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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024037467
(43)【公開日】2024-03-19
(54)【発明の名称】酸化膜の膜質評価方法
(51)【国際特許分類】
   H01L 21/66 20060101AFI20240312BHJP
【FI】
H01L21/66 Q
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022142355
(22)【出願日】2022-09-07
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り ECS Journal of Solid State Science and Technology 2022,Volume 11,Number 8 https://iopscience.iop.org/article/10.1149/2162-8777/ac8a70
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)令和3年度、文部科学省、科学技術試験研究委託事業、「革新的パワーエレクトロニクス創出基盤技術研究開発事業(パワーデバイス領域)」委託研究、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(71)【出願人】
【識別番号】301023238
【氏名又は名称】国立研究開発法人物質・材料研究機構
(72)【発明者】
【氏名】色川 芳宏
(72)【発明者】
【氏名】生田目 俊秀
【テーマコード(参考)】
4M106
【Fターム(参考)】
4M106AA13
4M106CA11
4M106CA12
4M106DH44
(57)【要約】      (修正有)
【課題】実デバイスでの適用条件と同じ条件で堆積形成された酸化膜の酸素欠損を評価及び測定する酸化膜の膜質評価方法を提供する。
【解決手段】方法は、導電体層16、半導体層12、被測定酸化膜14及び水素触媒金属又は水素触媒合金からなる導電膜15が順次積層された試料101を準備して、水素雰囲気下で導電体層16と導電体膜15間のC-V測定あるいはバイアス0V等での電気容量を測定することにより、被測定酸化膜14の膜質、特にその膜の酸素欠損を評価する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
導電体層、半導体層、被測定酸化膜、および水素触媒金属または水素触媒合金からなる導電膜が順次積層された試料を準備することと、
水素雰囲気下で、前記導電体層と、前記導電体膜間の電気容量を測定することを有する、酸化膜の膜質評価方法。
【請求項2】
前記水素雰囲気の体積濃度は、100ppm以上100%以下である、請求項1記載の酸化膜の膜質評価方法。
【請求項3】
前記水素雰囲気の水素分圧は、1kPa以上10気圧以下である、請求項1または2に記載の酸化膜の膜質評価方法。
【請求項4】
前記導電膜は、白金、パラジウム、イリジウム、ルテニウムおよびニッケルからなる群より選ばれる1以上の金属を含む、請求項1から3の何れか一項に記載の酸化膜の膜質評価方法。
【請求項5】
前記導電膜の厚さは5nm以上1μm以下である、請求項1から4の何れか一項に記載の酸化膜の膜質評価方法。
【請求項6】
前記半導体層は、GaN、Si、GaAlN、GaAs、ZnO、SiCおよびGaからなる群より選ばれる1以上からなる、請求項1から5の何れか一項に記載の酸化膜の膜質評価方法。
【請求項7】
前記半導体層の厚さは100nm以上1mm以下である、請求項1から6の何れか一項に記載の酸化膜の膜質評価方法。
【請求項8】
前記被測定酸化膜の厚さは0.1nm以上1μm以下である、請求項1から7の何れか一項に記載の酸化膜の膜質評価方法。
【請求項9】
前記被測定酸化膜に対して電場を印加する、請求項1から8の何れか一項に記載の酸化膜の膜質評価方法。
【請求項10】
前記導電体層と、前記導電体膜間にバイアス電圧を印加する、請求項1から8の何れか一項に記載の酸化膜の膜質評価方法。
【請求項11】
前記バイアスは、-20V以上10V以下である、請求項10記載の酸化膜の膜質評価方法。
【請求項12】
前記容量測定は、23℃以上200℃以下の温度環境で行われる、請求項1から11の何れか一項に記載の酸化膜の膜質評価方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は酸化膜の膜質評価方法に関する。ここで、本発明における酸化膜の膜質評価とは、酸化膜の酸素欠損量を測定し、その多さを膜質として評価することを意味する。
【背景技術】
【0002】
MOSFET等の半導体素子において、ゲート絶縁膜をはじめとする酸化膜の膜質は、デバイス性能や信頼性に直結するため極めて重要であり、例えば特許文献1および2に開示されているように酸化膜の膜質を評価する種々の方法が公開されている。
しかしながら、酸化膜の膜質の中でも酸素欠損を評価することは難しい。酸化膜の酸素欠損に関しては、非特許文献1に開示があるように、酸化膜を厚く堆積してフォトルミネッセンス法などの光学的手法等によって酸化膜の膜質を評価する報告があるが、必要な測定感度を得るために酸化膜を非常に厚く堆積しなければならない。このため、実デバイスと異なった条件での評価になり、測定の信頼性に問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平10-303264号公報
【特許文献2】特開2006-332690号公報
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】Jie Ni,Qin Zhou,Zhengcao Li,and Zhengjun Zhang,Appl.Phys.Lett.,93,011905(2008)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明が解決しようとしている課題は、実デバイスでの適用条件と同じ条件で堆積形成された酸化膜の酸素欠損も評価、測定できる方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の構成を下記に示す。
(構成1)
導電体層、半導体層、被測定酸化膜、および水素触媒金属または水素触媒合金からなる導電膜が順次積層された試料を準備することと、
水素雰囲気下で、前記導電体層と、前記導電体膜間の電気容量を測定することを有する、酸化膜の膜質評価方法。
(構成2)
前記水素雰囲気の体積濃度は、100ppm以上100%以下である、構成1記載の酸化膜の膜質評価方法。
(構成3)
前記水素雰囲気の水素分圧は、1kPa以上10気圧以下である、構成1または2に記載の酸化膜の膜質評価方法。
(構成4)
前記導電膜は、白金、パラジウム、イリジウム、ルテニウムおよびニッケルからなる群より選ばれる1以上の金属を含む、構成1から3の何れか一項に記載の酸化膜の膜質評価方法。
(構成5)
前記導電膜の厚さは5nm以上1μm以下である、構成1から4の何れか一項に記載の酸化膜の膜質評価方法。
(構成6)
前記半導体層は、GaN、Si、GaAlN、GaAs、ZnO、SiCおよびGaからなる群より選ばれる1以上からなる、構成1から5の何れか一項に記載の酸化膜の膜質評価方法。
(構成7)
前記半導体層の厚さは100nm以上1mm以下である、構成1から6の何れか一項に記載の酸化膜の膜質評価方法。
(構成8)
前記被測定酸化膜の厚さは0.1nm以上1μm以下である、構成1から7の何れか一項に記載の酸化膜の膜質評価方法。
(構成9)
前記被測定酸化膜に対して電場を印加する、構成1から8の何れか一項に記載の酸化膜の膜質評価方法。
(構成10)
前記導電体層と、前記導電体膜間にバイアス電圧を印加する、構成1から8の何れか一項に記載の酸化膜の膜質評価方法。
(構成11)
前記バイアスは、-20V以上10V以下である、構成10記載の酸化膜の膜質評価方法。
(構成12)
前記容量測定は、23℃以上200℃以下の温度環境で行われる、構成1から11の何れか一項に記載の酸化膜の膜質評価方法。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、実デバイスでの適用条件と同じ条件で堆積形成された酸化膜の酸素欠損も評価、測定できる方法が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】試料101の構成を示す断面構造図である。
図2】HfO2-δ膜のC-V特性のバイアス開始電圧依存性を示す特性図である。
図3】試料101のC-V特性を示す特性図である。
図4】試料101の応答特性を示す特性図である。
図5】バイアス0Vにおける電気容量の被測定酸化膜依存性を示す特性図である。
図6】膜中相対電荷密度の被測定酸化膜依存性を示す特性図である。
図7】試料101の回復特性(イニシャライズ特性)を示す特性図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下本発明を実施するための形態について図面を参照しながら説明する。
【0010】
<実施の形態1>
実施の形態1では、本発明の構成と測定原理について説明する。
【0011】
<試料構造と測定法>
実施の形態1では、図1に示す導電体層16、半導体基板11および半導体層12からなる半導体層13、被測定酸化膜14、および導電体膜15が順次積層された構造の試料101を用い、試料101を水素ガス環境下でC-V測定、あるいはバイアス0V等での電気容量の測定を行って、被測定酸化膜14の膜質、特にその膜の酸素欠損を評価する。
ここで、導電体層16は必須ではなく、半導体基板11が高濃度のドーパントなどにより電気抵抗が低い場合は、半導体基板11を導電体層16の代わりに用いることができる。また、半導体層13も必ずしも半導体基板11および半導体層12からなる必要はなく半導体層12のみで構成することもできる。
【0012】
被測定酸化膜14は特に限定はなく、その厚さも0.1nm以上1μm以下が許容される。被測定酸化膜14は、実デバイスでの適用条件と同じ条件で堆積形成された酸化膜であってよい。
なお、被測定酸化膜14の厚さがこの範囲にあると、後で述べる導電膜15によって水素ガスから触媒作用で生成される水素原子が被測定酸化膜14の酸素欠損部分に十分にトラップされ、膜質評価を十分なスピードと感度で実施することが可能になるとともに、初期状態にリセットするときの回復時間も許容できるものになる。
【0013】
被測定酸化膜14は半導体層13に接して形成されていることが好ましい。これは、後述の被測定酸化膜14の酸素欠損部にトラップされた原子状水素による電荷の虚像を十分に半導体層13に形成できるためである。
【0014】
導電体膜15は、水素触媒金属または水素触媒合金からなる導電性を有する膜で、環境の水素ガスを触媒作用により原子状水素に変える機能と、発生した原子状水素を導電体膜15に一旦吸蔵させ、拡散により被測定酸化膜14に原子状水素を供給する機能を有する。
【0015】
導電体膜15の具体的な金属としては、Pt(白金)、パラジウム(Pd)、イリジウム(Ir)、ルテニウム(Ru)およびNi(ニッケル)を挙げることができ、これらの金属を単独で使用しても、複合して使用してもよい。ここで、複合とは、場所を分けて複合使用する、積層使用する、および合金として使用することからなる群から選ばれる1つ以上を意味する。また、導電体膜15の具体的な合金としては、LaNi、ReNi、MgNi、MgNi、CeNiを挙げることができる。
導電体膜15は、発生させた原子状水素を効率的に被測定酸化膜14に供給するため、被測定酸化膜14と直接接していることが好ましい。
導電体膜15の厚さは、原子状水素の効率的発生、吸蔵および被測定酸化膜14への拡散供給の機能確保の観点から、5nm以上1μm以下が好ましい。
導電体膜15の形成方法としては、熱および電子線蒸着法、スパッタリング法、および抵抗加熱蒸着法を挙げることができる。
【0016】
半導体層13は、図1に示すように、半導体基板11と半導体層12からなるように複数層からなってもよいし、単層からなってもよい。
半導体層13の役割は、被測定酸化膜14内に生じた水素起因の電荷に対応する電荷を半導体層内に生じさせて水素を感度良く検出することである。このため、半導体層を金属のような導電体層に置き換えた場合より、水素ガス検出感度が大幅に向上し、その結果、膜質評価の測定感度が高まる。
半導体層13の厚さは、100nm以上1mm以下が、測定感度を高めやすく、好んで用いることができる。
半導体層13の具体例としては、GaN、Si、GaAlN、GaAs、ZnO、SiCおよびGaからなる群より選ばれる1以上を挙げることができる。
【0017】
導電体層16は、半導体層13とオーミックコンタクトが取れる電極として機能するものであれば特に制限はなく、例えばPt(白金)、Au(金)、Ag(銀)、W(タングステン)、Pd(パラジウム)、Cu(銅)およびポリシリコンなどを用いることができる。ここで、Ptなどを用いた場合は、接着性向上などを目的に薄膜のTiを半導体層13との間に形成しておくことが好ましい。半導体層13とオーミックコンタクトをとるためには、基板がn型の場合、半導体層13に接する金属をTiやAlのような仕事関数が小さい金属とすることが好ましい。但し、基板がn型であってもその濃度が高い場合はほとんどの金属が許容される。
【0018】
被測定酸化膜14の膜質を評価するC-V測定時は、上述のように、水素ガス環境とするが、その水素雰囲気の体積濃度は100ppm以上100%以下が好ましく、水素分圧は1kPa以上10気圧以下が好ましい。水素ガス環境がこの数値の範囲に入っていると、導電体膜15の触媒作用によって必要十分な量の原子状水素が生成され、それが被測定酸化膜14の大部分の酸素欠損部分に満たされて観測されるため、高い精度で膜質を評価することが可能になる。
【0019】
<試料作製方法>
試料101は、下記の工程により作製することができる。
まず、半導体層13を準備し、半導体層の界面を洗浄などにより清浄な面にした後、被測定酸化膜14を形成する。この際、実デバイスと同じ条件で形成することが好ましい。
その後、熱あるいは電子線蒸着法、スパッタリング法などで被測定酸化膜14の上に導電体膜15、および半導体層13の下面側に導電体層16を形成することにより、試料101が作製される。
【0020】
<測定原理>
実施の形態1の測定原理を下記に示す。
測定環境の水素ガスは、導電体膜15の触媒作用により原子状水素に変換されて、発生した原子状水素は導電体膜15に吸蔵され、吸蔵された原子状水素は、被測定酸化膜14に拡散し、被測定酸化膜14の酸素欠損部分にトラップされる。ここで、原子状水素は、大部分の酸素欠損部分にトラップされるため、トラップされた原子状水素の量は、酸素欠損の量と強い相関がある。
酸素欠損部分にトラップされた原子状水素は、酸素欠損部分と相互作用した結果、正に帯電する。正に帯電した原子状水素は、半導体層中に負の鏡像電荷を生じさせ、その結果、C-V特性をマイナス電圧側にシフトさせる。この特性を利用して、Nなどの不活性ガス環境下でC-V測定をして得たC-V特性曲線と、水素ガス環境下で測定したC-V特性曲線の間の電圧シフト量から、酸素欠損部分にトラップされた水素ガスの検知、定量化を介して、被測定酸化膜14の酸素欠損の検知、定量化を行う。ここで、その定量化に際しては、検量線を使用すればよい。
【0021】
C-V特性に関して、詳細に検討を行った結果、被測定酸化膜14に電場を印加すると、試料101の初期状態への回復が早まることがわかった。被測定酸化膜14中に存在する水素は正に帯電しているため、適当な電場を印加することで、被測定酸化膜14中からの脱離過程を速めることができる。電場は試料101の外部から印加してもよいし、導電体膜15と導電体層16の間にバイアスを印加して与えてもよい。
【0022】
バイアスとしては、-20V以上10V以下が好ましいことが、多大な実験から明らかになった。被測定酸化膜14中に存在する正に帯電した水素はある程度安定した状態であり、外部から印加した電場で移動させるための閾値が存在しているためである。被測定酸化膜14が破壊しない範囲で大きい電場を印加することが好ましい。
【0023】
C-V測定は23℃以上200℃以下の環境で行われることが好ましい。温度が高いほど触媒効率が高まって原子状酸素の発生効率が向上し、測定感度が向上するが、一方で、水、ハイドロカーボンなどの水素ガス以外からの成分にも反応して、雑音が増えるため200℃を上限とするのが好ましい。
【0024】
ここで、バイアス0Vの状態で水素ガス導入前後の電気容量の値の変化をモニターすることによっても、酸素欠損部にトラップされた原子状水素の検知を膜中に生成された正の電荷の形で検出することができる。上述のように、被測定酸化膜14中に生成された正の電荷は、酸素欠損量と強い相関がある。したがって、水素ガス導入前後で、バイアス0Vでの導電体膜15と導電体層16層間の電気容量を測ることによって、被測定酸化膜14の酸素欠損量を検知、測定することが可能で、この方法でも被測定酸化膜14の膜質を評価することが可能である。但し、この方法は、水素ガス環境下のC-V曲線の変化部(曲線の傾き部)がバイアス0V近傍にある場合に適している。変化部がバイアス0V近傍から離れている場合は、測定量の変化が少ないため、測定感度とその精度が低下する。
【0025】
以上述べてきたように、本方法は、水素ガスの原子状水素化と、その原子状水素の被測定酸化膜の酸素欠損部へのトラップ、およびトラップされて発生した電荷の影響をC-V測定、あるいはバイアス電圧を0V等に固定した電気容量測定で定量化するという新規な原理に基づく酸化膜の膜質、特に酸化膜の酸素欠損を評価する方法であり、実デバイスでの適用条件と同じ条件で堆積形成された酸化膜の酸素欠損を評価、測定することが可能な方法である。
【実施例0026】
(実施例1)
実施例1では、試料101を作製してその特性を評価した。以下、図を参照しながら説明する。
【0027】
<試料>
実施例1で作製した試料101は、図1に示すように、Pt(白金)/Ti(チタン)からなる導電体層16、半導体基板11およびn-GaN半導体層12からなる半導体層13、被測定酸化膜14、およびPtからなる導電体膜15が順次積層された構造をもつ。
【0028】
ここで、導電体層16は、電子ビーム蒸着法で形成されており、PtおよびTiの厚さはそれぞれ100nm、20nmである。Tiは、導電体層16の半導体基板11への接着強化を目的にして形成された膜で、半導体基板11に接するように形成されており、導電体層16は半導体基板11とオーミックコンタクトがとれている。
【0029】
半導体基板11は、自立型n-GaN(0001)ウェハで、厚さは300μm、転位密度とキャリア濃度は、それぞれ10cm-2のオーダーおよび1×1018cm-3である。
半導体層12は、有機金属気相エピタキシー法によって形成されたSi(シリコン)ドープのGaNホモエピタキシャル層で、その厚さは5μm、Si濃度は2×1016cm-3である。
【0030】
被測定酸化膜14としては、Al、HfO2-δ、およびHf0.57Si0.432-δの3種類を準備した。ここで、δは酸素欠損を示す。同じ方法で作製したHfO2-δ、およびHf0.57Si0.432-δを実装したデバイスの特性評価から、実施例1のδは約0.02と見積もられている。
Alは、トリメチルアルミニウム(TMA)を前駆体としてHOを酸化剤ガスとしてALD法により形成したものであるが、下記の理由から酸素欠損が少ない膜と見積もられる。
【0031】
HfO2-δは、図2に示すように、C-V測定の際、蓄積側の電圧を徐々に増加させて測定した時に、電圧の増加に伴ってC-Vカーブがプラス電圧側にシフトする。これはHfO2-δ中に含まれている酸素欠損が電子トラップとして働いているためと考えられており、非常に多数の酸素欠損があると予想される。一方、Alにも酸素欠損が存在するものの、C-V測定の際、掃引電圧の範囲を変えても、HfO2-δのようにC-Vカーブのシフトは見られず、掃引電圧の範囲を変えたC-Vカーブは全てぴったりと重なる。このことから、AlはHfO2-δと比較して酸素欠損が少ない膜と考えられる。
【0032】
HfO2-δもHf0.57Si0.432-δもALD(Atomic Layer Deposition)法で形成した。形成温度は300℃で、その厚さは両者とも15nmである。ALD法でこれらの膜を形成する際には、前処理として、試料を硫酸と過酸化水素の混合液(HSO:H=1:1)で洗浄して有機残留物を除去し、次に緩衝フッ化水素酸(BHF;HF:NHF=1:6)で処理した。その後すぐにこれらの膜を堆積させた。
HfO2-δの堆積には、前駆体としてテトラキス(ジメチルアミノ)ハフニウムとOプラズマを使用した。Hf0.57Si0.432-δは、HfO2-δ層とSiO層の積層膜であり、それぞれの厚さは0.164nmおよび0.134nmである。SiO層はトリス(ジメチルアミノ)シランとOプラズマを用いたALD法によって形成した。
【0033】
なお、被測定酸化膜14に対して、堆積後PDA(Post Deposition Annealing)を行った試料と行わない試料を作製し、PDAの効果を調べる特性評価を行った。ここで、PDAの条件は、圧力1気圧のN雰囲気下で、800℃5分である。PDA後のHfO2-δは単斜晶相、Hf0.57Si0.432-δはアモルファスであることを確認している。
【0034】
導電体膜15は、シャドーマスクを介して電子ビーム蒸着法によって形成された厚さ100nmの円形電極で、その面積は1×10-4cmである。
【0035】
<試料の作製>
試料101は、下記の工程により作製した。
まず、上記仕様の半導体基板11を準備し、その上に有機金属気相エピタキシー法を用いてn-GaN半導体層12を形成した。上記洗浄を行った後、ALD法で被測定酸化膜14を形成した。ここで、被測定酸化膜14としては、上述のように、Al、HfO2-δ、およびHf0.57Si0.432-δの3種類として評価した。
その後、電子ビーム蒸着法で、被測定酸化膜14の上に厚さ100nmのPtからなる導電体膜15、および半導体基板11下面側にPt(100nm)/Ti(20nm)からなる導電体層16を形成した。
最終工程として、一部の試料に対して、Nフロー下で300℃5分のPMA(Post Meatllization Annealing)を施した。なお、仕上がりの水試料101の大きさは、直径約150μm、高さ約300μmとであり、大変コンパクトなものになっている。
【0036】
<電気特性評価方法>
試料101は、ステンレス鋼からなる測定チャンバーに収められて、タングステンプローブによりその電気特性が評価された。
試料が設置された測定チャンバーはドライスクロール真空ポンプにより排気された後、室温(25℃)で、10.0kPaの全圧で流れる(100mL・min-1)Nを導入して、不活性ガス環境下でのC-V電気特性を評価した。
その後、Nに代えて1vol%のHと99vol%のNからなる水素含有ガスを10.0kPaの全圧で30分間流した後、水素含有ガス(1vol%のH+99vol%のN)環境下でのC-V測定を行った。ここで、水素含有ガスの流量は100mL・min-1である。
電気容量は100kHzでのC-V測定から求めた。C-V測定のバイアス依存性測定では、バイアス電圧のステップを0.1Vとし、各ステップで1秒間保持して掃引測定を行った。バイアス0Vでの電気容量(キャパシタンス)の測定では、バイアス電圧を印加も掃引もせずに周波数100kHzの交流を印加してキャパシタンスを求めた。
【0037】
<測定および評価>
評価した試料の条件を表1にまとめる。
【0038】
【表1】
【0039】
A2、B1およびC2の試料に対してC-V測定を行った結果を図3に示す。
1vol%の水素ガスが添加された環境での測定結果は、窒素ガス環境での測定結果に対してΔVマイナス方向にシフトした関係になっている。これは、水素ガスの存在により、導電体膜15の触媒作用で原子状水素が発生し、発生した原子状水素が被測定酸化膜14中にトラップされて被測定酸化膜14が電荷をもつという上述のメカニズムに基づくものである。また、電圧を掃引したC-V測定を行わなくとも、例えばバイアスを印加しないで、0Vの状態で、水素導入前後の容量値の変化をモニターすることによっても原子状水素の検知を行うことができ、したがって酸素欠損量の評価を行うことができた。
【0040】
次に、本方法の応答性をA2、B1およびC2の試料に対して調べた結果を図4に示す。なお、この測定ではバイアス電圧は0Vに固定している。被測定酸化膜14が、Al(A2)およびHfO2-δ(B1)の場合は約3分、Hf0.57Si0.432-δ(C2)の場合は約1分で電気容量が飽和しており、本発明の測定法は優れた応答性を有していることがわかる。
【0041】
図5は、バイアス電圧を0Vに固定したときの窒素ガス環境と1vol%水素ガス環境での電気容量を各試料で比較した図である。水素ガス環境の測定値が、窒素ガス環境での測定値に対して大きいほど多くの原子状水素が検出され、したがって酸素欠損量が多いことを意味する。その結果、どの試料においても水素ガス環境の方が電気容量が大きく、各被測定酸化膜14は酸素欠損を有していることがわかるとともに、特に被測定酸化膜14として800℃のPDA処理を施したHf0.57Si0.432-δ試料(C2)が、極めて高い酸素欠損を有していることが示された。
【0042】
なお、図5によれば、試料A1やA2である金属酸化膜14としてAlを用いたほうが、試料B1やB2であるHfO2-δを用いた場合より、水素ガス環境時の窒素ガス環境からの電気容量の変化が大きく、一見酸素欠損量が大きいように見える。しかし、それは0Vで測定したことによる見かけ上のもので、HfO2-δのほうがAlより酸素欠損量が大きい。
【0043】
これは、以下の理由による。
図5は、図3の0Vでの(窒素環境から水素添加環境での)容量変化を示した図である。
図3(a)から明らかなように、Alを用いた場合は、0Vはたまたま容量変化が大きい領域にあたっている。一方、図3(b)より明らかなように、HfO2-δについては、0Vは容量変化が小さい領域にあたっている。
これは、HfO2-δの場合、C-VカーブがAl比べてプラスの電圧方向にシフトしているためであって、酸素欠損量が大きいためではない。実際、容量の変化を電圧変化(ΔV)に換算してみると、表2から明らかなように、その値はHfO1-δの方がAlより大きくなっている。
以上により、図5でAlの方がHfO2-δより変化が大きいのは単なる見かけ上であり、実際の電圧変化(ΔV)およびその値から算出される膜内電荷量はHfO2-δの方が大きい。したがって、酸素欠損量はHfO2-δのほうがAlより多い。
【0044】
C-V測定結果および被測定酸化膜14の誘電率をまとめた結果を表2に示す。表2では、それらの結果から算出した酸化膜中の相対電荷密度も併せて掲載している。図6はその相対電荷密度を図示したものである。ハフニウム含有酸化膜である試料B1、B2、C1およびC2は高い相対電荷密度を有しており、特に800℃のPDA処理を施したHf0.57Si0.432-δ試料(C2)が特に高い相対電荷密度を有していることがわかる。
【0045】
【表2】
【0046】
試料101のイニシャライズ特性、すなわち初期状態への回復特性として、水素ガス環境に置いた後、乾燥空気環境に切り替えて、電気容量の経時変化を測定した。その結果を図7に示す。ここで、バイアス電圧は0Vに固定して、室温(25℃)で測定した。測定した試料はB1、B2、C1およびC2である。
【0047】
PDA処理なしのHfO2-δを被測定酸化膜14とした試料B1は、10分後には窒素環境で測定した初期状態と同じ電気容量に回復しており、優れた回復特性を有していることがわかる。HfO2-δ膜に対して800℃のPDA処理を施した試料B2も試料B1ほどではない良好な回復特性を有している。
また、PDA処理なしのHf0.57Si0.432-δを被測定酸化膜14とした試料C1は、10分後にはほぼ窒素環境で測定した初期状態と同じ電気容量に回復しており、優れた回復特性を有していることがわかる。
一方で、Hf0.57Si0.432-δを膜に対して800℃のPDA処理を施した試料C2は十分な回復特性を有していなかった。
【0048】
【表3】
【産業上の利用可能性】
【0049】
酸化膜の膜質の評価は、MOSFET等の半導体素子のデバイス性能向上、信頼性向上および品質管理に欠かせない。ここで、酸化膜の膜質は、形成の方法、形成の条件、および形成環境に大いに依存する。このため、デバイスでの適用条件と同じ条件で堆積形成された酸化膜で、膜質を評価することが嘱望されている。
本発明の酸化膜の膜質評価方法は、測定が難しい酸素欠損を評価する方法で、しかもデバイスでの適用条件と同じ条件で堆積形成された膜を評価することが可能な方法である。
したがって、本発明の酸化膜の膜質の評価方法は、半導体素子のデバイス性能向上、信頼性向上および品質管理に大いに寄与するものと考える。
【符号の説明】
【0050】
11:半導体基板(n-GaN)
12:半導体層(n-GaN)
13:半導体層
14:被測定酸化膜
15:導電体膜(Pt)
16:導電体層(Pt/Ti)
101:試料
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7