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  • 特開-炭酸ガスパルスアーク溶接装置 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024037474
(43)【公開日】2024-03-19
(54)【発明の名称】炭酸ガスパルスアーク溶接装置
(51)【国際特許分類】
   B23K 9/173 20060101AFI20240312BHJP
   B23K 9/09 20060101ALI20240312BHJP
   B23K 9/29 20060101ALI20240312BHJP
【FI】
B23K9/173 C
B23K9/09
B23K9/29 L
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022142367
(22)【出願日】2022-09-07
(71)【出願人】
【識別番号】000000262
【氏名又は名称】株式会社ダイヘン
(72)【発明者】
【氏名】藤原 雅之
(72)【発明者】
【氏名】中俣 利昭
【テーマコード(参考)】
4E001
4E082
【Fターム(参考)】
4E001AA03
4E001BB09
4E001DD04
4E001DE04
4E001EA04
4E001LB02
4E001LH06
4E082AA03
4E082AB10
4E082BA04
(57)【要約】
【課題】1パルス周期1溶滴移行状態を実現することができる 炭酸ガスパルスアーク溶接装置を提供すること。
【解決手段】ピーク電流及びベース電流から形成される溶接電流を出力する溶接電源PSと、溶接ワイヤ1を送給する送給機WMと、ガス61、62を流出するガス供給源GB1、GB2と、溶接電源PSからの出力、溶接ワイヤ1及びガス61、62をアーク3に供給する溶接トーチWTと、を備えた炭酸ガスパルスアーク溶接装置において、溶接トーチWTは内側ノズル51及び外側ノズル52の2重ノズルを備えており、ガス供給源GB1、GB2から100体積%の炭酸ガスを内側 ノズル51及び外側ノズル52内に流し、炭素鋼用の直径1.2mmの溶接ワイヤ1を使用し、内側ノズル51の内径を2~4mmの範囲とし、内側ノズル51を流れるガスの流量を3~6l/minの範囲とする。
【選択図】 図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ピーク電流及びベース電流から形成される溶接電流を出力する溶接電源と、
溶接ワイヤを送給する送給機と、
ガスを流出するガス供給源と、
前記溶接電源からの出力、前記送給機から送給される前記溶接ワイヤ及び前記ガス供給源から流出するガスをアークに供給する溶接トーチと、
を備えた炭酸ガスパルスアーク溶接装置において、
前記溶接トーチは内側ノズル及び外側ノズルの2重ノズルを備えており、
前記ガス供給源から100体積%の炭酸ガスを前記内側ノズル及び前記外側ノズル内に流し、
炭素鋼用の直径1.2mmの前記溶接ワイヤを使用し、
前記内側ノズルの内径を2~4mmの範囲とし、
前記内側ノズルを流れる前記ガスの流量を3~6l/minの範囲とする、
ことを特徴とする炭酸ガスパルスアーク溶接装置。
【請求項2】
前記溶接電源は、前記ピーク電流を振動波形に制御する、
ことを特徴とする請求項1に記載の炭酸ガスパルスアーク溶接装置。
【請求項3】
前記内側ノズル内を流れる前記ガスの流量を調整する内側ガス流量調整器を備え、
前記内側ガス流量調整器は前記ガスの流量を前記ベース電流の通電期間中は前記ピーク電流の通電期間中よりも小となるように調整する、
ことを特徴とする請求項1又は2に記載の炭酸ガスパルスアーク溶接装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、炭酸ガスパルスアーク溶接装置に関する。
【背景技術】
【0002】
溶接ワイヤを送給して行うパルスアーク溶接においては、アルゴンガスを主成分とするシールドガスが使用される。以下の説明において、ガスの%は全て体積%を示している。母材の材質が炭素鋼である場合には、アルゴンガス80%+炭酸ガス20%の混合ガスが使用される。母材の材質がステンレス鋼である場合には、アルゴンガス98%+酸素2%の混合ガスが使用される。母材の材質がアルミニウムである場合には、アルゴンガス100%のガスが使用される。このように、アルゴンガスを主成分とするシールドガスを使用する理由は、ピーク電流及びベース電流の通電から形成される1パルス周期ごとに一つの溶滴がスプレー移行する状態(1パルス周期1溶滴移行状態)を実現するためである。1パルス周期1溶滴移行状態になると、スパッタ発生の少ない安定した溶接状態となり、高品質の溶接が可能となる。
【0003】
アルゴンガスは高価であるために、価格の安い炭酸ガス100%のシールドガスを使用してパルスアーク溶接(炭酸ガスパルスアーク溶接)を行う試みが従来から行われて来た。しかし、炭酸ガスパルスアーク溶接は、1パルス周期1溶滴移行状態とはならず、大粒のスパッタが発生する状態となる。炭酸ガスパルスアーク溶接では、ピーク電流の通電時にアークの陽極点は溶滴の最下部に集中して形成される。これは、熱伝導率の大きいガスがシールドガスとして使用される場合、熱伝導によるエネルギー損失を最小限にするようにアークの表面積が小さくなり、アークが緊縮するためである。この結果、溶滴には反力が生じ、溶滴は簡単には離脱しない状態になる。この状態で、溶滴を強引に離脱させるためには、ピーク電流の通電期間を通常値よりも3~5倍程度長くして、溶滴を大きく成長させて、重力によって離脱するようにする必要がある。しかし、このようにすると、溶滴は溶接ワイヤの直径の数倍程度の大きな塊になって離脱することになり、大粒のスパッタが発生することになる。さらに、この大きな溶滴は、ピーク電流の通電とは同期することなくランダムに移行することになり、溶接状態が不安定状態になり、溶接品質も悪くなる。
【0004】
特許文献1の発明では、炭酸ガスパルスアーク溶接において、ピーク電流を振動させることによって溶接ワイヤの先端に溶滴を形成し、 ベース電流の通電期間中はこの形成された溶滴を短絡移行によって溶融池へと移行させている。しかし、この溶接方法を使用しても、1パルス周期1溶滴移行状態を確実に実現することはできず、実際の溶接に適用されているとは言えない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2011-88209号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
そこで、本発明では、溶接ワイヤを送給し、炭酸ガス100%のシールドガスを使用したパルスアーク溶接において、1パルス1溶滴移行状態を実現して高品質の溶接を可能とする炭酸ガスパルスアーク溶接装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上述した課題を解決するために、請求項1の発明は、
ピーク電流及びベース電流から形成される溶接電流を出力する溶接電源と、
溶接ワイヤを送給する送給機と、
ガスを流出するガス供給源と、
前記溶接電源からの出力、前記送給機から送給される前記溶接ワイヤ及び前記ガス供給源から流出するガスをアークに供給する溶接トーチと、
を備えた炭酸ガスパルスアーク溶接装置において、
前記溶接トーチは内側ノズル及び外側ノズルの2重ノズルを備えており、
前記ガス供給源から100体積%の炭酸ガスを前記内側ノズル及び前記外側ノズル内に流し、
炭素鋼用の直径1.2mmの前記溶接ワイヤを使用し、
前記内側ノズルの内径を2~4mmの範囲とし、
前記内側ノズルを流れる前記ガスの流量を3~6l/minの範囲とする、
ことを特徴とする炭酸ガスパルスアーク溶接装置である。
【0008】
請求項2の発明は、
前記溶接電源は、前記ピーク電流を振動波形に制御する、
ことを特徴とする請求項1に記載の炭酸ガスパルスアーク溶接装置である。
【0009】
請求項3の発明は、
前記内側ノズル内を流れる前記ガスの流量を調整する内側ガス流量調整器を備え、
前記内側ガス流量調整器は前記ガスの流量を前記ベース電流の通電期間中は前記ピーク電流の通電期間中よりも小となるように調整する、
ことを特徴とする請求項1又は2に記載の炭酸ガスパルスアーク溶接装置である。
【発明の効果】
【0010】
本発明に係る炭酸ガスパルスアーク溶接装置によれば、溶接ワイヤを送給し、炭酸ガス100%のシールドガスを使用したパルスアーク溶接において、1パルス1溶滴移行状態を実現して高品質の溶接を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本発明の実施の形態に係る炭酸ガスパルスアーク溶接装置の構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、図面を参照して本発明の実施の形態について説明する。
【0013】
図1は、本発明の実施の形態に係る炭酸ガスパルスアーク溶接装置の構成図である。以下、同図を参照して各構成物について説明する。
【0014】
破線で囲まれた溶接トーチWTは、内側ノズル51、外側ノズル52、給電チップ4及び溶接ワイヤ1が同心軸上に配置された構造となっている。
【0015】
内側ノズル内51には、ガスボンベ(ガス供給源)GB1及びガス配管から炭酸ガス100%の内側ガス61が供給される。ガス配管には内側ガス流量調整器GF1が設けられており、後述する内側ガス流量設定信号Gfrを入力として内側ガス61の流量が制御される。
【0016】
外側ノズル52内(内側ノズル51の外側と外側ノズル52の内側との間)には、ガスボンベ(ガス供給源)GB2及びガス配管から炭酸ガス100%の外側ガス62が供給される。ガス配管には外側ガス流量調整器GF2が設けられており、溶接作業者がツマミを手動で調整することによって外側ガス62の流量が調整される。
【0017】
給電チップ4の貫通孔からは、溶接ワイヤ1が送給される。溶接ワイヤ1は、送給機WMを駆動源とする送給ロール7の回転によって送給される。溶接ワイヤ1と母材2との間には、アーク3が発生している。アーク3を包むように内側ガス61が流れ、さらにその外側を外側ガス62が流れる。
【0018】
溶接電源PSは、給電チップ4を介して溶接ワイヤ1と母材2との間に、溶接電圧Vwを印加し、溶接電流Iwを通電する。溶接電源PSからは、送給機WMに対して送給制御信号Fcが送られ、溶接ワイヤ1の送給速度が制御される。溶接電流Iwは、ピーク期間Tp中のピーク電流Ip及びベース期間Tb中のベース電流Ibの通電を1パルス周期とするパルス波形となる。ピーク電流Ipは、500A程度であり、ピーク期間Tpは3ms程度であり、ベース電流Ibは50A程度であり、ベース期間Tbは4ms程度である。溶接電圧Vwは、アーク長に比例した電圧値のパルス波形となる。溶接電源PSからは、内側ガス流量設定信号Gfrが内側ガス流用調整期GF1に出力される。内側ガス流量設定信号Gfrは、流量設定値がベース期間中はピーク期間中よりも小となる信号である。
【0019】
ここで、本実施の形態では、以下の1)~3)の条件に設定する。
1)溶接ワイヤ1は、炭素鋼用の直径1.2mmのワイヤである。
2)内側ノズル51の内径は2~4mmの範囲である。
3)内側ガス61の流量は3~6l/minの範囲である。内側ノズルの内径、流量を適切な範囲とすることでアーク3の周囲に発生するプラズマ気流の流速が大きくなり、溶滴移行の駆動力となる。この結果、上述した溶滴への反力が作用する中でも、ピーク電流によって形成された溶滴がベース期間中に移行する1パルス周期1溶滴移行の状態を実現することができる。
【0020】
さらに、ピーク電流を振動波形にすると、溶滴の形成がより円滑になり、1パルス周期1溶滴移行状態がより安定化する。振動波形は、矩形波、サイン波、三角波等である。振動波形の振幅は50~150Aの範囲であり、振動周期は0.5~1.5msの範囲である。
【0021】
さらに、内側ガス61の流量を、ベース電流の通電期間中はピーク電流の通電期間中よりも小とする。ピーク電流の通電期間中の内側ガス61の流量を大とすることによって、上述した反力を弱くして溶滴の形成及び離脱を円滑にすることができる。そして、ベース電流の通電期間中の内側ガス61の流量を小とすることによって、50A程度の小電流値のベース電流によるアークが不安定になることを抑制することができる。
【符号の説明】
【0022】
1 溶接ワイヤ
2 母材
3 アーク
4 給電チップ
51 内側ノズル
52 外側ノズル
61 内側ガス
62 外側ガス
7 送給ロール
Fc 送給制御信号
GB1 ガスボンベ(ガス供給源)
GB2 ガスボンベ(ガス供給源)
GF1 内側ガス流量調整器
GF2 外側ガス流量調整器
Gfr 内側ガス流量設定信号
Ib ベース電流
Ip ピーク電流
Iw 溶接電流
PS 溶接電源
Tb ベース期間
Tp ピーク期間
Vw 溶接電圧
WM 送給機
WT 溶接トーチ
図1