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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024037485
(43)【公開日】2024-03-19
(54)【発明の名称】トリポード型等速自在継手
(51)【国際特許分類】
   F16D 3/205 20060101AFI20240312BHJP
【FI】
F16D3/205 M
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022142383
(22)【出願日】2022-09-07
(71)【出願人】
【識別番号】000102692
【氏名又は名称】NTN株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107423
【弁理士】
【氏名又は名称】城村 邦彦
(74)【代理人】
【識別番号】100120949
【弁理士】
【氏名又は名称】熊野 剛
(72)【発明者】
【氏名】牛尾 和也
(72)【発明者】
【氏名】梁 正武
(57)【要約】
【課題】 軸方向力に対して十分な強度を有するアウタリングを備えたトリポード型等速自在継手を提供する。
【解決手段】 ダブルローラタイプのトリポード型等速自在継手1において、ローラ11に設けた取り付け溝11aのうち、溝底側かつローラ端面側の隅部Wを断面円弧状に形成する。ローラ11の内直径をD、取り付け溝11aの深さをS、取り付け溝11aとローラ端面11cとの間の肉厚をT、隅部Wの曲率半径をR、隅部Wに対応するスナップリング14の外径側アール面取りの曲率半径をrとして、0.020≦S/D≦0.040、0.030≦T/D≦0.045、R<rに設定する。また、R≧0.04×SとR≧0.030×Tの双方を満足させる。
【選択図】図11
【特許請求の範囲】
【請求項1】
円周方向の三カ所に継手軸方向に延びるトラック溝を備え、各トラック溝が継手円周方向に対向して配置された一対のローラ案内面を有する外側継手部材と、
中心孔を有する胴部と、当該胴部の半径方向に突出した三つの脚軸と備えたトリポード部材と、
前記各脚軸に装着されるローラと、
前記脚軸に外嵌され、前記ローラを回転自在に支持するインナリングを有し、
前記ローラが前記ローラ案内面に沿って前記外側継手部材の軸方向に移動可能であり、 前記ローラと前記インナリングが、前記脚軸に対して揺動可能のローラユニットを構成し、
前記ローラに、前記ローラユニットの軸線方向への前記インナリングの相対移動を規制する規制部材を設け、前記規制部材を、前記ローラの内周面に設けた取り付け溝に篏合させたトリポード型等速自在継手において、
前記ローラに設けた前記取り付け溝のうち、溝底側かつローラ端面側の隅部を断面円弧状に形成し、
前記ローラの内直径をD、前記取り付け溝の深さをS、前記取り付け溝と前記ローラ端面との間の肉厚をT、前記隅部の曲率半径をR、前記隅部に対応する前記規制部材の外径側アール面取りの曲率半径をrとして、
0.020≦S/D≦0.040、
0.030≦T/D≦0.045、
R<r
であり、
R≧0.04×SとR≧0.030×Tの双方を満たす
ことを特徴とするトリポード型等速自在継手。
【請求項2】
前記規制部材が、両端を重ねることで、前記ローラの内径寸法よりも小径となるまで弾性的に縮径可能である請求項1に記載のトリポード型等速自在継手。
【請求項3】
前記インナリングの内周面がリングの縦断面において円弧状凸面に形成され、前記脚軸の外周面が、脚軸の軸線を含んだ縦断面においてはストレート形状で、かつ、前記脚軸の軸線と直交する横断面においては略楕円形状であり、前記脚軸の外周面が、継手の軸線と直交する方向で前記インナリングの内周面と当接すると共に、継手の軸線方向で前記リングの内周面との間にすきまが形成されている請求項1に記載のトリポード型等速自在継手。
【請求項4】
前記インナリングと前記ローラとの間に複数の転動体を配置した請求項1に記載のトリポード型等速自在継手。
【請求項5】
前記転動体として針状ころを用いた請求項4に記載のトリポード型等速自在継手。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車や各種産業機械の動力伝達用に用いられるトリポード型等速自在継手に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車の動力伝達系で使用されるドライブシャフトにおいては、中間軸のインボード側(車幅方向の中央側)に摺動式等速自在継手を結合し、アウトボード側(車幅方向の端部側)に固定式等速自在継手を結合する場合が多い。ここでいう摺動式等速自在継手は、二軸間の角度変位および軸方向相対移動の双方を許容するものであり、固定式等速自在継手は、二軸間での角度変位を許容するが、二軸間の軸方向相対移動は許容しないものである。
【0003】
摺動式等速自在継手としてトリポード型等速自在継手が公知である。このトリポード型等速自在継手としては、シングルローラタイプとダブルローラタイプとが存在する。シングルローラタイプは、外側継手部材のトラック溝に挿入されるローラを、トリポード部材の脚軸に複数の針状ころを介して回転可能に取り付けたものである。ダブルローラタイプは、外側継手部材のトラック溝に挿入されるローラと、トリポード部材の脚軸に外嵌して前記ローラを回転自在に支持するインナリングとを備えるものである。ダブルローラタイプは、ローラを脚軸に対して揺動させることが可能となるため、シングルローラタイプに比べ、誘起スラスト(継手内部での部品間の摩擦により誘起される軸力)とスライド抵抗をそれぞれ低減できるという利点を有する。
【0004】
下記の特許文献1にダブルローラタイプのトリポード型等速自在継手の一例が開示されている。このようなダブルローラタイプのトリポード型等速自在継手では、ローラが複数の針状ころを介してインナリングの外周に回転可能に配置される。針状ころとインナリングは、ローラの内周面に装着した一対のスナップリングによって抜け止めがなされている。すなわち、ローラの内周面に、針状ころの長さに対応する間隔で脚軸方向に離間させた一対の取り付け溝を形成し、この取り付け溝にそれぞれスナップリングを嵌合させている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2000-320563号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1に記載のトリポード型等速自在継手では、作動角をとりながら回転すると、トリポード部材が僅かに振れ回りを生じる。この振れ回りにより、ローラカセットのインナリングには、当該リングの軸方向両側に向かう力(以下、軸方向力と呼ぶ)が断続的に作用する。この軸方向力は、等速自在継手の作動角や負荷トルクの増加により一層増加する。軸方向力はスナップリングを介してローラに繰り返し作用するため、取り付け溝の溝底側の隅部のうち、肉厚の薄いローラ端面側の隅部で応力集中が生じる。そのため、取り付け溝の溝底側でかつローラ端面側の隅部は、ローラにおける最弱部となる。
【0007】
従来では、この軸方向力は特に着目されておらず、取り付け溝の形状や位置について、軸方向力に配慮した設計は特になされていない。
【0008】
そこで、本発明は、軸方向力に対して十分な強度を有するアウタリングを備えたトリポード型等速自在継手を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
以上の知見に基づいてなされた本発明は、円周方向の三カ所に継手軸方向に延びるトラック溝を備え、各トラック溝が継手円周方向に対向して配置された一対のローラ案内面を有する外側継手部材と、中心孔を有する胴部と、当該胴部の半径方向に突出した三つの脚軸と備えたトリポード部材と、前記各脚軸に装着されるローラと、前記脚軸に外嵌され、前記ローラを回転自在に支持するインナリングとを有し、前記ローラが前記ローラ案内面に沿って前記外側継手部材の軸方向に移動可能であり、前記ローラと前記インナリングが、前記脚軸に対して揺動可能のローラユニットを構成し、前記ローラに、前記ローラユニットの軸線方向への前記インナリングの相対移動を規制する規制部材を設け、前記規制部材を、前記ローラの内周面に設けた取り付け溝に篏合させたトリポード型等速自在継手を対象とする。
【0010】
本発明は、このトリポード型等速自在継手において、前記ローラに設けた前記取り付け溝のうち、溝底側かつローラ端面側の隅部を断面円弧状に形成し、前記ローラの内直径をD、前記取り付け溝の深さをS、前記取り付け溝と前記ローラ端面との間の肉厚をT、前記隅部の曲率半径をR、前記隅部に対応する前記規制部材の外径側アール面取りの曲率半径をrとして、0.020≦S/D≦0.040、0.030≦T/D≦0.045、R<rであり、R≧0.04×SとR≧0.030×Tの双方を満たすことを特徴とする。
【0011】
0.020≦S/D≦0.040とすることで、取り付け溝の隅部での応力集中を緩和しつつ規制部材の十分な抜け耐力を確保し、かつ良好な組み付け作業性を確保することが可能となる。0.030≦T/D≦0.045の範囲であれば、隅部での軸方向力による応力集中を緩和して隅部の必要強度を確保し、併せて、トリポード型等速自在継手に必要とされる最大作動角を確保することが可能となる。R<rとすることで、隅部が、当該隅部に対応する規制部材の外径側アール面取り部と干渉することによる規制部材の組付け性の低下を回避することができる。R≧0.04×SとR≧0.030×Tの双方を満たすことで、隅部での応力集中を緩和することができる。
【0012】
従って、本発明により、取り付け溝の隅部での軸方向力による応力集中を緩和してローラの強度を高めることができる。その一方で、応力集中の緩和を図る上で問題となる種々の弊害(ローラユニットの組み立て作業性の低下、ローラユニットの最大揺動角の低下による最大作動角の低下等)を回避することも可能となる。
【0013】
前記規制部材は、両端を重ねることで、ローラの内径寸法よりも小径となるまで弾性的に縮径可能であるのが好ましい。
【0014】
前記インナリングの内周面がインナリングの縦断面において円弧状凸面に形成され、前記脚軸の外周面が、脚軸の軸線を含んだ縦断面においてはストレート形状で、かつ、前記脚軸の軸線と直交する横断面においては略楕円形状であり、前記脚軸の外周面が、継手の軸線と直交する方向で前記インナリングの内周面と当接すると共に、継手の軸線方向で前記インナリングの内周面との間にすきまが形成されているのが好ましい。
【0015】
前記インナリングと前記ローラとの間に複数の転動体を配置するのが好ましい。この転動体として、例えば針状ころを使用することができる。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、インナリングに作用する軸方向力に対して十分な強度を有するローラを備えたトリポード型等速自在継手を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】ダブルローラタイプのトリポード型等速自在継手を示す継手軸方向の断面図である。
図2図1のK-K線で矢視した断面図である。
図3図1のL-L線における断面図である。
図4図1のトリポード型等速自在継手が作動角をとった状態の断面図である。
図5】脚軸に取り付けたローラユニットを図2のA方向から見た平面図である。
図6】ローラユニットの断面図である。
図7】スナップリングの平面図である。
図8図7のM-M線での断面図である。
図9】ローラユニットへのスナップリングの取り付け手順を断面図である。
図10図6に示すローラユニット4の要部を拡大した断面図である。
図11】アウタリング11の断面図である。
図12図7中のN-N線での断面図である。
図13図13(a)は、ローラユニットの断面図であり、図13(b)はローラユニット4の側面図である。
図14図14(a)は、ローラユニットの断面図であり、図14(b)はローラユニット4の側面図である。
図15】脚軸に対して傾斜したローラユニットを示す断面図である。
図16】脚軸に対して傾斜したローラユニットを示す断面図である。
図17】アウタリングの要部を拡大した断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明に係るトリポード型等速自在継手の実施形態を図1図17に基づいて説明する。
【0019】
図1は、ダブルローラタイプのトリポード型等速自在継手の軸方向の断面図であり、図2図1のK-K線で矢視した断面図である。図3は、図1のL-L線における断面図であり、図4は、作動角をとった時のトリポード型等速自在継手を示す軸方向の断面図である。なお、以下の説明において、継手軸方向および継手円周方向は、それぞれ作動角を0°の状態とした時のトリポード型等速自在継手の軸方向および円周方向をそれぞれ意味する。
【0020】
本実施形態のトリポード型等速自在継手1はダブルローラタイプである。図1および図2に示すように、このトリポード型等速自在継手1は、外側継手部材2と、内側継手部材としてのトリポード部材3と、トルク伝達部材としてのローラユニット4とで主要部が構成されている。外側継手部材2は、一端が開口したカップ状をなし、内周面に継手軸方向に延びる3本の直線状トラック溝5が継手円周方向で等間隔に形成される。各トラック溝5には、外側継手部材2の継手円周方向に対向して配置され、それぞれ継手軸方向に延びるローラ案内面6が形成されている。外側継手部材2の内部には、トリポード部材3とローラユニット4が収容されている。
【0021】
トリポード部材3は、中心孔30を有する胴部31(トラニオン胴部)と、胴部31の外周面の継手円周方向の三等分位置から半径方向に突出する3本の脚軸32(トラニオンジャーナル)とを一体に有する。トリポード部材3は、トラニオン胴部31の中心孔30に形成された雌スプライン34に、軸としてのシャフト8に形成された雄スプライン81を嵌合させることで、シャフト8とトルク伝達可能に結合される。シャフト8に設けた肩部82にトリポード部材3の継手軸方向一方側の端面を係合させ、シャフト8の先端に装着した止め輪10をトリポード部材3の継手軸方向他方側の端面と係合させることで、トリポード部材3がシャフト8に対して継手軸方向に固定される。
【0022】
ローラユニット4は、脚軸32の軸線を中心としたローラとしての円環状のアウタリング11と、このアウタリング11の内径側に配置されて脚軸32に外嵌された、リングとしての円環状のインナリング12と、アウタリング11とインナリング12との間に介在した複数の転動体13とで主要部が構成されている。本実施形態では、転動体13の一例として、保持器のない総ころ状態の針状ころが使用されている。ローラユニット4は、外側継手部材2のトラック溝5に収容されている。アウタリング11、インナリング12、および針状ころ13からなるローラユニット4は、後で詳細に述べるように、規制部材としての鋼製のスナップリング14、15により、自然には分解しない構造となっている。
【0023】
この実施形態において、アウタリング11の外周面は、脚軸32の軸線上に曲率中心を有する円弧を母線とする凸曲面である。アウタリング11の外周面は、ローラ案内面6とアンギュラコンタクトしている。
【0024】
針状ころ13は、アウタリング11の円筒状内周面を外側軌道面とし、インナリング12の円筒状外周面を内側軌道面として、これらの外側軌道面と内側軌道面の間に転動自在に配置される。
【0025】
トリポード部材3の各脚軸32の外周面は、脚軸32の軸線を含む任意の方向の断面において脚軸32の軸方向でストレート形状をなす。また、図3に示すように、脚軸32の外周面は、脚軸32の軸線に直交する断面において略楕円形状をなす。脚軸32の外周面は、継手軸方向と直交する方向、すなわち長軸aの方向でインナリング12の内周面12aと接触する。継手軸方向、すなわち短軸bの方向では、脚軸32の外周面とインナリング12の内周面12aとの間に隙間mが形成されている。
【0026】
インナリング12の内周面12aは、インナリング12の軸線を含む任意の断面において凸円弧状をなす。このことと、脚軸32の横断面形状が上述のように略楕円形状であり、脚軸32とインナリング12の間に所定の隙間mを設けてあることから、インナリング12は、脚軸32に対して揺動可能となる。上述のとおりインナリング12とアウタリング11が針状ころ13を介して相対回転自在にアセンブリとされているため、アウタリング11はインナリング12と一体となって脚軸32に対して揺動可能である。つまり、脚軸32の軸線を含む平面内で、脚軸32の軸線に対してアウタリング11およびインナリング12の軸線は傾くことができる(図4参照)。
【0027】
図4に示すように、トリポード型等速自在継手1が作動角をとって回転すると、外側継手部材2の軸線に対してトリポード部材3の軸線は傾斜するが、ローラユニット4が脚軸32に対して揺動可能であるため、アウタリング11とローラ案内面6とが斜交した状態になることを回避することができる。これにより、アウタリング11がローラ案内面6に対して継手軸方向と平行に転動するので、誘起スラストやスライド抵抗の低減を図ることができ、トリポード型等速自在継手1の低振動化を実現することができる。
【0028】
また、既に述べたように、脚軸32の断面(横断面)が略楕円状で、インナリング12の内周面12aの断面(縦断面)が円弧状凸断面であることから、図3に示すように、トルク負荷側での脚軸32の外周面とインナリング12の内周面12aとは、接触点Xにて、点接触もしくは点接触に近い狭い面積で接触する。よって、ローラユニット4を傾かせようとする力が小さくなり、アウタリング11の姿勢の安定性が向上する。
【0029】
図5は、脚軸32に取り付けたローラユニット4を図2のA方向から見た平面図であり、図6は、脚軸32の軸線方向に沿ったローラユニット4の断面図である。
【0030】
図5および図6に示すように、ローラユニット4では、アウタリング11の内周面11bに脚軸32の軸線方向に離間して取り付け溝11aが設けられる。スナップリング14,15は、この取り付け溝11aに嵌合させることで、アウタリング11の内周面11bに、脚軸32の軸線方向に離間して取り付けられる。このスナップリング14,15は、針状ころ13およびインナリング12の、脚軸32の軸線方向両側の端面と対向しており、アウタリング11に対する、針状ころ13およびインナリング12の、ローラユニット4の軸線方向(以下、「ユニット軸方向」と呼ぶ)への相対移動がスナップリング14,15によって規制されている。これにより、ローラユニット4の自然な分解がスナップリング14,15によって阻止される。
【0031】
なお、取り付け溝11aとスナップリング14、15との間には、ユニット軸方向に僅かな隙間(例えば幅0.2mm程度)が設けられる。そのため、スナップリング14,15は、取り付け溝11a内でユニット軸方向に僅かに移動可能となる。
【0032】
図7は、スナップリング14、15の平面図であり、図8は、図7のM-M線での断面図である。図9は、ローラユニット4への継手外径側のスナップリング14の取り付け手順をユニット軸方向に沿う断面図に表している。
【0033】
図7に示すように、スナップリング14は、スリットC(円周方向の隙間)を有し、スリットCによって分断された有端リング状に形成される。スナップリング14の内周面および外周面は、同心の円筒面状をなしている。スナップリング14は、帯板を、その厚さ方向に延びる軸を中心として、その周りに周回させた形状を有する。スリットCは、スナップリング14の半径方向に対して傾斜する方向に延びている。
【0034】
図8および図9に示すように、スナップリング14、15は、アウタリング11、インナリング12、および針状ころ13をアセンブリにした状態で、アウタリング11の内周面の取り付け溝11aに取り付けられる。図8に示すように、スナップリング14の幅寸法をb、厚さをt、スナップリング14の外径寸法をφd(外力を与えない自然状態での直径寸法)とした時、スナップリング14は、7.4<d/b<9.8、かつ2.8<b/t<4.6を満たす。なお、継手内径側のスナップリング15は継手外径側のスナップリング14と同じ形状を有する。
【0035】
スナップリング14は、アウタリング11、インナリング12、および針状ころ13をアセンブリにした状態で、アウタリング11の端面11cに配置した治具51を用いてスナップリング14に縮径力を与えつつ、アクチュエータ等を用いてスナップリング14に軸方向の押圧力Fを与えることで、アウタリング11の取り付け溝11aに取り付けられる。治具51からスナップリング14に縮径力を与えることで、両端21,22(図7参照)が重なり、かつスナップリング14の外径寸法がアウタリング11の内直径寸法φD以下となるまで、スナップリング14が矢印Y方向に弾性的に縮径して螺旋状に変形する。この状態で、アウタリング11の内周にスナップリング14を挿入することで、取り付け溝11aへのスナップリング14の取付けが行われる。継手内径側のスナップリング15も同様の手順で取り付け溝11aに取り付けられる。取り付け後のスナップリング14、15の外周面は、取り付け溝11aの溝底面と接触する。
【0036】
図10は、図6に示すローラユニット4の要部を拡大した断面図である。図11は、アウタリング11のユニット軸方向に沿った断面図であり、図12図7中のN-N線での断面図である。図13(a)および図14(a)は、ローラユニット4のユニット軸方向に沿った断面図であり、図13(b)および図14(b)は、ローラユニット4を脚軸半径方向から見た側面図である。なお、図13(a)(b)の断面図および側面図は同じローラユニット4(薄肉部11dの肉厚Tを薄くしたタイプ)を示し、図14(a)(b)は同じローラユニット4(薄肉部11dの肉厚Tを厚くしたタイプ)を示す。図15図16(a)(b)は脚軸に対して傾斜したローラユニットを示すユニット軸方向に沿った断面図であり、図17(a)(b)はアウタリングの要部を拡大したユニット軸方向に沿った断面図である。
【0037】
既に述べたように、ダブルローラタイプのトリポード型等速自在継手では、トルク入力に伴うトリポード部材3の僅かな振れ回りにより、インナリング12にユニット軸方向に沿う方向の軸方向力が生じ、この軸方向力がスナップリング14,15を介してアウタリング11に作用する。そのため、図10に示すように、取り付け溝11aのうち、溝底側でかつアウタリング11の端面11c側の隅部W(以下、「端面側隅部」と呼ぶ)がアウタリング11の最弱部となることが判明した。この端面側隅部Wの強度を高めるため、本実施形態のトリポード型等速自在継手では、以下の対策を講じている。
【0038】
(1)取り付け溝深さの検討
取り付け溝11aが浅いと、端面側隅部Wでの応力集中は緩和されるが、スナップリング14の抜け耐力が低下する。その一方で、取り付け溝11aが深いと、軸方向力による応力集中が顕著となり、かつスナップリング14の必要縮径量が増大してローラユニット4の組み立て作業性が低下する。この観点から検証を行った結果、図11に示すように、取り付け溝11aの深さをS、アウタリング11の内直径をDとして、0.020≦S/D≦0.040の範囲が好ましいことが判明した。S/D値がこの範囲内であれば、端面側隅部Wでの応力集中を緩和しつつスナップリング14の十分な抜け耐力を確保し、かつ良好な組み立て作業性を確保することが可能となる。
【0039】
(2)アウタリングの薄肉部の検討
アウタリング11では、取り付け溝11aと、これに隣接するアウタリング11の端面11cとの間の領域が、肉厚Tの最も薄い薄肉部11dとなる。
【0040】
薄肉部11dの肉厚Tが小さいと、軸方向力による端面側隅部Wでの応力集中が顕著となる。その一方で、肉厚Tが大きいと、応力集中は緩和されるが、トリポード型等速自在継手の最大作動角を大きくすることが難しくなる。これは以下の理由による。
【0041】
図13(a)(b)は、薄肉部11dが薄肉の場合(肉厚T)のローラユニット4を示し、図14(a)(b)は薄肉部11dが厚肉の場合(肉厚T’)のローラユニット4’を示す(T<T’)。図13(b)と図14(b)の対比から明らかなように、前者のローラユニット4のユニット軸方向の幅寸法Pと後者のローラユニット4’のユニット軸方向の幅寸法P’を対比すると、P<P’となる。
【0042】
図15に示すように、トリポード部材3の最大揺動角θは、アウタリング11の脚軸内径側の端面11cがトリポード部材3の胴部31の外周面と干渉する直前の角度となる。図16(a)に示すように、ユニット軸方向の幅寸法P’が大きいローラユニット4’を使用する場合、ユニット軸方向の幅寸法が小さいローラユニット4と同じ最大揺動角θを得ようとすると、アウタリング11の脚軸内径側の端面11cがトリポード部材3の胴部31と干渉する。そのため、図16(b)に示すように、ローラユニット4’を継手軸方向に対して角度δ分だけ傾ける必要があるが、これでは、誘起スラストやスライド抵抗が増大する。そのため、最大揺動角θを小さくする必要があり、これに伴ってトリポード型等速自在継手の最大作動角が小さくなる問題がある。
【0043】
以上の観点から検証を進めた結果、0.030≦T/D≦0.045の範囲であれば、端面側隅部Wでの軸方向力による応力集中を緩和して隅部Wの必要強度を確保できる一方で、ドライブシャフト用のトリポード型等速自在継手に必要とされる最大作動角も確保できることが明らかとなった。従って、0.030≦T/D≦0.045の範囲が好ましい。
【0044】
(3)取り付け溝の端面側隅部Wの曲率半径Rの検証
図11に示すように、アウタリング11の取り付け溝11dの端面側隅部Wは、曲率半径Rを有する断面円弧状に形成される。この端面側隅部Wの曲率半径Rが大きすぎると、この端面側隅部Wと対向するスナップリング14の外径側のアール面取り部14aと干渉してスナップリング14の組付け性が低下する。端面側隅部Wの曲率半径Rが小さすぎると、軸方向力による応力集中が顕著なものとなる。
【0045】
以上の観点から検証を進めた結果、端面側隅部Wの曲率半径Rは、スナップリング14の外径側のアール面取り部14aの曲率半径rよりも小さくすべきと判明した(R<r)。この寸法関係は、取り付け溝11aおよびスナップリング14の加工誤差を考慮しても常に成立させる必要がある。つまり端面側隅部Wの曲率半径Rの最大値をRmaxとし、スナップリング14の外径側アール面取り部14aの曲率半径rの最小値をrminとして、Rmax<rminに設定する必要がある。これにより、端面側隅部Wとスナップリング14の外径側アール面取り部14aが干渉して端面側隅部Wにスナップリング14の外径側アール面取り部14aが乗り上げるような事態を回避し、スナップリング14の組付け性を高めることができる。なお、スナップリング14の外径側アール面取り部14aの曲率半径rは、0.05~0.2mm程度が一般的である。
【0046】
また、端面側隅部Wの曲率半径Rは、R≧0.040×S、およびR≧0.030×Tの双方を満足すべきことも明らかとなった。これにより、端面側隅部Wでの軸方向力の応力集中を緩和することができる。この寸法関係は、取り付け溝11dの加工誤差を考慮しても常に成立させる必要がある。すなわち、端面側隅部Wの曲率半径Rの最小値をRminとして、Rmin≧0.040×S、およびRmin≧0.030×Tの双方を満足する必要がある。
【0047】
従って、端面側隅部Wの曲率半径Rは、加工誤差を考慮しても、R<rとなり、かつR≧0.040×SおよびR≧0.030×Tの双方を満足するよう形成するのが好ましい。
【0048】
以上に述べた(1)~(3)の数値範囲を全て満足するように取り付け溝11dを形成することにより、取り付け溝11aの端面側隅部Wでの軸方向力による応力集中を緩和してアウタリング11の強度を高めることができる。その一方で、応力集中の緩和を図る上で問題となる種々の弊害(ローラユニット4の組み立て作業性の低下、ローラユニット4の最大揺動角の低下を要因とする最大作動角の低下等)を回避することも可能となる。
【0049】
なお、軸方向力はユニット軸方向の両側に交互に作用するため、取り付け溝11aの端面側隅部Wのみならず、図17(a)に示すように、取り付け溝11aの反端面側の隅部W’も曲率半径Rの断面円弧状とし、その曲率半径Rを上記と同様の範囲に設定することもできる。反端面側の隅部W’は一般に厚肉であり、応力集中はそれほど問題とならないのが通例であるから、図17(b)に示すように、反端面側の隅部W’は断面円弧状とせずにエッジ状に形成してもよい。
【0050】
以上の説明では、脚軸32の外径側に位置するスナップリング14およびその取り付け溝11aを例に挙げて説明したが、脚軸32内径側のスナップリング15および当該スナップリング15が嵌合する取り付け溝11a(第二の取り付け溝)についても、同様の課題が生じるため、当該取り付け溝11a(第二の取り付け溝)に、本発明を適用することができる。二つのスナップリング14、15のうち、何れか一方のスナップリングが嵌合する取り付け溝でのみ応力集中が問題となる場合は、当該一方の取り付け溝に対してのみ本発明を適用することも可能である。
【0051】
以上に述べた本発明の実施形態は、他の構成を有するダブルローラタイプのトリポード型等速自在継手にも適用することができる。
【0052】
例えば、脚軸32の外周面を凸曲面(例えば断面凸円弧状)に形成し、インナリング12の内周面12aを円筒面状に形成することもできる。また、脚軸32の外周面を凸曲面(例えば断面凸円弧状)に形成し、インナリング12の内周面12aを脚軸外周面と嵌合する凹球面に形成することもできる。この際、少なくともアウタリングの両端部のうち、何れか一方に鍔を設けることにより、何れか一方のスナップリング14,15を不要とすることもできる。
【0053】
以上に述べたトリポード型等速自在継手1は、自動車のドライブシャフトに限って適用されるものではなく、自動車や産業機器等の動力伝達経路に広く用いることができる。
【符号の説明】
【0054】
1 トリポード型等速自在継手
2 外側継手部材
3 トリポード部材
4 ローラユニット
5 トラック溝
6 ローラ案内面
11 ローラ(アウタリング)
11a 取り付け溝
12 インナリング
13 針状ころ
14 規制部材(スナップリング)
15 規制部材(スナップリング)
31 胴部
32 脚軸
W 隅部(端面側隅部)
図1
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