造物1はデッキプレート3と、Uリブ4とを備える。デッキプレート3は例えば橋梁の一部を構成する板状部材であり、鋼等の金属から構成されてもよい。デッキプレート3の上方側の面には、例えばアスファルト舗装が施されてもよい。また、デッキプレート3の下方側の面にはUリブ4が接合されている。なお、図1に示す例では、紙面上方が構造物1の上方に相当し、紙面下方が構造物1の下方に相当する。
【0015】
Uリブ4はデッキプレート3を補強する部材であり、プレート下面3aに取り付けられている。プレート下面3aはデッキプレート3の下方側の面を構成する。Uリブ4は断面が略U字状の形状を有する長尺部材であり、例えば鋼等の金属から構成されてもよい。図に例示されたUリブ4は、側壁部5a,5b、及び下壁部5cを備える。下壁部5cはUリブ4の下方側の部分を構成する壁部である。側壁部5a,5bは、水平かつUリブ4の延在方向に垂直な方向における、下壁部5cの両端から上方に向けて延出している。側壁部5a,5bは上下方向に対して所定の角度で傾斜するように設けられてもよい。
【0016】
側壁部5a,5bの上方側端部の各々は、プレート下面3aに例えば溶接等の手段を用いて接合されている。そのため、側壁部5aの上方側端部と、プレート下面3aとの間には、接合部6が形成されている。側壁部5bの上方側縁部と、プレート下面3aとの間にも接合部6と同様の接合部が形成されている。また、接合部6は溶接ビードを構成してもよい。
【0017】
構造物1には、その疲労に起因して亀裂2が発生する場合が有る。図に例示された構造物1には亀裂2a、及び亀裂2bが発生している。亀裂2aはUリブ4の側壁部5aに延在するように発生した亀裂2である。亀裂2bは接合部6に沿って延在するように発生した亀裂2である。即ち、亀裂2bは溶接ビードに発生した亀裂2であってもよい。なお、構造物1に亀裂2が発生する原因は疲労に限定されない。また、図示された例では亀裂2a端部と亀裂2bの端部とが繋がっており、全体として一の亀裂2を構成しているが、これに限定されない。例えば、亀裂2aと亀裂2bとは繋がることなく、別の位置に独立して発生する場合もある。
【0018】
図に例示された構造物1には、亀裂2a,2bの進展を抑制するための補修が施されている。当該補修を行う際には、構造物1のうち亀裂2a,2bが生じた領域の一部に後述する第1孔部としての取付孔10を形成し、取付孔10の内部に後述する挿入部材35を挿入し固定する。このような補修を施すことにより、亀裂2a,2bの先端部の開裂を抑制することができる。即ち、亀裂2a,2bの進展を抑制することができる。
【0019】
次に、実施形態に係る亀裂進展抑制方法の一例について説明する。当該亀裂進展抑制方法は、孔部形成工程と、第1成形工程と、成形型作成工程と、第2成形工程と、接合工程と、を備える。
【0020】
(第1実施形態)
図2図11を参照しながら、本実施形態に係る亀裂進展抑制方法の適用例について説明する。本実施形態では、亀裂2aの進展を抑制するために当該亀裂進展抑制方法を用いている。図2には側壁部5aに生じた略直線状に延在する亀裂2aの先端部近傍の領域が例示されている。亀裂2aのZ軸方向の寸法である亀裂深さは特に限定されず、側壁部5aの板厚t1と等しくてもよい。
【0021】
なお、図に示されたZ軸方向は側壁部5aの板厚方向と平行な方向であって、挿入部材35が挿入される方向である。X軸方向は、後述する取付孔10のZ軸と平行な軸方向視における短手方向と平行な方向であって、Z軸と直交する方向である。Y軸方向は、取付孔10のZ軸と平行な軸方向視における長手方向と平行な方向であって、Z軸と直交する方向である。
【0022】
まず、図3及び図4を参照しながら孔部形成工程について説明する。孔部形成工程では、構造物1に第1孔部としての取付孔10を形成する。取付孔10は後述する挿入部材35を挿入し固定するための開口である。図に例示された取付孔10は、側壁部5aのうち亀裂2aが発生している領域に形成されている。亀裂2aはX軸方向と略平行に延在しており、取付孔10は側壁部5aの一部をZ軸方向に貫通させることにより形成されている。これにより、側壁部5aには取付孔10を画成する内周面7が形成されている。
【0023】
取付孔10は例えば放電加工により形成されてもよい。例えば取付孔10を形成する予定の領域に、亀裂2aと交差するようにカッターで切り込みを設け、その後、形成したい取付孔10の形状に合わせて放電加工を行ってもよい。なお、取付孔10を形成する方法は放電加工に限定されず、例えばドリルを用いて側壁部5aを穿孔することにより取付孔10を形成してもよい。なお、取付孔10の形状は図示した例に限定されない。例えば、取付孔10はZ軸方向に貫通していない領域を含んでもよい。また、取付孔10を形成する際に側壁部5aを貫通させる方向はZ軸方向に限定されず、例えばZ軸方向に対して傾いた方向に側壁部5aを貫通させることにより取付孔10を形成してもよい。また、図3に例示された側壁部5aには1つの取付孔10が形成されているが、これに限定されない。例えば亀裂の形状、大きさ、位置等に応じて、複数の取付孔10を形成してもよい。
【0024】
図4に例示するように、Z軸と平行な軸方向視において取付孔10はY軸方向に延在しており、全体として略長円状の形状を有する。なお、図に例示された取付孔10は亀裂2aの延在方向と略直交する方向に延在するように形成されているが、これに限定されない。即ち、取付孔10は亀裂2aと交差するように延在していればよい。
【0025】
取付孔10のY軸方向における略中央部には、交差領域11が形成されている。交差領域11は取付孔10と亀裂2aとが交差して形成された領域である。また、取付孔10の延在方向における、交差領域11の両端側には拡幅領域12a,12bが形成されている。拡幅領域12a,12bは、取付孔10のうち交差領域11の幅W1よりも拡幅された領域である。図に例示された拡幅領域12a,12bの幅W2a,W2bは幅W1よりも大きい。拡幅領域12aの幅W2aと、拡幅領域12bの幅W2bとは略等しくてもよい。なお、図示された例では、取付孔10のX軸方向における寸法が取付孔10の幅に相当する。
【0026】
図4に例示された取付孔10の幅は、交差領域11から拡幅領域12a,12bにかけて連続的に増加するように構成されているが、これに限定されない。取付孔10は拡幅領域12a,12bを備えてればよく、例えば構造物1の亀裂発生部周辺の形状、亀裂の寸法等に応じて、取付孔10の形状を適宜設定することができる。
【0027】
次に、図5及び図6を参照しながら、第1成形工程について説明する。第1成形工程は孔部形成工程に次いで実施される。第1成形工程では原型16を成形する。原型16は取付孔10の内部形状が転写された形状を有する部材であり、取付孔10の型を取ることによって成形される。図5に例示するように、第1成形工程では、第1型取り材としての型取り材15aを取付孔10に充填する。型取り材15aは取付孔10の型を取るための変形可能な粘度を有する材料であって、所定時間経過後に硬化する性質を備える。硬化後の型取り材15aを単に硬化後型取り材15bと称する。
【0028】
型取り材15aは、例えば硬化剤を混合することにより硬化する二液混合型の樹脂材料であってもよい。型取り材15aとして二液混合型の樹脂材料を用いる場合には、予め主剤と硬化剤とを混合させておき、硬化前に取付孔10に型取り材15aを充填する充填作業を行う。主剤と硬化剤との混合は、例えば、スパチュラ等を用いた手作業で行われてもよく、ディスペンサー等の充填用器具を用いた充填作業と並行して、当該ディスペンサー内部で自動的に行われてもよい。
【0029】
なお、型取り材15aの成分は特に限定されず、例えば、充填作業の際に取付孔10からの液だれの抑制、ポットライフ、硬化時間等を考慮し、適宜選択することができる。例えば、型取り材15aとして歯科用シリコーン印象材(商品名:フレキシコンヘビーボディタイプ,ジーシー社製)を用いてもよい。また、内周面7の凹凸形状に精度よく倣うような粘度を備えた型取り材15aを用いてもよい。そのような型取り材15aとして、例えば急速硬化シリコンゴム成形材(商品名:レプリセット,ストルアス社製)を用いることができる。
【0030】
図5に例示する取付孔10の内部には型取り材15aが充填されている。図示された例では、充填された型取り材15aの厚さt2が、側壁部5aの板厚t1と略同じになるように、型取り材15aを取付孔10に充填しているが、これに限定されない。例えば取付孔10の位置、寸法、形状等に応じて厚さt2は任意の値とすることができる。なお、厚さt2は取付孔10に充填された型取り材15aのZ軸方向の寸法である。このように取付孔10に型取り材15aを充填した状態で、所定の硬化時間が経過し、型取り材15aが硬化後型取り材15bとなるのを待つ。その際、例えば、ドライヤー等を用いて型取り材15aを加温することにより硬化時間を短縮してもよい。
【0031】
型取り材15aが硬化後型取り材15bとなった後、取付孔10から取り出す(図6参照)。この硬化後型取り材15bが原型16に相当する。原型16は全体として取付孔10の形状と略同じ形状を有しており、原型16の外周面17には内周面7の形状が転写されている。このように、取付孔10に型取り材15aを充填し硬化させて原型16を成形することで、取付孔10の形状を写し取った原型16を成形してもよい。なお、図5及び図6に示す例では、型取り材15aの厚さは硬化前後で略変化していない。即ち、原型16のZ軸方向の寸法は厚さt2と略等しい。
【0032】
なお、図示された例では、1つの取付孔10から当該取付孔10に対応する形状を備えた原型16を得る場合について例示したが、構造物1に複数の取付孔10を設けた場合には、当該複数の取付孔10の各々に第1成形工程を適用してもよい。これにより、当該複数の取付孔10の各々に対応した形状を有する複数の原型16を得ることができる。また、1つの取付孔10に第1成形工程を複数回適用することにより、複数の原型16を形成してもよい。
【0033】
次に、図7及び図8を参照しながら、成形型作成工程について説明する。成形型作成工程は第1成形工程に次いで実施される。成形型作成工程では成形型22を作成する。成形型22は第1成形工程で成形された原型16の型を取ることによって作成される。
【0034】
成形型作成工程では、まず第2型取り材としての型取り材20aによって原型16の周囲を囲む。型取り材20aは原型16の型を取るための材料であって、所定時間経過後に硬化する性質を備える。硬化後の型取り材20aを単に硬化後型取り材20bと称する。
【0035】
図7に示す例では、予めトレイ23内に比較的流動性を有する型取り材20aを流し入れ、その後、トレイ内に原型16を配置している。これにより、型取り材20aによって原型16が囲まれた状態となる。なお、図示した例ではトレイ23内における型取り材20aの深さと、原型16の厚さt2とが略等しくなるように、トレイ23内に流し込む型取り材20aの量を調整しているが、これに限定されない。例えば、トレイ23内における型取り材20aの深さの値は、原型16の厚さt2の値より小さくてもよい。また、トレイ23内に予め原型16を配置し、その後、型取り材20aをトレイ23内に流し入れてもよい。これにより、後述する第2孔部としての孔21の深さをより容易に制御することができる。また、型取り材20aが比較的高い粘度を有する場合には、トレイ23を用いることなく、作業者が型取り材20aを原型16に押し当てることによって原型16の周囲を型取り材20aで覆ってもよい。
【0036】
型取り材20aの硬化を待って原型16をトレイ23内から除去することにより、孔21が形成された成形型22を得ることができる(図8参照)。成形型22は硬化後型取り材20bにより構成されている。孔21を画成する成形型22の内周面は、原型16の外周面17の形状と略同じ形状を有している。このように、成形型作成工程では原型16の外形が転写された孔21を有する成形型22を得ることができる。
【0037】
型取り材20aの成分は特に限定されず、例えば型取り材15aと同じ成分の材料であってもよい。また、型取り材15aとは異なる成分から構成された型取り材20aを用いてもよい。例えば、型取り材15aとして上述の歯科用シリコーン印象材を用い、型取り材20aとして上述の急速硬化シリコンゴム成形材を用いてもよい。これにより、原型16と硬化後型取り材20bとの癒着をより確実に抑制することができ、硬化後型取り材20bから原型16を除去する作業をより容易に行うことができる。
【0038】
なお、図7及び図8に例示される成形型22には1つの孔21が形成されているが、これに限定されない。例えば、第1成形工程で複数の原型16を作製した場合には、当該複数の原型16の各々に対応する複数の孔21が形成されるように、成形型作成工程を実施してもよい。
【0039】
次に、図9を参照しながら第2成形工程について説明する。第2成形工程は成形型作成工程に次いで実施される。第2成形工程では、孔21の型を取ることによって挿入部材35を成形するそのため挿入部材35は孔21の内部形状が転写されており、全体として孔21の形状と略一致した形状を有する。第2成形工程では、まず充填材30aを孔21に充填する充填作業を行う。充填材30aは孔21の型を取るための材料であって、所定時間経過後に硬化する性質を備える。硬化後の充填材30aを単に硬化後充填材30bと称する。
【0040】
図9に示す例では孔21に充填材30aが充填されている。なお、充填材30aの充填量は特に限定されず、孔21の深さと略同じ深さとなるように充填材30aを充填してもよい。孔21に充填された充填材30aは所定時間経過後に硬化して硬化後充填材30bとなる。そして、成形型22から取り出された硬化後充填材30bが挿入部材35に相当する。即ち、挿入部材35は成形型22の孔21に充填材30aを充填し硬化させることによって成形されてもよい。挿入部材35の外周面36は、孔21を画成する成形型22の内周面の形状と略同じ形状を有する。
【0041】
なお、図示された例では1つの孔21から1つの挿入部材35が得られているが、これに限定されない。成形型22に複数の孔21が形成されている場合には、当該複数の孔21の各々に充填材30a充填し、複数の挿入部材35を成形してもよい。また、1つの孔21に第2成形工程を複数回適用することにより、複数の挿入部材35を得てもよい。
【0042】
充填材30aとしては、例えば、硬化剤を混合することにより硬化する二液混合型のエポキシ樹脂に、強化繊維としての炭素繊維を分散させた充填材を用いることができる。なお、充填材30aとして二液混合型の樹脂材料を用いる場合には、予め主剤と硬化剤とを混合させておき、硬化前に充填作業を行う。
【0043】
充填材30aが含有する樹脂は特に限定されず、公知の熱硬化性樹脂、又は熱可塑性樹脂を用いることができる。例えば、当該樹脂材料はフェノール樹脂、メラミン樹脂、ポリウレタン樹脂、不飽和ポリエステル樹脂等の熱硬化性樹脂であってもよい。また、当該樹脂材料はポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、ポリスチレン樹脂、ABS樹脂(アクリロニトリル、ブタジエン及びスチレンのコポリマー)等の熱可塑性樹脂であってもよい。なお、熱硬化性樹脂を充填材30aの樹脂成分として用いることにより、挿入部材35の耐熱性及び剛性をより向上させることができる。
【0044】
充填材30aに分散された強化繊維は特に限定されず、例えばアラミド繊維、又はガラス繊維であってもよい。強化繊維を含有する充填材30aを用いることにより、挿入部材35の剛性をより向上させることができる。なお、強化繊維として炭素繊維を用いることにより、挿入部材35の剛性をより向上させることができる。
【0045】
強化繊維はミルドファイバであってもよい。ミルドファイバは強化繊維の原糸を粉砕して粉末状に形成された繊維である。これにより、充填材30a中における強化繊維の分散性を向上させると共に、充填材30aの樹脂成分の当該強化繊維への浸透性を向上させることができる。そのため、挿入部材35の剛性をより確実に向上させることができる。
【0046】
充填材30aに含まれる強化繊維の平均直径、及び平均繊維長の値は所定の範囲に設定されていてもよい。強化繊維の平均直径、及び平均繊維長は粒度分布測定装置を用いて測定することができる。例えば、複数の強化繊維を測定ステージ上に分散させ、所定倍率の対物レンズで撮影し、画像解析ソフトを用いて平均直径、及び平均繊維長を算出することができる。対物レンズの倍率は強化繊維の形状、寸法に応じて適宜設定してもよい。また、複数の強化繊維を光学顕微鏡又は走査型電子顕微鏡を用いて撮影し、画像解析ソフトを用いて平均直径又は平均繊維長を算出してもよい。なお、強化繊維の平均直径及び平均繊維長の各々を、単に直径及び繊維長と称する。
【0047】
充填材30aが含有する強化繊維は、直径が200nm~800nm、繊維長が2μm~8μmであってもよい。これにより、充填材30aにおける当該強化繊維の分散性をより向上させると共に、充填材30aの樹脂成分の当該強化繊維への浸透性をより向上させることができる。その結果、挿入部材35の剛性をより確実に向上させることができる。なお、より好ましくは、充填材30aが含有する強化繊維は、直径が400nm~600nm、繊維長が4μm~6μmであってもよい。
【0048】
充填材30aに含まれる強化繊維の含有率は所定の範囲に設定されていてもよい。当該含有率は、充填材30aの質量と、充填材30aに含まれる強化繊維の質量との比であり、次の式1で算出される。
強化繊維の含有率(質量%)=[充填材30aに含まれる強化繊維の質量(g)/充填材30aの質量(g)]×100・・・(式1)
【0049】
ある実施形態では、充填材30aは強化繊維を5質量%~20質量%含有してもよい。これにより、充填材30aは、より第2成形工程に適した粘性を有することとなる。例えば、図9に例示されるトレイ23の設置場所が水平方向に対してやや傾いていた場合であっても、孔21から充填材30aが流出することを抑制することができる。即ち、第2成形工程の作業性を向上させることができる。更に、充填材30aを硬化させて得られる挿入部材35の剛性を確保すると共に、靭性を確保することができる。そのため、取付孔10の内部に挿入部材35を接合した状態で亀裂2aを開こうとする力が側壁部5aに入力され、挿入部材35に、例えばY軸方向に引き延ばそうとする力が働いても、挿入部材35の破断を抑制することができる。即ち、構造物1に生じた亀裂2の進展をより確実に抑制することができる。なお、より好ましくは、充填材30aは強化繊維を10質量%~15質量%含有してもよい。
【0050】
なお、充填材30aの強化繊維の含有率は、充填材30aの硬化前後で略同じであってもよい。即ち、第2成形工程により形成された挿入部材35は強化繊維を5質量%~20質量%含有してもよい。これにより、挿入部材35の剛性及び靭性をより向上させることができる。なお、より好ましくは、挿入部材35は強化繊維を10質量%~15質量%含有してもよい。
【0051】
次に、図10及び図11を参照しながら接合工程について説明する。接合工程は第2成形工程に次いで実施される。接合工程は挿入部材35を構造物1の取付孔10に挿入し接合する工程であり、図10に示す例では、挿入部材35を矢印Aに示すように取付孔10に挿入する。なお、図に例示された挿入部材35の挿入方向はZ軸方向と平行な方向である。また、図示された例では、挿入部材35の厚さt3と板厚t1とは略等しい値に設定されているが、これに限定されない。厚さt3は板厚t1よりも大きな値、又は小さな値に設定されてもよい。厚さt3は、挿入部材35の挿入方向における寸法であり、第2成形工程における孔21への充填材30aの充填量によって値を制御することができる。なお、挿入部材35の形状及び寸法は取付孔10の形状に応じて、例えば研磨紙を用いて適宜調整されてもよい。
【0052】
挿入部材35を取付孔10の内部に固定する際には、接着等の方法により内周面7と外周面36とを接合してもよい。例えば、挿入部材35を取付孔10に挿入する際、内周面7及び外周面36のうち少なくとも一方に予め接着剤を塗布しておくことにより、挿入部材35を内周面7に接着することができる。また、挿入部材35を取付孔10内に配設した状態で内周面7と外周面36との間に隙間が形成されている場合には、当該隙間に接着剤を注入してもよい。接着剤の種類は特に限定されず、構造物1の材質、接合強度、作業性等を考慮し、適宜選択可能である。
【0053】
図11に示す例では、取付孔10に挿入部材35が挿入され、両者が接合されている。内周面7と外周面36との間には接着剤が硬化することにより形成された接着層40が介在してもよい。また、Z軸と平行な軸方向視において、挿入部材35は取付孔10の開口面よりも僅かに小さい略相似形状を有する。そのため、内周面7と外周面36との間の隙間をより狭くすることができる。
【0054】
図に例示されるように、挿入部材35の幅は、Y軸方向において中央部37から両端部にかけて連続的に増加する。そのため、挿入部材35のY軸方向両端部には拡幅部38a,38bが形成される。中央部37はY軸方向における挿入部材35の略中央に位置する部分である。取付孔10の内部に挿入部材35が固定された状態では、取付孔10の交差領域11、拡幅領域12a及び拡幅領域12bに、挿入部材35の中央部37、拡幅部38a及び拡幅部38bがそれぞれ配設される。中央部37のX軸方向における寸法である幅W3は、交差領域11の幅W1よりも僅かに小さな値となっていてもよい。また、拡幅部38a,38bのX軸方向における寸法である幅W4a,W4bは、拡幅領域12a,12bの幅W2a,W2bよりも僅かに小さな値となっていてもよい。
【0055】
図11中の矢印B及び矢印Cに例示されるように、亀裂2aを開く方向の力が側壁部5aに入力されると、当該荷重は内周面7から挿入部材35の外周面36に伝達される。ここで、取付孔10は拡幅領域12a,12bから交差領域11にかけて幅が狭窄しており、また、挿入部材35は中央部37から拡幅部38a,38bにかけて拡幅されている。そのため、亀裂2aが開く方向への側壁部5aの変形は拡幅部38a,38bによって拘束され、亀裂2aの進展が抑制されることとなる。なお、内周面7と外周面36との間に接着層40が形成されている場合には、側壁部5aに入力された亀裂2aを開く方向の力が、接着層40を介して外周面36のより広い範囲に伝達される。そのため、亀裂2aの進展をより確実に抑制することができる。
【0056】
(第2実施形態)
次に、図12図14を参照しながら、本実施形態に係る亀裂進展抑制方法の他の適用例について説明する。本実施形態では、亀裂2b(図1参照)の進展を抑制するために当該亀裂進展抑制方法を用いている。図12には、デッキプレート3とUリブ4との接合部6に生じた亀裂2bの先端部近傍の領域における断面が例示されている。亀裂2bはX軸方向と略平行に延在しており、その亀裂深さは側壁部5aの板厚t1と略等しくてもよい。
【0057】
まず、図12及び図13に示すように、孔部形成工程を実施して、取付孔10Aを構造物1に形成する。取付孔10Aは第1実施形態における取付孔10に相当する開口である。図示された例では、デッキプレート3の下方側の一部と、側壁部5aの接合部6近傍の部分に、例えば放電加工によって取付孔10Aを形成する。このとき、少なくともデッキプレート3が上下方向において貫通しないように取付孔10Aを形成してもよい。これにより、雨水等の異物が取付孔10Aを介してデッキプレート3の下方に浸入することを抑制することができる。
【0058】
図に例示された取付孔10AはZ軸と平行な軸方向視においてY軸方向に延在しており、取付孔10(図4参照)と同様に、全体として略長円状の形状を有する。また、取付孔10Aは亀裂2bと交差するように延在している。取付孔10AのY軸方向における略中央部には、取付孔10Aと亀裂2bとが交差して形成された交差領域11が形成されている。取付孔10のY軸方向両端部には拡幅領域12a,12bが形成されている。
【0059】
孔部形成工程に次いで、第1成形工程を実施する。図13では取付孔10Aに型取り材15aが充填されている。なお、図に例示された状態では型取り材15aの厚さは板厚t1よりも厚いが、これに限定されず、板厚t1と略同じ、又は板厚t1よりも薄くなるように型取り材15aを充填してもよい。また、図に例示された型取り材15aはX軸方向に垂直な断面において略矩形の形状を有するように充填されているが、これに限定されない。取付孔10Aの形状、寸法等に応じて、型取り材15aの充填量、又は当該断面の形状を適宜設定することができる。
【0060】
取付孔10に型取り材15aを充填した状態で所定の硬化時間の経過を待ち、型取り材15aを硬化後型取り材15bとする。その後、取付孔10Aから硬化後型取り材15bを取り出す。この硬化後型取り材15bが原型16に相当する。
【0061】
第1成形工程に次いで、成形型作成工程を実施する。成形型作成工程では、原型16の型を取ることによって、成形型22を作成する。本実施形態においても第1実施形態における成形型作成工程と同様に、型取り材20aを用いることによって、原型16に応じた形状を有する孔21が形成された成形型22を得ることができる。
【0062】
成形型作成工程に次いで第2成形工程を実施する。第2成形工程では、孔21の内部形状が転写された挿入部材35を成形する。本実施形態においても第1実施形態における第2成形工程と同様に、充填材30aを成形型22の孔21に充填し硬化させることによって、孔21の内部形状が転写された硬化後充填材30bを得ることができる。当該硬化後充填材30bが挿入部材35に相当する。
【0063】
第2成形工程に次いで、図14に例示されるように接合工程が実施される。接合工程では、挿入部材35を取付孔10Aに挿入し接合する。図示された例では、取付孔10Aに対して挿入部材35がZ軸方向に挿入され、内周面7と外周面36とが接合される。なお、図に例示された挿入部材35の厚さt3は側壁部5aの板厚t1よりも大きな値に設定されているが、これに限定されず、板厚t1と略同じ、又は板厚t1よりも薄い厚さとなるように挿入部材35を形成してもよい。挿入部材35の形状は取付孔10Aの形状に応じて、例えば研磨紙を用いて適宜調整されてもよい。
【0064】
第1実施形態における接合工程と同様に、取付孔10Aの内部に挿入部材35を固定する際には、内周面7及び外周面36のうち少なくとも一方に予め接着剤が塗布されていてもよい。また、内周面7と外周面36との間に隙間が形成されている場合には、当該隙間に接着剤を注入してもよい。内周面7と外周面36との間には接着剤が硬化することにより形成された接着層40が介在してもよい。
【0065】
本実施形態の接合工程においても、取付孔10Aの内部に挿入部材35が固定された状態では、取付孔10の交差領域11、拡幅領域12a及び拡幅領域12bに、挿入部材35の中央部37、拡幅部38a及び拡幅部38bがそれぞれ配設される。挿入部材35は全体として取付孔10Aの形状と略同じ形状を有するため、内周面7と外周面36との間の隙間をより狭くすることができる。
【0066】
図14の矢印D及び矢印Eに示すように、亀裂2bを開く方向の力が接合部6に入力されると、当該荷重は内周面7から挿入部材35の外周面36に伝達される。ここで、取付孔10Aは拡幅領域12a,12bから交差領域11にかけて幅が狭窄しており、また、挿入部材35は中央部37から拡幅部38a,38bにかけて拡幅されている。そのため、亀裂2bが開く方向への接合部6の変形は拡幅部38a,38bによって拘束され、亀裂2bの進展が抑制されることとなる。なお、内周面7と外周面36との間に接着層40が形成されている場合には、接合部6に入力された亀裂2bを開く方向の力が、接着層40を介して外周面36のより広い範囲に伝達される。そのため、亀裂2bの進展をより確実に抑制することができる。
【0067】
次に、実施形態に係る亀裂進展抑制方法の作用効果について説明する。
【0068】
(1)実施形態に係る亀裂進展抑制方法は、構造物1に生じた亀裂2の進展を抑制する方法である。当該方法は、亀裂2と交差するように延在すると共に、亀裂2と交差する交差領域11よりも延在方向における両端側の領域に、交差領域11の幅W1よりも拡幅された領域12a,12bを有する第1孔部10,10Aを構造物1に形成する孔部形成工程を備える。また当該方法は、第1孔部10,10Aの型を取ることによって、第1孔部10,10Aの内部形状が転写された原型16を成形する第1成形工程を備える。また当該方法は、原型16の型を取ることによって、原型16の外形が転写された第2孔部21を備えた成形型22を作成する成形型作成工程を備える。また当該方法は、第2孔部21の型を取ることによって、第2孔部21の内部形状が転写された挿入部材35を成形する第2成形工程を備える。また当該方法は、挿入部材35を構造物1の第1孔部10,10Aに挿入し接合する接合工程を備える。
【0069】
実施形態に係る亀裂進展抑制方法によれば、取付孔10,10Aの内部形状が転写された挿入部材35を、取付孔10,10Aに挿入し接合することができる。そのため、より取付孔10,10Aの形状に一致した形状を有する挿入部材35を、取付孔10,10Aの内部に固定することができる。これにより、構造物1に形成された内周面7と、挿入部材35の外周面36との間に過大な隙間が形成されることを抑制することができる。従って、構造物1に生じた亀裂2の進展をより確実に抑制することができる。
【0070】
(2)第2成形工程では、第2孔部21に充填材30aを充填し硬化させることによって挿入部材35を成形してもよい。
【0071】
これにより、取付孔10,10Aの形状と一致する形状を有する挿入部材35をより容易に得ることができる。そのため、例えば亀裂補修作業を行う作業現場で挿入部材35を作成することが可能であり、より容易に亀裂補修作業を行うことができる。
【0072】
(3)充填材30aは強化繊維を含有する熱硬化性樹脂であってもよい。
【0073】
これにより、剛性及び耐熱性がより向上された挿入部材35を得ることができる。そのため、構造物1に生じた亀裂2の進展をより確実に抑制することができる。
【0074】
(4)充填材30aが含有する強化繊維はミルドファイバであってもよい。
【0075】
これにより、充填材30a中における強化繊維の分散性を向上させると共に、充填材30aに含まれる樹脂の当該強化繊維への浸透性を向上させることができる。そのため、挿入部材35の剛性をより向上させることができる。
【0076】
(5)ミルドファイバは、充填材30aに5質量%~20質量%含有されていてもよい。
【0077】
これにより、充填材30aはより第2成形工程に適した粘性を有することとなり、第2成形工程の作業性を向上させることができる。更に、充填材30aを硬化させることにより得られる挿入部材35の剛性及び靭性をより向上させることができる。そのため、構造物1に生じた亀裂2の進展をより確実に抑制することができる。
【0078】
(6)ミルドファイバは直径が200nm~800nmであり、かつ繊維長が2μm~8μmであってもよい。
【0079】
これにより、充填材30a中における強化繊維の分散性をより向上させると共に、充填材30aに含まれる樹脂の当該強化繊維への浸透性をより向上させることができる。そのため、挿入部材35の剛性をより向上させることができる。
【0080】
本開示は、例えば持続可能な開発目標(SDGs)の目標9「強靭(レジリエント)なインフラ構築、包摂的かつ持続可能な産業化の促進及びイノベーションの推進を図る」に貢献することができる。
【0081】
以上、いくつかの実施形態を説明したが、上記開示内容に基づいて実施形態の修正又は変形をすることが可能である。上記実施形態の全ての構成要素、及び請求の範囲に記載された全ての特徴は、それらが互いに矛盾しない限り、個々に抜き出して組み合わせてもよい。
【符号の説明】
【0082】
1 構造物
2 亀裂
10,10A 取付孔(第1孔部)
11 交差領域
12a,12b 拡幅領域(領域)
16 原型
21 孔(第2孔部)
22 成形型
30a 充填材
35 挿入部材
W1 幅
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14