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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024037457
(43)【公開日】2024-03-19
(54)【発明の名称】積層体および積層体の製造方法
(51)【国際特許分類】
   B32B 9/00 20060101AFI20240312BHJP
   B32B 27/30 20060101ALI20240312BHJP
   B32B 27/36 20060101ALI20240312BHJP
   C08J 7/06 20060101ALI20240312BHJP
   H01B 5/14 20060101ALI20240312BHJP
   H01B 13/00 20060101ALI20240312BHJP
【FI】
B32B9/00 A
B32B27/30 101
B32B27/36 102
C08J7/06 A CEV
C08J7/06 CFD
H01B5/14 Z
H01B13/00 503Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022142338
(22)【出願日】2022-09-07
【新規性喪失の例外の表示】新規性喪失の例外適用申請有り
(71)【出願人】
【識別番号】000002174
【氏名又は名称】積水化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000202
【氏名又は名称】弁理士法人新樹グローバル・アイピー
(72)【発明者】
【氏名】京極 実穂
(72)【発明者】
【氏名】長力 栄二
(72)【発明者】
【氏名】福井 佑
【テーマコード(参考)】
4F006
4F100
5G307
5G323
【Fターム(参考)】
4F006AA17
4F006AA36
4F006AB24
4F006AB72
4F006BA07
4F006CA00
4F100AD11B
4F100AK01B
4F100AK15A
4F100AK25B
4F100AK45A
4F100AL05B
4F100BA02
4F100BA07
4F100BA10A
4F100BA10B
4F100EH46B
4F100EJ86B
4F100JG03B
4F100JN01A
4F100YY00B
5G307GA02
5G307GB02
5G307GC02
5G323AA01
(57)【要約】
【課題】塩化ビニル樹脂またはポリカーボネートを含む基材を用いた場合における帯電防止性能を向上することが可能な積層体を提供すること。
【解決手段】
積層体1は、基材10と、帯電防止コート層11とを備える。基材10は、塩化ビニル系樹脂またはポリカーボネートを含む。帯電防止コート層11は、100重量%中に0.5重量%以上のカーボンナノチューブを含む。カーボンナノチューブが接触する交点の数が、単位面積あたり150個以上2000個以下存在する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
塩化ビニル系樹脂またはポリカーボネートを含む基材と、
前記基材上に配置された帯電防止層と、を備え、
前記帯電防止層は、100重量%中に0.5重量%以上のカーボンナノチューブを含み、
前記カーボンナノチューブが接触する交点の数が、単位面積あたり150個以上2000個以下存在する、
積層体。
【請求項2】
前記帯電防止層の厚みは、0.1μm以上3μm以下である、
請求項1に記載の積層体。
【請求項3】
前記帯電防止層中の非環状ケトンに対する環状ケトンの溶剤比率が10~30倍である請求項1または請求項2のいずれか1項に記載の積層体。
(測定条件)
基材上に成膜した導電コート層を削り、黒色粉末を採取し、採取した粉末1mgを加熱脱着ガスクロマトグラフ質量分析装置において、加熱条件160℃10分(20mL/min)、二次脱着350℃40分で測定。
He流量:1.5mL/min
イオン化電圧:70eV
MS測定範囲: 29~600amu
MS温度:イオン源230℃、インターフェイス250℃
【請求項4】
塩化ビニル系樹脂またはポリカーボネートを含む基材上に、非環状ケトンを含む分散媒、バインダーおよびカーボンナノチューブを含む組成物を塗布する工程と、
前記組成物を乾燥する工程と、を備えた、
積層体の製造方法。
【請求項5】
前記分散媒は、環状ケトンを更に含む、
請求項4に記載の積層体の製造方法。
【請求項6】
前記分散媒における前記非環状ケトンの重量%は、前記環状ケトンの重量%より大きい、
請求項5に記載の積層体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、帯電防止機能を有する積層体および積層体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、帯電防止プレートには、導電性粒子が用いられていた。
【0003】
導電性粒子を含む塗液を基材に塗布し、帯電防止層を形成後、延伸することで、所用の成形体にするのが一般的であるが、帯電防止層が延伸時に追従できず、帯電防止性能が低下していた。そのため、要求される帯電防止性能を発現できず、帯電防止プレートとして十分な抵抗値を発現し難い傾向にあった。
【0004】
そこで、導電性粒子の代わりに延伸に追従しやすいカーボンナノチューブ(以下、CNTと称す)を用いた帯電防止プレートが開発されている(例えば、特許文献1参照。)。特許文献1では、具体的には、アクリルプレートに対し、CNTとアクリル樹脂ペレットのバインダーをケトン系分散媒に溶かして塗布し帯電防止層を成形した実施例が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】国際公開第2022-030106号パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記特許文献1では、基材としてアクリルプレートが用いられているが、塩化ビニル系樹脂またはポリカーボネートを含む基材上にCNTを含有する導電性塗料を塗布し、帯電防止層を形成した場合、十分な帯電防止性能が得られないという課題があった。
【0007】
本開示は、塩化ビニル樹脂またはポリカーボネートを含む基材を用いた場合における帯電防止性能を向上することが可能な積層体および積層体の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
第1の開示にかかる積層体は、基材と、帯電防止層とを備える。基材は、塩化ビニル系樹脂またはポリカーボネートを含む。帯電防止層は、100重量%中に0.5重量%以上のカーボンナノチューブを含む。カーボンナノチューブが接触する交点の数が、250×170(μm)あたり150個以上2000個以下存在する。
【0009】
塩化ビニル系樹脂またはポリカーボネートを含む基材を用いた積層体であっても、カーボンナノチューブが接する交点の数が、単位面積あたり150個以上2000個以下存在する場合、抵抗値が小さくなり、帯電防止性能を確保することができる。
【0010】
第2の開示にかかる積層体は、第1の開示にかかる積層体であって、帯電防止層の厚みは、0.1μm以上3μm以下である。これにより、積層体の透明性を確保することができる。
【0011】
第3の開示にかかる積層体は、第1または第2の開示にかかる積層体であって、帯電防止層中の非環状ケトンに対する環状ケトンの溶剤比率が10~30倍である。
(測定条件)
基材上に成膜した導電コート層を削り、黒色粉末を採取し、採取した粉末1mgを加熱脱着ガスクロマトグラフ質量分析装置において、加熱条件160℃10分(20mL/min)、二次脱着350℃40分で測定。
He流量:1.5mL/min
イオン化電圧:70eV
MS測定範囲: 29~600amu
MS温度:イオン源230℃、インターフェイス250℃
【0012】
第4の開示にかかる積層体の製造方法は、塩化ビニル系樹脂またはポリカーボネートを含む基材上に、非環状ケトンを含む分散媒、バインダーおよびカーボンナノチューブを含む組成物を塗布する工程と、帯電防止層を乾燥する工程と、を備える。
【0013】
このように、カーボンナノチューブを分散させる非環状ケトンを含む分散媒を基材上に塗布することによって、カーボンナノチューブが凝集せずに分散するため、塩化ビニル系樹脂またはポリカーボネートを含む基材を用いた積層体における帯電防止性能を向上することができる。
【0014】
第5の開示にかかる積層体の製造方法は、第4の開示にかかる積層体の製造方法であって、分散媒は、環状ケトンを更に含む。
【0015】
このように、第5の開示の積層体の製造方法によれば、カーボンナノチューブを分散させる液体に環状ケトンを含めることによって、ポリカーボネート基材のヘーズ値が上昇することを抑制できる。これは、基材上に塗布する組成物中の非環状ケトン配合率が大きくなると、ポリカーボネート基材の耐溶剤性が低いことにより、塗装後のヘーズ値が高くなり、透明性が失われるためである。アクリルや塩化ビニルによって形成された基材においても、同様の現象が確認されるが、特にポリカーボネートを基材として用いた場合に透明性が低下し易く、非環状ケトンの配合が重要となる。
【0016】
また、第5の開示の積層体の製造方法によれば、基材上に塗布する組成物の揮発を抑えることができる。非環状ケトンのみでは沸点が低く揮発しやすいため、量産スケールでは塗装中に乾燥し、外観および性能不良を引き起こす場合がある。このため、乾燥速度を制御するために組成物中に環状ケトンを配合する方が好ましい。
【0017】
上述したように非環状ケトンのみでは揮発が早いために、塗膜の平滑性(レベリング性)が発現する前に乾燥し、表面に凹凸が残存し、外観不良が生じる場合がある。そのため、乾燥速度を制御し、レベリング性を確保するために、組成物中に環状ケトンを配合する方が好ましい。
【0018】
上記より、カーボンナノチューブが凝集しない程度に環状ケトンを配合する方が好ましい。
【0019】
第6の開示にかかる積層体の製造方法は、第4の開示にかかる積層体の製造方法であって、分散媒における非環状ケトンの重量%は、環状ケトンの重量%よりも大きい。
【発明の効果】
【0020】
本開示によれば、塩化ビニル樹脂またはポリカーボネートを含む基材を用いた場合における帯電防止性能を向上することが可能な積層体および積層体の製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1】本開示にかかる実施の形態の積層体を示す斜視図。
図2】(a)本開示にかかる実施の形態の積層体について帯電防止性能の評価を行う際のサンプルの切り出しを説明するための図、(b)サンプルを試料台に固定した状態を示す平面図、(c)サンプルを試料台に固定した状態を示す正面図、(d)サンプルを試料台に固定した状態を示す側面図。
図3】(a)~(e)本開示にかかる実施の形態の積層体の帯電防止コート層についてSEM画像を解析してカーボンナノチューブの交点の数を求める手順を説明するための図。
図4】本開示にかかる実施例のサンプルの作成方法を説明するための図。
図5】(a)本開示にかかる実施例のサンプルの延伸前の状態を示す図、(b)本開示にかかる実施例のサンプルの延伸後の状態を示す図。
図6】実施例1~4および比較例1~3において表面抵抗値に対してCNTの交差点数をプロットしたグラフを示す図。
図7】実施例5~7において表面抵抗値に対してCNTの交差点数をプロットしたグラフを示す図。
図8】(a)実施例1~4および比較例1~3においてケトン系分散媒における環状ケトンの配合比率に対してCNT交差点数をプロットしたグラフを示す図、(b)実施例1~4および比較例1~3においてケトン系分散媒における環状ケトンの配合比率に対して表面抵抗値をプロットしたグラフを示す図。
図9】(a)実施例5~7においてケトン系分散媒における環状ケトンの配合比率に対してCNT交差点数をプロットしたグラフを示す図、(b)実施例5~7においてケトン系分散媒における環状ケトンの配合比率に対して表面抵抗率をプロットしたグラフを示す図。
図10】実施例2~4および比較例1~3においてケトン系液体における環状ケトンの配合比率に対するヘーズ値をプロットしたグラフを示す図。
図11】実施例5~7においてケトン系液体における環状ケトンの配合比率に対するヘーズ値をプロットしたグラフを示す図。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本開示にかかる実施の形態の積層体および積層体の製造方法について説明する。
【0023】
本願発明者らは、塩化ビニルまたはポリカーボネートを含む基材を用いた場合、塗料中に含まれる環状ケトンを含む分散媒により塩化ビニルまたはポリカーボネートを含む基材の成分が溶出し、その溶出した成分がCNT周囲の分散剤を脱離させることによりCNTが凝集し、帯電防止性が不足すると考え、非環状ケトンを含む分散媒を用いることによって、十分な帯電性能が得られることを見出した。
【0024】
非環状ケトンを含む分散媒に環状ケトンを加えることによって、以下の効果を発揮できるとことを更に見出した。ポリカーボネート基材のヘーズ値が上昇することを抑制可能な効果を発揮できる。これは、基材上に塗布する組成物中の非環状ケトン配合率が大きくなると、ポリカーボネート基材の耐溶剤性が低いことにより、塗装後のヘーズ値が高くなり、透明性が失われるためである。アクリルや塩化ビニルによって形成された基材においても、同様の現象が確認されるが、特にポリカーボネートを基材として用いた場合に透明性が低下し易く、非環状ケトンの配合が重要となる。
【0025】
また、基材上に塗布する組成物の揮発を抑える効果を発揮できる。非環状ケトンのみでは沸点が低く揮発しやすいため、量産スケールでは塗装中に乾燥し、外観および性能不良を引き起こす場合がある。このため、乾燥速度を制御するために組成物中に環状ケトンを配合する方が好ましい。
【0026】
また、レベリング性を確保可能な効果を発揮できる。上述したように非環状ケトンのみでは揮発が早いために、塗膜の平滑性(レベリング性)が発現する前に乾燥し、表面に凹凸が残存し、外観不良が生じる場合がある。そのため、組成物中に環状ケトンを加えることにより、乾燥速度を制御し、レベリング性を確保するために、上記分散媒中に環状ケトンを配合する方が好ましい。
【0027】
以下に、本開示にかかる積層体1について説明する。
【0028】
(積層体1の概要)
積層体1は、制電性を有し、帯電防止プレートとして用いられる。また、積層体1は、熱成形を行うことによって二次加工品に形成される。
【0029】
図1は、積層体1の斜視図である。積層体1は、基材10と、その両面に形成された帯電防止コート層11(帯電防止層の一例)と、を有している。
【0030】
基材10は、塩化ビニル系樹脂またはポリカーボネートによって形成されている。なお、基材10は、塩化ビニル系樹脂またはポリカーボネートを主成分として含んでいればよく、他に別の熱硬化性樹脂、熱可塑性樹脂等を含んでいてもよい。主成分として含むとは、50重量%以上含むことである。
【0031】
基材10の厚みは、0.3mm以上15mm以下に設定する方が好ましい。なお、基材10の厚みを0.3mmよりも薄くした場合、延伸して成形した際に、薄くなり過ぎるため強度を担保できない場合がある。また、基材10の厚みを15mmよりも大きくした場合、基材10が厚いために想定している形に成形できない可能性と、加熱に余計に時間を要し、塗膜の性能悪化につながる可能性がある。
【0032】
帯電防止コート層11は、カーボンナノチューブと、バインダーとしての熱可塑性樹脂と、を有している。帯電防止コート層11において、カーボンナノチューブが接触または導通可能な微小間隔で分散されているため、静電気を逃がして帯電を防止することができる。
【0033】
熱可塑性樹脂としては、例えば、ポリプロピレンなどのオレフィン系樹脂、ポリ塩化ビニル、ポリメチルメタクリレート、ポリスチレン、ポリカーボネート、ポリエチレンテレフタレート、芳香族ポリエステルなどのエステル系樹脂、ABS樹脂、これら樹脂それぞれの共重合体樹脂が好適に使用される。なお、帯電防止コート層11における熱可塑性樹脂は基材10と異なる種類の樹脂を用いてもよいし、同じ種類の樹脂を用いてもよい。
【0034】
透明性と成形性を維持するために、非晶性の熱可塑性樹脂が好適に用いられる。特に透明性の高いアクリル系の樹脂の場合では、アクリル樹脂の分子量や他の樹脂との共重合樹脂であるかどうかによって、延伸後の透明性が大きく異なる。分子量の違いでは、低分子量のアクリル樹脂を用いた系の方が高分子量のアクリル樹脂を用いた系よりも、延伸後の透明性、特にヘーズ値を低く維持することが出来る。これは、カーボンナノチューブとの相溶性に関わると考えられる。高分子量の樹脂だと分子鎖が長く、カーボンナノチューブと相溶しにくいが、低分子量の樹脂だとカーボンナノチューブと相溶性が良いため、透明性が維持されると考えられる。
【0035】
また、アクリル樹脂とその他の樹脂成分との共重合樹脂を用いた系では、更に透明性が向上することがわかっている。これも、上記の理由同様に、相溶性が向上したことが要因だと考えられる。その他の樹脂としては、一例としてスチレン樹脂を用いることができる。
【0036】
塗膜のバインダー樹脂選定においては、透明性やカーボンナノチューブとの相性も重要であるが、実際の使用環境を想定し、少なくとも清掃で用いられる程度の耐薬品性があると好ましい。
【0037】
本実施の形態のカーボンナノチューブには、単層のカーボンナノチューブが用いられる。カーボンナノチューブは、ベンゼン環が並んだシートを巻いて円筒状にしたような構造である。単層のカーボンナノチューブは、円筒が1層で構成されている。
【0038】
カーボンナノチューブの単位重量当たりの比表面積は、350m/g以上である。比表面積は、さらに1500m/g以上が好ましい。ここで、比表面積は、カーボンナノチューブを円筒とみなして、次式1を用いて、計算上の値であるが、円筒の長さと直径と密度から求めることができる。
(式1)
単層カーボンナノチューブの直径は、0.5nm以上、6nm以下に設定する方が好ましく、1.5nm以上、4nm以下がより好ましい。また、単層カーボンナノチューブの長さは3μm以上、20μm以下に設定する方が好ましく、5μm以上、10μm以下がより好ましい。
【0039】
カーボンナノチューブのアスペクト比(長さ/直径)は、2000以上が好ましく、3000以上がより好ましい。アスペクト比が大きくなると延伸した際にカーボンナノチューブ間の接点を維持できる可能性が高くなると考えられる。そのため、よりアスペクト比の大きいカーボンナノチューブを使用することが望ましく、高い導電性を期待できる。
【0040】
単層カーボンナノチューブは、比表面積が大きいほど導電性が大きくなる。単層であると重量当たりの比表面積が大きくなるため、少ない含有量で高い導電性を発現することができる。
【0041】
帯電防止コート層11におけるカーボンナノチューブの含有量は、0.5重量%以上、10重量%以下に設定する方が好ましい。カーボンナノチューブの含有量が下限値である0.5重量%より小さくなると、積層体1の表面抵抗率が大きくなり、制電性能を失い、上限値である10重量%よりも大きくなると透明性が低下するためである。また、上記含有量は、0.75重量%以上、7重量%以下が好ましく、1重量%以上、5重量%以下がより好ましい。
【0042】
帯電防止コート層11の厚みは、0.1μm以上、3μm以下が好ましく、さらに0.2μm以上、2μmが好ましく、0.3μm以上、1μm以下がより好ましい。
【0043】
なお、積層体1を加熱して、曲げ成形、プレス成形、真空成形、圧空成形、ブロー成形、または型押し成形などを行うことにより、二次加工品を成形することができる。
【0044】
また、本開示の積層体1については上述した透明性も重要な項目であり、透明性は全光線透過率とヘーズで表される。全光線透過率に関しては、成形前に80%以上が好ましく、85%以上がより好ましい。3倍延伸時も同様に、80%以上が好ましく、85%以上がより好ましい。延伸させると塗膜が薄膜化するために、一般的に延伸後は延伸前と比較して、全光線透過率は高くなると考えられる。
【0045】
ヘーズ値に関しては、成形前に10%以下が好ましく、8%以下がより好ましい。3倍成形後は20%以下が好ましく、10%以下がより好ましい。延伸させると塗膜中にカーボンナノチューブとバインダー樹脂間の界面剥離や、カーボンナノチューブの凝集部位が顕著に表れることにより、内部ヘーズが生じ、延伸後のヘーズ値が高くなる傾向が得られている。
【0046】
本開示の積層体1では、帯電防止コート層11における250×170(μm)当たりにカーボンナノチューブ同士が接触する交点の数が150個以上1700個以下存在する。交点の数は、走査電子顕微鏡(SEM)の画像を解析することによって得ることができる。この解析については、以下の評価方法について詳述する。本実施形態の250×170(μm)が、単位面積の一例に対応する。
【0047】
(積層体の製造方法)
次に、積層体1の製造方法について説明する。
【0048】
塩化ビニル系樹脂またはポリカーボネートを含む基材10を準備する。
【0049】
カーボンナノチューブ、分散媒およびバインダーを含む組成物を用意する。分散媒は、カーボンナノチューブの分散媒として用いられる。分散媒は、非環状ケトンを含む。本実施形態では、非環状ケトンは、例えば直鎖状ケトンである。直鎖状ケトンとしては、具体的には、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、ジイソブチルケトン、メチルイソプロピルケトン、ジアセトンアルコール、アセトフェノン、2-ヘプタノン、2-ヘキサノン、2-ノナノン、または6-メチル-5-ヘプテン-2-オンを用いることができる。
【0050】
分散媒は、非環状ケトンに加えて環状ケトンを含んでもよい。環状ケトンとしては、シクロペンタノン、シクロヘキサノン、シクロヘプタノン、またはメチルシクロヘキサノンを用いることができる。
【0051】
乾燥後に導電コート層中に含まれる溶剤比率(非環状ケトンに対する環状ケトンの量)の好ましい範囲は下記の通りである。PVCプレート基材上に成膜した導電コート層を削り、黒色粉末を採取し、採取した粉末1mgを加熱脱着ガスクロマトグラフ質量分析装置において、次の条件にて測定した場合、環状ケトンが非環状ケトンの10~30倍の量で検出されるような溶剤比率であればよく、15~25倍が好ましい。
【0052】
熱脱着装置はTurboMatrix 350(PerkinElmer製)、を使用し、加熱条件160℃10分(20mL/min)、二次脱着350℃40分の条件で測定した。また、GC-MS装置はJMS-Q1500GCQ、カラムはSLB-5ms(微極性)0.25mmΦ×30m×0.25μmを使用し、He流量1.5mL/min、イオン化電圧70eV、MS測定範囲 29~600amu、MS温度はイオン源230℃、インターフェイス250℃で測定した。
【0053】
次に、基材10上に組成物を塗布する。
【0054】
次に、基材10上に塗布した組成物を硬化して乾燥させる。
【0055】
以上の手順により、積層体1を製造することができる。
【0056】
(評価方法)
次に、作成した積層体1の帯電防止性能の評価方法について説明する。
【0057】
具体的には、図2(a)に示すように、積層体1から超音波カッターによって積層方向に沿ってサンプルSを切り出し、サンプルSの端面Eをミクロトームで整えて、試料台BにカーボンテープTで固定する。図2(b)は、サンプルSをカーボンテープTで試料台Bに固定した状態を示す平面図である。図2(c)は、サンプルSをカーボンテープTで試料台Bに固定した状態を示す正面図である。図2(d)は、サンプルSをカーボンテープTで試料台Bに固定した状態を示す側面図である。
【0058】
そして、固定したサンプルについて導電処理を行わずにFE-SEMによる観察を実施する。なお、サンプルの端面をカーボンテープで固定することによって、帯電防止コート層11内部のCNT導電パスを可視化することができる。
【0059】
図3(a)~(e)は、SEM画像を解析してカーボンナノチューブの交点の数を求める手順を説明するための図である。
【0060】
図3(a)は、上述したサンプルのSEM画像である。図3(a)のSEM画像は、以下の条件となっている。
画素数:横1290以上2560以下×縦960以上1920以下
倍率:5000倍
また、解析ソフトとしてImageJを用いて交点の数を求める解析を行った。
【0061】
SEM画像に対して黒と白の二値化処理が行われる。図3(b)は、二値化処理した画像を示す図である。白の部分がカーボンナノチューブを示している。
【0062】
次に、二値化処理した画像に細線化処理が行われる。図3(c)は、細線化処理した画像を示す図である。線を細くすることによってカーボンナノチューブの交点を明確化することができる。
【0063】
次に、細線化処理した画像に対して枝打ち処理が行われる。図3(d)は、枝打ち処理した画像を示す図である。枝打ち処理は、細線化した領域において、終点を削除する処理である。枝打ち処理は、終点を交点と認識しないようにするための処理である。また、枝は終点を持っているが、終点に向かう枝との交点は導電性のネットワークに寄与しないと考えられるため、枝打ち処理において、枝が削除される。例えば、図3(c)では、点線囲まれている枝が示されているが、図3(d)では削除されている。
【0064】
次に、枝打ち処理された画像に対して、カーボンナノチューブの交差点を集計する。図3(e)は、枝打ち処理された図3(d)の画像を、元の画像である図3(a)に重ねた画像である。
【0065】
後述する実施例のように、交点の数が多い方、抵抗値が小さくなり、帯電防止性能が高くなる。このため、集計したカーボンナノチューブの交点の数が、250×170(μm)当たりに150個以上1700個以下存在する場合、所望の抵抗値であることがわかり、十分な帯電防止性能を発揮できると評価できる。
【0066】
(他の実施形態)
以上、本発明の一実施形態について説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、発明の要旨を逸脱しない範囲で種々の変更が可能である。
【0067】
(A)
上記実施の形態1、2では、基材10の両面に帯電防止コート層11を形成したが、片面だけに形成してもよい。
【0068】
(B)
上記実施の形態の積層体1は、プレート状に形成されているが、これに限られるものではなく、棒状、管状などであってもよい。
【0069】
(C)
上記実施の形態1では単層のカーボンナノチューブを用いると記載したが、複数層のカーボンナノチューブを用いてもよい。更に、1つの帯電防止コート層11に単層のカーボンナノチューブと複数層のカーボンナノチューブが混在していてもよい。
【0070】
また、単層のカーボンナノチューブと複数層のカーボンナノチューブを合わせたカーボンナノチューブの帯電防止コート層11における含有量は、0.5重量%以上、10重量%以下に設定する方が好ましい。基材10は、0.3mm以上15mm以下に設定する方が好ましい。帯電防止コート層11の厚みは、0.1μm以上、3μm以下に設定する方が好ましい。
【0071】
(D)
上記実施の形態1、2では、帯電防止コート層11に2次成形の延伸時に積層体の2次成形を容易にし、塗膜を追従しやすくする為に、熱可塑性樹脂が用いられているが、熱可塑性樹脂にかぎらなくてもよく、2次成形可能であり、塗膜が延伸に追従し、破損しない場合であれば熱硬化性樹脂を用いてもよい。
【0072】
(実施例)
以下に、本開示の積層体について実施例を用いて説明する。
【0073】
本開示では、帯電防止コート層11の膜厚、基材10の材料、帯電防止コート層11を作成する際のケトン系の分散媒を変化させた各々の実施例および比較例において、未延伸おける表面抵抗値、3倍延伸させた場合の表面抵抗値、未延伸状態における全光線の遮蔽率、ヘーズ、および交差点数の評価を行った。
【0074】
各サンプルの作成方法について説明する。
【0075】
(1)ケトン系の分散媒に樹脂ペレットを規定量、溶解させる。
【0076】
(2)樹脂ペレット溶解液にカーボンナノチューブ分散液を添加し、配合する。
【0077】
(3)基材10上端に配合した塗料Pを垂らす。
【0078】
(4)図4に示すようにバーコーターBの両端を強く基材10に押し付け、ゆっくり手前(矢印参照)に引く。図4では、基材10、塗料P、およびバーコーターBが図示されている。
【0079】
(5)塗布した基材を45℃ 5分間 オーブンで加熱する。
【0080】
(6)塗膜硬化後、未延伸状態での表面抵抗値、3倍延伸させた場合の表面抵抗値、全光線透過率、ヘーズ、交差点数の測定を行う。

測定機器および測定方法
表面抵抗率測定:Hiresta-UX MCP-HT800(三菱ケミカルアナリティック株式会社)
全光線遮蔽率測定およびヘーズ値:ヘーズメーター NDH 500(日本電色工業株式会社)
膜厚測定には、膜厚測定計FE-300(大塚電子株式会社)を用いた。
【0081】
作成された積層体のサンプルを一方向に3倍に延伸させた。図5(a)は、延伸前のサンプルを示す図である。図5(a)に示すように、作成された積層体が、対向する辺cの中央近傍に切り欠きdを設けたサンプルSの形状にカットされる。この切り欠きdの辺cに沿った長さをLとすると、3倍に延伸させる場合、図5(b)に示すようにLが3Lになるまで一方向(辺cに沿った矢印方向)に積層体が延伸される。
【0082】
カーボンナノチューブの交差点数については、実施形態で述べた手順で行った。

(実施例1)
基材:厚さ3mm、全光線透過率86.20%、ヘーズ1.11%のポリ塩化ビニルプレート
ケトン系分散媒:非環状ケトン
熱可塑性バインダー樹脂:アクリル系樹脂
カーボンナノチューブ:比表面積1700m/gの単層CNT:平均線径1.6nm、平均長さ5μm、 アスペクト比 3125
帯電防止コート層11:膜厚0.6μm、全光線透過率2.5%、ヘーズ0.8%
実施例2~4および比較例1~5は実施例1と同様で表1に記載の要件を変えて作成した。

(実施例5)
基材:厚さ3mm、全光線透過率88.64%、ヘーズ0.25%のポリカーボネートプレート
ケトン系分散媒:非環状ケトン
熱可塑性バインダー樹脂:アクリル系樹脂
カーボンナノチューブ:比表面積1700m/gの単層CNT:平均線径1.6nm、平均長さ5μm、 アスペクト比 3125
帯電防止コート層11:膜厚0.7μm、全光線透過率1.5%、ヘーズ5.0%
実施例6~7は実施例5と同様で表1に記載の要件を変えて作成した。

(比較例6)
基材:厚さ3mm、全光線透過率86.20%、ヘーズ1.11%のポリ塩化ビニルプレート
ケトン系分散媒:非環状ケトン
熱可塑性バインダー樹脂:アクリル系樹脂
導電性粒子:金属微粒子
帯電防止コート層11:膜厚1.0μm、全光線透過率3.1%、ヘーズ1.5%
比較例7は比較例6と同様で表1に記載の要件を変えて作成した。
(表1)
【0083】
上記のように基材10にPVC(ポリ塩化ビニル)を用いた実施例1~4および比較例1~3のデータから、未延伸状態の表面抵抗値に対するCNTの交差点数をプロットしたグラフを図6に示す。図6に示すように表面抵抗値とCNT交差点数の間には、交差点数が多くなると、表面抵抗値が小さくなるような線形関係がある。
【0084】
上記のように基材10にPC(ポリカーボネート)を用いた実施例5~7のデータから、未延伸状態の表面抵抗値に対するCNTの交差点数をプロットしたグラフを図7に示す。図7に示すように表面抵抗値とCNT交差点数の間には、交差点数が多くなると、表面抵抗値が小さくなるような線形関係がある。
【0085】
このためCNT交差点数を求めることによって、表面抵抗値を計測しなくても、その積層体が適切な表面抵抗値を有しているか否かの評価を行うことができる。本実施形態では、未延伸状態の表面抵抗値が10 [Ω/□]以上 108 [Ω/□]以下が好ましく、また、3倍延伸させた場合の表面抵抗値が10 [Ω/□]以上108 [Ω/□]以下が好ましいため、交差点数は150個以上2000個以下を望ましい範囲に設定することができる。
【0086】
上記実施例1~4および比較例1~3のデータから、ケトン系分散媒における環状ケトンの配合比率に対するCNT交差点数をプロットしたグラフを図8(a)に示す。上記実施例1~4および比較例1~3のデータから、ケトン系分散媒における環状ケトンの配合比率に対する表面抵抗率をプロットしたグラフを図8(b)に示す。図8(a)および図8(b)に示すように、PVCを基材10に用いた場合、環状ケトンの割合が少ない程CNT交差点数が増加し表面抵抗値も小さくなる関係がある。
【0087】
上記実施例5~7のデータから、ケトン系分散媒における環状ケトンの配合比率に対するCNT交差点数をプロットしたグラフを図9(a)に示す。上記実施例5~7のデータから、ケトン系分散媒における環状ケトンの配合比率に対する表面抵抗率をプロットしたグラフを図9(b)に示す。図9(a)および図9(b)に示すように、PCを基材10に用いた場合、環状ケトンの割合を変化させてもCNT交差点数および表面抵抗率はあまり変化しない。
【0088】
上記実施例2~4および比較例1~3のデータから、ケトン系分散媒における環状ケトンの配合比率に対するヘーズ値をプロットしたグラフを図10に示す。図10に示すように、PVCを基材10に用いた場合、環状ケトンの比率は、ヘーズ値にあまり影響を与えないことがわかる。なお、例えば、比較例5に示すように、帯電防止コート層11の膜厚が大きくなると光線遮蔽率が大きくなり、ヘーズ値も高くなるため、図10では、一定の膜厚(0.7μm)の実施例および比較例を用いてグラフを示した。
【0089】
上記実施例5~7のデータから、分散媒における環状ケトンの配合比率に対するヘーズ値をプロットしたグラフを図11に示す。図11に示すように、PCを基材10に用いた場合、非環状ケトンの割合が増加すると、ヘーズ値が高くなることがわかる。
【0090】
このため、特にPCを基材10に用いた場合に、非環状ケトンを含む分散媒に環状ケトンを加えることによってヘーズ値の上昇を抑えることができることがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0091】
本開示の積層体および積層体の製造方法によれば、塩化ビニル樹脂またはポリカーボネートを含む基材を用いた場合における帯電防止性能を向上することが可能効果を有し、半導体の製造に用いられるクリーンルームなどの装置カバーや仕切り板などとして有用である。
【符号の説明】
【0092】
1 積層体
10 基材
11 帯電防止コート層(制電層)
P 帯電防止塗料
図1
図2
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図11