(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024037450
(43)【公開日】2024-03-19
(54)【発明の名称】テンプレート、テンプレートの製造方法、テンプレートを用いたパターン付き基板の製造方法
(51)【国際特許分類】
H01L 21/027 20060101AFI20240312BHJP
B29C 33/42 20060101ALI20240312BHJP
B29C 59/02 20060101ALI20240312BHJP
【FI】
H01L21/30 502D
B29C33/42
B29C59/02 B
【審査請求】未請求
【請求項の数】16
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022142330
(22)【出願日】2022-09-07
(71)【出願人】
【識別番号】318010018
【氏名又は名称】キオクシア株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100140486
【弁理士】
【氏名又は名称】鎌田 徹
(74)【代理人】
【識別番号】100079108
【弁理士】
【氏名又は名称】稲葉 良幸
(74)【代理人】
【識別番号】100121843
【弁理士】
【氏名又は名称】村井 賢郎
(72)【発明者】
【氏名】小松 大佑
【テーマコード(参考)】
4F202
4F209
5F146
【Fターム(参考)】
4F202AA36
4F202AB14
4F202AF01
4F202AG01
4F202AG05
4F202AJ02
4F202AJ09
4F202AR12
4F202CA19
4F202CB01
4F202CD02
4F202CD22
4F202CD24
4F202CD26
4F209AA44
4F209AF01
4F209AG05
4F209AH33
4F209AJ09
4F209AJ11
4F209PA02
4F209PB01
4F209PN09
4F209PQ11
4F209PQ14
5F146AA32
(57)【要約】
【課題】離型時における膜の欠陥の発生を防止することのできるテンプレート、当該テンプレートの製造方法、及び、当該テンプレートを用いたパターン付き基板の製造方法を提供する。
【解決手段】テンプレート30は、被転写材料60に押し付けられる転写領域PAに、パターンに対応する凸部310が形成された基材300と、転写領域PAのうち、凸部310の先端面311のみを覆う下地膜330と、下地膜330を覆う単分子膜340と、を備える。
【選択図】
図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板上の被転写材料にパターンを転写するインプリント用のテンプレートであって、
前記被転写材料に押し付けられる転写領域に、前記パターンに対応する凸部が形成された基材と、
前記転写領域のうち、前記凸部の先端面のみを覆う下地膜と、
前記下地膜を覆う単分子膜と、を備えたテンプレート。
【請求項2】
前記単分子膜に対する前記被転写材料の接触角が、前記転写領域のうち前記単分子膜以外の部分に対する前記被転写材料の接触角よりも大きい、請求項1に記載のテンプレート。
【請求項3】
前記基材は石英を含む、請求項1に記載のテンプレート。
【請求項4】
前記下地膜は金属を含む、請求項1に記載のテンプレート。
【請求項5】
前記下地膜はチタン、クロム、及び金のうち少なくとも1つを含む、請求項4に記載のテンプレート。
【請求項6】
前記単分子膜は有機硫黄分子を含む、請求項5に記載のテンプレート。
【請求項7】
前記単分子膜はフッ素を含む、請求項6に記載のテンプレート。
【請求項8】
前記下地膜は金属酸化物を含む、請求項1に記載のテンプレート。
【請求項9】
前記下地膜は、アルミニウム、チタン、ジルコニウム、スズ、及びインジウムのうち少なくとも1つの酸化物を含む、請求項8に記載のテンプレート。
【請求項10】
前記単分子膜はホスホン酸を含む、請求項9に記載のテンプレート。
【請求項11】
前記単分子膜はフッ素を含む、請求項10に記載のテンプレート。
【請求項12】
前記下地膜の厚さが10nm以下である、請求項1に記載のテンプレート。
【請求項13】
インプリント用のテンプレートの製造方法であって、
基材の表面に下地膜を形成し、
前記下地膜をマスクで覆い、
前記マスクの開口を通じて前記下地膜及び前記基材をエッチングし、
残留した前記下地膜の表面に単分子膜を形成する、テンプレートの製造方法。
【請求項14】
前記単分子膜は自己組織化単分子膜である、請求項13に記載のテンプレートの製造方法。
【請求項15】
テンプレートを用いたパターン付き基板の製造方法であって、
前記基板の表面に被転写材料を配置する工程と、
前記被転写材料に前記テンプレートを押し付ける工程と、
光を照射して前記被転写材料を硬化させる工程と、
前記被転写材料から前記テンプレートを取り外す工程と、を含み、
前記テンプレートとして、
前記被転写材料に押し付けられる転写領域に、前記パターンに対応する凸部が形成された基材と、
前記転写領域のうち、前記凸部の先端面のみを覆う下地膜と、
前記下地膜を覆う単分子膜と、を備えたものを用いる、パターン付き基板の製造方法。
【請求項16】
前記被転写材料として、前記単分子膜の材料を含むものを用いる、請求項15に記載のパターン付き基板の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、テンプレート、テンプレートの製造方法、テンプレートを用いたパターン付き基板の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
パターンを形成する方法として、インプリントと称される方法が提案されている。インプリントでは、凹凸パターンが形成されたテンプレートを、基板上の被転写材料に押し付けた状態とした後で、被転写材料を硬化させる。これにより、凹凸パターンの転写された膜を基板上に形成することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
開示された実施形態によれば、離型時における膜の欠陥の発生を防止することのできるテンプレート、当該テンプレートの製造方法、及び、当該テンプレートを用いたパターン付き基板の製造方法が提供される。
【課題を解決するための手段】
【0005】
実施形態に係るテンプレートは、基板上の被転写材料にパターンを転写するインプリント用のテンプレートであって、被転写材料に押し付けられる転写領域に、パターンに対応する凸部が形成された基材と、転写領域のうち、凸部の先端面のみを覆う下地膜と、下地膜を覆う単分子膜と、を備える。
【図面の簡単な説明】
【0006】
【
図1】本実施形態に係るテンプレートを含む、インプリント装置の構成を模式的に示す図である。
【
図2】インプリントの各工程を説明するための図である。
【
図3】離型時等に生じ得る問題について説明するための図である。
【
図4】本実施形態に係るテンプレートの具体的な構成を示す図である。
【
図5】本実施形態に係るテンプレートの製造方法を説明するための図である。
【
図6】本実施形態に係るテンプレートの製造方法を説明するための図である。
【
図7】本実施形態に係るテンプレートの製造方法を説明するための図である。
【
図8】本実施形態に係るテンプレートの製造方法を説明するための図である。
【
図9】本実施形態に係るテンプレートの製造方法を説明するための図である。
【
図10】本実施形態に係るテンプレートの製造方法を説明するための図である。
【
図11】本実施形態に係るテンプレートの製造方法を説明するための図である。
【
図12】変形例に係るテンプレートの具体的な構成を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0007】
以下、添付図面を参照しながら本実施形態について説明する。説明の理解を容易にするため、各図面において同一の構成要素に対しては可能な限り同一の符号を付して、重複する説明は省略する。
【0008】
本実施形態に係るテンプレート30は、インプリント装置10に搭載されるものであり、インプリントの原版として用いられるものである。テンプレート30の説明に先立ち、インプリント装置10の構成について先ず説明する。
【0009】
インプリント装置10は、半導体装置の製造に用いられる装置であって、基板20上に塗布された被転写材料に対し凹凸パターンを転写する装置である。製造される半導体装置は、例えばNAND型フラッシュメモリである。尚、後に説明するテンプレート30の構成は、半導体装置以外の製造にも用いることができる。
【0010】
図1に示されるように、インプリント装置10は、基板チャック21と、基板ステージ22と、テンプレート30と、原版チャック31と、ベース32と、アラインメントセンサ33と、光源40と、制御装置50と、を備える。
【0011】
基板チャック21は、基板20を保持する装置であって、例えば真空チャックである。パターンの転写対象である基板20は、その表面20Sを上方に向けた状態で、下方側から基板チャック21によって保持される。基板20の表面20Sは、基板20上に形成された被加工膜を有し、被加工膜上には、不図示の塗布装置により、液体である被転写材料が予め塗布されている。本実施形態の基板20は、例えばシリコンウェハなどの半導体基板である。基板20に塗布される上記の被転写材料は、後に説明する光源40からの光によって硬化し、インプリント後の工程において、例えば被加工膜をエッチングする際のレジストとして機能するものである。
【0012】
尚、インプリント装置10には、フープと称される不図示の密閉容器が取り付けられる。フープには、前の工程において予め成膜等の処理が施された複数の基板20が収納されている。
図1において基板チャック21に保持されている基板20は、上記のフープから取り出された後、不図示の搬送機構によって搬送されて来たものである。
【0013】
基板ステージ22は、基板チャック21を支持する装置である。基板ステージ22は、基板チャック21及びこれに保持された基板20を、表面20Sに対し平行であり互いに垂直なX方向及びY方向に沿って移動させることができる。基板ステージ22は、基板20等を更にXY平面内で旋回させることのできる「XYθステージ」として構成されていてもよい。基板ステージ22の動作は、後述の制御装置50によって制御される。
【0014】
テンプレート30は、その表面に凹凸パターンが形成された原版である。この凹凸パターンが、基板20上の被転写材料に転写される凹凸パターンに対応している。凹凸パターンは、テンプレート30の表面(
図1における下方側の表面)のうち、符号「PA」が付された一部の領域にのみ形成されている。当該領域は、基板20上の被転写材料に押し付けられる領域である。当該領域のことを、以下では「転写領域PA」とも称する。テンプレート30は、転写領域PAの凹凸パターンを含む全体が、光源40から照射される光の波長に対して透明な材料で形成されている。テンプレート30の具体的な構成については後に説明する。
【0015】
原版チャック31は、テンプレート30を保持する装置であって、例えば機械式のクランプ装置である。テンプレート30は、転写領域PAのある面を下方側、すなわち基板20側に向けた状態で、原版チャック31によって保持されている。原版チャック31及びベース32のうち、転写領域PAの直上となる部分には、光源40からの光を通過させるための開口OPが形成されている。
【0016】
原版駆動部34は、原版チャック31を基板20に対して垂直方向に位置変化させることのできる機構である。原版駆動部34は、その上方に位置するベース32に取り付けられている。
【0017】
アラインメントセンサ33は、テンプレート30と基板20との相対的な位置関係を検知するためのセンサである。このような検知を可能とするために、テンプレート30及び基板20のそれぞれには、予め不図示のアラインメントマークが設けられている。アラインメントセンサ33は、上方側から開口OPを通じてそれぞれのアラインメントマークを撮像し、両者のずれ具合を測定する。「ずれ具合」とは、例えば、テンプレート30に設けられたアラインメントマークと、基板20に設けられたアラインメントマークと、の間の距離のことである。基板20上の被転写材料に対する凹凸パターンの形成は、当該距離が可能な限り0に近づくように、テンプレート30と基板20との相対的な位置関係を予め調整した状態で行われる。
【0018】
光源40は、被転写材料を硬化させるための光(例えば紫外線)を照射する装置である。光源40は、例えば水銀ランプである。光源40は、発せられる光の強度を変化させることができる。発せられる光の波長を変化させることができる構成としてもよい。光源40は、発せられる光の強度や波長等を変化させることにより、被転写材料を完全には硬化させず、被転写材料の粘性を高くする程度にとどめることもできる。光源40から発せられる光の強度等は、制御装置50によって調整される。
【0019】
光源40と基板20との間、すなわち、光が基板20に到達する経路の途中となる位置には、照射量調整機構41が配置されていてもよい。照射量調整機構41は、機械的な動作により、基板20に到達する光の照射量を調整するものである。照射量調整機構41は、例えばシャッター装置やミラーデバイス等である。照射量調整機構41が配置される場合には、制御装置50は、照射量調整機構41の動作を制御することで、光源40から基板20に到達する光の照射量を調整する。
【0020】
制御装置50は、インプリント装置10の全体の動作を統括制御する装置である。制御装置50は、CPU、RAM、ROM等を有するコンピュータシステムとして構成されている。尚、制御装置50は、インプリント装置10に内蔵されていてもよいが、インプリント装置10から離れた位置に設置されていてもよい。
【0021】
インプリント装置10を用いたパターン転写の流れについて、
図2を参照しながら説明する。
図2には、インプリントの各工程における基板20等の状態が模式的に示されている。同図において符号「60」が付されているのは被転写材料である。符号「70」が付されているのは、基板20上に形成された被加工膜である。以下では、それぞれのことを「被転写材料60」、「被加工膜70」とも称する。
【0022】
先ず、
図2(A)に示されるように、基板20の表面上(具体的には被加工膜70の表面上)に、被転写材料60が配置される。被転写材料60の配置は、例えば被加工膜70上の複数箇所に被転写材料60を滴下させるように行われてもよく、被加工膜70の全体にスピンコート等で被転写材料60の膜を形成するように行われてもよい。
【0023】
その後、
図2(B)に示されるように、不図示の原版チャック31を下降させることにより、テンプレート30のうち凹凸パターンが形成された部分(つまり転写領域PA)を、基板20上の被転写材料60に押し付けた状態とする処理が行われる。
【0024】
転写領域PAには、基板20側に向けて突出している複数の凸部310と、凸部310の間の部分である複数の凹部301と、がそれぞれ存在しており、これらによって凹凸パターンが形成されている。この凹凸パターンは、被転写材料60に形成されるパターンに対応したものである。
図2(B)の状態においては、テンプレート30と基板20との間の隙間に被転写材料60が充填される。具体的には、凹部301の内側の空間や、凸部310の先端と被加工膜70との間の隙間等に、被転写材料60が一様に充填される。その結果、この時点で流体である被転写材料60の形状は、上記の凹凸パターンに対応した形状となっている。
【0025】
図2(B)の状態のまま、光源40から光が発せられる。当該光は、開口OPを通りテンプレート30を透過した後、被転写材料60に到達する。これにより、被転写材料60は、凹凸パターンに対応した形状を維持したまま硬化する。
【0026】
被転写材料60の硬化が完了すると、テンプレート30を被転写材料60から取り外す処理が行われる。具体的には、
図2(C)に示されるように、不図示の原版チャック31が上方側へと引き上げられる。これにより、基板20とテンプレート30との間が離間し、被転写材料60がテンプレート30の凹凸パターンから離型する。被加工膜70の表面は、パターンの形成された被転写材料60によって覆われた状態となっている。
【0027】
尚、以上のような被転写材料60に対するパターンの形成は、表面20Sを複数の領域に区分した上で、それぞれの領域に対して順次行われて行く。これにより、広範囲にわたってパターンを形成することができる。
【0028】
パターンが形成された被転写材料60を有する基板20(つまりパターン付き基板)は、例えば、後の工程において別のエッチング装置などに移動され、被転写材料60をマスクとした被加工膜70のエッチング工程が行われる。これにより、被加工膜70が加工されることによって凹凸パターンが形成され、例えば、凹凸パターンの凹部に金属が埋め込まれた配線パターンを有する半導体装置が製造される。
図2(D)には、被転写材料60をマスクとした被加工膜70のエッチング工程が行われた直後における状態が模式的に示されている。
図2(E)には、
図2(D)の状態から、アッシングにより被転写材料60が除去された状態が模式的に示されている。このように、被加工膜70には、テンプレート30の凹凸パターンに対応した所定のパターンが形成される。
【0029】
ところで、上記のようにテンプレート30を被転写材料60から取り外す際には、テンプレート30の離型性が問題となる。テンプレート30の材料として石英が用いられる場合、被転写材料60の離型性が低くなってしまうことが知られている。被転写材料60の離型性が低いと、例えば
図3(A)に示されるように、離型時において一部の被転写材料60がテンプレート30に付着したまま引き上げられ、他の部分から分離されてしまうような事態が生じ得る。
【0030】
このような被転写材料60の欠損を防止するための対策としては、例えば、テンプレート30のうち転写領域PAの表面全体を、被転写材料60に対する濡れ性の低い材料の層で覆っておくことも考えられる。
【0031】
しかしながら、その場合には、
図2(B)のようにテンプレート30を被転写材料60に押し付けた際に、テンプレート30と基板20との間の隙間の一部に、被転写材料60が充填されない部分が残ってしまう可能性がある。例えば
図3(B)のように、凹部301の内側に、被転写材料60が充填されていない空隙が残ってしまう可能性がある。
図3(A)及び
図3(B)の状態はいずれも、被転写材料60に適正なパターンが形成されなくなるので、好ましくない。
【0032】
このように、被転写材料60の離型性を高めると、その代償として、被転写材料60の充填性が低くなってしまうという問題が生じ得る。そこで、本実施形態に係るテンプレート30では、転写領域PAの構成を工夫することにより、離型性と充填性の両立を図っている。
【0033】
テンプレート30の具体的な構成について、
図4を参照しながら説明する。
図4には、テンプレート30のうち転写領域PAの構成が、部分的な断面図として示されている。同図に示されるように、テンプレート30は、基材300と、下地膜330と、単分子膜340と、を備えている。
【0034】
基材300は、テンプレート30の概ね全体を占める部材である。基材300は石英により形成されている。基材300の材料としては、光源40から照射される光の波長に対して透明な材料であれば、石英に何らかの添加剤を含ませた材料が用いられてもよく、石英とは異なる材料が用いられてもよい。転写領域PAの凹凸パターンである凸部310及び凹部301は、いずれも基材300に形成されている。
【0035】
下地膜330は、凸部310の先端面311を覆う膜である。下地膜330は、本実施形態ではTiを主成分とする金属膜として形成されている。下地膜330の材料は、本実施形態のようにTi単体であってもよいが、Ti以外の成分を含んでいてもよい。下地膜330は、次に述べる単分子膜340を形成するための下地として形成されている。尚、テンプレート30の転写領域PAのうち、下地膜330及び単分子膜340が形成されているのは、凸部310の先端面311のみである。本実施形態では、テンプレート30の転写領域PAにおける先端面311以外の部分に下地膜330等は設けられていない。ただし、テンプレート30のうち転写領域PA以外の部分には、下地膜330等が設けられていてもよい。
【0036】
単分子膜340は、凸部310の先端面311において、下地膜330を更に上から覆う膜である。下地膜330は、所謂「自己組織化単分子膜」として形成された膜である。下地膜330を本実施形態のような金属膜とした場合には、単分子膜340としては、例えば1-decanethiol等のチオールや、di-n-hexyl disulfide等のジスルフィド、のような有機硫黄分子からなる膜を用いることが好ましい。単分子膜340が有機硫黄分子以外の材料を含んでいてもよい。
【0037】
テンプレート30を以上のように構成としたことの利点について説明する。凸部310の先端において露出している単分子膜340は、その周囲において露出している材料(本実施形態では石英)に比べて、被転写材料60への濡れ性が低い。換言すれば、単分子膜340に対する被転写材料60の接触角が、転写領域PAのうち単分子膜340以外の部分に対する被転写材料60の接触角よりも大きくなっている。
【0038】
その結果、
図2(B)のように被転写材料60が硬化した直後の状態においては、被転写材料60は、凸部310の先端面311に対する密着強度が、他の部分(例えば凹部301の内側面及び内底面等)に対する密着強度に比べて小さくなっている。尚、ここでいう「密着強度」とは、両者を引き剥がすのに必要な力のことである。
【0039】
図2(C)の状態となるよう、テンプレート30を被転写材料60から取り外す際には、被転写材料60に加えられる応力は、凸部310の先端部分の近傍において最も大きくなり、当該部分を起点として被転写材料60はテンプレート30から離型して行く。離型に必要な力は、凸部310の先端部分から被転写材料60が剥がれる直前において最も大きくなり、当該部分が剥がれた後は、離型に必要な力は概ね一定の小さな力となる。
【0040】
このため、本実施形態のように、凸部310の先端面に単分子膜340を形成し、当該部分から被転写材料60を剥がすのに要する力を小さくしておけば、離型に必要な力を抑制することができる。これにより、
図3(A)に示されるような離型時における膜の欠陥を防止することができる。
【0041】
また、被転写材料60の密着強度を低下させるのは、凸部310の先端面においてのみであるから、被転写材料60の充填性の低下は最小限に抑えることができる。このため、離型時における膜の欠陥を防止しながらも、
図3(B)に示されるような空隙の残留をも防止することができる。
【0042】
単分子膜340の厚さは概ね分子1つ分程度であるから、凸部310の先端に単分子膜340を形成しても、転写領域PAにおける凹凸パターンの形状はほとんど変化しない。このため、転写後における被転写材料60のパターン形状への影響は無視できる程度に抑えることができる。
【0043】
テンプレート30を製造する方法について説明する。
【0044】
<基材準備工程>基材準備工程として、まず、基材300が準備される。この時点における基材300は、凸部310等のパターンがまだ形成されておらず、転写領域PAの全体が平坦面となっている。
図5には、準備された基材300の断面が模式的に描かれている。
図5の基材300のうち上方側の面が、後に凸部310等が形成される面である。
【0045】
<下地膜形成工程>基材準備工程に続いて、下地膜形成工程が行われる。下地膜形成工程では、基材300の表面のうち、少なくとも転写領域PAとなる部分の全体を覆うように、下地膜330が形成される。その後、下地膜330の全体を覆うように、金属膜331が形成される。先に述べたように、本実施形態では下地膜330の材料としてTiが用いられる。また、金属膜331の材料としては、例えば、Crが用いられる。これらはいずれも、例えばスパッタやCVD等により成膜することができる。
図6には、下地膜形成工程が完了した状態が示されている。尚、実施形態において、好適に下地膜330を加工することが可能であれば、金属膜331は必ずしも必要としない。
【0046】
<マスク形成工程>下地膜形成工程に続いて、マスク形成工程が行われる。マスク形成工程では、
図7に示されるように、金属膜331の表面を覆うようにレジスト350が塗布される。レジスト350は、後のエッチング工程においてマスクとして機能する膜である。続いて、
図8に示されるように、インプリントによってレジスト350の一部に凹部351が形成される。凹部351は、凹部301と対応する部分のそれぞれに形成される。ただし、本実施形態のようなインプリントではなく、例えば電子ビーム描画やフォトリソグラフィを用いて凹部351を形成してもよい。この場合、凹部351は開口し、金属膜331が露出する。
【0047】
<エッチング工程>マスク形成工程に続いて、エッチング工程が行われる。エッチング工程では、レジスト350に対し例えばドライエッチングが施される。その際、凹部351は開口となり、以降は当該開口を通じて金属膜331がエッチングされる。
図9には、金属膜331のエッチングが完了した状態が示されている。金属膜331のエッチングは、例えば塩素系のガス種を用いて行うことができる。
【0048】
その後、レジスト350の上記開口を通じて、下地膜330及び基材300の一部に対しても引き続きエッチングが施される。尚、本実施形態のように下地膜330がTiの膜である場合には、CF系のガス種を用いて下地膜330及び基材300のそれぞれをエッチングすることができる。基材300の転写領域PAのうち、エッチングが施された部分は先に述べた凹部301となり、それ以外の部分は凸部310として残留する。エッチング工程が完了すると、
図10に示されるように、金属膜331の表面を覆っていたレジスト350が除去される。レジスト350は、例えば剥離液を用いたり、アッシングを行ったりすることにより除去することができる。その後、
図11に示されるように、金属膜331がエッチングにより除去され、下地膜330が露出した状態とされる。
【0049】
<単分子膜形成工程>エッチング工程に続いて、単分子膜形成工程が行われる。単分子膜形成工程では、下地膜330の表面に単分子膜340が形成される。先に述べたように、単分子膜340は所謂「自己組織化単分子膜」として形成される。例えば、原料である有機硫黄分子を含む溶液中に、下地膜330を含む基材300の全体を所定時間浸漬することにより、下地膜330の表面のみに単分子膜340が選択的に形成される。下地膜330は、このような溶液法で形成されてもよいが、気相法で形成されてもよい。以上のような方法により、
図4に示される構成のテンプレート30が完成する。
【0050】
下地膜330及び単分子膜340の材料として、本実施形態とは別の材料を用いることとしてもよい。下地膜330は、基材300である石英への密着性を確保し、且つ、その上に自己組織化単分子膜を形成することを目的として設けられる。下地膜330の材料は、基材300への密着性や、形成すべき単分子膜340の材料、及び、光源40から発生られる光の透過性、のそれぞれを考慮しながら適宜選定することが好ましい。
【0051】
下地膜330は、本実施形態のように1層の金属膜であってもよいが、
図12に示される変形例のように2層の金属膜であってもよい。
図12の例では、先端面311の上を第1下地膜330Aが覆っており、第1下地膜330Aの上を第2下地膜330Bが更に覆っている。第1下地膜330Aは例えばCrを主成分とする膜であり、第2下地膜330Bは例えばAu又はTiを主成分とする膜である。第1下地膜330Aの材料は、この変形例のようにCr単体であってもよいが、Cr以外の成分を含んでいてもよい。同様に、第2下地膜330Bの材料は、この変形例のようにAu又はTi単体であってもよいが、Au又はTi以外の成分を含んでいてもよい。
【0052】
以上のように、単分子膜340の材料として有機硫黄分子を用いる場合には、下地膜330は、Ti、Cr、及びAuのうち少なくとも1つを含む膜であればよい。また、下地膜330の層数は、この変形例のように2層でもよいが、3層以上であってもよい。
【0053】
尚、下地膜330がTiを含む膜である場合には、エッチング工程においては、本実施形態と同様にCF系のガス種を用いたドライエッチングにより下地膜330を除去すればよい。また、下地膜330がCr及びAuからなる層を有する場合には、エッチング工程においては、塩素系のガス種を用いたドライエッチングによって当該層を除去すればよい。
【0054】
有機硫黄分子を含む単分子膜340が、フッ素を更に含んでいてもよい。具体的には、例えば1H,1H,2H,2H-perfluorodecanethiol等のフッ素化した有機硫黄分子で単分子膜340を形成してもよい。このような材料を用いることで、単分子膜340に対する被転写材料60の接触角を更に大きくすることができる。
【0055】
下地膜330を、本実施形態のような金属ではなく、金属酸化物により形成してもよい。金属酸化物としては、例えばAl2O3、TiO2、ZrO2、ZnO、及び、In2O3とSnO2の混合酸化物であるITOのうち、少なくとも1つを含むものを用いることができる。また、下地膜330は、上記のような金属酸化物そのものであってもよいが、金属酸化物以外の成分を含んでいてもよい。
【0056】
下地膜330を以上のような金属酸化物とした場合には、単分子膜340としてはホスホン酸からなる膜を用いることが好ましい。単分子膜340がホスホン酸以外の材料を含んでいてもよい。
【0057】
ホスホン酸を含む単分子膜340が、フッ素を更に含んでいてもよい。具体的には、例えばn-octadecylphosphonic acidなどアルキルホスホン酸や、1H,1H,2H,2H-perfluorooctanphosphonic acid 等のフッ素化したホスホン酸で単分子膜340を形成してもよい。このような材料を用いることで、単分子膜340に対する被転写材料60の接触角を更に大きくすることができる。
【0058】
下地膜330として上記いずれの材料を用いる場合であっても、下地膜330の厚さは、10nm以下の範囲で可能な限り薄くしておくことが好ましい。
【0059】
テンプレート30によるパターンの転写が繰り返し行われると、凸部310の先端にある単分子膜340は次第に消耗する。しかしながら、「自己組織化単分子膜」である単分子膜340は、比較的迅速に且つ容易に形成することができるので、消耗の度合いに応じて単分子膜340を適宜付け直せばよい。
【0060】
また、インプリント装置10を用いたパターン転写の際に、被転写材料60として単分子膜340の材料を含むものを用いれば、
図2(B)のようにパターンを転写する度に、被転写材料60に触れることによって単分子膜340が修復される。これにより、単分子膜340の付け直しを頻繁に行うことなく、テンプレート30の離型性を長期間に亘って維持することができる。
【0061】
以上、具体例を参照しつつ本実施形態について説明した。しかし、本開示はこれらの具体例に限定されるものではない。これら具体例に、当業者が適宜設計変更を加えたものも、本開示の特徴を備えている限り、本開示の範囲に包含される。前述した各具体例が備える各要素およびその配置、条件、形状などは、例示したものに限定されるわけではなく適宜変更することができる。前述した各具体例が備える各要素は、技術的な矛盾が生じない限り、適宜組み合わせを変えることができる。
【符号の説明】
【0062】
20:基板、30:テンプレート、310:凸部、311:先端面、330:下地膜、340:単分子膜、PA:転写領域。